(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170940
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】気体分離膜
(51)【国際特許分類】
B01D 71/70 20060101AFI20241204BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20241204BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20241204BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20241204BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20241204BHJP
C08G 83/00 20060101ALI20241204BHJP
C01B 32/50 20170101ALN20241204BHJP
【FI】
B01D71/70 500
B01D69/00
B01D69/02
B01D69/10
B01D69/12
C08G83/00
C01B32/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087718
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】忠地 慧
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 泰佑
【テーマコード(参考)】
4D006
4G146
4J031
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006MA01
4D006MA02
4D006MA03
4D006MA08
4D006MA09
4D006MA21
4D006MA23
4D006MA31
4D006MB03
4D006MB04
4D006MB16
4D006MB20
4D006MC02
4D006MC03
4D006MC11
4D006MC18
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC28
4D006MC29
4D006MC30
4D006MC35
4D006MC39
4D006MC45
4D006MC46
4D006MC53
4D006MC54
4D006MC55
4D006MC58
4D006MC62
4D006MC63
4D006MC65X
4D006NA43
4D006PA01
4D006PA02
4D006PB17
4D006PB18
4D006PB19
4D006PB62
4D006PB63
4D006PB64
4D006PB66
4D006PB67
4D006PB68
4D006PB70
4G146JA02
4G146JB10
4G146JC12
4G146JD10
4J031CA87
4J031CE04
(57)【要約】
【課題】機械的特性に優れ、かつ、分離層に欠陥があっても二酸化炭素のガス選択比と二酸化炭素の気体透過度とを両立させ得る気体分離膜を提供すること。
【解決手段】多孔質層と、前記多孔質層の一方の面に密着し、高分子材料で構成される分離層と、を有し、二酸化炭素および非対象成分を含む混合ガスから二酸化炭素を分離する気体分離膜であって、前記気体分離膜の前記非対象成分の気体透過度をR
0とし、前記気体分離膜の二酸化炭素の気体透過度をR
CO2とするとき、ガス選択比R
CO2/R
0が8以上100未満であり、前記分離層の二酸化炭素の気体透過度をA
CO2とし、前記多孔質層の二酸化炭素の気体透過度をB
CO2とするとき、気体透過度比B
CO2/A
CO2が4.0以上128.0以下であることを特徴とする気体分離膜。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質層と、
前記多孔質層の一方の面に密着し、高分子材料で構成される分離層と、
を有し、二酸化炭素および非対象成分を含む混合ガスから二酸化炭素を分離する気体分離膜であって、
前記気体分離膜の前記非対象成分の気体透過度をR0とし、前記気体分離膜の二酸化炭素の気体透過度をRCO2とするとき、ガス選択比RCO2/R0が8以上100未満であり、
前記分離層の二酸化炭素の気体透過度をACO2とし、前記多孔質層の二酸化炭素の気体透過度をBCO2とするとき、気体透過度比BCO2/ACO2が4.0以上128.0以下であることを特徴とする気体分離膜。
【請求項2】
前記高分子材料は、オルガノポリシロキサンを含み、
前記分離層の平均厚さは、10nm以上800nm以下である請求項1に記載の気体分離膜。
【請求項3】
前記分離層を貫通する貫通孔の面積率が、0%超0.05%以下である請求項1または2に記載の気体分離膜。
【請求項4】
前記ガス選択比RCO2/R0が20以上30未満であり、
前記気体透過度比BCO2/ACO2が4.1以上81.0以下である請求項3に記載の気体分離膜。
【請求項5】
前記ガス選択比RCO2/R0が30以上40未満であり、
前記気体透過度比BCO2/ACO2が4.3以上59.0以下である請求項3に記載の気体分離膜。
【請求項6】
前記ガス選択比RCO2/R0が40以上50未満であり、
前記気体透過度比BCO2/ACO2が4.4以上45.0以下である請求項3に記載の気体分離膜。
【請求項7】
前記ガス選択比RCO2/R0が50以上60未満であり、
前記気体透過度比BCO2/ACO2が4.5以上37.0以下である請求項3に記載の気体分離膜。
【請求項8】
前記ガス選択比RCO2/R0が60以上70未満であり、
前記気体透過度比BCO2/ACO2が4.7以上30.0以下である請求項3に記載の気体分離膜。
【請求項9】
前記ガス選択比RCO2/R0が70以上80未満であり、
前記気体透過度比BCO2/ACO2が4.9以上25.0以下である請求項3に記載の気体分離膜。
【請求項10】
前記ガス選択比RCO2/R0が80以上90未満であり、
前記気体透過度比BCO2/ACO2が5.1以上22.0以下である請求項3に記載の気体分離膜。
【請求項11】
前記ガス選択比RCO2/R0が90以上100未満であり、
前記気体透過度比BCO2/ACO2が5.3以上19.0以下である請求項3に記載の気体分離膜。
【請求項12】
前記非対象成分は、窒素である請求項1または2に記載の気体分離膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体分離膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンニュートラルやカーボンマイナスの実現に向けて、火力発電所やボイラー設備等から排出される二酸化炭素や大気中の二酸化炭素を取り込んで回収する技術が検討されている。この技術として、気体分離膜を用いて二酸化炭素を分離する膜分離法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、特定のガスを選択的に透過させるガス選択透過性膜が開示されている。このガス選択透過性膜は、フィルム状高分子多孔性支持体にシロキサン化合物の薄膜を積層する、薄膜の表面層に非重合性ガスによるプラズマ処理を施す、および、その薄膜上にプラズマ重合膜を堆積する、というプロセスを経て製造されている。また、これらのプロセスにより、薄膜とプラズマ重合膜との接着性が強固なガス選択透過性膜が得られること、および、薄膜の厚さは1μmから30μmであること、が開示されている。さらに、このガス選択透過性膜を用いて、酸素、水素、ヘリウム等のガスを選択的に透過させ、分離されたガスを回収することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のガス選択透過性膜では、プラズマ重合膜(分離層)を貫通する貫通孔のような欠陥が生じるおそれがある。特に、所定の成分の透過度を高めようとする場合、欠陥の比率が高くなるとともに、プラズマ重合膜の機械的特性の低下を招く懸念がある。欠陥の比率が高くなると、欠陥部を介した透過流量が大きくなり、所定の成分の選択透過性(ガス選択比)が低下する。
【0006】
一方、欠陥を減らすべく、プラズマ重合膜の厚膜化を図ることも考えられる。しかしながら、この場合、気体透過度が低下し、ガス分離のエネルギー消費量が増加する。
【0007】
そこで、機械的特性に優れ、かつ、分離層に欠陥があっても二酸化炭素のガス選択比と二酸化炭素の気体透過度とを両立させ得る気体分離膜を実現することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の適用例に係る気体分離膜は、
多孔質層と、
前記多孔質層の一方の面に密着し、高分子材料で構成される分離層と、
を有し、二酸化炭素および非対象成分を含む混合ガスから二酸化炭素を分離する気体分離膜であって、
前記気体分離膜の前記非対象成分の気体透過度をR0とし、前記気体分離膜の二酸化炭素の気体透過度をRCO2とするとき、ガス選択比RCO2/R0が8以上100未満であり、
前記分離層の二酸化炭素の気体透過度をACO2とし、前記多孔質層の二酸化炭素の気体透過度をBCO2とするとき、気体透過度比BCO2/ACO2が4.0以上128.0以下である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る気体分離膜を模式的に示す断面図である。
【
図2】気体分離膜のガス選択比R
CO2/R
0が10未満であるときの、ガス選択比R
CO2/R
0と気体分離膜の気体透過度比B
CO2/A
CO2との関係を、分離層の欠陥率ごとにシミュレートして得られたグラフである。
【
図3】気体分離膜のガス選択比R
CO2/R
0が20未満であるときの、ガス選択比R
CO2/R
0と気体分離膜の気体透過度比B
CO2/A
CO2との関係を、分離層の欠陥率ごとにシミュレートして得られたグラフである。
【
図4】気体分離膜のガス選択比R
CO2/R
0が30未満であるときの、ガス選択比R
CO2/R
0と気体分離膜の気体透過度比B
CO2/A
CO2との関係を、分離層の欠陥率ごとにシミュレートして得られたグラフである。
【
図5】気体分離膜のガス選択比R
CO2/R
0が40未満であるときの、ガス選択比R
CO2/R
0と気体分離膜の気体透過度比B
CO2/A
CO2との関係を、分離層の欠陥率ごとにシミュレートして得られたグラフである。
【
図6】気体分離膜のガス選択比R
CO2/R
0が50未満であるときの、ガス選択比R
CO2/R
0と気体分離膜の気体透過度比B
CO2/A
CO2との関係を、分離層の欠陥率ごとにシミュレートして得られたグラフである。
【
図7】気体分離膜のガス選択比R
CO2/R
0が60未満であるときの、ガス選択比R
CO2/R
0と気体分離膜の気体透過度比B
CO2/A
CO2との関係を、分離層の欠陥率ごとにシミュレートして得られたグラフである。
【
図8】気体分離膜のガス選択比R
CO2/R
0が70未満であるときの、ガス選択比R
CO2/R
0と気体分離膜の気体透過度比B
CO2/A
CO2との関係を、分離層の欠陥率ごとにシミュレートして得られたグラフである。
【
図9】気体分離膜のガス選択比R
CO2/R
0が80未満であるときの、ガス選択比R
CO2/R
0と気体分離膜の気体透過度比B
CO2/A
CO2との関係を、分離層の欠陥率ごとにシミュレートして得られたグラフである。
【
図10】気体分離膜のガス選択比R
CO2/R
0が90未満であるときの、ガス選択比R
CO2/R
0と気体分離膜の気体透過度比B
CO2/A
CO2との関係を、分離層の欠陥率ごとにシミュレートして得られたグラフである。
【
図11】気体分離膜のガス選択比R
CO2/R
0が100未満であるときの、ガス選択比R
CO2/R
0と気体分離膜の気体透過度比B
CO2/A
CO2との関係を、分離層の欠陥率ごとにシミュレートして得られたグラフである。
【
図12】実施形態の変形例に係る気体分離膜を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の気体分離膜を添付図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
1.気体分離膜
まず、実施形態に係る気体分離膜の構成について説明する。
【0011】
図1は、実施形態に係る気体分離膜1を模式的に示す断面図である。
図1に示す気体分離膜1は、二酸化炭素および非対象成分を含む混合ガスから、二酸化炭素を選択的に透過させる機能を有する。
図1に示す気体分離膜1は、多孔質層2と、分離層3と、を有する。非対象成分とは、混合ガスに含まれる、二酸化炭素以外の気体成分を指す。
【0012】
多孔質層2は、
図1に示す空孔23を有する多孔質の膜である。このような多孔質層2は、良好な気体透過度を有するとともに、分離層3を支持する。これにより、分離層3が持つ良好なガス選択比を損なうことなく、気体分離膜1全体の機械的特性を高めることができる。
【0013】
分離層3は、多孔質層2の一方の面に設けられ、多孔質層2よりも緻密な(空孔率が低い)高分子材料で構成される。このような分離層3は、空孔23の上端を閉塞している。そして、分離層3は、気体分離膜1の上流側に供給された混合ガス中の二酸化炭素を下流側に選択的に透過させる、良好なガス選択比を有する。これにより、気体分離膜1は、混合ガス中の二酸化炭素を分離することができる。なお、以下の説明では、
図1に示す気体分離膜1の上方を「上流側」または単に「上」といい、下方を「下流側」または単に「下」という。
【0014】
以上のような気体分離膜1は、二酸化炭素を選択的に透過させる機能を有するが、その特性はガス選択比で定量的に表される。具体的には、気体分離膜1の非対象成分の気体透過度をR0とし、気体分離膜1の二酸化炭素の気体透過度をRCO2とするとき、気体分離膜1のガス選択比RCO2/R0は、8以上100未満である。
【0015】
気体分離膜1のガス選択比RCO2/R0が前記範囲内であれば、気体分離膜1は、混合ガス中の二酸化炭素を効率よく分離、回収できる。なお、ガス選択比が前記下限値を下回ると、回収される二酸化炭素に非対象成分が多く混在する。このため、回収したガスを貯留したり、利用したりする場合、その経済性や取り扱い性等の低下を招く。一方、ガス選択比が前記上限値を上回ってもよいが、その場合、気体分離膜1の二酸化炭素の気体透過度を十分に高めることが困難になるという弊害や、そのようなガス選択比を実現する気体分離膜1の製造難易度や製造コストが高いという弊害を招く。
【0016】
なお、気体分離膜1の非対象成分の気体透過度R0および気体分離膜1の二酸化炭素の気体透過度RCO2は、それぞれ、JIS K 7126-1:2006に規定されているガス透過度試験方法(第1部:差圧法)に準じて測定される。測定には、ガス透過率測定装置が用いられる。ガス透過率測定装置としては、例えば、GTRテック株式会社製、GTR-11A/31A等が挙げられる。この装置では、気体分離膜1を透過したガスをガスクロマトグラフに導入し、成分ごとの透過度を測定する。これにより、非対象成分および二酸化炭素の各気体透過度を測定できる。
【0017】
なお、非対象成分としては、例えば、窒素、メタン等が挙げられ、特に窒素が想定される。したがって、前述した混合ガスとしては、二酸化炭素と窒素の混合ガスが挙げられる。
【0018】
一方、気体分離膜1では、分離層3の二酸化炭素の気体透過度ACO2および多孔質層2の二酸化炭素の気体透過度BCO2が、所定の関係を満たしている。具体的には、気体分離膜1では、気体透過度比BCO2/ACO2が4.0以上128.0以下である。
【0019】
気体分離膜1の気体透過度比BCO2/ACO2が前記範囲内であれば、気体分離膜1では、分離層3に欠陥、すなわち貫通孔が含まれている場合でも、多孔質層2の気孔率が最適化される。このため、分離層3が含む貫通孔を介して混合ガスが下流側に透過する流量が大きくなったり、気体分離膜1の機械的特性が低下したりするのを抑制しつつ、気体分離膜1全体における二酸化炭素の気体透過度が低下することも抑制できる。その結果、機械的特性に優れ、かつ、分離層3に欠陥がある場合でも、分離層3が持つ良好な二酸化炭素のガス選択比を活かすことのできる気体分離膜1を実現することができる。つまり、分離層3の欠陥が及ぼす影響を多孔質層2によって最小限に留めることができるので、機械的特性に優れるとともに、二酸化炭素のガス選択比と二酸化炭素の気体透過度とを両立させ得る気体分離膜1を実現することができる。
【0020】
なお、分離層3の二酸化炭素の気体透過度ACO2は、気体分離膜1の二酸化炭素の気体透過度RCO2から多孔質層2の二酸化炭素の気体透過度BCO2を差し引くことによって求められる。また、多孔質層2の二酸化炭素の気体透過度BCO2は、気体分離膜1から分離層3を除去した後、残った多孔質層2について、JIS K 7126-1:2006に規定されているガス透過度試験方法(第1部:差圧法)に準じて測定される。分離層3を除去する方法としては、例えば、薬品等による溶解、エッチング法による除去等が挙げられる。
【0021】
また、分離層3は、
図1に示す貫通孔31を有していてもよい。この貫通孔31は、例えば分離層3の製造過程で意図せず発生した、分離層3を貫通する孔である。このような貫通孔31は、意図的に形成したものではないため、内径が小さいものであれば、完全になくすことは困難である。つまり、貫通孔31は、製造時の不可避的な欠陥であるといえる。しかし、貫通孔31では、二酸化炭素を分離することができないため、混合ガスがそのまま通過する。このため、貫通孔31が多いほど、気体分離膜1の二酸化炭素のガス選択比が低下する。
【0022】
そこで、本実施形態では、気体分離膜1のガス選択比に応じて、気体分離膜1の気体透過度比BCO2/ACO2を最適化することにより、分離層3に欠陥(貫通孔31)がある場合でも、その影響がガス選択比において顕在化するのを抑制できるという効果をもたらす。これにより、多孔質層2による機械的特性の向上を図りつつ、分離層3を必要以上に厚くする必要がなくなることによる気体透過度の低下を抑制しながら、同時に、気体分離膜1のガス選択比の低下も抑制できる。その結果、機械的特性に優れ、かつ、分離層3に欠陥があっても二酸化炭素のガス選択比と二酸化炭素の気体透過度とを両立させ得る気体分離膜1が得られる。
【0023】
したがって、気体分離膜1の気体透過度比BCO2/ACO2が前記下限値を下回る場合、多孔質層2の二酸化炭素の気体透過度BCO2を著しく小さくするか、または、分離層3の二酸化炭素の気体透過度ACO2を著しく大きくする必要がある。そうすると、気体分離膜1の二酸化炭素の気体透過度が低下したり、分離層3を極端に薄くする必要が生じたりする。これにより、気体分離膜1の気体透過度や耐久性(機械的特性)の低下、製造難易度の上昇を招く。一方、気体分離膜1の気体透過度BCO2/ACO2が前記上限値を上回る場合、多孔質層2の二酸化炭素の気体透過度BCO2を著しく大きくするか、または、分離層3の二酸化炭素の気体透過度ACO2を著しく小さくする必要がある。そうすると、分離層3が空孔23に入り込みやすくなったり、分離層3を極端に厚くする必要が生じたりする。これにより、気体分離膜1の製造難易度の上昇、気体分離膜1の気体透過度の低下や耐久性(機械的特性)の低下を招く。
【0024】
また、分離層3は、多孔質層2に密着している。本明細書における「密着」とは、分離層3と多孔質層2との接着界面に気密性があることをいう。この気密性により、分離層3は、多孔質層2が有する空孔23を互いに独立させる。つまり、分離層3と多孔質層2との間に隙間が存在しないため、隙間を介した空孔23同士の連通を抑制できる。
【0025】
さらに、
図1に示すように、分離層3が複数の貫通孔31を有している場合でも、その影響を最小限に留めることができる。つまり、貫通孔31があっても、それが対応する空孔23のみとの連通に留められるので、貫通孔31の影響が多孔質層2内で広がって大きな透過流量につながることを抑制できる。その結果、分離層3に欠陥がある場合でも、気体分離膜1の二酸化炭素のガス選択比が大きく低下するのを抑制できる。
【0026】
分離層3を貫通する貫通孔31の面積率は、0%であるのが理想であるものの、製造難易度との兼ね合いを考慮する必要がある。それらを踏まえると、貫通孔31の面積率を0%超0.05%以下であるのが好ましく、0.001%以上0.03%以下であるのがより好ましく、0.003%以上0.01%以下であるのがさらに好ましい。これにより、貫通孔31による影響がガス選択比において顕在化するのを抑制しつつ、分離層3の製造難易度の上昇を抑えることができる。
【0027】
なお、貫通孔31の面積率が前記下限値を下回ると、分離層3の製造難易度が上昇するおそれがある。一方、貫通孔31の面積率が前記上限値を上回ると、貫通孔31による影響が顕在化し、気体分離膜1の二酸化炭素のガス選択比を十分に高められなくなったり、ガス選択比を高めるために分離層3を極端に厚くなったりするおそれがある。
【0028】
なお、貫通孔31の面積率は、分離層3の断面を電子顕微鏡で観察し、観察領域の面積に対する、貫通している領域の面積の割合として求められる。
【0029】
1.1.多孔質層
多孔質層2は、前述したように、空孔23を有する多孔質状の膜であり、良好な気体透過性を有する。また、多孔質層2は、分離層3に比べて剛性が高く、気体分離膜1全体の自立性や耐久性の確保を担う。
【0030】
多孔質層2の構成材料としては、例えば、高分子材料、セラミック材料、金属材料等が挙げられる。また、多孔質層2の構成材料は、これらの材料と他の材料との複合材料であってもよい。
【0031】
高分子材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデンのような含フッ素樹脂、ポリスチレン、セルロース、酢酸セルロース、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリアラミド、ナイロン等が挙げられる。
【0032】
セラミック材料としては、例えば、アルミナ、コーディエライト、ムライト、炭化珪素、ジルコニア等が挙げられる。金属材料としては、例えば、ステンレス鋼等が挙げられる。
【0033】
このうち、多孔質層2の構成材料にはセラミック材料が好ましく用いられる。セラミック材料は、剛性が高く、かつ、焼結材料であるため、連続した空孔を含む。このため、多孔質層2の構成材料としてセラミック材料を用いることにより、機械的特性に優れ、かつ、二酸化炭素の気体透過度が高い気体分離膜1が得られる。
【0034】
多孔質層2の形状は、
図1に示す平板状の他、スパイラル状、管状、中空糸状等であってもよい。
【0035】
多孔質層2の平均厚さは、特に限定されないが、1μm以上3000μm以下であるのが好ましく、5μm以上500μm以下であるのがより好ましく、10μm以上150μm以下であるのがさらに好ましい。これにより、多孔質層2は、気体分離膜1を支持するのに必要かつ十分な剛性を有する。なお、多孔質層2の平均厚さが前記下限値を下回ると、剛性が不十分になるおそれがある。一方、多孔質層2の平均厚さが前記上限値を上回ると、多孔質層2の剛性が高くなりすぎて、気体分離膜1の取り扱い性が低下したり、分離層3の密着性が低下したりするおそれがある。
【0036】
なお、多孔質層2の平均厚さは、多孔質層2の10か所について測定された、積層方向における厚さの平均値である。多孔質層2の厚さの測定には、例えば、シックネスゲージを用いることができる。
【0037】
多孔質層2は、空孔23を有するが、その平均内径を「平均空孔径」という。多孔質層2の平均空孔径は、0.2μm以下であるのが好ましく、0.01μm以上0.15μm以下であるのがより好ましく、0.01μm以上0.09μm以下であるのがさらに好ましく、0.01μm以上0.07μm以下であるのが特に好ましい。これにより、多孔質層2の二酸化炭素の気体透過度を十分に確保しつつ、分離層3が多孔質層2の下流側に抜け出てしまうのを抑制することができる。なお、多孔質層2の平均空孔径が前記下限値を下回ると、多孔質層2の二酸化炭素の気体透過度が低下するおそれがある。一方、多孔質層2の平均空孔径が前記上限値を上回ると、分離層3が多孔質層2の下流側に抜け出てしまうおそれがある。
【0038】
なお、多孔質層2の平均空孔径は、気体分離膜1から分離層3を除去して単独の多孔質層2を取り出した後、貫通細孔径評価装置により測定される。貫通細孔径評価装置としては、例えば、PMI社製、パームポロメーターが挙げられる。
【0039】
多孔質層2の空孔率は、20%以上90%以下であるのが好ましく、30%以上80%以下であるのがより好ましい。これにより、多孔質層2は、良好な気体透過性と、十分な剛性と、を両立できる。
【0040】
なお、多孔質層2の空孔率は、気体分離膜1から分離層3を除去した後、前述した貫通細孔径評価装置により測定される。
【0041】
1.2.分離層
分離層3は、多孔質層2の上流側の面に成膜されている。このため、分離層3は、実質的に緻密な膜であり、二酸化炭素の分子と良好な親和性を有する。この親和性により、分離層3は、二酸化炭素を選択的に透過させる。
【0042】
分離層3の構成材料は、高分子材料である。高分子材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂等、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素樹脂等、ポリスチレン、セルロース、酢酸セルロース、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリアラミド、オルガノポリシロキサン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアセタール(POM)、ポリ乳酸(PLA)等が挙げられる。そして、分離層3の構成材料は、これらの高分子材料の1種または2種以上の複合材料であってもよい。
【0043】
このうち、分離層3の構成材料には、オルガノポリシロキサンが好ましく用いられる。オルガノポリシロキサンの1つの分子は、基本構成単位として、R1SiO3/2で表される単位(T単位)、R2R3SiO2/2で表される単位(D単位)、および、R4R5R6SiO1/2で表される単位(M単位)を、少なくとも含んでいる。なお、各単位中、R1~R6は、脂肪族炭化水素または水素原子である。オルガノポリシロキサンの1つの分子は、これらのT単位、D単位およびM単位が組み合わされて構成されている。
【0044】
オルガノポリシロキサンの具体例としては、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン、ポリスルホン/ポリヒドロキシスチレン/ポリジメチルシロキサン共重合体、ジメチルシロキサン/メチルビニルシロキサン共重合体、ジメチルシロキサン/ジフェニルシロキサン/メチルビニルシロキサン共重合体、メチル-3,3,3-トリフルオロプロピルシロキサン/メチルビニルシロキサン共重合体、ジメチルシロキサン/メチルフェニルシロキサン/メチルビニルシロキサン共重合体、ジフェニルシロキサン/ジメチルシロキサン共重合体末端ビニル、ポリジメチルシロキサン末端ビニル、ポリジメチルシロキサン末端アミノ、ポリジメチルシロキサン末端フェニル、ポリジメチルシロキサン末端H、ジメチルシロキサン-メチルハイドロシロキサン共重合体等が挙げられる。末端ビニル等の表記は、オルガノポリシロキサンに含まれる主鎖の少なくとも一方の末端がビニル基等の置換基で置換されていることを示す。なお、これらには、架橋反応物を形成している形態も含まれる。また、分離層3の構成材料は、これらのうちの1種または2種以上の複合物であってもよいし、質量比でオルガノポリシロキサンを主成分とし、他の樹脂成分を併用した複合材料であってもよい。
【0045】
なお、オルガノポリシロキサンは、二酸化炭素に対して良好な親和性を有する。このため、オルガノポリシロキサンを含む分離層3は、二酸化炭素に対して高いガス選択比を示すものとなる。
【0046】
分離層3の平均厚さは、特に限定されないが、1000nm以下であるのが好ましく、10nm以上800nm以下であるのがより好ましく、30nm以上500nm以下であるのがさらに好ましく、50nm以上200nm以下であるのが特に好ましい。これにより、分離層3は、前述したガス選択比を確保しつつ、十分な気体透過性を有するものとなる。その結果、二酸化炭素の選択分離性が良好で、かつ、分離に必要なエネルギーの投入量を減らすこと、具体的には気体分離膜1の上流側と下流側との圧力差を小さくできる気体分離膜1を実現できる。なお、分離層3の平均厚さが前記下限値を下回ると、分離層3に欠陥が生じる確率がより高くなったり、分離層3が事後的に破損しやすくなったりするおそれがある。一方、分離層3の平均厚さが前記上限値を上回ると、分離層3の二酸化炭素の気体透過度が低下して分離に必要なエネルギーの投入量が増加したり、分離層3の柔軟性が低下したりするおそれがある。
【0047】
また、分離層3の平均厚さは、多孔質層2の平均厚さの0.0050%以上1.0%以下であるのが好ましく、0.010%以上0.50%以下であるのがより好ましく、0.030%以上0.30%以下であるのがさらに好ましい。これにより、2つの層の厚さの比が最適化されるため、気体分離膜1の機械的特性、ガス選択比および気体透過度を良好に並立させることができる。
【0048】
なお、分離層3の平均厚さは、例えば、気体分離膜1の断面を拡大観察し、10か所の厚さの平均値として求められる。拡大観察には、例えば、走査型電子顕微鏡、透過電子顕微鏡が用いられる。
【0049】
また、分離層3と多孔質層2との間には、任意の中間層が介在していてもよい。中間層は、例えば、分離層3と多孔質層2との密着性を高める機能、分離層3が空孔23に入り込むのを抑制する機能等を有していてもよい。
【0050】
なお、分離層3の上流側の面には、必要に応じて、カップリング剤等を用いて任意の官能基が導入されていてもよい。官能基を適宜選択することにより、二酸化炭素に対する親和性をさらに高めることができる。
【0051】
1.3.ガス選択比RCO2/R0と気体透過度比BCO2/ACO2との関係
ガス選択比RCO2/R0は、主に、分離層3の構成材料や厚さの影響を受ける。例えば、分離層3の構成材料として二酸化炭素との親和性が高い材料を用いることで、ガス選択比RCO2/R0を高めることができる一方、分離層3の厚さが薄くなると、欠陥が生じる確率が高くなり、ガス選択比RCO2/R0が低くなる。また、欠陥が生じないように製造工程を厳密にすれば、製造コストの上昇を招くおそれもある。
【0052】
ガス選択比RCO2/R0は、気体分離膜1の用途や混合ガスの種類、製造コスト等を考慮して、前述した範囲の中で調整される。その場合、調整された値に応じて、気体透過度比BCO2/ACO2も最適化することが好ましい。そこで、以下では、前述したガス選択比RCO2/R0の範囲を複数に分割した上で、各区分におけるより最適な気体透過度比BCO2/ACO2について検討する。
【0053】
1.3.1.ガス選択比R
CO2/R
0が10未満である場合
図2は、気体分離膜1のガス選択比R
CO2/R
0が10未満であるときの、ガス選択比R
CO2/R
0と気体分離膜1の気体透過度比B
CO2/A
CO2との関係を、分離層3の欠陥率ごとにシミュレートして得られたグラフである。具体的には、分離層3の欠陥率が0%であり、かつ、ガス選択比R
CO2/R
0が10である気体分離膜1を仮想し、その気体分離膜1の気体透過度比B
CO2/A
CO2を変化させた場合のガス選択比の推移を、分離層3の欠陥率ごとにシミュレートして得られたグラフである。この場合の10というガス選択比は、分離層3の欠陥率が0%という理想状態において実現できる値であるから、以下、「理想値」という。
【0054】
また、
図2および後述する
図3ないし
図11では、分離層3の欠陥率を、0%、0.001%、0.01%、0.1%、1.00%、10.00%および100.00%の7段階に振っている。欠陥率ごとのシミュレーションによって得られた曲線は、各グラフにおいて、上から、0%、0.001%、0.01%、0.1%、1.00%、10.00%、100.00%の順で並んでいる。
【0055】
図2に示す結果では、気体透過度比B
CO2/A
CO2を4.0以上128.0以下に設定することで、例えば、ガス選択比8以上を実現するにあたって、分離層3の欠陥率(貫通孔31の面積率)を0.01%まで許容できている。0.01%という欠陥率は、製造難易度を著しく高めなくても達成可能な値である。したがって、
図2に示すシミュレーション結果から、気体透過度比B
CO2/A
CO2の前記範囲の下限値および上限値が持つ臨界的意義が裏付けられている。
【0056】
また、
図2では、気体透過度比B
CO2/A
CO2が上限値の128.0であるとき、欠陥率が0%の分離層3を有する気体分離膜1のガス選択比R
CO2/R
0を1とすると、欠陥率が0.01%の分離層3を有する気体分離膜1のガス選択比R
CO2/R
0は、0.8以上になっている。この値は、ガス選択比の理想値10に対する到達率と考えることができ、その値が0.8以上であれば、十分に理想値に近いといえる。よって、
図2に示すシミュレーション結果は、気体透過度比B
CO2/A
CO2を最適化することで、分離層3の欠陥率が0.01%であるという比較的厳しい条件下(欠陥率が比較的高い条件下)であっても、ガス選択比R
CO2/R
0において欠陥率の影響が顕在化しないように抑えられることを意味する。
【0057】
以上を踏まえると、ガス選択比RCO2/R0が8以上10未満である場合、気体透過度比BCO2/ACO2は4.0以上128.0以下であることが好ましい。
【0058】
1.3.2.ガス選択比R
CO2/R
0が20未満である場合
図3は、気体分離膜1のガス選択比R
CO2/R
0が20未満であるときの、ガス選択比R
CO2/R
0と気体分離膜1の気体透過度比B
CO2/A
CO2との関係を、分離層3の欠陥率ごとにシミュレートして得られたグラフである。具体的には、分離層3の欠陥率が0%であり、かつ、ガス選択比R
CO2/R
0が20である気体分離膜1を仮想し、その気体分離膜1の気体透過度比B
CO2/A
CO2を変化させた場合のガス選択比の推移を、分離層3の欠陥率ごとにシミュレートして得られたグラフである。この場合の20というガス選択比は、分離層3の欠陥率が0%という理想状態において実現できる値であるから、以下、「理想値」という。
【0059】
図3に示す結果では、気体透過度比B
CO2/A
CO2を4.0以上128.0以下に設定することで、例えば、ガス選択比16以上を実現するにあたって、分離層3の欠陥率(貫通孔31の面積率)を0.01%まで許容できている。
【0060】
また、
図3では、気体透過度比B
CO2/A
CO2が上限値の128.0であるとき、欠陥率が0%の分離層3を有する気体分離膜1のガス選択比R
CO2/R
0を1とすると、欠陥率が0.01%の分離層3を有する気体分離膜1のガス選択比R
CO2/R
0は、0.8以上になっている。この値は、ガス選択比の理想値20に対する到達率と考えることができ、その値が0.8以上であれば、十分に理想値に近いといえる。よって、
図3に示すシミュレーション結果は、気体透過度比B
CO2/A
CO2を最適化することで、分離層3の欠陥率が0.01%であるという比較的厳しい条件下であっても、ガス選択比R
CO2/R
0において欠陥率の影響が顕在化しないように抑えられることを意味する。
【0061】
以上を踏まえると、ガス選択比RCO2/R0が10以上20未満である場合、気体透過度比BCO2/ACO2は4.0以上128.0以下であることが好ましい。
【0062】
1.3.3.ガス選択比R
CO2/R
0が30未満である場合
図4は、気体分離膜1のガス選択比R
CO2/R
0が30未満であるときの、ガス選択比R
CO2/R
0と気体分離膜1の気体透過度比B
CO2/A
CO2との関係を、分離層3の欠陥率ごとにシミュレートして得られたグラフである。具体的には、分離層3の欠陥率が0%であり、かつ、ガス選択比R
CO2/R
0が30である気体分離膜1を仮想し、その気体分離膜1の気体透過度比B
CO2/A
CO2を変化させた場合のガス選択比の推移を、分離層3の欠陥率ごとにシミュレートして得られたグラフである。この場合の30というガス選択比は、分離層3の欠陥率が0%という理想状態において実現できる値であるから、以下、「理想値」という。
【0063】
図4に示す結果では、気体透過度比B
CO2/A
CO2を4.1以上81.0以下に設定することで、例えば、ガス選択比24以上を実現するにあたって、分離層3の欠陥率(貫通孔31の面積率)を0.01%まで許容できている。
【0064】
また、
図4では、気体透過度比B
CO2/A
CO2が上限値の81.0であるとき、欠陥率が0%の分離層3を有する気体分離膜1のガス選択比R
CO2/R
0を1とすると、欠陥率が0.01%の分離層3を有する気体分離膜1のガス選択比R
CO2/R
0は、0.8以上になっている。この値は、ガス選択比の理想値30に対する到達率と考えることができ、その値が0.8以上であれば、十分に理想値に近いといえる。よって、
図4に示すシミュレーション結果は、気体透過度比B
CO2/A
CO2を最適化することで、分離層3の欠陥率が0.01%であるという比較的厳しい条件下であっても、ガス選択比R
CO2/R
0において欠陥率の影響が顕在化しないように抑えられることを意味する。
【0065】
以上を踏まえると、ガス選択比RCO2/R0が20以上30未満である場合、気体透過度比BCO2/ACO2は4.1以上81.0以下であることが好ましい。
【0066】
1.3.4.ガス選択比R
CO2/R
0が40未満である場合
図5は、気体分離膜1のガス選択比R
CO2/R
0が40未満であるときの、ガス選択比R
CO2/R
0と気体分離膜1の気体透過度比B
CO2/A
CO2との関係を、分離層3の欠陥率ごとにシミュレートして得られたグラフである。具体的には、分離層3の欠陥率が0%であり、かつ、ガス選択比R
CO2/R
0が40である気体分離膜1を仮想し、その気体分離膜1の気体透過度比B
CO2/A
CO2を変化させた場合のガス選択比の推移を、分離層3の欠陥率ごとにシミュレートして得られたグラフである。この場合の40というガス選択比は、分離層3の欠陥率が0%という理想状態において実現できる値であるから、以下、「理想値」という。
【0067】
図5に示す結果では、気体透過度比B
CO2/A
CO2を4.3以上59.0以下に設定することで、例えば、ガス選択比32以上を実現するにあたって、分離層3の欠陥率(貫通孔31の面積率)を0.01%まで許容できている。
【0068】
また、
図5では、気体透過度比B
CO2/A
CO2が上限値の59.0であるとき、欠陥率が0%の分離層3を有する気体分離膜1のガス選択比R
CO2/R
0を1とすると、欠陥率が0.01%の分離層3を有する気体分離膜1のガス選択比R
CO2/R
0は、0.8以上になっている。この値は、ガス選択比の理想値40に対する到達率と考えることができ、その値が0.8以上であれば、十分に理想値に近いといえる。よって、
図5に示すシミュレーション結果は、気体透過度比B
CO2/A
CO2を最適化することで、分離層3の欠陥率が0.01%であるという比較的厳しい条件下であっても、ガス選択比R
CO2/R
0において欠陥率の影響が顕在化しないように抑えられることを意味する。
【0069】
以上を踏まえると、ガス選択比RCO2/R0が30以上40未満である場合、気体透過度比BCO2/ACO2は4.3以上59.0以下であることが好ましい。
【0070】
1.3.5.ガス選択比R
CO2/R
0が50未満である場合
図6は、気体分離膜1のガス選択比R
CO2/R
0が50未満であるときの、ガス選択比R
CO2/R
0と気体分離膜1の気体透過度比B
CO2/A
CO2との関係を、分離層3の欠陥率ごとにシミュレートして得られたグラフである。具体的には、分離層3の欠陥率が0%であり、かつ、ガス選択比R
CO2/R
0が50である気体分離膜1を仮想し、その気体分離膜1の気体透過度比B
CO2/A
CO2を変化させた場合のガス選択比の推移を、分離層3の欠陥率ごとにシミュレートして得られたグラフである。この場合の50というガス選択比は、分離層3の欠陥率が0%という理想状態において実現できる値であるから、以下、「理想値」という。
【0071】
図6に示す結果では、気体透過度比B
CO2/A
CO2を4.4以上45.0以下に設定することで、例えば、ガス選択比40以上を実現するにあたって、分離層3の欠陥率(貫通孔31の面積率)を0.01%まで許容できている。
【0072】
また、
図6では、気体透過度比B
CO2/A
CO2が上限値の45.0であるとき、欠陥率が0%の分離層3を有する気体分離膜1のガス選択比R
CO2/R
0を1とすると、欠陥率が0.01%の分離層3を有する気体分離膜1のガス選択比R
CO2/R
0は、0.8以上になっている。この値は、ガス選択比の理想値50に対する到達率と考えることができ、その値が0.8以上であれば、十分に理想値に近いといえる。よって、
図6に示すシミュレーション結果は、気体透過度比B
CO2/A
CO2を最適化することで、分離層3の欠陥率が0.01%であるという比較的厳しい条件下であっても、ガス選択比R
CO2/R
0において欠陥率の影響が顕在化しないように抑えられることを意味する。
【0073】
以上を踏まえると、ガス選択比RCO2/R0が40以上50未満である場合、気体透過度比BCO2/ACO2は4.4以上45.0以下であることが好ましい。
【0074】
1.3.6.ガス選択比R
CO2/R
0が60未満である場合
図7は、気体分離膜1のガス選択比R
CO2/R
0が60未満であるときの、ガス選択比R
CO2/R
0と気体分離膜1の気体透過度比B
CO2/A
CO2との関係を、分離層3の欠陥率ごとにシミュレートして得られたグラフである。具体的には、分離層3の欠陥率が0%であり、かつ、ガス選択比R
CO2/R
0が60である気体分離膜1を仮想し、その気体分離膜1の気体透過度比B
CO2/A
CO2を変化させた場合のガス選択比の推移を、分離層3の欠陥率ごとにシミュレートして得られたグラフである。この場合の60というガス選択比は、分離層3の欠陥率が0%という理想状態において実現できる値であるから、以下、「理想値」という。
【0075】
図7に示す結果では、気体透過度比B
CO2/A
CO2を4.5以上37.0以下に設定することで、例えば、ガス選択比48以上を実現するにあたって、分離層3の欠陥率(貫通孔31の面積率)を0.01%まで許容できている。
【0076】
また、
図7では、気体透過度比B
CO2/A
CO2が上限値の37.0であるとき、欠陥率が0%の分離層3を有する気体分離膜1のガス選択比R
CO2/R
0を1とすると、欠陥率が0.01%の分離層3を有する気体分離膜1のガス選択比R
CO2/R
0は、0.8以上になっている。この値は、ガス選択比の理想値60に対する到達率と考えることができ、その値が0.8以上であれば、十分に理想値に近いといえる。よって、
図7に示すシミュレーション結果は、気体透過度比B
CO2/A
CO2を最適化することで、分離層3の欠陥率が0.01%であるという比較的厳しい条件下であっても、ガス選択比R
CO2/R
0において欠陥率の影響が顕在化しないように抑えられることを意味する。
【0077】
以上を踏まえると、ガス選択比RCO2/R0が50以上60未満である場合、気体透過度比BCO2/ACO2は4.5以上37.0以下であることが好ましい。
【0078】
1.3.7.ガス選択比R
CO2/R
0が70未満である場合
図8は、気体分離膜1のガス選択比R
CO2/R
0が70未満であるときの、ガス選択比R
CO2/R
0と気体分離膜1の気体透過度比B
CO2/A
CO2との関係を、分離層3の欠陥率ごとにシミュレートして得られたグラフである。具体的には、分離層3の欠陥率が0%であり、かつ、ガス選択比R
CO2/R
0が70である気体分離膜1を仮想し、その気体分離膜1の気体透過度比B
CO2/A
CO2を変化させた場合のガス選択比の推移を、分離層3の欠陥率ごとにシミュレートして得られたグラフである。この場合の70というガス選択比は、分離層3の欠陥率が0%という理想状態において実現できる値であるから、以下、「理想値」という。
【0079】
図8に示す結果では、気体透過度比B
CO2/A
CO2を4.7以上30.0以下に設定することで、例えば、ガス選択比56以上を実現するにあたって、分離層3の欠陥率(貫通孔31の面積率)を0.01%まで許容できている。
【0080】
また、
図8では、気体透過度比B
CO2/A
CO2が上限値の30.0であるとき、欠陥率が0%の分離層3を有する気体分離膜1のガス選択比R
CO2/R
0を1とすると、欠陥率が0.01%の分離層3を有する気体分離膜1のガス選択比R
CO2/R
0は、0.8以上になっている。この値は、ガス選択比の理想値70に対する到達率と考えることができ、その値が0.8以上であれば、十分に理想値に近いといえる。よって、
図8に示すシミュレーション結果は、気体透過度比B
CO2/A
CO2を最適化することで、分離層3の欠陥率が0.01%であるという比較的厳しい条件下であっても、ガス選択比R
CO2/R
0において欠陥率の影響が顕在化しないように抑えられることを意味する。
【0081】
以上を踏まえると、ガス選択比RCO2/R0が60以上70未満である場合、気体透過度比BCO2/ACO2は4.7以上30.0以下であることが好ましい。
【0082】
1.3.8.ガス選択比R
CO2/R
0が80未満である場合
図9は、気体分離膜1のガス選択比R
CO2/R
0が80未満であるときの、ガス選択比R
CO2/R
0と気体分離膜1の気体透過度比B
CO2/A
CO2との関係を、分離層3の欠陥率ごとにシミュレートして得られたグラフである。具体的には、分離層3の欠陥率が0%であり、かつ、ガス選択比R
CO2/R
0が80である気体分離膜1を仮想し、その気体分離膜1の気体透過度比B
CO2/A
CO2を変化させた場合のガス選択比の推移を、分離層3の欠陥率ごとにシミュレートして得られたグラフである。この場合の80というガス選択比は、分離層3の欠陥率が0%という理想状態において実現できる値であるから、以下、「理想値」という。
【0083】
図9に示す結果では、気体透過度比B
CO2/A
CO2を4.9以上25.0以下に設定することで、例えば、ガス選択比64以上を実現するにあたって、分離層3の欠陥率(貫通孔31の面積率)を0.01%まで許容できている。
【0084】
また、
図9では、気体透過度比B
CO2/A
CO2が上限値の25.0であるとき、欠陥率が0%の分離層3を有する気体分離膜1のガス選択比R
CO2/R
0を1とすると、欠陥率が0.01%の分離層3を有する気体分離膜1のガス選択比R
CO2/R
0は、0.8以上になっている。この値は、ガス選択比の理想値80に対する到達率と考えることができ、その値が0.8以上であれば、十分に理想値に近いといえる。よって、
図9に示すシミュレーション結果は、気体透過度比B
CO2/A
CO2を最適化することで、分離層3の欠陥率が0.01%であるという比較的厳しい条件下であっても、ガス選択比R
CO2/R
0において欠陥率の影響が顕在化しないように抑えられることを意味する。
【0085】
以上を踏まえると、ガス選択比RCO2/R0が70以上80未満である場合、気体透過度比BCO2/ACO2は4.9以上25.0以下であることが好ましい。
【0086】
1.3.9.ガス選択比R
CO2/R
0が90未満である場合
図10は、気体分離膜1のガス選択比R
CO2/R
0が90未満であるときの、ガス選択比R
CO2/R
0と気体分離膜1の気体透過度比B
CO2/A
CO2との関係を、分離層3の欠陥率ごとにシミュレートして得られたグラフである。具体的には、分離層3の欠陥率が0%であり、かつ、ガス選択比R
CO2/R
0が90である気体分離膜1を仮想し、その気体分離膜1の気体透過度比B
CO2/A
CO2を変化させた場合のガス選択比の推移を、分離層3の欠陥率ごとにシミュレートして得られたグラフである。この場合の90というガス選択比は、分離層3の欠陥率が0%という理想状態において実現できる値であるから、以下、「理想値」という。
【0087】
図10に示す結果では、気体透過度比B
CO2/A
CO2を5.1以上22.0以下に設定することで、例えば、ガス選択比72以上を実現するにあたって、分離層3の欠陥率(貫通孔31の面積率)を0.01%まで許容できている。
【0088】
また、
図10では、気体透過度比B
CO2/A
CO2が上限値の22.0であるとき、欠陥率が0%の分離層3を有する気体分離膜1のガス選択比R
CO2/R
0を1とすると、欠陥率が0.01%の分離層3を有する気体分離膜1のガス選択比R
CO2/R
0は、0.8以上になっている。この値は、ガス選択比の理想値90に対する到達率と考えることができ、その値が0.8以上であれば、十分に理想値に近いといえる。よって、
図10に示すシミュレーション結果は、気体透過度比B
CO2/A
CO2を最適化することで、分離層3の欠陥率が0.01%であるという比較的厳しい条件下であっても、ガス選択比R
CO2/R
0において欠陥率の影響が顕在化しないように抑えられることを意味する。
【0089】
以上を踏まえると、ガス選択比RCO2/R0が80以上90未満である場合、気体透過度比BCO2/ACO2は5.1以上22.0以下であることが好ましい。
【0090】
1.3.10.ガス選択比R
CO2/R
0が100未満である場合
図11は、気体分離膜1のガス選択比R
CO2/R
0が100未満であるときの、ガス選択比R
CO2/R
0と気体分離膜1の気体透過度比B
CO2/A
CO2との関係を、分離層3の欠陥率ごとにシミュレートして得られたグラフである。具体的には、分離層3の欠陥率が0%であり、かつ、ガス選択比R
CO2/R
0が100である気体分離膜1を仮想し、その気体分離膜1の気体透過度比B
CO2/A
CO2を変化させた場合のガス選択比の推移を、分離層3の欠陥率ごとにシミュレートして得られたグラフである。この場合の100というガス選択比は、分離層3の欠陥率が0%という理想状態において実現できる値であるから、以下、「理想値」という。
【0091】
図11に示す結果では、気体透過度比B
CO2/A
CO2を5.3以上19.0以下に設定することで、例えば、ガス選択比80以上を実現するにあたって、分離層3の欠陥率(貫通孔31の面積率)を0.01%まで許容できている。
【0092】
また、
図11では、気体透過度比B
CO2/A
CO2が上限値の19.0であるとき、欠陥率が0%の分離層3を有する気体分離膜1のガス選択比R
CO2/R
0を1とすると、欠陥率が0.01%の分離層3を有する気体分離膜1のガス選択比R
CO2/R
0は、0.8以上になっている。この値は、ガス選択比の理想値100に対する到達率と考えることができ、その値が0.8以上であれば、十分に理想値に近いといえる。よって、
図11に示すシミュレーション結果は、気体透過度比B
CO2/A
CO2を最適化することで、分離層3の欠陥率が0.01%であるという比較的厳しい条件下であっても、ガス選択比R
CO2/R
0において欠陥率の影響が顕在化しないように抑えられることを意味する。
【0093】
以上を踏まえると、ガス選択比RCO2/R0が90以上100未満である場合、気体透過度比BCO2/ACO2は5.3以上19.0以下であることが好ましい。
【0094】
2.気体分離膜の製造方法
次に、
図1に示す気体分離膜1の製造方法について説明する。
【0095】
まず、多孔質層2の一方の面に分離層3を形成する。分離層3の形成には、例えば、ゾルゲル法、塗布法、プラズマCVD法、プラズマ重合法、ALD(Atomic Layer Deposition)法等が挙げられる。このうち、塗布法としては、例えば、浸漬法、滴下法、インクジェット法、ディスペンサー法、噴霧法、スクリーン印刷法、コーター塗布法、スピンコート法等が挙げられる。
【0096】
このうち、分離層3の構成材料がオルガノポリシロキサンである場合、プラズマ重合法が好ましく用いられる。プラズマ重合法によれば、多孔質層2の清浄化および活性化を図りつつ、オルガノポリシロキサンを堆積させることができる。これにより、形成される分離層3は、多孔質層2に対してより強固に密着したものとなる。また、プラズマ重合法は、気相成膜法の一種であるため、堆積される分子の一部が多孔質層2の空孔23の内壁にも付着する。これにより、分離層3の密着性をより高めることができる。さらに、プラズマ重合法で成膜された膜(プラズマ重合膜)は、緻密化が図られているため、貫通孔31が少ない分離層3を形成できる。
【0097】
プラズマ重合法に用いる原料ガスとしては、例えば、メチルシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、メチルフェニルシロキサンのようなオルガノシロキサン等が挙げられる。
【0098】
プラズマ重合法に用いるチャンバー内の圧力は、133.3×10-5Pa以上1333Pa以下(1×10-5Torr以上10Torr以下)程度であるのが好ましい。
【0099】
プラズマ重合法に供される多孔質層2の温度は、25℃以上100℃以下程度であるのが好ましく、成膜時間は、1分以上10分以下程度であるのが好ましい。
【0100】
また、分離層3の構成材料がオルガノポリシロキサンである場合、以下のような塗布法でも分離層3を形成できる。塗布法では、例えば、硬化反応前のオルガノポリシロキサンと、溶媒と、を混合してなる樹脂溶液を用いる。この樹脂溶液を多孔質層2の一方の面に塗布した後、硬化させる。これにより、分離層3が得られる。
【0101】
3.変形例
次に、実施形態の変形例に係る気体分離膜1について説明する。
図12は、実施形態の変形例に係る気体分離膜1を模式的に示す断面図である。
【0102】
以下、実施形態の変形例について説明するが、以下の説明では、前記実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。なお、
図12において、
図1と同様の事項については同一の符号を付している。
【0103】
図12に示す気体分離膜1は、多孔質層2と分離層3との間に設けられた中間層4を有すること以外、
図1に示す気体分離膜1と同様である。
【0104】
中間層4は、多孔質層2の上流側の面に成膜されているため、多孔質層2の多孔性を受け継ぎ、空孔43を有する。このため、中間層4は、多孔質層2と分離層3との密着を介在して大きな密着力を得るとともに、多孔質層2の空孔23をほとんど塞ぐことなく、良好な気体透過性を有する。
【0105】
中間層4の構成材料は、オルガノポリシロキサンである。このオルガノポリシロキサンには、前述したものが用いられる。中間層4の構成材料は、分離層3の構成材料と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0106】
中間層4は、分離層3と化学的に結合している。化学的な結合には、水素結合や共有結合等が挙げられるが、特に共有結合であるのが好ましい。これにより、分離層3は、中間層4を介して多孔質層2により強固に密着する。その結果、気体分離膜1は、特に良好な機械的特性を有する。
【0107】
このような良好な機械的特性は、気体分離膜1の使用時の形態に自由度を与えることができる。例えば、気体分離膜1を湾曲させた状態や折り曲げた状態で使用する場合がある。気体分離膜1がこのような状態で使用されると、密着強度が低い場合、多孔質層2と分離層3との間に剥離が生じるおそれがある。
【0108】
これに対し、中間層4が介在させることで、密着強度を高めることができ、剥離等の発生を抑制できる。その結果、気体分離膜1は、湾曲させた状態や折り曲げた状態で使用しても、破損しにくくなる。折り曲げた状態では、例えば気体分離膜1を用いたモジュールの面積を大きくしなくても、気体分離膜1の表面積を大きくすることができる。よって、気体分離膜1を用いたモジュールの高密度化を図ることができる。
【0109】
中間層4の平均厚さは、特に限定されないが、1000nm以下であるのが好ましく、3nm以上500nm以下であるのがより好ましく、5nm以上300nm以下であるのがさらに好ましい。これにより、中間層4は、十分な密着力を有するものとなる。また、中間層4が厚くなりすぎることがなく、空孔43を伴った状態になるため、中間層4は、多孔質層2のように良好な気体透過性を有するものとなる。
【0110】
また、分離層3の平均厚さと中間層4の平均厚さの合計は、1500nm以下であるのが好ましく、50nm以上500nm以下であるのがより好ましく、100nm以上400nm以下であるのがさらに好ましい。これにより、分離層3は、中間層4を介して多孔質層2に強く密着するとともに、中間層4は、多孔質層2の良好な気体透過性を阻害しにくくなる。
【0111】
また、中間層4の平均厚さは、分離層3の平均厚さ以上であってもよいが、好ましくは分離層3より薄くなるように設定される。この場合、分離層3の平均厚さと中間層4の平均厚さとの差は、0nm超300nm以下であるのが好ましく、10nm以上150nm以下であるのがより好ましく、15nm以上100nm以下であるのがさらに好ましい。これにより、分離層3と中間層4の厚さのバランスが良好になり、膜厚の差が大きすぎることによる剥離等が生じにくくなるとともに、分離層3および中間層4がそれぞれの機能を良好に発揮できる。なお、この差は、分離層3の平均厚さから中間層4の平均厚さを引いたものである。
【0112】
次に、実施形態の変形例に係る気体分離膜の製造方法について説明する。
まず、多孔質層2の一方の面にオルガノポリシロキサンを成膜する。これにより、中間層4が得られる。
【0113】
オルガノポリシロキサンの成膜方法としては、例えば、ゾルゲル法、塗布法、プラズマCVD法、プラズマ重合法、ALD(Atomic Layer Deposition)法等が挙げられる。このうち、プラズマ重合法が好ましく用いられる。プラズマ重合法によれば、多孔質層2の清浄化および活性化を図りつつ、オルガノポリシロキサンを堆積させることができる。これにより、形成される中間層4は、多孔質層2に対してより強固に密着したものとなる。また、プラズマ重合法は、気相成膜法の一種であるため、堆積される分子の一部が多孔質層2の空孔23の内壁にも付着する。これにより、中間層4の密着性をより高めることができる。さらに、プラズマ重合法で成膜された膜(プラズマ重合膜)は、緻密化が図られているため、多孔質層2に対して分離層3をより強固に固定し得る中間層4となる。
【0114】
プラズマ重合法に用いる原料ガスとしては、例えば、メチルシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、メチルフェニルシロキサンのようなオルガノシロキサン等が挙げられる。
【0115】
プラズマ重合法に用いるチャンバー内の圧力は、133.3×10-5Pa以上1333Pa以下(1×10-5Torr以上10Torr以下)程度であるのが好ましい。
【0116】
プラズマ重合法に供される多孔質層2の温度は、25℃以上100℃以下程度であるのが好ましく、成膜時間は、1分以上10分以下程度であるのが好ましい。
【0117】
次に、犠牲層となるシートを用意し、その表面に分離層3を形成する。分離層3の形成方法は、前述した通りである。
【0118】
犠牲層の構成材料としては、例えば溶媒等に溶解する材料が挙げられる。犠牲層の構成材料としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ゼラチンのような水溶性樹脂、アクリル樹脂が挙げられる。このうち、水溶性樹脂は、水系溶剤に対して容易に溶解するため、犠牲層の構成材料として好適である。
【0119】
次に、中間層4に活性化処理を施す。活性化処理としては、例えば、中間層4にエネルギー線を照射する方法、中間層4を加熱する方法、中間層4をプラズマやコロナに曝す方法、中間層4をオゾンガスに曝す方法等が挙げられる。エネルギー線としては、例えば、赤外線、紫外線、可視光等挙げられる。活性化処理を施すと、中間層4を構成するオルガノポリシロキサンが持つ有機基の一部が脱離する。有機基の脱離後、未結合手にH原子または水分が吸着することによって活性種が生じる。活性種としては、例えば、Si-H基、Si-OH基等が挙げられる。なお、活性化処理は、必要に応じて行えばよく、十分な活性種が存在している場合には、省略してもよい。また、活性化処理によって中間層4を清浄化することができ、接合強度のさらなる向上に寄与できる。
【0120】
同様に、分離層3にも活性化処理を施す。これにより、分離層3にも活性種が生じる。この活性化処理も、必要に応じて行えばよく、十分な活性種が存在している場合には、省略してもよい。
【0121】
次に、分離層3および中間層4の活性化処理を施した面同士を接触させる。そして、その状態でこれらを加圧する。これにより、活性化処理を施した面同士が接合される。この接合は、化学的結合に基づくものである。具体的には、面同士を接触させると、活性種同士の間には、例えば水素結合が生じる。次に、分離層3および中間層4を加圧すると、活性種同士の間で脱水縮重合が生じる。その結果、共有結合によって面同士が接合される。
【0122】
このような方法によれば、接合界面に介在物が存在しない。このため、接合界面で気体透過が阻害されることなく、良好な機械的特性、気体透過性および選択分離性を有する気体分離膜1が得られる。
【0123】
次に、犠牲層を除去する。これにより、気体分離膜1が得られる。犠牲層の除去は、例えば、犠牲層を水や有機溶剤等を含む溶媒に接触させることによって行う。これにより、犠牲層を溶解させて除去することができる。このような方法であれば、分離層3が薄くても、影響を与えることなく、犠牲層を除去することができる。このため、薄くても空孔率の低い分離層3を有する気体分離膜1を製造することができる。
【0124】
また、分離層3のうち、犠牲層が除去された面では、構成材料の清浄な面が露出する。この面では、構成材料が持つ二酸化炭素との親和性が十分に発揮される。このため、上記の方法で製造される気体分離膜1は、特に二酸化炭素の選択分離性に優れたものとなる。
【0125】
4.気体分離膜の用途
実施形態に係る気体分離膜1は、ガス分離回収、ガス分離精製等に用いることができる。例えば、水素、ヘリウム、一酸化炭素、二酸化炭素、硫化水素、酸素、窒素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物の他、メタン、エタンのような飽和炭化水素、プロピレンのような不飽和炭化水素、テトラフルオロエタンのようなパーフルオロ炭化水素等の気体成分を含有する混合ガスから二酸化炭素を効率よく分離するとき、気体分離膜1が用いられる。これにより、例えば大気に含まれる二酸化炭素を分離回収する技術(直接空気回収(DAC))や、メタンが主成分である原油随伴ガスや天然ガスから二酸化炭素を分離回収する技術において、気体分離膜1を効果的に用いることができる。
【0126】
5.前記実施形態が奏する効果
以上のように、前記実施形態に係る気体分離膜1は、多孔質層2と、分離層3と、を有し、二酸化炭素および非対象成分を含む混合ガスから二酸化炭素を分離する。分離層3は、多孔質層2の一方の面に密着し、高分子材料で構成される。また、気体分離膜1の非対象成分の気体透過度をR0とし、気体分離膜1の二酸化炭素の気体透過度をRCO2とするとき、ガス選択比RCO2/R0が8以上100未満である。さらに、分離層3の二酸化炭素の気体透過度をACO2とし、多孔質層2の二酸化炭素の気体透過度をBCO2とするとき、気体透過度比BCO2/ACO2が4.0以上128.0以下である。
【0127】
このような構成によれば、機械的特性に優れ、かつ、分離層3に欠陥があっても二酸化炭素のガス選択比と二酸化炭素の気体透過度とを両立させ得る気体分離膜1が得られる。
【0128】
また、高分子材料は、オルガノポリシロキサンを含んでいてもよい。このとき、分離層3の平均厚さは、10nm以上800nm以下であるのが好ましい。
【0129】
このような構成によれば、二酸化炭素に対して良好な親和性を有する分離層3が得られる。また、上記のような平均厚さを有する分離層3は、上記のガス選択比を確保しつつ、十分な気体透過性を有するものとなる。その結果、二酸化炭素の選択分離性が良好で、かつ、分離に必要なエネルギーの投入量を減らすこと、具体的には気体分離膜1の上流側と下流側との圧力差を小さくできる気体分離膜1を実現できる。
【0130】
また、分離層3を貫通する貫通孔31の面積率は、0%超0.05%以下であることが好ましい。
【0131】
このような構成によれば、貫通孔31による影響がガス選択比において顕在化するのを抑制しつつ、分離層3の製造難易度の上昇を抑えることができる。
【0132】
また、ガス選択比RCO2/R0が20以上30未満であり、気体透過度比BCO2/ACO2が4.1以上81.0以下であることが好ましい。
【0133】
このような構成によれば、分離層3の欠陥率が0.01%であるという比較的厳しい条件下であっても、ガス選択比RCO2/R0において欠陥率の影響が顕在化しないように抑えられる。
【0134】
また、ガス選択比RCO2/R0が30以上40未満であり、気体透過度比BCO2/ACO2が4.3以上59.0以下であることが好ましい。
【0135】
このような構成によれば、分離層3の欠陥率が0.01%であるという比較的厳しい条件下であっても、ガス選択比RCO2/R0において欠陥率の影響が顕在化しないように抑えられる。
【0136】
また、ガス選択比RCO2/R0が40以上50未満であり、気体透過度比BCO2/ACO2が4.4以上45.0以下であることが好ましい。
【0137】
このような構成によれば、分離層3の欠陥率が0.01%であるという比較的厳しい条件下であっても、ガス選択比RCO2/R0において欠陥率の影響が顕在化しないように抑えられる。
【0138】
また、ガス選択比RCO2/R0が50以上60未満であり、気体透過度比BCO2/ACO2が4.5以上37.0以下であることが好ましい。
【0139】
このような構成によれば、分離層3の欠陥率が0.01%であるという比較的厳しい条件下であっても、ガス選択比RCO2/R0において欠陥率の影響が顕在化しないように抑えられる。
【0140】
また、ガス選択比RCO2/R0が60以上70未満であり、気体透過度比BCO2/ACO2が4.7以上30.0以下であることが好ましい。
【0141】
このような構成によれば、分離層3の欠陥率が0.01%であるという比較的厳しい条件下であっても、ガス選択比RCO2/R0において欠陥率の影響が顕在化しないように抑えられる。
【0142】
また、ガス選択比RCO2/R0が70以上80未満であり、気体透過度比BCO2/ACO2が4.9以上25.0以下であることが好ましい。
【0143】
このような構成によれば、分離層3の欠陥率が0.01%であるという比較的厳しい条件下であっても、ガス選択比RCO2/R0において欠陥率の影響が顕在化しないように抑えられる。
【0144】
また、ガス選択比RCO2/R0が80以上90未満であり、気体透過度比BCO2/ACO2が5.1以上22.0以下であることが好ましい。
【0145】
このような構成によれば、分離層3の欠陥率が0.01%であるという比較的厳しい条件下であっても、ガス選択比RCO2/R0において欠陥率の影響が顕在化しないように抑えられる。
【0146】
また、ガス選択比RCO2/R0が90以上100未満であり、気体透過度比BCO2/ACO2が5.3以上19.0以下であることが好ましい。
【0147】
このような構成によれば、分離層3の欠陥率が0.01%であるという比較的厳しい条件下であっても、ガス選択比RCO2/R0において欠陥率の影響が顕在化しないように抑えられる。
【0148】
また、非対象成分は、窒素であることが好ましい。
このような構成によれば、大気に含まれる二酸化炭素を分離回収する技術(直接空気回収(DAC))に好適な気体分離膜1が得られる。
【0149】
以上、本発明に係る気体分離膜について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0150】
例えば、本発明に係る気体分離膜は、前記実施形態の各部が同様の機能を有する構成物に置換されたものであってもよく、前記実施形態に任意の構成物が付加されたものであってもよい。
【実施例0151】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
6.気体分離膜の作製
6.1.サンプルNo.1
まず、アルミナ(Al2O3)で構成された多孔質層の一方の面に、プラズマ重合法により、オルガノポリシロキサンを成膜した。これにより、分離層を得た。なお、原料ガスには、オクタメチルトリシロキサンを用い、得られた分離層の構成材料は、オルガノポリシロキサン(OPS)であった。また、分離層の欠陥率(貫通孔の面積率)は0.01%、多孔質層の空孔率は50%であった。気体分離膜の構成は、表1に示す通りである。
【0152】
6.2.サンプルNo.2~18
気体分離膜の構成を表1に示すように変更した以外は、サンプルNo.1の場合と同様にして気体分離膜を作製した。
【0153】
6.3.サンプルNo.19
気体分離膜の構成を表2に示すように変更した以外は、サンプルNo.1の場合と同様にして気体分離膜を作製した。サンプルNo.19の気体分離膜の作製方法は、以下の通りである。
【0154】
まず、アルミナで構成された多孔質層の一方の面に、プラズマ重合法により、オルガノポリシロキサンを成膜した。これにより、中間層を得た。なお、原料ガスには、オクタメチルトリシロキサンを用いた。
【0155】
次に、犠牲層としての水溶性フィルムの一方の面に、プラズマ重合により、オルガノポリシロキサンを成膜した。これにより、分離層を得た。なお、原料ガスには、オクタメチルトリシロキサンを用いた。
【0156】
次に、中間層および分離層にそれぞれ紫外線を照射する活性化処理を施した。続いて、活性化処理を施した面同士が接触するように重ね合わせ、加熱しながら加圧した。これにより、気体分離膜を得た。
【0157】
6.4.サンプルNo.20~23
気体分離膜の構成を表2に示すように変更した以外は、サンプルNo.19の場合と同様にして気体分離膜を作製した。
【0158】
なお、表1および表2では、本発明に相当する気体分離膜を「実施例」とし、本発明に相当しない気体分離膜を「比較例」としている。
【0159】
7.気体分離膜の評価
各実施例および各比較例の気体分離膜について、以下のような評価を行った。
【0160】
7.1.ガス選択比RCO2/R0および理想値に対する到達率
各実施例および各比較例の気体分離膜を直径5cmの円形に切り取り、試験サンプルを作製した。次に、ガス透過率測定装置を用い、二酸化炭素:窒素が体積比13:87で混合されてなる混合気体を試験サンプルの上流側に供給した。なお、上流側の全圧が5MPa、二酸化炭素の分圧が0.65MPa、流量が500mL/min、温度が40℃となるように調整した。そして、試験サンプルを透過してきた気体成分をガスクロマトグラフィーにより分析した。
【0161】
次に、分析結果から、気体分離膜の二酸化炭素の気体透過度RCO2および窒素の気体透過度RN2を求めるとともに、ガス選択比RCO2/R0として、「比RCO2/RN2」を算出した。また、算出したガス選択比RCO2/R0の理想値に対する到達率も算出した。算出結果を表1および表2に示す。
【0162】
7.2.機械的特性
各実施例および各比較例の気体分離膜について、蛇腹状に折り曲げた後、折り曲げた気体分離膜を延ばした。そして、この操作を10回繰り返した後、気体分離膜を直径5cmの円形に切り取り、試験サンプルを作製した。
【0163】
次に、試験サンプルについて、7.1と同様の方法により、ガス選択比RCO2/R0を算出した。そして、折り曲げ試験を行う前のガス選択比RCO2/R0と、折り曲げ試験を行った後のガス選択比RCO2/R0と、の差を、ガス選択比RCO2/R0の低下幅として算出した。この低下幅は、折り曲げ試験によってガス選択比RCO2/R0が悪化した程度を定量的に表す指標となる。算出した低下幅を以下の評価基準に照らして、気体分離膜の機械的特性を相対評価した。評価結果を表1および表2に示す。
【0164】
A:ガス選択比RCO2/R0の低下幅が小さい(3未満)
B:ガス選択比RCO2/R0の低下幅が中程度(3以上6未満)
C:ガス選択比RCO2/R0の低下幅が大きい(6以上)
【0165】
【0166】
【0167】
表1および表2から明らかなように、実施例の気体分離膜は、比較例の気体分離膜に比べて、ガス選択比RCO2/R0の理想値に対する到達率が高かった。また、実施例の中でも、気体透過度比BCO2/ACO2を最適化することによって、到達率を高め得ることが認められた。さらに、各気体分離膜は、複合膜の構成を有しているため、機械的特性が良好であった。また、中間層が介在している場合、機械的特性を特に高められることがわかった。