(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170927
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】雨水より安全な純水の製造方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20241204BHJP
B01D 63/08 20060101ALI20241204BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20241204BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20241204BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20241204BHJP
B01D 71/10 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
C02F1/44 D
B01D63/08
B01D69/00
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/10
C02F1/44 H
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087698
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】715005077
【氏名又は名称】日本特殊膜開発株式会社
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 征一
(72)【発明者】
【氏名】中川 弘美
(72)【発明者】
【氏名】中川 保武
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA06
4D006GA07
4D006HA41
4D006JA04Z
4D006JA05A
4D006JA06A
4D006JA07A
4D006JA07C
4D006JA67Z
4D006KE06R
4D006MA03
4D006MA06
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4D006MA31
4D006MC11
4D006MC18X
4D006NA03
4D006NA40
4D006NA64
4D006PA01
4D006PB02
4D006PC11
4D006PC41
4D006PC51
(57)【要約】 (修正有)
【課題】降雨中の雨水を回収し、回収された雨水の電気伝導度が10μS/cm以下でかつ0.2μm以上の径を持つ微粒子の濃度が規定値以下である純水を製造する方法を提供する。
【解決手段】天空より降る雨で、海岸線より15km内陸部で、初期降雨が除外された雨を採取し、該雨を平均孔径20nm以上で200nm未満のセルロース製の平膜状の複合膜を充填した全プラスチック製の孔拡散モジュールを用いて、膜間差圧が0.05気圧以下の特定条件下で該モジュールで膜処理することで純水を製造する方法。
【選択図】
図3(a)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記過程(1)~(4)を通して雨水より省エネルギー的に純水を製造する方法。すなわち、過程(1)、天空より降る雨で海岸線より15km 内陸部で採取される降雨で、初期降雨より降雨量2mm以内の雨が除外された降雨を採集し、過程(2)、該降雨を平均孔径20nm以上200nm未満で膜厚が200μm以上で600μm未満の平膜状セルロース製の複合膜を装填した全プラスチック製の孔拡散膜モジュールを用いて、過程(3)、膜間差圧が0.05気圧以下で該膜表面での一次流体の流れが2/秒以上の層流となる条件で該モジュールを運転し、過程(4)、膜を介して通過する降雨成分のみを回収することによって安全な純水を製造することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
請求項1において、過程(1)の初期降雨より降雨量2mm以内の雨を除外する方法として、屋根などの平面状の物体上に降雨を集めこれを雨樋等より導管に導き、該導管に直列的に連結した一定容量のタンク(これをタンクAと略称)へ初期降雨を導き、タンクAの容量をこえた後続する降雨をオーバーフローさせてこれを該導管に並列的に連結したタンク(タンクBと略称)で採取することで初期降雨のみを除去する方法を採用することを特徴とする純水の製造方法。
【請求項3】
請求項1あるいは2において、過程(1)において選定される雨水として11月から翌年2月までの冬期以外の降雨を採取し、該降雨を過程(2)において平均孔径80nm以上で160nm未満のセルロース製の平膜状の複合膜を装填したポリカーボネート製のプラスチック段ボール型の孔拡散膜モジュールを用いて、過程(4)において膜を介して通過する成分を常圧下で回収することを特徴とする純水の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定された雨水を採集し、この雨水中に溶解または分散している微粒子成分を除去することにより安全な純水を省エネルギー的製造する方法に関する。
【0002】
特定された雨水とは、落下した雨水で地上成分(土壌や田畑、道路、湖、河川、沼等の地表上の物体)と接触することがなく降雨として採集される雨水であり、地表
上の陸地に落下していない降雨を意味する。該雨水中に溶解する微粒子成分として黄砂などの土壌由来の成分(砂,塵など)、火山灰、海水由来の海塩成分、火山ガスや排
気ガス由来の硫酸塩粒子、有機成分(バクテリアなど)を含むバイオエアゾルなどがあり、主成分はエアロゾルと呼称される微粒子と考えられる。
【0003】
本発明でいう純水とは0.2μm以上の径を持つ微粒子成分が除去されかつ、電気伝導度が10μS/cm以下の水を意味する。この定義の純水は本発明の独自のものである。通常地上に落下する雨水の電気伝導度は20μS/cm以上であり、かつ雨水には電気伝導度に寄与しない細菌や花粉などの有機性の微粒子としてエアロゾル等の微粒子を含む場合が多い。そのため雨水としては安全とはいえない。
【背景技術】
【0004】
地下水などの水を原料としてその精製度に対応して農業用水や工業用水等の種々の用途に精製後の水は利用される。資源としての水には自然に産生する水あるいは高
度に精製した水(例、超純水など)など多種類ある。最も高度な精製度を持つ水として半導体の製造に用いられる超純水が位置付けられる。ただし、化学構造としてのH2Oに近い水が精製度が高い水とみなす。超純水からの精製度を低めると精製水、蒸留水、雨水、水道水、河川の水、湖沼の水、地下水、海水、生活排水と位置付けられる。これ等の位置づけには対象とする水の電気伝導度の大きさがほぼ対応している。
【0005】
水に高度な精製処理を施したことに対応する水、すなわち精製水は天然に産生する水(例、地下水としての湧き水)に対して蒸留等の精製を施すことによって作製できる。しかし、この精製には外部からのエネルギーと蒸留などの装置を必要とする。蒸留という精製手段を採用するのは安価な省エネルギー的とはいえない。
【0006】
原水として地下水や水道水を用いて、これらに砂濾過や薬品処理、膜処理によって原水から不純物や感染性微生物を除去し、精製度の高い水を作製することも試みら
れる。このような方法で作製された精製水は原水の段階において既に一種の加工すなわち、地層による吸着と溶出や水道水の作製の際の滅菌加工が加わっている。そのため
地下水や水道水はもはや自然に得られた安全な水とはいえない。そのためこれらの水は医薬品の原料水や洗浄水との用途にも加工に伴う不確実な要素を内在する。安価で安
全な水を高圧力や加熱処理や薬品処理に頼らず自然な状態で入手する方法が求められる。
【0007】
雨水は原水としては精製度が高い水と一般には考えられている。しかし、雨水には、バイオエアゾルに分類されるバクテリアやウイルスの一部が混入している可能性がある。さらに黄砂や花粉の分解物等の自然界で発生した微粒子や人工的な建設物の摩耗物が混入している可能性もあり安全面での危うさを持つ。
【0008】
前述のように天然の雨水として原水を収集した場合には、種々の汚染物質が原水に混入する。混入する汚染物質を避ける方法、あるいは汚染物質の混入の可能性を下げると考えられる雨水の入手方法が提案されている。例えば非特許文献1によれば、酸性雨においてはその人体被害例の多くが雨の降り始め(本発明では初期降雨に対応)に生じている。このことより降雨を初期降雨と後続降雨と分類し、初期の降雨による雨水を初期雨水、後者の雨水を後期雨水と大別する。初期雨水/後続雨水の比は大気汚染の指標となりえるとこの文献では指摘している。この研究例より雨水を利用する際には大気汚染の影響を避けるのに初期雨水を除外することが重要であることがわかる。しかし該文献では雨水を産業の原料として利用しようとする意図は全くなく初期雨水の判断方法の提案もない。雨水を資源と考えると除去する初期雨水の量は少ないほど望ましいが、具体的に初期雨水を指定することが出来ない。
【0009】
降雨が大気汚染物質で汚染されている。すなわち、降雨は地域環境の汚染を反映する。そのため降雨の汚染防止は地球環境の汚染問題としてとらえる研究開発が大部
分である。例えば非特許文献2には日本における1975年~1985年の約10年間における雨水実態調査が示されている。雨水性状の質的変化が酸性雨現象を引き起こ
して大きな社会問題となっていることの指摘がなされている。しかし、それらの実態調査では大気汚染の高まりは雨水の産業用途の原料としての適性に問題点を指摘
するものでもある。雨水を水資源として利用する立場からは酸性雨現象の研究からは具体的な対策はほとんど生まれない。
【0010】
一方、産業界では種々のレベルの精製度を持つ水が求められている。例示すれば工業用水の水源レベルとしての水、農業用水のレベルの水などである。工
業用水、水道水、さらに飲料原料の水、化学製品製造用の水、医薬品製造の水、半導体の集積回路の洗浄用水などに利用される超純水などである。本発明では原
料水として雨水を利用する。原料水としての雨水の精製度のレベルは現状不明であるが非特許文献2の調査を参照すると、工業用水から水道水のレベルあるいは
それら以上の精製度と位置付けられる。雨水のこの高いレベルの精製度を確実なものにする。すなわち、この高いレベルの精製度を確実にする方法としてより安
全性を高める方法を本発明で提案する。
【0011】
通常産業界では水の精製度を高める技術として、濾過などの篩効果を利用して混入している粒子成分を物理的に除去する方法がとられる。この方法では除去すべき粒子の径が小さくなると濾過に利用する材料の篩目(すなわち孔)が小さくなる。除去対象が分子のレベルとなると孔径は1nm以下となり濾過時に採用する圧力は大きくなる。例えば逆浸透に利用される膜の平均孔径は0.3nm程度となり膜への負荷圧力は50気圧程度となる。すなわち、濾過で除去により精製度をあげるには多くのエネルギーが必要となるばかりでなく、濾過操作に耐えるための材料も耐圧性を持つ金属製で重量も増し大型化する。
【0012】
汚染された水の精製度を上げるのに洗浄水処理を行う際に処理前の原水として水道水を利用する場合には原水には既に残留塩素が存在する。水中に溶解している他の化学成分を除去する方法として活性炭を用いた吸着処理が一般的である。化学成分の中で特にイオン性の金属成分の除去にイオン交換樹脂が用いられる。吸着処理の場合に注意すべきは、水が吸着材に接するために新たな汚染が起こるのみでなく、吸着材自体も溶解等による精製度を下げることもある。また水の汚染物質の化学構造が多岐にわたる場合には吸着処理は一般的な水の精製法とはならない。
【0013】
物理化学的な相分離現象を利用することで水の精製度を上げることも良く利用される。蒸留法は水の精製度を高める方法として一般的に利用される。特に理化学実験では良く採用されている。この方法では相分離を伴うために熱エネルギーの消費が多くさらに水が大気や蒸留装置に接する機会が多いので大気や装置の汚染の影響を強く受ける。
【0014】
天然の原水の入手の容易さのために原水の汚染度に関係なく地下水(井戸水も含む)や水道水、河川水が利用される。しかし、精製度を上げるためのエネルギ―コストを考えると原水中には溶解成分の種類や量が少ない方が望ましい。水の精製度を高める従来技術の共通する問題点として原水の精製度にほとんど注目していない。その典型例が海水の淡水化技術である。海水は原水としての精製度が低すぎる。非特許文献3には海水の淡水化技術が例示されているが精製度を上げるのに多大のエネルギーが必要であることがそれらの技術より伺える。
【0015】
原水の処理に孔拡散膜分離技術を利用した例は今までみあたらない。原水の精製度が高いが安全性に問題がある原水の処理には該技術の適用が考えられる。天然の原水の精製度の高い水資源として雨水がある。雨水には水中に溶解したりあるいは大気中より混入した成分がそのまま存在したり水中への溶解が不十分状態で混入分散していると考えられる。混入成分の中にはその存在状態が不明な不純物として存在することもある。このような不純物として細菌やウイルス等の微生物が含まれる。
【0016】
エネルギ―消費が極小化されてかつ水を汚染している微粒子の径が大きいほどこれらを簡単に高度に除去可能な膜分離技術が近年提案されている。ウイルス除去膜がその例である。最近の孔拡散膜分離技術と呼称されている技術もその例である。後者の技術は本発明でも利用される。この技術では処理対象である水の膜表面での流れ(一次流れと呼称)が層流である点と膜間差圧が0.05気圧以下で水以外の成分の膜内部での移動が拡散機構である点に特徴がある。膜内部での流れを二次流れと定義している。一次流れの膜表面での歪速度が2/秒以上で粘性流れである特徴を持つ。孔拡散膜分離技術では二次流れと一次流れとの流れ量の比が0.1と小さいのが特徴である。(特許文献1,2参照)。
【0017】
水中に分散あるいは溶解している少量の不純物を除去し、精製度を高める目的で原水を処理する技術として孔拡散膜分離技術を適用させた例はない。その理由はこの分離技術では水中の不純物を流体の流れの中心部のみに集める効果のみが強調されているためであろう。この部分のみを系外に除去することで不純物を除去する技術として利用されるのが一般的に予想されるためである。ここで孔拡散流れでの一次流体は、処理対象となる流体の膜表面に沿った流れの成分に対応している。
【0018】
孔拡散膜分離技術を具体的にモジュールとしたのが孔拡散膜モジュールである。低い膜間差圧と一次流れが粘性流れの層流として膜表面に沿って存在し、二次流れが膜を介した流れとして拡散流れとして存在する。装填される膜は孔の存在が明らかな多孔膜である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特許公開2017-000922
【特許文献2】特許公開2017-087097
【非特許文献1】松本光弘、市川博、市村国俊、板野龍光、全国公害研会誌、8巻、Nol、17頁―26頁(1983)
【非特許文献2】玉置元則、環境技術、14巻、No.2、132頁―146頁(1985)
【非特許文献3】(株)大阪ケミカルマーケッテングセンター、“分離膜に関する調査(第1巻)”、1980年
【発明の概要】
【発明が解決しょうとする課題】
【0020】
本発明の目的は天然に産する水として降雨を利用して、エネルギーをほとんど必要とせずに安全な純水を製造する方法を提案することにある。ここで本発明でいう純水とは先に定義した水である。地球規模では世界のどこかで常に雨が降っている。この雨を本発明の電気伝導度の低いかつ安全な水である純水の原水とする。雨の入手にほとんどエネルギーを必要としない。日本国土においてもほとんど切れ目のない程度で雨がふっている。ただしこの降雨には生物の生命活動に密接する細菌や花粉あるいはウイルス等の微生物そのものの大気中の汚染物質を内蔵する。大気汚染物質や感染性微粒子等をどのように避けて降雨を採取するのかという問題をまず解決しなくてはならない。
【0021】
特定した基準で降雨中の雨水を集めることが出来たとしても、この雨水に対して後続する技術を適用して雨水を純水に変える具体的な技術が不明である。むしろ後続する技術の内容を固定しないと逆に特定した採取すべき降雨の基準は提案さえできない。後続する技術は水を精製するのにエネルギーをほとんど必要としない観点より膜分離技術が好適であると予想する。
【0022】
膜分離技術を雨水採集後の精製方法と固定したとしてもこの精製方法に適した水の性状について規定される基準は定まらない。結局エネルギーをほとんど必要としない純水の製造方法を決めるには原水として雨水を利用し、精製方法として省エネルギーの膜分離技術を利用することしか推定できない。この技術を適用させる際にもこの技術の性質からどのような雨水を採取するのか。これを如何なる駆動力を利用した具体的な膜分離技術で精製するのかを明確にしなければ省エネルギーの特性のみで純水が製造できることにはならない。膜分離技術の省エネルギーの特性を利用するためには膜間差圧は従来の濾過技術で利用される圧以下の低めに設定されていなくてはならない。
【0023】
膜間差圧を1気圧未満に設定すれば膜分離装置の省エネルギ化は可能となり、また該装置の材料が軽量化され装置としての耐圧性の要求も低くなる。一方、膜間差圧の低下は膜分離装置に装填される膜の平均孔径を大きくしないと想定する処理速度が達成できない。膜の平均孔径の増大は膜による水処理後の精製度の増大が期待できない。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の第一の特徴は特定された地域に降る降雨のみを集積しこれをプラスチック製の受器内で雨水として集積する点にある。ここで特定された地域とは日本国内で海岸線より15Kmの内陸部を意味する。この内陸部での降雨を採集する。
【0025】
海岸線より15Km内陸部に特定した根拠は降雨中の雨水内の塩素イオン濃度の実測値と建設物の塩害の海岸線からの距離依存性の実測データと雨滴の降下速度に関する理論的考察に基づく。雨滴に働く力の間には重力加速度と空気との間に働く粘性力との釣り合いが成立する。理論的考察の結果によると、雨滴の大きさを定めると一定の落下速度を雨滴が持つ。雨滴の大きさを0.1mm径とすると落下速度は0.3m/秒である。風速を10m/秒の場合には雨滴はこの風速で流され、500mの天空から落下する場合には、最大17Kmの地表面での水平距離をこの雨滴は移動する。
【0026】
福岡県内、山口県内と大分県内で実測された降雨の平均的な電気伝導度を第1表に示す。福岡県内の例として、北九州市若松区二島では降雨の経時変化の詳細を
図1に示す。表1に例示されるように降雨の電気伝導度は海岸線からの距離が長くなるほど雨水の電気伝導度は低くなる。例えば表1の下関港で表示されている海上では800μS/cm、若松区北湊で海岸線から1kmでは90μS/cm、2Kmでは40μS/cm、4Kmでは20μS/cm、20Kmでは17μS/cm、40Kmでは9μS/cmである。ただし、9μS/cmの雨水を約1ケ月の長期保存を続けると有機性の微粒子の発生が認められる。すなわち雨水では電気伝導度での精製度が上がっても安全性は高まってはいない。雨水中にはエアロゾルが混入しているためと考えられる。
【0027】
水源として雨水を利用することによってエネルギーをほとんど使うことなく精製度の高い原水を入手できる。降雨のみを集積するには例えば家屋での屋根の雨樋等を利用するが雨樋の材質としてプラスチック製が望ましい。雨水のみを積極的に集積する目的の場合にはプラスチック製の板状物(フィルム等)で雨を受けこれを雨樋的なプラスチック製の導管で集積しプラスチック製のタンクに集積する。海水より産生する飛沫が風等で乾燥し海塩成分が空気中に残留する。海塩成分が空気中に浮遊しつつ金属成分を腐食する。海塩成分の一部は雨滴中に残留し、これが降雨による金属成分の腐食の原因となる。雨水を水源として回収する際には海塩成分の金属成分の腐食を防止するために、降雨の集積のために利用する材料としてプラスチック製の素材を利用する。
【0028】
本発明の第二の特徴は先に特定した地域の降雨の中で初期降雨のみを除去する点にある。ここで初期降雨とは、降雨の開始より降雨量2mm以内の降雨を意味する。降雨開始時より降雨量の2mm以内を除いた雨水のみを集めることにより大気中の汚染物質が降雨中に混入することを防止することが可能となる。初期降雨中のイオン成分の大部分が後述する複合膜ではほとんど除去出来ないことを見出し、本発明の降雨の選定の必要性に至った。
【0029】
屋根等の平面状の物体上に降雨を集めこれを雨樋等の導管に導き、該導管に直列的に連結した一定容量のタンクへ初期降雨を導く。第二図に導管と直列的に連結したタンクA(初期降雨を入れるタンク)と並列的に連結したタンクB(初期降雨に後続する降雨を入れるタンク)の2種類のタンクを示す。タンクAの一定容量の値はほぼ降雨面の面積と初期降雨の2mmとの積(体積量)で与えられる。ここで除去対象である初期降雨量2mmは後述の降雨体積中の水分率の理論値と実測される初期降雨中の塩素イオン濃度の変化より定められた。
【0030】
降雨体積は地表面積1平方cmから上空500メートルの間の体積(すなわち0.05立方メートル)である。初期降雨量はこの空間内の過剰水分量として計算された。過剰水分量は地表の温度(20℃)と上空の温度(0℃)とのそれぞれの飽和水分率の差(17.3gと4.9gとの差)をもとに算出される。
例えば上空200メートルで露点に達し、地表での相対湿度が70%とすると、過剰水分量は7.21(=(17.3x0.7-4.9))g/立方メートルでこの水分が上空200メートル~500メートルにわたって存在し、この過剰水分量が雨の原因となる。1平方センチメートルの地上面積で500~200メートルの高さの空気量である0.03立方メートルの空気にこの過剰の水分率が存在し、これが初期降雨の原因となる。このようにして見積った初期降雨の量は0.03x7.21≒0.22g/平方cmすなわち2.2mmである。一方、雨水の実測された塩素イオン濃度が降水初期の約1/10に減少する降雨量の実測は2mmであった。これらの降雨量の計算値と実測値とより、除去すべき初期降雨量として2mmを決定した。
【0031】
初期降雨のみを除外し、後続する降雨を集積するには
図2に示すタンクAとタンクBとの2種のタンクをそれぞれ導管に直列的におよび並列的に連結し、それぞれに初期降雨と後続降雨とに分けて集積すれば良い。初期降雨の成分に如何なる物質が多量に含まれているかは明瞭ではないが海塩成分が想定できる。
【0032】
本発明で利用される雨水としては日本の冬期での降水を採集しない方が望ましい。選定される雨水として11月から翌年の2月までの冬期の降雨を除外するのが好適である。除外するのはこの期の降雨が少ないだけでなく、この期の雨水の電気伝導度が一般的に高いためである。例えば雨水の電気伝導度が50μS/cm以上の降雨が多い。またこの期の雨水には黄砂等の異常な大気汚染を反映しやすい。
【0033】
本発明の第三の特徴は前述のように特定された降雨を集積しこれを以下に示す特徴を持った孔拡散膜分離モジュールを用いて膜間差圧が0.05気圧以下で膜表面での一次流体の流れ速度が2/秒以上で膜処理することにある。すなわち、該孔拡散膜モジュールに装填される膜は平均孔径20nm以上200nm未満の平膜のセルロース製の複合膜であり、膜厚は600μm以下で空孔率は60%以上である。平膜の平均孔径は雨水中には混入する微粒子として細菌が考えられこれを除去する機能を持たせるために200nm未満の孔径が必要である。また回収される雨水の孔拡散による回収速度が平均孔径で20nm以上になると急増する。ここで孔拡散とは多孔膜内部の孔を介しての水以外の成分の物質輸送が主として拡散機構で行われる膜分離を意味している。この孔拡散は装填される平膜の平均孔径が10nm以上で多数の孔の存在が電子顕微鏡で確認されるいわば多孔膜においてのみ起こる。多孔膜で膜間差圧が小さく一次流体の流れ速度が2/秒より大きく層流である場合の組み合わせで実現される。該膜を透過する成分には粒子成分がなくそのため該膜を通過する水成分中には粒子成分はほぼ皆無である。集積された雨水の安全な純水にするには孔拡散膜分離による精製工程が不可欠である。
【0034】
本発明における孔拡散膜分離モジュールの構成は充填される多孔膜を除けば特許文献2で示された特徴をすべて持つモジュールである。装填される多孔膜は前述のように平膜のセルロース製の複合膜である。すなわち、(ア)一次流路
長さ3cm以上、(イ)流動分別を伴う長さ6cm以上の一次流路域、(ウ)平膜の裏面と3種の板条壁面で構成される拡散域の貯留域、(エ)流路が一体化される一次流体の集積域の4種の領域で構成されるモジュールである。
【0035】
第3図に本発明で利用する孔拡散膜分離モジュールの典型例であるプラスチック製ダンボール状の模式図を示す。プラスチックとして溶融成型の容易なポリエチレン、ポリプロピレンやポリカーボネートが利用される。これらの素材高分子を段ボール状に成型して断面形状が長方形の中空部を持つハーモニカ状の板状物を作製する。すなわち、2枚の板状のプラスチック板を多数の短冊状の板で階段的に結合したハーモニカに似た断面構造を持つ。このハーモニカの中空部を一次流体である雨水が層流として流れる。装填された複合膜および総体であるモジュール自体がプラスチック製であるため軽量でかつ雨水による腐食がない利点を持つ。
【0036】
第3図のモジュールの断面構造に特徴がある。2枚の板状のプラスチック板(ライナーと呼称)の間に多数の等間隔に並んだ短冊状の柱(リブと呼称)が挟まれたハーモニカ状の中空構造を持つプラスチック製段ボールの断面構造を持つ。そのためプラスチック段ボール状孔拡散膜分離モジュールと略称する。該構造体の柱部(リブ部)を残し、板状部(ライナー部)のプラスチック板部の板状部を除去し、これに替えて複合膜を装着すればプラスチック段ボール状のモジュールが作製出来る。ハーモニカ状の中空部に雨水が流れこの流れが一次流体に対応し、層流で膜間差圧が0.05気圧以下でわずかに加圧状態にある。
【0037】
上記のモジュールの運転状態では一次流体は層流状態で流れる。そのため流体(この場合は雨水)内の粒子による複合膜の孔の目詰まりが防止できる効果が認められる。孔拡散膜分離モジュール内の一次流体内部において分別効果が表れて粒子成分は流れの中心部分に集まる。平膜状である複合膜を通過した粒子のない水のみを回収することで純水を製造する点に本発明の特徴がある。また該孔拡散膜分離モジュールに装填される複合膜と一次流体の流れをつくる回路などモジュール全体がプラスチック製である。集積される雨水の酸性度が酸側にあるのでこの雨水によってモジュールの腐食はほとんどない。
【0038】
膜間差圧を低めれば低めるほど純水として回収される水溶液の電気伝導度は低下する。しかし、低めるほど雨水の回収速度は低下する。そのため膜間差圧は0.02気圧程度まで高める必要がある。膜間差圧の上昇は雨水の回収速度の増加と回収水の精製度の減少をもたらす。この膜間差圧に認められる関係は該モジュールに装填される複合膜の平均孔径にも認められる。例えば該膜の平均孔径が20nm以上でなければ回収速度は極度に減少し、平均孔径が100nmを超えると回収される水の精製度は減少する。
【0039】
膜間差圧を0.02気圧までに低めると同時に一次流体の流れ速度を10/秒以上に高めると回収液の精製度は上がる。ただし、これらのモジュールの運転条件をモジュールの設置条件(例えば、一次流体の流れ速度を変えるために一次流体の流れの方向を水平方向からの角度を高めるなど)を変更することによって人工的なエネルギーを利用せずに実現できる。該モジュールは小型で軽量でありしかも動力なしでも条件設定を簡単に変更できる。膜間差圧と一次流れの速度を変えることによって孔拡散膜分離条件の変更は可能である。該モジュールは特許文献2に与えられたモジュールと同一形状と構成を持つ。ただし装填された多孔膜のみが本発明で与えられた平膜状のセルロース製の複合膜である点が異なる。また該モジュールでの処理対象が雨水であるため一次流体を流すためのモータ等の駆動力を利用することなく自然の水の流れのみで実現する省エネルギーの駆動力を利用する点に本発明の特徴がある。
【0040】
本発明で降雨水より最終的に純水を製造する技術を提示している。ただし、その技術を具体化する際には自然のエネルギーを利用し、電気的な駆動力を利用しないという省エネルギー的な特徴がある。電気的なエネルギーを使用しないで良いのは、特定された雨水のみを集積し、それを特定された膜を装填した孔拡散膜分離モジュールを用いることで自然的な駆動力(例として膜間差圧としては水頭差圧として1メートル未満の水中頭差)のみで雨水中の微粒子成分を除去することができるためである。該モジュールが特定された運転条件で孔拡散の特徴を発揮できる。特定された孔拡散膜分離モジュールに装填された平膜の平均孔径は160nm以下が望ましい。その理由は回収される雨水中での感染性物質がたとえ存在してもレトロウイルス以上の径を持つ微生物は含まないためである。微粒子径が160nmを超えるウイルスでは結核菌等の空気を介して感染する微生物としてのウイルス(例としてコロナウイルス)がある。平均孔径を低めに設定することで回収される雨水の安全性が高まり該雨水の医療機器の洗浄水としての用途の可能性が高まる。雨水の回収速度を上げるのに平均孔径としては80nm以上が好適である。
【0041】
本発明で孔拡散膜分離モジュールに装填されたセルロース製の複合膜は以下に示す製法で作製される。すなわち、アスペクト比20以上の天然セルロース短繊維を平膜状の集合体として膜厚170μm~400μmのろ紙状の平膜としこの平膜の表面上に酢酸セルロースのアセトン溶液とメタノール/シクロヘキサノール/塩化カルシュウム2水塩との3種の貧溶媒との5種成分の混合溶液を塗布することによって作製される。この混合溶液は良溶媒であるアセトンの蒸発によってミクロ相分離を起こす。ミクロ相分離後、水洗し、アリカリ水溶液で鹸化処理後水洗し、乾燥することによって天然セルロース繊維と再生セルロース微粒子との複合膜が作製出来る。該複合膜の平均孔径は主として酢酸セルロースとアセトンとの比で決まる。
【発明の効果】
【0042】
降雨を水源として利用することにより省エネルギー的に原水が入手できる。降雨の採取場所を特定することにより、降雨中に混入する可能性の高い海水成分(海水のしぶきなどから水分が蒸発した後に残る海塩成分)を降雨中から除去できる。また特定した初期降雨中には海塩成分の他に大気中の環境汚染物資である煤やNOx成分やSOx成分なども存在するのでこれらの大気汚染も一部除去できる。初期降雨を除去することで雨水中の塩素イオン濃度を1/10に低下させることが可能となり孔拡散法での精製度の高い純水を製造するのに適する。
【0043】
特定された降雨成分をさらに孔拡散膜分離することにより、雨水中に混入する恐れのある感染性粒子成分を除去できる。該膜分離によりばかりでなく海塩成分であるが雨水中への未溶解粒子成分を除去できる。これらの粒子成分を除去することで降雨中に存在していた有機性の微粒子もほぼ完全に除去される。そのため作製された純水として長期保存が可能となる。雨中に存在していた有機性のエアゾル成分が除去され安全性が高まった純水が提供できる。雨水の電気伝導度が10以下でも該雨水を1ケ月以上長期に保存していると有機性で非晶性の沈殿成分が発生する場合があるが孔拡散処後にはこの沈殿物は発生しない。本発明の純水は医療系材料の洗浄水あるいはバイオ産業での洗浄水として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】北九州市若松区二島での短時間(10時間)降雨の雨水の電気伝導度の降雨時間依存性(a図)および長時間(4日間)降雨の雨水の電気伝導度の降雨時間依存性(b図)。測定地点;北九州市若松区二島の地上より25メートルの高さ(マンションのテラス)、本地点より北側5kmに海岸(響灘)線、南西側0.7kmに河川、南側0.2kmに洞海湾、東側は15km内には陸地部である。
図1(a)中の実直線の縦方向の矢印は北~北西の風で風速20m/秒の降雨であったことを示している。
図1(a)および(b)中の水平方向の実直線1,2,3および4は電気伝導度のレベルを示し、それぞれ二島陸地部上空(おそらく500m)、二島陸地部と洞海湾上空(おそらく500m)、洞海湾上空(おそらく500m)および響灘上空(おそらく500m)の雲からの降雨と考えられる雨水の電気伝導度のレベルと予測している。
【0045】
【
図2】初期降雨を除去するためのシステムの原理を示す模式図。タンクA;初期降雨を選択的に貯留するためのタンクでその容量は雨水の採取面積と所定の初期雨量によって決まった容量を持つ。例えば雨水の採集面(採取面Aと略省)の面積がS(単位として平方メートル)で初期雨量が2mmであればタンク容量は2Sリットルである。タンクB;初期降雨に後続する降雨水を貯留するためのプラスチック製のタンク。雨水の採取面に応じてタンクの容積は設計されるが容量が採取量に応じて変化可能なプラスチック製の袋などで構成される。導管C;2種のタンクA,Bと雨水の採集用の平面状物質(採取面A)を連結する導管でプラスチック製のパイプ状物質。採取面A,タンクAと導管Cとは直列的に連結し、タンクBとは並列的に導管Cは連結している。初期降雨とは4時間以上、通常は10時間以上降雨の無い状況が続いた後に再開した降雨であり、降雨の開始より降雨量2mmまでの降雨を意味する。この降雨中には拡散によて輸送された大気中の海塩成分が混入していることが多い。
【0046】
【
図3】プラスチックダンボール(通称プラダン)状の孔拡散モジュールの構造を示す模式図。
図a:孔拡散モジュールの外観図、3枚のシート状物(シート1,シート2,シート3)と一次流体(雨水)の流出入口(e1,e2)、および拡散液の流出口(e3)とで構成される。シート1には空気の出入口を有し、シート状物2は複合膜とパッキング部とで構成される。シート3はプラダンの加工品で一次流体の流出入口(e1,e2)で構成される。
図b:モジュールを構成する3種のシート状物の平面図、シート1;プラスチック段ボールのライナ―部の下面の一部(いわゆる下部、図中で破線の直線で表示)のみが切断除去されている。この部分当するシート2部分に複合膜が装填される。シート2;パッキング部と複合膜部とで構成されるシート状物で両者の接合部には接着剤の役割をする包埋剤が存在する。シート3;プラスチック段ボールのライナー部(いわゆる上部のライナ―部)の一部のみが除去されている。この部分に該当する一部のシート2の箇所に複合膜が装填される。図c;モジュールの断面図。1-1’の断面と2-2‘の断面、1-1’断面にはリブの垂直断面が現れ一次流体の流れ方向に直交した方向からの断面であり、2-2‘断面はモジュールの長軸方向の沿って平行に存在するリブ面の方向と複合膜の厚さ方向との二方向で定まる断面である。この断面に沿って一次流体の流れに平行な面でもある。
【0047】
【
図4】採取した雨水をプラスチック段ボール状の孔拡散モジュールで膜処理する装置のモデル図:特定された採取条件で貯留された雨水が受器R1に満たされている。該雨水は孔拡散膜分離モジュールMによって膜処理後受器R2に流入される。孔拡散膜分離モジュールMはその長軸が水平な直線(図中一点鎖線で表示)と一定の角度αだけ傾いている。αを指定することでモジュール内での複合膜へ付加される膜間差圧を指定する。膜の長手方向の長さをLとすると膜間差圧=(Δh1-Δh2)/2=L/2・ sin αで与えられる。雨水の流れ速度は膜間差圧の場合と同様にsinαと該モジュールのリブ部の高さで定まる。雨水の流れは図中の実線の矢印でその方向とが示されている。流れはs1,s2,s3およびs4で示される。すなわち回収された特定の雨水は受器R1からチューブを通ってs1の流れとなり、孔拡散膜分離モジュールM中の流れs2となる。該モジュールで膜処理を受けた雨水はR2にs3を介して集積する。集積した雨水の一部はポンプPあるいは人力により受器R1に再び戻される。雨水は流路s2の箇所で複合膜cmによって孔拡散膜分離を受けて拡散液となりその流れ(図中破線の矢印)d1となる。拡散液はチューブによってd2の流れとなりモジュールに連結している受器R3に回収される。
【発明するための最良の形態】
【0048】
一定の降雨時間を経過した後(約10分程度)の雨水を福岡県朝倉町の地点(標高約100メートル)で令和4年10月と12月とに採集した。それらを試料1と試料2した。同地点は、玄界灘、有明海および周防灘の3種の海岸線より約45Kmの内陸部に位置する。採取した雨水の電気伝導度は試料1と2とのそれぞれで9μS/cmおよび22μS/cmであった。若松区の二島地区で例示された降雨の電気伝導度の結果(
図1に典型的な例を示す)のように雨水の電気伝導度(水中に溶解した塩類の濃度に比例)は降雨時間と共に急速に低下する。初期降雨中の電気伝導度に寄与する成分は主として海塩成分である。この成分を孔拡散膜分離のみで除去するのは困難であるので雨水の採取の段階で効率的に除去する必要がある。
図1(a)の実線矢印部分は北風が2メートル/秒以上の風が吹いていた時である。この時には北側の海岸線である響灘上空の雲に原因した降雨によって雨水の電気伝導度が急上昇している。
図1(b)の破線の矢印は雨が中断する場合に風向きが変化することが同時に起こっていることを意味する。海岸線より15km内陸部では
図1(b)に示すレベル4の降雨が起こらないことが予測できる。
図1の二島地区での降雨では海岸線からの風が強いと
図1(b)のレベル4の雨水中の電気伝導度は上昇する。海岸線より雨水の採取点の距離が15Kmよりさらに遠くなると雨水中の電気伝導度はさらに小さくなると予測される。
【0049】
表1に雨水採集地点までの海岸線からの距離を変化させた際の雨水の電気伝導度を示す。雨水の採取地点は福岡県と山口県と大分県とに分布している。海岸線からの採取地点までの距離は4万五〇〇〇分の1の地図上で計測された値を用いた。
採取された雨水は降雨量として20mm~50mmの間の降水量のいずれかのところで集められた雨である。雨水の電気伝導度は海岸線より遠のくと急速に低下し、15Km以上となると10μS/cm以下のレベルまで下がることが分かる。しかし海岸線より40Kmの地点である朝倉での雨水はその電気伝導度は10μS/cm以下である場合が多いにもかかわらずその雨水(例えば試料1の雨水)は以下に示すように有機性の異物が混入していて安全ではない。
【0050】
該雨水をプラスチック製の容器内の密閉状態のまま室温で1週間放置すると肉眼でも観察できる程度に成長した異物が発生する。この異物は薄緑~灰色を呈し比重は雨水に近いがやや大きい1.0である。この異物の偏光顕微鏡での観察より、異物が無定形の有機物で構成されていることが明らかとなった。比重、無定形、および雨の原因とを考慮するとこの異物は有機性のエアロゾルが成長したものと結論した。したがって、特定した雨水には有機性の無定形の異物が混入したままであり、後続する孔拡散膜分離処理が安全な純水を製造するのに不可欠であることがわかる。
【0051】
表1に示す雨水の採取地点の中で雨水の電気伝導度の低い例として朝倉を取り上げる。同地点での雨水で初期降雨を除外すると電気伝導度のレベルでは純水のレベルではあるが粒子の除去性能については純水の条件を満足していないことは明白である。例えば該雨水を数日間保存していると雨水中に有機性の微粒子が発生することで分かる。朝倉で採取した雨水である試料1を2分割して室温で2週間保存した。すなわち、分割された1成分である採取された雨水をペットボトル中に移し密閉状態で室温保存した(これを試料1bと略称)。残りの雨水を
図3の孔拡散モジュールで膜処理した(試料1s)。
【表1】
【0052】
試料1sの処理条件は以下の通りである。膜モジュールに装填されたセルロース製複合膜の平均孔径は90nmで空孔率は80%、膜厚390μmの多孔膜である。膜間差圧0.02気圧で一次流体としての雨水の歪速度は100/秒の運転状況で雨水を孔拡散膜分離処理し、処理後にペットボトル中に注ぎ密閉して室温で保存した。試料1sと1bとの電気伝導度はそれぞれ8~9μS/cmであり、試料1sでは1Bに比較して1μS/cm程度小さくなっているが両者にほとんど差がなかった。しかし、試料1bの下部に白色~灰色の綿状物の浮遊塊が発生し、大きさ5mm径まで成長していた。一方、試料1sでは雨水の透明度において試料1bより高くさらに綿状の浮遊粒子の発生は認められなかった。この事実より試料1sは本特許で定義した純水であると結論した。
【0053】
電気伝導度が10μS/cm以下でありかつ0.2μm以上の径の粒子を含まないことが本発明での純水の定義である。実験的に雨水の電気伝導度を実測するのは容易である。しかし、該粒子を含まないことを実証することは不可能であろう。何故ならば粒子を含まない対象液体の量が定義されていないので1ml規模なのか1Kl規模なのか不明である。人体への安全性の要求より“粒子を含まない”との条件を入れたことを考慮すると、本発明では“0.02μm径のコロイド粒子の対数除去係数Φが2以上である孔拡散膜分離技術”での処理でこの項の必要条件を満足していると結論した。Φは次式で与えられる。
Φ= log N0/Nf (1)
ここで、N0は孔拡散膜分離処理前のコロイド粒子の濃度、Nfは膜処理後の溶液中の濃度である。
【実施例0054】
福岡県朝倉市須川地区の標高約60メートルの地点に降雨の採集地区と定め
図2の初期降雨を除去した雨水の貯留用タンクシステムを組み立てた。該地点は海岸線より40Km内陸にある。採雨面としてポリエチレン製のシート(厚さ0.05mmを2枚重ね)を正六角形の傘状に組みたてその中心部より導管を接続し、採雨面積として0.81平方メートルに仕上げた。タンクAはポリエチィレン性のボトルであり容積を2リットルとした。タンクBは容積18リットルのポリエチレン製の容積である。導管Cとしてポリ塩化ビニール製のパイプ(直径3cm)を切断し接着固定して
図2のように試作した。
【0055】
令和5年3月21日の降雨を
図2の装置を用いて採取した。風速は10 m/秒以内であることを確認後初期降雨を採取した。初期降雨として約2リットルの雨水をタンクAに貯留すると自動的に雨水はタンクBに貯留し続けた。タンクB内の降雨の電気伝導度は24μS/cm であり、一方、タンクB内の降雨の電気伝導度は5μS/cmであった。初期降雨の成分がタンクAに貯留され、この成分の電気伝導度が高いことが分かる。初期降雨を除去することで採集された雨水が純水であるとする必要条件を満足させるために必須であることが分かる。初期降雨に関する北九州市若松区二島地区(海岸線より約2~4km内陸部となる)でのデータより初期降雨の成分が海の上空より注目する地区の大気中に拡散した海塩成分の寄与が大きい。この見解を考慮すると初期降雨を除去する雨水の採取方法を内陸部の雨水を採取するとする本願の方法の妥当性を支持している。
【0056】
ポリカーボネート製のプラスチック製の段ボール(プラダンと略称)を利用して
図3に示す孔拡散膜分離モジュールを製作した。すなわち、
図3に示すプラダンのシート1とシート3のライナー部の片側の一部を切除し、その部にシート状物2を挿入し接着した。シート2のスペーサー部(すなわちパッキング部に相当)は厚さ0.5mmのエチレン・プロピレンゴム製のパッキングシートで構成されている。シート2の複合膜部は平均孔径80nm(ろ過速度法での測定)で空孔率72%の平膜状でセルロース製である。該複合膜は以下のミクロ相分離法で作製した。天然セルロース短繊維の平膜形状体として市販のろ紙(セルロース製、Whatman社製Grade 3、型番1003917、厚さ約390μm)を採用した。ろ紙を2等分して23cmx57cmの2枚を作製した。それぞれのろ紙の一表面にスチームアイロン処理し、この面をろ紙の表面とした。
【0057】
このろ紙表面上にアプリケーターを用いて流延厚さ750μmで流延用の溶液を25℃で塗布した。ミクロ相分離を生起する流延用溶液の組成として酢酸セルロース/アセトン/メタノール/シクロヘキサノール/塩化カルシウム2水塩の重量比率を0.07/0.57/0.15/0.15/0.06とした組成を採用した。流延後4時間かけて流水下で12時間水洗後、1規定の水酸化カリウム水溶液で48時間鹸化処理した。処理後流水を用いて24時間洗滌後25℃で定長下で乾燥しセルロースの複合膜を作製した。
【0058】
上記の製法で作製された複合膜の膜厚は410μm 、水の濾過速度法での平均孔径は0.08μm、空孔率72%であった。本膜の水酸化第二鉄コロイド粒子水溶液(動的光散乱法での平均粒子径20 nm、日本特殊膜開発(株)製、コロイド濃度1200 ppm)の膜間差圧0.015気圧での対数除去係数は2.0であった。該複合膜をシート2に示すシート状物(スペーサー部と複合膜との接着には市販の溶剤系接着剤を利用)に成型した。これを
図3に示すポリカーボネート製のプラダン型孔拡散モジュールに装填した。リブ高さ3.5mm、リブ間隔6.5mm、ライナー部厚さ0.5mmであった。膜間差圧を0.05気圧以下で運転するためにモジュールの耐圧性は0.1気圧で十分であり、プラダンの強度はこの圧力に耐える。
【0059】
複合膜を装填したプラダン型の孔拡散モジュール(有効膜面積180平方cm)を利用してタンクB中の雨水を膜処理した。該モジュールを
図4に従って膜処理装置を組み立てた。該モジュールの長軸方向(膜の長さをLとしこの方向が長軸方向となる)は水平方向に対してαだけ傾斜させる。このαを設定することにより膜間差圧はL/2・sinα(水柱ヘッド差で表示)で算出される。αとして1.3°、L=40cmとした。計算された膜間差圧は40/2・sin1.3°で約0.5cmH2O(すなわち約0.0005気圧)が複合膜に負荷される。この膜間差圧により雨水中の水分子のみが濾過機構により複合膜中を移動する。この水の移動に伴って雨水中の水以外の分子の拡散も起こり膜を介した輸送が起こる。雨水中に溶解あるいは分散しているエアロゾルが膜処理で除去される。膜表面での流れ速度S2はS3に近似的に近い。S3は回路S3内に設置されている流速制御コックの開閉でほぼ流速は決定される。S3の流れ速度を10/秒に設定した。雨水の流れ速度この膜除去により回収された雨水の成分は膜を拡散して膜の裏面側に移動して拡散液の流れd1となる。本発明では図中のd1あるいはd2の拡散液の流れとなった雨水成分を回収する。拡散液の流れはd2を通って
図4中の受器R3で回収される。R3内の拡散後の雨水成分の電気伝導度は約4~5μS/cmであり膜処理により約1μS/cm低下している。また該水の透明度は肉眼的観察でも明らかな程度に膜処理により増加していた。
【0060】
複合膜に沿ったタンクB中の雨水の流れは、その流速と流れの駆動力の負荷条件と流れの直接的な観察結果より層流であった。該流れ速度はひずみ速度で表現される。すなわち、S2の流れ速度はひずみ速度としてはリブの高さ5mmであるのでS2/(4・(リブの高さ))で近似できる。S3につけた制御コックでS2値を定める。S2のひづみ速度は10/秒に設定することでS2を流れる雨水で粒子成分が流れの中央部へ集中する。この条件下では膜分離技術での流動分別機構が利用できる。そのため受器R3の雨水の透明度が高くなったと考えられる。タンクBの雨水とR3の雨水とをペットボトルに栓をして15℃の室温で1週間保存した。その結果、タンクBの雨水からは0.1mm~3mm径の緑灰色の綿状の浮遊物が発生した。一方、R3内の雨水では浮遊物の発生は認められなかった。この実験結果より複合膜を利用した孔拡散膜処理により雨水中に存在するエアゾルが除去されていると考える。
【0061】
図4に示すプラダン型の孔拡散モジュールの膜処理装置に液流速制御ポンプPを雨水の流れ回路S4に設置することで受器R2中の雨水を受器R1に自動的に注ぐことが可能となる。そのために雨水に対して複数回の孔拡散による膜処理も可能となる。複数回の膜処理により雨水内部に分散していたエアロゾル成分が濃縮できる。
雨水中に溶解する塩成分や分散する有機性物質など空気中に分散する微粒子の除去は雨水を飲料用や工業製品の洗浄用水などの用途に用いる際には品質管理上で必須である。本発明で提供する純水は、食品用や洗浄用水のみでなく、化学製品製造用(例、尿素水)に適用される。また微粒子が感染性微生物(例、ウイルス、細菌など)や花粉などの成分微粒子のように生体への作用が強い物質の場合などはその除去は健康管理上でも必須である。産業としては医薬品製造、再生医療等製品の製造、食品・化粧品製造などの製造工程での清浄用に本技術が用できる。
tank A;雨受けのシート(rain reservoir sheet)に降った雨を導管(pipe)Cを介して導管に直列的に連結しているタンクである。タンクの体積量は2mmの雨の降雨量に匹敵する値で設定されている。タンクの材質はプラスチック製である。tank B;導管Cを介して並列的に連結しているタンクで、定常降雨を集積するタンクである。タンクの材質はプラスチック製である。pole;雨受けのシートを支える支柱。Rigger lid; tank Aの雨水がtank Bへ逆流しないためのしかけ。
e1;孔拡散モジュールのシート1(膜を介して拡散や濾過した膜処理後の雨水の成分が流動するシート)に設けられた雨水の出入り口。e2;孔拡散モジュールのシート3に設けられた膜処理前の雨水の出入口。cm;複合膜。ad;スペーサー(sp)と複合膜との間の隙間を接着する接着剤。sp;スペーサーで複合膜の膜厚と等しい厚さを持つエチレンープロピレン共重合体の膜状物。複合膜の厚さ方向を通した雨水の流れを防止する。ln;プラスチック製段ボール(シート1および3を構成する)ライナー部。rb;プラスチック製段ホ゛ールのリブ部。se;シール部。P;雨水を受器R2から受器R1へ揚げるための液体用のポンプ。
f;空気の流入口に設置した空気除菌用フィルター。M;孔拡散用膜分離モジュール。d1;膜を透過した雨水の拡散液の該モジュール内の流れ。d2;雨水の拡散液に近い成分が該モジュール内での流れを作りこの流れは受器R3へ流出する。s1、s2,s3およびs4;細線の矢印に沿った雨水の流れを実現する回路で、s1は受器R1から膜分離モジュールの入口部へと連結する回路で、s2は該モジュールの入口部より空気用フィルターfが存在する出口部への流れを形成する回路で該モジュール内の雨水の回路である。s3は受器2へ導く雨水の流路で水柱頭差Δh2が流れの駆動力となる。s4は受器R2内の雨水をR1へ輸送するための回路である。この輸送には液体ポンプPが利用され自動的に輸送される。R2からR1の輸送が手動でなされる場合にはこの回路を利用することはない。R1,R2およびR3;膜処理前の雨水を一次的に保存するためのプラスチック製の受器。Δh1;受器R1とR3との間の水頭柱差、Δh2;受器R1と膜分離モジュールMの出口との間の水頭柱差。