(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170897
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】検査装置及び検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 25/72 20060101AFI20241204BHJP
G01J 5/00 20220101ALI20241204BHJP
G01J 5/48 20220101ALI20241204BHJP
【FI】
G01N25/72 E
G01J5/00 101D
G01J5/48 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087652
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(74)【代理人】
【識別番号】100199314
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100221556
【弁理士】
【氏名又は名称】金田 隆章
(72)【発明者】
【氏名】入江 庸介
【テーマコード(参考)】
2G040
2G066
【Fターム(参考)】
2G040AA05
2G040AB08
2G040AB12
2G040BA02
2G040BA26
2G040CA02
2G040DA06
2G040EA06
2G040EB02
2G040EC01
2G040HA01
2G040HA05
2G040HA16
2G066AC11
2G066AC20
2G066BB02
2G066BC04
2G066BC15
2G066CA02
2G066CA04
(57)【要約】
【課題】対象物を精度良く検査することができる検査装置及び検査方法を提供する。
【解決手段】検査装置は、励起光源からの励起光によって加熱された対象物を赤外線撮影装置が時系列で撮影して生成した赤外画像を取得する入力部と、赤外画像に基づいて対象物を検査する解析処理を行うプロセッサとを備える。プロセッサは、入力部を介して赤外画像を取得し、取得した赤外画像と励起光に関する対象物の物性に応じて、第1又は第2の解析モードの間で解析処理を切り替える。第1の解析モードは、励起光の、対象物の表面を透過する成分の熱応答を解析するように赤外画像の解析処理を行い、第2の解析モードは、励起光の、対象物の表面に吸収される成分の熱応答を解析するように赤外画像の解析処理を行う。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光源からの励起光によって加熱された対象物を赤外線撮影装置が時系列で撮影して生成した赤外画像を取得する入力部と、
前記赤外画像に基づいて前記対象物を検査する解析処理を行うプロセッサとを備え、
前記プロセッサは、
前記入力部を介して前記赤外画像を取得し、
取得した赤外画像と前記励起光に関する前記対象物の物性に応じて、第1又は第2の解析モードの間で前記解析処理を切り替え、
前記第1の解析モードは、前記励起光の、前記対象物の表面を透過する成分の熱応答を解析するように前記赤外画像の前記解析処理を行い、
前記第2の解析モードは、前記励起光の、前記対象物の表面に吸収される成分の熱応答を解析するように前記赤外画像の前記解析処理を行う、
検査装置。
【請求項2】
前記プロセッサは、
前記第1の解析モードにおいては、前記赤外画像のうち第1の期間に撮影された第1の赤外画像を解析対象データとすることで、前記励起光の、前記対象物の表面を透過する成分の熱応答を解析するように前記解析処理を行い、
前記第2の解析モードにおいては、前記赤外画像のうち、第2の期間に撮影された第2の赤外画像を解析対象データとすることで、前記励起光の、前記対象物の表面に吸収される成分の熱応答を解析するように前記解析処理を行う、
請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記プロセッサは、
前記第1の解析モードにおいては、前記第1の期間を、前記励起光源による前記励起光の放射の終了時点より後の期間に決定し、
前記第2の解析モードにおいては、前記第2の期間を、前記励起光源による前記励起光の放射の終了時点以前の期間を含む期間に決定する、
請求項2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記プロセッサは、
前記解析対象データに対して離散フーリエ変換を施して、前記対象物の温度変化に応じた解析画像を生成し、
前記解析画像に基づいて前記対象物の内部状態を検出することで、前記対象物を検査する、
請求項2に記載の検査装置。
【請求項5】
前記解析画像は、離散フーリエ変換された前記解析対象データの、所定周波数における位相画像である、請求項4に記載の検査装置。
【請求項6】
前記プロセッサは、
前記励起光のスペクトルを示す情報と、波長に対する前記対象物の透過率の分布を示す情報とに基づいて、前記励起光の、前記対象物を透過する成分の量を示す所定量を算出し、
前記所定量が閾値以上である場合、前記第1の解析モードで動作し、
前記所定量が閾値未満である場合、前記第2の解析モードで動作する、
請求項1~5のいずれかに記載の検査装置。
【請求項7】
前記対象物は、前記物性が互いに異なる第1の層と第2の層とを含み、
前記プロセッサは、前記第1の層の前記物性に応じて、前記第1の解析モードと前記第2の解析モードとの間で前記解析処理を切り替える、
請求項1に記載の検査装置。
【請求項8】
前記対象物は、前記第1の層及び/又は前記第2の層が溶融することで、前記第1の層と前記第2の層とが互いに接合された接合部を含み、
前記プロセッサは、前記解析処理として、前記赤外画像に基づいて前記接合部の状態を検査する、
請求項7に記載の検査装置。
【請求項9】
前記プロセッサは、
前記励起光のスペクトルを示す情報と、波長に対する前記第1の層の透過率の分布を示す情報とに基づいて、前記励起光の、前記第1の層を透過する成分の量を示す第1の量と、前記第1の層に吸収される成分の量を示す第2の量とを算出し、
前記第1の量が前記第2の量以上である場合、前記第1の解析モードで動作し、
前記第1の量が前記第2の量未満である場合、前記第2の解析モードで動作する、
請求項7又は8に記載の検査装置。
【請求項10】
励起光源からの励起光によって加熱された対象物を赤外線撮影装置が時系列で撮影して生成した赤外画像に基づいて前記対象物を検査する解析処理を行う検査方法であって、
プロセッサが、赤外画像を取得するステップと、
前記プロセッサが、取得した赤外画像と前記励起光に関する前記対象物の物性に応じて、第1又は第2の解析モードの間で前記解析処理を切り替えるステップと、を含み、
前記第1の解析モードは、前記励起光の、前記対象物の表面を透過する成分の熱応答を解析するように前記赤外画像の前記解析処理を行い、
前記第2の解析モードは、前記励起光の、前記対象物の表面に吸収される成分の熱応答を解析するように前記赤外画像の前記解析処理を行う、
検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、検査装置及び検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、被検査物の表面にレーザを照射して溶接したレーザ溶接部を溶接後に検査する方法を開示する。特許文献1の検査方法は、溶接後雰囲気温度まで冷却したレーザ溶接部を赤外線カメラで撮像し、得られた赤外線画像における輝度の差を被検査物表面の赤外線放射率の差を表す指標とみなして溶接部領域を検出する第1の過程と、上記溶接部領域内での赤外線画像の輝度値をもとに溶接の良否を判定する第2の過程とを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、対象物を精度良く検査することができる検査装置及び検査方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る検査装置は、
励起光源からの励起光によって加熱された対象物を赤外線撮影装置が時系列で撮影して生成した赤外画像を取得する入力部と、
赤外画像に基づいて対象物を検査する解析処理を行うプロセッサとを備え、
プロセッサは、
入力部を介して赤外画像を取得し、
取得した赤外画像と励起光に関する対象物の物性に応じて、第1又は第2の解析モードの間で解析処理を切り替え、
第1の解析モードは、励起光の、対象物の表面を透過する成分の熱応答を解析するように赤外画像の解析処理を行い、
第2の解析モードは、励起光の、対象物の表面に吸収される成分の熱応答を解析するように赤外画像の解析処理を行う。
【0006】
本開示の一態様に係る検査方法は、励起光源からの励起光によって加熱された対象物を赤外線撮影装置が時系列で撮影して生成した赤外画像に基づいて対象物を検査する解析処理を行う検査方法であって、
プロセッサが、赤外画像を取得するステップと、
プロセッサが、取得した赤外画像と励起光に関する対象物の物性に応じて、第1又は第2の解析モードの間で解析処理を切り替えるステップと、を含み、
第1の解析モードは、励起光の、対象物の表面を透過する成分の熱応答を解析するように赤外画像の解析処理を行い、
第2の解析モードは、励起光の、対象物の表面に吸収される成分の熱応答を解析するように赤外画像の解析処理を行う。
【発明の効果】
【0007】
本開示によると、対象物を精度良く検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1に係る検査システムの構成例を示すブロック図
【
図5】キセノンランプのスペクトルと、PBT、PPS、及びPAの透過率特性とを示すグラフ
【
図6】PBT、PPS、及びPAの、波長に対するエネルギー相対強度の分布を例示するグラフ
【
図7】PBTの透過エネルギー量を説明するためのグラフ
【
図8】ワークの材料と、透過エネルギー量と、モードとを対応付けた表
【
図9】実施の形態1に係る検査装置の動作を例示するフローチャート
【
図10】
図9に示した解析モード決定処理の詳細を例示するフローチャート
【
図11】PPS製ワークの接合部の温度時系列データの一例を示すグラフ
【
図13】
図9に示した良否判定処理の詳細を例示するフローチャート
【
図14】第1の解析モードで動作するプロセッサによって抽出される位相画像を例示する模式図
【
図16】
図13に示した検査領域の抽出処理の詳細を例示するフローチャート
【
図17】実施の形態2に係る検査システムの構成例を示すブロック図
【
図20】
図19に示した物性DBのPAの波長特性を示すグラフ
【
図21】
図19に示した物性DBのPBTの波長特性を示すグラフ
【
図22】
図19に示した物性DBのPPSの波長特性を示すグラフ
【
図27】実施の形態2に係る検査装置の動作を例示するフローチャート
【
図28】
図27に示した判定準備処理の詳細を例示するフローチャート
【
図29】第1変形例に係る検査装置の動作を例示するフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、適宜図面を参照しながら、実施の形態を説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0010】
なお、発明者(ら)は、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面及び以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図しない。
【0011】
[1.実施の形態1]
[1-1.構成]
[1-1-1.検査システムの構成]
図1は、本開示の実施の形態1に係る検査システム1の構成例を示すブロック図である。検査システム1は、検査装置10と、赤外線カメラ17と、励起源18と、コントロールボックス15と、電源16と、報知装置19とを備える。
【0012】
検査システム1は、検査対象であるワーク90に励起エネルギーを与えて温度画像の撮影を行うアクティブサーモグラフィ法を用いて、ワーク90の状態を非破壊で検知することができる。例えば、検査システム1は、ワーク90に励起源18により励起エネルギーを与え、赤外線カメラ17を用いて時系列で温度画像を撮影する。
【0013】
ワーク90の状態は、ワーク90の内部の特徴、欠陥等の構造に関する情報を含む。
図1の例では、ワーク90は、溶着又は溶接用の光源から照射された光を主に透過する透過材91と、当該光を主に吸収する吸収材92とを含む。光源からの光により溶融した透過材91及び/又は吸収材92により、透過材91と吸収材92とは、接合部95において接合される。本実施の形態では、検査システム1は、ワーク90の状態として、透過材91と吸収材92との接合品質を検査する。
【0014】
ワーク90の材料は、例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミド(PA)等の樹脂である。あるいは、ワーク90の材料は、セラミックスであってもよい。ワーク90の材料は、冷間圧延鋼(SPCC鋼)、アルミニウム等の金属であってもよい。
【0015】
赤外線カメラ17は、ワーク90の少なくとも一部を含む撮影領域を時系列で撮影して複数の温度画像データ(赤外画像)を生成する赤外線撮影装置の一例である。赤外線カメラ17は、例えば、3μm~15μmの波長を有する赤外線を検知する赤外線センサを含む。赤外線カメラ17のフレームレートは、例えば50Hz(又は50fps)であるが、これに限定されない。
【0016】
本開示では、「画像」は、1又は複数の動画像と、1又は複数の静止画像とを含む。
【0017】
本開示の励起光源の一例である励起源18は、ワーク90を加熱可能な加熱装置の一例である。励起源18は、例えば、キセノンランプ、ハロゲンランプ、レーザ光源等の光源であるが、これらに限定されず、エネルギーを放射可能なエネルギー源であればよい。
【0018】
励起源18は、ワーク90に対して、フラッシュ発光によるフラッシュ加熱(パルス加熱)、又はステップ状に加熱するステップ加熱を行うことができる。励起源18が放射する光の波長帯域は、赤外線カメラ17が検出可能な赤外線の波長帯域と同様であってもよいし、異なってもよい。
図1では、1つの励起源18を例示しているが、励起源18の数はこれに限定されず、2以上であってもよい。
【0019】
電源16は、赤外線カメラ17及び励起源18に電力を供給する。コントロールボックス15は、検査装置10からの制御信号に基づいて、電源16を制御する制御回路を含む。コントロールボックス15は、励起源18の発光方式、発光周期、発光時間等を制御してもよい。
【0020】
報知装置19は、外部に情報を報知する。例えば、報知装置19は、検査装置10により制御され、ワーク90の内部状態の検査結果を示す情報をユーザに報知する。報知装置19は、LED等の光源、ディスプレイ、表示器等の視覚的な報知装置を含んでもよい。報知装置19は、スピーカ等の聴覚的な報知装置を含んでもよい。
【0021】
[1-1-2.検査装置の構成]
図2は、
図1の検査装置10の構成例を示すブロック図である。検査装置10は、プロセッサ11と、記憶装置12と、インタフェース13とを備える。
【0022】
プロセッサ11は、CPU、MPU等で構成され、記憶装置12に格納された各種プログラムを実行することにより、検査装置10の全体を制御する。プロセッサ11は、コントロールボックス15を介して励起源18を制御することにより、励起源18の加熱出力の開始及び停止を制御する。また、プロセッサ11は、赤外線カメラ17の撮影開始及び撮影停止等の撮影動作を制御する。また、プロセッサ11は、後述のように、記憶装置12に格納された赤外画像に基づいてワーク90を検査する解析処理を行う。
【0023】
記憶装置12は、検査装置10の機能を実現するために必要なプログラムとデータとを含む種々の情報を記録する記録媒体である。記憶装置12は、例えば、フラッシュメモリ、ソリッド・ステート・ドライブ(SSD)等の半導体記憶装置、ハードディスクドライブ(HDD)等の磁気記憶装置、その他の記録媒体単独で又はそれらを組み合わせて実現される。記憶装置12は、プロセッサ11と同一の筐体内に設置される内蔵型の記憶装置に限定されず、例えば、外付け型、NAS(network-attached storage)型等の記憶装置であってもよい。記憶装置12は、RAM等の揮発性メモリを含んでもよい。
【0024】
インタフェース13は、検査装置10と、赤外線カメラ17、コントロールボックス15、報知装置19、励起源18等の外部機器と、を接続する。インタフェース13は、既存の有線通信規格又は無線通信規格に従ってデータ通信を行う通信回路であってもよい。
【0025】
インタフェース13は、赤外線カメラ17からの赤外画像等の対象物の表面の情報(表面温度情報)を検査装置10に入力するために、検査装置10と赤外線カメラ17とを接続する入力部の一例である。また、インタフェース13は、コントロールボックス15、報知装置19、励起源18等の外部機器に対して、プロセッサ11からの制御信号等の情報を出力するために、検査装置10と外部機器とを接続する出力部の一例である。このような入力部及び出力部は、
図2のように入出力兼用のインタフェース13として一体的に実現されてもよいし、複数個のインタフェース回路として実現されてもよい。
【0026】
[1-2.解析モードの切替判断の基礎となる原理]
発明者は、励起源18から放射される光に関するワーク90の物性に応じて、検査装置10のプロセッサ11の解析モードを切り替えることにより、検査精度が向上することを見出した。
【0027】
そこで、プロセッサ11は、ワーク90の物性に応じて、第1の解析モードと第2の解析モードとを切り替えるように構成される。プロセッサ11の動作の詳細については後述する。ここでは、解析モードの切替判断の基礎となる原理について説明する。
【0028】
発明者は、励起源18から放射される光のスペクトル、及びワーク90の光に関する物性(以下、「光物性」ということがある。)に応じて、熱応答の態様(モード)が異なることを見出した。
【0029】
ここで、スペクトルは、光の、波長に対する相対強度の分布を示す情報を表す。スペクトルの代わりに、発光スペクトル、分光スペクトル、分光分布、相対分光分布、分光特性などの用語が用いられることがある。
【0030】
前述の熱応答の態様は、透過モードと熱伝導モードとを含む。透過モード及び熱伝導モードは、励起源18の特性及びワーク90の光物性に応じた物理現象を表す。
【0031】
図3は、透過モードを説明するための模式図である。
図3は、ワーク90の断面図と、励起源18から放射される光に起因する熱応答を表すコントラストとを模式的に示している。
【0032】
透過モードは、励起源18から放射される光が、透過材91を透過する成分を主体として含む場合を指す。
図3に破線の太い矢印で示すように、透過モードでは、励起源18から放射される光は、主に透過材91を透過する。透過材91を透過した光の成分は、接合部95及び吸収材92に到達する。透過モードにおいて、透過材91では透過が主に発生するため、励起源18から放射される光の大部分が接合部95及び吸収材92に到達する。
【0033】
透過材91と吸収材92とが接合部95において接合された接合領域R1では、接合部95及び吸収材92に到達した光(破線矢印)は、接合部95及び/又は吸収材92に吸収されて熱に変換される。赤外線カメラ17は、発生した熱を熱応答として検知することができる。
図3では、この熱応答を実線の矢印で模式的に示している。
【0034】
これに対して、透過材91と吸収材92とが接合されていない非接合領域R2では、吸収材92に到達した光は熱に変換されるが、吸収材92で発生した熱は、接合領域R1と比較すると十分には透過材91に伝わらない。したがって、非接合領域R2における熱応答は、接合領域R1における熱応答に比べて小さい。
図3では、熱応答が比較的小さいことを表すために、非接合領域R2における熱応答を上向きの細い実線矢印で模式的に示している。
【0035】
以上のような現象により、透過モードでは、赤外線カメラ17によって検知される熱応答のコントラストの位置分布は、
図3の上部に示すグラフのようになる。
【0036】
図4は、熱伝導モードを説明するための模式図である。熱伝導モードは、励起源18から放射される光が、透過材91に吸収される成分を主体として含む場合を指す。熱伝導モードでは、励起源18から放射される光は、主に透過材91に吸収されて熱に変換される。
【0037】
接合領域R1では、透過材91と吸収材92とが接合されているため、透過材91で発生した熱は、吸収材92に高効率で伝わる。したがって、透過材91の表面に現れる熱応答は小さくなる。
図4では、熱応答が比較的小さいことを表すために、接合領域R1における熱応答を上向きの細い実線矢印で模式的に示している。
【0038】
これに対して、非接合領域R2では、透過材91と吸収材92とが接合されていないため界面での熱伝導性は接合部95に比べて悪く、したがって透過材91から吸収材92に伝わる熱量は接合領域R1に比べて少ない。そのため、非接合領域R2において透過材91の表面に現れる熱応答は、接合領域R1における熱応答に比べて大きい。
図4では、熱応答が比較的大きいことを表すために、非接合領域R2における熱応答を上向きの太い実線矢印で模式的に示している。
【0039】
以上のような現象により、熱伝導モードでは、赤外線カメラ17によって検知される熱応答のコントラストの位置分布は、
図4の上部に示すグラフのようになる。
【0040】
図3のグラフと
図4のグラフとを比較すると、赤外線カメラ17によって検知される熱応答のコントラストの位置分布には、有意な差が現れることがわかる。発明者は、この物理現象に着目し、励起源18から放射される光に関するワーク90の物性に応じて、検査装置10のプロセッサ11の解析モードを切り替えることにより、検査精度が向上することを見出した。
【0041】
具体的には、プロセッサ11は、ワーク90の熱応答が透過モードである場合には第1の解析モード(本明細書において、「透過解析モード」ということがある。)で動作し、熱伝導モードである場合には第2の解析モード(本明細書において、「熱伝導解析モード」いうことがある。)で動作する。
【0042】
透過モードと熱伝導モードとは、以下に例示するように定量的に区別可能である。励起源18から放射される光のエネルギーの一部は、透過材91を透過する。励起源18から放射される光のエネルギーのうち、透過材91を透過するエネルギーを「透過エネルギー」と呼び、当該透過エネルギーの量を「透過エネルギー量」と呼ぶことがある。透過エネルギー量は、励起源18から放射される光のうち、透過材91を透過する成分の量を示す第1の量の一例である。
【0043】
励起源18から放射される光のエネルギーの他の一部は、透過材91に吸収され、熱として透過材91内を伝わる。励起源18から放射される光のエネルギーのうち、透過材91内を熱として伝わるエネルギーを「熱伝導エネルギー」と呼び、当該熱伝導エネルギーの量を「熱伝導エネルギー量」と呼ぶことがある。熱伝導エネルギー量は、励起源18から放射される光のうち、透過材91に吸収される成分の量を示す第2の量の一例である。
【0044】
一例として、透過エネルギー量が熱伝導エネルギー量以上であることは、透過モードに対応し、プロセッサ11は、透過エネルギー量が熱伝導エネルギー量以上である場合、第1の解析モードで動作する。
【0045】
また、一例として、透過エネルギー量が熱伝導エネルギー量未満であることは、熱伝導モードに対応し、プロセッサ11は、透過エネルギー量が熱伝導エネルギー量未満である場合、第2の解析モードで動作する。
【0046】
あるいは、透過エネルギー量が所定の閾値以上であることが透過モードに対応する。したがって、プロセッサ11は、透過エネルギー量が閾値以上である場合、透過モードに対応する第1の解析モードで動作する。
【0047】
以下、透過エネルギー量の算出方法の一例について説明する。
【0048】
例えば、透過エネルギー量は、励起源18のスペクトルと、透過材91の透過率特性とに基づいて算出される。
図5は、励起源18の一例であるキセノンランプのスペクトルと、透過材91の一例であるPBT、PPS、及びPAの透過率特性とを示すグラフである。
図5のグラフでは、右側の縦軸が相対強度を表し、キセノンランプの相対強度を示すスペクトルが実線で示されている。また、
図5のグラフでは、左側の縦軸が透過率を表し、PBT、PPS、及びPAの透過率特性が、それぞれ破線、点線、及び長い破線で示されている。
【0049】
図6は、透過材91の一例であるPBT、PPS、及びPAの、波長に対するエネルギー相対強度の分布を例示するグラフである。特定の波長における透過エネルギー量は、当該波長における励起源18の相対強度と、透過材91の透過率との積で表される。本明細書では、特定の波長における透過エネルギー量を「エネルギー相対強度」と呼ぶことがある。
図6のグラフに示されたエネルギー相対強度は、
図5のグラフに含まれる情報に基づいて算出可能である。
【0050】
励起源18がキセノンランプである場合、透過エネルギー量は、キセノンランプのスペクトルにわたってエネルギー相対強度の総和を取ることによって算出可能である。例えば、励起源18がキセノンランプである場合のPBTの透過エネルギー量は、
図6のグラフの横軸(エネルギー相対強度=0を示す直線)と、PBTのエネルギー相対強度の分布を示す破線のグラフとで囲まれた部分の面積に相当する。
【0051】
図7は、PBTの透過エネルギー量を説明するためのグラフである。上記のように、キセノンランプが励起源18である場合のPBTの透過エネルギー量は、
図7でハッチングを付した部分の面積に相当する。PPS、PA等の他の透過材91についても同様である。
【0052】
図8は、ワーク90の材料と、透過エネルギー量TEと、モードとを対応付けた表である。
図8に示した透過エネルギー量TEは、励起源18がキセノンランプである場合の透過エネルギー量を示している。
図8の表では、PPS、セラミックス、PBT、PA、SPCC鋼、アルミニウムの透過エネルギー量TEは、それぞれ5114、3145、2295、1500、0、0である。
【0053】
一例では、透過エネルギー量TEが所定の閾値以上であることが透過モードに対応する。所定の閾値は、例えば2000に設定されるが、これに限定されない。また、所定の閾値は、励起源18の種類によっても異なり得る。
図8の表では、所定の閾値が2000である場合のモードを示している。透過エネルギー量TEが所定の閾値以上である場合、プロセッサ11は、透過モードに対応する第1の解析モードで動作する。
【0054】
以上のように、発明者は、励起源18から放射される光に関するワーク90の物性、具体例としては透過エネルギー量TE応じて、検査装置10のプロセッサ11の解析モードを切り替えることにより、検査精度が向上することを見出した。
【0055】
そこで、本開示では、プロセッサ11は、ワーク90の物性に応じて、第1の解析モードと第2の解析モードとを切り替えるように構成される。第1の解析モードでは、プロセッサ11は、光がワーク90を透過することにより生じる熱応答(透過モードにおける熱応答)を解析するように解析処理を行う。第2の解析モードでは、プロセッサ11は、光がワーク90に吸収されて生じる熱応答(熱伝導モードにおける熱応答)を解析するように解析処理を行う。以下、プロセッサ11の動作の詳細を説明する。
【0056】
[1-3.動作]
[1-3-1.全体動作]
図9は、検査装置10の動作を例示するフローチャートである。本フローに示す各処理は、例えば検査装置10のプロセッサ11によって実行される。
【0057】
プロセッサ11は、赤外線カメラ17から赤外画像を取得する(S1)。取得された赤外画像は、記憶装置12に格納される。ステップS1では、又はステップS1の前には、プロセッサ11は、コントロールボックス15を介して励起源18を制御して、ワーク90の加熱を開始する。
【0058】
次に、プロセッサ11は、解析モード決定処理S2及び良否判定処理S3を実行する。解析モード決定処理S2では、プロセッサ11は、透過モードと熱伝導モードのどちらが主体かによって、解析モードを切り替える。良否判定処理S3では、プロセッサ11は、ワーク90の接合部95の状態が不良であるか否かを判定する。解析モード決定処理S2及び良否判定処理S3の詳細については後述する。
【0059】
プロセッサ11は、良否判定処理S3の結果、接合不良があると判定した場合(S4でYes)、報知装置19に報知動作を行わせる(S5)。これにより、ユーザは、接合不良があることを知ることができる。報知動作は、例えばスピーカから警告音を発すること、LED等の光源を点灯又は点滅させることを含む。あるいは、プロセッサ11は、接合不良があることを示す情報を、報知装置19の一例であるディスプレイに表示させてもよい。
【0060】
ステップS4において接合不良がないと判定した場合(S4でNo)、及びステップS5の次には、プロセッサ11は、解析結果、判定結果等を示す情報を、報知装置19の一例であるディスプレイに表示させる(S6)。
【0061】
次に、プロセッサ11は、解析結果、判定結果等を示す情報を記憶装置12に保存する(S7)。記憶装置12に保存された情報は、例えばトレーサビリティの実現に利用される。例えば、記憶装置12に保存された情報は、ワーク90の状態が、流通の過程で、損傷、改竄、汚れ等により変更されたか否か、及び変更された場合には変更の程度を検出するために利用される。
【0062】
[1-3-2.解析モード決定処理]
図10は、
図9に示した解析モード決定処理S2の詳細を例示するフローチャートである。
【0063】
図10において、まず、プロセッサ11は、ステップS1で取得した赤外画像に基づいて、接合部95の温度の時系列データを取得する(S11)。
図11は、PPS製のワーク90の接合部95の温度時系列データの一例を示すグラフである。
図11のグラフは、励起源18によってt=0秒でワーク90をフラッシュ加熱したときの、接合部95温度の経時変化を例示している。加熱時間は、0.01~1秒、例えば0.1秒である。
【0064】
図11のグラフの時刻t1では、励起源18による加熱時における温度上昇を示す第1のピークP1が現れている。第1のピークP1は、励起源18からの光をワーク90が反射することにより生じた反射光を赤外線カメラ17が検知した結果として、温度の時系列データ上に現れることがある。このような場合、第1のピークP1は、ワーク90の温度上昇を直接的に表さないことがあるため、第1のピークP1に対応する赤外画像を解析対象から除外することが好ましい場合がある。後述の検査装置10の動作は、特定の場合に第1のピークP1に対応する赤外画像を解析対象から除外することを可能にする。
【0065】
図12は、ワーク90の接合部95の温度の時系列データの他の例を示すグラフである。
図12は、ワーク90の一例であるPBT、PPS、PA、アルミニウム(AL)、SPCC鋼をフラッシュ加熱したときの、接合部95の温度変化を示している。
【0066】
プロセッサ11は、透過材91を透過する光の成分の強度を示す透過エネルギー量TEを決定する(S12)。プロセッサ11は、励起源18のスペクトルと、透過材91の透過率特性とに基づいて、透過エネルギー量TEを算出する。
【0067】
励起源18のスペクトル及び透過材91の透過率特性を示すデータは、例えば記憶装置12に予め記憶される。プロセッサ11は、記憶装置12に記憶された特定の波長における励起源18の相対強度と、透過材91の透過率との積を算出することで、当該波長における透過エネルギー量を算出する。プロセッサ11は、例えば全波長にわたって透過エネルギー量を算出してこれらの総和を求めることにより、透過エネルギー量TEを算出する。
【0068】
あるいは、励起源18と透過材91との組合せに対応する透過エネルギー量TEが記憶装置12に記憶され、プロセッサ11は、励起源18と透過材91との組合せをキーとして、記憶装置12から、特定された透過エネルギー量TEを取得してもよい。
【0069】
プロセッサ11は、ステップS12で決定された透過エネルギー量TEが所定の閾値以上であるか否かを判定する(S13)。閾値は、例えば2000に設定されるがこれに限定されない。
【0070】
透過エネルギー量TEが閾値以上である場合(S13でYes)、プロセッサ11は、透過モードに対応する第1の解析モードで動作する。第1の解析モードでは、プロセッサ11は、良否判定処理S3で使用する画像を、ステップS1で取得した赤外画像のうち、第1の期間T1に撮影された画像に決定する(S14)。
【0071】
図11に例示するように、第1の期間T1は、ワーク90の温度の第2のピークP2に対応する時刻t2を含み、かつ第1のピークP1に対応する時刻t1を含まない期間である。
【0072】
時刻t1は、例えば、励起源18による加熱中の時刻、又は励起源18が光を放射している時刻を表す。例えば、時刻t1は、励起源18による加熱開始時と、加熱終了時との間に含まれる時刻である。したがって、時刻t1を含まない第1の期間T1は、例えば、励起源18が光の放射を開始してから、光を放射し終えるまでの期間を含まない。第1の期間T1は、例えば、励起源18が光の放射を終了した時点より後の期間である。
【0073】
このように、プロセッサ11は、良否判定処理S3で使用する画像の時間的範囲(フレーム範囲)を、第1の期間T1に設定する。
【0074】
透過エネルギー量TEが閾値未満である場合(S13でNo)、プロセッサ11は、熱伝導モードに対応する第2の解析モードで動作する。第2の解析モードでは、プロセッサ11は、良否判定処理S3で使用する画像の時間的範囲(フレーム範囲)を、第2の期間T2に設定する(S15)。
【0075】
図11に例示するように、第2の期間T2は、ワーク90の温度の第1のピークP1に対応する時刻t1と、第2のピークP2に対応する時刻t2とを含む期間である。
【0076】
第2の期間T2は、例えば、励起源18が光の放射を終了した時点以前の期間を含む。第2の期間T2は、例えば、励起源18が光の放射を開始してから、光を放射し終えるまでの期間を含む。
【0077】
なお、
図11に示した例と異なり、ステップS11は、ステップS12の後、又はステップS13の後に実行されてもよい。
【0078】
[1-3-3.良否判定処理]
[1-3-3-1.良否判定処理の全体的な流れ]
図13は、
図9に示した良否判定処理S3の詳細を例示するフローチャートである。
【0079】
図13では、まず、プロセッサ11は、設定周波数を取得する(S21)。設定周波数は、例えばユーザによって入力され、記憶装置12に予め格納されている。
【0080】
次に、プロセッサ11は、解析モード決定処理S2で設定されたフレーム範囲の赤外画像に対して、離散フーリエ変換を施し(S22)、設定周波数における位相特性を示す位相画像を抽出する(S23)。
【0081】
図14は、透過モードに対応する第1の解析モードで動作するプロセッサ11によって抽出される位相画像30を例示する模式図である。プロセッサ11が第1の解析モードで動作するため、プロセッサ11は、第1のピークP1を含まない第1の期間T1に撮影されたPPSの赤外画像に離散フーリエ変換を施すことにより、
図14の位相画像30を得る(
図12のS14参照)。
図14の位相画像30は、0.7Hzの設定周波数に対応し、赤外画像の0.7Hzにおける位相特性を示している。位相画像30内に認められる円環様の部分は、ワーク90の接合部95を表している。
【0082】
図15は、
図14の位相画像30と比較するために、第1のピークP1を含む第2の期間T2に撮影されたPPSの赤外画像に離散フーリエ変換を施すことにより得られた位相画像31を例示する模式図である。
図15の位相画像31は、0.7Hzの設定周波数に対応し、赤外画像の0.7Hzにおける位相特性を示している。位相画像31内に認められる円環様の部分は、ワーク90の接合部95を表している。
【0083】
本実施の形態で得られる
図14の位相画像30と比較すると、
図15の位相画像31において、接合部95を表す円環様の部分と、他の部分(暗い部分)との境界や接合領域内が不明瞭となっている。不明瞭な部分に欠陥がある場合、プロセッサ11はワーク90の欠陥、接合状態等を正確に検知できないおそれがある。本実施の形態では、
図14に示すように、接合部95を表す円環様の部分と他の部分との境界や接合領域内が明瞭な位相画像30が得られるため、ワーク90の欠陥、接合状態等を精度良く検知することができる。
【0084】
図13に戻り、プロセッサ11は、ステップS23の次に、ステップS23で抽出された位相画像に対して、フィルタ処理を施す(S24)。フィルタ処理は、例えば、局部イコライズ(平滑化)フィルタ処理、ハイパスフィルタ処理、ローパスフィルタ処理である。フィルタ処理は、トーンカーブを調整する処理を含んでもよい。また、フィルタ処理は、背景除去処理を含んでもよい。プロセッサ11は、フィルタ処理により、エッジ強調、濃淡調整、コントラスト調整等の処理を行う。
【0085】
次に、プロセッサ11は、ステップS24のフィルタ処理後の画像において、接合部95に対応する検査領域を抽出する処理を行う(S25)。検査領域の抽出処理S25について詳細は後述する。
【0086】
次に、プロセッサ11は、ステップS25で抽出された検査領域の画素値に基づいて、接合部95の品質の良否を判定する(S26)。プロセッサ11は、検査領域を抽出後の位相画像において、例えば接合部95の亀裂、間隙等の内部欠陥に対応する領域の大きさ及び単位面積あたりの個数を検出する。
【0087】
このような内部欠陥の検出処理は、例えば各種の機械学習によって得られた学習済みモデル等を用いて実行される。学習データは、例えば、情報処理装置である学習器によって、以下のようにして得られる。すなわち、複数回の接合を行い、各回の接合後に、学習器は、逐次撮影された複数の赤外画像を取得する。学習器は、各回の接合で得られる赤外画像から、例えば上記のステップS22~S25と同様にして、位相画像において検査領域を抽出し、検査領域内の内部欠陥に対応する領域の大きさ及び単位面積あたりの個数をアノテーションした学習データを作成する。
【0088】
学習器は、当該学習データに基づいて、位相画像から抽出された検査領域の画素値を入力して、内部欠陥の領域の大きさ及び個数を出力するように、回帰モデルの機械学習を実行する。接合品質の良否判定処理S26では、こうした学習済みの回帰モデルにより、内部欠陥を検出することができる。
【0089】
接合品質の良否判定処理S26では、プロセッサ11は、例えば、内部欠陥に対応して検出された領域の大きさ、及び単位面積あたりの個数の各々について、所定の閾値と比較することで、接合後のワーク90が良品か不良品かを判定する。例えば、プロセッサ11は、検出された当該領域の大きさ及び個数の両方が各々の閾値以上である場合に良品と判定し、いずれかが閾値以下である場合に不良品であると判定する。所定の閾値は、例えば不良品の見逃し及び過検出の割合等を考慮して、ワーク90の接合における加工精度の要求水準等に応じて適宜、設定可能である。
【0090】
[1-3-3-2.検査領域の抽出処理]
図16は、
図13に示した検査領域の抽出処理S25の詳細を例示するフローチャートである。検査領域の抽出処理S25は、例えば、
図3のステップS1で取得された赤外画像、及びフィルタ処理S24後の位相画像が検査装置10の内部メモリ等に保持された状態で開始される。
【0091】
まず、プロセッサ11は、赤外画像から、ワーク90のピーク温度での温度画像(「ピーク温度画像N1」ともいう。)の画像データを取得する(S31)。
【0092】
次に、プロセッサ11は、赤外画像から、ピーク温度より低い温度(例えば常温)での温度画像(「低温度画像」ともいう。)の画像データを取得する(S32)。
【0093】
プロセッサ11は、取得したピーク温度画像及び低温度画像の画像データに基づいて、温度差分画像を算出する(S33)。プロセッサ11は、ピーク温度画像と低温度画像との対応する位置における画素値(例えば、輝度値)の差分を演算して、温度差分画像を算出する。温度差分画像では、背景領域(バックグラウンド)の成分が抑制される。背景領域は、例えば、温度画像間において、熱励起によるワーク90上での温度変化が接合部95よりも少ない領域である。
【0094】
次に、プロセッサ11は、温度差分画像に2値化処理を施す(S34)。例えば、プロセッサ11は、ワーク90の表面各部における放射率差によるコントラストに基づいて、2値化処理を行う。例えば、プロセッサ11は、温度差分画像の放射率に応じた輝度値ヒストグラムを利用して、2値化処理を行う。この際、プロセッサ11は、画素値が所定の閾値以上である画素を白色に設定し、当該閾値未満である画素を黒色に設定する。
【0095】
所定の閾値は、例えば大津の2値化法等の判別分析法を用いて設定される。あるいは、2値化処理S34には、Pタイル法、モード法、動的閾値決定法、レベルスライス法、ラプラシアン・ヒストグラム法、微分ヒストグラム法等の公知の方法が用いられてもよい。
【0096】
プロセッサ11は、ステップS34で得られた2値化画像に基づいて、位相画像から検査領域を抽出するための領域マスクを作成する(S35)。プロセッサ11は、2値化画像において白色に設定された領域の画素値を「1」とし、黒色に設定された領域の画素値を「0」として設定した領域マスクを作成してもよい。
【0097】
プロセッサ11は、ステップS35で得られた領域マスクを位相画像に合成して、検査領域を抽出する(S36)。例えば、ステップS36では、プロセッサ11は、領域マスクの各画素値を、位相画像の対応する位置の各画素値に乗算する。これにより、位相画像において、接合部95に対応する位置の画素値は変更されない一方で、当該位置以外の背景領域の画素値はゼロ値となり、接合部95に対応する検査領域を抽出した位相画像が得られる。
【0098】
プロセッサ11は、例えば、検査領域の抽出結果として、検査領域を抽出した位相画像を示す画像データを記憶装置12等に出力する(S37)。なお、プロセッサ11は、検査領域の抽出結果を記憶装置12に限らず、例えばインタフェース13を介して、検査装置10の外部装置等に出力してもよい。
【0099】
以上のように、プロセッサ11は、温度画像におけるワーク90上の放射率差に応じたコントラストに基づいて領域マスクを作成し(S35)、当該領域マスクにより、位相画像において接合部95に対応する検査領域を抽出する(S36)。これにより、検査装置10は、位相画像のうちの抽出された検査領域のみにおいてワーク90の内部状態を判定することができ、良否判定処理(S3)を行い易くすることができる。例えば、検査装置10、位相画像において、抽出された検査領域以外の背景領域の影響を抑制して、ワーク90の接合状態を効率良く高精度に行うことができる。
【0100】
[1-4.効果等]
以上のように、本実施の形態に係る検査装置10は、赤外画像を取得する入力部の一例であるインタフェース13と、赤外画像に基づいて対象物の一例であるワーク90を検査する解析処理を行うプロセッサ11とを備える。赤外線カメラ17は、励起光源の一例である励起源18からの励起光によって加熱されたワーク90を時系列で撮影して赤外画像を生成する。プロセッサ11は、インタフェース13を介して赤外画像を取得する(S1)。プロセッサ11は、取得した赤外画像と励起光に関するワーク90の物性に応じて、第1又は第2の解析モードの間で解析処理を切り替える(S13)。第1の解析モードは、励起光の、ワーク90の表面を透過する成分の熱応答を解析するように赤外画像の解析処理を行う。第2の解析モードは、励起光の、ワーク90の表面に吸収される成分の熱応答を解析するように赤外画像の解析処理を行う。
【0101】
本実施の形態に係る検査装置10によれば、ワーク90を精度良く検査することができる。
【0102】
プロセッサ11は、第1の解析モードにおいては、赤外画像のうち第1の期間T1に撮影された第1の赤外画像を解析対象データとすることで、励起光の、ワーク90の表面を透過する成分の熱応答を解析するように解析処理を行ってもよい(S14)。プロセッサ11は、第2の解析モードにおいては、赤外画像のうち、第2の期間T2に撮影された第2の赤外画像を解析対象データとすることで、励起光の、ワーク90の表面に吸収される成分の熱応答を解析するように解析処理を行ってもよい(S15)。この構成によれば、ワーク90の物性に応じて解析の対象を適切に選択することにより、ワーク90を精度良く検査することができる。
【0103】
プロセッサ11は、第1の解析モードにおいては、第1の期間T1を、励起源18による励起光の放射の終了時点より後の期間に決定してもよい。この構成によれば、第1の解析モードにおいてワーク90による反射光に関する情報を解析対象から除外することにより、ワーク90を精度良く検査することができる。
【0104】
プロセッサ11は、第2の解析モードにおいては、第2の期間T2を、励起源18による励起光の放射の終了時点以前の期間を含む期間に決定してもよい。この構成によれば、第2の解析モードにおいて情報量の多いデータを解析対象とすることにより、ワーク90を精度良く検査することができる。
【0105】
プロセッサ11は、解析対象データに対して離散フーリエ変換を施して(S22)、ワーク90の温度変化に応じた解析画像を生成し(S23)、解析画像に基づいてワーク90の内部状態を検出することで、ワーク90を検査してもよい(S26)。解析画像は、例えば、離散フーリエ変換された解析対象データの、所定周波数における位相画像30である。この構成によれば、ワーク90の内部状態を精度良く検査することができる。
【0106】
プロセッサ11は、励起源18からの励起光のスペクトルを示す情報と、波長に対するワーク90の透過率の分布を示す情報とに基づいて、励起光の、ワーク90を透過する成分の量を示す所定量の一例である透過エネルギー量TEを算出してもよい。プロセッサ11は、透過エネルギー量TEが閾値以上である場合、第1の解析モードで動作し、透過エネルギー量TEが閾値未満である場合、第2の解析モードで動作してもよい。この構成によれば、透過エネルギー量TEに応じて解析モード切り替えることにより、ワーク90を精度良く検査することができる。
【0107】
ワーク90は、物性が互いに異なる、第1の層の一例である透過材91と、第2の層の一例である吸収材92とを含んでもよい。プロセッサ11は、透過材91の物性に応じて、第1の解析モードと第2の解析モードとを切り替えてもよい。この構成によれば、透過材91の物性に応じて解析の対象を適切に選択することにより、ワーク90を精度良く検査することができる。
【0108】
一例では、ワーク90は、透過材91及び/又は吸収材92が溶融することで、透過材91と吸収材92とが互いに接合された接合部95を含む。プロセッサ11は、解析処理として、赤外画像に基づいて接合部95の状態を検査してもよい。この構成によれば、ワーク90の接合部95の状態を精度良く検査することができる。
【0109】
プロセッサ11は、励起源18からの励起光のスペクトルを示す情報と、波長に対する透過材91の透過率の分布を示す情報とに基づいて、励起光の、透過材91を透過する成分の量を示す透過エネルギー量と、透過材91に吸収される成分の量を示す熱伝導エネルギー量とを算出してもよい。プロセッサ11は、透過エネルギー量が熱伝導エネルギー量以上である場合、第1の解析モードで動作し、透過エネルギー量が熱伝導エネルギー量未満である場合、第2の解析モードで動作する。この構成によれば、透過エネルギー量及び熱伝導エネルギー量に応じて解析モード切り替えることにより、ワーク90を精度良く検査することができる。
【0110】
[2.実施の形態2]
[2-1.構成]
図17は、本開示の実施の形態2に係る検査システム2の構成例を示すブロック図である。検査システム2は、実施の形態1に係る検査システム1と比較すると、検査装置10に代えて検査装置20を備え、励起源18に代えて励起源28を備える。以下の本実施の形態に係る検査システム2に関する説明においては、実施の形態1に係る検査システム1と同様の構成、動作等の説明を省略することがある。
【0111】
励起源28は、放射する光の波長特性を変更可能に構成される。例えば、励起源28は、光学フィルタの有無又は種類を変更することにより、ワーク90に到達する光の波長特性を変更可能である。光学フィルタの有無又は種類の変更は、例えば検査装置20によって行われるが、これに限定されず、人によって行われてもよい。
【0112】
あるいは又はこれに加えて、ワーク90に到達する光の波長特性は、励起源28の種類を変更することにより変更可能である。例えば、励起源28は、キセノンランプ、ハロゲンランプ、及びレーザ光源のうちの少なくとも2つの間で交換可能に構成される。励起源28の種類の変更は、例えば検査装置20によって行われるが、これに限定されず、人によって行われてもよい。
【0113】
本実施の形態では、検査装置20は、スペクトルとワーク90の物性との関係性により透過モードとなるような光源がある場合には、そのような光源を励起源28として用いて第1の解析モードで解析処理を行う。
【0114】
第1のピークP1は、励起源18からの光をワーク90が反射することにより生じた反射光を赤外線カメラ17が検知した結果として、温度の時系列データ上に現れることがある。このような場合、第1のピークP1は、ワーク90の温度上昇を直接的に表さないことがあるため、第1のピークP1に対応する赤外画像を解析対象から除外することが好ましい場合がある。検査装置20は、第1のピークP1に対応する赤外画像を解析対象から可能な限り除外し、精度良くワーク90の状態を検査することを可能にする。
【0115】
図18は、
図17の検査装置20の構成例を示すブロック図である。検査装置20は、プロセッサ21と、記憶装置22と、インタフェース23とを備える。
【0116】
プロセッサ21、記憶装置22、及びインタフェース23は、それぞれ、検査装置10のプロセッサ11、記憶装置12、及びインタフェース13と同様の構成を有してもよい。
【0117】
記憶装置22は、検査装置20の機能を実現するために必要なプログラムとデータとを含む種々の情報を記憶する。記憶装置22は、このようなデータとして、ワーク90の物性を示す物性データベース(DB)220と、励起源28として選択され得る複数の光源のスペクトルを示すスペクトルDB221とを含む。
【0118】
図19は、物性DB220の一例を示す表である。物性DB220は、材料と、当該材料の波長特性とを対応付けたデータベースである。波長特性は、例えば、ある材料の波長に対する透過率の分布を示す。ワーク90の材料は、例えば、PA、PBT、又はPPSであるので、物性DB220は、PAの波長特性(波長特性PA)、PBTの波長特性(波長特性PBT)、PPSの波長特性(波長特性PPS)を含む。
図20~22は、それぞれ、
図19に示した物性DB220の波長特性PA、波長特性PBT、及び波長特性PPSを示すグラフである。
【0119】
ワーク90の材料は、実施の形態1と同様に、セラミックス、SPCC鋼、又はアルミニウムであってもよい。
【0120】
図23は、スペクトルDB221の一例を示す表である。スペクトルDB221は、励起源28として選択され得る光源の種類と、当該光源のスペクトルとを対応付けたデータベースである。励起源28は、例えば、キセノンランプ、ハロゲンランプ、又はレーザ光源であるので、スペクトルDB221は、キセノンランプのスペクトルXと、ハロゲンランプのスペクトルHと、レーザ光源の一例であるダイオードレーザのスペクトルDLとを含む。
図24~26は、それぞれ、
図23のスペクトルX、スペクトルH、及びスペクトルDLを示すグラフである。
【0121】
検査装置20は、物性DB220及びスペクトルDB221を用いて透過エネルギー量TEを算出し、算出された透過エネルギー量TEに基づいて励起源28の波長特性を決定する。例えば、プロセッサ21は、透過エネルギー量TEに基づいて励起源28の種類を変更する。以下、検査装置20の動作例の詳細を説明する。
【0122】
[2-2.動作]
図27は、検査装置20の動作を例示するフローチャートである。本フローに示す各処理は、例えば検査装置20のプロセッサ21によって実行される。実施の形態1に係る
図9のフローチャートと比較すると、
図27のフローチャートは、
図9のステップS1及びS2に代えて、判定準備処理S200を含む。
【0123】
判定準備処理S200は、例えば、透過モードと熱伝導モードのどちらが主体かによってプロセッサ21の解析モードを切り替える処理である。
【0124】
図28は、
図27に示した判定準備処理S200の詳細を例示するフローチャートである。
【0125】
図28において、まず、プロセッサ21は、ワーク90の材料情報を取得する(S201)。例えば、ユーザがキーボード、マウス、タッチパネル等のユーザインタフェースによりワーク90の材料情報を入力し、プロセッサ21は、インタフェース23を介して材料情報を取得する。あるいは、ワーク90の材料情報は、予め記憶装置22に記憶されていてもよい。
【0126】
プロセッサ21は、ステップS201で取得したワーク90の材料情報に基づいて、物性DB220から、ワーク90の物性情報を取得する(S202)。例えば、ワーク90の材料がPAである場合、プロセッサ21は、
図19の物性DB220を参照し、波長特性PAを物性情報として取得する。
【0127】
プロセッサ21は、スペクトルDB221から、励起源28の候補である複数の光源のスペクトルを取得する(S203)。
図28の例と異なり、ステップS203は、ステップS202より前に実行されてもよい。
【0128】
次に、プロセッサ21は、ステップS202及びS203で取得した情報に基づいて、光源毎の透過エネルギー量TEを算出する(S204)。例えば、プロセッサ21は、特定の波長におけるある光源の相対強度と、ワーク90の透過率との積を算出することで、当該波長における透過エネルギー量を算出する。プロセッサ21は、例えば全波長にわたって透過エネルギー量を算出してこれらの総和を求めることにより、当該光源の透過エネルギー量TEを算出する。
【0129】
プロセッサ21は、透過エネルギー量TEが所定の基準値TER以上である光源があるか否かを判定する(S205)。基準値TERは、例えば2000に設定されるがこれに限定されない。
【0130】
プロセッサ21は、透過エネルギー量TEが所定の基準値TER以上である光源があると判定した場合(S205でYes)、TE≧TERとなるような1つの光源を励起源28として準備する(S206)。例えば、プロセッサ21は、透過エネルギー量TEが所定の基準値TER以上である複数の光源があると判定した場合、複数の光源のうち、透過エネルギー量TEが最も大きい光源を励起源28として準備する。
【0131】
プロセッサ21は、ステップS206で準備された励起源28によりワーク90を加熱する(S207)。
【0132】
次に、プロセッサ21は、赤外線カメラ17から赤外画像を取得する(S208)。ステップS208は、
図9のステップS1と同様の処理であってもよい。
【0133】
次に、プロセッサ21は、ステップS208で取得した赤外画像に基づいて、接合部95の温度の時系列データを取得する(S209)。ステップS209は、
図10のステップS11と同様の処理であってもよい。
【0134】
次に、プロセッサ21は、良否判定処理S3で使用する画像の時間的範囲(フレーム範囲)を、第1の期間T1に設定する(S210)。第1の期間T1は、ワーク90の温度の第2のピークP2に対応する時刻t2を含み、かつ第1のピークP1に対応する時刻t1を含まない期間である。ステップS210は、
図10のステップS14と同様の処理であってもよい。
【0135】
ステップS205において、透過エネルギー量TEが所定の基準値TER以上である光源がないと判定した場合(S205でNo)、プロセッサ21は、TE<TERとなるような1つの光源を励起源28として準備する(S206)。例えば、プロセッサ21は、TE<TERとなるような光源が複数ある場合、複数の光源のうちの1つを励起源28として準備する。
【0136】
ステップS212、S213、S214は、それぞれ、ステップS207、S208、S209と同様の処理である。
【0137】
ステップS214の次に、プロセッサ21は、良否判定処理S3で使用する画像の時間的範囲(フレーム範囲)を、第2の期間T2に設定する(S215)。第2の期間T2は、ワーク90の温度の第1のピークP1に対応する時刻t1と、第2のピークP2に対応する時刻t2とを含む期間である。ステップS215は、
図10のステップS15と同様の処理であってもよい。
【0138】
[2-3.効果等]
以上のように、本実施の形態に係る検査装置20は、赤外画像を取得する入力部の一例であるインタフェース23と、赤外画像に基づいて対象物の一例であるワーク90を検査する解析処理を行うプロセッサ21とを備える。赤外線カメラ17は、励起光源の一例である励起源28からの励起光によって加熱されたワーク90を時系列で撮影して赤外画像を生成する。プロセッサ21は、励起光の、ワーク90の表面を透過する成分の熱応答を解析するように赤外画像の解析処理を行う第1の解析モードと、励起光の、ワーク90の表面に吸収される成分の熱応答を解析するように赤外画像の解析処理を行う第2の解析モードと、のどちらで動作するかを選択する。プロセッサ21は、選択結果に応じて励起源28の波長特性を決定する(S200)。
【0139】
本実施の形態に係る検査装置20によれば、ワーク90を精度良く検査することができる。
【0140】
プロセッサ21は、ワーク90の物性を示す物性情報と、複数の光源のスペクトルを示す情報とに基づいて、第1の解析モード又は第2の解析モードのどちらで動作するかを選択してもよい(S205)。この構成によれば、物性情報と、複数の光源のスペクトルを示す情報とに応じて励起源28の波長特性を適切に決定することにより、ワーク90を精度良く検査することができる。
【0141】
プロセッサ21は、波長に対するワーク90の透過率の分布を示す情報と、複数の光源のスペクトルを示す情報とに基づいて、複数の光源のそれぞれから放射される光の、ワーク90を透過する成分の量を示す透過エネルギー量TEを算出してもよい(S204)。プロセッサ21は、複数の光源の中に透過エネルギー量TEが基準値TER以上である光源がある場合(S205でYes)、第1の解析モードで動作してもよい。プロセッサ21は、複数の光源の中に透過エネルギー量TEが基準値TER以上である光源がない場合(S205でNo)、第2の解析モードで動作してもよい。この構成によれば、解析モードを適切に決定することにより、ワーク90を精度良く検査することができる。
【0142】
プロセッサ21は、複数の光源の中に透過エネルギー量TEが基準値TER以上である光源がある場合(S205でYes)、複数の光源のうちの1つを励起源28として決定することにより、選択結果に応じて励起源28の波長特性を決定してもよい(S206)。この構成によれば、励起源28の波長特性を適切に決定することにより、ワーク90を精度良く検査することができる。
【0143】
プロセッサ21は、第1の解析モードにおいては、赤外画像のうち第1の期間T1に撮影された第1の赤外画像を解析対象データとする(S210)ことで、励起源28からの光の、ワーク90の表面を透過する成分の熱応答を解析するように解析処理を行ってもよい。プロセッサ21は、第2の解析モードにおいては、赤外画像のうち、第2の期間T2に撮影された第2の赤外画像を解析対象データとする(S215)ことで、励起源28からの光の、ワーク90の表面に吸収される成分の熱応答を解析するように解析処理を行ってもよい。この構成によれば、ワーク90の物性に応じて解析の対象を適切に選択することにより、ワーク90を精度良く検査することができる。
【0144】
プロセッサ21は、第1の解析モードにおいては、第1の期間T1を、励起源28による光の放射の終了時点より後の期間に決定してもよい(S210)。この構成によれば、第1の解析モードにおいてワーク90による反射光に関する情報を解析対象から除外することにより、ワーク90を精度良く検査することができる。
【0145】
プロセッサ21は、第2の解析モードにおいては、第2の期間T2を、励起源28による光の放射の終了時点以前の期間を含む期間に決定してもよい(S215)。この構成によれば、第2の解析モードにおいて情報量の多いデータを解析対象とすることにより、ワーク90を精度良く検査することができる。
【0146】
プロセッサ21は、赤外画像に対して離散フーリエ変換を施して(S22)、ワーク90の温度変化に応じた解析画像を生成し(S23)、解析画像に基づいてワーク90の内部状態を検出することで、ワーク90を検査してもよい(S26)。解析画像は、例えば、離散フーリエ変換された赤外画像の、所定周波数における位相画像30である。この構成によれば、ワーク90の内部状態を精度良く検査することができる。
【0147】
[3.他の実施の形態]
以上のように、本開示における技術の例示として、実施の形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置換、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、上記実施の形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。そこで、以下、他の実施の形態としての変形例を例示する。
【0148】
[3-1.第1変形例]
実施の形態1及び2の検査処理は、組み合わせることができる。
図29は、このような第1変形例に係る検査装置の動作を例示するフローチャートである。本フローに示す各処理は、例えば検査装置のプロセッサによって実行される。このプロセッサは、プロセッサ11又はプロセッサ21と同様の構成を有してもよい。
【0149】
プロセッサは、励起源の波長特性が変更可能であり(S101でYes)、かつ記憶装置内にスペクトルDB221が記憶されている場合(S102でYes)、実施の形態2の処理と同様の処理を実行する。後続の処理は、
図27に示した処理と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0150】
プロセッサは、励起源の波長特性が変更可能でない場合(S101でNo)、又は記憶装置内にスペクトルDB221が記憶されていない場合(S102でNo)、実施の形態1の処理と同様の処理を実行する。後続の処理は、
図9に示した処理と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0151】
[3-2.第2変形例]
実施の形態1では、第1の期間T1及び第2の期間T2を、第1のピークP1に対応する時刻t1及び第2のピークP2に対応する時刻t2を基準として決定する例について説明したが、本開示はこれに限定されない。
【0152】
例えば、第1の期間T1及び第2の期間T2は、ワーク90の開始時刻(t=0)を基準とする絶対的な時刻により規定されてもよい。この場合、第1の期間T1は、加熱終了後の時刻t3から時刻t4までの期間に設定される。時刻t3は、0.01~1秒、例えば0.3秒である。時刻t4は、時刻t3から1.5秒後の時刻である。例えば、t4=1.8秒である。
【0153】
[3-3.第3変形例]
実施の形態1では、赤外画像に離散フーリエ変換を施して位相画像を抽出する例について説明したが、離散フーリエ変換により抽出されるのは位相画像に限定されない。例えば、プロセッサ11は、離散フーリエ変換後のデータの振幅特性を示す振幅画像、複素数である離散フーリエ変換後のデータの実部を示す実部画像、虚部を示す虚部画像、位相画像のうちの少なくとも1つを抽出してもよい。
【0154】
[4.態様例]
以下、本開示の態様を例示する。
【0155】
<態様1>
励起光源からの励起光によって加熱された対象物を赤外線撮影装置が時系列で撮影して生成した赤外画像を取得する入力部と、
前記赤外画像に基づいて前記対象物を検査する解析処理を行うプロセッサとを備え、
前記プロセッサは、
前記入力部を介して前記赤外画像を取得し、
取得した赤外画像と前記励起光に関する前記対象物の物性に応じて、第1又は第2の解析モードの間で前記解析処理を切り替え、
前記第1の解析モードは、前記励起光の、前記対象物の表面を透過する成分の熱応答を解析するように前記赤外画像の前記解析処理を行い、
前記第2の解析モードは、前記励起光の、前記対象物の表面に吸収される成分の熱応答を解析するように前記赤外画像の前記解析処理を行う、
検査装置。
【0156】
<態様2>
前記プロセッサは、
前記第1の解析モードにおいては、前記赤外画像のうち第1の期間に撮影された第1の赤外画像を解析対象データとすることで、前記励起光の、前記対象物の表面を透過する成分の熱応答を解析するように前記解析処理を行い、
前記第2の解析モードにおいては、前記赤外画像のうち、第2の期間に撮影された第2の赤外画像を解析対象データとすることで、前記励起光の、前記対象物の表面に吸収される成分の熱応答を解析するように前記解析処理を行う、
態様1に記載の検査装置。
【0157】
<態様3>
前記プロセッサは、
前記第1の解析モードにおいては、前記第1の期間を、前記励起光源による前記励起光の放射の終了時点より後の期間に決定し、
前記第2の解析モードにおいては、前記第2の期間を、前記励起光源による前記励起光の放射の終了時点以前の期間を含む期間に決定する、
態様2に記載の検査装置。
【0158】
<態様4>
前記プロセッサは、
前記解析対象データに対して離散フーリエ変換を施して、前記対象物の温度変化に応じた解析画像を生成し、
前記解析画像に基づいて前記対象物の内部状態を検出することで、前記対象物を検査する、
態様2又は3に記載の検査装置。
【0159】
<態様5>
前記解析画像は、離散フーリエ変換された前記解析対象データの、所定周波数における位相画像である、態様4に記載の検査装置。
【0160】
<態様6>
前記プロセッサは、
前記励起光のスペクトルを示す情報と、波長に対する前記対象物の透過率の分布を示す情報とに基づいて、前記励起光の、前記対象物を透過する成分の量を示す所定量を算出し、
前記所定量が閾値以上である場合、前記第1の解析モードで動作し、
前記所定量が閾値未満である場合、前記第2の解析モードで動作する、
態様1~5のいずれかに記載の検査装置。
【0161】
<態様7>
前記対象物は、前記物性が互いに異なる第1の層と第2の層とを含み、
前記プロセッサは、前記第1の層の前記物性に応じて、前記第1の解析モードと前記第2の解析モードとの間で前記解析処理を切り替える、
態様1~6のいずれかに記載の検査装置。
【0162】
<態様8>
前記対象物は、前記第1の層及び/又は前記第2の層が溶融することで、前記第1の層と前記第2の層とが互いに接合された接合部を含み、
前記プロセッサは、前記解析処理として、前記赤外画像に基づいて前記接合部の状態を検査する、
態様7に記載の検査装置。
【0163】
<態様9>
前記プロセッサは、
前記励起光のスペクトルを示す情報と、波長に対する前記第1の層の透過率の分布を示す情報とに基づいて、前記励起光の、前記第1の層を透過する成分の量を示す第1の量と、前記第1の層に吸収される成分の量を示す第2の量とを算出し、
前記第1の量が前記第2の量以上である場合、前記第1の解析モードで動作し、
前記第1の量が前記第2の量未満である場合、前記第2の解析モードで動作する、
態様7又は8に記載の検査装置。
【0164】
<態様10>
励起光源からの励起光によって加熱された対象物を赤外線撮影装置が時系列で撮影して生成した赤外画像に基づいて前記対象物を検査する解析処理を行う検査方法であって、
プロセッサが、赤外画像を取得するステップと、
前記プロセッサが、取得した赤外画像と前記励起光に関する前記対象物の物性に応じて、第1又は第2の解析モードの間で前記解析処理を切り替えるステップと、を含み、
前記第1の解析モードは、前記励起光の、前記対象物の表面を透過する成分の熱応答を解析するように前記赤外画像の前記解析処理を行い、
前記第2の解析モードは、前記励起光の、前記対象物の表面に吸収される成分の熱応答を解析するように前記赤外画像の前記解析処理を行う、
検査方法。
【産業上の利用可能性】
【0165】
本開示は、検査装置及び検査方法に適用可能である。
【符号の説明】
【0166】
1 検査システム
2 検査システム
10 検査装置
11 プロセッサ
12 記憶装置
13 インタフェース
15 コントロールボックス
16 電源
17 赤外線カメラ
18 励起源
19 報知装置
20 検査装置
21 プロセッサ
22 記憶装置
23 インタフェース
28 励起源
30 位相画像
31 位相画像
90 ワーク
91 透過材
92 吸収材
95 接合部
220 物性データベース
221 スペクトルデータベース