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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017089
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】検出装置および検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 5/00 20060101AFI20240201BHJP
   B60B 3/16 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
G01L5/00 103Z
B60B3/16 D
B60B3/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119492
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003551
【氏名又は名称】株式会社東海理化電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小杉 正則
【テーマコード(参考)】
2F051
【Fターム(参考)】
2F051AA01
2F051AB06
2F051AC07
(57)【要約】
【課題】締結部材の回転角度の基準値を容易に設定することが可能な検出装置を提供する。
【解決手段】センサ装置100(検出装置)は、X軸加速度およびY軸加速度を検出する加速度センサ1(センサ部)を備える。また、センサ装置100は、X軸加速度およびY軸加速度に基づいて算出されたセンサ装置100の回転角度と、X軸加速度およびY軸加速度の各々の初期値(基準加速度)に基づいて算出されたセンサ装置100の回転角度の初期値との比較結果に基づいて、ナット240の締結状態を検出する信号処理部2(状態検出部)を備える。信号処理部2は、X軸加速度およびY軸加速度の各々が0値とみなせる値となった後に、加速度センサ1により検出された上記0値よりも大きな加速度を、加速度の初期値として規定する。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重力方向に対して交差する回転軸を有した回転体に所定の部材を締結する締結部材の締結状態を検出する検出装置であって、
前記締結部材により前記回転体に前記所定の部材が締結された状態で、前記回転体の回転軸に対して交差する平面に沿った少なくとも1つの軸における加速度を検出するセンサ部と、
前記センサ部により検出された加速度に基づく値と、加速度の基準値として規定された基準加速度に基づく値との比較結果に基づいて、前記締結部材の締結状態を検出する状態検出部と、を備え、
前記状態検出部は、前記少なくとも1つの軸の加速度の絶対値が0値とみなせる値となった後に、前記センサ部により検出された前記0値よりも大きな加速度の絶対値に基づく値を、前記基準加速度として規定する、検出装置。
【請求項2】
前記状態検出部は、
所定の時間毎に前記締結部材の前記少なくとも1つの軸の加速度を取得するとともに、
前記少なくとも1つの軸の加速度の絶対値が前記0値とみなせる値となった後に、前記センサ部により複数回検出された前記0値よりも大きな加速度の絶対値に基づく値の平均値を、前記基準加速度として規定する、請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記状態検出部は、
所定の時間毎に前記締結部材の前記少なくとも1つの軸の加速度を取得するとともに、
前記少なくとも1つの軸の加速度の絶対値が前記0値とみなせる値となった後に、前記所定の時間を長くする制御を行う、請求項1または2に記載の検出装置。
【請求項4】
前記状態検出部は、前記少なくとも1つの軸の加速度の絶対値が前記0値とみなせる値となった後に、前記所定の時間を徐々に長くする制御を行う、請求項3に記載の検出装置。
【請求項5】
前記センサ部は、車体にホイールを固定するナットに設けられている、請求項1または2に記載の検出装置。
【請求項6】
重力方向に対して交差する回転軸を有した回転体に所定の部材を締結する締結部材の締結状態を検出する検出方法であって、
前記締結部材により前記回転体に前記所定の部材が締結された状態で、前記回転体の回転軸に対して交差する平面に沿った少なくとも1つの軸における加速度を検出するセンサ部により、前記少なくとも1つの軸における加速度を検出する工程と、
前記少なくとも1つの軸に沿った加速度の絶対値が0値とみなせる値となった後に、前記センサ部により検出された前記0値よりも大きな加速度の絶対値に基づく値を、基準加速度として規定する規定工程と、
前記センサ部により検出された前記少なくとも1つの軸における加速度に基づく値と、前記基準加速度に基づく値との比較結果に基づいて、前記締結部材の締結状態を検出する工程と、を備える、検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、検出装置および検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2005-329907号公報(特許文献1)には、タイヤあるいはホイールに取り付けられた検出器(Gセンサ)の検出値に基づいて、タイヤ(ホイールを締結するナット)の取り付け状態を検出する検出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-329907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載された検出装置では、ホイールに締結されたナットの緩み具合がGセンサの検出値に基づいて検出されている。しかしながら、ナットが緩んだ時に生じるホイールの振動は、車両やタイヤの種類によって変わり得るものである。そこで、車両やタイヤ(回転体)の種類に拘わらずナット(締結部材)の緩み具合を検出するために、ナットの回転角度に基づく値の変化量に基づいてナットの緩み具合を検出することが考えられる。この場合、ナットの緩み具合を検出するためには、ナットの回転角度に基づく値の基準値(初期値)を設定することが必要である。そこで、ナット(締結部材)の回転角度に基づく値の基準値を容易に設定することが可能な検出装置および検出方法が望まれている。
【0005】
本開示は、かかる課題を解決するためになされたものであり、本開示の目的は、締結部材の回転角度に基づく値の基準値を容易に設定することが可能な検出装置および検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の局面による検出装置は、重力方向に対して交差する回転軸を有した回転体に所定の部材を締結する締結部材の締結状態を検出する検出装置であって、締結部材により回転体に所定の部材が締結された状態で、回転体の回転軸に対して交差する平面において互いに交差する少なくとも1つの軸に沿った加速度を検出するセンサ部と、センサ部により検出された加速度に基づく値と、加速度の基準値として規定された基準加速度に基づく値との比較結果に基づいて、締結部材の締結状態を検出する状態検出部と、を備え、状態検出部は、少なくとも1つの軸に沿った加速度の絶対値が0値とみなせる値となった後に、センサ部により検出された0値よりも大きな加速度の絶対値に基づく値を、基準加速度として規定する。
【0007】
本開示の第1の局面による検出装置では、上記のように、少なくとも1つの軸に沿った加速度の絶対値が0値とみなせる値となった後に、センサ部により検出された0値よりも大きな加速度が、基準加速度として規制される。ここで、締結部材を締めるために締結部材を回転体から一旦外して地面に水平に置いた場合、センサ部の少なくとも1つの軸の加速度は0になる。そして、締結部材を締める作業が完了した後、回転体の回転が開始されることにより、締結部材に所定の大きさ以上の遠心加速度がかかる。したがって、締結部材を締める作業が完了して回転体の回転が開始された際の締結部材の加速度が、基準加速度として自動的に設定される。これにより、たとえばユーザが所定の操作を行うことにより締結部材の基準加速度が設定される場合に比べて、ユーザの手間を低減することができる。その結果、締結部材の加速度(回転角度に基づく値)の基準値を容易に設定することができる。
【0008】
本開示の第2の局面に従う検出方法は、重力方向に対して交差する回転軸を有した回転体に所定の部材を締結する締結部材の締結状態を検出する検出方法であって、締結部材により回転体に所定の部材が締結された状態で、回転体の回転軸に対して交差する平面に沿った少なくとも1つの軸における加速度を検出するセンサ部により、少なくとも1つの軸における加速度を検出する工程と、少なくとも1つの軸に沿った加速度の絶対値が0値とみなせる値となった後に、センサ部により検出された0値よりも大きな加速度の絶対値に基づく値を、基準加速度として規定する規定工程と、センサ部により検出された少なくとも1つの軸における加速度に基づく値と、基準加速度に基づく値との比較結果に基づいて、締結部材の締結状態を検出する工程と、を備える。
【0009】
本開示の第2の局面による検出方法では、上記のように、少なくとも1つの軸に沿った加速度の絶対値が0値とみなせる値となった後に、センサ部により検出された0値よりも大きな加速度が、基準加速度として規定される。これにより、締結部材の加速度(回転角度に基づく値)の基準値を容易に設定することが可能な検出方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、締結部材の回転角度に基づく値の基準値を容易に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態によるセンサ装置が設けられている車両を示す図である。
図2】一実施形態によるナットの断面図である。
図3】一実施形態によるセンサ装置の構成を示す図である。
図4】一実施形態による信号処理部の機能ブロック図である。
図5】一実施形態による車両のタイヤ(初期状態)の構成を示す正面図である。
図6】遠心力が0の場合の加速度とホイールの回転角との関係を示す図である。
図7】遠心力が6Gの場合の加速度とホイールの回転角との関係を示す図である。
図8】一実施形態による車両のタイヤ(ナットが緩んだ状態)の構成を示す正面図である。
図9】ナットが緩んだ状態で遠心力が6Gの場合の加速度とホイール角度との関係を示す図である。
図10図10(A)は、遠心力が6Gの場合の加速度の平均値とセンサ角度との関係を示す図である。図10(B)は、遠心力が10Gの場合の加速度の平均値とセンサ角度との関係を示す図である。
図11】一実施形態によるセンサ装置を用いてナットの締結状態を検出する方法を示すフロー図である。
図12】一実施形態によるセンサ装置を地面に水平に置いた状態を示す図である。
図13】一実施形態の第1変形例によるナットの断面図である。
図14】一実施形態の第2変形例によるナットの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0013】
図1は、本実施形態に係るセンサ装置100(図2参照)が搭載される車両200を示す図である。車両200は、複数の車輪210を備える。また、車両200は、後述の通信部3と通信可能でかつ図示しない表示部を備える通信端末201を備える。なお、センサ装置100は、本開示の「検出装置」の一例である。
【0014】
車輪210は、ホイール220と、ホイール220に取り付けられるタイヤ230とを含む。ホイール220は、複数(図1では5つ)のナット240によりホイールハブ250a(図2参照)に締結されている。なお、ナット240の個数は上記の例に限られない。また、ホイールハブ250aは、本開示の「所定の部材」および「車体」の一例である。また、ホイール220およびナット240は、それぞれ、本開示の「回転体」および「締結部材」の一例である。
【0015】
図2に示すように、ナット240は、ホイール220にボルト250を締結させる。具体的には、ホイール220には、ボルト250が挿入(貫通)される複数(5つ)のホイール穴221が設けられている。ナット240は、ホイール穴221に挿入された状態のボルト250(図2参照)をホイール220に締結する。なお、ボルト250は、ホイールハブ250aに固定されている。
【0016】
図2は、ダブルタイヤの例を示しており、ホイール220は、内側ホイール222と外側ホイール223からなる。
【0017】
ナット240は、片面側が開放されている。また、ナット240には、ナットキャップ241が取り付けられている。センサ装置100は、たとえばナットキャップ241に取り付けられていることによって、ナット240に間接的に設けられていてもよい。なお、ナット240は、本開示の「締結部材」の一例である。
【0018】
具体的には、ナットキャップ241は、天井部241aと、側面部241bとを含む。側面部241bは、ボルト250のうちホイール穴221を貫通した部分を周状に取り囲むように設けられている。天井部241aは、ボルト250の先端部251と(ボルト250の挿入方向に)対向するように設けられている。天井部241aは、側面部241bと連続的に設けられている。なお、ナット240とホイール220との間には、ワッシャ243が設けられていてもよい。
【0019】
センサ装置100は、ナットキャップ241の天井部241aの内表面241cに取り付けられて(接着されて)いる。したがって、センサ装置100は、ボルト250が収容されるナットキャップ241の空間S内に配置されている。
【0020】
また、センサ装置100は、各車輪210に設けられる複数のナット240のうちの一部に設けられている。なお、センサ装置100は、各車輪210に設けられる複数のナット240の全てに設けられていてもよい。
【0021】
図3に示すように、センサ装置100は、加速度センサ1と、信号処理部2と、通信部3と、電源部4とを備える。なお、加速度センサ1および信号処理部2は、それぞれ、本開示の「センサ部」および「状態検出部」の一例である。
【0022】
図5に示すように、加速度センサ1は、ホイール220の図示しない回転軸(図5の紙面に垂直な方向に延びる軸)に対して直交する平面において互いに直交するX軸およびY軸の各々の加速度を検出する。加速度センサ1により検出される加速度は、正または負の大きさ(向き)を有する。図5に示すX軸およびY軸の各々を示す矢印は、それぞれ、X軸およびY軸の正方向を示す。なお、図5に示す紙面を見ると、Y軸は、X軸に対して反時計回りに90度回転した向きを正方向とする。
【0023】
また、図5に示すZ方向は、鉛直方向(上下方向)を示す。また、車輪210が回転することにより、ナット240Aには、車輪210の回転速度に応じた遠心加速度がかかる。本実施形態においては、説明を簡略化するため、重力加速度に対して遠心加速度が十分に大きな値であるものとして説明する(重力加速度を無視できるものとして説明する)。なお、図5において、5つのナット240のうち最もZ1側に位置するナット240をナット240Aと称している。なお、以下の説明では、センサ装置100の向きが図5の状態の時、センサ装置100の角度(回転角度)を0度としている。
【0024】
信号処理部2は、加速度センサ1の検出信号に基づいて、ナット240の状態(締結状態)を検出する。図4に示すように、信号処理部2は、2乗和平方根算出部2aと、正規化部2bと、回転角度算出部2cと、締結状態検出部2dと、初期値設定部2eと、センシング周期設定部2fとを含む。なお、図4に示す2乗和平方根算出部2a、正規化部2b、回転角度算出部2c、締結状態検出部2d、初期値設定部2e、および、センシング周期設定部2fの各々は、信号処理部2の機能的特徴をブロック化したソフトウェアを示すものである。各機能についての詳細は後述する。
【0025】
通信部3は、信号処理部2の処理結果または処理結果に基づく情報を、無線通信により、車両200の通信端末201(図1参照)に送信する。
【0026】
電源部4は、加速度センサ1、信号処理部2、および、通信部3の各々に電力を供給する。
【0027】
加速度センサ1は、ナット240によりホイール220にホイールハブ250aが締結された状態で、X軸の加速度(ベクトル)であるX軸加速度(Xg)と、Y軸の加速度(ベクトル)であるY軸加速度(Yg)とを検出する。なお、X軸加速度およびY軸加速度の各々は、G値(重力加速度を1Gとする値)により表される。
【0028】
図6は、車両200の車速が0(ナット240に働く遠心力が0)の場合における、タイヤ230(ホイール220)の回転軸を中心とした回転角とX軸加速度およびY軸加速度の各々との関係を示すグラフである。この場合、X軸加速度およびY軸加速度の各々は、±1Gの範囲で正弦波状に変動する。これは、X軸およびY軸の各々には、Z2方向にかかる重力加速度に基づく加速度成分のみが含まれるためである。なお、図6は、図5に示すナット240Aに設けられたセンサ装置100の結果を示す図である。
【0029】
図7は、所定の車速によってナット240に遠心加速度が6Gの遠心力が働く場合における、タイヤ230(ホイール220)の回転角とX軸加速度およびY軸加速度の各々との関係を示すグラフである。なお、本開示においては、G値によって遠心力の大きさを示す場合がある。図5に示すY軸の向きではY軸には遠心力の力成分が加わらないので、Y軸加速度は図6の場合と変化がない。一方、X軸には遠心力の力成分が加わるので、X軸加速度は図6のX軸加速度に6Gが加えられた値となる。この場合のX軸加速度およびY軸加速度の2乗和平方根の波形は、X軸加速度の波形と同一となる。なお、図7では、分かりやすいように、X軸加速度の波形と2乗和平方根の波形とを僅かにずらして図示されている。また、図7は、図5に示すナット240Aに設けられたセンサ装置100の結果を示す図である。
【0030】
図8は、図5の状態からナット240が時計回りに135度回転した(緩んで反時計回りに225度回転した)状態を示す図である。図9は、図8の状態でナット240に6Gの遠心力が働く場合における、タイヤ230(ホイール220)の角度とX軸加速度およびY軸加速度の各々との関係を示すグラフである。この場合、X軸加速度およびY軸加速度の各々の波形の振幅は図7の場合と等しい一方、X軸加速度およびY軸加速度の各々の平均値は図7の場合と異なる。X軸加速度およびY軸加速度の各々の平均値は、ナット240(センサ装置100)の回転角度を反映している。その一方、X軸加速度およびY軸加速度の2乗和平方根の波形は、図7の場合と同じであり、ナット240(センサ装置100)の回転角度によって変化しない。なお、図9は、図8に示すナット240Aに設けられたセンサ装置100の結果を示す図である。
【0031】
図10(A)は、遠心力が6Gの場合における、センサ装置100の角度(回転角度)に対する加速度の平均値を示すグラフである。図10(B)は、遠心力が10Gの場合における、センサ装置100の角度(回転角度)に対する加速度の平均値を示すグラフである。図10(A)および(B)に示されるように、X軸加速度およびY軸加速度の各々の平均値の波形は、遠心力に対応する振幅を有する(縦軸のスケールは互いに異なる)一方、互いに同じ形状を有する。また、図10(A)および(B)の各々において、X軸加速度およびY軸加速度の各々の平均値の2乗和平方根は、遠心力に対応する一定値となる。したがって、X軸加速度およびY軸加速度の各々の平均値を上記2乗和平方根で除算した値は、遠心力の大きさに拘わらず等しくなる。
【0032】
本実施形態の信号処理部2(2乗和平方根算出部2a)は、X軸加速度(Xg)とY軸加速度(Yg)との2乗和平方根を算出する。また、信号処理部2(正規化部2b)は、X軸加速度を上記2乗和平方根により除算することによりX軸正規化値を算出する。また、信号処理部2(正規化部2b)は、Y軸加速度を上記2乗和平方根により除算することによりY軸正規化値を算出する。
【0033】
そして、信号処理部2(回転角度算出部2c)は、X軸正規化値およびY軸正規化値の両方に基づいて、ナット240(センサ装置100)の回転角度を検出する。図10を参照して、上記で説明したように、車速が一定値以上の場合、X軸正規化値およびY軸正規化値の値は、遠心力(車速)に拘わらずセンサ角度に基づいた値となる。したがって、X軸正規化値およびY軸正規化値を用いることにより、車速に拘わらずナット240の回転角度を検出することが可能である。また、信号処理部2(回転角度算出部2c)は、所定時間毎(たとえば20秒~120秒ごと)に、X軸加速度およびY軸加速度の情報を加速度センサ1から取得するとともにナット240の回転角度を算出する。なお、ナット240の回転角度は、本開示の「加速度に基づく値」の一例である。
【0034】
また、信号処理部2(締結状態検出部2d)は、今回算出されたナット240の回転角度と、前回までのナット240の回転角度との差分に基づいて、ナット240の締結状態を検出する。信号処理部2(締結状態検出部2d)は、上記差分が所定の許容範囲外であれば、ナット240が緩んでいる(固定されていない)と判断する。この場合、信号処理部2は、通信部3(図3参照)を通じて通信端末201(図1参照)にナット240が緩んでいることを通知する。これにより、通信端末201の図示しない表示部に警告が表示されてもよいし、通信端末201に警告音を発生させてもよい。一方、信号処理部2(締結状態検出部2d)は、上記差分が所定の許容範囲内であれば、ナット240が固定されていると判断する。この場合、信号処理部2は、通信端末201への通知は行わない。また、上記の前回までの回転角度とは、前回の回転角度であってもよいし、前回を含む過去数回分の回転角度の平均値であってもよい。
【0035】
また、信号処理部2(締結状態検出部2d)は、加速度センサ1により検出されたX軸加速度およびY軸加速度のうち絶対値が大きい方の今回の検出値および前回までの検出値の各々が±1Gの範囲内である場合に、ホイール220(タイヤ230)の回転が停止していると判定する。なお、前回までの検出値とは、前回の検出値であってもよいし、前回を含む過去数回分の検出値の平均値であってもよい。また、X軸加速度およびY軸加速度のいずれか一方に基づいて、ホイール220(タイヤ230)の回転の停止を判定してもよい。なお、X軸加速度およびY軸加速度の両方の今回の検出値および前回までの検出値の各々が±1Gの範囲内である場合に、ホイール220(タイヤ230)の回転が停止していると判定されてもよい。
【0036】
また、信号処理部2は、ホイール220(タイヤ230)の回転が停止していると判定した場合に、センサ装置100によるセンシングの周期(上記所定時間)を長くする(たとえば30分周期とする)処理を行う。
【0037】
また、信号処理部2は、加速度センサ1により検出されるX軸加速度およびY軸加速度の各々の情報を取得する。信号処理部2(初期値設定部2e)は、X軸加速度およびY軸加速度の各々が0値とみなせる値となった後に、X軸加速度およびY軸加速度の少なくとも絶対値が大きい方の絶対値が0値よりも大きい所定の値(たとえば2G)以上になった際のX軸加速度およびY軸加速度を初期値に規定する。また、初期値は、本開示の「基準加速度」の一例である。なお、0値とみなせる値とは、0値を中心とした所定の範囲内(たとえば0±0.1G)の値を意味する。
【0038】
たとえば、ナット240のトルク締めの際に、ナット240がホイール220から一旦取り外されて地面に水平に置かれた場合、X軸加速度およびY軸加速度の各々は0になる。その後、ナット240がホイール220に取り付けられた後、車両200が所定の速度以上で走行することによりナット240に3G以上の遠心加速度がかかる。この際のX軸加速度およびY軸加速度の各々が初期値として設定される。
【0039】
具体的には、信号処理部2(初期値設定部2e)は、X軸加速度およびY軸加速度の各々が0値とみなせる状態が所定の時間以上(たとえば30分以上)継続された後に、X軸加速度およびY軸加速度の少なくとも絶対値が大きい方の絶対値が上記所定の値以上になった際のX軸加速度およびY軸加速度の各々を初期値として設定する。これにより、X軸加速度およびY軸加速度の各々が加速度センサ1の誤検知により(瞬間的に)0になった場合に初期値の設定が行われるのを抑制することが可能である。
【0040】
詳細には、X軸加速度およびY軸加速度の各々が0となった後の複数回の検出において、X軸加速度およびY軸加速度の少なくとも絶対値が大きい方の絶対値が上記所定の値以上となった際に、該当する複数回の検出における、X軸加速度の平均値およびY軸加速度の平均値の各々が初期値として設定される。なお、上記の複数回の検出は、連続した複数回の検出であってもよい。
【0041】
また、信号処理部2(センシング周期設定部2f)は、X軸加速度およびY軸加速度の各々が0になった後に、センシング周期を長くする制御を行う。たとえば、信号処理部2は、センシング周期を、20~120秒から30分(一定値)に変更する。
【0042】
また、信号処理部2(締結状態検出部2d)は、現在のナット240(センサ装置100)の回転角度と上記初期値に基づいて算出されたナット240(センサ装置100)の回転角度との差分に基づいて、ナット240の締結状態を検出する。具体的には、信号処理部2(締結状態検出部2d)は、上記差分が所定の許容範囲外となった場合に、ナット240が緩んでいる(固定されていない)と判断する。この場合、信号処理部2は、通信部3(図3参照)を通じてナット240が緩んでいることを通信端末201(図1参照)に通知する。これにより、通信端末201の図示しない表示部に警告が表示されてもよいし、通信端末201に警告音を発生させてもよい。
【0043】
(ナットの締結状態の検出方法)
次に、図11のフロー図を参照して、ナット240の締結状態を検出する方法を説明する。
【0044】
まず、ステップS1において、ナット240(ナットキャップ241)を鉛直方向に直交する水平面900に配置する工程(図12参照)が行われる。これにより、加速度センサ1により検知されるX軸加速度およびY軸加速度の各々が0になる。次に、ステップS2において、信号処理部2は、X軸加速度およびY軸加速度の各々が0である(0値とみなせる)ことを示す情報を、加速度センサ1から取得する。次に、ステップS3において、信号処理部2(センシング周期設定部2f)は、センシング周期を、たとえば、20~120秒から30分に変更する。
【0045】
次に、ステップS4において、信号処理部2は、加速度センサ1からの情報に基づいて、X軸加速度およびY軸加速度の各々が0である状態が所定の時間(たとえば30分)以上継続していることを検知したとする。
【0046】
その後、ステップS5において、ナット240によりホイール220にホイールハブ250aが締結された状態で、X軸加速度およびY軸加速度の少なくとも一方を上記所定の値(たとえば2G)以上にする工程が行われる。具体的には、ナット240によりホイール220にホイールハブ250aが締結された状態で、所定の速度以上で車両200を走行させることにより、ナット240に所定の大きさ以上の遠心加速度をかける。
【0047】
次に、ステップS6において、信号処理部2は、X軸加速度およびY軸加速度の少なくとも一方が上記所定の値以上であることを示す情報を取得する。
【0048】
次に、ステップS7において、信号処理部2(初期値設定部2e)は、X軸加速度およびY軸加速度の少なくとも一方が上記所定の値以上であることが検知された際(ステップS6の情報を取得した際)のX軸加速度およびY軸加速度の各々を初期値として設定する。具体的には、信号処理部2(初期値設定部2e)は、ステップS6の情報を取得した後の複数回(たとえば3回)のセンシングにおいて算出されたX軸加速度およびY軸加速度の各々の平均値を初期値として設定する。
【0049】
そして、ステップS8では、信号処理部2(締結状態検出部2d)は、ステップS7において設定されたX軸加速度およびY軸加速度の各々の初期値に基づいて、ナット240の締結状態を検出する。具体的には、信号処理部2(締結状態検出部2d)は、現在のX軸加速度およびY軸加速度に基づいて算出されるナット240の回転角度と、上記初期値に基づいて算出されるナット240の回転角度との差分に基づいて、ナット240の緩み具合を検出する。
【0050】
なお、上記ステップS1およびS5はユーザにより行われる工程であり、それ以外のステップは信号処理部2により行われる処理工程である。
【0051】
以上のように、本実施形態においては、X軸加速度およびY軸加速度の各々が0値とみなせる値となった後に、X軸加速度およびY軸加速度の少なくとも絶対値が大きい方の絶対値が0値よりも大きい所定の値以上となった際のX軸加速度およびY軸加速度の各々が初期値として設定される。これにより、X軸加速度およびY軸加速度の各々の初期値が自動的に設定されるので、ユーザの手間を低減することができる。その結果、X軸加速度およびY軸加速度の各々の初期値を容易に設定することができる。
【0052】
また、上記初期値を登録するための機械的なスイッチ等を設ける必要がないので、車両200の部品点数を低減することができるとともに車両200の構成を簡略化することができる。なお、上記初期値を登録するために、上記のような機械的スイッチや、磁力によってオンオフが切り替わるスイッチ等が車両に設けられていてもよい。
【0053】
なお、上記実施形態では、信号処理部2は、X軸加速度およびY軸加速度の各々が0値とみなせる状態になった後に、センシング周期を30分(一定値)に設定する例を示したが、本開示はこれに限られない。信号処理部2は、X軸加速度およびY軸加速度の各々が0値とみなせる状態になった後に、センシング周期を徐々に長くしてもよい。たとえば、信号処理部2は、センシング周期を、1分、5分、30分、2時間、6時間(以後、6時間ごと)に徐々に長くしてもよい。なお、上記実施形態では、X軸加速度およびY軸加速度の各々が0値とみなせる状態がたとえば30分以上継続している場合に上記初期値の設定が行われる例を示したが、上記のようにセンシング周期が徐々に長くされる場合では、上記状態が5分以上継続している場合に上記初期値の設定が行われてもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、加速度センサ1が、X軸加速度およびY軸加速度を検出する例を示したが、本開示はこれに限られない。たとえば、加速度センサが、ホイール220の回転軸に対して直交する平面において互いに交差する3軸以上の加速度を検出してもよい。また、加速度センサは、X軸加速度およびY軸加速度のいずれか一方のみを検出してもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、X軸加速度およびY軸加速度の各々が0となった後の複数回の検出におけるX軸加速度およびY軸加速度の各々の平均値を初期値として設定する例を示したが、本開示はこれに限られない。X軸加速度およびY軸加速度の各々が0となった後の1回のセンシングにおいて算出されたX軸加速度およびY軸加速度を初期値として設定してもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、車両200のホイール220に設けられるナット240の締結状態を検出する例を示したが、本開示はこれに限られない。たとえば、エレベータのプーリやベルトコンベアの滑車、遊園地等に備えられるコーヒーカップおよびメリーゴーランド、および、公園等に備えられる回転式遊具などに取り付けられるナット等の締結部材の締結状態を検出してもよい。なお、上記の例のうち、重力に対して垂直な面に沿って回転する回転体の場合、遠心力が重力の影響を受けないので、遠心加速度が小さい場合でも締結部材の締結状態を検出を容易に行うことが可能である。
【0057】
また、上記実施形態では、ナット240にナットキャップ241が取り付けられている例を示したが、本開示はこれに限られない。図13に示すように、センサ装置100は、袋ナットであるナット340に取り付けられていてもよい。なお、ナット340は、本開示の「締結部材」の一例である。
【0058】
また、図14に示す第2変形例では、ナット440は、片面側が開放されている一方でナットキャップを含まない。この例では、センサ装置100は、ナット440の側面441(ホイール220と直交するように設けられる面)に設けられていてもよい。なお、ナット440は、本開示の「締結部材」の一例である。
【0059】
また、上記実施形態では、ナット240にセンサ装置100が設けられる例を示したが、本開示はこれに限られない。センサ装置100がボルト(ホイールハブとは別個のボルト)に設けられていてもよい。この場合のボルトは、本開示の「締結部材」の一例である。
【0060】
また、上記実施形態では、センサ装置100に設けられる信号処理部2によってナット240の緩みを検出する例を示したが、本開示はこれに限られない。たとえば、車両200に設けられるECU(Electronic Control Unit)に通信部3を通じて加速度センサ1の検出値を送信し、ECUが上記検出値に基づいてナット240の緩みを検出してもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、ナット240の回転角度の変化に基づいて、ナット240の締結状態(緩み具合)を検出する例を示したが、本開示はこれに限られない。X軸正規化値(X軸加速度)およびY軸正規化値(Y軸加速度)の少なくとも一方の変化量と所定の閾値との比較に基づいてナット240の締結状態(緩み具合)を検出してもよい。この場合、X軸正規化値(X軸加速度)およびY軸正規化値(Y軸加速度)は、本開示の「加速度に基づく値」の一例である。
【0062】
また、上記実施形態では、X軸加速度およびY軸加速度の各々が0値とみなせる値となったことに基づいて初期値の設定が行われる例を示したが、本開示はこれに限られない。X軸加速度およびY軸加速度のいずれか一方が0値とみなせる値となったことに基づいて初期値の設定が行われてもよい。また、X軸加速度およびY軸加速度が0値とみなせる値になったことを検知する代わりに、重力方向と平行なZ軸方向の加速度が1Gになったことを検出することによって、初期値の設定が行われてもよい。また、X軸加速度、Y軸加速度、および、Z軸加速度の合成ベクトルが、重力加速度方向に1Gとなったことを検出することによって、初期値の設定が行われてもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、X軸加速度(Y軸加速度)の初期値が設定される例を示したが、本開示はこれに限られない。X軸加速度(Y軸加速度)から算出したナット240の回転角度の初期値も設定されてよい。
【0064】
また、上記実施形態では、X軸とY軸とが互いに直交する例を示したが、本開示はこれに限られない。X軸とY軸とが互いに直交せずに交差していてもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、X軸とY軸とが設けられる平面がホイール220の回転軸に対して直交する例を示したが、本開示はこれに限られない。上記平面が上記回転軸に対して直交せずに交差していてもよい。
【0066】
また、上記実施形態では、X軸正規化値およびY軸正規化値を用いてナット240の締結状態を検知する例を示したが、本開示はこれに限られない。X軸とY軸とが互いに直交している場合、X軸加速度とY軸加速度との逆三角関数を用いて、ナット240の締結状態を検知してもよい。逆三角関数は、逆正接関数(arctan)、逆正弦関数(arcsin)、逆余弦関数(arccos)、逆余接関数(arccot)、逆余割関数(arccsc)、および、逆正割関数(arcsec)を含む。また、X軸加速度とY軸加速度との比率に基づいて、ナット240の締結状態を検知してもよい。
【0067】
なお、上記実施形態において、1つのホイール220に対するセンサ装置100の個数は、1以上であれば適宜変更してもよい。
【0068】
上述の実施の形態および上記変形例は、技術的に矛盾が生じない範囲で適宜組み合わせることもできる。
【0069】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0070】
1 加速度センサ(センサ部),2 信号処理部(状態検出部),100 センサ装置(検出装置),220 ホイール(回転体),240、340、440 ナット(締結部材),250a ホイールハブ(所定の部材)(車体)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14