(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170776
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】画像処理装置及び画像処理方法
(51)【国際特許分類】
H04N 23/20 20230101AFI20241204BHJP
G01J 5/48 20220101ALI20241204BHJP
【FI】
H04N23/20
G01J5/48 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087488
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】308036402
【氏名又は名称】株式会社JVCケンウッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】森 俊夫
【テーマコード(参考)】
2G066
5C024
【Fターム(参考)】
2G066BA09
2G066BB11
2G066BC07
2G066BC11
2G066BC15
2G066BC22
2G066BC23
2G066CA02
2G066CA16
5C024AX06
5C024CY16
5C024HX18
5C024HX23
(57)【要約】
【課題】それぞれ異なるゲインコントロール処理が実行された複数の赤外線画像を同時に提供するための新たな技術を提供する。
【解決手段】画像処理装置20は、赤外線撮像装置から赤外線画像を取得する画像取得部21と、取得した赤外線画像に対して、複数のそれぞれ異なるゲインコントロール処理を実行するゲイン調整部24と、複数の異なるゲインコントロール処理済みの赤外線画像の各々についての画素毎の輝度を示す信号が画素毎にシリアルに配置された映像信号を伝送する伝送処理部25と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線撮像装置から赤外線画像を取得する画像取得部と、
取得した前記赤外線画像に対して、複数のそれぞれ異なるゲインコントロール処理を実行するゲイン調整部と、
複数の異なるゲインコントロール処理済みの前記赤外線画像の各々についての画素毎の輝度を示す信号が画素毎にシリアルに配置された映像信号を伝送する伝送処理部と、
を備える、画像処理装置。
【請求項2】
前記複数のそれぞれ異なるゲインコントロール処理は、2つ又は3つのそれぞれ異なるゲインコントロール処理であり、
前記伝送処理部は、各画素の前記輝度を示す信号が画素毎に3つずつシリアルに配置された前記映像信号を伝送する、
請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記映像信号は、輝度Yと色差Cr及びCbとで表される色空間の信号であり、
前記映像信号は、前記2つ又は3つの異なるゲインコントロール処理済みの前記赤外線画像についての画素毎の色差Cr及びCbを示す信号の代わりに前記輝度を示す信号を含む、
請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記複数のそれぞれ異なるゲインコントロール処理は、前記赤外線画像の用途及び検出する対象の物体の少なくとも一方に応じて設定される、
請求項1から3のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
赤外線撮像装置から赤外線画像を取得するステップと、
取得した前記赤外線画像に対して、複数のそれぞれ異なるゲインコントロール処理を実行するステップと、
複数の異なるゲインコントロール処理済みの前記赤外線画像の各々についての画素毎の輝度を示す信号が画素毎にシリアルに配置された映像信号を伝送するステップと、
を含む、画像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、画像処理装置及び画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遠赤外線カメラは、赤外線の吸収に伴う温度変化を電気信号に変換することにより、物体の熱を画像化することが可能である。遠赤外線カメラは、物体の温度測定や、夜間の監視などの光源に依存しない映像の取得などに用途に利用されている。
【0003】
遠赤外線カメラは、AGC(オートゲインコントロール)を実行することにより、用途に応じて最適化された画像信号を作成して標準的な伝送プロトコルを利用して画像を伝送する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示すように、遠赤外線カメラでは、使用用途により内部のAGCにおけるゲイン調整の方法を変える必要がある。例えば、検温用途では体温付近の温度帯を高精度に検出できるようにゲインが調整され、監視用途では物体のコントラストを明瞭にするようにゲインが調整される。このため、検温用途では、物体のコントラストが明瞭ではない画像が提示され、監視用途では物体の絶対温度を適切に示していない画像が提示されてしまう場合がある。
【0006】
上記を鑑み、本開示の目的は、それぞれ異なるゲインコントロール処理が実行された複数の赤外線画像を提供することを可能にする新たな技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の画像処理装置は、赤外線撮像装置から赤外線画像を取得する画像取得部と、取得した前記赤外線画像に対して、複数のそれぞれ異なるゲインコントロール処理を実行するゲイン調整部と、複数の異なるゲインコントロール処理済みの前記赤外線画像の各々についての画素毎の輝度を示す信号が画素毎にシリアルに配置された映像信号を伝送する伝送処理部と、を備える。
【0008】
本開示の他の態様の画像処理方法は、赤外線撮像装置から赤外線画像を取得するステップと、取得した前記赤外線画像に対して、複数のそれぞれ異なるゲインコントロール処理を実行するステップと、複数の異なるゲインコントロール処理済みの前記赤外線画像の各々についての画素毎の輝度を示す信号が画素毎にシリアルに配置された映像信号を伝送するステップと、を含む。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本実施形態の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本実施形態の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、それぞれ異なるゲインコントロール処理が実行された複数の赤外線画像を同時に提供するための新たな技術を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態に係る赤外線撮像システムの構成を示す図である。
【
図2】実施の形態に係るオートゲインコントロール部の機能ブロック図である。
【
図3】一般的な映像信号のデータ構造を例示する図である。
【
図4】実施の形態に係る映像信号のデータ構造を例示する図である。
【
図5】実施の形態に係る画像処理装置の処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本開示の実施の形態に係る赤外線撮像システム1の構成を示す図である。実施の形態に係る赤外線撮像システム1は、赤外線撮像装置10及び赤外線画像処理装置20を備える。本実施の形態では、赤外線撮像装置10として、8μm~14μmの遠赤外線を撮像する遠赤外線画像撮像装置を想定する。遠赤外線は、近赤外線と異なり、光源を設けなくても撮像することが可能である。このため、画像処理装置の例として本実施の形態においては、赤外線画像処理装置として説明する。
【0013】
赤外線撮像装置10は、マイクロボロメータ11、アンプ(AMP)12、ADコンバータ(ADC)13、サーミスタ14及びADコンバータ(ADC)15を含む。本実施の形態では、遠赤外線検出素子として、マイクロボロメータ11を想定する。
【0014】
マイクロボロメータ11は、非冷却型の熱型検出素子である。マイクロボロメータ11は、二次元格子状(例えば、640×480、1024×768)に複数のボロメータが配置されたFPA(Focal Plane Array)を含む。一画素を構成する一つのボロメータは、アモルファスシリコンや酸化バナジウムで形成された吸収層を有する。吸収層に遠赤外線が入射すると、吸収層の温度が変化し、吸収層の抵抗値が変化する。吸収層の2ヶ所の電極に所定の電圧を印加することにより、吸収層の抵抗値の変化を電流値の変化として検出する。各ボロメータの電流値は電圧に変換されて、電気信号で規定された各画素の輝度信号として出力される。
【0015】
アンプ12は、各画素のアナログ電圧を所定のゲインで増幅する。ADコンバータ13は、アンプ12で増幅された各画素のアナログ電圧を、所定のサンプリング周期でデジタル値に変換する。本実施の形態では14ビットのデジタル値に変換する。
【0016】
赤外線撮像装置10は、各画素が14ビットの輝度信号で規定された赤外線熱画像を、赤外線画像処理装置20に出力する。なお、より高精細な熱画像を生成したい場合は、各画素のアナログ電圧を16ビット以上のデジタル値に変換してもよい。反対に低コストの構成にしたい場合は、12ビット以下のデジタル値に変換してもよい。
【0017】
サーミスタ14は、マイクロボロメータ11の近傍に設置され、マイクロボロメータ11の周囲の環境温度を測定するための温度検出素子である。マイクロボロメータ11の周囲の温度は、マイクロボロメータ自体の温度に加えて、マイクロボロメータの前段に配置されたレンズ(不図示)の温度などの影響を受ける。
【0018】
サーミスタ14は、抵抗素子と直列接続され、環境温度の変化を分圧電圧の変化として検出する。ADC15は、環境温度に対応するアナログ電圧をデジタル値に変換する。赤外線撮像装置10は、測定された環境温度を赤外線画像処理装置20に出力する。
【0019】
なお、サーミスタ14は、必ずしも赤外線撮像装置10内に設置されている必要はなく、マイクロボロメータ11の周囲温度を推定できる位置であれば、赤外線撮像装置10の外に設置されてもよい。また、サーミスタ14は、温度検出素子の一例であり、熱電対などの他の温度検出素子を使用してもよい。
【0020】
赤外線画像処理装置20は、画像取得部21、欠陥画素補正部22、不均一補正部23、オートゲインコントロール部24、伝送処理部25、温度取得部26及び感度特性補正部27を含む。これらの構成要素は、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働、又はハードウェア資源のみにより実現できる。ハードウェア資源として、CPU、ROM、RAM、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、ISP(Image Signal Processor)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、その他のLSIを利用できる。ソフトウェア資源としてファームウェア等のプログラムを利用できる。
【0021】
画像取得部21は、赤外線撮像装置10から赤外線画像を取得する。欠陥画素補正部22は、FPAにおいて異常が発生している欠陥画素の輝度信号を、当該欠陥画素の周囲の正常画素から生成した補間データを用いて補正する。
【0022】
一般的なマイクロボロメータ11では、画素ごとにゲインとオフセットが不均一な状態になっている。不均一補正部23は、画素間のゲインとオフセットの不均一を補正する。例えば、外部からの入射光を遮断した状態で、黒体のシャッタを用いてマイクロボロメータ11に一様な遠赤外線を照射し、マイクロボロメータ11内の全画素の出力が一定になるように、各画素のゲインとオフセットを導出して補正テーブルを生成する。不均一補正部23は、当該補正テーブルを参照して、各画素のゲインとオフセットを調整する。
【0023】
オートゲインコントロール(AGC)部24は、不均一補正部23から入力した赤外線画像に対して、ゲインコントロール処理を実行する。ゲインコントロール処理は、ゲイン値を決定し、決定したゲイン値を赤外線画像の全画素の輝度信号に掛けて、赤外線画像の感度を調整する処理である。オートゲインコントロール部24は、不均一補正部23から入力した赤外線画像の全体の状態を把握して使用目的に応じてゲインを調整する。例えば、オートゲインコントロール部24は、マイクロボロメータ11の環境温度に対する感度特性に基づき、各画素の輝度信号のゲインを調整することにより、赤外線画像の感度を調整する。本実施の形態のオートゲインコントロール部24は、ゲイン調整部の一例である。
【0024】
オートゲインコントロール部24は、後述の設計者によって作成されたテーブルまたは関数で記述された感度特性に、温度取得部26が取得した環境温度を適用してゲイン値を取得し、取得したゲイン値を赤外線画像の全画素の輝度信号に掛けて、赤外線画像の感度を調整する。
【0025】
伝送処理部25は、オートゲインコントロール部24で作成された画像を標準的な画像フォーマットに変換する処理を実行して画像信号として出力する。伝送処理部25は、赤外線撮像装置10から出力された赤外線画像のデジタル信号フォーマットを、出力用の画像信号フォーマットに変換する。多くの映像機器のデジタル信号フォーマットでは、8ビット(256階調)が採用されている。人間の目が識別できる輝度の分解能は、7ビット(128階調)前後である。これに対して本実施の形態では、赤外線撮像装置10が出力する赤外線画像のデジタル信号フォーマットとして、14ビット(16384階調)を採用している。
【0026】
本実施の形態では、伝送処理部25は、赤外線撮像装置10から出力された14ビットのグレースケールの赤外線画像を、8ビットのグレースケールの赤外線画像に変換する。具体的には、伝送処理部25は、14ビットの輝度信号を、線形曲線またはヒストグラム平坦化曲線を使用して、8ビットの輝度信号にマッピングする。
【0027】
赤外線撮像装置10から出力された赤外線画像のコントラストが低い場合、輝度ヒストグラムが特定の範囲に集中した形状になる。この場合、伝送処理部25は、輝度ヒストグラムのピークを下げて両側に広げることにより、輝度ヒストグラムを平坦化する。伝送処理部25は、平坦化した14ビットの輝度信号を8ビットの輝度信号にマッピングする。これにより、赤外線画像のコントラストが改善する。
【0028】
また、赤外線撮像装置10から出力された赤外線画像のコントラストが高い場合であって、輝度ヒストグラムに平坦領域が発生している場合、伝送処理部25は、当該平坦領域を除いて、14ビットの輝度信号を8ビットの輝度信号にマッピングする。例えば、平坦な背景に小さな高温の物体が存在するシーンでは、輝度ヒストグラムは中央部が平坦な形状になる。この場合、平坦な中央部を除いてマッピングすることにより、赤外線画像のコントラストを改善することができる。
【0029】
伝送処理部25により、8ビットのグレースケールに変換された赤外線画像は、図示しないモニタに出力されて表示される。また、変換された赤外線画像は、図示しない記録媒体に出力されて記録媒体に記録されてもよい。なお、記録媒体に記録される場合、所定の圧縮符号化規格にしたがい、さらにデータ量が圧縮されて記録されてもよい。また、変換された赤外線画像が図示しない画像認識エンジンに出力され、赤外線画像内から所定のオブジェクト(例えば、人物)の検出処理が実施されてもよい。
【0030】
温度取得部26は、赤外線撮像装置10からマイクロボロメータ11の環境温度を取得する。
【0031】
設計者は、予めマイクロボロメータ11の環境温度と、マイクロボロメータ11が出力する輝度信号との関係を示す感度特性を、実験やシミュレーションに基づき導出する。感度特性は、マイクロボロメータ11で実際に取得された赤外線画像を、マイクロボロメータ11の環境温度が一定の標準温度にあるとみなされる疑似的な赤外線画像に変換するための変換特性である。設計者は、マイクロボロメータ11の環境温度が標準温度のときの輝度信号の値を設定する。設計者は、マイクロボロメータ11の環境温度に関わらず、輝度信号の値が標準温度のときの値になるように、各環境温度において輝度信号に掛けるべきゲイン値を決定する。生成された感度特性においては、例えば、各環境温度において輝度信号に掛けるべきゲイン値がテーブルとして記述されてもよいし、関数として記述されてもよい。
【0032】
オートゲインコントロール部24のゲインコントロール処理の例について説明しつつ、ゲインコントロール処理の課題について説明する。一般的に伝送される画像は、8ビットで量子化される。この場合、画面全体が8ビットのレンジ内に収まるように画像を調整する必要がある。例えば用途によっては、8ビットの範囲外の画素については、8ビットになるようにゲインが調整されるか又は飽和させることになる。一般に、撮像可能な温度範囲(ダイナミックレンジ)を広く設定すると、検出対象の物体などのコントラストが低くなり、検出に支障が生じる場合がある。また、撮像可能な温度範囲(ダイナミックレンジ)を狭く設定すると、飽和画素やゼロ画素が増えてしまい、状況把握などが困難となる場合がある。
【0033】
例えば、検温用途などのある温度範囲内の物体の温度を精密に測定する場合、画面の温度の上限と下限を決めて画面において温度範囲内の部分の検温精度が最大になるようにするともに、温度範囲外の部分は飽和させる方が検温の目的に合致する。例えば、体温に近い37℃近傍では精密に測定する必要があるが、明らかに体温とはかけ離れている30℃近傍や50℃近傍は飽和していても検温用途としては問題ない。このような検温用途での特定の温度範囲の温度が詳細に示される画像は、その特定の温度範囲の部分の温度を精度良く把握できるが、それ以外の部分については全て同じ輝度となるため全体的に解像度のない画像になりやすい。
【0034】
また、監視用途の場合、温度の精度より物体が認識しやすいようにコントラストが高い画像の方が有用である。全画面を同じゲインで表示するより、画像を小さいブロックに分け、ブロックや物体毎にゲインを変えて画像のエッジが強調される方が認識しやすいようになる。この場合、各ブロックのエッジ部分が不自然になりやすいため、隣接するブロックのエッジ部分の輝度に基づいて輝度が調整されることが好ましい。このような監視用途での高コントラストの画像は、物体の輪郭を明確にしやすく監視や認識などに有用であるが、物体の温度は明確に把握し難くなる。
【0035】
このように遠赤外線カメラでは、その用途により何を重視してゲイン調整を行うかが変わる。そのため、用途又は検出対象の物体に応じて異なるゲインコントロール処理が設定されるため、画像自体が大幅に変わる。
【0036】
一方、監視用途で使用するが検温精度もある程度必要である場合など複数の用途で遠赤外線カメラが使用される場合が想定される。この場合、例えば、オートゲインコントロール部24におけるゲインコントロール処理を監視用途の処理と検温用途の処理との間で切り替える、複数の赤外線撮像システム1を使用する、または、赤外線撮像装置10の生データを赤外線画像処理装置20の後段の図示しないモニタ等に出力し、モニタでオートゲインコントロールを行うなどの方法が必要になると考えられる。
【0037】
オートゲインコントロール部24の処理の切り替えを行う場合、時間的に同時に同じ画像を処理することができないことから、同じ画像についての監視用にゲインを調整した画像と検温用にゲインを調整した画像とを並列に表示させることができない。そのため、切り替えの手間やタイミングも考慮する必要がある。
【0038】
複数の赤外線撮像システム1を使用する場合、各赤外線撮像システム1において取得した画像の画角が同じにならないことから、各画像を合成した画像を作成する必要があるため、その合成処理の分だけ処理負担が大きくなる。加えて、複数台のカメラを用意する必要があるため、コストが大きくなる。
【0039】
赤外線撮像装置10の生データを赤外線画像処理装置20の後段のモニタ等で処理する場合、後段との接続に専用インターフェースが必要になる。加えて、赤外線撮像システム1側で行われた処理に合わせて後段側の処理を設定することが必要になるため、手間がかかるという課題がある。
【0040】
上記のゲインコントロール処理の課題を踏まえて、本実施の形態について詳細に説明する。
図2は、本実施の形態のオートゲインコントロール部24の機能ブロック図である。本実施の形態のオートゲインコントロール部24は、第1調整部31と、第2調整部32と、第3調整部33と、を備える。オートゲインコントロール部24は、複数のそれぞれ異なるゲインコントロール処理を実行する。
【0041】
第1~第3調整部31~33は、3つのそれぞれ異なるゲインコントロール処理を実行する。例えば、第1調整部31は、体温に近い37℃近傍の温度帯の検温用途の第1ゲインコントロール処理を実行する。例えば、第2調整部32は、体温よりも高い温度帯の検温用途の第2ゲインコントロール処理を実行する。例えば、第3調整部33は、人物検出用途の高コントラストの画像を生成するための監視用途の第3ゲインコントロール処理を実行する。第1~第3ゲインコントロール処理は、それぞれ異なる処理である。上記の用途は例示であり、第1~第3調整部31~33が実行するゲインコントロール処理は、目的に応じて適宜変更可能である。第1~第3調整部31~33の各々においてゲインコントロール処理が実行された赤外線画像は、伝送処理部25に出力される。
【0042】
本実施の形態の伝送処理部25は、入力した各赤外線画像を1つにまとめて標準的な映像信号として伝送する。本実施の形態の映像信号は、輝度Yと2つの色差Cr及びCbとで表されるYCrCb色空間の信号である。
【0043】
ここで、
図3は、一般的な映像信号のデータ構造を例示する。
図3に示すように、一般的な映像信号では、画素毎に、輝度Y、色差Cb、及び色差Crをそれぞれ示す3つの信号がシリアルに配置されている。例えば、
図3の映像信号の例では、画素P0についての輝度信号Y0、第1色差信号Cb0、及び第2色差信号Cr0と、画素P1についての輝度信号Y1、第1色差信号Cb1、及び第2色差信号Cr1と、画素P2についての輝度信号Y2、第1色差信号Cb2、及び第2色差信号Cr2と、がシリアルに配置されている。輝度信号Y、第1色差信号Cb、及び第2色差信号Crは、画素毎にシリアル伝送される。しかし、これらの輝度信号Y、第1色差信号Cb、及び第2色差信号Crのうち、赤外線撮像装置10で撮像した赤外線画像を白黒画像で表示する場合に有用な情報は輝度信号Yのみであり、第1色差信号Cb及び第2色差信号Crは固定値となる。
【0044】
図4は、本実施形態の映像信号のデータ構造を例示する。本実施の形態の映像信号では、第1調整部31で生成された第1輝度信号Ya、第2調整部32で生成された第2輝度信号Yb、及び第3調整部33で生成された第3輝度信号Ycがシリアルに配置されている。例えば、本実施の形態の映像信号では、画素P0についての第1輝度信号Ya0、第2輝度信号Yb0、及び第3輝度信号Yc0と、画素P1についての第1輝度信号Ya1、第2輝度信号Yb1、及び第3輝度信号Yc1と、画素P2についての第1輝度信号Ya2、第2輝度信号Yb2、及び第3輝度信号Yc2と、がシリアルに配置されている。すなわち、本実施の形態の映像信号は、固定値である
図3の第1色差信号Cb2及び第2色差信号Cr2の代わりに、第2輝度信号Yb及び第3輝度信号Ycを含む。このように、本実施の形態の伝送処理部25は、第1~第3輝度信号Ya~Ycが画素毎にシリアルに配置された映像信号を伝送することができる。
【0045】
伝送処理部25の後段のモニタで映像信号を表示する場合、モニタに通常設けられている白黒モードにモニタを設定する。本実施の形態では、赤外線画像の伝送自体は標準的な手法と同じであるため、伝送処理部25から伝送される映像信号に含まれる第1~第3輝度信号Ya~Ycに基づく各画像を専用の機器を設けることなくモニタに並列に表示することが可能となる。
【0046】
図5は、本実施の形態の赤外線画像処理装置20の処理S100を例示するフローチャートである。
【0047】
ステップS101で、画像取得部21は、赤外線撮像装置10から赤外線画像を取得する。
【0048】
ステップS102で、欠陥画素補正部22は、赤外線画像における欠陥画素の輝度信号を、上記補間データを用いて補正する。
【0049】
ステップS103で、不均一補正部23は、欠陥画素を補正した赤外線画像について、画素間のゲインとオフセットの不均一を補正する。
【0050】
ステップS104で、第1~第3調整部31~33は、不均一を補正した赤外線画像に対して、第1~第3ゲインコントロール処理をそれぞれ実行する。
【0051】
ステップS105で、伝送処理部25は、第1~第3ゲインコントロール処理済みの各赤外線画像の各画素の輝度信号が画素毎にシリアルに配置された映像信号を伝送する。
【0052】
ステップS105の後、処理S100は終了する。
【0053】
本実施の形態では、オートゲインコントロール部24は、取得した赤外線画像に対して、複数のそれぞれ異なるゲインコントロール処理を実行し、伝送処理部25は、複数の異なるゲインコントロール処理済みの赤外線画像の各々についての画素毎の輝度を示す信号が画素毎にシリアルに配置された映像信号を伝送する。本構成によると、簡易且つ低コストな手法により、複数の異なるゲインコントロール処理済みの赤外線画像をモニタに並列に表示することが可能となる。
【0054】
本実施の形態では、オートゲインコントロール部24は、取得した赤外線画像に対して、3つのそれぞれ異なるゲインコントロール処理を実行し、伝送処理部25は、各画素の輝度を示す信号が画素毎に3つずつシリアルに配置された映像信号を伝送する。本構成によると、赤外線画像の伝送自体は標準的な手法と同じであるため、専用の機器を設けることなく3つの異なるゲインコントロール処理済みの赤外線画像をモニタに並列に表示することが可能となる。
【0055】
本実施の形態では、映像信号は、輝度Yと色差Cr及びCbとで表される色空間の信号であり、映像信号は、3つの異なるゲインコントロール処理済みの赤外線画像についての画素毎の色差Cr及びCbを示す信号の代わりに輝度を示す信号を含む。本構成によると、3つの異なるゲインコントロール処理済みの赤外線画像に基づく白黒画像をモニタに並列に表示することが可能となる。
【0056】
本実施の形態では、複数のそれぞれ異なるゲインコントロール処理は、前記赤外線画像の用途に応じて設定される。本構成によると、用途に応じて適切なゲインコントロール処理を実行することが可能となる。
【0057】
以上、本開示を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0058】
実施の形態では、熱型の遠赤外線検出素子としてマイクロボロメータ11を使用する例を説明した。この点、サーモパイルまたは焦点素子を用いた遠赤外線検出素子にも、実施の形態に係る感度特性の補正制御を適用可能である。
【0059】
実施の形態では、3つの異なるゲインコントロール処理が実行されたが、これに限定されず、2つの異なるゲインコントロール処理が実行されてもよい。この場合、例えば、オートゲインコントロール部24は、第1調整部31及び第2調整部32を備え、伝送処理部25は、第1調整部31で生成された第1輝度信号と、第2調整部32で生成された第2輝度信号と、固定値により色差Cr又はCbを示す信号と、がシリアルに配置された映像信号を伝送すればよい。また、伝送処理部25が画素毎に4つ以上の信号がシリアルに配置された映像信号を伝送する場合、オートゲインコントロール部24は、4つ以上のそれぞれ異なるゲインコントロール処理を実行してもよい。
【0060】
実施の形態では、映像信号は、輝度Yと2つの色差Cr及びCbとで表されるYCrCb色空間の信号としたが、赤、緑、青の三原色で表されるRGB色空間の信号であってもよい。
【0061】
実施の形態では、ゲインコントロール処理は、赤外線画像の用途に応じて設定されたが、これに限定されず、例えば、赤外線画像において検出する対象の物体に応じて設定されてもよい。例えば、検出対象の物体が人間であれば、体温に近い37℃近傍を精密に検出できるようにゲインコントロール処理が設定されればよい。
【符号の説明】
【0062】
1 赤外線撮像システム、 10 赤外線撮像装置、 11 マイクロボロメータ、 12 アンプ、 13 ADコンバータ、 14 サーミスタ、 15 ADコンバータ、 20 赤外線画像処理装置、 21 画像取得部、 22 欠陥画素補正部、 23 不均一補正部、 24 オートゲインコントロール部、 25 伝送処理部、 26 温度取得部、 31 第1調整部、 32 第2調整部、 33 第3調整部。