(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170913
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】制動装置
(51)【国際特許分類】
B60T 13/138 20060101AFI20241204BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
B60T13/138 A
B60T8/17 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087678
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大地
(72)【発明者】
【氏名】小林 達史
【テーマコード(参考)】
3D048
3D246
【Fターム(参考)】
3D048BB06
3D048BB07
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3D048CC18
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3D246GB15
3D246HA03A
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3D246LA15Z
3D246LA33Z
3D246LA41Z
3D246LA52Z
(57)【要約】
【課題】電動シリンダの作動によってホイールシリンダの液圧を長期に亘って制御する場合に、電動シリンダの液圧室が空になってしまうことを抑制すること。
【解決手段】制動装置20は、電動シリンダ51と、ホイールシリンダ11に接続される第1液圧回路611と、制御装置80とを備える。第1液圧回路611は、第1差圧制御弁631と第1減圧弁671と第1減圧リザーバ651と第1還流液路701と第1流通制御部711とを有する。制御装置80は、第1差圧制御弁631を閉弁させ、第1還流液路701での第1減圧リザーバ651から電動シリンダ51へのブレーキ液の流通を第1流通制御部711に許容させ、電動シリンダ51の第1電気モータ513の駆動によってピストン512を後退方向Zbに移動させるリフィル制御を実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイールシリンダの液圧を調整することによって車両の車輪で制動力を発生させる制動装置であって、
電気モータの駆動に応じて、前進方向又は当該前進方向の反対方向である後退方向に移動するピストンを有するとともに、当該ピストンによって液圧室が区画されており、前記ピストンが前記前進方向に移動する場合には、前記液圧室のブレーキ液を出力ポートから吐出する一方、前記後退方向に前記ピストンが移動する場合には、前記出力ポートを介して前記液圧室にブレーキ液が流入するように構成された電動シリンダと、
前記ホイールシリンダに接続される液圧回路と、
前記電動シリンダの前記出力ポートと前記液圧回路とに接続されているブレーキ液の液路である供給液路と、
前記供給液路の液圧であるサーボ圧に基づいて前記電動シリンダを制御する制御装置と、を備え、
前記液圧回路は、
前記供給液路と前記ホイールシリンダとを繋ぐ第1接続液路と、
前記第1接続液路に設けられている常開式の電磁弁であって、前記第1接続液路のうち、前記供給液路側の部分と前記ホイールシリンダ側の部分との差圧を調整する第1差圧制御弁と、
前記第1接続液路のうち、前記第1差圧制御弁よりも前記ホイールシリンダ側の部分に設けられた常開式の電磁弁である第1保持弁と、
ブレーキ液を貯留する第1減圧リザーバと、
前記第1接続液路のうちの前記第1保持弁よりも前記ホイールシリンダ側の部分と、前記第1減圧リザーバとを繋ぐ第1減圧液路と、
前記第1減圧液路に設けられている常閉式の電磁弁である第1減圧弁と、
前記第1減圧リザーバ内のブレーキ液を汲み上げ、前記第1接続液路のうち、前記第1差圧制御弁と前記第1保持弁との間の部分に当該ブレーキ液を吐出する第1ポンプと、
前記第1接続液路のうちの前記第1差圧制御弁よりも前記供給液路側の部分と、前記第1減圧リザーバとに接続されている第1還流液路と、
前記第1還流液路でのブレーキ液の流通を制御する第1流通制御部と、を有しており、
前記制御装置は、前記第1差圧制御弁を閉弁させ、前記第1還流液路での前記第1減圧リザーバから前記供給液路へのブレーキ液の流通を前記第1流通制御部に許容させ、前記電気モータの駆動によって前記ピストンを前記後退方向に移動させるリフィル制御を実行する
制動装置。
【請求項2】
前記ホイールシリンダを第1ホイールシリンダとし、前記供給液路を第1供給液路とし、前記液圧回路を第1液圧回路としたとき、前記車両は第2ホイールシリンダを有するものであり、
前記制動装置は、
マスタピストンを有するとともに、当該マスタピストンによってサーボ室とマスタ室とが区画されており、前記サーボ室の液圧が増大することによって前記マスタピストンが移動する場合には前記マスタ室からブレーキ液が流出する一方、前記サーボ室の液圧が減少することによって前記マスタピストンが移動する場合には前記マスタ室にブレーキ液が流入するように構成されたマスタシリンダと、
前記サーボ室と前記第1供給液路とに接続されているサーボ液路と、
前記第2ホイールシリンダに接続される第2液圧回路と、
前記マスタ室と前記第2液圧回路とに接続されている第2供給液路と、を備え、
前記第2液圧回路は、
前記第2供給液路と前記第2ホイールシリンダとを繋ぐ第2接続液路と、
前記第2接続液路に設けられている常開式の電磁弁であって、前記第2接続液路のうち、前記第2供給液路側の部分と前記第2ホイールシリンダ側の部分との差圧を調整する第2差圧制御弁と、
前記第2接続液路のうち、前記第2差圧制御弁よりも前記第2ホイールシリンダ側の部分に設けられている常開式の電磁弁である第2保持弁と、
ブレーキ液を貯留する第2減圧リザーバと、
前記第2接続液路のうちの前記第2保持弁よりも前記第2ホイールシリンダ側の部分と、前記第2減圧リザーバとを繋ぐ第2減圧液路と、
前記第2減圧液路に設けられている常閉式の電磁弁である第2減圧弁と、
前記第2減圧リザーバ内のブレーキ液を汲み上げ、前記第2接続液路のうち、前記第2差圧制御弁と前記第2保持弁との間の部分に当該ブレーキ液を吐出する第2ポンプと、
前記第2接続液路のうちの前記第2差圧制御弁よりも前記第2供給液路側の部分と、前記第2減圧リザーバとに接続されている第2還流液路と、
前記第2還流液路でのブレーキ液の流通を制御する第2流通制御部と、を有しており、
前記制御装置は、前記リフィル制御において、前記第2差圧制御弁を閉弁させ、前記第2還流液路での前記第2減圧リザーバから前記第2供給液路へのブレーキ液の流通を前記第2流通制御部に許容させる
請求項1に記載の制動装置。
【請求項3】
ホイールシリンダの液圧を調整することによって車両の車輪で制動力を発生させる制動装置であって、
電気モータの駆動に応じて、前進方向又は当該前進方向の反対方向である後退方向に移動するピストンを有するとともに、当該ピストンによって液圧室が区画されており、前記ピストンが前記前進方向に移動する場合には、前記液圧室のブレーキ液を出力ポートから吐出する一方、前記後退方向に前記ピストンが移動する場合には、前記出力ポートを介して前記液圧室にブレーキ液が流入するように構成された電動シリンダと、
マスタピストンを有するとともに、当該マスタピストンによってサーボ室とマスタ室とが区画されており、前記サーボ室の液圧が増大することによって前記マスタピストンが移動する場合には前記マスタ室からブレーキ液が流出する一方、前記サーボ室の液圧が減少することによって前記マスタピストンが移動する場合には前記マスタ室にブレーキ液が流入するように構成されたマスタシリンダと、
前記電動シリンダの前記出力ポートから吐出されたブレーキ液を前記サーボ室に供給するサーボ液路と、
前記ホイールシリンダに接続される液圧回路と、
前記マスタ室と前記液圧回路とに接続されている供給液路と、
前記電動シリンダの前記出力ポートから吐出されたブレーキ液の液圧に基づいて当該電動シリンダを制御する制御装置と、を備え、
前記液圧回路は、
前記供給液路と前記ホイールシリンダとを繋ぐ接続液路と、
前記接続液路に設けられている常開式の電磁弁であって、前記接続液路のうち、前記供給液路側の部分と前記ホイールシリンダ側の部分との差圧を調整する差圧制御弁と、
前記接続液路のうち、前記差圧制御弁よりも前記ホイールシリンダ側の部分に設けられている常開式の電磁弁である保持弁と、
ブレーキ液を貯留する減圧リザーバと、
前記接続液路のうちの前記保持弁よりも前記ホイールシリンダ側の部分と、前記減圧リザーバとを繋ぐ減圧液路と、
前記減圧液路に設けられている常閉式の電磁弁である減圧弁と、
前記減圧リザーバ内のブレーキ液を汲み上げ、前記接続液路のうち、前記差圧制御弁と前記保持弁との間の部分に当該ブレーキ液を吐出するポンプと、
前記接続液路のうちの前記差圧制御弁よりも前記供給液路側の部分と、前記減圧リザーバとに接続されている還流液路と、
前記還流液路でのブレーキ液の流通を制御する流通制御部と、を有しており、
前記制御装置は、前記差圧制御弁を閉弁させ、前記還流液路での前記減圧リザーバから前記供給液路へのブレーキ液の流通を前記流通制御部に許容させ、前記電気モータの駆動によって前記ピストンを前記後退方向に移動させるリフィル制御を実行する
制動装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記リフィル制御において、前記サーボ圧が判定サーボ圧以下になった場合には、前記電気モータの負荷トルクが大きくなることを抑制するように当該電気モータを制御する
請求項1又は請求項2に記載の制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイールシリンダの液圧を調整することによって車両の車輪で制動力を発生させる制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、電動シリンダと、ブレーキ液路を介して電動シリンダに接続されている液圧回路と、電動シリンダの動力源である電気モータを制御する制御装置とを備える制動装置を開示している。液圧回路にはホイールシリンダが接続されている。そのため、電動シリンダからブレーキ液が吐出されると、ホイールシリンダの液圧であるWC圧が増大される。したがって、制御装置は、電動シリンダのブレーキ液の吐出圧であるサーボ圧を制御することによってWC圧を調整できる。
【0003】
ちなみに、液圧回路には、常開式の電磁弁である保持弁と、常閉式の電磁弁である減圧弁と、減圧弁を介してホイールシリンダから流出したブレーキ液を貯留する下流リザーバと、下流リザーバ内のブレーキ液を汲み上げるポンプとが設けられている。当該ポンプは、下流リザーバからブレーキ液を汲み上げると、液圧回路のうち、保持弁よりも電動シリンダ側の液路に当該ブレーキ液を吐出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように電動シリンダを作動させることによってWC圧が調整されている場合、ホイールシリンダのブレーキ液が、閉弁している減圧弁を介して下流リザーバに僅かずつ漏出することがある。この場合、上記のような制動装置では、サーボ圧が減少することを抑制するように制御装置が電動シリンダを作動させることにより、サーボ圧及びWC圧が保持される。しかしながら、電動シリンダからブレーキ液を供給することによってWC圧が保持されることになるため、電動シリンダの液圧室のブレーキ液量が徐々に減少する。そのため、減圧弁を介した下流リザーバへのブレーキ液の漏出が長期に亘って継続すると、電動シリンダの液圧室のブレーキ液量が極端に少なくなってしまうおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための制動装置の第1態様は、ホイールシリンダの液圧を調整することによって車両の車輪で制動力を発生させる装置である。当該制動装置は、電気モータの駆動に応じて、前進方向又は当該前進方向の反対方向である後退方向に移動するピストンを有するとともに、当該ピストンによって液圧室が区画されており、前記ピストンが前記前進方向に移動する場合には、前記液圧室のブレーキ液を出力ポートから吐出する一方、前記後退方向に前記ピストンが移動する場合には、前記出力ポートを介して前記液圧室にブレーキ液が流入するように構成された電動シリンダと、前記ホイールシリンダに接続される液圧回路と、前記電動シリンダの前記出力ポートと前記液圧回路とに接続されているブレーキ液の液路である供給液路と、前記供給液路の液圧であるサーボ圧に基づいて前記電動シリンダを制御する制御装置と、を備えている。前記液圧回路は、前記供給液路と前記ホイールシリンダとを繋ぐ第1接続液路と、前記第1接続液路に設けられている常開式の電磁弁であって、前記第1接続液路のうち、前記供給液路側の部分と前記ホイールシリンダ側の部分との差圧を調整する第1差圧制御弁と、前記第1接続液路のうち、前記第1差圧制御弁よりも前記ホイールシリンダ側の部分に設けられた常開式の電磁弁である第1保持弁と、ブレーキ液を貯留する第1減圧リザーバと、前記第1接続液路のうちの前記第1保持弁よりも前記ホイールシリンダ側の部分と、前記第1減圧リザーバとを繋ぐ第1減圧液路と、前記第1減圧液路に設けられている常閉式の電磁弁である第1減圧弁と、前記第1減圧リザーバ内のブレーキ液を汲み上げ、前記第1接続液路のうち、前記第1差圧制御弁と前記第1保持弁との間の部分に当該ブレーキ液を吐出する第1ポンプと、前記第1接続液路のうちの前記第1差圧制御弁よりも前記供給液路側の部分と、前記第1減圧リザーバとに接続されている第1還流液路と、前記第1還流液路でのブレーキ液の流通を制御する第1流通制御部と、を有している。前記制御装置は、前記第1差圧制御弁を閉弁させ、前記第1還流液路での前記第1減圧リザーバから前記供給液路へのブレーキ液の流通を前記第1流通制御部に許容させ、前記電気モータの駆動によって前記ピストンを前記後退方向に移動させるリフィル制御を実行する。
【0007】
上記課題を解決するための制動装置の第2態様は、ホイールシリンダの液圧を調整することによって車両の車輪で制動力を発生させる装置である。当該制動装置は、電気モータの駆動に応じて、前進方向又は当該前進方向の反対方向である後退方向に移動するピストンを有するとともに、当該ピストンによって液圧室が区画されており、前記ピストンが前記前進方向に移動する場合には、前記液圧室のブレーキ液を出力ポートから吐出する一方、前記後退方向に前記ピストンが移動する場合には、前記出力ポートを介して前記液圧室にブレーキ液が流入するように構成された電動シリンダと、マスタピストンを有するとともに、当該マスタピストンによってサーボ室とマスタ室とが区画されており、前記サーボ室の液圧が増大することによって前記マスタピストンが移動する場合には前記マスタ室からブレーキ液が流出する一方、前記サーボ室の液圧が減少することによって前記マスタピストンが移動する場合には前記マスタ室にブレーキ液が流入するように構成されたマスタシリンダと、前記電動シリンダの前記出力ポートから吐出されたブレーキ液を前記サーボ室に供給するサーボ液路と、前記ホイールシリンダに接続される液圧回路と、前記マスタ室と前記液圧回路とに接続されている供給液路と、を備えている。前記液圧回路は、前記供給液路と前記ホイールシリンダとを繋ぐ接続液路と、前記接続液路に設けられている常開式の電磁弁であって、前記接続液路のうち、前記供給液路側の部分と前記ホイールシリンダ側の部分との差圧を調整する差圧制御弁と、前記接続液路のうち、前記差圧制御弁よりも前記ホイールシリンダ側の部分に設けられている常開式の電磁弁である保持弁と、ブレーキ液を貯留する減圧リザーバと、前記接続液路のうちの前記保持弁よりも前記ホイールシリンダ側の部分と、前記減圧リザーバとを繋ぐ減圧液路と、前記減圧液路に設けられている常閉式の電磁弁である減圧弁と、前記減圧リザーバ内のブレーキ液を汲み上げ、前記接続液路のうち、前記差圧制御弁と前記保持弁との間の部分に当該ブレーキ液を吐出するポンプと、前記接続液路のうちの前記差圧制御弁よりも前記供給液路側の部分と、前記減圧リザーバとに接続されている還流液路と、前記還流液路でのブレーキ液の流通を制御する流通制御部と、を有している。前記制御装置は、前記差圧制御弁を閉弁させ、前記還流液路での前記減圧リザーバから前記供給液路へのブレーキ液の流通を前記流通制御部に許容させ、前記電気モータの駆動によって前記ピストンを前記後退方向に移動させるリフィル制御を実行する。
【発明の効果】
【0008】
上記制動装置は、電動シリンダの作動によってホイールシリンダの液圧を長期に亘って制御する場合に、電動シリンダの液圧室が空になってしまうことを抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態の制動装置の概略を示す構成図である。
【
図2】
図2は、
図1の制動装置において、電動シリンダの構成と、制御装置の構成とを示す図である。
【
図3】
図3は、
図2の制御装置で実行される処理の流れを示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、
図2の電動シリンダを作動させることによって複数のホイールシリンダの液圧を制御している場合のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、制動装置の一実施形態を
図1~
図4に従って説明する。
図1は、制動装置20と、複数の車輪と、複数の制動機構10とを図示している。複数の車輪は、2つの前輪FL,FRと2つの後輪RL,RRとを含んでいる。
【0011】
<制動機構の構成>
1つの車輪に対して1つの制動機構10が設けられている。複数の制動機構10は、ブレーキ液が供給されるホイールシリンダ11と、車輪と一体に回転する回転体12と、回転体12に押し付けられる摩擦材13とをそれぞれ有している。複数の制動機構10は、ホイールシリンダ11の液圧が高いほど、摩擦材13を回転体12に強く押し付けることができるようにそれぞれ構成されている。以降では、ホイールシリンダ11の液圧を「WC圧Pwc」という。
【0012】
図1に示すように車両は複数のホイールシリンダ11を有している。本実施形態では、複数のホイールシリンダ11のうち、後輪RL,RR用のホイールシリンダ11が「第1ホイールシリンダ」に対応し、前輪FL,FR用のホイールシリンダ11が「第2ホイールシリンダ」に対応する。
【0013】
<制動装置の構成>
制動装置20は、ホイールシリンダ11のWC圧Pwcを調整することによって複数の車輪FL,FR,RL,RRで制動力を発生させる。制動装置20は、制動操作部材21と、液圧発生装置22と、制動アクチュエータ23と、大気圧リザーバ24とを備えている。制動操作部材21は、車両の運転者によって操作が可能である。制動操作部材21の一例はブレーキペダルである。大気圧リザーバ24はブレーキ液を貯留しているとともに、大気圧リザーバ24内は大気に開放されている。
【0014】
液圧発生装置22は、制動操作部材21の操作量に応じた液圧を発生させることができるように構成されている。液圧発生装置22は、マスタ装置30と加圧ユニット50とを備えている。マスタ装置30は、制動アクチュエータ23にブレーキ液を供給できる。加圧ユニット50は、マスタ装置30と制動アクチュエータ23との双方にブレーキ液を供給できる。
【0015】
<マスタ装置>
マスタ装置30は、マスタシリンダ31と、ストロークシミュレータ32と、マスタシリンダ31に繋がる複数の流路331,332,333と、ブレーキ液の流れを制御する複数の制御弁341,342とを備えている。ストロークシミュレータ32は、制動操作部材21の操作量に応じた反力を発生させることができる。
【0016】
マスタシリンダ31は、メインシリンダ41とカバーシリンダ42とを備えている。マスタシリンダ31は、マスタピストン43と入力ピストン44とを備えている。マスタシリンダ31は、マスタピストン43を付勢するマスタスプリング45と、入力ピストン44を付勢する入力スプリング46とを備えている。マスタピストン43及び入力ピストン44は、メインシリンダ41及びカバーシリンダ42に対して相対移動できる。
【0017】
マスタシリンダ31のメインシリンダ41は、板状の底壁411と、底壁411から底壁411の軸線に沿って延びる第1周壁412とを有している。さらにメインシリンダ41は、第1周壁412の後端から第1周壁412の軸線に沿って延びる第2周壁413と、第2周壁413の後端から第2周壁413の軸線に向かって延びる第1環状壁414とを有している。第1周壁412及び第2周壁413の各々は筒状をなしている。第1環状壁414には、後述するマスタピストン43の後端部が挿し込まれている孔が形成されている。第1周壁412の内径は第2周壁413の内径よりも小さくなっている。
【0018】
メインシリンダ41内には、底壁411及び第1周壁412とマスタピストン43とによってマスタ室Rmが区画されている。以降では、マスタシリンダ31において、
図1における左方、すなわちマスタ室Rmの容積を小さくするマスタピストン43の移動方向を「前方」という一方、前方の反対方向を「後方」という。後方は、マスタ室Rmの容積を大きくするマスタピストン43の移動方向でもある。
【0019】
メインシリンダ41内には、第2周壁413とマスタピストン43とによって第1液室R1が区画されているとともに、第2周壁413及び第1環状壁414とマスタピストン43とによってサーボ室Rsが区画されている。マスタ室Rmは、マスタシリンダ31の前端寄りの位置に形成されている。第1液室R1は、マスタ室Rmよりも後方に形成されている。サーボ室Rsは、第1液室R1よりも後方に形成されている。メインシリンダ41の内部において、マスタ室Rm、第1液室R1及びサーボ室Rsは、互いに接続していない。
【0020】
マスタシリンダ31のカバーシリンダ42は、筒状をなす第3周壁421と、第3周壁421の後端から第3周壁421の軸線に向かって延びる第2環状壁422とを有している。第3周壁421は、メインシリンダ41の第2周壁413と軸線が一致するように、第1環状壁414に取り付けられている。第2環状壁422には、後述する入力ピストン44の後端部が挿し込まれている孔が設けられている。
【0021】
カバーシリンダ42内には、メインシリンダ41の第1環状壁414と第3周壁421と第2環状壁422とによって第2液室R2が区画されている。マスタシリンダ31において、第2液室R2はサーボ室Rsよりも後方に形成されている。
【0022】
マスタピストン43は、メインシリンダ41の第1周壁412の内周面、第2周壁413の内周面及び第1環状壁414の内周面に面接触する状態で、マスタシリンダ31に収容されている。このため、マスタピストン43が軸方向に移動する場合には、マスタピストン43が第1周壁412の内周面、第2周壁413の内周面及び第1環状壁414の内周面と摺動する。マスタピストン43の後端部は、第1環状壁414よりも後方に突出して、第2液室R2内に位置している。
【0023】
入力ピストン44は、カバーシリンダ42の第3周壁421の内周面及び第2環状壁422の内周面に面接触する状態で、マスタシリンダ31に収容されている。このため、入力ピストン44が軸方向に移動する場合には、入力ピストン44が第3周壁421の内周面及び第2環状壁422の内周面と摺動する。入力ピストン44の後端部は、第2環状壁422よりも後方に突出している。そして、入力ピストン44の後端部に制動操作部材21が連結されている。このため、入力ピストン44は、制動操作部材21の操作量に応じて、マスタピストン43に接近する方向に移動する。また、第2液室R2において、入力ピストン44とマスタピストン43との間には隙間が形成されている。
【0024】
マスタスプリング45は、メインシリンダ41のマスタ室Rmに配置されている。マスタスプリング45は、マスタピストン43を後方に付勢する。このため、マスタスプリング45は、マスタピストン43が前方に移動すると、弾性的に圧縮される。
【0025】
入力スプリング46は、カバーシリンダ42の第2液室R2に配置されている。入力スプリング46は、入力ピストン44を後方に付勢する。このため、入力スプリング46は、入力ピストン44が前方に移動すると、弾性的に圧縮される。
【0026】
マスタシリンダ31において、マスタ室Rmは大気圧リザーバ24と接続されている。詳しくは、マスタ室Rmの後端寄りの部分がメインシリンダ41の第1周壁412に形成されるポートを介して大気圧リザーバ24と接続されている。このため、マスタピストン43が
図1に示す初期位置から前方に移動する場合には、マスタ室Rmと大気圧リザーバ24との接続が遮断される。その結果、マスタピストン43の前方への移動に伴い、マスタ室Rmの液圧が増大する。例えばサーボ室Rsの液圧が高くなると、サーボ室Rsの液圧によってマスタピストン43が前方に移動する。これにより、マスタ室Rmからブレーキ液が流出するため、マスタ室Rmの液圧が増大する。一方、サーボ室Rsの液圧が低くなると、マスタ室Rmの液圧によってマスタピストン43が後方に移動する。これにより、マスタ室Rmにブレーキ液が流入するため、マスタ室Rmの液圧が減少する。
【0027】
第1流路331は、マスタ室Rmと制動アクチュエータ23とを接続している。詳しくは、第1流路331は、制動アクチュエータ23の後述する第2液圧回路612と、マスタ室Rmとに接続されている。すなわち、第1流路331が「第2供給液路」に対応する。第2流路332は、第1液室R1と第2液室R2とを接続している。第3流路333は、大気圧リザーバ24と第2流路332とを接続している。
【0028】
第1制御弁341は常閉式の電磁弁である。第2制御弁342は常開式の電磁弁である。第1制御弁341は、第2流路332における第3流路333との接続点と第2液室R2との間に配置されている。第2制御弁342は第3流路333に設けられている。制動装置20の制御装置80が稼動している場合には、第1制御弁341は開弁される一方、第2制御弁342は閉弁される。
【0029】
ストロークシミュレータ32は、第2流路332における第1液室R1と第1制御弁341との間に配置されている。例えば、ストロークシミュレータ32は、内部にスプリングによって背面から付勢されたピストン(図示せず)を有している。この場合、ストロークシミュレータ32は、第2流路332からブレーキ液が流入されることで内部のピストンがスプリングの付勢に抗して変位すると、ピストンの変位に応じてブレーキ液に圧力を発生させる。具体的には、第1制御弁341が開弁し且つ第2制御弁342が閉弁した状態で、制動操作部材21の操作によって入力ピストン44が前方に移動すると、ストロークシミュレータ32にブレーキ液が流入する。この結果、ストロークシミュレータ32によって、第2流路332で繋がった第2液室R2と第1液室R1とに同じ圧力が発生する。
【0030】
<加圧ユニット>
加圧ユニット50は電動シリンダ51を備えている。加圧ユニット50は、電動シリンダ51が作動することによって、複数のホイールシリンダ11のWC圧Pwcを調整できる。
【0031】
加圧ユニット50は、第4流路54と、第6流路58と、第5流路55とを備えている。第4流路54は、電動シリンダ51の入力ポート515と大気圧リザーバ24とに接続されている。第6流路58は、制動アクチュエータ23と電動シリンダ51とに接続されている。詳しくは、第6流路58は、後述する制動アクチュエータ23の第1液圧回路611と、電動シリンダ51の出力ポート516とに接続されている。第5流路55は、マスタシリンダ31のサーボ室Rsと第6流路58とに接続されている。そのため、電動シリンダ51の出力ポート516から吐出されたブレーキ液が第6流路58を流動する。すなわち、第4流路54が「リザーバ液路」に対応する。第6流路58が「第1供給液路」に対応する。第5流路55が「サーボ液路」に対応する。
【0032】
第5流路55には差圧調整弁551が設けられている。差圧調整弁551は、第5流路55のうち、差圧調整弁551よりもサーボ室Rs側の部分と電動シリンダ51側の部分との差圧を調整する電磁弁である。すなわち、差圧調整弁551は、サーボ室Rsへのブレーキ液の供給量を調整できる。また、第5流路55には、差圧調整弁551に対してチェック弁552が並列に設けられている。チェック弁552は、サーボ室Rsから電動シリンダ51に向かうチェック弁552を通るブレーキ液の流動を許容する。一方、チェック弁552は、電動シリンダ51からサーボ室Rsの方向へのチェック弁552を通るブレーキ液の流動を規制する。例えば、第5流路55のうち、差圧調整弁551及びチェック弁552よりも電動シリンダ51側の部分の圧力がサーボ室Rsの圧力よりも低くなると、チェック弁552が開弁する。その結果、サーボ室Rsから第5流路55へブレーキ液が流出する。
【0033】
図1及び
図2を参照し、電動シリンダ51の構成について説明する。
電動シリンダ51は、シリンダ511と、ピストン512と、第1電気モータ513と、変換機構514とを備えている。ピストン512は、シリンダ511内に摺動可能な状態で設けられている。第1電気モータ513は電動シリンダ51の動力源である。変換機構514は、第1電気モータ513の出力軸の回転運動をピストン512の直線運動に変換する。
【0034】
シリンダ511の内部には、シリンダ511の周壁とピストン512とによって、ブレーキ液が導入される液圧室Reが区画されている。シリンダ511の内部でのピストン512の位置は、第1電気モータ513の駆動によって変更できる。以降では、液圧室Reの容積を小さくするピストン512の移動方向を「前進方向Za」というとともに、前進方向Zaの反対方向を「後退方向Zb」という。後退方向Zbは、液圧室Reの容積を大きくするピストン512の移動方向でもある。
【0035】
シリンダ511の周壁には、液圧室Reと外部とを接続するポートとして、入力ポート515及び出力ポート516が形成されている。ピストン512には貫通孔517が形成されている。ピストン512が移動できる最も後退方向Zb側の位置を最後退位置としたとき、貫通孔517は、ピストン512が最後退位置に位置するときに入力ポート515と液圧室Reとを連通させることのできる位置に形成されている。これによって、ピストン512が最後退位置に位置する場合には、シリンダ511の液圧室Reは、貫通孔517、入力ポート515及び第4流路54を介して大気圧リザーバ24と連通する。入力ポート515は、ピストン512が最後退位置に位置する際には開放されており、ピストン512が最後退位置から前進方向Zaに移動するとピストン512によって閉塞されるように構成されている。入力ポート515がピストン512によって閉塞された後でもピストン512が前進方向Zaに移動すると、液圧室Reの液圧が増大する。
【0036】
なお、
図2に示すように、制動装置20が稼動している状況下で制動要求がない場合、ピストン512は待機位置PS1で待機している。ピストン512が待機位置PS1に位置する場合には、入力ポート515が開放されているため、入力ポート515を介して第4流路54と液圧室Reとが連通する。しかし、ピストン512が待機位置PS1から前進方向Zaに移動すると、入力ポート515がピストン512によって閉塞されるため、入力ポート515を介した第4流路54と液圧室Reとの連通が遮断される。その結果、ピストン512が前進方向Zaに移動するほど、液圧室Reの液圧が高くなる。そして、ピストン512が最前進位置PS2に達すると、電動シリンダ51の構造上、ピストン512のさらなる前進方向Zaへの移動が規制される。
図2に示す判定位置PS3は、液圧室Reのブレーキ液量が少なすぎるか否かの判断基準となるピストン512の位置である。判定位置PS3は、最前進位置PS2と待機位置PS1との間に設定されている。
【0037】
シリンダ511の出力ポート516は、第6流路58を介して制動アクチュエータ23及び第5流路55に接続されている。出力ポート516は、ピストン512の位置によらず、常時開放されている。そのため、入力ポート515がピストン512に閉塞されている場合、ピストン512が前進方向Zaに移動すると、液圧室Reのブレーキ液が出力ポート516から第6流路58に吐出される。
【0038】
シリンダ511の内側には、2つのシール部材SL1,SL2が設けられている。2つのシール部材SL1,SL2は環状をなしている。2つのシール部材SL1,SL2の何れもが、シリンダ511の内周面とピストン512との間に介在している。2つのシール部材SL1,SL2のうち、第1シール部材SL1は入力ポート515よりも前進方向Zaに位置している一方、第2シール部材SL2は入力ポート515よりも後退方向Zbに位置している。第1シール部材SL1の一例はカップシールである。設置した状態でピストン512の前進方向Zaと平行にカップシールを切断した場合のカップシールの断面がコの字状をなしており、開口している側が液圧室Reを向くようにカップシールが設置されている。
【0039】
シリンダ511においてピストン512が後退方向Zbに移動することがある。入力ポート515がピストン512によって閉塞されている状態でピストン512が後退方向Zbに移動すると、液圧室Reで負圧が発生することがある。この場合、液圧室Reの負圧によって第1シール部材SL1が変形し、第1シール部材SL1とピストン512との間に僅かな隙間が形成される。その結果、当該隙間を介して入力ポート515から液圧室Reにブレーキ液が流入する。
【0040】
図1に示すように、加圧ユニット50は、解放流路56と、解放流路56に配置されている解放弁57とを備えている。解放流路56は、電動シリンダ51を迂回するように大気圧リザーバ24とホイールシリンダ11とを接続する流路である。解放流路56の第1端部が第4流路54に接続されている一方、解放流路56の第2端部が第6流路58に接続されている。具体的には、解放流路56は、第4流路54における大気圧リザーバ24と入力ポート515との間と、第6流路58における出力ポート516と制動アクチュエータ23との間とを接続している。解放弁57は常閉式の電磁弁である。そのため、解放弁57を開弁する制御が行われていない場合、解放流路56は閉塞されている。
【0041】
<制動アクチュエータ>
制動アクチュエータ23は、複数のホイールシリンダ11のWC圧Pwcを個別に調整できるように構成されている。制動アクチュエータ23は、加圧ユニット50によって調圧された液圧を増大させることなくWC圧Pwcを増大させることができる。つまり、制動装置20は、加圧ユニット50を上流側として制動アクチュエータ23を下流側とした冗長構成を有している。
【0042】
制動アクチュエータ23は2系統の液圧回路611,612を有している。第1液圧回路611には、後輪RL,RR用の2つのホイールシリンダ11が接続される。第2液圧回路612には、前輪FL,FR用の2つのホイールシリンダ11が接続される。
【0043】
第1液圧回路611は、第1接続液路621と、第1接続液路621に設けられている第1差圧制御弁631とを有している。第1接続液路621は、後輪RL,RR用の2つのホイールシリンダ11と第6流路58とを繋ぐブレーキ液路である。第1差圧制御弁631は、第1接続液路621のうち、第6流路58側の部分とホイールシリンダ11側の部分との差圧を調整する常開式の電磁弁である。第1差圧制御弁631は、そのソレノイドに流れる電流が大きいほど大きな差圧を発生させることができる。第1接続液路621のうち、第1差圧制御弁631よりもホイールシリンダ11側の部分は、2つの経路62a,62bに分岐している。経路62aは左後輪RL用のホイールシリンダ11に接続されるブレーキ液路である一方、経路62bは右後輪RR用のホイールシリンダ11に接続されるブレーキ液路である。これら2つの経路62a,62bには、常開式の電磁弁である第1保持弁641がそれぞれ設置されている。すなわち、第1保持弁641は、第1接続液路621のうち、第1差圧制御弁631よりもホイールシリンダ11側の部分に設けられている。
【0044】
第1液圧回路611は、ブレーキ液を貯留する第1減圧リザーバ651と、第1減圧リザーバ651に接続されている第1減圧液路661とを有している。第1減圧液路661は、経路62a,62bのうちの第1保持弁641よりもホイールシリンダ11側の部分と、第1減圧リザーバ651とを繋ぐブレーキ液路である。第1減圧液路661のうちの経路62aに接続されている部分と、第1減圧液路661のうちの経路62bに接続されている部分には、常閉式の電磁弁である第1減圧弁671がそれぞれ設置されている。
【0045】
第1液圧回路611は、第2電動モータ69を動力源とする第1ポンプ681と、第1還流液路701と、第1流通制御部711とを有している。第1ポンプ681は、第1減圧リザーバ651内のブレーキ液を汲み上げ、第1接続液路621のうち、第1差圧制御弁631と第1保持弁641との間の部分に当該ブレーキ液を吐出する。第1還流液路701は、第1接続液路621のうちの第1差圧制御弁631よりも第6流路58側の部分と、第1減圧リザーバ651とに接続されているブレーキ液路である。
【0046】
第1流通制御部711は、第1還流液路701でのブレーキ液の流通を制御する。本実施形態では、第1流通制御部711は、第1減圧リザーバ651内に配置されている。第1流通制御部711の一例は一方向弁である。この場合、第1流通制御部711は、特に第1ポンプ681が作動していない状態において、第1還流液路701における第6流路58から第1減圧リザーバ651へのブレーキ液の流通を規制する一方で、第1還流液路701における第1減圧リザーバ651から第6流路58へのブレーキ液の流通を許容するように構成されている。
【0047】
第2液圧回路612は、第2接続液路622と、第2接続液路622に設けられている第2差圧制御弁632とを有している。第2接続液路622は、前輪FL,FR用の2つのホイールシリンダ11と第1流路331とを繋ぐブレーキ液路である。第2差圧制御弁632は、第2接続液路622のうち、第1流路331側の部分とホイールシリンダ11側の部分との差圧を調整する常開式の電磁弁である。第2差圧制御弁632は、そのソレノイドに流れる電流が大きいほど大きな差圧を発生させることができる。第2接続液路622のうち、第2差圧制御弁632よりもホイールシリンダ11側の部分は、2つの経路62c,62dに分岐している。経路62cは左前輪FL用のホイールシリンダ11に接続されるブレーキ液路である一方、経路62dは右前輪FR用のホイールシリンダ11に接続されるブレーキ液路である。これら2つの経路62c,62dには、常開式の電磁弁である第2保持弁642がそれぞれ設置されている。すなわち、第2保持弁642は、第2接続液路622のうち、第2差圧制御弁632よりもホイールシリンダ11側の部分に設けられている。
【0048】
第2液圧回路612は、ブレーキ液を貯留する第2減圧リザーバ652と、第2減圧リザーバ652に接続されている第2減圧液路662とを有している。第2減圧液路662は、経路62c,62dのうちの第2保持弁642よりもホイールシリンダ11側の部分と、第2減圧リザーバ652とを繋ぐブレーキ液路である。第2減圧液路662のうちの経路62cに接続されている部分と、第2減圧液路662のうちの経路62dに接続されている部分には、常閉式の電磁弁である第2減圧弁672がそれぞれ設置されている。
【0049】
第2液圧回路612は、第2電動モータ69を動力源とする第2ポンプ682と、第2還流液路702と、第2流通制御部712とを有している。第2ポンプ682は、第2減圧リザーバ652内のブレーキ液を汲み上げ、第2接続液路622のうち、第2差圧制御弁632と第2保持弁642との間の部分に当該ブレーキ液を吐出する。第2還流液路702は、第2接続液路622のうちの第2差圧制御弁632よりも第1流路331側の部分と、第2減圧リザーバ652とに接続されているブレーキ液路である。
【0050】
第2流通制御部712は、第2還流液路702でのブレーキ液の流通を制御する。本実施形態では、第2流通制御部712は、第2減圧リザーバ652内に配置されている。第2流通制御部712の一例は一方向弁である。この場合、第2流通制御部712は、特に第2ポンプ682が作動していない状態において、第2還流液路702における第1流路331から第2減圧リザーバ652へのブレーキ液の流通を規制する一方で、第2還流液路702における第2減圧リザーバ652から第1流路331へのブレーキ液の流通を許容するように構成されている。
【0051】
<制動装置の検出系>
図1及び
図2に示すように、制動装置20の検出系は複数のセンサを有している。センサの検出信号は、制動装置20の制御装置80に入力される。複数のセンサは、複数の液圧センサ351,352,353と、ストロークセンサSE1と、回転角センサSE2とを含んでいる。
【0052】
マスタ液圧センサ351はマスタ室Rm内の液圧を検出する。例えば、マスタ液圧センサ351は、第2液圧回路612の第2接続液路622のうち、第2差圧制御弁632よりも第1流路331側の部分に設けられている。マスタ液圧センサ351の検出信号に基づいたマスタ室Rm内の液圧を「マスタ圧」という。
【0053】
入力液圧センサ352は第2液室R2内の液圧を検出する。例えば、入力液圧センサ352は、第2流路332における第1制御弁341と第2液室R2との間の位置に接続されている。入力液圧センサ352の検出信号に基づいた第2液室R2の液圧を「入力液圧」という。
【0054】
サーボ液圧センサ353は、電動シリンダ51から第6流路58に吐出されたブレーキ液の液圧を検出する。例えば、サーボ液圧センサ353は、電動シリンダ51における出力ポート516の近くに設けられている。一例として
図1には、解放流路56における解放弁57と出力ポート516との間にサーボ液圧センサ353が接続されている構成を示している。サーボ液圧センサ353の検出信号に基づいた電動シリンダ51の吐出液圧を「サーボ圧Psc」という。
【0055】
ストロークセンサSE1は、制動操作部材21の操作量を検出する。
回転角センサSE2は、電動シリンダ51の第1電気モータ513の回転角を検出する。回転角センサSE2の検出信号に基づいた第1電気モータ513の回転角を「モータ回転角θmt」という。
【0056】
<制動装置の制御装置>
図1及び
図2に示すように、制動装置20は制御装置80を備えている。制御装置80は、互いに情報の送受信が可能に構成された第1処理回路81及び第2処理回路91を有している。第1処理回路81は液圧発生装置22を制御する一方、第2処理回路91は制動アクチュエータ23を制御する。
【0057】
複数の処理回路81,91の一例は電子制御装置である。この場合、第1処理回路81はCPU82及びメモリ83を含んでいるとともに、第2処理回路91はCPU92及びメモリ93を含んでいる。メモリ83は、CPU82によって実行される制御プログラムを記憶している。メモリ93は、CPU92によって実行される制御プログラムを記憶している。CPU82がメモリ83の制御プログラムを実行することにより、第1処理回路81は液圧発生装置22を制御する。CPU92がメモリ93の制御プログラムを実行することにより、第2処理回路91は制動アクチュエータ23を制御する。
【0058】
<ブレーキ液回収処理>
図3を参照し、電動シリンダ51の作動によってWC圧Pwcを発生させている場合に制御装置80の第1処理回路81が実行する一連の処理を説明する。当該一連の処理を「ブレーキ液回収処理」という。第1処理回路81は、第1電気モータ513の駆動を制御している場合に、ブレーキ液回収処理を繰り返し実行する。
【0059】
ステップS11において、第1処理回路81は液量不足判定を実行する。液量不足判定において、第1処理回路81は、WC圧Pwcを発生させ続けるためには液圧室Reのブレーキ液量が不足しているか否かを判定する。電動シリンダ51では、第1電気モータ513のモータ回転角θmtとピストン512の位置との間に相関性がある。そこで例えば、第1処理回路81は、第1電気モータ513のモータ回転角θmtを基に、ピストン512の位置を取得する。第1処理回路81は、ピストン512の位置が判定位置PS3よりも前進方向Zaの位置であるか否かを判定する。ピストン512の位置が判定位置PS3よりも前進方向Zaの位置である場合は、液圧室Reのブレーキ液量が不足していると見なす。一方、ピストン512の位置が判定位置PS3であったり、ピストン512の位置が判定位置PS3よりも後退方向Zbの位置であったりする場合は、液圧室Reのブレーキ液量が不足していないと見なす。第1処理回路81は、液量不足判定を実行すると、処理をステップS13に移行する。
【0060】
ステップS13において、第1処理回路81は、液量不足判定の実行を通じて液圧室Reのブレーキ液量が不足していると判定した場合(S13:YES)、処理をステップS15に移行する。一方、第1処理回路81は、液圧室Reのブレーキ液量が不足していないと判定した場合(S13:NO)、処理をステップS17に移行する。
【0061】
ステップS15において、第1処理回路81は、リフィル制御フラグFLG1にオンをセットする。そして、第1処理回路81は処理をステップS17に移行する。
ステップS17において、第1処理回路81は、リフィル制御フラグFLG1にオンがセットされているか否かを判定する。第1処理回路81は、リフィル制御フラグFLG1にオンがセットされている場合(S17:YES)、リフィル制御を実行する。一方、第1処理回路81は、リフィル制御フラグFLG1にオフがセットされている場合(S17:NO)、ブレーキ液回収処理を一旦終了する。すなわち、第1処理回路81はリフィル制御を実行しない。
【0062】
リフィル制御は、複数のステップS19からステップS37までの処理を含んでいる。はじめのステップS19において、第1処理回路81は、第1差圧制御弁631及び第2差圧制御弁632の何れをも閉弁させることを第2処理回路91に指示する。第2処理回路91は、こうした指示を受信した場合、第1差圧制御弁631及び第2差圧制御弁632の何れをも閉弁させる。差圧制御弁631,632のソレノイドに流す電流値を指令電流値とするとき、第2処理回路91は、WC圧Pwcの目標値である目標WC圧PwcTrが高いほど大きい値を指令電流値として設定する。例えば、第2処理回路91は、リフィル制御の実行中におけるサーボ圧Pscの最小値の予測値と目標WC圧PwcTrとの差圧が大きいほど大きい値を指令電流値として設定するとよい。例えば、第2処理回路91は、目標WC圧PwcTrに相当する電流値と、サーボ圧Pscの最小値の予測値に相当する電流値との和以上の電流値を指示電流値として設定する。第1差圧制御弁631及び第2差圧制御弁632の何れもが閉弁すると、第1処理回路81は処理をステップS23に移行する。
【0063】
ステップS23において、第1処理回路81は、第1電気モータ513を駆動させることにより、電動シリンダ51のピストン512を後退方向Zbに移動させる。本実施形態では、第1流通制御部711及び第2流通制御部712は、還流液路701,702での減圧リザーバ651,652から供給液路58,331へのブレーキ液の流通を許容する一方向弁である。すなわち、制御装置80は、リフィル制御において、差圧制御弁631,632を閉弁させ、還流液路701,702での減圧リザーバ651,652から供給液路58,331へのブレーキ液の流通を流通制御部711,712に許容させ、第1電気モータ513の駆動によってピストン512を後退方向Zbに移動させる。
【0064】
ピストン512が後退方向Zbに移動し始めると、電動シリンダ51の液圧室Reの容積が大きくなる分、液圧室Reの液圧が減少傾向を示す。そのため、第1減圧リザーバ651内のブレーキ液が第1還流液路701及び第6流路58を介して液圧室Reに吸引される。また、マスタシリンダ31のサーボ室Rsのブレーキ液が、第5流路55及び第6流路58を介して液圧室Reに吸引される。このようにサーボ室Rsのブレーキ液量が減少すると、サーボ室Rsの液圧が減少するため、マスタシリンダ31内でマスタピストン43が後方に移動する。これにより、マスタ室Rmの容積が大きくなるため、マスタ室Rmのマスタ液圧が減少傾向を示す。そのため、第2減圧リザーバ652内のブレーキ液が第2還流液路702及び第1流路331を介してマスタ室Rmに吸引される。
【0065】
ここで、第1減圧リザーバ651及びサーボ室Rsのブレーキ液の貯留量が0(零)になってもピストン512が後退方向Zbに移動し続けていると、液圧室Reに負圧が発生する。液圧室Reに負圧が発生すると、負圧が発生していない場合と比較して、第1電気モータ513の負荷トルクが大きくなる。負荷トルクが大きいほど、第1電気モータ513の駆動に起因する動作音が大きくなりやすい。
【0066】
そこで、第1処理回路81は、ピストン512を後退方向Zbに移動させている状況下でサーボ圧Pscが判定サーボ圧PscTh以下になった場合に、第1電気モータ513の負荷トルクが大きくなることを抑制するように第1電気モータ513を制御する。判定サーボ圧PscThとして、液圧室Reに負圧が発生したか否かの判断基準が設定されている。例えば、第1処理回路81は、第1電気モータ513の回転数を低下させることによって、負荷トルクが大きくなることを抑制できる。
【0067】
続くステップS25において、第1処理回路81は、後退方向Zbに移動するピストン512が
図2に示す終了位置PS4に達したか否かを判定する。第1処理回路81は、第1電気モータ513のモータ回転角θmtを基に、ピストン512の位置を取得する。第1処理回路81は、ピストン512が終了位置PS4よりも後退方向Zbに位置しているか否かを判定する。第1処理回路81は、ピストン512が終了位置PS4よりも後退方向Zbに位置していると判定した場合(S25:YES)、処理をステップS31に移行する。一方、第1処理回路81は、ピストン512が終了位置PS4よりも後退方向Zbに位置していないと判定した場合(S25:NO)、処理をステップS23に移行する。すなわち、第1処理回路81は、ピストン512が終了位置PS4よりも後退方向Zbに位置するようになるまでピストン512の後退方向Zbへの移動を継続させる。
【0068】
ここで、
図2に示すように、終了位置PS4は、待機位置PS1よりも前進方向Zaであって、且つ判定位置PS3よりも後退方向Zbの位置である。例えば、リフィル制御の開始前において複数の減圧リザーバ651,652が満タンであってもリフィル制御の実行によって複数の減圧リザーバ651,652を空にできる位置が、終了位置PS4として設定されているとよい。
【0069】
図3に戻り、ステップS31において、第1処理回路81は、第1電気モータ513を駆動させることにより、電動シリンダ51のピストン512を前進方向Zaに移動させる。続くステップS33において、第1処理回路81は、リフィル制御の終了条件が成立したか否かを判定する。例えば、第1処理回路81は、サーボ圧Pscが目標WC圧PwcTr以上になった場合に終了条件が成立したと判定する。この場合、第1処理回路81は、サーボ圧Pscが目標WC圧PwcTr未満である場合には終了条件が成立していないと判定する。そして、第1処理回路81は、終了条件が成立したと判定した場合(S33:YES)、処理をステップS35に移行する。一方、第1処理回路81は、終了条件が成立していないと判定した場合(S33:NO)、処理をステップS31に移行する。すなわち、第1処理回路81は、終了条件が成立したと判定できるまでピストン512の前進方向Zaへの移動を継続させる。
【0070】
ステップS35において、第1処理回路81は、第1差圧制御弁631及び第2差圧制御弁632の何れをも開弁させることを第2処理回路91に指示する。第2処理回路91は、こうした指示を受信した場合、第1差圧制御弁631及び第2差圧制御弁632の何れをも開弁させる。例えば、第2処理回路91は、指令電流値として0(零)を設定する。第1差圧制御弁631及び第2差圧制御弁632の何れもが開弁すると、第1処理回路81は処理をステップS37に移行する。
【0071】
ステップS37において、第1処理回路81は、リフィル制御フラグFLG1にオフをセットする。すなわち、第1処理回路81はリフィル制御を終了する。そして、第1処理回路81はブレーキ液回収処理を一旦終了する。
【0072】
<作用及び効果>
図4を参照し、本実施形態の作用及び効果について説明する。
図4において、(A)における破線は目標WC圧PwcTrの推移を示し、(B)における破線はサーボ圧Pscの目標値である目標サーボ圧PscTrの推移を示している。
図4において、(A)から(E)における実線は、リフィル制御を実行する本実施形態を示している一方で、(A)から(E)における二点鎖線は、リフィル制御を実行しない比較例を示している。
【0073】
タイミングt1で制動要求が発生すると、目標WC圧PwcTr及び目標サーボ圧PscTrが増大し始める。制御装置80は、目標サーボ圧PscTrに基づいて電動シリンダ51を作動させる。例えば、第1処理回路81は、目標サーボ圧PscTrとサーボ圧Pscとの偏差を入力とするフィードバック制御を実行することによって、電動シリンダ51の第1電気モータ513を駆動させる。これにより、
図4の(B)に示すように、目標サーボ圧PscTrに追随するようにサーボ圧Pscが増大する。その結果、
図4の(A)に示すように、目標WC圧PwcTrに追随するようにWC圧Pwcが増大する。
【0074】
タイミングt2以降では、目標WC圧PwcTr及び目標サーボ圧PscTrが何れも保持される。
ここで、第1液圧回路611では、閉弁している第1減圧弁671を介してブレーキ液が第1減圧リザーバ651に少しずつ漏出することがある。同様に、第2液圧回路612では、閉弁している第2減圧弁672を介してブレーキ液が第2減圧リザーバ652に少しずつ漏出することがある。これにより、
図4の(E)に示すように、第1減圧リザーバ651及び第2減圧リザーバ652のブレーキ液の貯留量Qfが徐々に増大する。
【0075】
この場合、複数のホイールシリンダ11のWC圧Pwcが減少傾向を示すため、サーボ圧Pscが減少傾向を示す。しかし、目標サーボ圧PscTrに基づいて電動シリンダ51が作動されているため、サーボ圧Psc及びWC圧Pwcが保持されるように電動シリンダ51が制御される。したがって、減圧弁672を介した減圧リザーバ651,652へのブレーキ液の漏出が継続すると、電動シリンダ51ではピストン512が少しずつ前進方向Zaに移動するため、サーボ圧Psc及びWC圧Pwcが保持される。これにより、液圧室Reの容積が徐々に小さくなるとともに、液圧室Reのブレーキ液量が徐々に少なくなる。
【0076】
WC圧Pwcを保持するために電動シリンダ51のピストン512が前進方向Zaに移動していると、タイミングt3でピストン512の位置が判定位置PS3よりも前進方向Zaの位置となる。そのため、本実施形態では、第1処理回路81がリフィル制御を開始する。
【0077】
ここで、ピストン512の位置が判定位置PS3よりも前進方向Zaの位置となってもリフィル制御を実行しない比較例について説明する。比較例にあっては、タイミングt3以降でも、減圧弁671,672を介した減圧リザーバ651,652へのブレーキ液の漏出が継続する。そのため、WC圧Pwcを保持するために電動シリンダ51からのブレーキ液の供給が継続される。その結果、
図4の(C)において二点鎖線で示すように、ピストン512の前進方向Zaへの移動が継続される。そして、ピストン512の位置が最前進位置PS2に達する。この場合、電動シリンダ51では、ピストン512をさらに前進方向Zaに移動させることができない。すなわち、電動シリンダ51によるブレーキ液の更なる供給が不能になる。その結果、減圧弁671,672を介してブレーキ液が漏出するに応じて、
図4の(A)及び(B)の二点鎖線で示すようにWC圧Pwc及びサーボ圧Pscが徐々に減少する。すなわち、比較例では、制動力が低下し始めるおそれがある。
【0078】
これに対し、本実施形態では、タイミングt3からリフィル制御が開始される。すると、
図4の(D)に示すように、第1差圧制御弁631及び第2差圧制御弁632の何れもが閉弁される。これにより、電動シリンダ51においてピストン512が後退方向Zbに移動することに起因した複数のホイールシリンダ11のWC圧Pwcの減少が抑制される。
【0079】
また、
図4の(C)に実線で示すように、電動シリンダ51では、第1電気モータ513の駆動によってピストン512が後退方向Zbに移動される。すると、液圧室Reの容積が大きくなるため、液圧室Reの液圧が減少傾向を示す。そのため、第6流路58のブレーキ液が出力ポート516を介して液圧室Reに吸引される。
【0080】
第1液圧回路611では、第1流通制御部711が、第1還流液路701における第1減圧リザーバ651から第6流路58へのブレーキ液の流通を許容している。そのため、第1減圧リザーバ651のブレーキ液が、第1還流液路701及び第6流路58を介して液圧室Reに流入する。その結果、
図4の(E)に実線で示すように、第1減圧リザーバ651のブレーキ液の貯留量Qfが減少する。したがって、制動装置20は、リフィル制御を実行することによって、液圧室Reのブレーキ液量を回復させることができる。
【0081】
また、マスタ装置30及び第2液圧回路612では、マスタシリンダ31内のサーボ室Rsのブレーキ液が、第5流路55及び第6流路58を介して液圧室Reに流入する。これにより、制動装置20は、液圧室Reのブレーキ液量をより効率よく回復させることができる。
【0082】
このようにサーボ室Rsのブレーキ液が液圧室Reに吸引されると、サーボ室Rsの液圧が減少するため、マスタピストン43が後方に移動する。これにより、第1流路331のブレーキ液がマスタ室Rmに吸引される。第2液圧回路612では、第2流通制御部712が、第2還流液路702における第2減圧リザーバ652から第1流路331へのブレーキ液の流通を許容している。そのため、第2減圧リザーバ652のブレーキ液が、第2還流液路702及び第1流路331を介してマスタ室Rmに流入する。その結果、
図4の(E)に実線で示すように、第2減圧リザーバ652のブレーキ液の貯留量Qfが減少する。
【0083】
図4に示す例では、タイミングt4で第1減圧リザーバ651及び第2減圧リザーバ652のブレーキ液の貯留量Qfが0(零)になる。そのため、タイミングt4以降では、出力ポート516を介して液圧室Reにブレーキ液が流入しなくなる。その結果、ピストン512の後退方向Zbへの移動が継続されると、
図4の(B)に実線で示すようにサーボ圧Pscが負圧になる。つまり、液圧室Reに負圧が発生する。液圧室Reに負圧が発生すると、負圧によって第1シール部材SL1が変形することにより、第1シール部材SL1とピストン512との間に隙間が形成される。すると、この隙間を介して、入力ポート515から液圧室Reにブレーキ液が流入するようになるため、液圧室Reのブレーキ液量が回復する。
【0084】
ここで、液圧室Reに負圧が発生すると、負圧が発生していない場合と比較して、第1電気モータ513の負荷トルクが大きくなる。負荷トルクが大きいほど、第1電気モータ513の駆動に起因する動作音が大きくなりやすい。
【0085】
そこで、本実施形態では、サーボ圧Pscが判定サーボ圧PscTh以下になると、第1電気モータ513の負荷トルクが大きくなることを抑制するように第1電気モータ513が駆動する。例えば、第1電気モータ513の回転数が低下されることにより、負荷トルクが大きくなることが抑制される。この場合、第1電気モータ513の回転数の低下によってピストン512の移動速度が多少遅くなるものの、リフィル制御の実行中において、第1電気モータ513の動作音が大きくなりすぎることを抑制できる。
【0086】
その後のタイミングt5において、ピストン512の位置が終了位置PS4に達すると、第1電気モータ513の駆動によってピストン512が前進方向Zaに移動するようになる。ピストン512が前進方向Zaに移動すると、
図4の(B)に実線で示すようにサーボ圧Pscが高くなる。そして、タイミングt6でサーボ圧Pscが目標サーボ圧PscTrに達すると、リフィル制御の終了条件が成立するため、ピストン512の前進方向Zaへの移動が停止される。つまり、ピストン512の位置が保持される。さらに、
図4の(D)に示すように、第1差圧制御弁631及び第2差圧制御弁632の何れもが開弁される。そして、リフィル制御が終了される。
【0087】
したがって、制動装置20では、リフィル制御を実行することにより、WC圧Pwcの減少を抑制しつつ、電動シリンダ51の液圧室Reの液量を回復させることができる。
本実施形態では、以下に示す効果をさらに得ることができる。
【0088】
第1減圧リザーバ651及び第2減圧リザーバ652にブレーキ液が貯留されていると、アンチロックブレーキ制御などによって第1減圧弁671及び第2減圧弁672を開弁させてWC圧Pwcを減少させようとした場合に、WC圧Pwcの減少に遅れが生じるおそれがある。
【0089】
この点、制動装置20では、リフィル制御を実行することにより、第1減圧リザーバ651及び第2減圧リザーバ652の何れにおいても、ブレーキ液の貯留量Qfをほぼ0(零)にできる。そのため、第1減圧弁671及び第2減圧弁672を開弁させてWC圧Pwcを減少させるような制動制御が実行された場合に、WC圧Pwcの減少に遅れが生じることを抑制できる。
【0090】
<変更例>
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0091】
・第1処理回路81は、リフィル制御において、後退方向Zbに移動するピストン512が
図2に示した待機位置PS1に達したと判定した場合に、ピストン512の移動方向を後退方向Zbから前進方向Zaに切り替えてもよい。
【0092】
・第1処理回路81は、リフィル制御において、電動シリンダ51の液圧室Reで負圧が発生したことを検知した場合に、ピストン512の移動方向を後退方向Zbから前進方向Zaに切り替えてもよい。
【0093】
・第1処理回路81は、リフィル制御において、第1電気モータ513の負荷トルクに上限を設定してもよい。この場合、第1処理回路81は、負荷トルクが上限に達すると、負荷トルクが増大しないように第1電気モータ513を駆動させる。
【0094】
・第1処理回路81は、リフィル制御において、液圧室Reに負圧が発生した状態に合わせた所定の回転速度で最初から第1電気モータ513を駆動させるようにしてもよい。
・第1処理回路81は、リフィル制御において、解放弁57を開弁させてもよい。例えば、第1処理回路81は、サーボ圧Pscが判定サーボ圧PscTh以下になるなどしたために液圧室Reに負圧が発生したと判定できる場合に、解放弁57を開弁させてもよい。
【0095】
・第1流通制御部及び第2流通制御部は、
図1に示したような一方向弁でなくてもよい。例えば、第1流通制御部は、第1還流液路701に設けられる常閉式の電磁弁であってもよい。同様に、第2流通制御部は、第2還流液路702に設けられる常閉式の電磁弁であってもよい。この場合、制御装置80は、リフィル制御において、第1流通制御部及び第2流通制御部を開弁させることにより、第1減圧リザーバ651及び第2減圧リザーバ652からブレーキ液を流出させることができる。
【0096】
・
図2に示した判定位置PS3は、予め定められた位置で固定してもよいし、所定のパラメータに応じて変更されてもよい。例えば、判定位置PS3は、目標サーボ圧PscTrに応じて変更されるようにしてもよい。この場合、第1処理回路81は、目標サーボ圧PscTrが高いほど前進方向Zaの位置を判定位置PS3として設定するとよい。
【0097】
・制御装置80は、電動シリンダ51を作動させることによってWC圧Pwcを調整している状態の継続時間が所定時間を越えたことを条件に、リフィル制御を実行するようにしてもよい。
【0098】
・制御装置80は、上記実施形態で説明したようなブレーキ液の漏出時以外でも、液圧室Reのブレーキ液量が不足していると判定した場合にはリフィル制御が実行されるようにしてもよい。例えば、制御装置80は、制動機構10の摩擦材13(例えば、パッド)がフェードしたり、車両重量が過大になったりするなどしてピストン512が判定位置PS3に到達しても制動力の更なる増大が必要である場合には、リフィル制御を実行することで再度加圧することにより、サーボ圧Pscをさらに高めるようにしてもよい。
【0099】
・制動装置は、電動シリンダ51と制動アクチュエータ23とを備えるのであれば、
図1に示した制動装置20とは異なる構成であってもよい。例えば、制動装置は、第2液圧回路612の第2接続液路622が第6流路58に接続される構成の装置であってもよい。例えば、制動装置は、「特開2022-99361号公報」に開示されている構造の装置であってもよい。
【0100】
・制御装置80は、CPUとROMとを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。すなわち、制御装置80は、以下の(a)、(b)及び(c)の何れかの構成であればよい。
【0101】
(a)制御装置80は、コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備えている。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含んでいる。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含んでいる。
【0102】
(b)制御装置80は、各種処理を実行する一つ以上の専用のハードウェア回路を備えている。専用のハードウェア回路としては、例えば、特定用途向け集積回路、すなわちASIC又はFPGAを挙げることができる。なお、ASICは、「Application Specific Integrated Circuit」の略記であり、FPGAは、「Field Programmable Gate Array」の略記である。
【0103】
(c)制御装置80は、各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうちの残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備えている。
【0104】
<他の技術的思想>
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
[付記1]前記制御装置は、前記電動シリンダを作動させることによって前記ホイールシリンダの液圧を制御する場合、前記サーボ圧と当該サーボ圧の目標値との偏差を入力とするフィードバック制御によって前記電気モータを制御することが好ましい。
【0105】
[付記2]前記制動装置は、
ブレーキ液を貯留する大気圧リザーバと、
前記大気圧リザーバと前記電動シリンダとを繋ぐ液路であるリザーバ液路と、を備え、
前記電動シリンダは、
前記ピストンが収容されているとともに、前記リザーバ液路が接続される入力ポートが形成されているシリンダと、
前記ピストンと前記シリンダの内周面との間であって、前記入力ポートよりも前記前進方向に位置する環状のシール部材と、を有するとともに、
前記ピストンが待機位置よりも前記後退方向に位置するときには前記入力ポートを介して前記リザーバ液路と前記液圧室とが連通し、前記ピストンが前記待機位置から前記前進方向に移動すると、前記入力ポートを介した前記リザーバ液路と前記液圧室との連通が遮断されるように、構成されており、
前記制御装置は、制動要求がない場合に、前記ピストンが前記待機位置に位置するように前記電気モータを制御することが好ましい。
【0106】
[付記3]前記電動シリンダの前記シリンダ内における、前記ピストンの最も前記前進方向の位置を最前進位置としたとき、
前記制御装置は、前記電動シリンダを作動させることによって前記ホイールシリンダの液圧を制御する状況下で、前記待機位置と前記最前進位置との間に設定された判定位置よりも前記ピストンが前記前進方向に位置すると判定した場合に、前記リフィル制御を開始することが好ましい。
【0107】
[付記4]前記制御装置は、前記リフィル制御において、前記判定サーボ圧よりも低圧に設定されている基準圧力と、前記ホイールシリンダの液圧の目標値との差分の大きさが大きいほど前記第1差圧制御弁に供給する電流を大きくすることが好ましい。
【符号の説明】
【0108】
11…ホイールシリンダ
20…制動装置
24…大気圧リザーバ
31…マスタシリンダ
331…第1流路(第2供給液路)
43…マスタピストン
51…電動シリンダ
511…シリンダ
512…ピストン
513…第1電気モータ
515…入力ポート
516…出力ポート
54…第4流路(リザーバ液路)
55…第5流路(サーボ液路)
58…第6流路(第1供給液路)
611,621…液圧回路
621,622…接続液路
631,632…差圧制御弁
641,642…保持弁
651,652…減圧リザーバ
661,662…減圧液路
671,672…減圧弁
681,682…ポンプ
701,702…還流液路
711,712…流通制御部
80…制御装置
FL,FR,RL,RR…車輪
Re…液圧室
Rm…マスタ室
Rs…サーボ室
SL1…第1シール部材