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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170914
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】制動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/1755 20060101AFI20241204BHJP
【FI】
B60T8/1755 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087679
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山本 勇作
【テーマコード(参考)】
3D246
【Fターム(参考)】
3D246BA02
3D246DA01
3D246GA08
3D246GB04
3D246HA03A
3D246HA64A
3D246HA86B
3D246HA93A
3D246JA12
3D246JB02
3D246JB05
3D246JB27
(57)【要約】
【課題】低速で走行している車両に制動要求が発生した場合であっても、停車に伴う車両のピッチ姿勢の急激な変化を抑制できるようにすること。
【解決手段】制動制御装置50は、車両10が所定の停止位置に近づくにつれて値が小さくなるように停車関連値を取得する停車関連値取得部M15と、停車関連値が閾値以下になった場合に、要求制動力よりも車両10に付与する制動力を小さくした状態で車両10を停止させる停止時制動制御を開始する制御部M19と、停止時制動制御の開始前において、停車関連値が小さいほど閾値を小さい値に設定する閾値設定部M17として機能させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が所定の停止位置に近づくにつれて値が小さくなる停車関連値を取得する停車関連値取得部と、
前記停車関連値が所定の閾値以下になった場合に、前記車両に付与する制動力の要求値である要求制動力よりも前記車両に付与する制動力を小さくした状態で前記車両を停止させる停止時制動制御を開始する制御部と、
前記停止時制動制御の開始前において、前記停車関連値が小さいほど前記閾値を小さい値に設定する閾値設定部と、を備える
制動制御装置。
【請求項2】
前記閾値設定部は、前記車両に対する制動要求が発生した時点の前記停車関連値が小さいほど前記閾値を小さい値に設定する
請求項1に記載の制動制御装置。
【請求項3】
前記閾値設定部は、前記車両の減速度に基づいて前記閾値を設定する
請求項1又は請求項2に記載の制動制御装置。
【請求項4】
前記停車関連値取得部は、前記車両の車体速度、及び、前記車両の現在位置から前記停止位置までの距離である停止距離の少なくとも一方を、前記停車関連値として取得する
請求項1に記載の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に対する制動要求が発生している場合に当該車両に付与する制動力を制御する制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、停車に伴って車両のピッチ姿勢が急激に変化することを抑制する制動制御を実行する制御装置を開示している。当該制御装置は、車速が所定速度以下になると、回生制動力が0(零)に向けて減少するようにモータジェネレータを制御する。そして、当該制御装置は、車速が0(零)となると、油圧アクチュエータを作動させることによって摩擦制動力を増大させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-28913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
渋滞時には、車両の低速走行と車両制動に伴う停車とが繰り返されることがある。低速で走行している車両に制動力が付与されると、車両が直ぐに停止してしまう。つまり、上述した制動制御が開始される前に車両が停止してしまうおそれがある。このような場合には、停車に伴う車両のピッチ姿勢の急激な変化を抑制できない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための制動制御装置は、車両が所定の停止位置に近づくにつれて値が小さくなる停車関連値を取得する停車関連値取得部と、前記停車関連値が所定の閾値以下になった場合に、前記車両に付与する制動力の要求値である要求制動力よりも前記車両に付与する制動力を小さくした状態で前記車両を停止させる停止時制動制御を開始する制御部と、前記停止時制動制御の開始前において、前記停車関連値が小さいほど前記閾値を小さい値に設定する閾値設定部と、を備える。
【発明の効果】
【0006】
上記制動制御装置は、低速で走行している車両に制動要求が発生した場合であっても、停車に伴う車両のピッチ姿勢の急激な変化を抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施形態の制動制御装置を備えた車両の概略を示す構成図である。
図2図2は、停止時制動制御が実行された場合のタイミングチャートである。
図3図3は、第1車体速度判定値の基礎値と車体速度との関係を示すマップである。
図4図4は、図1の制動制御装置で実行される一連の処理を示すフローチャートである。
図5図5は、図1の制動制御装置において、停止時制動制御が実行された場合のタイミングチャートである。
図6図6は、変更例の制動制御装置において、停止時制動制御が実行された場合のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、制動制御装置の一実施形態を図1図5に従って説明する。
図1は、制動制御装置50を備える車両10を図示している。車両10は、制動操作部材11と、複数の車輪と、複数の摩擦ブレーキ20と、制動装置30とを備えている。制動操作部材11は、車両10に制動力を付与する際に運転者が操作する部材である。制動操作部材11の一例はブレーキペダルである。複数の車輪は、2つの前輪12と2つの後輪13とを含んでいる。
【0009】
<摩擦ブレーキ>
複数の摩擦ブレーキ20は、対応する車輪に制動力をそれぞれ付与する。摩擦ブレーキ20は、ホイールシリンダ21と回転体22と摩擦部23とを有している。回転体22は車輪と一体に回転するため、摩擦部23を回転体22に押し付けることにより、車輪に制動力が付与される。回転体22に摩擦部23を押し付ける力は、ホイールシリンダ21内の液圧であるホイール液圧が高いほど大きくなる。そのため、摩擦ブレーキ20は、ホイール液圧が高いほど大きい制動力を車輪に付与できる。
【0010】
<制動装置>
制動装置30は、複数のホイールシリンダ21のホイール液圧を制御することによって、車輪12,13に付与する制動力を制御する。例えば、制動装置30は、複数のホイールシリンダ21にブレーキ液を供給する加圧源を有している。加圧源は、例えば、電動ポンプ及び電動シリンダである。制動装置30は、前輪12用のホイールシリンダ21のホイール液圧と後輪13用のホイールシリンダ21のホイール液圧とを個別に調整できる。
【0011】
以降の記載では、複数の車輪12,13に付与される制動力の総和を、「車両10に付与する制動力BPAl」ともいう。
<検出系>
制動制御装置50には検出系から検出信号が入力される。検出系は複数のセンサを有している。複数のセンサは、ブレーキセンサ101と、前後加速度センサ102と、複数の車輪速センサ103とを含んでいる。
【0012】
ブレーキセンサ101は、運転者による制動操作部材11の操作に関連する情報を検出する。ブレーキセンサ101の一例は運転者の制動操作部材11の操作量を検出するストロークセンサである。ブレーキセンサ101の検出信号に基づいた操作量を「操作量X」という。なお、検出系は、運転者の制動操作部材11の操作力を検出するセンサを有していてもよい。
【0013】
前後加速度センサ102は、車両10に作用する加速度のうち、車両10の前後方向の加速度を検出する。前後加速度センサ102の検出信号に基づいた車両10の前後方向の加速度を「前後加速度Gx」という。
【0014】
車輪速センサ103は、複数の車輪の各々に対して設けられている。複数の車輪速センサ103は、対応する車輪の回転速度をそれぞれ検出する。車輪速センサ103の検出信号に基づいた車輪の回転速度を「車輪速度VW」という。
【0015】
<制動制御装置>
制動制御装置50は処理回路51を備えている。処理回路51の一例は電子制御装置である。この場合、処理回路51はCPU52及びメモリ53を有している。メモリ53は、CPU52によって実行される制御プログラムを記憶している。CPU52が当該制御プログラムを実行することにより、処理回路51は、制動装置30を制御して複数の摩擦ブレーキ20を作動させる。すなわち、処理回路51は、複数の摩擦ブレーキ20を作動させることによって、車両10に付与する制動力BPAlを調整できる。
【0016】
<停止時制動制御の概要>
処理回路51は、運転者が制動操作部材11を操作している場合に停止時制動制御を実行する。停止時制動制御は、要求制動力BPRqよりも車両10に付与する制動力BPAlを小さくした状態で車両10を停止させる制動制御である。要求制動力BPRqとは、車両10に付与する制動力BPAlの要求値である。
【0017】
図2を参照し、停止時制動制御について説明する。
車両10が走行している状況下のタイミングt11で運転者が制動操作部材11を操作し始める。この場合、図2の(B)に示すように、処理回路51は要求制動力BPRqを導出する。例えば、処理回路51は、制動操作部材11の操作量Xが大きいほど値が大きくなるように要求制動力BPRqを導出する。タイミングt12以前のように車両10の車体速度VSが第1車体速度判定値VSth1よりも大きい場合、図2の(D)に示すように、処理回路51は要求制動力BPRqを指示制動力BPTrとして設定する。そして、処理回路51は、車両10に付与する制動力BPAlが指示制動力BPTrとなるように制動装置30を制御する。なお、車体速度VSは、車輪速度VWに基づいて導出される車両10の移動速度である。
【0018】
このように車両10に制動力BPAlが付与されていると、図2の(A)に示すように車体速度VSが低下する。また、図2の(C)に示すように、制動力BPAlの増大に応じて前後加速度Gxの絶対値が大きくなる。
【0019】
タイミングt12で車体速度VSが第1車体速度判定値VSth1になると、処理回路51は停止時制動制御を開始する。第1車体速度判定値VSth1は、停止時制動制御の開始タイミングを設定するための閾値である。タイミングt12からは、処理回路51は停止時制動制御の増補正処理を開始する。増補正処理において、処理回路51は、要求制動力BPRqよりも大きい制動力を指示制動力BPTrとして設定する。例えば、処理回路51は、要求制動力BPRqとオフセット値ΔBPとの和を指示制動力BPTrとして設定する。そして、処理回路51は、車両10に付与する制動力BPAlが当該指示制動力BPTrとなるように制動装置30を制御する。これにより、要求制動力BPRqが同じであっても、オフセット値ΔBPの分、車両10の前後加速度Gxの絶対値がタイミングt12以前よりも大きくなる。
【0020】
タイミングt13で車体速度VSが第2車体速度判定値VSth2になる。第1車体速度判定値VSth1よりも小さい車体速度が、第2車体速度判定値VSth2として設定されている。車体速度VSが第2車体速度判定値VSth2以下である場合は、停止位置PSに車両10が近づいたと見なせる。停止位置PSとは、車両10が停止する予測位置である。処理回路51は、停止時制動制御の処理を増補正処理から減補正処理に移行する。減補正処理において、処理回路51は、指示制動力BPTrを一定速度で減少させる。そして、処理回路51は、車両10に付与する制動力BPAlが当該指示制動力BPTrとなるように制動装置30を制御する。このように処理回路51が減補正処理を実行することにより、制動力BPAlが要求制動力BPRqよりも小さくなる。その結果、要求制動力BPRqが同じであっても、車両10の前後加速度Gxの絶対値が次第に小さくなる。
【0021】
タイミングt14で指示制動力BPTrが停車保持制動力BPthと等しくなる。停車保持制動力BPthとして、現在の車両10の走行路面で車両10の停止を維持するのに必要な最低限度の制動力、若しくは当該制動力よりも僅かに大きい制動力が設定される。タイミングt14では、減補正処理において、処理回路51は、指示制動力BPTrを停車保持制動力BPthで保持する。
【0022】
タイミングt15で、処理回路51は、車両10が停止したと判定するため、停止時制動制御の処理を減補正処理から縮退処理に移行する。縮退処理において、処理回路51は、指示制動力BPTrを増大させる。例えば、処理回路51は、指示制動力BPTrを要求制動力BPRqまで増大させる。処理回路51が指示制動力BPTrに基づいて制動装置30を制御することにより、車両10に付与する制動力BPAlが増大する。タイミングt16で指示制動力BPTrが要求制動力BPRqと等しくなると、処理回路51は停止時制動制御を終了する。
【0023】
<機能部>
図1及び図3を参照し、制動制御装置50の機能構成について説明する。
図1に示すように、処理回路51は、メモリ53の制御プログラムをCPU52が実行することにより、要求制動力導出部M11、停止位置設定部M13、停車関連値取得部M15、閾値設定部M17及び制御部M19として機能する。
【0024】
要求制動力導出部M11は、制動操作部材11の操作量Xが大きいほど値が大きくなるように要求制動力BPRqを導出する。
停止位置設定部M13は、制動力の付与による車両10の減速時に、車両10を停止させる目標位置を停止位置PSとして設定する。例えば、停止位置設定部M13は、車両10の車体速度VSと車両10の減速度DVSとに基づいて、停止位置PSを導出する。減速度DVSは、車両10に付与されている制動力BPAlと相関する減速度である。例えば、車体速度VSを時間微分し、その演算値の正負を反転させることによって減速度DVSは導出できる。そのため、車両10が減速していると減速度DVSが正の値となる。そして、停止位置設定部M13は、車体速度VSと減速度DVSとから予測できる車両10の停止位置を、停止位置PSとして導出する。具体的には、停止位置設定部M13は、車体速度VSが小さいほど車両10の現在位置に近い位置を、停止位置PSとして設定する。また、停止位置設定部M13は、減速度DVSが大きいほど車両10の現在位置に近い位置を、停止位置PSとして設定する。
【0025】
停車関連値取得部M15は、車両10が停止位置PSに近づくにつれて値が小さくなる停車関連値を取得する。例えば、停車関連値取得部M15は、制動力の付与による車両10の減速時に停車関連値を取得する。本実施形態では、停車関連値取得部M15は、車両10の車体速度VSを停車関連値として取得する。停車関連値は、制動力BPAlの付与によって車両10が減速している場合には時間が経過するにつれて値が徐々に小さくなるパラメータであるとも云える。
【0026】
閾値設定部M17は、停止時制動制御の開始タイミングを定める閾値である第1車体速度判定値VSth1を設定する。閾値設定部M17は、停止時制動制御の開始前において、停車関連値取得部M15によって取得された車体速度VSが小さいほど第1車体速度判定値VSth1を小さい値に設定する。この際、閾値設定部M17は、第1車体速度判定値VSth1の設定時点の車体速度VSよりも小さい車体速度を第1車体速度判定値VSth1として設定する。
【0027】
本実施形態では、閾値設定部M17は、第1車体速度判定値VSth1を設定するタイミングで第2車体速度判定値VSth2も設定する。具体的には、閾値設定部M17は、停車関連値取得部M15によって取得された車体速度VSが小さいほど第2車体速度判定値VSth2を小さい値に設定する。
【0028】
閾値設定部M17は、車両10に対する制動要求が発生したときに第1車体速度判定値VSth1及び第2車体速度判定値VSth2を設定する。すなわち、閾値設定部M17は、制動要求が発生した時点の車体速度VSが小さいほど第1車体速度判定値VSth1を小さい値に設定する。同様に、閾値設定部M17は、制動要求が発生した時点の車体速度VSが小さいほど第2車体速度判定値VSth2を小さい値に設定する。
【0029】
閾値設定部M17は、車体速度VSに加え、車両10の減速度DVSにも基づいて第1車体速度判定値VSth1及び第2車体速度判定値VSth2を設定する。例えば、閾値設定部M17は、制動要求が発生した時点の減速度DVSが大きいほど値が小さくなるように第1車体速度判定値VSth1を設定する。同様に、閾値設定部M17は、制動要求が発生した時点の減速度DVSが大きいほど値が小さくなるように第2車体速度判定値VSth2を設定する。
【0030】
ここで、図3を参照し、第1車体速度判定値VSth1の設定の一例を説明する。図3は、第1車体速度判定値VSth1の基礎値VSth1Aと車体速度VSとの関係を示すマップである。図3に示すように、閾値設定部M17は、車体速度VSが第1車体速度VS1以上である場合、基準車体速度VSAを基礎値VSth1Aとして設定する。例えば、車両10が低速で走行しているか否かの判断基準が第1車体速度VS1として設定されている。一方、閾値設定部M17は、車体速度VSが第1車体速度VS1よりも小さい場合、車体速度VSが小さいほど小さい値を基礎値VSth1Aとして設定する。
【0031】
また、閾値設定部M17は、車両10の減速度DVSを基に、減少補正ゲインGdを設定する。このとき、閾値設定部M17は、0(零)よりも大きく且つ1以下の値を、減少補正ゲインGdとして設定する。例えば、閾値設定部M17は、減速度DVSが大きいほど小さい値を減少補正ゲインGdとして設定する。
【0032】
そして、閾値設定部M17は、第1車体速度判定値の基礎値VSth1Aと減少補正ゲインGdとの積を、第1車体速度判定値VSth1として設定する。これにより、閾値設定部M17は、車体速度VSと減速度DVSとに基づいて第1車体速度判定値VSth1を設定できる。
【0033】
なお、閾値設定部M17は、第1車体速度判定値VSth1の設定手法と同様の手法で、第2車体速度判定値VSth2を設定できる。
制御部M19は、制動装置30の作動を制御する。具体的には、制御部M19は、車両制動中において、車体速度VSが第1車体速度判定値VSth1以下になった場合に、停止時制動制御を開始する。
【0034】
<車両制動時における処理の流れ>
図4を参照し、処理回路51が停止時制動制御を実行する際の一連の処理を説明する。処理回路51は図4に示す一連の処理を繰り返し実行する。
【0035】
ステップS11において、処理回路51は、車両10に対する制動要求が発生しているか否かを判定する。例えば、処理回路51は、運転者が制動操作部材11を操作していることを検知した場合に、制動要求が発生していると判定する。処理回路51は、ブレーキセンサ101の検出信号に基づいて、運転者が制動操作部材11を操作していることを検知できる。処理回路51は、制動要求が発生していると判定した場合(S11:YES)、処理をステップS13に移行する。一方、処理回路51は、制動要求が発生していないと判定した場合(S11:NO)、一連の処理を一旦終了する。
【0036】
ステップS13において、処理回路51は、要求制動力導出部M11として機能することにより、要求制動力BPRqを導出する。続くステップS15において、処理回路51は、今回の車両制動中において第1車体速度判定値VSth1が設定済みであるか否かを判定する。処理回路51は、第1車体速度判定値VSth1が設定済みであると判定した場合(S15:YES)、処理をステップS23に移行する。一方、処理回路51は、第1車体速度判定値VSth1が設定済みではないと判定した場合(S15:NO)、処理をステップS17に移行する。
【0037】
ステップS17において、処理回路51は、停止位置設定部M13として機能することにより、停止位置PSを設定する。この際、処理回路51は、今回の制動要求の発生時点の車体速度VS及び減速度DVSに基づいて停止位置PSを設定する。
【0038】
続くステップS19において、処理回路51は、停車関連値取得部M15として機能することにより、現時点の車体速度VSを取得する。また、処理回路51は、現時点の車両10の減速度DVSを取得する。
【0039】
次のステップS21において、処理回路51は、閾値設定部M17として機能することにより、第1車体速度判定値VSth1及び第2車体速度判定値VSth2を設定する。この際、処理回路51は、ステップS19で取得した車体速度VS及び減速度DVSに基づいて、第1車体速度判定値VSth1及び第2車体速度判定値VSth2を設定する。そして、処理回路51は処理をステップS23に移行する。
【0040】
ステップS23において、処理回路51は、停車関連値取得部M15として機能することにより、その時点の車体速度VSを取得する。
そしてステップS25において、処理回路51は、ステップS23で取得した車体速度VSが第1車体速度判定値VSth1以下であるか否かを判定する。処理回路51は、車体速度VSが第1車体速度判定値VSth1以下である場合(S25:YES)、処理をステップS29に移行する。一方、処理回路51は、車体速度VSが第1車体速度判定値VSth1よりも大きい場合(S25:NO)、処理をステップS27に移行する。
【0041】
ステップS27において、処理回路51は、制御部M19として機能することにより、通常時制動制御を実行する。通常時制動制御において、処理回路51は、ステップS13で導出した要求制動力BPRqを指示制動力BPTrとして設定する。そして、処理回路51は、制動力BPAlが指示制動力BPTrとなるように制動装置30を制御する。その後、処理回路51は一連の処理を一旦終了する。
【0042】
ステップS29において、処理回路51は、制御部M19として機能することにより、停止時制動制御を実行する。停止時制動制御において、処理回路51は、車体速度VSが第2車体速度判定値VSth2よりも大きい場合には、増補正処理を実行する。すなわち、処理回路51は、要求制動力BPRqよりも大きい制動力を指示制動力BPTrとして設定し、当該指示制動力BPTrに基づいて制動装置30を制御する。
【0043】
処理回路51は、車体速度VSが第2車体速度判定値VSth2以下であって、且つ車両10が停止していないと判定した場合には、減補正処理を実行する。すなわち、処理回路51は、指示制動力BPTrが停車保持制動力BPthと等しくなるまで指示制動力BPTrを減少させる。処理回路51は、この際の指示制動力BPTrの減少速度を、ステップS17で取得した車体速度VS及び減速度DVSの少なくとも一方に基づいて設定するとよい。例えば、処理回路51は、ステップS17で取得した車体速度VSが小さいほど値が大きくなるように、指示制動力BPTrの減少速度を設定する。また例えば、処理回路51は、ステップS17で取得した減速度DVSが大きいほど値が大きくなるように、指示制動力BPTrの減少速度を設定する。ただし、処理回路51は、指示制動力BPTrが停車保持制動力BPthと等しくなった以降では、指示制動力BPTrを停車保持制動力BPthで保持する。そして、処理回路51は、設定した指示制動力BPTrに基づいて制動装置30を制御する。
【0044】
処理回路51は、車両10が停止したと判定した場合には、縮退処理を実行する。すなわち、処理回路51は、指示制動力BPTrを要求制動力BPRqまで増大させる。そして、処理回路51は、設定した指示制動力BPTrに基づいて制動装置30を制御する。その後、処理回路51は一連の処理を一旦終了する。
【0045】
<作用及び効果>
図5を参照し、車両制動時における作用及び効果について説明する。図5において、(D)の実線は本実施形態における指示制動力BPTrの推移を示し、(D)の破線は比較例における指示制動力BPTrAの推移を示す。また、図5において、(C)の実線は本実施形態における前後加速度Gxの推移を示し、(C)の破線は比較例における前後加速度GxAの推移を示す。なお、比較例は、停止時制動制御が実行されない場合である。
【0046】
図5の(A)に示すように、第1車体速度VS1よりも車体速度VSが小さい状態で車両10が走行している。このように車両10が低速で走行している状況下のタイミングt21で運転者が制動操作部材11を操作し始める。すると、図5の(B)に示すように、制動操作部材11の操作量Xが大きいほど値が大きくなるように要求制動力BPRqが導出される。指示制動力BPTrとして要求制動力BPRqが設定される。そして、指示制動力BPTrに基づいて制動装置30が作動する。
【0047】
本実施形態では、このように制動要求が発生すると、そのときの車体速度VSが小さいほど値が小さくなるように、第1車体速度判定値VSth1及び第2車体速度判定値VSth2が設定される。これにより、タイミングt21の車体速度VSよりも小さくなるように、第1車体速度判定値VSth1及び第2車体速度判定値VSth2が設定される。
【0048】
図5に示す例では、車体速度VSが低下している最中のタイミングt22で車体速度VSが第1車体速度判定値VSth1になるため、停止時制動制御が開始される。タイミングt22からタイミングt23までの期間では、車体速度VSが第2車体速度判定値VSth2よりも大きい。そのため、停止時制動制御の増補正処理が実行される。この場合、要求制動力BPRqよりも値が大きくなるように指示制動力BPTrが設定され、当該指示制動力BPTrに基づいて制動装置30が作動する。
【0049】
増補正処理の実行中のタイミングt23で車体速度VSが第2車体速度判定値VSth2になるため、増補正処理が終了されて減補正処理が開始される。減補正処理では、指示制動力BPTrが停車保持制動力BPthまで減少される。そして、当該指示制動力BPTrに基づいて制動装置30が作動する。停車保持制動力BPthは、要求制動力BPRqよりも小さい。そのため、減補正処理が実行されることにより、制動力BPAlが要求制動力BPRqよりも小さくなる。
【0050】
タイミングt24で指示制動力BPTrが停車保持制動力BPthになるため、指示制動力BPTrが停車保持制動力BPthで保持される。
そしてタイミングt25で、車両10が停止したと判定されるため、減補正処理が終了されて縮退処理が開始される。縮退処理では、指示制動力BPTrが要求制動力BPRqに向けて増大され、当該指示制動力BPTrに基づいて制動装置30が作動する。そして、タイミングt26で指示制動力BPTrが要求制動力BPRqになると、停止時制動制御が終了される。
【0051】
ここで、停止時制動制御が実行されない比較例について説明する。図5の(D)において破線で示すように、比較例では、指示制動力BPTrAとして要求制動力BPRqが設定され続ける。そのため、図5の(C)において破線で示すように、車両10が停止したタイミングで、前後加速度Gxの絶対値が急に小さくなる。この場合、前後加速度Gxの絶対値の急激な変化に起因して車両10のピッチ姿勢が急に変化する。また、車両10の停止前では、車両10の減速に起因する慣性力が車両10の乗員に働いている。この際の慣性力は、前後加速度Gxの絶対値が大きいほど大きい。そのため、車両10が停止すると、当該慣性力が0(零)になる。つまり、車両10の停止に起因して前後加速度Gxの絶対値が急に小さくなると、乗員に働く慣性力もまた急に小さくなる。このように停車に起因してピッチ姿勢及び慣性力が急に変化すると、乗員が不快に感じるおそれがある。
【0052】
この点、本実施形態では、図5の(C)に示すように、比較例と比較して、前後加速度Gxの絶対値を小さくした状態で車両10を停止させることができる。これにより、停車に起因した車両10のピッチ姿勢の急な変化が抑制される。また、停車に起因した上記慣性力の急な低下もまた抑制される。
【0053】
したがって、本実施形態では、低速で走行している車両10に制動要求が発生した場合であっても、停車に伴う車両10のピッチ姿勢の急激な変化を抑制できる。
本実施形態では、以下に示す効果をさらに得ることができる。
【0054】
(1)処理回路51は、制動要求が発生した時点の車体速度VSが小さいほど小さい値を第1車体速度判定値VSth1として設定する。これにより、制動要求が発生した時点の車体速度VSが小さくても、処理回路51は停止時制動制御を実行できる。これにより、制動制御装置50は、制動要求が発生した時点の車体速度VSの大きさによらず、制動力BPAlを要求制動力BPRqよりも小さくした状態で車両10を停止させることができる。
【0055】
(2)処理回路51は、車両10の減速度DVSを考慮して第1車体速度判定値VSth1を設定する。これにより、運転者による制動操作部材11の操作速度が大きくても、処理回路51は停止時制動制御を実行できる。これにより、制動制御装置50は、車両制動時における減速度DVSによらず、制動力BPAlを要求制動力BPRqよりも小さくした状態で車両10を停止させることができる。
【0056】
<変更例>
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0057】
・停止時制動制御は、減補正処理及び縮退処理を含んでいるのであれば、増補正処理を含んでいなくてもよい。図6には、増補正処理を含まない停止時制動制御が実行される場合のタイミングチャートの一例が図示されている。
【0058】
図6の(A)に示すように、第1車体速度VS1よりも車体速度VSが小さい状態で車両10が走行している。このように車両10が低速で走行している状況下のタイミングt31で運転者が制動操作部材11を操作し始める。すると、図6の(B)に示すように、要求制動力BPRqが導出され、指示制動力BPTrとして要求制動力BPRqが設定される。そして、指示制動力BPTrに基づいて制動装置30が作動する。
【0059】
このように制動要求が発生すると、そのときの車体速度VSが小さいほど値が小さくなるように、車体速度判定値VSth11が設定される。車体速度判定値VSth11は、上記実施形態における第2車体速度判定値VSth2に相当する。この変更例においては、車体速度判定値VSth11が「閾値」に対応する。当該変更例においては、タイミングt31の車体速度VSよりも小さくなるように、車体速度判定値VSth11が設定される。
【0060】
タイミングt32で車体速度VSが車体速度判定値VSth11になるため、停止時制動制御の減補正処理が開始される。減補正処理において、指示制動力BPTrが停車保持制動力BPthまで減少され、当該指示制動力BPTrに基づいて制動装置30が作動する。停車保持制動力BPthは、要求制動力BPRqよりも小さい。そのため、制動力BPAlが要求制動力BPRqよりも小さくなる。
【0061】
タイミングt33で指示制動力BPTrが停車保持制動力BPthになるため、指示制動力BPTrが停車保持制動力BPthで保持される。
その後のタイミングt34で車両10が停止したと判定されるため、減補正処理が終了されて縮退処理が開始される。縮退処理では、指示制動力BPTrが要求制動力BPRqに向けて増大され、当該指示制動力BPTrに基づいて制動装置30が作動する。そして、タイミングt35で指示制動力BPTrが要求制動力BPRqになると、停止時制動制御が終了される。
【0062】
当該変更例においても、車両10が低速で走行している最中に制動要求が発生した場合であっても、処理回路51が停止時制動制御を実行できる。そのため、当該変更例でも、低速で走行している車両10に制動要求が発生した場合であっても、停車に伴う車両10のピッチ姿勢の急激な変化を抑制できる。
【0063】
・閾値設定部は、車体速度VSに基づいて閾値を設定するのであれば、閾値を設定するに際して車両10の減速度DVSを考慮しなくてもよい。
・停車関連値取得部は、車両10が停止位置PSに近づくにつれて値が小さくなるパラメータであれば、車体速度VS以外の他のパラメータを取得してもよい。例えば、停車関連値取得部は、車両10の現在位置から停止位置PSまでの距離である停止距離を、停車関連値として取得してもよい。この場合、閾値設定部は、停止距離に関する判定値である停止距離判定値を閾値として設定する。具体的には、閾値設定部は、制動要求の発生時点の停止距離が短いほど小さい値を停止距離判定値として設定する。これにより、制動制御装置は、上記実施形態と同様の作用及び効果を得ることができる。
【0064】
また例えば、停車関連値取得部は、車両10が停止するまでに要する時間である停止予測時間を、停車関連値として取得してもよい。この場合、閾値設定部は、停止予測時間に関する判定値である停止予測時間判定値を閾値として設定する。具体的には、閾値設定部は、制動要求の発生時点の停止予測時間が短いほど小さい値を停止予測時間判定値として設定する。これにより、制動制御装置は、上記実施形態と同様の作用及び効果を得ることができる。なお、停止予測時間の一例はTTCである。TTCは「Time To Collision」の略記である。
【0065】
ちなみに、上記の停止距離及び停止予測時間は、制動力の付与によって車両10が減速している場合に、時間が経過するにつれて値が徐々に小さくなるパラメータであるとも云える。
【0066】
なお、停車関連値取得部は、停車関連値として、車体速度VS、停止距離及び停止予測時間の少なくとも1つを取得するようにしてもよい。例えば、停車関連値取得部は、停車関連値として、車体速度VS及び停止距離を取得するようにしてもよい。この場合、制御部は、車体速度VSが閾値以下になること、及び、停止距離が閾値以下になることの少なくとも一方が成立したことを条件に、停止時制動制御を開始することが好ましい。
【0067】
・停止位置設定部は、車体速度VSや減速度DVSを用いる手法とは異なる手法で停止位置PSを設定してもよい。例えば、自車両から先行車までの距離を取得できる場合、停止位置設定部は、当該距離に基づいて停止位置PSを設定してもよい。この場合、停止位置設定部は、当該距離が短いほど自車両に近い位置を停止位置PSとして設定するとよい。
【0068】
・制動制御装置は、停止時制動制御の実行時には、摩擦制動力だけではなく、回生制動力も制御してもよい。この場合、車両10に付与する摩擦制動力の総和と車両10に付与する回生制動力の総和との合計が、制動力BPAlとなる。
【0069】
・上記実施形態では、運転者による制動操作部材11の操作に伴う車両制動時に処理回路51が停止時制動制御を実行している。しかし、処理回路51は、自動制動時に停止時制動制御を実行してもよい。
【0070】
・処理回路51は、コンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する専用のハードウェアなどの1つ以上の専用のハードウェア回路又はこれらの組み合わせを含む回路として構成し得る。専用のハードウェアとしては、例えば、特定用途向け集積回路であるASICを挙げることができる。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわち記憶媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0071】
<他の技術的思想>
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
[付記1]前記停止時制動制御は、
前記制動力要求値よりも前記車両に付与する制動力を大きくする増補正処理と、
前記増補正処理の終了後に実行される処理であって、前記車両に付与する制動力を前記制動力要求値よりも減少させる減補正処理と、を含むことが好ましい。
【0072】
[付記2]制動力の付与によって車両が減速している場合に、時間が経過するにつれて値が徐々に小さくなる停車関連値を取得する停車関連値取得部と、
前記停車関連値が閾値以下になった場合に、前記車両に付与する制動力の要求値である要求制動力よりも前記車両に付与する制動力を小さくした状態で前記車両を停止させる停止時制動制御を開始する制御部と、
前記停止時制動制御の開始前において、前記停車関連値が小さいほど前記閾値を小さい値に設定する閾値設定部と、を備える、制動制御装置。
【0073】
なお、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、所望の選択肢の「1つ以上」を意味する。一例として、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、選択肢の数が2つであれば「1つの選択肢のみ」又は「2つの選択肢の双方」を意味する。他の例として、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、選択肢の数が3つ以上であれば「1つの選択肢のみ」又は「2つ以上の任意の選択肢の組み合わせ」を意味する。
【符号の説明】
【0074】
10…車両
11…制動操作部材
20…摩擦ブレーキ
30…制動装置
50…制動制御装置
51…処理回路
M13…停止位置設定部
M15…停車関連値取得部
M17…閾値設定部
M19…制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6