IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社テクノアクセルネットワークスの特許一覧

<>
  • 特開-生体情報計測方法 図1
  • 特開-生体情報計測方法 図2
  • 特開-生体情報計測方法 図3
  • 特開-生体情報計測方法 図4
  • 特開-生体情報計測方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170892
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】生体情報計測方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20241204BHJP
   A61B 5/113 20060101ALI20241204BHJP
   A61B 5/0245 20060101ALI20241204BHJP
   A61B 5/08 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
A61B5/11 110
A61B5/113
A61B5/0245 C
A61B5/08
A61B5/0245 100A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087647
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】516227490
【氏名又は名称】株式会社テクノアクセルネットワークス
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(74)【代理人】
【識別番号】100208708
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 健志
(74)【代理人】
【識別番号】100215371
【弁理士】
【氏名又は名称】古茂田 道夫
(74)【代理人】
【識別番号】100187997
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 厳輝
(72)【発明者】
【氏名】有本 和民
(72)【発明者】
【氏名】山内 直樹
【テーマコード(参考)】
4C017
4C038
【Fターム(参考)】
4C017AA02
4C017AA14
4C017AC40
4C017BC07
4C017BC16
4C017DD14
4C017FF05
4C038VA04
4C038VB01
4C038VB31
4C038VC20
(57)【要約】
【課題】本開示は、生体情報をレーダー信号から簡便にかつ精度よく抽出できる生体情報計測方法の提供を目的とする。
【解決手段】本開示は、レーダーを用いて対象とする生体の周期的に繰り返される生体情報を計測する生体情報計測方法であって、上記レーダーが上記生体に照射した信号の反射波を受信する受信工程と、上記反射波の振幅または位相を入力信号とし、この入力信号から特定の周波数帯域の信号を抽出するフィルタ工程と、上記フィルタ工程後の信号から生体情報を抽出する抽出工程とを備え、上記周波数帯域が動的に変化する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダーを用いて対象とする生体の周期的に繰り返される生体情報を計測する生体情報計測方法であって、
上記レーダーが上記生体に照射した信号の反射波を受信する受信工程と、
上記反射波の振幅または位相を入力信号とし、この入力信号から特定の周波数帯域の信号を抽出するフィルタ工程と、
上記フィルタ工程後の信号から生体情報を抽出する抽出工程と
を備え、
上記周波数帯域が動的に変化する生体情報計測方法。
【請求項2】
上記生体が、移動体に搭乗している乗員である請求項1に記載の生体情報計測方法。
【請求項3】
上記生体情報が、心拍または呼吸である請求項1または請求項2に記載の生体情報計測方法。
【請求項4】
上記周波数帯域の中心周波数が、直前の所定期間の生体情報の周波数の中央値と一致するように上記周波数帯域を変化させる請求項1または請求項2に記載の生体情報計測方法。
【請求項5】
上記周波数帯域の幅が、0.1Hz以上0.5Hz以下である請求項1または請求項2に記載の生体情報計測方法。
【請求項6】
上記フィルタ工程で、上記生体の加速度ベクトルの空間方向の変化量と時間方向の変化量との比較により、上記入力信号として、上記振幅または上記位相を選択する請求項1または請求項2に記載の生体情報計測方法。
【請求項7】
上記生体情報を計測するレンジビンにおける反射波を第1反射波、他のレンジピンにおける反射波を第2反射波とするとき、
上記フィルタ工程で、上記第1反射波と上記第2反射波との時間変化の相関に基づいて、上記入力信号として、上記振幅または上記位相を選択する請求項1または請求項2に記載の生体情報計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体情報計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両を運転中の運転者が眠気を催す場合がある。眠気を催した運転者は注意力や動作が緩慢となりがちで重大な事故につながる場合がある。
【0003】
眠気を生じたか否かは心拍数や呼吸数から判断することができる。乗員の心拍数や呼吸数を計測する方法として、乗員にレーダー信号を送信して反射されたレーダー信号を分析する方法が知られている(特表2020-531063号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2020-531063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レーダー信号を分析する際は、例えばバンドパスフィルタにより計測する対象に合わせて特定の周波数帯域にある信号のみが抽出されて解析がなされる。特許文献1によれば、心拍数であれば、毎分48~180拍(bpm)に対応する0.8Hz~3Hzが用いられている。上記周波数帯域は、計測する対象が示すであろう最小値と最大値とで決められている。
【0006】
しかし、このように特定の周波数帯域にある信号のみを抽出しても、なお車両等からのノイズにより心拍数の解析が困難となる。そこで、特許文献1に記載の発明では、慣性計測装置により車両等の振動データを取得し、この振動データに基づいて修正済みの信号が生成され、心拍数が解析される。このように上記発明では、精度よく心拍数を解析しようとすると、レーダー信号以外にノイズを除去するための信号を必要としている。
【0007】
本開示は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、生体情報をレーダー信号から簡便にかつ精度よく抽出できる生体情報計測方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る生体情報計測方法は、レーダーを用いて対象とする生体の周期的に繰り返される生体情報を計測する生体情報計測方法であって、上記レーダーが上記生体に照射した信号の反射波を受信する受信工程と、上記反射波の振幅または位相を入力信号とし、この入力信号から特定の周波数帯域の信号を抽出するフィルタ工程と、上記フィルタ工程後の信号から生体情報を抽出する抽出工程とを備え、上記周波数帯域が動的に変化する。
【発明の効果】
【0009】
本開示の生体情報計測方法は、生体情報をレーダー信号から簡便にかつ精度よく抽出できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る生体情報計測方法のフローを示すフロー図である。
図2図2は、図1の生体情報計測方法が用いられる移動体の構成を示す模式的平面図である。
図3図3は、反射波の振幅信号の一例を示すグラフである。
図4図4は、図3のフィルタ工程後の信号を示すグラフである。
図5図5は、図4のグラフから頂点を抽出したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0012】
(1)本開示の一態様に係る生体情報計測方法は、レーダーを用いて対象とする生体の周期的に繰り返される生体情報を計測する生体情報計測方法であって、上記レーダーが上記生体に照射した信号の反射波を受信する受信工程と、上記反射波の振幅または位相を入力信号とし、この入力信号から特定の周波数帯域の信号を抽出するフィルタ工程と、上記フィルタ工程後の信号から生体情報を抽出する抽出工程とを備え、上記周波数帯域が動的に変化する。
【0013】
当該生体情報計測方法は、周波数帯域を動的に変化させることで、周期的に繰り返される生体情報を抽出する。すなわち、上記生体情報の周波数は生体の状態によって変化するが、当該生体情報計測方法ではこの周波数の変化に追随するように周波数帯域を動的に変化させる。このため、周波数帯域を狭い範囲に区切っても上記生体情報の周波数が周波数帯域外となることを抑止できる。そして、周波数帯域の幅を狭くすることで生体情報以外のノイズを効果的に遮断できるので、当該生体情報計測方法は、ノイズ信号を差し引くといった特別の操作を要することなく生体情報を精度よく計測できる。
【0014】
(2)上記(1)の生体情報計測方法において、上記生体が、移動体に搭乗している乗員であるとよい。当該生体情報計測方法は、移動体に搭乗している乗員、特に運転者の疲労や眠気といった心身状態の評価に好適に用いることができる。
【0015】
(3)上記(1)または(2)の生体情報計測方法において、上記生体情報が、心拍または呼吸であるとよい。心拍または呼吸は周期的に繰り返される生体情報であり、かつその生態の心身状態を把握し易い。
【0016】
(4)上記(1)から(3)のいずれかの生体情報計測方法において、上記周波数帯域の中心周波数が、直前の所定期間の生体情報の周波数の中央値と一致するように上記周波数帯域を変化させるとよい。このように上記周波数帯域の中心周波数を直前の所定期間の生体情報の周波数の中央値と一致させることで、周波数帯域を狭い範囲に区切っても上記生体情報の周波数をより確実に計測することができる。
【0017】
(5)上記(1)から(4)のいずれかの生体情報計測方法において、上記周波数帯域の幅としては、0.1Hz以上0.5Hz以下が好ましい。このように上記周波数帯域の幅を上記範囲内とすることで、外部からのノイズを抑止しつつ上記生体情報の周波数をより確実に計測することができる。
【0018】
(6)上記(1)から(5)のいずれかの生体情報計測方法において、上記フィルタ工程で、上記生体の加速度ベクトルの空間方向の変化量と時間方向の変化量との比較により、上記入力信号として、上記振幅または上記位相を選択するとよい。このように生体の加速度ベクトルの空間方向の変化量と時間方向の変化量とを比較して入力信号を選択することで、生体情報以外のノイズを効果的に遮断できる。
【0019】
(7)上記(1)から(5)のいずれかの生体情報計測方法において、上記生体情報を計測するレンジビンにおける反射波を第1反射波、他のレンジピンにおける反射波を第2反射波とするとき、上記フィルタ工程で、上記第1反射波と上記第2反射波との時間変化の相関に基づいて、上記入力信号として、上記振幅または上記位相を選択するとよい。このように生体の異なる部位での反射波の時間変化の相関に基づいて入力信号を選択することで、生体情報以外のノイズを効果的に遮断できる。
【0020】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の一実施形態に係る生体情報計測方法について、適宜図面を参照しつつ説明する。
【0021】
図1に示す生体情報計測方法は、受信工程S1と、フィルタ工程S2と、抽出工程S3とを備える。当該生体情報計測方法は、図2に示すように、レーダー1を用いて対象とする生体の周期的に繰り返される生体情報を計測する生体情報計測方法である。当該生体情報計測方法では、上記生体は、移動体Xに搭乗している乗員である。当該生体情報計測方法は、移動体Xに搭乗している乗員、特に運転者の疲労や眠気といった心身状態の評価に好適に用いることができる。以下、乗員が運転者である場合を例にとり説明を続けるが、乗員が運転者に限定されることを意味するものではない。
【0022】
移動体Xとしては、典型的には自動車であるが、二輪車、鉄道の車両、船舶、航空機等であってもよい。
【0023】
上記生体情報としては、心拍または呼吸が好ましい。心拍または呼吸は周期的に繰り返される生体情報であり、レーダーの周期的振動として検知することができる。また、心拍または呼吸はその生態の心身状態を把握し易い。以下、心拍を例にとり説明を続けるが、上記生体情報が呼吸であっても同様である。
【0024】
レーダー1は、移動体Xの居住空間全体を観測するものであってもよいが、図2に示すように、運転者の座席に対して設けられることが好ましい。このように運転者の座席に対して設けることで、測定精度を高められる。また、レーダー1は、運転者の心拍を検知することから、レーダー1の検知領域は、運転者の心臓が位置する部分が含まれるように設定されるとよい。
【0025】
当該生体情報計測方法に用いられるレーダー1は特に限定されないが、公知の24GHzあるいは60GHzのレーダーを用いることができる。このうち24GHzのレーダーは移動体Xの居住空間全体を観測可能であり、複数の乗員を対象とする場合に好適である。一方、60GHzのレーダーは分解能が高く、特定の乗員を対象とする場合に好適である。
【0026】
<受信工程>
受信工程S1では、レーダー1が上記生体に照射した信号の反射波を受信する。
【0027】
レーダー1は、対象物(ここでは運転者の心臓)に電波を照射し、この対象物からの反射波を観測することで、非接触・非侵襲で心拍を捉えることができる。上記反射波は、振幅信号(I信号)と位相信号(Q信号)とを含む。
【0028】
レーダー1の目標は、レンジビンによって識別されている。ここで、レンジビンとは、目標の違いを識別するための距離の最小単位幅である。一般的なレーダー1では、レンジビンには番号が振られ、番号によってレンジビンを識別することが行われる。ここでは、運転者の心臓が目標であるレンジビンを選択し、その反射波を用いることになる。なお、運転者の心臓が目標であるレンジビンは、レーダー1の設置位置からの距離で判断する方法で選択することができる。例えば、レーダー1を車内のバックミラーに取り付ける場合、運転者の心臓との距離は概ね一定であるので、その距離で目標を判断することが可能である。
【0029】
<フィルタ工程>
フィルタ工程S2では、上記反射波の振幅または位相を入力信号とし、この入力信号から特定の周波数帯域の信号を抽出する。当該生体情報計測方法では、上記周波数帯域が動的に変化する。
【0030】
(周波数帯域の動的変化)
レーダー1の反射波から運転者の心拍数を求める場合、体動や呼吸等の運転者自身に起因するノイズに加え、移動体Xからの振動、加減速等に関わるノイズが重畳するため、それらを低減することが必要となる。一般にノイズによって周波数が異なることから、例えばバンドパスフィルタを用いて、心拍が含まれ得る範囲の周波数帯域の信号を抽出する。
【0031】
これにより心拍とは明らかに異なる周波数のノイズは除去可能であるが、心拍に近い周波数のノイズが除去するためには、上記周波数帯域の幅を狭くとる必要がある。ところが、心拍の周期には個人差があり、かつ同一の個人でもその身体状態により変化する。例えば緊張すると心拍数は上昇する。一方、リラックスしている場合は、心拍数は低くなる傾向にあるが、その周期は変動し易くなる。
【0032】
このため、上記周波数帯域の幅を狭く取り過ぎると、計測したい心拍の波自体が除外されてしまうおそれが生じる。そこで、当該生体情報計測方法では、上記周波数帯域を動的に変化させることで、計測したい心拍の波自体を上記周波数帯域に収めつつ、上記周波数帯域の幅を狭く取る。このように上記周波数帯域を動的に変化させることで、心拍以外のノイズを効果的に遮断できる。
【0033】
当該生体情報計測方法において、上記周波数帯域の中心周波数が、直前の所定期間の生体情報の周波数の中央値と一致するように上記周波数帯域を変化させるとよい。このように上記周波数帯域の中心周波数を直前の所定期間の生体情報の周波数の中央値と一致させることで、周波数帯域を狭い範囲に区切っても上記生体情報の周波数をより確実に計測することができる。
【0034】
上記所定期間は、心拍数で5拍以上10拍以下とすることができる。上記所定期間を上記下限以上とすることで、上記中央値を安定化させ易い。また、上記所定期間を上記上限以下とすることで、心拍数の変動に追従して上記周波数帯域を変化させることができるので、計測したい心拍の波を上記周波数帯域内に収め易い。
【0035】
ここで、直前の所定期間の生体情報の周波数の「平均値」ではなく「中央値」を使用することが好ましい。心拍数は特異的に外れた値を示す場合があり、平均値ではこの特異点の数値の影響を受け易いのに対し、中央値であれば特異値の大きさの影響を受け難く、生体情報の周波数の変化を的確に捉えられると考えられるからである。
【0036】
上記周波数帯域の幅の下限としては、0.1Hzが好ましく、0.2Hzがより好ましい。一方、上記周波数帯域の上限としては、0.5Hzが好ましく、0.4Hzがより好ましい。上記周波数帯域の幅を上記下限以上とすると、計測したい心拍の波を上記周波数帯域内に収め易い。逆に、上記周波数帯域の幅を上記上限以下とすることで、心拍以外のノイズを効果的に遮断できる。
【0037】
なお、どのように周波数帯域の幅を絞ってもその範囲内のノイズは残ることとなる。例えば心拍と同じ周波数のノイズは除去不可能であるが、このようなノイズは重畳しても心拍の周期自体には影響を与えないため、測定される心拍数に誤差を生じさせない。同様の理由から心拍の周波数近傍にあるノイズは、仮にノイズを心拍の信号と誤判断したとしても、心拍数への影響は低い。例えば心拍の周期が1Hz(60拍/分)であるとする。周波数帯域の幅が0.2Hzである場合、ノイズにより誤判断する可能性があるのは、0.9Hz(54拍/分)~1.1Hz(66拍/分)であり、誤差は高々10%である。ところが、周波数帯域の幅を1Hz(0.5Hz~1.5Hz)とすると、誤差は50%に及ぶ(参考までに特許文献1において周波数帯域の幅は2.4Hzである)。つまり、当該生体情報計測方法では周波数帯域を動的に変化させることで、周波数帯域の幅を狭くとることを可能とし、これにより大幅に誤差を低減できることが分かる。
【0038】
上記中心周波数の更新は、心拍の各周期で行ってもよいが、所定時間ごとに行う方法や、上記中央値と所定量以上の差が生じた場合に更新する方法を採用することが好ましい。上記中心周波数の頻繁の更新を避け、処理が複雑化することを回避できる。
【0039】
直前の所定期間の生体情報の周波数の中央値は、直前の計測結果から算出してもよいが、上記中央値を抽出するため周波数帯域の幅を広げてフィルタ処理した信号を併用してもよい。この場合、直前の計測結果では周波数帯域の範囲外となった場合においても、中央値を算出できる場合がある。
【0040】
(中心周波数の初期値)
当該生体情報計測方法では、上記周波数帯域を動的に変化させる。例えば上述の方法では、直前の所定期間の生体情報の周波数が測定できていることが前提となっている。その変化の動向から上記周波数帯域を動的に変化させるためである。この場合、当該生体情報計測方法の実施を開始した時点での中心周波数(中心周波数の初期値)の設定を適切に行う必要がある。上記中心周波数の初期値は、以下に示すいくつかの方法で対応することができる。
【0041】
1つには、運転者が搭乗した際に初期値を与える方法である。運転者自身の経験等により外部から数値入力してもよく、運転者の搭乗時の心拍数を実測して与えてもよい。
【0042】
他の方法として、計測当初には、周波数帯域の幅を広げて確実に運転者の心拍を捉えられるようにして、中心周波数を決定した後、周波数帯域の幅を狭める方法を採用し得る。この中心周波数の決定は、移動体Xが停止時に行うことが好ましく、エンジン等の振動源が停止している状態で行うことがより好ましい。静止状態では、周波数帯域の幅が広くとも比較的安定して心拍の信号を捉えることができるためである。
【0043】
(振幅または位相の選択)
フィルタされる入力信号としては、反射波の振幅または位相を用いることができる。いずれか一方のみを用いることも、常に両方を用いることもできるが、以下のように選択的に用いることが好ましい。
【0044】
〔選択方法1〕
第1の選択方法では、運転者(生体)の加速度ベクトルの空間方向の変化量と時間方向の変化量との比較により、上記入力信号として、上記振幅または上記位相を選択する。
【0045】
この方法では、運転者に6軸の加速度センサを付与する。この加速度センサにより自身の体動や移動体Xからの振動等の情報をモニタすることができる。空間方向での加速度ベクトルの変化が大きい場合、その影響を受け難い位相の情報を選択して使用する。一方、時間軸方向での加速度ベクトルの変化が大きい場合、その影響を受け難い振幅の情報を選択して使用する。具体的には、加速度ベクトルの空間方向の変化量をx[(m/s)/m]、時間方向の変化量をy[(m/s)/s]とするとき、例えば評価関数をf(x、y)=a×x-b×y+c(a,b:正の定数、c:定数)として、f(x、y)≧0の場合、位相を選択し、f(x、y)<0の場合、振幅を選択するとよい。ここで、a、b、cは解析的に求めてもよいし、実験的に決定してもよい。なお、評価関数f(x、y)は一例であり、適宜決定できる。
【0046】
このように生体の加速度ベクトルの空間方向の変化量と時間方向の変化量とを比較して入力信号を選択することで、生体情報以外のノイズを効果的に遮断できる。
【0047】
〔選択方法2〕
第2の選択方法では、上記生体情報を計測するレンジビンにおける反射波を第1反射波、他のレンジピンにおける反射波を第2反射波とするとき、上記第1反射波と上記第2反射波との時間変化の相関に基づいて、上記入力信号として、上記振幅または上記位相を選択する。
【0048】
この方法では、レンジピンの異なる反射波を利用する。上記第1反射波は、生体情報を計測するレンジビンにおける反射波であり、心拍の場合、例えば運転者の心臓(胸)を目標としたレンジビンが選択される。これに対し、上記第2反射波として、他の位置、例えば腹を目標としたレンジビンを選択する。この場合、上記第1反射波は、心拍の成分を多く含み、上記第2反射波は、呼吸の成分を多く含むことになる。また、運転者の体動の成分は腕や頭の位置に多く含まれ、移動体Xに起因する振動は、全体に含まれる。つまり、異なる位置において、各成分は時間に対して相関して変化するが、場所によって大きさが異なる波形として観測されると考えられる。したがって、この場所による変動から上記振幅または上記位相を選択する。
【0049】
なお、第2反射波は1つには限らず、複数であってもよい。つまり、複数のレンジビンにおける反射波を利用することで、精度の高い情報を抽出することができる。
【0050】
このように生体の異なる部位での反射波の時間変化の相関に基づいて入力信号を選択することで、生体情報以外のノイズを効果的に遮断できる。
【0051】
<抽出工程>
抽出工程S3では、フィルタ工程S2後の信号から生体情報を抽出する。
【0052】
(振幅信号の場合)
まず、振幅信号の場合の抽出手順について説明する。
【0053】
図3は、受信工程S1で得られる振幅信号の一例である。この振幅信号を入力信号としてフィルタ工程S2を行うと図4の波形が得られる。抽出工程S3では、この図4の波形が入力となる。
【0054】
まず、得られた信号から頂点を抽出する。この処理は、得られた信号を微分することで行える。すなわち、微係数が正から負に変化する点が頂点となる。図4から頂点を抽出すると、図5のグラフが得られる。
【0055】
このように頂点を抽出すると、隣り合う頂点間の時間が心拍間隔であると考えられるので、この心拍間隔の逆数から心拍数を算出することができる。
【0056】
なお、この方法では、振幅の小さな信号の頂点が検出されない場合がある。例えば心拍に基づく振幅がノイズの振幅よりも小さかった場合、その頂点が抽出されず、隣り合う頂点間の時間が2拍分の心拍間隔となり得る。この問題を解決するため、傾き0の直線が接線となる接点を信号の頂点とすることで、振幅の小さな信号の頂点の検出感度を向上させることが可能となる。すなわち、心拍間隔が他よりも2倍以上長いような区間においては、微係数が正から負に変化しなくとも微分値が0となる時間も合わせて抽出し、頂点とみなすことで、心拍間隔の抽出精度を高める。
【0057】
(位相信号の場合)
位相信号の場合は、まずヒルベルト変換を行い、瞬時位相を求める。
【0058】
以降の処理は振幅信号の場合と同様である。具体的には、瞬時位相を微分することで、頂点を求める。この頂点間の時間が周期であり、その逆数が瞬時角周波数となる。この瞬時角周波数から瞬時心拍数を求めることができる。なお、位相信号における「瞬時心拍数」と、振幅信号における「心拍数」は同義である。
【0059】
当該生体情報計測方法は、周波数帯域を動的に変化させることで、周期的に繰り返される生体情報を抽出する。すなわち、上記生体情報の周波数は生体の状態によって変化するが、当該生体情報計測方法ではこの周波数の変化に追随するように周波数帯域を動的に変化させる。このため、周波数帯域を狭い範囲に区切っても上記生体情報の周波数が周波数帯域外となることを抑止できる。そして、周波数帯域の幅を狭くすることで生体情報以外のノイズを効果的に遮断できるので、当該生体情報計測方法は、ノイズ信号を差し引くといった特別の操作を要することなく生体情報を精度よく計測できる。
【0060】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本開示の構成を限定するものではない。従って、上記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本開示の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0061】
上記実施形態では、生体が移動体に搭乗している乗員である場合について説明したが、当該生体情報計測方法の対象とする生体は、移動体に搭乗している乗員に限定されるものではない。上記生体は、例えば工場等で作業をしている作業員であってもよく、また人間に限らず動物であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上説明したように、本開示の生体情報計測方法は、生体情報をレーダー信号から簡便にかつ精度よく抽出できる。
【符号の説明】
【0063】
1 レーダー
X 移動体
図1
図2
図3
図4
図5