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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170912
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】制動装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20241204BHJP
   B60T 13/138 20060101ALI20241204BHJP
   B60T 17/18 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
B60T8/17 B
B60T13/138 A
B60T17/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087677
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】余語 和俊
【テーマコード(参考)】
3D048
3D049
3D246
【Fターム(参考)】
3D048BB03
3D048BB07
3D048CC54
3D048DD02
3D048HH15
3D048HH18
3D048HH26
3D048HH37
3D048HH53
3D048HH61
3D048HH66
3D048HH68
3D048HH70
3D048RR06
3D049BB01
3D049BB05
3D049CC02
3D049HH12
3D049HH20
3D049HH30
3D049HH41
3D049HH43
3D049HH47
3D049HH48
3D049HH51
3D049QQ04
3D049RR04
3D246BA02
3D246CA03
3D246DA01
3D246GA01
3D246GB37
3D246GC14
3D246HA03A
3D246HA43A
3D246HA44A
3D246JB41
3D246LA04Z
3D246LA33B
3D246LA43B
3D246LA57Z
3D246LA61Z
3D246LA63B
3D246MA03
3D246MA06
3D246MA16
3D246MA21
3D246MA23
(57)【要約】
【課題】装置に異常が発生する場合であっても、制動要求に応じた制動力を車輪に発生できる制動装置を提供する。
【解決手段】制動装置10は、第1液路41に設けられる常開型の電磁弁である第1マスタ遮断弁71と、第2液路42に設けられる常閉型の電磁弁である第2連通弁74と、第1接続液路43に設けられる常閉型の電磁弁である第1連通弁73と、第2接続液路44に設けられる常開型の電磁弁である第2マスタ遮断弁72と、第2接続液路44に設けられる第2チェック弁75と、を備える。第2チェック弁75は、マスタシリンダ51から後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24に向かうブレーキ液の流れを制限し、後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24からマスタシリンダ51に向かうブレーキ液の流れを許容する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ液の供給により第1車輪に制動力を発生させる第1ホイールシリンダと、
ブレーキ液の供給により第2車輪に制動力を発生させる第2ホイールシリンダと、
運転者の制動操作に応じて前進又は後退するマスタピストンを有し、前記マスタピストンによって1つのマスタ室が区画され、前記マスタピストンが前進する場合に前記マスタ室のブレーキ液を第1出力ポートから流出させ、前記マスタピストンが後退する場合に前記第1出力ポートを介して前記マスタ室にブレーキ液を流入させるマスタシリンダと、
電気モータ及び前記電気モータの駆動に応じて前進又は後退するピストンを有し、前記ピストンが前進する場合に液圧室のブレーキ液を第2出力ポートから流出させ、前記ピストンが後退する場合に前記第2出力ポートを介して前記液圧室にブレーキ液を流入させる電動シリンダと、
前記マスタシリンダと前記第1ホイールシリンダとを接続する第1液路と、
前記電動シリンダと前記第2ホイールシリンダとを接続する第2液路と、
前記第1液路に前記第2液路を接続する第1接続液路と、
前記第2液路に前記第1液路を接続する第2接続液路と、
前記第1液路に設けられる常開型の電磁弁である第1マスタ遮断弁と、
前記第2液路に設けられる常閉型の電磁弁である第2連通弁と、
前記第1接続液路に設けられる常閉型の電磁弁である第1連通弁と、
前記第2接続液路に設けられる常開型の電磁弁である第2マスタ遮断弁と、
前記第2接続液路に設けられるチェック弁と、を備え、
前記第1接続液路は、前記第1液路における前記第1マスタ遮断弁よりも前記第1ホイールシリンダ側の部分に接続し、
前記第2接続液路は、前記第2液路における前記第2連通弁よりも前記第2ホイールシリンダ側の部分に接続し、
前記チェック弁は、前記マスタシリンダから前記第2ホイールシリンダに向かうブレーキ液の流れを制限し、前記第2ホイールシリンダから前記マスタシリンダに向かうブレーキ液の流れを許容する
制動装置。
【請求項2】
ブレーキ液の液漏れを検出する漏液センサと、
車両に対する制動要求に基づいて、前記電気モータを制御する制動制御装置と、を備え、
前記制動制御装置は、前記漏液センサがブレーキ液の液漏れを検出する状況下において、制動要求がある場合、前記第1マスタ遮断弁を開弁させ、且つ前記第2マスタ遮断弁を閉弁させ、且つ前記第1連通弁を閉弁させ、且つ前記第2連通弁を開弁させた状態で、前記電気モータを駆動する
請求項1に記載の制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、バイワイヤ方式の制動装置が記載されている。特許文献1に記載の制動装置は、ブレーキペダルと、マスタシリンダと、電動シリンダと、前輪系統のホイールシリンダと、後輪系統のホイールシリンダと、前輪系統の液路と、後輪系統の液路と、接続液路と、マスタ遮断弁と、系統連通弁と、を備える。
【0003】
マスタシリンダは、ブレーキペダルが連結されるマスタピストンを有している。マスタシリンダは、ブレーキペダルとともに移動するマスタピストンの移動量に応じて、ブレーキ液を吐出する。電動シリンダは、ブレーキペダルの操作量に基づいて制御される電気モータと、電気モータに駆動されるピストンと、を有している。電動シリンダは、ブレーキペダルの操作量に基づいて駆動されるピストンの移動量に応じて、ブレーキ液を吐出する。前輪系統のホイールシリンダは、供給されたブレーキ液の液量に応じて、前輪に制動力を発生させる。同様に、後輪系統のホイールシリンダは、供給されたブレーキ液の液量に応じて、後輪に制動力を発生させる。
【0004】
前輪系統の液路は、マスタピストンと前輪系統のホイールシリンダとを接続している。一方、後輪系統の液路は、電動シリンダと後輪系統のホイールシリンダとを接続している。接続液路は、前輪系統の液路と後輪系統の液路とを接続している。マスタ遮断弁は、前輪系統の液路に設けられている。マスタ遮断弁は、常開型の電磁弁である。系統連通弁は、接続液路に設けられている。系統連通弁は、常閉型の電磁弁である。
【0005】
特許文献1に記載の制動装置は、通常の制動時において、マスタ遮断弁を閉弁させるとともに、系統連通弁を開弁させる。そして、制動装置は、電動シリンダから前輪系統のホイールシリンダ及び後輪系統のホイールシリンダにブレーキ液を供給する。こうして、制動装置は、前輪及び後輪に制動力を発生させる。一方、電気的故障が発生した際の制動時には、マスタ遮断弁が開弁するとともに、系統連通弁が閉弁する。そして、制動装置は、マスタシリンダから前輪系統のホイールシリンダにブレーキ液を供給する。こうして、制動装置は、前輪に制動力を発生させる。
【0006】
特許文献2にも、バイワイヤ方式の制動装置が記載されている。特許文献2に記載の制動装置は、ブレーキペダルと、マスタシリンダと、電動シリンダと、前輪系統のホイールシリンダと、後輪系統のホイールシリンダと、前輪系統の液路と、後輪系統の液路と、接続液路と、マスタ遮断弁と、系統連通弁と、を備える。ただし、特許文献2に記載の制動装置において、系統連通弁は常開型の電磁弁である。
【0007】
特許文献2に記載の制動装置は、通常の制動時において、マスタ遮断弁を閉弁させるとともに、系統連通弁を開弁させる。そして、制動装置は、電動シリンダから前輪系統のホイールシリンダ及び後輪系統のホイールシリンダにブレーキ液を供給する。こうして、制動装置は、前輪及び後輪に制動力を発生させる。一方、電気的故障が発生した際の制動時には、マスタ遮断弁が開弁するとともに、系統連通弁が開弁する。そして、制動装置は、マスタシリンダから前輪系統のホイールシリンダ及び後輪系統のホイールシリンダにブレーキ液を供給する。こうして、制動装置は、前輪及び後輪に制動力を発生させる。
【0008】
さらに、特許文献2に記載の制動装置は、前輪系統の液路又は後輪系統の液路でブレーキ液の液漏れが発生した場合には、系統連通弁を閉弁する。つまり、制動装置は、前輪系統の液路及び後輪系統の液路を遮断する。そして、制動装置は、制動時において、前輪系統のホイールシリンダにマスタシリンダからブレーキ液を供給するとともに、後輪系統のホイールシリンダに電動シリンダからブレーキ液を供給する。こうして、制動装置は、前輪系統及び後輪系統のうちの液漏れが発生していない系統において、車輪に制動力を発生できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2021-504229号公報
【特許文献2】特許第6774572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の制動装置が前輪及び後輪に制動力を発生させている状況下において、制動装置に対する給電が停止されたり、制動装置の作動が継続できないような電気的故障が発生したりすると、マスタ遮断弁が開弁するとともに、系統連通弁が閉弁する。このため、前輪系統のホイールシリンダは、マスタシリンダに接続されるが電動シリンダに接続されなくなる。その結果、前輪系統のホイールシリンダの液圧は、マスタシリンダの液圧と同等となる。つまり、ブレーキペダルの操作量に応じて、前輪に発生する制動力が変化する状態となる。一方、後輪系統のホイールシリンダは、電動シリンダに接続されるがマスタシリンダに接続されなくなる。このため、電動シリンダから後輪系統のホイールシリンダに供給されたブレーキ液は、後輪系統のホイールシリンダから電動シリンダに戻る。ただし、電動シリンダにおける機械的な損失などによって、電動シリンダのピストンが電動シリンダ内の液圧が「0」になるまで押し戻されないと、ブレーキペダルの操作が解消されても、後輪に発生している制動力が解消されないおそれがある。
【0011】
また、特許文献2に記載の制動装置において、前輪系統の液路及び後輪系統の液路の一方の液路において液漏れが発生した状態で、車両のイグニッションスイッチがオフになると、系統連通弁が開弁する。つまり、液漏れが発生している系統の液路及び液漏れが発生していない系統の液路が接続される。すると、液漏れが発生していない系統の液路から液漏れが発生している系統の液路にブレーキ液が流れる場合がある。この場合、イグニッションスイッチがオンになった後、ブレーキ液の液量不足によって、液漏れが発生していない系統の制動力も低下してしまうおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する制動装置は、ブレーキ液の供給により第1車輪に制動力を発生させる第1ホイールシリンダと、ブレーキ液の供給により第2車輪に制動力を発生させる第2ホイールシリンダと、運転者の制動操作に応じて前進又は後退するマスタピストンを有し、前記マスタピストンによって1つのマスタ室が区画され、前記マスタピストンが前進する場合に前記マスタ室のブレーキ液を出力ポートから流出させ、前記マスタピストンが後退する場合に出力ポートを介して前記マスタ室にブレーキ液を流入させるマスタシリンダと、電気モータに駆動されるピストンを有し、前記ピストンが前進する場合に液圧室のブレーキ液を出力ポートから流出させ、前記ピストンが後退する場合に出力ポートを介して前記液圧室にブレーキ液を流入させる電動シリンダと、前記マスタシリンダと前記第1ホイールシリンダとを接続する第1液路と、前記電動シリンダと前記第2ホイールシリンダとを接続する第2液路と、前記第1液路に前記第2液路を接続する第1接続液路と、前記第2液路に前記第1液路を接続する第2接続液路と、前記第1液路に設けられる常開型の電磁弁である第1マスタ遮断弁と、前記第2液路に設けられる常閉型の電磁弁である第2連通弁と、前記第1接続液路に設けられる常閉型の電磁弁である第1連通弁と、前記第2接続液路に設けられる常開型の電磁弁である第2マスタ遮断弁と、前記第2接続液路に設けられるチェック弁と、を備え、前記第1接続液路は、前記第1液路における前記第1マスタ遮断弁よりも前記第1ホイールシリンダ側の部分に接続し、前記第2接続液路は、前記第2液路における前記第2連通弁よりも前記第2ホイールシリンダ側の部分に接続し、前記チェック弁は、前記マスタシリンダから前記第2ホイールシリンダに向かうブレーキ液の流れを制限し、前記第2ホイールシリンダから前記マスタシリンダに向かうブレーキ液の流れを許容する。
【0013】
制動装置は、車輪に制動力を発生させている状況下において、意図せず給電が停止されたり、制動装置の作動が継続できないような電気的故障が発生したりする場合には、運転者の制動操作の解消に伴い、第1車輪及び第2車輪に発生させている制動力を解消できる。また、制動装置は、第1液路及び第2液路の一方の液路に液漏れが発生する場合には、液漏れが発生していない液路を用いて車輪に制動力を発生できる。さらに、制動装置は、液漏れが発生している状況下において、イグニッションスイッチがオフされるなどの理由で給電が停止される場合には、液漏れの発生していない液路から液漏れの発生している液路にブレーキ液が流れることを抑制できる。よって、制動装置は、給電の再開後に、液漏れが発生していない液路を用いて車輪に制動力を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、制動装置の概略構成を示す構成図である。
図2図2は、制動装置の状態に応じた複数の電磁弁の開閉状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、制動装置の一実施形態について説明する。
<本実施形態の構成>
図1に示すように、制動装置10は、車輪に制動力を発生させるホイールシリンダ20と、ブレーキ液を貯留するリザーバタンク30と、ブレーキ液が流れる液路40と、ブレーキ液の液圧を調整する上流側調圧部50及び下流側調圧部60と、を備えている。また、制動装置10は、上流側調圧部50及び下流側調圧部60の接続状態を切り替える切替機構70と、制動装置10の状態を検出する複数のセンサ80と、上流側調圧部50及び下流側調圧部60と切替機構70とを制御する制動制御装置90と、を備えている。
【0016】
<ホイールシリンダ>
ホイールシリンダ20は、左前輪FLのホイールシリンダ21と、右前輪FRのホイールシリンダ22と、左後輪RLのホイールシリンダ23と、右後輪RRのホイールシリンダ24と、を有している。ホイールシリンダ20は、供給されるブレーキ液の液圧が高いほど大きな制動力を車輪に発生させる。前輪FL,FRは「第1車輪」に相当し、後輪RL,RRは「第2車輪」に相当し、前輪FL,FRのホイールシリンダ21,22は「第1ホイールシリンダ」に相当し、後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24は「第2ホイールシリンダ」に相当している。
【0017】
<液路の構成>
液路40は、第1液路41と、第2液路42と、第1接続液路43と、第2接続液路44と、帰還液路45と、解放液路46と、を有している。図1では、表記を簡略し、液路40を示す符号を帰還液路45のみに代表して付している。
【0018】
第1液路41は、第1共通液路411と、2つの第1分岐液路412,413と、を有している。第1共通液路411の第1端は、後述する上流側調圧部50のマスタシリンダ51に接続している。2つの第1分岐液路412,413は、第1共通液路411の第2端から分岐するとともに、前輪FL,FRのホイールシリンダ21,22にそれぞれ接続している。具体的には、第1分岐液路412は前輪FLのホイールシリンダ21に接続し、第1分岐液路413は前輪FRのホイールシリンダ22に接続している。この点で、第1液路41は、マスタシリンダ51と前輪FL,FRのホイールシリンダ21,22とを接続している。
【0019】
第2液路42は、第2共通液路421と、2つの第2分岐液路422,423と、を有している。第2共通液路421の第1端は、後述する上流側調圧部50の電動シリンダ52に接続している。2つの第2分岐液路422,423は、第2共通液路421の第2端から分岐するとともに、後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24にそれぞれ接続している。具体的には、第2分岐液路422は後輪RLのホイールシリンダ23に接続し、第2分岐液路423は後輪RRのホイールシリンダ24に接続している。この点で、第2液路42は、電動シリンダ52と後輪RL,RRのホイールシリンダ21,22とを接続している。
【0020】
第1接続液路43は、第1液路41に第2液路42を接続している。詳しくは、第1接続液路43は、第1分岐液路413及び第2共通液路421を接続している。第2接続液路44は、第2液路42に第1液路41を接続している。詳しくは、第2接続液路44は、第2分岐液路422及び第1共通液路411を接続している。
【0021】
帰還液路45は、リザーバタンク30と下流側調圧部60とを接続している。解放液路46は、共通解放液路461と、2つの分岐解放液路462,463と、を有している。共通解放液路461の第1端は帰還液路45に接続している。2つの分岐解放液路462,463は、共通解放液路461の第2端から分岐するとともに、後述する上流側調圧部50の電動シリンダ52に接続している。
【0022】
<上流側調圧部の構成>
上流側調圧部50は、マスタシリンダ51と、電動シリンダ52と、シミュレータ遮断弁53と、ストロークシミュレータ54と、第1チェック弁55と、を備えている。
【0023】
<マスタシリンダの構成>
マスタシリンダ51は、ブレーキペダルBPの操作に応じて液圧を発生する機械式の加圧装置である。マスタシリンダ51は、シリンダ本体511と、マスタピストン512と、付勢部材513と、を有している。また、マスタシリンダ51は、マスタ室514と、第1入力ポート515及び第1出力ポート516と、を有している。
【0024】
シリンダ本体511は、筒状をなしている。シリンダ本体511は、マスタピストン512を収容している。マスタピストン512は、シリンダ本体511の内壁面と摺動可能となっている。マスタピストン512には、ブレーキペダルBPが機械的に連結されている。マスタピストン512は、ブレーキペダルBPの操作に応じて前進し、ブレーキペダルBPの操作の解消に応じて後退する。マスタ室514は、シリンダ本体511の内壁面とマスタピストン512とによって区画されている。本実施形態では、1つのシリンダ本体511と1つのマスタピストン512とが1つのマスタ室514を区画している。マスタ室514は、ブレーキ液で満たされている。マスタ室514の容積は、マスタピストン512の前進に伴い減少し、マスタピストン512の後退に伴い増大する。付勢部材513は、マスタ室514の容積を大きくする方向にマスタピストン512を付勢している。
【0025】
第1入力ポート515及び第1出力ポート516は、マスタ室514を外部に連通させるポートである。第1入力ポート515には、リザーバタンク30から延びる液路が接続されている。第1入力ポート515は、ブレーキペダルBPが操作されていないときには開放され、ブレーキペダルBPの操作量が一定量を超えるとマスタピストン512により閉塞される。第1出力ポート516には、第1共通液路411の第1端が接続されている。第1出力ポート516は、ブレーキペダルBPの操作の有無に関わらず、常時開放されている。
【0026】
<電動シリンダの構成>
電動シリンダ52は、電動により液圧を発生する電動加圧装置である。電動シリンダ52は、シリンダ本体521と、ピストン522と、電気モータ523と、直動変換機構524と、を有している。また、電動シリンダ52は、液圧室525と、第2入力ポート526、第3入力ポート527及び第2出力ポート528と、を有している。
【0027】
シリンダ本体521は、筒状をなしている。シリンダ本体521は、ピストン522を収容している。ピストン522は、シリンダ本体521の内壁面と摺動可能となっている。直動変換機構524は、電気モータ523の出力軸の回転運動をピストン522の直線運動に変換する。ピストン522は、電気モータ523から伝達される動力に基づき、前進したり後退したりする。液圧室525は、シリンダ本体521の内壁面とピストン522とによって区画されている。本実施形態では、1つのシリンダ本体521と1つのピストン522とが1つの液圧室525を区画している。液圧室525は、ブレーキ液により満たされている。液圧室525の容積は、ピストン522の前進に伴い減少し、ピストン522の後退に伴い増大する。図1に示すピストン522の動作位置を「基準位置」という。基準位置は、電動シリンダ52が液圧を発生させる際の基準となる位置である。
【0028】
第2入力ポート526、第3入力ポート527及び第2出力ポート528は、液圧室525を外部に連通させるポートである。第2入力ポート526には、分岐解放液路462が接続されている。第2入力ポート526は、ピストン522が基準位置に位置するときに開放される。一方、第2入力ポート526は、ピストン522が基準位置から前進するとピストン522により閉塞される。第3入力ポート527には、分岐解放液路463が接続されている。第3入力ポート527は、第2入力ポート526よりも前進方向に位置している。前進方向は、ピストン522が前進する場合のピストン522の移動方向である。これにより、第3入力ポート527は、ピストン522の位置によらず、常時開放されている。また、分岐解放液路463には、第1チェック弁55が設けられている。第1チェック弁55は、リザーバタンク30から電動シリンダ52に向かうブレーキ液の流れを許容し、電動シリンダ52からリザーバタンク30に向かうブレーキ液の流れを制限する。第2出力ポート528には、第2共通液路421の第1端が接続されている。第2出力ポート528は、ピストン522の位置によらず、常時開放されている。
【0029】
<シミュレータ>
シミュレータ遮断弁53とストロークシミュレータ54とは、第1液路41の第1共通液路411から分岐する液路に設けられている。シミュレータ遮断弁53は、常閉型の電磁弁である。ストロークシミュレータ54は、ブレーキペダルBPの操作に対する反力を発生する。
【0030】
<下流側調圧部の構成>
下流側調圧部60は、複数のホイールシリンダ20の液圧を個別に調圧することにより、複数の車輪に発生する制動力を調整する。下流側調圧部60は、複数のホイールシリンダ20に対応する複数の入口弁61及び複数の出口弁62を備えている。つまり、下流側調圧部60は、ホイールシリンダ20と同数の入口弁61と、ホイールシリンダ20と同数の出口弁62と、を備えている。
【0031】
複数の入口弁61は、常開型のリニア電磁弁であり、複数の出口弁62は、常閉型の電磁弁である。左前輪FLのホイールシリンダ21に対応する入口弁61は、第1分岐液路412に設けられている。左前輪FLのホイールシリンダ21に対応する出口弁62は、第1分岐液路412における入口弁61よりもホイールシリンダ21側となる部分と帰還液路45とを接続する液路に設けられている。右前輪FRのホイールシリンダ22に対応する入口弁61は、第1分岐液路413に設けられている。右前輪FRのホイールシリンダ22に対応する出口弁62は、第1分岐液路413における入口弁61よりもホイールシリンダ22側となる部分と帰還液路45とを接続する液路に設けられている。左後輪RLのホイールシリンダ23に対応する入口弁61は、第2分岐液路422に設けられている。左後輪RLのホイールシリンダ23に対応する出口弁62は、第2分岐液路422における入口弁61よりもホイールシリンダ23側となる部分と帰還液路45とを接続する液路に設けられている。右後輪RRのホイールシリンダ24に対応する入口弁61は、第2分岐液路423に設けられている。右後輪RRのホイールシリンダ24に対応する出口弁62は、第2分岐液路423における入口弁61よりもホイールシリンダ24側となる部分と帰還液路45とを接続する液路に設けられている。
【0032】
例えば、左前輪FLのホイールシリンダ21に対応する入口弁61は、第1分岐液路412における入口弁61よりも上流側の部分及び下流側の部分の液圧差を調整すべく作動する。また、左前輪FLのホイールシリンダ21に対応する出口弁62は、ホイールシリンダ21からブレーキ液を流出させる際に開弁される。
【0033】
<切替機構>
切替機構70は、上流側調圧部50及び下流側調圧部60の接続状態を切り替える。切替機構70は、第1マスタ遮断弁71及び第2マスタ遮断弁72と、第1連通弁73及び第2連通弁74と、第2チェック弁75と、を備えている。
【0034】
第1マスタ遮断弁71及び第2マスタ遮断弁72は常開型の電磁弁である。第1マスタ遮断弁71は、第1共通液路411におけるシミュレータ遮断弁53への分岐点よりもホイールシリンダ20側の部分に設けられている。第2マスタ遮断弁72は、第2接続液路44に設けられている。第1連通弁73及び第2連通弁74は常閉型の電磁弁である。第1連通弁73は、第1接続液路43に設けられている。第2連通弁74は、第2共通液路421に設けられている。
【0035】
第2チェック弁75は、第2接続液路44に設けられている。図1に示すように、本実施形態において、第2チェック弁75は、第2接続液路44における第2マスタ遮断弁72よりもマスタシリンダ51側の部分に設けられている。他の実施形態において、第2チェック弁75は、第2接続液路44における第2マスタ遮断弁72よりもホイールシリンダ20側の部分に設けられていてもよい。第2チェック弁75は、後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24からマスタシリンダ51に向かうブレーキ液の流れを許容し、マスタシリンダ51から後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24に向かうブレーキ液の流れを制限する。
【0036】
以上より、第1接続液路43は、第1液路41における第1マスタ遮断弁71よりも前輪FL,FRのホイールシリンダ21,22側の部分と、第2液路42における第2連通弁74よりも電動シリンダ52側の部分と、を接続しているといえる。同様に、第2接続液路44は、第2液路42における第2連通弁74よりも後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24側の部分と、第1液路41における第1マスタ遮断弁71よりもマスタシリンダ51側の部分と、を接続しているといえる。
【0037】
<センサの構成>
複数のセンサ80は、レベルセンサ81と、ストロークセンサ82と、マスタ圧センサ83と、制御圧センサ84と、を備えている。図1では、表記を簡略し、センサ80を示す符号をレベルセンサ81のみに代表して付している。
【0038】
レベルセンサ81は、リザーバタンク30に貯留されるブレーキ液の液量を検出する。レベルセンサ81は、リザーバタンク30に貯留されるブレーキ液の液量を直接検出するセンサであってもよいし、リザーバタンク30に貯留されるブレーキ液の液面の高さが所定の高さ以上か否かを検出するセンサであってもよい。レベルセンサ81は、ブレーキ液の液漏れを検出する「漏液センサ」に相当している。ストロークセンサ82は、ブレーキペダルBPの操作量を検出する。マスタ圧センサ83は、マスタシリンダ51のマスタ室514の液圧を検出する。制御圧センサ84は、電動シリンダ52の液圧室525の液圧を検出する。マスタ圧センサ83の検出信号に基づくマスタ室514の液圧を「マスタ圧」といい、制御圧センサ84の検出信号に基づく液圧室525の液圧を「制御圧」という。
【0039】
<制動制御装置の構成>
制動制御装置90は、各種制御を実行する1つ又は複数のプロセッサと、制御用のプログラム及びデータを記憶したメモリと、を備える電子制御装置である。制動制御装置90は、電動シリンダ52、第1マスタ遮断弁71、第2マスタ遮断弁72、第1連通弁73、第2連通弁74及びシミュレータ遮断弁53を制御する。さらに、制動制御装置90は、下流側調圧部60の複数の入口弁61及び複数の出口弁62を制御する。また、制動制御装置90には、レベルセンサ81、ストロークセンサ82、マスタ圧センサ83及び制御圧センサ84などの各種センサの検出信号が入力される。
【0040】
制動制御装置90は、運転者がブレーキペダルBPを操作する場合、ストロークセンサ82によって検出されたペダルストローク及びマスタ圧センサ83によって検出されたマスタ圧のうちの少なくとも一方に基づいて要求制動力を算出する。自動運転制御の場合、制動制御装置90は、自動運転制御装置から送信された要求制動力を取得する。そして、制動制御装置90は、要求制動力に基づいて、制動要求の有無を判定したり、制御対象を制御したりする。
【0041】
<正常時の制動内容>
図1及び図2を参照して、制動装置10が正常である場合の制動内容について説明する。制動装置10が正常である場合とは、制動装置10に後述する異常が発生していない場合である。
【0042】
制動装置10が正常である状況下において、制動要求がない場合、制動制御装置90は、第1マスタ遮断弁71及び第2マスタ遮断弁72を開弁した状態とする。また、制動制御装置90は、第1連通弁73及び第2連通弁74を閉弁した状態とする。さらに、制動制御装置90は、シミュレータ遮断弁53を開弁した状態とする。この場合、前輪FL,FRのホイールシリンダ21,22は、マスタシリンダ51と接続される一方で、電動シリンダ52と遮断される。同様に、後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24は、第2チェック弁75を介してマスタシリンダ51と接続される一方で、電動シリンダ52と遮断される。また、ストロークシミュレータ54は、マスタシリンダ51に接続される。
【0043】
制動装置10が正常である状況下において、ブレーキペダルBPが操作されるなどして制動要求がある場合、制動制御装置90は、第1マスタ遮断弁71及び第2マスタ遮断弁72を閉弁した状態とする。また、制動制御装置90は、第1連通弁73及び第2連通弁74を開弁した状態とする。さらに、制動制御装置90は、シミュレータ遮断弁53を開弁した状態とする。この場合、前輪FL,FRのホイールシリンダ21,22及び後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24は、マスタシリンダ51と遮断される一方で、電動シリンダ52と接続される。
【0044】
そして、制動制御装置90は、電動シリンダ52の電気モータ523を駆動することにより、前輪FL,FR及び後輪RL,RRに発生する制動力を調整する。詳しくは、要求制動力が大きくなる場合には、制動制御装置90は、電動シリンダ52のピストン522を前進させて、液圧室525のブレーキ液を第2出力ポート528から流出させる。すると、第2出力ポート528が流出するブレーキ液が前輪FL,FRのホイールシリンダ21,22及び後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24に供給される。その結果、前輪FL,FRのホイールシリンダ21,22の液圧及び後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24の液圧が高くなる。一方、要求制動力が小さくなる場合には、制動制御装置90は、電動シリンダ52のピストン522を後退させて、第2出力ポート528を介してブレーキ液を液圧室525に流入させる。すると、前輪FL,FRのホイールシリンダ21,22及び後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24から液圧室525にブレーキ液が移動する。その結果、前輪FL,FRのホイールシリンダ21,22の液圧及び後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24の液圧が低くなる。こうして、制動制御装置90は、前輪FL,FR及び後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24の液圧に応じた制動力を前輪FL,FR及び後輪RL,RRに発生させる。
【0045】
さらに、制動制御装置90は、左前輪FL及び右前輪FRに発生する制動力に差を設ける場合には、左前輪FLのホイールシリンダ21及び右前輪FRのホイールシリンダ22に対応する入口弁61及び出口弁62を制御する。こうして、制動制御装置90は、左前輪FLのホイールシリンダ21の液圧及び右前輪FRのホイールシリンダ22の液圧に差圧を発生させる。同様に、制動制御装置90は、左後輪RL及び右後輪RRに発生する制動力に差を設ける場合には、左後輪RLのホイールシリンダ23及び右後輪RRのホイールシリンダ24に対応する入口弁61及び出口弁62を制御する。こうして、制動制御装置90は、左後輪RLのホイールシリンダ23の液圧及び右後輪RRのホイールシリンダ24の液圧に差圧を発生させる。
【0046】
<液漏れ発生時の制動内容>
図1及び図2を参照して、制動装置10のどこかで液漏れが発生する場合の制動内容について説明する。
【0047】
制動装置10のどこかで液漏れが発生する場合には、当該液漏れの発生する部分に対して、リザーバタンク30からブレーキ液が補充される。このため、リザーバタンク30に貯留されるブレーキ液の液面が低下する。そこで、制動制御装置90は、レベルセンサ81によって検出されたリザーバタンク30のブレーキ液の液量に基づいて、液漏れが発生しているか否かを判定する。
【0048】
液漏れが発生している状況下において、制動要求がない場合、制動制御装置90は、第1マスタ遮断弁71及び第2マスタ遮断弁72を開弁した状態とする。また、制動制御装置90は、第1連通弁73及び第2連通弁74を閉弁した状態とする。さらに、制動制御装置90は、シミュレータ遮断弁53を閉弁した状態とする。この場合、前輪FL,FRのホイールシリンダ21,22は、マスタシリンダ51と接続される一方で、電動シリンダ52と遮断される。一方、後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24は、第2チェック弁75を介してマスタシリンダ51と接続される一方で、電動シリンダ52と遮断される。つまり、第1接続液路43に設けられる第1連通弁73が閉弁しているため、第1液路41で液漏れが発生していたとしても、電動シリンダ52から第1液路41にブレーキ液が流れることが抑制される。また、第2接続液路44に第2チェック弁75が設けられているため、第2液路42で液漏れが発生していたとしても、マスタシリンダ51から第2液路42にブレーキ液が流れることが抑制される。
【0049】
上記状態において、第1マスタ遮断弁71、第2マスタ遮断弁72、第1連通弁73、第2連通弁74及びシミュレータ遮断弁53は通電されていない。このため、車両のイグニッションスイッチがオフになる場合にも、上記の状態が維持される。
【0050】
液漏れが発生している状況下において、制動要求がある場合、制動制御装置90は、第1マスタ遮断弁71を開弁した状態とし、且つ第2マスタ遮断弁72を閉弁した状態とする。また、制動制御装置90は、第1連通弁73を閉弁した状態とし、且つ第2連通弁74を開弁した状態とする。さらに、制動制御装置90は、シミュレータ遮断弁53を閉弁した状態とする。この場合、前輪FL,FRのホイールシリンダ21,22は、マスタシリンダ51と接続される一方で、電動シリンダ52と遮断される。一方、後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24は、電動シリンダ52と接続される一方で、マスタシリンダ51と遮断される。
【0051】
そして、ブレーキペダルBPの操作に基づく制動要求がある場合には、前輪FL,FRのホイールシリンダ21,22の液圧はマスタシリンダ51によって調整され、後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24の液圧は電動シリンダ52によって調整される。
【0052】
制動装置10は、ブレーキペダルBPの操作量に応じて、前輪FL,FRに発生する制動力を調整する。ブレーキペダルBPの操作量が大きくなる場合には、マスタシリンダ51において、マスタピストン512が前進するため、マスタ室514のブレーキ液が第1出力ポート516から流出する。すると、第1出力ポート516から流出したブレーキ液が前輪FL,FRのホイールシリンダ21,22に供給される。その結果、前輪FL,FRのホイールシリンダ21,22の液圧が高くなる。一方、ブレーキペダルBPの操作量が小さくなる場合には、マスタシリンダ51において、マスタピストン512が後退するため、ブレーキ液が第1出力ポート516からマスタ室514に流入する。すると、前輪FL,FRのホイールシリンダ21,22から液圧室525にブレーキ液が移動する。その結果、前輪FL,FRのホイールシリンダ21,22の液圧が低くなる。ただし、マスタシリンダ51が前輪FL,FRのホイールシリンダ21,22の液圧を調整できるのは、第1液路41で液漏れが発生していない場合に限られる。第1液路41で液漏れが発生している場合には、マスタピストン512が前進又は後退しても、前輪FL,FRのホイールシリンダ21,22の液圧が正常に変化しなくなる。
【0053】
また、制動制御装置90は、上述したように、電動シリンダ52の電気モータ523を駆動することにより、後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24の液圧を調整する。ただし、電動シリンダ52が後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24の液圧を調整できるのは、第2液路42で液漏れが発生していない場合に限られる。第2液路42で液漏れが発生している場合には、ピストン522が前進又は後退しても、後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24の液圧が正常に変化しなくなる。
【0054】
以上より、液漏れ発生時にブレーキペダルBPの操作に基づく制動要求がある場合には、第2マスタ遮断弁72及び第1連通弁73が閉弁しているため、第1液路41及び第2液路42が遮断されている。そして、前輪FL,FRのホイールシリンダ21,22の液圧は、マスタシリンダ51で調整され、後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24の液圧は、電動シリンダ52で調整される。よって、制動装置10は、第1液路41で液漏れが発生したとしても、後輪RL,RRに制動力を発生できる。一方、制動装置10は、第2液路42で液漏れが発生したとしても、前輪FL,FRに制動力を発生できる。
【0055】
<給電停止時の制動>
図1及び図2を参照して、制動装置10に対して電力が供給されない場合又は制動装置10に電気的故障が発生している場合の制動について説明する。
【0056】
制動装置10に対して電力が供給されない場合又は制動装置10に電気的故障が発生している場合には、電動シリンダ52の電気モータ523を駆動することができなくなったり、電磁弁に通電できなくなったりする。さらに、制動制御装置90が各種の制御を実行できなくなる。
【0057】
制動装置10に対して電力が供給されない場合又は制動装置10に電気的故障が発生している場合には、第1マスタ遮断弁71及び第2マスタ遮断弁72が開弁している。また、第1連通弁73及び第2連通弁74が閉弁している。さらに、シミュレータ遮断弁53が閉弁している。このため、前輪FL,FRのホイールシリンダ21,22は、マスタシリンダ51と接続される一方で、電動シリンダ52と遮断される。よって、マスタシリンダ51は、前輪FL,FRのホイールシリンダ21,22にブレーキ液を供給可能な状態である。一方、後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24とマスタシリンダ51とを接続する液路の一部を構成する第2接続液路44には、第2チェック弁75が設けられている。よって、マスタシリンダ51から後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24に対するブレーキ液の流れが制限されている。一方、後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24からマスタシリンダ51に対するブレーキ液の流れは制限されることはない。
【0058】
そして、制動装置10は、上述したように、ブレーキペダルBPが操作される場合には、ブレーキペダルBPの操作量に応じて、前輪FL,FRのホイールシリンダ21,22の液圧を調整する。こうして、制動装置10は、前輪FL,FRに発生する制動力を調整する。
【0059】
なお、制動装置10に対する電力の供給が遮断された場合又は制動装置10に電気的故障が発生している場合に限らず、電動シリンダ52が正常に機能しなくなったことを検出する場合、制動制御装置90は上記のようにしてもよい。
【0060】
<本実施形態の作用及び効果>
制動装置10が正常時の制動を実施しているときに、制動装置10に対する給電が意図せず停止される場合又は制動装置10に電気的故障が発生している場合の作用について説明する。
【0061】
この場合、前輪FL,FR及び後輪RL,RRに制動力が発生している状況下において、第1マスタ遮断弁71及び第2マスタ遮断弁72が開弁するとともに、第1連通弁73及び第2連通弁74が閉弁する。すると、前輪FL,FRのホイールシリンダ21,22がマスタシリンダ51のマスタ室514に接続する。このため、前輪FL,FRのホイールシリンダ21,22の液圧及びマスタシリンダ51のマスタ圧が実質的に等しくなる。一方、後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24は第2チェック弁75を介してマスタシリンダ51のマスタ室514に接続する。このため、後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24の液圧がマスタシリンダ51のマスタ圧よりも高い場合に限り、後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24からマスタシリンダ51に向かってブレーキ液が流れる。言い換えれば、後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24の液圧が、マスタシリンダ51のマスタ圧よりも高くなることはなくなる。
【0062】
したがって、ブレーキペダルBPの操作が解消されると、マスタシリンダ51のマスタ圧、前輪FL,FRのホイールシリンダ21,22の液圧及び後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24の液圧は、ともにリザーバタンク30の液圧と実質的に等しくなる。よって、ブレーキペダルBPの操作が解消されたのにも関わらず、前輪FL,FR及び後輪RL,RRに発生していた制動力が残ることが抑制される。すなわち、ブレーキペダルBPの操作が解消された際に、前輪FL,FRのホイールシリンダ21,22の液圧及び後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24の液圧は電動シリンダ52を介さずに解消可能である。よって、ブレーキペダルBPの操作が解消された際に、電動シリンダ52の液圧室525内の液圧が「0」になるまで押し戻されないことで、ホイールシリンダ20の液圧が解消されない状態は発生しない。
【0063】
制動装置10が液漏れ発生時の制動を実施しているときに、車両のイグニッションスイッチがオフされる場合の作用について説明する。
液漏れ発生時には、マスタシリンダ51が前輪FL,FRのホイールシリンダ21,22の液圧を調整可能であるとともに、電動シリンダ52が後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24の液圧を調整可能である。さらに、第1液路41で液漏れが発生していたとしても、電動シリンダ52から第1液路41にブレーキ液が流れることが制限され、第2液路42で液漏れが発生していたとしても、マスタシリンダ51から第2液路42にブレーキ液が流れることが制限されている。
【0064】
同状況下において、車両のイグニッションスイッチがオフされた場合、すなわち、制動装置10に対する給電が停止された場合、第1接続液路43に設けられる第1連通弁73は閉弁された状態が維持される。このため、第1液路41で液漏れが発生していたとしても、電動シリンダ52から第1液路41にブレーキ液が流れることが制限される。また、第2接続液路44には、第2チェック弁75が設けられている。このため、第2液路42で液漏れが発生していたとしても、マスタシリンダ51から第2液路42にブレーキ液が流れることが制限される。したがって、車両のイグニッションスイッチが再度オンになる場合、第1液路41及び第2液路42のうち、液漏れが発生していない液路が接続されるホイールシリンダ20は、対応する車輪に制動力を発生させることができる。よって、制動装置10は、ブレーキ液の液量不足によって、液漏れが発生していない系統の制動力が低下してしまうことを抑制できる。また、ブレーキ液の流出が制限されるため、リザーバタンク30の液面が更に低下することが抑制される。これにより、リザーバタンク30の更なる液面の低下によって液路40へエアが混入することを防止できる。
【0065】
<変更例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0066】
・第1接続液路43は、第1液路41における第1マスタ遮断弁71よりもホイールシリンダ21,22側の部分と、第2液路42における第2連通弁74よりもホイールシリンダ23,24側の部分と、を接続してもよい。この場合、制御圧センサ84は、第2共通液路421に設けられることが好ましい。
【0067】
図1に示すように、本実施形態において、第1接続液路43は、第1分岐液路413に接続している。変更例において、第1接続液路43は、第1液路41における第1マスタ遮断弁71と第1分岐液路412,413に設けられた入口弁61との間の区間であれば、第1液路41及び第1分岐液路412の何れかに接続していればよい。
【0068】
・第2接続液路44は、第2液路42における第2連通弁74よりもホイールシリンダ23,24側の部分と、第1液路41における第1マスタ遮断弁71よりもホイールシリンダ21,22側の部分と、を接続してもよい。
【0069】
図1に示すように、本実施形態において、第2接続液路44は、第2分岐液路422に接続されている。変更例において、第2接続液路44は、第2液路42における第2連通弁74と第2分岐液路422,423に設けられた入口弁61との間の区間であれば、第2液路42及び第2分岐液路423の何れかに接続していればよい。
【0070】
・第1液路41は、マスタシリンダ51と後輪RL,RRのホイールシリンダ23,24とを接続する液路であってもよいし、第2液路42は、電動シリンダ52と前輪FL,FRのホイールシリンダ21,22とを接続する液路であってもよい。
【0071】
・本実施形態において、制動制御装置90は、下流側調圧部60の複数の入口弁61及び複数の出口弁62を制御するように構成されている。他の実施形態において、複数の入口弁61及び複数の出口弁62を制御する下流側調圧部60用の制御装置を制動制御装置90とは別に設けてもよい。この場合、下流側調圧部60が、上流側調圧部50や切替機構70と別体として構成しやすくなる利点がある。このような構成では、制動制御装置90と下流側調圧部60用の制御装置とは相互に情報のやり取りができるように通信線等で結ばれるような構成であることが望ましい。
【0072】
・漏液センサは、第1液路41及び第2液路42のうち、液漏れが発生している液路を特定可能なセンサであってもよい。この場合、制動制御装置90は、第1液路41及び第2液路42のうち液漏れが発生している液路によって、電磁弁と電動シリンダ52との制御態様を変更してもよい。例えば、第2液路42で液漏れが発生している場合、制動制御装置90は、電動シリンダ52の電気モータ523を駆動しなくてもよい。例えば、リザーバタンク30は、第1液路41用のブレーキ液を貯留する第1貯留室と、第2液路42用のブレーキ液を貯留する第2貯留室を有する。第1貯留室と第2貯留室は、隔壁等でお互いが分離されて、一方の貯留室のブレーキ液が減少しても、他方の貯留室のブレーキ液が減少しないように構成される。この場合、レベルセンサ81は第1貯留室と第2貯留室それぞれの貯留されるブレーキ液の液量を検出するように構成される。
【0073】
・車両の前輪FL,FRは1輪であってもよいし、車両の後輪RL,RRは1輪であってもよい。つまり、車両は、二輪車であってもよいし、三輪車であってもよい。
・ブレーキペダルBPは、運転者の制動操作に応じて変位する制動操作部材であればよい。
【0074】
・制動制御装置90は、CPUとROMとを備えて、ソフトウェア処理を実行する処理回路に限らない。例えば、制動制御装置90は、上記実施形態において実行される各種処理の少なくとも一部を実行する専用のハードウェア回路を備えてもよい。専用のハードウェア回路としては、例えば、ASICを挙げることができる。ASICとは、「Application Specific Integrated Circuit」の略記である。すなわち、制動制御装置90は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。
【0075】
(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶するROMなどのプログラム格納装置とを備えている処理回路。
(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置及びプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備えている処理回路。
【0076】
(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備えている処理回路。
ここで、処理装置及びプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置、及び、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。
【符号の説明】
【0077】
FL,FR…前輪(第1車輪)
RL,RR…後輪(第2車輪)
10…制動装置
21,22…ホイールシリンダ(第1ホイールシリンダ)
23,24…ホイールシリンダ(第2ホイールシリンダ)
30…リザーバタンク
41…第1液路
42…第2液路
43…第1接続液路
44…第2接続液路
51…マスタシリンダ
512…マスタピストン
514…マスタ室
516…第1出力ポート
52…電動シリンダ
522…ピストン
523…電気モータ
525…液圧室
528…第2出力ポート
71…第1マスタ遮断弁
72…第2マスタ遮断弁
73…第1連通弁
74…第2連通弁
75…第2チェック弁(チェック弁)
81…レベルセンサ(漏液センサ)
90…制動制御装置
図1
図2