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特開2024-170934RIS素子、アンテナ、アンテナ装置、通信装置及びアンテナ装置の制御方法
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  • 特開-RIS素子、アンテナ、アンテナ装置、通信装置及びアンテナ装置の制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170934
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】RIS素子、アンテナ、アンテナ装置、通信装置及びアンテナ装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   H01Q 15/14 20060101AFI20241204BHJP
   H01Q 3/24 20060101ALI20241204BHJP
   H01Q 3/26 20060101ALI20241204BHJP
   H04B 7/0413 20170101ALN20241204BHJP
【FI】
H01Q15/14 B
H01Q3/24
H01Q3/26 Z
H04B7/0413 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087711
(22)【出願日】2023-05-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人情報通信研究機構 「革新的情報通信技術研究開発委託研究/Beyond 5G研究開発促進事業/次世代の5次元モバイルインフラ技術の研究開発」 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 真吾
(72)【発明者】
【氏名】小野 真和
(72)【発明者】
【氏名】若藤 健司
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昂平
【テーマコード(参考)】
5J020
5J021
【Fターム(参考)】
5J020AA03
5J020BA06
5J020CA04
5J021AA04
5J021AA09
5J021AA11
5J021DB03
5J021FA06
5J021FA31
5J021GA02
5J021HA05
5J021JA07
(57)【要約】
【課題】RIS素子アレイで構成された単一のアンテナを用いて電波の送信及び受信を行う。
【解決手段】アンテナ4には、電波TW及びRWが入射する。アンテナ制御部5は、アンテナ4を制御する。アンテナ素子は、電波TWを受信して送信信号TSを出力し、電波RWを受信して受信信号RSを出力する。位相変換部は入力する信号に所定の移相量を与えた信号を出力し、スイッチはアンテナ素子を、位相変換部及び外部の受信手段のいずれかと接続する。アンテナ4に電波TWが入射する場合、スイッチがアンテナ素子と位相変換部とを接続し、所定の移相量が与えられた送信信号TSがアンテナ素子から放射される。複数のRIS素子から放射された電波TWは所定の方向に偏向される。アンテナ4に電波RWが入射する場合、スイッチがアンテナ素子と外部の受信手段とを接続し、外部の受信手段が受信信号RSを受信する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電波を受信して送信信号を出力し、第2の電波を受信して受信信号を出力する第1のアンテナ素子と、
入力する信号に所定の移相量を与えた信号を出力する第1の位相変換部と、
前記第1のアンテナ素子を、前記第1の位相変換部及び外部の受信手段のいずれかと接続する第1のスイッチと、を備え、
前記第1のアンテナ素子に前記第1の電波が入射する場合、
前記第1のスイッチが前記第1のアンテナ素子と前記第1の位相変換部とを接続することで、前記第1の位相変換部で前記所定の移相量が与えられた前記送信信号が前記第1のアンテナ素子から第3の電波として放射され、
アレイ状に配列された複数の前記第1のアンテナ素子と接続される複数の前記第1の位相変換部のそれぞれで前記送信信号に与えられた前記移相量によって、前記複数の前記第1のアンテナ素子から放射された前記第3の電波は所定の方向に偏向され、
前記第1のアンテナ素子に前記第2の電波が入射する場合、前記第1のスイッチが前記第1のアンテナ素子と前記外部の受信手段とを接続することで、前記外部の受信手段が前記受信信号を受信する、
RIS(Reconfigurable Intelligent metaSurface)素子。
【請求項2】
アレイ状に配列された、複数の請求項1に記載の前記RIS素子と、
前記複数の前記RIS素子の動作を制御するRIS素子制御部と、を備え、
前記複数の前記RIS素子のそれぞれは、
前記第1の位相変換部は、前記RIS素子制御部による制御に応じて、前記入力する信号に前記所定の移相量を与えた信号を出力し、
前記第1のスイッチは、前記RIS素子制御部による制御に応じて、前記第1のアンテナ素子を、前記第1の位相変換部及び前記外部の受信手段のいずれかと接続する、
アンテナ。
【請求項3】
送信信号を第1の電波として放射する放射部と、
前記第1の電波を反射する反射部と、
前記反射部が反射した前記第1の電波と、外部から前記第2の電波と、が入射する請求項2に記載の前記アンテナと、
前記アンテナの動作を制御するアンテナ制御部と、を備え、
前記RIS素子制御部は、前記アンテナ制御部による制御に応じて、前記第1の位相変換部及び前記第1のスイッチを制御する、
アンテナ装置。
【請求項4】
前記第1の位相変換部は、一端が前記第1のスイッチと接続され、開放端である他端によって前記送信信号を反射する、線路長が異なる複数の線路を有し、
前記RIS素子制御部による制御に応じて、前記第1のスイッチが、前記第1のスイッチに接続される線路を前記複数の線路から選択することで、前記送信信号に与える移相量を変更可能である、
請求項3に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記反射部は、アレイ状に配列された、前記第1の電波が入射するRIS素子である反射素子からなる反射板として構成され、
前記反射素子は、
前記第1の電波を受信して前記送信信号を出力する第2のアンテナ素子と、
前記送信信号に所定の移相量を与えた信号を、前記第2のアンテナ素子へ出力する第2の位相変換部と、
入力される信号を終端する終端器と、
前記アンテナに前記第1の電波が入射する場合には前記第2のアンテナ素子と前記第2の位相変換部とを接続し、前記アンテナに前記第2の電波が入射する場合には前記第2のアンテナ素子と前記終端器とを接続する第2のスイッチと、を備え、
前記第2の位相変換部で移相量が与えられた前記送信信号は、前記第2のアンテナ素子から前記アンテナの方向へ偏向された前記第1の電波として放射される、
請求項3又は4に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記外部の受信手段は、前記複数の前記RIS素子から出力される複数の前記受信信号を合波した信号のノイズ成分が所定値よりも小さくなるように、前記複数の前記受信信号の振幅及び位相を制御する、
請求項3又は4に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
請求項3又は4に記載の前記アンテナ装置と、
送信信号を出力する送信手段と、
前記アンテナ装置からの受信信号を受信する前記外部の受信手段と、を備える、
通信装置。
【請求項8】
送信信号を第1の電波として放射する放射部と、前記第1の電波を反射する反射部と、前記反射部が反射した前記第1の電波と、外部からの第2の電波と、が入射するアンテナと、前記アンテナの動作を制御するアンテナ制御部と、を備えるアンテナ装置において、
前記アンテナは、アレイ状に配列された、前記第1の電波及び第2の電波が入射する複数のRIS(Reconfigurable Intelligent metaSurface)素子と、前記アンテナ制御部による制御に応じて、前記複数のRIS素子の動作を制御するRIS素子制御部と、を備え、前記複数のRIS素子のそれぞれは、前記第1の電波を受信して前記送信信号を出力し、前記第2の電波を受信して受信信号を出力するアンテナ素子と、前記RIS素子制御部による制御に応じて、入力する信号に所定の移相量を与えた信号を出力する位相変換部と、前記RIS素子制御部による制御に応じて、前記アンテナ素子を、前記位相変換部及び外部の受信手段のいずれかと接続するスイッチと、を備え、
前記アンテナに前記第1の電波が入射する場合、
前記複数のRIS素子のそれぞれの前記スイッチによって前記アンテナ素子と前記位相変換部とを接続して、前記位相変換部で前記所定の移相量が与えられた前記送信信号を前記アンテナ素子から第3の電波として放射し、
前記複数のRIS素子のそれぞれで前記送信信号に与えられた前記移相量によって、前記複数のRIS素子から放射された前記第3の電波を所定の方向に偏向させ、
前記アンテナに前記第2の電波が入射する場合、前記複数のRIS素子のそれぞれの前記スイッチによって前記アンテナ素子と前記外部の受信手段とを接続し、
前記外部の受信手段で前記受信信号を受信する、
アンテナ装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、RIS素子、アンテナ、アンテナ装置、通信装置及びアンテナ装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通信技術の進歩に伴い、無線信号の送受信手法について様々なものが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ユーザ端末の位置を推定する技術として、以下が開示されている。RIS(Reconfigurable Intelligent Surface)パネルは、アクセスポイントから送信されたパイロット信号を所定の反射パターンに従って反射させる。反射された信号を受信したユーザ端末は、信号中の特徴を抽出し、位置と1つ以上の特徴とのペアを含むデータベースに基づいて、ユーザ端末の位置を推定する。
【0004】
また、特許文献2では、アレイアンテナの近傍に反射板を設けた送信用の指向性アンテナが開示され、反射板がRIS反射板として構成されるアンテナが提案されている。
【0005】
特許文献3では、壁又は窓などの物理的障壁を有する構造物の内部の無線装置に対し、物理的障壁を通じて無線信号を送受信する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-117980号公報
【特許文献2】特開2020-136687号公報
【特許文献3】特表2021-517406号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Marco Rossanese, et al., ”Designing, Building, and Characterizing RF Switch-based Reconfigurable Intelligent Surfaces”,14 July, 2022, arXiv, 2022年4月11日検索,<URL:https://arxiv.org/abs/2207.07121v1>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現在、5G(5th Generation)基地局のビームフォーミングは、例えば、固体電力増幅器(Solid State Power Amplifier:SSPA)及びフェーズドアレイアンテナを用いる構成で実現されている。しかしながら、通信周波数の高周波化が進むと、アンテナ、増幅器といった通信素子の多素子化、又はデバイスの高集積化によって、動作中により多くの放熱が生じることが想定される。
【0009】
このような課題の解決策として、反射波の指向制御が可能なRIS部によってアンテナを構成して、電波の送受信を行うことが考え得る。しかし、RIS部によって構成された送信用アンテナ及び受信用アンテナを別個に設けると、アンテナが大型化してしまい、設置場所が制限やコスト増大といった問題が生じる。
【0010】
本開示は、上記の事情に鑑みて成されたものであり、RIS素子アレイで構成された単一のアンテナを用いて電波の送信及び受信を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様であるRIS(Reconfigurable Intelligent metaSurface)素子は、第1の電波を受信して送信信号を出力し、第2の電波を受信して受信信号を出力する第1のアンテナ素子と、入力する信号に所定の移相量を与えた信号を出力する第1の位相変換部と、前記第1のアンテナ素子を、前記第1の位相変換部及び外部の受信手段のいずれかと接続する第1のスイッチと、を備え、前記第1のアンテナ素子に前記第1の電波が入射する場合、前記第1のスイッチが前記第1のアンテナ素子と前記第1の位相変換部とを接続することで、前記第1の位相変換部で前記所定の移相量が与えられた前記送信信号が前記第1のアンテナ素子から第3の電波として放射され、アレイ状に配列された複数の前記第1のアンテナ素子と接続される複数の前記第1の位相変換部のそれぞれで前記送信信号に与えられた前記移相量によって、前記複数の前記第1のアンテナ素子から放射された前記第3の電波は所定の方向に偏向され、前記第1のアンテナ素子に前記第2の電波が入射する場合、前記第1のスイッチが前記第1のアンテナ素子と前記外部の受信手段とを接続することで、前記外部の受信手段が前記受信信号を受信する。
【0012】
本開示の一態様であるアンテナ装置の制御方法は、送信信号を第1の電波として放射する放射部と、前記第1の電波を反射する反射部と、前記反射部が反射した前記第1の電波と、外部からの第2の電波と、が入射するアンテナと、前記アンテナの動作を制御するアンテナ制御部と、を備えるアンテナ装置において、前記アンテナは、アレイ状に配列された、前記第1の電波及び第2の電波が入射する複数のRIS(Reconfigurable Intelligent metaSurface)素子と、前記アンテナ制御部による制御に応じて、前記複数のRIS素子の動作を制御するRIS素子制御部と、を備え、前記複数のRIS素子のそれぞれは、前記第1の電波を受信して前記送信信号を出力し、前記第2の電波を受信して受信信号を出力するアンテナ素子と、前記RIS素子制御部による制御に応じて、入力する信号に所定の移相量を与えた信号を出力する位相変換部と、前記RIS素子制御部による制御に応じて、前記アンテナ素子を、前記位相変換部及び外部の受信手段のいずれかと接続するスイッチと、を備え、前記アンテナに前記第1の電波が入射する場合、前記複数のRIS素子のそれぞれの前記スイッチによって前記アンテナ素子と前記位相変換部とを接続して、前記位相変換部で前記所定の移相量が与えられた前記送信信号を前記アンテナ素子から第3の電波として放射し、前記複数のRIS素子のそれぞれで前記送信信号に与えられた前記移相量によって、前記複数のRIS素子から放射された前記第3の電波を所定の方向に偏向させ、前記アンテナに前記第2の電波が入射する場合、前記複数のRIS素子のそれぞれの前記スイッチによって前記アンテナ素子と前記外部の受信手段とを接続し、前記外部の受信手段で前記受信信号を受信する。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、RIS素子アレイで構成された単一のアンテナを用いて電波の送信及び受信を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態1にかかる通信装置の構成を模式的に示す図である。
図2】実施の形態1にかかるアンテナ装置の外観構成を模式的に示す図である。
図3】実施の形態1にかかるアンテナの構成を模式的に示す図である。
図4】RIS素子の構成を模式的に示す図である。
図5】位相変換部の構成例を模式的に示す図である。
図6】送信を行う場合のアンテナを模式的に示す図である。
図7】送信を行う場合のRIS素子を模式的に示す図である。
図8】受信を行う場合のアンテナを模式的に示す図である。
図9】受信を行う場合のRIS素子を模式的に示す図である。
図10】受信器の構成例を示す図である。
図11】実施の形態2にかかるアンテナ装置の構成を模式的に示す図である。
図12】反射部の構成を模式的に示す図である。
図13】反射素子の構成を模式的に示す。
図14】受信を行う場合の反射部を示す図である。
図15】受信器において受信信号の振幅及び位相を制御することでノイズ信号の影響を抑制した場合の受信感度の方向依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。各図面においては、同一要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略される。
【0016】
実施の形態1
実施の形態1にかかるアンテナ装置について説明する。本実施の形態にかかるアンテナ装置は、RIS(Reconfigurable Intelligent metaSurface)反射板からなる単一のアンテナを用いて、他の通信装置へ電波を送信し、かつ、他の通信装置から電波を受信するものとして構成される。RIS反射板には、RIS素子がアレイ状に配列されており、各RIS素子に入力された電波に与える移相量を制御する。これにより、RIS反射板は、フェーズドアレイアンテナと同様に、送信する電波を所望の方向に偏向させることができる。また、RIS反射板は、特定の方向から入射する電波を受信することもできる。
【0017】
図1に、実施の形態1にかかる通信装置1000の構成を模式的に示す。通信装置1000は、アンテナ装置100、送信器101及び受信器102を有する。
【0018】
送信器101は、RF信号である送信信号TSをアンテナ装置100へ出力する。アンテナ装置100は、送信信号TSを電波TWとして、通信相手である他の通信装置などへ放射する。
【0019】
アンテナ装置100は、他の通信装置などから電波RWを受信する。そして、アンテナ装置100は、RF信号である受信信号RSを、受信器102へ出力する。受信器102は、受信信号RSに所定の信号処理を行うことで受信信号RSを復号する。
【0020】
図2に、実施の形態1にかかるアンテナ装置100の外観構成を模式的に示す。アンテナ装置100は、増幅部1、放射部2、反射部3、アンテナ4及びアンテナ制御部5を有する。
【0021】
図2では、図の紙面の右へ向かう方向をX方向、上へ向かう方向をZ方向、紙面手前から奥へ向かう方向をY方向とする。Z軸回りの回転方向、すなわち通信装置1000の方位角方向をパン方向φ、X-Y平面に平行な軸回りの回転方向、すなわち通信装置1000の仰俯角方向をチルト方向θとする。
【0022】
増幅部1は、入力される送信信号TSを増幅して、放射部2へ出力する。増幅部1は、例えば、進行波管増幅器(Traveling Wave Tube Amplifier:TWTA)などのハイパワーアンプとして構成される。本実施の形態では、TWTAを用いることで、固体電力増幅器(Solid State Power Amplifier:SSPA)を用いる場合と比べて、より高出力の送信装置を構成することができる。
【0023】
放射部2は、増幅部1で増幅された送信信号TSを、電波TWとして放射する。
【0024】
放射された電波TWは、反射部3によって反射されて、アンテナ4へ入射する。放射部2から放射された電波TWは球面波であるが、凹面状の反射部3で反射されることで、概ね平面波となってアンテナ4へ入射する。
【0025】
アンテナ4は、RIS(Reconfigurable Intelligent metaSurface)反射板を有するものとして構成される。アンテナ4から他の通信装置などへ電波を放射する場合には、アンテナ4は、反射部3から入射する電波TWを所定の送信方向に、電波TWとして反射する。放射部2から出力され、反射部3で反射されてアンテナ4に入射する電波TWは、第1の電波とも称する。
【0026】
また、他の通信装置から送信された電波RWを受信する場合には、アンテナ4は、所定の受信方向から入射する電波RWを選択的に受信する。そして、アンテナ4は、受信した信号を受信信号RSとして出力する。他の通信装置から送信され、アンテナ4に入射する電波RWは、第2の電波とも称する。
【0027】
アンテナ制御部5は、アンテナ4に制御信号CON1を与えることで、アンテナ4における電波の送信及び受信を制御する。
【0028】
アンテナ4の構成について説明する。図3に、実施の形態1にかかるアンテナ4の構成を模式的に示す。アンテナ4は、複数のRIS素子と、複数のRIS素子を制御するRIS素子制御部41と、を有する。
【0029】
アンテナ4では、複数のRIS素子が2次元平面上にアレイ状に配置されて構成される。以下では、Nを2以上の整数とする。図3では、簡略化のため、RIS素子E1~ENを一方向に並べて表示している。
【0030】
RIS素子制御部41は、アンテナ制御部5から与えられる制御信号CON1に応じて、RIS素子E1~ENの動作を制御する。
【0031】
RIS素子E1~ENのそれぞれについて説明する。以下では、jを1以上N以下の整数とし、RIS素子E1~ENの共通構成として、RIS素子Ejについて説明する。図4に、RIS素子Ejの構成を模式的に示す。RIS素子Ejは、アンテナ素子Aj、位相変換部Pj及びスイッチSjを有する。
【0032】
アンテナ素子Ajは、スイッチSj及び位相変換部Pjを有する回路と接続される。この例では、アンテナ素子Ajは、スイッチSjを介して、位相変換部Pjの一端及び受信器102と接続される。位相変換部Pjの他端は、アンテナ素子Ajと接続される。スイッチSjは、スイッチ制御信号CSjに応じて、アンテナ素子Ajの接続先を、位相変換部Pj及び受信器102の間で切り替える。
【0033】
位相変換部Pjは、スイッチSjを介して入力される信号に、移相量制御信号CPjに応じて、所望の移相量を与える。位相変換部Pjは、所望の移相量が与えられた信号を、アンテナ素子Ajへ出力される。
【0034】
位相変換部Pjは、移相量制御信号CPjに応じて受信信号RSjに与える移相量を連続的に変化させることができる可変位相変換部として構成される。
【0035】
なお、上述では、送信信号が位相変換部を通過することで移相量が与えられるものとして説明した。しかし、位相変換部は、位相変換部で移相量が与えられた送信信号が、アンテナ素子AjからスイッチSjを経て位相変換部Pjへ送信信号入力される経路と同じ経路を辿って、アンテナ素子Ajへ戻る構成としてもよい。
【0036】
位相変換部Pjは、例えば、非特許文献1で記載されるように、位相変換部Pjは、線路長が異なり、かつ、開放端を有する複数の線路を並列に配置することで構成されてもよい。
【0037】
図5に、位相変換部Pjの構成例を模式的に示す。図5においては、位相変換部Pjは、それぞれ線路長が異なる線路L1~L4を有する。線路L1~L4の一端はスイッチSjによって接続可能である。線路L1~L4の他端は、開放されている。
【0038】
スイッチSjを介して位相変換部Pjに入力された信号は、線路L1~L4のいずれかを伝搬して、開放端で反射されることで、アンテナ素子Ajへ出力される。このとき、
アンテナ素子Ajへ出力される信号に与える遅延量、すなわち移相量は、信号が伝搬する線路を線路L1~L4から適宜選択することで信号が伝搬する線路長を調整することで、調整することができる。
【0039】
なお、説明の簡略化のため、図5では線路長の異なる4本の線路が設けられるものとして説明したが、2本、3本又は5本以上の任意の複数の線路が設けられてもよいことは、言うまでもない。また、RIS素子E1~ENの位相変換部P1~PNの線路の本数及び線路長は、用途に応じて、同様であってもよいし、それぞれにおいて独立に設計されてもよい。
【0040】
アンテナ装置100によって送信を行う場合について説明する。図6に、送信を行う場合のアンテナ4を模式的に示す。図7に、送信を行う場合のRIS素子Ejを模式的に示す。アンテナ4によって送信を行う場合、RIS素子E1~ENには、反射部3から電波TWが入射する。
【0041】
このとき、RIS素子E1~ENのそれぞれ、すなわちRIS素子EjのスイッチSjは、スイッチ制御信号CSjに応じて、アンテナ素子Ajと位相変換部Pjとを接続する。これにより、アンテナ素子Ajが受信した電波TWは、送信信号TS1として、スイッチSjを介して位相変換部Pjに入力される。
【0042】
位相変換部Pjは、移相量制御信号CPjに応じて、送信信号TS1に所望の移相量を与える。位相変換部Pjは、所望の移相量を与えた送信信号TS2を、アンテナ素子Ajへ出力される。
【0043】
アンテナ素子Ajに入力された信号送信TSは、電波TWとしてアンテナ素子Ajから放射される。
【0044】
送信時には、RIS素子制御部41が、移相量制御信号CP1~CPNによって、位相変換部P1~PNのそれぞれが送信信号TS1に与える移相量を制御することで、RIS素子部E1~ENから放射され、かつ、合波された電波TWを所望の方向に変更させることができる。アンテナ4から他の通信装置などへ放射される合波された電波TWは、第3の電波とも称する。
【0045】
次いで、アンテナ装置100によって受信を行う場合について説明する。図8に、受信を行う場合のアンテナ4を模式的に示す。図9に、受信を行う場合のRIS素子Ejを模式的に示す。アンテナ装置100によって受信を行う場合、RIS素子E1~ENのそれぞれ、すなわちRIS素子EjのスイッチSjは、アンテナ素子Ajと受信器102とを接続する。これにより、他の通信装置などから送信された電波RWは、アンテナ素子Ajによって受信されて、受信信号RSjとして、スイッチSjを介して、受信器102へ出力される。
【0046】
受信器102は、RIS素子E1~ENのそれぞれから受け取った受信信号RS1~RSNに所定の信号処理を行う。これにより、受信器102は、受信信号RS1~RSNを合波した受信信号RSを受信することができる。
【0047】
受信器102における受信処理の例について説明する。図10に、受信器102の構成例を示す。受信器102は、アナログ移相器PS1~PSNを有する。アナログ移相器PS1~PSNには、それぞれ受信信号RS1~RSNが入力される。アナログ移相器PS1~PSNは、それぞれ受信信号RS1~RSNに所望の移相量を与えることで、受信信号RS1~RSNの位相を整合させる。そして、アナログ移相器PS1~PSNは、位相整合した受信信号RS1~RSNを、加算器103へ出力する。
【0048】
加算器103は、位相整合された受信信号RS1~RSNを合波することで、RF信号である受信信号RSを信号処理部104へ出力する。これにより、信号処理部104は受信信号RSを受信する。そして、信号処理部104は、受信信号RSに所定の信号処理を行う。信号処理部104は、例えば、受信信号RSの変調方式に応じた各種の処理を行うことができ、その詳細については省略する。
【0049】
本構成において、アナログ移相器PS1~PSNは、それぞれ受信信号RS1~RSNに与える移相量を連続的に変化させることができる可変位相変換部として構成されてもよい。この場合、例えば、信号処理部104が、それぞれ、アナログ移相器PS1~PSNに移相量制御信号C1~CNを与えることで、受信信号RS1~RSNに与える移相量を調整することができる。また、アナログ移相器PS1~PSNは、出力する受信信号RS1~RSNの振幅を調整してもよい。
【0050】
図10においては、アナログ移相器を用いて受信信号の位相整合を実現する例について説明したが、受信器102の構成はこれに限られない。例えば、受信器102は、受信信号RS1~RSNのそれぞれをアナログ-デジタル変換した後に、デジタル信号処理によって受信信号RSを受信する構成としてもよいことは、言うまでもない。
【0051】
以上、本構成によれば、RIS素子のアレイによって構成された単一のアンテナ装置100を用いて、電波の送信及び受信を行うことができる。これにより、アンテナ装置を小型化することが可能となる。
【0052】
また、アンテナ装置100を小型化することで、アンテナ装置100の製造コストを削減でき、かつ、比較的狭小な場所でも容易に設置することが可能となる。
【0053】
実施の形態2
実施の形態1では、単一のアンテナ装置100を用いて送信及び受信を行うものとして説明した。しかし、増幅部1を構成するTWTAは、常時増幅動作を行っている。そのため、通信装置が受信を行っている場合でも、送信信号が入力されていないにもかかわらず、ノイズ信号が増幅される。増幅されたノイズ信号は、放射部2から反射部3を介してアンテナ4に放射される。そのため、ノイズ信号が、受信信号RSに重畳される事態が起こりえる。
【0054】
これに対し、本実施の形態にかかるアンテナ装置は、受信信号へのノイズ信号の重畳を防止するものとして構成される。図11に、実施の形態2にかかるアンテナ装置200の構成を模式的に示す。アンテナ装置200は、アンテナ装置100の反射部3を、反射部6に置き換えた構成を有する。
【0055】
反射部6は、放射部2から放射された電波TWをアンテナ4へ反射するRIS反射板を有するものとして構成される。
【0056】
図12に、反射部6の構成を模式的に示す。反射部6は、RIS素子として構成される複数の反射素子と、複数の反射素子を制御する反射素子制御部61と、を有する。
【0057】
反射部6では、複数の反射素子が2次元平面上にアレイ状に配置されて構成される。以下では、Mを2以上の整数とする。図12では、簡略化のため、反射素子EA1~AMを一方向に並べて表示している。
【0058】
反射素子制御部61は、アンテナ制御部5から与えられる制御信号CON2に応じて、反射素子EA1~EAMの動作を制御する。
【0059】
反射素子EA1~EAMのそれぞれについて説明する。以下では、kを1以上M以下の整数とし、反射素子EA1~EAMの共通構成として、反射素子EAkについて説明する。図13に、反射素子EAkの構成を模式的に示す。反射素子EAkは、アンテナ素子AAk、位相変換部PAk、スイッチSAk及び終端器Tkを有する。
【0060】
アンテナ素子AAkは、スイッチSAk及び位相変換部PAkが挿入された回路と接続される。すなわち、アンテナ素子AAkは、スイッチSAkを介して位相変換部PAkの一端と接続される。位相変換部PAkの他端は、アンテナ素子AAkと接続される。スイッチSAkは、スイッチ制御信号CSAkに応じて、アンテナ素子AAkの接続先を、位相変換部PAkと終端器Tkの間で切り替える。
【0061】
アンテナ装置200によって送信を行う場合の反射部6の動作は、アンテナ装置100のアンテナ4が送信を行うときの動作と同様である。このとき、スイッチSAkは、アンテナ素子AAkと位相変換部PAkとを接続する。よって、放射部2から放射された電波TWは、アンテナ素子AAkで受信されることで、送信信号が位相変換部PAkへ入力される。位相変換部PAkは、移相量制御信号CPAkに応じて、送信信号に所望の移相量を与える。そして、位相変換部PAkは、所望の移相量を与えた送信信号を、アンテナ素子AAkへ出力する。
【0062】
反射素子EA1~EAMの位相変換部PA1~PAMのそれぞれが送信信号に与える移相量は、反射部6の形状及び反射部6とアンテナ4との間の位置関係に応じて適宜設計できることは、言うまでもない。これにより、放射部2から放射された電波TWは、反射部6によって、アンテナ4へ向けて反射される。
【0063】
アンテナ装置200によって受信を行う場合について説明する。図14に、アンテナ装置200で受信を行う場合の反射部6を示す。アンテナ装置200によって受信を行う場合、スイッチSAkは、アンテナ素子AAkと終端器Tkとを接続する。よって、アンテナ素子AAkは、放射部2から放射されたノイズ信号NSに起因する電波NWを受信する。アンテナ素子AAkで受信された電波NSは、ノイズ信号NSとして終端器Tkへ入力される。しがたって、ノイズ信号NSは終端器Tkによって終端されるので、ノイズ信号NSがアンテナ素子AAkへ戻ることはない。その結果、ノイズ信号に起因する電波がアンテナ4へ入射することを防ぐことができる。
【0064】
実施の形態3
実施の形態3にかかるアンテナ装置について説明する。本実施の形態にかかるアンテナ装置は、実施の形態2で説明したノイズ信号がアンテナ4に入射した場合でも、ノイズ信号の影響を抑制できるものとして構成される。実施の形態3にかかるアンテナ装置は、受信器102における動作の他は実施の形態1と同様であるので、重複する説明については説明を省略する。
【0065】
本実施の形態では、受信器102が、受信信号RS1~RSNの振幅及び位相を制御することで、受信信号に重畳されたノイズ信号の影響を抑制する。
【0066】
図15に、受信器102において受信信号RS1~RSNの振幅及び位相を制御することでノイズ信号の影響を抑制した場合の受信感度の方向依存性を示す。図15では、例として、チルト方向θを固定した場合のアンテナ装置100のパン方向における受信感度を示している。また、アンテナ4のRIS素子E1~ENのアレイの主面の法線方向を方位角の基準位置、すなわちφ=0°としている。また、図15では、基準位置から時計回り方向のパン方向を正(φ>0)、半時計回り方向のパン方向φを負(φ<0)とした。
【0067】
図15では、-70°のパン方向からノイズ信号がアンテナ4に入射し、50°のパン方向から受信信号が入射している。この状態で、受信器102において、信号処理部104がアナログ移相器PS1~PSNを制御することで、ノイズ信号の感度を低減しつつ、受信信号を受信可能な感度となるように、受信信号RS1~RSNの振幅及び位相を制御することができる。
【0068】
なお、実施の形態1と同様に、デジタル信号処理によって、受信信号RS1~RSNの振幅及び位相を適宜調整することも可能である。
【0069】
このとき、ノイズ信号の感度は、受信信号RSを好適に受信できる程度に抑制できればよい。ノイズ信号の感度は、例えば、受信信号RSを好適に受信できる程度の感度よりも小さな感度に抑制できればよい。また、ノイズ信号の感度は、受信信号RS1~RSNの振幅及び位相の制御によって実現可能な最小の感度に抑制されることが望ましい。
【0070】
このとき、受信信号の感度は、受信信号を好適に受信できる感度であればよい。受信信号の感度は、例えば、受信信号を好適に受信できる感度よりも大きな感度であればよい。また、受信信号RSの感度は、受信信号RS1~RSNの振幅及び位相の制御によって実現可能な最大の感度であることが望ましい。
【0071】
以上、本構成によれば、放射部2から反射部3を経由してアンテナ4にノイズ信号が到達する場合でも、受信器102での信号処理によって、受信信号に重畳されたノイズ信号の影響を抑制することができる。
【0072】
その他の実施の形態
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、実施の形態2で説明した反射部6によるノイズ信号の抑制と、実施の形態3で説明した受信器102での信号処理によるノイズ信号の抑制とは、組み合わせて用いてもよい。この場合には、受信時におけるノイズ信号の影響をより確実に抑制することができる。
【0073】
受信器102は上述の構成に限られるものではなく、上述の実施の形態において説明した受信器の動作を実現できる限り、適宜他の構成とすることができる。
【0074】
位相変換部の構成は、上述の構成に限られる者ではなく、送信信号に所望の移相量を与えることができる限り、各種の構成とすることができる。
【符号の説明】
【0075】
1 増幅部
2 放射部
3、6 反射部
4 アンテナ
5 アンテナ制御部
41 RIS素子制御部
61 反射素子制御部
100、200 アンテナ装置
101 送信器
102 受信器
103 加算器
104 信号処理部
1000 通信装置
A1~AN、AAk アンテナ素子
C1~CN、CP1~CPN、CPAk 移相量制御信号
CS1~CSN、CSAk スイッチ制御信号
E1~EN RIS素子
EA1~EAM 反射素子
L1~L4 線路
P1~PN、PA1~PAM 位相変換部
PS1~PSN アナログ移相器
Sj、SAk スイッチ
Tk 終端器
TS、TS1、TS2 送信信号
RS、RS1~RS 受信信号
TW、RW 電波
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
図11
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図13
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図15