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  • 特開-グリース組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170999
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】グリース組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/00 20060101AFI20241204BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20241204BHJP
   C10M 137/10 20060101ALN20241204BHJP
   C10M 159/24 20060101ALN20241204BHJP
   C10M 135/10 20060101ALN20241204BHJP
   C10M 135/36 20060101ALN20241204BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20241204BHJP
   C10M 115/08 20060101ALN20241204BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20241204BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20241204BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20241204BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20241204BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20241204BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20241204BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20241204BHJP
【FI】
C10M169/00
F16C33/66 Z
C10M137/10 A
C10M159/24
C10M135/10
C10M135/36
C10M101/02
C10M115/08
C10N50:10
C10N20:02
C10N10:04
C10N10:12
C10N30:06
C10N30:00 Z
C10N40:02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087822
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000162423
【氏名又は名称】協同油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】今野 忠明
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 寛征
(72)【発明者】
【氏名】門脇 沙耶
【テーマコード(参考)】
3J701
4H104
【Fターム(参考)】
3J701AA01
3J701EA63
3J701EA70
3J701FA38
3J701GA03
3J701XE01
3J701XE03
3J701XE50
4H104BE13B
4H104BG06C
4H104BG19C
4H104DA02A
4H104DB07C
4H104EA02A
4H104FA02
4H104FA06
4H104LA03
4H104LA20
4H104PA01
4H104QA18
(57)【要約】
【課題】低トルク性を有すると同時に、油膜形成不足によって生じる表面起点型はく離を改善し、さらに低温下における微小振動下でのフレッチング摩耗を抑制することのできる車輪用グリース組成物を提供すること。
【解決手段】(a)基油、(b)増ちょう剤、及び(c)添加剤を含有する自動車の車輪用軸受用グリース組成物であって、
(a)基油の100℃における動粘度が3~9mm2/sであり、
(c)添加剤が、(c1)ジアルキルジチオリン酸金属塩と、(c2)有機スルホン酸金属塩と、(c3)窒素及び硫黄含有複素環式化合物とを含み、(c3)窒素及び硫黄含有複素環式化合物が、2(3H)-ベンゾチアゾールチオン、及び2,5-ビス(アルキルジチオ)-1,3,4-チアジアゾールからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、前記自動車の車輪用軸受用グリース組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)基油、(b)増ちょう剤、及び(c)添加剤を含有する自動車の車輪用軸受用グリース組成物であって、
(a)基油の100℃における動粘度が3~9mm2/sであり、
(c)添加剤が、(c1)ジアルキルジチオリン酸金属塩と、(c2)有機スルホン酸金属塩と、(c3)窒素及び硫黄含有複素環式化合物とを含み、(c3)窒素及び硫黄含有複素環式化合物が、2(3H)-ベンゾチアゾールチオン、及び2,5-ビス(アルキルジチオ)-1,3,4-チアジアゾールからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、
前記自動車の車輪用軸受用グリース組成物。
【請求項2】
(c1)ジアルキルジチオリン酸金属塩が、亜鉛塩又はモリブデン塩である請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
(c2)有機スルホン酸金属塩が、カルシウム塩又は亜鉛塩である請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項4】
(a)基油が、合成油であるか、又は合成油と鉱油との混合油である、請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項5】
(b)増ちょう剤が、下記式(1)で示されるジウレア化合物である、請求項1に記載のグリース組成物。
R2-NHCONH-R1-NHCONH-R3 (1)
(式中、R1は炭素数6~15の2価の芳香族炭化水素基であり、R2及びR3は、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素原子数6~30のアルキル基、炭素原子数6又は7のアリール基、又はシクロヘキシル基である。)
【請求項6】
(b)増ちょう剤が、式(1)中、アルキル基とシクロへキシル基の総モル数に対するアルキル基のモル数の割合[{(アルキル基の数)/(シクロヘキシル基の数+アルキル基の数)}×100]が10~100モル%であるジウレア化合物である、請求項5に記載のグリース組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項記載のグリース組成物を封入した自動車の車輪用軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、低トルク性を有し、表面起点型のはく離によるはく離寿命及び低温下における耐フレッチング性に優れる自動車の車輪用軸受用グリース組成物、及び前記グリース組成物を封入した自動車の車輪用軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費電力削減の観点から、自動車を始め、各産業で使用される電気機器や機械部品は、高効率化が求められており、部品の軽量化や構造の改良など、種々の検討がなされている。自動車の高効率化の手法のひとつとしては、自動車の車輪用軸受のトルク低減が重要となっている。
さらに、自動車は鉄道やトラックで運搬される場合が多く、この運搬時、レールの継ぎ目や悪路が起因した微小振動が発生し、グリースが塗布された潤滑部品にフレッチング摩耗が発生する場合がある。特に低温環境下では、グリースの基油が流動しにくくなることから、潤滑部へのグリースの流入性が不足してしまい、このフレッチング摩耗が発生してしまう。このフレッチング摩耗の対策として、耐フレッチング性に優れたグリースを使用することが図られている。
従来のグリースのトルク低減の方法としては、動粘度の低い基油を用いることや(非特許文献1)、グリースを軟らかくすることで、グリースの撹拌抵抗を低減させる手段がある。
【0003】
基油の動粘度を下げると、グリースの撹拌抵抗が低くなるためトルクを低減することができるが、油膜形成不足による表面起点はく離や、蒸発による潤滑寿命の低下を引き起こし、軸受としての寿命を全うできなくなる。また、グリースを軟らかくすると、グリースが外部へ漏れやすくなってしまうことから、潤滑寿命の低下を引き起こし軸受としての寿命を全うできなくなる。
また、従来の表面起点はく離の対策としては、動粘度の高い基油を使用し十分な油膜厚さを形成する手法以外として、例えば特許文献1では、下記に示す一般式のジウレア系増ちょう剤を使用したグリース組成物が、潤滑する両面の直接接触を有効に防止し、耐はく離性を向上させることができることを提案している。
R2-NHCONH-R1-NHCONH-R3
(式中、R1は炭素数6~15の2価の炭化水素基を示し、R2及びR3はフェニル基および/又はシクロヘキシル基であり、R2、R3のシクロヘキシル基/(シクロヘキシル基+フェニル基)は0.85~0.50(モル比)である)
しかし、動粘度の高い基油では低トルク性を満足することはできず、また、特許文献1記載の増ちょう剤でも、低トルク性を満足することはできない。
【0004】
また、添加剤での表面起点はく離の対策がなされており、例えば特許文献2では、酸化亜鉛、亜硝酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、セバシン酸ナトリウム及び炭酸カルシウム等の典型金属の酸化物や炭酸塩の使用が提案されている。しかし、上記添加剤はいずれも固体の添加剤であり、グリース中の固体成分量が増加し、撹拌抵抗の増大を招くため、低トルク性を満足することはできない。
フレッチングは、微小振幅下で発生する表面損傷であり、大気中では酸化摩耗粉を生成し、そのアブレッシブ作用により激しい摩耗を生じることが多いといわれている(非特許文献2)。フレッチングの防止対策としては、(1)相対滑り量の低減、(2)両面の分離、直接接触の防止、(3)リン酸塩被膜などの接触面の被覆又は潤滑油・グリースの供給による表面間の凝着の防止等が提案されている(非特許文献2)。耐フレッチング性に優れたグリース組成物として、ウレア系増ちょう剤、基油、ホスホロチオエート系化合物及びアミン系化合物を含有するグリース組成物が開示されている(特許文献3)。しかし、従来よりも厳しい条件(低温:-30℃、振幅:小)でのフレッチング摩耗抑制は十分ではなく、上記従来技術よりも更なるフレッチング摩耗の改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4809793号
【特許文献2】特許第5738712号
【特許文献3】特許第5350597号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】石川寛朗:ハブユニット軸受の技術動向とトライボロジー、トライボロジスト、第54巻 第9号 2009、580~585
【非特許文献2】山本雄二ら:トライボロジー、理工学社、1998年2月28日発行、201~203頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、低トルク性を有すると同時に、油膜形成不足によって生じる表面起点型はく離を改善し、さらに低温下における微小振動下でのフレッチング摩耗を抑制することのできる車輪用グリース組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記自動車の車輪用軸受の低トルク性、表面起点型はく離によるはく離寿命の改善、及び低温下における微小振動下の耐フレッチング性の課題に対し、基油の動粘度の範囲と適切な添加剤を選定することでこれらを改善した。すなわち、本発明により以下のグリース組成物を提供する。
1.(a)基油、(b)増ちょう剤、及び(c)添加剤を含有する自動車の車輪用軸受用グリース組成物であって、
(a)基油の100℃における動粘度が3~9mm2/sであり、
(c)添加剤が、(c1)ジアルキルジチオリン酸金属塩と、(c2)有機スルホン酸金属塩と、(c3)窒素及び硫黄含有複素環式化合物とを含み、(c3)窒素及び硫黄含有複素環式化合物が、2(3H)-ベンゾチアゾールチオン、及び2,5-ビス(アルキルジチオ)-1,3,4-チアジアゾールからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、
前記自動車の車輪用軸受用グリース組成物。
2.(c1)ジアルキルジチオリン酸金属塩が、亜鉛塩又はモリブデン塩である前記1に記載のグリース組成物。
3.(c2)有機スルホン酸金属塩が、カルシウム塩又は亜鉛塩である前記1又は2に記載のグリース組成物。
4.(a)基油が、合成油であるか、又は合成油と鉱油との混合油である、前記1~3のいずれかに記載のグリース組成物。
5.(b)増ちょう剤が、下記式(1)で示されるジウレア化合物である、前記1~4のいずれかに記載のグリース組成物。
R2-NHCONH-R1-NHCONH-R3 (1)
(式中、R1は炭素数6~15の2価の芳香族炭化水素基であり、R2及びR3は、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素原子数6~30のアルキル基、炭素原子数6又は7のアリール基、又はシクロヘキシル基である。)
6.(b)増ちょう剤が、式(1)中、アルキル基とシクロへキシル基の総モル数に対するアルキル基のモル数の割合[{(アルキル基の数)/(シクロヘキシル基の数+アルキル基の数)}×100]が10~100モル%であるジウレア化合物である、前記5に記載のグリース組成物。
7.前記1~6のいずれか1に記載のグリース組成物を封入した自動車の車輪用軸受。
【発明の効果】
【0009】
本発明のグリース組成物は、低トルク性を有し、表面起点型のはく離によるはく離寿命及び低温下における耐フレッチング性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】転がり4球試験の概略図
【発明を実施するための形態】
【0011】
(a)基油
本発明において用いる基油は、100℃における動粘度が3~9mm2/sである。これにより、所望の低トルク性を満たすことができる。好ましくは3.5~7.5mm2/sである。
本発明において用いることができる基油は、鉱油でも合成油でもよいが、合成油であるか、又は合成油と鉱油との混合油であるのが好ましい。
合成油としては、ポリαオレフィン又はポリブデンに代表される合成炭化水素油、ジエステル又はポリオールエステルに代表されるエステル系合成油、アルキルジフェニルエーテル又はポリプロピレングリコ-ルに代表されるエーテル系合成油などを使用することができる。低トラクションの観点から、ポリαオレフィンを含むのが好ましい。なお、合成油は、動植物などから生まれた生物資源を原料として製造される、所謂バイオマス油でもよい。例えば、植物油を原料とする各種脂肪酸とアルコールとから合成されるバイオマスエステル油や、パーム油、コーン油、大豆油などの植物油を用いたバイオマス炭化水素油を使用することもできる。基油は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合してもよい。
本発明の基油が合成油と鉱油との混合油の場合、混合割合は特に限定されない。必要に応じて混合割合を選定することができる。本発明の基油が混合油の場合、鉱油の割合は、低温流動性の観点から、基油の全質量を基準として、10~60質量%であるのが好ましい。
合成油及び鉱油は、それぞれ二種以上を組み合わせて使用してもよい。例えば、高粘度又は中粘度の合成油と低粘度の合成油とを併用したり、高粘度又は中粘度の鉱油と低粘度の合成油とを併用したり、高粘度又は中粘度の合成油と低粘度の鉱油とを併用したり、低粘度の合成油と低粘度の鉱油を併用したりしてもよい。
本発明の基油としては、低トラクションの観点から、ポリαオレフィンを単独で使用するのが特に好ましい。更に特に、100℃における動粘度が5~7mm2/sであるポリαオレフィンを単独で使用するのが最も好ましい。
基油の含有量は、組成物の全質量を基準として、好ましくは60~90質量%、より好ましくは70~88質量%である。このような割合で基油を含むことにより、潤滑する油量を十分に確保でき、耐久性が良好となる。
【0012】
(b)増ちょう剤
本発明で用いることのできる増ちょう剤は、特に限定されないが、下記式(1)で表されるジウレア化合物であるのが好ましい。
R2-NHCONH-R1-NHCONH-R3 (1)
(式中、R1は炭素数6~15の2価の芳香族炭化水素基であり、R2及びR3は、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素原子数6~30のアルキル基、炭素原子数6又は7のアリール基、又はシクロヘキシル基である。)
式(1)中のR1は、ジフェニルメタン基であるのが好ましい。
R2及びR3は、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素原子数6~30のアルキル基、炭素原子数6又は7のアリール基、又はシクロヘキシル基である。R2及びR3は、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素原子数6~30のアルキル基、又はシクロヘキシル基であるのが好ましい。
【0013】
R2及びR3のいずれかがシクロヘキシル基の場合、もう一方は炭素数6~30のアルキル基であるのが好ましく、炭素数8又は18のアルキル基であるのがより好ましい。このようなジウレア化合物は、ジイソシアネートとモノアミンとの反応中に形成される、所謂脂肪族ジウレア化合物(式(1)中、R2及びR3がいずれも炭素原子数6~30のアルキル基であるジウレア化合物)と、脂環式ジウレア化合物(式(1)中、R2及びR3がいずれもシクロヘキシル基であるジウレア化合物)と、脂環式脂肪族ジウレア化合物((式(1)中、R2及びR3の一方が炭素数6~30のアルキル基であり、他方がシクロヘキシル基であるジウレア化合物))との混合物である。
アルキル基とシクロへキシル基の総モル数に対するアルキル基のモル数の割合[{(アルキル基の数)/(シクロヘキシル基の数+アルキル基の数)}×100]は、10~100モル%であるのが好ましく、10~80モル%であるのがより好ましい。
【0014】
本発明の増ちょう剤としては、脂環式脂肪族ジウレア化合物及び脂肪族ジウレア化合物が好ましい。なかでも、脂環式脂肪族ジウレア化合物が好ましい。とりわけ、式(1)中、R2及びR3の一方が炭素数18のアルキル基であり、他方がシクロヘキシル基であり、アルキル基とシクロへキシル基の総モル数に対するアルキル基のモル数の割合が10~30モル%であるジウレア化合物が好ましい。
本発明のグリース組成物中の増ちょう剤の含有量は、増ちょう剤の種類により異なる。本発明のグリース組成物のちょう度は、200~350が好適であり、235~325がより好ましい。増ちょう剤の含有量はこのちょう度を得るのに必要な量となる。本発明のグリース組成物中の増ちょう剤の含有量は、通常5~25質量%であり、8~20質量%であるのが好ましい。
【0015】
(c)添加剤
(c1)ジアルキルジチオリン酸金属塩
本発明に用いられるジアルキルジチオリン酸金属塩としては、下記式(2)で表されるものが挙げられる。
[(R4O)(R5O)P(=S)-S]2-M1xmn・・・式(2)
(式中、R4及びR5は、炭素数1~24のアルキル基又は炭素数6~30のアリール基であり、アルキル基は直鎖状でも分岐状でもよく、また第1級、第2級及び第3級のいずれであってもよい。M1は金属元素を表し、例えばZn、Mo、Cu、Fe、Ni、Te等であり、xは1又は2、n及びmは0~4である。)
本発明に用いられるジアルキルジチオリン酸金属塩は、亜鉛塩又はモリブデン塩であり、好ましくは亜鉛塩である。
ジアルキルジチオリン酸金属塩の含有量は、グリース組成物の全質量に対して通常0.1~5.0質量%であり、0.5~3.0質量%であるのが好ましい。
【0016】
(c2)有機スルホン酸金属塩
本発明に用いられる有機スルホン酸金属塩としては、下記式(3)で示される化合物が好ましい。
[R6-SO3]M2 ・・・式(3)
式中、R6はアルキル基、アルケニル基、アルキルナフチル基、ジアルキルナフチル基、アルキルフェニル基および石油高沸点留分残基を表す。前記アルキル又はアルケニルは、直鎖又は分岐であり、炭素数は2~22である。M2はアルカリ土類金属又は亜鉛を表し、好ましくはカルシウム又は亜鉛が好ましい。
本発明に用いられる有機スルホン酸金属塩としては、アルキルベンゼンスルホン酸のカルシウム塩又は亜鉛塩、ジノニルナフタレンスルホン酸のカルシウム塩又は亜鉛塩、又はそれらの高塩基性塩等が挙げられる。このうち、ジノニルナフタレンスルホン酸のカルシウム塩及びアルキルベンゼンスルホン酸のカルシウム塩が好ましい。
本発明の有機スルホン酸金属塩としては、ジアルキルジチオリン酸亜鉛と組み合わせることで強固な皮膜を形成するため、耐摩耗性と錆止め性の観点から、カルシウムスルホネート又は亜鉛スルホネートが好ましく、特に、塩基価5以下であるジノニルナフタレンスルホン酸のカルシウム塩又は亜鉛塩が好ましく、ジノニルナフタレンスルホン酸カルシウムがより好ましい。
本発明の有機スルホン酸金属塩としてはまた、耐熱性向上の観点から、塩基価が50以上である、高塩基性カルシウムスルホネートが好ましく、特に、塩基価が300以上であるアルキルベンゼンスルホン酸のカルシウム塩が好ましい。なお、本明細書において、塩基価はJIS K 2501に準拠して測定した値である。
有機スルホン酸金属塩の含有量は、グリース組成物の全質量に対して通常0.1~5.0質量%であり、0.5~4.0質量%であるのが好ましい。
【0017】
(c3)窒素及び硫黄含有複素環式化合物
窒素及び硫黄含有複素環式化合物は、1又は2個の窒素原子及び1個の硫黄原子を含み、1又は2個の二重結合を骨格内に有する、5員環構造をもつ複素環式化合物である。例えば、チアゾール及びチアジアゾールがあげられる。
チアゾールとしては、具体的には、4,5-ジメチルチアゾール、2-イソプロピル-4-メチルチアゾール、1,2-ベンゾイソチアゾール、2-メチル-β-ナフトチアゾール、2-メトキシチアゾール、チアゾール-2-カルボアルデヒド、2-アセチルチアゾール、ベンゾチアゾール-2-アセトニトリル、4-チアゾールアミン、2-アミノ-4-メチルチアゾール、ベンゾチアゾール-6-アミン、2-アミノベンゾチアゾール、2-アミノ-6-メチルベンゾチアゾール、4-(2-メチル-4-チアゾリル)アニリン、2-アミノ-5-フェニルチアゾール、2-アミノ-6-メトキシベンゾチアゾール、5-メトキシベンゾチアゾール-2-アミン、2-アミノベンゾチアゾール-6-オール、2-アミノ-α-(メトキシイミノ)-4-チアゾール酢酸エチル、3-イソチアゾールカルボン酸、4-チアゾールカルボン酸、3-メチル-4-イソチアゾールカルボン酸、4-メチル-5-チアゾールカルボン酸、2-メチルチアゾール-5-カルボン酸、ベンゾチアゾール-2-カルボン酸、2-ベンゾチアゾール酢酸、4-メチル-5-チアゾールエタノール、2(3H)-ベンゾチアゾールチオン、4-メチル-2-メルカプトベンゾチアゾール、ビス(ベンゾチアゾール-2-イル)ペルスルフィド、2-(メチルチオ)ベンゾチアゾール、2-メチルベンゾチアゾールなどが挙げられる。
本発明で用いるチアゾール化合物は、2(3H)-ベンゾチアゾールチオンである。
【0018】
また、チアジアゾールとしては、具体的には、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールもしくはその誘導体であり、具体的には、2,5-ジチオ酢酸‐1,3,4-チアジアゾール、2-アミノ‐1,3,4-チアジアゾール、2-チオ酢酸-5-メルカプト‐1,3,4-チアジアゾール、5-アミノ-1,3,4-チアジアゾール-2-チオール、2,2‘-ジチオビス(1,3,4-チアジアゾール-5-チオール)、2,5ビス(n-ドデシルジチオ)チアジアゾール、2,5-ビス(tert-デシルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5ビス(n-オクチルジチオ)チアジアゾール、2,5-ビス(tert-オクチルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-ビス-(tert-ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5ビス(ジエチルジチオカルバミン酸)チアジアゾールなどが挙げることができる。
【0019】
本発明で用いるチアジアゾール化合物は、2,5-ビス(アルキルジチオ)-1,3,4-チアジアゾールであり、アルキル基の炭素原子数が6~18の直鎖又は分岐状であり、また第1級、第2級及び第3級のいずれかであってもよい。例えば、2,5ビス(n-ドデシルジチオ)チアジアゾール、2,5-ビス(tert-デシルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5ビス(n-オクチルジチオ)チアジアゾール、2,5-ビス(tert-オクチルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-ビス-(tert-ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾールなどが挙げられる。
これらの内、2,5-ビス-(tert-ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾールが好ましい。
【0020】
本発明の(c3)成分は、2(3H)-ベンゾチアゾールチオン、及び2,5-ビス(アルキルジチオ)-1,3,4-チアジアゾールからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するが、2(3H)-ベンゾチアゾールチオンを含有するのが好ましい。本発明の組成物は、別の窒素及び硫黄含有複素環式化合物を含んでもよいが、別の窒素及び硫黄含有複素環式化合物を含まないのが好ましい。
窒素及び硫黄含有複素環式化合物の含有量は、グリース組成物の全質量に対して通常0.1~3.0質量%であり、0.1~2.0質量%であるのが好ましい。なお、窒素及び硫黄含有複素環式化合物が、別の窒素及び硫黄含有複素環式化合物を含む場合、上記含有量は、2(3H)-ベンゾチアゾールチオン及び/又は2,5-ビス(アルキルジチオ)-1,3,4-チアジアゾールの含有量を指し、別の窒素及び硫黄含有複素環式化合物の割合は、2(3H)-ベンゾチアゾールチオン及び/又は2,5-ビス(アルキルジチオ)-1,3,4-チアジアゾールに対し、0.1~1.8であるのが好ましく、0.1~1.0であるのがより好ましい。
【0021】
本発明の(c)成分としては、(c1)として、ジアルキルジチオリン酸亜鉛又はジアルキルジチオリン酸モリブデンを含み、(c2)として、中性Caスルホネート、高塩基性Caスルホネート又はZnスルホネートを含み、(c3)として、2(3H)-ベンゾチアゾールチオンを含むのが好ましい。
本発明の(c)成分としては、(c1)として、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を含み、(c2)として、中性Caスルホネート(例えば、塩基価0.1~3.0)又は高塩基性Caスルホネート(例えば、塩基価300~500)を含み、(c3)として、2(3H)-ベンゾチアゾールチオンを含むのがより好ましい。
【0022】
その他添加剤
本発明のグリース組成物は、グリースに通常用いられるあらゆる添加剤が、必要に応じて使用可能である。例えば、有機金属スルホン酸以外の錆止め剤、酸化防止剤、金属腐食防止剤、油性剤、ジアルキルジチオリン酸金属塩以外の耐摩耗剤が挙げられる。
・錆止め剤
カルボン酸およびその誘導体:アルケニルコハク酸無水物、アルケニルコハク酸エステル、アルケニルコハク酸ハーフエステル
カルボン酸塩:脂肪酸、二塩基酸、ナフテン酸、ラノリン脂肪酸、アルケニルコハク酸などの金属塩(Ca、Ba、Mg、Al、Zn、Naなど)又はアミン塩
・酸化防止剤
アミン酸化防止剤:フェニルαナフチルアミン、アルキル化フェニルαナフチルアミン、アルキル化ジフェニルアミンなど
フェノール酸化防止剤:2、6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、ペンタエリスリチル・テトラキス[3-(3、5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3、5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどのヒンダードフェノールなど
・金属腐食防止剤:ベンゾトリアゾール又はその誘導体、酸化亜鉛など
・油性剤:ソルビタントリオレート、ソルビタンモノオレートなど
・耐摩耗剤
リン系化合物:アミンホスフェート、トリクレジルホスフェートなど
硫黄系化合物:ジベンジルジサルファイド、各種ポリサルファイドなど
硫黄-リン系化合物:トリフェニルホスホロチオネートなど
このうち、錆止め剤(特に脂肪酸アミン塩とナフテン酸亜鉛の混合物)、酸化防止剤(特にアミン酸化防止剤、さらに特にアルキル化ジフェニルアミン)、及び/又は耐摩耗剤(特にアミンホスフェート)を含むのが好ましい。
これらのその他添加剤の含有量は、組成物の全質量を基準として、通常1.0~12質量%、好ましくは1.0~6.0質量%である。
【0023】
本発明のグリース組成物は、自動車の車輪用軸受に用いる。具体的には普通自動車、中型自動車及び大型自動車の車輪の軸受に用いられる。
【実施例0024】
<試験グリースの調製>
下記に示した増ちょう剤、基油を用い、実施例及び比較例のグリース組成物を調製した。具体的には、基油中で、ジフェニルメタンジイソシアネート(1モル)と所定のアミン(2モル)とを反応させ、昇温、冷却した後、3本ロールミルを行い、混和ちょう度(試験方法JIS K2220 7.)が300になるように実施例1~11、比較例 1~7のグリース組成物を得た。なお、100℃における基油の動粘度は、JIS K2220 23.に準拠して測定し、塩基価はJIS K 2501に準拠して測定した値である。
表1及び表2中の数値の単位は、特に記載のない限り、グリース組成物の全質量に対する質量%を示す。
【0025】
(a)基油
・ポリαオレフィンA:100℃動粘度=39.2~40.7mm2/s
・ポリαオレフィンB:100℃動粘度=5.7~6.3mm2/s
・ポリαオレフィンC:100℃動粘度=3.8~4.0mm2/s
・鉱油A 100℃動粘度:6.0~6.2mm2/s
・エステル油A:100℃動粘度=5.4~5.8mm2/s
・エーテル油A:100℃動粘度=9.1~9.3mm2/s
・エーテル油B:100℃動粘度=3.3~3.5mm2/s
【0026】
(b)増ちょう剤
・増ちょう剤A:脂環式脂肪族ジウレア(シクロヘキシルアミンとステアリルアミンのモル比はシクロヘキシルアミン:ステアリルアミン=7:1)
・増ちょう剤B:脂環式脂肪族ジウレア(シクロヘキシルアミンとステアリルアミンのモル比はシクロヘキシルアミン:ステアリルアミン=3:7)
・増ちょう剤C:脂肪族ジウレア(オクチルアミン)
・増ちょう剤D:脂肪族ジウレア(ステアリルアミン)
【0027】
(c)添加剤
・添加剤A:(c2)ジノニルナフタレンスルホン酸のカルシウム塩(塩基価:0.26)
・添加剤B:(c2)高塩基性のアルキルベンゼンスルホン酸のカルシウム塩(塩基価:405)
・添加剤C:(c2)ジノニルナフタレンスルホン酸の亜鉛塩(塩基価:0.50)
・添加剤D:(c1)ジアルキルジチオリン酸亜鉛(c)
・添加剤E:(c1)ジアルキルジチオリン酸モリブデン
・添加剤F:(c3)2(3H)-ベンゾチアゾールチオン
・添加剤G:(c3)2,5-ビス(tert-ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール
・錆止め剤:脂肪酸アミン塩とナフテン酸亜鉛の混合物
・アミン系酸化防止剤:アルキル化ジフェニルアミン
・耐摩耗剤:ターシャリーアルキルアミン―ジメチルホスフェート
【0028】
<試験方法および判定>
(1)表面起点のはく離に対する耐はく離性:転がり4球試験
試験概略
φ15mmの軸受用鋼球を3個用意し、内径40mm、高さ14mmの円筒状容器内に配置し、約20gの試験グリースで容器を満たす。図1のように、この3個の鋼球に、上からφ5/8inch軸受用鋼球1個の回転球をあてがい、試験機にセットする。図1のW方向に荷重を掛けて回転させて試験を開始する。下の3個のボールは、自転しながら公転する。これをはく離が発生するまで連続回転させる。
※はく離は、最も面圧の高い球-球間に出る。
※寿命は、はく離が出た時点の上球の総接触回数とする。これを3~5回繰り返し、L50寿命(50%が寿命となる回数)を求める。結果を表1及び表2に示す。
【0029】
試験条件
試験鋼球:等級40の15mm及び等級200の5/8inch軸受用鋼球
試験荷重(W):250kgf(5.6GPa)
回転速度(n):1500rpm
試験繰り返し数:3~5回
【0030】
判定
総接触回数 300×105 回転以上・・・〇(合格)
300×105 回転未満・・・×(不合格)
【0031】
(2)低温における耐フレッチング性:Fafnir試験
Fafnir試験は、ASTM D 4170に準拠して試験を行った。
下記試験スラスト軸受2組に試験グリースを塗布し、規定の揺動運転を行い、摩耗量(フレッチング摩耗による重量減)を求める。結果を表1及び表2に示す。
【0032】
軸受 :51204 スラスト軸受
荷重 :4000N(面圧:1.9GP a)
揺動角 :±3°
揺動サイクル :12Hz
時間 :2h
温度 :-30℃
グリース封入量:軸受1組当たり1.0g
摩耗量 :軸受1組当たりのレース質量減(試験軸受レースの総質量減/2)
【0033】
判定
摩耗量 2.0mg未満・・・○(合格)
2.0mg以上・・・×(不合格)
【0034】
(3)低トルク性:レオメータ試験(せん断応力)
試験は、株式会社アントンパール・ジャパン製の粘弾性測定装置、Physica MCR 301を用いて測定を行った。所定のプレート間に試験グリースを塗布し、所定のプレート間距離に設定後、はみ出した余分のグリースは除去した。せん断速度を0.1S-1から2500S-1まで対数にて速度を増加させ、2500S-1におけるせん断応力を算出し測定結果とした。結果を表1及び表2に示す。
【0035】
せん断速度 :0.1~2500S-1
試験温度 :25℃
プレート :コーンタイプ
コーン角度 :2°
プレート間距離 :0.05mm
プレート直径 :25mm
【0036】
判定
せん断応力 2000Pa以下・・・○(合格)
2000Pa超・・・・×(不合格)
【0037】
<総合評価>
各試験のいずれも合格・・・・・・・〇(合格)
各試験のいずれか1つが不合格・・・×(不格)
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
基油の100℃における動粘度が3~9mm2/sであり、増ちょう剤及び所定の添加剤を含む実施例1~13のグリース組成物は、転がり4球試験、Fafnir試験、及びレオメータ試験のいずれも合格であった。
一方、100℃における動粘度が14.8mm2/sと高い比較例1や、いずれかの添加剤が含まれていない比較例2~5のグリース組成物は、転がり4球試験、Fafnir試験、又はレオメータ試験の少なくとも1つが不合格であった。
図1