(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170959
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】グラフ表示装置、グラフ表示方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20241204BHJP
【FI】
G05B23/02 301Q
G05B23/02 302S
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087751
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】清水 良昭
(72)【発明者】
【氏名】高橋 貴範
(72)【発明者】
【氏名】徳増 匠
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA01
3C223BA03
3C223CC02
3C223DD03
3C223EB01
3C223EB03
3C223FF02
3C223FF13
3C223FF35
3C223FF47
3C223GG01
3C223HH03
(57)【要約】
【課題】設備の監視のためのグラフ表示の際にデータ数を削減できる技術を提供すること。
【解決手段】本開示の一態様によるグラフ描画装置は、監視対象設備の運転データから異常診断技術により算出した異常指標値の時系列的な推移を表すグラフの時間区間を設定する設定部と、前記時間区間と、前記グラフとして表示する前記異常指標値数の上限とに基づいて、前記異常指標値の間引き度合いを決定する決定部と、前記間引き度合いに基づいて、LTTBアルゴリズムにより、前記時間区間に含まれる時刻の異常指標値を間引く間引き部と、前記間引き後の異常指標値と、前記間引き後の異常指標値と同一時刻の前記運転データに含まれる所定の計測値とを前記グラフとして表示する表示制御部と、を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視対象設備の運転データから異常診断技術により算出した異常指標値の時系列的な推移を表すグラフの時間区間を設定する設定部と、
前記時間区間と、前記グラフとして表示する前記異常指標値数の上限とに基づいて、前記異常指標値の間引き度合いを決定する決定部と、
前記間引き度合いに基づいて、LTTBアルゴリズムにより、前記時間区間に含まれる時刻の異常指標値を間引く間引き部と、
前記間引き後の異常指標値と、前記間引き後の異常指標値と同一時刻の前記運転データに含まれる所定の計測値とを前記グラフとして表示する表示制御部と、
を有するグラフ表示装置。
【請求項2】
前記運転データは複数の変数で構成されており、
前記表示制御部は、
前記間引き後の異常指標値と同一時刻の、前記異常指標値に対する前記変数の寄与度又は重要度の積算値を前記グラフとして更に表示する、請求項1に記載のグラフ表示装置。
【請求項3】
前記異常指標値は、Q値であり、
前記表示制御部は、
前記間引き後のQ値と同一時刻の前記変数の寄与度の積算値を前記グラフとして更に表示する、請求項2に記載のグラフ表示装置。
【請求項4】
前記間引き部は、
特定の異常指標値を間引かないことを表す制約の下での前記LTTBアルゴリズムにより、前記時間区間に含まれる時刻の異常指標値を間引く、請求項1乃至3の何れか一項に記載のグラフ表示装置。
【請求項5】
前記制約は、
特定のステータスが付与された運転データに対応する異常指標値を間引かないことを表す、請求項4に記載のグラフ表示装置。
【請求項6】
前記特定のステータスは、前記監視対象設備が異常又は警告を表す状態である、又は、前記監視対象設備がメンテナンス中であることを表す状態である、請求項5に記載のグラフ表示装置。
【請求項7】
監視対象設備の運転データから異常診断技術により算出した異常指標値の時系列的な推移を表すグラフの時間区間を設定する設定手順と、
前記時間区間と、前記グラフとして表示する前記異常指標値数の上限とに基づいて、前記異常指標値の間引き度合いを決定する決定手順と、
前記間引き度合いに基づいて、LTTBアルゴリズムにより、前記時間区間に含まれる時刻の異常指標値を間引く間引き手順と、
前記間引き後の異常指標値と、前記間引き後の異常指標値と同一時刻の前記運転データに含まれる所定の計測値とを前記グラフとして表示する表示制御手順と、
をコンピュータが実行するグラフ表示方法。
【請求項8】
監視対象設備の運転データから異常診断技術により算出した異常指標値の時系列的な推移を表すグラフの時間区間を設定する設定手順と、
前記時間区間と、前記グラフとして表示する前記異常指標値数の上限とに基づいて、前記異常指標値の間引き度合いを決定する決定手順と、
前記間引き度合いに基づいて、LTTBアルゴリズムにより、前記時間区間に含まれる時刻の異常指標値を間引く間引き手順と、
前記間引き後の異常指標値と、前記間引き後の異常指標値と同一時刻の前記運転データに含まれる所定の計測値とを前記グラフとして表示する表示制御手順と、
をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、グラフ表示装置、グラフ表示方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
多変量解析を利用した異常診断技術では、設備から収集した計測値やその異常指標値等が大量に蓄積される。このため、計測値や異常指標値等をグラフとして描画する場合、その描画に時間を要したり、描画自体が困難になったりすることがある。これに対して、データを間引いてグラフ表示し、膨大なデータであっても高速な表示を可能にする技術が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、単にデータを間引くだけでは、設備を適切に監視することができない場合がある。例えば、計測値と異常指標値とをそれぞれ間引いてグラフ表示した結果、或る異常指標値に関してそれに対応する計測値が間引かれてしまい、異常指標値と計測値の相互関係を確認できなくなることがあるためである。
【0005】
本開示は、上記の点に鑑みてなされたもので、設備の監視のためのグラフ表示の際にデータ数を削減できる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様によるグラフ描画装置は、監視対象設備の運転データから異常診断技術により算出した異常指標値の時系列的な推移を表すグラフの時間区間を設定する設定部と、前記時間区間と、前記グラフとして表示する前記異常指標値数の上限とに基づいて、前記異常指標値の間引き度合いを決定する決定部と、前記間引き度合いに基づいて、LTTBアルゴリズムにより、前記時間区間に含まれる時刻の異常指標値を間引く間引き部と、前記間引き後の異常指標値と、前記間引き後の異常指標値と同一時刻の前記運転データに含まれる所定の計測値とを前記グラフとして表示する表示制御部と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
設備の監視のためのグラフ表示の際にデータ数を削減できる技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る監視システムの全体構成の一例を示す図である。
【
図2】本実施形態に係る監視装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図3】本実施形態に係る監視装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図4】本実施形態に係る推移グラフ描画処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について説明する。以下では、工場やプラント等といった施設の各種設備を対象として、その監視のためのグラフ表示の際にデータ数を削減できる監視システム1について説明する。
【0010】
<監視システム1の全体構成例>
本実施形態に係る監視システム1の全体構成例を
図1に示す。
図1に示すように、本実施形態に係る監視システム1には、監視装置10と、施設20と、オペレータ端末30とが含まれる。ここで、監視装置10と後述する制御装置23は、例えば、LAN(Local Area Network)等を含む通信ネットワークを介して相互に通信可能に接続される。同様に、監視装置10とオペレータ端末30は、例えば、LAN等を含む通信ネットワークを介して相互に通信可能に接続される。
【0011】
監視装置10は、施設20(より正確には、当該施設20に含まれる制御装置23)から収集した運転データを用いて、多変量統計的プロセス管理(MSPC:Multivariate Statistical Process Control)の手法により、後述する監視対象設備21の異常診断を行う。多変量統計的プロセス管理(MSPC)は多変量解析を利用した異常診断技術の1つであり、その詳細については、例えば、参考文献1等を参照されたい。なお、運転データは一般に複数の変数(これらの変数はプロセス変数とも呼ばれる。)で構成され、各変数の値は後述する各計測器22によって計測されるため計測値等と呼ばれる。運転データを構成する変数としては、例えば、温度、圧力、流量、電圧等といったものが挙げられる。
【0012】
また、監視装置10は、当該異常診断の際に算出された異常指標値(例えば、Q値、T2値)と、運転データを構成する各変数の異常指標値に対する寄与度と、施設20から収集した運転データに含まれる計測値との時系列的な推移を表すグラフ(以下、推移グラフともいう。)を、オペレータ端末30が備えるディスプレイ等に表示される分析画面上に描画する。このとき、監視装置10は、LTTB(Largest-Triangle-Three-Buckets)アルゴリズム等を用いて、時系列的な形状(つまり、時系列データとして表現したときの波形)が損なわれないようにデータを間引いた上で推移グラフを描画する。分析画面とは、異常指標値、寄与度及び計測値の推移グラフを確認することにより、オペレータ等が各種分析(例えば、異常が発生した原因の分析等)を行うことができる画面のことである。
【0013】
なお、監視装置10は、例えば、PC(パーソナルコンピュータ)や汎用サーバ等により実現される。監視装置10は、例えば、複数台のPCや複数台の汎用サーバ等で構成されるシステムであってもよい。
【0014】
以下、一例として、異常指標値はQ値であるものとして説明する。また、Q値の推移グラフを「Q値推移グラフ」、運転データを構成する各変数の異常指標値に対する寄与度の推移グラフを「寄与度推移グラフ」、運転データに含まれる或る計測値の推移グラフを「計測値推移グラフ」と呼ぶことにする。ただし、異常指標値はQ値に限られるものではなく、T2値であってもよい。
【0015】
施設20は、例えば、工場やプラント等といった各種施設である。施設20には、監視対象設備21と、1以上の計測器22と、制御装置23とが含まれる。監視対象設備21は、監視装置10によって監視対象(つまり、異常診断対象)となる各種設備(例えば、生産設備、熱源設備、ポンプ設備等)、産業用機器、各種装置等である。計測器22は、センサ等であり、監視対象設備21の各種状態を表す物理量を計測し、その計測値が含まれる計測データを制御装置23に送信する。制御装置23は、各計測器22から収集した計測データに含まれる計測値で構成される運転データを監視装置10に送信すると共に、これらの運転データに基づいて既知のプロセス制御方式により監視対象設備21を制御する。
【0016】
オペレータ端末30は、施設20を運用するオペレータが利用するPCやスマートフォン、タブレット端末等の各種端末である。オペレータは、オペレータ端末30を利用して、監視装置10から提供される分析画面上でQ値推移グラフ、寄与度推移グラフ、計測値推移グラフを確認することができる。また、オペレータは、オペレータ端末30により、監視装置10における異常診断結果を確認することができる。これにより、オペレータは、例えば、その異常診断結果に応じて、監視対象設備21の運転を停止したり、縮退運転に切り替えたりすることができる。なお、例えば、オペレータ端末30はWebブラウザ等を備えており、Webブラウザ等により分析画面をディスプレイ上に表示することができる。
【0017】
なお、
図1に示す監視システム1の全体構成は一例であって、これに限られるものではない。例えば、監視装置10とオペレータ端末30とが一体で構成されていてもよいし、監視装置10と制御装置23とが一体で構成されていてもよい。又は、例えば、監視装置10が仮想マシン(VM:Virtual Machine)で実現されるものであってもよいし、監視装置10が複数台の装置で構成されるシステムである場合にその一部が仮想マシンで実現されるものであってもよい。
【0018】
<監視装置10のハードウェア構成例>
本実施形態に係る監視装置10のハードウェア構成例を
図2に示す。
図2に示すように、本実施形態に係る監視装置10は、入力装置101と、表示装置102と、外部I/F103と、通信I/F104と、RAM(Random Access Memory)105と、ROM(Read Only Memory)106と、補助記憶装置107と、プロセッサ108とを有する。これらの各ハードウェアは、それぞれがバス109を介して通信可能に接続される。
【0019】
入力装置101は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、物理ボタン等である。表示装置102は、例えば、ディスプレイ、表示パネル等である。なお、監視装置10は、例えば、入力装置101及び表示装置102のうちの少なくとも一方を有していなくてもよい。
【0020】
外部I/F103は、記録媒体103a等の外部装置とのインタフェースである。記録媒体103aとしては、例えば、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disk)、SDメモリカード(Secure Digital memory card)、USB(Universal Serial Bus)メモリカード等が挙げられる。
【0021】
通信I/F104は、監視装置10を通信ネットワークに接続するためのインタフェースである。RAM105は、プログラムやデータを一時保持する揮発性の半導体メモリ(記憶装置)である。ROM106は、電源を切ってもプログラムやデータを保持することができる不揮発性の半導体メモリ(記憶装置)である。補助記憶装置107は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等のストレージ装置(記憶装置)である。プロセッサ108は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等の各種演算装置である。
【0022】
なお、
図2に示すハードウェア構成は一例であって、監視装置10のハードウェア構成はこれに限られるものではない。例えば、監視装置10は、複数の補助記憶装置107や複数のプロセッサ108を有していてもよいし、図示したハードウェアの一部を有していなくてもよいし、図示したハードウェア以外の種々のハードウェアを有していてもよい。
【0023】
<監視装置10の機能構成例>
本実施形態に係る監視装置10の機能構成例を
図3に示す。
図3に示すように、本実施形態に係る監視装置10は、運転データ収集部201と、診断部202と、区間設定部203と、間引き処理部204と、表示制御部205とを有する。これら各部は、例えば、監視装置10にインストールされた1以上のプログラムが、プロセッサ108等に実行させる処理により実現される。また、本実施形態に係る監視装置10は、運転データ記憶部206と、診断モデル記憶部207と、診断結果記憶部208と、パラメータ記憶部209とを有する。これら各記憶部は、例えば、補助記憶装置107等により実現される。なお、これら各記憶部のうちの一部の記憶部が、例えば、監視装置10と通信ネットワークを介して接続される記憶装置等により実現されていてもよい。
【0024】
運転データ収集部201は、施設20(より正確には、制御装置23)から送信された運転データを収集し、これらの運転データを運転データ記憶部206に保存する。以下、運転データを構成する変数をx1,・・・,xnとして、運転データをx=(x1,・・・,xn)と表す。また、時刻を表すインデックスをtとして、時刻インデックスtにおける運転データをx(t)=(x1(t),・・・,xn(t))と表す。なお、運転データxは、例えば、サンプリング周期毎に運転データ収集部201によって収集される。
【0025】
診断部202は、監視対象設備21の正常状態を表す運転データxの集合を用いてMSPCの手法により異常診断モデルを作成し、診断モデル記憶部207に保存する。また、診断部202は、診断モデル記憶部207に保存されている異常診断モデルと、運転データ記憶部206に保存されている最新の時刻インデックスの運転データxとを用いて異常指標値としてQ値を算出し、診断結果記憶部208に保存する。ここで、一般に、異常診断モデルは監視対象設備21がオフラインであるときに作成される。一方で、Q値は監視対象設備21のオンライン中に逐次的に算出(例えば、運転データxのサンプリング周期毎に逐次的に算出)される。なお、異常指標値と予め決められた閾値との比較によって監視対象設備21の異常有無が診断される。例えば、予め決められた閾値をth1,th2(ただし、0<th1<th2)として、Q値が閾値th1以下の場合は「正常」、Q値が閾値th1を超えており、かつ、閾値th2以下である場合は「警告」、Q値が閾値th2を超えている場合は「異常」と診断される。
【0026】
以下、時刻インデックスtの運転データx(t)から算出されたQ値をQ(t)と表す。また、Q(t)の変数xiに関する寄与度をQi(t)と表す。なお、Q(t)=Q1(t)+・・・+Qn(t)と表される。
【0027】
区間設定部203は、Q値推移グラフ、寄与度推移グラフ及び計測値推移グラフを描画する際の時間区間を設定する。
【0028】
間引き処理部204は、区間設定部203によって設定された時間区間と、パラメータ記憶部209に記憶されているパラメータとを用いて、間引き度合いを決定する。また、間引き処理部204は、当該間引き度合いを用いて、LTTBアルゴリズム等により、当該時間区間に含まれる時刻の時刻インデックスを持つQ値、寄与度及び計測値を間引く。このとき、間引き処理部204は、Q値、寄与度及び計測値で同一の時刻インデックスを持つようにデータ(Q値、寄与度及び計測値)を間引く。これにより、データ数を削減しつつ、同一の時刻インデックスに関してQ値、寄与度及び計測値の相互関係の確認が可能なQ値推移グラフ、寄与度推移グラフ及び計測値推移グラフの描画が可能となる。なお、LTTBアルゴリズムによって時系列的な形状(つまり、時系列データとして表現したときの波形)が損なわれないようにデータ(Q値、寄与度及び計測値)を間引くことが可能となる。
【0029】
表示制御部205は、間引き処理部204による間引き後のQ値、寄与度及び計測値をそれぞれQ値推移グラフ、寄与度推移グラフ及び計測値推移グラフとして分析画面上に描画する。
【0030】
運転データ記憶部206は、運転データ収集部201によって収集された運転データxが記憶される。なお、運転データ記憶部206に記憶されている運転データxは、必要に応じて何等かの前処理が行われていてもよい。前処理としては、例えば、欠損値補間や正規化等が挙げられる。
【0031】
診断モデル記憶部207は、診断部202によって作成された異常診断モデルを記憶する。
【0032】
診断結果記憶部208は、診断部202によって算出されたQ値及びその寄与度を記憶する。
【0033】
パラメータ記憶部209は、LTTBアルゴリズムのパラメータ(例えば、上限データ数等)を記憶する。上限データ数とは、データ(Q値、寄与度及び計測値)を推移グラフとして描画する際に使用可能なデータ数の上限のことである。
【0034】
なお、本実施形態に係る監視装置10は、
図3に示した各部以外にも様々な機能を実現する機能部や記憶部を有していてもよい。例えば、本実施形態に係る監視装置10は、診断部202によって「異常」と診断された場合に、その旨をメール等で通知するといった後処理を実現する「後処理部」を有していてもよい。
【0035】
<推移グラフ描画処理>
以下、本実施形態に係る推移グラフ描画処理について、
図4を参照しながら説明する。
【0036】
区間設定部203は、Q値推移グラフ、寄与度推移グラフ及び計測値推移グラフを描画する際の時間区間を設定する(ステップS101)。ここで、時間区間は、オペレータ端末30の利用しているオペレータ等によって指定又は選択されてもよいし、予め決められた時間区間(例えば、現在日時から過去所定の時間幅の時間区間等)が設定されてもよい。なお、時間区間は、例えば、開始日時と終了日時のペアで表される。以下、当該時間区間に含まれる運転データxの数をM〔個〕とする。Mは、例えば、当該時間区間をΔT〔秒〕、運転データxのサンプリング周期をΔt〔秒〕として、M=ΔT/Δtと表される。
【0037】
間引き処理部204は、上記のステップS101で設定された時間区間と、パラメータ記憶部209に記憶されているパラメータに含まれる上限データ数とを用いて、間引き度合いを決定する(ステップS102)。例えば、上限データ数がN〔個〕であるものとする。このとき、間引き処理部204は、M>Nである場合は間引き度合いをN/Mと決定し、M≦Nである場合は間引き度合いを1(つまり、間引きしない)と決定する。ただし、これは一例であって、間引き処理部204は、M>Nである場合、予め決められた複数の間引き度合い(例えば、1/5、1/10、1/100、1/1000等)の中からN/Mと最も近い間引き度合いを決定してもよい。又は、間引き処理部204は、M>Nである場合、予め決められた複数の間引き度合いの中からオペレータ端末30の利用しているオペレータに選択させてもよい。以下、本ステップで決定された間引き度合いをαとする。
【0038】
間引き処理部204は、上記のステップS102で決定された間引き度合いαを用いて、上記のステップS101で設定された時間区間に含まれる時刻の時刻インデックスを持つQ値に対してLTTBアルゴリズムにより間引き処理を実行する(ステップS103)。例えば、上記のステップS101で設定された時間区間ΔTに含まれる時刻の時刻インデックスを持つQ値の集合をE={Q(t)|t∈ΔT}とする。このとき、間引き処理部204は、LTTBアルゴリズムにより、Q値集合Eのデータ数|E|がα|E|となるように間引きを行う。なお、LTTBアルゴリズムではQ値集合Eに含まれるデータの時系列的な形状(つまり、時系列データとして表現したときの波形)が損なわれないようにデータを間引くことができる。
【0039】
以下、本ステップにおける間引き後のQ値集合をE'={Q(t)|t∈R}とする。ここで、Rは本ステップにおける間引き後のQ値の時刻インデックス集合である。なお、LTTBアルゴリズムでは、時間区間ΔTの開始日時を表す時刻インデックスと終了日時を表す時刻インデックスが必ず時刻インデックス集合Rに含まれる。
【0040】
そして、表示制御部205は、上記のステップS103における間引き後のQ値集合E'={Q(t)|t∈R}の時刻インデックス集合Rを用いて、Q値推移グラフ、寄与度推移グラフ及び計測値推移グラフを分析画面上に描画する(ステップS104)。すなわち、表示制御部205は、Q値集合E'={Q(t)|t∈R}に含まれるQ値Q(t)をプロットすることによりQ値推移グラフを分析画面上に描画する。同様に、表示制御部205は、寄与度の積算値の集合{Q1(t)+・・・+Qn(t)|t∈R}をプロットすることにより寄与度推移グラフを分析画面上に描画する。同様に、表示制御部205は、或る計測値xjに関して、その計測値集合{xj(t)|t∈R}をプロットすることにより計測値推移グラフを分析画面上に描画する。
【0041】
このように、元の時系列データ(Q値集合、寄与度の積算値の集合、計測値集合)の形状を或る程度維持したまま、少ないデータ数で推移グラフを描画することができる。このため、グラフ描画に要する時間を削減したり、データ数が多すぎることにより描画自体が困難になる事態を回避したりすることが可能となる。また、このとき、間引き後のデータの時刻インデックス集合として共通の時刻インデックス集合Rを用いるため、同一の時刻インデックスにおけるQ値とその寄与度と或る計測値とが必ず描画され、これらのデータ間の相互関係を分析することが可能となる。
【0042】
<推移グラフの描画例>
以下、分析画面上に描画されるQ値推移グラフ、寄与度推移グラフ及び計測値推移グラフの一例について説明する。
【0043】
・Q値推移グラフ
Q値推移グラフの一例を
図5に示す。
図5に示すQ値推移グラフ1100は、2022-08-12 00:00:00.000から2022-08-31 00:00:00.000までを時間区間ΔTとして、上記のステップS103における間引き後のQ値集合E'={Q(t)|t∈R}をグラフとして描画したものである。なお、
図5に示す例では閾値th
1及びth
2も描画されており、オペレータは、Q値と閾値th
1及びth
2とを容易に比較することができる。
【0044】
なお、例えば、上限データ数N=30000〔個〕、サンプリング周期Δt=2〔秒〕である場合、N=ΔT/Δt=864000である。このため、間引き処理を行わない場合はグラフとしての描画は困難であるが、
図5に示す例では、LTTBアルゴリズムにより、元の時系列データの形状を維持したまま、グラフとしての描画が可能になっている。
【0045】
・寄与度推移グラフ
寄与度推移グラフの一例を
図6に示す。
図6に示す寄与度推移グラフ1200は、2022-08-12 00:00:00.000から2022-08-31 00:00:00.000までを時間区間ΔTとして、寄与度の積算値の集合{Q
1(t)+・・・+Q
4(t)|t∈R}をグラフとして描画したものである。また、
図6に示す例では、x
1は圧力、x
2は流量、x
3は温度、x
4は電圧をそれぞれ表す変数である。
【0046】
・計測値推移グラフ
計測値推移グラフの一例を
図7に示す。
図7に示す計測値推移グラフ1300は、2022-08-12 00:00:00.000から2022-08-31 00:00:00.000までを時間区間ΔTとして、流量の計測値集合{x
2(t)|t∈R}をグラフとして描画したものである。
【0047】
なお、上記のQ値推移グラフ1100、寄与度推移グラフ1200及び計測値推移グラフ1300は同一の分析画面上に並列に描画されることを想定しているが、これに限られるものではなく、相互に表示を切り替え可能に描画されてもよい。また、計測値推移グラフ1300は各変数の計測値が切り替え可能に描画される。
【0048】
<変形例>
以下、本実施形態の変形例についていくつか説明する。
【0049】
・変形例1
上記の実施形態では、MSPCの手法により異常診断モデルを作成し、異常指標値としてQ値を想定しているが、異常診断モデル及び異常指標値はこれに限られるものではない。例えば、異常診断モデルとして、LOF(Local Outlier Factor)、One Class SVM、分離フォレスト(isolation Forest)、INNE(isolation using Nearest Neighbour Ensemble)等が作成されてもよい。また、異常指標値としては、異常診断モデルに応じて異常度を測る適切な指標値が用いられてもよい。更に、Q値又はT2値以外の異常指標値が用いられる場合には、寄与度(又は、変数の重要度等と呼ばれてもよい。)は、LIME、SHAP、VAE等といったモデル解釈技術により算出されてもよい。
【0050】
・変形例2
図4のステップS103でLTTBアルゴリズムを実行する際に、運転データxのステータスに応じて、或る特定のQ値が間引かれないような制約を設けてもよい。例えば、ステータスとして異常診断結果(「正常」、「警告」、「異常」)が付与されている場合、閾値th
1を超えており、かつ、閾値th
2以下であるQ値と、閾値th
2を超えているQ値とが間引かれないような制約を設けてもよい。これにより、「警告」又は「異常」と診断された場合のQ値が間引かれないため、オペレータは、異常と診断された場合の原因分析等を精度良く行うことが可能となる。
【0051】
なお、ステータスは異常診断結果に限られず、例えば、「メンテナンス中」等といったステータスが存在してもよい。これにより、例えば、ステータスが「メンテナンス中」である運転データxのQ値が間引かれないようにすることができる。
【0052】
<まとめ>
以上のように、本実施形態に係る監視システム1は、LTTBアルゴリズムを利用して異常指標値やそれに対する各変数の寄与度、計測値等を推移グラフとして描画する際のデータ数を削減することができる。また、このとき、同一の時刻インデックスにおける異常指標値と寄与度と計測値とが存在するようにデータ数の削減が行われる。これにより、本実施形態に係る監視システム1では、グラフ描画の際の描画時間を削減したり、グラフとして描画できない事態を回避したりするだけでなく、異常と診断された際の分析を精度良く行うことが可能になる。
【0053】
本発明は、具体的に開示された上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載から逸脱することなく、種々の変形や変更、既知の技術との組み合わせ等が可能である。
【0054】
[参考文献]
参考文献1:加納 学,「多変量統計的プロセス管理」,インタネット<URL:http://manabukano.brilliant-future.net/research/report/Report2005_MSPC.pdf>
【符号の説明】
【0055】
1 監視システム
10 監視装置
20 施設
21 監視対象設備
22 計測器
23 制御装置
30 オペレータ端末
101 入力装置
102 表示装置
103 外部I/F
103a 記録媒体
104 通信I/F
105 RAM
106 ROM
107 補助記憶装置
108 プロセッサ
109 バス
201 運転データ収集部
202 診断部
203 区間設定部
204 間引き処理部
205 表示制御部
206 運転データ記憶部
207 診断モデル記憶部
208 診断結果記憶部
209 パラメータ記憶部