(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170979
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】窒化物発光素子および窒化物発光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/343 20060101AFI20241204BHJP
H01L 33/32 20100101ALI20241204BHJP
【FI】
H01S5/343 610
H01L33/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087783
(22)【出願日】2023-05-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、環境省、革新的な省CO2実現のための部材や素材の社会実装・普及展開加速化事業委託業務、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 章雄
(72)【発明者】
【氏名】狩野 隆司
(72)【発明者】
【氏名】石橋 明彦
(72)【発明者】
【氏名】大野 啓
【テーマコード(参考)】
5F173
5F241
【Fターム(参考)】
5F173AG17
5F173AH22
5F173AJ04
5F173AP05
5F173AQ15
5F173AR62
5F241AA24
5F241CA40
5F241CA60
5F241CA65
(57)【要約】
【課題】電子障壁層の漏れ電流を抑制しつつ、低電圧動作を可能とする窒化物発光素子を提供する。
【解決手段】窒化物発光素子は、n型半導体層、活性層、Alを含むp型の電子障壁層およびp型半導体層を備える。電子障壁層の深さ方向の位置(nm)を縦軸、各位置におけるIII族元素の総量に対するAl元素の割合(%)を縦軸とするAl組成分布は、Al元素の割合が最大となる最大点(Xm、P1)を有する。Al組成分布は、活性層側からAl元素の割合が第1変化率R1で増加する第1傾斜領域と、Al元素の割合が最大点に向かって第2変化率R2で増加する第2傾斜領域とを有する。開始点と最大点を結ぶ直線のAl元素の割合の変化率をRmとしたとき、R1はRmよりも大きい。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物発光素子であって、
GaN基板上に、n型の窒化物系半導体を含むn型半導体層、GaまたはInを含む窒化物系半導体を含む活性層、Alを含むp型の電子障壁層、p型の窒化物系半導体を含むp型半導体層をこの順に備え、
前記電子障壁層の深さ方向の位置(nm)を横軸、前記電子障壁層の各位置における、III族元素の総量に対するAl元素の割合(%)を縦軸とするAl組成分布において、
前記Al組成分布の前記活性層側の開始点を(Xs,0)、前記p型半導体層側の終了点を(Xe,0)としたとき、前記Al組成分布は、前記Al元素の割合が最大となる最大点(Xm,P1)を有し(Xs<Xm<Xe)、
前記Al組成分布は、
前記活性層側から前記最大点に向かって、
前記Al元素の割合が前記開始点(Xs,0)から第1変化率R1で増加する第1傾斜領域と、
前記第1傾斜領域と前記最大点との間において、前記Al元素の割合が前記最大点(Xm,P1)に向かって第2変化率R2で増加する第2傾斜領域と、
を有し、
前記開始点(Xs,0)と前記最大点(Xm,P1)を結ぶ直線のAl元素の割合の変化率をRmとした場合、前記第1変化率R1が前記変化率Rmよりも大きい、
窒化物発光素子。
【請求項2】
前記第2変化率R2は、前記第1変化率R1よりも小さい、
請求項1に記載の窒化物発光素子。
【請求項3】
前記Al組成分布において、
前記第2傾斜領域の前記活性層側の開始位置XI2におけるAl元素の割合をP2としたとき、P2がP1よりも15%以上低い、
請求項1に記載の窒化物発光素子。
【請求項4】
P1が35%以上55%以下である、
請求項1に記載の窒化物発光素子。
【請求項5】
前記電子障壁層のp型キャリア濃度をpcm-3としたとき、
前記第2変化率R2は、1.3×10-18×pモル%/nm以上8.7×10-18×pモル%/nm以下である、
請求項1に記載の窒化物発光素子。
【請求項6】
P2が10%以上25%以下である、
請求項1に記載の窒化物発光素子。
【請求項7】
XsとXeとの差で表される前記電子障壁層の厚さが5nm以上20nm以下である、
請求項1に記載の窒化物発光素子。
【請求項8】
前記Al組成分布は、前記第1傾斜領域と前記第2傾斜領域との間にAl元素の割合がP2で一定となる略平坦領域をさらに有する、
請求項1に記載の窒化物発光素子。
【請求項9】
前記電子障壁層のp型キャリア濃度pが3.0×1017cm-3以上2.0×1018cm-3以下である、
請求項1に記載の窒化物発光素子。
【請求項10】
前記窒化物発光素子は、半導体レーザである、
請求項1に記載の窒化物発光素子。
【請求項11】
請求項1に記載の窒化物発光素子の製造方法であって、
n型の窒化物系半導体を含むn型半導体層を形成する工程と、
GaまたはInを含む窒化物系半導体を含む活性層を形成する工程と、
Alを含むp型の電子障壁層を形成する工程と、
p型の窒化物系半導体を含むp型半導体層を形成する工程と
をこの順に含み、
前記電子障壁層を形成する工程では、
前記電子障壁層を形成するためのAl原料以外の他の原料を供給する前に、Al原料を所定以上供給する、
窒化物発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物発光素子および窒化物発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物結晶は、半導体レーザ(LD)、発光ダイオード(LED)などの光半導体デバイス、高い絶縁破壊電界を利用した高周波、高出力用途の電子デバイスなどに広く使用されている。その中において、特に青色領域にて動作する高出力半導体レーザは加工機、ディスプレイ、ヘッドライト等への使用が期待されている。これらに使用される高出力半導体レーザは数千時間以上の長期間動作を要望されており、半導体レーザ自体の発熱を抑制することが重要となり、低消費電力駆動を実現する必要がある。
【0003】
窒化物半導体レーザの低消費電力化を実現するためには、低電流動作かつ低電圧動作が求められる。低電流動作を実現するために、特許文献1では、
図10に示すようにGaN基板上にnクラッド層201、活性層202、pクラッド層203の順に積層し、pクラッド層203よりもバンドギャップエネルギーの高い電子障壁層204を活性層202とpクラッド層の間に配置する構造が開示されている。電子障壁層204としては20~50%の矩形形状のAl組成を持つAlGaN層が使用されている。このような構造を採用することにより、活性層202に注入された電子が、熱的に励起されても高いバンドギャップエネルギーを持つ電子障壁層204を超えることが困難となるため、活性層202からpクラッド層203への漏れ電流を抑制することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1にて開示されている矩形形状にて高Al組成を有するAlGaN電子障壁層を作製した場合、活性層に注入された電子による漏れ電流を抑制することは可能となるが、正孔は逆に活性層側に注入されづらくなる。
【0006】
図11に矩形形状のAlGaN電子障壁層の動作電圧印可有無における価電子帯のバンド構造を示す。
図11に示すように、動作電圧時にはAlGaN電子障壁層にかかる電位により、価電子帯に電位障壁ΔEvが生じていることがわかる。この電位障壁ΔEvは、正孔の活性層への流入を阻害し、動作電圧を増加させてしまう。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、電子障壁層の漏れ電流を抑制しつつ、p型半導体層側からの正孔の電位障壁を小さくすることで低電圧動作を可能とする窒化物発光素子および窒化物発光素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]窒化物発光素子であって、GaN基板上に、n型の窒化物系半導体を含むn型半導体層、GaまたはInを含む窒化物系半導体を含む活性層、Alを含むp型の電子障壁層、p型の窒化物系半導体を含むp型半導体層をこの順に備え、前記電子障壁層の深さ方向の位置(nm)を横軸、前記電子障壁層の各位置における、III族元素の総量に対するAl元素の割合(%)を縦軸とするAl組成分布において、前記Al組成分布の前記活性層側の開始点を(Xs,0)、前記p型半導体層側の終了点を(Xe,0)としたとき、前記Al組成分布は、前記Al元素の割合が最大となる最大点(Xm,P1)を有し(Xs<Xm<Xe)、前記Al組成分布は、前記活性層側から前記最大点に向かって、前記Al元素の割合が前記開始点(Xs,0)から第1変化率R1で増加する第1傾斜領域と、前記第1傾斜領域と前記最大点との間において、前記Al元素の割合が前記最大点(Xm,P1)に向かって第2変化率R2で増加する第2傾斜領域と、を有し、前記開始点(Xs,0)と前記最大点(Xm,P1)を結ぶ直線のAl元素の割合の変化率をRmとした場合、前記第1変化率R1が前記変化率Rmよりも大きい、窒化物発光素子。
[2] 前記第2変化率R2は、前記第1変化率R1よりも小さい、[1]に記載の窒化物発光素子。
[3] 前記Al組成分布において、前記第2傾斜領域の前記活性層側の開始位置XI2におけるAl元素の割合をP2としたとき、P2がP1よりも15%以上低い、[1]または[2]に記載の窒化物発光素子。
[4] P1が35%以上55%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の窒化物発光素子。
[5] 前記電子障壁層のp型キャリア濃度をpcm-3としたとき、第2変化率R2は、1.3×10-18×pモル%/nm以上8.7×10-18×pモル%/nm以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の窒化物発光素子。
[6] P2が10%以上25%以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の窒化物発光素子。
[7] XsとXeとの差で表される前記電子障壁層の厚さが5nm以上20nm以下である、[1]~[6]のいずれかに記載の窒化物発光素子。
[8] 前記Al組成分布は、前記第1傾斜領域と前記第2傾斜領域との間にAl元素の割合がP2で一定となる略平坦領域をさらに有する、[1]~[7]のいずれかに記載の窒化物発光素子。
[9] 前記電子障壁層のp型キャリア濃度pが3.0×1017cm-3以上2.0×1018cm-3以下である、[1]~[8]のいずれかに記載の窒化物発光素子。
[10] 前記窒化物発光素子は、半導体レーザである、[1]~[9]のいずれかに記載の窒化物発光素子。
[11] [1]~[10]のいずれかに記載の窒化物発光素子の製造方法であって、n型の窒化物系半導体を含むn型半導体層を形成する工程と、GaまたはInを含む窒化物系半導体を含む活性層を形成する工程と、Alを含むp型の電子障壁層を形成する工程と、p型の窒化物系半導体を含むp型半導体層を形成する工程とをこの順に含み、前記電子障壁層を形成する工程では、前記電子障壁層を形成するためのAl原料以外の他の原料を供給する前に、前記Al原料を所定以上供給する、窒化物発光素子の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電子障壁層の漏れ電流を抑制しつつ、p型半導体層側からの正孔の電位障壁を小さくすることで低電圧動作を可能とする窒化物発光素子および窒化物発光素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態1における半導体レーザの模式図
【
図2】本発明の実施の形態1におけるp型電子障壁層のMOCVD法における積層方向におけるAl組成の理想的な成長シーケンスおよびアトムプローブ解析結果
【
図3】本発明の実施の形態1におけるp型電子障壁層のAl組成分布の説明図
【
図4】本発明の実施の形態1におけるP2におけるAl遅れ幅に対する膜厚ばらつき
【
図5】本発明の実施の形態1における検量線のグラフ
【
図6】本発明の実施の形態2におけるp型電子障壁層のMOCVD法における積層方向におけるAl組成の理想的な成長シーケンスおよびアトムプローブ解析結果
【
図7】本発明の実施の形態2におけるp型電子障壁層のAl組成分布の説明図
【
図8】本発明の実施の形態3におけるp型電子障壁層の積層方向におけるAl組成のアトムプローブ解析結果
【
図9】本発明の実施の形態4におけるp型電子障壁層の積層方向におけるAl組成のアトムプローブ解析結果
【
図10】矩形形状の電子障壁層の場合の正孔の電位障壁の模式図
【
図11】特許文献1の従来例における電子障壁層を含む窒化物発光素子構造の説明図
【
図12】電子障壁層の活性層側にAl組成傾斜を持たせた場合の正孔の電位障壁の模式図
【
図13】電子障壁層のp型キャリア濃度が1.5×10
18cm
-3の場合に電子障壁層の活性層側のAl組成傾斜の大きさに対する正孔の電位障壁のシミュレーション結果
【
図14】従来のAl組成傾斜電子障壁層のAl組成の理想的な成長シーケンス及び積層方向におけるAl組成のアトムプローブ解析結果
【
図15】従来例における矩形形状の電子障壁層のMOCVD法における積層方向におけるAl組成の理想的な成長シーケンスおよびアトムプローブ解析結果
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、傾斜AlGaN層の効果と課題について具体的に説明する。
【0012】
(傾斜AlGaN層によるΔEv低減効果)
図10に示すような矩形形状のAlGaN電子障壁層では、デバイス動作下において電位障壁ΔEvが大きく、動作電圧の増加が懸念されることについては先述した通りである。これらの電位障壁ΔEvを小さくする方法として、AlGaN電子障壁層の活性層側にAl組成傾斜、すなわちバンドギャップを活性層側からスロープ状に変化させる構造とすることが有効である。なお、本明細書において、電子障壁層におけるAl組成とは、電子障壁層に含まれるIII族元素の総量(総原子量)に対するAl元素の割合(%)を意味する。
【0013】
図12に、活性層側にAl組成傾斜を持たせたAlGaN電子障壁層の動作電圧印可有無における価電子帯のバンド構造を示す。AlGaN電子障壁層にAl組成傾斜領域を設けることで、電位によるバンドの曲がりにより発生する価電子帯の電位障壁ΔEvを小さくできることがわかる。
【0014】
図13に、活性層側のAl組成傾斜領域の大きさを変化させた場合の電位障壁ΔEvについてシミュレーションを行った結果を示す。
図13では、電子障壁層のp型キャリア濃度は1.5×10
18cm
-3とした。活性層側のAl組成傾斜の大きさを2~13%/nmとすることで、矩形形状に比べΔEvを低減できる結果が得られている。
【0015】
(傾斜AlGaN層の作製および課題)
図12および
図13に示すように、AlGaN電子障壁層の活性層側にAl組成傾斜を設けることで、電位障壁ΔEvを小さくし、動作電圧の低減が期待できる。そこで、Al供給量を徐々に変化させることで、Al組成傾斜を設けたAlGaN電子障壁層の作製を試みた。
【0016】
図14に、Al組成傾斜電子障壁層の、Al原料の供給シーケンスに応じた理想的なAl組成の成長シーケンスおよび積層方向における実構造のAl組成のアトムプローブ解析結果を示す。
アトムプローブ評価法では、測定試料(成長方向に電子障壁層を含む試料)を先端径100nm程度の先鋭な針状試料に加工し、~10kV程度の正電圧をかけることで、試料最先端に高電界を生じさせ、電界蒸発現象を発生させる。試料から電界蒸発したイオンを2次元検出器によって評価することでイオン種を同定、個々に検出されたイオンを深さ方向へ連続的に検出、再構築させることで3次元の原子分布を得る手法である。
図14中の点線は、Al原料の供給シーケンスに応じた理想的なAl組成の成長シーケンスでありAl原料の供給量に応じてAl組成が理想的に作製された場合の出来栄えの予想線である。また、プロットは、実構造の電子障壁層のアトムプローブ結果である。予想線では、活性層側に5.0%/nmのAl組成傾斜領域が形成される。
【0017】
図14に示すように、実際の出来栄え結果では、AlGaN電子障壁層の活性層側のAl組成傾斜領域において、すなわちAlGaN電子障壁層の成長初期において、Al原料供給を実施しているにもかかわらず、膜中へのAl元素の取り込みが行われていない領域が存在していることが判明した。そのため、Al組成26%程度で急激にAl組成の増加が発生し、所望の5.0%/nmのAl組成傾斜領域は26~36%のAl組成領域にしか存在しなかった。つまり、Al組成の立ち上がり位置が、電子障壁層の活性層側の開始位置よりもp型半導体層側にずれている(
図14参照)。
【0018】
このようなAl元素の膜中への取り込みの遅れの発生の原因としては、例えば成長初期においてAl原料が気相中で他の原料と中間反応し、中間反応種の分圧がある一定以上の値に到達しないと成長に寄与しない、すなわち中間反応種の分圧が増加するための時間がギャップとして表れている可能性が考えられる。また、電子障壁層は、35%を超える高Al組成を有する(後述する最大値P1が35%を超える)AlGaN層であるため、基板であるGaNと格子定数変化を伴うヘテロ界面となる。そのため、歪差によりAl元素の膜中への取り込みが成長初期に阻害される現象も可能性として考えられる。
【0019】
図14において、Al元素の遅れ量は63%・nm程度と見積もられる。Al元素の遅れ量は、Al組成分布の立ち上がり位置よりも活性層側の領域における理想的なAl組成の成長シーケンスの予の点線と横軸との間の面積に相当する量として表される。また、本発明者らは、種々のAl組成傾斜電子障壁層の検討を行った結果、Al元素の遅れ量は57~76%・nm程度の変動量を有していることを解明した。このようなAl元素の遅れ、および遅れ量のばらつきは、所望のAl組成を有する窒化物発光素子を作製する上で、安定性に欠ける。Al元素の遅れ量を考慮した場合、
図14にて得られる急激なAl組成の立ち上がりは、23.8~27.5%と変動し、電子障壁層の出来栄えに連動したデバイス動作電圧のばらつきを生じさせる可能性が高い。また、Al元素の膜中への取り込みの遅れは、成長レート等の成長条件を変化させた場合にも発生することを確認しており、Al傾斜を有するAlGaN電子障壁層の作製には考慮すべき課題である。
【0020】
本発明者らは、Al元素の取り込み遅れを考慮した製造プロセスを採用することにより、Al組成傾斜電子障壁層のAl組成分布の適正化を試みた。それにより、動作電圧が低く、ばらつきが少ない窒化物発光素子が得られることを見出した。
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。各実施形態では、窒化物発光素子が窒化物半導体レーザである例で説明する。
【0022】
[実施の形態1]
(窒化物発光素子の構成および製造方法について)
図1は、本発明の実施の形態1における窒化物半導体レーザ100の共振方向に垂直な断面の模式図である。
【0023】
窒化物半導体レーザ100は、GaN基板101上にn型AlGaNクラッド層102、n型GaNクラッド層103、n側InGaNガイド層104、InGaN/InGaN DQWs活性層105、p側InGaNガイド層106、p型AlGaNを含むp型電子障壁層107、p型AlGaN/GaN超格子クラッド層108、p型GaNコンタクト層109が順次積層されている。その後、フォトリソグラフィとエッチングによりp型AlGaN/GaN超格子クラッド層108、p型GaNコンタクト層109にリッジ構造を形成する。リッジ側壁にはSiO2にて電流ブロック領域110を設けている。p電極111およびn電極112は、それぞれリッジ上部のp型GaNコンタクト層109およびGaN基板101に形成される。
それにより、n型の窒化物系半導体を含むn型半導体層(n型AlGaNクラッド層102およびn型GaNクラッド層103)と、GaまたはInを含む窒化物系半導体を含む活性層(InGaN/InGaN DQWs活性層105)と、Alを含むp型電子障壁層(p型AlGaNを含む電子障壁層107)と、p型の窒化物系半導体を含むp型半導体層(p型AlGaN/GaN超格子クラッド層108およびp型GaNコンタクト層109)とを含む窒化物半導体レーザ100が形成される。
【0024】
本実施の形態では、
図1の構造を形成するために、各窒化物層は、MOCVD法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属気相成長法)を用いてGaN基板101上にエピタキシャル成長させることにより形成することができる。
【0025】
III族原料としては、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルインジウム(TMI)、トリメチルアルミニウム(TMA)を用い、V族原料としては、アンモニア(NH3)ガスを用いている。ドーパントとしては、モノシラン(SiH4)、及びシクロペンタジエニルマグネシウム(CP2Mg)を用いることでn型層、p型層をそれぞれ得ている。キャリアガスとしては、水素または窒素を用いている。
【0026】
エピタキシャル成長を行う前に、MOCVD炉内に導入されたGaN基板101に対し、1100℃にて、水素及びNH3雰囲気中にて熱クリーニングを行う。熱クリーニングにより基板表面に付着しているカーボン系の汚れ及び基板表面の酸化膜が取り除かれる。 その後、1130℃に昇温し、n型AlGaNクラッド層102、n型GaNクラッド層103を順次、それぞれの原料ガスをキャリアガスと共に供給して成長させる。膜厚は、n型AlGaNクラッド層102にて1.5μm、Al組成は2.6%である。また、n型GaNクラッド層103の膜厚は250nmである。これらの層は、n型伝導とするためにSiH4を成長中に供給することで、Siを膜中に1.0×1018cm-3ドーピングしている。
【0027】
次に、成長温度を840℃に下げ、In組成が2.6%のn側InGaNガイド層104を180nm成長させる。その後、同一温度にてInGaN/InGaN DQWs活性層105を成長させる。InGaN/InGaN DQWs活性層105は、2つの2.8nm、In組成18%のInGaN層ウェル層を、7nm、In組成3.4%のInGaNバリア層で挟んだ構造(バリア層/ウェル層/バリア層/ウェル層/バリア層)である。
続いて150nm、In組成2.6%のp側InGaNガイド層106を成長させる。
次に、成長温度を985℃に昇温させ、Al組成傾斜を有するピークAl組成(後述のAl組成最大値P1)が40%以上55%以下のAlGaNにて構成されるp型電子障壁層107、1.85nm、Al組成5.2%のAlGaN層と1.85nmのGaN層とを1セットとして周期数を増やして(約178.5周期)積層した、660nm厚のp型AlGaN/GaN超格子クラッド層108、および60nm厚のp型GaNコンタクト層109を順次、エピタキシャル成長させる。
p型電子障壁層107、p型AlGaN/GaN超格子クラッド層108、p型GaNコンタクト層109は、p型伝導を得るために、成長中にCP2Mgを供給することで、膜中にMgをドーピングする。p型電子障壁層107、p型AlGaN/GaN超格子クラッド層108、p型GaNコンタクト層109中には、それぞれ1.5×1019cm-3、2.0×1018cm-3~1.0×1019cm-3、2.0×1020cm-3のMgが含有されている。
p電極111はPd、Pt、Auにより構成されており、n電極112はTi、Pt、Auにより構成されている。
【0028】
このように、上記n型半導体層を形成する工程、上記活性層を形成する工程、上記p型電子障壁層を形成する工程、および上記p型半導体層を形成する工程を経て、窒化物半導体レーザ100を製造することができる。
【0029】
(p型電子障壁層について)
本実施の形態1におけるp型電子障壁層107について説明する。
【0030】
図2は、本実施の形態1におけるp型電子障壁層107のMOCVD法における成長シーケンスにおける、理想的なAl組成の膜厚に対する出来栄えの予想線および実構造の積層方向におけるAl組成のアトムプローブによる解析結果を示した図である。横軸は、電子障壁層の深さ方向の位置を示し、縦軸は、電子障壁層の各位置における、III族元素の総量に対するAl元素の割合を示している。
点線は、成長シーケンスにおける理想的なAl組成の膜厚に対する出来栄えを示している。成長シーケンスでは、先述したAl元素の遅れを考慮し、Al原料(TMA)の供給を他の原料よりも先行して導入している。
図2中にプロットにて示されている実出来栄えを示したアトムプローブ結果では、活性層側からp型半導体層側に向かって、Al組成0~25%まで22.7%/nmの急峻なAl組成傾斜が形成され、その後に
図13にて正孔の電子障壁を低減する範囲であるAl組成傾斜7.2%/nmにてピークAl組成40%まで到達する2つの傾きを持つ構造をしている。本実施の形態1においては、Al元素の遅れ量および遅れ量のぶれを考慮しており、Al組成25~40%の範囲において再現性良く所望の7.2%/nmのAl組成傾斜を得ることができ、デバイス特性も安定させることができる。つまり、
図2では、上述の
図14とは異なり、Al組成の立ち上がり位置が、電子障壁層の活性層側の開始位置とほぼ一致している。
【0031】
アトムプローブ評価法では、上記の通り、測定試料を先端径100nm程度の先鋭な針状試料に加工し、~10kV程度の正電圧をかけることで、試料最先端に高電界を生じさせ、電界蒸発現象を発生させる。測定試料は、成長方向にp型電子障壁層107を含む試料、具体的には、成長方向に
図1のn電極112からp電極111までを含む針状試料を準備し、当該針状試料の一方の端部(n電極112側)と他方の端部(p電極111側)の間に上記電圧をかける。電界が最大となる先端部(p電極111側)では電界蒸発によりイオンが発生し、当該イオン種を検出器にて検出することにより評価することができる。
【0032】
図3は、本実施の形態1におけるp型電子障壁層107のAl組成分布の説明図である。
図3では
図2のアトムプローブ結果を直線近似して、実線にて示している。
【0033】
図3に示すように、電子障壁層のAl組成分布の活性層側の開始点を(Xs,0)、p型半導体層側の終了点を(Xe,0)としたとき、上記Al組成分布は、Al組成が最大となる最大点(Xm,P1)を有する(Xs<Xm<Xe)。そして、Al組成分布は、活性層側から最大点に向かって、Al組成が開始点(Xs,0)から第1変化率R1で増加する第1傾斜領域と、第1傾斜領域と最大点との間において、Al組成が最大点に向かって第2変化率R2で増加する第2傾斜領域とを有する。開始点(Xs,0)と最大点(Xm,P1)を結ぶ直線のAl組成の変化率をRmとしたとき、R1はRmよりも大きい(
図3参照)。R1がRmよりも大きいことにより、Al組成分布は全体として緩やかな傾斜領域を有するため、動作電圧を低くすることができる。
【0034】
(1)第1変化率R1および第2変化率R2
第1変化率R1は、上記の通り、Rmの大きさにもよるが、15%/nm以上35%/nm以下であることが好ましく、20%/nm以上35%/nm以下であることがより好ましい。第1変化率R1は、Al元素の取り込み遅れの解消により開始される膜中へのAl取り込みの速度によって調整することができる。
【0035】
第2変化率R2は、第1変化率R1と同じであってもよいし、異なってもよい。電位障壁ΔEvをより低減する観点では、第2変化率R2は、第1変化率R1よりも小さいことが好ましい。例えば、R2/R1は、0.06以上0.87以下であることが好ましい。
【0036】
また、p型電子障壁層のp型キャリア濃度をpcm-3としたとき、第2変化率R2は、後述するように1.3×10-18×pモル%/nm以上8.7×10-18×pモル%/nm以下であることが好ましい。p型電子障壁層のp型キャリア濃度pは、3.0×1017cm-3以上2.0×1018cm-3以下であることが好ましく、7.0×1017cm-3以上2.0×1018cm-3以下であることがより好ましい。p型電子障壁層のp型キャリア濃度pは、ドーパント(MgやBe等)の添加量によって調整することができる。
【0037】
すなわち、第2変化率R2は、p型キャリア濃度pにもよるが、例えば2%/nm以上13%/nm以下であることが好ましく、電位障壁ΔEvをより低減させる観点では、4.3%/nm以上12.3%/nm以下であることがより好ましい。なお、本実施の形態1および
図13では、p型電子障壁層のp型キャリア濃度を1.5×10
18cm
-3とした場合である。
【0038】
一般的に、p型キャリア濃度と抵抗率の関係は、p型キャリア濃度をp、抵抗率をrとした場合、式(1)の関係が成り立つ。
【数1】
【0039】
p型電子障壁層にかかる電圧Vは、流す電流を一定とした場合、式(2)の関係が成り立つ。
【数2】
【0040】
図12にて示した価電子帯の電位障壁は、p型電子障壁層にかかる電圧Vに依存するので、p型キャリア濃度pの場合に有効な第2変化率R2の大きさは、式(3)または(4)で表すことができ、この関係を満たすように第2変化率R2を設定すればよい。
【数3】
【数4】
【0041】
p型キャリア濃度pは低すぎると高抵抗になってしまうため、動作電圧の増加を招く。よって、p型キャリア濃度pは、3.0×1017cm-3以上が好ましい。一方、p型電子障壁層は、活性層の近くに存在しているため、高いp型キャリア濃度を得るための過剰な不純物の混入はレーザ構造内の光を吸収してしまい、光学ロスを生じてしまう。そのため、p型キャリア濃度pは2.0×1018cm-3以下が好ましい。
【0042】
本実施の形態1においては、p型ドーパントとして1.5×10
19cm
-3のMgを使用している。Mgドーパントを用いた場合、p型キャリア濃度に反映されるドーパントの活性化率はほぼ10%であり、p型キャリア濃度1.5×10
18cm
-3を得ている。よって、Mgドーパントを使用した場合、式(4)は、p型電子障壁層中のMg濃度Mを用いて、式(5)のように書き換えてもよい。この場合、Mは3.0×10
18cm
-3以上2.0×10
19cm
-3以下の範囲内にて良好となる。
【数5】
【0043】
(2)Al組成値P1およびP2
Al組成値P1は、上記Al組成分布におけるAl組成の最大値である。動作電圧を低くする観点では、P1は高すぎないことが好ましく、35%以上55%以下であることが好ましい。これは、p型電子障壁層の本来の目的である活性層に注入された電子がpクラッド層へ流れることで発生する漏れ電流を抑制する観点では、35%以上であれば、十分な漏れ電流抑制の効果を得ることができる。一方、p型電子障壁層のAl組成を高くしすぎるとp型電子障壁層自体が高抵抗化しやすく、さらに正孔の電位障壁ΔEvも大きくなってしまうため、動作電圧を増加させてしまう。そのためAl組成の上限は、55%以下が良い。同様の観点から、P1は、40%以上55%以下であることがより好ましい。
【0044】
Al組成値P2は、第2傾斜領域の活性層側の開始位置XI2におけるAlの組成値である。第2傾斜領域の活性層側の開始位置XI2でのAl組成値は、第1傾斜領域の終端位置XI1でのAl組成値と、通常、同じである(
図3参照)。また、第1傾斜領域の終端位置XI1と第2傾斜領域の開始位置XI2とは、一致していてもよいし、
図3のように異なってもよい。
すなわち、Al組成分布は、第1傾斜領域と第2傾斜領域との間に、Al組成値がP2で一定となる略平坦領域をさらに有してもよい(
図3参照)。ただし、動作電圧を低くする観点では、略平坦領域の深さ方向の長さは短いほど好ましい。
【0045】
P1とP2のAl組成差を大きくする観点では、P2は適度に低いことが好ましく、具体的にはAl組成の最大値P1よりも15%以上低いことが好ましく、P1よりも20%以上低いことがより好ましい。Al組成値P2は、例えば10%以上25%以下であることが好ましい。これは、P1に向かう第2傾斜領域の長さ(Al組成差)を確保する、すなわちP1とP2のAl組成差15%以上とすることで、正孔の電位障壁ΔEvを低減させることが可能な組成傾斜領域を広いAl組成差に渡って形成させ、動作電圧低減に作用させるためである。同様の観点から、P2は14%以上25%以下であることがより好ましい。
【0046】
電位障壁ΔEvを低減させるためには、上記の通り、P1とP2のAl組成差が大きいことが望ましく、そのためにはP2を低くすることが好ましい。一方で、P2を低くすると、p型電子障壁層を形成する際に発生してしまうAlの膜中取り込みの遅れ、および遅れ量のばらつきを生じやすいことがこれまでの検討により判明しており、Al取り込み遅れ量は57~76%・nmの幅を持っている。本実施の形態1では、Al取り込み遅れを考慮し、後述するように、Al原料であるTMA原料の空流し時間を設けている。空流し流量は、到達Al組成がP2になる値を使用しており、空流し流量を小さくしすぎると、Al取り込み遅れ量のばらつき幅に相当するXl1位置とXl2位置の間の膜厚のばらつきを大きくしてしまう。
【0047】
図4に、本実施の形態1におけるAlの遅れ幅に対するXl1位置とXl2位置の膜厚ばらつきの結果について示す。
図4に示すように、P2が低くなるほど、Al組成値P2での膜厚のばらつきが大きくなってしまう。P2での膜厚ばらつきとは、上記Xl1位置とXl2位置の間の膜厚のばらつきを意味する。上記膜厚ばらつきの大きさは、デバイス間での動作電圧特性に差異を生んでしまうため、出来栄えばらつきの膜厚はなるべく小さくした方が良い。
図4より、P2における膜厚ばらつきを2.0nm以下にするためには、Al組成値P2は10%以上が望ましい。更に、P2における膜厚ばらつきを1.5nm以下にするためには、Al組成値P2は13%以上が望ましい。一方、P1とP2のAl組成差を15%以上確保するためには、Al組成値P2は、25%以下が望ましい。
【0048】
本実施の形態1では、P1およびP2にて略平坦領域を設けているが、先述したp型電子障壁層の膜厚が5nm以上15nm以下の範囲内であれば設けても問題ない。
【0049】
(3)p型電子障壁層の膜厚
p型電子障壁層の膜厚は、特に制限されないが、5nm以上20nm以下であることが好ましい。本実施の形態1では、Al組成の開始位置Xs、終了位置Xeは、p型電子障壁層の活性層側の開始位置、終了位置とそれぞれ一致しているため、p型電子障壁層の膜厚は、XsとXeとの差として表される。AlGaNを含むp型電子障壁層は高いバンドギャップエネルギーを持っているため、高抵抗層となりやすい。そのため、p型電子障壁層の膜厚は薄い方が望ましいが、5nm以下とすると薄すぎて漏れ電流を抑制する効果が弱くなってしまう。そのため、p型電子障壁層の膜厚は、5nm以上が望ましい。また、AlGaNを含む電子障壁層は高抵抗層であるため、逆に厚くしすぎると動作電圧を十分には低減できないおそれがある。そのため、p型電子障壁層の膜厚は20nm以下が望ましい。同様の観点から、p型電子障壁層の膜厚は、5nm以上15nm以下であることがより好ましく、6nm以上12nm以下であることがさらに好ましい。
【0050】
(p型電子障壁層の製造方法について)
p型電子障壁層は、上記の通り、p型電子障壁層を形成するための各種原料(Al原料や、それ以外のIII族原料、V族原料など)をキャリアガスと共に供給しながら、エピタキシャル成長させて形成することができる。
従来は、これらの原料は同時に供給するのが一般的であるが、本実施の形態1では、上記した通り、膜中へのAl取り込みの遅れや遅れ量のばらつき幅を考慮して、
図2の点線で示すように、p型電子障壁層を形成するための他の原料の供給に先立って、Al原料(好ましくはTMA)の供給を開始する。
【0051】
先行供給するAl原料のトータル量は、Al取り込みの遅れや遅れ量のばらつきを補償可能な範囲であればよい。先行供給すべきAl原料のトータル量は、
図2の横軸のp型電子障壁層のAl組成分布の開始位置Xsよりも活性層側の領域において、成長シーケンスの点線と横軸とで囲まれる面積に相当する。そのため、当該面積が、好ましくは80%・nm以上、より好ましくは78%・nm以上、さらに好ましくは76%・nm以上となるような量のAl原料を、他の原料よりも先行して供給する。Al原料の単位時間当たりの流量(sccm)は、膜中のAl組成値がP2となるような流量であることが好ましい。膜中のAl組成値がP2となるような流量は、Al原料の供給流量(sccm)と膜中のAl組成(%)との関係を示す検量線を予め取得しておき、当該検量線から求めることができる。
【0052】
図5は、Al原料の供給流量(sccm)と膜中のAl組成(%)との関係を示す検量線の一例を示すグラフである。
図5では、例えばP2が25%となるAl原料の供給流量は1sccmとなる。この流量で、Al元素のトータル量を76%・nm以上とするために必要な時間を設定し、設定した流量および時間で、Al原料を先行して供給すればよい。
【0053】
すなわち、Al原料の供給流量と、p型電子障壁層のAl組成の関係を示す検量線を準備する工程と、当該検量線に基づいて、Al組成値がP2となる範囲、例えばAl組成が10%以上25%以下となるような流量のAl原料を、他の原料の供給開始よりも先に供給することが好ましい。それにより、成長初期においてAl原料が気相中で他の原料と中間反応して生成する中間反応種の分圧を早期に所定以上にすることができ、Al組成の成長に寄与させることができる。
【0054】
(
図3について)
ここで、本実施の形態1では、p型電子障壁層107の厚さは、活性層側からAl組成分布の立ち上がった位置Xsからp型AlGaN/GaN超格子クラッド層108のAl組成に落ち着いた位置Xeまでの長さに対応する。したがって、本実施の形態におけるp型電子障壁層の厚さは9.2nmである。Al組成の最大値P1は40%であり、XsとXeの間の位置Xmに存在している。Al組成は、活性層側からXsよりAl組成値P2(25%)まで第1変化率R1(22.7%/nm)にて増加する第1傾斜領域が存在している。また、Al組成の最大値P1に向かって第1変化率R1よりも小さな第2変化率R2(7.2%/nm)にてAl組成値P2から第2傾斜領域が存在している。また、第1傾斜領域の終端位置Xl1から第2傾斜領域の開始位置Xl2までには、Al組成値P2にて1.0nmの略平坦領域を有している。また、更に最大値P1に到達後にAl組成値P1にて略平坦領域0.6nmを有し、その後Xeに向かってAl組成が単調に減少している。
ここで、
図3に点線で示されているAl組成の開始点(Xs,0)とAl組成の最大点(Xm,P1)を結ぶ直線のAl組成の変化率Rmは13.6%/nmであり、R1>Rmとなる。
【0055】
本実施の形態1では、成長にて発生してしまう膜中へのAl取り込みの遅れ、および遅れ量のばらつき幅を考慮し、かつ低電圧動作に有効であるAl組成傾斜をP1とP2のAl組成差である15%以上維持させることを可能とするp型電子障壁層の構造となっている。P2値での略平坦領域は、Al組成取り込み遅れ、および遅れ量のばらつき幅を考慮して作製しており、小さいほど望ましい。Al組成25%の場合、遅れ量のばらつき幅を考慮すると最大でも0.76nmの略平坦領域膜厚差に抑えることが可能であり、デバイス特性への大きな弊害はない。むしろ、
図14にて示した正孔の電位障壁ΔEv低減に効果のある第2変化率R2のAl組成幅を15%以上確保することが、デバイスの低電圧動作には特に有効である。
【0056】
表1は、本実施の形態1におけるp型電子障壁層107を使用したレーザと、従来例である矩形形状のp型電子障壁層を使用したレーザの特性の比較である。
図15は、従来例である矩形形状のp型電子障壁層のAl組成分布を示す。
【0057】
本実施の形態1におけるp型電子障壁層107は、
図2に示したAl組成分布を有するp型電子障壁層、および、
図15に示したAl組成分布を有する従来例のp型電子障壁層は、いずれもピークAl組成40%、厚さ5nmとしている。
なお、表1において、Ithは閾値電流(mA)、Vf@1Aは順方向電圧(V)、Iop@2.1Wは、2.1W出力時の動作電流(A)、Vop@2.1Wは、2.1W出力時の動作電圧(V)を示す。
【0058】
【0059】
表1より、本実施の形態の窒化物半導体レーザ100では、1A時の動作電圧が従来例よりも0.08V低く、出力2.1W時の動作電圧が従来例よりも0.11V低いことがわかった。
これらのことから、本実施の形態1では、デバイス動作時に正孔の電位障壁を低減できるp型電子障壁層を安定して作製でき、動作電圧を低減することができることがわかる。
【0060】
[実施の形態2]
実施の形態2における構造は、実施の形態1の構成と同様であるが、p型電子障壁層107の構造が異なる。
図6は、本発明の実施の形態2におけるp型電子障壁層107のMOCVD法における積層方向におけるAl組成の理想的な成長シーケンスおよび実構造のアトムプローブ解析結果を示す。
点線は、成長シーケンスにおける理想的なAl組成の膜厚に対する出来栄えの予想線を示している。実施の形態1と同様に、Al元素の遅れを考慮し、TMA供給を先行導入している。プロットにて
図6中に示されているAl組成出来栄えとしては、活性層側からAl組成14%まで17.0%/nmの高いAl組成傾斜にて形成され、その後にΔEvを低減させるAl組成傾斜範囲である11.4%/nmにてピークAl組成40%まで到達している。本実施の形態2においては、Al組成範囲24~40%の広い領域において再現性良く所望のAl組成傾斜を得ることができ、デバイス特性を安定させることができる。
【0061】
図7は、本実施の形態2におけるp型電子障壁層107のAl組成分布の説明図である。
活性層側からAl組成分布の立ち上がった位置Xsからp型AlGaN/GaN超格子クラッド層108のAl組成に落ち着いた位置Xeまでのp型電子障壁層107の厚さは、8.6nmである。Al組成の最大値P1は40%、Xsからの第1傾斜領域の第1変化率R1は17.0%/nmであり、第1傾斜領域の到達Al組成値P2は14%である。その後、Al組成値P2での第1傾斜領域の終端位置Xl1から第2傾斜領域の開始位置Xl2まで2.3nmの略平坦領域を有し、Xl2から第2傾斜領域の第2変化率R2が11.4%/nmにて、位置Xmに存在するAl組成最大値P1=40%まで増加している。更にAl組成最大値P1にて略平坦領域0.8nmを有し、Xeに向かってAl組成が単調減少している。Al組成の開始点(Xs,0)とAl組成の最大点(Xm,P1)を結ぶ直線の組成傾斜、すなわちAl組成の変化率Rmは7.4%/nmであり、R1>RmかつR1>R2となる。
【0062】
本実施の形態2においても、P2値のAl組成14%であれば遅れ量のばらつき幅を考慮してもXl1からXl2の略平坦領域の膜厚差を最大でも1.35nmに抑えることが可能となる。
図14にて示した正孔の電位障壁ΔEv低減に効果のある組成傾斜範囲であるR2のAl組成幅を26%に渡って広く確保できており、デバイスの低電圧動作が期待できる。
【0063】
表2は、本実施の形態2におけるp型電子障壁層107を使用したレーザと従来例である矩形形状のp型電子障壁層を使用したレーザ特性の比較である。
本実施の形態2における窒化物半導体レーザ100では、1A時の動作電圧が従来例よりも0.26V低く、出力2.1W時の動作電圧が従来例よりも0.26V低いことがわかる。
【0064】
【0065】
[実施の形態3]
図8は、本発明の実施の形態3におけるp型電子障壁層107のアトムプローブ解析結果およびAl組成分布の説明図を示す。図中のプロットおよび実線は、アトムプローブ結果を示し、点線は本実施の形態3における開始点(Xs,0)とAl組成の最大点(Xm,P1)を結ぶ直線を示している。
【0066】
実施の形態3においては、活性層側からAl組成分布の立ち上がった位置Xsからp型AlGaN/GaN超格子クラッド層108のAl組成に落ち着いた位置Xeまでの厚さは10.8nmである。Al組成の最大値P1は45%、Xsからの第1傾斜領域のAl組成の第1変化率R1は17.9%/nmであり、R1の到達Al組成値P2は25%である。その後、Al組成値P2にて第1傾斜領域の終端位置Xl1から第2傾斜領域の開始位置Xl2まで1.5nmの略平坦領域を有し、Xl2からR2が4.3%/nmにて位置Xmに存在するAl組成最大値P1値=45%まで増加している。更にAl組成値P1にて略平坦領域1.0nmを有し、Xeに向かってAl組成が単調減少している。Al組成の開始点(Xs,0)とAl組成の最大点(Xm,P1)を結ぶ直線の組成傾斜、すなわちAl組成の変化率Rmは6.5%/nmであり、R1>RmかつR1>R2の関係となる。
本実施の形態3においても、第2変化率R2をAl組成40~25%と15%の広い領域で確保できており、正孔の電位障壁ΔEv低減の効果を発揮することでデバイスの低電圧動作が可能となる。
【0067】
[実施の形態4]
図9は、本発明の実施の形態4におけるp型電子障壁層107のアトムプローブ解析結果およびAl組成分布の説明図を示す。
図8と同様に、図中のプロットおよび実線はアトムプローブ結果を示し、点線は開始点(Xs,0)とAl組成の最大点(Xm,P1)を結ぶ直線を示している。
【0068】
実施の形態4においては、Al組成分布の立ち上がった位置Xsから位置Xeにて表されるp型電子障壁層107の厚さは6.4nmである。Al組成の最大値P1は55%、Xsからの第1傾斜領域のAl組成の第1変化率R1は21.5%/nmであり、R1の到達Al組成値P2は28%である。Al組成値P2における略平坦領域の厚さは1.1nmであり、Al組成最大値P1に向かう第2傾斜領域のAl組成の第2変化率R2は12.3%/nmである。本実施の形態4においてはAl組成値P1での略平坦領域は存在せず、Xeに向かってAl組成が単調減少している。Al組成の開始点(Xs,0)とAl組成の最大点(Xm,P1)を結ぶ直線の組成傾斜、すなわちAl組成の変化率Rmは13.1%/nmであり、R1>RmかつR1>R2の関係となる。
本実施の形態4においても、第2変化率R2をAl組成55~28%と27%の広い領域で確保できており、正孔の電位障壁ΔEv低減によるデバイスの低電圧動作を可能とした。
【0069】
[変形例]
なお、上記各実施の形態1~4では、
図2に示すようなアトムプローブ解析結果を直線近似して
図3に示すようなAl組成分布を求めたが、アトムプローブ解析結果のプロットのばらつきが大きく直線近似が難しい場合は、製造条件が既知であれば以下の方法で直線近似してもよい。例えば、
1)
図4に示すグラフにおいて、実際のAl原料の供給量からP1、P2を予想する
2)p型半導体層側のAl組成の傾きを、P1予想値の10~90%の範囲内で直線近似する。
3)Al組成の傾き直線のP1到達点を終点として、Al原料の供給シーケンスと成長速度から推測される膜厚による理想的なAl出来栄え線(
図2の点線)を作成する。
4)必要に応じてAl組成値P1、P2のずれを調整する。
5)第1変化率R1は、最大値P1の10~90%の範囲内で直線近似する。
【0070】
また、上記実施の形態1~4では、窒化物半導体レーザ100として、
図1に示される層構成のものを示したが、少なくともn型の窒化物系半導体を含むn型半導体層、GaまたはInを含む窒化物系半導体を含む活性層、Alを含むp型の電子障壁層、およびp型の窒化物系半導体を含むp型半導体層をこの順に有するものであればよく、これに限定されない。また、各窒化物層の組成や厚みについても具体的に示したが、これに限定されず、本発明の効果を奏する範囲であれば適宜変更することができる。
【0071】
例えば上記実施の形態1~4では、450nmの発振波長を得るために、活性層105のウェル層に2.8nm、In組成18%のInGaN層を用いているが、420~460nmの発振波長に合わせてIn組成、膜厚を調整しても良い。また、n型AlGaNクラッド層102およびp型AlGaN/GaN超格子クラッド層108の(平均)Al組成を2.6%としているが、活性層105に垂直に光を閉じ込めるために活性層の実効屈折率よりも小さければ、Al組成2.5~5%の間でAl組成、膜厚を調整しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、電子障壁層の漏れ電流を抑制しつつ、p型半導体層側からの正孔の電位障壁を小さくすることで低電圧動作を可能とする窒化物発光素子および窒化物発光素子の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0073】
100 窒化物半導体レーザ
101 GaN基板
102 n型AlGaNクラッド層
103 n型GaNクラッド層
104 n側InGaNガイド層
105 InGaN/InGaN DQWs活性層
106 p側InGaNガイド層
107 電子障壁層
108 p型AlGaN/GaN超格子クラッド層
109 p型GaNコンタクト層
110 電流ブロック領域
111 p電極
112 n電極
201 nクラッド層
202 活性層
203 pクラッド層
204 電子障壁層