(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170782
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】多孔質シリコン材料の製造方法、多孔質シリコン材料及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
C01B 33/02 20060101AFI20241204BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20241204BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20241204BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20241204BHJP
【FI】
C01B33/02 Z
H01M4/38 Z
H01M4/134
H01G11/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087497
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川浦 宏之
(72)【発明者】
【氏名】長廻 尚之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 涼
(72)【発明者】
【氏名】近藤 康仁
(72)【発明者】
【氏名】大石 敬一郎
【テーマコード(参考)】
4G072
5E078
5H050
【Fターム(参考)】
4G072AA01
4G072BB05
4G072DD04
4G072GG02
4G072GG03
4G072HH01
4G072JJ09
4G072LL03
4G072MM03
4G072MM38
4G072RR01
4G072RR23
4G072TT01
4G072TT08
4G072TT30
4G072UU30
5E078AA02
5E078AA05
5E078AB01
5E078BA30
5H050AA07
5H050AA19
5H050BA16
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5H050CA07
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5H050FA17
5H050GA02
5H050GA17
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA06
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】Siを含む材料において、充放電特性の低下をより抑制する。
【解決手段】本開示の多孔質シリコン材料の製造方法は、SiとAlとWとを含む原料を溶融し急冷凝固させシリコン合金の前駆体を得る前駆体工程と、シリコン合金に含まれるAl成分を除去して多孔質シリコン材料を得る多孔化工程と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiとAlとWとを含む原料を溶融し急冷凝固させシリコン合金の前駆体を得る前駆体工程と、
前記シリコン合金に含まれるAl成分を除去して多孔質シリコン材料を得る多孔化工程と、
を含む多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項2】
前記前駆体工程では、SiとAlとWとの全体を100at%としたときに、Wを0.5at%以上10at%以下の範囲で含み、Alを30at%以上85at%以下の範囲で含み、残部をSiとする原料を用いる、請求項1に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項3】
前記多孔化工程では、酸又はアルカリによってAl成分を選択的に除去する、請求項1又は2に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項4】
前記多孔化工程では、SiW化合物及びAlSiW化合物のうちの1以上を含む前記多孔質シリコン材料を得る、請求項1又は2に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項5】
前記多孔化工程では、空隙率が30体積%以上85体積%以下の範囲の前記多孔質シリコン材料を得る、請求項1又は2に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項6】
前記前駆体工程では、前記シリコン合金の溶湯をガスアトマイズ法、水アトマイズ法及びロール急冷法のうちいずれかの方法で平均粒径が0.1μm以上100μm以下の範囲に粒子化する、請求項1又は2に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項7】
水銀圧入法で求めた平均細孔径が300nm以下の範囲であり、空隙を有する三次元網目構造の骨格状シリコンを含み、SiW化合物及びAlSiW化合物のうちの1以上を含み、空隙率が30体積%以上85体積%以下の範囲である、
多孔質シリコン材料。
【請求項8】
前記SiW化合物及びAlSiW化合物の合計が、Si相との全体に対して5質量%以上40質量%以下である、請求項7に記載の多孔質シリコン材料。
【請求項9】
SiとAlとWとの全体を100at%としたときに、Wを0.5at%以上15at%以下の範囲で含み、Alを0at%以上15at%以下の範囲で含み、残部がSiである、請求項7又は8に記載の多孔質シリコン材料。
【請求項10】
正極活物質を含む正極と、
請求項7又は8に記載の多孔質シリコン材料を負極活物質として含む負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、多孔質シリコン材料の製造方法、多孔質シリコン材料及び蓄電デバイスを開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコンの負極材料において、塊状のSiを70質量部とAl粉末を30質量部混合したのちアルゴン雰囲気下で合金溶湯と、ヘリウムガスによるガスアトマイズ法で粒子化したのち、塩酸でAlを除去して得られた多孔質シリコンが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この多孔質シリコンでは、充放電時の活物質体積の膨張収縮による微粉化、集電体からの活物質の剥離や導電材との接触の欠如を完全に抑制することができるとしている。また、シリコン材料の製造方法としては、Mg、Co、Cr、Cu、Feなどを含む中間合金元素と、SiとのSi合金を、所定の溶湯元素を含む溶湯中で中間合金元素と溶湯元素とを置換した第2相とSi微粒子とに分離させ、第2相を除去することによって、多孔質シリコン材料を得るものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。この多孔質シリコン材料では、高容量と高サイクル特性を有するものとすることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-214054号公報
【特許文献2】特開2012-82125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1の製造方法では、SiとAlとを含む合金を用いて多孔化しているが、Siの膨張収縮に基づく不具合の抑制に対しては、まだ十分ではなかった。特許文献2の多孔質シリコン材料の製造方法では、中間合金元素を含むシリコン合金を溶融し、所定の溶湯元素を含む溶湯中で置換する、即ち高温での処理が必要であり、簡便な製造工程が求められていた。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、充放電特性の低下をより抑制することができる多孔質シリコン材料の製造方法、多孔質シリコン材料及び蓄電デバイスを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、AlとWとを含むシリコン合金を作製し、Al成分を除去すると、より強固な構造を有するものとし、充放電特性の低下をより抑制することができる多孔質シリコン材料を得ることができることを見いだし、本開示の多孔質シリコン材料の製造方法、多孔質シリコン材料及び蓄電デバイスを完成するに至った。
【0007】
即ち、本開示の多孔質シリコン材料の製造方法は、
SiとAlとWとを含む原料を溶融し急冷凝固させシリコン合金の前駆体を得る前駆体工程と、
前記シリコン合金に含まれるAl成分を除去して多孔質シリコン材料を得る多孔化工程と、
を含むものである。
【0008】
本開示の多孔質シリコン材料は、
水銀圧入法で求めた平均細孔径が300nm以下の範囲であり、空隙を有する三次元網目構造の骨格状シリコンを含み、SiW化合物及びAlSiW化合物のうちの1以上を含み、空隙率が30体積%以上85体積%以下の範囲であるものである。
【0009】
本開示の蓄電デバイスは、
正極活物質を含む正極と、
上述した多孔質シリコン材料を負極活物質として含む負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示は、Siを含む材料において、充放電特性の低下をより抑制することができる。このような効果が得られる理由は以下のように推察される。例えば、リチウムイオン二次電池用シリコン負極は、理論容量が3579mAh/gであり、一般的な黒鉛の理論容量372mAh/gに比べ約10倍の値を示し、さらなる高容量化、高エネルギー密度化が期待されている。一方で、リチウムイオンを吸蔵したシリコンはLi15Si4であり、リチウム吸蔵前のシリコンに対して約300%まで体積が膨張する。本開示では、Si、SiW化合物及びAlSiW化合物以外の元素あるいは化合物を選択的に溶解することによって、細孔サイズが小さく、空隙率の大きい多孔質シリコンを生産することができる。また、Si、SiW化合物及びAlSiW化合物以外の元素あるいは化合物を除去するだけで、大規模な設備を必要とせず、大気中で容易に多孔質シリコンを提供可能である。また、得られた多孔質シリコン材料は、SiW化合物及びAlSiW化合物のうちの少なくとも1以上で強化された空隙を有する三次元網目構造の骨格状シリコンを有し、かつ平均細孔径が300nm以下である。このように細孔サイズは小さく、空隙率が大きく、さらに骨格が強化された多孔質シリコン材料は、リチウムイオン二次電池などの蓄電デバイスに用いた場合、体積の膨張・収縮が緩和され、サイクル特性を向上するなど、性能の高い蓄電デバイスを容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】1500℃及び1000℃におけるAl-Si-W系の3元系等温平衡状態図。
【
図2】融液液滴の冷却過程における微細組織形成過程の模式図。
【
図3】Al-Si系、Al-W系、Si-W系の2元系平衡状態図。
【
図4】蓄電デバイス10の構造の一例を示す説明図。
【
図8】実験例1の多孔質シリコン材料の細孔分布曲線。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(多孔質シリコン材料の製造方法)
本開示の多孔質シリコン材料の製造方法は、前駆体工程と、多孔化工程とを含む。前駆体工程では、SiとAlとWとを含む原料を溶融し急冷凝固させシリコン合金の前駆体を得る処理を行う。多孔化工程では、シリコン合金に含まれるAl成分を除去して多孔質シリコン材料を得る処理を行う。まず、原料組成について説明する。
【0013】
一般に、共晶系A-B合金の平衡状態図において、液相線が極小となる共晶組成の融液を凝固させるとA相とB相とが繊維状(ラメラ状)に相分離した共晶組織が形成される。この時、形成されるラメラ組織のサイズは、冷却速度が速いほど細かくなり、1000℃/s以上の冷却速度ではナノサイズの組織が形成される。この共晶組織から、酸処理などによりA元素のみを選択除去することができれば、共晶組織を特徴としたB元素からなる材料を得ることができる。微細構造は共晶組成付近でA元素とB元素との組成を調整することで変化し、B元素からなる晶出相が連結した構造を有する多孔体となる。合金中のA元素としてAlを、B元素としてSiおよびWを考えると、Al-Si-Wの3元共晶組成近傍では、SiW化合物、AlSiW化合物、Siが晶出するともに、初晶のAl、AlW化合物が晶出あるいは析出すると考えられる。凝固組織はSiW化合物、AlSiW化合物、AlW化合物、共晶Si、初晶Si、初晶Alからなるラメラ組織を形成する。酸に溶出する化合物として、初晶Al、AlW化合物が考えられるため、酸処理後の構造は残存するSiW化合物、AlSiW化合物、共晶Si、初晶Siからなる骨格状の多孔体が得られるものと推察される。
【0014】
W添加による細孔の微細化は、Al-Si-W系の平衡状態図の特徴が影響している。ここでは、合金融液をガスアトマイズ法で冷却する場合を一例として説明する。
図1には、1500℃(
図1A)及び1000℃(
図1B)におけるAl-W-Si系の3元系等温平衡状態図の一例を示す。
図2には、融液液滴の冷却過程における微細組織形成過程の模式図を示す。
図3には、参考としてAl-Si系(
図3A)、Al-W系(
図3B)、Si-W系(
図3C)の2元系平衡状態図を示す。
図3に示すように、Al、Si、Wの融点はそれぞれ、660℃、1414℃、3422℃である。
図1に示すように、Wが0.5at%以上10at%以下、Alが30at%以上85at%以下、残部がSiの組成(一点鎖線で囲んだ好適範囲の組成)であれば、1500℃では溶融状態であると考えられる。ガスアトマイズ法ではノズル先端の穴から高温の融液を高圧ガス中に噴射して冷却する。これにより、アトマイズ粉末はAlSiW溶融状態から急冷凝固される。この凝固形態は、厳密には、
図1に示す平衡状態での凝固反応とは異なるが、おおよそ
図2に示すような凝固形態であると考えられる。例えば、好適範囲の組成では、
図1A、
図3B、
図3Cから1500℃では溶融状態と推測されるが、
図1B、
図3B、
図3Cから、1000℃になるとAl溶液中に初晶SiおよびW(Si,Al)
2相が晶出すると考えられる。すなわち、L(溶融)(
図2A)⇒L+初晶Si+W(Si,Al)
2(
図2B)⇒W(Si,Al)
2+初晶Al+初晶Si+共晶Al+骨格状共晶Si(
図2C)の反応形態で凝固は終了すると考えられる。初晶Alおよび共晶Alの結晶サイズは、W(Si,Al)
2および初晶Siの存在により、2元系AlSi合金に比べて微細となる。酸処理により初晶Alおよび共晶Alマトリックスは溶出され、得られた多孔質材料の空孔は、2元系AlSi酸処理ポーラスSiに比べて微細となる。なお、Si-W-Al系多孔質材料は、Siよりも導電率、およびLiイオン拡散係数が大きいW(Si,Al)
2相を含むため、導電性が向上し、レート特性も向上すると推察される。
【0015】
(前駆体工程)
前駆体工程では、SiとWとAlとの全体を100at%としたときに、Wを0.5at%以上15at%以下の範囲で含み、Alを10at%以上85at%以下の範囲で含み、残部をSiとする原料を用いることが好ましい。なお、原料には、不可避的不純物を含むものとしてもよい。不可避的不純物としては、Si、W、Alのいずれかの精製の際に不可避的に残存する成分であり、例えば、FeやC、Cu、Ni、Pなどが挙げられる。不可避的不純物は、より少ないことが好ましく、例えば、SiとWとAlとの全体を100at%としたときに、5at%以下が好ましく、2at%以下がより好ましい。Wの配合比は、例えば、1at%以上が好ましく、2at%以上としてもよい。また、Wの配合比は、10at%以下が好ましく、5at%以下としてもよい。Alの配合比は、30at%以上が好ましく、50at%以上がより好ましく、60at%以上としてもよい。また、Alの配合比は、85at%以下が好ましく、80at%以下がより好ましく、77.5%以下が更に好ましく、75at%以下としてもよい。W及びAlの配合比は、例えば、合計で10at%以上80at%以下としてもよい。Siの配合比は、例えば、10at%以上が好ましく、20at%以上がより好ましく、25at%以上や30at%以上としてもよい。また、Siの配合比は、例えば、85at%以下が好ましく、70at%以下がより好ましく、50at%以下や30at%以下としてもよい。また、前駆体工程では、SiとWとAlとの全体を100質量%とした時に、W及びAlを合計で20質量%以上85質量%以下の範囲、好ましくは30質量%以上80質量%以下の範囲で含む原料を用いてもよい。AlやWをこのような範囲で含むシリコン合金では、空隙率をより高めると共に、より好適な形状、サイズの空隙を得ることができ好ましい。Alの含有量が多いと、溶融して合金としたあと、急速冷却するとAlの単相が大きく析出するので、多くの空隙を形成させることができる。この冷却速度は、より急冷であることが好ましく、例えば溶融状態から102℃/s以上108℃/s以下の範囲としてもよい。
【0016】
この工程において、原料を溶融する場合は、Arなど不活性ガス雰囲気中の高周波るつぼ溶融が好ましいが、いかなる溶融手法を用いても構わない。前駆体工程では、原料から得られた合金を粒子化するものとしてもよい。この粒子化処理では、シリコン合金の原料の溶湯を金型に鋳造して、得られたインゴットを破砕して粒子化するものとしてもよい。また、シリコン合金を粒子化する方法は、シリコン合金の溶湯をガスアトマイズ法、水アトマイズ法及びロール急冷法などのうち1以上としてもよい。ガスアトマイズ法及び水アトマイズ法では合金粉末が得られる。一方、ロール急冷法では薄帯合金が得られることから、その後粉砕して粉末にするものとしてもよい。ロール急冷法で得られた粉末は合金組織が微細となるため、溶出処理後に微細な細孔を有する多孔質シリコンを得ることができる。このうち、シリコン合金を粒子化する方法は、ガスアトマイズ法がより好ましい。ガスアトマイズでは、溶湯とする際にAr雰囲気で行うことが好ましく、粒子化の際は、ArやHe雰囲気下で行うことが好ましい。
【0017】
前駆体工程では、平均粒径が0.1μm以上100μm以下の範囲でシリコン合金を粒子化することが好ましい。この粒子は、例えば、平均粒径が0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、0.5μm以上5μm以下がより好ましく、0.5μm以上3μm以下が更に好ましい。シリコン合金の粒子は、蓄電デバイスに求められる特性に応じて適宜選択すればよい。ここで、粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で粒子を観察し、各粒子の長径をその粒子の直径として集計し、粒子数で除算して平均した値として求めるものとする。この粒子化処理で得られた粒子は、最終的に得ようとする多孔質粒子の集合体の平均粒径となる。
【0018】
この前駆体工程では、AlとWとSiとに加えCa、Cu、Mg、Na、Sr及びPのうち1以上を含む第2元素を含む原料を用いてもよい。このうち、第2元素としては、Ca、Na及びSrのうち1以上が好ましい。第2元素は、AlやWの含有量よりも少ないことが好ましく、例えば、シリコン合金の全体に対して、10質量%以下の範囲が好ましく、5質量%以下の範囲がより好ましい。
【0019】
(多孔化工程)
多孔化工程では、上記作製したシリコン合金の粒子からSi以外の物質を除去する処理を行う。Si以外の物質としては、例えば、Alやその化合物、Wやその化合物などが挙げられる。この工程では、酸又はアルカリによってAl成分、即ちAl相やその化合物を選択的に除去することが好ましい。用いる酸またはアルカリは、シリコン合金中のシリコン以外の元素及び/又は化合物を溶出し、シリコンが溶出されないものが好ましく、塩酸、硫酸、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。この酸又はアルカリは、水溶液とすることが好ましい。酸又はアルカリの濃度は、Alやその化合物、Wやその化合物を除去できる範囲であれば特に限定されず、例えば、1mol/L以上5mol/L以下の範囲などにすることができる。この除去処理は、例えば、30℃~60℃で加温するものとしてもよい。また、除去処理は、シリコン合金の粒子を酸又はアルカリ溶液に浸漬し、1~5時間程度で撹拌を行うことが好ましい。得られた多孔質シリコン材料は、その後、洗浄および乾燥を行う。
【0020】
多孔化工程では、Si以外の物質を85質量%以上100質量%以下の範囲で除去するものとしてもよい。例えば、AlやW、その他の酸素などは、残存しても構わないが、電極活物質として利用する際には、充放電容量の観点からは、より少ない方が好ましい。また、AlやWなどの成分は、シリコン骨格を補強し、耐久性向上の観点からは、所定量以上含まれることが、好ましい。この工程では、SiW化合物及びAlSiW化合物のうちの1以上を含む多孔質シリコン材料を得るものとしてもよい。SiW化合物としては、例えば、SixWy(x、yは任意の数)としてもよく、WSi2などが挙げられる。また、AlSiW化合物としては、例えば、AlaSibWc化合物(a、b、cは任意の数)としてもよく、WSi2においてSiの一部をAlが置換したW(Si,Al)2などが挙げられる。SiW化合物やAlSiW化合物は、酸又はアルカリに難溶であるものとしてもよい。
【0021】
多孔化工程では、Si相との全体に対して、SiW化合物及びAlSiW化合物のうちの少なくとも一方を含みその合計が5質量%以上40質量%以下の範囲となる多孔質シリコン材料を得ることが好ましい。また、多孔質シリコン材料において、SiW化合物及びAlSiW化合物は、合計で10質量%以上含有することが好ましく、20質量%以上含有するものとしてもよい。また、多孔質シリコン材料において、SiW化合物及びAlSiW化合物は、合計で37.5質量%以下含有することが好ましく、35質量%以下含有するものとしてもよい。この工程ではWSi2などのSiW化合物やW(Al,Si)2などのAlSiW化合物が残存する多孔質シリコン材料を得ることが好ましく、W(Al,Si)2などのAlSiW化合物が残存する多孔質シリコン材料を得ることが好ましい。
【0022】
多孔化工程では、空隙率が30体積%以上85体積%以下の範囲の多孔質シリコン材料を得るものとしてもよい。この空隙率は、水銀ポロシメータで測定した値とする。この空隙率は、例えば、35体積%以上であることが好ましく、40体積%以上としてもよい。また、空隙率は、例えば、80体積%以下であることが好ましく、75体積%以下がより好ましく、50体積%以下としてもよい。空隙率は、より大きいとキャリアイオンの吸蔵時の体積変化に応答しやすく、より小さいと単位体積あたりに存在するSi量が多くなり、好ましい。
【0023】
(多孔質シリコン材料)
本開示の多孔質シリコン材料は、上述した製造方法で作製されたものとしてもよい。ここでは、多孔質シリコン材料の各物性などについて、上述した製造方法と同様であるものとしてその詳細な説明を省略する。この多孔質シリコン材料は、水銀圧入法で求めた平均細孔径が300nm以下の範囲であるものとする。この平均細孔径は、5nm以上300nm以下の範囲であることが好ましい。この平均細孔径は、10nm以上としてもよいし、20nm以上としてもよい。また、この平均細孔径は、250nm以下が好ましく、200nm以下としてもよい。細孔径が小さいと細孔がつぶれにくく好ましい。また、細孔が大きいと、キャリアイオンを吸蔵した際に体積変化をより抑制でき好ましい。細孔径の分布範囲は、1nm以上1μm以下の範囲としてもよく、1nm以上500nm以下の範囲としてもよい。なお、多孔質シリコン材料をリチウムイオン二次電池に用いる場合、細孔に非水電解液を含浸させることができるが、細孔が小さいほどリチウムイオンが合金化する際に、均一に合金化するため、応力集中が減少し、電極そのものの劣化を防ぐ効果も期待されるため、細孔が小さいことが望ましい。こうした観点から、上述した平均細孔径は、50nm以下が好ましく、30nm以下がより好ましい。
【0024】
多孔質シリコン材料は、空隙を有する三次元網目構造の骨格状シリコンを含み、SiW化合物及びAlSiW化合物のうちの1以上を少なくとも含むものとしてもよい。このSiW化合物やAlSiW化合物は、シリコン骨格の補強を担うものと推察される。この多孔質シリコン材料は、Si相との全体に対してSiW化合物及びAlSiW化合物のうちの1以上を含み、その合計が5質量%以上40質量%以下の範囲であることが好ましい。また、この多孔質シリコン材料は、SiW化合物及びAlSiW化合物を合計で10質量%以上含有することが好ましく、20質量%以上含有するものとしてもよい。また、多孔質シリコン材料は、SiW化合物及びAlSiW化合物を合計で37.5質量%以下含有することが好ましく、35質量%以下含有するものとしてもよい。骨格状シリコンは、例えば、その直径が10nm以上1μm以下の範囲であるものとしてもよい。骨格状シリコンは、例えば、シリコン微粒子が結合した構造を有していてもよい。
【0025】
多孔質シリコン材料は、水銀圧入法で求めた空隙率が30体積%以上85体積%以下の範囲である。この空隙率は、例えば、35体積%以上であることが好ましく、40体積%以上としてもよい。また、空隙率は、例えば、80体積%以下であることが好ましく、75体積%以下がより好ましく、50体積%以下としてもよい。空隙率は、より大きいとキャリアイオンの吸蔵時の体積変化に応答しやすく、より小さいと単位体積あたりに存在するSi量が多くなり、好ましい。
【0026】
多孔質シリコン材料は、平均粒径が0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上がより好ましく、1μm以上が更に好ましく、5μm以上としてもよい。また、この粒子の平均粒径は、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、3μm以下が更に好ましい。この多孔質シリコン材料は、酸素や不可避的不純物を除き、Si、Al及びWの全体を100at%としたときに、Siを70at%以上含むことが好ましい。このSiの含有率は、75at%以上がより好ましく、80at%以上が更に好ましく、85at%以上としてもよい。Siの含有率は、充放電容量の観点からはより高いことが好ましく、相対的な骨格補強の観点からはより低いものとしてもよい。Alの含有率は、0at%以上15at%以下の範囲が好ましく、12.5at%以下が好ましく、10at%以下がより好ましく、7.5at%以下としてもよい。また、Alの含有率は、1at%以上がより好ましく、2at%以上がより好ましく、2.5at%以上としてもよい。Wの含有率は、0.5at%以上15at%以下の範囲が好ましい。Wの含有率は、12.5at%以下がより好ましく、10at%以下が更に好ましく、7.5at%以下としてもよい。また、Wの含有率は、1at%以上がより好ましく、2.5at%以上がより好ましく、5at%以上が更に好ましい。AlやWの含有率は、骨格の強度を補う観点からはより多いことが好ましく、充放電しない成分であるため、蓄電デバイスの充放電容量の観点からはより少ないことが好ましい。更に、多孔質シリコン材料は、15質量%以下の範囲で第2元素としてのCa、Cu、Mg、Na、Sr及びPのうち1以上を含むものとしてもよい。また、多孔質シリコン材料は、Si,Al,Wの他に、不可避的不純物を含むものとしてもよい。なお、第2元素や不可避的不純物は、より少ないことが好ましい。この多孔質シリコン材料は、酸素を除く元素の比率でSiを50質量%以上含むものとしてもよい。
【0027】
(蓄電デバイス用電極)
蓄電デバイス用電極は、上述した多孔質シリコン材料を電極活物質として備えたものである。この電極は、電極活物質の電位に対して対極の電位に基づいて正極又は負極のいずれかとなるが、リチウムをキャリアとする場合、負極とすることが好ましい。この電極は、例えば、リチウムイオン二次電池、ハイブリッドキャパシタ、空気電池などに利用することができる。蓄電デバイス用電極は、多孔質シリコン材料の空隙率が5体積%以上50体積%以下の範囲に圧縮されているものとしてもよい。この電極では、作製時に圧縮することにより、多孔質シリコン材料の空隙率が減少したものとしてもよい。例えば、多孔質シリコンの粒子をリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いる場合、細孔が小さいほどリチウムイオンが合金化する際に、均一に合金化するため、応力集中が減少し、電極そのものの劣化を防ぐことが可能となる。この圧縮後の多孔質シリコン材料の空隙率は、蓄電デバイス用電極に求められる特性に応じて適宜調整すればよく、例えば、5体積%以上や、10体積%以上としてもよい。また、この圧縮後の多孔質シリコン材料の空隙率は、例えば、30体積%以下や、20体積%以下としてもよい。
【0028】
蓄電デバイス用電極は、集電体上に上述した多孔質シリコン材料を形成し、集電体上に固着したものとしてもよい。この電極は、多孔質シリコン材料を必要に応じて導電材や結着材と溶媒に混合しペースト状にして集電体上に塗布する工程か、多孔質シリコン材料を必要に応じて導電材や結着材と混合して集電体に圧着する工程により作製することができる。この電極において、多孔質シリコン材料の含有量は、より多いことが好ましく、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上が更に好ましい。導電材は、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。溶媒としては、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体は、活物質の電位などに応じて適宜選択すればよいが、例えば、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、銅、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。活物質複合体の形成量は、蓄電デバイスに求められる所望の性能に応じて適宜設定すればよい。
【0029】
この電極において、電極活物質は、低拘束圧と容量維持率との両立が可能な範囲において、多孔質シリコン材料に加えて、多孔質シリコン材料以外の活物質が含まれていてもよい。例えば、電極活物質として、炭素質材料が含まれていてもよい。ただし、電池容量を一層増大させる観点から、電極活物質全体を100質量%として、例えば、多孔質シリコン材料が50質量%以上、好ましくは90質量%以上を占めることが好ましい。
【0030】
(蓄電デバイス)
本開示の蓄電デバイスは、上述した多孔質シリコン材料を有する電極を備えたものである。この蓄電デバイスは、正極と、負極と、正極及び負極の間に介在しキャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えたものとしてもよい。多孔質シリコン材料は、負極活物質として用いることができる。この蓄電デバイスは、リチウムイオン二次電池、ハイブリッドキャパシタ、空気電池などのうちいずれかであるものとしてもよい。このうち、蓄電デバイスとしては、リチウム二次電池、特にリチウムイオン二次電池が好ましい。ここでは、蓄電デバイスがリチウムイオン二次電池であり、負極が上述の蓄電デバイス用電極である場合を主として説明する。
【0031】
正極は、正極活物質を含む正極活物質層が集電体上に形成されたものとしてもよい。例えば、正極は、集電体上に正極活物質を形成し、集電体上に固着したものとしてもよい。この正極は、正極活物質を必要に応じて導電材や結着材と溶媒に混合しペースト状にして集電体上に塗布する工程か、正極活物質を必要に応じて導電材や結着材と混合して集電体に圧着する工程により作製してもよい。正極において、正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物などを用いることができる。具体的には、NbS2、NbS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn2O4などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMncO2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV2O3などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV2O5などとする遷移金属酸化物、基本組成式をLi(1-x)FePO4などとするリチウム遷移金属リン酸化合物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、Li(1-x)Ni1/3Co1/3Mn1/3O2や、リチウム遷移金属リン酸化合物、例えばLiFePO4などが好ましい。リチウム遷移金属複合酸化物は、層状岩塩型の結晶相を有するものとしてもよく、リチウム遷移金属リン酸化合物はオリビン型の結晶相を有するものとしてもよい。なお、「基本組成式」とは、AlやMgなど他の元素を含んでもよい趣旨である。あるいは、正極活物質は、キャパシタやリチウムイオンキャパシタなどに用いられている炭素質材料としてもよい。炭素質材料としては、例えば、活性炭類、コークス類、ガラス状炭素類、黒鉛類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維類、カーボンナノチューブ類、ポリアセン類などが挙げられる。このうち、高比表面積を示す活性炭類が好ましい。炭素質材料としての活性炭は、比表面積が1000m2/g以上であることが好ましく、1500m2/g以上であることがより好ましい。比表面積が1000m2/g以上では、放電容量をより高めることができる。この活性炭の比表面積は、作製の容易性から3000m2/g以下であることが好ましく、2000m2/g以下であることがより好ましい。正極に用いられる導電材や結着材、溶媒、集電体などは、上述した電極で例示したものを適宜利用することができる。詳しくは後述するが、正極活物質層は固体電解質を含むものとしてもよい。
【0032】
イオン伝導媒体としては、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。非水電解液の溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。この組み合わせによると、充放電の繰り返しでの電池特性を表すサイクル特性が優れているばかりでなく、電解液の粘度、得られる電池の電気容量、電池出力などをバランスの取れたものとすることができる。支持塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩を溶解する濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。
【0033】
また、液状のイオン伝導媒体の代わりに、固体のイオン伝導性ポリマーをイオン伝導媒体として用いることもできる。イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、アクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、フッ化ビニリデンなどのポリマーと支持塩とで構成されるポリマーゲルを用いることができる。更に、イオン伝導性ポリマーと非水系電解液とを組み合わせて用いることもできる。また、イオン伝導媒体としては、イオン伝導性ポリマーのほか、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。
【0034】
蓄電デバイスは、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、リチウム二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0035】
この蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
図4は、蓄電デバイス10の構造の一例を示す説明図である。この蓄電デバイス10は、正極12と、負極15と、イオン伝導媒体としての電解液を含有する電解液含有セパレータ18とを有する。正極12は、正極活物質を含む正極活物質層13と、集電体14とを有する。負極15は、負極活物質を含む負極活物質層16と、集電体17とを有する。負極活物質層16に含まれる負極活物質は、上述した多孔質シリコン材料21であり、空隙23を有する。
【0036】
この蓄電デバイスは、充放電サイクルを行った際の容量維持率がより高いことが好ましく、例えば、50サイクルでの容量維持率は80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、87.5%以上であることが更に好ましい。また、この蓄電デバイスは、2C放電を行ったときの放電容量がより高いことが好ましく、例えば、700mAh/g以上であることが好ましく、800mAh/g以上であることがより好ましく、1000mAh/g以上であることがさらに好ましい。
【0037】
この蓄電デバイスは、全固体電池であるものとしてもよい。例えば、上述した蓄電デバイス10において、イオン伝導媒体として、電解液含有セパレータ18に代えて固体電解質を用いてもよい。全固体電池において、正極活物質は、上述したうち、層状岩塩型結晶相を有するリチウム金属複合酸化物やオリビン型結晶相を有するリチウム金属リン酸化合物等であることが好ましい。これらの正極活物質は、充放電に伴う活物質の膨張収縮率が小さく、粒子間の界面接触が重要となる全固体電池において特に有利である。全固体電池において、正極活物質を含む正極活物質層には固体電解質が含まれていることが好ましい。正極活物質層に含まれる固体電解質としては、酸化物固体電解質や硫化物固体電解質等の無機固体電解質が好ましく、硫化物固体電解質がより好ましい。硫化物固体電解質としては、例えば、構成元素としてLi、P及びSを含む固体電解質を用いることができる。具体的には、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Si2S-P2S5、LiI-LiBr-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2O-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5-GeS2等が挙げられる。これらの中でも、特に、Li2S-P2S5を含む硫化物固体電解質がより好ましい。固体電解質は1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。正極活物質層に硫化物固体電解質を含ませる場合、正極活物質と硫化物固体電解質との界面における高抵抗層の形成等を抑制する観点から、正極活物質の表面にニオブ酸リチウム層等の被覆層が設けられていてもよい。この場合も、正極に用いられる導電材や結着材、溶媒、集電体などは、上述した電極で例示したものを適宜利用することができる。全固体電池において、イオン伝導媒体は、固体電解質であればよいが、例えば、正極活物質層に含まれる固体電解質として例示した固体電解質を好適に用いることができる。イオン伝導媒体の固体電解質は、正極活物質層に含まれる固体電解質と同種のものでも異なるものでもよい。
【0038】
以上詳述したように、本開示は、Siを含む材料において、充放電特性の低下をより抑制することができる。このような効果が得られる理由は以下のように推察される。例えば、Al-Si-Wの三元系合金からAlを含む化合物を除去することによって、ナノサイズの細孔を有し、ナノサイズのSiW化合物やAlSiW化合物で骨格を強化された高強度の多孔質シリコン材料を容易に多量生産することができる。ナノ細孔は、充放電時のシリコンの膨張、収縮に伴う応力を緩和する。同時に、シリコン骨格中にキャリアイオンに対して不活性なSiW化合物やAlSiW化合物を導入することで骨格強度を向上させ充放電時の膨張、収縮に伴う応力でシリコンの細孔構造が潰れることや、それによる微粉化、集電体からの剥離、導電材との接触の欠如を防ぐことができるため、充放電サイクル特性を改善することができる。また、AlSi合金にWを添加することによって、同様のAlSi二元系合金を急冷凝固、酸処理して作製した多孔質シリコンと比べて、細孔サイズを微細化することができるため、残留応力による細孔構造の潰れ抑制効果を向上することができる。また、SiW化合物及びAlSiW化合物はSiに比べて導電率が高いため、これらを含むことでレート特性の向上が期待される。
【0039】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0040】
本開示は、以下の[1]~[10]のいずれかに示すものとしてもよい。
[1] SiとAlとWとを含む原料を溶融し急冷凝固させシリコン合金の前駆体を得る前駆体工程と、前記シリコン合金に含まれるAl成分を除去して多孔質シリコン材料を得る多孔化工程と、を含む多孔質シリコン材料の製造方法。
[2] 前記前駆体工程では、SiとAlとWとの全体を100at%としたときに、Wを0.5at%以上10at%以下の範囲で含み、Alを30at%以上85at%以下の範囲で含み、残部をSiとする原料を用いる、[1]に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
[3] 前記多孔化工程では、酸又はアルカリによってAl成分を選択的に除去する、[1]又は[2]に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
[4] 前記多孔化工程では、SiW化合物及びAlSiW化合物のうちの1以上を含む前記多孔質シリコン材料を得る、[1]~[3]のいずれか1つに記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
[5] 前記多孔化工程では、空隙率が30体積%以上85体積%以下の範囲の前記多孔質シリコン材料を得る、[1]~[4]のいずれか1つに記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
[6] 前記前駆体工程では、前記シリコン合金の溶湯をガスアトマイズ法、水アトマイズ法及びロール急冷法のうちいずれかの方法で平均粒径が0.1μm以上100μm以下の範囲に粒子化する、[1]~[5]のいずれか1つに記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
[7] 水銀圧入法で求めた平均細孔径が300nm以下の範囲であり、空隙を有する三次元網目構造の骨格状シリコンを含み、SiW化合物及びAlSiW化合物のうちの1以上を含み、空隙率が30体積%以上85体積%以下の範囲である、
多孔質シリコン材料。
[8] 前記SiW化合物及び前記AlSiW化合物の合計が、Si相との全体に対して5質量%以上40質量%以下の範囲である、[7]に記載の多孔質シリコン材料。
[9] SiとAlとWとの全体を100at%としたときに、Wを0.5at%以上15at%以下の範囲で含み、Alを0at%以上15at%以下の範囲で含み、残部がSiである、[7]又は[8]に記載の多孔質シリコン材料。
[10] 正極活物質を含む正極と、[7]~[9]のいずれか1つに記載の多孔質シリコン材料を負極活物質として含む負極と、前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えた蓄電デバイス。
【実施例0041】
以下には、本開示の多孔質シリコンおよび蓄電デバイスを具体的に作製した例を実験例として説明する。実験例1が本開示の実施例であり、実験例2,3が比較例である。
【0042】
[多孔質シリコン材料の作製]
(実験例1)
10mm角程度の大きさの塊状のAlを62.5質量%と、塊状Si、Wをそれぞれ24.3質量%、8.0質量%とを用意し、これらを混合してから、Ar不活性雰囲気中において高周波加熱法により溶解して合金溶湯とした。この合金溶湯をAr不活性ガスを用いたガスアトマイズ法によって平均粒径3μmのSi、W(Al,Si)2およびAlからなるAlSiW合金粉末を得た。原子組成にするとAl-25at%Si-2.5at%Wとなる。次に、得られた急冷合金粉末を純水中に希釈した3mol/L塩酸に入れ、25℃で1時間攪拌したのち十分に洗浄しながら濾過し、30℃の真空乾燥炉で2時間乾燥した。このようにして、実験例1の多孔質シリコン材料を製造した。
【0043】
(実験例2)
平均粒径が5μmのSi粉末を実験例2の多孔質シリコン材料とした。
【0044】
(実験例3)
10mm角程度の大きさの塊状のAlを74.5質量%と、塊状Siを25.5質量%とを用意し、これらを混合してから、N2不活性雰囲気中において高周波加熱法により溶解して合金溶湯とし、N2不活性ガスを用いたガスアトマイズ法によって平均粒径3μmのSiおよびAlからなるAlSi合金粉末を得た。原子組成にするとAl-25at%Siとなる。次に、得られた急冷合金粉末を純水中に希釈した3mol/L塩酸に入れ、25℃で1時間攪拌したのち十分に洗浄しながら濾過し、30℃の真空乾燥炉で2時間乾燥した。このようにして、実験例3の多孔質シリコン材料を製造した。
【0045】
(多孔質シリコン材料の物性測定)
酸処理後の多孔質シリコン粉末を走査電子顕微鏡(SEM,HITACHI製S-4300)で観察を行った。また、X線回折装置(リガク社製RINT-TTR)を使用し、Cu管球で、2θ=20°~100°の範囲で、5°/分の速度でX線回折測定を行った。Si相、Al相、W(Al,Si)2相、各相の割合は、各相のXRDピーク強度比から質量割合を計算した。また、水銀ポロシメータ(カンタクローム製POREMASTER60GT)で細孔分布を測定した。水銀ポロシメータでは粒子間の空隙も検出されるため、酸処理前のアトマイズ粉末から粒子間空隙を求めて、酸処理後の空隙から粒子間の空隙を差し引くことで細孔部分の細孔径、細孔容積を求めた。酸処理後の多孔質シリコン粉末をHFとHNO3とで溶解し、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES,日立ハイテクサイエンス製PS3520UVDDII II)で元素分析を行った。
【0046】
図5は、実験例1の多孔質シリコン表面のSEM像であり、
図6は、実験例1の多孔質シリコン断面のSEM像である。
図7は、実験例1の酸処理後のXRD測定結果である。
図8は、実験例1の多孔質シリコン材料の細孔分布曲線である。
図5,6に示すように、Si化合物中の初晶Alを酸で完全に溶出させることにより、空孔が形成され、多孔質Si粒子が得られることがわかった。また、
図5,6に示すSEM写真から、実験例1では、孔径数nm~約200nmの細孔が観察された。
図7に示すように、Al-25at%Si-2.5at%Wアトマイズ粉末は、酸処理後にSi相および、W(Al,Si)
2相が検出されることがわかった。酸処理後に得られた粉末では、結晶質相としてSi相およびW(Al,Si)
2の存在が確認された。
図8の水銀ポロシメトリから求めたポーラスSi粉末の細孔分布は5~150nmであり、細孔サイズは15nm近傍で最も多く、平均細孔サイズは25nmであり、空隙率は46%であった。
【0047】
表1に、実験例1~3の溶解原料組成比(at%)、酸処理後の組成比(at%)およびXRDから求めた化合物組成比(質量%)、空隙率(体積%)、および平均細孔径(nm)をまとめた。酸処理後にAlは溶解され、Si、W(Al,Si)2相がXRD結果から同定された。XRDから求めたSi:W(Al,Si)2の質量比は73:27であった。
【0048】
【0049】
(非水系電解液を用いたリチウム二次電池の作製)
実験例1~3のシリコン材料を負極活物質に用いたリチウムイオン二次電池を作製し、放電容量などの電池特性を評価した。負極活物質を60質量%と、導電材として平均粒径2μmのアセチレンブラックを20質量%と、ポリイミド20質量%とを混合し、N-メチルピロリドンを加えて攪拌し、スラリーを調製した。次にこのスラリーを厚さ18μmの銅箔上に塗布して乾燥し、これを圧延して厚さ25μmの負極電極を作製した。作製した負極電極を直径16mmの円形に打ち抜き、この負極電極に多孔質ポリエチレン製セパレータを挟んで対極として金属リチウムを重ね、電解液を注液することにより、トムセル型小型電池セルであるリチウム二次電池を製造した。電解液は、フルオロエチレンカーボネート/炭酸エチレン/炭酸ジメチル/炭酸エチルメチル(FEC/EC/DMC/EMC)を体積比で1.5:1.5:4:3とする混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lの濃度で添加したものとした。得られたリチウム二次電池に対して、電池電圧0.005 V~1.5Vの範囲で0.1Cの電流密度による充放電を50サイクル繰り返し行うとともに、0.1C、1C及び2Cでのレート特性評価を行った。
【0050】
(非水系電解液を用いたリチウム二次電池の特性)
表2に、負極活物質の母合金組成と、初回放電容量、50サイクル後放電容量、50サイクル後の容量維持率とをまとめた。実験例1では、容量維持率が88%と良好であるのに対して、実験例2では容量維持率が5.9%と低かった。一方、実験例3の初期放電容量は2570mAh/gであり、50サイクル後の容量維持率は81%であった。SiW化合物やAlSiW化合物のLi挿入に伴う容量はSiに比べて少ないため、実験例1ではW添加により実験例3よりも放電容量は減少したが、実験例1ではSiW化合物やAlSiW化合物による細孔サイズの減少、骨格強化により実験例3よりも50サイクル後の容量維持率が向上したものと推察された。
【0051】
【0052】
表3に、負極活物質の母合金組成と、レート特性として0.1C、1C、2Cでの放電容量を示した。レート特性の評価は、0.1Cで10回の充放電を行い、その後1C、2Cでの5回の充放電サイクルを行い、表3には各放電容量の平均値を示した。実験例3では0.1Cでは2440mAh/gの放電容量を示したが、レートが大きくなるとともに減少し、1Cレートで1012mAh/g、2Cレートでは526mAh/gとなった。一方、実験例1では、放電容量は0.1Cでは1500mAh/gではあるが、1Cレートで1134mAh/g、2Cレートにおいても1043mAh/gを維持したことから、実験例3に対してレート特性が大きく向上したことがわかった。これは、W添加により細孔が微細になるとともに、SiW化合物やAlSiW化合物がSiに比べて導電性、およびLiイオンの拡散係数が大きいためであると推察された。
【0053】
【0054】
なお、本開示は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
10 蓄電デバイス、12 正極、13 正極活物質層、14 集電体、15 負極、16 負極活物質層、17 集電体、18 電解液含有セパレータ、21 多孔質シリコン材料、23 空隙。