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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170977
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】インクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20241204BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20241204BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241204BHJP
   B41J 2/165 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
B41M5/00 100
C09D11/30
B41M5/00 120
B41J2/01 501
B41J2/165 307
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087780
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森山 晴加
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA16
2C056EA21
2C056FA04
2C056FA10
2C056FC01
2C056JB05
2C056JB15
2H186BA08
2H186DA10
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB58
4J039AD09
4J039AE04
4J039BC09
4J039EA36
4J039EA44
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】インクジェットヘッドのクリーニング性能を維持しつつ、吐出信頼性、摩擦堅牢性、洗濯堅牢性およびヘッド耐久性を有する、インクジェット記録方法を提供すること。
【解決手段】本発明のインクジェット記録方法は、ワイピング機構がインク組成物を吸収するためのインク吸収部材を有し、インク吸収部材がクリーニング液を保持するワイプユニットによりインクジェットヘッドのノズル面を拭き取る。インク組成物は、色材と、グリコール系溶剤を含む有機溶剤と、樹脂と、水とを含む。有機溶剤におけるグリコール系溶剤の含有量は、有機溶剤全体に対して50質量%以上である。樹脂のガラス転移点は、-70~0℃の範囲内である。樹脂の含有量は、インク組成物全体に対して5~15質量%の範囲内である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク組成物と、ワイピング機構を有するインクジェット記録装置とを用いて、記録媒体上に画像形成するインクジェット記録方法であって、
前記ワイピング機構は、前記インク組成物を吸収するためのインク吸収部材を有し、前記インク吸収部材がクリーニング液を保持するワイプユニットによりインクジェットヘッドのノズル面を拭き取り、
前記インク組成物は、色材と、グリコール系溶剤を含む有機溶剤と、樹脂と、水とを含み、
前記有機溶剤におけるグリコール系溶剤の含有量は、前記有機溶剤全体に対して50質量%以上であり、
前記樹脂のガラス転移点は、-70~0℃の範囲内であり、
前記樹脂の含有量は、前記インク組成物全体に対して5~15質量%の範囲内である、
インクジェット記録方法。
【請求項2】
前記樹脂を用いた被膜強度は、50MPa以下である、請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記樹脂は、ウレタン樹脂粒子またはアクリル樹脂粒子である、請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記樹脂のガラス転移点は、-70~-30℃の範囲内である、請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記有機溶剤の標準沸点は、250℃以上であり、
標準沸点が250℃以上の前記有機溶剤の含有量は、前記インク組成物全体に対して3~15質量%の範囲内である、
請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、布用のインクジェットプリンターでは、プリントヘッドのノズルからプラテン上の布帛(記録媒体)にインク滴(液体)を吐出して、絵柄をプリントする。カラープリントの場合、プリントヘッドは、例えばシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4原色をそれぞれ吐出するためのインクジェットヘッドを有している(例えば、特許文献1参照)。そして、各インクジェットヘッドから吐出されるインクドットの組合せによって、多様な色彩および絵柄を表現している。なお、インクジェットヘッドは、メンテナンス装置によりクリーニングするように構成されている(例えば、特許文献2、3参照)。
【0003】
特許文献1には、インクジェット用捺染インクが記載されている。特許文献1に記載のインクジェット用捺染インクは、水と、顔料と、有機溶剤と、ポリカーボネートウレタン樹脂粒子とを有する。インクジェット用捺染インクは、水性であることにより吐出安定性を高め、ポリカーボネートウレタン樹脂粒子を含むことで、捺染物の摩擦堅牢性を高めている。
【0004】
特許文献2には、洗浄液を含むクリーニングローラを含むヘッドクリーニング装置を有する液体吐出装置が記載されている。特許文献1に記載の液体吐出装置では、ヘッドクリーニング装置により、インクヘッドをクリーニングするようになっている。
【0005】
特許文献3には、ヘッドのノズル面を拭き取るワイピング機構を備えたインクジェットプリンタが記載されている。インクジェットプリンタに使用される水性のインクは、水と、色材と、バインダー樹脂と、水溶性有機溶剤とを含む。特許文献2に記載のインクジェットプリンタでは、ヘッドのノズル面に付着したインクをワイピング機構により拭き取る。
【0006】
特許文献2のヘッドクリーニング装置および特許文献3のワイピング機構では、洗浄液を含むことにより、ヘッドの耐久性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-123235号公報
【特許文献2】特開2005-161870号公報
【特許文献3】特開2012-179825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば、特許文献1に記載のインクジェット用捺染インクを、特許文献2の液体吐出装置または特許文献3に記載のインクジェットプリンタに使用した場合、インクジェットヘッドの耐久性については、改善の余地がある。
【0009】
そこで、本発明の課題は、インクジェットヘッドに対するクリーニング性能を維持しつつ、吐出信頼性、摩擦堅牢性およびヘッド耐久性を有する、インクジェット記録方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施の形態に係るインクジェット記録方法は、インク組成物と、ワイピング機構を有するインクジェット記録装置とを用いて、記録媒体上に画像形成するインクジェット記録方法であって、前記ワイピング機構は、前記インク組成物を吸収するためのインク吸収部材を有し、前記インク吸収部材がクリーニング液を保持するワイプユニットによりインクジェットヘッドのノズル面を拭き取り、前記インク組成物は、色材と、グリコール系溶剤を含む有機溶剤と、樹脂と、水とを含み、前記有機溶剤におけるグリコール系溶剤の含有量は、前記有機溶剤全体に対して50質量%以上であり、前記樹脂のガラス転移点は、-70~0℃の範囲内であり、前記樹脂の含有量は、前記インク組成物全体に対して5~15質量%の範囲内である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ヘッドのクリーニング性能を維持しつつ、吐出信頼性、摩擦堅牢性およびヘッド耐久性を有する、インクジェット記録方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明に係るワイプユニットを適用したインクジェット記録装置の概略構成を示した斜視図である。
図2図2は、ワイプユニットへのクリーニング液の供給方法を説明するための斜視図である。
図3図3は、ワイプユニットのインクジェットヘッドへの圧接状態を示す要部斜視図である。
図4図4A、Bは、シート状可撓性部材の固定状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施の形態のインクジェット記録方法は、インク組成物と、ワイピング機構を備えたインクジェット記録装置とを用いて、記録媒体上に画像形成するインクジェット記録方法であって、ワイピング機構は、インク組成物を吸収するためのインク吸収部材を有し、インク吸収部材がクリーニング液を保持するワイプユニットによりインクジェットヘッドのノズル面を拭き取り、インク組成物は、色材と、樹脂と、有機溶剤と、水とを含有し、有機溶剤におけるグリコール系溶剤の含有量は、有機溶剤全体に対して50質量%以上であり、樹脂のガラス転移温度は、-70~0℃の範囲内であり、樹脂の含有量は、インク組成物全体に対して5~15質量%の範囲内である。なお、以下の説明において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用する。
【0014】
[インク組成物]
本実施の形態におけるインクジェット記録方法で用いるインク組成物について説明する。本実施の形態におけるインク組成物は、色材と、有機溶剤と、樹脂と、水を含む。
【0015】
<色材>
色材は、特に限定されない。色材の例には、染料または顔料が含まれる。
【0016】
(顔料)
顔料の例には、カラーインデックスに記載される下記番号の有機顔料または無機顔料が含まれる。
【0017】
赤またはマゼンタ顔料(マゼンタまたはレッド(赤)顔料)の例には、Pigment Red 3、5、19、22、31、38、43、48:1、48:2、48:3、48:4、48:5、49:1、53:1、57:1、57:2、58:4、63:1、81、81:1、81:2、81:3、81:4、88、104、108、112、122、123、144、146、149、166、168、169、170、177、178、179、184、185、208、216、226、257、Pigment Violet 3、19、23、29、30、37、50、88、Pigment Orange 13、16、20、36が含まれる。
【0018】
青またはシアン顔料(シアンまたはブルー(青)顔料)の例には、Pigment Blue 1、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17-1、22、27、28、29、36、60が含まれる。
【0019】
緑顔料(グリーン(緑)顔料)の例には、Pigment Green 7、26、36、50が含まれる。黄顔料(イエロー(黄)顔料)の例には、Pigment Yellow 1、3、12、13、14、17、34、35、37、55、74、81、83、93、94,95、97、108、109、110、137、138、139、153、154、155、157、166、167、168、180、185、193が含まれる。
【0020】
黒顔料(ブラック(黒)顔料)の例には、Pigment Black 7、28、26が含まれる。
【0021】
白顔料の例には、二酸化チタンが含まれる。
【0022】
顔料は、インク中における分散性を高める観点から、顔料分散剤でさらに分散されていることが好ましい。顔料分散剤については、後述する。
【0023】
また、顔料は、自己分散性顔料でもよい。自己分散性顔料は、顔料粒子の表面を、親水性基を有する基で修飾したものであり、顔料粒子と、その表面に結合した親水性を有する基とを有する。
【0024】
親水性基の例には、カルボキシル基、スルホン酸基、リン含有基が含まれる。リン含有基の例には、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、ホスファイト基、ホスフェート基が含まれる。
【0025】
自己分散性顔料の市販品の例には、Cab-0-Jet(登録商標)200K、250C、260M、270V(スルホン酸基含有自己分散性顔料)、Cab-0-Jet(登録商標)300K(カルボン酸基含有自己分散性顔料)、Cab-0-Jet(登録商標)400K、450C、465M、470V、480V(リン酸基含有自己分散性顔料)(いずれもCabot製)が含まれる。
【0026】
顔料の市販品の例には、クロモファインイエロー2080、5900、5930、AF-1300、2700L、クロモファインオレンジ3700L、6730、クロモファインスカーレット6750、クロモファインマゼンタ6880、6886、6891N、6790、6887、クロモファインバイオレット RE、クロモファインレッド6820、6830、クロモファインブルーHS-3、5187、5108、5197、5085N、SR-5020、5026、5050、4920、4927、4937、4824、4933GN-EP、4940、4973、5205、5208、5214、5221、5000P、クロモファイングリーン2GN、2GO、2G-550D、5310、5370、6830、クロモファインブラックA-1103、セイカファストエロー10GH、A-3、2035、2054、2200、2270、2300、2400(B)、2500、2600、ZAY-260、2700(B)、2770、セイカファストレッド8040、C405(F)、CA120、LR-116、1531B、8060R、1547、ZAW-262、1537B、GY、4R-4016、3820、3891、ZA-215、セイカファストカーミン6B1476T-7、1483LT、3840、3870、セイカファストボルドー10B-430、セイカライトローズR40、セイカライトバイオレットB800、7805、セイカファストマルーン460N、セイカファストオレンジ900、2900、セイカライトブルーC718、A612、シアニンブルー4933M、4933GN-EP、4940、4973(大日精化工業製);KET Yellow 401、402、403、404、405、406、416、424、KET Orange 501、KET Red 301、302、303、304、305、306、307、308、309、310、336、337、338、346、KET Blue 101、102、103、104、105、106、111、118、124、KET Green 201(大日本インキ化学製);Colortex Yellow 301、314、315、316、P-624、314、U10GN、U3GN、UNN、UA-414、U263、Finecol Yellow T-13、T-05、Pigment Yellow1705、Colortex Orange 202、Colortex Red101、103、115、116、D3B、P-625、102、H-1024、105C、UFN、UCN、UBN、U3BN、URN、UGN、UG276、U456、U457、105C、USN、Colortex Maroon601、Colortex BrownB610N、Colortex Violet600、Pigment Red 122、ColortexBlue516、517、518、519、A818、P-908、510、Colortex Green402、403、Colortex Black 702、U905(山陽色素製);Lionol Yellow1405G、Lionol Blue FG7330、FG7350、FG7400G、FG7405G、ES、ESP-S(東洋インキ製)、Toner Magenta E02、Permanent RubinF6B、Toner Yellow HG、Permanent Yellow GG-02、Hostapeam BlueB2G(ヘキストインダストリ製);Novoperm P-HG、Hostaperm Pink E、Hostaperm Blue B2G(クラリアント製);カーボンブラック♯2600、♯2400、♯2350、♯2200、♯1000、♯990、♯980、♯970、♯960、♯950、♯850、MCF88、♯750、♯650、MA600、MA7、MA8、MA11、MA100、MA100R、MA77、♯52、♯50、♯47、♯45、♯45L、♯40、♯33、♯32、♯30、♯25、♯20、♯10、♯5、♯44、CF9(三菱化学製)が含まれる。
【0027】
(染料)
染料は、固体の染料であれば特に限定されない。染料は、例えば分散染料である。
【0028】
分散染料の例には、C.I.Disperse Yellow:3、4、5、7、9、13、23、24、30、33、34、42、44、49、50、51、54、56、58、60、63、64、66、68、71、74、76、79、82、83、85、86、88、90、91、93、98、99、100、104、108、114、116、118、119、122、124、126、135、140、141、149、160、162、163、164、165、179、180、182、183、184、186、192、198、199、202、204、210、211、215、216、218、224、227、231、232;C.I.Disperse Orange:1、3、5、7、11、13、17、20、21、25、29、30、31、32、33、37、38、42、43、44、45、46、47、48、49、50、53、54、55、56、57、58、59、61、66、71、73、76、78、80、89、90、91、93、96、97、119、127、130、139、142;C.I.Disperse Red:1、4、5、7、11、12、13、15、17、27、43、44、50、52、53、54、55、56、58、59、60、65、72、73、74、75、76、78、81、82、86、88、90、91、92、93、96、103、105、106、107、108、110、111、113、117、118、121、122、126、127、128、131、132、134、135、137、143、145、146、151、152、153、154、157、159、164、167、169、177、179、181、183、184、185、188、189、190、191、192、200、201、202、203、205、206、207、210、221、224、225、227、229、239、240、257、258、277、278、279、281、288、298、302、303、310、311、312、320、324、328、337、343;C.I.Disperse Violet:1、4、8、23、26、27、28、31、33、35、36、38、40、43、46、48、50、51、52、56、57、59、61、63、69、77;C.I.Disperse Green9;C.I.Disperse Brown:1、2、4、9、13、19;C.I.Disperse Blue:3、7、9、14、16、19、20、26、27、35、43、44、54、55、56、58、60、62、64、71、72、73、75、77、79、79:1、79:2、81、82、83、87、91、93、94、95、96、102、106、108、112、113、115、118、120、122、125、128、130、139、141、142、143、146、148、149、153、154、158、165、167、171、173、174、176、181、183、185、186、187、189、197、198、200、201、205、207、211、214、224、225、257、259、267、268、270、281、284、285、287、288、291、291:1、293、295、297、301、315、330、333、373;C.I.Disperse Black1、3、10、24が含まれる。
【0029】
分散染料は、インク組成物の構成成分に対して良好な分散性を有し、かつ耐候性に優れることから、顔料が好ましい。
【0030】
色材の含有量は、特に限定されない。色材の含有量は、インク組成物全量に対して4~15質量%の範囲内が好ましい。色材の含有量が4質量%以上であると、インク組成物の粘度を適度に高めるだけでなく、高濃度の画像を形成しやすい。色材の含有量が15質量%以下であると、インクの粘度が高くなりすぎないため、ノズル詰まりなどを生じにくい。色材の含有量は、同様の観点から、インク組成物全量に対して5~15質量%の範囲内が好ましく、6.5~12質量%の範囲内がより好ましい。
【0031】
<樹脂>
インク組成物は、樹脂を含む。樹脂のガラス転移点(Tg)は、-70~0℃の範囲内である。樹脂のガラス転移点(Tg)は、-70~-30℃の範囲内が好ましい。樹脂のガラス転移点(Tg)は、JIS K 7121に準拠して、示差走査熱量測定装置(株式会社島津製作所製、DSC-60A)を用いて測定した。示差走査熱量測定装置(株式会社島津製作所製、DSC-60A)を用いて測定できる。
【0032】
ガラス転移点が-70~0℃の範囲内の樹脂としては、例えば、ウレタン系樹脂、ブタジエン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリスチレン、スチレンアクリル樹脂、フルオレン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ロジン変性樹脂、テルペン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エチレン酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂などが含まれる。ブタジエン系樹脂の例には、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体が含まれる。アクリル系樹脂の例には、アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル共重合体、シリコン-アクリル共重合体、アクリル変性フッ素樹脂が含まれる。樹脂は、設計の自由度が高く、それゆえ所望の皮膜物性、すなわち、上記のガラス転移温度や皮膜伸度を得やすいことから、ウレタン系樹脂またはアクリル系樹脂が好ましい。
【0033】
アクリル系樹脂としては、アクリル酸、アクリル酸エステルなどのアクリル系単量体の重合体や、アクリル系単量体と他の単量体との共重合体などが使用可能であり、他の単量体としてはスチレンなどのビニル系単量体があげられる。アクリル系樹脂の市販品の例には、モビニール6750、6751D、6940、7525、6969D(いずれも日本合成化学株式会社)、ビニブラン2682(日信化学工業株式会社)、モビニール6969D(日本合成化学工業株式会社)が含まれる。
【0034】
スチレン-アクリル共重合体の例には、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体が含まれる。(メタ)アクリル酸エステルの例には、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシルカルビトール(メタ)アクリレート、フェノールEO変性(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートが含まれる。
【0035】
ウレタン系樹脂は、ポリオールと、ポリイソシアネートとを反応させて得られる重合体であり、ウレタン骨格を有し水分散性を有するものであれば特に限定はされない。ポリオールの例には、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(エチレンアジペート)、ポリ(ジエチレンアジペート)、ポリ(プロピレンアジペート)、ポリ(テトラメチレンアジペート)、ポリ(ヘキサメチレンアジペート)、ポリ-ε-カプロラクトン、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)、シリコーンポリオールが含まれる。イソシアネートの例には、トリレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、水素化トリレンジイソサネート、水素化4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートが含まれる。
【0036】
ウレタン系樹脂の市販品の例には、スーパーフレックス 300、460、460s、470、610、170、E4800(いずれも第一工業製薬株式会社)、レザミン D-1060、D-2020、D-4080、D-4200、D-6300、D-6455(いずれも大日精化工業株式会社)、タケラック W-6110、WS-6021(いずれも三井化学ポリウレタン株式会社)、ボンタイターHUX-380(株式会社ADEKA製)、ユーコートUX-150(三洋化成工業株式会社)が含まれる。
【0037】
ポリエステル樹脂の市販品の例には、アロンメルトPES-2005(東亜合成社製)が含まれる。
【0038】
また、ウレタン系樹脂としては、ウレタン結合以外に、主鎖にエーテル結合を含むポリエーテル系ウレタン樹脂、主鎖にエステル結合を含むポリエステル系ウレタン樹脂、主鎖にカーボネート結合を含むポリカーボネート系ウレタン樹脂なども使用できる。これらのウレタン系樹脂は、複数種を組み合わせて使用することができる。摩擦堅牢性が良好となる点で、ポリカーボネート系ウレタン樹脂を用いることが好ましい。
【0039】
本発明に係る樹脂の酸価は、特に制限されないが、摩擦堅牢性を高める観点などから、15~100mgKOH/gの範囲内が好ましく、20~80mgKOH/gの範囲内がより好ましい。酸価は、JIS K 0070に準じて測定できる。
【0040】
本発明に係る樹脂の平均粒子径は、特に制限されないが、インクジェットヘッドのノズル詰まりを生じにくくする観点から、300nm以下が好ましく、130nm以下がより好ましい。樹脂の平均粒子径は、レーザ回折散乱式粒子径分布測定で測定できる。
【0041】
樹脂の含有量は、インク組成物全量に対して5~20質量%の範囲内である。樹脂の含有量は、インク組成物全量に対して7~15質量%の範囲内が好ましい。樹脂の含有量が5質量%以上であると、インクの粘度を適度に高めやすいため、射出安定性をより高めうるだけでなく、得られる画像の布帛への密着性や耐擦過性も高めやすい。樹脂の含有量が15質量%以下であると、インクの粘度が高くなりすぎないため、ノズル詰まりなどを生じにくい。また、テキスタイル用途などでのプリント物の摩擦堅牢性、洗濯堅牢性および柔軟性を付与させることができる。
【0042】
樹脂を用いた被膜強度は、特に限定されない。樹脂を用いた被膜強度は、50MPa以下が好ましい。樹脂を用いた被膜強度は、例えば以下の方法により測定できる。乾燥後の平均膜厚が500μmになるように、ポリテトラフルオロエチレンシート上に水分散性樹脂粒子(樹脂粒子)を塗布し、常温(25℃)で15時間乾燥し、さらに80℃で6時間乾燥後、120℃で20分間乾燥した後、ポリテトラフルオロエチレンシートから剥離して、水分散性樹脂フィルムを得た。テンシロン万能試験機(RTC-1225A;株式会社オリエンテック製)を用いて、測定温度が20℃、測定スピードが200mm/minにて、得られた水分散性樹脂フィルムの皮膜強度を測定した。なお、皮膜強度は破断時の強度とした。このように、被膜強度が50MPa以下となる樹脂の市販品の例は、以下に示すとおりである。ポリエステル樹脂の市販品の例には、アロンメルトPES-2005(東亜合成社製)が含まれる。ウレタン系樹脂の市販品の例には、スーパーフレックス 300、460s、470、E4800(いずれも第一工業製薬株式会社)、ボンタイターHUX-380(株式会社ADEKA)、ユーコートUX-150(三洋化成工業株式会社)が含まれる。アクリル系樹脂の市販品の例には、モビニール6969D(日本合成化学工業株式会社)が含まれる。
【0043】
<有機溶剤>
インク樹脂組成物は、有機溶剤を有する。有機溶剤は、グリコール系溶剤を含む。有機溶剤の種類は、グリコール系溶剤を含めば特に限定されない。グリコール系溶剤の例には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの2価のアルコール類、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの3価以上のアルコール類;多価アルコールエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルが含まれる。
【0044】
その他の有機溶剤の例には、1価アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール);アミン類(例えば、エタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モルホリン、N-エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン);アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド);複素環類(例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、2-オキサゾリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジン)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド);およびスルホン類(例えば、スルホラン)が含まれる。
【0045】
有機溶剤におけるグリコール系溶剤の含有量は、有機溶剤全体に対して50質量%以上である。有機溶剤におけるグリコール系溶剤の含有量が有機溶剤全体に対して50質量%以上であれば、ヘッド耐久性およびクリーニング性を良好にできる。
【0046】
有機溶剤は、標準沸点(1気圧下での沸点)が、250℃以上の有機溶剤が好ましい。250℃以上の有機溶剤を用いることで、インク組成物の粘度を適度に高めやすくすることができる。また、インクジェットヘッドのノズル面の乾燥を防ぎ、目詰まり防止や吐出安定性を高めることができる。標準沸点が250℃以上の有機溶剤の例には、グリセリン、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、トリメチロールプロパンが含まれる。
【0047】
標準沸点が250℃以上の有機溶剤の総含有量は、インク組成物全量に対して3~15質量%の範囲内が好ましい。有機溶剤の含有量を上記の範囲内にすることにより、インク組成物の粘度を高めやすく、またノズルの目詰まりを抑制し、インク組成物を安定して吐出できる。
【0048】
(水)
水の例には、イオン交換水、蒸留水、純水等が含まれる。水の含有量は、インク組成物全量に対して、30~85質量%の範囲内が好ましく、40~70質量%の範囲内がより好ましい。
【0049】
<その他の成分>
本発明に係るインク組成物は、必要に応じて他の成分をさらに含みうる。他の成分の例には、高分子分散剤、溶剤、界面活性剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤、pH調整剤が含まれる。
【0050】
(高分子分散剤)
本発明に係るインク組成物は、顔料を分散させやすくする観点から、高分子分散剤をさらに含んでいてもよい。
【0051】
高分子分散剤の種類は、特に制限されない。高分子分散剤の例には、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン誘導体、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマル酸、フマル酸誘導体から選ばれた二種以上の単量体からなるブロック共重合体、ランダム共重合体およびこれらの塩、ポリオキシアルキレン、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが含まれる。
【0052】
高分子分散剤がカルボキシル基などの酸性基を有する場合、その酸性基は、中和塩基で中和されていることが好ましい。中和塩基の例には、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリンなどの有機塩基が含まれる。
【0053】
高分子分散剤の含有量は、インク組成物全量に対して4質量%以下が好ましく、0.8~2質量%であることがより好ましい。高分子分散剤の含有量が0.8質量%以上であると、顔料などの色材の分散性を十分に高めやすく、4質量%以下であると、粘度の過剰な上昇を抑制しやすい。
【0054】
(界面活性剤)
本発明に係るインク組成物は、その表面張力を制御するため、界面活性剤をさらに含んでいてもよい。
【0055】
界面活性剤の例には、アニオン系の界面活性剤、カチオン系の界面活性剤、両性の界面活性剤、ノニオン系の界面活性剤が含まれる。アニオン系の界面活性剤の例には、脂肪酸塩、アルキル硫酸塩、アルキル硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、アルキルナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩が含まれる。カチオン系の界面活性剤の例には、アミン塩、テトラアルキル4級アンモニウム塩、トリアルキル4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルキノリニウム塩が含まれる。ノニオン系の界面活性剤の例には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリプロピレングリコールのエチレンオキサイド付加物、アセチレングリコール、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物が含まれる。
【0056】
(防腐剤、防黴剤)
防腐剤または防黴剤の例には、芳香族ハロゲン化合物(例えば、Preventol CMK;ランクセス社製)、メチレンジチオシアナート、含ハロゲン窒素硫黄化合物、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン(例えば、PROXEL(登録商標)GXL;ロンザ社製)が含まれる。
【0057】
(pH調整剤)
pH調整剤の例には、公知の酸、塩基およびバッファが含まれ、アンモニア、クエン酸、クエン酸ナトリウム、塩酸、水酸化ナトリウムなどが含まれる。
【0058】
[インクジェット記録装置]
次に、本発明のインクジェット記録方法で用いるインクジェット記録装置について説明する。本実施の形態におけるインクジェット記録装置は、インクジェットヘッドを有する。インクジェットヘッドは、オンデマンド方式でもコンティニュアス方式でもよい。また、インクジェット記録装置の吐出方式は、電気-機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気-熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型など)などいずれの吐出方式でもよい。
【0059】
インクジェット記録装置は、ワイピング機構を有する。ワイピング機構は、インク組成物を吸収するためのインク吸収部材を有する。インク吸収部材は、クリーニング液を保持するワイプユニットによりインクジェットヘッドのノズル面を拭き取る。
【0060】
以下、本実施の形態のインクジェット記録方法に適用可能なインクジェット記録装置と、インクジェット記録装置が有するワイピング機構などについて説明する。なお、インクジェットヘッドのノズル面を、クリーニング液を保持しているインク吸収部材でワイピングし、吐出の安定性を保つことができれば、ここで例示する形態に限定されない。
【0061】
図1は、本発明に係るワイプユニットを適用したインクジェット記録装置1の概略構成を示した斜視図である。
【0062】
図1に示されるように、インクジェット記録装置1には、記録媒体Pを下方から支持するプラテン2が水平となるように配置されている。プラテン2の上方には、キャリッジ5が設けられている。キャリッジ5は、水平に延在するガイドレール(図示せず)に沿って、記録媒体Pの搬送方向である副走査方向Aに直交する主走査方向Bに複数のインクジェットヘッド4を走査させる。
【0063】
キャリッジ5は、図示しない駆動プーリと遊転プーリとの間に掛け渡されたタイミングベルトに接続されている。そして、駆動プーリは、走査用モータの回転軸に接合されている。このため、キャリッジ5は、走査用モータが駆動すると主走査方向Bに移動する。
【0064】
複数のインクジェットヘッド4は、インクジェット記録装置1で使用される各色のインク組成物をそれぞれ記録媒体Pに向けて吐出する。各インクジェットヘッド4の内部には、インク組成物を吐出する複数のノズルが副走査方向Aに沿って列状に設けられている。そして、インクジェットヘッド4の記録媒体Pと対向する面は、これらノズルが形成されたノズル面となっている。ノズル面は、インクが付着し難いように、FEP(フッ化エチレンプロピレン樹詣)などのフッ素加工処理またはシリコン加工処理を施すなど、撥インク処理が施されていることが好ましい。
【0065】
これらのインクジェットヘッド4には、例えばイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色のインクを貯留する複数のインクタンク6が接続されている。このような各色のインク組成物には、本実施の形態におけるインク組成物が用いられる。インクタンク6は、インク組成物を導くインク流路7を介してインクジェットヘッド4に接続されている。
【0066】
さらに、図示しないが、これらのインクジェットヘッド4には、例えば吐出エネルギー発生手段およびその駆動回路等が一体的に組み込まれている。吐出エネルギー発生手段は、例えば、各インクジェットヘッド4に対応したインク吐出動作をノズルから行わせるための圧電素子である。
【0067】
また、プラテン2の側方には、インクジェットヘッド4のメンテナンスを行うワイプユニット13と吸引ユニット14が設けられている。このワイプユニット13と吸引ユニット14は、それぞれ同期して上下方向および水平方向に移動可能に構成されている。
【0068】
また、ワイプユニット13には、インク吸収部材50と、シート状可撓性部材51が箱形の筐体52内に設けられている。インク吸収部材50は、上方に向かって凸状に延出している。シート状可撓性部材50は、インク吸収部材50を支持する。ワイプユニット13自体を図示しないモータなどの駆動源により上方向に移動させた後、インクジェットヘッド4をB方向に移動させる。これにより、このインク吸収部材50とノズル面41とが接触した状態で、インク吸収部材50がインクジェットヘッド4のノズル面41を摺擦する。そして、ノズル面41全体に付着したインク組成物やクリーニング液などを除去するようになっている。ワイピング動作が終了したならば、ワイプユニット13を下降させ、インク吸収部材50とノズル面41との接触状態を解除する。
【0069】
また、インクジェットヘッド4のノズル内のインク組成物を吸引する吸引ユニット14には、吸引ユニット14の昇降に応じて、インクジェットヘッド4のノズル面41に接離されるキャップ15が設けられている。このキャップ15は、ノズル内のインク組成物を吸引する際には吸引ユニット14の上昇に伴ってノズル面41に密着するまで近接される。そして、ノズル面41に備わる全てのノズルを覆う。吸引が完了すると吸引ユニット14の下降に伴ってノズル面41から離間されるようになっている。キャップ15には、ノズル面41に密着した際に、キャップ15の凹部とノズル面41との間に形成される空間を吸引するためのポンプP1が接続されている。キャップ15とポンプP1とは、廃液流路17を介して接続されている。
【0070】
廃液流路17は、例えば、樹脂製チューブによって形成されている。ポンプP1は、所謂、チューブポンプが好適に用いられる。ポンプP1は、廃液流路17を構成する樹脂製チューブをローラーで挟み、このローラーをチューブに沿って移動させることでチューブ内の空気などをチューブの端部から排気するポンプである。
【0071】
本発明に係るワイプユニット13について、図3および図4を用いてさらに詳細に説明する。
【0072】
本発明に係るワイプユニット13は、箱型の筐体52を有している。筐体52の上面中央には、開口部が形成されている。
【0073】
図3は、ワイプユニットのインクジェットヘッド4への圧接状態を示す要部斜視図である。
【0074】
図3に示されるように、筐体52の内部であって主走査方向Bの一端には、インク吸収部材50を送り出す送り出し軸54が設けられている。また、筐体52の内部であって主走査方向Bの他端には、インク吸収部材50を巻き取る巻き取り軸55が配設されている。巻き取り軸55の下方には巻き取り軸55を回転駆動させる駆動源としてのモーター(図示せず)が設けられている。
【0075】
送り出し軸54には、長尺なシート状のインク吸収部材50がロール状に巻回されている。インク吸収部材50は、一定の張力を保った状態で送り出し軸54と巻き取り軸55との間に張設されるとともに一部が開口部から露出するようになっている。図1に示されるように、開口部から露出したインク吸収部材50は、ワイピング動作時にインクジェットヘッド4のノズル面41と対向するようになっている。インク吸収部材50は、巻き取り軸55が回転駆動するに伴って送り出し軸54から送り出される。そして、ノズル面41に接する側とは反対の側からインク吸収部材50を支持するシート状可撓性部材51に案内されて巻き取り軸55に巻き取られるようになっている。
【0076】
インク吸収部材50は、ワイピング動作を行うことによりインク組成物が付着すると、適宜巻き取り軸55に巻き取られて、開口部から未使用部分が露出するようになっている。インク吸収部材50を巻き取るタイミングは、1つのインクジェットヘッド4のワイピング動作を行うごとにインク吸収部材50を巻き取り軸55に巻き取るようにしてもよい。または、複数のインクジェットヘッド4のワイピング動作を行うごと、またはすべてのインクジェットヘッド4についてワイピング動作を終了したときにインク吸収部材50の巻き取りを行うようにしてもよい。このように、インク吸収部材50を巻き取る回数を減らすことにより、インク吸収部材50の消費量を抑えることができる。
【0077】
また、インク吸収部材50は、筐体52内部から取り外し可能となっている。インク吸収部材50をすべて使い切ったとき(未使用部分がなくなったとき)などには、筐体52内部から取り外して新たなインク吸収部材50に交換可能となっている。
【0078】
インク吸収部材50は、例えば、布やスポンジを用いることができる。布やスポンジは、その表面に接触するものを吸収しやすく、インクジェットヘッド4のノズル面に付着したインクを吸収除去する作用を強くできる。
【0079】
なお、インク吸収部材50は、少なくともインク組成物を吸収する部材であればよく、その材料はここに例示したものに限定されない。
【0080】
インク吸収部材50の大きさは、特に限定されない。ただし、ノズル面41の拭き取りなどのメンテナンス動作をむらなく行うために、少なくともメンテナンス動作の対象となるノズル面の全体を覆うことが可能な大きさに形成されている。すなわち、ノズル面41の幅寸法(副走査方向Aの長さ)よりも大きな幅寸法となるように形成されている。
【0081】
筐体52の内部であって、送り出し軸54と巻き取り軸55との間には、シート状可撓性部材51が、インク吸収部材50の下方においてノズル面に対向するように位置されている。また、シート状可撓性部材51は、送り出し軸54と巻き取り軸55との間に張設されている。
【0082】
シート状可撓性部材51の両端部は、シート状可撓性部材51をノズル面41側に凸となるように撓ませた状態で支持する第1支持部材56および第2支持部材57に取り付けられている。第1支持部材56および第2支持部材57は、略円筒状である。
【0083】
第1支持部材56および第2支持部材57は、シート状可撓性部材51の凸部の延在方向(副走査方向A)に直交する方向の両端部に配置されている。第1支持部材56および第2支持部材57は、図示しないモータなどの駆動源により、凸部の延在方向(副走査方向A)に沿った軸を中心に回転可能な状態で筐体52に取り付けられている。
【0084】
図4A、Bは、シート状可撓性部材51の固定状態を示すものである。図4Aは、押圧力が低い状態を示す断面図であり、図4Bは、押圧力が高い状態を示す断面図である。
【0085】
第1支持部材56および第2支持部材57は、その外周面の一部の平坦な領域にシート状可撓性部材51の端部を固定する固定部(支持位置)が配置されている。固定部には固定用孔が形成されている。図4に示されるように、シート状可撓性部材51は、固定用孔にねじ58、59によって第1支持部材56および第2支持部材57の固定部上に固定されている。
【0086】
なお、支持部材56、57の形状、配置、数は特に限定されない。また、シート状可撓性部材51を支持部材56、57に固定する構成などは、図示したものに限定されず、他の構成を適用できる。
【0087】
シート状可撓性部材51は、ワイピング動作時にノズル面41に接する側とは反対の側からインク吸収部材50を押圧してノズル面に接触させるものである。そのため、シート状可撓性部材51は、ワイピング動作の対象となる領域であるインクジェットヘッド4のノズル面41の幅寸法(副走査方向Aの寸法)よりも大きい幅寸法に形成されている。
【0088】
シート状可撓性部材51のインク吸収部材50と接触する面は、曲面に形成されている。シート状可撓性部材51の形状などはノズル面41側に凸であれば特に限定されないが、インク吸収部材50と接触する面上にほぼ曲面になるように固定されていることが好ましい。
【0089】
シート状可撓性部材51は、可撓性を有するゴムシート、金属シートまたは樹脂シートである。
【0090】
<クリーニング液のワイプユニットへの供給方法>
次に、本発明に係るワイプユニット13へのクリーニング液の供給方法について説明する。
【0091】
本発明のインクジェット記録方法では、インク組成物を吸収するインク吸収部材を使用する。そして、インク吸収部材は、クリーニング液を保持している。
【0092】
図2は、ワイプユニット13へのクリーニング液の供給方法を説明するための斜視図である。
【0093】
図1に示したプラテン2の側方には、クリーニング液タンク3と、送液路11と、クリーニング液供給弁(不図示)とが配置されている。クリーニング液タンク3は、クリーニング液を貯留できる。送液路11は、クリーニング液タンク3とワイプユニット13へのクリーニング液供給部分との間を連通する。クリーニング液供給弁は、送液路11の途中に配設されている。
【0094】
クリーニング液タンク3とワイプユニット13の間には、インク吸収部材50にクリーニング液を供給するための送液路11と、クリーニング液供給弁V3が配置されている。なお、クリーニング液供給弁V3は、送液路11の途中に配置されている。
【0095】
クリーニング液供給弁V3および空気リーク弁(不図示)は、開閉状態が電気的に制御可能なバルブである。、クリーニング液供給弁V3および空気リーク弁(不図示)は、例えば、電磁バルブである。
【0096】
送液路11は、クリーニング液供給弁V3の作動によってクリーニング液が流れる通路である。送液路11は、例えば樹脂製チューブである。
【0097】
クリーニング液タンク3は、ワイプユニット13の位置(インク吸収部材50の位置)およびキャップ15の位置よりも高い位置に配設されている。そのため、水頭差により容易にインク吸収部材50にクリーニング液を供給できる。
【0098】
クリーニング液供給弁V3は、送液路11の連通状態を制御する。すなわち、クリーニング液供給弁V3の開放状態では、クリーニング液タンク3内とワイプユニット13のインク吸収部材50とは送液路11を通じて連通する。したがって、クリーニング液供給弁V3を適宜開放させると、クリーニング液はインク吸収部材50に供給される。一方、クリーニング液供給弁V3の閉状態では、送液路11はクリーニング液供給弁V3の位置で遮断される。このため、クリーニング液タンク3内とインク吸収部材50との間も遮断される。
【0099】
本実施の形態では、クリーニング液タンク3と、送液路11と、クリーニング液供給弁V3とは、クリーニング液供給手段として機能する。
【0100】
図2に示されるように、具体的には、送液路11のインク吸収部材50側の先端には、クリーニング液噴射口53が設けられている。クリーニング液噴射口53近傍の送液路11は、図示しない駆動源により矢印方向(副走査方向A)に往復移動可能に構成される。
【0101】
インク吸収部材50の上方から退避した領域を退避領域とされ、クリーニング液をインク吸収部材50に供給しないときは、送液路11が退避領域に位置している。
【0102】
クリーニング液を供給するときは、送液路11は、退避領域から、インク吸収部材50の上方の一端部まで移動する。その後、クリーニング液供給弁V3を開放しながら、他端部まで移動する。これにより、ノズル面41に当接するインク吸収部材50の表面に副走査方向A全体に亘って、クリーニング液噴射口53から滴下したクリーニング液を供給する。
【0103】
<画像形成:加熱処理>
本実施の形態のインクジェットインク記録方法は、記録媒体の記録面側を加熱して記録することが好ましい。記録媒体の記録面側を加熱して記録することにより、高品位で画像耐久性が高い画像を形成するため、かつより高速での印字を達成できる。印字の際に、あらかじめ記録媒体を加熱しておくことにより、記録媒体へインクを付与した後、インクの乾燥性および増粘速度を向上させることができる、その結果、にじみを防止することにより、高画質が得られる。
【0104】
記録媒体の記録面側の表面温度は、35~90℃の範囲内が好ましく、40~60℃の範囲内がより好ましい。記録媒体の記録面側の表面温度を上記の範囲内となるように、温調、加熱することで、高画質と、十分な画像耐久性とが得やすい。さらに、記録媒体の記録面側の表面温度を上記の範囲内にすることで、乾燥時間を短縮でき、インク組成物の吐出性に大きな影響を与えることなく安定にプリントできる。
【0105】
加熱方法の例には、記録媒体搬送系またはプラテン部材に発熱ヒーターを組み込み、記録媒体下方より接触式で加熱する方法、ランプなどの輻射熱を利用し、下方または上方から非接触で加熱する方法が含まれる。
【0106】
さらに、必要に応じて、記録媒体上にインク組成物を吐出した後、不要な有機溶剤などを除去する目的で、乾燥工程を行ってもよい。インク組成物の乾燥方法は、特に限定されない。インク組成物の乾燥方法の例には、記録媒体の裏面を加熱ローラーまたはフラットヒータなどに接触させて乾燥させる方法や、記録面にドライヤーなどで温風を吹き付ける方法、または減圧処理により揮発成分を除去する方法などを適宜選択あるいは組み合わせて用いることができる。
【0107】
本発明の効果の発現機構または作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察される。ガラス転移点が低い樹脂を含むインク組成物は、固化しやすいため、ノズル面で乾燥固着すると、被膜化したインク固着物となる。クリーニング液を保持したワイプユニットを用いて、被膜化したインク固着物を除去するためには、ローラー圧を大きくしてノズル面を拭き取る必要がある。このとき、ワイプユニットを用いたクリーニングでは、ノズル面を損傷しやすく、ヘッド耐久性を得ることが難しかった。このため、クリーニング液を保持したワイプユニットを含むインクジェット記録装置に用いられるインク組成物には、積極的にガラス転移点の低い樹脂を用いることはなかった。
【0108】
しかしながら、ガラス転移点の低い樹脂と一緒に、インク組成物中にグリコール系溶剤を有機溶剤全量の50w%以上含有させると、乾燥して被膜化しやすいガラス転移点の低い樹脂のまわりに、極性が高く水酸基を持つグリコール類が、水素結合により配向するため、完全な被膜を形成せず、樹脂粒子まわりに溶剤がとりまいた状態で半被膜となる。この状態で形成された半被膜は、クリーニング液を保持したワイプユニットを用いてクリーニングするとき、インク吸収部材から、半被膜にメンテ液が付与されると、すばやく膨潤状態となり、より柔軟な半被膜になる。
【0109】
このような、柔軟な半被膜は、クリーニング液を保持したワイプユニットのローラーに追従しやすくなるため、より小さなローラー圧でヘッド面をクリーニングできる。その結果ヘッド耐久性が向上できたと推察している。また、本実施の形態では、ガラス転移点が-70~0℃の範囲内の樹脂を少なくとも含む。そのため、インク組成物中の色材や基材と樹脂が相互作用し、画像の基材定着性を向上させることができる。その結果、摩擦堅牢性に優れると推察される。
【実施例0110】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、下施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0111】
[インク組成物の構成成分]
インク組成物の調製に用いる各構成成分は、以下のとおりである。
<樹脂>
・ウレタン樹脂 (ユーコートUX-150、Tg:-70℃;三洋化成社製)
・ウレタン樹脂 (ユーコートUX-310、Tg:-25℃;三洋化成社製)
・ウレタン樹脂 (ユーコートDA-100、Tg:-80℃;三洋化成社製)
・ウレタン樹脂 (タケラックWS-6110、Tg:-20℃;三井化学社製)
・ウレタン樹脂 (タケラックWS-6021、Tg:-60℃;三井化学社製)
・ウレタン樹脂 (ボンタイターHUX-380、Tg:-5℃;アデカ社製)
・ウレタン樹脂 (スーパーフレックス150、Tg:40℃;第一工業社製)
・ウレタン樹脂 (スーパーフレックス300、Tg:-42℃;第一工業社製)
・ウレタン樹脂 (スーパーフレックス460S、Tg:-21℃;第一工業社製)
・ウレタン樹脂 (スーパーフレックス470、Tg:-31℃;第一工業社製)
・ウレタン樹脂 (スーパーフレックス840、Tg:5℃;第一工業社製)
・ウレタン樹脂 (スーパーフレックスE-4800、Tg:-65℃;第一工業社製)
・アクリル樹脂 (モビニール6969D、Tg:-50~-30℃;日本合成化学社製)
・アクリル樹脂 合成a(B53683、Tg:-50~-31℃)
・ポリエステル樹脂 (アロンメルトPES-2005、Tg:0℃;東亜合成社製)
【0112】
<アクリル樹脂 合成aの調製>
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を付けたセパラブルフラスコに、予めアニオン系活性剤(ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム:SDS)2.52gと炭酸ナトリウム0.58gをイオン交換水553gに溶解させた活性剤溶液を投入し、窒素気流下330rpmの撹拌速度で撹拌しつつ、内温を80℃に昇温させた。
一方、n-ブチルアクリレート(BA)156g、メタクリル酸メチル(MMA)44g、メタアクリル酸15.4g ジアセトンアクリルアミド11gを溶解させてモノマー溶液を調製した。
次いで、重合開始剤(過硫酸カリウム:KPS)0.07gをイオン交換水2.66gに溶解させた溶液を調製し、80℃にて加熱した。この溶液に、上記調製したモノマー溶液を60分かけて滴下、撹拌することで、樹脂粒子の分散体を作製した。
さらに、滴下終了後、120分間加熱撹拌した後、重合開始剤(過硫酸カリウム:KPS)0.07gをイオン交換水2.66gに溶解させた溶液をさらに加え、60分撹拌した後、40℃まで冷却して、アクリル樹脂 合成aを得た。
【0113】
<有機溶剤>
・エチレングリコール(標準沸点:197℃)
・プロピレングリコール(標準沸点:187℃)
・トリエチレングリコール(標準沸点:287.4℃)
・グリセリン(標準沸点:290℃)
・1,2-ヘキサンジオール(標準沸点:170℃)
・3-メトキシ-1-ブタノール(標準沸点:161℃)
・ジエチレングリコールモノブチルエーテル(標準沸点:231℃)
・アミノ酸類(トリプトファン、分子量204.1)
【0114】
<界面活性剤>
・アセチレン界面活性剤(オルフィン E-1010;日信化学工業社製)
【0115】
<顔料分散液>
顔料分散液としては、以下の顔料分散液1および2を用意した。
・顔料分散液1(Pigment Black 7含有)
(顔料分散液1の調製)
顔料分散剤として、DISPERBYK190(ビックケミー社)13.5質量部をエチレングリコール20質量部、イオン交換水48.5質量部に添加した。
この溶液に、ブラック顔料としてPigment Black 7を18.0質量部を添加し、プレミックスした。その後、0.5mmジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散し、顔料固形分が18.0質量%のブラック顔料分散液1を調製した。
・顔料分散液2:Cab-o-jet 400(自己分散顔料、Cabot社、ブラック水性顔料分散液)
【0116】
<水>
・イオン交換水
【0117】
[試料(インク組成物)の調製]
<試料1の調製>
下記表1に示す含有量(質量部)となるように、ウレタン樹脂、エチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビトール、アセチレン界面活性剤、顔料分散液1(Pigment Black 7)およびイオン交換水を混合した。その後、混合液を0.8μmのフィルターにより濾過して試料(インク組成物)1を調製した。
【0118】
<試料2~試料24の調製>
試料1の調製において、各試料の構成成分を下記表1~表3の組成となるように変更した以外は、同様にして試料2~試料24を調製した。
【0119】
[画像形成]
ノズル口径28μm、駆動周波数10kHz、ノズル数512、最小液適量14pl、ノズル密度180dpiであるピエゾ型のインクジェットヘッドに、上記調製した試料1~試料24をそれぞれ装填した。インクジェットヘッドの電極に、インク液滴の飛翔速度が6m/secとなるように調整した電圧で、パルス幅5μsecの駆動パルスを印加した。そして、インクジェットヘッドを3周期(インクチャネル2本おきに)駆動させた。これにより、塩化ビニル樹脂シートであるIJ180-10(住友スリーエム株式会社製)上に、表4に記載のワイピング操作a~cにしたがって、ベタ画像を連続で30分プリントした。この時の外部環境は25℃、50%RHであった。
【0120】
なお、下記表4に記載のワイピング操作の条件は以下のとおりである。
操作a:クリーニング液を付与したローラーによるワイピング操作
具体的には、インクジェットヘッドノズル面のワイピング操作は、ワイプユニットのポリエチレンテレフタレートフィルムに付勢されたポリエステル布を用いた。ポリエステル布に下記クリーニング液を染み込ませて、5mm/secの速さでピエゾ型のインクジェットヘッドのノズル面とポリエステル布を摺擦した。
【0121】
操作b:クリーニング液を付与しないローラーによるワイピング操作
具体的には、インクジェットヘッドのノズル面のワイピング操作は、ワイプユニットのポリエチレンテレフタレートフィルムに付勢されたポリエステル布により、5mm/secの速さでピエゾ型のインクジェットヘッドのノズル面とポリエステル布を摺擦した。
【0122】
操作c:クリーニング液をノズル面に付与後、ゴムブレードによるワイピング操作
具体的には、インクジェットヘッドのノズル面のワイピング操作は、ポリブタジエンのゴムブレードにより、5mm/secの速さでピエゾ型のインクジェットヘッドのノズル面を摺擦した。
【0123】
(クリーニング液)
操作aおよび操作cで使用したクリーニング液は、炭酸水素ナトリウムで温度25℃において、pH8.2に調整した20%ジエチレングリコール水溶液である。
【0124】
【表1】
【0125】
【表2】
【0126】
【表3】
【0127】
[評価]
<ヘッド耐久性>
ベタ画像を30分連続印字後、ワイピング操作(操作a、b、cのいずれか)にてノズル面をクリーニングする操作を10回繰り返した(操作1)。(i)操作1の後、顕微鏡デジタルカメラ(DS-Fi3;ニコン社製)にてノズル面を観察した。(ii)操作1の前後のノズルレート面の純水の接触角を比較した。そして、(i)および(ii)実施し、以下の基準で判定した。以下の基準において、「AAA」、「AA」および「A」を実用上問題ないとした。
(基準)
AAA:ノズル面への傷は観察されない、かつ、操作1の前後のノズル面の接触角変化もない。
AA::ノズル面への傷は観察されない、かつ、操作1の前後のノズル面の接触角変化がある。
A:ノズル面への傷が少数観察され、操作1の前後のノズル面の接触角変化がある。
B:ノズル面への多数の傷が見られ、操作1の前後のノズル面の接触角も変化がある。
【0128】
<クリーニング性>
プリント開始から30分経過した時点で、インクジェットヘッドのノズル面のワイピング操作(操作a、b、cのいずれか)を行い、ベタ画像を作成した。ノズル曲がりやノズル欠(ノズル詰まり)に伴うベタ画像の均一性を目視観察した。次いで、インクジェットヘッドを取り外した後、インクジェットヘッドのノズル面を観察し、以下の基準によりクリーニング性の評価を行った。以下の基準において、「AAA」、「AA」および「A」を実用上問題ないとした。
(基準)
AAA:ノズル面にインク組成物の残渣は見られず、ベタ画像に白い筋や濃度ムラも認められない。
AA:ノズル面にインク組成物の残渣は見られないが、ベタ画像にわずかに白い筋や濃度ムラが認められる。
A:ノズル面にインク組成物の残渣が見られ、ベタ画像に白い筋や濃度ムラが認められる。
B:ノズル面にインク組成物の残渣が見られ、ベタ画像に明らかな濃度ムラの発生が認められる。
【0129】
<摩擦堅牢性>
25℃、50%RH条件において得られた印捺物について、JIS L 0844(洗濯に対する染色堅ろう度試験方法)のA-2法に準拠して、洗濯堅ろう性試験を実施した。具体的には、洗濯処理を施し、すすぎ、脱水、乾燥した後に、試験片における捺染部の変退色を判定した。変退色は、JIS L0804:2004(ISO 105-A02:1993)の変退色グレースケールにしたがって、退色の程度を下記の基準に基づいて評価した。以下の基準において、「AAA」、「AA」および「A」を実用上問題ないとした。
(基準)
AAA:摩擦堅牢性が4級以上である。
AA:摩擦堅牢性が3級以上4級未満である。
A:摩擦堅牢性が2級以上3級未満である。
B:摩擦堅牢性が2級未満である。
【0130】
<吐出信頼性>
25℃、50%RH条件において得られた印捺物の印捺面を目視で観察し、下記の基準に基づいて評価した。以下の基準において、「AAA」、「AA」および「A」を実用上問題ないとした。
(基準)
AAA:ドット抜けや着弾位置のズレが全く観察されない。吐出信頼性に優れる。
AA:着弾位置のズレが認められるが、自然に回復する。吐出信頼性良好。
A:着弾位置のズレが認められる。
B:ドット抜けが発生した。
【0131】
ワイピング操作、ヘッド耐久性、クリーニング性、摩擦堅牢性および吐出信頼性について表4に示す。
【0132】
【表4】
【0133】
表4に示されるように、有機溶剤におけるグリコール系溶剤の含有量が有機溶剤全体に対して50質量%以上であり、樹脂のガラス転移点が-70~0℃の範囲内であり、樹脂の含有量がインク組成物全体に対して5~15質量%の範囲内である試料1~15(実施例)では、ヘッド耐久性、クリーニング性、摩擦堅牢性および吐出信頼性のいずれもが実施可能であった。
特に、樹脂を用いた被膜強度が50MPa以下である試料3~15(実施例)を用いた場合では、ヘッド耐久性が向上した。これは、被膜強度が低いため、ワイピング操作によりノズル面を傷付けることなく、ワイピングできたためと考えられた。
また。樹脂としてアクリル樹脂またはウレタン樹脂を含む試料5~15を用いた場合および樹脂のガラス転移点が-70~-30℃の範囲内である試料8~15を用いた場合では、クリーニング性または摩擦堅牢性が向上した。
また、有機溶剤の標準沸点が250℃以上であり、かつ含有量がインク組成物全体に対して3~15質量%の範囲内である試料12~15の場合では、ヘッド耐久性および吐出信頼性が向上した。これは、インクジェットヘッドの乾燥を防ぎ、かつインク組成物の粘度を適度に高めやすくしたためと考えられた。
【0134】
一方、ワイピング操作がウエットワイピングでない、試料17、18(比較例)では、ヘッド耐久性およびクリーニング性が不良であった。これは、ドライワイピングによりインクジェットヘッドが摩耗し、インク組成物の被膜がノズル面に固着してしまったためと考えられる。
また、樹脂のガラス転移点が-70~0℃の範囲内にない試料18、19、20(比較例)では、ヘッド耐久性、クリーニング性、摩擦堅牢性および吐出信頼性のいずれかが不良であった。
また、グリコール系溶剤の含有量が有機溶剤全体に対して50質量%未満の試料22、23(比較例)を用いた場合では、ヘッド耐久性およびクリーニング性が不良だった。これは、グリコール系溶剤が少なかったため、インクジェットヘッドが摩耗し、インク組成物の被膜がノズル面に固着してしまったためと考えられる。
また、樹脂の含有量がインク組成物全体に対して5~15質量%の範囲内にない試料23、24(比較例)では、摩擦堅牢性および吐出信頼性のいずれかが不良であった。
【符号の説明】
【0135】
1 インクジェットプリンター
3 クリーニング液タンク
4 インクジェットヘッド
6 インクタンク
13 ワイプユニット
15 キャップ
50 インク吸収部材
51 シート状可撓性部材
56 第1支持部材
57 第2支持部材
図1
図2
図3
図4