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特開2024-170953レーザ加工状態の判定方法及び判定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170953
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】レーザ加工状態の判定方法及び判定装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20241204BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20241204BHJP
【FI】
B23K26/00 P
B23K26/21 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087745
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(72)【発明者】
【氏名】藤原 和樹
(72)【発明者】
【氏名】船見 浩司
(72)【発明者】
【氏名】中井 出
(72)【発明者】
【氏名】白石 竜朗
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA02
4E168CA02
4E168CA03
4E168CA05
4E168CB03
4E168CB22
4E168DA02
4E168EA17
4E168FB03
(57)【要約】
【課題】ライン溶接における加工状態を詳細に判定し易くすることができる判定方法等を提供する。
【解決手段】判定方法は、被加工物へのレーザ光の照射により被加工物に形成される溶接部において発生する熱放射、可視光及び反射光の各成分の少なくとも1つについてレーザ光が走査される溶接期間に検出された成分の変化を示す信号を取得する工程と、取得した信号に基づき、溶接期間内の所定区間における信号波形の特徴量を算出する工程と、加工状態を判定する判定モデルに算出した特徴量を入力して、加工状態として、ライン溶接後の被加工物における溶接部の幅及び長さを含む溶接形状を判定する工程と、判定した溶接形状を判定結果として出力する工程とを含む。判定モデルは、溶接形状が変化する各条件でのライン溶接において検出された成分の特徴量と、各条件で溶接後の溶接形状とを関連付けて含む訓練データに基づいて機械学習により構築される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を被加工物上で走査するライン溶接における加工状態の判定方法であって、
前記被加工物へのレーザ光の照射により前記被加工物に形成される溶接部において発生する熱放射、可視光及び反射光の各成分のうち少なくとも1つを光センサで検出して生成され、レーザ光が走査される溶接期間に検出された成分の変化を示す信号を取得する工程と、
取得した前記信号に基づき、前記溶接期間内の所定の区間における信号波形の特徴量を算出する工程と、
前記加工状態を判定する判定モデルに算出した前記特徴量を入力して、前記加工状態として、前記ライン溶接後の前記被加工物における前記溶接部の幅及び長さを含む溶接形状を判定する工程と、
判定した前記溶接形状を判定結果として出力する工程と、を含み、
前記判定モデルは、前記溶接形状が変化する複数の条件における各条件での前記ライン溶接において検出された成分の前記信号波形の特徴量と、前記各条件で溶接後の前記溶接形状とを関連付けて含む訓練データに基づいて機械学習により構築される
判定方法。
【請求項2】
前記溶接形状は、前記溶接部の幅として、前記ライン溶接時の走査方向に垂直な方向の溶接幅と、前記溶接部の長さとして、前記走査方向に平行な方向の溶接長さとを含む
請求項1に記載の判定方法。
【請求項3】
前記所定の区間は、前記ライン溶接時にレーザ光がピーク出力において照射される期間に対応し、
前記特徴量は、前記所定の区間における前記信号の平均強度を含む
請求項1に記載の判定方法。
【請求項4】
前記所定の区間は、前記ライン溶接時にレーザ光がピーク出力において照射される期間に対応し、
前記特徴量は、前記所定の区間における前記信号の積分値を含む
請求項1に記載の判定方法。
【請求項5】
前記特徴量は、前記所定の区間内で前記信号の信号波形を近似する直線の傾きを含む
請求項1に記載の判定方法。
【請求項6】
前記訓練データに基づいて前記判定モデルが構築される前に、
前記複数の条件における各条件のもとで検出された前記成分の信号について、信号強度に対して設定される閾値により、前記所定の区間における、前記信号の強度が前記閾値を超える区間の割合を算出する工程と、
算出した割合と所定の割合との比較により、前記複数の条件から選択的に前記特徴量を算出して含めるように前記訓練データを生成する工程をさらに含む
請求項1に記載の判定方法。
【請求項7】
前記訓練データに基づいて前記判定モデルが構築される前に、
前記各条件のもとで溶接後の前記溶接部において測定された溶接幅及び溶接長さを取得する工程をさらに含み、
前記溶接幅は、前記溶接部における複数の位置で測定される
請求項2に記載の判定方法。
【請求項8】
前記各条件のもとで測定された溶接幅及び溶接長さを取得後、
前記複数の位置で測定された複数の溶接幅から、所定の数値範囲外の溶接幅を除外する工程と、
前記所定の数値範囲外の溶接幅を除外後の各溶接幅から、平均値、中央値または最頻値の統計値を算出して、算出した統計値から前記各溶接幅が変動する割合と、所定の割合との比較により、前記複数の条件から選択的に前記各溶接幅を含めるように前記訓練データを生成する工程をさらに含む
請求項7に記載の判定方法。
【請求項9】
レーザ光を被加工物上で走査するライン溶接における加工状態の判定装置であって、
演算回路と、通信回路とを備え、
前記演算回路は、
前記通信回路により、レーザ光の照射により前記被加工物に形成される溶接部において発生する熱放射、可視光及び反射光の各成分のうち少なくとも1つを光センサで検出して生成され、レーザ光が走査される溶接期間に検出された成分の変化を示す信号を取得し、
取得した前記信号に基づき、前記溶接期間内の所定の区間における信号波形の特徴量を算出し、
前記加工状態を判定する判定モデルに算出した前記特徴量を入力して、前記加工状態として、前記ライン溶接後の前記被加工物における前記溶接部の幅及び長さを含む溶接形状を判定し、
判定した前記溶接形状を判定結果として前記通信回路により出力し、
前記判定モデルは、前記溶接形状が変化する複数の条件における各条件での前記ライン溶接において検出された成分の前記信号波形の特徴量と、前記各条件で溶接後の前記溶接形状とを関連付けて含む訓練データに基づいて機械学習により構築される
判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ光を被加工物上で走査するライン溶接における加工状態の判定方法、及び判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、パルス状に発生するレーザ光をワークに照射して溶接を行うレーザ溶接に適用されてワークにおける溶接の良/不良等の溶接状態を判定する方法を開示している。特許文献1の方法は、レーザ溶接時にワークから放出されるプラズマ光および反射光の強度を検出し、レーザ光の1パルスに対応する1周期のうち予め設定した抽出区間の検出光強度に基づいて、パルス毎特徴値をレーザ光のパルス毎に抽出する。パルス毎特徴値としては、検出光強度の平均値、差分処理による変化量、および差分処理による振幅などが算出される。特許文献1の方法は、パルス毎特徴値の下限値または上限値と所定のしきい値とを比較し、ワーク毎の溶接状態として溶接欠陥の発生を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-153379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レーザ溶接において、レーザ光の照射時に、例えばレーザ光の照射方向における焦点の位置が被加工物(ワーク)の表面からずれるといった各種の要因により、溶接による被加工物の接合面積が低下して、接合不良を引き起こす場合がある。こうした場合、溶接品質に影響するため、溶接欠陥の発生に関する詳細な加工状態の把握が求められる。
【0005】
本開示は、レーザ光を被加工物上で走査するライン溶接における加工状態を詳細に判定し易くすることができる判定方法及び判定装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様によると、レーザ光を被加工物上で走査するにおける加工状態の判定方法が提供される。本方法は、被加工物へのレーザ光の照射により被加工物に形成される溶接部において発生する熱放射、可視光及び反射光の各成分のうち少なくとも1つを光センサで検出して生成され、レーザ光が走査される溶接期間に検出された成分の変化を示す信号を取得する工程と、取得した信号に基づき、溶接期間内の所定の区間における信号波形の特徴量を算出する工程と、加工状態を判定する判定モデルに算出した特徴量を入力して、加工状態として、ライン溶接後の被加工物における溶接部の幅及び長さを含む溶接形状を判定する工程と、判定した溶接形状を判定結果として出力する工程と、を含む。判定モデルは、溶接形状が変化する複数の条件における各条件でのライン溶接において検出された成分の信号波形の特徴量と、各条件で溶接後の溶接形状とを関連付けて含む訓練データに基づいて機械学習により構築される。
【0007】
本開示の一態様によると、レーザ光を被加工物上で走査するライン溶接おける加工状態の判定装置が提供される。判定装置は、演算回路と、通信回路とを備える。演算回路は、 通信回路により、レーザ光の照射により被加工物に形成される溶接部において発生する熱放射、可視光及び反射光の各成分のうち少なくとも1つを光センサで検出して生成され、レーザ光が走査される溶接期間に検出された成分の変化を示す信号を取得する。演算回路は、取得した信号に基づき、溶接期間内の所定の区間における信号波形の特徴量を算出する。演算回路は、加工状態を判定する判定モデルに算出した特徴量を入力して、加工状態として、ライン溶接後の被加工物における溶接部の幅及び長さを含む溶接形状を判定する。演算回路は、判定した溶接形状を判定結果として通信回路により出力する。判定モデルは、溶接形状が変化する複数の条件における各条件でのライン溶接において検出された成分の信号波形の特徴量と、各条件で溶接後の溶接形状とを関連付けて含む訓練データに基づいて機械学習により構築される。
【発明の効果】
【0008】
本開示における判定方法及び判定装置によると、溶接時に検出される光の成分を用いた溶接形状の判定により、ライン溶接における被加工物の加工状態を詳細に判定し易くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の実施形態1に係る判定システムの概要を示す図
図2】判定システムにおけるレーザ加工装置の構成を例示する図
図3】判定システムにおける分光装置の構成を例示する図
図4】判定システムにおける判定装置の構成を例示するブロック図
図5】判定装置における判定処理を例示するフローチャート
図6】判定装置において取得される信号を説明するための図
図7】ライン溶接時の信号と溶接形状との関係を説明するための図
図8】判定装置における判定モデルの訓練処理を例示するフローチャート
図9】判定モデルの訓練データを説明するための図
図10】溶接形状の溶接幅及び溶接長さを説明するための図
図11】判定装置における訓練データの生成処理を例示するフローチャート
図12】訓練データの生成処理における特徴量の生成処理を例示するフローチャート
図13】訓練データの生成処理における溶接幅及び溶接長さの選択処理を例示するフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、適宜図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者は、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題は限定されることはない。
【0011】
(実施形態1)
実施形態1では、本開示に係る判定方法及び判定装置を用いる一例として、ライン溶接のためのレーザ加工において発生する光の成分を検出し、検出した成分の時間変化に応じた信号に基づき、加工状態として溶接形状を判定する判定システムについて説明する。
【0012】
1.構成
実施形態1に係る判定システムについて、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る判定システム100の概要を示す図である。
1-1.システムの概要
【0013】
図1の判定システム100は、ライン溶接のためのレーザ加工を行うレーザ加工装置30と、光の成分を検出するための分光装置40と、判定装置50とを備える。レーザ加工装置30は、被加工物70上でレーザ光6を走査するライン溶接を行う。被加工物70は例えば金属からなり、図1の例では被加工物70として、2つの部材が重ね合わせて溶接される。
【0014】
被加工物70にレーザ光6が照射されると温度上昇による近赤外線領域の熱放射、及び主に可視光成分である金属固有の発光またはプラズマ発光が発生する。また、レーザ光6は加工に寄与しない一部が戻り光として反射する。このように、レーザ加工装置30からレーザ光6が被加工物70に照射されると、被加工物70に金属の溶融によって形成される溶融部27において、熱放射、可視光及び反射光が発生する。溶融部27は、被加工物70においてレーザ光6の照射により形成される溶接部の一例である。
【0015】
これらの発生した光は、レーザ加工装置30において集光され、レーザ加工装置30と分光装置40を接続する光ファイバ13を通して、分光装置40に伝送される。分光装置40に伝送された光は、熱放射、可視光及び反射光の各成分に分光され、分光装置40の光センサ22により検知されて、分光された各成分の時間変化を示す信号に変換される。判定装置50では、分光装置40から受信される信号に基づき、溶接後の被加工物70上でレーザ光6の走査の軌跡に対応した溶接後の溶融部27における、溶接幅及び溶接長さ(後述)といった溶接形状が判定され、判定結果が出力される。
【0016】
被加工物70の溶接において、接合不良等の原因究明のためには溶接形状といった加工状態の詳細な分析が求められる。一方、例えば原因究明のために溶接後の加工部分の断面観察等を行う場合、詳細の把握に時間がかかる。そこで、本システム100は、溶接時に発生する上述のような光の強度に応じた信号に基づき、加工状態として、溶接幅及び溶接長さの数値を含む溶接形状を判定する。これにより、例えば1回の溶接毎に得られる信号からインプロセスで定量的に溶接形状を判定でき、加工状態を詳細に判定し易くすることができる。
【0017】
また、例えば溶接形状の測定に、溶接後の溶融部27を撮影した画像を利用する場合、測定器としてカメラ等の設備及び運用が必要となる。本システム100によれば、溶接時に発生する光の信号を用いることで、例えば利用するデータ量を抑制しながら、溶接中の信号強度の変化等に応じて溶接形状が判定できる。さらに、発生する光の検出にはフォトディテクタ等の光センサがあればよく、例えば設備及び運用面でのコストを低減することができる。
【0018】
1-2.レーザ加工装置の構成
図2は、本実施形態のレーザ加工装置30の構成を例示する図である。レーザ加工装置30は、レーザ発振器1と、レーザ伝送用ファイバ2と、鏡筒3と、コリメートレンズ4と、集光レンズ5、11と、第1ミラー7と、第2ミラー8とを備える。
【0019】
レーザ発振器1は、例えば波長が約1070ナノメートル(nm)のパルス状のレーザ光6を発生するための光を供給する。レーザ発振器1から供給された光は、レーザ伝送用ファイバ2により伝送される間に増幅され、平行なビームを得るためのコリメートレンズ4を通り、レーザ光6を形成して、鏡筒3内を直進する。鏡筒3は、レーザ加工装置30における加工ヘッドを構成する。
【0020】
レーザ光6は、第1ミラー7において透過する一部を除いて反射し、集光レンズ5により集光されて、走査テーブル(図示せず)上に押さえ治具26で固定された被加工物70に照射される。これにより、被加工物70のライン溶接のためのレーザ加工が行われる。なお、レーザ光6の波長は特に1070nmに限らず、材料の吸収率が高い波長を用いることが好ましい。
【0021】
レーザ光6が照射されると、溶融部27において被加工物70からの熱放射、プラズマ発光による可視光、及びレーザ光6の反射光が発生する。これらの光の成分は、第1ミラー7を透過し、第2ミラー8で反射して、集光レンズ11により集光された後、光ファイバ13を通って分光装置40に伝送される。なお、第2ミラー8において一部透過する光をカメラあるいはセンサにより検知してもよい。
【0022】
例えば本実施形態のレーザ加工装置30は、さらに光センサ25を備え、第2ミラー8において一部透過する光を光センサ25で検出する。光センサ25は、検出した光の強度に応じた電気信号を生成する。生成された電気信号は、例えばレーザ加工装置30と分光装置40と接続する伝送ケーブル等を介して、後述する分光装置40のコントローラ24に送信されてもよい。光センサ25による透過光の検出位置として、例えばレーザ光6が被加工物70に到達する前の位置で検出することで、検出結果の信号強度とレーザ発振器1の出力との相関を精度良く取ることが出来るが、検出位置は特にこれに制限されない。
【0023】
1-3.分光装置の構成
図3は、本実施形態の分光装置40の構成を例示する図である。分光装置40は、筐体28の内部に、コリメートレンズ15と、第3ミラー16と、第4ミラー17と、第5ミラー18と、集光レンズ19、20、21と、光センサ22と、伝送ケーブル23と、コントローラ24とを備える。筐体28は、分光装置40の外部から雑光が内部に入ることを防ぎ、内部からの光漏れを防止する。
【0024】
コリメートレンズ15は、レーザ加工装置30から光ファイバ13を通して伝送された光を平行光に戻す。第3ミラー16は、例えば波長が400nm~700nmの可視光を透過し、それ以外の成分を反射する。第4ミラー17は、例えば波長が約1070nmのレーザ光6の反射光を反射し、それ以外の成分を透過する。第5ミラー18は、例えば波長が1300nm~1550nmの熱放射を反射する。
【0025】
コリメートレンズ15を通った光は、第3ミラー16、第4ミラー17、及び第5ミラー18により、可視光、反射光、及び熱放射の各成分に分光され、それぞれ集光レンズ19~21により集光される。なお、第3ミラー16、第4ミラー17、及び第5ミラー18の後の光路に、それぞれ任意の帯域通過フィルタを配置することで、通過させる波長を選択可能としてもよい。
【0026】
光センサ22は、例えば各々が異なる波長に高い感度を有する光センサ22a、22b、22cを備える。光センサ22a、22b、22cは、それぞれ各集光レンズ19~21により集光された可視光、反射光、及び熱放射の成分を検出して、検出した光の強度に応じた電気信号を生成する。なお、光センサ22は、波長ごとの強度を検出可能な1つの光センサにより構成されてもよい。
【0027】
光センサ22により生成された電気信号は、伝送ケーブル23を介してコントローラ24に伝送される。コントローラ24は、ハードウェアコントローラであり、分光装置40全体の動作を統括制御する。コントローラ24は、CPU及び通信回路等を含み、光センサ22から受けとった電気信号を、判定装置50に送信する。コントローラ24は、例えばA/D変換器を備えて、アナログの電気信号をデジタル信号(単に「信号」ともいう)に変換する。なお、デジタル信号に変換する際のサンプリング周期は、加工状態の判定において、加工プロセスの特徴及び物理量の局所的な値の傾向を捉えるために十分なサンプル数を確保する観点から、例えばレーザ光6の出力制御を行う時間の100分の1以下が好ましい。
【0028】
1-4.判定装置の構成
図4は、本実施形態の判定装置50の構成を例示するブロック図である。判定装置50は、例えばコンピュータのような情報処理装置で構成される。判定装置50は、演算の処理を行うCPU51と、他の機器と通信を行うための通信回路52と、データ及びコンピュータプログラムを記憶する記憶装置53とを備える。
【0029】
CPU51は、本実施形態における判定装置の演算回路の一例である。CPU51は、記憶装置53に格納された制御プログラム56の実行により、溶接形状を判定するための判定モデル57の構築及び構築された判定モデル57による溶接形状の判定を含む所定の機能を実現する。判定装置50は、CPU51が制御プログラム56を実行することで、本実施形態の判定装置50としての機能を実現する。本実施形態でCPU51として構成される演算回路は、MPUまたはGPU等の種々のプロセッサで実現されてもよく、1つまたは複数のプロセッサで構成されてもよい。
【0030】
通信回路52は、例えばIEEE802.11、4G、または5G等の規格に準拠して通信を行う通信回路である。通信回路52は、例えばイーサネット(登録商標)等の規格に従って有線通信を行ってもよい。通信回路52は、インターネット等の通信ネットワークに接続可能である。また、判定装置50は、通信回路52を介して他の機器と直接通信を行ってもよく、アクセスポイント経由で通信を行ってもよい。なお、通信回路52は、通信ネットワークを介さずに他の機器と通信可能に構成されてもよい。例えば、通信回路52は、USB(登録商標)端子及びHDMI(登録商標)端子等の接続端子を含んでもよい。
【0031】
記憶装置53は、判定システム100の機能を実現するために必要なコンピュータプログラム及びデータを記憶する記憶媒体であり、CPU51で実行される制御プログラム56、及び各種のデータを格納している。記憶装置53は、判定モデル57の構築後は判定モデル57を格納する。判定モデル57は、溶接形状が変化する複数の条件でライン溶接をそれぞれ行って得られる信号から算出される特徴量(後述)と、各条件で溶接後の溶接形状とを関連付けて含む訓練データに基づいて、機械学習により構築される。判定モデル57の詳細は後述する。
【0032】
記憶装置53は、例えばハードディスクドライブ(HDD)のような磁気記憶装置、光ディスクドライブのような光学的記憶装置またはSSDのような半導体記憶装置で構成される。記憶装置53は、例えばDRAMまたはSRAM等のRAMにより構成される一時的な記憶素子を備えてもよく、CPU51の内部メモリとして機能してもよい。
【0033】
2.動作
以上のように構成される判定システム100において、例えば図1に示すように、分光装置40は、光センサ22により、レーザ光6の照射により溶融部27において発生する熱放射、可視光及び反射光の成分を検出する。分光装置40は、検出した各成分の強度に応じた信号を判定装置50に送信する。本システム100における判定装置50の動作を、以下に説明する。
【0034】
2-1.判定処理
以下では、判定装置50において溶接形状を判定する判定処理について、図5図7を用いて説明する。
【0035】
図5は、本実施形態の判定装置50における判定処理を例示するフローチャートである。本フローチャートに示す各処理は、例えば判定装置50のCPU51により実行される。本フローチャートは、判定装置50において、例えば通信回路52を介して接続された入力装置から、ユーザ等により判定処理を開始するための所定の操作が入力されることで開始される。
【0036】
まず、CPU51は、通信回路52により、分光装置40の光センサ22で検知された熱放射、可視光及び反射光の各成分に対応する信号を取得する(S1)。
【0037】
図6は、判定装置50において取得される信号を説明するための図である。図6(A)、(B)、(C)は、それぞれ熱放射、可視光及び反射光の強度に応じた信号波形を示す。図6(D)は、被加工物70に照射されたレーザ光6の出力を示す。図6(A)~(C)の各信号は、当該レーザ出力により発生した熱放射、可視光及び反射光に対応する。図6(A)~(D)において、横軸は時間を示し、縦軸は信号強度(図6(A)~(C))またはレーザ出力(図6(D))を示す。また、時間区間T1はレーザ光6の1パルスに対応する時間区間を示し、時間区間T2はレーザ発振器1によるレーザ出力の立上り及び立下りを除くピーク出力に対応する時間区間を示す。
【0038】
本実施形態のレーザ加工装置30では、例えば時間区間T1において、1回の溶接加工が行われる。即ち時間区間T1は、ライン溶接での各加工時に被加工物70上でレーザ光6が走査される期間に対応する。図5のステップS1において、CPU51は、図6(A)~(C)に示すように、こうした各加工時の溶接期間に対応した時間区間T1における熱放射、可視光及び反射光の各成分の変化を示す信号を取得する。
【0039】
次に、CPU51は、取得した信号から、判定モデル57に入力する特徴量を算出する(S2)。特徴量は、例えば各成分の信号強度の時間変化を示す信号波形から算出され、時間区間T2における信号強度の平均値を示す平均強度、時間区間T2における信号強度の積分値、及び時間区間T2内の所定の区間における信号強度の近似直線の傾きを含む。所定の区間は、例えば時間区間T2の中心から1~3ミリ秒の区間として設定されてもよい。傾きの特徴量は、例えばスムージング処理を適用後の信号波形における近似直線から算出されてもよい。
【0040】
CPU51は、被加工物70の加工時に検出された各成分の信号から算出した特徴量を判定モデル57に入力して、溶接後の溶融部27における溶接形状を判定する(S3)。本実施形態では、こうした判定モデルの処理(S3)において、判定モデル57は、溶接形状として、溶融部27の幅及び長さにそれぞれ対応する溶接幅及び溶接長さの推定値を出力する。
【0041】
図7は、ライン溶接時の信号と溶接形状との関係を説明するための図である。図7(A)は、溶接形状のうち溶接幅が異なる各場合の溶接時に検出される反射光について、それぞれ信号強度の時間変化を示す。図7(B)は、図7(A)と同様の各場合に検出される熱放射または可視光について、信号強度の時間変化を示す。図7(C),(D)は、上記の各場合の溶接時に形成される溶融部27を概略的に示す。図7(C)は、レーザ光6の照射方向と平行に溶融部27を断面視した図である。図7(D)は、溶接後の溶融部27をレーザ光6の照射方向から上面視した図であり、溶融部27における溶接幅W及び溶接長さLを示す。
【0042】
図7(D)に示すように、溶接後の溶融部27において、溶接幅Wはレーザ光6の走査方向(例えば図7(C),(D)のX軸方向)に垂直な方向(図7(C),(D)のY軸方向)の幅を示し、溶接長さLは走査方向に平行な方向の長さを示す。
【0043】
被加工物70の溶接形状が変化すると、例えば被加工物70におけるレーザ光6の表面反射、及び溶融部27の湯流れ等に影響する。このため、被加工物70からのレーザ光6の反射量、及び溶融部27の温度変化による発光量も変化し得る。このように、溶接形状の変化に応じて、溶融部27からの反射光、熱放射、及び可視光の光量にも変化が生じると想定される。例えば図7(C),(D)に示すように溶接幅Wが大きくなると、レーザ光6の反射量が増加するとともに(図7(A))、熱放射あるいは可視光の発光量が増加する(図7(B))。
【0044】
上述のような信号と溶接形状との関係から、例えば信号波形の特徴量として、反射光等の平均強度を用いることで溶接形状の変化を精度良く判定結果に反映できると考えられる。また、信号強度の積分値は、溶融部27における溶接時の発光量と相関するため、特徴量として用いることで、発光量の変化に応じて、溶接幅W及び溶接長さLを含む溶接形状を判定し得る。
【0045】
図5に戻り、CPU51は、溶接形状の判定結果として、判定モデルの処理(S3)で算出された溶接幅W及び溶接長さLの数値を出力する(S4)。例えば、CPU51は、通信回路52により判定装置50の外部に判定結果を送信してもよい。判定結果は、判定装置50の外部の情報処理装置または表示機器等により受信されて、表示され得る。判定装置50がディスプレイ等を備えてもよく、当該ディスプレイに判定結果を表示させてもよい。CPU51は、判定結果の外部出力に加えて、又は代えて、記憶装置53に判定結果を書き出してもよい。
【0046】
その後、CPU51は、図5のフローチャートを終了する。図5のフローチャートは、例えば溶接加工を行う度に繰り返し実行される。
【0047】
以上の判定処理によると、本実施形態の判定装置50は、分光装置40の光センサ22によりライン溶接時の溶融部27からの反射光、熱放射及び可視光を検出することで生成された信号を取得して(S1)、取得した信号から特徴量を算出する(S2)。判定装置50は、算出した特徴量に基づいて、溶接後の溶融部27における溶接形状として、判定モデル57により溶接幅W及び溶接長さLを判定し(S3)、判定結果を出力する(S4)。このように、溶接時に検出された光の信号から加工状態として溶接形状を詳細に判定でき、例えば出力された判定結果をユーザが確認して、溶接幅W及び溶接長さLの変動等を把握できる。
【0048】
また、以上のような判定装置50をレーザ加工による製品の製造現場で使用する際に、例えば溶接不良品が後工程に流出しないよう、表面粗さに関して溶接不良を生じるか否かの判定基準を設けることで、検査結果に応じて溶接不良品を排出することが出来る。
【0049】
上記のステップS4では、溶接幅W及び溶接長さLの数値を出力する例を説明したが、例えば溶接後の溶融部27における複数の位置での溶接幅が出力されてもよいし、各溶接幅の平均値といった代表値が出力されてもよい。また、例えば判定モデル57により判定された溶接幅W及び溶接長さLについて、各々に設定された所定の閾値との比較により、溶接形状の異常または正常を示す判定結果が出力されてもよい。
【0050】
2-2.判定モデルの訓練処理
以上のような判定処理に用いられる判定モデル57を構築するための訓練処理について、図8図10を用いて説明する。
【0051】
図8は、判定装置50における判定モデル57の訓練処理を例示するフローチャートである。本フローチャートは、例えば判定装置50の記憶装置53等に、判定モデル57の構築に用いる訓練データ(後述)が格納された状態で開始され、CPU51により各処理が実行される。
【0052】
まず、CPU51は、例えば記憶装置53から訓練データを取得する(S11)。この際に取得される訓練データD1を図9に例示する。
【0053】
図9は、判定モデル57の訓練データD1を説明するための図である。訓練データD1は、溶接時に得られる信号から算出された各種の特徴量と、溶接後の溶融部27における溶接形状の測定で得られた溶接幅及び溶接長さとを対応付けたデータである。訓練データD1は、例えば溶接形状が変化する複数の条件における各条件下でレーザ加工装置30によりレーザ加工を行い、分光装置40を介して検出された光の信号、及び溶接形状の測定結果を取得することで生成される。図9の「溶接No.」は各条件を管理する番号を示す。訓練データD1を生成する処理の詳細は後述する。
【0054】
図9の訓練データD1は、熱放射、可視光、及び反射光の各成分の信号に基づいて算出された平均強度、積分値及び傾きの特徴量に加え、レーザ発振器1の出力及び焦点位置も各条件に関連付けて記録している。焦点位置は、例えばレーザ光6が照射される被加工物70の表面を「0」とする照射方向の相対位置である。また、図9に例示する本実施形態の訓練データD1は、溶接後の溶融部27における複数の位置で測定された溶接幅を含む。
【0055】
図10は、溶接形状の溶接幅及び溶接長さを説明するための図である。図10は、溶接後の溶融部27において、複数の溶接幅W1,W2等と、溶接長さLとの測定位置を例示する。溶接形状の測定には一般的な形状測定器を用いることができ、測定器の精度はナノメートル(nm)オーダーまで測定可能であると好ましいが、マイクロメートル(μm)オーダーの精度であれば特に制限はない。被加工物70上の測定領域は、例えばレーザ光6が走査される範囲など溶接形状に応じたサイズに決定されてもよい。溶接形状が異なる複数の条件は、例えば基準となる所望の溶接条件に対して、レーザ光6の出力、焦点位置、及び/又は重ね合わせ溶接における被加工物70の隙間量を変動させて設定される。
【0056】
図8に戻り、CPU51は、訓練データD1を取得すると(S11)、訓練データD1を用いた機械学習によって、特徴量から溶接幅及び溶接長さを算出するように判定モデル57を生成する(S2)。判定モデル57は、例えばランダムフォレスト、ニューラルネットワーク、またはガウス過程回帰等に基づく回帰モデルとして生成される。生成された判定モデル57は、例えば記憶装置53に格納される。
【0057】
以上の訓練処理によると、レーザ加工において検出された熱放射、可視光及び反射光の各成分の信号から算出される特徴量から、溶接幅及び溶接長さを判定する学習済みモデルとして、判定モデル57を生成することができる。
【0058】
なお、判定モデル57の訓練処理は、判定装置50とは別の情報処理装置において実行されてもよい。判定装置50は、例えば通信ネットワークを介して、通信回路52により構築済みの判定モデルを取得してもよい。また、訓練データD1は、図9の例に限らず、例えば熱放射、可視光及び反射光のうちの一部の成分について算出された特徴量を含んでもよいし、平均強度、積分値及び傾きの一部のみを含んでもよい。この場合、判定処理においても、訓練データD1に含まれる特徴量が算出されればよい(S2)。また、図9の訓練データD1のレーザ出力及び焦点位置が特に判定モデル57の訓練に用いられなくてもよい。
【0059】
また、例えば溶接形状の測定に加えて、溶接された被加工物70の接合強度が測定され、訓練データD1と関連付けて管理されてもよい。例えば、引張試験機による引張り強度の測定またはトルク強度などが測定され得るが、測定方法は特に制限されない。接合強度の測定結果によれば、訓練データD1とともに、例えば各条件について所望の接合強度が確保されているか否かを関連付けて管理することができる。また、レーザ光6のスポット径、走査速度、被加工物70の材質、押さえ治具26の治具形状、及び溶接時に被加工物70の加工部分に吹き付けられる不活性ガス等のガス種類及びガス流量などが訓練データD1に関連付けられてもよい。
【0060】
2-3.訓練データの生成処理
本実施形態の判定装置50は、例えば上述した判定モデル57の生成処理の前に、判定モデル57の訓練データD1を生成する処理を行う。こうした訓練データD1の生成処理を、図11図13を用いて説明する。
【0061】
図11は、訓練データD1の生成処理を例示するフローチャートである。例えば本フローチャートの処理は、図9及び図10に関して説明したような溶接形状が変化する複数の条件において、各条件での溶接時に検出された成分毎の信号と、溶接後に測定された溶接形状の測定結果とが関連付けて得られた状態で開始される。例えば、こうした複数の溶接条件は予め設定され、得られた信号及び測定結果とともに、判定装置50の記憶装置53等に格納される。本フローチャートの各処理は、例えば判定装置50のCPU51により実行される。
【0062】
本実施形態では、精度良く判定可能な判定モデル57を構築するための訓練データD1を生成する観点から、溶接時の信号及び溶接形状の測定結果について所定の前処理が実行される(S22(S31~S33,S35)~S23,S26~S27等)。例えば溶接時の信号は、溶接形状の変化に限らず、被加工物70の表面に付着した汚れなどの異物により変動する場合がある。こうした溶接形状とは別の要因で変化する信号が訓練データD1に多数含まれると、当該訓練データD1により訓練される判定モデル57では、信号の特徴量と溶接形状との相関を学習し難いことが懸念される。
【0063】
そこで、本実施形態の判定装置50は、所定の前処理として、例えば上述した異物等の影響により変動する信号の他、溶接形状の測定結果における外れ値等が訓練データD1に追加されることを抑制するための処理を実行する。また、溶接形状の測定では、溶接毎に測定を行う際の測定結果の変動を抑制するため、溶接後の溶融部27における所定の測定区間が設定されてもよい。測定区間は、レーザ光6がピーク出力となる時間区間T1等に応じて設定されてもよいし、溶接後の溶融部27をカメラにより撮影した画像に基づき、形成された溶融部27の輪郭に応じて設定されてもよい。これにより、溶融部27の外観上、溶接痕の始端及び終端が他の部分よりも細く、丸みを帯びていることが多い溶接形状の測定において、測定位置の相違による測定結果のばらつき等が低減し得る。
【0064】
図11の処理において、CPU51は、記憶装置53から、1つの溶接条件での溶接時に光センサ22により生成された信号を取得する(S21)。
【0065】
CPU51は、取得した信号に基づき、特徴量を算出する(S22)。こうした特徴量の算出処理(S22)では、信号強度が所定の上下限の閾値を超える期間等に応じて異常とみなす信号に、異常フラグが設定される。異常フラグは、例えば記憶装置53等に信号と対応付けて格納される値の切り替えにより、異常とみなされる状態を管理する。
【0066】
CPU51は、記憶装置53を参照して、取得した信号に異常フラグが設定されているか否かを判断する(S23)。
【0067】
取得した信号に異常フラグが設定されていない場合(S23でNO)、CPU51は、記憶装置53から、当該信号が生成された溶接条件における溶接形状の測定結果を取得する(S24)。
【0068】
CPU51は、取得した測定結果から、判定モデル57の訓練に用いる(即ち、訓練データD1に含める)溶接幅及び溶接長さを選択する処理を行う(S25)。こうした溶接幅及び溶接長さの選択処理(S25)では、測定値が複数回の測定による統計値から変動する割合等に応じて異常とみなす測定結果に、異常フラグが設定される。異常フラグは、例えば上述のステップS22で設定される異常フラグと同様に、溶接条件毎の測定結果と対応付けて管理される。
【0069】
CPU51は、例えばステップS23と同様に、取得した測定結果に異常フラグが設定されているか否かを判断する(S26)。
【0070】
測定結果に異常フラグが設定されていない場合(S26でNO)、算出した特徴量と、選択された溶接幅及び溶接長さとを関連付けて、訓練データD1に追加する(S27)。CPU51は、記憶装置53において当該訓練データD1を格納または更新する。
【0071】
信号と溶接形状とを関連付ける際、信号が取得されるサンプリング点と溶接形状の測定位置を対応させる観点から、測定位置が信号のサンプリング周波数から演算されてもよい。例えば、
測定位置=1/サンプリング周波数×測定開始時からのサンプリング点数×走査速度
として、測定開始位置からの各サンプリング点での測定位置が算出されるため、溶接形状の測定位置と対応させることができる。
【0072】
この際、信号のサンプリング点と測定位置とを更に詳細に対応付ける観点から、例えば溶接開始の直前に、被加工物70の表面に加工痕が残る程度にレーザ光6のパルス照射を行い、当該照射時を測定開始時として、及び当該照射位置を測定開始位置として、測定が行われてもよい。また、更に溶接終了の直後に開始前と同様にパルス照射を行ってもよく、溶接開始点と終了点との2点を基準にサンプリング点と測定位置との対応付けが行われてもよい。
【0073】
訓練データD1への追加後(S27)、CPU51は、例えば記憶装置53を参照して、複数の溶接条件において次の条件があるか否かを判断する(S28)。また、取得した信号に異常フラグが設定されている場合(S23でYES)、CPU51は、ステップS24以降の処理を実行せず、ステップS28の判断に進む。測定結果に異常フラグが設定されている場合にも(S26でYES)、CPU51はステップS27の処理を実行せず、ステップS28の判断に進む。
【0074】
次の溶接条件がある場合(S28でYES)、CPU51は、当該溶接条件について、ステップS21以降の処理を繰り返す。
【0075】
次の溶接条件がない場合(S28でNO)、CPU51は、本フローチャートの処理を終了する。
【0076】
以上の処理によると、各溶接条件で溶接時に得られた信号の特徴量と(S22)、溶接後の溶接形状の測定結果から判定モデル57の訓練用に選択された溶接幅及び溶接長さと(S25)が関連付けて訓練データD1に追加される(S27)。また、信号及び/又は測定結果が異常とみなされる場合(S23でYES,S26でYES)、訓練データD1への追加が行われない。これにより、取得した信号及び測定結果について、例えば外乱等による変動の可能性が高く異常とみなされるデータを除外して訓練データD1に含まれるデータの質を向上させることができる。
【0077】
なお、例えば異常として除外されたデータが信号及び/又は測定結果と対応付けて記憶装置53に格納されてもよく、異常と正常とを分類する分類モデルの訓練データセットとして利用されてもよい。
【0078】
2-3-1.特徴量の算出処理
以上のような訓練データの生成処理におけるステップS22の処理の詳細を、図12を用いて説明する。
【0079】
図12は、訓練データの生成処理における特徴量の算出処理(S22)を例示するフローチャートである。本フローチャートの処理は、例えば図11のステップS21で各条件での溶接時に検出された光の信号を取得した状態で開始される。
【0080】
CPU51は、例えば図11のステップS21の実行毎に取得される複数の信号間で、信号波形の立上り開始時間(即ち、開始時刻)を統一するように、信号の開始時間を補正する(S31)。例えば、図6(A)~(C)に示す信号の開始時間は、判定装置50によりレーザ加工装置30からレーザ光6の発振時に出力されるトリガー信号を受信して、その受信時刻に設定され得る。この際に、トリガー信号の開始時刻の誤差などに起因して、開始時間に誤差を生じる場合があり得る。
【0081】
ステップS25において、CPU51は、例えば信号波形の立上り時において信号強度が所定値(例えば0.2V)に到達した時間に応じて、信号の開始時間をオフセットするように信号を補正する(S31)。こうした補正によれば、例えば複数の信号間で特徴量の算出条件を統一でき、判定モデル57を更に精度良く構築可能な訓練データD1が得られる。
【0082】
次に、CPU51は、例えば所定の区間として時間区間T2において、取得した信号の信号強度が所定の閾値を超える期間の割合を算出する(S32)。所定の閾値は、例えば予め反射光、熱放射及び可視光の成分毎に、平均的な信号波形、すなわち平均波形に基づいて設定され、記憶装置53に格納される。平均波形は、例えば溶接条件毎に予め複数回の溶接を行い、各回に取得された信号の信号強度を平均した波形として算出される。例えば平均波形の時間区間T2における信号強度の平均値に、当該信号強度の標準偏差を加算した値が上限閾値、及び平均値から標準偏差を減算した値が下限閾値として設定される。
【0083】
ステップS32では、CPU51は、取得した信号の信号強度が上述のような平均波形の閾値を超える(即ち上限閾値より大きい、又は下限閾値より小さい)割合(「NG割合」ともいう)を算出する。NG割合は、下記の計算式(1)による計算値に「100」を乗じて百分率により算出されてもよい。下記の計算式(1)では、時間区間T2及び閾値を超える期間として、それぞれ対応する信号のサンプリング点の数が用いられてもよい。
NG割合=時間区間T2内の閾値を超える期間/時間区間T2 (1)
【0084】
CPU51は、算出したNG割合が所定値(例えば20%)未満であるか否かを判断する(S33)。
【0085】
算出したNG割合が所定値未満であれば(S33でYES)、CPU51は、取得した信号に基づいて特徴量を算出する(S34)。CPU51は、例えば上述した判定処理(図5)のステップS3と同様に、信号強度の平均値、積分値及び信号波形の傾きを特徴量として算出する。ステップS34では、判定処理で用いられる特徴量に応じて他の特徴量が算出されてもよい。
【0086】
一方、算出したNG割合が所定値以上であれば(S33でNO)、CPU51は、特徴量の算出を行わず、当該信号に異常フラグを設定する(S35)。
【0087】
以上の処理によれば、信号の開始時間を補正後(S31)、信号強度が所定の時間区間において平均波形の閾値を超える割合に応じて(S33)当該信号から特徴量を算出するか(S34)、または当該信号に異常フラグが設定される(S35)。これにより、訓練データD1の生成において、例えば過大なピークなどの外乱の発生等が想定される信号を異常フラグに応じて除外する一方、外乱の影響が比較的小さいと考えられる信号から特徴量を算出して用いることができる(図11のS23,S27)。
【0088】
上記のステップS31では、信号の開始時間を補正する例を説明したが、例えば更に、信号強度の変動を抑制するように、信号波形にローパスフィルタを適用する処理を行ってもよい。
【0089】
上記のステップS32では、NG割合の算出における閾値の設定に標準偏差を用いる例を説明したが、例えば標準偏差に所定の比率を乗じた値を用いて閾値が設定されてもよい。またNG割合の算出期間は、時間区間T2に限らず、例えば、判定装置50のユーザにより通信回路52等を介して設定されてもよい。
【0090】
上記の処理ではNG割合を用いる例を説明したが、例えば被加工物70の表面をカメラで撮影した画像において、画像処理により表面の異物または汚れなどを検出してもよい。この場合、異物等が検出された測定結果を訓練データD1から除外するように異常フラグが設定されてもよい。
【0091】
2-3-2.溶接幅及び溶接長さの選択処理
以上のような訓練データの生成処理におけるステップS25の処理の詳細を、図13を用いて説明する。
【0092】
図13は、訓練データの生成処理(図11)における溶接幅及び溶接長さの選択処理(S25)を例示するフローチャートである。本フローチャートの処理は、例えば図11のステップS24で、各条件で溶接後の溶融部27における溶接形状の測定結果を取得した状態で開始される。当該測定結果は、複数の位置で測定された溶接幅W1,W2等を含む。本実施形態のステップS25は、こうした複数の溶接幅の測定値から異常とみなされるデータを除外する処理を含む。
【0093】
まず、CPU51は、取得した測定結果における複数位置での溶接幅の測定値のうち、溶接幅の基準値から所定範囲外の値を除外する(S41)。例えば、複数回の測定による測定値が正規分布に従うと仮定し、その平均が溶接幅の基準値に、及び平均から標準偏差を加減算した範囲が所定範囲に設定されてもよい。
【0094】
次に、CPU51は、ステップS41で所定範囲外の値を除外後の測定値から、中央値などの統計値を算出する(S42)。統計値は、平均値または最頻値でもよく、ステップS41の基準値及び所定範囲の設定に用いた測定値の分布に応じて決定されてもよい。
【0095】
CPU51は、算出した中央値と各測定値との比較により、中央値に対する各測定値の変動率を算出する(S43)。変動率は、中央値などの統計値に対して、各測定値が増減する割合を示し、例えば下記の計算式(2)による計算値に「100」を乗じて百分率で算出されてもよい。
変動率=(各測定値-中央値)/中央値 (2)
【0096】
CPU51は、算出した変動率が所定範囲内か否かを判断する(S44)。所定範囲は、所定の下限値から上限値までの範囲として、例えば複数回の溶接幅の測定により実験的に設定されてもよい。例えば、変動率が下限値より大きく、かつ上限値未満である場合に、所定範囲内と判断される。
【0097】
変動率が所定範囲内である場合(S44でYES)、CPU51は、例えばステップS41の除外後に残った溶接幅の測定値、及び測定結果における溶接長さを、訓練データD1に追加する対象として選択する(S45)。溶接幅は各測定値に限らず、例えば平均値が算出されて、訓練データD1に追加する対象として選択されてもよい。
【0098】
一方、変動率が所定範囲外であれば(S44でNO)、CPU51は、当該測定結果に異常フラグを設定する(S46)。
【0099】
溶接幅及び溶接長さを選択後(S45)または異常フラグを設定後(S46)、CPU51は、本フローチャートの処理を終了する。
【0100】
以上の処理によると、取得した測定結果において、複数の位置での溶接幅の測定値から、例えば測定値の分布に応じた所定範囲外の値が除外される(S41)。さらに、除外後の測定値について、中央値などの統計値に対する変動率に応じて(S44)、判定モデル57の生成に用いる溶接幅及び溶接長さが選択されるか(S45)、または当該測定結果に異常フラグが設定される(S46)。これにより、例えば測定結果における溶接幅の各測定値が、複数回の測定による測定値の分布から外れたり、中央値などの統計値から変動が比較的大きかったりする場合に、訓練データD1に含めないようにすることができる。
【0101】
上記の処理では、溶接幅について複数の位置における測定値を選択的に訓練データD1に含める例を説明した。例えば、溶接条件毎の測定結果から選択された測定値のうちの、全ての条件で選択された位置の測定値を目的変数として判定モデル57の訓練が行われてもよいし、全て条件について上記の処理を実行後の訓練データD1に欠損値の補間処理等が適用されてもよい。また、溶接幅として、例えば多数の測定結果が得られているような場合に、ステップS42で算出した中央値等が訓練データD1に用いられてもよい。また、例えば溶接長さが複数の位置で測定され、上記と同様の処理により、異常とみなされる測定結果が除外されてもよい。
【0102】
3.効果等
以上のように、本実施形態において、判定処理(S1~S4)は、レーザ光を被加工物上で走査するライン溶接における加工状態の判定方法を提供する。本方法は、被加工物70へのレーザ光6の照射により被加工物70に形成される溶融部27(溶接部の一例)において発生する熱放射、可視光及び反射光の各成分のうち少なくとも1つを光センサ22で検出して生成され、レーザ光6が走査される溶接期間の一例として時間区間T1に検出された成分の変化を示す信号を取得する工程(S1)と、取得した信号に基づき、溶接期間内の所定の区間における信号波形の特徴量を算出する工程(S2)と、加工状態を判定する判定モデル57に算出した特徴量を入力して、加工状態として、ライン溶接後の被加工物70における溶融部27の幅及び長さの一例として、溶接幅W及び溶接長さLを含む溶接形状を判定する工程(S3)と、判定した溶接形状を判定結果として出力する工程と(S4)を含む。判定モデル57は、溶接形状が変化する複数の条件における各条件でのライン溶接において検出された成分の信号波形の特徴量と、各条件で溶接後の溶接形状とを関連付けて含む訓練データD1に基づいて機械学習により構築される(S11,S12)。
【0103】
以上の判定方法によると、レーザ光6の照射により発生した熱放射、可視光及び反射光の少なくとも何れかの信号を取得して(S1)、信号波形から平均強度といった特徴量を算出し(S2)、判定モデル57による判定を行う(S3)。これにより、信号から算出される特徴量と、溶融部27の溶接幅W及び溶接長さLとを関係づけた訓練データD1を用いて構築された判定モデル57により、加工状態として溶接幅、及び溶接長さを詳細に判定することができる。
【0104】
本実施形態において、溶接形状は、溶融部27の幅として、ライン溶接時の走査方向に垂直な方向の溶接幅Wと、溶融部27の長さとして、走査方向に平行な方向の溶接長さLとを含む(図7(D)参照)。こうした溶接幅W及び溶接長さLにより、溶接形状の定量的な判定結果が得られる。
【0105】
本実施形態において、所定の区間の一例である時間区間T2は、ライン溶接時にレーザ光6がピーク出力において照射される期間に対応し(図6参照)、特徴量は、時間区間T2における信号の平均強度を含む。図7に例示するように、溶接形状、特にピーク出力時の信号強度が変わり得る。したがって、時間区間T2の平均強度を特徴量に用いることで、溶接形状を精度良く判定し得ると考えられる。
【0106】
本実施形態において、特徴量は、時間区間T2における信号の積分値を含む。上述したように、例えば溶接形状の変化は溶融部27からの発光量に影響し得る。積分値を用いることで、発光量の変化を特徴量に反映して溶接形状を精度良く判定し得ると考えられる。
【0107】
本実施形態において、特徴量は、所定の区間内の一例として時間区間T3で信号の信号波形を近似する直線の傾きを含む。こうした近似直線の傾きによっても、溶接形状の変化による溶融部27からの発光量等の変化を特徴量に反映し得る。
【0108】
本実施形態の判定方法は、訓練データD1に基づいて判定モデル57が構築される前に、平均波形の閾値(複数の条件における各条件のもとで検出された成分の信号について、信号強度に対して設定される閾値の一例)により、時間区間T2(所定の区間の一例)における、取得した信号の強度が閾値を超える区間の割合の一例であるNG割合を算出する工程と(S32)、算出したNG割合と、所定値(所定の割合の一例)との比較により、複数の条件から、選択的に特徴量を算出して含めるように、訓練データD1を生成する(S33~S35,S27)工程と、をさらに含む。例えば、各種の外乱要因が信号強度に変動を与えると、異常な信号波形が生じ得る。以上の処理によれば、こうした場合にも、例えば閾値を超える割合が所定の割合以上であれば異常な信号波形として、当該信号からの特徴量を訓練データD1に含めないように、複数の条件から選択的に訓練データD1を生成することができる。これによっても、訓練データD1において外乱要因による影響が抑制できる。
【0109】
本実施形態の判定方法は、訓練データD1に基づいて判定モデル57が構築される前に、各溶接条件のもとで溶接後の溶融部に27おいて測定された溶接幅W1,W2及び溶接長さLを取得する工程(S24)をさらに含み、溶接幅W1,W2は、溶融部に27おける複数の位置で測定される。このように、例えば訓練データD1の生成において、複数の位置で測定された溶接幅W1,W2が取得される。
【0110】
本実施形態の判定方法は、各条溶接件のもとで測定された溶接幅及び溶接長さを取得後(S24)、複数の位置で測定された測定値(複数の溶接幅の一例)から、所定の数値範囲外の溶接幅を除外する工程(S41)と、所定の数値範囲外の溶接幅を除外後の各溶接幅から、平均値、中央値または最頻値の統計値を算出して(S2)、算出した統計値から各溶接幅が変動する割合の一例である変動率と、所定の割合との比較により、複数の溶接条件から選択的に各溶接幅を含めるように訓練データD1を生成する工程をさらに含む(S44~S46,S27)。これにより、例えば測定された溶接形状が異常とみなされるような場合には、当該測定結果を訓練データD1に追加せず、判定モデル57を精度良く構築可能な訓練データD1を生成することができる。また、溶接形状の測定結果が異常とみなされる場合、例えば走査テーブルの動作後に再測定が行われてもよく、あるいは別の溶接条件で溶接後に測定が行われてもよい。
【0111】
本実施形態の判定システム100における判定装置50は、レーザ光6を被加工物70上で走査するライン溶接における加工状態の判定装置の一例である。判定装置50は、演算回路の一例としてCPU51と、通信回路52とを備える。CPU51は、通信回路52により、被加工物70へのレーザ光6の照射により被加工物70に形成される溶融部27(溶接部の一例)において発生する熱放射、可視光及び反射光の各成分のうち少なくとも1つを光センサ22で検出して生成され、レーザ光6が走査される溶接期間の一例として時間区間T1に検出された成分の変化を示す信号を取得する(S1)。CPU51は、取得した信号に基づき、溶接期間内の所定の区間における信号波形の特徴量を算出する(S2)。CPU51は、加工状態を判定する判定モデル57に算出した特徴量を入力して、加工状態として、ライン溶接後の被加工物70における溶融部27の幅及び長さの一例として、溶接幅W及び溶接長さLを含む溶接形状を判定する(S3)。CPU51は、判定した溶接形状を判定結果として、例えば通信回路52により出力する(S4)。判定モデル57は、溶接形状が変化する複数の条件における各条件でのライン溶接において検出された成分の信号波形の特徴量と、各条件で溶接後の溶接形状とを関連付けて含む訓練データD1に基づいて機械学習により構築される(S11,S12)。
【0112】
以上の判定装置50によると、上述した判定方法を実行して、ライン溶接における加工状態として、溶接幅W及び溶接長さLを含む溶接形状を詳細に判定することができる。
【0113】
(他の実施形態)
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、上記の実施の形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、上記の各実施の形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。
【0114】
上記の実施形態1では、判定モデル57が溶接幅W及び溶接長さLを出力する例を説明した(S3)。本実施形態の判定モデル57は、例えば溶接形状として、溶接後の溶融部27の面積をさらに出力してもよい。この場合、溶融部27の面積を含む訓練データD1を用いて、判定モデル57の訓練処理が行われてもよい。
【0115】
上記の各実施形態では、訓練データD1の生成処理(図11)において、溶接時に得られた信号と、溶接形状の測定結果とを取得する例を説明した(S21,S24)。本実施形態では、これらに加えて、例えば溶接後の溶融部27における溶け込み深さの測定結果などが、更に取得されてもよい。例えば溶接形状の判定における精度向上に活用する観点から、こうした追加の測定結果が判定モデル57の特徴量として用いられてもよい。
【0116】
上記の各実施形態では、訓練データD1の生成処理において、各溶接条件での溶接時に光センサ22により生成された信号を取得する例を説明した(S21)。本実施形態では、各溶接条件で複数回の加工を行うことで、ステップS21において、それぞれの溶接時に生成される複数の信号が取得されてもよい。この場合、例えばステップS31と同様に、各信号の開始時間を補正後、複数回の信号の平均波形に基づいて以降の処理が実行されてもよい。これにより、例えば信号から算出される特徴量において各信号の光を検出する際の外乱による信号波形の変動の影響を小さくすることができる。
【0117】
上記の各実施形態では、訓練データD1の生成処理において、信号強度が時間区間T2内で閾値を超える割合としてNG割合を算出する例を説明した(S32)。本実施形態では、時間区間T2に限らず、例えばレーザ光6の1パルスに相当する時間区間T1(図6参照)において算出されてもよく、特に区間を設けずに信号の1波形に対応した取得期間において算出されてもよい。
【0118】
上記の各実施形態では、訓練データD1の生成処理において、形状測定器による溶接形状の測定結果を取得する例を説明した(S24)。溶接形状は、形状測定器に限らず、例えば溶接後の溶融部27をカメラで撮影した画像から、画像認識を用いた輪郭の抽出等の結果から測定されてもよい。
【0119】
上記の各実施形態では、訓練データD1の生成処理において、判定装置50が取得した信号及び溶接形状の測定結果について、それぞれ前処理を行う例を説明した(S22,S25)。こうした前処理は、より高精度な判定モデル57を構築するための訓練データD1を生成する上で実行されると好ましいが、本実施形態では、例えばユーザの任意選択により実行されてもよい。
【0120】
上記の各実施形態では、判定装置50において、訓練データD1の生成処理を実行する例を説明した。本実施形態では、訓練データD1の生成処理は、判定装置50に限らず、外部の情報処理装置で実行されてよい。
【0121】
本開示は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。すなわち、当業者が適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本開示の範疇である。
【0122】
(本開示の態様)
以上説明したように、本開示は、下記の態様を含む。
【0123】
(態様1)
レーザ光を被加工物上で走査するライン溶接における加工状態の判定方法であって、
前記被加工物へのレーザ光の照射により前記被加工物に形成される溶接部において発生する熱放射、可視光及び反射光の各成分のうち少なくとも1つを光センサで検出して生成され、レーザ光が走査される溶接期間に検出された成分の変化を示す信号を取得する工程と、
取得した前記信号に基づき、前記溶接期間内の所定の区間における信号波形の特徴量を算出する工程と、
前記加工状態を判定する判定モデルに算出した前記特徴量を入力して、前記加工状態として、前記ライン溶接後の前記被加工物における前記溶接部の幅及び長さを含む溶接形状を判定する工程と、
判定した前記溶接形状を判定結果として出力する工程と、を含み、
前記判定モデルは、前記溶接形状が変化する複数の条件における各条件での前記ライン溶接において検出された成分の前記信号波形の特徴量と、前記各条件で溶接後の前記溶接形状とを関連付けて含む訓練データに基づいて機械学習により構築される
判定方法。
【0124】
(態様2)
前記溶接形状は、前記溶接部の幅として、前記ライン溶接時の走査方向に垂直な方向の溶接幅と、前記溶接部の長さとして、前記走査方向に平行な方向の溶接長さとを含む
態様1に記載の判定方法。
【0125】
(態様3)
前記所定の区間は、前記ライン溶接時にレーザ光がピーク出力において照射される期間に対応し、
前記特徴量は、前記所定の区間における前記信号の平均強度を含む
態様1または2に記載の判定方法。
【0126】
(態様4)
前記所定の区間は、前記ライン溶接時にレーザ光がピーク出力において照射される期間に対応し、
前記特徴量は、前記所定の区間における前記信号の積分値を含む
態様1から3のいずれか1つに記載の判定方法。
【0127】
(態様5)
前記特徴量は、前記所定の区間内で前記信号の信号波形を近似する直線の傾きを含む
態様1から4のいずれか1つに記載の判定方法。
【0128】
(態様6)
前記訓練データに基づいて前記判定モデルが構築される前に、
前記複数の条件における各条件のもとで検出された前記成分の信号について、信号強度に対して設定される閾値により、前記所定の区間における、前記信号の強度が前記閾値を超える区間の割合を算出する工程と、
算出した割合と所定の割合との比較により、前記複数の条件から選択的に前記特徴量を算出して含めるように前記訓練データを生成する工程をさらに含む
態様1から5のいずれか1つに記載の判定方法。
【0129】
(態様7)
前記訓練データに基づいて前記判定モデルが構築される前に、
前記各条件のもとで溶接後の前記溶接部において測定された溶接幅及び溶接長さを取得する工程をさらに含み、
前記溶接幅は、前記溶接部における複数の位置で測定される
態様2から6に記載の判定方法。
【0130】
(態様8)
前記各条件のもとで測定された溶接幅及び溶接長さを取得後、
前記複数の位置で測定された複数の溶接幅から、所定の数値範囲外の溶接幅を除外する工程と、
前記所定の数値範囲外の溶接幅を除外後の各溶接幅から、平均値、中央値または最頻値の統計値を算出して、算出した統計値から前記各溶接幅が変動する割合と、所定の割合との比較により、前記複数の条件から選択的に前記各溶接幅を含めるように前記訓練データを生成する工程をさらに含む
態様7に記載の判定方法。
【0131】
(態様9)
レーザ光を被加工物上で走査するライン溶接における加工状態の判定装置であって、
演算回路と、通信回路とを備え、
前記演算回路は、
前記通信回路により、レーザ光の照射により前記被加工物に形成される溶接部において発生する熱放射、可視光及び反射光の各成分のうち少なくとも1つを光センサで検出して生成され、レーザ光が走査される溶接期間に検出された成分の変化を示す信号を取得し、
取得した前記信号に基づき、前記溶接期間内の所定の区間における信号波形の特徴量を算出し、
前記加工状態を判定する判定モデルに算出した前記特徴量を入力して、前記加工状態として、前記ライン溶接後の前記被加工物における前記溶接部の幅及び長さを含む溶接形状を判定し、
判定した前記溶接形状を判定結果として前記通信回路により出力し、
前記判定モデルは、前記溶接形状が変化する複数の条件における各条件での前記ライン溶接において検出された成分の前記信号波形の特徴量と、前記各条件で溶接後の前記溶接形状とを関連付けて含む訓練データに基づいて機械学習により構築される
判定装置。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本開示は、レーザ光を被加工物上で走査するライン溶接において、加工状態を判定する技術に適用可能であり、特に被加工物上に形成される溶接部の溶接幅及び溶接長さの判定に適用可能である。
【符号の説明】
【0133】
1 レーザ発振器
2 レーザ伝送用ファイバ
3 鏡筒
4 コリメートレンズ
5、11 集光レンズ
6 レーザ光
7 第1ミラー
8 第2ミラー
13 光ファイバ
15 コリメートレンズ
16 第3ミラー
17 第4ミラー
18 第5ミラー
19、20、21 集光レンズ
22 光センサ
23 伝送ケーブル
24 コントローラ
25 光センサ
26 押さえ治具
27 溶融部
30 レーザ加工装置
40 分光装置
50 判定装置
51 CPU
52 通信回路
53 記憶装置
56 制御プログラム
57 判定モデル
70 被加工物
L 溶接長さ
W 溶接幅
D1 訓練データ
100 判定システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13