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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001709
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】磁気コアおよび磁性部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/24 20060101AFI20231227BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
H01F1/24
H01F27/255
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100545
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉留 和宏
(72)【発明者】
【氏名】森 智子
(72)【発明者】
【氏名】松元 裕之
【テーマコード(参考)】
5E041
【Fターム(参考)】
5E041AA01
5E041AA02
5E041AA03
5E041AA04
5E041AA05
5E041AA06
5E041AA07
5E041BB03
5E041BC01
5E041BD12
5E041BD13
5E041CA01
5E041CA02
5E041NN06
(57)【要約】
【課題】従来よりも優れた直流重畳特性を示す磁気コア、および、磁性部品を提供すること。
【解決手段】断面の75%以上90%以下の面積を金属磁性粒子が占める磁気コアである。金属磁性粒子は、磁気コアの断面におけるヘイウッド径が3μm以上である第1粒子と、磁気コアの断面におけるヘイウッド径が3μm未満である第2粒子と、を含む。第2粒子は、粒子表面に存在する被膜の組成が異なる2種以上の小粒子を含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属磁性粒子を含む磁気コアであり、
前記磁気コアの断面において前記金属磁性粒子が占める合計面積割合が、75%以上90%以下であり、
前記金属磁性粒子は、前記磁気コアの断面におけるヘイウッド径が3μm以上である第1粒子と、前記磁気コアの断面におけるヘイウッド径が3μm未満である第2粒子と、を含み、
前記第2粒子は、粒子表面に存在する被膜の組成が異なる2種以上の小粒子を含む磁気コア。
【請求項2】
前記磁気コアの断面において前記第1粒子が占める合計面積割合をA1とし、前記第2粒子が占める合計面積割合をA2として、
A1>A2を満たす請求項1に記載の磁気コア。
【請求項3】
前記第1粒子は、平均円形度が0.90以上である大粒子を含む請求項1または2に記載の磁気コア。
【請求項4】
請求項1または2に記載の磁気コアを有する磁性部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属磁性粉末を含む磁気コア、および、当該磁気コアを有する磁性部品に関する。
【背景技術】
【0002】
金属磁性粉末および樹脂を含む磁気コア(圧粉磁心)を有する、インダクタ、トランス、チョークコイルなどの磁性部品が知られている。このような磁性部品に関して、直流重畳特性を向上させるために、様々な試みがなされてきた。
【0003】
たとえば、特許文献1は、粒度とアスペクト比が異なる2種類の金属磁性粉末を用いた圧粉磁心を開示している。特許文献1によれば、粗大粉体と微細粉体との混合により、圧粉磁心の相対密度が向上し、直流重畳特性を改善させることができる。
【0004】
近年、磁性部品の小型化、高効率化、および省エネルギー化の要求が高まっており、特許文献1のような従来の磁性部品よりも、直流重畳特性をさらに向上させることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-012630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、上記の実情を鑑みてなされ、その目的は、従来よりも優れた直流重畳特性を示す磁気コア、および、当該磁気コアを有する磁性部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本開示に係る磁気コアは、
金属磁性粒子を含み、
前記磁気コアの断面において前記金属磁性粒子が占める合計面積割合が、75%以上90%以下であり、
前記金属磁性粒子は、前記磁気コアの断面におけるヘイウッド径が3μm以上である第1粒子と、前記磁気コアの断面におけるヘイウッド径が3μm未満である第2粒子と、を含み、
前記第2粒子は、粒子表面に存在する被膜の組成が異なる2種以上の小粒子を含む。
【0008】
磁気コアが上記の特徴を有することで、従来よりも直流重畳特性を向上させることができる。
【0009】
前記磁気コアの断面において前記第1粒子が占める合計面積割合をA1とし、前記第2粒子が占める合計面積割合をA2として、
好ましくは、前記磁気コアがA1>A2を満たす。
【0010】
好ましくは、前記第1粒子は、平均円形度が0.90以上である大粒子を含む。
【0011】
本開示の磁気コアは、インダクタ、トランス、チョークコイルなどの各種磁性部品に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る磁気コアの断面を示す模式図である。
図2A図2Aは、金属磁性粉の粒度分布の一例を示すグラフである。
図2B図2Bは、金属磁性粉の粒度分布の一例を示すグラフである。
図2C図2Cは、金属磁性粉の粒度分布の一例を示すグラフである。
図3図3は、図1に示す磁気コアの断面を拡大した模式図である。
図4図4は、小粒子に絶縁被膜を形成する際に用いる粉末処理装置の一例を示す、断面模式図である。
図5図5は、本開示に係る磁性部品の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示を、図面に示す実施形態に基づき詳細に説明する。
【0014】
本実施形態に係る磁気コア2は、所定の形状を保持していればよく、その外形寸法や形状は特に限定されない。図1の断面図に示すように、磁気コア2は、少なくとも金属磁性粒子10と樹脂20とを含み、金属磁性粒子10が樹脂20を介して結着することにより、磁気コア2が所定の形状を成している。
【0015】
磁気コア2の断面において金属磁性粒子10が占める合計面積割合A0は、75%以上90%以下である。この金属磁性粒子10の合計面積割合A0は、磁気コア2における金属磁性粒子10の充填率に相当し、SEM(走査型電子顕微鏡)やSTEM(走査透過型電子顕微鏡)などの電子顕微鏡を用いて、磁気コア2の断面を解析することで算出すればよい。たとえば、磁気コア2の任意の断面を、連続する複数の視野に分割して観察し、各視野に含まれる各金属磁性粒子10の面積を計測する。そして、金属磁性粒子10の面積の合計を、観察した視野の合計面積で割ることで、金属磁性粒子10の合計面積割合A0(%)を算出する。この断面解析において、視野の合計面積は、少なくとも1000000μm2とすることが好ましい。また、断面解析において、観察試料の切断面(磁気コア2を切断し研磨した面)が上記の視野の合計面積に満たない場合、所定の切断面を解析した後、当該切断面を再度100μm以上研磨等行い、再度断面解析を行うことで、視野の合計面積を1000000μm2以上としてもよい。
【0016】
磁気コア2に含まれる金属磁性粒子10は、ヘイウッド径(Heywood diameter)に基づいて、複数の粒子群に分類することができる。ここで、本実施形態における「ヘイウッド径」とは、磁気コア2の断面で観測される各金属磁性粒子10の円相当径を意味する。具体的に、磁気コア2の断面における各金属磁性粒子10の面積をSとして、各金属磁性粒子10のヘイウッド径は、(4S/π)1/2で表される。
【0017】
たとえば、金属磁性粒子10を大別する場合、金属磁性粒子10は、第1粒子10aと、第2粒子10bとに分類することができる。第1粒子10aは、ヘイウッド径が3μm以上の金属磁性粒子10であり、第2粒子10bはヘイウッド径が3μm未満の金属磁性粒子10である。
【0018】
磁気コア2では、第1粒子10aの含有率が、第2粒子10bの含有率よりも多いことが好ましい。つまり、磁気コア2の断面において、第1粒子10aが占める合計面積割合をA1とし、第2粒子10bが占める合計面積割合をA2とすると、金属磁性粒子10の面積割合は、A1>A2を満たすことが好ましい。第2粒子10bよりも第1粒子10aの含有率を多くすることで、磁気コア2の透磁率を向上させることができる。なお、A1とA2の合計が金属磁性粒子10の合計面積割合A0となり(A1+A2=A0)、A1およびA2についても、A0と同様の方法で測定すればよい。
【0019】
また、金属磁性粒子10は、粒度分布に基づいて、より詳細に分類することができる。金属磁性粒子10の粒度分布は、磁気コア2の任意の断面において、少なくとも1000個の金属磁性粒子10のヘイウッド径を計測することで特定すればよい。磁気コア2では、金属磁性粒子10の粒度分布が、少なくとも2つのピークを有する。つまり、金属磁性粒子10は、平均粒径が異なる2以上の粒子群を含む。
【0020】
たとえば、図2A図2Cで例示しているグラフが、金属磁性粒子10の粒度分布である。図2A図2Cの各グラフにおいて、縦軸は面積基準の頻度(%)であり、横軸はヘイウッド径換算の粒子径(μm)を示す対数軸である。なお、図2A図2Cに示す粒度分布は例示であり、金属磁性粒子10の粒度分布は図2A図2Cに限定されない。
【0021】
金属磁性粒子10が平均粒径の異なる2つの粒子群(大粒子および小粒子)で構成してある場合には、図2Aに示すように、金属磁性粒子10の粒度分布が、2つのピークを有する。また、金属磁性粒子10が平均粒径の異なる3つの粒子群(大粒子、中粒子、および小粒子)で構成してある場合には、図2Bに示すように、金属磁性粒子10の粒度分布が、3つのピークを有する。図2Aおよび図2Bに示すように、金属磁性粒子10の粒度分布を一連の分布曲線で表した場合、最も大径側に位置するピーク(横軸の最右側位置するピーク)に属し、かつ、D20が3μm以上である粒子群を大粒子11とし、最も小径側に位置するピーク(横軸の最左側位置するピーク)に属し、かつ、D80が3μm未満である粒子群を小粒子12とする。また、大粒子および小粒子以外の粒子を、中粒子13とする。
【0022】
ここで、「最も大径側に位置するピークに属する粒子群」とは、分布曲線を大径側(グラフ右側)から辿った際に、分布曲線の裾部(最右端)からピークトップを経由して局所極小点にいたるまでの範囲に含まれる粒子群を意味する。すなわち、図2Aに示す粒度分布の場合、EP1からPeak1を経由してLPに至るまでの範囲に含まれる粒子群が、「最も大径側に位置するピークに属する粒子群」に該当する。図2Bに示す粒度分布の場合、EP1からPeak1を経由してLP1に至るまでの範囲に含まれる粒子群が、「最も大径側に位置するピークに属する粒子群」に該当する。
【0023】
また、D20は、面積基準の累積頻度が20%となるヘイウッド径を意味する。図2Aおよび図2Bの粒度分布では、Peak1に属する粒子群のD20が3μm以上であり、このPeak1に属する粒子群が大粒子11である。
【0024】
「最も小径側に位置するピークに属する粒子群」とは、分布曲線を小径側(グラフ左側)から辿った際に、分布曲線の裾部(最左端)からピークトップを経由して局所極小点にいたるまでの範囲に含まれる粒子群を意味する。すなわち、図2Aに示す粒度分布の場合、EP2からPeak2を経由してLPに至るまでの範囲に含まれる粒子群が、「最も小径側に位置するピークに属する粒子群」に該当する。また、図2Bに示す粒度分布の場合、EP2からPeak2を経由してLP2に至るまでの範囲に含まれる粒子群が、「最も小径側に位置するピークに属する粒子群」に該当する。
【0025】
また、D80は、面積基準の累積頻度が80%となるヘイウッド径を意味する。図2Aおよび図2Bの粒度分布では、Peak2に属する粒子群のD80が3μm未満であり、このPeak2に属する粒子群が小粒子12である。
【0026】
なお、図2Bに示す粒度分布では、LP1からPeak3を経由してLP2に至るまでの粒子群が、Peak3に属する粒子群である。このPeak3に属する粒子群では、D20が3μm未満であり、D80が3μm以上である。つまり、Peak3に属する粒子群は、大粒子11と小粒子12のいずれにも該当しない中粒子13である。
【0027】
磁気コア2の金属磁性粒子10には、図2Aおよび図2Bに示すように、大粒子11および小粒子12が含まれ、その他に中粒子13などの他の粒子群が含まれていてもよい。また、大粒子11には、粒子組成が異なる2以上の粒子群が含まれていてもよく、小粒子12にも、粒子組成が異なる2以上の粒子群が含まれていてもよい。加えて、大粒子11と小粒子12とは、互いに同じ組成を有していてもよく、異なる組成を有していてもよい。
【0028】
なお、「粒子組成が異なる」とは、粒子本体に含まれる構成元素の種類が異なる場合、もしくは、構成元素の種類が一致していたとしても、各構成元素の含有比率が異なる場合を意味する。構成元素は、粒子本体において1at%以上含まれる元素を意味する。つまり、粒子本体に含まれる元素のうち不純物元素以外の元素を構成元素と称することとする。
【0029】
大粒子11や小粒子12などの粒子群が互いに異なる組成を有する場合、すなわち、金属磁性粒子10が粒子組成の異なる2種以上の粒子群を含む場合、組成分析と粒度解析とを併用して、金属磁性粒子10を分類してもよい。具体的に、電子顕微鏡による磁気コア2の断面観察時に、EDX装置(エネルギー分散型X線分析装置)もしくはEPMA(電子プローブマイクロアナライザ)を用いて、観察視野中に含まれる各金属磁性粒子10の組成を分析し、組成に基づいて金属磁性粒子10を分類する。そして、各組成に属する金属磁性粒子10のヘイウッド径を計測することで、複数の分布曲線が得られる。
【0030】
たとえば、金属磁性粒子10が粒子組成の異なる4つの粒子群で構成してある場合には、図2Cに示すように、4つの分布曲線が得られる。図2Cの粒度分布では、組成Aを有する粒子群の分布曲線を実線で示し、組成Bを有する粒子群の分布曲線を一点鎖線で示し、組成Cを有する粒子群の分布曲線を点線で示し、組成Dを有する粒子群の分布曲線を二点鎖線で示している。
【0031】
図2Cに示すように、金属磁性粒子10の粒度分布を組成に応じた複数の分布曲線で表した場合、D20が3μm以上である粒子群を大粒子11とし、D80が3μm未満である粒子群を小粒子12とし、大粒子11および小粒子12以外の粒子群を中粒子13とする。すなわち、図2Cでは、組成Aを有する粒子群が大粒子11であり、組成Bを有する粒子群および組成Cを有する粒子群が小粒子12であり、組成Dを有する粒子群が中粒子13である。
【0032】
前述のとおり、大粒子11のD20は3μm以上であり、大粒子11のヘイウッド径は、いずれも3μm以上であることが好ましい。また、大粒子11のヘイウッド径の平均値(算術平均径)は、特に限定されず、たとえば、5μm以上40μm以下であることが好ましく、10μm以上35μm以下であることが好ましい。小粒子12のD80は3μm未満であり、小粒子12のヘイウッド径は、いずれも3μm未満であることが好ましい。また、小粒子12のヘイウッド径の平均値(算術平均径)は、特に限定されず、たとえば、2μm以下であることが好ましく、0.2μm以上2μm未満であることがより好ましい。
【0033】
磁気コア2の断面において大粒子11が占める合計面積割合をALとし、磁気コア2の断面において小粒子12が占める合計面積割合をASとすると、ALがASよりも大きいことが好ましい(AL>AS)。具体的に、金属磁性粒子10の合計面積に対する大粒子11の合計面積の比率(AL/A0)は、50%超過90%以下であることが好ましく、60%以上82%以下であることがより好ましい。また、金属磁性粒子10の合計面積に対する小粒子12の合計面積の比率(AS/A0)は、8%以上50%未満であることが好ましく、10%以上40%以下であることがより好ましい。磁気コア2が上記の比率で大粒子11および小粒子12を含むことで、高い透磁率と優れた直流重畳特性とをより好適に両立させることができる。なお、上記のALおよびASは、A0と同様の方法で測定すればよい。
【0034】
金属磁性粒子10が中粒子13を含む場合、中粒子13のヘイウッド径の平均値(算術平均径)は、特に限定されず、たとえば、3μm以上5μm以下であることが好ましい。また、金属磁性粒子10の合計面積に対する中粒子13の合計面積の比率(AM/A0)は、5%以上30%以下であることが好ましい。
【0035】
なお、本実施形態では、金属磁性粒子10を大粒子11および小粒子12などに分類する方法として、図2A図2Cに示す方法を提示しているが、小粒子12が、大粒子11や中粒子13と同じ粒子組成を有する場合には、図2Aまたは図2Bに示す分類方法を採用することが好ましく、小粒子12が、大粒子11や中粒子13と異なる粒子組成を有する場合には、図2Cに示す分類方法を採用することが好ましい。
【0036】
金属磁性粒子10は、いずれも、軟磁性金属からなり、その組成は特に限定されない。たとえば、金属磁性粒子10は、純鉄、結晶系合金、ナノ結晶系合金、もしくは、非晶質系合金とすることができる。結晶系の軟磁性合金としては、Fe-Ni系合金、Fe-Si系合金、Fe-Si-Cr系合金、Fe-Si-Al系合金、Fe-Si-Al-Ni系合金、Fe-Ni-Si-Co系合金、Fe-Co系合金、Fe-Co-V系合金、Fe-Co-Si系合金、もしくは、Fe-Co-Si-Al系合金などが挙げられる。ナノ結晶系または非晶質系の軟磁性合金としては、Fe-Si-B系合金、Fe-Si-B-C系合金、Fe-Si-B-C―Cr系合金、Fe-Nb-B系合金、Fe-Nb-B-P系合金、Fe-Nb-B-Si系合金、Fe-Co-P-C系合金、Fe-Co-B系合金、Fe-Co-B-Si系合金、Fe-Si-B-Nb-Cu系合金、Fe-Si-B-Nb-P系合金、Fe-Co-B-P-Si系合金、Fe-Co-B-P-Si-Cr系合金などが挙げられる。
【0037】
金属磁性粒子10のうち大粒子11は、保磁力を低くする観点から、ナノ結晶系もしくは非晶質系の合金組成を有することが好ましく、非晶質系の合金組成を有することがより好ましい。一方、小粒子12は、特に限定されないが、飽和磁束密度の観点から、飽和磁束密度の高いカルボニル鉄などの純鉄粒子、もしくは、Fe-Ni系合金やFe-Si系合金などの結晶系合金粒子であることが好ましい。また、金属磁性粒子10が中粒子13を含む場合、中粒子13は、大粒子11と同じ粒子組成を有していてもよく、異なる粒子組成を有していてもよい。中粒子13についても、特に限定されないが、大粒子11と同様に、保磁力を低くする観点から、ナノ結晶系もしくは非晶質系の合金組成を有することが好ましく、非晶質系の合金組成を有することがより好ましい。
【0038】
金属磁性粒子10の組成は、たとえば、電子顕微鏡に付随のEDX装置もしくはEPMAを用いて分析することができる。大粒子11と小粒子12とが互いに異なる粒子組成を有する場合には、EDX装置もしくはEPMAを用いた面分析により、大粒子11と小粒子12とを識別できる場合がある。
【0039】
また、3DAP(3次元アトムプローブ)を用いて金属磁性粒子10の組成を分析してもよい。3DAPを用いる場合には、測定対象の金属磁性粒子の内部において小さな領域(例えばΦ20nm×100nmの領域)を設定して平均組成を測定することができ、磁気コア2に含まれる樹脂成分や粒子表面の酸化などの影響を除外して粒子本体の組成を特定することができる。
【0040】
また、金属磁性粒子10の結晶構造は、XRDや電子線回折などを用いて解析することができる。本実施形態において、非晶質とは、非晶質化度Xが85%以上であること、もしくは、電子線回折で結晶起因のスポットが確認されないことを意味する。また、電子顕微鏡を用いて非晶質部分と結晶化部分の面積比率から非晶質化度Xを求めてもよい。非晶質の結晶構造には、概ね非晶質で構成される構造、もしくは、ヘテロアモルファスからなる構造などが含まれる。ヘテロアモルファスからなる構造の場合、非晶質中に存在する結晶の平均結晶粒径は、0.1nm以上10nm以下であることが好ましい。また、本実施形態では、「ナノ結晶」とは、非晶質化度Xが85%未満であって、かつ、平均結晶粒径が100nm以下(好ましくは3nm~50nm)である結晶構造を意味し、「結晶質」とは、非晶質化度Xが85%未満であって、かつ、平均結晶粒径が100nmを超過する結晶構造を意味する。
【0041】
本実施形態の磁気コア2では、図3に示すように、小粒子12が、粒子表面を覆う絶縁被膜6を有しており、磁気コア2には、絶縁被膜6の組成が異なる2種以上の小粒子12が含まれる。換言すると、金属磁性粒子10に含まれる小粒子12は、被膜組成に基づいて、2種以上の小粒子群に細別することができる。具体的に、小粒子12には、少なくとも、第1絶縁被膜6aを有する第1小粒子12a、および、第1絶縁被膜6aとは組成が異なる第2絶縁被膜6bを有する第2小粒子12bが含まれ、さらに、他の小粒子群とは被膜組成が異なる第3小粒子12c~第n小粒子12xが含まれていてもよい。nは、被膜組成に基づいて小粒子12を細別した場合の小粒子群の数を意味し、nの上限は特に限定されない。製造工程を簡素化する観点では、nは4以下であることが好ましい。
【0042】
ここで、「被膜組成が異なる」とは、絶縁被膜6に含まれる構成元素の種類が異なることを意味し、絶縁被膜6の構成元素とは、絶縁被膜6に含まれる元素のうち、酸素および炭素以外の元素の合計含有率を100at%として、絶縁被膜6において1at%以上含まれる元素を意味する。絶縁被膜6の組成は、EDX装置もしくはEPMAを用いた面分析や点分析により解析すればよい。
【0043】
小粒子12が有する各絶縁被膜6(第1絶縁被膜6a、第2絶縁被膜6b、および、第3絶縁被膜6c~第n絶縁被膜6x)の材質は、特に限定されない。たとえば、各絶縁被膜6は、小粒子12の表面の酸化による被膜(酸化被膜)、もしくは、BN、SiO2、MgO、Al23、リン酸塩、ケイ酸塩、ホウケイ酸塩、ビスマス酸塩、または、各種ガラスなどの無機材料を含む被膜とすることができ、酸化物ガラスの被膜を含むことが好ましい。
【0044】
酸化物ガラスとしては、たとえば、ケイ酸塩(SiO2)系ガラス、リン酸塩(P25)系ガラス、ビスマス酸塩(Bi23)系ガラス、および、ホウケイ酸塩(B23-SiO2)系ガラスなどが例示される。より具体的に、ケイ酸塩系ガラスとしては、SiO2(Si-O系ガラス)、ソーダガラス(Si-Na-Ca-O系ガラス)、Si-Ba-Mn-O系ガラス、Si-Mn-Ca-Na-O系ガラスなどが例示される。リン酸塩系ガラスとしては、P25(P-O系ガラス)、P-Zn-Al-O系ガラス、P-Zn-Al-R-O系ガラス(「R」は、アルカリ金属から選択される1種以上の元素)などが例示される。ビスマス酸塩系ガラスとしては、Bi-Zn-B-Si-O系ガラス、Bi-Zn-B-Si-Al-O系ガラスなどが例示される。また、ホウケイ酸塩系ガラスとしては、Ba-Zn-B-Si-Al-O系ガラスなどが例示される。
【0045】
第1絶縁被膜6aと第2絶縁被膜6bとは、互いに異なる組成を有していればよく、被膜組成の組合せは、特に限定されない。たとえば、第1絶縁被膜6aと第2絶縁被膜6bの組合せとしては、P-O系ガラス被膜とP-Zn-Al-O系ガラス被膜の組合せ、Bi-Zn-B-Si-O系ガラス被膜とSi-O系ガラス被膜の組合せ、もしくは、Ba-Zn-B-Si-Al-O系ガラス被膜とSi-O系ガラス被膜の組合せが好ましく、Ba-Zn-B-Si-Al-O系ガラス被膜とSi-O系ガラス被膜の組合せがより好ましい。小粒子12が、第1小粒子12aおよび第2小粒子12bに加えて、第3小粒子12c~第n小粒子12xを含む場合においても、被膜組成の組合せは、特に限定されず、第3小粒子12c~第n小粒子12xについても、他の小粒子群とは組成が異なる酸化物ガラスの被膜を有していることが好ましい。
【0046】
絶縁被膜6の平均厚みは、特に限定されず、たとえば、5nm以上100nm以下であることが好ましく、5nm以上50nm以下であることがより好ましい。第1絶縁被膜6a~第n絶縁被膜6xは、同程度の平均厚みを有していてもよいし、それぞれ、異なる平均厚みを有していてもよい。
【0047】
なお、第1絶縁被膜6aや第2絶縁被膜6bなどの絶縁被膜6は、複数の被覆層を積層した積層構造を有していてもよい。たとえば、絶縁被膜6が、粒子表面の酸化層と、当該酸化層を覆う酸化物ガラス層と、を含む積層構造を有していてもよい。第1小粒子12a~第n絶縁被膜6xのうちのいずれか1種以上の絶縁被膜6が積層構造を有する場合には、最外層(最も表面側に位置する被覆層)の組成が、第1絶縁被膜6a~第n絶縁被膜6xでそれぞれ異なっていればよく、最外層と粒子表面との間に位置する他の被覆層の組成は、第1絶縁被膜6a~第n絶縁被膜6xで一致していてもよいし、異なっていてもよい。
【0048】
また、第1小粒子12a~第n小粒子12xは、いずれも同じ粒子組成を有していてもよいし、それぞれ異なる粒子組成を有していてもよい。第1小粒子12a~第n小粒子12xの結晶構造は、特に限定されず、第1小粒子12a~第n小粒子12xのうちのいずれか1種以上の小粒子群が、非晶質もしくはナノ結晶であってもよいが、前述したように、第1小粒子12a~第n小粒子12xは、いずれも結晶質であることが好ましい。
【0049】
磁気コア2の断面において第1小粒子12a~第n小粒子12xが占める合計面積割合を、それぞれ、AS1~ASnとする。この場合、磁気コア2の断面に占める小粒子12の合計面積割合ASは、AS1~ASnの合計で表すことができる。また、小粒子12の合計面積割合ASに対する各小粒子群の合計面積割合の比は、それぞれ、AS1/AS~ASn/ASで表すことができる。AS1/AS~ASn/ASは、いずれも、1%以上であることが好ましく、6%以上であることがより好ましく、10%以上であることがさらに好ましい。
【0050】
なお、磁気コア2には、絶縁被膜6を有していない小粒子12が含まれて入れもよい。また、絶縁被膜6を有する小粒子12においては、絶縁被膜6が粒子表面の全体を覆っていてもよいし、粒子表面の一部のみを覆っていてもよい。各小粒子12の絶縁被膜6は、磁気コア2の断面で観測される粒子表面の80%以上を覆っていることが好ましい。
【0051】
大粒子11は、図3に示すように、粒子表面を覆う絶縁被膜4を有していることが好ましい。絶縁被膜4の材質は、特に限定されず、たとえば、絶縁被膜4は、大粒子11の表面の酸化による被膜(酸化被膜)、もしくは、BN、SiO2、MgO、Al23、リン酸塩、ケイ酸塩、ホウケイ酸塩、ビスマス酸塩、または各種ガラスなどの無機材料を含む被膜とすることができる。また、絶縁被膜4は、2種以上の被膜を積層した構造を有していてもよい。
【0052】
磁気コア2の抵抗率の低下を抑制する観点では、大粒子11の絶縁被膜4は、P、Si、Bi、およびZnから選択される1種以上の元素を含む酸化物ガラスの被膜を有することが好ましい。この酸化物ガラスの被膜では、酸素以外の元素の合計含有率を100質量%とした場合に、P、Si、Bi、およびZnから選択される1種以上の元素の合計含有率が、最も多いことが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。上記のような酸化物ガラスとしては、たとえば、リン酸塩系ガラス、ビスマス酸塩系ガラス、および、ホウケイ酸塩系ガラスなどが例示される。なお、大粒子11の絶縁被膜4が積層構造を有する場合には、酸化物ガラスの被膜が、最表面側(最外層)に位置することが好ましい。
【0053】
大粒子11の絶縁被膜4の平均厚みは、特に限定されず、たとえば、5nm以上200nm以下であることが好ましく、5nm以上、150nm以下であることがより好ましく、さらに10nm以上、50nm以下であることがより好ましい。
【0054】
金属磁性粒子10が中粒子13を含む場合、中粒子13についても、他の粒子群と同様に、粒子表面を覆う絶縁被膜を有することが好ましい。中粒子13の絶縁被膜の組成は、特に限定されず、大粒子11の絶縁被膜4と同じ組成を有していてもよく、絶縁被膜4とは異なる組成を有していてもよい。中粒子13の絶縁被膜の平均厚みは、特に限定されず、たとえば、5nm以上200nm以下であることが好ましく、10nm以上、50nm以下であることがより好ましい。
【0055】
なお、磁気コア2には、絶縁被膜を有していない大粒子11や中粒子13が含まれていてもよい。大粒子11の絶縁被膜4、および、中粒子13の絶縁被膜は、いずれも、粒子表面の全体を覆っていてもよいし、粒子表面の一部のみを覆っていてもよく、磁気コア2の断面で観測される粒子表面の80%以上を覆っていることが好ましい。
【0056】
磁気コア2の断面における大粒子11の平均円形度は、0.90以上であることが好ましく、0.95以上であることがより好ましい。大粒子11の平均円形度が高いほど、耐電圧と直流重畳特性とをより向上させることができる。なお、各大粒子11の円形度は、磁気コア2の断面における各大粒子11の面積をSL、各大粒子11の周囲長をLとして、2(πSL1/2/Lで表される。真円の円形度は1であり、円形度が1に近いほど、粒子の球形度が高くなる。大粒子11の平均円形度は、少なくとも100個の大粒子11の円形度を測定することで、算出することが好ましい。
【0057】
なお、小粒子12の平均円形度、および、中粒子13の平均円形度については、特に限定されないが、大粒子11と同様に、高い平均円形度を有することが好ましい。具体的に、小粒子12の平均円形度、および、中粒子13の平均円形度は、いずれも、0.80以上であることが好ましい。
【0058】
樹脂20は、金属磁性粒子10を所定の分散状態で固定する絶縁性の結着材として機能する。樹脂20の材質は、特に限定されず、樹脂20には、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂が含まれることが好ましい。
【0059】
なお、磁気コア2は、軟磁性金属粒子同士の接触を抑制するための改質剤を含んでいてもよい。改質剤としては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリカプロラクトン(PCL)などの高分子材料を用いることができ、ポリカプロラクトン構造を有する高分子材料を用いることが好ましい。ポリカプロラクトン構造を有する高分子としては、たとえば、ポリカプロラクトンジオール、ポリカプロラクトンテトラオールなどのウレタンの原料、もしくは、ポリエステルの一部が挙げられる。改質剤の含有量は、磁気コア2の総量に対して0.025wt%以上0.500wt%以下であることが好ましい。上記のような改質剤は、金属磁性粒子10の表面をコーティングするように吸着して存在すると考えられる。
【0060】
以下、本実施形態に係る磁気コア2の製造方法の一例について説明する。
【0061】
まず、金属磁性粒子10の原料粉として、大粒子11を含む原料粉、および、小粒子12を含む原料粉を製造する。各原料粉の製造方法は、特に限定されず、所望の粒子組成に応じて、適する製造方法を採用すればよい。たとえば、水アトマイズ法やガスアトマイズ法などのアトマイズ法により原料粉を作製してもよい。もしくは、金属塩の蒸発、還元、熱分解のうち少なくとも1種以上を用いたCVD法などの合成法により原料粉を作製してもよい。また、電解法やカルボニル法を用いて原料粉を作製してもよく、薄帯状や薄板上の出発合金を粉砕することで原料粉を作製してもよい。各原料粉の粒度は、粉末の製造条件や各種分級法により調整することができる。また、製造した原料粉に対して、金属磁性粒子10の結晶構造を制御するための熱処理を施してもよい。
【0062】
なお、大粒子11と小粒子12とを、同じ組成で構成する場合には、幅の広い粒度分布を有する原料粉を製造し、当該原料粉を分級することで、大粒子11を含む原料粉と、小粒子12を含む原料粉とを得てもよい。また、磁気コア2に、粒子組成が異なる2種以上の小粒子12を添加する場合には、複数の小粒子用原料粉を製造すればよい。加えて、磁気コア2に中粒子13を添加する場合には、上述した製造方法のいずれかにより中粒子13を含む原料粉を製造すればよい。
【0063】
次に、各原料粉に対して被膜形成処理を施す。被膜形成処理の方法としては、熱処理、リン酸塩処理、メカニカルアロイング、シランカップリング処理、もしくは、水熱合成などが例示され、形成する絶縁被膜の種類に応じて、適する被膜形成処理を選択すればよい。
【0064】
たとえば、大粒子11に酸化物ガラスを含む絶縁被膜4を形成する場合には、メカノフュージョン装置を用いたメカノケミカル法を採用することが好ましい。具体的に、メカノケミカル法による被膜形成処理では、大粒子11を含む原料粉と、絶縁被膜4の構成元素を含む粉末状のコーティング材とを、メカノフュージョン装置の回転ロータ内に導入し、回転ロータを回転させる。回転ロータの内部には、プレスヘッドが設置されており、回転ロータを回転させると、原料粉とコーティング材との混合物が、回転ロータの内壁面とプレスヘッドとの隙間で圧縮され、摩擦熱が発生する。この摩擦熱により、コーティング材が軟化し、圧縮作用によって大粒子11の表面に固着し、絶縁被膜4が形成される。なお、中粒子13の表面に、大粒子11の絶縁被膜4と同じ組成の絶縁被膜を形成する場合には、大粒子11を含む原料粉と中粒子13を含む原料粉とを混ぜ合わせて、この混合粉に対して、上記のような被膜形成処理を施せばよい。
【0065】
小粒子12の絶縁被膜6は、小粒子12を含む原料粉と、絶縁被膜6の構成元素を含む粉末状のコーティング材とを、機械的衝撃エネルギーを加えながら混合することで形成することが好ましく、衝撃、圧縮、および、せん断のエネルギーを加えながら混合することで形成することがより好ましい。このような被膜形成処理では、粉末に対して機械的エネルギーを加えることができる装置として、遊星型ボールミルやホソカワミクロン株式会社製のノビルタなどの粉末処理装置を用いることができる。たとえば、小粒子12への被膜形成処理では、高い回転速度で混合できる、図4に示すような粉末処理装置60を使用することができる。
【0066】
粉末処理装置60は、円筒状の断面を有し、チャンバ61を備え、このチャンバ61の内部に回転可能な羽根62が設置してある。小粒子12を含む原料粉とコーティング材とをチャンバ61内に投入し、羽根62を、2000~6000rpmの回転速度で回転させることで、原料粉とコーティング材との混合物63に対して、機械的衝撃、圧縮、および、せん断のエネルギーを加えることができる。このような粉末処理装置60を用いることで、粒径が小さい小粒子12であっても、その粒子表面に絶縁被膜6を形成することができる。
【0067】
上述したような被膜形成処理により、被膜組成が異なる2種以上の小粒子粉末を製造すればよい。なお、被膜組成は、原料粉に混ぜ合わせるコーティング材の種類や組成によって制御すればよい。また、絶縁被膜6の厚みは、コーティング材の混合比や、回転速度、および処理時間などに基づいて制御すればよい。
【0068】
以下、金属磁性粒子10の各原料粉を用いて磁気コア2を製造する方法について説明する。まず、絶縁被膜を形成した各原料粉および樹脂原料(熱硬化性樹脂など)を混練して、樹脂コンパウンドを得る。この混練工程では、ニーダー、プラネタリーミキサー、自転・公転ミキサーまたは二軸押出機などの各種混練機を用いればよく、樹脂コンパウンドには、改質剤、防腐剤、分散剤、非磁性粉末などを添加してもよい。
【0069】
次に、樹脂コンパウンドを金型に充填し、圧縮成形することで、成形体を得る。この際の成形圧は、特に限定されず、たとえば、50MPa以上、1200MPa以下とすることが好ましい。なお、磁気コア2における金属磁性粒子10の合計面積割合は、樹脂20の添加量によっても制御できるが、成形圧によっても制御可能である。樹脂20として熱硬化性樹脂を用いた場合には、上記の成形体を、100℃~200℃で1時間~5時間保持して、熱硬化性樹脂を硬化させる。以上の工程により、図1に示すような磁気コア2が得られる。
【0070】
本実施形態に係る磁気コア2は、インダクタ、トランス、チョークコイルなどの各種磁性部品に適用することができる。たとえば、図5に示す磁性部品100が、磁気コア2を有する磁性部品の一例である。
【0071】
図5に示す磁性部品100では、素体が、図1に示すような磁気コア2で構成してある。素体である磁気コア2の内部には、コイル5が埋設してあり、コイル5の端部5a,5bは、それぞれ、磁気コア2の端面に引き出されている。また、磁気コア2の端面には、一対の外部電極7,9が形成してあり、一対の外部電極7,9は、それぞれ、コイル5の端部5a,5bと電気的に接続してある。なお、磁性部品100のように、磁気コア2の内部にコイル5が埋設してある場合には、A0,A1,A2,AL,ASなどの金属磁性粒子10の面積割合は、コイル5が映らない視野で解析することとする。
【0072】
図5に示す磁性部品100の用途は、特に限定されないが、たとえば、電源回路に用いられるパワーインダクタなどに好適である。なお、磁気コア2を含む磁性部品は、図5に示すような様態に限定されず、所定形状の磁気コア2の表面にワイヤが所定の巻き数だけ巻回されてなる磁性部品であってもよい。
【0073】
(実施形態のまとめ)
本実施形態の磁気コア2は、金属磁性粒子10と樹脂20とを含み、磁気コア2の断面に示す金属磁性粒子10の合計面積割合A0が、75%以上90%以下である。金属磁性粒子10は、ヘイウッド径が3μm以上である第1粒子10a(大粒子11)と、ヘイウッド径が3μm未満である第2粒子10b(小粒子12)と、を含み、第2粒子10bが、粒子表面に存在する被膜の組成が異なる2種以上の小粒子12(第1小粒子12aおよび第2小粒子12bなど)を含む。
【0074】
上記の特徴を有する磁気コア2は、従来よりも優れた直流重畳特性を示す。直流重畳特性が改善する理由は、必ずしも明らかではないが、磁気コア2の内部における金属磁性粒子10の分散状態が影響していると考えられる。具体的に、金属磁性粒子10が、被膜組成の異なる2種以上の小粒子12を含むことで、樹脂との混錬時において金属磁性粒子間の電気的な反発力が向上し、金属磁性粒子10の磁気的凝集が抑制されていると考えられる。
【0075】
磁気コア2の断面において、第1粒子10aが占める合計面積割合をA1とし、第2粒子10bが占める合計面積割合をA2とすると、金属磁性粒子10の面積割合は、A1>A2を満たすことが好ましい。換言すると、磁気コア2の断面において大粒子11が占める合計面積割合をALとし、磁気コア2の断面において小粒子12が占める合計面積割合をASとすると、ALがASよりも大きいことが好ましい(AL>AS)。上記要件を満たすことで、磁気コア2の透磁率を向上させることができる。
【0076】
また、磁気コア2に含まれる大粒子11の平均円形度は、0.90以上であることが好ましい。大粒子11の円形度を高くすることで、直流重畳特性をより向上させることができる。
【0077】
以上、本開示の実施形態について説明してきたが、本開示は上述した実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内で種々に改変することができる。
【0078】
たとえば、複数の磁気コア2を組み合わせて、磁性部品を製造してもよい。また、磁気コア2の製造方法については、上記の実施形態で示す製造方法に限定されず、磁気コア2は、シート法や射出成型により製造してもよく、2段階圧縮により製造してもよい。2段階圧縮による製造方法では、たとえば、樹脂コンパウンドを仮圧縮して複数の予備成形体を作製した後、これら予備成形体を組み合わせて本圧縮することで磁気コア2が得られる。
【実施例0079】
以下、具体的な実施例に基づいて、本開示をさらに詳細に説明する。ただし、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0080】
(実験1)
実験1では、以下に示す手順で、表1~表3に示す各実施例に係る磁気コアを製造した。
【0081】
まず、金属磁性粒子の原料粉として、大径粉と、小径粉とを準備した。表1に示す試料A1~試料A21では、いずれも、大径粉として、急冷ガスアトマイズ法により製造した非晶質(アモルファス)のFe-Co-B-P-Si-Cr系合金粉末を用い、当該粉末の平均粒径は、20μmであった。表2に示す試料B1~試料B21では、いずれも、大径粉として、平均粒径が20μmであるナノ結晶のFe-Si-B-Nb-Cu系合金粉末を用い、このFe-Si-B-Nb-Cu系合金粉末は、急冷ガスアトマイズ法により得られた粉末に対して熱処理を施すことで製造した。表3に示す試料C1~試料C21では、いずれも、大径粉として、ガスアトマイズ法により製造した結晶質のFe-Si系合金粉末を用い、当該粉末の平均粒径は、20μmであった。実験1の各試料では、メカノフュージョン装置(ホソカワミクロン株式会社製:AMS-Lab)を用いて、大径粉に含まれる各大粒子の表面に、P-Zn-Al-O系酸化物ガラスからなり平均厚みが20nmである絶縁被膜を形成した。
【0082】
また、比較例である試料A1~試料A6、試料B1~試料B6、および、試料C1~試料C6では、小径粉として、絶縁被膜を有する1種類の純鉄粉末を準備した。一方、実施例である試料A7~試料A21、試料B7~試料B21、および、試料C7~試料C21では、小径粉として、被膜組成が異なる2種類の純鉄粉末を準備した。実験1の各試料において、小粒子の絶縁被膜は、いずれも、図4に示すような粉末処理装置(ホソカワミクロン株式会社製:ノビルタ)を用いて形成し、その被膜組成は、表1~表3に示す組成とした。なお、実験1の各試料で使用した純鉄粉末の平均粒径は1μmであり、小粒子の表面に形成した絶縁被膜の平均厚みは15±10nmの範囲内であった。
【0083】
次に、金属磁性粒子の原料粉(大径粉および小径粉)と、エポキシ樹脂とを、混練することで、樹脂コンパウンドを得た。この際、樹脂コンパウンドにおけるエポキシ樹脂の添加量(樹脂量)は、実験1のいずれの試料においても、金属磁性粒子100質量部に対して2.5wt%とした。上記の樹脂コンパウンドを、金型に充填し加圧することで、トロイダル形状の成形体を得た。この際の成形圧は、磁気コアの透磁率(μi)が30となるように、制御した。そして、上記の成形体を180℃で60分間、加熱処理することで、成形体中のエポキシ樹脂を硬化させ、トロイダル形状(外形11mm、内径6.5mm、厚み2.5mm)の磁気コアを得た。
【0084】
実験1の各試料では、作製した磁気コアに対して、以下に示す評価を実施した。
【0085】
磁気コアの断面観察
磁気コアの断面をSEMで観察し、観察視野の合計面積(1000000μm2)に対する金属磁性粒子の合計面積の比(金属磁性粒子の合計面積割合A0)を算出した。実験1の各試料では、いずれも、金属磁性粒子の合計面積割合A0が、80±2%の範囲内であった。
【0086】
また、SEM観察時には、各金属磁性粒子のヘイウッド径を測定すると共に、EDXによる面分析を実施して各金属磁性粒子の組成系を特定し、磁気コアの断面で観測された各金属磁性粒子を、大粒子と小粒子に分類した。実験1の各試料では、大粒子のD20が3μm以上、大粒子の平均粒径(ヘイウッド径の算術平均値)が10μm~30μmの範囲内、小粒子のD80が3μm未満、小粒子の平均粒径が0.5μm~1.5μmの範囲内であった。
【0087】
また、上記の面分析によって、小粒子に形成してある絶縁被膜の組成系を特定し、特定した被膜組成に基づいて、磁気コアの断面で観測された各小粒子を、第1小粒子と第2小粒子に細別した。実験1では、いずれの試料においても、狙い通りの組成を有する絶縁被膜が、小粒子の表面に形成されていることが確認できた。
【0088】
上記の方法で、金属磁性粒子を複数の粒子群(大粒子、第1小粒子、および第2小粒子)に分類したうえで、各粒子群の合計面積を算出した。そして、各粒子群の合計面積から、金属磁性粒子に含まれる各粒子群の比率を算出した。各粒子群の比率は、金属磁性粒子の合計面積に対する大粒子の合計面積の比(AL/A0)、金属磁性粒子の合計面積に対する第1小粒子の合計面積の比(AS1/A0)、および、金属磁性粒子の合計面積に対する第2小粒子の合計面積の比(AS2/A0)で表し、ALとAS1とAS2の合計がA0である。算出結果を表1~表3に示す。
【0089】
直流重畳特性の評価
直流重畳特性の評価では、まず、トロイダル形状の磁気コアに対して、ポリウレタン銅線(UEW線)を巻回した。そして、LCRメータ(アジレント・テクノロジー社製4284A)および直流バイアス電源(アジレント・テクノロジー社製42841A)を用いて、周波数1MHzにおける磁気コアのインダクタンスを測定した。より具体的に、直流磁界を印加していない条件(0kA/m)でのインダクタンスと、8kA/mの直流磁界を印加した条件でのインダクタンスと、を測定し、これらインダクタンスからμi(0A/mでの透磁率)およびμHdc(8kA/mでの透磁率)を算出した。直流重畳特性は、直流磁界を印加した際の透磁率の変化率に基づいて評価した。つまり、透磁率の変化率は、(μi-μHdc)/μiで表され、この透磁率の変化率が小さいほど、直流重畳特性が良好であると判断できる。
【0090】
非晶質の大粒子を使用した場合には、透磁率の変化率が10%以下である試料を良好と判断し、ナノ結晶もしくは結晶質の大粒子を使用した場合には、透磁率の変化率が15%以下である試料を良好と判断した。評価結果を表1~表3に示す。
【0091】
【表1】
【表2】
【表3】
【0092】
表1~表3に示すように、被膜組成が異なる2種類の小粒子(第1小粒子および第2小粒子)を含む実施例では、1種類の小粒子のみを含む比較例よりも、透磁率の変化率を小さくすることができた。すなわち、磁気コア中の金属磁性粒子が、被膜組成が異なる2種類の小粒子を含むことで、従来よりも優れた直流重畳特性が得られることがわかった。
【0093】
なお、表1~表3の実施例を比較すると、ナノ結晶もしくは結晶質の大粒子を使用する場合よりも、非晶質の大粒子を使用した場合の方が、透磁率の変化率をより小さくすることができ、比較例に対する直流重畳特性の向上効果をより高められることがわかった。
【0094】
(実験2)
実験2では、金属磁性粒子における第1小粒子の比率(AS1/A0)と第2小粒子の比率(AS2/A0)とを変えて、表4~表6に示す磁気コア試料を製造した。なお、表4~表6に示す各試料では、磁気コアの断面における金属磁性粒子の合計面積割合A0が、いずれも、80±2%の範囲内であり、金属磁性粒子の合計面積に対する大粒子の合計面積の比(AL/A0)が、いずれも、80±1%の範囲内であった。表4~表6に示す実施例では、粒子群の比率を変更したこと以外の製造条件は、実験1の試料A19と同様とし、実験1と同様の評価を実施した。
【0095】
【表4】
【表5】
【表6】
【0096】
表4~表6に示すように小粒子群の比率を変更しても、直流重畳特性の向上が図れることが確認できた。また、AS1/(AS1+AS2)およびAS2/(AS1+AS2)は、いずれも、1%以上であることが好ましく、6%以上であることがより好ましいことがわかった。
【0097】
(実験3)
実験3では、小粒子の粒子組成を変えて、表7に示す18種類の磁気コア試料を製造した。比較例である試料G1~試料G4では、1種類の小粒子を使用し、比較例である試料G5~試料G10では、第1小粒子および第2小粒子が、異なる粒子組成を有していたが、当該第1小粒子および第2小粒子には、同じ組成の絶縁被膜を形成した。一方、実施例である試料G11~試料G18では、第1小粒子および第2小粒子が、互いに異なる粒子組成を有し、かつ、互いに異なる被膜組成を有していた。
【0098】
なお、実験3の各試料では、いずれも、大径粉として、非晶質のFe-Co-B-P-Si-Cr系合金粉末を用いた。また、実験3で使用したFe-Si系合金粒子(小粒子)は、平均粒径(ヘイウッド径の算術平均値)が0.5μm~1.5μmの範囲内であり、実験3で使用したFe-Ni系合金粒子(小粒子)は、平均粒径が0.5μm~1.5μmの範囲内であった。加えて、実験3の各試料では、金属磁性粒子の合計面積割合A0が80±2%の範囲内であり、μiが30±2の範囲内となるように磁気コア製造時の成形圧を調整した。
【0099】
実験3では、小粒子の粒子組成を変更したこと以外の製造条件は、実験1と同様とし、実験1と同様の評価を実施した。実験3の評価結果を表7に示す。
【0100】
【表7】
【0101】
表7の試料A4,試料A5,および試料G1~G4に示すように、1種類の小粒子を含む磁気コアでは、小粒子の組成を変更しても、直流重畳特性の向上効果は得られなかった。また、試料G5~試料G10の評価結果から、粒子組成の異なる2種類の小粒子を添加したとしても、第1小粒子と第2小粒子とが同じ組成の絶縁被膜を有している場合には、直流重畳特性の向上効果が得られないことがわかった。
【0102】
一方、実施例である試料G11~試料G18では、透磁率の変化率が10%未満であり、比較例よりも直流重畳特性が向上した。この実験3の結果から、第1小粒子と第2小粒子とで、絶縁被膜の組成がことなることで、直流重畳特性の向上が図れ、粒子組成は、第1小粒子と第2小粒子とで、同じであっても、異なっていてもよいことがわかった。
【0103】
(実験4)
実験4では、大粒子と小粒子の比率が実験1とは異なる15種類の磁気コア試料(試料H1~試料H15)を製造した。実験4の各試料における各粒子群の比率を表8に示す。実験4では、磁気コアの断面に占める金属磁性粒子の合計面積割合A0が、80±1%の範囲内となるように、金属磁性粒子と樹脂との配合比、および、成形圧を調整した。なお、実験4の各試料では、第1小粒子と第2小粒子との比率を1:1に設定した。大粒子と小粒子との比率以外の製造条件は、実験1と同様とした。実験4の評価結果を表8に示す。
【0104】
【表8】
【0105】
表8に示すように、小粒子の合計面積割合よりも大粒子の合計面積割合を多くすることで(すなわち、AL>ASをみたすことで)、高い透磁率を確保しつつ、直流重畳特性の向上が図れることがわかった。また、比較例における透磁率の変化率と実施例における透磁率の変化率との差は、AL≦ASの試料(試料H8および試料H11)よりも、AL>ASを満たす試料(試料H2,試料A19,試料H5)の方が大きい結果となった。つまり、小粒子の合計面積割合よりも大粒子の合計面積割合を多くすることで、直流重畳特性の向上効果がより高まることがわかった。
【0106】
(実験5)
実験5では、金属磁性粒子の合計面積割合A0が実験1とは異なる24種類の磁気コア試料(試料I1~試料I24)を製造した。金属磁性粒子の合計面積割合A0は、金属磁性粒子100重量部に対するエポキシ樹脂の含有量(樹脂量)と、磁気コア製造時の成形圧とにより制御した。実験5の各試料における成形圧、樹脂量、および、金属磁性粒子の合計面積割合A0を表9に示す。上記以外の実験条件は、実験1と同様とし、実験5の各試料の直流重畳特性を評価した。
【0107】
【表9】
【0108】
表9に示すように、金属磁性粒子の合計面積割合A0が75%未満、もしくは、90%超過である場合には、被膜組成が異なる2種類の小粒子を添加しても、直流重畳特性の向上効果が得られなかった。一方、金属磁性粒子の合計面積割合A0が75%以上90%以下である実施例(試料I2,試料I5,試料A19,試料I8,試料I11,試料I14,試料C19,試料I23)では、比較例よりも透磁率の変化率を低減することができた。この結果から、金属磁性粒子の合計面積割合A0を75%以上90%以下に設定したうえで、被膜組成が異なる2種類の小粒子を磁気コア中に分散させることで、直流重畳特性の向上効果が得られることがわかった。
【0109】
(実験6)
実験6では、大粒子の平均円形度が実験1とは異なる12種類の磁気コア試料(試料J1~試料J12)を製造した。実験6の各試料では、急冷ガスアトマイズによる大径粉の製造時の溶湯温度、溶湯噴射圧力、ガス圧力、およびガス流量を適宜調整することにより、大粒子の円形度を制御した。磁気コアの断面で計測した各試料の平均円形度を表10に示す。上記以外の実験条件は、実験1と同様とし、実験6の各試料の直流重畳特性を評価した。
【0110】
【表10】
【0111】
表10に示すように、大粒子の平均円形度を高くするほど、直流重畳特性の向上効果が高まる結果となり、大粒子の平均円形度は、0.90以上であることが好ましく、0.95以上であることがより好ましいことがわかった。
【0112】
(実験7)
実験7では、小粒子の絶縁被膜の平均厚みを変えて、21種類の磁気コア試料(試料K1~試料K21)を製造した。各試料における小粒子の絶縁被膜は、いずれも、図4に示すような粉末処理装置を用いて形成しており、平均厚みは、コーティング材の添加量や処理時間などを調整することで制御した。磁気コアの断面観察時に計測した各絶縁被膜の平均厚みを表11に示す。
【0113】
なお、実験7の各実施例では、いずれも、AL/A0が80±1%の範囲内、AS1/A0が10±1%の範囲内、AS2/A0が10±1%の範囲内であり、実験7の各比較例では、AL/A0が80±1%の範囲内、AS/A0が20±1%の範囲内であった。上記以外の実験条件は、実験1と同様とし、実験7の各試料の直流重畳特性を評価した。
【0114】
【表11】
【0115】
表11に示すように、小粒子が1種類のみである比較例では、小粒子が有する絶縁被膜を厚くしても、直流重畳特性の向上効果は得られなかった。一方、表11の各実施例では、絶縁被膜の厚みによらず、全ての実施例で直流重畳特性が向上しており、絶縁被膜の厚みは特に限定されないことがわかった。また、実施例では、小粒子の絶縁被膜を、100μm以下の範囲で厚くするほど、直流重畳特性がより向上する傾向が確認できた。
【0116】
(実験8)
実験8の試料L1では、それぞれ被膜組成が異なる3種類の小粒子を用いて、磁気コアを製造し、試料L4では、それぞれ被膜組成が異なる4種類の小粒子を用いて磁気コアを製造した。なお、試料L1における第1小粒子~第3小粒子の比率は、1:1:1とし、試料L2における第1小粒子~第4小粒子の比率は、1:1:1:1とした。上記以外の製造条件は、実験1の試料A19と同様として、試料L1および試料L2の直流重畳特性を評価した。評価結果を表12に示す。
【0117】
【表12】
【0118】
表12に示すように、試料L1および試料L2においても、試料A19と同様に、直流重畳特性が向上した。この結果から、被膜組成に基づく小粒子群の数は、2種以上であればよく、小粒子は、3種類でも、4種類でもよいことがわかった。
【0119】
(実験9)
実験9では、大粒子および小粒子以外に、さらに中粒子を加えて、表13に示す3種類の磁気コア試料(試料M1~試料M3)を製造した。具体的に、試料M1の磁気コアには、中粒子として、平均粒径(ヘイウッド径の算術平均値)が5μmである非晶質のFe-Si-B系合金粒子を添加し、試料M2の磁気コアには、中粒子として、平均粒径が5μmである結晶質のFe-Si系合金粒子を添加し、試料M3の磁気コアには、平均粒径が5μmであるナノ結晶のFe-Si-B-Nb-Cu系合金粒子を添加した。上記以外の製造条件は、実験1の試料A19と同様として、試料M1~試料M3の直流重畳特性を評価した。評価結果を表13に示す。
【0120】
【表13】
【0121】
表13に示すように、大粒子および小粒子に加えてさらに中粒子を含む試料M1~試料M3においても、優れた直流重畳特性が得られた。また、表13に示す評価結果から、直流重畳特性をより向上させる観点では、中粒子および大粒子がいずれも非晶質であることが好ましいことがわかった。
【0122】
(実験10)
実験10では、大粒子の組成を変えて、表14に示す38種類の磁気コア試料(試料N1~試料N38)を製造した。実験10の各試料で使用した大粒子には、いずれも、絶縁被膜を形成し、磁気コアの断面で観測した大粒子の平均厚みは、いずれの試料においても、15nm~25nmの範囲内であった。上記以外の実験条件は、実験1と同様とし、実験10の各試料の直流重畳特性を評価した。評価結果を表14に示す。なお、試料N1~試料N38のうち、1種類の小粒子を使用した試料は比較例とし、被膜組成が異なる2種類の小粒子を使用した試料は実施例とした。
【0123】
【表14】
【0124】
表14に示すように、大粒子の組成が同一である実施例と比較例とを対比すると、実験10の各実施例は、いずれも、比較例よりも優れた直流重畳特性を有していた。この実験10の結果から、大粒子の組成は任意に設定すればよく、被膜組成が異なる2種以上の小粒子によって、直流重畳特性の向上が図れることが確認できた。
【0125】
2 … 磁気コア
10 … 金属磁性粒子
10a … 第1粒子
11 … 大粒子
4 … 大粒子の絶縁被膜
10b … 第2粒子
12 … 小粒子
12a … 第1小粒子
12b … 第2小粒子
6 … 小粒子の絶縁被膜
6a … 第1絶縁被膜
6b … 第2絶縁被膜
13 … 中粒子
20 … 樹脂
100 … 磁性部品
5 … コイル
5a … 端部
5b … 端部
7,9 … 外部電極
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5