IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝電機サービス株式会社の特許一覧 ▶ 東芝エネルギーシステムズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-電力変換器制御装置 図1
  • 特開-電力変換器制御装置 図2
  • 特開-電力変換器制御装置 図3
  • 特開-電力変換器制御装置 図4
  • 特開-電力変換器制御装置 図5
  • 特開-電力変換器制御装置 図6
  • 特開-電力変換器制御装置 図7
  • 特開-電力変換器制御装置 図8
  • 特開-電力変換器制御装置 図9
  • 特開-電力変換器制御装置 図10
  • 特開-電力変換器制御装置 図11
  • 特開-電力変換器制御装置 図12
  • 特開-電力変換器制御装置 図13
  • 特開-電力変換器制御装置 図14
  • 特開-電力変換器制御装置 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170948
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】電力変換器制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/12 20060101AFI20241204BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20241204BHJP
【FI】
H02M7/12 601D
H02M7/48 M
H02M7/12 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087739
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】児山 裕史
(72)【発明者】
【氏名】新井 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】金田 大成
【テーマコード(参考)】
5H006
5H770
【Fターム(参考)】
5H006CA01
5H006CB01
5H006CB08
5H006CC02
5H006DB01
5H006FA00
5H770BA11
5H770DA03
5H770DA33
5H770JA17Y
5H770LA00X
5H770LB07
(57)【要約】

【課題】 電力変換器を安全に停止する電力変換器制御装置を提供する。
【解決手段】 実施形態による電力変換器制御装置は、直流負荷の正極と負極との間に接続されたコンデンサCP、CNと、正極と負極との間に接続されるとともに逆並列ダイオードを含む複数の自己消弧型素子S1U-S4Wを含み、複数の自己消弧型素子間の1か所NPにおいて交流端子U、V、Wと電気的に接続される電力変換相10U、10V、10Wを少なくとも2相と、を備えた電力変換器1の制御装置CTRであって、交流端子U、V、W間において、コンデンサCP、CNを介さない短絡経路を形成した後に、電力変換器1を停止させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流負荷の正極と負極との間に接続されたコンデンサと、
前記正極と前記負極との間に接続されるとともに逆並列ダイオードを含む複数の自己消弧型素子を含み、複数の前記自己消弧型素子間の1か所において交流端子と電気的に接続される電力変換相を少なくとも2相と、を備えた電力変換器の制御装置であって、
前記交流端子間において、前記コンデンサを介さない短絡経路を形成した後に、前記電力変換器を停止させる、電力変換器制御装置。
【請求項2】
前記電力変換器は、各相の前記交流端子間に前記短絡経路を形成する線間短絡回路を更に備え、
前記線間短絡回路により交流端子間に前記短絡経路を形成するとともに、全ての前記自己消弧型素子をターンオフした後に、前記電力変換器を停止させる、請求項1記載の電力変換器制御装置。
【請求項3】
前記コンデンサは、直列に接続された第1直流コンデンサおよび第2直流コンデンサを備え、
前記電力変換相は、前記第1直流コンデンサと並列に接続された第1自己消弧型素子と、前記第2直流コンデンサと並列に接続された第4自己消弧型素子と、前記第1自己消弧型素子の低電位側端と前記交流端子との間に接続された第2自己消弧型素子と、前記第4自己消弧型素子の高電位側端と前記交流端子との間に接続された第3自己消弧型素子と、前記第1直流コンデンサと前記第2直流コンデンサとの間の中性点から前記第1自己消弧型素子の低電位側端へ向かう方向を順方向として接続された第1クランプダイオードと、前記第4自己消弧型素子の高電位側端から前記中性点へ向かう方向を順方向として接続された第2クランプダイオードと、を備え、
複数の前記電力変換相の前記第1自己消弧型素子および前記第4自己消弧型素子をターンオフし、前記第2自己消弧型素子および前記第3自己消弧型素子をターンオンして前記短絡経路を形成した後に、前記電力変換器を停止させる、請求項1記載の電力変換器制御装置。
【請求項4】
複数の前記自己消弧型素子の故障情報を取得する故障情報取得部を備え、
前記故障情報取得部が、前記電力変換相において、前記第1直流コンデンサ又は前記第2直流コンデンサと並列に接続された前記自己消弧型素子と、前記交流端子と接続された全ての前記自己消弧型素子との短絡故障の情報を取得する第1故障条件が満たされたときに、前記短絡経路を形成した後に前記電力変換器を停止させる、請求項3記載の電力変換器制御装置。
【請求項5】
複数の前記自己消弧型素子の故障情報を取得する故障情報取得部と、前記第1直流コンデンサおよび前記第2直流コンデンサの電圧値を検出する電圧検出部と、前記第1直流コンデンサの電圧値および前記第2直流コンデンサの電圧値と直流電圧閾値とを比較する電圧比較部と、を備え、
前記故障情報取得部が、前記電力変換相において、前記第1直流コンデンサと並列に接続された前記自己消弧型素子の短絡故障の情報と、短絡故障した当該自己消弧型素子と接続された前記自己消弧型素子の短絡故障の情報とを取得するとともに、前記第1直流コンデンサの電圧値が直流電圧閾値を下回る第2故障条件、又は、前記故障情報取得部が、前記電力変換相において、前記第2直流コンデンサと並列に接続された前記自己消弧型素子の短絡故障の情報と、短絡故障した当該自己消弧型素子と接続された前記自己消弧型素子の短絡故障の情報とを取得するとともに、前記第2直流コンデンサの電圧値が直流電圧閾値を下回る第3故障条件が満たされたときに、前記短絡経路を形成した後に前記電力変換器を停止させる、請求項3記載の電力変換器制御装置。
【請求項6】
前記正極と前記中性点との間の第1直流電圧と、前記中性点と前記負極との間の第2直流電圧との値を検出する電圧検出部と、
前記第1直流電圧および前記第2直流電圧の値各々と、対応する直流電圧閾値とを比較する電圧比較部と、を有し、
前記第1直流電圧の値と前記第2直流電圧の値との少なくとも一方が対応する前記直流電圧閾値を下回るときに、
前記直流電圧閾値を下回った直流電圧検出点と並列に接続されるすべての前記電力変換相の前記自己消弧型素子である外側素子と、前記外側素子と前記交流端子との間に接続された前記自己消弧型素子である内側素子とをターンオンし、他の前記自己消弧型素子をターンオフさせて、前記短絡経路を形成した後に前記電力変換器を停止させる、請求項3記載の電力変換器制御装置。
【請求項7】
前記第1直流コンデンサ又は前記第2直流コンデンサと並列に接続される全ての前記自己消弧型素子をターンオンし、他の前記自己消弧型素子をターンオフさせて、前記短絡経路を形成した後に前記電力変換器を停止させる、請求項3記載の電力変換器制御装置。
【請求項8】
前記電力変換相は、前記正極と前記負極との間に直列に接続された高電位側の自己消弧型素子および低電位側の自己消弧型素子を備え、
前記高電位側の自己消弧型素子および前記低電位側の自己消弧型素子の故障情報を取得する故障情報取得部を備え、前記高電位側の自己消弧型素子の短絡故障の情報を取得したときに、複数の前記電力変換相の前記高電位側の自己消弧型素子をターンオンし、前記低電位側の自己消弧型素子をターンオフして前記短絡経路を形成した後に、前記電力変換器を停止させ、前記低電位側の自己消弧型素子の短絡故障の情報を取得したときに、複数の前記電力変換相の前記低電位側の自己消弧型素子をターンオンし、前記高電位側の自己消弧型素子をターンオフして前記短絡経路を形成した後に、前記電力変換器を停止させる、請求項1記載の電力変換器制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力変換器制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業機器をはじめ、輸送機器や電力機器等の様々な分野で電力変換器の応用が提案されている。例えば、電力変換器を構成する半導体素子が故障した場合、電力変換器が搭載されたシステム全体に影響が及び、システムの信頼性に影響を与える可能性があった。
【0003】
例えば、電力変換器が搭載されたシステムにおいて系統事故が発生したとき、電力変換器の出力電流にゼロクロス点が発生しない、若しくは、ゼロクロス点の遅延が発生するゼロミス現象となり、交流遮断器の開放が困難になる場合があった。交流遮断器が開放されないと、電力変換器が正常に動作しないまま負荷に接続された状態となり、故障範囲や事故範囲が拡大する可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-161016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、例えば三相電力変換器において一つの相の半導体素子が短絡故障した場合、変換器停止後に、故障した相を含む線間電圧に意図しない直流電圧が発生し、電力変換器に接続された変圧器やリアクトルを偏磁させることがあった。変圧器やリアクトルの偏磁が起きると、交流電流に直流電流が重畳し、ゼロクロスが発生しない、もしくは、ゼロクロスの発生が遅延するゼロミス現象が引き起こされ、交流遮断器開放が困難となり、事故範囲や故障範囲が拡大する恐れがあった。このような事故範囲や故障範囲の拡大を回避するために、電力変換器を安全に停止できる技術が求められている。
【0006】
本発明の実施形態は上記事情を鑑みて成されたものであって、電力変換器を安全に停止する電力変換器制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態による電力変換器制御装置は、直流負荷の正極と負極との間に接続されたコンデンサと、前記正極と前記負極との間に接続されるとともに逆並列ダイオードを含む複数の自己消弧型素子を含み、複数の前記自己消弧型素子間の1か所において交流端子と電気的に接続される電力変換相を少なくとも2相と、を備えた電力変換器の制御装置であって、前記交流端子間において、前記コンデンサを介さない短絡経路を形成した後に、前記電力変換器を停止させる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1実施形態の電力変換器制御装置を含む電力変換装置の一構成例を概略的に示す図である。
図2図2は、図1に示す電力変換装置における交流系統からの電流の経路の一例を示す図である。
図3図3は、図1に示す電力変換装置における交流系統からの電流の経路の一例を示す図である。
図4図4は、図1に示す電力変換装置における交流系統からの電流の経路の一例を示す図である。
図5図5は、図1に示す電力変換装置の等価回路を示す図である。
図6図6は、図1に示す電力変換器の一部の自己消弧型素子が短絡故障した場合の、電圧波形と電流波形との一例を示す図である。
図7図7は、電力変換器が連系する交流電源から、W相交流端子WとV相交流端子との間に流入する電流の電流経路と、W相-V相間に発生する電圧との一例を示す図である。
図8図8は、図1に示す電力変換器の一部の自己消弧型素子が短絡故障した場合の、電圧波形と電流波形との他の例を示す図である。
図9図9は、第2実施形態の電力変換器制御装置を含む電力変換装置の一構成例を概略的に示す図である。
図10図10は、第3実施形態の電力変換器制御装置の動作の一例について説明するための図である。
図11図11は、第4実施形態の電力変換器制御装置を含む電力変換装置の一構成例を概略的に示す図である。
図12図12は、第6実施形態の電力変換器制御装置を含む電力変換装置の一構成例を概略的に示す図である。
図13図13は、図12に示す線間短絡回路の一構成例を概略的に示す図である。
図14図14は、図12に示す線間短絡回路の一構成例を概略的に示す図である。
図15図15は、第7実施形態の電力変換器制御装置を含む電力変換装置の一構成例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、複数の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、第1実施形態の電力変換器制御装置を含む電力変換装置の一構成例を概略的に示す図である。
図1に示す電力変換装置は直流負荷と交流系統(交流負荷)との間に接続され、電力変換器1と、制御装置CTRと、を備えている。
【0010】
電力変換器1は、例えば三相の中性点クランプ(NPC)3レベル電力変換器であって、直流負荷の正極と負極との間に接続された第1直流コンデンサCPおよび第2直流コンデンサCNと、直流負荷の正極と負極との間に接続されたU、V、W各相の電力変換相10U、10V、10Wと、を備えている。電力変換相10U、10V、10Wの各々の交流端は、連系リアクトル2および交流遮断器3を介して交流系統に接続されている。
【0011】
U相の電力変換相10Uは、第1乃至第4自己消弧型素子S1U-S4Uと、第1クランプダイオードCDPUと、第2クランプダイオードCDNUとを備えている。第1乃至第4自己消弧型素子S1U-S4Uは、例えばFETやIGBTを適用することができる。第1乃至第4自己消弧型素子S1U-S4Uのそれぞれには、ダイオードが逆並列に接続されている。
【0012】
第1乃至第4自己消弧型素子S1U-S4Uは、直流負荷の正極と負極との間に接続されている。本実施形態では、正極に第1自己消弧型素子S1Uの高電位側端(IGBTのコレクタ若しくはFETのドレイン)が接続され、負極に第4自己消弧型素子S4Uの低電位側端(IGBTのエミッタ若しくはFETのソース)が接続されている。U相の電力変換相は、第2自己消弧型素子S2Uと第3自己消弧型素子S3Uとの間においてU相交流端と電気的に接続されている。
【0013】
なお以下の説明において、正極に接続された第1自己消弧型素子S1Uと負極に接続された第4自己消弧型素子S4Uとを外側素子と称し、U相交流端と接続された第2自己消弧型素子S2Uおよび第3自己消弧型素子S3Uとを内側素子と称することがある。
【0014】
第1クランプダイオードCDPUは、第1直流コンデンサCPと第2直流コンデンサCNとの間の接続点(中性点)NPにアノードが接続され、第1自己消弧型素子S1Uの低電位側端にカソードが接続されている。
第2クランプダイオードCDNUは、中性点NPにカソードが接続され、第4自己消弧型素子の高電位側端にアノードが接続されている。
【0015】
V相電力変換相10VとW相電力変換相10WとはU相電力変換相10Uと同様の構成であるので、以下のV相電力変換相10VとW相電力変換相10Wの説明において、U相電力変換相10Uの各構成と対応する符号を付して詳細な説明は省略する。
【0016】
電力変換器1の交流端と交流系統との間には、交流遮断器3と連系リアクトル2とが接続され、交流遮断器3により交流ラインを遮断することにより電力変換器1の交流端を交流系統から電気的に切り離すことができる。なお、連系リアクトル2は変圧器であってもよい。
【0017】
制御装置CTRは、例えば、少なくとも一つのプロセッサと、プロセッサにより実行されるプログラムが記録されたメモリと、を備えた演算装置である。制御装置CTRは、ソフトウエアにより、若しくは、ソフトウエアとハードウエアとの組み合わせにより以下に説明する種々の機能を実現することができる。
【0018】
制御装置CTRは、外部(例えば上位制御装置)から入力される電力変換器1の出力指令に基づいて自己消弧型素子のオンオフを切り替える駆動信号を生成し、電力変換器1の各相変換器の動作を制御する。制御装置CTRは上位制御装置と通信可能に接続され、例えば電力変換器1の故障情報を取得した際に上位制御装置へ電力変換器1の故障情報を供給することができる。
【0019】
次に、図1に示す電力変換装置において電力変換器1を停止する際の動作の一例について説明する。
ここでは、一例として、W相の第2自己消弧型素子S2W、第3自己消弧型素子S3Wおよび第4自己消弧型素子S4Wが短絡故障した場合に、電力変換器1を停止する動作について説明する。
【0020】
図2乃至図4は、図1に示す電力変換装置における交流系統からの電流の経路の一例を示す図である。
ここでは、電圧形電力変換器において、回路停止時はすべての自己消弧型素子を消弧する(オフする)停止方法(ゲートブロック)を行う。そのため、素子故障に伴う変換器異常による停止状態を想定し、故障素子以外の自己消弧型素子は消弧状態とする。なお、以下の説明において、素子通過に伴う電圧降下は考慮しないこととする。
【0021】
図2は、電力変換器1が連系する交流電源からU相交流端子とV相交流端子との間に流入する電流の電流経路と、そのときにU相-V相間に発生する電圧と、を示している。
まず、V相交流端子電圧と比較してU相交流端子電圧が大きく、かつ、交流電源電圧が電力変換器1の直流電圧を上回る場合、電流は、U相交流端子から、U相正極側内側素子(第2自己消弧型素子S2U)およびU相正極側外側素子(第1自己消弧型素子S1U)の逆並列ダイオード、正極側直流コンデンサCPを介して、W相の3つの短絡故障素子S2W、S3W、S4Wを通過し、V相負極側外側素子(第4自己消弧型素子S4V)の逆並列ダイオード、V相負極側内側素子(第3自己消弧型素子S3V)の逆並列ダイオードを介して、V相交流端子へ流れる。このとき、U相交流端子UとV相交流端子との間の電圧は、正極側直流コンデンサCPの電圧VDCとなる。
【0022】
次に、U相交流端子電圧と比較しV相交流端子電圧が大きく、かつ、V相-U相間に印可される交流電源電圧が電力変換器1の直流電圧を上回る場合、電流は、V相交流端子から、V相正極側内側素子(第2自己消弧型素子S2V)およびV相正極側外側素子(第1自己消弧型素子S1V)の逆並列ダイオード、正極側直流コンデンサCPを介して、W相の3つの短絡故障素子S2W、S3W、S4Wを通過し、U相負極側外側素子(第4自己消弧型素子S4U)およびU相負極側内側素子(第3自己消弧型素子S3U)の逆並列ダイオードを介して、U相交流端子へ流れる。このとき、U相交流端子とV相交流端子との間の電圧は、正極側直流コンデンサCPの電圧を反転した-VDCとなる。
以上のように、故障素子を含まないU相-V相間の電圧は、交流系統から電力変換器1への電流流入に伴いVDC、-VDCとなり、正負で均等な振幅の電圧が発生する。
【0023】
次に、交流系統から故障素子を含むW相に電流が流入する場合について説明する。
図3は、電力変換器1が連系する交流電源からV相交流端子とW相交流端子との間に流入する電流の電流経路と、そのときにV相-W相間に発生する電圧と、を示している。
【0024】
まず、W相交流端子電圧と比較しV相交流端子電圧が大きく、かつ、V相-W相間に印可される交流電源電圧が電力変換器1の直流電圧を上回る場合、電流は、V相交流端子から、V相正極側内側素子(第2自己消弧型素子S2V)の逆並列ダイオードおよびV相正極側外側素子(第1自己消弧型素子S1V)の逆並列ダイオード、正極側直流コンデンサCPを介して、W相の正極側クランプダイオードCDPW、W相正極側内側素子(第2自己消弧型素子S2W)を通過し、W相交流端子へ流れる。このとき、V相交流端子とW相交流端子との間の電圧は、正極側の直流コンデンサCPの電圧VDCとなる。
【0025】
次に、V相交流端子電圧と比較しW相交流端子電圧が大きく、かつ、W相-V相間に印可される交流電源電圧が電力変換器1の直流電圧を上回る場合、電流は、W相交流端子から、W相負極側短絡故障素子(第3自己消弧型素子S3Wおよび第4自己消弧型素子S4W)を通過し、V相負極側外側素子(第4自己消弧型素子S4V)の逆並列ダイオード、V相負極側内側素子(第3自己消弧型素子S3V)の逆並列ダイオードを通過し、V相交流端子へ流れる。このとき、V相交流端子とW相交流端子との間の電流経路には、直流コンデンサが含まれずV相交流端子とW相交流端子との端子間電圧はゼロとなる。
以上のように、V相と故障素子を含むW相との間には、交流系統から電力変換器1への電流流入に伴い、VDCと、0との正負で非対称な電圧が発生する。
【0026】
次に、V相-W相間と同様に故障相のW相に交流系統から電流が流入する場合について検討する。
図4は、電力変換器1が連系する交流電源から、W相交流端子WとU相交流端子との間に流入する電流の電流経路と、そのときにW相-U相間に発生する電圧を示している。
【0027】
まず、U相交流端子電圧と比較しW相交流端子電圧が大きく、かつ、W相-U相間に印可される交流電源電圧が電力変換器1の直流電圧を上回る場合、電流は、W相交流端子から、W相負極側の外側および内側の短絡故障素子を通過し、U相負極側外側素子(第4自己消弧型素子S4U)の逆並列ダイオード、U相負極側内側素子(第3自己消弧型素子S3U)の逆並列ダイオードを通過し、U相交流端子へ流れる。このとき、W相交流端子とU相交流端子との間の電流経路には直流コンデンサが含まれず、W相交流端子とU相交流端子との端子間電圧はゼロとなる。
【0028】
次に、W相交流端子電圧と比較しU相交流端子電圧が大きく、かつ、U相-W相間に印可される交流電源電圧が電力変換器1の直流電圧を上回る場合、電流は、U相交流端子から、U相正極側内側素子(第2自己消弧型素子S2U)の逆並列ダイオード、U相正極側外側素子(第1自己消弧型素子S1U)の逆並列ダイオードおよび正極側直流コンデンサCPを介して、W相の正極側クランプダイオードCDPW、短絡故障しているW相正極側内側素子(第2自己消弧型素子S2W)を通過し、W相交流端子へ流れる。このとき、W相交流端子とU相交流端子との間の電圧は、正極側の直流コンデンサ電圧CPを反転した電圧-VDCとなる。
【0029】
上記のように、U相と故障素子を含むW相との間には、電力変換器1への電流流入に伴い、0と-VDCとの正負で非対称な電圧が発生する。このように、故障素子を含むW相には正負で非対称な電圧すなわち、直流電圧成分が重畳された電圧が交流端子に発生することが分かる。
【0030】
ここで、図1における電力変換器1のW相素子が図2図4のように短絡故障した場合の交流系統に流れる線電流について検討する。
図5は、図1に示す電力変換装置の等価回路を示す図である。
【0031】
交流系統の交流電源電圧をv、変換器交流端子間電圧をvとし、連系リアクトルもしくは変圧器短絡インピーダンスをLsと定義する。図5に示す等価回路は、交流電源電圧と変換器交流端子電圧とを電圧源に置き換え、それぞれの間に連系リアクトルを接続した構成である。この等価回路より、交流系統に流れる線電流i,i、iは、次の(1)式により表すことができる。
【0032】
【数1】
ここで、各相間の交流電源電圧vと変換器交流端子間電圧vとは、次の(2)、(3)式とする。なお、Vdc_biasは故障相のW相を含む変換器端子間電圧に発生する直流電圧成分である。
【0033】
【数2】
【0034】
【数3】
上記(2)、(3)式を(1)式に代入すると、各線電流は次の(4)式となる。
【0035】
【数4】
(4)式から、各相の線電流i,i、iにおいて、変換器交流端子間電圧に発生した直流電圧成分Vdc_biasにより、時間経過に比例して増加もしくは減少する成分が発生することがわかる。この成分は、各相の直流電流成分であり、時間経過とともに増加若しくは減少する。その結果、線電流i,i、iにゼロクロス点が現れないゼロミス現象状態に至り、交流遮断器を開放できずに事故が継続する可能性がある。
【0036】
図6は、図1に示す電力変換器の一部の自己消弧型素子が短絡故障した場合の、電圧波形と電流波形との一例を示す図である。なお、ここでは、故障素子以外の自己消弧型素子はすべてターンオフ状態とする。
【0037】
変換器交流端子間電圧vを見ると、故障相を含まないU相-V相間電圧は正負に電圧が振れているのに対して、V相と故障素子を含むW相との間の電圧は、正側にのみ電圧が生じ、W相とU相との間は負側にのみ電圧が発生していることが確認できる。また、交流線電流i,i、iは、(4)式同様に時間経過とともに直流成分が増加もしくは減少していることが確認できる。また、0.08s以降では、交流線電流iのゼロクロス点が消失しゼロミス状態であることが確認できる。
【0038】
以上のように、電力変換器1を構成する半導体素子(自己消弧型素子)が短絡故障に至ると、電力変換器1に接続する変圧器やリアクトルを偏磁させ、ゼロミス状態に至る可能性があることが分かる。
【0039】
そこで、本実施形態では、電力変換器1の一部の自己消弧型素子をターンオンした状態で、下記のように停止させる。すなわち、制御装置CTRは、電力変換器1の全ての内側素子をターンオンした状態で、電力変換器1を停止させる。これにより、すべての交流端子間が内側素子により接続され、交流端子から流入する電流は、内側素子を介して他の交流端子へ流れる。そのため、交流端子間に直流コンデンサCP、CNを介した電流経路が発生せず、交流端子電圧はすべての相でゼロとなる。
【0040】
図7は、電力変換器が連系する交流電源から、W相交流端子WとV相交流端子との間に流入する電流の電流経路と、W相-V相間に発生する電圧との一例を示す図である。
一例として、W相の第2自己消弧型素子S2W、第3自己消弧型素子S3Wおよび第4自己消弧型素子S4Wが短絡故障した場合に、電力変換器1を停止する動作について説明する。本例では、電力変換器1の全ての内側素子がターンオンされ、他の自己消弧型素子はオフ状態である。
【0041】
まず、W相端子電圧よりもV相端子電圧が大きい場合について説明する。電流は、V相交流端子から、ターンオンされたV相の負極側内側素子(第3自己消弧型素子S3V)およびV相負極側クランプダイオードCDNVを介し、W相正極側クランプダイオードCDPWおよびW相正極側内側素子(第2自己消弧型素子S2W)を通過し、W相交流端子へ流れる。この電流経路には直流コンデンサが含まれないため、V相-W相端子間電圧はゼロとなる。
【0042】
次に、V相端子電圧よりもW相電圧が大きい場合について説明する。電流は、W相交流端子から、W相負極側内側素子(第3自己消弧型素子S3W)を通過し、W相負極側クランプダイオードCDNW、V相正極側クランプダイオードCDPV、V相正極側内側素子(第2自己消弧型素子S2V)を介して、V相交流端子へ流れる。この電流経路も直流コンデンサを介さないため、V相-W相端子間電圧はゼロとなる。
【0043】
V相-W相を例に説明したが、すべての内側自己消弧型素子をターンオンすることで、他の相の組み合わせも同様の動作となる。これにより、素子故障時においても電力変換器1の各交流端子間には直流電圧成分を発生させることなく、電力変換器1を停止できる。
【0044】
図8は、図1に示す電力変換器の一部の自己消弧型素子が短絡故障した場合の、電圧波形と電流波形との他の例を示す図である。なお、ここでは、図6に示す例と同様の条件において、各相の内側自己消弧型素子をターンオンし、他の自己消弧型素子をオフ状態にして電力変換器1を停止させた場合の電圧波形と電流波形とを示す。
【0045】
図8を参照すると、図6に示した例と異なり、変換器交流端子間には電圧が発生していない。これは、内側素子をターンオンすることで変換器交流端子間が相互に接続されるためである。変換器交流端子間電圧に直流成分が現れないため、交流線電流の直流成分は時間経過とともに増加(若しくは減少)せず、交流線電流のゼロクロス点は消失しない。
【0046】
以上のように、内側素子をターンオンした状態で電力変換器1を停止することで、素子故障時においてもゼロミス状態を回避できる。このことにより、交流遮断器3の開放が行われ、事故範囲や故障範囲が拡大することを回避できる。
すなわち、本実施形態によれば、電力変換器を安全に停止する電力変換器制御装置を提供することができる。
【0047】
次に、第2実施形態の電力変換器制御装置について説明する。
なお、以下の説明において上述の第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
図9は、第2実施形態の電力変換器制御装置を含む電力変換装置の一構成例を概略的に示す図である。
【0048】
本実施形態において、制御装置CTRは電力変換器1の故障情報を取得する故障情報取得部21を備え、電力変換器1の自己消弧型素子の故障情報に基づいて、電力変換器1を停止する際の自己消弧型素子の状態を切り替える。
【0049】
制御装置CTRの故障情報取得部21は、例えば、電力変換器1に取り付けられた種々のセンサから得られる情報を用いて、電力変換器1に含まれる構成の故障を判断する機能を備えていてもよい。制御装置CTRの故障情報取得部21は、例えば、電力変換器1の第1直流コンデンサCPの電圧と、第2直流コンデンサCNの電圧、各相の自己消弧型素子S1U-S4W各々の低電位側端と高電位側端との間に印加される電圧、自己消弧型素子S1U-S4W各々(若しくは各相変換器)に流れる電流、交流端子間電圧、各相の交流端に流れる電流(交流線電流)、自己消弧型素子S1U-S4Wの温度等、の少なくともいずれかを取得し、自己消弧型素子の故障を判断することができる。また、制御装置CTRの故障情報取得部21は、電力変換器1の故障を検出する他の装置や上位制御装置から電力変換器1の故障情報を取得してもよい。
【0050】
制御装置CTRは、電力変換器1の自己消弧型素子各々の故障情報に基づいて、電力変換器1を停止する際の自己消弧型素子の状態を制御することができる。
図2乃至図4のように、素子故障時に意図せず変換器交流端子間電圧に直流電圧成分が発生することを説明したが、この現象は、電力変換器1の任意の相の2つの内側素子と、正極側もしくは負極側の外側素子との、同一相内で少なくとも3つの自己消弧型素子が短絡故障した場合に発生する。
【0051】
そこで、本実施形態では、制御装置CTRは、いずれかの相の2つの内側素子と、当該2つの内側素子と同一相内の他の自己消弧型素子との故障(第1故障条件)を検知した場合、すべての相の2つの内側素子をターンオンし、他の自己消弧型素子をターンオフして電力変換器1を停止する。上記第1故障条件が満たされない場合には、制御装置CTRは、電力変換器1のすべての自己消弧型素子をターンオフして電力変換器1を停止する。
【0052】
このことにより、制御装置CTRは、必要に応じて電力変換器1の停止方法を選択することができ、電力変換器1の素子故障による事故範囲や故障範囲の拡大を回避することができる。
すなわち、本実施形態によれば、電力変換器を安全に停止する電力変換器制御装置を提供することができる。
【0053】
次に、第3実施形態の電力変換器制御装置について説明する。本実施形態の電力変換器制御装置は、第2実施形態の制御装置CTRの変形例である。
本実施形態において、制御装置CTRの故障情報取得部21が、同一の電力変換相において、一方の外側素子と、当該一方の外側素子と接続された内側素子との短絡故障の情報を取得したとき、制御装置CTRは、故障した外側素子と接続される他の外側素子と、当該他の外側素子と接続された内側素子とをターンオンし、他の全ての自己消弧型素子をターンオフした後に、電力変換器1を停止させる。
【0054】
図10は、第3実施形態の電力変換器制御装置の動作の一例について説明するための図である。
図10に示す例では、電力変換器1のW相の負極側外側素子(第4自己消弧型素子S4W)と、W相の二つの内側素子(第2自己消弧型素子S2Wおよび第3自己消弧型素子S3W)とが短絡故障した状態を想定している。このとき、制御装置CTRは、V相電力変換相10VおよびU相電力変換相10Uの第4自己消弧型素子S4U、S4Vおよび第3自己消弧型素子S3U、S3Vをターンオンし、その他の自己消弧型素子はすべてターンオフした後に、電力変換器1を停止する。
【0055】
この例において、W相交流端子電圧よりもV相交流端子電圧が大きい場合、電流は、V相交流端子から、ターンオンしたV相の負極側内側自己消弧型素子S3Vと、V相負極側外側自己消弧型素子S4Vを介し、W相の負極側外側素子S4Wと負極側内側素子S3Wを通過しW相交流端子へ流れる。この電流経路には直流コンデンサが含まれないため、V相とW相との交流端子間電圧はゼロとなる。
【0056】
次に、V相交流端子電圧よりもW相交流端子電圧が大きい場合、W相交流端子から電流が流入し、短絡故障したW相負極側内側素子(第3自己消弧型素子S3W)およびW相負極側外側素子(第4自己消弧型素子S4W)を通過し、ターンオンしたV相負極側外側素子(第4自己消弧型素子S4V)およびV相負極側内側素子(第3自己消弧型素子S3V)を介してV相交流端子へ流れる。この電流経路も直流コンデンサを介さないため、V相とW相との交流端子間電圧はゼロとなる。
【0057】
ここではV相-W相間の交流端子間電圧を例に説明したが、他の相の組み合わせについても同様の動作となる。これにより、素子故障時においても変換器の各交流端子間には直流電圧成分を発生させることなく変換器を停止できる。したがって、本実施形態の制御装置CTRによれば、電力変換器1の素子故障による事故範囲や故障範囲の拡大を回避することができる。
【0058】
すなわち、本実施形態によれば、電力変換器を安全に停止する電力変換器制御装置を提供することができる。なお、図10に示した例では、W相電力変換相10Wの第2自己消弧型素子S2Wが短絡故障してたが、本実施形態は少なくとも第3自己消弧型素子S3Wと第4自己消弧型素子S4Wとが短絡故障している場合に適用することが可能であり、第2自己消弧型素子S2Wが短絡故障していない場合でも上述の効果が得られる。
【0059】
次に、第4実施形態の電力変換器制御装置について説明する。
図11は、第4実施形態の電力変換器制御装置を含む電力変換装置の一構成例を概略的に示す図である。
本実施形態の電力変換器制御装置は、第2実施形態の変形例である。
第2実施形態では、制御装置CTRは、同一の電力変換相内で2つの内側素子と、いずれかの外側素子との計3つの自己消弧型素子が短絡故障する第1故障条件を検知して、電力変換器1の停止方法を切り替える方法について説明した。これは、当該3つの自己消弧型素子が短絡故障することで交流端子間電圧に意図せず直流電圧成分が発生する現象に至ることに起因する。
【0060】
上記第1故障条件と異なる条件においても、電力変換器1の交流端子間電圧に直流電圧成分が発生する現象が起こり得る。例えば、正極側と負極側とのいずれかの内側素子が短絡故障し、更に、故障した自己消弧型素子と隣接する外側素子が短絡故障した第2故障条件および第3故障条件のいずれかが満たされた場合である。
【0061】
図3を用いて第3故障条件が満たされた際の電力変換器1における電流経路の一例について説明する。例えば、V相交流端子電圧よりW相交流端子電圧が大きい場合の電流経路は、W相の短絡故障した負極側内側素子(第3自己消弧型素子S3W)と、同様に短絡故障した負極側外側素子(第4自己消弧型素子S4W)と、を介する。以上のケースのように、片極側(負極側)の内側素子と、当該内側素子に隣接する外側素子とが短絡故障した場合においても同様の電流経路が形成され、交流端子間に直流電圧が発生する可能性がある。ただし、上記の素子故障条件に加えて、故障した内側素子および外側素子と並列に接続される直流コンデンサ(上記例における負極側の直流コンデンサCN)の電圧が一定値(直流電圧閾値)を下回るまで放電されているとき(第3故障条件が満たされているとき)に、交流端子間に直流電圧が発生する。
【0062】
同様に、正極側の内側素子と、当該正極側の内側素子に隣接する外側素子とが短絡故障した素子故障条件に加えて、故障した内側素子および外側素子と並列に接続される直流コンデンサ(正極側の直流コンデンサCP)の電圧が一定値(直流電圧閾値)を下回るまで放電されているとき(第2故障条件が満たされているとき)に、交流端子間に直流電圧が発生する可能性がある。
【0063】
そこで、本実施形態では、同一相で1つ以上の内側素子が故障し、それに加えて、当該故障内側素子と隣接する外側素子の故障情報を取得した(若しくは故障が検知された)場合、かつ、故障素子と並列に接続される直流コンデンサ電圧検出値があらかじめ設定された直流電圧閾値を下回った場合(第2故障条件と第3故障条件とのいずれかが満たされているとき)に、制御装置CTRは、すべての相の内側素子をターンオンし、他の自己消弧型素子をターンオフした後に、電力変換器1を停止する停止方法を選択する。上記条件が満たされないときには、制御装置CTRは、電力変換器1のすべての自己消弧型素子をターンオフした後に電力変換器1を停止する停止方法を選択する。
【0064】
このことにより、制御装置CTRは、必要に応じて電力変換器1の停止方法を選択することができ、電力変換器1の素子故障による事故範囲や故障範囲の拡大を回避することができる。
すなわち、本実施形態によれば、電力変換器を安全に停止する電力変換器制御装置を提供することができる。
【0065】
次に、第5実施形態の電力変換器制御装置について説明する。
本実施形態の電力変換器制御装置を含む電力変換装置は、図11に示す例において、制御装置CTRの故障情報取得部21を省略し、電圧検出部22および電圧比較部23で取り扱われる電圧値を変更したものである。
【0066】
すなわち、本実施形態では、制御装置CTRは、電力変換器1の正極と中性点NPとの間(直流電圧検出点)の電圧値(第1直流電圧値)と、負極と中性点NPとの間(直流電圧検出点)の電圧値(第2直流電圧値)とを検出する電圧検出部22と、電圧検出部により検出された電圧値と予め設定された直流電圧閾値とを比較する電圧比較部23と、を備えている。なお、制御装置CTRには、第1直流電圧値の閾値および第2直流電圧値の閾値が直流電圧閾値として予め設定され、電圧比較部23は第1直流電圧値および第2直流電圧値と、各々に対応する閾値とを比較する。また、第1直流電圧値は、第1直流コンデンサCPの電圧値であってもよい。同様に第2直流電圧値は、第2直流コンデンサCNの電圧値であってもよい。
【0067】
制御装置CTRは、電圧検出部22により検出された第1直流電圧値と第2直流電圧値とが、直流電圧閾値を下回ったときに、すべての電力変換相の内側素子をターンオンし、他の自己消弧型素子をターンオフした後に、電力変換器1を停止する停止方法を選択する。第1直流電圧値と第2直流電圧値とが直流電圧閾値以上であるときには、制御装置CTRは、電力変換器1のすべての自己消弧型素子をターンオフした後に電力変換器1を停止する停止方法を選択する。
【0068】
例えば、意図せず変換器交流端子間電圧に直流電圧成分が発生する現象は、任意の電力変換相において、2つの内側自己消弧型素子と、正極側もしくは負極側の外側自己消弧型素子との3つの自己消弧型素子が短絡故障した場合に発生する。上記3つの自己消弧型素子が短絡故障したとき、故障した外側自己消弧型素子側(負極側若しくは正極側)の直流コンデンサを通流する電流経路が発生する。
【0069】
図2を例に説明すると、故障素子を含むW相の中性点NPから短絡故障した二つの内側素子(第2自己消弧型素子S2W、第3自己消弧型素子S3W)および短絡故障した外側素子(第4自己消弧型素子S4W)を介して、負極へ通流する短絡経路が形成される。この短絡経路により、中性点NPと負極との間に接続された負極側の直流コンデンサCNの端子間が短絡され、負極側の直流コンデンサCNに充電された電荷は放電され、中性点NPと負極との間の直流電圧が低下する。
【0070】
例えば、2つの内側素子および正極側の外側素子が短絡故障した場合には、正極と中性点NPとの間に短絡経路が生じ、同様に、中性点NPと正極との間に接続された正極側の直流コンデンサCPの端子間が短絡され、正極側の直流コンデンサCPに充電された電荷は放電され、中性点NPと正極との間の直流電圧が低下する。
【0071】
以上のように、任意の電力変換相において、2つの内側素子といずれかの外側素子とが短絡故障した場合、第1直流電圧値の低下若しくは第2直流電圧値の低下が発生する。そこで、本実施形態では、制御装置CTRは、電圧検出部22により正極と中性点NPとの間の直流電圧検出値および中性点NPと負極との間の直流電圧検出値を取得し、いずれかの直流電圧検出値が直流電圧閾値を下回ったときに、すべての相の2つの内側素子をターンオンし、他の自己消弧型素子をターンオフして電力変換器1を停止する。第1直流電圧値と第2直流電圧値とが直流電圧閾値以上であるときには、制御装置CTRは、すべての自己消弧型素子をターンオフして電力変換器1を停止する停止方法を選択する。
【0072】
このことにより、制御装置CTRは、必要に応じて電力変換器1の停止方法を選択することができ、電力変換器1の素子故障による事故範囲や故障範囲の拡大を回避することができる。すなわち、本実施形態によれば、電力変換器を安全に停止する電力変換器制御装置を提供することができる。
【0073】
なお、本実施形態の電力変換器制御装置は、第4実施形態の電力変換器制御装置と組み合わせても構わない。その場合には、制御装置CTRは、任意の電力変換相において、2つの内側素子と、いずれかの外側素子とが短絡故障した場合、制御装置CTRは、第1直流電圧値の低下若しくは第2直流電圧値の低下が検出されたときに、直流電圧値の低下が検出された極側の外側素子と、当該外側素子に接続された内側素子とをターンオンし、他の全ての自己消弧型素子をターンオフした後に、電力変換器1を停止させてもよい。この場合であっても上述の第5実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0074】
次に、第6実施形態の電力変換器制御装置について説明する。
図12は、第6実施形態の電力変換器制御装置を含む電力変換装置の一構成例を概略的に示す図である。
本実施形態において、電力変換器1は、交流端子間を相互接続して短絡させる線間短絡回路4を備えている。
【0075】
図13及び図14は、図12に示す線間短絡回路の一構成例を概略的に示す図である。
線間短絡回路4は、例えば交流線間を接続する経路に設けられた機械スイッチを備えていてもよく、交流線間を接続する経路に設けられたトライアック等の半導体スイッチを用いた双方向スイッチを備えていてもよく、電力変換器1と同じ相数のダイオード整流器を備え、当該ダイオード整流器を電力変換器1の交流端子と並列に接続して構成されてもよい。線間短絡回路4のダイオード整流器は、直流回路に設けられたスイッチを備え、制御装置CTRは、ダイオード整流器のスイッチをオンすることにより電力変換器1の交流端子間を短絡することができる。
【0076】
制御装置CTRは、線間短絡回路4により電力変換器1の交流端子間に短絡経路を形成した後に、電力変換器1を停止させる。線間短絡回路4により電力変換器1の交流端子間に短絡経路が形成されると、交流系統から流れる電流が線間短絡回路4へ流れるため、電力変換器1に電流が流れることを回避することができる。その結果、素子故障時においても変換器の各交流端子間には直流電圧成分を発生させることなく変換器を停止できる。したがって、本実施形態の制御装置CTRによれば、電力変換器1の素子故障による事故範囲や故障範囲の拡大を回避することができる。
なお、制御回路CTRは、故障情報取得部21、電圧検出部22および電圧比較部23を備えていてもよく、上述の第2乃至第5実施形態の電力変換器制御装置において交流端子間に短絡経路を形成する条件が満たされたときに、線間短絡回路4により電力変換器1の交流端子間に短絡経路が形成してもよい。
すなわち、本実施形態によれば、電力変換器を安全に停止する電力変換器制御装置を提供することができる。
【0077】
次に、第7実施形態の電力変換器制御装置について説明する。
図15は、第7実施形態の電力変換器制御装置を含む電力変換装置の一構成例を概略的に示す図である。
本実施形態では、電力変換器1の構成が上述の第1乃至第6実施形態と相違している。本実施形態において、電力変換器1は、第1直流コンデンサCPと、第2直流コンデンサCNと、U相、V相、W相の電力変換相10U、10V、10Wと、を備えている。電力変換相10U、10V、10Wの各々は、上アームと下アームとを備え、上アームと下アームとの間において交流端子と電気的に接続されている。上アームと下アームとは、それぞれ、自己消弧型素子SUU-SLWと、自己消弧型素子SUU-SLWと逆並列に接続されたダイオードとを含む。なお、以下の説明では、上アームの自己消弧型素子を上側(高電位側)の自己消弧型素子と称し、下アームの自己消弧型素子を下側(低電位側)の自己消弧型素子と称する。
【0078】
制御装置CTRは、外部から供給された出力指令を用いて、電力変換器1の電力変換相10U、10V、10W各々の自己消弧型素子のオンとオフとを切り替える。電力変換相10U、10V、10の自己消弧型素子SUU-SLWの故障情報を取得する故障情報取得部(例えば図9に示す故障情報取得部21)を備えている。
上記電力変換器1において、例えば、電力変換相10Wの上側素子SUWが短絡故障したときに、電力変換相10Wの上側素子SUW以外の全ての自己消弧型素子をオフした状態で、電力変換器1が停止すると、W相交流端子から、電力変換相10Wの上側素子SUW、第1直流コンデンサCPおよび第2直流コンデンサCNを介して、U相交流端子およびV相交流端子へ電流が流れ、交流端子間に直流電圧が印加されることがある。
【0079】
上記のように交流端子間に直流電圧が印加されることを回避するために、本実施形態では、制御装置CTRは、短絡素子(例えば高電位側の自己消弧型素子SUU)を含む電力変換相(例えば電力変換相10U)以外の全ての電力変換相(例えば電力変換相10V、10W)の一方側(故障素子側)の自己消弧型素子(例えば高電位側の自己消弧型素子SUV、SUW)をオンし、他方の自己消弧型素子(例えば低電位側の自己消弧型素子SLU、SLV、SLW)をオフした状態で、電力変換器1を停止させる。このことにより、W相交流端子と他の交流端子との間に、第1直流コンデンサCPおよび第2直流コンデンサCNを介さない短絡経路を形成することができ、交流端子間に直流電圧が印加されることを回避することができる。
【0080】
また、上記電力変換器1において、例えば、電力変換相10Uの下側の自己消弧型素子が短絡故障したときに、制御装置CTRは、短絡素子以外の全ての電力変換相10U、10V、10Wの一方(下側)の自己消弧型素子をオンし、他方(上側)の自己消弧型素子をオフした状態で、電力変換器1を停止させる。このことにより、U相交流端子と他の交流端子との間において、第1直流コンデンサCPおよび第2直流コンデンサCNを介さない短絡経路を形成することができ、交流端子間に直流電圧が印加されることを回避することができる。
【0081】
なお、W相の上側とU相の下側との自己消弧型素子以外が短絡故障した場合も同様に、制御装置CTRが、短絡素子以外の全ての電力変換相10U、10V、10Wの一方の自己消弧型素子をオンし、他方の自己消弧型素子をオフした状態で、電力変換器1を停止させことにより、同様の効果を得ることができる。このことにより、素子故障時においても変換器の各交流端子間には直流電圧成分を発生させることなく変換器を停止できる。したがって、本実施形態の制御装置CTRによれば、電力変換器1の素子故障による事故範囲や故障範囲の拡大を回避することができる。
すなわち、本実施形態によれば、電力変換器を安全に停止する電力変換器制御装置を提供することができる。
【0082】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0083】
複数の実施形態に係る電力変換器制御装置を組み合わせても構わない。また、電力変換器1の構成は、上述の第1乃至第7実施形態における構成に限定されるものではない。例えば、電力変換相10U、10V、10W各々において、正極側の外側素子および内側素子、負極側の外側素子および内側素子は、それぞれ、直列に接続された複数の自己消弧型素子を備えていてもよい。また、上述の第7実施形態において、電力変換相10U、10V、10W各々において、上アームと下アームとは、それぞれ、直列に接続された複数の自己消弧型素子を備えていてもよい。いずれの場合であっても上述の第1乃至第7実施形態と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0084】
1…電力変換器、2…連系リアクトル、3…交流遮断器、4…線間短絡回路、10U…U相電力変換相、10U、10V、10W…電力変換相、21…故障情報取得部、22…電圧検出部、23…電圧比較部、CTR…制御装置、S1U-S4W…自己消弧型素子、CP、CN…直流コンデンサ、CDPU、CDPV、CDPW…正極側クランプダイオード(第1クランプダイオード)、CDNU、CDNV、CDNW…負極側クランプダイオード(第2クランプダイオード)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15