(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170906
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】脳機能障害評価システム
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20241204BHJP
G16H 50/20 20180101ALI20241204BHJP
A61B 5/11 20060101ALN20241204BHJP
【FI】
A61B10/00 H
G16H50/20
A61B5/11 230
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087668
(22)【出願日】2023-05-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】300080917
【氏名又は名称】青木 恭太
(71)【出願人】
【識別番号】505386270
【氏名又は名称】株式会社ソフトシーデーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100129056
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 信雄
(72)【発明者】
【氏名】青木 恭太
(72)【発明者】
【氏名】新島 健司
(72)【発明者】
【氏名】木村 正樹
【テーマコード(参考)】
4C038
5L099
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VB12
4C038VB13
5L099AA04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】器具の装着を行うことなく、高精度で安全かつ簡便に、脳機能障害の程度を評価可能なシステムを提供する。
【解決手段】手指運動を繰り返す動作を映像として例示するための例示データを記憶する記憶部と、該例示データに対応した映像データを映し出す表示部と、被験者の運動を計測するセンサと、表示部への例示データの表示の指示及び取得した測定データの演算を行う制御演算部と、で構成され、制御演算部は、映像に倣って該被験者が運動を行う映像有期間を持つと共に、該映像有期間の計測データから、該手指運動を繰り返す刺激動作の周波数成分である刺激運動周波数の成分と、該刺激運動周波数成分以外の周波数から1つ以上の成分の和である刺激運動外成分を抽出し、該刺激運動外成分と該刺激運動周波数成分の比を算出する計算方法を持ち、該計算方法により算出した値を、脳機能障害の評価値とすることを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳機能障害評価システムであって、
手指運動を繰り返す動作を映像として例示するための例示データを記憶する記憶部と、該例示データに対応した映像データを映し出す表示部と、被験者の運動を計測するセンサと、表示部への例示データの表示の指示及び取得した測定データの演算を行う制御演算部と、で構成され、
該制御演算部は、該映像に倣って該被験者が運動を行う映像有期間を持つと共に、
該映像有期間の計測データから、該手指運動を繰り返す刺激動作の周波数成分である刺激運動周波数の成分と、該刺激運動周波数成分以外の周波数から1つ以上の成分の和である刺激運動外成分を抽出し、該刺激運動外成分と該刺激運動周波数成分の比を算出する計算方法を持ち、
該計算方法により算出した値を、脳機能障害の評価値とすることを特徴とする脳機能障害評価システム。
【請求項2】
脳機能障害評価システムであって、
手指運動を繰り返す動作を映像として例示するための例示データを記憶する記憶部と、該例示データに対応した映像データを映し出す表示部と、被験者の運動を計測するセンサと、表示部への例示データの表示の指示及び取得した測定データの演算を行う制御演算部と、で構成され、
該制御演算部は、該映像に倣って該被験者が運動を行う映像有期間と、
該映像を停止した後、該映像有期間の映像に倣って引き続き該被験者が運動を行う映像無期間とを持つと共に、
該映像無期間の計測データから、該手指運動を繰り返す刺激動作の周波数成分である刺激運動周波数の成分と、該刺激運動周波数成分以外の周波数から1つ以上の成分の和である刺激運動外成分を抽出し、該刺激運動外成分と該刺激運動周波数成分の比を算出する計算方法を持ち、
該計算方法により算出した値を、脳機能障害の評価値とすることを特徴とする脳機能障害評価システム。
【請求項3】
前記計測データの計測期間を複数の単位期間に分割し、
各単位期間ごとに該計算方法で算出した値の代表値を、脳機能障害の評価値とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の脳機能障害評価システム。
【請求項4】
前記代表値は、平均値であることを特徴とする請求項3に記載の脳機能障害評価システム。
【請求項5】
前記代表値は、中央値であることを特徴とする請求項3に記載の脳機能障害評価システム。
【請求項6】
前記単位期間の長さは、前記手指運動を繰り返す動作の1周期以上であることを特徴とする請求項3に記載の脳機能障害評価システム。
【請求項7】
前記映像有期間は8秒以上であり、前記映像無期間は10秒以上であることを特徴とする請求項2に記載の脳機能障害評価システム。
【請求項8】
前記映像無期間の計測データは、前記映像無期間を複数に分割した際の最初の期間のみから取得することを特徴とする請求項2に記載の脳機能障害評価システム。
【請求項9】
前記手指運動を繰り返す動作は、前記両手指について行われ、前記両手指ごとに代表値を算出し、算出した値の良い方若しくは悪い方を前記評価値とすることを特徴とする請求項3に記載の脳機能障害評価システム。
【請求項10】
認知障害の評価に用いることを特徴とする請求項3に記載の脳機能障害評価システム。
【請求項11】
軽度認知障害の評価に用いることを特徴とする請求項3に記載の脳機能障害評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳機能障害評価システムに関し、詳しくは、脳機能障害評価において、評価を簡便に行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、認知症等の脳機能障害の程度を評価する方法として、MMSE(Mini Mental State Examination)などの質問形式の検査や指のタッピング動作などの運動機能から解析する方法が知られている。
しかしながら、MMSEは、比較的短時間と言いながら、十数分間、対象者に質問等をしなければならないし、指のタッピング動作については、器具を装着する必要があり、迂遠であった。
そこで、器具の装着を行うことなく、数十秒程度の短時間で、脳機能障害の程度を評価できるシステムが求められていた。
【0003】
このような問題に対して、従来からも様々な技術が提案されている。例えば、手指の動作によって脳機能障害を評価するシステム(特許文献1参照)が提案され、公知技術となっている。
より詳しくは、両手協調運動における両手の運動機能の差異を算出することで、認知機能低下をはじめとする脳機能障害の程度を容易に評価するもので、手指運動が指のタッピングであり、両手それぞれの運動波形についてタッピングの時間間隔のばらつきに関する特徴量を生成し、その差分を両手差異特徴量とし脳機能障害評価を行うものである。
しかしながら、本先行技術による構成では、対象者の親指、人差し指等にセンサを取り付けなければならず、迂遠であり、全体としては、対象者の負担が大きく、上記問題の解決には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、対象者に多くの質問をしたり、器具を装着したりすることで、対象者の負担が大きくなるといった上記問題点に鑑み、器具の装着を行うことなく、高精度で安全かつ簡便に、脳機能障害の程度を評価可能なシステムを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、脳機能障害の程度を評価可能なシステムであって、手指運動を繰り返す動作を映像として例示するための例示データを記憶する記憶部と、該例示データに対応した映像データを映し出す表示部と、被験者の運動を計測するセンサと、表示部への例示データの表示の指示及び取得した測定データの演算を行う制御演算部と、で構成され、制御演算部は、映像に倣って該被験者が運動を行う映像有期間を持つと共に、該映像有期間の計測データから、該手指運動を繰り返す刺激動作の周波数成分である刺激運動周波数の成分と、該刺激運動周波数成分以外の周波数から1つ以上の成分の和である刺激運動外成分を抽出し、該刺激運動外成分と該刺激運動周波数成分の比を算出する計算方法を持ち、該計算方法により算出した値を、脳機能障害の評価値とする手段を採る。
【0007】
また、本発明は、手指運動を繰り返す動作を映像として例示するための例示データを記憶する記憶部と、該例示データに対応した映像データを映し出す表示部と、被験者の運動を計測するセンサと、表示部への例示データの表示の指示及び取得した測定データの演算を行う制御演算部と、で構成され、制御演算部は、映像に倣って該被験者が運動を行う映像有期間と、該映像を停止した後、該映像有期間の映像に倣って引き続き該被験者が運動を行う映像無期間とを持つと共に、該映像無期間の計測データから、該手指運動を繰り返す刺激動作の周波数成分である刺激運動周波数の成分と、該刺激運動周波数成分以外の周波数から1つ以上の成分の和である刺激運動外成分を抽出し、該刺激運動外成分と該刺激運動周波数成分の比を算出する計算方法を持ち、該計算方法により算出した値を、脳機能障害の評価値とする手段を採る。
【0008】
さらに、本発明は、計測期間を複数の単位期間に分割し、各単位期間ごとに該計算方法で算出した値の、代表値を、脳機能障害の評価値とする手段を採る。
【0009】
またさらに、本発明は、前記代表値が、平均値である手段を採る。
【0010】
さらにまた、本発明は、前記代表値が、中央値である手段を採る。
【0011】
またさらに、本発明は、前記単位期間の長さが、手指運動を繰り返す動作の1周期以上である手段を採る。
【0012】
さらにまた、本発明は、前記映像有期間は8秒以上であり、映像無期間は10秒以上である手段を採る。
【0013】
またさらに、本発明は、前記映像無期間の計測データが、映像無期間を複数に分割した際の最初の期間のみから取得する手段を採る。
【0014】
さらにまた、本発明は、手指運動を繰り返す動作が、両手指について行われ、両手指ごとに代表値を算出し、算出した値の良い方若しくは悪い方を評価値とする手段を採る。
【0015】
またさらに、本発明は、認知障害の評価に用いる手段を採る。
【0016】
そしてまた、本発明は、軽度認知障害の評価に用いる手段を採る。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る脳機能障害評価システムによれば、対象者に多くの質問等を行ったり、器具等の装着を行ったりすることなく、脳機能障害の評価、特に認知障害及び軽度認知障害の評価が可能であって、対象者の負担軽減に資すると共に、高精度で安全かつ簡便に評価を行うことができる、といった優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る脳機能障害評価システムの実施例を示すシステムブロック図である。
【
図2】本発明に係る脳機能障害評価システムの実施の手順を示す模式図である。
【
図3】本発明に係る脳機能障害評価システムの測定データを示す説明図である。
【
図4】本発明に係る脳機能障害評価システムの実施時の測定データを示す説明図である。
【
図5】本発明に係る脳機能障害評価システムのデータの周波数成分を示すグラフ図である。
【
図6】本発明に係る脳機能障害評価システムの他の実施の手順を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る脳機能障害評価システムは、脳機能障害評価を短時間で簡便・安全・客観的かつ数量的に行うことが可能であることを最大の特徴とする。
以下、本発明に係る脳機能障害評価システムの実施形態を、図面に基づいて説明する。
なお、以下に示される脳機能障害評価システムの全体構成及び各部の構成は、下記実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内、即ち、同一の作用効果を発揮できる構成態様の範囲内で適宜変更することができるものである。
【0020】
図1から
図6に従って、本発明を説明する。
図1は、本発明に係る脳機能障害評価システムの実施例を示すシステムブロック図である。
図2は、本発明に係る脳機能障害評価システムの実施の手順を示す模式図である。
図3は、本発明に係る脳機能障害評価システムによるセンサからの測定データを示す説明図である。
図4は、本発明に係る脳機能障害評価システムの実施時、センサからの測定データを時間に沿って示した説明図である。
図5は、本発明に係る脳機能障害評価システムのデータの周波数成分を示すヒストグラム図である。
図6は、本発明に係る脳機能障害評価システムの他の実施の手順を示す模式図である。
【0021】
評価装置1は、脳機能障害評価を行うためのシステムである。このシステムで、被験者の運動を測定、解析することで、被験者の脳機能障害の程度を評価するものであり、特に、進行の状態が把握しにくい認知障害や認知障害の初期である軽度認知障害(MCI)の評価を数値化できる。
評価装置1は、主に、センサ100、表示部110、制御演算部130、記憶部140からなる。
【0022】
センサ100は、被験者の手の運動を計測するものであり、手指の動きを回転角度として計測するものである。被験者が、両手又は片手を出し、手を自然に広げた状態で、掌を返すように反転する動作を繰り返す。回転の速さは、ガイドとして表示する画像に沿う速度とする。ガイドの回転の速さは、1周期1秒程度とする。センサによる測定によって、手指の動きの周波数成分として、例えば、25Hz程度までの周波数成分の測定を行うのであれば、25Hzの倍である50Hz以上の周期でのサンプリングが必要である。本実施例では、余裕を持たせ、100Hzでサンプリングする。
また、被験者への負担を軽減するために、センサは、被験者の手にマーカー等を付ける必要の無いタイプであると好適である。
具体的な例としては、性能及び価格の点から、LEAP MOTION(リープ モーション インコーポレーテッド社 登録商標)等の赤外線センサが挙げられる。手から数十センチ離した位置に、LEAP MOTIONを置くことで、被験者の手に特別な処理を行うこと無く、手指の動きを三次元で詳細に計測することができる。センサ100としては、例えば、手の動きの3軸の並進と3軸の回転データを抽出できるが、本発明では、手の回内回外運動を評価する際に手の平の方向ベクトルの腕を軸とした周りの回転のみの1次元情報を利用する。計測データは、左右それぞれの手に対して生成される。
【0023】
表示部110は、被験者に手の動きの基準となる例示データに対応した映像データである例示映像を示したり、計測結果や評価値を表示したりする部分である。表示部110は、被験者が手の繰り返し運動をしながら、無理なく視ることができる位置にあると好適である。そのような位置にあることで、手の繰り返し運動に集中できるからである。大きさは、被験者が、目を凝らすことなく確認できる大きさが好適である。また、手の繰り返し運動の手の映像を表示するため、表示部110上の手の大きさが実際の手の大きさに近いほうがより違和感が少なく好適である。
【0024】
尚、音声によって、被験者に対して検査のガイダンスを行ったり、開始、終了を通知したり、測定値、評価値の通知を行ったりすることができるスピーカ120を備える態様も考え得る。表示部110によって通知等を行うことができるが、音声でも伝えることで、より通知の効果が高くなるし、視力の弱い人には、表示部110による通知よりも有効である。
また、測定自体についても、音声でも説明したほうが、被験者にとってわかりやすいことが多い。例えば、「表示と同じ様に手を動かしてください」「表示が消えても手を動かし続けてください」等を音声で示されたほうが、被験者はスムーズに作業を進めることができる。
【0025】
制御演算部130は、評価装置1全体の制御、データの演算等を行う部分である。言い換えれば、表示部110への例示データの表示の指示及び取得した測定データ230の演算を行う。
制御としては、評価装置1の起動、測定のガイダンスの表示の指示、表示部110への例示画像の表示の指示、スピーカ120への発音の指示、センサ100の動作指示、取得データの記憶部140への格納、表示部110への測定値、評価値の表示の指示等を行う。
取得した測定データ230は、periodごとに分けられ、管理される。
各periodの測定データ230は、1秒単位の測定単位データ240に分割され、記憶部140へ格納される。
period単位で評価値を算出する。いずれのperiodについても、評価値を算出することができる。
所定のperiodについて、測定単位データ240毎に、手指の繰り返しの周波数である刺激運動周波数250と、測定データ230との関係を算出する。算出された複数の値から、代表値を算出し、評価値とする。
左右両方の手指について計測する場合には、左右別に、測定単位データ240単位に、刺激運動周波数250と測定データ230との関係を算出し、代表値の算出を行い、2つの代表値を適宜処理して、最終の評価値とする。
【0026】
制御演算部130の各動作、処理を説明する。測定のガイダンスの表示の指示としては、表示部110に、「運動評価の測定を行います。両手を前に出して、画面の手と同じように、手を回転させてください。10秒後に映像は消えますが、映像が消えた後も15秒間、手を回転させてください」等の説明を表示する。被験者の測定への移行をスムーズにすることができる。表示部110への例示画像の表示の指示によって、記憶部140内の映像データ210を動画として、表示部110に表示を行う。映像データ210は動画データでもいいし、静止画データの集合でもよい。手を回内回外する様子を被験者に教示するものである。センサ100に対しては、測定開始、中止の指示を行う。計測中、センサ100からデータを受信し、記憶部140に計測データ230として、記憶する。
測定開始し、period1の期間である10秒間が経過後、表示部110の表示を停止する。センサ100のデータは、この時点で、period1のデータとしてグループ化し、1秒単位の測定単位データ240群として、記憶部140に記憶する。その後、5秒ごとに、period2から4のデータとして、センサ100のデータを各1グループとし、1秒単位の測定単位データ240群として、記憶部140に記憶する。
映像を消してから15秒後に、「お疲れ様でした。測定終了です。」等、表示部110に表示し、音声も出力する。
測定完了後、刺激運動周波数250と測定単位データ230との関係を算出し、代表値を算出し、評価値を得る。
このように、制御演算部130は、映像に倣って被験者が運動を行う映像有期間と、映像を停止した後、映像有期間の映像に倣って引き続き該被験者が運動を行う映像無期間とを持つと共に、映像無期間の計測データから、手指運動を繰り返す刺激動作の周波数成分である刺激運動周波数の成分と、刺激運動周波数成分以外の周波数から1つ以上の成分の和である刺激運動外成分を抽出し、該刺激運動外成分と該刺激運動周波数成分の比(刺激運動外成分を刺激運動周波数成分で割った値)を算出する計算方法を持ち、計算方法により算出した値を、脳機能障害の評価値、あるいは、評価値の元データとするものである。
尚、映像有期間は、少なくとも8秒以上、好ましくは10秒以上とする。被験者が映像に示された動きを認識し、その動きにあわせた動きを開始するために少なくとも3秒、さらに被験者の映像にあわせた動きを評価するために5秒以上の計測期間が必要である。また、映像無期間は、少なくとも10秒以上、好ましくは15秒以上とする。10秒より少ないと、刺激映像消失後の被験者運動の変化を評価するための計測データが不足するからである。
【0027】
記憶部140は、プログラム及びデータを記憶する部分である。不揮発性メモリと揮発性メモリから成る。不揮発性メモリには、プログラムや、手指運動を繰り返す動作を映像として例示するための例示データ200、例示データに対応した映像データ210など、値が確定したデータが記憶されている。
プログラムは、評価装置1の制御の手順を記述した部分である。評価装置1製造時に組み込まれていてもいいし、適宜、アプリケーションとして、後からインストールされても良い。
例示データ200、映像データ210は、被験者に運動をさせるためのガイドとなるデータである。そのため、例示データ200、映像データ210は、常に評価装置1内に記憶されている必要がある。計測データ230、計測単位データ240、基本周波数成分280、HIGH周波数成分290は、測定の都度、発生、計算されるデータであるので、揮発性メモリに記憶される。
【0028】
例示データ200、映像データ210、測定データ230、測定単位データ240について説明する。例示データ200は、手指を回内回外させる際の手指の角度を示す値であり、回内回外を1周期とし、1秒間で1周期することを示すものである。波形としては、連続したサイン波形となる。例示データとしては、少なくとも1周期の半分のデータを持ち、必要な回数繰り返す等、適宜使用する。例示データは、理想刺激運動データとも言う。
映像データ210は、例示データ200に対応した実際の手指の位置を示す映像の集合体である。例示データの1秒、1周期分に対して、少なくとも手指を1回回内回外する一往復のうち、片方向の動き分の映像群を持ち、適宜使用する。映像群は、静止画の集合でもいいし、1周期の動画データでも良い。
測定データ230は、各periodごとのデータであり、測定単位データ240は、測定データ230をさらに、分割したデータである。
25Hz程度までの周波数成分を抽出するため、データのサンプリング周波数は、最低で50Hz必要である。本実施例では、サンプリング周波数を100Hzとしている。従って、0.01秒間隔で、計測したデータ群となっている。
【0029】
脳機能障害の評価値を求める際、測定するperiodについて、その全域のデータである測定データ230について、一括で処理することも考えられるが、突発的な変動などの、ノイズに近い動作を排除するために、測定単位データ240毎に、処理を行う。
分割する単位時間の長さは、手指運動を繰り返す動作の1周期以上である。処理にFFTを用いる場合、基本周波数の周期以上の期間が無いと基本周波数の抽出を十分に行うことができないからである。
本実施例では、基本周波数である1Hzの計測可能な期間として、測定データ230を1秒ごとに分割して、測定単位データ240とする。
つまり、計測データの計測期間を複数の単位期間に分割するものである。
各単位期間ごとに、理想刺激運動に対する測定値の特徴量を算出し、その代表値を、脳機能障害の評価値とする。
【0030】
図3は、理想的な手指の回内回外運動である理想刺激運動と、理想刺激運動に対応する被験者の反応運動例の手指の角度値を示すグラフである。横軸は時間である。縦軸は、手指の回転の角度値である。
理想刺激運動は、サイン波形であり、1Hzの単一周波数である。
映像有期間である最初の10秒間、理想刺激運動の映像データに倣って、被験者が反応し、映像無期間である後半の15秒は、理想刺激運動の映像データを停止し、被験者が、理想刺激運動を推定かつ記憶し、反応した波形である。
最初の10秒は、刺激運動映像が提示されているので反応運動が理想刺激運動と大きく異なることは健常者ではない。しかし、10以降は刺激運動映像の提示が停止しているので、反応運動と理想刺激運動の差は補正されることなく蓄積して、相互の差は拡大する。
前半は、被験者が、理想刺激運動を見たままに、似せた運動を行うため、脳の記憶に関する部分の関与は少ない。後半は、過去に見えていた理想刺激運動についての記憶に基づき、運動を行うため、脳の記憶に関する部分の関与が大きくなる。
そのため、後半で、理想刺激運動とのずれが大きくなる被験者は、認知障害、軽度認知障害の特徴の一つである、直前の動作の記憶である短期記憶についての障害があると推定することができる。
【0031】
刺激運動周波数250と測定データ230との関係を算出する方法として、NSM(Non Smoothness Measure)の値を算出する方法がある。
NSMとは、刺激運動を正弦波とした場合に、被験者の動きである計測単位データが、その正弦波とどの程度異なっているかを数値化するものである。
計測単位データ240を周波数成分に変換し、刺激運動周波数250と、それ以外のより高い周波数との信号強度の比率を算出する。
【0032】
具体的なNSMの算出手順を説明する。
測定単位データ240をFFT(fast fourier transform)によって、周波数成分ごとの信号強度と位相に変換する。本実施例では、手指を1Hz周期で回転させているので、基本周波数である刺激運動周波数250は、1Hzである。
周波数成分として、1、2,3,4,5、6,7,8,9・・・25Hzの成分が挙げられる。
信号強度の周波数成分グラフの例を
図5に示す。基本周波数である刺激運動周波数250が1Hzである。2,3,4,5,6,7,8,9・・・25HzがHIGH周波数260となる。HIGH周波数の成分の信号強度合計が、HIGH周波数成分となる。
【0033】
周波数nの信号強度成分値をpnとすると、NSM(Non Smoothness Measure)の値は、
NSM=(p2+p3+p4+・・・+p25)/p1・・・(1)
(1)において、pnは、nHz成分の信号強度である。
基本周波数であるp1の信号強度値で、p2からp25の周波数成分の信号強度合計であるHIGH周波数成分を割った値である。
計測データ230が、理想刺激運動と同じ波形であれば、p2からp25の値はゼロであるので、NSMはゼロとなる、理想刺激運動との隔たりが大きいほど、p2からp25の値は大きくなり、NSM値は増加する。
言い換えれば、NSM値が大きければ、基準についてのぶれの成分量の比率が大きいことになる。
NSM値は、1秒単位のデータである測定単位データ240単位で算出される。
この例では、p2からp25のすべての値を加算したが、検査上有効と思われる成分のみを加算しても良いし、周波数ごとに重み付けを変更しても良い。
【0034】
NSMは、理想刺激運動を基準とした被験者の反応運動を見るものであるので、理想刺激運動を例示画像として表示して、計測を開始する。
例えば、例示画像の表示無しとしてしまうと、基準がないことから、被験者は思い思いの運動周期で反応する。すると、計測の基準が、単位時間に、何回できたかを見るような形になりがちである。
被験者は、可能な限り、速く、手指を動かすことを強いられ、疲労してしまうことも多い。例示画像の表示は、被験者の負担を軽減する意味でも有効である。
本実施例では、例示データの周期を1秒周期としている。周期が短いと、高齢者等での負担が大きくなるからである。周期が1秒であれば、比較的ゆっくりとした周期であるので、被験者が、十分追従できる。
このような値とすることで、子供から高齢者まで多くの人について、容易に作業ができるので、精神的な負担なく、測定を行うことができる。
【0035】
測定単位データごとに、NSMで、刺激運動周波数と測定データとの関係を算出した後、NSM値群について、代表値を算出する。
例えば、5個のNSM値が算出された際、それらから代表値を算出する。
代表値としては、平均値、中央値、最小値などが考えられる。
また、標準偏差値、変動幅を用いることも考えられる。標準偏差値を用いることによって、被験者の運動の安定性を評価できる。健常者であれば、ばらつきは小さいので、標準偏差値は小さくなる。障害の程度が大きくなるほど、標準偏差値は大きくなるからである。
変動幅を用いることによって、被験者の手指の運動の変動の最大幅を把握することができる。健常者であれば、ブレの最大幅は、極めて小さくなるが、障害の程度が大きくなるほど、変動が大きくなるからである。
代表値が、平均値の場合は、5個のNSM値の平均を算出する。
例示画像を見ながら、手指を動かす場合など、測定データ230が比較的安定している場合は、NSM値に、バラツキ、ブレが少なく、ノイズは小さいことから、代表値として、平均値が有効である。
例示画像を見ずに、手指を動かす場合など、測定データが比較的不安定な場合には、NSM値にバラツキがあり、上下のぶれが大きいので、上下に振れた値を除外できる中央値が有効である。
【0036】
また、単純に左右それぞれの計測値を評価値とするのではなく、左右の値の差分、その絶対値を取っても良い。このような値を用いることで、左右の動作の違いから脳機能障害の種類を推定できる場合もある。
【0037】
図2、
図4に沿って、測定手順について説明する。
図2は、測定の様子を模式的に表したものである。図に示すように、測定は両方の手について行う。
左右いずれかの手のみでも測定可能であるが、一般的に、左右の手指を同時に動かした場合には、左右の動きがきわめて良く同期する。また、左右の手を同期させて動かす際には、運動調節性能が向上する。両手動作の場合には、両手の協調とともにより広範囲の脳機能が連合として動作し、運動調節機能が向上すると考えられるからである。逆に、片手のみでの動作を実施した場合、運動の調整機能が劣化すると考えられる。
図4は、period1から4の例示データと測定データのグラフである。横軸は時間である。縦軸は、手指の回転の角度値であり、各periodにおける例示データの手の回転角度の波形と、被験者の手の回転角度の波形を表したものである。波形の上部に記載した連番は、測定単位データを順番に並べた測定単位データ番号220である。本実施例では、1秒単位で25秒間なので、1から25となる。
各periodの波形のデータが、波形データ230であり、各periodでの1秒単位のデータが、波形単位データ240である。
【0038】
測定は、4つのperiodが連続して行われる。period1は映像有期間であり、被験者は、表示部110の映像データ210に倣って、被験者の右手RH、被験者の左手LHを回内回外させる(
図2上部)。
図4に沿って言えば、例示データ200に倣って、被験者が手を回転させ、例示データ200に近い動作を行う。従って、測定データ230は、例示データに近い形のデータとなる。
なお、測定データ230は、右手のデータと左手のデータの両方がある。
【0039】
period1に連続して、period2,3,4が行われる。
period2,3,4は、映像無しの期間であり、被験者は、表示部110の映像が消えた後も、引き続き、手を回内回外させる。(
図2下部)。
period1には、被験者に動きを慣れさせる意味と、映像を記憶させる意味があるので、8秒以上必要である。本実施例では、余裕を見て10秒としている。
period2,3,4は、計測作業を行う部分である。period2は計測を行う期間であり5秒間の期間を要する。period3,4は、継続して手を回内回外させる期間である。
period2,3,4の合計期間は、10秒以上が適当である。本実施例では、余裕を見て、period2,3,4とも5秒とし、合計15秒としている。
図4に沿って言えば、被験者は、映像無期間であるperiod2,3,4の間、例示データ200の映像を思い出しながら、例示データ200に近い動作になるよう、手を回転させる。従って、測定データ230は、記憶の中の例示データに倣った形であり、period1よりも例示データとの差は大きくなる。
【0040】
本実施例では、period2の波形データ230を評価値生成のために用いる。つまり、評価値生成に用いる、映像無期間の計測データは、映像無期間を複数の分割した際の最初の期間であるperiod2のみから取得する。
脳機能障害のうち、認知障害、軽度認知障害については、短期記憶について確認することが重要である。
period2は、刺激映像が消えた直後なので、非常に短期であるが、運動記憶に頼って手を動かしている部分である。そのため、period2のデータは、記憶と運動との連動についての相関を確認するために有効なデータといえる。
また、測定データにperiod2を用いる際の、period3、4の意味合いとしては、これらのデータを補助的に用いることもあるし、被験者に、period3,4まで手指を動かすことを指示することで、後半に、だれてしまうような被験者であっても、良好な前半のデータが取得できるので有効である。
【0041】
period2の右手と左手の波形単位データ240を選択する。波形単位データ240は波形単位データ番号が11から15の5つである。それぞれ5個である。
これらについて、NSM値を求める。
求まったNSM値について、右手、左手、各々の代表値として、中央値を求める。
評価値として、左右の手の代表値のいずれかを選択してもいいし、両方から導かれた数値としても良い。
【0042】
健常者の場合には、左右の手の動きは、きわめて良く同期する。従って、左右の手の動きは、ほぼ同じであるので、当然、左右のそれぞれの代表値も近い値となる。従って、代表値が十分良好な場合は、左右いずれの値を使っても十分である。
軽度認知障害(MCI)の検査の場合、左右差はあまりないと想定されるので、計測がより良好な右側の計測値に注目する。計測が良好であることが保証されている場合には、左右ともに解析し、左右それぞれの計測値の良い方若しくは悪い方を評価値とすることも考えられる。
算出された評価値に基づいて、被験者に対して、医師への相談を進めたり、定期的な検査を勧めたりしていく。
【0043】
このように、本実施例によれば、脳機能障害の、特に、認知障害、軽度認知障害の評価について、対象者に、多くの質問等を行ったり、器具等の装着を行うことなく評価できるので、対象者の負担が少なく、容易に評価を行うことができる。
【0044】
また、本実施例によれば、わずか、25秒で、認知障害、軽度認知障害の数値評価が可能であり、検査効率を向上させることができる。
【0045】
さらに、本実施例によれば、測定の基準として、映像があるので、個人のバラツキが少なく、精度よく、データを収集することができる。
【0046】
またさらに、本実施例によれば、繰り返し動作が1秒に一回であるので、動作自体は、お年寄りでも、楽に行うことができる。
【0047】
実施例として、手指の回内回外を繰り返す運動について説明したが、本発明は、手指運動を繰り返す動作であれば、他の動作でもよい。例えば、
図6に示すように、親指と人差し指を付けたり、離したりする動作でも良い。
まず、
図6の上部のように、画面110に、手本となり画像を表示させ、被験者は、それに倣って、親指と人差し指を付けたり離したりする。被験者の手指の動きは、カメラを通して、画像処理を行い、波形とする。
被験者は、手本となる画像に倣って、ゆっくりと指を動かせばいいので、被験者の精神的負担を小さくすることができる。
【0048】
実施例として、period2の計測データを用いた例を説明したが、period1を用いることで、被験者の測定時間を短くすることができる。
例示無しの期間での測定を行う際には、合計18~25秒程度の時間がかかるが、例示有りのみの場合は、8~10秒程度でよいので、被験者の負担をさらに軽減することができる。
尚、測定時間は、被験者の手指の動きの慣れ、計測の精度から、少なくとも8秒以上必要であるが、以下の本実施例では、余裕を見て10秒としている。
【0049】
測定は、period1、10秒のみである。period1は映像有期間であり、被験者は、表示部110の映像データ210に倣って、被験者の右手RH、被験者の左手LHを回内回外させる(
図2上部)。
図4に沿って言えば、period1で完了するので、10秒間、例示データ200に倣って、被験者が手を回転させ、例示データ200に近い動作を行うのみで測定が完了する。
period1の右手と左手の波形単位データ240、それぞれ10個、計20個について、それぞれのNSM値を算出する。右手、左手それぞれに、代表値を算出する。例示データに倣った動作であり、変動は少ない場合が多いので、代表値は平均値とする。
右手、左手の代表値のいずれか、または両方を用いて、評価値を算出する。
【0050】
被験者は、10秒という短時間で、スピーディーに、認知障害、軽度認知障害等の脳機能障害についての検査を受けることができるので、検査へのハードルも低くなり、検査の機会を増やすことができる。
そして、検査で、医師の確認が必要と判断された場合は、その旨を通知し、診断を促すことができる。
【0051】
本発明に係る評価システムは、短時間で検査が可能であることから、特定の個人について、定期的に、検査を行い、評価値の変化を確認することで、脳機能障害についての微妙な変化を確認することができる。
従って、定期的な健康診断等に取り入れることも有益である。
【0052】
本発明は、脳機能障害の評価システムに関するものであり、脳機能障害の評価を数値化できる点が特徴の一つである。
脳機能障害の一つとして、認知症がある。認知症は、徐々に進行していく病気であり、且つ、完治が難しい病気である。そのため、進行状況を数値化できる本発明は、認知症の判別、評価のためのシステムとして有効である。
また、認知症の初期である軽度認知障害(MCI)の判別は、認知症よりもさらに判別が難しい。
本発明であれば、短時間で、軽度認知障害(MCI)についての検査が必要か否かの目安とすることができる。
定期健診等の際、本発明の脳機能障害評価システムを用いることによって、認知症の早期発見に寄与することができる。
また、個人ごとに脳機能障害評価値を管理するによって、脳機能障害、認知症、軽度認知障害(MCI)についての進行の度合いを、高精度で確認することができ、認知症、軽度認知障害(MCI)の早期発見に寄与することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係る脳機能障害評価システムは、脳機能障害、特に、認知障害、軽度認知障害の評価を容易に、精度よく行うシステムとして産業上の利用可能性は大きいと解する。
【符号の説明】
【0054】
1 評価装置
100 センサ
110 表示部
120 スピーカ
130 制御演算部
140 記憶部
200 例示データ
210 映像データ
220 測定単位データ番号
230 測定データ
240 測定単位データ
250 刺激運動周波数(基本周波数)
260 HIGH周波数
LH 被験者の左手
RH 被験者の右手