(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170939
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】気体分離膜および気体分離膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/70 20060101AFI20241204BHJP
C08G 69/42 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
B01D71/70 500
C08G69/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087717
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】松本 康享
【テーマコード(参考)】
4D006
4J001
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006MA01
4D006MA02
4D006MA03
4D006MA06
4D006MA21
4D006MA31
4D006MB04
4D006MC01
4D006MC02
4D006MC03
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4D006MC18
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4D006MC39
4D006MC46
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4D006MC54
4D006MC55
4D006MC58
4D006MC62
4D006MC63
4D006MC65X
4D006NA03
4D006NA46
4D006NA54
4D006NA62
4D006PA01
4D006PB17
4D006PB18
4D006PB62
4D006PB63
4D006PB64
4D006PB66
4D006PB67
4D006PB68
4D006PC80
4J001DA01
4J001DB09
4J001DC10
4J001EB06
4J001EB08
4J001EB09
4J001EC81
4J001FA01
4J001FB03
4J001FC03
4J001GA15
4J001JA20
4J001JB29
(57)【要約】 (修正有)
【課題】二酸化炭素のガス選択比と気体透過度とを両立させる気体分離膜およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】式(1a)、式(1b)の構造単位を含むオルガノポリシロキサンで構成される気体分離膜。
[式(1a)および式(1b)中、R
1、R
2およびR
3は、独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリール基またはアリールオキシ基である。X
1は、アミド結合を含む架橋鎖であり、2つの前記第1b構造単位で共有されている。*は、結合手である。nおよびmは、前記第1a構造単位および前記第1b構造単位のモル比である。]
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を含む混合ガスから二酸化炭素を分離する気体分離膜であって、
下記式(1a)で表される第1a構造単位および下記式(1b)で表される第1b構造単位を含むオルガノポリシロキサンで構成されていることを特徴とする気体分離膜。
【化1】
[式(1a)および式(1b)中、R
1、R
2およびR
3は、独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリール基またはアリールオキシ基である。X
1は、アミド結合を含む架橋鎖であり、2つの前記第1b構造単位で共有されている。*は、結合手である。nおよびmは、前記第1a構造単位および前記第1b構造単位のモル比である。]
【請求項2】
前記オルガノポリシロキサンのm/(n+m)の比は、0超0.1未満である請求項1に記載の気体分離膜。
【請求項3】
二酸化炭素を含む混合ガスから二酸化炭素を分離する気体分離膜であって、
下記式(2a)で表される第2a構造単位および下記式(2b)で表される第2b構造単位を含むオルガノポリシロキサンで構成されていることを特徴とする気体分離膜。
【化2】
[式(2a)および式(2b)中、R
4、R
5およびR
6のうち、1つ以上がアルキル基であり、残りはアリール基である。X
2は、カルボン酸エステル結合を含む架橋鎖であり、2つの前記第2b構造単位で共有されている。*は、結合手である。nおよびmは、前記第2a構造単位および前記第2b構造単位のモル比である。]
【請求項4】
前記オルガノポリシロキサンのm/(m+n)の比は、0超0.1未満である請求項3に記載の気体分離膜。
【請求項5】
二酸化炭素を含む混合ガスから二酸化炭素を分離する気体分離膜の製造方法であって、
下記式(3a)で表される第3a構造単位および下記式(3b)で表される第3b構造単位を含むアミノ変性シリコーンと、ジカルボン酸と、を反応させるステップを有することを特徴とする気体分離膜の製造方法。
【化3】
[式(3a)および式(3b)中、R
1、R
2およびR
3は、独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリール基またはアリールオキシ基である。Y
1は、アミノアルキル基である。*は、結合手である。nおよびmは、前記第3a構造単位および前記第3b構造単位のモル比である。]
【請求項6】
前記ジカルボン酸の炭素原子数は、2以上8以下である請求項5に記載の気体分離膜の製造方法。
【請求項7】
前記アミノ変性シリコーンと前記ジカルボン酸とを反応させるステップは、縮合剤を添加する操作を含む請求項5または6に記載の気体分離膜の製造方法。
【請求項8】
二酸化炭素を含む混合ガスから二酸化炭素を分離する気体分離膜の製造方法であって、
下記式(4a)で表される第4a構造単位および下記式(4b)で表される第4b構造単位を含むフェニル変性シリコーン同士を反応させるステップを有することを特徴とする気体分離膜の製造方法。
【化4】
[式(4a)および式(4b)中、R
4、R
5およびR
6のうち、1つ以上がアルキル基であり、残りはアリール基である。Y
2は、フェニル基である。*は、結合手である。nおよびmは、前記第4a構造単位および前記第4b構造単位のモル比である。]
【請求項9】
前記フェニル変性シリコーン同士を反応させるステップは、前記フェニル変性シリコーンにオゾン処理を施す操作を含む請求項8に記載の気体分離膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体分離膜および気体分離膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンニュートラルやカーボンマイナスの実現に向けて、火力発電所やボイラー設備等から排出される二酸化炭素や大気中の二酸化炭素を取り込んで回収する技術が検討されている。この技術として、気体分離膜を用いて二酸化炭素を分離する膜分離法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、シロキサン結合(-Si-O-Si-)を主鎖とする高分子の主鎖同士を金属原子で架橋して得られた高分子膜であるガス透過膜が開示されている。このようなガス透過膜は、シロキサン結合を主鎖とする高分子の膜であるため、窒素ガスの透過性よりも、二酸化炭素ガスの透過性が高い。また、金属原子を構成成分とするため、機械的強度にも優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のガス透過膜では、シロキサン結合に由来する二酸化炭素の透過性に基づいて、窒素との分離性を求めている。しかしながら、シロキサン結合の二酸化炭素に対する親和性は十分でない。このため、特許文献1に記載のガス透過膜は、二酸化炭素のガス選択比において改善の余地がある。
【0006】
また、特許文献1に記載のガス透過膜は、金属原子を介して高分子同士を架橋させているため、骨格構造の機械的な自由度が低い。骨格構造の機械的な自由度は、ガス透過性に影響を及ぼすと考えられるため、特許文献1に記載のガス透過膜は、二酸化炭素の透過性においても改善の余地がある。
【0007】
したがって、二酸化炭素のガス選択比と二酸化炭素の気体透過度とを両立させ得る気体分離膜の実現が課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の適用例に係る気体分離膜は、
二酸化炭素を含む混合ガスから二酸化炭素を分離する気体分離膜であって、
下記式(1a)で表される第1a構造単位および下記式(1b)で表される第1b構造単位を含むオルガノポリシロキサンで構成されている。
【化1】
[式(1a)および式(1b)中、R
1、R
2およびR
3は、独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリール基またはアリールオキシ基である。X
1は、アミド結合を含む架橋鎖であり、2つの前記第1b構造単位で共有されている。*は、結合手である。nおよびmは、前記第1a構造単位および前記第1b構造単位のモル比である。]
【0009】
本発明の適用例に係る気体分離膜は、
二酸化炭素を含む混合ガスから二酸化炭素を分離する気体分離膜であって、
下記式(2a)で表される第2a構造単位および下記式(2b)で表される第2b構造単位を含むオルガノポリシロキサンで構成されている。
【化2】
[式(2a)および式(2b)中、R
4、R
5およびR
6のうち、1つ以上がアルキル基であり、残りはアリール基である。X
2は、カルボン酸エステル結合を含む架橋鎖であり、2つの前記第2b構造単位で共有されている。*は、結合手である。nおよびmは、前記第2a構造単位および前記第2b構造単位のモル比である。]
【0010】
本発明の適用例に係る気体分離膜の製造方法は、
二酸化炭素を含む混合ガスから二酸化炭素を分離する気体分離膜の製造方法であって、
下記式(3a)で表される第3a構造単位および下記式(3b)で表される第3b構造単位を含むアミノ変性シリコーンと、ジカルボン酸と、を反応させるステップを有する。
【化3】
[式(3a)および式(3b)中、R
1、R
2およびR
3は、独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリール基またはアリールオキシ基である。Y
1は、アミノアルキル基である。*は、結合手である。nおよびmは、前記第3a構造単位および前記第3b構造単位のモル比である。]
【0011】
本発明の適用例に係る気体分離膜の製造方法は、
二酸化炭素を含む混合ガスから二酸化炭素を分離する気体分離膜の製造方法であって、
下記式(4a)で表される第4a構造単位および下記式(4b)で表される第4b構造単位を含むフェニル変性シリコーン同士を反応させるステップを有する。
【化4】
[式(4a)および式(4b)中、R
4、R
5およびR
6のうち、1つ以上がアルキル基であり、残りはアリール基である。Y
2は、フェニル基である。*は、結合手である。nおよびmは、前記第4a構造単位および前記第4b構造単位のモル比である。]
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態に係る気体分離膜を模式的に示す断面図である。
【
図2】第1実施形態に係る気体分離膜の製造方法の構成を示す工程図である。
【
図3】第2実施形態に係る気体分離膜の製造方法の構成を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の気体分離膜および気体分離膜の製造方法を添付図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0014】
1.第1実施形態
まず、第1実施形態に係る気体分離膜の構成について説明する。
【0015】
1.1.気体分離膜の構成
図1は、第1実施形態に係る気体分離膜1を模式的に示す断面図である。
【0016】
図1に示す気体分離膜1は、二酸化炭素および非対象成分を含む混合ガスから、二酸化炭素を選択的に透過させる機能を有する。
図1に示す気体分離膜1は、多孔質層2と、分離層3と、を有する複合膜である。非対象成分とは、混合ガスに含まれる、二酸化炭素以外の気体成分を指す。非対象成分としては、例えば、窒素、メタン等が挙げられ、特に窒素が想定される。したがって、前述した混合ガスとしては、二酸化炭素と窒素の混合ガス等が挙げられる。なお、気体分離膜1は、複合膜に限定されない。
【0017】
多孔質層2は、
図1に示す空孔23を有する多孔質の膜である。このような多孔質層2は、良好な気体透過度を有するとともに、分離層3を支持する。これにより、分離層3が持つ良好なガス選択比を損なうことなく、気体分離膜1全体の機械的特性を高めることができる。
【0018】
分離層3は、多孔質層2の一方の面に設けられ、多孔質層2よりも緻密な(空孔率が低い)高分子材料で構成される。このような分離層3は、空孔23の上端を閉塞している。そして、分離層3は、気体分離膜1の上流側に供給された混合ガス中の二酸化炭素を下流側に選択的に透過させる、良好なガス選択比を有する。これにより、気体分離膜1は、混合ガス中の二酸化炭素を分離することができる。なお、以下の説明では、
図1に示す気体分離膜1の上方を「上流側」または単に「上」といい、下方を「下流側」または単に「下」という。
【0019】
本実施形態に係る気体分離膜1は、二酸化炭素を選択的に透過させる機能を有するが、その特性はガス選択比で定量的に表される。具体的には、非対象成分を窒素とするとき、気体分離膜1の窒素の気体透過度をRN2とし、気体分離膜1の二酸化炭素の気体透過度をRCO2とする。このとき、気体分離膜1のガス選択比RCO2/RN2は、好ましくは10以上であり、より好ましくは20以上50以下である。ガス選択比RCO2/RN2が前記範囲内であるとき、気体分離膜1は、混合ガス中の二酸化炭素を効率よく分離、回収できる。
【0020】
なお、ガス選択比が前記下限値を下回ると、回収される二酸化炭素に窒素のような非対象成分が多く混在する。このため、回収した二酸化炭素を貯留したり、利用したりする場合、その経済性や取り扱い性等の低下を招くおそれがある。一方、ガス選択比が前記上限値を上回ってもよいが、その場合、気体分離膜1の二酸化炭素の気体透過度を十分に高めることが困難になるという弊害や、そのようなガス選択比を実現する気体分離膜1の製造難易度や製造コストが高くなるという弊害を招くおそれがある。
【0021】
なお、気体分離膜1の窒素の気体透過度RN2および気体分離膜1の二酸化炭素の気体透過度RCO2は、それぞれ、JIS K 7126-1:2006に規定されているガス透過度試験方法(第1部:差圧法)に準じて測定される。測定には、ガス透過率測定装置が用いられる。ガス透過率測定装置としては、例えば、GTRテック株式会社製、GTR-11A/31A等が挙げられる。この装置では、気体分離膜1を透過したガスをガスクロマトグラフに導入し、成分ごとの気体透過度を測定する。これにより、窒素および二酸化炭素の各気体透過度を測定できる。
【0022】
また、本実施形態に係る気体分離膜1では、二酸化炭素の気体透過度RCO2が、15GPU以上であるのが好ましく、100GPU以上20000GPU以下であるのがより好ましく、200GPU以上15000GPU以下であるのがさらに好ましい。これにより、分離に必要なエネルギーの投入量を減らすこと、具体的には気体分離膜1の上流側と下流側との圧力差を小さくできる気体分離膜1を実現できる。なお、二酸化炭素の気体透過度RCO2が前記下限値を下回ると、二酸化炭素の分離に多くのエネルギーが必要になり、経済性が低下するおそれがある。一方、二酸化炭素の気体透過度RCO2が前記上限値を上回ると、前述したガス選択比とのバランスを保つことが困難になるおそれがある。なお、1GPUは、3.35×10-10mol・m-2・s-1・Pa-1である。
【0023】
また、分離層3は、多孔質層2に密着していることが好ましい。本明細書における「密着」とは、分離層3と多孔質層2との接着界面に気密性があることをいう。この気密性により、分離層3は、多孔質層2が有する空孔23を互いに独立させる。つまり、分離層3と多孔質層2との間に隙間が存在しないため、隙間を介した空孔23同士の連通を抑制できる。
【0024】
1.1.1.多孔質層
多孔質層2は、前述したように、空孔23を有する多孔質状の膜であり、良好な気体透過性を有する。また、多孔質層2は、分離層3に比べて剛性が高く、気体分離膜1全体の自立性や耐久性等の機械的特性の確保を担う。なお、分離層3が十分な機械的特性を有している場合は、多孔質層2が省略されていてもよい。
【0025】
多孔質層2の構成材料としては、例えば、高分子材料、セラミック材料、金属材料等が挙げられる。また、多孔質層2の構成材料は、これらの材料と他の材料との複合材料であってもよい。
【0026】
高分子材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデンのような含フッ素樹脂、ポリスチレン、セルロース、酢酸セルロース、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリアラミド、ナイロン等が挙げられる。
【0027】
セラミック材料としては、例えば、アルミナ、コーディエライト、ムライト、炭化珪素、ジルコニア等が挙げられる。金属材料としては、例えば、ステンレス鋼等が挙げられる。
【0028】
このうち、多孔質層2の構成材料にはセラミック材料が好ましく用いられる。セラミック材料は、剛性が高く、かつ、焼結材料であるため、連続した空孔を含む。このため、多孔質層2の構成材料としてセラミック材料を用いることにより、機械的特性に優れ、かつ、二酸化炭素の気体透過度が高い気体分離膜1が得られる。
【0029】
多孔質層2の形状は、
図1に示す平板状の他、スパイラル状、管状、中空糸状等であってもよい。
【0030】
多孔質層2の平均厚さは、特に限定されないが、1μm以上3000μm以下であるのが好ましく、5μm以上500μm以下であるのがより好ましく、10μm以上150μm以下であるのがさらに好ましい。これにより、多孔質層2は、気体分離膜1を支持するのに必要かつ十分な剛性を有する。なお、多孔質層2の平均厚さが前記下限値を下回ると、剛性が不十分になるおそれがある。一方、多孔質層2の平均厚さが前記上限値を上回ると、多孔質層2の剛性が高くなりすぎて、気体分離膜1の取り扱い性が低下したり、分離層3の密着性が低下したりするおそれがある。
【0031】
なお、多孔質層2の平均厚さは、多孔質層2の10か所について測定された、積層方向における厚さの平均値である。多孔質層2の厚さの測定には、例えば、シックネスゲージを用いることができる。
【0032】
多孔質層2は、空孔23を有するが、その平均内径を「平均空孔径」という。多孔質層2の平均空孔径は、0.2μm以下であるのが好ましく、0.01μm以上0.15μm以下であるのがより好ましく、0.01μm以上0.09μm以下であるのがさらに好ましく、0.01μm以上0.07μm以下であるのが特に好ましい。これにより、多孔質層2の二酸化炭素の気体透過度を十分に確保しつつ、分離層3が多孔質層2の下流側に抜け出てしまうのを抑制することができる。なお、多孔質層2の平均空孔径が前記下限値を下回ると、多孔質層2の二酸化炭素の気体透過度が低下するおそれがある。一方、多孔質層2の平均空孔径が前記上限値を上回ると、分離層3が多孔質層2の下流側に抜け出てしまうおそれがある。
【0033】
なお、多孔質層2の平均空孔径は、気体分離膜1から分離層3を除去して単独の多孔質層2を取り出した後、貫通細孔径評価装置により測定される。貫通細孔径評価装置としては、例えば、PMI社製、パームポロメーターが挙げられる。
【0034】
多孔質層2の空孔率は、20%以上90%以下であるのが好ましく、30%以上80%以下であるのがより好ましい。これにより、多孔質層2は、良好な気体透過性と、十分な剛性と、を両立できる。
【0035】
なお、多孔質層2の空孔率は、気体分離膜1から分離層3を除去した後、前述した貫通細孔径評価装置により測定される。
【0036】
1.1.2.分離層
分離層3は、多孔質層2の上流側の面に成膜されている。分離層3は、実質的に緻密な膜であり、二酸化炭素の分子と良好な親和性を有する。この親和性により、分離層3は、二酸化炭素を選択的に透過させる。
【0037】
分離層3の構成材料は、例えば、下記式(1a)で表される第1a構造単位および下記式(1b)で表される第1b構造単位を含む共重合体であるオルガノポリシロキサンである。
【0038】
【0039】
[式(1a)および式(1b)中、R1、R2およびR3は、独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリール基またはアリールオキシ基である。X1は、アミド結合を含む架橋鎖であり、2つの第1b構造単位で共有されている。*は、結合手である。nおよびmは、第1a構造単位および第1b構造単位のモル比である。]
【0040】
このようなオルガノポリシロキサンで構成された分離層3は、架橋鎖がN原子およびC=O二重結合を有するアミド結合を含んでいるため、二酸化炭素との親和性が高い。このため、このような分離層3は、二酸化炭素のガス選択比が高い気体分離膜1を実現する。また、上記のオルガノポリシロキサンでは、シロキサン結合で構成された主鎖同士が架橋鎖を介して架橋している。このため、上記のオルガノポリシロキサンは、膜を形成しやすく、かつ、その膜の機械的特性を高めやすい。これにより、分離層3をより薄くすることができるので、分離層3の二酸化炭素の気体透過度をより高めることができる。また、分離層3は、剥離しにくさと変形への追従性とを併せ持つものとなる。さらに、空孔23への分離層3の入り込みを抑制できる。
【0041】
R1、R2およびR3を構成するアルキル基の炭素原子数は、特に限定されないが、1以上6以下であるのが好ましく、2以上5以下であるのがより好ましい。アルキル基は、直鎖状であっても、分枝状であってもよい。また、アルキル基が含む1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい。置換基としては、例えば、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、フェニル基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、ハロゲン原子、チオール基等が挙げられる。また、複数の置換基で置換されている場合、それらは同種の置換基であってもよく、異種の置換基であってもよい。
【0042】
アルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、イソアミル基、ヘキシル基、ベンジル基、フェニルエチル基、2-フェニルプロピル基、トリフルオロプロピル基、カルボキシメチル基、アミノメチル基、ヒドロキシアルキル基等が挙げられる。
【0043】
このうち、ヒドロキシアルキル基としては、例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシイソプロピル基、ヒドロキシブチル基、ヒドロキシイソブチル基、ヒドロキシt-ブチル基等が挙げられる。
【0044】
R1、R2およびR3を構成するアルケニル基の炭素原子数は、特に限定されないが、2以上6以下であるのが好ましい。アルケニル基は、直鎖状であっても、分枝状であってもよい。また、アルケニル基が含む1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい。置換基としては、アルキル基の場合と同様のものが挙げられる。
【0045】
アルケニル基の具体例としては、例えば、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-メチルビニル基、2-メチル-1-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-ペンテニル基、1-ヘキセニル基等が挙げられる。
【0046】
R1、R2およびR3を構成するアルコキシ基の炭素原子数は、特に限定されないが、1以上6以下であるのが好ましい。アルコキシ基のアルキル基部分は、直鎖状であっても、分岐状であってもよい。また、アルコキシ基が含む1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい。置換基としては、アルキル基の場合と同様のものが挙げられる。
【0047】
アルコキシ基の具体例としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、t-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソアミルオキシ基、ヘキシルオキシ基、フェニルメトキシ基、フェニルエトキシ基等が挙げられる。
【0048】
R1、R2およびR3を構成するアルケニルオキシ基の炭素原子数は、特に限定されないが、2以上6以下であるのが好ましい。アルケニルオキシ基のアルケニル基部分は、直鎖状であっても、分枝状であってもよい。また、アルケニルオキシ基が含む1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい。置換基としては、アルキル基の場合と同様のものが挙げられる。
【0049】
アルケニルオキシ基の具体例としては、例えば、ビニルオキシ基、1-プロペニルオキシ基、2-プロペニルオキシ基、1-メチルビニルオキシ基、2-メチル-1-プロペニルオキシ基、1-ブテニルオキシ基、2-ブテニルオキシ基、3-ブテニルオキシ基、1-ペンテニルオキシ基、1-ヘキセニルオキシ基等が挙げられる。
【0050】
R1、R2およびR3を構成するアリール基は、単環であってもよく、縮合環であってもよく、複数の芳香族環が単結合された基であってもよい。また、アリール基が含む1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい。置換基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、カルボキシル基、アミノ基、ハロゲン原子、チオール基等が挙げられる。複数の置換基で置換されている場合、それらは同種の置換基であってもよく、異種の置換基であってもよい。
【0051】
アリール基の具体例としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、ブトキシフェニル基、ナフチル基、ジメチルナフチル基、インデニル基、ビフェニル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基、クリセニル基、ナフタセニル基、フルオレニル基等が挙げられる。
【0052】
R1、R2およびR3を構成するアリールオキシ基のアリール基部分は、単環であってもよく、縮合環であってもよく、複数の芳香族環が単結合された基であってもよい。また、アリールオキシ基が含む1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい。置換基としては、アリール基の場合と同様のものが挙げられる。
【0053】
アリールオキシ基の具体例としては、例えば、フェノキシ基、トリルオキシ基、キシリルオキシ基、メトキシフェニルオキシ基、エトキシフェニルオキシ基、ブトキシフェニルオキシ基、ナフチルオキシ基、ジメチルナフチルオキシ基等が挙げられる。
【0054】
また、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、アルキル基またはアリール基であることが好ましく、アルキル基またはフェニル基であることがより好ましい。
【0055】
X1は、アミド結合を含む架橋鎖であり、2つの第1b構造単位で共有されている。アミド結合は、-C(=O)-N-で表される結合部である。アミド結合は、C=Oの二重結合を含み、二酸化炭素に対する良好な親和性を有する。また、アミド結合は、剛直性を有するとともに、同一平面内に原子が並ぶことによって分離層3に平面性を与える。このような観点でも、アミド結合を含む架橋鎖は、分離層3の機械的特性の向上に寄与する。
【0056】
また、アミド結合は、2つの第1b構造単位中のSi原子と直接結合していてもよいが、アルキレン基、エーテル結合等を介して結合していてもよい。つまり、架橋鎖X1は、アミド結合とともにこれらを含んでいてもよい。また、架橋鎖X1は、2つ以上のアミド結合を含んでいてもよい。これにより、分離層3の機械的特性のさらなる向上を図ることができる。さらに、架橋鎖X1は、アミド結合を含む直鎖状であってもよいが、アミド結合を含む主鎖と、そこから分岐した側鎖と、を含む分枝状をなしていてもよい。
【0057】
上記式(1a)中のnおよび上記式(1b)中のmは、それぞれ、オルガノポリシロキサンの重量平均分子量が好ましくは100以上100,000以下となるように、より好ましくは1,000以上30,000以下となるように、適宜設定される。
【0058】
このとき、式(1a)および式(1b)におけるm/(n+m)の比は、特に限定されないが、0超0.1未満であることが好ましく、0.001以上0.1未満であることがより好ましく、0.01以上0.05以下であることがさらに好ましい。m/(n+m)の比が前記範囲内であれば、オルガノポリシロキサンにおける架橋鎖の比率を最適化することができる。その結果、分離層3の機械的特性を高めつつ、分離層3の気体透過性も確保することができる。
【0059】
なお、m/(n+m)の比が前記下限値を下回ると、オルガノポリシロキサンにおいて第1b構造単位の比率が低下し、架橋鎖の比率が低下するため、分離層3の機械的特性が低下するおそれがある。一方、m/(n+m)の比が前記上限値を上回ると、オルガノポリシロキサンにおいて第1b構造単位の比率が上昇し、架橋鎖の比率が上昇するため、分離層3の気体透過性が低下するおそれがある。
【0060】
オルガノポリシロキサンの末端基としては、例えば、アルキル基、水酸基、アルコキシ基等が挙げられる。第1a構造単位の結合手*は、第1a構造単位の結合手*、第1b構造単位に含まれるO原子もしくはSi原子の結合手*、末端基、または、その他の構造単位と結合する。第1b構造単位のうち、O原子もしくはSi原子の結合手*は、第1a構造単位の結合手*、第1b構造単位に含まれるO原子もしくはSi原子の結合手*、末端基、または、その他の構造単位と結合する。第1b構造単位のうち、架橋鎖X1の結合手*は、別の第1b構造単位のSi原子と結合する。
【0061】
オルガノポリシロキサンにおいて第1a構造単位および第1b構造単位の結合様式は、ランダム共重合、交互共重合、ブロック共重合等のいずれであってもよい。オルガノポリシロキサンにおける第1a構造単位および第1b構造単位の合計含有率は、モル比で60%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましい。
【0062】
分離層3の平均厚さは、特に限定されないが、1000nm以下であるのが好ましく、10nm以上800nm以下であるのがより好ましく、30nm以上500nm以下であるのがさらに好ましく、50nm以上200nm以下であるのが特に好ましい。これにより、分離層3は、良好なガス選択比を確保しつつ、十分な気体透過性を有するものとなる。その結果、二酸化炭素の選択分離性が良好で、かつ、分離に必要なエネルギーの投入量を減らすこと、具体的には気体分離膜1の上流側と下流側との圧力差を小さくできる気体分離膜1を実現できる。なお、分離層3の平均厚さが前記下限値を下回ると、分離層3に欠陥が生じる確率がより高くなったり、分離層3が事後的に破損しやすくなったりするおそれがある。一方、分離層3の平均厚さが前記上限値を上回ると、分離層3の二酸化炭素の気体透過度が低下して分離に必要なエネルギーの投入量が増加したり、分離層3の柔軟性が低下したりするおそれがある。
【0063】
また、分離層3の平均厚さは、多孔質層2の平均厚さの0.0050%以上1.0%以下であるのが好ましく、0.010%以上0.50%以下であるのがより好ましく、0.030%以上0.30%以下であるのがさらに好ましい。これにより、2つの層の厚さの比が最適化されるため、気体分離膜1の機械的特性、ガス選択比および気体透過度を良好に並立させることができる。
【0064】
なお、分離層3の平均厚さは、例えば、気体分離膜1の断面を拡大観察し、10か所の厚さの平均値として求められる。拡大観察には、例えば、走査型電子顕微鏡、透過電子顕微鏡が用いられる。
【0065】
また、分離層3と多孔質層2との間には、任意の中間層が介在していてもよい。中間層は、例えば、分離層3と多孔質層2との密着性を高める機能、分離層3が空孔23に入り込むのを抑制する機能等を有していてもよい。
【0066】
なお、分離層3の上流側の面には、必要に応じて、カップリング剤等を用いて任意の官能基が導入されていてもよい。官能基を適宜選択することにより、二酸化炭素に対する親和性をさらに高めることができる。
【0067】
1.2.気体分離膜の製造方法
次に、第1実施形態に係る気体分離膜の製造方法について説明する。
【0068】
図2は、第1実施形態に係る気体分離膜の製造方法の構成を示す工程図である。
図2に示す製造方法は、溶液調製ステップS102と、塗布ステップS104と、を有する。
【0069】
1.2.1.溶液調製ステップ
溶液調製ステップS102では、アミノ変性シリコーンと、ジカルボン酸と、を混合し、溶液を調製する。
【0070】
具体的には、まず、ジカルボン酸を溶媒に入れ、ジカルボン酸含有液を調製する。ジカルボン酸含有液におけるジカルボン酸の濃度は、特に限定されないが、0.01質量%以上1.0質量%以下であるのが好ましく、0.05質量%以上0.50質量%以下であるのがより好ましい。
【0071】
ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸のような脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸のような芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。
【0072】
また、本ステップでは、炭素原子数が2以上8以下のジカルボン酸が好ましく用いられ、炭素原子数が3以上6以下のジカルボン酸がより好ましく用いられ、炭素原子数が3以上6以下の脂肪族ジカルボン酸がさらに好ましく用いられる。これにより、2つのアミド結合を含む架橋鎖を介して、シロキサン結合の主鎖同士が架橋してなる架橋構造が形成されるとき、架橋鎖の長さを最適化できる。その結果、機械的特性に優れ、剥離しにくさと変形への追従性とを併せ持つ分離層3を形成することができる。
【0073】
溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールのようなアルコール類、ジエチルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル(MTBE)、ジイソプロピルエーテル、ジフェニルエーテルのようなエーテル類等が挙げられる。
【0074】
次に、アミノ変性シリコーンを、上記のジカルボン酸含有液に入れ、撹拌する。これにより、分離層3を形成するための溶液を調製する。
【0075】
アミノ変性シリコーンは、側鎖にアミノ基を有するシリコーンである。アミノ変性シリコーンは、下記式(3a)で表される第3a構造単位および下記式(3b)で表される第3b構造単位を含む。
【0076】
【0077】
[式(3a)および式(3b)中、R1、R2およびR3は、独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリール基またはアリールオキシ基である。Y1は、アミノアルキル基である。*は、結合手である。nおよびmは、第3a構造単位および第3b構造単位のモル比である。]
【0078】
このようなアミノ変性シリコーンは、ジカルボン酸と反応可能な反応性基として、アミノアルキル基を含んでいる。アミノ変性シリコーンとジカルボン酸とを反応させることにより、アミド結合を含む架橋鎖が生成され、これを介した架橋構造が生成される。これにより、前述したオルガノポリシロキサンで構成された分離層3を形成することができる。
【0079】
アミノアルキル基の炭素原子数は、特に限定されないが、1以上6以下であるのが好ましく、2以上5以下であるのがより好ましく、3以上4以下であるのがさらに好ましい。これにより、シロキサン結合とアミノ基との距離を確保することができ、生成される架橋鎖の柔軟性を最適化できる。つまり、生成される架橋鎖において、シロキサン結合とアミド結合との間に、所定の炭素原子数を持つアルキル鎖を介在させることができる。その結果、機械的特性に優れ、剥離しにくさと変形への追従性とを併せ持つ分離層3を形成することができる。アミノアルキル基としては、例えば、アミノプロピル基、アミノブチル基等が挙げられる。
【0080】
式(3a)および式(3b)中、R1、R2およびR3は、前述した、式(1a)および式(1b)中のR1、R2およびR3と同様である。
【0081】
また、式(3a)中のnおよび式(3b)中のmは、それぞれ、オルガノポリシロキサンの重量平均分子量が好ましくは100以上100,000以下となるように、より好ましくは1,000以上30,000以下となるように、適宜設定される。
【0082】
さらに、m/(n+m)の比は、式(1a)および式(1b)の場合と同様である。すなわち、式(3a)および式(3b)におけるm/(n+m)の比は、特に限定されないが、0超0.1未満であることが好ましく、0.001以上0.1未満であることがより好ましく、0.01以上0.05以下であることがさらに好ましい。m/(n+m)の比が前記範囲内であれば、生成されるオルガノポリシロキサンにおける架橋鎖の比率を最適化することができる。その結果、分離層3の機械的特性を高めつつ、分離層3の気体透過性も確保することができる。
【0083】
なお、m/(n+m)の比が前記下限値を下回ると、オルガノポリシロキサンにおいて第3b構造単位に由来する構造の比率が低下し、架橋鎖の比率が低下するため、分離層3の機械的特性が低下するおそれがある。一方、m/(n+m)の比が前記上限値を上回ると、オルガノポリシロキサンにおいて第3b構造単位に由来する構造の比率が上昇し、架橋鎖の比率が上昇するため、分離層3の気体透過性が低下するおそれがある。
【0084】
アミノ変性シリコーンの末端基としては、例えば、アルキル基、水酸基、アルコキシ基等が挙げられる。第3a構造単位の結合手*は、第3a構造単位の結合手*、第3b構造単位の結合手*、末端基、または、その他の構造単位と結合する。第3b構造単位の結合手*は、第3a構造単位の結合手*、第3b構造単位の結合手*、末端基、または、その他の構造単位と結合する。アミノ変性シリコーンにおける第3a構造単位および第3b構造単位の合計含有率は、モル比で60%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましい。
【0085】
ジカルボン酸含有液に対するアミノ変性シリコーンの添加量は、アミノ変性シリコーンにおけるアミノアルキル基の含有率に応じて適宜設定される。具体的には、式(3a)および式(3b)におけるm/(n+m)の比は、アミノアルキル基の含有率に対応している。したがって、ジカルボン酸含有液に含まれるジカルボン酸の量が、アミノアルキル基の反応において必要かつ十分な量となるように、アミノ変性シリコーンの添加量を調整すればよい。
【0086】
また、溶液には、必要に応じて任意の添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、縮合剤、酸化防止剤、安定剤、滑剤等が挙げられる。
【0087】
このうち、縮合剤としては、既知のアミド縮合剤が挙げられる。アミド縮合剤としては、例えば、カルボジイミド系縮合剤、カルボニルジイミダゾール系縮合剤、トリアジン系縮合剤、ホスホニウム系縮合剤、ウロニウム系縮合剤、りん酸系縮合剤等が挙げられる。このような縮合剤を用いることにより、後述する塗布ステップS104において、アミノ変性シリコーンとジカルボン酸とを反応させるときの反応条件を緩和させることができる。つまり、縮合剤を用いない場合に比べて、反応温度を低くしたり、反応時間を短くしたりすることができる。その結果、例えば反応温度を常温程度まで下げても、十分な反応効率が得られるため、分離層3の製造効率を高めることができる。
【0088】
カルボジイミド系縮合剤としては、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N-エチル-N’-3-ジメチルアミノプロピルカルボジイミド(EDC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIPC)等が挙げられる。
【0089】
カルボニルジイミダゾール系縮合剤としては、例えば、カルボニルジイミダゾール(CDI)、1,2,4-トリアゾール(CDT)等が挙げられる。
【0090】
トリアジン系縮合剤としては、例えば、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMT-MM)等が挙げられる。
【0091】
ホスホニウム系縮合剤としては、例えば、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロりん酸塩(BOP)、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロりん酸塩(pyBOP)等が挙げられる。
【0092】
ウロニウム系縮合剤としては、例えば、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロりん酸塩(HATU)、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロりん酸塩(HBTU)、{{[(1-シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデン)アミノ]オキシ}-4-モルホリノメチレン}ジメチルアンモニウムヘキサフルオロりん酸塩(COMU)等が挙げられる。
【0093】
りん酸系縮合剤としては、例えば、ジフェニルりん酸アジド(DPPA)、ジエチルりん酸シアニド(DEPC)等が挙げられる。
【0094】
縮合剤の添加量は、縮合剤の活性基のモル当量で、アミノ基に対して、好ましくは0.01モル当量以上2.0モル当量以下となるように調整され、より好ましくは0.05モル当量以上1.5モル当量以下となるように調整される。
【0095】
1.2.2.塗布ステップ
塗布ステップS104では、調製した溶液を、多孔質層2の一方の面に塗布する。これにより、塗膜が得られる。
【0096】
塗布方法としては、例えば、浸漬法、滴下法、インクジェット法、ディスペンサー法、噴霧法、スクリーン印刷法、コーター塗布法、スピンコート法等が挙げられる。
【0097】
次に、塗膜を乾燥させる。これにより、分離層3が得られる。乾燥は、自然乾燥であってもよいし、強制乾燥であってもよいし、双方を用いた乾燥であってもよい。自然乾燥は、例えば、常温で1時間以上放置する方法である。強制乾燥としては、例えば、50℃以上250℃以下の温度で10分以上加熱する方法、減圧下に塗膜を置く方法、ガスを吹き付ける方法等が挙げられる。
【0098】
なお、分離層3の形成後、必要に応じて洗浄処理を施すようにしてもよい。洗浄処理では、例えば、分離層3を洗浄液に浸漬する処理が用いられる。その後、乾燥によって洗浄液を除去する。
以上のようにして、気体分離膜1を製造することができる。
【0099】
2.第2実施形態
次に、第2実施形態に係る気体分離膜の構成について説明する。
【0100】
以下、第2実施形態について説明するが、以下の説明では、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。また、以下の説明では、
図1に示す形態に基づいて説明する。
【0101】
2.1.気体分離膜の構成
第2実施形態に係る気体分離膜1は、分離層3を構成するオルガノポリシロキサンが含む構造単位が異なること以外、第1実施形態に係る気体分離膜1と同様である。
【0102】
第2実施形態に係る気体分離膜1が有する分離層3の構成材料は、下記式(2a)で表される第2a構造単位および下記式(2b)で表される第2b構造単位を含む共重合体であるオルガノポリシロキサンである。
【0103】
【0104】
[式(2a)および式(2b)中、R4、R5およびR6のうち、1つ以上がアルキル基であり、残りはアリール基である。X2は、カルボン酸エステル結合を含む架橋鎖であり、2つの第2b構造単位で共有されている。*は、結合手である。nおよびmは、第2a構造単位および第2b構造単位のモル比である。]
【0105】
カルボン酸エステル結合とは、カルボキシル基とアルデヒド基との反応、または、カルボキシ基同士の脱水縮合によって生成されるエステル結合である。カルボン酸エステル結合にはC=O二重結合が含まれているため、二酸化炭素との親和性が高い。このため、上記のような架橋鎖X2を含む分離層3は、二酸化炭素のガス選択比が高い気体分離膜1を実現する。また、上記のオルガノポリシロキサンでは、シロキサン結合で構成された主鎖同士が架橋鎖X2を介して架橋している。このため、上記のオルガノポリシロキサンは、膜を形成しやすく、かつ、その膜の機械的特性を高めやすい。これにより、分離層3は、剥離しにくさと変形への追従性とを併せ持つものとなる。また、空孔23への分離層3の入り込みを抑制できる。さらに、分離層3をより薄くすることができるので、分離層3の二酸化炭素の気体透過度をより高めることができる。
【0106】
R4、R5およびR6を構成するアリール基は、単環であってもよく、縮合環であってもよく、複数の芳香族環が単結合された基であってもよい。また、アリール基が含む1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい。置換基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、カルボキシル基、アミノ基、ハロゲン原子、チオール基等が挙げられる。複数の置換基で置換されている場合、それらは同種の置換基であってもよく、異種の置換基であってもよい。
【0107】
アリール基の具体例としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、ブトキシフェニル基、ナフチル基、ジメチルナフチル基、インデニル基、ビフェニル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基、クリセニル基、ナフタセニル基、フルオレニル基等が挙げられる。
【0108】
このうち、R4、R5およびR6を構成するアリール基は、フェニル基であるのが好ましい。これにより、分離層3における二酸化炭素のガス選択比を特に高めることができ、かつ、二酸化炭素の気体透過度も確保しやすくなる。
【0109】
R4、R5およびR6を構成するアルキル基の炭素原子数は、特に限定されないが、1以上6以下であるのが好ましく、2以上5以下であるのがより好ましい。アルキル基は、直鎖状であっても、分枝状であってもよい。また、アルキル基が含む1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい。置換基としては、例えば、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、フェニル基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、ハロゲン原子、チオール基等が挙げられる。また、複数の置換基で置換されている場合、それらは同種の置換基であってもよく、異種の置換基であってもよい。
【0110】
アルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、イソアミル基、ヘキシル基、ベンジル基、フェニルエチル基、2-フェニルプロピル基、トリフルオロプロピル基、カルボキシメチル基、アミノメチル基、ヒドロキシアルキル基等が挙げられる。
【0111】
このうち、ヒドロキシアルキル基としては、例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシイソプロピル基、ヒドロキシブチル基、ヒドロキシイソブチル基、ヒドロキシt-ブチル基等が挙げられる。
なお、R4、R5およびR6のすべてがアルキル基であってもよい。
【0112】
X2は、カルボン酸エステル結合を含む架橋鎖であり、2つの第2b構造単位で共有されている。カルボン酸エステル結合は、-CO-O-CO-で表されるカルボン酸無水物の構造を持つ結合である。カルボン酸エステル結合は、C=Oの二重結合を含み、二酸化炭素に対する良好な親和性を有する。
【0113】
また、カルボン酸エステル結合は、2つの第2b構造単位中のSi原子と直接結合していてもよいが、アルキレン基、エーテル結合、C=C結合等を介して結合していてもよい。つまり、架橋鎖X2は、カルボン酸エステル結合とともにこれらの基を含んでいてもよい。さらに、架橋鎖X2は、カルボン酸エステル結合を含む直鎖状であってもよいが、カルボン酸エステル結合を含む主鎖と、そこから分岐した側鎖と、を含む分枝状をなしていてもよい。
【0114】
上記式(2a)中のnおよび上記式(2b)中のmは、それぞれ、オルガノポリシロキサンの重量平均分子量が好ましくは100以上100,000以下となるように、より好ましくは1,000以上30,000以下となるように、適宜設定される。
【0115】
このとき、式(2a)および式(2b)におけるm/(n+m)の比は、特に限定されないが、0超0.1未満であることが好ましく、0.001以上0.1未満であることがより好ましく、0.01以上0.05以下であることがさらに好ましい。m/(n+m)の比が前記範囲内であれば、オルガノポリシロキサンにおける架橋鎖X2の比率を最適化することができる。その結果、分離層3の機械的特性を高めつつ、分離層3の気体透過性も確保することができる。
【0116】
なお、m/(n+m)の比が前記下限値を下回ると、オルガノポリシロキサンにおいて第2b構造単位の比率が低下し、架橋鎖X2の比率が低下するため、分離層3の機械的特性が低下するおそれがある。一方、m/(n+m)の比が前記上限値を上回ると、オルガノポリシロキサンにおいて第2b構造単位の比率が上昇し、架橋鎖X2の比率が上昇するため、分離層3の気体透過性が低下するおそれがある。
【0117】
オルガノポリシロキサンの末端基としては、例えば、アルキル基、水酸基、アルコキシ基等が挙げられる。第2a構造単位の結合手*は、第2a構造単位の結合手*、第2b構造単位に含まれるO原子もしくはSi原子の結合手*、末端基、または、その他の構造単位と結合する。第2b構造単位のうち、O原子もしくはSi原子の結合手*は、第2a構造単位の結合手*、第2b構造単位に含まれるO原子もしくはSi原子の結合手*、末端基、または、その他の構造単位と結合する。第2b構造単位のうち、架橋鎖X2の結合手*は、別の第2b構造単位のSi原子と結合する。
【0118】
オルガノポリシロキサンにおいて第2a構造単位および第2b構造単位の結合様式は、ランダム共重合、交互共重合、ブロック共重合等のいずれであってもよい。オルガノポリシロキサンにおける第2a構造単位および第2b構造単位の合計含有率は、モル比で60%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましい。
【0119】
2.2.気体分離膜の製造方法
次に、第2実施形態に係る気体分離膜の製造方法について説明する。
【0120】
図3は、第2実施形態に係る気体分離膜の製造方法の構成を示す工程図である。
図3に示す製造方法は、溶液調製ステップS202と、反応ステップS204と、を有する。
【0121】
2.2.1.溶液調製ステップ
溶液調製ステップS202では、まず、フェニル変性シリコーンと溶媒とを混合し、溶液を調製する。溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールのようなアルコール類、ジエチルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル(MTBE)、ジイソプロピルエーテル、ジフェニルエーテルのようなエーテル類等が挙げられる。
【0122】
フェニル変性シリコーンは、側鎖にフェニル基を有するシリコーンである。フェニル変性シリコーンは、下記式(4a)で表される第4a構造単位および下記式(4b)で表される第4b構造単位を含む。
【0123】
【0124】
[式(4a)および式(4b)中、R4、R5およびR6のうち、1つ以上がアルキル基であり、残りはアリール基である。Y2は、フェニル基である。*は、結合手である。nおよびmは、第4a構造単位および第4b構造単位のモル比である。]
【0125】
このようなフェニル変性シリコーンは、後述する反応ステップS204において反応し、カルボン酸エステル結合を含む架橋鎖X2が生成され、これを介した架橋構造が生成される。これにより、前述したオルガノポリシロキサンで構成された分離層3を形成することができる。
【0126】
式(4a)および式(4b)中、R4、R5およびR6は、前述した、式(2a)および式(2b)中のR4、R5およびR6と同様である。
【0127】
また、式(4a)中のnおよび式(4b)中のmは、それぞれ、オルガノポリシロキサンの重量平均分子量が好ましくは100以上100,000以下となるように、より好ましくは1,000以上30,000以下となるように、適宜設定される。
【0128】
さらに、m/(n+m)の比は、式(2a)および式(2b)の場合と同様である。すなわち、式(4a)および式(4b)におけるm/(n+m)の比は、特に限定されないが、0超0.1未満であることが好ましく、0.001以上0.1未満であることがより好ましく、0.01以上0.05以下であることがさらに好ましい。m/(n+m)の比が前記範囲内であれば、生成されるオルガノポリシロキサンにおける架橋鎖X2の比率を最適化することができる。その結果、分離層3の機械的特性を高めつつ、分離層3の気体透過性も確保することができる。
【0129】
なお、m/(n+m)の比が前記下限値を下回ると、オルガノポリシロキサンにおいて第4b構造単位に由来する構造の比率が低下し、架橋鎖X2の比率が低下するため、分離層3の機械的特性が低下するおそれがある。一方、m/(n+m)の比が前記上限値を上回ると、オルガノポリシロキサンにおいて第4b構造単位に由来する構造の比率が上昇し、架橋鎖X2の比率が上昇するため、分離層3の気体透過性が低下するおそれがある。
【0130】
フェニル変性シリコーンの末端基としては、例えば、アルキル基、水酸基、アルコキシ基等が挙げられる。第4a構造単位の結合手*は、第4a構造単位の結合手*、第4b構造単位の結合手*、末端基、または、その他の構造単位と結合する。第4b構造単位の結合手*は、第4a構造単位の結合手*、第4b構造単位の結合手*、末端基、または、その他の構造単位と結合する。フェニル変性シリコーンにおける第4a構造単位および第4b構造単位の合計含有率は、モル比で60%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましい。
【0131】
2.2.2.反応ステップ
反応ステップS204では、調製した溶液を、多孔質層2の一方の面に塗布する。これにより、塗膜が得られる。
【0132】
塗布方法としては、例えば、浸漬法、滴下法、インクジェット法、ディスペンサー法、噴霧法、スクリーン印刷法、コーター塗布法、スピンコート法等が挙げられる。
【0133】
次に、塗膜を乾燥させる。これにより、分離層3が得られる。乾燥は、自然乾燥であってもよいし、強制乾燥であってもよいし、双方を用いた乾燥であってもよい。自然乾燥は、例えば、常温で1時間以上放置する方法である。強制乾燥としては、例えば、50℃以上250℃以下の温度で10分以上加熱する方法、減圧下に塗膜を置く方法、ガスを吹き付ける方法等が挙げられる。
【0134】
次に、乾燥させた塗膜を密閉容器に入れ、加熱しながらオゾン処理を施す。これにより、フェニル変性シリコーンのフェニル基にオゾン酸化反応が生じ、ベンゼン環が開裂してアルデヒド基が生じる。このアルデヒド基の少なくとも一部は、さらに酸化され、カルボキシル基になる。
【0135】
第4b構造単位に生じたカルボキシル基は、別の第4b構造単位に生じたカルボキシル基と脱水縮合反応を生じ、カルボン酸エステル結合を含む架橋鎖X2が生成され、これを介した架橋構造が生成される。これにより、前述したオルガノポリシロキサンで構成された分離層3を形成することができる。
【0136】
オゾン処理は、密閉容器内においてオゾンガス存在下で塗膜を加熱する処理である。加熱温度は、特に限定されないが、30℃以上であるのが好ましく、30℃以上80℃以下であるのがより好ましく、35℃以上60℃以下であるのがさらに好ましい。
【0137】
また、オゾンガスは、密閉容器内に所定の濃度になるように供給される。密閉容器内におけるオゾン濃度は、特に限定されないが、10g/Nm3以上200g/Nm3以下であるのが好ましく、50g/Nm3以上100g/Nm3以下であるのがより好ましい。これにより、各フェニル基に対し、オゾン酸化反応を生じさせることができ、かつ、過剰なオゾン酸化反応によってオルガノポリシロキサンの特性が低下してしまうのを抑制できる。
【0138】
また、密閉容器内に供給されるオゾンガスの流量は、特に限定されないが、100ccm以上2000ccm以下であるのが好ましく、300ccm以上1000ccm以下であるのがより好ましい。
【0139】
オゾン処理を行う時間は、加熱温度やオゾン濃度等に応じて適宜設定されるが、一例として、10分以上3時間以下であるのが好ましく、30分以上2時間以下であるのがより好ましい。
【0140】
なお、分離層3の形成後、必要に応じて洗浄処理を施すようにしてもよい。洗浄処理では、例えば、分離層3を洗浄液に浸漬する処理が用いられる。その後、乾燥によって洗浄液を除去する。
【0141】
以上のようにして、気体分離膜1を製造することができる。なお、オゾン処理に代えて、フェニル基が持つベンゼン環を開裂させ得る他の処理、例えば、紫外線照射、過酸化水素処理、光触媒処理等を行ったり、これらをオゾン処理と併用したりしてもよい。
【0142】
3.気体分離膜の用途
実施形態に係る気体分離膜1は、ガス分離回収、ガス分離精製等に用いることができる。例えば、水素、ヘリウム、一酸化炭素、二酸化炭素、硫化水素、酸素、窒素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物の他、メタン、エタンのような飽和炭化水素、プロピレンのような不飽和炭化水素、テトラフルオロエタンのようなパーフルオロ炭化水素等の気体成分を含有する混合ガスから二酸化炭素を効率よく分離するとき、気体分離膜1が用いられる。これにより、例えば大気に含まれる二酸化炭素を分離回収する技術(直接空気回収(DAC))や、メタンが主成分である原油随伴ガスや天然ガスから二酸化炭素を分離回収する技術において、気体分離膜1を効果的に用いることができる。
【0143】
4.前記実施形態が奏する効果
以上のように、前記実施形態に係る気体分離膜1は、二酸化炭素を含む混合ガスから二酸化炭素を分離する気体分離膜であって、下記式(1a)で表される第1a構造単位および下記式(1b)で表される第1b構造単位を含むオルガノポリシロキサンで構成されている。
【0144】
【0145】
[式(1a)および式(1b)中、R1、R2およびR3は、独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリール基またはアリールオキシ基である。X1は、アミド結合を含む架橋鎖であり、2つの第1b構造単位で共有されている。*は、結合手である。nおよびmは、第1a構造単位および第1b構造単位のモル比である。]
【0146】
このような構成によれば、二酸化炭素のガス選択比と二酸化炭素の気体透過度とを両立させ得る気体分離膜1が得られる。また、上記のオルガノポリシロキサンで構成された分離層3は、機械的特性に優れるため、剥離しにくさと変形への追従性とを併せ持つものとなる。
【0147】
また、オルガノポリシロキサンのm/(n+m)の比は、0超0.1未満であることが好ましい。
【0148】
このような構成によれば、オルガノポリシロキサンにおける架橋鎖の比率を最適化することができる。その結果、分離層3の機械的特性を高めつつ、分離層3の気体透過性も確保することができる。
【0149】
また、前記実施形態に係る気体分離膜1は、二酸化炭素を含む混合ガスから二酸化炭素を分離する気体分離膜であって、下記式(2a)で表される第2a構造単位および下記式(2b)で表される第2b構造単位を含むオルガノポリシロキサンで構成されている。
【0150】
【0151】
[式(2a)および式(2b)中、R4、R5およびR6のうち、1つ以上がアルキル基であり、残りはアリール基である。X2は、カルボン酸エステル結合を含む架橋鎖であり、2つの第2b構造単位で共有されている。*は、結合手である。nおよびmは、第2a構造単位および第2b構造単位のモル比である。]
【0152】
このような構成によれば、二酸化炭素のガス選択比と二酸化炭素の気体透過度とを両立させ得る気体分離膜1が得られる。また、上記のオルガノポリシロキサンで構成された分離層3は、機械的特性に優れるため、剥離しにくさと変形への追従性とを併せ持つものとなる。
【0153】
また、オルガノポリシロキサンのm/(n+m)の比は、0超0.1未満であることが好ましい。
【0154】
このような構成によれば、オルガノポリシロキサンにおける架橋鎖の比率を最適化することができる。その結果、分離層3の機械的特性を高めつつ、分離層3の気体透過性も確保することができる。
【0155】
また、前記実施形態に係る気体分離膜1の製造方法は、二酸化炭素を含む混合ガスから二酸化炭素を分離する気体分離膜の製造方法であって、下記式(3a)で表される第3a構造単位および下記式(3b)で表される第3b構造単位を含むアミノ変性シリコーンと、ジカルボン酸と、を反応させるステップ(溶液調製ステップS102)を有する。
【0156】
【0157】
[式(3a)および式(3b)中、R1、R2およびR3は、独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリール基またはアリールオキシ基である。Y1は、アミノアルキル基である。*は、結合手である。nおよびmは、第3a構造単位および第3b構造単位のモル比である。]
【0158】
このような構成によれば、二酸化炭素のガス選択比と二酸化炭素の気体透過度とを両立させ得る気体分離膜1を製造することができる。また、アミノアルキル基は、ジカルボン酸と反応して、架橋鎖を形成するため、得られる分離層3は、機械的特性に優れ、剥離しにくさと変形への追従性とを併せ持つものとなる。
【0159】
また、ジカルボン酸の炭素原子数は、2以上8以下であることが好ましい。
このような構成によれば、2つのアミド結合を含む架橋鎖を介して、シロキサン結合の主鎖同士が架橋してなる架橋構造が形成されるとき、架橋鎖の長さを最適化できる。その結果、機械的特性に優れ、剥離しにくさと変形への追従性とを併せ持つ分離層3を形成することができる。
【0160】
また、アミノ変性シリコーンとジカルボン酸とを反応させるステップ(溶液調製ステップS102)は、縮合剤を添加する操作を含んでいてもよい。
【0161】
このような構成によれば、縮合剤を用いない場合に比べて、反応温度を低くしたり、反応時間を短くしたりすることができる。その結果、例えば反応温度を常温程度まで下げても、十分な反応効率が得られるため、分離層3の製造効率を高めることができる。
【0162】
また、前記実施形態に係る気体分離膜1の製造方法は、二酸化炭素を含む混合ガスから二酸化炭素を分離する気体分離膜の製造方法であって、下記式(4a)で表される第4a構造単位および下記式(4b)で表される第4b構造単位を含むフェニル変性シリコーン同士を反応させるステップ(反応ステップS204)を有する。
【0163】
【0164】
[式(4a)および式(4b)中、R4、R5およびR6のうち、1つ以上がアルキル基であり、残りはアリール基である。Y2は、フェニル基である。*は、結合手である。nおよびmは、第4a構造単位および第4b構造単位のモル比である。]
【0165】
このような構成によれば、二酸化炭素のガス選択比と二酸化炭素の気体透過度とを両立させ得る気体分離膜1を製造することができる。また、フェニル基は、開裂するとカルボキシル基等に変化し、カルボキシル基同士の反応等によって架橋鎖を形成する。これにより得られる分離層3は、機械的特性に優れ、剥離しにくさと変形への追従性とを併せ持つものとなる。
【0166】
また、フェニル変性シリコーン同士を反応させるステップ(反応ステップS204)は、フェニル変性シリコーンにオゾン処理を施す操作を含んでいてもよい。
このような構成によれば、フェニル変性シリコーンのフェニル基にオゾン酸化反応を生じさせ、ベンゼン環を開裂させてアルデヒド基を生じさせることができる。このアルデヒド基の少なくとも一部は、さらに酸化され、カルボキシル基になる。これにより、架橋鎖を効率よく生成できる。
【0167】
以上、本発明に係る気体分離膜および気体分離膜の製造方法について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0168】
例えば、本発明に係る気体分離膜は、前記実施形態の各部が同様の機能を有する構成物に置換されたものであってもよく、前記実施形態に任意の構成物が付加されたものであってもよい。
【0169】
また、本発明に係る気体分離膜の製造方法は、前記実施形態に対して任意の目的の工程が付加されたものであってもよい。
【実施例0170】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
5.気体分離膜の作製
5.1.サンプルNo.1
まず、ジカルボン酸50mgを50gのエタノールに入れ、ジカルボン酸含有液を調製した。
【0171】
次に、アミノ変性シリコーン1gを、上記のジカルボン酸含有液に入れ、撹拌した。これにより、分離層形成用の溶液を調製した。
【0172】
次に、撹拌した溶液200μLを多孔質層となるメンブレンフィルターの一方の面に塗布した後、メンブレンフィルターの外周部を浮かした状態で12時間放置した。
【0173】
次に、溶液を塗布したメンブレンフィルターを恒温槽に入れ、200℃、2時間の熱処理を行った。
【0174】
次に、熱処理後のメンブレンフィルターをヘキサンに10分間浸漬した後、ヘキサンを新しいものに交換し、さらに10分間浸漬する洗浄処理を行った。
次に、洗浄処理後のメンブレンフィルターを十分に乾燥させ、気体分離膜を得た。
【0175】
5.2.サンプルNo.2~10
気体分離膜の作製条件を表1に示すように変更した以外は、サンプルNo.1の場合と同様にして気体分離膜を得た。
【0176】
5.3.サンプルNo.11~12
ジカルボン酸の使用を省略した以外は、サンプルNo.1、3の場合と同様にして気体分離膜を得た。
【0177】
5.4.サンプルNo.13
まず、フェニル変性シリコーンと溶媒とを混合し、撹拌して溶液を調製した。溶媒には、プロパノールを用いた。
【0178】
次に、調製した溶液200μLを多孔質層となるメンブレンフィルターの一方の面に塗布して塗膜を得た後、メンブレンフィルターの外周部を浮かせた状態で12時間放置した。
【0179】
次に、乾燥させた塗膜を形成したメンブレンフィルターを密閉容器に入れ、加熱しながらオゾン処理を施した。加熱温度は40℃、オゾン濃度は74g/Nm3、流量は500ccm、処理時間は1時間とした。
【0180】
次に、オゾン処理後のメンブレンフィルターをヘキサンに10分間浸漬した後、ヘキサンを新しいものに交換し、さらに10分間浸漬する洗浄処理を行った。
次に、洗浄処理後のメンブレンフィルターを十分に乾燥させ、気体分離膜を得た。
【0181】
5.5.サンプルNo.14~24
気体分離膜の作製条件を表2に示すように変更した以外は、サンプルNo.13の場合と同様にして気体分離膜を得た。
【0182】
なお、表1および表2では、本発明に相当する気体分離膜を「実施例」とし、本発明に相当しない気体分離膜を「比較例」としている。また、表1および表2において、各シリコーンの種類を表す記号は、下記の化合物に対応している。
【0183】
A-1:Gelest社製、AMS-132、アミン変性シリコーン、重量平均分子量5000
A-2:信越化学工業社製、KF-868、アミン変性シリコーン、重量平均分子量5000
B-1:Gelest社製、PMM-1015、フェニル変性シリコーン、重量平均分子量1500
B-2:Gelest社製、PMM-5021、フェニル変性シリコーン、重量平均分子量2200
B-3:Gelest社製、PMM-6021、フェニル変性シリコーン、重量平均分子量3000
【0184】
6.気体分離膜の評価
各実施例および各比較例の気体分離膜について、以下のような評価を行った。
【0185】
6.1.二酸化炭素の気体透過度およびガス選択比
各実施例および各比較例の気体分離膜を直径5cmの円形に切り取り、試験サンプルを作製した。次に、ガス透過率測定装置を用い、二酸化炭素:窒素が体積比13:87で混合されてなる混合気体を試験サンプルの上流側に供給した。なお、上流側の全圧が5MPa、二酸化炭素の分圧が0.65MPa、流量が500mL/min、温度が40℃となるように調整した。そして、試験サンプルを透過してきた気体成分をガスクロマトグラフィーにより分析した。
【0186】
次に、分析結果から、気体分離膜の二酸化炭素の気体透過度RCO2および窒素の気体透過度RN2を求めるとともに、窒素に対する二酸化炭素のガス選択比RCO2/RN2を算出した。算出結果を表1および表2に示す。
【0187】
6.2.機械的特性
各実施例および各比較例の気体分離膜について、蛇腹状に折り曲げた後、折り曲げた気体分離膜を延ばした。そして、この操作を10回繰り返した後、気体分離膜を直径5cmの円形に切り取り、試験サンプルを作製した。
【0188】
次に、試験サンプルについて、6.1と同様の方法により、ガス選択比RCO2/RN2を算出した。そして、折り曲げ試験を行う前のガス選択比RCO2/RN2と、折り曲げ試験を行った後のガス選択比RCO2/RN2と、の差を、ガス選択比RCO2/RN2の低下幅として算出した。この低下幅は、折り曲げ試験によってガス選択比RCO2/RN2が悪化した程度を定量的に表す指標となる。算出した低下幅を以下の評価基準に照らして、気体分離膜の機械的特性を相対評価した。評価結果を表1および表2に示す。
【0189】
A:ガス選択比の低下幅が小さい(3未満)
B:ガス選択比の低下幅が中程度(3以上6未満)
C:ガス選択比の低下幅が大きい(6以上)
【0190】
【0191】
【0192】
表1および表2から明らかなように、実施例の気体分離膜は、比較例の気体分離膜に比べて、機械的特性に優れるとともに、二酸化炭素のガス選択比と二酸化炭素の気体透過度との両立が図られていることが認められた。