(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170841
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】立体組織構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20241204BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
C12N5/071
C12M3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087580
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】塚本 圭
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC02
4B029HA02
4B065AA90X
4B065BC46
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】機能的な構造の形成阻害、及び細胞の増殖阻害が低減され、厚みが長期間維持される立体組織構造体を提供すること。
【解決手段】細胞と、生体適合性分子を含有するマトリックスと、を含み、上記マトリックスは、上記細胞が分泌する物質による分解に対して耐性を有するものである、立体組織構造体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞と、生体適合性分子を含有するマトリックスと、を含み、
前記マトリックスは、前記細胞が分泌する物質による分解に対して耐性を有するものである、立体組織構造体。
【請求項2】
前記マトリックスが、前記細胞が分泌する物質による分解の阻害剤を含有する、請求項1に記載の立体組織構造体。
【請求項3】
前記生体適合性分子が、前記細胞が分泌する物質による分解に対して耐性を有するものである、請求項1に記載の立体組織構造体。
【請求項4】
前記マトリックスからなる1又は複数の第1の部分と、前記細胞を含む組織体からなる複数の第2の部分とを有し、
前記第2の部分は、それぞれ前記第1の部分を介して他の第2の部分と接するように配置されている、請求項1に記載の立体組織構造体。
【請求項5】
前記マトリックスは、液性因子を通過させ、前記細胞を通過させないものである、請求項1に記載の立体組織構造体。
【請求項6】
前記マトリックスの形態が、ハイドロゲル、ハイドロゲルファイバー、及びハイドロゲルフィルムからなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載の立体組織構造体。
【請求項7】
厚さが600μm以上である、請求項1に記載の立体組織構造体。
【請求項8】
細胞と、生体適合性分子を含有するマトリックス前駆体とを水性媒体中で混合した後、前記マトリックス前駆体からマトリックスを形成させる工程を含み、
前記マトリックスは、前記細胞が分泌する物質による分解に対して耐性を有するものである、立体組織構造体の製造方法。
【請求項9】
前記形成させたマトリックス中で前記細胞を培養する工程を更に含む、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
細胞を含有する組織体を複数用意する工程と、前記複数の組織体間において、生体適合性分子を含有するマトリックス前駆体からマトリックスを形成させる工程を備え、
前記マトリックスは、前記細胞が分泌する物質による分解に対して耐性を有するものである、立体組織構造体の製造方法。
【請求項11】
前記マトリックスが、前記細胞が分泌する物質による分解の阻害剤を含有する、請求項8又は10に記載の立体組織構造体の製造方法。
【請求項12】
前記生体適合性分子が、前記細胞が分泌する物質による分解に対して耐性を有するものである、請求項8又は10に記載の立体組織構造体の製造方法。
【請求項13】
前記マトリックスの形態が、ハイドロゲル、ハイドロゲルファイバー、及びハイドロゲルフィルムからなる群より選択される1種以上である、請求項8又は10に記載の立体組織構造体の製造方法。
【請求項14】
生体適合性分子を含有するマトリックスからなり、
前記マトリックスは、細胞が分泌する物質による分解に対して耐性を有するものである、立体組織構造体形成用ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体組織構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
立体組織構造体は、三次元的に細胞が配置された構造を有しており、生体組織モデルとして用いられている。立体組織構造体を製造する方法については、これまでにも種々の検討がなされている(例えば、特許文献1~2)。特許文献1には、形状が制御された三次元組織体を簡便に製造する方法が記載されており、具体的には断片化細胞外マトリックス成分、フィブリン及び水性媒体を含む培養液中で細胞を培養する培養工程を備える、三次元組織体の製造方法が記載されている。特許文献2には、細胞をカチオン性物質および細胞外マトリックス成分と混合して混合物を得るA工程と、得られた前記混合物から前記細胞を集め、基材上に細胞集合体を形成するB工程と、前記細胞を培養し、立体的細胞組織を得るC工程とを含む、立体的細胞組織を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公報第2020/203579号
【特許文献2】国際公開第2017/146124号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の立体組織構造体の製造方法では、複数種類の細胞を共培養しており、これにより立体組織構造体において血管、リンパ管等の構造的な特徴が形成若しくは維持できない、又は一部の細胞が増殖できない等の問題点があった。また、複数種類の細胞を共培養する方法で厚みのある立体組織構造体を製造した場合、厚みと培養期間が反比例するため、厚みが長期間維持されず、長期的な培養が難しかった。
【0005】
本発明は、機能的な構造の形成阻害、及び細胞の増殖阻害が低減され、厚みが長期間維持される立体組織構造体を提供することを目的とする。また、本発明は上記のような立体組織構造体を製造する方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、例えば以下の各発明を包含する。
[1]
細胞と、生体適合性分子を含有するマトリックスと、を含み、
上記マトリックスは、上記細胞が分泌する物質による分解に対して耐性を有するものである、立体組織構造体。
[2]
上記マトリックスが、上記細胞が分泌する物質による分解の阻害剤を含有する、[1]に記載の立体組織構造体。
[3]
上記生体適合性分子が、上記細胞が分泌する物質による分解に対して耐性を有するものである、[1]又は[2]に記載の立体組織構造体。
[4]
上記マトリックスからなる1又は複数の第1の部分と、上記細胞を含む組織体からなる複数の第2の部分とを有し、
上記第2の部分は、それぞれ上記第1の部分を介して他の第2の部分と接するように配置されている、[1]~[3]のいずれかに記載の立体組織構造体。
[5]
上記マトリックスは、液性因子を通過させ、上記細胞を通過させないものである、[1]~[4]のいずれかに記載の立体組織構造体。
[6]
上記マトリックスの形態が、ハイドロゲル、ハイドロゲルファイバー、及びハイドロゲルフィルムからなる群より選択される1種以上である、[1]~[5]のいずれかに記載の立体組織構造体。
[7]
厚さが600μm以上である、[1]~[6]のいずれかに記載の立体組織構造体。
[8]
細胞と、生体適合性分子を含有するマトリックス前駆体とを水性媒体中で混合した後、上記マトリックス前駆体からマトリックスを形成させる工程を含み、
上記マトリックスは、上記細胞が分泌する物質による分解に対して耐性を有するものである、立体組織構造体の製造方法。
[9]
上記形成させたマトリックス中で上記細胞を培養する工程を更に含む、[8]に記載の製造方法。
[10]
細胞を含有する組織体を複数用意する工程と、上記複数の組織体間において、生体適合性分子を含有するマトリックス前駆体からマトリックスを形成させる工程を備え、
上記マトリックスは、上記細胞が分泌する物質による分解に対して耐性を有するものである、立体組織構造体の製造方法。
[11]
上記マトリックスが、上記細胞が分泌する物質による分解の阻害剤を含有する、[8]~[10]のいずれかに記載の立体組織構造体の製造方法。
[12]
上記生体適合性分子が、上記細胞が分泌する物質による分解に対して耐性を有するものである、[8]~[11]のいずれかに記載の立体組織構造体の製造方法。
[13]
上記マトリックスの形態が、ハイドロゲル、ハイドロゲルファイバー、及びハイドロゲルフィルムからなる群より選択される1種以上である、[8]~[12]のいずれかに記載の立体組織構造体の製造方法。
[14]
生体適合性分子を含有するマトリックスからなり、
上記マトリックスは、細胞が分泌する物質による分解に対して耐性を有するものである、立体組織構造体形成用ユニット。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、機能的な構造の形成阻害、及び細胞の増殖阻害が低減され、厚みが長期間維持される立体組織構造体を提供することができる。また、本発明は上記のような立体組織構造体を製造する方法を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態に係る立体組織構造体の断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0010】
〔立体組織構造体〕
本明細書において、「生体適合性分子」とは、細胞の生育等に悪影響がなく、立体組織構造体の形成が妨げられない分子である。「マトリックス」とは、三次元網目構造が形成された構造体を意味する。
【0011】
本実施形態に係る立体組織構造体は、細胞と、生体適合性分子を含有するマトリックスとを含む。上記マトリックスは、上記細胞が分泌する物質による分解に対して耐性を有するものである。
【0012】
上記マトリックスは、細胞が分泌する物質による分解に対して耐性を有しているため、三次元網目構造を維持することができる。これにより、細胞又は細胞を含む組織体間の距離を適度に保つことができると共に、マトリックスを介した栄養成分(例えば、培養培地等)、酸素、老廃物等の移送を行うことができる。また、培養に伴う厚みの減少が小さくなる。そのため、機能的な構造の形成阻害、及び細胞の増殖阻害が低減され、厚みが長期間維持される立体組織構造体となる。
【0013】
本実施形態に係る立体組織構造体は、特に限定されないが、例えば生体組織モデル、固形がんモデルとして用いることができる。生体組織モデルとしては、例えば、皮膚、心臓、肝臓、胃、小腸、大腸、大静脈、大動脈等が挙げられる。固形がんモデルとしては、例えば、乳がん、胃がん、大腸がん、食道がん、肝がん、卵巣がん、前立腺がん、膵臓がん等が挙げられる。
【0014】
本実施形態に係る立体組織構造体を構成する細胞の総数は、特に限定されるものではなく、構築する立体組織構造体の厚み、形状、構築に使用する細胞培養容器の大きさ等を考慮して適宜決定される。
【0015】
本実施形態に係る立体組織構造体は、細胞を含む。立体組織構造体における細胞は、例えば、成熟した体細胞であってよく、幹細胞のような未分化な細胞であってもよい。体細胞の具体例としては、例えば、神経細胞、樹状細胞、免疫細胞、血管内皮細胞、リンパ管内皮細胞、線維芽細胞、上皮細胞、心筋細胞、膵島細胞、平滑筋細胞、骨細胞、肺胞上皮細胞、脾臓細胞等が挙げられる。幹細胞としては、ES細胞、iPS細胞、間葉系幹細胞等が挙げられる。他の細胞は、正常細胞であってもよく、がん細胞のようにいずれかの細胞機能が亢進又は抑制されている細胞であってもよい。「がん細胞」とは、体細胞から派生して無限の増殖能を獲得した細胞である。がん細胞としては、例えば、乳がん細胞、胃がん細胞、大腸がん細胞、食道がん細胞、肝がん細胞、卵巣がん細胞、前立腺がん細胞、膵臓がん細胞等が挙げられる。立体組織構造体に含まれる細胞は、1種類であってもよく、2種類以上を組み合わせてもよい。
【0016】
細胞は、間質細胞又はがん間質細胞を含んでいてよい。間質細胞は、上皮細胞の支持組織を構成する細胞である。がん間質細胞は、腫瘍組織においてがん細胞の支持組織を構成する細胞である。間質細胞には、繊維芽細胞、免疫細胞、周皮細胞、神経細胞、肥満細胞、上皮細胞、心筋細胞、肝細胞、膵島細胞、組織幹細胞、平滑筋細胞等が含まれる。がん間質細胞には、がん関連線維芽細胞(CAF)、腫瘍関連マクロファージ(TAM)、がん関連(周辺)内皮(血管)細胞(CAE)等が含まれる。
【0017】
立体組織構造体に含まれる細胞の由来は、特に限定されないが、例えば、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウシ、マウス、ラット等の哺乳類動物に由来する細胞であってよい。
【0018】
生体適合性分子を含有するマトリックス(以下、単に「マトリックス」ともいう。)は、上記細胞が分泌する物質による分解に耐性を有するものである。生体適合性分子としては、例えば、細胞外マトリックス成分、フィブリン、コラーゲン、ゼラチン、ヒアルロン酸、アルギン酸、ペクチン、キトサン、セルロース、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ヒドロキシアパタイト(HA)、β-リン酸三カルシウム(β-TCP)、アルギン酸、ゼラチンメタクリロイル等が挙げられる。生体適合性分子は、上述したもの1種からなるものであってよく、2種以上を組み合わせて含むものであってもよい。
【0019】
マトリックスの形態としては、例えば、ハイドロゲル、ハイドロゲルファイバー、ハイドロゲルフィルム等であってもよい。立体組織構造体に含まれるマトリックスの形態は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。立体組織構造体に含まれるマトリックスの形態は、ハイドロゲル、ハイドロゲルファイバー、及びハイドロゲルフィルムからなる群より選択される1種以上であることが好ましく、ハイドロゲル、及び/又はハイドロゲルファイバーであることも好ましい。
【0020】
「ハイドロゲル」とは、ポリマーが水素結合、イオン結合、配位結合、共有結合等により架橋して三次元網目構造が形成されたものであり、当該三次元網目構造の内部に水等の液体を含むものを意味する。ハイドロゲルとしては、フィブリンゲルが好ましい。フィブリンは、フィブリノゲンにトロンビンが作用してAα鎖、Bβ鎖のN末端からA鎖、B鎖を放出して生ずる成分である。フィブリンは、フィブリノゲンと、トロンビンとを接触させることにより形成される。
【0021】
「ハイドロゲルファイバー」とは、ハイドロゲルを溶解して得た溶液を紡糸した繊維を意味する。ハイドロゲル溶液を紡糸する方法としては、特に限定されないが、例えば、エレクトロスピニング法により紡糸することができる。上記マトリックスの形態が、ハイドロゲルファイバーである場合、上記マトリックスは、ハイドロゲルファイバー形成体であってもよい。「ハイドロゲルファイバー形成体」とは、ハイドロゲルファイバーで形成されたものを意味する。ハイドロゲルファイバー形成体としては、例えば、上述のハイドロゲルを溶解して紡糸したハイドロゲルファイバーで形成された不織布、織布等であってもよい。
【0022】
「ハイドロゲルフィルム」とは、ハイドロゲルで形成されたフィルムを意味する。ハイドロゲルフィルムを製造する方法としては、特に限定されないが、例えば、ハイドロゲルを溶解して得た溶液の膜を形成し、溶媒を除去する方法により製造することができる。
【0023】
「分解に対して耐性を有する」とは、マトリックスと細胞を共存させたときに、例えば、4日間以上の間、マトリックスの形状を維持できることであってよい。上記細胞が分泌する物質による分解に対して耐性を有するマトリックスとしては、例えば、細胞が分泌する物質による分解の阻害剤を更に含有するマトリックスであってもよく、細胞が分泌する物質による分解に対して耐性を有する生体適合性分子を含有するマトリックスであってもよい。
【0024】
細胞が分泌する物質のうち、上記マトリックスを分解し得る物質としては、例えば、加水分解酵素等の酵素等が挙げられる。酵素としては、例えば、プラスミン、プロテアーゼ(例えば、セリンプロテアーゼ、コラゲナーゼ等)等が挙げられる。
【0025】
マトリックスを分解する物質の阻害剤としては例えば、タンパク質分解酵素阻害剤等が挙げられる。タンパク質分解酵素阻害剤としては例えば、α2-アンチプラスミン、セリンプロテアーゼ(例えば、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ等)阻害剤、システインプロテアーゼ(例えば、パパイン、カテプシン、リソソームカテプシン等)阻害剤、アスパラギン酸プロテアーゼ(例えば、ペプチン、レニン等)阻害剤、メタロプロテアーゼ(例えば、サーモリシン、カルボキシペプチダーゼA等)阻害剤等が挙げられる。また、タンパク質分解酵素阻害剤は例えば、市販のプロテアーゼ阻害剤カクテル(例えば、Sigma社製、Roche社製等)であってもよい。
【0026】
マトリックス中の上記阻害剤の含有量は、例えば、マトリックスの質量を基準として、0.001質量%以上、0.005質量%以上、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、又は5質量%以上であってもよい。また、マトリックス中の上記阻害剤の含有量は、例えば、マトリックスの質量を基準として、10質量%以下、5質量%以下、1質量%以下、0.5質量%以下、0.1質量%以下、0.05質量%以下、又は0.01質量%以下であってもよい。
【0027】
細胞が分泌する物質による分解に対して耐性を有する生体適合性分子としては、例えば、上述した生体適合性分子に対して酵素によって分解される部位を改変したもの等が挙げられる。
【0028】
マトリックスは、細胞を含有していてもよく、含有していなくてもよい。マトリックスが細胞を含有する場合、当該細胞は、上述した細胞と同じ種類のものであってもよく、異なる種類のものであってもよい。マトリックスが細胞を含有する場合、含有する細胞は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0029】
マトリックスは液性因子(例えば、栄養成分、酸素、老廃物等)を通過させ、細胞を通過させないものであってもよい。
【0030】
液性因子(例えば、栄養成分、酸素、老廃物等)を通過させ、細胞を通過させないマトリックスとしては、例えば、マトリックスの網目の大きさが、1μm以上、2μm以上、3μm以上、4μm以上、又は5μm以上のものであってもよい。マトリックスの網目の大きさは、例えば、15μm以下、14μm以下、13μm以下、12μm以下、11μm以下、又は10μm以下のものであってもよい。
【0031】
マトリックスにおける生体適合性分子の含有量は、例えば、マトリックスの質量を基準として、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、又は90質量%以上であってもよい。マトリックスにおける生体適合性分子の含有量は、例えば、マトリックスの質量を基準として、100質量%以下、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下であってもよい。
【0032】
本実施形態に係る立体組織構造体は、上記マトリックスからなる1又は複数の第1の部分と、上記細胞を含む組織体からなる複数の第2の部分とを有し、上記第2の部分が、それぞれ上記第1の部分を介して他の第2の部分と接するように配置されているものであってもよい。
図1は、一実施形態に係る立体組織構造体の断面を示す模式図である。ここで、本明細書において「組織体」とは、細胞が三次元的に配置されている細胞集合体(塊状の細胞集団)であって、細胞培養によって人工的に作られる集合体を意味する。
【0033】
図1に示す立体組織構造体100は、第1の部分10と、複数の第2の部分20とを有し、第2の部分20はそれぞれ第1の部分10を介して他の第2の部分20に接するように配置されている。なお、
図1中、第1の部分及び第2部分は一部省略して示している。第1の部分10は上記マトリックスからなり、第2の部分20は細胞を含有する組織体からなる。この場合、第1の部分を介して液性因子(栄養成分、酸素、老廃物等)を移送することができるため、機能的な構造の形成阻害及び細胞の増殖阻害がより低減される。加えて、長期的な培養をしても厚さが維持された立体組織構造体を得ることができる。
【0034】
第1の部分10と、第2の部分20とは重力方向(
図1中のZ軸方向)に向かって交互に配置されていてもよく、奥行方向(
図1中のY軸方向)に向かって交互に配置されていてもよく、幅方向(
図1中のX軸方向)に向かって交互に配置されていてもよい。
【0035】
第1の部分10は上記マトリックスからなる。一実施形態に係る立体組織構造体において、第1の部分が複数である場合、例えば、2以上、4以上、6以上、8以上、10以上、20以上、30以上、40以上、又は50以上であってもよい。また、本実施形態に係る立体組織構造体において、第1の部分は、100以下、90以下、80以下、70以下、60以下、50以下、40以下、30以下、又は20以下であってもよい。
【0036】
第1の部分10の形状は特に制限はなく、例えば、球体状、略球体状、楕円体状、略楕円体状、半球状、略半球状、半円状、略半円状、多面体状等が挙げられ、多面体が好ましく、直方体状、略直方体状がより好ましい。
【0037】
第1の部分10は、
図1中、点線で囲われた部分のように第2の部分よりも体積の大きいものであってもよく、複数の第1の部分同士を接触させて形成したものであってもよい。また、立体組織構造体100において、第1の部分が重力方向、奥行方向、幅方向のいずれか又は全ての方向に一直線上に存在するように配置してもよい。その場合、立体組織構造体100において、第1の部分10からなる管腔様構造30を形成することができる。立体組織構造体100において、管腔様構造30を形成した場合、さらに液性因子(栄養成分、酸素、老廃物等)の通過性に優れる立体組織構造体となる。
【0038】
第2の部分20は、細胞を含有する組織体からなり、細胞は上述のとおりである。第2の部分20は、上記マトリックスを含有しないものが好ましい。組織体は、後述する細胞外マトリックス成分、及び/又は高分子電解質を含有していてもよい。
【0039】
組織体は、ハイドロゲルを含有していてもよい。なお、当該ハイドロゲルは、組織体における細胞が分泌する物質による分解に対して耐性を有していてもよく、有していなくてもよい。組織体がハイドロゲルを含有する場合、組織体がハイドロゲルに包埋されていてもよい。組織体がハイドロゲルに包埋されているとは、組織体の外部又は外部及び内部の細胞間隙の少なくとも一部若しくは全部にハイドロゲルが存在していることを意味する。
【0040】
一実施形態に係る組織体は、特に組織体の外部がハイドロゲルにより被覆され、組織体の内部は細胞が緻密に敷き詰められおり、細胞構造体の内部の細胞間隙にハイドロゲルが存在しない構成を有することができる。外部のみがハイドロゲルに被覆されることにより、三次元的な配置が維持され立体的構造を保つことができる。
【0041】
一実施形態に係る立体組織構造体において、第2の部分は、例えば、2以上、4以上、6以上、8以上、10以上、20以上、30以上、40以上、又は50以上であってもよい。また、本実施形態に係る立体組織構造体において、第2の部分は、100以下、90以下、80以下、70以下、60以下、50以下、40以下、30以下、又は20以下であってもよい。
【0042】
第2の部分20の形状は特に制限はなく、例えば、球体状、略球体状、楕円体状、略楕円体状、半球状、略半球状、半円状、略半円状、多面体状等が挙げられ、多面体が好ましく、直方体状、略直方体状がより好ましい。第2の部分の形状は、第1の部分10の形状と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0043】
立体組織構造体100において、第1の部分10と第2の部分20とは交互に接着していてもよい。第1の部分10におけるマトリックスの形態が、ハイドロゲル及び/又はハイドロゲルファイバーである場合、ゲル化前の第1の部分10と第2の部分20とを接触させた後に第1の部分10をゲル化させることで、第1の部分10と第2の部分20を接着させることができる。
【0044】
本実施形態に係る立体組織構造体は、細胞外マトリックス成分を含有していてもよい。細胞外マトリックス成分は、立体組織構造体における少なくとも一部の細胞の間に配置されていてもよい。
【0045】
本明細書において「細胞外マトリックス成分」とは、複数の細胞外マトリックス分子によって形成されている細胞外マトリックス分子の集合体である。細胞外マトリックス分子とは、生物において細胞の外に存在する物質を意味する。細胞外マトリックスとしては、細胞の生育及び細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、任意の物質を用いることができる。細胞外マトリックス分子の具体例としては、コラーゲン、エラスチン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ヒアルロン酸、ラミニン、ビトロネクチン、テネイシン、エンタクチン、フィブリリン及びカドヘリン等が挙げられるが、これらに限定されない。細胞外マトリックス成分は、これらの1種単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。
【0046】
細胞外マトリックスは、細胞の生育及び細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、上述の細胞外マトリックスの改変体及びバリアントであってもよく、化学合成ペプチド等のポリペプチドであってもよい。細胞外マトリックスは、コラーゲンに特徴的なGly-X-Yで表される配列の繰り返しを有するものであってよい。ここで、Glyはグリシン残基を表し、X及びYはそれぞれ独立に任意のアミノ酸残基を表す。複数のGly-XYは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。Gly-X-Yで示される配列の繰り返しを有することによって、分子鎖の配置への束縛が少なくなるため、例えば、細胞培養の際の足場材料としての機能がより一層優れたものとなる。Gly-X-Yで示される配列の繰り返しを有する細胞外マトリックスにおいて、Gly-X-Yで示される配列の割合は、全アミノ酸配列のうち、80%以上であってよく、好ましくは95%以上である。また、細胞外マトリックスは、RGD配列を有するポリペプチドであってもよい。RGD配列とは、Arg-Gly-Asp(アルギニン残基-グリシン残基-アスパラギン酸残基)で表される配列をいう。RGD配列を有することによって、細胞接着がより一層促進されるため、例えば、細胞培養の際の足場材料としてより一層好適なものとなる。Gly-X-Yで表される配列と、RGD配列とを含む細胞外マトリックスとしては、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、カドヘリン等が挙げられる。
【0047】
コラーゲンとしては、例えば、繊維性コラーゲン及び非繊維性コラーゲンが挙げられる。繊維性コラーゲンとは、コラーゲン繊維の主成分となるコラーゲンを意味し、具体的には、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン等が挙げられる。非繊維性コラーゲンとしては、例えば、IV型コラーゲンが挙げられる。
【0048】
プロテオグリカンとして、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、ケラタン硫酸プロテオグリカン、デルマタン硫酸プロテオグリカンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
細胞外マトリックス成分の形状としては、例えば、線維状が挙げられる。線維状とは、糸状の細胞外マトリックス成分で構成される形状、又は糸状の細胞外マトリックス成分が分子間で架橋して構成される形状を意味する。細胞外マトリックス成分の少なくとも一部は、線維状であってよい。細胞外マトリックス成分の形状は、顕微鏡観察した際に観察されるひとかたまりの細胞外マトリックス成分(細胞外マトリックス成分の集合体)の形状であり、細胞外マトリックス成分は、好適には後述する平均径及び/又は平均長の大きさを有するものである。繊維状の細胞外マトリックス成分には、複数の糸状細胞外マトリックス分子が集合して形成された細い糸状物(細線維)、細線維が更に集合して形成される糸状物、これらの糸状物を解繊したもの等が含まれる。形状が線維状である細胞外マトリックス成分を含むと、線維状の細胞外マトリックス成分ではRGD配列が破壊されることなく保存されており、細胞接着のための足場材としてより一層効果的に機能することができる。
【0050】
細胞外マトリックス成分は、コラーゲン、ラミニン及びフィブロネクチンからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてよく、コラーゲンを含むことが好ましい。コラーゲンは好ましくは繊維性コラーゲンであり、より好ましくはI型コラーゲンである。繊維性コラーゲンは、市販されているコラーゲンを用いてもよく、その具体例としては、日本ハム株式会社製のブタ皮膚由来I型コラーゲンが挙げられる。
【0051】
細胞外マトリックス成分は、動物由来の細胞外マトリックス成分であってよい。細胞外マトリックス成分の由来となる動物種として、例えば、ヒト、ブタ、ウシ等が挙げられるが、これらに限定されない。細胞外マトリックス成分は、一種類の動物に由来する成分を用いてもよいし、複数種の動物に由来する成分を併用して用いてもよい。
【0052】
細胞外マトリックス成分は、断片化細胞外マトリックス成分を含んでいてよい。「断片化」とは、細胞外マトリックス成分の集合体をより小さなサイズにすることを意味する。断片化細胞外マトリックス成分は、解繊された細胞外マトリックス成分を含んでもよい。解繊された細胞外マトリックス成分は、上述の細胞外マトリックス成分を物理的な力の印加により解繊した成分である。例えば、解繊は、細胞外マトリックス分子内の結合を切断しない条件で行われるものである。
【0053】
断片化細胞外マトリックス成分は、例えば、細胞外マトリックス成分を断片化する工程(断片化工程)を含む方法によって製造することができる。
【0054】
細胞外マトリックス成分を断片化する方法は、特に制限はなく、物理的な力の印加によって断片化してよい。物理的な力の印加によって断片化細胞外マトリックス成分は、酵素処理とは異なり、通常、分子構造は断片化する前とは変化しない(分子構造は維持されている。)。細胞外マトリックス成分を断片化する方法は、例えば、塊状の細胞外マトリックス成分を細かく砕く方法であってよい。細胞外マトリックス成分は、固相で断片化されてもよく、水性媒体中で断片化されてもよい。例えば、超音波式ホモジナイザー、撹拌式ホモジナイザー、及び高圧式ホモジナイザー等の物理的な力の印加によって細胞外マトリックス成分を断片化してもよい。撹拌式ホモジナイザーを用いる場合、細胞外マトリックス成分をそのままホモジナイズしてもよいし、生理食塩水等の水性媒体中でホモジナイズしてもよい。また、ホモジナイズする時間、回数等を調整することでミリメートルサイズ、ナノメートルサイズの断片化細胞外マトリックス成分を得ることも可能である。細胞外マトリックス成分を水性媒体中で断片化する場合、断片化細胞外マトリックス成分は、例えば、細胞外マトリックス成分を水性媒体中で断片化する工程と、断片化細胞外マトリックス成分及び水性媒体を含む液から水性媒体を除去する工程(除去工程)とを含む方法によって製造することができる。除去工程は、例えば、凍結乾燥法により実施してよい。「水性媒体を除去する」とは、断片化細胞外マトリックス成分中に一切の水分が付着していないことを意味するものではなく、上述の一般的な乾燥手法により、常識的に達することができる程度に水分が付着していないことを意味する。
【0055】
断片化細胞外マトリックス成分の直径及び長さは、電子顕微鏡によって個々の断片化細胞外マトリックス成分を解析することによって求めることが可能である。
【0056】
断片化細胞外マトリックス成分の平均長は、100nm以上400μm以下であってよく、100nm以上200μm以下であってよい。一実施形態において、断片化細胞外マトリックス成分の平均長は、厚い立体組織構造体が形成しやすくなる観点から、5μm以上400μm以下であってよく、10μm以上400μm以下であってよく、100μm以上400μm以下であってよい。他の実施形態において、断片化細胞外マトリックス成分の平均長は、100μm以下であってよく、50μm以下であってよく、30μm以下であってよく、15μm以下であってよく、10μm以下であってよく、1μm以下であってよく、100nm以上であってよい。断片化細胞外マトリックス成分全体のうち、大部分の断片化細胞外マトリックス成分の平均長が上記数値範囲内であることが好ましい。具体的には、断片化細胞外マトリックス成分全体のうち、50%以上の断片化細胞外マトリックス成分の平均長が上記数値範囲内であることが好ましく、95%の断片化細胞外マトリックス成分の平均長が上記数値範囲内であることがより好ましい。断片化細胞外マトリックス成分は、平均長が上記範囲内である断片化されたコラーゲン成分であることが好ましい。
【0057】
断片化細胞外マトリックス成分の平均径は、50nm~30μmであってよく、4μm~30μmであってよく、5μm~30μmであってよい。断片化細胞外マトリックス成分は、平均径が上記範囲内である断片化されたコラーゲン成分であることが好ましい。
【0058】
断片化細胞外マトリックス成分の平均長及び平均径は、光学顕微鏡等によって個々の断片化細胞外マトリックス成分を測定し、画像解析することによって求めることが可能である。本明細書において、「平均長」は、測定した試料の長手方向の長さの平均値を意味し、「平均径」は、測定した試料の長手方向に直交する方向の長さの平均値を意味する。
【0059】
断片化されたコラーゲン成分は「断片化コラーゲン成分」とも称される。「断片化コラーゲン成分」とは、線維性コラーゲン成分等のコラーゲン成分を断片化したものであって、三重らせん構造を維持しているものを意味する。断片化コラーゲン成分の平均長は、100nm~200μmであることが好ましく、22μm~200μmであることがより好ましく、100μm~200μmであることがさらにより好ましい。断片化コラーゲン成分の平均径は、50nm~30μmであることが好ましく、4μm~30μmであることがより好ましく、20μm~30μmであることがさらにより好ましい。
【0060】
細胞外マトリックス成分の少なくとも一部は分子間又は分子内で架橋されていてよい。細胞外マトリックス成分は、細胞外マトリックス成分を構成する細胞外マトリックス分子の分子内又は分子間で架橋されていてよい。細胞外マトリックス成分が断片化細胞外マトリックス成分を含む場合、断片化細胞外マトリックス成分の少なくとも一部が分子間又は分子内で架橋されていてよい。
【0061】
少なくとも一部が分子間又は分子内で架橋された細胞外マトリックス成分は、例えば、細胞外マトリックス成分を架橋する工程(架橋工程)を含む方法によって製造することができる。細胞外マトリックス成分は、例えば、断片化及び架橋された細胞外マトリックス成分を含むことができる。断片化及び架橋された細胞外マトリックス成分は、例えば、細胞外マトリックス成分を断片化する工程と、断片化細胞外マトリックス成分を架橋する工程とをこの順に備える方法、又は、細胞外マトリックス成分を架橋する工程と、架橋された細胞外マトリックス成分を断片化する工程とをこの順に備える方法によって製造することができる。
【0062】
架橋する方法としては、例えば、熱、紫外線、放射線等の印加による物理架橋、架橋剤、酵素反応等による化学架橋等による方法が挙げられるが、その方法は特に限定されない。細胞の生育を妨げない観点からは、物理架橋が好ましい。架橋(物理架橋及び化学架橋)は、共有結合を介した架橋であってよい。
【0063】
細胞外マトリックス成分がコラーゲン成分を含む場合、架橋は、コラーゲン分子(三重らせん構造)の間で形成されていてもよく、コラーゲン分子によって形成されたコラーゲン細繊維の間で形成されていてもよい。架橋は、熱による架橋(熱架橋)であってよい。熱架橋は、例えば、真空ポンプを使って減圧下で、加熱処理を行うことにより実施することができる。コラーゲン成分の熱架橋を行う場合、細胞外マトリックス成分は、コラーゲン分子のアミノ基が、同一又は他のコラーゲン分子のカルボキシ基とペプチド結合(-NH-CO-)を形成することにより、架橋されていてよい。
【0064】
細胞外マトリックス成分は架橋剤を使用することによっても、架橋させることができる。架橋剤は、例えば、カルボキシル基とアミノ基を架橋可能なもの、又はアミノ基同士を架橋可能なものであってよい。架橋剤としては、例えば、アルデヒド系、カルボジイミド系、エポキシド系及びイミダゾール系架橋剤が経済性、安全性及び操作性の観点から好ましく、具体的には、グルタルアルデヒド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド・塩酸塩、1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリニル-4-エチル)カルボジイミド・スルホン酸塩等の水溶性カルボジイミドを挙げることができる。
【0065】
架橋度の定量は、細胞外マトリックス成分の種類、架橋する手段等に応じて、適宜選択することができる。架橋度は、1%以上、2%以上、4%以上、8%以上、又は12%以上であってよく、30%以下、20%以下、又は15%以下であってもよい。架橋度が上記範囲にあることにより、細胞外マトリックス分子が適度に分散することができ、また、乾燥保存後の再分散性が良好である。
【0066】
細胞外マトリックス成分中のアミノ基が架橋に使用される場合、架橋度は、Acta Biomaterialia,2015,vol.25,pp.131-142等に記載されているTNBS(2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸)法に基づき定量することが可能である。TNBS法による架橋度が、上述の範囲内であってもよい。TNBS法による架橋度は、細胞外マトリックスが有するアミノ基のうち架橋に使われているアミノ基の割合である。細胞外マトリックス成分がコラーゲン成分を含む場合、TNBS法により測定される架橋度が上記範囲内であることが好ましい。
【0067】
架橋度は、カルボキシル基を定量することにより、算出してもよい。例えば、水に不溶性の細胞外マトリックス成分の場合、TBO(トルイジンブルーO)法により定量してもよい。TBO法による架橋度が、上述した範囲内であってもよい。
【0068】
架橋する工程において、細胞外マトリックス成分を加熱する際の温度(加熱温度)及び時間(加熱時間)は適宜定めることができる。加熱温度は、例えば100℃以上であってよく、200℃以下であってよく、220℃以下であってよい。加熱温度は、具体的には、例えば、100℃、110℃、120℃、130℃、140℃、150℃、160℃、170℃、180℃、190℃、200℃、又は220℃等であってよい。加熱時間(上記加熱温度で保持する時間)は、加熱温度により適宜設定することができる。加熱時間は、例えば、100℃~200℃で加熱する場合、6時間以上72時間以下であってよく、より好ましくは24時間以上48時間以下である。架橋する工程では、溶媒非存在下で加熱してよく、また、減圧条件下で加熱してもよい。
【0069】
立体組織構造体における細胞外マトリックス成分の含有量は、立体組織構造体の乾燥重量を基準として、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、5質量%以上、6質量%以上、7質量%以上、8質量%以上、9質量%以上、10質量%、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、又は30質量%以上であってよく、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、又は15質量%以下であってよい。立体組織構造体における細胞外マトリックス成分の含有量は、立体組織構造体の乾燥重量を基準として、0.01~90質量%であってよく、10~90質量%、10~80質量%、10~70質量%、10~60質量%、1~50質量%、10~50質量%、10~30質量%、又は20~30質量%であってよい。
【0070】
立体組織構造体中に占めるコラーゲン成分を、その面積比又は体積比によって規定してもよい。「面積比又は体積比によって規定する」とは、例えば立体組織構造体中のコラーゲン成分を既知の染色手法(例えば、抗コラーゲン抗体を用いた免疫染色、又はマッソントリクローム染色)等で他の組織構成物と区別可能な状態にした上で、肉眼観察、各種顕微鏡及び画像解析ソフト等を用いて、立体組織構造体全体に占めるコラーゲン成分の存在領域の比率を算出することを意味する。面積比で規定する場合、立体組織構造体中の如何なる断面もしくは表面によって面積比を規定するかは限定されないが、例えば立体組織構造体が球状体等である場合には、その略中心部を通る断面図によって規定してもよい。
【0071】
例えば、立体組織構造体中のコラーゲン成分を面積比によって規定する場合、その面積の割合は、上記立体組織構造体の全体の面積を基準として、通常0.01~99%であり、1~99%、5~90%、7~90%、20~90%、30~90%、又は50~90%であってよい。コラーゲン成分の面積の割合は、例えば、得られた立体組織構造体をマッソントリクロームで染色し、立体組織構造体の略中心部を通る断面の全体の面積に対する、青く染色したコラーゲン成分の面積の割合として算出することが可能である。
【0072】
立体組織構造体は、高分子電解質を含有していてもよい。高分子電解質は、電解質の性質を有する高分子化合物である。高分子電解質としては、ヘパリン、コンドロイチン硫酸(例えば、コンドロイチン4-硫酸、コンドロイチン6-硫酸)、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヒアルロン酸等のグリコサミノグリカン;デキストラン硫酸、ラムナン硫酸、フコイダン、カラギナン、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、及びポリアクリル酸、又はこれらの誘導体等が挙げられるが、これらに限定されない。高分子電解質は、上述したもの1種からなるものであってよく、2種以上を組み合わせて含むものであってもよい。
【0073】
高分子電解質はグリコサミノグリカンが好ましく、ヘパリン、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、及びデルマタン硫酸からなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、ヘパリンを含むことが更に好ましい。立体組織構造体が高分子電解質を含む場合、細胞外マトリックス成分の過度な凝集をより効果的に抑制することができ、結果として、所望の立体組織構造体がより得られやすくなる。立体組織構造体がヘパリンを含む場合、当該効果はより一層顕著なものとなる。
【0074】
細胞外マトリックス成分の質量C1に対する、高分子電解質の質量C2の比(C2/C1)は、1/100~100/1、1/10~10/1、1/5~5/1又は1/2~2/1であってよく、1/1.5~1.5/1であってよい。
【0075】
本実施形態に係る立体組織構造体の厚さは、10μm以上、30μm以上、50μm以上、100μm以上、300μm以上、600μm以上、又は1000μm以上であってよい。このような立体組織構造体は、生体組織により近い構造であり、実験動物の代替品、及び移植材料として好適なものとなる。立体組織構造体の厚さの上限は、特に制限されないが、例えば、10mm以下、3mm以下、2mm以下、1.5mm以下、又は1mm以下であってもよい。
【0076】
ここで、「立体組織構造体の厚さ」とは、立体組織構造体が直方体状である場合、主面に垂直な方向における両端の距離を意味する。上記主面に凹凸がある場合、厚さは上記主面の最も薄い部分における距離を意味する。
【0077】
立体組織構造体が球体状又は略球体状である場合、立体組織構造体の厚さは、立体組織構造体の直径を意味する。立体組織構造体が楕円体状又は略楕円体状である場合、立体組織構造体の厚さは、立体組織構造体の短径を意味する。立体組織構造体が略球体状又は略楕円体状であって表面に凹凸がある場合、立体組織構造体の厚さは、立体組織構造体の重心を通る直線と上記表面とが交差する2点間の距離であって最短の距離を意味する。
【0078】
本実施形態に係る立体組織構造体は、細胞培養容器中に構築される。当該細胞培養容器としては、立体組織構造体の構築が可能であり、かつ構築された立体組織構造体の培養が可能な容器であれば特に限定されるものではない。当該細胞培養容器としては、具体的には、ディッシュ、セルカルチャーインサート(例えば、Transwell(登録商標)インサート、Netwell(登録商標)インサート、Falcon(登録商標)セルカルチャーインサート、Millicell(登録商標)セルカルチャーインサート等)、チューブ、フラスコ、ボトル、プレート等が挙げられる。立体組織構造体の構築においては、当該立体組織構造体を用いた評価をより適正に行うことができる観点から、ディッシュ又は各種セルカルチャーインサートが好ましい。
【0079】
〔立体組織構造体の製造方法〕
一実施形態に係る立体組織構造体の製造方法は、細胞と、生体適合性分子を含有するマトリックス前駆体(以下、単に「マトリックス前駆体」ともいう。)とを水性媒体中で混合した後、上記マトリックス前駆体からマトリックスを形成させる工程(形成工程A)を含む。細胞は、上述のとおりである。
【0080】
生体適合性分子を含有するマトリックス前駆体とは、生体適合性分子を含有するマトリックスを形成させることができる物質であり、マトリックスを形成していない状態の物質を意味する。生体適合性分子を含有するマトリックスとしては上述のものが挙げられ、マトリックス前駆体としては、マトリックスを形成していない状態の上記生体適合性分子が挙げられる。
【0081】
水性媒体中のマトリックス前駆体濃度は、水性媒体の全量を基準として、0.1mg/mL以上、0.2mg/mL以上、0.3mg/mL以上、0.4mg/mL以上、0.5mg/mL以上、0.6mg/mL以上、0.7mg/mL以上、0.8mg/mL以上、0.9mg/mL以上、又は1.0mg/mL以上であってよい。水性媒体中のマトリックス前駆体濃度は、水性媒体の全量を基準として、10.0mg/mL以下、8.0mg/mL以下、6.0mg/mL以下、5.0mg/mL以下、3.0mg/mL以下、1.0mg/mL以下、0.8mg/mL以下、又は0.6mg/mL以下であってよい。
【0082】
例えば、フィブリノゲン及びトロンビンの組み合わせのように、マトリックス前駆体が2種以上の物質を含む場合、細胞及びマトリックス前駆体を含む水性媒体は、例えば、細胞及び第1のマトリックス前駆体(例えば、トロンビン)を含む第1の水性媒体と、第2のマトリックス前駆体(例えば、フィブリノゲン)を含む第2の水性媒体とを混合することにより、得てもよい。なお、第2の水性媒体が細胞を含んでいてもよいし、第1の水性媒体及び第2の水性媒体の双方が細胞を含んでいてもよい。
【0083】
形成工程Aにおいて、細胞が分泌する物質による分解の阻害剤を含有するマトリックスを形成する場合は、細胞と、マトリックス前駆体と、更に上記阻害剤とを混合した後に、マトリックスを形成してもよい。細胞が分泌する物質による分解の阻害剤は、上述のとおりである。
【0084】
「水性媒体」とは、水を必須構成成分とする液体を意味する。水性媒体としては、例えば、カチオン性物質を含む水性媒体であってよい。カチオン性物質を含む水性媒体は、例えば、トリス-塩酸緩衝液、トリス-マレイン酸緩衝液、ビス-トリス-緩衝液、又はHEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)等のカチオン性緩衝液であってよく、カチオン性物質としてエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリリシン、ポリヒスチジン、ポリアルギニン等のカチオン性化合物と水とを含む媒体であってもよい。また、上記水性媒体としては、培地を用いることもできる。培地としては、例えばDulbecco’s Modified Eagle培地(DMEM)等の液体培地が挙げられる。液体培地は、二種類の培地を混合した混合培地であってもよい。
【0085】
カチオン性物質を含む水性媒体におけるカチオン性物質(例えば、トリス-塩酸緩衝液におけるトリス)の濃度及びpHは、細胞の生育及び立体組織構造体の構築に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。例えば、カチオン性物質の濃度は、カチオン性物質を含む水性媒体の全量を基準として、10~100mM、又は40~70mMであってよく、50mMであってよい。水性媒体(例えば、カチオン性緩衝液)のpHは、6.0~8.0、6.8~7.8、又は7.2~7.6であってよい。
【0086】
例えば、マトリックスの形態がハイドロゲル、ハイドロゲルファイバー、又はハイドロゲルフィルムである場合、「マトリックスを形成させる」とはゲル化させることであってもよい。
【0087】
マトリックスの形成は、一定時間インキュベートすることを含んでいてよい。
【0088】
形成工程Aにおける水性媒体の細胞密度は、目的とする立体組織構造体の形状、厚さ等に応じて適宜決定できる。例えば、形成工程Aにおける培地中の細胞密度は、1~108cells/mLであってよく、103~107cells/mLであってよい。
【0089】
マトリックスの形成は、更に細胞外マトリックス成分を混合した後に行ってもよい。細胞外マトリックス成分は、上述のとおりである。
【0090】
一実施形態に係る立体組織構造体の製造方法は、マトリックスを形成する際、細胞外マトリックス成分及びカチオン性物質を含む水性媒体に細胞を事前に一度懸濁し、当該水性媒体を除去した後に、マトリックス前駆体を含む水性媒体に再懸濁しマトリックスを形成してもよい。当該工程を行った場合、マトリックスの内部で細胞が相互に集積しやすくなる。
【0091】
マトリックスの形成は、更に高分子電解質を混合した後行ってもよい。高分子電解質としては、上述したものを使用することができる。
【0092】
一実施形態に係る立体組織構造体の製造方法は、マトリックスを形成する際、細胞外マトリックス成分、高分子電解質、カチオン性物質を含む水性媒体に細胞を事前に一度懸濁し、当該水性媒体を除去した後に、マトリックス前駆体を含む水性媒体に再懸濁しマトリックスを形成してもよい。当該工程を行った場合、マトリックスの内部で細胞が相互に集積しやすくなる。
【0093】
本実施形態に係る立体組織構造体の製造方法は、形成させたマトリックス中で上記細胞を培養する工程(培養工程)を更に含んでいてもよい。培養工程を更に含むことにより、細胞及び上記マトリックスを含有する立体組織構造体を製造することができる。培養は、例えば、細胞を含有するマトリックスに培地を添加して行うことができる。
【0094】
培養工程において用いる培地としては、細胞の種類によって適宜選択することができ、例えば、Eagle’s MEM培地、Dulbecco’s Modified Eagle培地(DMEM)、Modified Eagle培地(MEM)、Minimum Essential培地、RPMI、及びGlutaMax培地、血管内皮細胞専用培地(EGM2)等が挙げられる。培地は、血清を添加した培地であってもよいし、無血清培地であってもよい。培地は、成長因子を添加した培地であってもよい。培地は、二種類の培地を混合した混合培地であってもよい。
【0095】
培養工程における培養温度は、例えば、20℃~40℃であってもよく、30℃~37℃であってもよい。培地のpHは、6~8であってもよく、7.2~7.4であってもよい。培養時間は、1日~2週間であってもよく、1週間~2週間であってもよい。
【0096】
培養器(支持体)は、特に制限されず、例えば、ディッシュ、ウェルインサート、低接着プレート、U字、V字等の底面形状を有するプレートであってよい。上記細胞を支持体と接着させたまま培養してもよく、上記細胞を支持体と接着させずに培養してもよく、培養の途中で支持体から引き離して培養してもよい。上記細胞を支持体と接着させずに培養する場合、又は培養の途中で支持体から引き離して培養する場合には、細胞の支持体への接着を阻害するU字、V字等の底面形状を有するプレート、又は低吸着プレートを用いることが好ましい。
【0097】
培養工程における培地中の細胞密度は、目的とする立体組織構造体の形状、厚さ、培養器のサイズ等に応じて適宜決定できる。例えば、培養工程における培地中の細胞密度は、1~108cells/mLであってよく、103~107cells/mLであってよい。また、培養工程における培地中の細胞密度は、形成工程における水性媒体中の細胞密度と同じであってもよい。
【0098】
一実施形態に係る立体組織構造体の製造方法は、細胞を含有する組織体を複数用意する工程(用意工程)と、上記複数の組織体間に、生体適合性分子を含有するマトリックス前駆体からマトリックスを形成させる工程(形成工程B)を備える。上記マトリックスは、上述のとおりである。当該方法により、
図1中の立体組織構造体100のような立体組織構造体を製造することができる。
【0099】
用意工程は、複数の組織体を形成し用意する工程であり、用意工程によって上記第2の部分を作製することができる。用意工程において、組織体を形成する方法は、特に限定されず、当業者にとって周知の方法により行うことができる。用意工程は、培地中で細胞を培養することを含んでいてもよい。培地中での細胞の培養は、上述の培養工程と同様にすることができる。
【0100】
用意工程は、細胞の培養前に細胞と細胞外マトリックス成分、及び/又は高分子電解質とを接触させることを含んでもよい。この場合、上記培養することは、当該細胞外マトリックス成分、及び/又は高分子電解質と接触させた細胞を培養する。
【0101】
用意工程において、細胞と細胞外マトリックス成分、及び/又は高分子電解質とを接触させることの後、細胞を培養することの前に、細胞をハイドロゲルに包埋することを含んでいてもよい。ハイドロゲルに包埋することは、例えば、細胞及びゲル化前のハイドロゲルを含む組成物を調製し、当該組成物をゲル化させることにより行うことができる。細胞及びハイドロゲル形成物質を含む組成物のゲル化は、上記水性媒体中で行ってもよい。なお、当該ハイドロゲルは、組織体における細胞が分泌する物質による分解に対して耐性を有していないものである。細胞をハイドロゲルに包埋させることにより、立体的構造の有する組織体を形成することができる。
【0102】
細胞をハイドロゲルに包埋する場合、細胞及びゲル化前のハイドロゲルを含む組成物が、上述の細胞外マトリックス成分及び/又は高分子電解質を含んでいてもよい。
【0103】
形成工程Bは、用意工程において用意した複数の組織間にマトリックスを形成する。形成工程Bを行うことで、用意工程において用意した複数の組織体を接続して組み立てることができ、第2の部分と第1の部分が交互に接した立体組織構造体を製造することができる。
【0104】
形成工程Bは、例えば、複数の組織体を、マトリックス前駆体を介して接触させた状態で、マトリックス前駆体からマトリックスを形成することにより行うことができる。また、一方の組織体に接するマトリックスを形成したのち、当該マトリックスと組織体とをマトリックス前駆体を介して接触させた状態で、マトリックス前駆体からマトリックスを形成することにより行ってもよい。マトリックスの形態が、ハイドロゲル及び/又はハイドロゲファイバーである場合、「マトリックスを形成させる」とは、ゲル化させることを意味していてもよい。
【0105】
形成工程Bにおけるマトリックスの形成は、形成工程Aと同様に行うことができ、例えば、マトリックス前駆体を含有する水性媒体を調製し、当該水性媒体中でマトリックス前駆体からマトリックスを形成させることができる。
【0106】
〔立体組織構造体形成用ユニット〕
上述したマトリックスは、本発明に係る立体組織構造体の形成のために好適に使用することができる。そこで、本発明の一実施形態として、生体適合性分子を含有するマトリックスからなり、当該マトリックスは、細胞が分泌する物質による分解に対して耐性を有するものである、立体組織構造体形成用ユニットが提供される。
【0107】
一実施形態に係る立体組織構造体形成用ユニットは、例えば、細胞を含有する組織体と交互に接続しながら組み立てることで、立体組織構造体を形成するように使用することができる。したがって、立体組織構造体形成用ユニットは、立体組織構造体形成用支持材と捉えることもできる。
【実施例0108】
以下、実施例に基づき本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0109】
立体組織構造体の製造において用いた細胞、試薬及び作製方法は以下の表1~6とおりである。
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
[試験例1:立体組織構造体における長期培養性能の比較]
<比較例1:三次元培養による立体組織構造体の製造>
組織体1を構成する細胞腫であるNHDF及びHUVECそれぞれ1.2×107細胞を、0.05mg/mLのヘパリンを溶解させた50mM トリス-塩酸緩衝(pH7.4)溶液、及びコラーゲンを溶解させた50mM トリス-塩酸緩衝(pH7.4)溶液の混合溶液(混合比1:1(v/v))に懸濁した。当該懸濁液を、室温、1000×gで1分間遠心後、上清を取り除いた。次いで、汎用培地を添加して沈殿させた細胞を懸濁した。その後、得られた懸濁液を、トランズウェルカルチャーインサートに添加して培養し、三次元培養による立体組織構造体を得た。細胞の培養を開始してから7,14,21及び28日目に下記式から細胞回収率を算出した。なお。培養期間中、1週間に2回の頻度(3日間で1回、及び4日間で1回)で培地交換を行った。
細胞回収率(%)=測定日の生細胞数/投入した細胞数×100
【0117】
<実施例1:本発明の一実施形態に係る立体組織構造体の製造>
(1.組織体の製造)
組織体1を構成する細胞腫であるNHDF及びHUVECそれぞれ1.2×107細胞を、0.05mg/mLのヘパリンを溶解させた50mM トリス-塩酸緩衝(pH7.4)溶液、及びコラーゲンを溶解させた50mM トリス-塩酸緩衝(pH7.4)溶液の混合溶液(混合比1:1(v/v))に懸濁した。当該懸濁液を、室温、1000×gで1分間遠心後、上清を取り除いた。次いで、汎用培地を添加して沈殿させた細胞を懸濁した。得られた懸濁液と、DMEMを用いて調製した10mg/mL フィブリンノゲン溶液とを1:1(v/v)の割合で混合して混合液を得た。得られた混合液と、DMEMを用いて調製した10Unit/mL トロンビン溶液とを2:1(v/v)の割合で混合して細胞懸濁液を得た。第1容器を第2容器の上に置き、第1容器内に細胞懸濁液150μLを播種した。CO2インキュベーター(37℃、5%CO2)内で細胞懸濁液がゲル化するまで静置した。適量の専用培地を第1容器内側と第2容器に加えた後、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2)にて3日間培養して組織体1を得た。同様の方法で、合計6個の組織体1を得た。
【0118】
(2.本発明の一実施形態に係る立体組織構造体の製造)
以下の手順で6個の組織体1がそれぞれマトリックス(トロンビン/フィブリノゲン/α2-アンチプラスミン混合溶液がゲル化したハイドロゲル)を介して横×縦:2×3で接着された立体組織構造体を製造した。
(i)第1容器から1個の組織体1(第1の組織体1)を取り出し、積層したい面に3.3Unit/mL トロンビン、20mg/mL フィブリノゲン、及び100μg/mL α2-アンチプラスミン混合溶液(以下、「トロンビン/フィブリノゲン/α2-アンチプラスミン混合溶液」ともいう。)を20μL添加して、ゲル化するまで静置し、積層したい面がゲルで被覆された組織体1を得た。
(ii)ゲル化後、他の組織体1を接着させたい面(ゲルで被覆された面の一部又は全部)にトロンビン/フィブリノゲン/α2-アンチプラスミン混合溶液を20μL添加した。
(iii)次いで、第1の容器から別の1個の組織体1(第2の組織体1)を取り出し、(ii)でトロンビン/フィブリノゲン/α2-アンチプラスミン混合溶液を添加した面に取り出した組織体1(第2の組織体1)を載せて、ゲル化するまで静置して、第1の組織体1と第2の組織体1とがマトリックス(トロンビン/フィブリノゲン/α2-アンチプラスミン混合溶液がゲル化したハイドロゲル)を介して接着された立体組織構造体を得た。
(iv)次いで、(iii)で得られた立体組織構造体中の第2の組織体1の積層したい面(第1の組織体1と接着している面以外の部分の一部又は全部)にトロンビン/フィブリノゲン/α2-アンチプラスミン混合溶液20μLを添加してゲル化するまで静置し、第2の組織体1の積層したい面がゲルで被覆されたものを得た。
(v)上記(ii)~(iv)を繰り返し、6個の組織体1がそれぞれマトリックスを介して横×縦:2×3で接着された立体組織構造体を得た。
次いで、得られた実施例1の立体組織構造体を汎用培地中で25日間培養し、細胞の培養を開始してから7,14,21及び28日目(組織体の製造に要した3日間の培養期間を含む。)に比較例1と同様に細胞回収率を算出した。
【0119】
<実施例2:本発明の一実施形態に係る立体組織構造体の製造>
(1.フィブリンファイバーの作製)
3.3Unit/mL トロンビン及び20mg/mL フィブリノゲン含有溶液100mLをゲル化させてフィブリンゲルを得た。得られたフィブリンゲルに、20mLのヘキサフルオロイソプロパノールを添加して、フィブリン溶液を得た。次に、得られたフィブリン溶液を、エレクトロスピニング装置を用いて下記条件で繊維化し、フィブリンファイバーの不織布を製造した。
金属製ノズル:内径0.2mm、長さ1cmのステンレス製ノズル
直流電流:20kV
噴出速度:4.4mL/分
【0120】
(2.組織体の製造)
実施例1の(1.組織体の製造)と同様にして合計6個の組織体1を得た。
【0121】
(3.本発明の一実施形態に係る立体組織構造体の製造)
以下の手順で6個の組織体1がそれぞれマトリックス(上記不織布内にトロンビン/フィブリノゲン/α2-アンチプラスミン混合溶液がゲル化したハイドロゲルを含むもの。)を介して横×縦:2×3で接着された立体組織構造体を製造した。
(i)第1容器から1個の組織体1(第1の組織体1)を取り出す。
(ii)第1の組織体1の積層したい面にトロンビン/フィブリノゲン/α2-アンチプラスミン混合溶液を20μL添加する。
(iii)他の組織体1を接着させたい面(トロンビン/フィブリノゲン/α2-アンチプラスミン混合溶液を添加した面の一部又は全部)にフィブリンファイバーの不織布を載せ、トロンビン/フィブリノゲン/α2-アンチプラスミン混合溶液がゲル化するまで静置した。
(iv)(iii)で載せた不織布にトロンビン/フィブリノゲン/α2-アンチプラスミン混合溶液を20μL添加する。
(v)次いで、第1の容器から別の1個の組織体1(第2の組織体1)を取り出し、(iv)でトロンビン/フィブリノゲン/α2-アンチプラスミン混合溶液を添加した不織布に取り出した組織体1(第2の組織体1)を載せて、ゲル化するまで静置して、第1の組織体1と第2の組織体1とがマトリックス(上記不織布内にトロンビン/フィブリノゲン/α2-アンチプラスミン混合溶液がゲル化したハイドロゲルを含むもの。)を介して接着された立体組織構造体を得た。
(vi)上記(ii)~(v)の手順を繰り返し、6個の組織体1がそれぞれマトリックスを介して横×縦:2×3で接着された立体組織構造体を得た。
得られた実施例2の立体組織構造体を汎用培地中で25日間培養し、細胞の培養を開始してから7,14,21及び28日目(組織体の製造に要した3日間の培養期間を含む。)に比較例1と同様に細胞回収率を算出した。
【0122】
<立体組織構造体の長期培養性能の比較>
比較例1、実施例1~2の立体組織構造体において算出した細胞回収率を比較した。その結果を表7に示す。細胞回収率が70%以上の場合に培養維持可能と判断して「〇」、70%未満を培養維持不可と判断して「×」と評価した。
【0123】
【0124】
表7に示すとおり、比較例1の立体組織構造体は、細胞回収率が7日目の時点で70%未満(23.1%)であり、細胞の増殖を維持することができなかった。これに対して実施例1~2の立体組織構造体は、28日目まで細胞回収率が70%以上であり、細胞の増殖を維持することができた。
【0125】
[試験例2:立体組織構造体の機能維持性能の比較]
<比較例2:三次元培養による立体組織構造体の製造>
組織体1、2及び3を構成する細胞種であるNHDF、HUVEC、BFP-HUVEC、GFP-BPDC及びRFP-BCAFをそれぞれ4×106細胞、8×106細胞、8×106細胞及び4×106細胞を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、比較例2の立体組織構造体を得た。細胞の培養を開始してから7日目にがん細胞増殖の評価、がん間質細胞マーカーであるCAF及びCAEマーカータンパク質の遺伝子発現解析、血管網の形成の評価を実施した。
【0126】
がん細胞増殖の評価は、以下の手順で行った。トリプシンで立体組織構造体を分散後、蛍光細胞計測機CountessIIFLで蛍光陽性細胞数をがん細胞数として計測した。その後、培養後のがん細胞数/投入がん細胞数を算出した。
【0127】
遺伝子発現解析は、以下の手順で行った。立体組織構造体に、QIAzol Lysis Reagent(QIAGEN社製)700μLを添加し、さらにQIAshredderカラム(QIAGEN社製)に供して遠心分離により細胞を破砕した。その後、ろ液の20%(vol)のクロロホルム(Fuji film社製)を加えて十分に混合し、遠心分離した。上清を分取した後、1.5倍量の100%エタノール(Fuji film社製)を加えてトータルRNAを析出させた後、miRNeasy Micro Kit(Qiaegn社製)を用いてRNA精製を行った。最終的に20μLのNuclease free waterを添加してトータルRNAを溶出させた。マイクロアレイ遺伝子発現解析は、SurePrint G3 Human GE Microarray 8×60K Ver.3.0(Agilent社製)を用いて実施した。精製した100ngのトータルRNAを鋳型として、One-Color RNA Spike-In Kit、Low Input Quick Amp Labeling Kit(1color)及びExpression Hybridization Kit(Agilent社製)を用いて一色法にてラベリンクからハイブリダイゼーションを行い、DNA Microarray Scanner(Agilent社製)にてスキャニングを行った。発現データについては、取得した画像データをFeature Extraction (Agilent社製)ソフトウェアにて数値化後、GeneSpring GX 14.9.1(Agilent社製)ソフトウェアを用いてアレイ間ノーマライズした。
【0128】
血管網形成の評価は、以下の手順で行った。共焦点顕微鏡システム(PerkinElmer社製OperettaCLS)のライブセル蛍光モード(37℃、5%CO2)で血管内皮細胞発現蛍光タンパク質を観察し、網目構造の形成の有無、培養期間中(培養4,7,14,21,28日目)の維持を評価した。
【0129】
<実施例3:本発明の一実施形態に係る立体組織構造体の製造>
実施例1と同様にして、組織体1~3をそれぞれ2個ずつ合計6個製造した。また、実施例1と同様にして、6個の組織体がそれぞれマトリックス(トロンビン/フィブリノゲン/α2-アンチプラスミン混合溶液がゲル化したハイドロゲル)を介して横×縦:2×3で接着された立体組織構造体を製造した。得られた立体組織構造体は、横方向に同一の組織体が並び、縦方向に組織体1、組織体2及び組織体3の順で並んだものである。次いで、得られた実施例3の立体組織構造体を汎用培地中で4日間培養し、細胞の培養を開始してから7日目(組織体の製造に要した3日間の培養期間を含む。)に比較例2と同様にがん細胞増殖の評価、がん間質細胞マーカーであるCAF及びCAEマーカータンパク質の遺伝子発現解析、血管網の形成の評価を実施した。
【0130】
<実施例4:本発明の一実施形態に係る立体組織構造体の製造>
実施例2と同様にして、組織体1~3をそれぞれ2個ずつ合計6個製造した。また、実施例2と同様にして、6個の組織体がそれぞれマトリックス(上記不織布内にトロンビン/フィブリノゲン/α2-アンチプラスミン混合溶液がゲル化したハイドロゲルを含むもの。)を介して横×縦:2×3で接着された立体組織構造体を製造した。得られた立体組織構造体は、横方向に同一の組織体が並び、縦方向に組織体1、組織体2及び組織体3の順で並んだものである。
次いで、得られた実施例4の立体組織構造体を汎用培地中で4日間培養し、細胞の培養を開始してから7日目(組織体の製造に要した3日間の培養期間を含む。)に比較例2と同様にがん細胞増殖の評価、がん間質細胞マーカーであるCAF及びCAEマーカータンパク質の遺伝子発現解析、血管網の形成の評価を実施した。
【0131】
<立体組織構造体の機能維持性能の比較>
がん細胞増殖は、培養後のがん細胞数/投入がん細胞数が1.2以上で増殖可能と判断して「〇」、1.2未満を増殖不可と判断して「×」と評価した。CAF及びCAEマーカータンパク質維持は、CAFマーカータンパク質発現遺伝子(ACTA2及びFAP遺伝子の2項目)、CAEマーカータンパク質発現遺伝子(ANPEP及びITGAV遺伝子の2項目)の遺伝子発現解析結果において培養後の遺伝子発現量/培養前の遺伝子発現量が全項目0.8以上であれば維持可能と判断して「〇」、0.8未満を維持不可と判断して「×」と評価した。血管網形成については、構造形成及び培養期間中の維持が確認できた場合に「〇」、構造形成及び培養期間中の維持を確認できなかった場合に「×」と評価した。その結果を表8に示す。
【0132】
【0133】
表8に示すとおり、比較例2の立体組織構造体は、がん細胞の増殖は可能であったが、CAF及びCAEマーカーの発現は維持されておらず、がん間質細胞の増殖は維持できていないことが分かった。また、血管網の構造形成及び培養期間中の維持も確認できず、共培養系においては血管網形成が阻害されることが確認された。これに対して実施例3~4の立体組織構造体は、全項目において優れた評価であり、機能的な構造の形成阻害、細胞増殖の阻害が低減されていることが示された。
【0134】
[試験例3:立体組織構造体における長期培養による厚み維持性能の比較]
<比較例3:三次元培養による立体組織構造体の製造>
比較例2と同様にして、比較例3の立体組織構造体を得た。
【0135】
<実施例5:本発明の一実施形態に係る立体組織構造体の製造>
実施例4と同様にして、組織体1~3をそれぞれ2個ずつ合計6個製造した。また、実施例4と同様にして、6個の組織体がそれぞれマトリックス(上記不織布内にトロンビン/フィブリノゲン/α2-アンチプラスミン混合溶液がゲル化したハイドロゲルを含むもの。)を介して横×縦:2×3で接着された立体組織構造体を製造した。得られた立体組織構造体は、横方向に同一の組織体が並び、縦方向に組織体1、組織体2及び組織体3の順で並んだものである。
【0136】
<立体組織構造体の厚み維持性能の比較>
得られた比較例3及び実施例5の立体組織構造体を汎用培地中で21日間培養し、細胞の培養を開始してから7日目、21日目(実施例5の立体組織構造体の場合、組織体の製造に要した3日間の培養期間を含む。)に、ホルマリン緩衝液(型番「062-01661」、富士フイルム和光純薬社製)を用いて各立体組織構造体を固定した。続いて、各立体組織構造体をセルカルチャーインサートから取り出し、パラフィンで包埋後、立体組織構造体の上面(セルカルチャーインサートの上面)から見たときの重心を通る線に沿って薄切切片を作製した。続いて、薄切切片をヘマトキシリン・エオシン(HE)染色して顕微鏡で観察し、立体組織構造体の厚さの最大値を測定した。これにより、長期培養による厚み維持の評価を実施した。
【0137】
長期培養による厚み維持は、培養21日目の立体組織構造体厚み/培養7日目の立体組織構造体厚みが0.8以上で厚み維持可能と判断して「〇」、0.8未満を厚み維持不可と判断して「×」と評価した。
【0138】
【0139】
表9に示すとおり、比較例3の立体組織構造体は、厚みが維持されなかった。これに対して実施例5の立体組織構造体は、厚みが長期間維持された。
【0140】
100…立体組織構造体、10…第1の部分、20…第2の部分、30…管腔様構造。