(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170941
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】気体分離膜
(51)【国際特許分類】
B01D 71/70 20060101AFI20241204BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20241204BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20241204BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20241204BHJP
C08G 83/00 20060101ALI20241204BHJP
C01B 32/50 20170101ALN20241204BHJP
【FI】
B01D71/70 500
B01D69/00
B01D69/10
B01D69/12
C08G83/00
C01B32/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087719
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】新井 聖
【テーマコード(参考)】
4D006
4G146
4J031
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006MA01
4D006MA02
4D006MA03
4D006MA08
4D006MA09
4D006MA21
4D006MA22
4D006MA31
4D006MB16
4D006MC02
4D006MC03
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4D006MC28
4D006MC29
4D006MC30
4D006MC46
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4D006NA43
4D006PA01
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4D006PB62
4D006PB63
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4D006PB66
4D006PB67
4D006PB68
4D006PB70
4G146JA02
4G146JB10
4G146JC12
4G146JD10
4J031CA87
4J031CE04
(57)【要約】
【課題】機械的特性に優れ、かつ、二酸化炭素のガス選択比と二酸化炭素の気体透過度とを両立させ得る気体分離膜を提供すること。
【解決手段】多孔質層と、前記多孔質層の一方の面に密着し、高分子材料で構成される分離層と、を有し、二酸化炭素および非対象成分を含む混合ガスから二酸化炭素を分離する気体分離膜であって、前記分離層の平均厚さをtとし、前記多孔質層の平均空孔径をdとし、前記多孔質層の平均厚さをTとするとき、tが、5nm以上500nm以下であり、比d/tが、2.0超100以下であり、比T/tが、100以上10000以下であることを特徴とする気体分離膜。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質層と、
前記多孔質層の一方の面に密着し、高分子材料で構成される分離層と、
を有し、二酸化炭素および非対象成分を含む混合ガスから二酸化炭素を分離する気体分離膜であって、
前記分離層の平均厚さをtとし、
前記多孔質層の平均空孔径をdとし、
前記多孔質層の平均厚さをTとするとき、
tが、5nm以上500nm以下であり、
比d/tが、2.0超100以下であり、
比T/tが、100以上10000以下であることを特徴とする気体分離膜。
【請求項2】
前記高分子材料は、オルガノポリシロキサンを含む請求項1に記載の気体分離膜。
【請求項3】
前記多孔質層の平均空孔径dが、5nm以上1000nm以下である請求項1または2に記載の気体分離膜。
【請求項4】
前記多孔質層の平均厚さTが、10μm以上500μm以下である請求項1または2に記載の気体分離膜。
【請求項5】
前記多孔質層の構成材料は、高分子材料、セラミック材料または金属材料である請求項1または2に記載の気体分離膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体分離膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンニュートラルやカーボンマイナスの実現に向けて、火力発電所やボイラー設備等から排出される二酸化炭素や大気中の二酸化炭素を取り込んで回収する技術が検討されている。この技術として、気体分離膜を用いて二酸化炭素を分離する膜分離法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、特定のガスを選択的に透過させるガス選択透過性膜が開示されている。このガス選択透過性膜は、フィルム状高分子多孔性支持体にシロキサン化合物の薄膜を積層する、薄膜の表面層に非重合性ガスによるプラズマ処理を施す、および、その薄膜上にプラズマ重合膜を堆積する、というプロセスを経て製造されている。また、これらのプロセスにより、薄膜とプラズマ重合膜との接着性が強固なガス選択透過性膜が得られること、および、薄膜の厚さは1μmから30μmであること、が開示されている。さらに、このガス選択透過性膜を用いて、酸素、水素、ヘリウム等のガスを選択的に透過させ、分離されたガスを回収することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のガス選択透過性膜では、所定の成分を透過させるために大きな差圧が必要になる。このため、成分の分離におけるエネルギー消費量が大きいという課題がある。また、所定の成分の透過度を高めようとすると、その成分の分離性能が低下し、反対に、所定の成分の分離性能を高めようとすると、その成分の透過度が低下するという課題もある。
【0006】
そこで、機械的特性に優れ、かつ、二酸化炭素のガス選択比と二酸化炭素の気体透過度とを両立させ得る気体分離膜を実現することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の適用例に係る気体分離膜は、
多孔質層と、
前記多孔質層の一方の面に密着し、高分子材料で構成される分離層と、
を有し、二酸化炭素および非対象成分を含む混合ガスから二酸化炭素を分離する気体分離膜であって、
前記分離層の平均厚さをtとし、
前記多孔質層の平均空孔径をdとし、
前記多孔質層の平均厚さをTとするとき、
tが、5nm以上500nm以下であり、
比d/tが、2.0超100以下であり、
比T/tが、100以上10000以下である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る気体分離膜を模式的に示す断面図である。
【
図2】実施形態の変形例に係る気体分離膜を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の気体分離膜を添付図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
1.気体分離膜
まず、実施形態に係る気体分離膜の構成について説明する。
【0010】
図1は、実施形態に係る気体分離膜1を模式的に示す断面図である。
図1に示す気体分離膜1は、二酸化炭素および非対象成分を含む混合ガスから、二酸化炭素を選択的に透過させる機能を有する。
図1に示す気体分離膜1は、多孔質層2と、分離層3と、を有する。非対象成分とは、混合ガスに含まれる、二酸化炭素以外の気体成分を指す。
【0011】
多孔質層2は、
図1に示す空孔23を有する多孔質の膜である。このような多孔質層2は、良好な気体透過度を有するとともに、分離層3を支持する。これにより、分離層3が持つ良好なガス選択比を損なうことなく、気体分離膜1全体の機械的特性を高めることができる。
【0012】
分離層3は、多孔質層2の一方の面に設けられ、多孔質層2よりも緻密な(空孔率が低い)高分子材料で構成される。このような分離層3は、空孔23の上端を閉塞している。そして、分離層3は、気体分離膜1の上流側に供給された混合ガス中の二酸化炭素を下流側に選択的に透過させる、良好なガス選択比を有する。これにより、気体分離膜1は、混合ガス中の二酸化炭素を分離することができる。なお、以下の説明では、
図1に示す気体分離膜1の上方を「上流側」または単に「上」といい、下方を「下流側」または単に「下」という。
【0013】
なお、非対象成分としては、例えば、窒素、メタン等が挙げられ、特に窒素が想定される。したがって、前述した混合ガスとしては、二酸化炭素と窒素の混合ガスが挙げられる。
【0014】
1.1.多孔質層
多孔質層2は、前述したように、空孔23を有する多孔質状の膜であり、良好な気体透過性を有する。また、多孔質層2は、分離層3に比べて剛性が高く、気体分離膜1全体の自立性や耐久性の確保を担う。
【0015】
多孔質層2の構成材料としては、例えば、高分子材料、セラミック材料、金属材料等が挙げられる。これらの材料は、剛性が高いため、気体分離膜1の機械的特性を高められるという観点で特に有用である。また、多孔質層2の構成材料は、これらの材料と他の材料との複合材料であってもよい。
【0016】
高分子材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデンのような含フッ素樹脂、ポリスチレン、セルロース、酢酸セルロース、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリアラミド、ナイロン等が挙げられる。
【0017】
セラミック材料としては、例えば、アルミナ、コーディエライト、ムライト、炭化珪素、ジルコニア等が挙げられる。金属材料としては、例えば、ステンレス鋼等が挙げられる。
【0018】
このうち、多孔質層2の構成材料にはセラミック材料が好ましく用いられる。セラミック材料は、剛性が高く、かつ、焼結材料であるため、連続した空孔を含む。このため、多孔質層2の構成材料としてセラミック材料を用いることにより、機械的特性に優れ、かつ、二酸化炭素の気体透過度が高い気体分離膜1が得られる。
【0019】
多孔質層2の形状は、
図1に示す平板状の他、スパイラル状、管状、中空糸状等であってもよい。
【0020】
多孔質層2の平均厚さTは、特に限定されないが、10μm以上500μm以下であるのが好ましく、20μm以上300μm以下であるのがより好ましく、30μm以上200μm以下であるのがさらに好ましい。これにより、多孔質層2は、気体分離膜1を支持するのに必要かつ十分な剛性を有する。なお、多孔質層2の平均厚さTが前記下限値を下回ると、剛性が不十分になるおそれがある。一方、多孔質層2の平均厚さTが前記上限値を上回ると、多孔質層2の剛性が高くなりすぎて、気体分離膜1の取り扱い性が低下したり、分離層3の密着性が低下したりするおそれがある。
【0021】
なお、多孔質層2の平均厚さTは、多孔質層2の10か所について測定された、積層方向における厚さの平均値である。多孔質層2の厚さの測定には、例えば、シックネスゲージを用いることができる。
【0022】
多孔質層2は、空孔23を有するが、その平均内径を「平均空孔径d」という。多孔質層2の平均空孔径dは、5nm以上1000nm以下であるのが好ましく、10nm以上800nm以下であるのがより好ましく、50nm以上400nm以下であるのがさらに好ましく、100nm以上300nm以下であるのが特に好ましい。これにより、多孔質層2の二酸化炭素の気体透過度を十分に確保しつつ、分離層3が多孔質層2の下流側に抜け出てしまうのを抑制することができる。なお、多孔質層2の平均空孔径dが前記下限値を下回ると、多孔質層2の二酸化炭素の気体透過度が低下するおそれがある。一方、多孔質層2の平均空孔径dが前記上限値を上回ると、分離層3が多孔質層2の下流側に抜け出てしまうおそれがある。
【0023】
なお、多孔質層2の平均空孔径dは、気体分離膜1から分離層3を除去して単独の多孔質層2を取り出した後、貫通細孔径評価装置により測定される。貫通細孔径評価装置としては、例えば、PMI社製、パームポロメーターが挙げられる。
【0024】
多孔質層2の空孔率は、20%以上90%以下であるのが好ましく、30%以上80%以下であるのがより好ましい。これにより、多孔質層2は、良好な気体透過性と、十分な剛性と、を両立できる。
【0025】
なお、多孔質層2の空孔率は、気体分離膜1から分離層3を除去した後、前述した貫通細孔径評価装置により測定される。
【0026】
1.2.分離層
分離層3は、多孔質層2の上流側の面に成膜されている。このため、分離層3は、実質的に緻密な膜であり、二酸化炭素の分子と良好な親和性を有する。この親和性により、分離層3は、二酸化炭素を選択的に透過させる。
【0027】
分離層3の構成材料は、高分子材料である。高分子材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂等、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素樹脂等、ポリスチレン、セルロース、酢酸セルロース、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリアラミド、オルガノポリシロキサン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアセタール(POM)、ポリ乳酸(PLA)等が挙げられる。そして、分離層3の構成材料は、これらの高分子材料の1種または2種以上の複合材料であってもよい。
【0028】
このうち、分離層3の構成材料には、オルガノポリシロキサンが好ましく用いられる。オルガノポリシロキサンの1つの分子は、基本構成単位として、R1SiO3/2で表される単位(T単位)、R2R3SiO2/2で表される単位(D単位)、および、R4R5R6SiO1/2で表される単位(M単位)を、少なくとも含んでいる。なお、各単位中、R1~R6は、脂肪族炭化水素または水素原子である。オルガノポリシロキサンの1つの分子は、これらのT単位、D単位およびM単位が組み合わされて構成されている。
【0029】
オルガノポリシロキサンの具体例としては、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン、ポリスルホン/ポリヒドロキシスチレン/ポリジメチルシロキサン共重合体、ジメチルシロキサン/メチルビニルシロキサン共重合体、ジメチルシロキサン/ジフェニルシロキサン/メチルビニルシロキサン共重合体、メチル-3,3,3-トリフルオロプロピルシロキサン/メチルビニルシロキサン共重合体、ジメチルシロキサン/メチルフェニルシロキサン/メチルビニルシロキサン共重合体、ジフェニルシロキサン/ジメチルシロキサン共重合体末端ビニル、ポリジメチルシロキサン末端ビニル、ポリジメチルシロキサン末端アミノ、ポリジメチルシロキサン末端フェニル、ポリジメチルシロキサン末端H、ジメチルシロキサン-メチルハイドロシロキサン共重合体等が挙げられる。末端ビニル等の表記は、オルガノポリシロキサンに含まれる主鎖の少なくとも一方の末端がビニル基等の置換基で置換されていることを示す。なお、これらには、架橋反応物を形成している形態も含まれる。また、分離層3の構成材料は、これらのうちの1種または2種以上の複合物であってもよいし、質量比でオルガノポリシロキサンを主成分とし、他の樹脂成分を併用した複合材料であってもよい。
【0030】
なお、オルガノポリシロキサンは、二酸化炭素に対して良好な親和性を有する。このため、オルガノポリシロキサンを含む分離層3を有する気体分離膜1は、二酸化炭素に対して高いガス選択比を示すものとなる。
【0031】
分離層3の平均厚さtは、5nm以上500nm以下である。平均厚さtが前記範囲内であれば、分離層3は、欠陥が生じにくいので良好なガス選択比を確保しつつ、十分な気体透過性を有するものとなる。その結果、二酸化炭素の選択分離性が良好で、かつ、分離に必要なエネルギーの投入量を減らすこと、具体的には気体分離膜1の上流側と下流側との圧力差を小さくできる気体分離膜1を実現できる。なお、分離層3の平均厚さtが前記下限値を下回ると、分離層3に欠陥が生じる確率がより高くなったり、分離層3が事後的に破損しやすくなったりする。一方、分離層3の平均厚さtが前記上限値を上回ると、分離層3の二酸化炭素の気体透過度が低下して分離に必要なエネルギーの投入量が増加したり、分離層3の柔軟性が低下したりする。
【0032】
また、分離層3の平均厚さtは、好ましくは7nm以上300nm以下であり、より好ましくは10nm以上100nm以下である。
【0033】
なお、分離層3の平均厚さtは、例えば、気体分離膜1の断面を拡大観察し、10か所の厚さの平均値として求められる。拡大観察には、例えば、走査型電子顕微鏡、透過電子顕微鏡が用いられる。
【0034】
また、分離層3と多孔質層2との間には、任意の中間層が介在していてもよい。中間層は、例えば、分離層3と多孔質層2との密着性を高める機能、分離層3が空孔23に入り込むのを抑制する機能等を有していてもよい。
【0035】
なお、分離層3の上流側の面には、必要に応じて、カップリング剤等を用いて任意の官能基が導入されていてもよい。官能基を適宜選択することにより、二酸化炭素に対する親和性をさらに高めることができる。
【0036】
また、分離層3は、厚さ方向に沿って組成や構造が変化するように構成された傾斜機能層になっていてもよい。傾斜機能層では、例えば、分離層3の上流側では二酸化炭素との親和性を高め、下流側では二酸化炭素の透過性を高めるように、機能を変化させることができる。これにより、二酸化炭素のガス選択比と気体透過度の双方を特に高めることができる。
【0037】
1.3.分離層3の平均厚さtに対する多孔質層2の平均空孔径dの比d/t
気体分離膜1では、分離層3の平均厚さtに対する多孔質層2の平均空孔径dの比d/tは、2.0超100以下である。比d/tが前記範囲内であれば、気体分離膜1の二酸化炭素のガス選択比および二酸化炭素の気体透過度の双方を高めることができる。なお、比d/tが前記下限値を下回ると、平均空孔径dが小さくなりすぎて多孔質層2の気体透過度が低下するため、気体分離膜1の二酸化炭素の気体透過度が低下する。一方、比d/tが前記上限値を上回ると、平均空孔径dが大きくなりすぎて分離層3が空孔23に入り込んでしまい、均一な分離層3を成膜することが困難になる。そうなると、分離層3による多孔質層2の被覆率が低下し、気体分離膜1の二酸化炭素のガス選択比が低下する。
また、比d/tは、好ましくは2.5以上80以下であり、より好ましくは3.0以上50以下であり、さらに好ましくは5.0以上30以下である。
【0038】
1.4.分離層3の平均厚さtに対する多孔質層2の平均厚さTの比T/t
気体分離膜1では、分離層3の平均厚さtに対する多孔質層2の平均厚さTの比T/tが、100以上10000以下である。比T/tが前記範囲内であれば、二酸化炭素のガス選択比および二酸化炭素の気体透過度の双方を高めるとともに、機械的特性に優れた気体分離膜1が得られる。なお、比T/tが前記下限値を下回ると、多孔質層2の平均厚さTが薄くなりすぎて機械的特性が低下するため、例えば気体分離膜1の自立性が損なわれる。自立性が損なわれると、気体分離膜1の取り扱い性が低下する。一方、比T/tが前記上限値を上回ると、多孔質層2の平均厚さTが厚くなりすぎて分離層3の平均厚さtとの差が大きくなるため、気体分離膜1の変形時に多孔質層2の追従性が低下する。そうなると、分離層3に剥離や損傷等が生じるおそれがある。
【0039】
また、比T/tは、好ましくは1000以上9000以下であり、より好ましくは2000以上8000以下であり、さらに好ましくは3000以上7000以下である。
【0040】
2.気体分離膜の製造方法
次に、
図1に示す気体分離膜1の製造方法について説明する。
【0041】
まず、多孔質層2の一方の面に分離層3を形成する。分離層3の形成には、例えば、ゾルゲル法、塗布法、プラズマCVD法、プラズマ重合法、ALD(Atomic Layer Deposition)法等が挙げられる。このうち、塗布法としては、例えば、浸漬法、滴下法、インクジェット法、ディスペンサー法、噴霧法、スクリーン印刷法、コーター塗布法、スピンコート法等が挙げられる。
【0042】
このうち、分離層3の構成材料がオルガノポリシロキサンである場合、プラズマ重合法が好ましく用いられる。プラズマ重合法によれば、多孔質層2の清浄化および活性化を図りつつ、オルガノポリシロキサンを堆積させることができる。これにより、形成される分離層3は、多孔質層2に対してより強固に密着したものとなる。また、プラズマ重合法は、気相成膜法の一種であるため、堆積される分子の一部が多孔質層2の空孔23の内壁にも付着する。これにより、分離層3の密着性をより高めることができる。さらに、プラズマ重合法で成膜された膜(プラズマ重合膜)は、緻密化が図られているため、貫通孔(欠陥)が少ない分離層3を形成できる。なお、プラズマ重合法の場合、例えば成膜時間を調整することにより、平均厚さtを制御することができる。
【0043】
プラズマ重合法に用いる原料ガスとしては、例えば、メチルシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、メチルフェニルシロキサンのようなオルガノシロキサン等が挙げられる。
【0044】
プラズマ重合法に用いるチャンバー内の圧力は、133.3×10-5Pa以上1333Pa以下(1×10-5Torr以上10Torr以下)程度であるのが好ましい。
【0045】
プラズマ重合法に供される多孔質層2の温度は、25℃以上100℃以下程度であるのが好ましく、成膜時間は、1分以上10分以下程度であるのが好ましい。
【0046】
また、分離層3の構成材料がオルガノポリシロキサンである場合、以下のような塗布法でも分離層3を形成できる。塗布法では、例えば、硬化反応前のオルガノポリシロキサンと、溶媒と、を混合してなる樹脂溶液を用いる。この樹脂溶液を多孔質層2の一方の面に塗布した後、硬化させる。これにより、分離層3が得られる。
【0047】
3.変形例
次に、実施形態の変形例に係る気体分離膜1について説明する。
図2は、実施形態の変形例に係る気体分離膜1を模式的に示す断面図である。
【0048】
以下、実施形態の変形例について説明するが、以下の説明では、前記実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。なお、
図2において、
図1と同様の事項については同一の符号を付している。
【0049】
図2に示す気体分離膜1は、多孔質層2と分離層3との間に設けられた中間層4を有すること以外、
図1に示す気体分離膜1と同様である。
【0050】
中間層4は、多孔質層2の上流側の面に成膜されているため、多孔質層2の多孔性を受け継ぎ、空孔43を有する。このため、中間層4は、多孔質層2と分離層3との密着を介在して大きな密着力を得るとともに、多孔質層2の空孔23をほとんど塞ぐことなく、良好な気体透過性を有する。
【0051】
中間層4の構成材料は、オルガノポリシロキサンである。このオルガノポリシロキサンには、前述したものが用いられる。中間層4の構成材料は、分離層3の構成材料と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0052】
中間層4は、分離層3と化学的に結合している。化学的な結合には、水素結合や共有結合等が挙げられるが、特に共有結合であるのが好ましい。これにより、分離層3は、中間層4を介して多孔質層2により強固に密着する。その結果、気体分離膜1は、特に良好な機械的特性を有する。
【0053】
このような良好な機械的特性は、気体分離膜1の使用時の形態に自由度を与えることができる。例えば、気体分離膜1を湾曲させた状態や折り曲げた状態で使用する場合がある。気体分離膜1がこのような状態で使用されると、密着強度が低い場合、多孔質層2と分離層3との間に剥離が生じるおそれがある。
【0054】
これに対し、中間層4を介在させることで、密着強度を高めることができ、剥離等の発生を抑制できる。その結果、気体分離膜1は、湾曲させた状態や折り曲げた状態で使用しても、破損しにくくなる。折り曲げた状態では、例えば気体分離膜1を用いたモジュールの面積を大きくしなくても、気体分離膜1の表面積を大きくすることができる。よって、気体分離膜1を用いたモジュールの高密度化を図ることができる。
【0055】
中間層4の平均厚さは、特に限定されないが、1000nm以下であるのが好ましく、3nm以上500nm以下であるのがより好ましく、5nm以上300nm以下であるのがさらに好ましい。これにより、中間層4は、十分な密着力を有するものとなる。また、中間層4が厚くなりすぎることがなく、空孔43を伴った状態になるため、中間層4は、多孔質層2のように良好な気体透過性を有するものとなる。
【0056】
また、分離層3の平均厚さと中間層4の平均厚さの合計は、1500nm以下であるのが好ましく、50nm以上500nm以下であるのがより好ましく、100nm以上400nm以下であるのがさらに好ましい。これにより、分離層3は、中間層4を介して多孔質層2に強く密着するとともに、中間層4は、多孔質層2の良好な気体透過性を阻害しにくくなる。
【0057】
また、中間層4の平均厚さは、分離層3の平均厚さ以上であってもよいが、好ましくは分離層3より薄くなるように設定される。この場合、分離層3の平均厚さと中間層4の平均厚さとの差は、0nm超300nm以下であるのが好ましく、10nm以上150nm以下であるのがより好ましく、15nm以上100nm以下であるのがさらに好ましい。これにより、分離層3と中間層4の厚さのバランスが良好になり、膜厚の差が大きすぎることによる剥離等が生じにくくなるとともに、分離層3および中間層4がそれぞれの機能を良好に発揮できる。なお、この差は、分離層3の平均厚さから中間層4の平均厚さを引いたものである。
【0058】
次に、実施形態の変形例に係る気体分離膜の製造方法について説明する。
まず、多孔質層2の一方の面にオルガノポリシロキサンを成膜する。これにより、中間層4が得られる。
【0059】
オルガノポリシロキサンの成膜方法としては、例えば、ゾルゲル法、塗布法、プラズマCVD法、プラズマ重合法、ALD(Atomic Layer Deposition)法等が挙げられる。このうち、プラズマ重合法が好ましく用いられる。プラズマ重合法によれば、多孔質層2の清浄化および活性化を図りつつ、オルガノポリシロキサンを堆積させることができる。これにより、形成される中間層4は、多孔質層2に対してより強固に密着したものとなる。また、プラズマ重合法は、気相成膜法の一種であるため、堆積される分子の一部が多孔質層2の空孔23の内壁にも付着する。これにより、中間層4の密着性をより高めることができる。さらに、プラズマ重合法で成膜された膜(プラズマ重合膜)は、緻密化が図られているため、多孔質層2に対して分離層3をより強固に固定し得る中間層4となる。
【0060】
プラズマ重合法に用いる原料ガスとしては、例えば、メチルシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、メチルフェニルシロキサンのようなオルガノシロキサン等が挙げられる。
【0061】
プラズマ重合法に用いるチャンバー内の圧力は、133.3×10-5Pa以上1333Pa以下(1×10-5Torr以上10Torr以下)程度であるのが好ましい。
【0062】
プラズマ重合法に供される多孔質層2の温度は、25℃以上100℃以下程度であるのが好ましく、成膜時間は、1分以上10分以下程度であるのが好ましい。
【0063】
次に、犠牲層となるシートを用意し、その表面に分離層3を形成する。分離層3の形成方法は、前述した通りである。
【0064】
犠牲層の構成材料としては、例えば溶媒等に溶解する材料が挙げられる。犠牲層の構成材料としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ゼラチンのような水溶性樹脂、アクリル樹脂が挙げられる。このうち、水溶性樹脂は、水系溶剤に対して容易に溶解するため、犠牲層の構成材料として好適である。
【0065】
次に、中間層4に活性化処理を施す。活性化処理としては、例えば、中間層4にエネルギー線を照射する方法、中間層4を加熱する方法、中間層4をプラズマやコロナに曝す方法、中間層4をオゾンガスに曝す方法等が挙げられる。エネルギー線としては、例えば、赤外線、紫外線、可視光等が挙げられる。活性化処理を施すと、中間層4を構成するオルガノポリシロキサンが持つ有機基の一部が脱離する。有機基の脱離後、未結合手にH原子または水分が吸着することによって活性種が生じる。活性種としては、例えば、Si-H基、Si-OH基等が挙げられる。なお、活性化処理は、必要に応じて行えばよく、十分な活性種が存在している場合には、省略してもよい。また、活性化処理によって中間層4を清浄化することができ、接合強度のさらなる向上に寄与できる。
【0066】
同様に、分離層3にも活性化処理を施す。これにより、分離層3にも活性種が生じる。この活性化処理も、必要に応じて行えばよく、十分な活性種が存在している場合には、省略してもよい。
【0067】
次に、分離層3および中間層4の活性化処理を施した面同士を接触させる。そして、その状態でこれらを加圧する。これにより、活性化処理を施した面同士が接合される。この接合は、化学的結合に基づくものである。具体的には、面同士を接触させると、活性種同士の間には、例えば水素結合が生じる。次に、分離層3および中間層4を加圧すると、活性種同士の間で脱水縮重合が生じる。その結果、共有結合によって面同士が接合される。
【0068】
このような方法によれば、接合界面に介在物が存在しない。このため、接合界面で気体透過が阻害されることなく、良好な機械的特性、気体透過性および選択分離性を有する気体分離膜1が得られる。
【0069】
次に、犠牲層を除去する。これにより、気体分離膜1が得られる。犠牲層の除去は、例えば、犠牲層を水や有機溶剤等を含む溶媒に接触させることによって行う。これにより、犠牲層を溶解させて除去することができる。このような方法であれば、分離層3が薄くても、影響を与えることなく、犠牲層を除去することができる。このため、薄くても空孔率の低い分離層3を有する気体分離膜1を製造することができる。
【0070】
また、分離層3のうち、犠牲層が除去された面では、構成材料の清浄な面が露出する。この面では、構成材料が持つ二酸化炭素との親和性が十分に発揮される。このため、上記の方法で製造される気体分離膜1は、特に二酸化炭素の選択分離性に優れたものとなる。
【0071】
4.気体分離膜の用途
実施形態に係る気体分離膜1は、ガス分離回収、ガス分離精製等に用いることができる。例えば、水素、ヘリウム、一酸化炭素、二酸化炭素、硫化水素、酸素、窒素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物の他、メタン、エタンのような飽和炭化水素、プロピレンのような不飽和炭化水素、テトラフルオロエタンのようなパーフルオロ炭化水素等の気体成分を含有する混合ガスから二酸化炭素を効率よく分離するとき、気体分離膜1が用いられる。これにより、例えば大気に含まれる二酸化炭素を分離回収する技術(直接空気回収(DAC))や、メタンが主成分である原油随伴ガスや天然ガスから二酸化炭素を分離回収する技術において、気体分離膜1を効果的に用いることができる。
【0072】
5.前記実施形態が奏する効果
以上のように、前記実施形態に係る気体分離膜1は、多孔質層2と、分離層3と、を有し、二酸化炭素および非対象成分を含む混合ガスから二酸化炭素を分離する。分離層3は、多孔質層2の一方の面に密着し、高分子材料で構成される。分離層3の平均厚さをtとし、多孔質層2の平均空孔径をdとし、多孔質層2の平均厚さをTとするとき、tが、5nm以上500nm以下であり、比d/tが、2.0超100以下であり、比T/tが、100以上10000以下である。
【0073】
このような構成によれば、機械的特性に優れ、かつ、二酸化炭素のガス選択比と二酸化炭素の気体透過度とをいずれも良好に両立させ得る気体分離膜1が得られる。
【0074】
また、前記高分子材料は、オルガノポリシロキサンを含むことが好ましい。
このような構成によれば、二酸化炭素に対して良好な親和性を有する分離層3が得られる。このため、二酸化炭素に対して高いガス選択比を示す気体分離膜1が得られる。
【0075】
また、多孔質層2の平均空孔径dが、5nm以上1000nm以下であることが好ましい。
【0076】
このような構成によれば、多孔質層2の二酸化炭素の気体透過度を十分に確保しつつ、分離層3が多孔質層2の下流側に抜け出てしまうのを抑制することができる。
【0077】
また、多孔質層2の平均厚さTが、10μm以上500μm以下であることが好ましい。
【0078】
このような構成によれば、多孔質層2は、気体分離膜1を支持するのに必要かつ十分な剛性を有する。
【0079】
また、多孔質層2の構成材料は、高分子材料、セラミック材料または金属材料であってもよい。
【0080】
このような構成によれば、多孔質層2の構成材料の剛性が高いため、気体分離膜1の機械的特性を高められる。
【0081】
以上、本発明に係る気体分離膜について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0082】
例えば、本発明に係る気体分離膜は、前記実施形態の各部が同様の機能を有する構成物に置換されたものであってもよく、前記実施形態に任意の構成物が付加されたものであってもよい。
【実施例0083】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
6.気体分離膜の作製
6.1.サンプルNo.1
まず、アルミナ(Al2O3)で構成された多孔質層の一方の面に、プラズマ重合法により、オルガノポリシロキサンを成膜した。これにより、分離層を得た。なお、原料ガスには、オクタメチルトリシロキサンを用い、得られた分離層の構成材料は、オルガノポリシロキサンであった。また、多孔質層の空孔率は50%であった。気体分離膜の構成は、表1に示す通りである。
【0084】
6.2.サンプルNo.2~16
気体分離膜の構成を表1に示すように変更した以外は、サンプルNo.1の場合と同様にして気体分離膜を作製した。
【0085】
6.3.サンプルNo.17
気体分離膜の構成を表2に示すように変更した以外は、サンプルNo.1の場合と同様にして気体分離膜を作製した。サンプルNo.17の気体分離膜の作製方法は、以下の通りである。
【0086】
まず、アルミナで構成された多孔質層の一方の面に、プラズマ重合法により、オルガノポリシロキサンを成膜した。これにより、中間層を得た。なお、原料ガスには、オクタメチルトリシロキサンを用いた。
【0087】
次に、犠牲層としての水溶性フィルムの一方の面に、プラズマ重合法により、オルガノポリシロキサンを成膜した。これにより、分離層を得た。なお、原料ガスには、オクタメチルトリシロキサンを用いた。
【0088】
次に、中間層および分離層にそれぞれ紫外線を照射する活性化処理を施した。続いて、活性化処理を施した面同士が接触するように重ね合わせ、加熱しながら加圧した。これにより、気体分離膜を得た。
【0089】
6.4.サンプルNo.18、19
気体分離膜の構成を表2に示すように変更した以外は、サンプルNo.17の場合と同様にして気体分離膜を作製した。
【0090】
6.5.サンプルNo.20
気体分離膜の構成を表3に示すように変更した以外は、サンプルNo.1の場合と同様にして気体分離膜を作製した。サンプルNo.20の気体分離膜の作製方法は、以下の通りである。
【0091】
まず、ポリ乳酸(PLA)を含むO/W型エマルションを調製した。次に、このO/W型エマルションと、グリセリンと、トリエチレングリコールモノブチルエーテルと、2-ピロリドンと、を混合し、インクを調製した。
【0092】
次に、調製したインクを用い、インクジェット法により、インクジェット被膜を形成した。これにより、分離層を得た。
【0093】
6.6.サンプルNo.21、22
気体分離膜の構成を表3に示すように変更した以外は、サンプルNo.20の場合と同様にして気体分離膜を作製した。
【0094】
なお、表1ないし表3では、本発明に相当する気体分離膜を「実施例」とし、本発明に相当しない気体分離膜を「比較例」としている。また、表1および表2において、「p-OPS」は、プラズマ重合法により生成されたオルガノポリシロキサンを指し、「a-OPS」は、塗布法により成膜されたポリジメチルシロキサン末端アミノを指し、「ph-OPS」は、塗布法により成膜されたポリジメチルシロキサン末端フェニルを指す。
【0095】
7.気体分離膜の評価
各実施例および各比較例の気体分離膜について、以下のような評価を行った。
【0096】
7.1.分離層の被覆率
各実施例および各比較例の気体分離膜について、分離層の断面を電子顕微鏡で観察し、欠陥の面積を算出した。そして、観察領域の面積に対する欠陥のない領域の面積を「分離層の被覆率」として算出した。算出結果を表1ないし表3に示す。
【0097】
7.2.二酸化炭素の気体透過度およびガス選択比
各実施例および各比較例の気体分離膜を直径5cmの円形に切り取り、試験サンプルを作製した。次に、ガス透過率測定装置を用い、二酸化炭素:窒素が体積比13:87で混合されてなる混合気体を試験サンプルの上流側に供給した。なお、上流側の全圧が5MPa、二酸化炭素の分圧が0.65MPa、流量が500mL/min、温度が40℃となるように調整した。そして、試験サンプルを透過してきた気体成分をガスクロマトグラフィーにより分析した。
【0098】
次に、分析結果から、気体分離膜の二酸化炭素の気体透過度RCO2および窒素の気体透過度RN2を求めるとともに、窒素に対する二酸化炭素のガス選択比RCO2/RN2を算出した。算出結果を表1ないし表3に示す。
【0099】
7.3.機械的特性
7.3.1.自立性
各実施例および各比較例の気体分離膜について、7.2で作製した試験サンプルの端を治具で挟み、挟んだ部分が水平になるように固定した。
次に、試験サンプルが垂れ下がる距離を計測した。具体的には、試験サンプルのうち、最も下に位置する部位と治具との鉛直方向の距離を計測した。そして、計測した距離を以下の評価基準に照らして評価した。なお、以下の評価基準では、サンプルNo.13の試験サンプルについて計測された距離を「基準値」としている。評価結果を表1ないし表3に示す。
【0100】
A:垂れ下がる距離が小さい(基準値の半分未満)
B:垂れ下がる距離がやや小さい(基準値の半分以上基準値未満)
C:垂れ下がる距離が大きい(基準値以上)
【0101】
7.3.2.耐折性
各実施例および各比較例の気体分離膜について、蛇腹状に折り曲げた後、折り曲げた気体分離膜を延ばした。そして、この操作を10回繰り返した後、気体分離膜を直径5cmの円形に切り取り、試験サンプルを作製した。
【0102】
次に、試験サンプルについて、7.2と同様の方法により、ガス選択比RCO2/RN2を算出した。そして、折り曲げ試験を行う前のガス選択比RCO2/RN2と、折り曲げ試験を行った後のガス選択比RCO2/RN2と、の差を、ガス選択比RCO2/RN2の低下幅として算出した。この低下幅は、折り曲げ試験によってガス選択比RCO2/RN2が悪化した程度を定量的に表す指標となる。算出した低下幅を以下の評価基準に照らして、気体分離膜の機械的特性を相対評価した。評価結果を表1ないし表3に示す。
【0103】
A:ガス選択比RCO2/RN2の低下幅が小さい(3未満)
B:ガス選択比RCO2/RN2の低下幅が中程度(3以上6未満)
C:ガス選択比RCO2/RN2の低下幅が大きい(6以上)
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
表1ないし表3から明らかなように、実施例の気体分離膜は、比較例の気体分離膜に比べて、機械的特性に優れるとともに、二酸化炭素の良好なガス選択比と二酸化炭素の良好な気体透過度との両立が図られていることが認められた。
また、分離層と多孔質層との間に中間層が介在している場合、機械的特性を特に高められることがわかった。