(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170936
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】塗装作業管理装置、塗装作業管理プログラム、並びに塗装作業管理装置を用いて塗装された鉄道車両
(51)【国際特許分類】
B05B 12/08 20060101AFI20241204BHJP
B05B 15/00 20180101ALI20241204BHJP
【FI】
B05B12/08
B05B15/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087713
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】馬塲 修一
(72)【発明者】
【氏名】勝村 宣仁
(72)【発明者】
【氏名】鵜原 治
【テーマコード(参考)】
4D073
4F035
【Fターム(参考)】
4D073AA01
4D073BB03
4D073CB03
4D073CB15
4D073CB19
4F035AA03
4F035BB06
4F035BB13
4F035BB32
(57)【要約】
【課題】作業者が人手で塗装する際に、被塗装物に対して適正な塗装膜厚の形成を可能にする。
【解決手段】塗装作業管理装置10は、塗装ガン100の、被塗装面22に対する位置及び姿勢を計測する計測ユニット120と、形成された膜厚分布を算出する塗装作業管理ユニット130を備える。塗装作業管理ユニット130は、被塗装物の3Dデータと、塗装ガンの被塗装面に対する距離、塗装ガンの傾き角、および塗装ガンの移動速度を検出して、被塗装物の3D形状データにおける被塗装面の形状に応じた膜厚分布パターンを表すモデル式に基づいて、被塗装面に実際に形成される膜厚分布を正確に算出する。作業者による塗装ガンの動作が正常でない場合と、膜厚分布に過不足がある場合は、作業中の作業者に対して警告を発することで、適正な作業を促すよう支援する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装ガンによって被塗装物に対して塗料を吹き付けることにより塗装を行う塗装作業を管理する塗装作業管理装置であって、
前記塗装ガンの前記被塗装物の被塗装面に対する位置及び姿勢を計測する計測ユニットと、
前記塗料の吹き付けによって前記被塗装物に形成される膜厚を算出する塗装作業管理ユニットと、を備え、
前記塗装作業管理ユニットは、
前記被塗装物の形状データを保持し、
前記塗装ガンの、前記被塗装物の形状データの被塗装面に対する距離と、前記被塗装物の形状データの被塗装面に対する傾き角と、前記塗装ガンの移動速度を特定し、
前記塗装ガンの前記距離、前記傾き角、および前記移動速度に関する情報と、前記被塗装物の形状データに応じた膜厚分布パターンを表すモデル式の情報に基づいて、前記塗装作業管理ユニットが前記被塗装物の被塗装面に形成される膜厚分布を算出することを特徴とする塗装作業管理装置。
【請求項2】
請求項1記載の塗装作業管理装置において、
前記被塗装物の形状データにおける被塗装面の形状は、前記被塗装面を構成する各局所領域の法線ベクトルにて示され、
前記塗装ガンの前記傾き角は、前記塗装ガンの先端方向ベクトルにて示され、
前記塗装作業管理ユニットは、前記法線ベクトルと前記先端方向ベクトルを用いて前記膜厚分布を算出することを特徴とする塗装作業管理装置。
【請求項3】
請求項2記載の塗装作業管理装置において、
前記塗装作業管理ユニットは、
前記計測ユニットの計測座標系における前記被塗装物の位置を特定し、前記被塗装物の形状データを、前記特定された被塗装物の位置に位置合せして、前記塗装ガンの先端の、前記被塗装物の形状データの被塗装面に対する距離、もしくは前記被塗装物のデータの被塗装面に対する傾き角を算出すること特徴とする塗装作業管理装置。
【請求項4】
請求項2記載の塗装作業管理装置において、
前記塗装作業管理ユニットは、
前記傾き角の変化による膜厚分布パターンの変化を表現するパラメータを、モデル式としてあらかじめ格納しておき、
前記被塗装物の各局所領域の法線ベクトルから、前記各局所領域の塗装ガン先端方向に対する傾き角を検出し、
検出された傾き角と前記モデル式を用いて前記局所領域の膜厚分布を算出することを特徴とする塗装作業管理装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の塗装作業管理装置において、
塗装作業中に作業者によって確認できる表示装置を設け、
前記塗装作業管理ユニットは、前記算出された膜厚分布から、前記被塗装物の被塗装面のうち塗料が過不足している領域を特定して前記表示装置に表示することを特徴とする塗装作業管理装置。
【請求項6】
コンピュータに、塗装ガンによって被塗装物に対して手作業で塗料を吹き付ける塗装作業の管理をする塗装作業管理方法を実行させるためのプログラムであって、
前記塗装ガンの前記被塗装物の被塗装面に対する位置及び姿勢を計測する計測ユニットが計測した、前記塗装ガンの位置、姿勢から、前記塗装ガンの前記被塗装物の形状データの被塗装面に対する距離、前記被塗装物の形状データの被塗装面に対する傾き角、前記塗装ガンの移動速度を特定するステップと、
前記塗装ガンの前記距離、前記傾き角、前記移動速度に関する情報と、前記被塗装物の形状データにおける被塗装面の形状に応じた膜厚分布パターンを表すモデル式の情報に基づいて、前記被塗装物の被塗装面に形成される膜厚分布を算出するステップと、
前記塗装ガンの動作状態が適正範囲内であるか、および/または、前記膜厚分布の状態が適正範囲内であるかを判定するステップと、
前記判定の結果を、塗装作業中の作業者が視認できる表示装置に表示するステップと、
を実行させるためのプログラム。
【請求項7】
請求項6に記載のプログラムにおいて、
前記判定するステップは、前記塗装ガンの距離、前記傾き角、前記移動速度、前記塗装ガンの軌道の水平度、前記塗装ガンの軌道の間隔の少なくとも1つ以上に基づいて判定することを特徴とするプログラム。
【請求項8】
請求項7に記載のプログラムにおいて、
前記表示するステップは、前記算出された膜厚分布から前記被塗装物の被塗装面のうち塗料が過不足している領域を特定して表示することを特徴とするプログラム。
【請求項9】
請求項8に記載のプログラムにおいて、更に、
前記被塗装物の被塗装面の形状を、前記被塗装面を構成する各局所領域の法線ベクトルで示し、前記塗装ガンの前記傾き角を前記塗装ガンの先端方向ベクトルにて示し、前記法線ベクトルと前記先端方向ベクトルの成す角度の変化量を用いて膜厚分布パターンを算出することを特徴とするプログラム。
【請求項10】
塗装ガンの被塗装物の被塗装面に対する位置及び姿勢を計測する計測ユニットと、塗料の吹き付けによって前記被塗装物に形成される膜厚を算出する塗装作業管理ユニット、を備えた塗装作業管理装置を用い、塗装ガンによって被塗装物に対して塗料を吹き付けることによって塗装される鉄道車両であって、
前記計測ユニットが、
前記塗装ガンの位置、姿勢を計測するステップと、
前記被塗装物の3D形状データを読込むステップと、
前記計測ユニットで計測された前記塗装ガンの位置、姿勢から、前記塗装ガンの3D形状データの被塗装面に対する距離、3D形状データの被塗装面に対する傾き角、および前記塗装ガンの移動速度を特定するステップと、
前記塗装ガンの前記距離、前記傾き角、および前記移動速度に関する情報と、前記被塗装物の形状データにおける被塗装面の形状に応じた膜厚分布パターンを表すモデル式の情報に基づいて、前記被塗装物の被塗装面に形成される膜厚分布を算出するステップと、
前記被塗装面に形成される膜厚分布が適正であるか否を判定して、その結果を表示装置を用いて作業者に表示するステップを繰り返しながら塗装を行われたことを特徴とする鉄道車両。
【請求項11】
請求項10記載の鉄道車両において、
前記3D形状データにおける被塗装面の形状は、前記被塗装面を構成する各局所領域の法線ベクトルで示され、
前記算出するステップでは、前記塗装ガンの前記傾き角を前記塗装ガンの先端方向ベクトルにて示し、前記法線ベクトルと前記先端方向ベクトルの成す角度の変化量を用いて膜厚分布パターンが算出されることを特徴とする鉄道車両。
【請求項12】
請求項10に記載の鉄道車両において、
前記被塗装面に形成される膜厚分布が適正であるか否を判定するステップにて、前記被塗装物の被塗装面のうち塗料が過不足している領域を特定し、作業者への追加塗装を促して塗装されることを特徴とする鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装作業管理装置および塗装作業管理プログラムに係り、鉄道車両等の被塗装物に対して作業者が手作業にて塗装を行う際に、適正な塗料の膜厚を形成することを可能にする塗装作業管理装置を実現することにある。
【背景技術】
【0002】
建築物をはじめとする構造物の多くには、意匠性の付与や保護などを目的に塗装が施されている。また、鉄道車両や自動車等の移動体においては、美観の付与や空力抵抗を低減するために、塗膜表面を平滑にする必要がある。塗膜は単層の場合もあるが、塗膜表面を平滑にするという特性を確保するため、複層にすることが多い。例えば、金属表面へ塗膜を形成する場合、金属表面をブラスト処理など荒らした後の錆止めプライマー塗布・乾燥、金属表面の凹凸を被覆して平滑性を確保するためのパテ付け・乾燥・研磨、パテ表面の微細な凹凸を被覆するためのサフェーサ塗布・乾燥・研磨、中塗り塗布・乾燥・研磨、最表面の意匠性付与のための上塗り塗布・乾燥・研磨といった手順で進められる。
【0003】
塗装は一般的に、作業者が人手で行なうか、ロボット等の自動機を用いて行なわれる。作業者が塗装を行なう場合には、スプレー、刷毛、ローラー等を用いるが、塗装時の塗装膜厚をリアルタイムまたは塗装直後に定量的に把握することは困難であり、作業者の熟練性に依存する面が強い。この為、作業者の熟練性によって塗装品質にバラツキが生じると共に、熟練者の育成にも時間を要する。
【0004】
一方、ロボットを用いる場合には、設備投資が高価であり、有機溶剤を含む塗料を用いる場合は防爆仕様であることが必要となるため、更に設備投資額が増大する。また、ロボットを設置する広い空間が必要であり、被塗装物を加熱する場合は、ロボットを退避させる処理、あるいは、被塗装物を移動して加熱する処理が必要となる等、容易に導入するのは難しい。
【0005】
ロボット塗装においては、シミュレーションにより塗装膜厚分布を取得する方法がある。例えば、特許文献1には、シミュレーション技術として、「塗装膜厚シミュレーション方法」が開示されている。特許文献1のシミュレーション方法によれば、塗装ガン位置における膜厚分布値を基準パターンに基づいて取得し、その膜厚分布値を積算して、被塗装物の膜厚分布値を取得する。また特許文献2には、シミュレーション技術として「塗装膜厚予測方法」が開示されている。特許文献2のシミュレーション方法によれば、搬送流体および塗料粒子の流体的挙動を示すモデルと、空間メッシュの入力領域における粒子状態と流体状態の実測値から、塗装対象面の三次元形状に基づいて設定される空間メッシュの出力領域に、予測された塗料膜厚を出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-122830号公報
【特許文献2】特開2010-274185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に塗装を、作業者が人手で行う、又は、ロボットを用いて行う場合のいずれにおいても塗装膜厚に注意する必要がある。塗装された膜が所定の厚さ(所定膜厚)よりも薄い場合は、塗装による保護が弱くなったり、必要な美観が得られなくなったりする等の不具合が起こりうる。所定膜厚よりも厚い場合は、溶剤が塗装膜中に残存して気化することによって、いわゆるフクレや割れ等の不具合が発生したり、これらが複合的に発生したりすることで、ムラ等により美観を損なうことがありうる。また塗料を多量に使用することでコスト上昇につながる。これらを防止するには、被塗装物の被塗装面全面に亘って適正膜厚を確保することが重要である。
【0008】
特許文献1に示されるシミュレーションの手法は、決められた塗装条件に基づいて塗装膜厚値を得るための計算手法である。実際には前提となる塗装条件からの塗装機の移動経路のずれや被塗装物の所定位置からのずれに、被塗装面の曲面や凹凸形状による、被塗装面内における塗装箇所の位置や傾きの変動の影響が加わることによって、塗装機と被塗装面内の塗装箇所間の位置や角度の条件に大きなずれが生じ、塗装膜厚計算値の誤差が増大する可能性が考えられる。この対処法として、被塗装面の正確な位置や形状を事前に三次元計測しておく、もしくは被塗装物に対する塗装ガンの距離・角度を塗装時にリアルタイム計測する方法等も挙げられるが、前者は工数増を要する為に運用上実現が困難であり、後者は塗装直後の塗装面(乾燥・硬化前の塗料)の状態が不安定である為、技術上実現が困難であるという課題がある。
【0009】
上記課題に対する本発明の目的は、作業者が手作業にて被塗装物に対して塗装を行う際に、塗装機の移動経路や被塗装物の所定位置からのずれ、および被塗装面の曲面や凹凸形状の影響を加味して塗装膜厚を可視化することによって、作業者が適正な塗料の膜厚を形成することを可能にする塗装作業管理装置および塗装作業管理プログラムを提供することである。
上記課題に対する本発明の他の目的は、塗装作業管理装置を用いて適正な膜厚の塗料を形成した鉄道車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための、本発明の「塗装作業管理装置」の一例を挙げるならば、塗装ガンによって被塗装物に対して塗料を吹き付けることにより塗装を行う塗装作業を管理する塗装作業管理装置であって、塗装ガンの被塗装物の被塗装面に対する位置及び姿勢を計測する計測ユニットと、塗料の吹き付けによって被塗装物の被塗装面に対して形成される膜厚分布を算出する塗装作業管理ユニットと、を備える。塗装作業管理ユニットは、被塗装物の形状データを保持し、塗装ガンの、被塗装物の形状データの被塗装面に対する距離と、被塗装物の形状データの被塗装面に対する傾き角と、塗装ガンの移動速度を特定し、塗装ガンの距離、傾き角、および移動速度に関する情報と、被塗装物の形状データに応じた膜厚分布パターンを表すモデル式の情報に基づいて、塗装作業管理ユニットが被塗装物の被塗装面に形成される膜厚分布を算出するようにしたものである。
【0011】
また、本発明の「塗装作業管理方法」の一例を挙げるならば、塗装ガンによって被塗装物に対して塗料を吹き付けることにより塗装を行う塗装作業を管理する塗装作業管理方法であって、計測ユニットが、塗装ガンの被塗装物の形状データの被塗装面に対する位置、姿勢を計測するステップと、塗装作業管理ユニットが、塗装ガンの位置、姿勢から、塗装ガンの被塗装面に対する距離、傾き角、移動速度を特定するステップと、塗装作業管理ユニットが、これら距離、傾き角、移動速度に関する情報と、被塗装物の形状データにおける被塗装面の形状に応じた膜厚分布パターンを表すモデル式の情報に基づいて、被塗装物の被塗装面に形成される膜厚分布を算出するステップと、を有する。さらに、これらのステップをコンピュータによって実行させるコンピュータプログラムを有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被塗装物に対して手作業にて塗装を行う際に、塗装機の移動経路や被塗装物の所定位置からのずれ、および被塗装面の曲面や凹凸形状の影響を加味して、塗装膜厚を可視化することによって、作業中の作業者に対して適正な塗料の膜厚を形成することを支援できる塗装作業管理装置および塗装作業管理プログラム、並びに塗装作業管理装置を用いて塗装された鉄道車両を提供できる。また、被塗装物の被塗装面のうち塗料が不足している領域を特定して作業中に表示するため、作業者は容易に追加塗装を行うことができ、作業者の熟練度による塗装品質のばらつきを抑え、高品質な被塗装物を提供できる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例に係る塗装作業時における塗装機と被塗装物の関係を示す図である。
【
図2】本発明の実施例に係る塗装作業管理装置10の構成を示すブロック図である。
【
図3】
図2の塗装作業管理ユニット130の詳細構成を示すブロック図である。
【
図4】マーカ30にて被塗装物位置を特定する際の、被塗装物の座標データを説明するための図である。
【
図5】被塗装物の形状データを、計測ユニットの計測座標系における被塗装物位置に位置合わせる手順を示すフローチャートである。
【
図6A】被塗装面22に対する塗装ガン100の傾き角(水平角)を示す説明図である。
【
図6B】被塗装面22に対する塗装ガン100の傾き角(鉛直角)を示す説明図である。
【
図6C】塗装ガン先端105の時々の三次元位置座標、および各塗装ガン先端方向ベクトルの方向の被塗装面座標を示す説明図である。
【
図8】塗装ガン先端105の軌道を示す説明図である。
【
図9A】塗装ガン100と被塗装面22の距離の違いによる塗装膜厚パターンの傾向を示す説明図である。
【
図9B】塗装ガン移動速度の違いによる塗装膜厚パターンの傾向を示す説明図である。
【
図9C】塗装ガン100と被塗装面22の鉛直傾きの違いによる塗装膜厚パターンの傾向を示す説明図である。
【
図10A】被塗装面22が平面の場合における塗装膜厚パターンの傾向を示す説明図である。
【
図10B】被塗装面22が曲面の場合における塗装膜厚パターンの傾向を示す説明図である。
【
図11A】塗装パターンにおけるパターン幅方向の塗装膜厚分布を示す説明図である。
【
図11B】被塗装面22がパターン幅領域内で曲面形状であり、塗装ガンが鉛直方向に傾いた状態における、塗装ガン先端と被塗装面の幾何学関係を示す説明図である。
【
図12】塗料・塗装ガン条件に応じた塗装条件管理テーブル160を示す図である。
【
図14】本発明の実施例に係る塗装作業の流れを示すフローチャートである。
【
図15】
図14のS113の詳細手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例を図面を用いて説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし主旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。尚、実施例を説明するための各図において、同一の構成要素にはなるべく同一の名称、符号を付して、その繰り返しの説明を省略する。
【0015】
本発明の実施例に係る塗装作業管理装置を用いた人手塗装の方法について、被塗装物が鉄道車両20である例を用いて説明する。
図1は塗装作業時における塗装ガン100と被塗装物の位置関係を示す図である。鉄道車両20を塗装する塗装設備として、塗装ガン100と塗料供給機110、ホース106を有する塗装機が用いられる。塗料供給機110は、図示しない塗料タンク内に貯留された液体の塗料を、ポンプで吸い上げて、ホース106を介して塗装ガン100に供給する。また、コンプレッサー(図示せず)によって、高圧のエアも併せて塗装ガン100に供給する。ここで、塗料供給機110から塗装ガン100への塗料の供給量、塗装ガン100から噴射される塗料の量、噴射方向等は、
図2で後述する塗装作業管理装置10にて管理される。
【0016】
図1に示す鉄道車両20は、複数車両で運行される電車又は汽車等の1両分であり、
図1の例では、作業者が車両左側面を塗装ガン100によって塗装する際の様子を図示している(但し、作業者は図示していない)。塗装ガン100は、従来から広く用いられている公知のエアー式のものを利用でき、塗装ガン100の動作(塗装面に対する傾き角、塗装ガンの移動速度)や被塗装面に対する相対位置が特定できるように構成される。ここでは、塗装ガン100に複数のマーカ30が装着され、マーカ30に対する塗装ガン100の先端105が検出される。鉄道車両20の周囲には、塗装ガン100の位置を検出するための複数のカメラ121a~121jが配置される。
【0017】
鉄道車両20の左側面の上方に3つのマーカ30a~30cが設けられ、左側面の下方に3つのマーカ30e~30fが設けられる。
図1の例では塗装ガン100に3つのマーカ30が設けられた例を示しているが、設けるマーカ30の数は、3個以上であれば任意である。マーカ30は、塗装ガン100の位置を正確に検出するための指標となるもので、塗装ガン100の被塗装物20の被塗装面22に対する距離と、塗装ガン100の被塗装物20の表面(被塗装面22)に対する傾き角と、塗装ガン100の移動速度の3つを主に測定する。マーカ30として、例えば、視覚的に識別可能なシール式のマークや、光学的に発光可能な機器、光学的に反射可能な部材を用いることができる。
【0018】
カメラ121a~121jは、鉄道車両20の被塗装面22(
図1の例では左側面)に沿うように、取り付けフレーム40に固定された複数の光学式の入力装置であって、動画を撮影してデジタルイメージを
図2で後述する塗装作業管理装置10にリアルタイムで送信する。
図1では、X方向に延在する水平な取り付けフレーム40が設けられるが、フレーム40は、1段だけでなく、上下方向に複数段として、カメラの数をさらに増やしても良い。カメラ121a~121jと被塗装面22との距離は、塗装作業時の塗装ガン先端105と被塗装面22との距離よりも大きくなるような位置に設定し、カメラ121a~121jによって作業時の塗装パターン107と塗装ガン先端105の双方を撮影できるような位置関係とすれと良い。
【0019】
塗装ガン100は、供給された塗料をエアによって噴出させて塗装を行うエアスプレー方式のものであり、塗料供給機110から塗装ガン100に供給される塗料に、コンプレッサー等(図示せず)からホース106を通じて供給される加圧空気(高圧のエア)を吹き付けて塗料を霧化し、霧状の塗料を被塗装面22に吹付けて塗装する。
図1の下側の拡大図に示すように、塗装ガン100は、作業者が把持するハンドル部101と、トリガレバー102を有する。本実施例による塗装作業管理装置10(
図2で後述)を実現するために、塗装ガン100には、マーカ30を光学的に識別するためのセンサと、塗装ガン100の先端105の向きが、X、Y,Zの3軸方向のどの方向に向いているかを検出する3軸センサ(図示せず)を含んで構成することもできる。また、塗装ガン100を従来と同等の構成とし、カメラ121a~121jによって取得された複数の画像を解析することで、塗装ガン100の動作を検出しても良い。ここで、+Z方向は被塗装面22から水平且つ垂直方向に離れる向きを示す。
【0020】
本実施例では、
図2で後述する塗装作業管理装置10によって、塗装ガン先端105の三次元位置座標(x,y,z)と、塗装ガン100の向きを示す先端方向ベクトル(a,b,c)、塗装ガン先端方向ベクトル(a,b,c)の方向の被塗装面22との交差座標(x′,y′,z′)(以下、塗装中心位置座標)における法線ベクトル(α,β,γ)が算出される。これらの座標情報やベクトル情報によって、塗装ガン100の動作の状態が詳細に検知される。
【0021】
各時間単位に形成される塗装パターン107は、例えば楕円形である。塗装作業者が鉄道車両20の側面の塗装を行う場合、塗装ガン100を被塗装面(鉄道車両20の表面)の塗装中心107aから数100mm程度離して、水平方向(
図1の+X方向)に塗装ガン100を往復動作させながら鉛直方向(
図1の+Y方向)にも移動をさせて塗装を行う。この塗装ガン100の操作によって水平方向の一定範囲(車両の上部から下部に亘る数100mm幅の範囲)の塗装を行い、これが終了すると作業者が車両長手方向(
図1のX方向)に移動し、同様の塗装ガン操作を繰り返しながら車両側面全体に亘る塗装を行う。尚、塗装方式はエアスプレー方式に限るものではなく、エアガン、エアレスガン、静電ガン等のいずれの形態でもよい。
【0022】
図2は本発明の実施例に係る塗装作業管理装置10の構成を示すブロック図である。塗装作業管理装置10は、計測ユニット120と塗装作業管理ユニット130を有して構成される。塗装作業管理ユニット130のハードウェア・ソフトウエア構成としては、例えば、
図3にて後述されるPC(Personal Computer)140のような一般的な情報処理装置によって実現できる。計測ユニット120は、塗装時の塗装ガン100の動作や被塗装面22に対する位置を計測する。塗装作業管理ユニット130は、計測ユニット120による計測結果を解析し、解析の結果から被塗装面22に形成される膜厚分布を算出して解析を行い、解析結果に基づいて作業者への指示内容を教示する。
【0023】
計測ユニット120は、塗装作業を行う空間(以下、塗装作業空間)に設置され、複数の位置検出センサ121(
図1に示すカメラ121a~121j)、およびマーカ解析部122を含んで構成される。位置検出センサ121は、CCD又はCMOS等の公知のカメラ手段を含む光学的なセンサである。他の構成として、位置検出センサ121から光(可視光、もしくは赤外光)を照射し、マーカ30で反射した光を位置検出センサ121で検出するか、マーカ30自体を発光体にして、マーカ30が直接発する光を位置検出センサ121で検出することも可能である。複数の位置検出センサ121a~121jのうちの2つ以上で検出された光信号は、マーカ解析部122で解析されることにより、塗装ガン先端方向ベクトル(a,b,c)や、被塗装面22との交差座標(x′,y′,z′)等が算出される。
【0024】
塗装作業管理ユニット130は、被塗装物20の形状データを外部から取込んで保持するデータ記憶部131と、計測ユニットの計測座標系における被塗装物位置に被塗装物の形状データを位置合わせする形状データ位置調整部132と、被塗装物の形状データの被塗装面に対する塗装ガン100の動作を算出する塗装ガン動作算出部133と、被塗装物の形状データ情報から被塗装面形状の解析を行う被塗装面形状解析部134と、被塗装面形状解析部134の解析結果および塗装ガン動作の解析結果から被塗装面に形成される膜厚分布を算出する膜厚算出部135と、膜厚算出部135の算出結果に基づいて作業者への教示内容の判定を行う塗装状態解析部136と、膜厚算出部135および塗装状態解析部136に基づいて作業者への教示内容および膜厚分布の表示を行う塗装状態・作業教示部137を含んで構成される。データ記憶部131によって取り込まれて保持されるデータには、塗装条件管理テーブル、及び被塗装物の塗装面を三次元にて示すモデル式の情報が含まれる。
【0025】
塗装作業管理ユニット130内の各部(131~137)は、PC等のプロセッサが、各部の機能を実行するためのコンピュータプログラムにてソフトウェアによって実現できる。但し、
図2に示した機能が実行できるのであれば、クラウドシステム等によって外部でコンピュータプログラムを実行させるシステムであってもよい。
【0026】
図3は
図2の塗装作業管理ユニット130の詳細構成を示すブロック図である。塗装作業管理ユニット130では、パーソナルコンピュータ(PC)140のCPU(Central Processing Unit)141が、複数のコンピュータプログラム(151~155)を実行することによって各機能を実現する。PC140は、半導体メモリ等の一次的な主記憶装置142、データバスを介して補助記憶装置150へのデータの入出力を可能とする補助記憶インターフェース(以下、インターフェースを「I/F」と称する)143、ネットワークI/F144、作業者や監督者等への情報を可視的に表示させ、作業者や監督者等からの入力操作を受信するための入出力I/F145を有し、これらがデータバスにより結合された形態になっている。本実施例では、プロセッサの例としてCPU141の例を挙げたが、所定の処理を実行する主体であれば他の半導体デバイスであってもよい。
【0027】
主記憶装置142は、通常、RAMなどの揮発性のメモリで主に構成され、CPU141が実行するプログラム、参照するデータやCPUによる計算データが記憶される。補助記憶I/F143は、補助記憶装置150を接続するためのインターフェースである。補助記憶装置150は、大容量の2次記憶装置であり、公知の不揮発性記憶装置、例えばHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等を用いて構成できる。補助記憶装置150に、複数のプログラムが格納され、各プログラムの実行時には、RAM等によって構成される主記憶装置142に読み出される。尚、補助記憶装置150は、塗装作業管理ユニット130内に内蔵させるように構成しても良い。
【0028】
補助記憶装置150に格納されるプログラムは、
図2の各部(132~136)の機能を実現するプログラムであり、形状データ位置調節プログラム151、塗装ガン動作算出プログラム152、被塗装面形状解析プログラム153、膜厚算出プログラム154、塗装状態解析プログラム155を含む。また、各プロブラムの実行に必要な情報も併せて格納される。ここでは塗装条件管理テーブル160、被塗装物形状データ170が格納されている。補助記憶装置150には、作業記録データやCPU141によって処理される様々なプログラムやデータ(いずれも図示しない)がさらに記録される。
【0029】
ネットワークI/F144は、塗装作業管理装置10がネットワーク経由で外部機器と接続するためのインターフェースであり、PC140は様々な外部の機種、例えば、
図2で示した計測ユニット120、膜厚分布算出結果や作業者への指示を表示するHMD(Head Mounted Display)147のようなウエアラブル端末、及び工場内の他のシステムに対して、有線もしくは無線によって接続される。塗装作業を行う作業者は、HMD147を装着することで塗装作業管理ユニット130からの様々な情報を可視的に取得できる。
【0030】
入出力I/F145は、塗装条件等の塗装作業管理装置へのデータを入力する入力装置148、及び塗装作業管理装置の制御を行う制御ソフトの各画面(塗装条件入力画面、装置操作ボタン、膜厚分布算出結果表示画面等)のPC140からの出力データを出力する出力装置149が接続される。入力装置148は公知のキーボードとマウスで構成でき、出力装置149は、公知のモニターにて構成できるが、入力装置148と出力装置149を、例えばタッチパネルにて構成しても良い。また、出力装置149とHMD147の数は任意であり、いずれか一方にまとめるようにしても良い。さらには、出力装置149として塗装ガン100の上面に小型のマトリックス表示装置、例えばタッチ式の液晶ディスプレイを設けたり、作業者の所有する携帯端末を用いるようにしても良い。
【0031】
塗装状態解析プログラム155は、塗装ガン100の距離、傾き角、および移動速度に関する情報と、被塗装物(鉄道車両20)の形状データにおける被塗装面22の形状に応じた膜厚分布パターンを表すモデル式の情報に基づいて、被塗装物の塗装面に形成される膜厚分布を算出し、塗装面に形成される膜厚分布が適正であるか否を判定する。ここでは、被塗装物(鉄道車両20)の形状データは、設計図面を構成する3次元CADデータによる3次元モデルを用いることができ、鉄道車両20の3次元モデルを、塗装空間に設定されるxyz座標系における鉄道車両20の位置に位置合わせすることによって、CPU141が位置合わせした鉄道車両20の3次元モデルを用いて、被塗装面22の形状を詳細に把握することができる。
【0032】
図4はマーカ30にて被塗装物位置を特定する際の、被塗装物の座標データを説明するための図である。被塗装面22上にはxyz座標系(被塗装面に垂直な軸をz軸、被塗装面上の水平方向の軸をx軸、被塗装面上の鉛直方向の軸をy軸とする)が設定される。位置検出センサ121で各マーカ位置を検出する方法としては、位置検出センサから塗装ガン100に対して光(可視光、もしくは赤外光)を照射し、光を照射方向に反射する再帰性反射マーカ30a~30gで反射した光のうちの複数を位置検出センサ121で検出しても良いし、マーカ30a~30g自体を発光体にして、マーカ30a~30gが直接発する光を位置検出センサ121で検出することも可能である。マーカ30a~30gは、塗装作業の開始前に取り外すことが好ましく、車両への接着部は、シール材にて構成すると良い。位置検出センサ121の各座標は、車両の3D形状データを利用してあらかじめ三次元位置座標(xm
k,ym
k,zm
k);(0≦k≦n,n:マーカ個数)としてCPU141にて取得される。複数の位置検出センサ121によって検出されたマーカ30からの光信号を、計測ユニット120のマーカ解析部122で解析することによって、モーションキャプチャーシステム等で一般的に用いられる三角測量の原理から、計測ユニット120の計測座標系における複数個のマーカ30の各三次元位置座標(xm
k,ym
k,zm
k);(0≦k≦n,n:マーカ個数)の算出を行うことができる。
【0033】
被塗装面22の各特徴箇所は、座標値(xmk,ymk,zmk)として基準位置が特定され、基準位置に対する形状データがCPU141にて取得される。CPU141は、被塗装面22において各特徴箇所に対応する位置24の座標値(xdk,ydk,zdk);(0≦k≦n)に対して、鉄道車両20の設計データから取得できる形状データ、例えばドア25や、窓26の位置を考慮することで、塗装を行う被塗装面22の範囲と形状を精密に識別することができる。
【0034】
図5に被塗装物の形状データを被塗装物位置に位置合わせする手順を示す。塗装前には、被塗装物(鉄道車両20の被塗装面22)と、塗装作業管理装置10が保持する被塗装物の形状データの位置合わせを行う。まず、被塗装面22における特徴箇所(鉄道車両20の場合、例えば側面の窓や出入口の開口部中央等の座標が特定できる位置)を選定して、被塗装面の各特徴箇所に複数個のマーカ30を取付ける(ステップ200、尚、図では“ステップ”を“S”の文字で図示する)。次に、CPU141は被塗装物20の形状データ(3Dモデルデータ)157を、補助記憶装置150から主記憶装置142に読込み(ステップ201)、形状データの被塗装面における各特徴箇所の座標値の登録を行う(ステップ202)。
【0035】
次にCPU141は、塗装作業空間に設置された計測ユニット120の複数の位置検出センサ121によってマーカ30の各位置の検出を行う(ステップ203)。複数の位置検出センサ121a~121gのいずれかによって検出された光信号は、計測ユニット120のマーカ解析部122で解析することによって、三次元位置座標(xmk,ymk,zmk)が算出できる。
【0036】
次にマーカ解析部122は、ステップ203で算出した被塗装面の各特徴箇所の座標値(xmk,ymk,zmk)と、形状データの被塗装面22において各特徴箇所に対応する位置24等の座標値(xdk,ydk,zdk);(0≦k≦n)に対して対応点マッチングを行い、実際の被塗装物の各特徴箇所の座標値と、各特徴箇所に対応する形状データの各座標値の差が最小となる形状データの座標変換行列を算出する(ステップ204)。併せて、形状データ位置調整部132によって、ステップ204で算出した座標変換行列を用いて、被塗装物の形状データを、計測ユニット120の計測座標系における被塗装物位置に位置合わせする(ステップ205)。以上の処理によって、実際の被塗装物20を被塗装物の形状データで置き換えることができる為、計測ユニット120の計測座標系における被塗装面22の位置や形状を数値で表現することが可能となる。
【0037】
作業者による塗装時は、計測ユニット120の複数の位置検出センサ121によって、一定の短い時間間隔(Δt)で塗装時の時々における各マーカ位置の検出を行う。更に一定の時間間隔(Δt)で検出された光信号を、計測ユニット120のマーカ解析部122で解析を行い、塗装作業空間における塗装ガン先端105の時々の三次元位置座標(x,y,z)と、塗装ガン先端105の向きを示す塗装ガン先端方向ベクトル(a,b,c)を算出する。塗装ガン先端方向ベクトル(a,b,c)は、塗装ガン先端105の位置を起点とする。
【0038】
塗装作業管理ユニット130の塗装ガン動作算出部133では、マーカ解析部122で算出された塗装ガン先端105の三次元位置座標(x,y,z)と、塗装ガン先端方向ベクトル(a,b,c)、および塗装ガン先端方向ベクトル(a,b,c)の方向の被塗装面座標(x′,y′,z′)(以下、塗装中心位置座標)における法線ベクトル(α,β,γ)から、塗装ガン動作の状態を表す、被塗装面22に対する塗装ガン先端105の距離:l、被塗装面22に対する塗装ガン先端105の傾き角(水平角:φ,鉛直角:θ)、塗装ガン100の移動速度:v、更に塗装ガン100の軌道の水平度、および塗装ガン100の軌道の間隔の算出を行う。
【0039】
次に、被塗装面22上にxyz座標系を設定し、被塗装面22に対する塗装ガン先端105の距離:l、被塗装面22に対する塗装ガン先端105の傾き角(水平角:φ,鉛直角:θ)、塗装ガン100の移動速度:vを算出する方法について、
図6A、
図6B、
図6Cを用いて説明をする。
【0040】
図6Aには、塗装ガン100と被塗装面22を座標系におけるy軸方向から見た平面図(xz平面)を示しており、この際の被塗装面22の水平断面に対する塗装ガン先端105の角度が図に示す水平角φである。塗装ガン先端方向ベクトル(a,b,c)と、塗装ガン先端方向ベクトル方向の被塗装面における法線ベクトル(α,β,γ)のxz平面への正射影はそれぞれ図に示す(a,0,c)、(α,0,γ)であり、水平角φはこれら各ベクトルの成す角で表され、式(1)で求めることができる。
【0041】
【数1】
図6Bには、塗装ガンと被塗装面を座標系におけるx軸方向から見た平面図(yz平面)を示しており、この際の被塗装面22の鉛直断面に対する塗装ガン先端105の角度が図に示す鉛直角θである。塗装ガン先端方向ベクトル(a,b,c)と、塗装ガン先端方向ベクトル方向の被塗装面における法線ベクトル(α,β,γ)のyz平面への正射影はそれぞれ図に示す(0,b,c)、(0,β,γ)であり、鉛直角θはこれら各ベクトルの成す角で表され、式(2)で求めることができる。
【0042】
【数2】
また、
図6Cには、塗装時の時々の塗装ガン先端105の三次元位置座標データ列300(x
k,y
k,z
k)、および各塗装ガン先端方向ベクトルの方向の被塗装面座標(x
k′,y
k′,z
k′)を示している。この際、被塗装面に対する塗装ガン先端105の時々の距離:lは、(x
k,y
k,z
k)と(x
k′,y
k′,z
k′)から式(3)で求めることができ、塗装ガン100の移動速度:vは、塗装ガン先端105の時々の三次元位置座標データ(x
k,y
k,z
k)と、(x
k,y
k,z
k)から一つ前のタイミングで検出された塗装ガン先端105の三次元位置座標データ(x
k-1,y
k-1,z
k―1)、および塗装ガン先端位置の検出時間間隔(Δt)から式(4)で求めることができる。
【0043】
【0044】
【0045】
次に、塗装ガン100の軌道(軌道の水平度、および軌道の間隔)について、
図7、
図8を用いて説明をする。
【0046】
図7に示す塗装パターンの形状は、塗装ガン100の設定によって変化する。塗装ガン100は、広く用いられるハンドスプレーガンと呼ばれるもので、塗料用のノズルに隣接して設けられる空気吹出口からのエアの吹き付け状態によって、主に、長方形パターン400、楕円形パターン401、円形パターン402の3種類の塗装パターンが形成可能である。塗装膜厚パターンが長方形パターン400、もしくは楕円形パターン401の場合、長軸方向の幅はパターン幅403と呼ばれ、塗装時において、パターン幅403の方向と垂直の方向(塗装ライン方向)に塗装ガン100を移動させ、丸パターンの場合は、縦・横(水平・鉛直)いずれかの方向に塗装ガン100を移動させながら塗料を連続して吹付けていく。
【0047】
図8には塗装ガン100の先端位置の移動軌道の例を示している。塗装ガン100は鉄道車両20の側面(被塗装面22)を塗装する場合は、基本的に塗装ガン100を+X方向に水平に移動するように移動させ、塗装ガン先端105の軌道500aは図の方向になる。+X方向の塗装ラインの端まで塗り終えると、塗料の噴射を止めて矢印500bに示すように塗装ガン100を塗装ライン方向と垂直方向(-Y方向)に一定距離移動させた後、次は-X方向に向けて矢印500cのように塗装する。X方向起点まで塗装が完了したら、塗料の噴射を止めて矢印500dに示す垂直方向(-Y方向)に一定距離移動させ、再び塗料の噴射を開始し、次の塗装ライン500eへ塗り継いでいく。
【0048】
各塗装ライン500a、500c、500e…において、CPU141(
図3参照)は、塗装ガン動作算出プログラム152を実行することによって、塗装ガン先端方向ベクトル(a,b,c)の方向における被塗装面内座標(x′,y′)のデータ列501に直線502(Y=aX+b、a:直線傾き、b:y切片)をフィッティングさせて、直線傾きaと、y切片のbを算出する。さらに、、当該塗装ラインにおけるフィッティング直線502が、パターン幅の垂直方向と成す角度(ψ)を軌道の水平度503とする。また、当該塗装ラインの直前の塗装ラインにおけるフィッティング直線504と塗装ガン先端方向ベクトルの方向の被塗装面内座標(x′,y′)の間隔を塗装ガン100の軌道の間隔505と定義する。この塗装ガン100の軌道の間隔505は、一般に塗り合わせ間隔と呼ばれており、パターンの形状によって推奨値が異なる。通常長方形パターンではパターン幅403(
図7参照)の3/4、楕円形パターンでは2/3、円形パターンでは1/2の塗り合わせが推奨されており、塗装作業者が推奨される間隔で塗装を行うことによって、ほぼ均一な塗装面の膜厚を得ることが可能となる。
【0049】
以上のように、塗装ガン100を全体的に上から下方向に平行移動させながら塗装し、軌道504、503のように塗装作業を繰り返す。塗装ガン100の軌道の水平度は、フィッティング直線502の式の傾きaから、式(5)によって算出を行うことが可能である。また、塗装ガン100の軌道の間隔505は、当該塗装ライン直前の塗装ラインにおけるフィッティング直線504の式に、当該塗装ラインの塗装ガン先端方向ベクトルの方向の被塗装面内X座標(x′)を代入して得られたY座標(y″)と、当該塗装ラインの塗装ガン先端方向ベクトルの方向の被塗装面内Y座標(y′)から式(6)によって算出を行う。
【0050】
【0051】
【0052】
塗装作業管理ユニット130の膜厚算出部135では、塗装ガン動作算出部133によって算出された被塗装面22に対する塗装ガン先端105の距離:l、被塗装面22に対する塗装ガン先端105の傾き角(水平角:φ,鉛直角:θ)、塗装ガン100の移動速度:vの情報と、塗料供給機110で検出された塗料供給量の情報から、被塗装面22に形成される膜厚分布の算出を行う。
【0053】
ここで、被塗装面22に対する塗装ガン100の先端105の距離、被塗装面22に対する塗装ガン先端105の傾き角、塗装ガン100の移動速度の変化に対する膜厚分布パターン変化の傾向について、
図9A、
図9B、
図9Cを用いて説明する。
【0054】
図9Aは被塗装面22に対する塗装ガン100の距離と塗装膜厚パターンの関係、
図9Bは塗装ガン100の移動速度と塗装膜厚パターンの関係、
図9Cは被塗装面22に対する鉛直傾きと塗装膜厚パターンの関係を示したものである。図中には塗装ガン100による塗装パターン107を示しているが、
図9Aの左側の図に示されるように、塗装ガン100と被塗装面22との距離が近いと、被塗装面22に形成される塗装膜厚パターンが小さくなる為、塗料が密集して膜厚は大きくなり、右側の図に示されるように塗装ガン100と被塗装面22との距離が遠いと、被塗装面22に形成される塗装膜厚パターンが大きくなる為、塗料が分散して膜厚は小さくなる。
【0055】
また、
図9Bの右側の図に示されるように、塗装ガン100を移動させる速度が大きいと、気流の影響で塗料の塗着効率(使用された塗量の質量と塗装物に実際に付着した塗料の質量の比率)が下がって、塗装の膜厚が小さくなり、左側の図に示されるように塗装ガン100を移動させる速度が小さいと、塗着効率が上がって膜厚は大きくなる。
【0056】
また、
図9Cに示されるように、塗装ガン100が被塗装面22に対して鉛直方向に傾いた状態の場合には、塗装ガン100と被塗装面22の距離が近くなる箇所で塗装の膜厚が大きく、塗装ガン100と被塗装面22の距離が遠くなる箇所で塗装の膜厚が小さくなる為、被塗装面22に形成される膜厚は不均一となる。
【0057】
更に、被塗装面が曲面の場合における塗装膜厚パターンの傾向について、
図10を用いて説明する。
図10Aには被塗装面22が平面(被塗装面の各位置における法線ベクトル700が一定)の場合における塗装膜厚パターン701と、パターン幅方向の膜厚分布702を示しており、
図10Bには被塗装面23が曲面(被塗装面の各位置によって法線ベクトル700が異なる)の場合における塗装膜厚パターン704と、パターン幅方向の膜厚分布705を示している。
図10A、
図10Bで、各塗装ガン先端105に対する被塗装面上の塗装中心107aの位置は同じであるが、
図10Bでは、被塗装面の各位置が塗装中心107aから離れるに従って、塗装ガン先端105の方向ベクトルに対する各法線ベクトル700の傾き角703が大きくなる為、
図7Bの被塗装面における塗着効率は
図7Aに比べて小さくなる。この為、
図10Bの膜厚分布705では、
図10Aの膜厚分布702に比べて、パターン幅の端部に向かって急激に膜厚が小さくなり、
図10Bの塗装膜厚パターン704は、
図10Aの塗装膜厚パターン701に対して上下方向に小さくなる傾向となる。
【0058】
上記傾向を踏まえて、本実施例における塗装作業管理装置10は、塗装条件(被塗装面22の塗装中心107aの位置に対する塗装ガン先端105の距離、被塗装面22の各局所領域に対する塗装ガン先端105の傾き角、塗装ガン100の移動速度)に応じた膜厚分布パターンを表すモデル式を保持しており、モデル式は式(7)~式(14)で表すことができる。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
<各関数、パラメータ説明>
Ps(xs) :被塗装面における膜厚分布関数
P0(x0) :標準条件における基準膜厚分布関数
(標準条件における実測膜厚データの多項式近似)
α(v) :塗装ガン移動速度による塗着効率
β(l) :被塗装面に対する塗装ガン先端の距離による塗着効率
γ(l) :被塗装面に対する塗装ガン先端の距離によるパターン幅拡大率
T(x0,θs) :被塗装面傾き座標変換関数
x0 :基準膜厚分布のパターン幅方向位置座標
xs :被塗装面の各局所領域のパターン幅方向位置(塗装中心起点)
ys :被塗装面の各局所領域の面法線方向位置(塗装中心起点)
v :塗装ガン移動速度
l0 :被塗装面の塗装中心に対する塗装距離
θ :被塗装面の塗装中心における塗装ガンの鉛直方向傾き角
θs :被塗装面の位置(xs,ys)の法線に対する塗装ガンの傾き角
x,y,z :塗装ガン先端位置座標
x′,y′,z′:塗装中心位置座標
a,b,c,d,e,f,g,h,o,p,q,r:係数(実験データから算出)
【0068】
上記モデル式について
図11A、
図11Bを用いて以下で説明する。式(7)は塗装ガンを一定速度で移動させた際、塗装中心107aの位置座標(x′,y′,z′)を中心に形成されるパターン幅方向の膜厚分布を表している。
図11Aは、標準塗装条件におけるパターン幅方向の膜厚分布800を示しており、
図11Bは、被塗装面22がパターン幅領域内で曲面形状であり、塗装ガンが鉛直方向に傾いた状態における、塗装ガンと被塗装面の幾何学関係を示している。塗装ガン100の鉛直方向傾き角の情報に加え、塗装作業管理ユニットが保持する被塗装物形状データ(3Dモデルデータ)の情報から、3Dモデル表面の各局所領域における傾き角の変化を考慮することによって、被塗装面のパターン幅内の各局所領域における傾き角変化に起因して生じる膜厚分布パターンの変化を加味した膜厚分布の算出を行う。
【0069】
式(7)が示すパターン幅方向の膜厚分布関数:Ps(xs)は、被塗装面の塗装中心に対する塗装ガン先端105の距離、被塗装面の各局所領域に対する塗装ガン先端105の傾き角、塗装ガン100の移動速度)の各標準値(以下、標準条件)における膜厚分布パターンを基準膜厚分布関数:P0(x0)とし、この基準膜厚分布関数と、式(8)が示す塗装ガン100の移動速度:vによる影響を表す関数:α(v)、式(9)が示す被塗装面の塗装中心に対する塗装ガン先端105の距離:lによる影響を表す関数:β(l)、式(10)が示す被塗装面の塗装中心に対する塗装ガン先端105の距離:lによるパターン幅拡大率:γ(l)、式(11)が示す、被塗装面のパターン幅内の各局所領域801に対する塗装ガン100の鉛直傾き角:θsによる影響を表す関数:T(x0,θs)で表される。
【0070】
また、(7)~(11)の各関数は、塗装条件の変化に応じた複数のモデルパラメータ(上記a,b,c,d,e,f,g,h,o,p,q,r)による多項式関数で表すことが可能である。この為、
図12に示すように、塗装作業管理装置10はこれら塗料・塗装ガン条件の組合せに対応したモデルパラメータ値を示す塗装条件管理テーブル160を保持しており、塗装時の塗料・塗装ガン条件に応じて、モデルパラメータセットの選択を行う。
【0071】
尚、基準膜厚分布関数は、上記標準条件で塗装を行った際のパターン幅方向の膜厚分布を膜厚計を用いて実測し、実測結果に対する近似式を求めても良いし、上記標準条件による塗装膜厚のシミュレーションから計算によって求めても良い。
【0072】
また、塗装作業管理ユニット130の塗装状態解析部136では、塗装ガン動作算出部133で算出された、塗装時の時々における被塗装面に対する塗装ガン先端105の距離、被塗装面に対する塗装ガン先端105の傾き角、塗装ガン100の移動速度、塗装ガン100の軌道の水平度、および塗装ガン100の軌道の間隔、並びに膜厚算出部135で算出された被塗装物の塗装面に形成される膜厚分布データに基づいて、塗装時の時々における被塗装面に対する塗装ガン先端105の距離、被塗装面に対する塗装ガン先端105の傾き角、塗装ガン100の移動速度、塗装ガン100の軌道の水平度、および塗装ガン100の軌道の間隔、に関する塗装ガン100の動作の状態と、膜厚分布の状態の特定を行う。
【0073】
この為、
図12に示すように、塗装作業管理装置10は塗装条件管理テーブル160を保持する。塗装条件管理テーブル160では、塗料・塗装ガン条件に応じた塗装ガン動作(塗装時の時々における被塗装面22に対する塗装ガン先端105の距離、被塗装面に対する塗装ガン先端105の傾き角、塗装ガン100の移動速度、塗装ガン100の軌道の水平度、および塗装ガン100の軌道の間隔)の適正範囲、および塗料膜厚の適正範囲の値を保持する。CPU141は、適正範囲に基づいて、特定された塗装ガン動作の状態と膜厚分布の状態がそれぞれ適正範囲内にあるかの判定を行う。尚、上記の各適正範囲は、事前に塗装試験を行い、各塗料・塗装ガン条件において塗装の不具合(例えば、タレやカスレ等)が無い範囲を求めることによって決定される。
【0074】
塗装条件管理テーブル160は、ID番号161、塗料種類162、塗装ガン機種163、塗装のパターン幅164、塗料の供給流量165、エア圧166、モデルパラメータセット167、適正値範囲セット168の各フィールドを有する。
【0075】
ID番号161には、各塗料・塗装ガン条件を識別する番号が1から順番に格納される。塗料種類162には、塗料の品名の情報が格納される。塗装ガン機種163には、塗装ガン100の機種名が格納される。塗装のパターン幅164には、塗装パターン幅が「mm」の単位で格納される。塗料の供給流量165には、塗装ガンに供給される塗料の流量が「cc/min」の単位で格納される。エア圧166には、エア圧力の値が「MPa」の単位で格納される。モデルパラメータセット167には、モデルパラメータ(a,b,c,d,e,f,g,h,o,p,q,r)の値がカンマ区切りで格納される。適正値範囲セット168には、
(1)塗装ガン100の被塗装面の塗装中心に対する距離(mm)、
(2)塗装ガン100の被塗装面に対する傾き角(°)、
(3)塗装ガン100の移動速度(mm/s)、
(4)塗装軌道の水平度(°)、
(5)塗装軌道の間隔(mm)、
(6)塗料膜厚(μm)、における各適正範囲(下限値、上限値)の値、
が(1)~(6)の順番でカンマ区切りで格納され、各適正範囲は、下限値と上限値の間に「-」が挿入される。
【0076】
塗装作業管理ユニット130の塗装状態・作業教示部137では、塗装状態解析部136で判定された塗装ガン動作、および膜厚分布の状態(適正範囲内、適正範囲外)を、作業者が装着可能なHMD147等のウエアラブル端末に出力して、塗装作業中に教示を行う。教示方法は端末の画面に文字を表示しても良いが、塗装中の作業者が認識し易いように、適用範囲外の場合にはアラート音を発したり、端末の画面にランプのようなインジケータを表示したりして、適用範囲内外で表示の色を変える(例えば適用範囲内であれば緑色、適用範囲外であれば赤色で表示)ことも有効である。
【0077】
また同時に、塗装作業管理ユニット130の塗装状態・作業教示部137では、膜厚算出部135で算出した塗装ガン先端方向ベクトル方向の被塗装面内座標(x′,y′)におけるパターン幅方向の膜厚分布結果を逐次、二次元もしくは三次元の膜厚分布画像に変換して、HMD147等のウエアラブル端末に出力して表示を行う。
【0078】
HMD147、または/及び、出力装置149に出力される膜厚分布画像(二次元分布画像)について、
図13を用いて以下で説明する。膜厚分布画像は、横方向が被塗装面における塗装エリア1000のX軸(塗装ライン方向)、縦方向が塗装エリア1000のY軸(パターン幅方向)に対応し、被塗装面の塗装エリア範囲(幅:W(mm)、高さ:H(mm))を膜厚分布画像の各軸画素数(n,m)で除した値(縦方向:W/n(mm)、横方向:H/m(mm))が画像の空間分解能(1画素寸法)となる。
【0079】
また、膜厚分布画像は、膜厚算出部135で算出した、塗装ガン先端方向ベクトルの方向の被塗装面内座標(x′,y′)におけるパターン幅方向の膜厚分布800を、各画素の階調値に変換し、(x′,y′)に対応した画素1001を中心に、階調値を濃淡(グレースケール)、もしくは色相に割り当てて画像の表示を行う。更にその後の塗装ラインによって塗装パターンに重なり部が生じた場合、重なり部の画素については、各塗装ラインにおける重なり部の膜厚値の和を算出し、算出結果を反映させて画素値の更新を行う。尚、
図13で示す膜厚分布800の画像表示内に、作業者に対する各種の指示事項、例えば、特定箇所を再塗装すべき旨の指示や、塗装ガン100の姿勢や速度に対する指示事項(ガンの傾きが大きい、速度が速すぎる)等を併せて表示しても良い。
【0080】
次に、本発明を実施する際の処理の流れについて、
図14を用いて説明する。
先ず塗装作業前段階として、塗装作業者は、塗装作業管理装置10の表示装置に出力される入力画面(図示せず)に、塗装車種、塗料・塗装ガン条件、膜厚分布画像表示条件(塗装エリア範囲寸法、画素数)の情報を入力して、被塗装物の3Dモデルデータを装置に読込む(ステップ220)。
【0081】
次に、被塗装物の被塗装面における各特徴箇所に添付した複数のマーカ位置を、計測ユニット120の位置検出センサ121で検出して、計測ユニット120の計測座標系における被塗装面の各特徴箇所の座標値(xmk,ymk,zmk);(0≦k≦n)を算出し、算出した座標と、各特徴箇所に対応する3Dモデルデータの座標値(xdk,ydk,zdk);(0≦k≦n)から、塗装作業管理ユニット130の形状データ位置調整部132によって、3Dモデルデータを計測ユニット120の計測座標系における被塗装物位置に位置合わせする(ステップ221)。
【0082】
次に、塗装作業管理装置は、装置が保持する塗装条件管理テーブル160を検索し、ステップ220で入力された塗料・塗装ガン条件の情報に一致するモデルパラメータセット、および塗装ガン動作と塗装膜厚分布に関する適正範囲の値を選択する(ステップ222)。
【0083】
ステップ222が完了し、実際の塗装作業が開始されると、作業中の塗装ガン動作と、膜厚分布の判定が行われる(ステップ230)。このステップ230の詳細な手順を示すのが
図15のフローチャートである。
図15において、塗装作業管理装置は、計測ユニット120の位置検出センサ121によって、塗装時の時々における、塗装ガン上の各マーカからの光信号検出を行う(ステップ231)。
【0084】
次に、計測ユニット120のマーカ解析部122によって、検出された各マーカからの光信号に基づいて、塗装作業空間における塗装ガン先端105の時々の三次元位置座標(x、y、z)と塗装ガン先端105の方向ベクトル(a,b,c)を算出する(ステップ232)。
【0085】
更に、ステップ232で算出した塗装ガン先端105の位置座標(x,y,z)と塗装ガン先端105の方向ベクトル(a,b,c)から、ステップ222で被塗装物位置に位置合わせした3Dモデルの被塗装面上における塗装中心の探索を行い、塗装中心座標(x′,y′,z′)、および塗装中心107aにおけるの法線ベクトル(α,β,γ)を特定する(ステップ233)。
【0086】
また、併せて塗装作業管理装置は、塗料供給機110の塗料流量計(図示せず)によって、塗料の供給流量を検出する(ステップ234)。
【0087】
次に、塗装作業管理装置は、塗装作業管理ユニット130の塗装ガン動作算出部133によって、ステップ232で算出された(x,y,z)と(a,b,c)、および塗装中心107a座標(x′,y′,z′)における法線ベクトル(α,β,γ)から、被塗装面の塗装中心107aに対する塗装ガン先端105の距離:l、被塗装面の塗装中心107aに対する塗装ガン先端105の傾き角(水平角:φ,鉛直角:θ)、塗装ガン先端105の移動速度:v、更に塗装ガン100の軌道の水平度、および塗装ガン100の軌道の間隔の算出を行う(ステップ235)。
【0088】
次に、塗装作業管理装置は、ステップ233で算出した被塗装面の塗装中心107a座標(x′,y′,z′)、およびステップ235で算出した被塗装面の塗装中心107aに対する塗装ガン先端105の鉛直傾き角から、塗装作業管理ユニット130の被塗装面形状解析部134によって、3Dモデルデータの被塗装面における塗装パターン幅領域を特定し、塗装パターン幅領域の形状解析(塗装パターン幅方向の各局所領域における傾き角の解析)を行う(ステップ237)。
【0089】
次に、塗装作業管理ユニット130の膜厚算出部135は、塗装作業管理装置が保持している膜厚分布パターンモデルの式(7)に、ステップ222で選択されたモデルパラメータセットと、ステップ235で算出された塗装ガン100の被塗装面の塗装中心位置に対する塗装ガン100の距離、塗装ガン100の移動速度、およびステップ237で解析を行った被塗装面の各局所領域位置に対する塗装ガン100の傾き角、の値を代入することによって、塗装ガン先端方向ベクトル方向の被塗装面内座標(x′,y′)を中心に形成されるパターン幅方向の膜厚分布を算出し、塗装作業管理ユニット130の塗装状態・作業教示部137は、ステップ220で入力した膜厚分布画像表示条件(塗装エリア寸法、画素数)に基づき、膜厚分布画像の表示を行う(ステップ238)。
【0090】
また、ステップ238の処理と並行して、塗装作業管理ユニット130の塗装状態解析部136は、ステップ235で算出した、被塗装面に対する塗装ガン先端105の距離、被塗装面の塗装中心107aに対する塗装ガン先端105の傾き角、塗装ガン先端105の移動速度と、塗装ガン100の軌道の水平度、塗装ガン100の軌道の間隔に関する塗装ガン動作と、ステップ222で選択された塗装ガン動作の適正範囲の値の比較を行い、ステップ235で算出された塗装ガン動作の値が適正範囲内であるかについて判定を行う(ステップ236)。
【0091】
また、ステップ236の処理と並行して、塗装作業管理ユニット130の塗装状態解析部136は、ステップ238で算出した膜厚分布の値と、ステップ222(
図14参照)で選択された膜厚分布の適正範囲の値の比較を行い、ステップ238で算出された膜厚分布の値が適正範囲内であるかについて判定を行う(ステップ239)。
【0092】
ステップ236による塗装ガン動作の状態解析結果、およびステップ239による膜厚分布の状態解析結果に基づき、塗装作業管理ユニット130の塗装状態・作業教示部137は、塗装ガン動作、もしくは膜厚分布状態が、ステップ222で選択された適正範囲外であった場合、HMD147(
図3参照)等への出力と表示、もしくはアラート音によって、作業者に対して警告を発する(ステップ240)。
【0093】
ステップ231からステップ240の一連の処理が終了すると、
図14に戻り、ステップ224に移る。ステップ230は、塗装作業が終了するまでの間繰り返し行い、塗装作業の終了後、ステップ224に移行する。
【0094】
塗装作業管理ユニット130の塗装状態解析部136は、ステップ238による塗装エリア範囲全体の膜厚分布画像における各画素値のヒストグラムを作成し、ヒストグラムの解析によって、塗装修正箇所の位置と塗装修正内容の特定を行う(ステップ224)。
【0095】
次に、塗装作業管理ユニット130の塗装状態・作業教示部137は、ステップ236で特定された修正箇所の位置情報と修正内容を、HMD147、もしくは出力装置149の画面に表示を行うことにより、作業者にその情報を教示する(ステップ225)。
【0096】
上記一連の処理により、作業者の人手による塗装において、塗装膜厚を均一化して塗装品質を向上させると共に、適正な膜厚値の確保によって、保護性、美観を担保することができる。更に無駄な塗料の使用削減も可能となり、塗装コストの削減や揮発性有機可能物の排出削減にも寄与することができる。尚、本実施例においては、本発明に係る塗装作業管理装置を人手塗装に適用した例について示したが、人手塗装に限るものではなく、本発明をロボット塗装に適用した場合の膜厚分布状態の検証作業に適用することも可能であることは言うまでもない。
【0097】
本発明のプログラムは、CPUを有する情報処理装置に、
図14、
図15に示す塗装作業管理方法を実行させるものである。すなわち、コンピュータに、塗装ガンによって被塗装物に対して塗料を吹き付けることにより塗装を行う塗装作業を管理する塗装作業管理方法を実行させるためのプログラムであって、被塗装物の塗装面の位置を特定して、塗装面の位置に前被塗装物の3Dモデルデータを位置合わせするステップと、計測ユニットが計測した、塗装ガン100の被塗装物の形状データの塗装面に対する位置、姿勢から、塗装ガン100の被塗装物の形状データの塗装面に対する距離、被塗装物の形状データの塗装面に対する傾き角、塗装ガン100の移動速度を特定するステップと、塗装ガン100の被塗装物の形状データの塗装面に対する距離、被塗装物の形状データの塗装面に対する傾き角、塗装ガン100の移動速度に関する情報と、被塗装物の形状データにおける被塗装面の形状に応じた応じた膜厚分布パターンを表すモデル式の情報に基づいて、被塗装物の塗装面に形成される膜厚分布を算出するステップと、を実行させるためのプログラムである。更に、被塗装物の形状データの塗装面に対する塗装ガン100の距離、又は被塗装物の形状データの塗装面に対する塗装ガン100の傾き角、塗装ガン100の移動速度、塗装ガン100の軌道の水平度、塗装ガン100の軌道の間隔の少なくとも1つ以上に基づいて、塗装ガン動作の状態が適正範囲内であるか、および/または、被塗装物の塗装面に形成される膜厚分布に基づいて、膜厚分布の状態が適正範囲内であるかを判定するステップと、判定の結果を塗装作業中の作業者に教示するステップと、を実行させるためのプログラムである。
【0098】
尚、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0099】
10 塗装作業管理装置
20 鉄道車両
22 被塗装面
30、30a~30f マーカ
40 取付フレーム
100 塗装ガン
101 ハンドル部
102 トリガレバー
105 塗装ガン先端
106 ホース
107 塗装パターン
107a 塗装中心
110 塗料供給機
120 計測ユニット
121、121a~121j 位置検出センサ
122 マーカ解析部
130 塗装作業管理ユニット
131 データ記憶部
132 形状データ位置調整部
133 塗装ガン動作算出部
134 被塗装面形状解析部
135 膜厚算出部
136 塗装状態解析部
137 塗装状態・作業教示部
140 PC
141 CPU
142 主記憶装置
143 補助記憶I/F
144 ネットワークI/F
145 入出力I/F
146 ルータ/ハブ
147 HMD
148 入力装置
149 出力装置
150 補助記憶装置
151 形状データ位置調節プログラム
152 塗装ガン動作算出プログラム
153 被塗装面形状解析プログラム
154 膜厚算出プログラム
155 塗装状態解析プログラム
160 塗装条件管理テーブル
170 被塗装物形状データ
300 塗装ガン先端の三次元位置座標データ列
400~402 塗装膜厚パターン
403 パターン幅
500 塗装ガン先端の軌道
501 塗装ガン先端方向ベクトルの方向における被塗装面内座標のデータ列
502 塗装ラインにおけるフィッティング直線
503 塗装ガンの軌道の水平度(ψ)
504 直前の塗装ラインにおけるフィッティング直線
505 塗装ガンの軌道の間隔(塗り合わせ間隔)
700 被塗装面の法線ベクトル
701 平面の被塗装面における塗装膜厚パターン
702 平面の被塗装面におけるパターン幅方向の膜厚分布
703 塗装ガン先端の方向ベクトルに対する被塗装面法線ベクトルの傾き角
704 曲面の被塗装面における塗装パターン
705 曲面の被塗装面におけるパターン幅方向の膜厚分布
800 標準塗装条件におけるパターン幅方向の膜厚分布
801 被塗装面のパターン幅内の各局所領域
802 射出塗料
1000 被塗装面における塗装エリア範囲
1001 膜厚分布画像における塗装ガン先端方向位置に対応した画素
1002 パターン幅方向の膜厚分布