(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017091
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】シートスライド装置
(51)【国際特許分類】
B60N 2/08 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
B60N2/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119497
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000143639
【氏名又は名称】株式会社今仙電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 晃生
(72)【発明者】
【氏名】川村 勇介
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087BA02
3B087BB03
3B087BC04
3B087BC05
3B087BC07
3B087BC16
(57)【要約】
【課題】アッパーレール側壁の圧壊を防止できる構造を備えたシートスライド装置を提供する。
【解決手段】シートスライド装置1は、ロアレール2と、アッパーレール3と、ロック部材4と、ブラケット6と、を備える。ブラケット6は、前面および後面を有する受け部62を含む。受け部62の前面は、ロック部材4の後端部と対向する。また、受け部62の前面は、ロック部材4の後端部の一部が配置される切欠き32aの縁部32a’よりも前方に配置される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のシートの前後位置を調節するためのシートスライド装置であって、
車体に固定可能なロアレールと、
切欠きが設けられた側壁を有する、前記シートに固定可能なアッパーレールと、
前記アッパーレールに取り付けられ、前記ロアレールと前記アッパーレールとの相対移動を規制するロック部材であって、後端部の一部が前記切欠き内に配置されるロック部材と、
前面および後面を有する受け部を含み、前記受け部の前面が、前記ロック部材の後端部と対向し、かつ、前記ロック部材の後端部の一部が配置される前記切欠きの後方側の縁部よりも前方に配置されるブラケットと、
を備えるシートスライド装置。
【請求項2】
前記ブラケットは、前記受け部から前記車両の左右方向に突出する突出部を有しており、前記突出部の後面は平面であり、前記突出部は前記切欠き内に配置されている、
請求項1に記載のシートスライド装置。
【請求項3】
前記突出部の後面は、前記後方側の縁部に接触している、
請求項2に記載のシートスライド装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートスライド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のシートの前後位置を調節するためのシートスライド装置が知られている。このようなシートスライド装置は、例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1は、車両前後方向に沿って延設されるロアレールと、前記ロアレールの長手方向に沿って相対移動するアッパレールと、前記アッパレールに揺動支点を中心として上下方向に揺動自在に取り付けられ、前記ロアレールに形成されたロック溝に係合可能なロック歯を備えると共に、前記ロック歯を前記ロック溝に係合するロック方向に付勢されたロック部材とを備えるシートスライド装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
後方から衝突された場合など、アッパーレールに前方への負荷が掛かった場合、アッパーレールは前方に移動する。一方、ロック部材は、ロアレールと噛み合っているため、前方には移動しない。アッパーレールが前方に移動することにより、アッパーレールの側壁がロック部材の後端部と衝突する。アッパーレールの側壁は左右方向の厚みが薄い薄板であり、ロック部材の後端部は上下方向の厚みが薄い薄板であるため、ロック部材とアッパーレールとの接触面積は小さくなる。接触面積が小さいことにより、アッパーレールの側壁には、ロック部材の後端部から高い応力が掛かり、アッパーレールの側壁が圧壊するおそれがある。アッパーレールの側壁が圧壊すると、ロック部材も破損し、ロック強度が保てなくおそれがある。
【0006】
本発明は、アッパーレール側壁の圧壊を防止できる構造を備えたシートスライド装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下に掲げる態様の発明を提供する。
(項目1)
車両のシートの前後位置を調節するためのシートスライド装置であって、
車体に固定可能なロアレールと、
切欠きが設けられた側壁を有する、前記シートに固定可能なアッパーレールと、
前記アッパーレールに取り付けられ、前記ロアレールと前記アッパーレールとの相対移動を規制するロック部材であって、後端部の一部が前記切欠き内に配置されるロック部材と、
前面および後面を有する受け部を含み、前記受け部の前面が、前記ロック部材の後端部と対向し、かつ、前記ロック部材の後端部の一部が配置される前記切欠きの後方側の縁部よりも前方に配置されるブラケットと、
を備えるシートスライド装置。
【0008】
(項目2)
前記ブラケットは、前記受け部から前記車両の左右方向に突出する突出部を有しており、前記突出部の後面は平面であり、前記突出部は前記切欠き内に配置されている、
項目1に記載のシートスライド装置。
【0009】
(項目3)
前記突出部の後面は、前記後方側の縁部に接触している、
項目2に記載のシートスライド装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明のシートスライド装置はブラケットを備えているため、ロック部材の後端部がアッパーレールの側壁に直接衝突せず、受け部の前面に衝突することになる。これにより、アッパーレールの側壁の圧壊を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】シートおよびシートスライド装置の概略側面図である。
【
図4】組立後のシートスライド装置の一部断面斜視図である。
【
図5】アッパーレール、ロック部材およびブラケットの下方から見た斜視図である。
【
図8】組立後のシートスライド装置の一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面を参照しつつ、本発明のシートスライド装置1について説明する。以下では、「車両上下方向」、「車両前後方向」、「車両左右方向(車幅方向)」をそれぞれ単に「上下方向」、「前後方向」、「左右方向」と表記する。
【0013】
シートスライド装置1は、車両のシートSの前後位置を調節するための装置である。
図1および
図2に示すように、シートスライド装置1は、主に、ロアレール2と、アッパーレール3と、ロック部材4と、レバー5と、ブラケット6と、弾性部材7と、転動部材8と、を備える。レバー5以外の構成要素は、一つのシートSに対し、インナ側およびアウタ側それぞれに設けられている。
図1および
図2では、インナ側およびアウタ側の各構成要素のうちの一方のみを示している。
【0014】
ロアレール2は、ブラケットBを介して車両のフロアに固定されている。アッパーレール3は、シートSに固定されると共に、ロアレール2に組み付けられている。ロック部材4は、アッパーレール3に固定されている。搭乗者がレバー5を操作していないとき、アッパーレール3は、ロック部材4によって、ロアレール2に対して前後方向に移動できないようになっている。搭乗者がレバー5を持ち上げると、ロック部材4によるロックが解除され、アッパーレール3は、ロアレール2に対して前後方向に移動可能になる。こうして、搭乗者はシートSの前後位置を調節できる。
【0015】
以下、各構成要素について詳述する。
【0016】
<1-1 ロアレールおよびアッパーレール>
主に
図2を参照して、ロアレール2について説明する。
【0017】
ロアレール2は、前後方向に延びる長尺な部材から成る。ロアレール2は、底壁21と、側壁22と、上壁23と、フランジ部24と、を備える。側壁22、上壁23およびフランジ部24はそれぞれ一対設けられている。ロアレール2は、例えば金属製であり、プレス加工によって一体成形される。
【0018】
底壁21は、前後方向に延びる略平板状である。側壁22は、底壁21の左右両端から、底壁21と略直角を成して上方に延びている。上壁23は、側壁22の上端から相手側の側壁22に向けて延びている。フランジ部24は、上壁23の端部から下方に、側壁22と略平行に延びている。
【0019】
各フランジ部24には、複数の切欠き24aが前後方向に間隔をあけて形成されている。複数の切欠き24aを設けることによって、各フランジ部24の下端には複数の歯部24bが形成される。歯部24bが、ロック部材4の貫通穴41a(
図6A参照)内に配置され、対応するロック部材4の歯部41bと噛み合うと、ロアレール2に対するアッパーレール3の移動が規制される。
【0020】
次に、主に
図2から
図5を参照して、アッパーレール3について説明する。
【0021】
アッパーレール3は、前後方向に延びる長尺な部材から成る。アッパーレール3は、上壁31と、側壁32と、底壁33と、フランジ部34と、を備える。側壁32、底壁33およびフランジ部34はそれぞれ一対設けられている。アッパーレール3は、例えば金属製であり、プレス加工によって一体成形される。
【0022】
上壁31は、前後方向に延びる略平板状である。側壁32は、上壁31の左右両端から、上壁31と略直角を成して下方に延びている。底壁33は、側壁32から離れるように、側壁32から斜め上方に向けて延びている。フランジ部34は、側壁32に近づくように底壁33から斜め上方に向けて延びている。
【0023】
図2に示すように、上壁31と側壁32との間のコーナ部には、切欠き31aが設けられている。
図4に示すように、切欠き31aには、弾性部材7が係止される。
【0024】
図3に示すように、各側壁32には、複数の切欠き32a~32dが形成されている。
図5に示すように、最後方の切欠き32a内には、ロック部材4の後端部の一部およびブラケット6の突出部63が配置される。そのため、最後方の切欠き32aは、他の切欠き32b~32dよりも大きくなっている。なお、
図5では、図面を見やすくするため、紙面手前側のアッパーレール3の底壁33およびフランジ部34を省略している。複数の切欠き32a~32dを設けることにより、各側壁32には、複数の歯部32eが形成される。ロアレール2とアッパーレール3とのロック時に、歯部32eは、ロック部材4の貫通穴41a内に配置される。また、切欠き32a~32d内には、ロック部材4の歯部41bが配置される。
【0025】
各側壁32には、上下方向に延びる切欠き32fが設けられている。切欠き32f内には、ロック部材4の凸部44b(
図6A参照)が圧入される。
【0026】
アッパーレール3は、ロアレール2の一対のフランジ部24間にアッパーレール3の両方の側壁32が配置され、ロアレール2の側壁22とフランジ部24との間に、アッパーレール3のフランジ部34が配置されるように、ロアレール2に組み付けられる。
【0027】
ロアレール2の底壁21と側壁22との間のコーナ部と、アッパーレール3の底壁33との間には、
図2に示すボール等の転動部材8が配置されている。また、ロアレール2の側壁22の上端と、アッパーレール3のフランジ部34の上端との間にも、転動部材8が配置されている。この転動部材8により、ロアレール2とアッパーレール3とは、前後方向に円滑にスライドできるようになっている。
【0028】
<1-2 ロック部材>
主に
図4、
図5、
図6Aおよび
図6Bを参照して、ロック部材4について説明する。
【0029】
図6Aおよび
図6Bに示すように、ロック部材4は、ロック片41と、被押圧部42と、延出部43と、立上部44と、装着部45と、垂下部46と、を備える。ロック部材4は、バネ鋼などの弾性変形可能な一枚の板材を、例えばプレス加工することにより製造される。
【0030】
被押圧部42は、ロック片41の前方に設けられている。二つの延出部43は、左右方向に離隔されていると共に、前後方向に延びている。二つの立上部44は、二つの延出部43のそれぞれの前端から、やや後方傾斜しながら立ち上がっている。二つの立上部44は、それらの上部で互いに接続されている。装着部45は、二つの立上部44の上端と接続されている。垂下部46は、装着部45の前端から下方に延びている。
【0031】
各立上部44は、外方に突出する凸部44bを備える。凸部44bは、アッパーレール3の切欠き32f内に圧入される。また、装着部45は、ボルトなどの固定部材によって、アッパーレール3の上壁31に取り付けられる。こうして、ロック部材4は、アッパーレール3に固定される。
【0032】
図6Aに示すように、ロック片41には、複数の貫通穴41aが設けられている。ロック片41のうち、前後方向において複数の貫通穴41aに隣接する部分は、歯部41bとして機能する。各歯部41bは、ロアレール2の切欠き24aおよびアッパーレール3の切欠き32a~32d内に挿入される。最後方の歯部41bは、切欠き32a内に配置される(
図5参照)。ロック片41の歯部41bが、対応するロアレール2の歯部24bと噛み合うことで、ロック部材4が取り付けられたアッパーレール3がロアレール2に対してロックされ、アッパーレール3は、ロアレール2に対して相対移動できないようになる。
【0033】
二つの立上部44の間には、上方が閉鎖された開口部44aが形成されている。また、垂下部46には、開口部46aが設けられている。開口部44aおよび開口部46aには、レバー5のアーム部52が挿入される(
図4参照)。
【0034】
被押圧部42上にはレバー5の押圧部53が配置される(
図4参照)。レバー5の操作部51を持ち上げた際(すなわち、ロック解除操作を行った際)に、被押圧部42はレバー5の押圧部53によって下方に押圧される。被押圧部42が下方に押圧されることで、主に延出部43が弾性変形し、ロック片41が下方に移動する。
【0035】
<1-3 レバーおよび弾性部材>
主に
図2および
図4を参照して、レバー5および弾性部材7について説明する。
【0036】
図2に示すように、レバー5は、操作部51と、左右一対のアーム部52と、各アーム部52の後端にそれぞれ設けられた押圧部53と、を備える(
図2では、レバー5の左側部分は省略している)。レバー5は、例えば、一本のパイプをプレス加工することにより一体成形される。一対のアーム部52は、操作部51を介して一体的に接続されている。各アーム部52の下面には、切欠き52aが設けられている。押圧部53は、ロック部材4の被押圧部42上に配置される。
【0037】
弾性部材7は、アッパーレール3の切欠き31aおよびレバー5の切欠き52aに係止されており、レバー5を上方に付勢している。弾性部材7は、例えば一本の線状バネを折り曲げることにより構成されている。
【0038】
レバー5に係止された弾性部材7はレバー5の重さ(すなわち、下方荷重)を受け止めることになるが、この下方荷重よりも弾性部材7の上向きの付勢力の方が大きい。したがって、レバー5は、弾性部材7によって上方に付勢されており、アーム部52は、開口部44aの上縁と接触している。
【0039】
搭乗者が操作部51を持ち上げることにより、レバー5は、アーム部52と開口部44aの上縁との接触部分を中心として回転する。押圧部53がロック部材4の被押圧部42を押し下げることにより、歯部41bが、ロアレール2の切欠き24a内およびアッパーレール3の切欠き32a~32d内から離脱する。こうして、ロアレール2とアッパーレール3とのロックが解除される。搭乗者がレバー5の操作部51から手を離すと、レバー5の自重およびロック部材4の弾性力(復元力)により、レバー5は、元のロック位置に戻る。
【0040】
<1-4 ブラケット>
主に
図4、
図5、
図7および
図8を参照して、ブラケット6について説明する。
【0041】
ブラケット6は、アッパーレール3の側壁32が圧壊することを防止するために設けられている。ブラケット6は、側面視でL字型である。ブラケット6は、例えば、金属または高分子材料製の一体成型品である。
【0042】
ブラケット6は、取付部61と、受け部62と、2つの突出部63と、を備える。
【0043】
取付部61は、アッパーレール3の上壁31と略平行に延びる平板状である。取付部61は、ボルトなどの固定部材によって、上壁31に固定されている。
【0044】
受け部62は、ロック部材4からの荷重を受け止める部分である。受け部62は、取付部61と略直角を成しており、取付部61から下方に延びている。受け部62は、アッパーレール3の一対の側壁32の間に配置される(
図5参照)。受け部62の前面は、ロック部材4の後端部と対向している。また、受け部62の前面は、切欠き32aの後方側の縁部32a’よりも前方に位置している。受け部62は、平板状である。すなわち、受け部62の前面および後面は、平面である。受け部62は、ロック部材4の後端部の厚みよりも大きな上下方向長さを有する。
【0045】
各突出部63は、受け部62の上下方向の略中間位置から、左右方向にそれぞれ突出している。各突出部63は、各側壁32の切欠き32a内に配置される(
図5参照)。各突出部63の前面は、ロック部材4の後端部と対向している。各突出部63の後面は、切欠き32aの後方側の縁部32a’と接触していることが好ましい。各突出部63の前面および後面は、平面であり、かつ、受け部62の前面および後面と面一である。また、各突出部63は、ロック部材4の後端部の厚みよりも大きな上下方向長さを有する。
【0046】
<2 特徴>
車両に別の車両が後方から衝突した場合など、アッパーレール3に前方への負荷が掛かると、アッパーレール3は前方に移動する。一方、ロック部材4はロアレール2と噛み合っているため、前方には移動しない。シートスライド装置1がブラケット6を備えていることにより、受け部62および突出部63の前面が、ロック部材4の後端部と衝突することになる。すなわち、受け部62および突出部63の前面は、アッパーレール3の切欠き32aの縁部32a’よりも前方に配置されているため、ロック部材4の後端部は、切欠き32aの縁部32a’に直接当たるのではなく、受け部62および突出部63の前面に衝突することになる。これにより、ロック部材4からの荷重を受け部62および突出部63で受け止めることができるため、アッパーレール3の側壁32の圧壊を防止できる。また、ブラケット6を設けることにより、アッパーレール3の側壁32の板厚を厚くして断面強度を大きくしなくても側壁32の圧壊を防ぐことができるため、アッパーレール3の質量増加を抑えることができる。
【0047】
ブラケット6が突出部63を備え、突出部63がアッパーレール3の切欠き32a内に配置されていることにより、ロック部材4からブラケット6に荷重が作用した際に、突出部63が切欠き32aの縁部32a’によって支持される。これにより、受け部62および各突出部63が後方に変形することを防止できる。また、各突出部63の後面は平面であるため、各突出部63が、切欠き32aの縁部32a’に面で接触することになる。したがって、各突出部63が縁部32a’に衝突しても、側壁32が圧壊することはない。
【0048】
本発明のシートスライド装置1は、上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 シートスライド装置
2 ロアレール
3 アッパーレール
32 側壁
32a 切欠き
32a’ 切欠きの後方側の縁部
4 ロック部材
6 ブラケット
62 受け部
63 突出部
S シート