(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170787
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】音響システム
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20241204BHJP
H04R 1/02 20060101ALI20241204BHJP
H04R 3/12 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
H04R3/00 310
H04R1/02 102B
H04R3/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087503
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平野 克也
【テーマコード(参考)】
5D017
5D220
【Fターム(参考)】
5D017AE11
5D220AA11
5D220AA14
5D220AB01
5D220AB08
(57)【要約】
【課題】高周波ノイズがツイーターから放音されることを抑制しつつ、ツイーターの高域の特性及びウーファーの低域の特性をそれぞれ活かした高品質の音を実現する。
【解決手段】音響システム1は、音信号処理装置50-1~50-4と、アンプ60-1~60-4とを備える。音信号処理装置50-1~50-4は、入力音信号d1に基づいて出力音信号S1~S4を生成する。アンプ60-1~60-4は、出力音信号S1~S4をそれぞれ増幅音信号S1a~S4aに増幅し、増幅音信号S1a~S4aを11個のスピーカー10-1A、10-1B、10-2A、10-2B、10-3A、10-3B、10-4A、10-4B、10-5A、10-5B、及び10-6に供給する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力音信号に基づいて出力音信号を生成する音信号処理装置と、
前記出力音信号を増幅音信号に増幅し、前記増幅音信号を少なくともツイーター及びウーファーを含む3つのスピーカーにそれぞれ供給する増幅装置とを備え、
前記音信号処理装置は、
前記入力音信号に前記増幅装置のゲインを乗じた信号が、前記増幅装置においてクリップされない範囲となるように、前記入力音信号の振幅を制限した第1音信号を出力する制限部と、
前記第1音信号の高域周波数成分を除去することにより低域音信号を生成するローパスフィルタと、
前記入力音信号から低域周波数成分を除去することにより高域音信号を生成するハイパスフィルタと、
前記低域音信号と前記高域音信号とを合成することにより前記出力音信号を生成する合成部と、を含む、
音響システム。
【請求項2】
前記増幅装置及び前記音信号処理装置は、車載用オーディオ装置である、
請求項1に記載の音響システム。
【請求項3】
前記3つのスピーカーの組合せは、ツイーター、スコーカー、及びウーファーである、請求項1又は請求項2に記載の音響システム。
【請求項4】
前記3つのスピーカーの組合せは、ツイーター、ウーファー、及びサブウーファーである、請求項1又は請求項2に記載の音響システム。
【請求項5】
第1乃至第4音響処理装置を備え、
前記第1乃至第4音響処理装置の各々は、
入力音信号に基づいて出力音信号を生成する音信号処理装置と、前記出力音信号を増幅音信号に増幅する増幅装置とを備え、
前記音信号処理装置は、
前記入力音信号に前記増幅装置のゲインを乗じた信号が、前記増幅装置においてクリップされない範囲となるように、前記入力音信号の振幅を制限した第1音信号を出力する制限部と、
前記第1音信号の高域周波数成分を除去することにより低域音信号を生成するローパスフィルタと、
前記入力音信号から低域周波数成分を除去することにより高域音信号を生成するハイパスフィルタと、
前記低域音信号と前記高域音信号とを合成することにより前記出力音信号を生成する合成部と、を含み、
前記第1音響処理装置の増幅装置から出力される増幅音信号は、第1ツイーター、第1スコーカー、及び第1ウーファーにそれぞれ供給され、
前記第2音響処理装置の増幅装置から出力される増幅音信号は、第2ツイーター、第2スコーカー、及び第2ウーファーにそれぞれ供給され、
前記第3音響処理装置の増幅装置から出力される増幅音信号は、第3ツイーター、第3ウーファー、及びサブウーファーにそれぞれ供給され、
前記第4音響処理装置の増幅装置から出力される増幅音信号は、第4ツイーター、第4ウーファー、及び前記サブウーファーにそれぞれ供給される、
音響システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、音響システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車載音響システムにおいて、ウーファーとツイーターとを1つのアンプにより駆動する態様では、重低音の音信号がアンプの電源電圧によりクリップされたときに発生する高周波成分がツイーターから高周波ノイズとして放音され易い。特許文献1には、スコーカーとサブウーファーとを1つのアンプにより駆動することにより、高周波ノイズの放音が抑制されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の車載音響システムでは、リア片側のスコーカー及びサブウーファーにツイーターを加えた3wayスピーカーを1つのアンプにより駆動させようとした場合、フロント片側のツイーター及びウーファーにスコーカーを加えた3wayスピーカーを1つのアンプにより駆動させようとした場合、ツイーターから高周波ノイズが放音されてしまうという課題がある。このために、細かな音響チューニングが必要になってしまうという課題や、低域から高域までのワイドな再生帯域が実現できないという課題がある。
【0005】
以上の事情を考慮して、本開示のひとつの態様は、1つのアンプにより、少なくともツイーター及びウーファーを含む3つのスピーカーを駆動する場合であっても、高周波ノイズがツイーターから放音されることを抑制しつつ、ツイーターの高域の特性及びウーファーの低域の特性をそれぞれ活かした高品質の音を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するために、本開示のひとつの態様に係る音響システムは、入力音信号に基づいて出力音信号を生成する音信号処理装置と、前記出力音信号を増幅音信号に増幅し、前記増幅音信号を少なくともツイーター及びウーファーを含む3つのスピーカーにそれぞれ供給する増幅装置とを備え、前記音信号処理装置は、前記入力音信号に前記増幅装置のゲインを乗じた信号が、前記増幅装置においてクリップされない範囲となるように、前記入力音信号の振幅を制限した第1音信号を出力する制限部と、前記第1音信号の高域周波数成分を除去することにより低域音信号を生成するローパスフィルタと、前記入力音信号から低域周波数成分を除去することにより高域音信号を生成するハイパスフィルタと、前記低域音信号と前記高域音信号とを合成することにより前記出力音信号を生成する合成部と、を含む。
【0007】
本開示のひとつの態様に係る音響システムは、第1乃至第4音響処理装置を備え、前記第1乃至第4音響処理装置の各々は、入力音信号に基づいて出力音信号を生成する音信号処理装置と、前記出力音信号を増幅音信号に増幅する増幅装置とを備え、前記音信号処理装置は、前記入力音信号に前記増幅装置のゲインを乗じた信号が、前記増幅装置においてクリップされない範囲となるように、前記入力音信号の振幅を制限した第1音信号を出力する制限部と、前記第1音信号の高域周波数成分を除去することにより低域音信号を生成するローパスフィルタと、前記入力音信号から低域周波数成分を除去することにより高域音信号を生成するハイパスフィルタと、前記低域音信号と前記高域音信号とを合成することにより前記出力音信号を生成する合成部と、を含み、前記第1音響処理装置の増幅装置から出力される増幅音信号は、第1ツイーター、第1スコーカー、及び第1ウーファーにそれぞれ供給され、前記第2音響処理装置の増幅装置から出力される増幅音信号は、第2ツイーター、第2スコーカー、及び第2ウーファーにそれぞれ供給され、前記第3音響処理装置の増幅装置から出力される増幅音信号は、第3ツイーター、第3ウーファー、及びサブウーファーにそれぞれ供給され、前記第4音響処理装置の増幅装置から出力される増幅音信号は、第4ツイーター、第4ウーファー、及び前記サブウーファーにそれぞれ供給される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係る音響システムの一例を示す構成図である。
【
図2】
図1の音響システムのより詳細な構成例を示す図である。
【
図3】
図1の音響システムを搭載した車両の平面図である。
【
図4】クリップされた増幅音信号の一例を示す図である。
【
図5】第1実施形態に係る音信号処理装置の一例を示す構成図である。
【
図6】
図5の制限部が実行する振幅制限の一例を示す図である。
【
図7】
図1の音響システムの動作の一例を示すフローチャートである。
【
図8】第1変形例に係る音信号処理装置の一例を示す構成図である。
【
図9】
図8の音響システムの動作の一例を示すフローチャートである。
【
図10】第3変形例に係る音信号処理装置の一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A:第1実施形態
A1:音響システムの構成
【0010】
図1は、第1実施形態に係る音響システム1の一例を示す構成図である。
【0011】
音響システム1は、自動車等の車両100に搭載されている。音響システム1は、スピーカー10に音信号c1が供給され、車両100の車内にスピーカー10から音信号c1に対応した音が放音されるシステムである。
【0012】
車両100は、車両100の搭乗者によって運転される。車両100は、車両100の搭乗者によって運転されずに自動運転されてもよい。車両100は、音響システム1、操作部2、及び音源3を含んでいる。
【0013】
操作部2は、タッチパネルである。操作部2は、タッチパネルに限らず、種々の操作ボタンを有する操作盤であってもよい。操作部2は、車両100の搭乗者によって行われる操作を受け付ける。以下、車両100の搭乗者は、ユーザと称される。
【0014】
音源3は、ステレオ信号の音源である。音源3は、左音信号a1-L及び右音信号a1-Rを生成し、生成された左音信号a1-L及び右音信号a1-Rを出力する。左音信号a1-L及び右音信号a1-Rは、音を示す信号である。左音信号a1-Lの振幅が大きいほど、左音信号a1-Lが示す音の音量は大きい。右音信号a1-Rの振幅が大きいほど、右音信号a1-Rが示す音の音量は大きい。
【0015】
音響システム1は、スピーカー10、フィルタ20、記憶装置30、及び音響処理装置40を備えている。スピーカー10は、フィルタ20を介して音響処理装置40に接続されている。記憶装置30は、音響処理装置40に接続されている。
【0016】
図2は、
図1の音響システム1のより詳細な構成例を示す図である。
図3は、
図1の音響システム1を搭載した車両100の平面図である。なお、
図3において、フィルタ20、記憶装置30、及び音響処理装置40の図示は省略されている。
【0017】
図2に示したように、スピーカー10は、11個のスピーカー10-1A、10-1B、10-2A、10-2B、10-3A、10-3B、10-4A、10-4B、10-5A、10-5B、及び10-6を有している。
【0018】
スピーカー10-1A、10-1B、10-4A、及び10-4Bは、ツイーターである。ツイーターは、2wayスピーカーシステム又は3wayスピーカーシステムにおいて、高音域を再生可能なスピーカーである。例えば、ツイーターの再生周波数帯域は、2kHz~20kHzである。ここで、再生周波数帯域とは、スピーカーの入力端子に1ワットに相当する正弦波の電力を与え、スピーカーの基準軸上においてスピーカーから1メートル離れた位置における音圧を計測したときに、音圧の計測値が3dB以上低下しない周波数帯域のことをいう。
【0019】
スピーカー10-1Aは「第1ツイーター」の一例である。スピーカー10-1Bは「第2ツイーター」の一例である。スピーカー10-4Aは「第3ツイーター」の一例である。スピーカー10-4Bは「第4ツイーター」の一例である。
【0020】
スピーカー10-2A及び10-2Bは、スコーカーである。スコーカーは、3wayスピーカーシステムにおいて、中音域を再生可能なスピーカーである。スコーカーの再生周波数帯域は、ツイーターの再生周波数帯域に比較して低域に分布している。スコーカーの再生周波数帯域の一部と、ツイーターの再生周波数帯域の一部とは互いに重なっている。例えば、スコーカーの再生周波数帯域は、200Hz~8kHzである。
【0021】
スピーカー10-2Aは「第1スコーカー」の一例である。スピーカー10-2Bは「第2スコーカー」の一例である。
【0022】
スピーカー10-3A、10-3B、10-5A、及び10-5Bは、ウーファーである。ウーファーは、2wayスピーカーシステム又は3wayスピーカーシステムにおいて、低音域を再生可能なスピーカーである。ウーファーの再生周波数帯域は、スコーカーの再生周波数帯域に比較して低域に分布している。ウーファーの再生周波数帯域の一部と、スコーカーの再生周波数帯域の一部とは互いに重なっている。例えば、ウーファーの再生周波数帯域は、40Hz~400Hzである。
【0023】
スピーカー10-3Aは「第1ウーファー」の一例であり、スピーカー10-3Bは「第2ウーファー」の一例であり、スピーカー10-5Aは「第3ウーファー」の一例であり、スピーカー10-5Bは「第4ウーファー」の一例である。
【0024】
図3に示したように、車両100の車室110には、車室110の前後2列に配置された4つの座席121~124及び天井130が配置されている。また、車両100には、左前ドア141、右前ドア142、左後ドア143、及び右後ドア144がそれぞれ配置されている。座席121は左前座席であり、座席122は右前座席であり、座席123は左後座席であり、座席124は右後座席である。以下、座席121及び座席122は「フロント席」と称され、座席123及び座席124は「リア席」と称されることがある。
【0025】
スピーカー10-1A、10-2A、及び10-3Aは、左前ドア141に配置されている。スピーカー10-1A、10-2A、及び10-3Aは、それぞれツイーター、スコーカー、及びウーファーであり、車両100の左前部における3wayスピーカーを構成している。スピーカー10-1A、10-2A、及び10-3Aは、この順に左前ドア141の上部から下部に向かって配置されている。スピーカー10-1A、10-2A、及び10-3Aの配置は、特にこの例に限定されない。また、スピーカー10-1A、10-2A、及び10-3Aは、必ずしも左前ドア141に配置されなくてもよい。例えば、スピーカー10-1Aは、Aピラー、ダッシュボード等に配置されてもよい。
【0026】
スピーカー10-1B、10-2B、及び10-3Bは、右前ドア142に配置されている。スピーカー10-1B、10-2B、及び10-3Bは、それぞれツイーター、スコーカー、及びウーファーであり、車両100の右前部における3wayスピーカーを構成している。スピーカー10-1B、10-2B、及び10-3Bは、この順に右前ドア142の上部から下部に向かって配置されている。スピーカー10-1B、10-2B、及び10-3Bの配置は、特にこの例に限定されない。また、スピーカー10-1B、10-2B、及び10-3Bは、必ずしも右前ドア142に配置されなくてもよい。例えば、スピーカー10-1Bは、Aピラー、ダッシュボード等に配置されてもよい。
【0027】
スピーカー10-4A及び10-5Aは、左後ドア143に配置されている。スピーカー10-4A及び10-5Aは、それぞれツイーター及びウーファーであり、車両100の左後部における2wayスピーカーを構成している。スピーカー10-4A及び10-5Aは、この順に左後ドア143の上部から下部に向かって配置されている。スピーカー10-4A及び10-5Aの配置は、特にこの例に限定されない。また、スピーカー10-4A及び10-5Aは、必ずしも左後ドア143に配置されなくてもよい。例えば、スピーカー10-5Aは、Bピラー又はCピラーに配置されてもよい。
【0028】
スピーカー10-4B及び10-5Bは、右後ドア144に配置されている。スピーカー10-4B及び10-5Bは、それぞれツイーター及びウーファーであり、車両100の右後部における2wayスピーカーを構成している。スピーカー10-4B及び10-5Bは、この順に右後ドア144の上部から下部に向かって配置されている。スピーカー10-4B及び10-5Bの配置は、特にこの例に限定されない。また、スピーカー10-4B及び10-5Bは、必ずしも左後ドア143に配置されなくてもよい。例えば、スピーカー10-5Bは、Bピラー又はCピラーに配置されてもよい。
【0029】
スピーカー10-6は、リア席の後方に配置されている。スピーカー10-6はサブウーファーである。サブウーファーは、ウーファーよりも低音域の範囲を再生可能なスピーカーである。サブウーファーの再生周波数帯域は、ウーファーの再生周波数帯域に比較して低域に分布している。サブウーファーの再生周波数帯域の一部と、ウーファーの再生周波数帯域の一部とは互いに重なっている。例えば、サブウーファーの再生周波数帯域は、20Hz~80Hzである。
【0030】
スピーカー10-6は、2つのボイスコイルを有するダブルボイスコイルスピーカーである。スピーカー10-6が有する2つのボイスコイルの一方には、フィルタ20-9Aを通過後の音信号S3cが与えられる。スピーカー10-6が有する2つのボイスコイルの他方には、フィルタ20-9Bを通過後の音信号S4cが与えられる。本実施形態では、スピーカー10-6は、音信号S3c及び音信号S4cの2つの音信号により駆動されるため、スピーカー10-6が音信号S3c及び音信号S4cのいずれか一方により駆動される態様に比較して出力音圧を大きくできる。また、本実施形態のスピーカー10-6はダブルボイスコイルスピーカーであるため、音信号S3cと音信号S4cとからモノラルの音信号を生成する回路を省略できる。
【0031】
なお、上述したツイーター、スコーカー、ウーファー、及びサブウーファーの各再生周波数帯域の数値は、あくまで例示であって、特にこれらに限定されない。
【0032】
記憶装置30は、コンピュータによって読み取り可能な記録媒体(例えば、コンピュータによって読み取り可能なnon transitoryな記録媒体)である。記憶装置30は、不揮発性メモリーと、揮発性メモリーと、を含む。不揮発性メモリーは、例えば、ROM(Read Only Memory)、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、及びEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)である。揮発性メモリーは、例えば、RAM(Random Access Memory)である。
【0033】
記憶装置30は、プログラムp1と、種々の情報と、を記憶する。プログラムp1は、音信号処理装置50の動作を規定する。記憶装置30は、不図示のサーバにおける記憶装置から読み取られたプログラムp1を記憶してもよい。この場合、サーバにおける記憶装置は、コンピュータによって読み取り可能な記録媒体の一例である。
【0034】
音響処理装置40は、音信号処理装置50及び増幅装置60を有している。音響処理装置40は、車両100に搭載された車載用オーディオ装置である。音信号処理装置50は、4つの音信号処理装置50-1~50-4を備えている。4つの音信号処理装置50-1~50-4のそれぞれの構成は互いに同じである。増幅装置60は、4チャンネルアンプである。即ち、増幅装置60は、4つのアンプ60-1~60-4を備えている。4つのアンプ60-1~60-4のそれぞれの構成は互いに同じである。
【0035】
音響処理装置40には、音源3からスプリッタ70-1及びスプリッタ70-2を介して、4チャンネルの音信号が入力される。音源3はステレオ信号の音源である。音源3は、左音信号a1-Lをスプリッタ70-1に出力する。音源3は、右音信号a1-Rをスプリッタ70-2に出力する。
【0036】
スプリッタ70-1は、左音信号a1-Lを左前音信号a1-LFと左後音信号a1-LRとに分配する。スプリッタ70-1は、左前音信号a1-LFの音量と、左後音信号a1-LRの音量との分配比を変更するフェーダー機能を有している。
【0037】
スプリッタ70-2は、右音信号a1-Rを右前音信号a1-RFと右後音信号a1-RRとに分配する。スプリッタ70-2は、右前音信号a1-RFの音量と、右後音信号a1-RRの音量との分配比を変更するフェーダー機能を有している。
【0038】
左前音信号a1-LFは、音響処理装置40-1に入力される。右前音信号a1-RFは、音響処理装置40-2に入力される。左後音信号a1-LRは、音響処理装置40-3に入力される。右後音信号a1-RRは、音響処理装置40-4に入力される。音響処理装置40-1は「第1音響処理装置」に対応する。音響処理装置40-2は「第2音響処理装置」に対応する。音響処理装置40-3は「第3音響処理装置」に対応する。音響処理装置40-4は「第4音響処理装置」に対応する。
【0039】
音響処理装置40-1は、音信号処理装置50-1及びアンプ60-1を有している。音響処理装置40-2は、音信号処理装置50-2及びアンプ60-2を有している。音響処理装置40-3は、音信号処理装置50-3及びアンプ60-3を有している。音響処理装置40-4は、音信号処理装置50-4及びアンプ60-4を有している。
【0040】
アンプ60-1は、出力音信号S1をスピーカー駆動に適したレベルに増幅する。アンプ60-1は、増幅された音信号を増幅音信号S1aとしてスピーカー10-1Aに至る信号経路SL11へ出力する。アンプ60-1は「第1音響処理装置の増幅装置」の一例である。
【0041】
アンプ60-1は、固定されたゲインGを有している。出力音信号S1をアンプ60-1のゲインGで増幅することによって得られる増幅信号h1が、アンプ60-1のクリップ電圧を超える場合、アンプ60-1は、増幅信号h1がクリップ電圧によりクリップされることによって得られる信号を、増幅音信号S1aとして生成する。
【0042】
図4は、クリップされた増幅音信号S1aの一例を示す図である。電圧+VFと電圧-VFとの各々が、クリップ電圧である。増幅信号h1がクリップ電圧を超える状況は、増幅信号h1が電圧+VFよりも大きい状況と、増幅信号h1が電圧-VFよりも小さい状況とを含む。
【0043】
クリップされた増幅音信号S1aは、増幅音信号S1aの高調波を含んでしまう。増幅音信号S1aの高調波は、高域周波数成分を構成する。増幅音信号S1aの高調波がスピーカー10-1Aに供給されると、スピーカー10-1Aは、増幅音信号S1aの高調波に起因するノイズを放音してしまう。
【0044】
ノイズの発生に影響するクリップ電圧は、アンプ60-1の電源電圧に依存する。アンプ60-1の電源電圧は、車両100から供給される。このため、車両100が、高い電源電圧をアンプ60-1に供給できない場合、アンプ60-1では、ノイズの原因であるクリップが発生しやすい。
【0045】
音信号処理装置50-1は、アンプ60-1においてクリップが発生しない音信号を、出力音信号S1として生成し、生成された出力音信号S1をアンプ60-1に出力する。
【0046】
図2に示したように、信号経路SL11には、信号経路SL12及び信号経路SL13との分岐点J1aからスピーカー10-1Aに至るまでの間にフィルタ20-1が設けられている。フィルタ20-1は1次のCRハイパスフィルタであり、フィルタ20-1のカットオフ周波数は8kHzである。1次のCRハイパスフィルタは、コンデンサ及び抵抗器を有している。当該コンデンサは、スピーカー10-1Aと直列に接続される。当該抵抗器は、スピーカー10-1Aと並列に接続される。フィルタ20-1は、増幅音信号S1aのうち、8kHzよりも低い周波数を有する周波数成分を減衰させることにより、音信号S1bを生成する。
【0047】
信号経路SL12と信号経路SL13との分岐点J1bからスピーカー10-2Aに至るまでの間には、フィルタ20-2が設けられている。フィルタ20-2は1次のCRハイパスフィルタであり、フィルタ20-2のカットオフ周波数は400Hzである。フィルタ20-2は、増幅音信号S1aのうち、400Hzよりも低い周波数を有する周波数成分を減衰させることにより、音信号S1cを生成する。
【0048】
分岐点J1bからスピーカー10-3Aに至るまでの間には、フィルタ20-3が設けられている。フィルタ20-3は2次のRLCローパスフィルタであり、フィルタ20-3のカットオフ周波数は400Hzである。2次のRLCローパスフィルタは、抵抗器、コイル、及びコンデンサを有している。ここで、抵抗器はスピーカー10-3Aと考えることができる。当該コイルは、スピーカー10-3Aと直列に接続される。当該コンデンサは、スピーカー10-3Aと並列に接続される。フィルタ20-3は、増幅音信号S1aのうち、400Hzよりも高い周波数を有する周波数成分を減衰させることにより、音信号S1dを生成する。
【0049】
上述したように、フィルタ20-2のカットオフ周波数と、フィルタ20-3のカットオフ周波数とはともに400Hzである。400Hzはクロスオーバー周波数である。フィルタ20-2及びフィルタ20-3は、増幅音信号S1aを中音域の音信号S1cと低音域の音信号S1dとに分離し、歌唱音声や楽器の基音となる中音域の音像の位置が車両100の車室内下方にシフトすることを低減する目的で用いられる。この例では、ウーファーであるスピーカー10-3Aからの歌唱音声の放音が低減される。
【0050】
アンプ60-2は、出力音信号S2をスピーカー駆動に適したレベルに増幅する。アンプ60-2は、増幅された音信号を増幅音信号S2aとしてスピーカー10-1Bに至る信号経路SL21へ出力する。アンプ60-2は「第2音響処理装置の増幅装置」の一例である。
【0051】
アンプ60-2は、アンプ60-1と同様に、固定されたゲインGを有している。出力音信号S2をアンプ60-2のゲインGで増幅することによって得られる増幅信号が、アンプ60-2のクリップ電圧を超える場合、アンプ60-2は、増幅信号がクリップ電圧によりクリップされることによって得られる信号を、増幅音信号S2aとして生成する。
【0052】
音信号処理装置50-2は、アンプ60-2においてクリップが発生しない音信号を、出力音信号S2として生成し、生成された出力音信号S2をアンプ60-2に出力する。
【0053】
図2に示したように、信号経路SL21には、信号経路SL22及び信号経路SL23との分岐点J2aからスピーカー10-1Bに至るまでの間にフィルタ20-4が設けられている。フィルタ20-4は1次のCRハイパスフィルタであり、フィルタ20-4のカットオフ周波数は8kHzである。フィルタ20-2は、増幅音信号S2aのうち、8kHzよりも低い周波数を有する周波数成分を減衰させることにより、音信号S2bを生成する。
【0054】
信号経路SL22と信号経路SL23との分岐点J2bからスピーカー10-2Bに至るまでの間には、フィルタ20-5が設けられている。フィルタ20-5は1次のCRハイパスフィルタであり、フィルタ20-5のカットオフ周波数は400Hzである。フィルタ20-5は、増幅音信号S2aのうち、400Hzよりも低い周波数を有する周波数成分を減衰させることにより、音信号S2cを生成する。
【0055】
分岐点J2bからスピーカー10-3Bに至るまでの間には、フィルタ20-6が設けられている。フィルタ20-6は2次のRLCローパスフィルタであり、フィルタ20-6のカットオフ周波数は400Hzである。フィルタ20-6は、増幅音信号S2aのうち、400Hzよりも高い周波数を有する周波数成分を減衰させることにより、音信号S2dを生成する。
【0056】
上述したように、フィルタ20-5のカットオフ周波数と、フィルタ20-6のカットオフ周波数とはともに400Hzである。400Hzはクロスオーバー周波数である。フィルタ20-5及びフィルタ20-6は、増幅音信号S2aを中音域の音信号S2cと低音域の音信号S2dとに分離し、歌唱音声の音像の位置が車両100の車室内下方にシフトすることを低減する目的で用いられる。この例では、ウーファーであるスピーカー10-3Bからの歌唱音声の放音が低減される。
【0057】
アンプ60-3は、出力音信号S3をスピーカー駆動に適したレベルに増幅する。アンプ60-3は、増幅された音信号を増幅音信号S3aとしてスピーカー10-4Aに至る信号経路SL31へ出力する。アンプ60-3は「第3音響処理装置の増幅装置」の一例である。
【0058】
アンプ60-3は、アンプ60-1及び60-2と同様に、固定されたゲインGを有している。出力音信号S3をアンプ60-3のゲインGで増幅することによって得られる増幅信号が、アンプ60-3のクリップ電圧を超える場合、アンプ60-3は、増幅信号がクリップ電圧によりクリップされることによって得られる信号を、増幅音信号S3aとして生成する。
【0059】
音信号処理装置50-3は、アンプ60-3においてクリップが発生しない音信号を、出力音信号S3として生成し、生成された出力音信号S3をアンプ60-3に出力する。
【0060】
図2に示したように、信号経路SL31には、信号経路SL32及び信号経路SL33との分岐点J3aからスピーカー10-4Aに至るまでの間にフィルタ20-7が設けられている。フィルタ20-7は1次のCRハイパスフィルタであり、フィルタ20-7のカットオフ周波数は8kHzである。フィルタ20-7は、増幅音信号S3aのうち、8kHzよりも低い周波数を有する周波数成分を減衰させることにより、音信号S3bを生成する。
【0061】
信号経路SL32と信号経路SL33との分岐点J3bからスピーカー10-5Aに至るまでの間において、フィルタは設けられていない。左後ドア143には、ツイーターであるスピーカー10-4Aと、ウーファーであるスピーカー10-5Aとが配置されているが、スコーカーは配置されていない。このため、スコーカーの再生周波数帯域とウーファーの再生周波数帯域とを分離するためのフィルタは不要であり、スピーカー10-5Aの前段にフィルタは設けられていない。
【0062】
分岐点J3bからスピーカー10-6に至るまでの間には、フィルタ20-9Aが設けられている。フィルタ20-9Aは1次のLRローパスフィルタであり、フィルタ20-9Aのカットオフ周波数は、320Hzである。1次のLRローパスフィルタは、コイル及び抵抗器を有している。当該コイルは、スピーカー10-6と直列に接続される。当該抵抗器は、スピーカー10-6と並列に接続される。フィルタ20-9Aは、増幅音信号S3aのうち、320Hzよりも高い周波数を有する周波数成分を減衰させることにより、音信号S3cを生成する。
【0063】
アンプ60-4は、出力音信号S4をスピーカー駆動に適したレベルに増幅する。アンプ60-4は、増幅された音信号を増幅音信号S4aとしてスピーカー10-4Bに至る信号経路SL41へ出力する。アンプ60-4は「第4音響処理装置の増幅装置」の一例である。
【0064】
アンプ60-4は、アンプ60-1~60-3と同様に、固定されたゲインGを有している。出力音信号S4をアンプ60-4のゲインGで増幅することによって得られる増幅信号が、アンプ60-4のクリップ電圧を超える場合、アンプ60-4は、増幅信号がクリップ電圧によりクリップされることによって得られる信号を、増幅音信号S4aとして生成する。
【0065】
音信号処理装置50-4は、アンプ60-4においてクリップが発生しない音信号を、出力音信号S4として生成し、生成された出力音信号S4をアンプ60-4に出力する。
【0066】
図2に示したように、信号経路SL41には、信号経路SL42及び信号経路SL43との分岐点J4aからスピーカー10-4Bに至るまでの間にフィルタ20-8が設けられている。フィルタ20-8は1次のCRハイパスフィルタであり、フィルタ20-8のカットオフ周波数は8kHzである。フィルタ20-8は、増幅音信号S4aのうち、8kHzよりも低い周波数を有する周波数成分を減衰させることにより、音信号S4bを生成する。
【0067】
信号経路SL42と信号経路SL43との分岐点J4bからスピーカー10-5Bに至るまでの間において、フィルタは設けられていない。右後ドア144には、ツイーターであるスピーカー10-4Bと、ウーファーであるスピーカー10-5Bとが配置されているが、スコーカーは配置されていない。このため、スコーカーの再生周波数帯域とウーファーの再生周波数帯域とを分離するためのフィルタは不要であり、スピーカー10-5Bの前段にフィルタは設けられていない。
【0068】
分岐点J4bからスピーカー10-6に至るまでの間には、フィルタ20-9Bが設けられている。フィルタ20-9Bは1次のLRローパスフィルタであり、フィルタ20-9Bのカットオフ周波数は、320Hzである。フィルタ20-9Bは、増幅音信号S4aのうち、320Hzよりも高い周波数を有する周波数成分を減衰させることにより、音信号S4cを生成する。
【0069】
なお、フィルタ20の各々のフィルタは、上記構成例に限定されない。フィルタ20-1、フィルタ20-4、フィルタ20-7、及びフィルタ20-8の各々は、2次以上のハイパスフィルタであってもよい。また、フィルタ20-1、フィルタ20-4、フィルタ20-7、及びフィルタ20-8の各々のカットオフ周波数は、8kHzでなくてもよい。例えば、フィルタ20-1、フィルタ20-4、フィルタ20-7、及びフィルタ20-8の各々のカットオフ周波数は、8kHzプラスマイナスK%(例えば、20%)の範囲内の周波数でもよい。
【0070】
また、フィルタ20-2及びフィルタ20-5の各々は、2次以上のハイパスフィルタであってもよい。また、フィルタ20-2及びフィルタ20-5の各々のカットオフ周波数は、400Hzでなくてもよい。例えば、フィルタ20-2及びフィルタ20-5の各々のカットオフ周波数は、400HzプラスマイナスK%(例えば、20%)の範囲内の周波数でもよい。
【0071】
また、フィルタ20-3及びフィルタ20-6の各々は、2次以外のローパスフィルタであってもよい。また、フィルタ20-3及びフィルタ20-6の各々のカットオフ周波数は、400Hzでなくてもよい。例えば、フィルタ20-3及びフィルタ20-6の各々のカットオフ周波数は、400HzプラスマイナスK%(例えば、20%)の範囲内の周波数でもよい。フィルタ20-3及びフィルタ20-6の各々のカットオフ周波数は、フィルタ20-2及びフィルタ20-5の各々のカットオフ周波数と等しいことが好ましい。
【0072】
また、フィルタ20-9A及びフィルタ20-9Bの各々は、2次以上のローパスフィルタであってもよい。また、フィルタ20-9A及びフィルタ20-9Bの各々のカットオフ周波数は、320Hzでなくてもよい。例えば、フィルタ20-9A及びフィルタ20-9Bの各々のカットオフ周波数は、320HzプラスマイナスK%(例えば、20%)であってもよい。
【0073】
以下、
図5を参照することにより、音信号処理装置50-1の構成について説明する。なお、音信号処理装置50-2~50-4の構成は、音信号処理装置50-1の構成と同じであるので、音信号処理装置50-2~50-4についての説明は省略される。
【0074】
図5は、第1実施形態に係る音信号処理装置50-1の一例を示す構成図である。音信号処理装置50-1は、1又は複数のCPU(Central Processing Unit)を含む。1又は複数のCPUは、1又は複数のプロセッサの一例である。処理装置、プロセッサ、及びCPUの各々は、コンピュータの一例である。
【0075】
音信号処理装置50-1は、記憶装置30からプログラムp1を読み取る。音信号処理装置50-1は、プログラムp1を実行することによって、調整部51、HPF(High Pass Filter:ハイパスフィルタ)52、制限部53、LPF(Low Pass Filter:ローパスフィルタ)54、及び合成部55として機能する。調整部51、HPF52、制限部53、LPF54、及び合成部55の少なくとも1つは、DSP(Digital Signal Processor)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、PLD(Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の回路により実現されてもよい。調整部51は、音信号処理装置50-1の外部要素でもよい。また、調整部51は省略されてもよい。
【0076】
音信号処理装置50-1は、アンプ60-1においてクリップが発生しない音信号を、出力音信号S1として生成する。音信号処理装置50-1は、入力音信号d1に基づいて出力音信号S1を生成する。
【0077】
合成部55は、低域音信号d4と高域音信号d2とを合成することにより出力音信号S1を生成する。
【0078】
調整部51は、左前音信号a1-LFの振幅を調整することによって、入力音信号d1を生成する。例えば、調整部51は、ユーザの音量操作に応じて、左前音信号a1-LFの振幅を調整することによって、入力音信号d1を生成する。
【0079】
操作部2がユーザから音量を増加する操作を受け取ると、調整部51は、左前音信号a1-LFの振幅を増大する。例えば、音量を増加する操作が、左前音信号a1-LFの低音成分のみを増幅する操作である場合、調整部51は、左前音信号a1-LFの低音成分の振幅を増大しつつ、左前音信号a1-LFの高音成分の振幅を維持することによって、入力音信号d1を生成する。
【0080】
操作部2がユーザから音量を減少する操作を受け取ると、調整部51は、左前音信号a1-LFの振幅を減少する。例えば、音量を減少する操作が、左前音信号a1-LFの低音成分のみを減少する操作である場合、調整部51は、左前音信号a1-LFの低音成分の振幅を減少しつつ、左前音信号a1-LFの高音成分の振幅を維持することによって、入力音信号d1を生成する。
【0081】
調整部51は、車両100の状態に応じて左前音信号a1-LFの振幅を調整することによって、入力音信号d1を生成してもよい。車両100の状態は、例えば、車両100の速度の状態、または車両100の加速度の状態である。例えば、車両100の加速度が大きいほど、調整部51は、左前音信号a1-LFの振幅を大きくする。車両100の速度が大きいほど、調整部51は、左前音信号a1-LFの振幅を大きくしてもよい。左前音信号a1-LFの振幅が調整されない場合、調整部51は、左前音信号a1-LFを入力音信号d1として出力する。
【0082】
入力音信号d1は、低域周波数成分と、高域周波数成分とを含んでいる。低域周波数成分は、HPF52のカットオフ周波数未満の周波数を有する成分である。高域周波数成分は、LPF54のカットオフ周波数以上の周波数を有する成分である。低域周波数成分で構成される信号の振幅は、高域周波数成分で構成される信号の振幅よりも大きい。
【0083】
HPF52は、2次のIIRフィルタ(Infinite Impulse Response Filter)である。HPF52は、2次のIIRフィルタに限らず、例えば、1次のIIRフィルタまたは3次のIIRフィルタでもよい。HPF52は、FIRフィルタ(Finite Impulse Response Filter)のようなIIRフィルタとは異なるデジタルフィルタでもよい。
【0084】
HPF52のカットオフ周波数は、スピーカー10-1Aとスピーカー10-2Aとのクロスオーバー周波数と同じ周波数に設定される。HPF52のカットオフ周波数は、スピーカー10-1Aとスピーカー10-2Aとのクロスオーバー周波数とは異なる周波数であってもよい。例えば、HPF52のカットオフ周波数は、スピーカー10-1Aとスピーカー10-2Aとのクロスオーバー周波数のプラスマイナスE%の範囲内の周波数でもよい。E%は、例えば、20%である。E%は、20%に限らず、例えば、20%よりも小さい値でもよいし、20%よりも大きい値でもよい。
【0085】
HPF52は、入力音信号d1から低域周波数成分を除去することにより高域音信号d2を生成する。
【0086】
制限部53は、第1音信号d3を出力する。第1音信号d3は、入力音信号d1にアンプ60-1のゲインGを乗じた信号が、アンプ60-1においてクリップされない範囲となるように、入力音信号d1の振幅を制限した信号である。言い換えると、制限部53は、アンプ60-1から出力される増幅音信号S1aがクリップされるクリップ電圧に対応する基準値を超えないように入力音信号d1を振幅制限することにより第1音信号d3を出力する。
【0087】
図6は、
図5の制限部53が実行する振幅制限の一例を示す図である。
図6において、信号振幅+Rと信号振幅-Rとの各々が、基準値である。
【0088】
図5に示される制限部53について観点を変えると、制限部53は、基準値を超えないように入力音信号d1を振幅制限することによって、アンプ60-1において増幅音信号S1aがクリップされることを阻止する。即ち、制限部53は、基準値を超えないように入力音信号d1を振幅制限することによって、出力音信号S1の電圧レベルを、アンプ60-1においてクリップされない増幅音信号S1aを生成する電圧レベルに制限する。
【0089】
アンプ60-1において増幅音信号S1aがクリップされない電圧レベルは、アンプ60-1のクリップ電圧を超えない電圧レベルである。アンプ60-1においてクリップされない電圧レベルは、アンプ60-1において増幅音信号S1aがクリップされる電圧レベルとは異なる電圧レベルとも表現される。
【0090】
基準値は、アンプ60-1において増幅音信号S1aがクリップされないように予め定められる。なお、基準値の増大に応じて、出力音信号S1の振幅は増大する。基準値の減少に応じて、出力音信号S1の振幅は減少する。
【0091】
基準値は、例えば、アンプ60-1のクリップ電圧とアンプ60-1のゲインGとに基づいて予め定められる値である。アンプ60-1のクリップ電圧とアンプ60-1のゲインGとに基づいて、アンプ60-1に入力されてもアンプ60-1において増幅音信号S1aがクリップされない信号の最大振幅が定まる。例えば、アンプ60-1のクリップ電圧をアンプ60-1のゲインGで除することによって、アンプ60-1に入力されてもアンプ60-1において増幅音信号S1aがクリップされない信号の最大振幅が定まる。以下、アンプ60-1に入力されてもアンプ60-1において増幅音信号S1aがクリップされない信号の最大振幅を「第1最大振幅」と称する。
【0092】
基準値は、例えば、出力音信号S1の最大振幅を、「第1最大振幅」未満に制限する値である。一例を挙げると、基準値は、出力音信号S1の最大振幅を、「第1最大振幅」のF%の振幅に制限する値である。F%は、例えば、80%である。F%は、80%に限らず、80%よりも小さい値(例えば70%)でもよいし、80%よりも大きい値(例えば、85%)でもよい。例えば、入力音信号d1における高域周波数成分の振幅の推定値を、入力音信号d1における低域周波数成分の振幅の推定値で除することによって得られる値が大きいほど、F%は小さくてもよい。なお、入力音信号d1における高域周波数成分の振幅の推定値と、入力音信号d1における低域周波数成分の振幅の推定値は、入力音信号d1のサンプルに基づいて、予め定められる。
【0093】
また、後述するように、出力音信号S1は、HPF52によって生成される高域音信号d2が、LPF54によって生成される低域音信号d4と、合成部55において合成されることによって生成される。低域音信号d4は、制限部53が生成した第1音信号d3から高域周波数成分を除去することによって生成される。
【0094】
このため、例えばLPF54のゲインと合成部55のゲインの各々が「1倍」である場合、基準値は、出力音信号S1の最大振幅を、「第1最大振幅」から高域音信号d2の振幅の推定値を差し引くことによって得られる振幅に制限する値でもよい。高域音信号d2の振幅の推定値は、高域音信号d2のサンプルに基づいて、予め定められる。
【0095】
基準値は、プログラムp1に予め設定される。制限部53は、予め設定された基準値を超えないように入力音信号d1を振幅制限することによって、第1音信号d3を生成する。制限部53が入力音信号d1を振幅制限すると、アンプ60-1では、増幅音信号S1aがクリップ電圧でクリップされない。
【0096】
制限部53が入力音信号d1を振幅制限することによって第1音信号d3を生成すると、第1音信号d3は、振幅制限に伴う高調波を含んでしまう。制限部53での振幅制限に伴う高調波は、第1音信号d3の高調波である。仮に、制限部53での振幅制限に伴う高調波が、アンプ60-1を介してスピーカー10-1Aに供給されると、スピーカー10-1Aはノイズを出力してしまう。
【0097】
LPF54は、2次のIIRフィルタである。LPF54は、2次のIIRフィルタに限らず、例えば、1次のIIRフィルタまたは3次のIIRフィルタでもよい。LPF54は、FIRフィルタのようなIIRフィルタとは異なるデジタルフィルタでもよい。
【0098】
LPF54のカットオフ周波数は、HPF52のカットオフ周波数と同じ周波数である。LPF54のカットオフ周波数は、スピーカー10-1Aとスピーカー10-2Aとのクロスオーバー周波数と同じ周波数である。LPF54のカットオフ周波数は、スピーカー10-1Aとスピーカー10-2Aとのクロスオーバー周波数と異なる周波数であってもよい。例えば、LPF54のカットオフ周波数は、スピーカー10-1Aとスピーカー10-2Aとのクロスオーバー周波数のプラスマイナスE%(例えば、20%)の範囲内の周波数でもよい。
【0099】
LPF54は、制限部53が生成した第1音信号d3の高域周波数成分を除去することにより低域音信号d4を生成する。即ち、LPF54は、第1音信号d3から、制限部53での振幅制限に伴う高調波を除去する。
【0100】
LPF54は、第1音信号d3から、制限部53での振幅制限に伴う高調波に加えて、入力音信号d1に含まれていた高域音信号d2も除去してしまう。このため、低域音信号d4は、制限部53での振幅制限に伴う高調波と、入力音信号d1に含まれていた高域音信号d2と、の両方を有さない。
【0101】
合成部55は、HPF52が生成した高域音信号d2と、LPF54が生成した低域音信号d4とを合成することによって、出力音信号S1を生成する。即ち、合成部55は、低域音信号d4が有していない高域音信号d2を、低域音信号d4に加算することによって、出力音信号S1を生成する。このため、出力音信号S1は、LPF54によって除去された高域音信号d2を含む。さらに言えば、出力音信号S1は、アンプ60-1においてクリップされない第1音信号d3を生成する電圧レベルを有する信号である。合成部55は、出力音信号S1をアンプ60-1に供給する。
【0102】
アンプ60-1は、出力音信号S1を増幅することによって、増幅音信号S1aを生成する。アンプ60-1が出力音信号S1を増幅する状況では、アンプ60-1においてクリップは発生しない。このため、アンプ60-1においてクリップに伴う高調波は発生しない。よって、増幅音信号S1aは、クリップに伴う高調波を含まない。アンプ60-1は、増幅音信号S1aをフィルタ20-1、20-2、及び20-3を介して、それぞれスピーカー10-1A、10-2A、及び10-3Aに供給する。
【0103】
スピーカー10-1Aは、増幅音信号S1aのうち高音域の成分に応じた音を放音する。前述したように、フィルタ20-1は、1次のCRハイパスフィルタであり、クリップに伴う高調波を除去するためのフィルタではない。フィルタ20-1を通過した後の音信号S1bは、クリップに伴う高調波を含まないため、スピーカー10-1Aは、クリップに伴う高調波に起因するノイズを放音しない。このため、スピーカー10-1Aからの出力音に含まれるノイズ成分は低減される。スピーカー10-2Aは、増幅音信号S1aのうち中音域の成分である音信号S1cに応じた音を放音する。スピーカー10-3Aは、増幅音信号S1aのうち低音域の成分である音信号S1dに応じた音を放音する。
【0104】
A2:動作の説明
以下、
図7を参照しながら、音響システム1の動作を説明する。
図7は、
図1の音響システム1の動作の一例を示すフローチャートである。
図7は、特に音信号処理装置50-1及びアンプ60-1の動作に関する。音信号処理装置50-2及びアンプ60-2の動作、音信号処理装置50-3及びアンプ60-3の動作、並びに音信号処理装置50-4及びアンプ60-4動作に関しては、
図7に示した動作に準ずる。
【0105】
ステップS101において、音信号処理装置50-1は、調整部51として機能することにより、ユーザの操作に応じて音信号a1の振幅を調整することによって、入力音信号d1を生成する。
【0106】
続いて、ステップS102において、音信号処理装置50-1は、HPF52として機能することにより、入力音信号d1から低域周波数成分を除去することによって高域音信号d2を生成する。なお、ステップS102は、後述するステップS103と後述するステップS105との間において実行されてもよい。
【0107】
続いて、ステップS103において、音信号処理装置50-1は、制限部53として機能することにより、基準値を超えないように入力音信号d1を振幅制限することによって第1音信号d3を生成する。制限部53が生成する第1音信号d3には、制限部53での振幅制限に伴う高調波が含まれる。
【0108】
続いて、ステップS104において、音信号処理装置50-1は、LPF54として機能することにより、第1音信号d3から高域周波数成分を除去することによって低域音信号d4を生成する。低域音信号d4は、制限部53での振幅制限に伴う高調波と、入力音信号d1に含まれていた高域音信号d2との両方を含まない。
【0109】
続いて、ステップS105において、音信号処理装置50-1は、合成部55として機能することにより、HPF52が生成した高域音信号d2と、LPF54が生成した低域音信号d4と、を合成することによって、出力音信号S1を生成する。このため、出力音信号S1は、LPF54によって除去された高域音信号d2を含んでいる。また、出力音信号S1は、アンプ60-1においてクリップが生じない電圧レベルを有している。
【0110】
続いて、ステップS106において、音信号処理装置50-1は、合成部55として機能することにより、出力音信号S1をアンプ60-1に供給する。
【0111】
続いて、ステップS107において、アンプ60-1は、出力音信号S1を増幅することによって増幅音信号S1aを生成する。アンプ60-1において増幅音信号S1aはクリップされない。このため、増幅音信号S1aは、クリップに伴う高調波を含まない。
【0112】
続いて、ステップS108において、アンプ60-1は、増幅音信号S1aをフィルタである20-1、20-2、及び20-3を介して、それぞれスピーカー10-1A、10-2A、及び10-3Aに供給する。
【0113】
続いて、ステップS109においてスピーカー10-1A、10-2A、及び10-3Aは、増幅音信号S1aに基づく音を放音する。増幅音信号S1aは、クリップに伴う高調波を含まない。このため、クリップに伴う高調波に起因するノイズは、スピーカー10-1Aから放音されない。よって、スピーカー10-1Aからの出力音に含まれるノイズ成分は低減される。
【0114】
A3:第1実施形態のまとめ
以上説明したように、音響システム1は、音信号処理装置50-1と、アンプ60-1とを備える。音信号処理装置50-1は、入力音信号d1に基づいて出力音信号S1を生成する。アンプ60-1は、出力音信号S1を増幅音信号S1aに増幅し、フィルタ20-1、20-2、及び20-3のそれぞれを介して、増幅音信号S1aをスピーカー10-1A、10-2A、及び10-3Aにそれぞれ供給する。
【0115】
音信号処理装置50-1は、制限部53と、LPF54と、HPF52と、合成部55と、を含む。制限部53は、入力音信号d1にアンプ60-1のゲインGを乗じた信号が、アンプ60-1においてクリップされない範囲となるように、入力音信号d1の振幅を制限した第1音信号d3を出力する。
【0116】
LPF54は、第1音信号d3の高域周波数成分を除去することにより低域音信号d4を生成する。HPF52は、入力音信号d1から低域周波数成分を除去することにより高域音信号d2を生成する。合成部55は、低域音信号d4と高域音信号d2とを合成することにより出力音信号S1を生成する。
【0117】
第1実施形態に係る音響システム1によれば、音信号処理装置50-1において、入力音信号d1にアンプ60-1のゲインGを乗じた信号がアンプ60-1においてクリップされない範囲となるように、入力音信号d1の振幅が制限される。従って、ウーファー使用時に生じ易いアンプ60-1における音信号のクリップが抑制され、音信号のクリップに起因する高周波ノイズの発生が抑制される。その結果、高周波ノイズがスピーカー10-1Aから放音されることが抑制される。このように、高周波ノイズが抑制されるため、高域の特性に優れたスピーカー10-1Aの使用が可能となる。また、音信号のクリップが抑制されるため、低域の特性に優れたスピーカー10-3Aの使用が可能となる。従って、スピーカー10-1Aの高域の特性及びスピーカー10-3Aの低域の特性をそれぞれ活かした高品質の音を実現できる。
【0118】
なお、第1実施形態において、スピーカー10-1A、10-1B、10-4A、及び10-4Bは「ツイーター」の一例であり、スピーカー10-3A、10-3B、10-5A、及び10-5Bは「ウーファー」の一例であり、LPF54は「ローパスフィルタ」の一例であり、HPF52は「ハイパスフィルタ」の一例である。また、スピーカー10-2A及び10-2Bは「スコーカー」の一例であり、スピーカー10-6は「サブウーファー」の一例である。
【0119】
また、アンプ60-1及び音信号処理装置50-1は、車載用オーディオ装置である。
【0120】
この構成によれば、アンプ60-1の電源電圧12V、24V等であり、一般的な家庭用電源の電圧である100Vよりも低い。そのため、アンプ60-1において音信号のクリップが生じ易い。このため、高周波ノイズが発生し易い状況となるが、音信号処理装置50-1の動作により、高周波ノイズがツイーターから放音されることが抑制される。従って、ツイーターの高域の特性及びウーファーの低域の特性をそれぞれ活かした高品質の音を実現できる。
【0121】
また、音響システム1において、3つのスピーカーの組合せは、ツイーター、スコーカー、及びウーファーである。
【0122】
この構成によれば、高周波ノイズがツイーターから放音されることを抑制しつつ、ツイーターの高域の特性、スコーカーの中域の特性、及びウーファーの重低音の特性をそれぞれ活かした高品質の音を実現できる。
【0123】
また、音響システム1において、3つのスピーカーの組合せは、ツイーター、ウーファー、及びサブウーファーである。
【0124】
この構成によれば、高周波ノイズがツイーターから放音されることを抑制しつつ、ツイーターの高域の特性、ウーファーの低域の特性、及びサブウーファーの低域の特性をそれぞれ活かした高品質の音を実現できる。
【0125】
また、音響システム1は、音響処理装置40-1~40-4を備え、音響処理装置40-1~40-4の各々は、音信号処理装置50-1~50-4と、アンプ60-1~60-4とを備える。音信号処理装置50-1~50-4は、入力音信号d1に基づいて出力音信号を生成する。アンプ60-1~60-4は、出力音信号を増幅音信号に増幅する。
【0126】
音信号処理装置50-1~50-4は、制限部53と、LPF54と、HPF52と、合成部55と、を含む。制限部53は、入力音信号d1にアンプ60-1~60-4のゲインGを乗じた信号が、アンプ60-1~60-4においてクリップされない範囲となるように、入力音信号d1の振幅を制限した第1音信号d3を出力する。LPF54は、第1音信号d3の高域周波数成分を除去することにより低域音信号d4を生成する。HPF52は、入力音信号d1から低域周波数成分を除去することにより高域音信号d2を生成する。合成部55は、低域音信号d4と高域音信号d2とを合成することにより出力音信号S1を生成する。
【0127】
アンプ60-1から出力される増幅音信号S1aは、スピーカー10-1A、10-2A、及び10-3Aにそれぞれ供給される。アンプ60-2から出力される増幅音信号S2aは、スピーカー10-1B、10-2B、及び10-3Bにそれぞれ供給される。アンプ60-3から出力される増幅音信号S3aは、スピーカー10-4A、10-5A、及び10-6にそれぞれ供給される。アンプ60-4から出力される増幅音信号S4aは、スピーカー10-4B、10-5B、及び10-6にそれぞれ供給される。
【0128】
この構成によれば、高周波ノイズがツイーターであるスピーカー10-1A、10-1B、10-4A、及び10-4Bから放音されることを抑制しつつ、4つのアンプ60-1~60-4で11個のスピーカーが駆動できる。その結果、低コスト且つ上質感のあるオーディオを実現することができる。
【0129】
B:変形例
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。具体的な変形の態様を以下に例示する。また、以下の例示から任意に選択された2以上の態様は、相互に矛盾しない範囲内において適宜併合され得る。なお、以下に例示する変形例において、作用や機能が前述の実施形態と同等である要素については、以上の説明において使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜省略する。
【0130】
B1:第1変形例
以下、
図8~
図9を参照しつつ、第1変形例に係る音響システムについて説明する。なお、以下の説明では、説明の簡略化のため、第1実施形態と同一の構成要素に対しては、同一の符号を用いると共に、その機能の説明を省略することがある。また、以下の説明では、説明の簡略化のため、主として第1変形例が、第1実施形態に比較して相違する点について説明する。
【0131】
B1:検出装置の構成
図8は、第1変形例に係る音信号処理装置50-1Aの一例を示す構成図である。音信号処理装置50-1Aは、記憶装置30Aからプログラムp2を読み取る。音信号処理装置50-1Aは、プログラムp2を実行することによって、調整部51、制限部53、LPF54、合成部55、LPF56、及びHPF58として機能する。HPF58は、HPF52及びHPF57を含んでいる。調整部51、制限部53、LPF54、合成部55、LPF56、及びHPF58の少なくとも1つは、DSP、ASIC、PLD、FPGA等の回路により実現されてもよい。
【0132】
LPF56は「第1ローパスフィルタ」の一例である。LPF56は、2次のIIRフィルタである。LPF56は、2次のIIRフィルタに限らず、例えば、1次のIIRフィルタ又は3次のIIRフィルタでもよい。LPF56は、FIRフィルタのようなIIRフィルタとは異なるデジタルフィルタでもよい。
【0133】
LPF56のカットオフ周波数は、HPF52のカットオフ周波数及びLPF54のカットオフ周波数と等しい。LPF56のカットオフ周波数は、スピーカー10-1Aとスピーカー10-2Aとのクロスオーバー周波数と同じである。LPF56のカットオフ周波数は、スピーカー10-1Aとスピーカー10-2Aとのクロスオーバー周波数と異なってもよい。例えば、LPF56のカットオフ周波数は、スピーカー10-1Aとスピーカー10-2Aとのクロスオーバー周波数のプラスマイナスE%(例えば、20%)の範囲内の周波数でもよい。
【0134】
LPF56は、入力音信号d1から高域周波数成分を除去することによってフィルタ出力信号g1を生成する。
【0135】
第1変形例の制限部53は、増幅装置60から出力される増幅音信号がクリップされるクリップ電圧に対応する基準値を超えないようにフィルタ出力信号g1を振幅制限することによって第2音信号g2を生成する。第2音信号g2は、制限部53での振幅制限に起因する高調波を含む。この高調波は、第2音信号g2の高調波である。
【0136】
第1変形例のLPF54は、第2ローパスフィルタの一例である。第1変形例のLPF54は、第2音信号g2から高域周波数成分を除去することによって低域音信号g3を生成する。低域音信号g3は、第2音信号g2から、制限部53での振幅制限に起因する高調波が除去された信号である。また、LPF56が入力音信号d1から高域周波数成分を除去するため、低域音信号g3は、入力音信号d1に含まれる高域音信号d2を含まない。
【0137】
HPF57は、2次のIIRフィルタである。HPF57は、2次のIIRフィルタに限らず、例えば、1次のIIRフィルタまたは3次のIIRフィルタでもよい。HPF57は、FIRフィルタのようなIIRフィルタとは異なるデジタルフィルタでもよい。
【0138】
HPF57のカットオフ周波数は、HPF52のカットオフ周波数、LPF54のカットオフ周波数、およびLPF56のカットオフ周波数と同じである。HPF57のカットオフ周波数は、スピーカー10-1Aとスピーカー10-2Aとのクロスオーバー周波数と同じである。HPF57のカットオフ周波数は、スピーカー10-1Aとスピーカー10-2Aとのクロスオーバー周波数と異なってもよい。例えば、HPF57のカットオフ周波数は、スピーカー10-1Aとスピーカー10-2Aとのクロスオーバー周波数のプラスマイナスE%(例えば、20%)の範囲内の周波数でもよい。
【0139】
HPF57は、HPF52が生成した高域音信号d2から低域周波数成分を除去することによって高域音信号g4を生成する。
【0140】
HPF58は、HPF52とHPF57とを含む。このため、HPF58のカットオフ周波数は、LPF54のカットオフ周波数およびLPF56のカットオフ周波数と同じである。HPF52とHPF57の各々が2次のIIRフィルタであるため、HPF58における位相に関する次数は4次である。HPF58は、入力音信号d1から低域周波数成分を除去することによって高域音信号g4を生成する。
【0141】
第1変形例の合成部55は、HPF58が生成した高域音信号g4と、LPF54が生成した低域音信号g3と、を合成することによって、出力音信号S1を生成する。このため、出力音信号S1は、LPF56によって除去された高域音信号g4を含む。さらに言えば、出力音信号S1は、増幅装置60においてクリップが発生しない電圧レベルを有する信号である。合成部55は、出力音信号S1を増幅装置60に供給する。
【0142】
図9は、
図8の音響システム1Aの動作の一例を示すフローチャートである。
図9は、特に音信号処理装置50-1及びアンプ60-1の動作に関する。
図9において、
図7に示される処理と同一の処理には同一の符号が付してある。以下、
図7に示される処理と異なる処理を中心に説明する。音信号処理装置50-2及びアンプ60-2の動作、音信号処理装置50-3及びアンプ60-3の動作、並びに音信号処理装置50-4及びアンプ60-4動作に関しては、
図9に示した動作に準ずる。
【0143】
ステップS101に続くステップS201において、音信号処理装置50-1は、HPF58として機能することにより、入力音信号d1から低域周波数成分を除去することによって高域音信号g4を生成する。なお、ステップS201は、後述するステップS202と後述するステップS205との間で実行されてもよい。
【0144】
続いて、ステップS202において、音信号処理装置50-1は、LPF56として機能することにより、入力音信号d1から高域周波数成分を除去することによってフィルタ出力信号g1を生成する。
【0145】
続いて、ステップS203において、音信号処理装置50-1は、制限部53として機能することにより、基準値を超えないようにフィルタ出力信号g1を振幅制限することによって、第2音信号g2を生成する。第2音信号g2には、制限部103での振幅制限に伴う高調波が含まれる。
【0146】
続いて、ステップS204において、音信号処理装置50-1は、LPF54として機能することにより、第2音信号g2から高域周波数成分を除去することによって低域音信号g3を生成する。低域音信号g3は、制限部53での振幅制限に伴う高調波と、入力音信号d1に含まれる高域音信号g4と、の両方を含まない。
【0147】
続いて、ステップS205において、音信号処理装置50-1は、合成部55として機能することにより、HPF58が生成した高域音信号g4と、LPF104が生成した低域音信号g3とを合成することによって、出力音信号S1を生成する。以下、ステップS106からステップS109が実行される。以下、ステップS106からステップS109までの処理については説明を省略する。
【0148】
B2:第2変形例
上記実施形態において、制限部53の基準値は、出力音信号S1の最大振幅を、「第1最大振幅」から高域音信号d2の振幅の推定値を差し引くことによって得られる振幅に制限する値でもよい旨を説明したが、本開示はこれに限定されない。例えば、高域音信号d2の振幅をリアルタイムで検出してもよい。制限部53の基準値は、出力音信号S1の最大振幅を、「第1最大振幅」から、検出された高域音信号d2の振幅を差し引くことによって得られる振幅に制限する値でもよい。
【0149】
図10は、第3変形例に係る音信号処理装置50-1Bの一例を示す構成図である。
図10に示したように、音信号処理装置50-1Bは、記憶装置30Bからプログラムp3を読み取る。音信号処理装置50-1Bは、プログラムp3を実行することによって、調整部51、HPF52、制限部53、LPF54、合成部55、及び振幅検出部59として機能する。振幅検出部59は、高域音信号d2の振幅をリアルタイムで検出し、検出結果を制限部53に出力する。制限部53は、検出結果に基づいて、基準値をリアルタイムで更新する。
【0150】
C:付記
以上に例示した形態から、例えば以下の構成が把握される。
【0151】
本開示のひとつの態様(態様1)に係る音響システムは、入力音信号に基づいて出力音信号を生成する音信号処理装置と、前記出力音信号を増幅音信号に増幅し、前記増幅音信号を少なくともツイーター及びウーファーを含む3つのスピーカーにそれぞれ供給する増幅装置とを備え、前記音信号処理装置は、前記入力音信号に前記増幅装置のゲインを乗じた信号が、前記増幅装置においてクリップされない範囲となるように、前記入力音信号の振幅を制限した第1音信号を出力する制限部と、前記第1音信号の高域周波数成分を除去することにより低域音信号を生成するローパスフィルタと、前記入力音信号から低域周波数成分を除去することにより高域音信号を生成するハイパスフィルタと、前記低域音信号と前記高域音信号とを合成することにより前記出力音信号を生成する合成部と、を含む。
【0152】
この態様によれば、増幅装置における音信号のクリップを抑制し、高周波ノイズがツイーターから放音されることを抑制しつつ、ツイーターの高域の特性及びウーファーの低域の特性をそれぞれ活かした高品質の音を実現できる。
【0153】
本開示のひとつの態様(態様2)に係る音響システムにおいて、前記増幅装置及び前記音信号処理装置は、車載用オーディオ装置である。
【0154】
この態様によれば、増幅装置の電源電圧は12V、24V等であり、一般的な家庭用電源の電圧である100Vよりも低いため、増幅装置において音信号のクリップが生じ易い。このため、高周波ノイズが発生し易い状況となるが、音信号処理装置の動作により、高周波ノイズがツイーターから放音されることを抑制しつつ、ツイーターの高域の特性及びウーファーの低域の特性をそれぞれ活かした高品質の音を実現できる。
【0155】
本開示のひとつの態様(態様3)に係る音響システムにおいて、前記3つのスピーカーの組合せは、ツイーター、スコーカー、及びウーファーである。
【0156】
この態様によれば、高周波ノイズがツイーターから放音されることを抑制しつつ、ツイーターの高域の特性、スコーカーの中域の特性、及びウーファーの低域の特性をそれぞれ活かした高品質の音を実現できる。
【0157】
本開示のひとつの態様(態様4)に係る音響システムにおいて、前記3つのスピーカーの組合せは、ツイーター、ウーファー、及びサブウーファーである。
【0158】
この態様によれば、高周波ノイズがツイーターから放音されることを抑制しつつ、ツイーターの高域の特性、ウーファーの低域の特性、及びサブウーファーの重低音の特性をそれぞれ活かした高品質の音を実現できる。
【0159】
本開示のひとつの態様(態様5)に係る音響システムは、第1乃至第4音響処理装置を備え、前記第1乃至第4音響処理装置の各々は、入力音信号に基づいて出力音信号を生成する音信号処理装置と、前記出力音信号を増幅音信号に増幅する増幅装置とを備え、前記音信号処理装置は、前記入力音信号に前記増幅装置のゲインを乗じた信号が、前記増幅装置においてクリップされない範囲となるように、前記入力音信号の振幅を制限した第1音信号を出力する制限部と、前記第1音信号の高域周波数成分を除去することにより低域音信号を生成するローパスフィルタと、前記入力音信号から低域周波数成分を除去することにより高域音信号を生成するハイパスフィルタと、前記低域音信号と前記高域音信号とを合成することにより前記出力音信号を生成する合成部と、を含み、前記第1音響処理装置の増幅装置から出力される増幅音信号は、第1ツイーター、第1スコーカー、及び第1ウーファーにそれぞれ供給され、前記第2音響処理装置の増幅装置から出力される増幅音信号は、第2ツイーター、第2スコーカー、及び第2ウーファーにそれぞれ供給され、前記第3音響処理装置の増幅装置から出力される増幅音信号は、第3ツイーター、第3ウーファー、及びサブウーファーにそれぞれ供給され、前記第4音響処理装置の増幅装置から出力される増幅音信号は、第4ツイーター、第4ウーファー、及び前記サブウーファーにそれぞれ供給される。
【0160】
この態様によれば、高周波ノイズがツイーターから放音されることを抑制しつつ、4つの増幅装置で11個のスピーカーが駆動できる。その結果、低コスト且つ上質感のあるオーディオを実現することができる。
【符号の説明】
【0161】
1…音響システム、3…音源、10,10-1A,10-1B,10-2A,10-2B,10-3A,10-3B,10-4A,10-4B,10-5A,10-5B,10-6…スピーカー、20,20-1,20-2,20-3,20-4,20-5,20-6,20-7,20-8,20-9A,20-9B…フィルタ、30…記憶装置、40,40-1,40-2,40-3,40-4…音響処理装置、50,50-1,50-2,50-3,50-4…音信号処理装置、52,58…HPF、53…制限部、54…LPF、55…合成部、60…増幅装置、60-1,60-2,60-3,60-4…アンプ、100…車両、d1…入力音信号、d2…高域音信号、d3…第1音信号、d4…低域音信号、G…ゲイン、S1,S2,S3,S4…出力音信号、S1a,S2a,S3a,S4a…増幅音信号。