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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017084
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 5/04 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
B62D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119483
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光司
【テーマコード(参考)】
3D333
【Fターム(参考)】
3D333CB02
3D333CB29
3D333CB32
3D333CB45
3D333CC14
3D333CD05
3D333CD08
3D333CD14
3D333CD16
3D333CD20
3D333CE04
3D333CE53
(57)【要約】
【課題】運転者が転舵部の向きがストロークエンドに到達したことを簡便かつコンパクトな機構で感知し得るようにすることができるステアバイワイヤ方式のステアリング装置を提供する。
【解決手段】内輪16と、外輪17と、内外輪16、17間に配置された係合子18と、内輪16の外周と外輪17の内周との間に係合子18を係合させる係合位置と当該係合を解除する解放位置との間を周方向に移動可能に配置された保持器19と、保持器19を前記解放位置に弾性的に保持しかつ内輪16と一体に回転するように内輪16および保持器19に回り止めされたセンタリングばね20と、を有するクラッチ機構7と、保持器19に摩擦抵抗を与えてその軸周りの回転を阻止し、ステアリングホイール1の回転操作によって係合子18を前記係合位置に移動させる摩擦抵抗部材8と、を有する構成とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者により回転操作されるステアリングホイール(1)と、前記ステアリングホイール(1)に接続されたステアリングシャフト(4)と、前記ステアリングホイール(1)の操作量を検出する操舵センサ(5)と、前記操舵センサ(5)の検出量に応じて転舵部(3)の向きを変化させる転舵アクチュエータ(2)と、前記ステアリングホイール(1)に操舵反力を与える反力モータ(6)と、を備えるステアリング装置において、
前記ステアリングシャフト(4)とともに軸周りに回転する内輪(16)と、前記内輪(16)の外周側に配置された外輪(17)と、前記内輪(16)の外周と前記外輪(17)の内周との間に配置された係合子(18)と、前記係合子(18)を保持して、前記内輪(16)の外周と前記外輪(17)の内周との間に前記係合子(18)を係合させる係合位置と当該係合を解除する解放位置との間を周方向に移動可能に配置された保持器(19)と、前記保持器(19)を前記解放位置に弾性的に保持しかつ前記内輪(16)と一体に回転するように前記内輪(16)および前記保持器(19)に回り止めされたセンタリングばね(20)と、を有するクラッチ機構(7)と、
前記保持器(19)に摩擦抵抗を与えてその軸周りの回転を阻止し、前記ステアリングホイール(1)の回転操作によって前記係合子(18)を前記係合位置に移動させる摩擦抵抗部材(8)と、
を有することを特徴とするステアリング装置。
【請求項2】
前記摩擦抵抗部材(8)が、前記保持器(19)の外周に沿う円弧状の摩擦リング(30)と、ウォーム(37)と、前記ウォーム(37)によって軸周りに回転するウォームホイール(38)と、前記ウォームホイール(38)側に設けられた第一固定部(40)と、前記外輪(17)側に設けられた第二固定部(41)と、を有し、前記摩擦リング(30)の一端側が前記第一固定部(40)に、他端側が前記第二固定部(41)にそれぞれ固定されており、前記ウォーム(37)を一方向に動作させて前記第一固定部(40)を前記第二固定部(41)に対して周方向の一方向に相対回転させて、前記摩擦リング(30)を前記保持器(19)に接触させることによって前記保持器(19)に摩擦抵抗を与える一方で、前記ウォーム(37)を他方向に動作させて前記第一固定部(40)を前記第二固定部(41)に対して周方向の他方向に相対回転させて、前記摩擦リング(30)と前記保持器(19)との間に隙間を生じさせることによって前記摩擦抵抗を解除する請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記ステアリングシャフト(4)と前記クラッチ機構(7)が同一の軸上に配置されている請求項1または2に記載のステアリング装置。
【請求項4】
前記ステアリングシャフト(4)と前記クラッチ機構(7)が異なる軸上に配置されている請求項1または2に記載のステアリング装置。
【請求項5】
前記保持器(19)または前記摩擦抵抗部材(8)の少なくとも一方に、両者の間の摩擦抵抗を向上させる表面処理が施されている請求項1または2に記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ステアリングホイールと転舵装置が機械的に切り離された状態で転舵を行なうステアバイワイヤ方式のステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者によるステアリングホイールの回転操作に応じて転舵部(車両の転舵輪など)の向きを変化させるステアリング装置として、ステアバイワイヤ方式のものが知られている。
【0003】
ステアバイワイヤ方式のステアリング装置(以下、ステアリング装置と略称する。)は、ステアリングホイールの操作量を検知する操舵センサと、ステアリングホイールに対して機械的に切り離して設けられた転舵アクチュエータとを有する。その転舵アクチュエータは、操舵センサで検知されるステアリングホイールの操作量に応じて作動し、転舵部の向きを変化させる。
【0004】
この種のステアリング装置は、運転者によるステアリングホイールの操作量をいったん電気信号に変換し、その電気信号に基づいて転舵アクチュエータの動作を制御することができる。このため、例えば、ステアリングホイールを操作したときの転舵部の向きの変化量を車両、船舶などの移動速度に応じて調整するといったように、車両、船舶などの運転状態に応じてステアリングホイールの操作量と転舵アクチュエータの動作量の対応関係を適切化することが可能である。
【0005】
その反面、運転者によって回転操作されるステアリングホイールと、転舵部の向きを変化させる転舵アクチュエータとが機械的に切り離されているので、転舵部の向きがその移動限界(ストロークエンド)に到達したときであっても、運転者がさらにステアリングホイールを回転操作し得る。そのため、転舵部の向きがストロークエンドに到達したとき、その状況を運転者がステアリングホイールを通じて感知することを可能としたステアリング装置が提案されている。
【0006】
例えば、下記特許文献1に開示されたステアリング装置は、ステアリングシャフトと同軸にステアリングホイールの操作範囲を規定するための2つの操作エンド規定機構(左側エンド規定機構、右側エンド規定機構)を備えている。各エンド規定機構は、ウォームホイールと、ウォームホイールと噛み合うウォームをそれぞれ備えている。各ウォームは、電動モータを有している。
【0007】
各ウォームホイールには、片状のストッパ(左側ストッパ、右側ストッパ)が設けられる一方で、両ウォームホイールの間に設けられた被係止リングには、軸方向に突出する凸部が形成されている。ステアリングホイールを左旋回方向に操作すると凸部が左側ストッパに当接する一方で、右旋回方向に操作すると凸部が右側ストッパに当接し、各旋回方向への操作が禁止される(特許文献1の特に段落0022~0024、図2などを参照)。これにより、運転者は、転舵部の向きがストロークエンドに到達したことを、ステアリングホイールを通じて感知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-41824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1の構成においては、右回転停止用と左回転停止用に、それぞれウォーム、ウォームホイール、モータ、および、ストッパ機構を設ける必要があるため、コスト高になるとともに部品を設置するためのスペースが必要となり装置が大型化する問題がある。
【0010】
この発明が解決しようとする課題は、運転者が転舵部の向きがストロークエンドに到達したことを簡便かつコンパクトな機構で感知し得るようにすることができるステアバイワイヤ方式のステアリング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、この発明では、
運転者により回転操作されるステアリングホイールと、前記ステアリングホイールに接続されたステアリングシャフトと、前記ステアリングホイールの操作量を検出する操舵センサと、前記操舵センサの検出量に応じて転舵部の向きを変化させる転舵アクチュエータと、前記ステアリングホイールに操舵反力を与える反力モータと、を備えるステアリング装置において、
前記ステアリングシャフトとともに軸周りに回転する内輪と、前記内輪の外周側に配置された外輪と、前記内輪の外周と前記外輪の内周との間に配置された係合子と、前記係合子を保持して、前記内輪の外周と前記外輪の内周との間に前記係合子を係合させる係合位置と当該係合を解除する解放位置との間を周方向に移動可能に配置された保持器と、前記保持器を前記解放位置に弾性的に保持しかつ前記内輪と一体に回転するように前記内輪および前記保持器に回り止めされたセンタリングばねと、を有するクラッチ機構と、
前記保持器に摩擦抵抗を与えてその軸周りの回転を阻止し、前記ステアリングホイールの回転操作によって前記係合子を前記係合位置に移動させる摩擦抵抗部材と、
を有することを特徴とするステアリング装置を構成した。
【0012】
このようにすると、摩擦抵抗部材によって保持器に摩擦抵抗を与えるという簡便かつコンパクトな機構により、ステアリングホイールが左右方向のいずれの方向への操作によってストロークエンドに到達したときでも、ステアリングホイールを通じて運転者がそのことを確実に感知することができる。
【0013】
前記構成においては、
前記摩擦抵抗部材が、前記保持器の外周に沿う円弧状の摩擦リングと、ウォームと、前記ウォームによって軸周りに回転するウォームホイールと、前記ウォームホイール側に設けられた第一固定部と、前記外輪側に設けられた第二固定部と、を有し、前記摩擦リングの一端側が前記第一固定部に、他端側が前記第二固定部にそれぞれ固定されており、前記ウォームを一方向に動作させて前記第一固定部を前記第二固定部に対して周方向の一方向に相対回転させて、前記摩擦リングを前記保持器に接触させることによって前記保持器に摩擦抵抗を与える一方で、前記ウォームを他方向に動作させて前記第一固定部を前記第二固定部に対して周方向の他方向に相対回転させて、前記摩擦リングと前記保持器との間に隙間を生じさせることによって前記摩擦抵抗を解除する構成を採用することができる。
【0014】
また、前記各構成においては、
前記ステアリングシャフトと前記クラッチ機構が同一の軸上に配置されている、または、前記ステアリングシャフトと前記クラッチ機構が異なる軸上に配置されている構成を採用することができる。
【0015】
また、前記各構成においては、
前記保持器または前記摩擦抵抗部材の少なくとも一方に、両者の間の摩擦抵抗を向上させる表面処理が施されている構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明のステアリング装置は、上記の構成を採用したことにより、簡便かつコンパクトな機構により、ステアリングホイールが左右方向のいずれの方向への操作によってストロークエンドに到達したときでも、ステアリングホイールを通じて運転者がそのことを確実に感知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】この発明に係るステアバイワイヤ方式のステアリング装置の一実施形態を模式的に示す図
図2図1に示すステアリング装置の要部を示す断面図
図3図1に示すステアリング装置のさらに要部を示す断面図
図4図3中のIV-IV線に沿う断面図
図5図3中のV-V線に沿う断面図
図6図3中のVI-VI線に沿う断面図
図7図1に示すステアリング装置の動作状態を示す断面図
図8図1に示すステアリング装置の変形例(要部)を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明に係るステアバイワイヤ方式のステアリング装置の一実施形態を図1から図7に基づいて説明する。このステアリング装置は、運転者によるステアリングホイール1の操作量を電気信号に変換し、その電気信号に基づいて転舵アクチュエータ2を制御することで、転舵部3としての左右一対の転舵輪の向きを変化させるステアバイワイヤ方式のステアリング装置である。
【0019】
図1図2に示すように、このステアリング装置は、運転者により回転操作されるステアリングホイール1と、ステアリングホイール1に接続されたステアリングシャフト4と、ステアリングホイール1の操作量を検出する操舵センサ5と、操舵センサ5の検出量に応じて転舵部3の向きを変化させる転舵アクチュエータ2と、ステアリングホイール1に操舵反力を与える反力モータ6と、を備え、ステアリングシャフト4の回転の許容と制限を切り替えるクラッチ機構7と、クラッチ機構7に対して摩擦抵抗を作用させる摩擦抵抗部材8を有することを特徴としている。
【0020】
このステアリング装置には、転舵部3の転舵量を検出する転舵センサ9、車速などの走行データを取得する外部センサ10、ステアリングシャフト4に作用する操舵トルクを検出するトルクセンサ11、制御部12を有している。操舵センサ5、転舵センサ9、外部センサ10、トルクセンサ11などで取得された各種データは制御部12に集められ、その各種データに基づいて、転舵アクチュエータ2、反力モータ6、クラッチ機構7などの制御が行われる。
【0021】
図2に示すように、ステアリングシャフト4は、ステアリングホイール1を回転操作したときに、ステアリングホイール1と一体に回転するようにステアリングホイール1に接続されている。ステアリングシャフト4は筒状のケース13内に収納されており、軸受14を介してケース13に対して軸周りに相対回転可能となっている。ケース13の内部には、操舵センサ5が設けられている。
【0022】
ステアリングシャフト4の下端側は筒状となっており、その内側にトーションバー15が設けられている。ステアリングシャフト4とトーションバー15は、スプライン嵌合によって軸周りに一体に回転するよう構成されている。ケース13の内部には、トーションバー15に作用するトルクを検出するトルクセンサ11が設けられている。
【0023】
図3に示すように、クラッチ機構7は、ステアリングシャフト4とともに軸周りに回転する内輪16と、内輪16の外周側に配置された外輪17と、内輪16の外周と外輪17の内周との間に配置された係合子18と、係合子18を保持する保持器19と、センタリングばね20と、を有する。このクラッチ機構7は、ケース13の下端に連結された筒状のハウジング21の内部に収納されており、ステアリングシャフト4とは同一の軸上に配置されている。
【0024】
内輪16の軸心上端側にはトーションバー15の下端部が、内輪16の軸心下端側には反力モータ6のモータ軸22が、それぞれスプライン嵌合している。これにより、反力モータ6の出力が、ステアリングホイール1に直接伝達されるようになっている。内輪16と外輪17の間には軸受23が設けられており、内外輪16、17は軸周りに相対回転可能となっている。軸受23の軸方向両端には止め輪24がそれぞれ設けられており、軸受23の内外輪16、17に対する軸方向の位置決めがなされている。
【0025】
図4に示すように、外輪17は、ハウジング21に嵌め込まれている。外輪17の外周とハウジング21の内周には、それぞれキー溝が形成されている。このキー溝に共通のキー部材25を嵌め込むことによって、ハウジング21に対して外輪17が回り止めされる。また、図3に示すように、ハウジング21の内周には止め輪26が設けられており、この止め輪26が外輪17の軸方向端部に当接することによって、外輪17がハウジング21から抜け出すのを防止している。
【0026】
内輪16の外周面には、周方向に90度ピッチでカム面27が形成されている。内輪16のカム面27は、外輪17の内周の円筒面28と対向している。カム面27と円筒面28との間には、このカム面27の周方向中央から周方向両端に向かって径方向幅が次第に狭くなるくさび空間が形成されている。
【0027】
保持器19には、径方向に貫通するポケットが周方向に間隔をおいて複数(この実施形態では4個)形成されており、その各ポケットに係合子18としてのローラが収容されている。保持器19は、係合子18をカム面27の周方向中央から周方向に移動させることでカム面27と円筒面28との間に係合子18を係合させる係合位置と、係合子18をカム面27の周方向中央に移動させることでカム面27と円筒面28との間での係合子18の係合を解除する解放位置との間で、内輪16に対して周方向に移動可能に支持されている。
【0028】
図3に示すように、保持器19は、内輪16の外周面に設けられた止め輪29によって、内輪16と外輪17の間の所定の軸方向位置に位置決めされている。保持器19の外周面には、必要に応じて後述する摩擦リング30の内周面との間の摩擦抵抗を向上させるための表面処理(コーティング膜形成処理や粗面化処理など)が施される。
【0029】
図4に示すように、センタリングばね20は、鋼線をC形に巻いたC形環状部31と、C形環状部31の両端からそれぞれ径方向外向きに延出する一対の延出部32とを有する。C形環状部31は、内輪16の軸方向中央部に形成された円形のばね収容凹部33に嵌め込まれている。一対の延出部32は、ばね収容凹部33から径方向外向きに貫通するように内輪16の軸方向中央部に形成された径方向溝34に挿入されている。
【0030】
センタリングばね20の延出部32は、径方向溝34の径方向外端から突出しており、その延出部32の径方向溝34からの突出部分が、保持器19に形成された保持器溝35に挿入されている。径方向溝34と保持器溝35は同じ周方向幅をもつように形成されている。センタリングばね20の延出部32は、径方向溝34の内面と、保持器溝35の内面にそれぞれ接触しており、その接触部分に作用する周方向の力によって保持器19を解放位置に弾性保持している。
【0031】
図5図6に示すように、摩擦抵抗部材8は、保持器19の外周に沿う半円弧状の一対の摩擦リング30と、モータ36によって駆動されるウォーム37と、ウォーム37によって軸周りに回転するウォームホイール38と、ウォームホイール38とともに軸周りに回転する円板状のスイッチ板39と、ウォームホイール38(スイッチ板39)側に設けられた第一固定部40としてのスイッチ板突起(以下、第一固定部40と同じ符号を付する。)と、外輪17側に設けられた第二固定部41としてのピン(以下、第二固定部41と同じ符号を付する。)と、を有している。
【0032】
摩擦リング30の周方向の一端には径方向外向きに屈曲するスイッチ板突起係止部42が、他端には径方向外向きに巻回されたピン係止部43がそれぞれ形成されている。摩擦リング30の内周面には、必要に応じて保持器19の外周面との間の摩擦抵抗を向上させるための表面処理(コーティング膜形成処理や粗面化処理など)が施される。
【0033】
図2図6に示すように、ウォームホイール38は、ステアリングシャフト4と同一の軸上に配置されている。図3に示すように、内輪16の外周面とウォームホイール38の内周面との間には軸受44が設けられており、内輪16とウォームホイール38は軸周りに相対回転可能となっている。この軸受44は、内輪16の外周面に設けられたスペーサ45と止め輪46によって所定の軸方向位置に保持されている。
【0034】
図5に示すように、スイッチ板39の表面外周縁の周方向180度の対向2か所には、外輪17の端面に向かうようにスイッチ板突起40が形成されている。各スイッチ板突起40には、スリット状の隙間が形成されている。また、ピン41は、外輪17の軸方向端面の周方向180度の対向位置に、スイッチ板39に向かうように2か所設けられている。スイッチ板突起係止部42はスイッチ板突起40の隙間に挿入される一方で、ピン41はピン係止部43に挿入される。
【0035】
摩擦抵抗部材8の非動作時においては、スイッチ板突起40とピン41は図5に示す周方向位置関係となっている。このとき、保持器19の外周面と摩擦リング30の内周面との間に隙間が生じた状態となり、保持器19と摩擦リング30の間で摩擦が生じないようになっている。
【0036】
上記実施形態に係るステアリング装置の動作について説明する。摩擦抵抗部材8の非動作時においては、保持器19と摩擦リング30の間で摩擦が生じないため、センタリングばね20の作用によって保持器19は図4に示す解放位置に常に弾性保持されている。このとき、運転者は、ステアリングシャフト4、トーションバー15、および、内輪16を介して直結された反力モータ6からの反力を、ステアリングホイール1を通じて直接感知することができる。
【0037】
運転者によるステアリングホイール1の操作に伴って転舵部3の向きがその移動限界(ストロークエンド)に到達すると、摩擦抵抗部材8が動作して摩擦リング30と保持器19の間に摩擦抵抗を生じさせる。すなわち、モータ36によってウォーム37が駆動され、図7に示すように、このウォーム37によってウォームホイール38がスイッチ板39とともに軸周りに回転する(図7中の反時計回りの矢印を参照)。その一方で、ピン41は静止系である外輪17に固定されているため、スイッチ板突起40はピン41と離間するように周方向に相対移動する。このとき、摩擦リング30はピン41を支点として回転し、保持器19の外周面と摩擦リング30の内周面が接触して摩擦抵抗が生じる。
【0038】
この摩擦抵抗が生じた状態でステアリングホイール1がその移動限界の向きに操作されると、保持器19が摩擦リング30によって回り止めされているため、この保持器19に対して内輪16が相対回転する。すると、保持器19がセンタリングばね20の弾性力に抗して解放位置から係合位置に内輪16に対して周方向に相対移動し、内輪16の外周のカム面27と外輪17の内周の円筒面28との間に係合子18が係合した状態となって内輪16の回転が阻止され、ステアリングホイール1がロックされた状態となる。
【0039】
その一方で、操舵センサ5が、ステアリングホイール1がその移動限界の向きと逆方向に操作されたことを検知すると、モータ36によってウォーム37が逆方向に駆動され、ウォームホイール38およびスイッチ板39が軸周りの逆方向に回転する。すると、図5に示すように、摩擦リング30が保持器19から離れた状態となり、摩擦リング30と保持器19の間の摩擦抵抗が解消する。これにより、センタリングばね20の作用によって保持器19が内輪16に対して中立状態(解放位置)に戻るため、係合子18の係合が解除されて、ステアリングホイール1を自由に回転させることが可能となる。
【0040】
上記においては、ステアリングホイール1を一方向に回転させることで転舵部3の向きがその移動限界に到達した場合について説明したが、ステアリングホイール1を他方向に回転させることで移動限界に到達した場合も同様である。
【0041】
上記のステアリング装置においては、ステアリングホイール1を左右いずれの方向に回転させて転舵部3の向きが移動限界に到達した場合においても、共通の摩擦抵抗部材8で保持器19に対して摩擦抵抗を与えることができるため、部品コストを抑制することができる。
【0042】
また、上記のステアリング装置において採用したウォーム37とウォームホイール38を有する機構は逆効率が低く、ウォームホイール38側からウォーム37を動作させることは難しいという特性を有する。この特性を利用することによって、ウォーム37を駆動するモータ36への通電を停止した後も摩擦抵抗が生じた状態を維持することができ、その状態を維持するための電力消費を抑制することができる。さらに、イグニッションをオフ状態とするタイミングで摩擦抵抗部材8を作動させることにより、オフ状態とした後も摩擦抵抗状態を維持してハンドルロック機能をもたせることができる。
【0043】
上記のステアリング装置の変形例を図8に示す。このステアリング装置の基本構成は上記と同じであるが、ステアリングシャフト4とクラッチ機構7、摩擦抵抗部材8、および、反力モータ6とが異なる軸上に配置された上でギア47を介して動力伝達されている点で相違する。このようにすると、上記のステアリング装置と比較して、その軸方向長さをコンパクト化することが可能となる。
【0044】
上記のステアリング装置では、係合子18としてローラを例に挙げて説明したが、係合子18としてボールやスプラグを用いることも可能である。
【0045】
また、上記のステアリング装置では、ハウジング21と外輪17を別部材で構成したが、一体に構成することも可能である。
【0046】
また、上記のステアリング装置では、車両用のステアリング装置を例示したが、例えば、転舵部3として舵を備えた船舶用のステアリング装置に適用することも可能である。
【0047】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0048】
1 ステアリングホイール
2 転舵アクチュエータ
3 転舵部
4 ステアリングシャフト
5 操舵センサ
6 反力モータ
7 クラッチ機構
8 摩擦抵抗部材
16 内輪
17 外輪
18 係合子
19 保持器
20 センタリングばね
30 摩擦リング
37 ウォーム
38 ウォームホイール
40 第一固定部(スイッチ板突起)
41 第二固定部(ピン)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8