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特開2024-170879作業車両、および作業車両の制御方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170879
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】作業車両、および作業車両の制御方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20241204BHJP
   F16H 61/68 20060101ALI20241204BHJP
   F16H 63/42 20060101ALI20241204BHJP
   F16H 59/70 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H61/68
F16H63/42
F16H59/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087626
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100139930
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 亮司
(74)【代理人】
【識別番号】100188813
【弁理士】
【氏名又は名称】川喜田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 成康
(74)【代理人】
【識別番号】100202142
【弁理士】
【氏名又は名称】北 倫子
(72)【発明者】
【氏名】寳来 昂平
(72)【発明者】
【氏名】黒下 佳彦
(72)【発明者】
【氏名】河野 通太
【テーマコード(参考)】
3J552
【Fターム(参考)】
3J552MA04
3J552MA24
3J552NA05
3J552NB01
3J552PA19
3J552PA51
3J552QC09
3J552RA27
3J552RB00
3J552SB02
3J552TB01
3J552TB17
3J552VA62Z
3J552VA74W
(57)【要約】
【課題】変速操作をより簡便にする。
【解決手段】作業車両は、複数の主変速段および複数の副変速段を切り替えることによって変速を行う変速装置と、前記複数の副変速段の少なくとも1つに対応する前記主変速段の値をユーザが設定するための入力部と、前記副変速段と前記値との対応関係を記憶する記憶部と、前記副変速段が切り替えられたとき、前記対応関係に基づいて、切り替え後の前記副変速段に対応する前記値に前記主変速段を設定する制御部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の主変速段および複数の副変速段を切り替えることによって変速を行う変速装置と、
前記複数の副変速段の少なくとも1つに対応する前記主変速段の値をユーザが設定するための入力部と、
前記副変速段と前記値との対応関係を記憶する記憶部と、
前記副変速段が切り替えられたとき、前記対応関係に基づいて、切り替え後の前記副変速段に対応する前記値に前記主変速段を設定する制御部と、
を備える作業車両。
【請求項2】
前記制御部は、前記作業車両の停止前に前記値が設定され、前記作業車両の起動後に前記副変速段が切り替えられたとき、切り替え後の前記副変速段に対応する、前記作業車両の停止前に設定された前記値に前記主変速段を設定する、請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記値を設定するための設定画面を表示する表示部を備える、請求項1または2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記表示部は、前記副変速段のそれぞれについて、前記値を設定するか否かを選択することが可能な表示を行う、請求項3に記載の作業車両。
【請求項5】
前記記憶部は、前記副変速段と前記主変速段との組み合わせが変更されたとき、変更された前記組み合わせを記憶し、
前記制御部は、前記値が設定されていない前記副変速段に切り替えられたとき、前記主変速段を、前記副変速段で前記作業車両が前回走行したときに記憶された前記主変速段の値に切り替える、
請求項4に記載の作業車両。
【請求項6】
前記制御部は、前記副変速段が、前記作業車両が起動してから使用されていない前記副変速段に切り替えられ、かつ前記副変速段に対応する前記主変速段の値が設定されていないとき、前記主変速段を、前記副変速段の切り替え前の減速比に最も近い減速比を実現する前記主変速段に切り替える、
請求項4または5に記載の作業車両。
【請求項7】
ユーザにより操作される操作具を備え、
前記制御部は、前記操作具を用いたユーザの操作により、前記副変速段が切り替えられたとき、切り替え後の前記副変速段に対応する前記値に前記主変速段を設定する、
請求項1または2に記載の作業車両。
【請求項8】
前記主変速段の合計の段数は、4以上12以下であり、
前記副変速段の合計の段数は、2以上6以下である、
請求項1または2に記載の作業車両。
【請求項9】
複数の主変速段および複数の副変速段を切り替えることによって変速を行う変速装置を備えた作業車両の制御方法であって、
入力装置を用いたユーザの操作に応答して、前記複数の副変速段の少なくとも1つに対応する前記主変速段の値を設定することと、
前記副変速段と前記値との対応関係を記憶装置に記憶させることと、
前記副変速段が切り替えられたとき、前記対応関係に基づいて、切り替え後の前記副変速段に対応する前記値に前記主変速段を設定することと、
を含む制御方法。
【請求項10】
複数の主変速段および複数の副変速段を切り替えることによって変速を行う変速装置を備えた作業車両を制御するためのプログラムであって、
入力装置を用いたユーザの操作に応答して、前記複数の副変速段の少なくとも1つに対応する前記主変速段の値を設定することと、
前記副変速段と前記値との対応関係を記憶装置に記憶させることと、
前記副変速段が切り替えられたとき、前記対応関係に基づいて、切り替え後の前記副変速段に対応する前記値に前記主変速段を設定することと、
をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、作業車両、および作業車両の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業用トラクタなどの作業車両は、地面の状態の異なる種々の環境で走行および作業を行う。地面の状態、作業の内容、求められる車速などの種々の条件に対応できるように、作業車両は、一般的に、多段階の変速ができるように構成されている。多段階の変速は、主変速装置と副変速装置との組み合わせで実現され得る。例えば、副変速の段数が3段で、主変速の段数が8段の場合、合計で24段の変速が可能である。主変速段および副変速段は、それぞれに対応するレバーまたはボタンなどの操作具をユーザが操作することによって切り替えられる。
【0003】
ユーザによる変速の操作を簡便にするために、例えば、以前に使用された副変速段と主変速段との組み合わせを記憶しておき、副変速段がユーザによって切り替えられたときに、以前にその副変速段が使用されたときに設定された主変速段に自動で設定する技術が利用されている。そのような技術の例が、例えば特許文献1および2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-44814号公報
【特許文献2】特開2005-9532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような従来の技術では、ユーザが副変速段を切り替えたとき、必ずしもそのユーザが希望する主変速段に自動で設定されるとは限らない。以前に使用された段とは異なる段に主変速段を設定したい場合、ユーザは、主変速段を手動で切り替える操作を行うことになる。ユーザによっては、副変速段を切り替えたとき、特定の主変速段に自動で設定されることを希望する場合がある。しかし、従来の技術ではそのような要望に対応することができなかった。
【0006】
本開示は、このような課題を解決することが可能な作業車両、およびその制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様による作業車両は、複数の主変速段および複数の副変速段を切り替えることによって変速を行う変速装置と、前記複数の副変速段の少なくとも1つに対応する前記主変速段の値をユーザが設定するための入力部と、前記副変速段と前記値との対応関係を記憶する記憶部と、前記副変速段が切り替えられたとき、前記対応関係に基づいて、切り替え後の前記副変速段に対応する前記値に前記主変速段を設定する制御部と、を備える。
【0008】
本開示の包括的または具体的な態様は、装置、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラム、もしくはコンピュータが読み取り可能な非一時的記憶媒体、またはこれらの任意の組み合わせによって実現され得る。コンピュータが読み取り可能な記憶媒体は、揮発性の記憶媒体を含んでいてもよいし、不揮発性の記憶媒体を含んでいてもよい。装置は、複数の装置で構成されていてもよい。装置が2つ以上の装置で構成される場合、当該2つ以上の装置は、1つの機器内に配置されてもよいし、分離した2つ以上の機器内に分かれて配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本開示の実施形態によれば、副変速段が切り替えられたとき、主変速段が、ユーザによって予め設定された所望の段に自動で切り替えられるため、変速操作をより簡便にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、作業車両の概略構成を示すブロック図である。
図2図2は、制御方法の例を示すフローチャートである。
図3図3は、設定画面の一例を示す図である。
図4図4は、従来の変速制御の一例を示す図である。
図5図5は、従来の変速制御の他の例を示す図である。
図6図6は、従来の変速制御のさらに他の例を示す図である。
図7図7は、本開示の実施形態における変速制御の一例を示す図である。
図8図8は、本開示の実施形態における変速制御の他の例を示す図である。
図9図9は、作業車両100の例を示す斜視図である。
図10図10は、作業車両および作業機の例を模式的に示す側面図である。
図11図11は、作業車両に取り付けられたメータパネルユニットの例を模式的に示す正面図である。
図12図12は、メータパネルユニットの主な構成要素の配置の例を示す正面図である。
図13図13は、メータパネルユニットおよび入力装置の一例を示す図である。
図14図14は、キャビンの内部に設けられる操作スイッチ群の例を示す図である。
図15A図15Aは、シフトレバーの構成を示す斜視図である。
図15B図15Bは、シフトレバーを図15Aとは異なる側から見た図である。
図15C図15Cは、シフトレバーの操作によって切り替えられる副変速段を説明するための図である。
図16図16は、作業車両における変速制御に関する構成要素を示すブロック図である。
図17図17は、変速装置のより具体的な構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態を説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明および実質的に同一の構成に関する重複する説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になることを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者は、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。以下の説明において、同一または類似の機能を有する構成要素については、同じ参照符号を付している。
【0012】
以下の実施形態は例示であり、本開示の技術は、以下の実施形態に限定されない。例えば、以下の実施形態で示される数値、形状、ステップ、そのステップの順序、表示画面のレイアウトなどは、あくまでも一例であり、技術的に矛盾が生じない限りにおいて種々の改変が可能である。また、技術的に矛盾が生じない限りにおいて、一の態様と他の態様とを組み合わせることが可能である。
【0013】
<実施形態の基本的な構成および動作>
本開示の具体的な実施形態を説明する前に、本開示の実施形態の基本的な構成および動作を説明する。
【0014】
図1は、本開示の例示的な実施形態による作業車両100の概略構成を示すブロック図である。本実施形態における作業車両100は、複数の主変速段および複数の副変速段を切り替えることによって変速を行う変速装置103を備えている。作業車両100は、さらに、複数の副変速段の少なくとも1つに対応する主変速段の値をユーザが設定するための入力部122と、副変速段と主変速段の値との対応関係を記憶する記憶部126と、変速装置103を制御する制御部120とを備えている。制御部120は、副変速段が切り替えられたとき、記憶部126に記憶された対応関係に基づいて、切り替え後の副変速段に対応する値に主変速段を設定する。図1に示すように、作業車両100は、表示部124も備え得る。表示部124は、例えば、各副変速段に対応する主変速段の値をユーザが設定するための設定画面を表示する。
【0015】
変速装置103は、主変速装置11と副変速装置12とを含み得る。主変速装置11および副変速装置12のそれぞれは、複数段階の変速ができるように構成される。例えば、主変速装置11は、例えば4段、6段、8段、10段、またはそれ以上の段数の変速ができるように構成され得る。副変速装置12は、2段(低、高)、3段(低、中、高)、4段(クリープ、低、中、高など)、またはそれ以上の段数の変速ができるように構成され得る。主変速装置11によって変速可能な段を「主変速段」と称し、副変速装置12によって変速可能な段を「副変速段」と称する。主変速段および副変速段のそれぞれの合計の段数は任意に設計され得る。主変速段の合計の段数は、例えば4以上12以下であり得る。副変速段の合計の段数は、例えば2以上6以下であり得る。
【0016】
入力部122は、複数の副変速段のそれぞれ、またはその一部について、対応する主変速段の値をユーザが設定するために使用される入力装置である。表示部124は、副変速段のそれぞれ、またはその一部について、対応する主変速段の値をユーザが設定するための設定画面を表示する表示装置である。入力部122および表示部124は、別々の装置であってもよいし、1つの装置によって実現されていてもよい。例えば、入力装置を含むメータパネルユニット、またはタッチスクリーンを有するタブレットもしくはスマートフォンなどの操作端末が入力部122および表示部124として機能してもよい。
【0017】
制御部120は、作業車両100の動作を制御する制御装置である。制御部120は、作業車両100に設けられる電子制御ユニット(ECU)などの、プロセッサを含むコンピュータによって実現され得る。制御部120は、1台のECUによって実現されていてもよいし、複数台のECUによって実現されていてもよい。制御部120は、入力部122を介してユーザによって入力された情報に基づいて、副変速段と主変速段との対応関係を決定し、当該対応関係を記憶部126に記憶させる。
【0018】
記憶部126は、例えば半導体記憶媒体、磁気記憶媒体、または光学記憶媒体などの任意の記憶媒体を含む記憶装置である。記憶部126は、複数の記憶装置の集合体であってもよい。記憶部126は、制御部120とは独立した装置であってもよいし、制御部120に含まれていてもよい。例えば、ECUが制御部120として機能する場合、ECUにおけるメモリが記憶部126として機能してもよい。記憶部126は、制御部120によって実行されるコンピュータプログラム、および制御部120によって生成される各種の情報を記憶するように構成され得る。
【0019】
図2は、制御部120によって実行される制御方法の例を示すフローチャートである。制御部120は、記憶部126に格納されたプログラムを実行することにより、図2に示される動作を実行する。
【0020】
ステップS100において、制御部120は、変速機能の設定操作が行われたか否かを判定する。設定操作は、例えば表示部124に表示された設定画面に基づいて、ユーザが入力部122を用いて行う。設定画面は、副変速の段ごとに、対応する主変速の段の値を設定するための画面である。ユーザによって設定操作が行われると、ステップS101に進む。ユーザによって設定操作が行われない場合、ステップS103に進む。
【0021】
図3は、表示部124に表示される設定画面の一例を示す図である。この例では、副変速については低(L)、中(M)、高(H)の3段、主変速については1から8までの8段の変速が可能である。この例における表示部124は、運転席に設けられたメータパネルのディスプレイであり、車速などの情報も表示する。図3に示す設定画面は、L、M、Hの3つの副変速段のそれぞれに対応する主変速段の値を設定するためのエリア132、134、136を含む。図示される例では、各副変速段に対応する主変速段の値を設定しないことも可能であり、その場合、ユーザは「OFF」を指定する。「OFF」が指定された副変速段には、例えばシステムによって予め決められた主変速段の値(例えば1、または直前に使用された主変速段の値など)が関連付けられる。図3には、一例として、副変速のL段については「OFF」が指定され、副変速のM段については「3」が指定され、副変速のH段については「6」が指定された例が示されている。ユーザは、入力部122を用いて、エリア132、134、136内の値を変更することにより、設定を反映させることができる。このように、表示部124は、副変速段のそれぞれについて、対応する主変速段の値を設定するか否かを選択することが可能な表示を行ってもよい。
【0022】
図3に示す例では、副変速段ごとの主変速段の設定値を視覚的に表示するグラフィカルユーザインターフェース(GUI)が設定画面として表示される。このようなGUIにより、ユーザは、各副変速段に対応する主変速段の値の設定を容易に行うことができる。
【0023】
設定操作が完了すると、処理はステップS101に進む。ステップS101において、制御部120は、ユーザによって指定された各副変速段に対応する主変速段の値を設定する。続くステップS102において、制御部120は、副変速段と主変速段の設定値との対応関係を記憶部126に記憶させる。例えば、副変速の段L、M、Hのそれぞれについて、対応する主変速段の値、または対応する主変速段の値が設定されていないこと(前述の「OFF」)を示すテーブル等のデータを記憶部126に記憶させる。以後、副変速段が切り替えられたとき、制御部120は、記憶部126に記憶された対応関係に基づいて、主変速段を自動で設定する。
【0024】
ステップS103において、制御部120は、副変速段が切り替えられたか否かを判定する。制御部120は、副変速段が切り替えられたか否かを、例えば副変速段を切り替えるためのレバーに取り付けられているセンサからの信号に基づいて判定することができる。副変速段が切り替えられた場合、ステップS104に進む。副変速段が切り替えられていない場合、ステップS100に戻る。
【0025】
ステップS104において、制御部120は、ステップS102で記憶された対応関係に基づいて、切り替え後の副変速段に対応する値に主変速段を設定する。例えば、図3に示すように、副変速のM段に対応付けられた主変速段の値が「3」であり、L段またはH段からM段に副変速段が切り替えられる場合、制御部120は、主変速段を「3」に設定する。副変速段を切り替える直前の主変速段が「3」とは異なる場合、主変速段は「3」に切り替えられ、副変速段を切り替える直前の主変速段が「3」である場合は、主変速段は「3」に維持される。
【0026】
このような制御により、ユーザが副変速段を切り替えたとき、ユーザによって予め設定された副変速段と主変速段との対応関係に従って、主変速段が自動で設定される。このため、例えば特定の副変速段のときには特定の主変速段に設定することが多いユーザにとって、主変速段の切り替えの手間を減らし、利便性を向上させることができる。
【0027】
本実施形態において、一度記憶された副変速段と主変速段の値との対応関係は、作業車両100が停止(例えばエンジンオフ)しても消去されない。このため、作業車両100の起動(例えばエンジンオン)後、未走行の状態で副変速段を特定の段に切り替えた場合でも、以前にその副変速段に対応する主変速段の値が設定されていれば、その主変速段が自動で設定される。言い換えれば、作業車両100の停止前に副変速段に対応する主変速段の値が設定され、作業車両100の起動後に副変速段が切り替えられたとき、制御部120は、切り替え後の副変速段に対応する、作業車両100の停止前に設定された値に主変速段を設定する。これにより、作業車両100の起動直後でも、副変速段と主変速段との組み合わせをユーザの好みに合わせて適切に設定することができる。
【0028】
ここで、本実施形態の効果を、従来の技術と対比してより詳細に説明する。
【0029】
図4は、従来の変速制御の一例を示す図である。図4には、シャトルレバー、副変速段、主変速段の組み合わせの変化の例が示されている。ここで、シャトルレバーは、作業車両の前後進を切り替えるためのレバーであり、前進(F)、中立(N)、後進(R)の3つの状態をとる。副変速段は、例えばシフトレバーで切り替えられ、N(中立)、L(低)、M(中)、H(高)の4つの状態をとるものとする。主変速段は、例えばシフトレバーに設けられたシフトアップボタンおよびシフトダウンボタンによって切り替えられ、1から8の8つの値のいずれかに設定されるものとする。
【0030】
図4に示す例では、作業車両の起動後(例えばエンジン始動後)、主変速は図4の(1)に示すように「1」に設定される。起動時には、シャトルレバーおよび副変速は「N」の状態にある。この状態でユーザがシフトアップまたはシフトダウン操作を行うと、主変速の値が増減する。例えば図4の(2)は、シフトアップによって主変速が「2」に増加した状態を示している。この状態でユーザが副変速を「N」から「L」に切り替えたとしても、図4の(3)に示すように、主変速は切り替え前の「2」に維持される。副変速を「M」または「H」に切り替えた場合でも、ユーザが自発的にシフトアップまたはシフトダウンの操作を行わない限り、主変速の値は変化しない(図4の(4)および(5))。
【0031】
このように、図4に示す例では、副変速段が切り替えられたとき、主変速段の値は自動では変更されない。このため、副変速段の切り替え後の主変速段の値が、ユーザが希望する値とは異なる場合、ユーザは主変速段の値を変更する操作を行う必要がある。
【0032】
図5は、従来の変速制御の他の例を示す図である。この例では、作業車両の動作中、副変速と主変速の値の組み合わせがメモリに記憶され、副変速段が切り替えられたとき、記憶された主変速段の値に自動で設定される。例えば、図5の(1)に示すように、副変速が「M」、主変速が「3」に設定された状態で作業車両が走行する場合を考える。このときの副変速および主変速の値の組み合わせがメモリに記憶される。この状態で、ユーザが副変速を「M」から「L」に切り替え、シフトアップまたはシフトダウン操作を行って図5の(2)に示す状態にしたとする。この状態で作業車両が走行し、ユーザが副変速を「L」から「M」に切り替えると、図5の(3)に示すように、主変速段は、以前記憶された値「3」に自動で切り替えられる。
【0033】
このように、図5の例では、副変速が切り替えられたとき、以前に設定された主変速の値が記憶されている場合には、その値に主変速が自動で設定される。この機能を本明細書において「メモリ変速」と呼ぶ。メモリは揮発性メモリであり、記憶された値は、作業車両100の停止時(すなわちエンジンオフ時または電源オフ時)に消去される。
【0034】
図5の例では、副変速が「L」から「M」に切り替えられるときにメモリ変速が行われるが、「M」から「L」に切り替えられるとき、「M」から「H」に切り替えられるとき、および「H」から「M」に切り替えられるときも、同様にメモリ変速が行われ得る。ただし、副変速が「M」から「H」に切り替えられる場合、「H」に対応する直前に使用された主変速段が例えば4以上の場合、急発進を防ぐため、主変速段を例えば3以下に制限する制御が行われることもある。
【0035】
図6は、従来の変速制御のさらに他の例を示す図である。この例では、副変速段が切り替えられるとき、減速比が切り替え前の減速比に最も近くなる主変速段に自動で設定される。「減速比」は、エンジンの回転数に対する変速後の回転数の比である。「回転数」は、単位時間(例えば1分)あたりの回転数を意味する。例えば、図6の(1)に示すように、副変速が「M」、主変速が「1」に設定されている状態で作業車両が走行し、(2)に示すように、作業車両の起動後まだ走行していない副変速の「L」に切り替える場合を考える。この場合、減速比が直前の減速比に最も近い値である「8」に主変速段が切り替えられる。他の例として、副変速が「M」、主変速が「5」に設定されている状態から、副変速を「H」に切り替える場合、主変速は、減速比が直前の減速比に最も近い値である「1」に切り替えられる。このような制御により、副変速の切り替え後の減速比の変化を小さくし、発進をスムーズにすることができる。この機能を本明細書において「ニア変速」と呼ぶ。ニア変速を、図5に示すメモリ変速と併用してもよい。例えば、エンジン始動後、走行したことがある副変速段に切り替えられる場合にはメモリ変速を行い、未走行の副変速段に切り替えられる場合にはニア変速を行ってもよい。
【0036】
図4から図6に示す変速制御においては、副変速段が切り替えられたとき、主変速段が、ユーザが希望する値ではなく、予めシステムで定められた値、または過去にその副変速段が使用されたときに記憶された値に設定される。このため、副変速段と主変速段との組み合わせを、ユーザが希望する組み合わせに変更するために、主変速のシフトアップまたはシフトダウンの操作が必要になる。例えば、副変速が「H」のときには主変速を必ず「5」にしたいユーザにとって、副変速の切り替え時に主変速が「1」などの値に自動的に設定されると、シフトアップまたはシフトダウンの操作が必要になるため、煩わしさを感じる可能性がある。また、エンジン起動後の未走行の状態において、主変速を「1」以外の値に設定したい場合も、シフトアップの操作が必要である。
【0037】
本実施形態によれば、各副変速段について、ユーザが希望する主変速段の値を設定することができる。これにより、副変速段を切り替えたとき、ユーザが希望する主変速段に自動で設定されるため、主変速段を切り替える操作を少なくし、利便性を向上させることができる。
【0038】
図7は、本実施形態における変速制御の一例を示す図である。この例では、図7の(a)に示すように、副変速「L」に対応する主変速の値として「2」が、副変速「M」に対応する主変速の値として「3」が、副変速「H」に対応する主変速の値として「4」がユーザによって設定されている。この場合、図7の(1)に示すように副変速が「L」、主変速が「1」に設定されている状態で副変速が「M」に切り替えられると、図7の(2)に示すように、主変速が「3」に切り替えられる。また、副変速が「H」に切り替えられると、図7の(3)に示すように主変速は「4」に切り替えられる。さらに副変速が「L」に切り替えられると、図7の(4)に示すように主変速は「2」に切り替えられる。
【0039】
図8は、本実施形態における変速制御の他の例を示す図である。この例では、図8の(a)に示すように、副変速「L」に対応する主変速の値として「5」が設定され、副変速「M」に対応する主変速の値は設定されておらず(「OFF」)、副変速「H」に対応する主変速の値として「2」がユーザによって設定されている。この場合、図8の(1)に示すように副変速が「L」、主変速が「3」に設定されている状態で作業車両が走行し、副変速が「M」に切り替えられると、図8の(2)または(2’)に示すように、ニア変速またはメモリ変速の動作が行われる。エンジン始動後、副変速が「M」の状態で走行したことがない場合、ニア変速が行われる。ニア変速においては、直前の減速比に最も近い減速比を実現するように主変速が設定される(図8の(2)の例では「1」)。エンジン始動後、副変速が「M」の状態で走行したことがある場合は、メモリ変速が行われる。メモリ変速においては、直前のM段走行時に使用された主変速段の値(図8の(2’)では「x」と表記)をメモリから読み出し、主変速段をその値に設定する。副変速が「H」に切り替えられる場合は、図8の(3)に示すように主変速は「2」に切り替えられる。さらに副変速が「L」に切り替えられると、図8の(4)に示すように主変速は「5」に切り替えられる。
【0040】
このように、本実施形態においては、副変速段のそれぞれについて、主変速段の値をユーザが設定することができる。副変速段が切り替えられたとき、切り替え後の副変速段に対応する値に主変速段が設定される。この変速制御は、エンジン始動後(すなわち作業車両の起動後)、切り替え後の副変速段で作業車両が初めて走行する場合にも適用される。このため、副変速段ごとの主変速段の設定は、不揮発性の記憶装置に格納される。
【0041】
副変速段に対応する主変速段の設定が「OFF」の場合、その副変速段については、図4から図6に示す制御と同様の変速制御が行われ得る。例えば、作業車両100が、起動後、「OFF」に設定された副変速段で既に走行しており、別の副変速段で走行した後に再び「OFF」に設定された副変速段に切り替える場合、主変速段は、前回走行したときの主変速段の値に設定される(メモリ変速)。このメモリ変速機能を実現するため、記憶部126は、副変速段と主変速段との組み合わせが変更されたとき、変更された組み合わせを記憶する。制御部120は、副変速段が、対応する主変速の値が設定されていない段に切り替えられたとき、主変速段を、その副変速段で作業車両100が前回走行したときに記憶された主変速段の値に切り替える。
【0042】
また、作業車両100が、起動後、「OFF」に設定された副変速段で一度も走行しておらず、別の副変速段で走行後、「OFF」に設定された副変速段に切り替える場合、主変速段は、切り替え前の減速比に最も近い減速比を実現する値(すなわち、切り替え前後の減速比の変化が最小になる値)に設定される(ニア変速)。言い換えれば、制御部120は、副変速段が、作業車両100が起動してから使用されていない副変速段に切り替えられ、かつ当該副変速段に対応する主変速段の値が設定されていないとき、主変速段を、副変速段の切り替え前の減速比に最も近い減速比を実現する主変速段に切り替える。
【0043】
以上の動作により、副変速段ごとにユーザが自由に主変速段を設定できる効果に加えて、ユーザの希望に応じて、メモリ変速またはニア変速といった従来の変速制御を適用することもできる。これにより、ユーザのニーズに応じた適切な変速制御を実現することができる。
【0044】
以下、作業車両の一例である農業用のトラクタに本開示の技術を適用した実施形態を説明する。本開示の技術は、トラクタに限らず、任意の作業車両に適用することができる。作業車両は、例えば、田植機、コンバイン、草刈機、ハーベスタ、除雪車、または建設作業車であってもよい。
【0045】
<作業車両の構成例>
図9は、本開示の例示的な実施形態における作業車両100の例を示す斜視図である。図10は、作業車両100、および作業車両100に連結された作業機(インプルメント)300の例を模式的に示す側面図である。本実施形態における作業車両100は、圃場(例えば、畑、果樹園、水田等)で農作業に使用されるトラクタである。
【0046】
図10に示される作業車両100は、車両本体101と、原動機(エンジン)102と、変速装置(トランスミッション)103と、走行装置104とを備えている。車両本体101には、キャビン105が設けられている。走行装置104は、4つのタイヤ付き車輪(前輪104Fおよび後輪104R)と、4つの車輪を回転させる車軸と、各車輪の制動を行う制動装置(ブレーキ)とを含む。前輪104Fおよび後輪104Rの一方または両方は、タイヤ付き車輪ではなく無限軌道(track)を装着した複数の車輪(クローラ)に置き換えられてもよい。
【0047】
キャビン105の内部には、運転席107、操舵装置106、複数のペダル109、メータパネルユニット110、および操作のためのスイッチ群(操作具)が設けられている。
【0048】
原動機102は、例えばディーゼルエンジンであり得る。ディーゼルエンジンに代えて電動モータが使用されてもよい。変速装置103は、変速によって作業車両100の推進力および走行速度を変化させることができる。変速装置103は、作業車両100の前進と後進とを切り替えることもできる。
【0049】
操舵装置106は、ステアリングホイールと、ステアリングホイールに接続されたステアリングシャフトと、ステアリングホイールによる操舵を補助するパワーステアリング装置とを含む。前輪104Fは操舵輪であり、その切れ角を変化させることにより、作業車両100の走行方向を変化させることができる。前輪104Fの舵角は、ステアリングホイールを操作することによって変化させることができる。パワーステアリング装置は、前輪104Fの舵角を変化させるための補助力を供給する油圧装置または電動モータを含む。作業車両100は自動操舵の機能を備えていてもよい。自動操舵が行われるときには、作業車両100内に配置された制御装置からの制御により、油圧装置または電動モータの力によって前輪104Fの舵角が自動で調整される。
【0050】
複数のペダル109は、アクセルペダル、クラッチペダル、およびブレーキペダルを含む。それぞれのペダルには、踏み込みを検知するセンサが設けられている。
【0051】
車両本体101の後部には、連結装置108が設けられている。連結装置108は、例えば3点支持装置(「3点リンク」または「3点ヒッチ」とも呼ばれる。)、PTO(Power Take Off)軸、ユニバーサルジョイント、および通信ケーブルを含み得る。連結装置108によって作業機300を作業車両100に着脱することができる。連結装置108は、例えば油圧装置によって3点リンクを昇降させ、作業機300の位置または姿勢を変化させることができる。また、ユニバーサルジョイントを介して作業車両100から作業機300に動力を送ることができる。作業車両100は、作業機300を引きながら、作業機300に所定の作業を実行させることができる。連結装置は、車両本体101の前方に設けられていてもよい。その場合、作業車両100の前方に作業機を接続することができる。
【0052】
図10に示す作業機300は、ロータリ耕耘機であるが、作業機300はロータリ耕耘機に限定されない。例えば、モーア(草刈機)、シーダ(播種機)、スプレッダ(施肥機)、レーキ作業機、ベーラ(集草機)、ハーベスタ(収穫機)、スプレイヤ、またはハローなどの、任意の作業機を作業車両100に接続して使用することができる。作業車両100は、作業機300を装着しない状態で走行してもよい。
【0053】
<メータパネルユニットの概略構成>
図11は、作業車両100に取り付けられたメータパネルユニット110の例を模式的に示す正面図である。メータパネルユニット110は、作業車両100が備える表示装置(または表示部)の一例である。メータパネルユニット110は、作業車両100の動作状態を表示したり、ユーザが作業車両100に関する各種の設定を行うための設定画面を表示したりするように構成される。メータパネルユニット110は、例えば図3に示すような、作業車両100の主変速および副変速に関する設定を行うための設定画面を表示する。図11に示される例において、メータパネルユニット110は、作業車両100の運転席の正面側に配置される。具体的には、メータパネルユニット110は、ステアリングホイール(ハンドル)220を回転可能に支持するハンドルステー230の上方において、メータカバー240の開口部に嵌め込まれている。メータパネルユニット110は、運転席に着座する運転者から視認できる位置に設けられる。
【0054】
図12は、メータパネルユニット110の主な構成要素の配置の例を示す正面図である。図12に示されるメータパネルユニット110は、第1のアナログメータ111と、第2のアナログメータ112と、ディスプレイ113とを有する。ディスプレイ113は、第1のアナログメータ111と第2のアナログメータ112との間に設けられている。
【0055】
第1のアナログメータ111は、指示針114Aを有している。第2のアナログメータ112は、指示針114B、114Cを有している。指示針114Aは、指示針114Aの先が向く方向によって例えばエンジン回転数、すなわち単位時間(例えば1分)あたりのエンジンの回転数を示す。指示針114Bは、指示針114Bの先が向く方向によって例えば燃料残量を示す。指示針114Cは、指示針114Cの先が向く方向によって例えばエンジン冷却水の温度(水温)を示す。
【0056】
図12に示されるディスプレイ113は、例えば液晶表示パネルまたはOLED(Organic Light Emitting Diode)などのアクティブマトリックスディスプレイである。ディスプレイ113は、表示領域に二次元的に配列された多数の画素を有しており、多数の画素から発せられる光によって人の目に視認可能な表示が実現される。本実施形態におけるディスプレイ113では、各画素がRGBのサブ画素を含み、カラーの画像を表示することができる。ディスプレイ113は、アナログメータとは異なり、表示領域内の任意の位置に、任意の大きさの数字、文字、図形、アイコン、記号、静止画像、または動画像を表示することが可能である。本実施形態では、ディスプレイ113が、図1に示す表示部124として機能する。
【0057】
図13は、メータパネルユニット110、およびメータパネルユニット110に接続された入力装置170の一例を示す図である。ユーザは、入力装置170を利用して、表示領域上のコンテンツの表示を変更したり、各種の設定項目を選択したりする操作を行うことができる。本実施形態では、入力装置170が図1に示す入力部122として機能する。
【0058】
図13に示される例において、ユーザによるインタラクティブな操作を可能とする入力装置170が、通信ケーブルを介してメータパネルユニット110に接続されている。入力装置170は、例えばジョグダイヤルなどのセレクタスイッチ171および操作スイッチ172を有する。入力装置170は、メータパネルユニット110に無線または有線で接続され得る。あるいは、入力装置170は、作業車両100の制御装置に接続され、CAN(Controller Area Network)通信によってメータパネルユニット110に入力信号を送ってもよい。入力装置170として、ユーザの操作を受け付ける任意の装置を用いることができる。入力装置170は、例えば、ロータリスイッチ、スライドスイッチ、押しボタンスイッチ、タッチスクリーン、ジョイスティック、またはそれらの二つ以上の組合せであってもよい。
【0059】
ディスプレイ113には、作業車両に関する情報を示す種々の画像が表示され得る。作業車両に関する情報は、例えば、内燃機関(エンジン)、車両本体、PTO軸、油圧/3点ヒッチ、および、車両本体が備える電装品に関連する情報を含む。これらの情報は、車両システムの内部状態を示す情報である。車両本体に関連する情報は、例えば、車両の進行方向、クラッチ、変速、ブレーキ、枕地制御、およびクルーズ制御に関する情報を含む。ディスプレイ113は、図3に示すような設定画面も表示する。さらに、ディスプレイ113には、例えばカメラ画像、ラジオ設定画面およびオーディオ設定画面を含む種々のコンテンツも表示され得る。
【0060】
<操作スイッチ群の例>
図14は、キャビン105の内部に設けられる操作スイッチ群の例を示す図である。キャビン105の内部には、ユーザが操作可能な複数のスイッチ(ボタン、レバー、ペダルを含む)を含むスイッチ群210が配置されている。操作スイッチ群210は、主変速段を切り替えるためのスイッチ(例えばボタン)、副変速段を切り替えるためのスイッチ(例えばシフトレバー)、前進と後進とを切り替えるためのスイッチ(例えばシャトルレバー)を含み得る。クラッチペダル、アクセルペダル、およびブレーキペダル等のペダル類もスイッチ群210に含まれる。図13に示す入力装置170もスイッチ群210に含まれ得る。
【0061】
図15Aから図15Cは、操作スイッチ群210に含まれるシフトレバー211の構成を説明するための図である。シフトレバー211は、ユーザが主変速段および副変速段の切り替えを行うために使用される。図15Aは、シフトレバー211の構成を示す斜視図である。図15Bは、シフトレバー211を図15Aとは異なる側から見た図である。図15Cは、シフトレバー211の操作によって切り替えられる副変速段を説明するための図である。これらの図に示されるシフトレバー211は、クラッチボタン212と、シフトアップボタン213と、シフトダウンボタン214とを備える。ユーザは、シフトレバー211を動かすことによって副変速段を切り替えることができる。ユーザは、副変速段を切り替えるとき、クラッチボタン212を押すか、クラッチペダルを踏むか、前後進を切り替えるシャトルレバーを中立にすることを要する。ユーザは、シフトアップボタン213を押すことにより、主変速を1段上げ、シフトダウンボタン214を押すことにより、主変速を1段下げることができる。
【0062】
本実施形態では、図15Cに示すように、副変速の段数は、低速(L)、中速(M)、高速(H)の3段である。LとMとの間の切り替え、またはMとHとの切り替えを行う場合、ユーザは、一旦シフトレバー211を中立(N)の位置に動かしてから切り替える。なお、副変速の合計段数は3に限らず、2または4以上であってもよい。副変速の合計段数は、典型的には2以上6以下であるが、この範囲に限定されない。
【0063】
主変速の合計段数は、例えば8段である。その場合、ユーザは、シフトアップボタン213またはシフトダウンボタン214を押すことにより、最も遅い1速から最も速い8速まで切り替えることができる。主変速の合計段数は8に限らず、7以下または9以上であってもよい。主変速の合計段数は、典型的には4以上12以下であるが、この範囲に限定されない。
【0064】
<変速制御に関する構成例>
図16は、作業車両100における変速制御に関する構成要素を示すブロック図である。図16に示す作業車両100は、操作スイッチ群210と、制御装置150と、記憶装置160と、変速装置103と、メータパネルユニット110と、入力装置170とを備えている。
【0065】
操作スイッチ群210は、ユーザが作業車両100の操作を行うために使用する複数の操作具を含む。操作具は、例えば、シフトレバー211と、クラッチボタン212と、シフトアップボタン213と、シフトダウンボタン214と、シャトルレバー216と、クラッチペダル217と、入力装置170とを含む。なお、入力装置170は、メータパネルユニット110に接続されていてもよい。
【0066】
制御装置150は、作業車両100の動作を制御する車載コンピュータである。制御装置150は、1つ以上の電子制御ユニット(ECU)によって実現され得る。制御装置150は、例えば、変速装置103を制御するECUと、メータパネルユニット110を制御するECUとを含み得る。各ECUは、1つ以上のプロセッサと、1つ以上のメモリとを備える。制御装置150が複数のECUによって実現される場合、それらのECUは、例えばCANなどのビークルバス規格に従って、相互に通信することができる。制御装置150は、図1に示す制御部120として機能する。
【0067】
記憶装置160は、フラッシュメモリまたは磁気ディスクなどの1つ以上の記憶媒体を含む。記憶装置160は、制御装置150が生成する各種のデータを記憶する。記憶装置160は、後述する各種の動作を制御装置150に実行させるコンピュータプログラムも記憶する。そのようなコンピュータプログラムは、記憶媒体(例えば半導体メモリまたは光ディスク等)または電気通信回線(例えばインターネット)を介して作業車両100に提供され得る。そのようなコンピュータプログラムが、商用ソフトウェアとして販売されてもよい。なお、制御装置150に含まれるメモリが記憶装置160としての役割を果たしてもよい。記憶装置160は、図1に示す記憶部126として機能する。
【0068】
変速装置103は、前後進切替装置10と、主変速装置11と、副変速装置12とを含む。前後進切替装置10は、原動機102からの動力を前進走行用の動力と後進走行用の動力とに切り替える。主変速装置11は、前後進切替装置10からの動力を複数段(例えば8段)に切り替える。副変速装置12は、主変速装置11からの動力を複数段(例えば3段)に切り替える。以下、図17を参照して、変速装置103の構成の例をより具体的に説明する。
【0069】
図17は、変速装置103のより具体的な構成例を示す図である。図17に示す変速装置103は、前後進切替装置10、主変速装置11、および副変速装置12に加えて、PTO動力伝達装置13と、前輪動力伝達装置14とを含む。
【0070】
前後進切替装置10は、原動機102のクランク軸15から走行系の推進軸16に伝達される動力を切り替える。すなわち、前後進切替装置10は、推進軸16の回転の方向を正転(前進)および逆転(後進)のいずれかに切り替える。前後進切替装置10は、伝達軸20と、油圧クラッチ21と、複数のギア22、23、24、25とを含む。伝達軸20は、クランク軸15の回転に伴って回転する。油圧クラッチ21は、油圧によって前進側と後進側とに切り替わる。油圧クラッチ21が前進側に切り替わると、伝達軸20の動力は、ギア25、26を介して推進軸16に伝達される。油圧クラッチ21が後進側に切り替わると、伝達軸20の動力は、ギア22、23、24、25、26を介して推進軸16に伝達される。
【0071】
主変速装置11は、第1主切替部31と、第2主切替部32と、第3主切替部33と、複数のギア34~44とを含む。複数のギア34~44の大きさは異なっており、これにより推進軸16を介して伝達される動力が複数段に切り替わるようになっている。主変速装置11は、ギア34~41によって4段に切り替わり、ギア39、42~44によって2段に切り替わる。すなわち、主変速装置11は、8段変速が可能である。
【0072】
第1主切替部31、第2主切替部32、および第3主切替部33の各々は、一方側と他方側とに切り替えることが可能な油圧クラッチである。第1主切替部31が一方側に切り替わると、推進軸16の動力は、ギア34、41を介して、ギア42に噛み合うギア43と、ギア39に噛み合うギア44とに伝達される。第1主切替部31が他方側に切り替わると、推進軸16の動力は、ギア35、40、42を介してギア43に伝達され、ギア35、40、39を介してギア44に伝達される。
【0073】
第2主切替部32が一方側に切り替わると、推進軸16の動力は、ギア36、39を介してギア44に伝達され、ギア36、39、42を介してギア43に伝達される。第2主切替部32が他方側に切り替わると、推進軸16の動力は、ギア37、38、42を介してギア43に伝達され、ギア37、38、39を介してギア44に伝達される。
【0074】
第3主切替部33が一方側に切り替わると、ギア43に伝達された動力が伝達軸47に伝達される。第3主切替部33が他方側に切り替わると、ギア44に伝達された動力が伝達軸47に伝達される。
【0075】
副変速装置12は、クリープ部50と、第1副切替部51と、第2副切替部52とを含む。クリープ部50は、伝達軸47に接続されており、シフタによって一方側と他方側とに切り替わる。クリープ部50が一方側に切り替わった場合、伝達軸47の動力は、シフタを介して伝達軸57に伝達される。クリープ部50が他方側に切り替わった場合、伝達軸47の動力は、ギア53~56を介して伝達軸57に伝達される。すなわち、クリープ部50が一方側に切り替わると、伝達軸47の動力が減速されずに伝達軸57に伝達され、クリープ部50が他方側に切り替わると、伝達軸47の動力がギア53~56によって減速されて伝達軸57に伝達される。
【0076】
第1副切替部51は、シフタ61と、ギア62とを含む。シフタ61は、伝達軸57とともに回転し、かつ軸方向に移動することができる。ギア62は、伝達軸57に対して相対的に回転することができる。シフタ61の位置は、制御装置150によって制御され、中立位置と高速位置との間で切り替えられる。シフタ61が高速位置に切り替えられて回転体67と噛み合うと、伝達軸57の動力は、ギア62、63、64、65を介して出力軸66に伝達される。ここで、ギア63、64は、伝達軸80とともに回転するように設けられ、ギア65は出力軸66とともに回転するように設けられている。
【0077】
第2副切替部52は、ギア71、72、74、76、77と、回転体73、78と、伝達体75と、シフタ79とを含む。ギア71は、伝達軸57とともに回転するように設けられている。ギア72は、ギア71に噛み合う。回転体73は、ギア72とともに回転する。ギア74は、回転体73とともに回転する。伝達体75は、伝達軸57に対して相対的に回転し、かつギア74の回転に伴って回転する。ギア76は、伝達体75とともに回転する。ギア77は、ギア76に噛み合う。回転体78は、ギア77の回転に伴って回転する。シフタ79は、伝達軸80とともに回転し、かつ軸方向に移動することができる。シフタ79の位置は、制御装置150によって制御され、低速位置、中立位置、中速位置の間で切り替えられる。
【0078】
シフタ79を中立位置から低速位置に切り替えて、シフタ79が回転体73に噛み合うと、伝達軸57の動力は、ギア71、72、シフタ79を介して伝達軸80に伝達される。シフタ79を中立位置から中速位置に切り替えてシフタ79が回転体78に噛み合うと、伝達軸57の動力は、ギア71、72、回転体73、ギア74、伝達体75、ギア76、77、回転体78、およびシフタ79を介して伝達軸80に伝達される。
【0079】
このような構成により、副変速装置12は、高速段(H)、中速段(M)、および低速段(L)の3段に切り替えることができる。副変速装置12を高速段(H)に切り替えるとき、制御装置150は、シフタ61を高速位置に切り替え、シフタ79を中立位置に切り替える。副変速装置12を中速段(M)に切り替えるとき、制御装置150は、シフタ61を中立位置に切り替え、シフタ79を中速位置に切り替える。副変速装置12を低速段(L)に切り替えるとき、制御装置150は、シフタ61を中立位置に切り替え、シフタ79を低速位置に切り替える。シフタ61、79の移動は、複数の電磁バルブを含む油圧システムを利用して行われる。切り替えられた動力は、出力軸66を介して後輪を回転させる後輪デフ装置82に伝達される。
【0080】
PTO動力伝達装置13は、伝達軸20の動力が伝達されるPTO回転軸27と、PTO回転軸27の動力を切り替える切替機構28とを含む。PTO動力伝達装置13によって、原動機102からの動力が、PTO回転軸27および切替機構28を介してPTO軸29に伝達される。
【0081】
前輪動力伝達装置14は、出力軸66の動力がギアを介して伝達される伝達軸18と、切替機構19とを含む。切替機構19によって切り替えられた動力が、前輪104Fに伝達される。
【0082】
<変速制御の動作>
本実施形態における制御装置150は、メータパネルユニット110のディスプレイ113に、例えば図3に示すような設定画面を表示させる。ユーザは、入力装置170を用いて、設定画面上で、各副変速段に対応する主変速段の値を設定する操作を行う。制御装置150は、この操作に基づいて、副変速段と主変速段の値との対応関係を示す情報(例えばテーブル)を生成して記憶装置160に記憶させる。この動作は、例えば作業車両100が走行していない状態で行われ得る。記憶装置160は、不揮発性の記憶装置であり、記憶された情報は、作業車両100の停止後(すなわちエンジンオフ後または電源オフ後)でも消去されない。
【0083】
その後、ユーザがシフトレバー211を操作することによって副変速段が切り替えられると、制御装置150は、記憶された対応関係に基づいて、切り替え後の副変速段に対応する値に主変速段を設定する。このように、制御装置150は、操作具を用いたユーザの操作によって副変速段が切り替えられたとき、切り替え後の副変速段に対応する値に主変速段を設定する。制御装置150は、例えばシフトレバー211に設けられたセンサからの信号に基づいて、副変速段が特定の段から別の段に切り替えられたことを検知することができる。より具体的には、制御装置150は、図2図7、および図8を参照しながら説明した方法で変速装置103を制御する。このような制御を適用することにより、ユーザによる変速操作を簡便にし、利便性を大きく向上させることができる。
【0084】
なお、本実施形態ではユーザ(運転者)が作業車両100を運転することを前提としたが、作業車両100は自動運転または自動変速制御の機能を備えていてもよい。自動運転または自動変速制御が行われる場合も、予めユーザが設定した副変速段ごとの主変速段の値に基づいて、副変速段の切り替え時に主変速段を自動で設定してもよい。
【0085】
上記の実施形態における制御装置(制御部)および記憶装置(記憶部)を含む制御システムを、作業車両に後から取り付けることもできる。そのようなシステムは、作業車両とは独立して製造および販売され得る。そのようなシステムで使用されるコンピュータプログラムも、作業車両とは独立して製造および販売され得る。コンピュータプログラムは、例えばコンピュータが読み取り可能な非一時的な記憶媒体に格納されて提供され得る。コンピュータプログラムは、電気通信回線(例えばインターネット)を介したダウンロードによっても提供され得る。
【0086】
以上のように、本開示は、以下の項目に記載の作業車両、制御方法、およびプログラムを含む。
【0087】
[項目1]
複数の主変速段および複数の副変速段を切り替えることによって変速を行う変速装置と、
前記複数の副変速段の少なくとも1つに対応する前記主変速段の値をユーザが設定するための入力部と、
前記副変速段と前記値との対応関係を記憶する記憶部と、
前記副変速段が切り替えられたとき、前記対応関係に基づいて、切り替え後の前記副変速段に対応する前記値に前記主変速段を設定する制御部と、
を備える作業車両。
【0088】
[項目2]
前記制御部は、前記作業車両の停止前に前記値が設定され、前記作業車両の起動後に前記副変速段が切り替えられたとき、切り替え後の前記副変速段に対応する、前記作業車両の停止前に設定された前記値に前記主変速段を設定する、項目1に記載の作業車両。
【0089】
[項目3]
前記値を設定するための設定画面を表示する表示部を備える、項目1または2に記載の作業車両。
【0090】
[項目4]
前記表示部は、前記副変速段のそれぞれについて、前記値を設定するか否かを選択することが可能な表示を行う、項目3に記載の作業車両。
【0091】
[項目5]
前記記憶部は、前記副変速段と前記主変速段との組み合わせが変更されたとき、変更された前記組み合わせを記憶し、
前記制御部は、前記値が設定されていない前記副変速段に切り替えられたとき、前記主変速段を、前記副変速段で前記作業車両が前回走行したときに記憶された前記主変速段の値に切り替える、
項目4に記載の作業車両。
【0092】
[項目6]
前記制御部は、前記副変速段が、前記作業車両が起動してから使用されていない前記副変速段に切り替えられ、かつ前記副変速段に対応する前記主変速段の値が設定されていないとき、前記主変速段を、前記副変速段の切り替え前の減速比に最も近い減速比を実現する前記主変速段に切り替える、
項目4または5に記載の作業車両。
【0093】
[項目7]
ユーザにより操作される操作具を備え、
前記制御部は、前記操作具を用いたユーザの操作により、前記副変速段が切り替えられたとき、切り替え後の前記副変速段に対応する前記値に前記主変速段を設定する、
項目1から6のいずれかに記載の作業車両。
【0094】
[項目8]
前記主変速段の合計の段数は、4以上12以下であり、
前記副変速段の合計の段数は、2以上6以下である、
項目1から7のいずれかに記載の制御システム。
【0095】
[項目9]
複数の主変速段および複数の副変速段を切り替えることによって変速を行う変速装置を備えた作業車両の制御方法であって、
入力装置を用いたユーザの操作に応答して、前記複数の副変速段の少なくとも1つに対応する前記主変速段の値を設定することと、
前記副変速段と前記値との対応関係を記憶装置に記憶させることと、
前記副変速段が切り替えられたとき、前記対応関係に基づいて、切り替え後の前記副変速段に対応する前記値に前記主変速段を設定することと、
を含む制御方法。
【0096】
[項目10]
複数の主変速段および複数の副変速段を切り替えることによって変速を行う変速装置を備えた作業車両を制御するためのプログラムであって、
入力装置を用いたユーザの操作に応答して、前記複数の副変速段の少なくとも1つに対応する前記主変速段の値を設定することと、
前記副変速段と前記値との対応関係を記憶装置に記憶させることと、
前記副変速段が切り替えられたとき、前記対応関係に基づいて、切り替え後の前記副変速段に対応する前記値に前記主変速段を設定することと、
をコンピュータに実行させるプログラム。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本開示の技術は、例えば農業用トラクタ、収穫機、または移植機などの作業車両に利用可能である。本開示の技術は農業用途に限らず、他の用途で使用される作業車両にも適用できる。
【符号の説明】
【0098】
10 前後進切替装置
11 主変速装置
12 副変速装置
13 PTO動力伝達装置
14 前輪動力伝達装置
100 作業車両
101 車両本体
102 原動機
103 変速装置
104 走行装置
105 キャビン
106 操舵装置
107 運転席
108 連結装置
109 ペダル
110 メータパネルユニット
111 第1のアナログメータ
112 第2のアナログメータ
113 ディスプレイ
114A、114B、114C 指示針
115 メータ部
150 制御装置
160 記憶装置
170 入力装置
171 セレクタスイッチ
172 操作スイッチ
200 操作端末
210 操作スイッチ群
211 シフトレバー
212 クラッチボタン
213 シフトアップボタン
214 シフトダウンボタン
215 副変速表示
216 シャトルレバー
217 クラッチペダル
220 ステアリングホイール
230 ハンドルステー
240 メータカバー
300 作業機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
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図10
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図15A
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