(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171008
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】船舶運転制御装置
(51)【国際特許分類】
B63H 25/02 20060101AFI20241204BHJP
B63H 25/04 20060101ALI20241204BHJP
B63H 20/00 20060101ALI20241204BHJP
B63H 21/21 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
B63H25/02 B
B63H25/04 D
B63H25/04 H
B63H25/02 A
B63H20/00 803
B63H21/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087834
(22)【出願日】2023-05-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年6月1日にスズキ・モーター・ユーエスエー・エルエルシーに販売
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】宮木 智彦
(57)【要約】
【課題】船舶の自動運転中に自動運転動作に異常が発生し、船舶の運転方式が自動運転から手動運転に切り替わった後に乗員が手動操作部を操作したとき、船舶の速度が急変することを防止し、また、乗員が手動操作部の操作につき違和感を抱くことを防止する。
【解決手段】船舶運転制御装置は、船舶の自動運転中に自動運転制御ユニットの異常等が検知されたときに(S1~S3)、自動運転制御ユニットによる船外機の制御を解除し(S5)、その後、船外機を制御することにより船舶の推進力が零になるまで船舶の推進力を漸減させ(S6、S7)、その後、船外機を操作するための操作レバーの位置がニュートラル位置であるか否かを判断し(S9)、操作レバーの位置がニュートラル位置であることが判断された後に、手動運転制御部による船外機の制御を開始させ、操作レバーの手動操作による船外機の操作を可能にする(S10)。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の推進力を生成する船舶推進機、および前記船舶推進機を手動操作する手動操作部が設けられた前記船舶の運転を制御する船舶運転制御装置であって、
前記手動操作部の手動操作に応じて前記船舶推進機を制御する手動運転制御部と、
前記船舶推進機を前記手動操作部の手動操作によらずに自動的に制御する自動運転制御部と、
前記自動運転制御部の動作の異常を検知する異常検知部と、
前記船舶推進機が前記自動運転制御部により制御されているときに前記異常検知部により前記異常が検知された場合に前記船舶推進機の制御を前記自動運転制御部による制御から前記手動運転制御部による制御に切り替える運転方式切替部とを備え、
前記手動運転制御部は、前記手動操作部の位置がニュートラル位置であるときに、前記船舶の推進力が零となるように前記船舶推進機を制御し、前記手動操作部の位置が前記ニュートラル位置から一方向に移動したときに、前記船舶を前方へ押し動かす推進力が生成されるように前記船舶推進機を制御し、前記手動操作部の位置の前記ニュートラル位置からの一方向における移動量が大きくなるに従って前記船舶を前方へ押し動かす推進力が増加するように前記船舶推進機を制御し、
前記運転方式切替部は、
前記異常検知部により前記異常が検知された場合に前記自動運転制御部による前記船舶推進機の制御を解除する自動運転解除部と、
前記自動運転解除部が前記自動運転制御部による前記船舶推進機の制御を解除した後に、前記船舶推進機を制御することにより、前記船舶の推進力が零になるまで前記船舶の推進力を漸減させる推進力漸減制御部と、
前記推進力漸減制御部による前記船舶推進機の制御によって前記船舶の推進力が零になった後に、前記手動操作部の位置が前記ニュートラル位置であるか否かを判断する操作位置判断部と、
前記推進力漸減制御部による前記船舶推進機の制御によって前記船舶の推進力が零になってから前記操作位置判断部により前記手動操作部の位置が前記ニュートラル位置であることが判断されるまで前記船舶の推進力を零に維持し、前記操作位置判断部により前記手動操作部の位置が前記ニュートラル位置であることが判断された後に、前記手動運転制御部による前記船舶推進機の制御を開始させる手動運転開始部とを備えていることを特徴とする船舶運転制御装置。
【請求項2】
前記自動運転制御部は、前記船舶を一定の速度で直進させるために、または前記船舶を円滑に旋回させるために、前記船舶推進機を制御することにより前記船舶の推進力を変化させることを特徴とする請求項1に記載の船舶運転制御装置。
【請求項3】
前記船舶推進機は、
エンジンと、
スロットルバルブを開閉することにより燃焼用空気の前記エンジンへの流入量を調整するスロットル装置と、
前記エンジンの動力を前記船舶の推進力に変換するプロペラと、
前記エンジンの動力を前記プロペラに伝達するか否かを切り替えるシフト装置とを備え、
前記手動運転制御部は、前記手動操作部の位置が前記ニュートラル位置であるときに、前記スロットルバルブの開度がアイドリング開度となるように前記スロットル装置を制御し、かつ前記エンジンの動力が前記プロペラに伝達されないように前記シフト装置を制御し、前記手動操作部の位置が前記ニュートラル位置から一方向に移動したときに、前記スロットルバルブの開度が前記アイドリング開度よりも大きくなるように前記スロッル装置を制御し、かつ前記エンジンの動力が前記プロペラに伝達されるように前記シフト装置を制御し、前記手動操作部の位置の前記ニュートラル位置からの一方向における移動量が大きくなるに従って前記スロットルバルブの開度が増加するように前記スロットル装置を制御し、
前記自動運転制御部は、前記スロットルバルブの開度が前記アイドリング開度よりも大きく、かつ前記エンジンの動力が前記プロペラに伝達されるように前記シフト装置が切り替えられた状態で、前記スロットル装置を制御することにより前記スロットルバルブの開度を変化させ、
前記推進力漸減部は、前記自動運転解除部が前記自動運転制御部による前記船舶推進機の制御を解除した後に、前記スロットル装置を制御することにより前記スロットルバルブの開度が前記アイドリング開度となるまで前記スロットルバルブの開度を漸減させ、その後、前記シフト装置を制御することにより前記エンジンの動力が前記プロペラに伝達されないようにすることを特徴とする請求項1に記載の船舶運転制御装置。
【請求項4】
前記異常検知部は、前記自動運転制御部の異常、前記船舶推進機の異常、および前記自動運転制御部と前記船舶推進機との間の通信の異常のうちの少なくとも1つを前記自動運転制御部の動作の異常として検知することを特徴とする請求項1に記載の船舶運転制御装置。
【請求項5】
前記自動運転制御部は前記自動運転制御部の異常を示す異常情報を送信し、前記異常検知部は前記異常情報を受信することにより前記自動運転制御部の異常を検知することを特徴とする請求項4に記載の船舶運転制御装置。
【請求項6】
前記船舶には、複数の前記船舶推進機および複数の前記手動操作部が設けられ、
前記複数の手動操作部は前記複数の船舶推進機を手動操作するものであり、
前記手動運転制御部は、前記複数の手動操作部の手動操作に応じて前記複数の船舶推進機を制御し、
前記手動運転制御部は、前記複数の手動操作部の位置がすべてニュートラル位置であるときに、前記船舶の推進力が零となるように前記複数の船舶推進機を制御し、前記複数の手動操作部のうちの少なくとも1つの手動操作部の位置が前記ニュートラル位置から一方向に移動したときに、前記船舶を前方へ押し動かす推進力が生成されるように前記複数の船舶推進機のうちの少なくとも1つの船舶推進機を制御し、前記複数の手動操作部のうちの少なくとも1つの手動操作部の位置の前記ニュートラル位置からの一方向における移動量が大きくなるに従って前記船舶を前方へ押し動かす推進力が増加するように前記複数の船舶推進機のうちの少なくとも1つの船舶推進機を制御し、
前記自動運転制御部は、前記複数の船舶推進機を前記複数の手動操作部のうちのいずれの手動操作部の手動操作にもよらずに自動的に制御し、
前記運動方式切替部は、前記複数の船舶推進機が前記自動運転制御部により制御されているときに前記異常検知部により前記異常が検知された場合に前記複数の船舶推進機の制御を前記自動運転制御部による制御から前記手動運転制御部による制御に切り替え、
前記自動運転解除部は、前記異常検知部により前記異常が検知された場合に前記自動運転制御部による前記複数の船舶推進機の制御を解除し、
前記推進力漸減制御部は、前記自動運転解除部が前記自動運転制御部による前記複数の船舶推進機の制御を解除した後に、前記複数の船舶推進機を制御することにより、前記船舶の推進力が零になるまで前記船舶の推進力を漸減させ、
前記操作位置判断部は、前記推進力漸減制御部による前記複数の船舶推進機の制御によって前記船舶の推進力が零になった後に、前記複数の手動操作部の位置がすべて前記ニュートラル位置であるか否かを判断し、
前記手動運転開始部は、前記推進力漸減制御部による前記複数の船舶推進機の制御によって前記船舶の推進力が零になってから前記操作位置判断部により前記複数の手動操作部の位置がすべて前記ニュートラル位置であることが判断されるまで前記船舶の推進力を零に維持し、前記操作位置判断部により前記複数の手動操作部の位置がすべて前記ニュートラル位置であることが判断された後に、前記手動運転制御部による前記複数の船舶推進機の制御を開始させることを特徴とする請求項1に記載の船舶運転制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の運転を制御する船舶運転制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶には、船舶を推進させる船舶推進機、および船舶推進機を操作する推進用の操作装置が設けられる。船舶推進機には、船外機、船内外機、および船内機がある。推進用の操作装置には、船舶推進機を遠隔操作するためのリモートコントロール装置(以下、「リモコン装置」という。)がある。リモコン装置によれば、乗員は船舶上において船舶推進機から離れた場所から船舶推進機を操作することができる。
【0003】
リモコン装置は操作レバーを備えている。乗員は操作レバーを前後方向に傾ける操作をすることにより、船舶を前進させ、または後進させることができる。具体的には、操作レバーの位置がニュートラル位置であるとき、船舶推進機は船舶の推進力を零にする。一般的なリモコン装置においては、操作レバーが垂直に立ち上がった状態が、操作レバーがニュートラル位置にある状態である。また、操作レバーが垂直に対して前方に傾いたとき、船舶推進機により船舶を前方へ押し動かす推進力が生成される。これにより船舶は前進する。また、操作レバーの垂直に対する前方への傾斜角が大きくなるに従って、船舶推進機により生成される推進力が大きくなる。その結果、船舶の前進速度が増加する。また、操作レバーが垂直に対して後方に傾いたとき、船舶推進機により船舶を後方へ押し動かす推進力が生成される。これにより船舶は後進する。また、操作レバーの垂直に対する後方への傾斜角が大きくなるに従って、船舶推進機により生成される推進力が大きくなる。その結果、船舶の後進速度が増加する。
【0004】
また、船舶には、船舶の進行方向を変える操舵装置、および操舵装置を操作する操舵用の操作装置が設けられる。船舶推進機が船外機である場合、操舵装置は、船外機の船舶に対する水平方向における向きを変えるアクチュエータである。船舶推進機が船内外機である場合、操舵装置は、船内外機においてプロペラが設けられた駆動系部分の船舶に対する水平方向における向きを変えるアクチュエータである。船舶推進機が船内機である場合、操舵装置は舵を動かすアクチュエータである。操舵用の操作装置は例えばハンドルである。
【0005】
上記リモコン装置およびハンドルはいずれも乗員が船舶を手動運転するための操作装置であるが、現在においては、船舶を自動運転するための自動運転装置が普及している。自動運転装置は、GPS(グローバル・ポジショニング・システム)および海図データ等に基づいて船舶の現在位置を認識する機能を有している。また、自動運転装置は、乗員により設定された経路に沿って船舶を自動的に航行させる機能を有している。
【0006】
自動運転装置による船舶の自動運転を開始させるに当たり、まず、乗員は、船舶の現在位置から目的地までの経路を設定し、自動運転を開始する指示を入力する。次に、乗員は、リモコン装置の操作レバーを垂直に対して前方に傾け、船舶の前進速度が所望の速度となるように、操作レバーの傾斜角を調整する。自動運転装置は、船舶の前進速度が安定したところで、自動運転を開始する。自動運転中、乗員は、船舶の航行状態および船舶の周囲の状況が安全であり、かつ船舶または船舶に設けられた装置が正常に動作している場合には、基本的に、リモコン装置およびハンドルを操作しなくてもよい。
【0007】
自動運転装置は、自動運転中、操舵装置を制御し、船舶が設定された経路上を進むように、船舶の自動操舵を行う。また、自動運転装置の中には、自動運転中、船舶推進機を制御し、設定された経路上を直進する船舶の速度を自動的に一定に保つ機能を有しているものがある。さらに、自動運転装置の中には、自動運転中、設定された経路上の変針位置で船舶を自動的に旋回させるときに、船舶の旋回中のオーバーシュートを抑えるために、船舶推進機を制御し、船舶の速度を自動的に増減させる機能を有しているものがある。例えば、自動運転装置は、船舶の旋回中のオーバーシュートを抑えるために、旋回の直前および旋回中には、船舶の速度を自動的に減少させ、旋回を終えた後には、船舶の速度を直進時の速度に復帰させるために、船舶の速度を増加させる。
【0008】
実用新案登録第3201225号公報(特許文献1)には、GPSコンパス、電子海図システムにより船舶の現在位置情報、誘導経路情報、停船保持位置情報に基づいて船舶を予め定めた設定針路に誘導制御する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、自動運転中に、自動運転装置の動作に異常が発生した場合には、乗員の安全等を確保するために、船舶の運転方式を自動運転から手動運転に切り替える。この運転方式の切替に関し、次のような問題がある。
【0011】
船舶の運転方式が自動運転から手動運転に切り替わった後に、乗員がリモコン装置の操作レバーを操作したとき、船舶の速度が乗員の意に反して急変することがあり、また、乗員が操作レバーの操作と船舶の挙動とが一致しないといった違和感を抱くことがある。
【0012】
このような船舶の速度の急変、または乗員が抱く違和感は、船舶の運転方式が自動運転から手動運転に切り替わった時点において、リモコン装置の操作レバーの傾斜角と、船舶推進機により生成されている推進力とが乖離していることに起因する。この乖離が生じる理由は次の通りである。
【0013】
上述したように、自動運転を開始させるに当たり、乗員は、リモコン装置の操作レバーを垂直に対して前方に傾け、船舶の前進速度が所望の速度となるように操作レバーの傾斜角を調整する。また、自動運転装置が、自動運転中に、直進する船舶の速度を自動的に一定に保つ機能を有している場合、自動運転装置は、自動運転中に船舶推進機を制御し、水流または風等の影響による船舶の速度変化を打ち消すように船舶推進機により生成される推進力を変化させる。また、自動運転装置が、船舶の旋回中のオーバーシュートを抑えるために船舶の速度を自動的に増減させる機能を有している場合には、自動運転装置は、自動運転中に船舶を旋回させるときに、船舶推進機を制御し、船舶推進機により生成される推進力を変化させる。このように、自動運転装置が自動運転中に船舶推進機により生成される推進力を変化させる一方、乗員が自動運転の開始時にリモコン装置の操作レバーを前方に傾けて操作レバーの傾斜角を調整した後、自動運転中に操作レバーを全く操作しなかった場合には、操作レバーの傾斜角と船舶推進機により生成される推進力とが一致しなくなることがあり、すなわち両者間に乖離が生じることがある。自動運転中に、操作レバーの傾斜角と船舶推進機により生成される推進力とが乖離しているときに、自動運転装置の動作の異常が認識され、船舶の運転方式が自動運転から手動運転に切り替わった場合には、船舶の運転方式が自動運転から手動運転に切り替わった時点において、リモコン装置の操作レバーの傾斜角と船舶推進機により生成されている推進力とが乖離することとなる。
【0014】
船舶の運転方式が自動運転から手動運転に切り替わった後に、リモコン装置の操作レバーの傾斜角と船舶推進機により生成されている推進力とが大きく乖離している状態で、乗員が操作レバーを操作したとき、船舶の速度が乗員の意に反して急変する。具体的には、乗員が、船舶の速度を漸増または漸減させるために、操作レバーをゆっくり徐々に操作したにもかかわらず、船舶の速度が急変する。例えば、船舶の運転方式が自動運転から手動運転に切り替わった後において、操作レバーの実際の傾斜角が垂直に対して前方に45度であり、その時点において、船舶推進機により実際に生成されている推進力が、手動操作により操作レバーの傾斜角を垂直に対して前方に60度としたときに生成される推進力と等しい推進力である状態において、乗員が手動操作により操作レバーを後方に5度傾けた場合、その操作は、操作レバーの垂直に対する前方への傾斜角を60度から40度に瞬時に変更したのと同じこととなる。その結果、船舶の速度が急に減少する。船舶の速度の急変は船舶の挙動の大きな変化をもたらすことがあるため、避ける必要がある。
【0015】
また、船舶の運転方式が自動運転から手動運転に切り替わった後に、リモコン装置の操作レバーの傾斜角と船舶推進機により生成されている推進力とが乖離している状態で、乗員が操作レバーを操作したとき、乗員が操作レバーの操作と船舶の挙動とが一致しないといった違和感を抱くことがある。例えば、船舶の運転方式が自動運転から手動運転に切り替わった後において、操作レバーの実際の傾斜角が垂直に対して前方に45度であり、その時点において、船舶推進機により実際に生成されている推進力が、手動操作により操作レバーの傾斜角を垂直に対して前方に30度としたときに生成される推進力と等しい推進力である状態において、乗員が手動操作により操作レバーを後方に5度傾けた場合、その操作は、操作レバーの垂直に対する前方への傾斜角を30度から40度に瞬時に変更したのと同じこととなる。その結果、船舶の速度が増加する。乗員は、操作レバーを船舶の速度が減少する方向に操作したにもかかわらず、船舶の速度の増加するので、違和感を抱く。このような違和感は乗員を混乱させるので、このような違和感を抱かせないようにする必要がある。
【0016】
本発明は例えば上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の課題は、船舶の自動運転中に、自動運転動作に異常が発生し、船舶の運転方式が自動運転から手動運転に切り替わった後に乗員が手動操作部(例えばリモコン装置の操作レバー)を操作したとき、船舶の速度が急変することを防止することができ、また、乗員が手動操作部の操作と船舶の挙動とが一致しないといった違和感を抱くことを防止することができる船舶運転制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明は、船舶の推進力を生成する船舶推進機、および前記船舶推進機を手動操作する手動操作部が設けられた前記船舶の運転を制御する船舶運転制御装置であって、前記手動操作部の手動操作に応じて前記船舶推進機を制御する手動運転制御部と、前記船舶推進機を前記手動操作部の手動操作によらずに自動的に制御する自動運転制御部と、前記自動運転制御部の動作の異常を検知する異常検知部と、前記船舶推進機が前記自動運転制御部により制御されているときに前記異常検知部により前記異常が検知された場合に前記船舶推進機の制御を前記自動運転制御部による制御から前記手動運転制御部による制御に切り替える運転方式切替部とを備え、前記手動運転制御部は、前記手動操作部の位置がニュートラル位置であるときに、前記船舶の推進力が零となるように前記船舶推進機を制御し、前記手動操作部の位置が前記ニュートラル位置から一方向に移動したときに、前記船舶を前方へ押し動かす推進力が生成されるように前記船舶推進機を制御し、前記手動操作部の位置の前記ニュートラル位置からの一方向における移動量が大きくなるに従って前記船舶を前方へ押し動かす推進力が増加するように前記船舶推進機を制御し、前記運転方式切替部は、前記異常検知部により前記異常が検知された場合に前記自動運転制御部による前記船舶推進機の制御を解除する自動運転解除部と、前記自動運転解除部が前記自動運転制御部による前記船舶推進機の制御を解除した後に、前記船舶推進機を制御することにより、前記船舶の推進力が零になるまで前記船舶の推進力を漸減させる推進力漸減制御部と、前記推進力漸減制御部による前記船舶推進機の制御によって前記船舶の推進力が零になった後に、前記手動操作部の位置が前記ニュートラル位置であるか否かを判断する操作位置判断部と、前記推進力漸減制御部による前記船舶推進機の制御によって前記船舶の推進力が零になってから前記操作位置判断部により前記手動操作部の位置が前記ニュートラル位置であることが判断されるまで前記船舶の推進力を零に維持し、前記操作位置判断部により前記手動操作部の位置が前記ニュートラル位置であることが判断された後に、前記手動運転制御部による前記船舶推進機の制御を開始させる手動運転開始部とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、船舶の自動運転中に、自動運転動作に異常が発生し、船舶の運転方式が自動運転から手動運転に切り替わった後に乗員が手動操作部を操作したとき、船舶の速度が急変することを防止することができ、また、乗員が手動操作部の操作と船舶の挙動とが一致しないといった違和感を抱くことを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1の実施例の船舶運転制御装置が設けられた船舶を示す説明図である。
【
図2】
図1中の船舶に設けられたBCM(ボート・コントロール・モジュール)を示す説明図である。
【
図3】
図1中の船舶に設けられた船外機を示す説明図である。
【
図4】
図1中の船舶に設けられたリモコン装置を示す説明図である。
【
図5】本発明の第1の実施例の船舶運転制御装置における運転方式切替処理を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の第2の実施例の船舶運転制御装置が適用された船舶を示す説明図である。
【
図7】
図6中の船舶に設けられたBCMを示す説明図である。
【
図8】
図6中の船舶に設けられたリモコン装置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態の船舶運転制御装置は、船舶の運転を制御する装置である。船舶運転制御装置が適用される船舶には、船舶の推進力を生成する船舶推進機、および船舶推進機を手動操作する手動操作部が設けられている。
【0021】
本実施形態の船舶運転制御装置は、手動運転制御部、自動運転制御部、異常検知部、および運転方式切替部を備えている。
【0022】
手動運転制御部は、手動操作部の手動操作に応じて船舶推進機を制御する。具体的には、手動運転制御部は、手動操作部の位置がニュートラル位置であるときに、船舶の推進力が零となるように、すなわち、船舶推進機が推進力を生成しなくなるように、船舶推進機を制御する。また、手動運転制御部は、手動操作部の位置がニュートラル位置から一方向に移動したときに、船舶を前方へ押し動かす推進力が生成されるように船舶推進機を制御する。また、手動運転制御部は、手動操作部の位置のニュートラル位置からの一方向における移動量が大きくなるに従って船舶を前方へ押し動かす推進力が増加するように船舶推進機を制御する。
【0023】
自動運転制御部は、船舶推進機を手動操作部の手動操作によらずに自動的に制御する。例えば、自動運転制御部は、船舶を一定の速度で直進させるために、船舶推進機を制御することにより、水流または風等の影響による船舶の速度変化を打ち消すように、船舶の推進力を変化させる。また、自動運転制御部は、船舶の旋回時のオーバーシュートを抑えて船舶を円滑に旋回させるために、船舶推進機を制御することにより船舶の推進力を変化させる。
【0024】
異常検知部は、自動運転制御部の動作の異常を検知する。自動運転制御部の異常、船舶推進機の異常、および自動運転制御部と船舶推進機との間の通信の異常のうちの少なくとも1つが生じた場合には、自動運転制御部の動作が異常となる。異常検知部は、自動運転制御部の異常、船舶推進機の異常、および自動運転制御部と船舶推進機との間の通信の異常のうちの少なくとも1つを自動運転制御部の動作の異常として検知することができる。
【0025】
運転方式切替部は、船舶推進機が自動運転制御部により制御されているときに異常検知部により自動運転制御部の動作の異常が検知された場合に、船舶推進機の制御を自動運転制御部による制御から手動運転制御部による制御に切り替える。
【0026】
運転方式切替部は、自動運転解除部、推進力漸減制御部、操作位置判断部、および手動運転開始部を備えている。
【0027】
自動運転解除部は、異常検知部により自動運転制御部の動作の異常が検知された場合に、自動運転制御部による船舶推進機の制御を解除する。
【0028】
推進力漸減制御部は、自動運転解除部が自動運転制御部による船舶推進機の制御を解除した後に、船舶推進機を制御することにより、船舶の推進力が零になるまで船舶の推進力を漸減させる。
【0029】
操作位置判断部は、推進力漸減制御部による船舶推進機の制御によって船舶の推進力が零になった後に、手動操作部の位置がニュートラル位置であるか否かを判断する。
【0030】
手動運転開始部は、推進力漸減制御部による船舶推進機の制御によって船舶の推進力が零になってから、操作位置判断部により手動操作部の位置がニュートラル位置であることが判断されるまで、船舶の推進力を零に維持し、操作位置判断部により手動操作部の位置がニュートラル位置であることが判断された後に、手動運転制御部による船舶推進機の制御を開始させる。
【0031】
本実施形態の船舶運転制御装置は、自動運転制御部の動作の異常が検知された場合に、まず、自動運転制御部による船舶推進機の制御を解除し、その後、船舶の推進力が零になるまで船舶の推進力を漸減させる。その後、船舶運転制御装置は、手動操作部の位置がニュートラル位置であることが判断されるまで船舶の推進力を零に維持する。すなわち、乗員が手動操作部の位置をニュートラル位置にするまで、船舶の推進力を零に維持しながら待機する。実際の運用では、例えば、船舶の推進力が零になるまで船舶の推進力を漸減させた直後に、手動操作部の位置をニュートラル位置に戻す旨の指示を乗員に出すようにするのがよい。例えば、このような指示を船舶のコクピットに設けられた表示装置に表示するようにするのがよい。そして、乗員が手動操作部の位置をニュートラル位置にしたとき、船舶運転制御装置は、手動操作部の位置がニュートラル位置になったと判断し、手動運転制御部による船舶推進機の制御を開始する。
【0032】
このような自動運転制御装置の処理によれば、自動運転制御部の動作の異常時に、手動運転制御部による船舶推進機の制御が開始される直前において、船舶推進機により生成される推進力が零になっており、かつ手動操作部の位置がニュートラル位置になっている。すなわち、自動運転制御部の動作の異常時に手動運転制御部による船舶推進機の制御が開始される直前において、手動操作部の位置と船舶推進機により生成される推進力(=零)とが一致している。したがって、その後、乗員が手動操作部を操作して船舶の手動運転を開始したときに、船舶の速度が乗員の意に反して急変することを防止することができ、また、乗員が手動操作部の操作と船舶の挙動とが一致しないといった違和感を抱くことを防止することができる。
【実施例0033】
(船舶、船舶運転制御装置)
図1は、本発明の第1の実施例の船舶運転制御装置41が設けられた船舶1を示している。
図2は、船舶1に設けられたBCM(ボート・コントロール・モジュール)42を示している。
【0034】
図1において、船舶1は、例えばボート等の小型の船、または中型の船である。船舶1には、船外機5、リモコン装置25、操舵用油圧アクチュエータ31、ハンドル32、ヘルムポンプ33、および船舶運転制御装置41が設けられている。
【0035】
船外機5は、船舶1を推進させる船舶推進機であり、船舶1の推進力を生成する。船外機5は船舶1の船体の船尾の左右方向中央に取り付けられ、船体の外側に配置されている。リモコン装置25は、船外機5を遠隔操作する装置であり、乗員が船外機5を手動操作するための装置である。リモコン装置25は船舶1のコクピット2に配置されている。
【0036】
操舵用油圧アクチュエータ31は、船舶1に対する船外機5の水平方向における向きを変えることにより、船舶1の進行方向を変える装置である。ハンドル32は、乗員が操舵用油圧アクチュエータ31を手動操作するための装置である。ハンドル32は船舶1のコクピット2に配置されている。ヘルムポンプ33は、ハンドル32の操作に応じて操舵用油圧アクチュエータ31を油圧により制御するための油圧ポンプである。
【0037】
船舶運転制御装置41は、船舶1の運転を制御する装置である。船舶運転制御装置41は、船舶1の手動運転に関する機能と、船舶1の自動運転に関する機能を有している。船舶運転制御装置41は、船舶1の手動運転に関する機能として、リモコン装置25の操作に応じて船外機5を制御する機能を有している。また、船舶運転制御装置41は、船舶1の自動運転に関する機能として、設定された経路上を船舶1が円滑に航行するように、船舶1の進行方向をハンドル32の操作によらずに自動的に変化させ、また、船舶1の推進力をリモコン装置25の操作によらずに自動的に変化させる機能を有している。さらに、船舶運転制御装置41は、船舶1の自動運転中に自動運転動作に異常が発生したときに、船舶1の運転方式を自動運転から手動運転に切り替える機能を有している。
【0038】
船舶運転制御装置41は、BCM42、自動運転制御ユニット51、GPSアンテナ52、プロッタ53、舵角制御ユニット54、操作パネル55、表示器56、およびゲートウェイ57を備えている。
【0039】
BCM42は、船舶1の総合的な制御、船舶1に設けられた複数の装置間の連携を図る制御等を行うための装置である。BCM42は演算処理装置および記憶装置を備えている。BCM42は、
図2に示すように、手動運転制御部43、異常検知部44、および運転方式切替部45を備えている。手動運転制御部43は、リモコン装置25の操作に応じて船外機5を制御する。異常検知部44は、自動運転制御ユニット51による自動運転動作の異常を検知する。運転方式切替部45は、船舶1の自動運転中に自動運転動作に異常が発生したときに、船舶1の運転方式を自動運転から手動運転に切り替える。また、BCM42は、自動運転制御ユニット51から送信された指令信号に基づいて船外機5を制御する自動運転サポート機能を有している。手動運転制御部43、異常検知部44、運転方式切替部45および自動運転サポート機能は、例えばBCM42の演算処理装置が、BCM42の記憶装置に記憶されたプログラムを読み取って実行することにより実現される。
【0040】
自動運転制御ユニット51は、船舶1の自動運転を行うための装置である。自動運転制御ユニット51は演算処理装置および記憶装置を備えている。自動運転時において、自動運転制御ユニット51は、舵角制御ユニット54を介して操舵用油圧アクチュエータ31を制御し、乗員により設定された経路上を船舶1が航行するように船舶1の進行方向をハンドル32の操作によらずに自動的に変化させる。また、自動運転時において、自動運転制御ユニット51は、BCM42を介して船外機5を制御し、乗員により設定された経路上を船舶1が円滑に航行するように、船舶1の推進力をリモコン装置25の操作レバー27の操作によらずに自動的に変化させる。具体的には、自動運転制御ユニット51は、船外機5を制御するための指令信号をBCM42に送信し、BCM42は、その指令信号に基づいて船外機5を制御する。なお、自動運転制御ユニット51は「自動運転制御部」の具体例である。
【0041】
GPSアンテナ52は、GPS衛生からの電波を受信するアンテナである。GPSアンテナ52は、GPS衛星から電波を介して送信された情報を自動運転制御ユニット51に出力する。
【0042】
プロッタ53は、例えば液晶ディスプレイおよびタッチパネルを備えている。乗員は、プロッタ53を用いて、船舶1を自動運転させる経路の設定、および自動運転開始の指示の入力を行うことができる。プロッタ53は、乗員により設定された経路を示す経路情報、および自動運転開始の指示を示す信号を自動運転制御ユニット51に出力する。プロッタ53は船舶1のコクピット2に配置されている。
【0043】
舵角制御ユニット54は、自動運転時において、自動運転制御ユニット51から出力された電気信号(操舵制御信号)に基づいて操舵用油圧アクチュエータ31を制御する装置である。舵角制御ユニット54には、自動運転制御ユニット51から出力された操舵制御信号に応じて動作する自動操舵用油圧ポンプが内蔵されており、舵角制御ユニット54は、この自動操舵用油圧ポンプにより生成される油圧により操舵用油圧アクチュエータ31を制御する。
【0044】
操作パネル55は、主に船外機5の始動、停止等を操作するため装置であり、船外機5のエンジン6の始動、停止を行うボタン等が設けられている。操作パネル55は船舶1のコクピット2に配置されている。
【0045】
表示器56は、例えば液晶ディスプレイを備えている。表示器56には、船外機5に関する情報(例えばエンジン回転数、燃料残量等)、船舶に関する情報(例えば船舶の速度等)、および種々の通知等が表示される。表示器56は船舶1のコクピット2に配置されている。
【0046】
船外機5が有するECM(エンジン・コントロール・モジュール)23、リモコン装置25、BCM42、操作パネル55および表示器56は第1のネットワーク61を介して相互に電気的に接続されており、これらの装置は例えばCAN(コントロール・エリア・ネットワーク)等のシリアル通信プロトロルに従って通信を行う。また、自動運転制御ユニット51および舵角制御ユニット54は第2のネットワーク62を介して相互に電気的に接続されており、これらの装置も例えばCAN等のシリアル通信プロトロルに従って通信を行う。ゲートウェイ57は、第1のネットワーク61と第2のネットワーク62とを相互に電気的に接続するための装置である。なお、船舶1において2つのネットワーク61、62が構築されているのは設計上の事情による。設計の仕方によっては、船舶1におけるネットワークを1つに統合することができ、その場合にはゲートウェイ57は不要になる。
【0047】
(船外機)
図3は船外機5の内部構造を模式的に示している。
図3において、船外機5は、エンジン6、スロットル装置10、プロペラ12、シフト装置19、およびECM23を備えている。
【0048】
エンジン6は、推進力を生成する動力源であり、クランクシャフト7およびピストン8を有している。エンジン6は、船外機5において水面よりも上に位置する船外機5の上部に配置されている。
【0049】
スロットル装置10は、スロットルバルブ11を開閉することにより燃焼用空気のエンジン6の燃焼室内への流入量を調整する装置である。本実施例のスロットル装置10は電子制御方式のスロットル装置である。エンジン6には、燃焼用空気をエンジン6の燃焼室内へ流入させるためのインテークマニホールド9が接続されており、スロットル装置10はインテークマニホールド9に取り付けられている。また、スロットルバルブ11はインテークマニホールド9の流入側の管路内に配置されている。スロットルバルブ11の開度がアイドリング開度である場合には、エンジン6の回転数はアイドリングの回転数となる。本実施例では、スロットルバルブ11が全閉した状態が、スロットルバルブ11の開度がアイドリング開度である状態である。なお、エンジン6の回転数をアイドリングの回転数に維持するための燃焼用空気の燃焼室内への供給は、例えばアイドリング駆動用の別の空気通路を介して行うようになっている。また、スロットルバルブ11の開度が大きくなるに従って、エンジン6の回転数が増加する。エンジン6の回転数が増加するに従って、プロペラ12の回転数が増加する。これにより、船外機5により生成される推進力が増加し、船舶1の推進力が増加する。
【0050】
プロペラ12は、エンジン6の動力を船舶1の推進力に変換する装置であり、船外機5において水面よりも下に位置する船外機5の下部の後部に配置されている。
【0051】
エンジン6とプロペラ12との間には、エンジン6の動力をプロペラ12に伝達するための機構として、ドライブシャフト13、ドライブギヤ14、前進ギヤ15、後進ギヤ16、プロペラシャフト17、およびドッグクラッチ18が設けられている。ドライブシャフト13は船外機5の上部から下部へ垂直方向に伸長し、ドライブシャフト13の下端部にドライブギヤ14が固定されている。ドライブシャフト13はエンジン6の動力を受けて回転し、これに伴い、ドライブギヤ14が回転する。ドライブギヤ14、前進ギヤ15および後進ギヤ16はいずれもベベルギヤである。ドライブギヤ14はその回転軸が垂直方向となるように配置されているのに対し、前進ギヤ15および後進ギヤ16はそれらの回転軸が水平方向となるように配置されている。前進ギヤ15と後進ギヤ16とは互いに向かい合うように互いに同軸に配置され、前進ギヤ15はドライブシャフト13よりも前側の位置でドライブギヤ14と噛合し、後進ギヤ16はドライブシャフト13よりも後ろ側の位置でドライブギヤ14と噛合している。それゆえ、ドライブギヤ14の回転に伴い、前進ギヤ15と後進ギヤ16とは互いに反対方向に回転する。プロペラシャフト17は船外機5の下部に配置され、水平方向に伸長し、プロペラシャフト17の後端部にはプロペラ12が固定されている。また、プロペラシャフト17の前端部は、前進ギヤ15および後進ギヤ16のそれぞれの中心に設けられた貫通穴に非接触状態で挿入されており、前進ギヤ15および後進ギヤ16はいずれもプロペラシャフト17には固定されていない。ドッグクラッチ18は前進ギヤ15と後進ギヤ16との間に配置されている。ドッグクラッチ18は、プロペラシャフト17の前端部に、プロペラシャフト17に対して周方向には移動不能で、かつ軸方向には移動可能となるように取り付けられている。また、ドッグクラッチ18の前面および後面には歯が形成され、前進ギヤ15の後面の内周側部分には歯が形成され、後進ギヤ16の前面の内周側部分にも歯が形成されている。シフト装置19の制御により、ドッグクラッチ18が前方に移動すると、ドッグクラッチ18の前面に形成された歯が前進ギヤ15の後面に形成された歯と噛合し、ドッグクラッチ18と前進ギヤ15とが互いに接続される。これにより、ドライブシャフト13の回転が前進ギヤ15を介してプロペラシャフト17に伝達され、プロペラシャフト17およびプロペラ12が正転する。プロペラ12の正転により、船舶1を前方へ押し動かす推進力が生成される。一方、シフト装置19の制御により、ドッグクラッチ18が後方に移動すると、ドッグクラッチ18の後面に形成された歯が後進ギヤ16の前面に形成された歯と噛合し、ドッグクラッチ18と後進ギヤ16とが互いに接続される。これにより、ドライブシャフト13の回転が後進ギヤ16を介してプロペラシャフト17に伝達され、プロペラシャフト17およびプロペラ12が逆転する。プロペラ12の逆転により、船舶1を後方へ押し動かす推進力が生成される。また、シフト装置19の制御により、ドッグクラッチ18が前進ギヤ15と後進ギヤ16との中間に位置しているときには、ドッグクラッチ18は前進ギヤ15および後進ギヤ16のいずれとも接続されない状態となる。この場合には、ドライブシャフト13の回転はプロペラシャフト17に伝達されない。これにより、プロペラ12が回転しなくなるので、船外機5により推進力が生成されなくなり、船舶1の推進力は零になる。
【0052】
シフト装置19は、エンジン6の動力を前進ギヤ15を介してプロペラ12に伝達してプロペラ12を正転させるか、エンジン6の動力を後進ギヤ16を介してプロペラ12に伝達してプロペラ12を逆転させるか、エンジン6の動力をプロペラ12に伝達しないようにしてプロペラ12を停止させるかを切り替える装置である。シフト装置19は、ドッグクラッチ18を移動させることにより、ドッグクラッチ18が前進ギヤ15に接続された状態、ドッグクラッチ18が後進ギヤ16に接続された状態、およびドッグクラッチ18が前進ギヤ15および後進ギヤ16のいずれにも接続されていない状態のうちのいずれかの状態にする。本実施例のシフト装置19は、電子制御方式のシフト装置である。シフト装置19は、船外機5の上部に配置されたシフトアクチュエータ20、シフトアクチュエータ20の動力をクラッチ駆動機構22に伝達するシフトロッド21、およびシフトロッド21を介して伝達されたシフトアクチュエータ20の動力によりドッグクラッチ18を移動させるクラッチ駆動機構22を備えている。
【0053】
ECM23は、エンジン6を制御する装置であり、演算処理装置および記憶装置を備えている。具体的には、ECM23は、スロットル装置10にバルブ制御信号を送り、スロットルバルブ11の開度を変化させる。また、ECM23は、シフト装置19にクラッチ制御信号を送り、ドッグクラッチ18を移動させる。また、スロットル装置10はスロットルバルブ11の位置(スロットルバルブ11の開度)を検出するスロットル位置センサが設けられており、ECM23は、スロットル位置センサから出力された検出信号に基づいて、スロットルバルブ11の位置を示すスロットル位置情報をBCM42、自動運転制御ユニット51等に送信する機能を有している。また、ECM23はエンジン6およびシフト装置19のそれぞれの状態を示す情報をBCM42、表示器56等に送信する機能を有している。また、ECM23は船外機5の異常診断を行い、その結果をBCM42に送信する機能を有している。
【0054】
(リモコン装置、手動運転制御部)
図4はリモコン装置25を示している。
図4において、リモコン装置25はリモコン装置本体26および操作レバー27を備えている。乗員は操作レバー27を前後方向に傾ける操作をすることにより、船舶を前進させ、または後進させることができる。例えば、操作レバー27を
図4に示すように垂直に立ち上げたとき、操作レバー27の位置はニュートラル位置Nとなる。また、操作レバー27の垂直に対する前方への傾斜角が例えば18度以上85度以下となるように操作レバー27を前方に傾けたとき、操作レバー27の位置は前進操作範囲F内となる。また、操作レバー27の垂直に対する後方への傾斜角が例えば18度以上65度以下となるように操作レバー27を後方に傾けたとき、操作レバー27の位置は後進操作範囲R内となる。
【0055】
操作レバー27の位置がニュートラル位置Nであるとき、船舶1の推進力は零になる。操作レバー27の位置が前進操作範囲F内であるとき、船外機5により船舶1を前方へ押し動かす推進力が生成される。これにより、船舶1は前進する。操作レバー27の位置が前進操作範囲F内である状態で、操作レバー27の垂直に対する前方への傾斜角が大きくなるに従って、船外機5により生成される船舶1を前方へ押し動かす推進力が増加する。これにより、船舶1の前進速度が増加する。操作レバー27の位置が後進操作範囲R内であるとき、船外機5により船舶1を後方へ押し動かす推進力が生成される。これにより、船舶1は後進する。操作レバー27の位置が後進操作範囲R内である状態で、操作レバー27の垂直に対する後方への傾斜角が大きくなるに従って、船外機5により生成される船舶1を後方へ押し動かす推進力が増加する。これにより、船舶1の後進速度が増加する。
【0056】
操作レバー27の位置または傾斜角に応じて船外機5により生成される推進力を変化させる制御は、例えば次のように行われる。リモコン装置25は、操作レバー27の位置または傾斜角を示す操作信号をBCM42に出力する。手動運転制御部43は、この操作信号を取得し、当該操作信号に基づいて、船外機5のシフト装置19を制御するためのシフト制御信号、および船外機5のスロットル装置10を制御するためのスロットル制御信号をECM23に出力する。ECM23は、シフト制御信号に基づき、ドッグクラッチ18の移動を制御するクラッチ制御信号をシフト装置19に出力し、スロットル制御信号に基づき、スロットルバルブ11の開度を制御するバルブ制御信号をスロットル装置10に出力する。
【0057】
具体的には、操作レバー27の位置がニュートラル位置Nになったとき、手動運転制御部43は、リモコン装置25から出力された操作信号に基づいて、ドッグクラッチ18の状態を前進ギヤ15および後進ギヤ16のいずれにも接続されていない状態にするためのシフト制御信号をECM23に出力する。ECM23は、シフト制御信号に基づいて、ドッグクラッチ18の位置を前進ギヤ15と後進ギヤ16との中間の位置に移動させるクラッチ制御信号をシフト装置19に出力する。これにより、プロペラ12が停止し、船舶1の推進力は零になる。また、エンジン6はアイドリング状態となる。
【0058】
また、操作レバー27が垂直に対して前方に傾斜したとき、手動運転制御部43は、リモコン装置25から出力された操作信号に基づいて、ドッグクラッチ18を前進ギヤ15と接続するためのシフト制御信号をECM23に出力する。ECM23は、シフト制御信号に基づいて、ドッグクラッチ18を前方に移動させて前進ギヤ15と接続させるクラッチ制御信号をシフト装置19に出力する。また、操作レバー27が垂直に対して後方に傾斜したとき、手動運転制御部43は、リモコン装置25から出力された操作信号に基づいて、ドッグクラッチ18を後進ギヤ16と接続するためのシフト制御信号をECM23に出力する。ECM23は、シフト制御信号に基づいて、ドッグクラッチ18を後方に移動させて後進ギヤ16と接続させるクラッチ制御信号をシフト装置19に出力する。
【0059】
また、操作レバー27が垂直に対して前方に傾斜して、操作レバー27の位置が前進操作範囲F内になったとき、手動運転制御部43は、リモコン装置25から出力された操作信号に基づいて、スロットルバルブ11の開度を、操作レバー27の垂直に対する傾斜角の絶対値に応じた開度に設定するためのスロットル制御信号をECM23に出力する。ECM23は、スロットル制御信号に基づいて、スロットルバルブ11の開度を、操作レバー27の垂直に対する傾斜角の絶対値に応じた開度にするバルブ制御信号をスロットル装置10に出力する。これにより、プロペラ12が正転し、船舶1を前方へ押し動かす推進力が生成される。また、スロットルバルブ11の開度が大きくなるに従って、船舶1を前方へ押し動かす推進力が大きくなる。また、前進操作範囲F内にある操作レバー27がニュートラル位置Nに向かって傾斜し、前進操作範囲Fから出たとき、手動運転制御部43は、リモコン装置25から出力された操作信号に基づいて、スロットルバルブ11を全閉するためのスロットル制御信号をECM23に出力する。ECM23は、スロットル制御信号に基づいて、スロットルバルブ11を全閉するバルブ制御信号をスロットル装置10に出力する。
【0060】
また、操作レバー27が垂直に対して後方に傾斜し、操作レバー27の位置が後進操作範囲R内になったとき、手動運転制御部43は、リモコン装置25から出力された操作信号に基づいて、スロットルバルブ11の開度を、操作レバー27の垂直に対する傾斜角の絶対値に応じた開度に設定するためのスロットル制御信号をECM23に出力する。ECM23は、スロットル制御信号に基づいて、スロットルバルブ11の開度を、操作レバー27の垂直に対する傾斜角の絶対値に応じた開度にするバルブ制御信号をスロットル装置10に出力する。これにより、プロペラ12が逆転し、船舶1を後方へ押し動かす推進力が生成される。また、スロットルバルブ11の開度が大きくなるに従って、船舶1を後方へ押し動かす推進力が大きくなる。また、後進操作範囲R内にある操作レバー27がニュートラル位置Nに向かって傾斜し、後進操作範囲Rから出たとき、手動運転制御部43は、リモコン装置25から出力された操作信号に基づいて、スロットルバルブ11を全閉するためのスロットル制御信号をECM23に出力する。ECM23は、スロットル制御信号に基づいて、スロットルバルブ11を全閉するバルブ制御信号をスロットル装置10に出力する。
【0061】
(自動運転制御ユニット)
図1中の自動運転制御ユニット51は、GPSおよび海図データ等に基づいて船舶1の現在位置を認識する機能を有している。具体的には、GPSアンテナ52は、GPS衛星から電波を介して送信された情報を自動運転制御ユニット51に出力する。また、海図データはプロッタ53に内蔵された記憶装置に記憶されている。自動運転制御ユニット51は、GPS衛星から電波を介して送信された情報、および海図データ等を用いて船舶1の現在位置を認識する。
【0062】
また、自動運転制御ユニット51は、乗員により設定された経路に沿って船舶1をハンドル32の操作によらずに自動的に操舵する機能を有している。具体的には、乗員は、プロッタ53を用いて、船舶1を自動運転させる目的地、および船舶1の現在位置からその目的地までの経路を設定することができる。プロッタ53は、乗員により設定された経路を示す経路情報を、プロッタ53に内蔵された記憶装置に記憶する。自動運転制御ユニット51は、プロッタ53から経路情報を取得し、その経路情報に基づいて船舶1を操舵する操舵制御信号を舵角制御ユニット54に出力する。舵角制御ユニット54は、操舵制御信号に基づいて操舵用油圧アクチュエータ31を制御し、乗員により設定された経路上を船舶1が航行するように船舶の進行方向を自動的に変化させる。
【0063】
また、自動運転制御ユニット51は、乗員により設定された経路上を船舶1が円滑に航行するように、船舶1の推進力をリモコン装置25の操作レバー27の操作によらずに自動的に変化させる機能を有している。具体的には、自動運転制御ユニット51は、乗員により設定された経路上を直進する船舶1の速度を一定に保つために、BCM42を介して船外機5を制御することによって船舶1の推進力を変化させる。例えば、自動運転制御ユニット51は、乗員により設定された経路上を船舶が直進しているときに、BCM42を介して船外機5を制御し、水流または風等の影響による船舶1の速度変化を打ち消すように船外機5により生成される推進力を変化させる。また、自動運転制御ユニット51は、乗員により設定された経路上の変針位置で船舶1を旋回させるに当たり、船舶1の旋回中のオーバーシュートを抑えるために、BCM42を介して船外機5を制御することによって船舶1の推進力を変化させる。例えば、自動運転制御ユニット51は、乗員により設定された経路上の変針位置で船舶1を旋回させる直前および旋回させている間には、船舶1が減速するように、BCM42を介して船外機5を制御し、船外機5により生成される推進力を減少させ、また、船舶1が旋回を終えた後には、船舶1の速度が直進時の速度に復帰するように、BCM42を介して船外機5を制御し、船外機5により生成される推進力を増加させる。
【0064】
自動運転制御ユニット51による船舶1の自動運転を開始させるに当たり、まず、乗員は、プロッタ53を用いて、船舶1を自動運転させる目的地、および船舶1の現在位置からその目的地までの経路を設定し、自動運転を開始する指示を入力する。次に、乗員は、リモコン装置25の操作レバー27を垂直に対して前方に傾け、船舶1の前進速度が所望の速度となるように、操作レバー27の傾斜角を調整する。自動運転制御ユニット51は、船舶1の前進速度が安定したところで、自動運転を開始する。自動運転中、乗員は、船舶1の航行状態および船舶1の周囲の状況が安全であり、かつ船舶1または船舶1に設けられた装置が正常に動作している場合には、基本的に、リモコン装置25およびハンドル32を操作しなくてもよい。
【0065】
また、自動運転中、自動運転制御ユニット51が船外機5により生成される推進力を変化させる制御は、例えば次のように行われる。自動運転中、自動運転制御ユニット51は、船舶1の推進力を増加または減少させる指令信号をBCM42に送信する。BCM42は、その指令信号に基づいて、船外機5のスロットル装置10を制御するためのスロットル制御信号をECM23に出力する。ECM23は、スロットル制御信号に基づき、バルブ制御信号をスロットル装置10に出力する。
【0066】
また、自動運転制御ユニット51は、自身の異常診断を行い、その結果をBCM42に送信する機能を有している。
【0067】
(異常検知部)
図2中の異常検知部44は、自動運転制御ユニット51による自動運転動作の異常を検知する。自動運転制御ユニット51による自動運転動作の異常には、自動運転制御ユニット51の異常(すなわち自動運転制御ユニット51の内部の異常等、自動運転制御ユニット51自身の異常)、船外機5の異常、および自動運転制御ユニット51と船外機5との間の通信の異常が含まれる。異常検知部44は、自動運転制御ユニット51の異常、船外機5の異常、および自動運転制御ユニット51と船外機5との間の通信の異常のそれぞれを、自動運転制御ユニット51による自動運転動作の異常として検知する。
【0068】
自動運転制御ユニット51は、自動運転制御ユニット51の異常を示す異常情報を異常検知部44に送信する。異常検知部44は、自動運転制御ユニット51から送信された異常情報を受信し、その異常情報に基づいて自動運転制御ユニット51の異常を検知する。
【0069】
また、船外機5は、船外機5の異常を示す異常情報を異常検知部44に送信する。異常検知部44は、船外機5から送信された異常情報を受信し、その異常情報に基づいて船外機5の異常を検知する。
【0070】
また、自動運転中、自動運転制御ユニット51からBCM42へ指令信号が送信され、BCM42からECM23へのスロットル制御信号の送信される。また、ECM23はスロットル位置情報をBCM42を介して自動運転制御ユニット51に送信する。異常検知部44は、自動運転中、これらの信号または情報の送信状況を監視し、これらの信号または情報の送信状況の異常を、自動運転制御ユニット51と船外機5との間の通信の異常として検知する。例えば、指令信号、スロットル制御信号またはスロットル位置情報の送信エラーの頻度が所定の基準よりも高い場合、あるいは指令信号、スロットル制御信号またはスロットル位置情報の送信のタイミングが所定のタイミングと異なる場合等に、異常検知部44は、自動運転制御ユニット51と船外機5との間の通信に異常が生じたと認識する。
【0071】
(運転方式切替部)
運転方式切替部45は、船舶1の自動運転中に自動運転動作に異常が発生したときに、船舶1の運転方式を自動運転から手動運転に切り替える。具体的には、運転方式切替部45は、船外機5が自動運転制御ユニット51により制御されているときに、異常検知部44により自動運転動作の異常が検知された場合に、船外機5の制御を自動運転制御ユニット51による制御から手動運転制御部43による制御に切り替える。
【0072】
運転方式切替部45は、
図2に示すように、自動運転解除部46、推進力漸減制御部47、操作位置判断部48、手動運転開始部49、および通知要求出力制御部50を備えている。自動運転解除部46、推進力漸減制御部47、操作位置判断部48、手動運転開始部49および通知要求出力制御部50は、例えばBCM42の演算処理装置が、BCM42の記憶装置に記憶されたプログラムを読み取って実行することにより実現される。
【0073】
自動運転解除部46は、異常検知部44により自動運転制御ユニット51の自動運転動作の異常が検知された場合に、自動運転制御ユニット51による船外機5の制御を解除する。
【0074】
推進力漸減制御部47は、自動運転解除部46が自動運転制御ユニット51による船外機5の制御を解除した後に、船外機5を制御することにより、船舶1の推進力が零になるまで船舶1の推進力を漸減させる。
【0075】
操作位置判断部48は、推進力漸減制御部47による船外機5の制御によって船舶1の推進力が零になった後に、リモコン装置25の操作レバー27の位置がニュートラル位置Nであるか否かを判断する。
【0076】
手動運転開始部49は、推進力漸減制御部47による船外機5の制御によって船舶1の推進力が零になってから、操作位置判断部48により操作レバー27の位置がニュートラル位置Nであることが判断されるまで、船舶1の推進力を零に維持し、操作位置判断部48により操作レバー27の位置がニュートラル位置Nであることが判断された後に、手動運転制御部43による船外機5の制御を開始させる。
【0077】
通知要求出力制御部50は、乗員に向けて、自動運転動作の異常の通知、および運転方式の切替に関する要求を行う。
【0078】
(運転方式切替処理)
図5は運転方式切替処理を示している。運転方式切替処理は、船舶1の自動運転中に自動運転動作の異常の有無を監視し、船舶1の自動運転中に自動運転動作に異常が発生したときに、船舶1の運転方式を自動運転から手動運転に切り替える処理である。運転方式切替処理は、船舶1の自動運転が開始されたとき、すなわち、自動運転制御ユニット51による船外機5の制御が開始されたときに、開始される。
図5を用いて運転方式切替処理について説明する。
【0079】
船舶1の自動運転の開始直後から、異常検知部44が自動運転制御ユニット51による自動運転動作の異常の有無、具体的には、自動運転制御ユニット51の異常、船外機5の異常、および自動運転制御ユニット51と船外機5との間の通信の異常のそれぞれの有無を監視している(ステップS1~S3)。
【0080】
異常検知部44が、自動運転制御ユニット51の異常を検知したとき(ステップS1:YES)、船外機5の異常を検知したとき(ステップS2:YES)、または自動運転制御ユニット51と船外機5との間の通信の異常を検知したとき(ステップS3:YES)、通知要求出力制御部50が、異常が検知されたことを乗員に通知する(ステップS4)。例えば、通知要求出力制御部50は、異常が検知されたことを表示器56に表示する。
【0081】
続いて、自動運転解除部46が、自動運転制御ユニット51による船外機5の制御を解除する(ステップS5)。例えば、自動運転解除部46は、自動運転制御ユニット51による船外機5の制御を停止させるための制御信号である自動運転停止信号を自動運転制御ユニット51に送信する。これにより、自動運転制御ユニット51による船外機5の制御が停止する。
【0082】
続いて、推進力漸減制御部47が、船外機5を制御することにより、スロットルバルブ11が全閉になるまで、スロットルバルブ11の開度を漸減させる(ステップS6)。例えば、推進力漸減制御部47は、スロットルバルブ11の開度を所定量減少させるための制御信号であるスロットル漸減制御信号をECM23に送信し、次に、スロットル位置情報の送信を要求する信号であるスロットル位置情報要求信号をECM23に送信し、次に、スロットル位置情報要求信号に応じてECM23から送信されたスロットル位置情報に基づいてスロットルバルブ11が全閉したか否かを判断するといった一連の処理を、スロットルバルブ11が全閉したと判断されるまで、所定の間隔を置いて繰り返す。ステップS6において、ECM23は、推進力漸減制御部47から送信されたスロットル漸減制御信号に基づいて、スロットルバルブ11の開度を所定量減少させるバルブ制御信号をスロットル装置10に出力する。これにより、スロットルバルブ11の開度が所定量減少する。次に、ECM23は、推進力漸減制御部47から送信されたスロットル位置情報要求信号に応じてスロットル位置情報を推進力漸減制御部47に送信する。ステップS6における推進力漸減制御部47およびECM23の処理により、スロットルバルブ11は、その開度が徐々に小さくなり、全閉になる。これにより、船舶1の推進力が漸減する。
【0083】
スロットルバルブ11を全閉した後、推進力漸減制御部47は、船外機5を制御することにより、ドッグクラッチ18と前進ギヤ15との接続を解除する(ステップS7)。例えば、推進力漸減制御部47は、ドッグクラッチ18の状態を前進ギヤ15および後進ギヤ16のいずれにも接続されていない状態にするための切断制御信号をECM23に送信する。ECM23は、推進力漸減制御部47から送信された切断制御信号に基づいて、ドッグクラッチ18の位置を前進ギヤ15と後進ギヤ16との中間の位置に移動させるクラッチ制御信号をシフト装置19に出力する。これにより、ドッグクラッチ18が前進ギヤ15と後進ギヤ16との中間の位置に移動し、ドッグクラッチ18と前進ギヤ15との接続が解除され、ドッグクラッチ18の状態は前進ギヤ15および後進ギヤ16のいずれにも接続されていない状態になる。その結果、エンジン6の動力がプロペラ12に伝達されなくなるので、プロペラ12が停止し、船舶1の推進力は零になる。
【0084】
続いて、通知要求出力制御部50が、リモコン装置25の操作レバー27の位置をニュートラル位置Nに戻すことを乗員に要求する(ステップS8)。例えば、通知要求出力制御部50は、操作レバー27の位置をニュートラル位置Nに戻すことを要求するメッセージを表示器56に表示する。乗員は、自動運転制御ユニット51による船舶1の自動運転を開始させるに当たり、操作レバー27を垂直に対して前方に傾け、船舶1の前進速度が所望の速度となるように、操作レバー27の傾斜角を調整する。したがって、ステップS8が実行される時点において、操作レバー27の位置はニュートラル位置Nではない。乗員は、通知要求出力制御部50による要求に応じて、操作レバー27の位置をニュートラル位置Nに戻す。
【0085】
続いて、操作位置判断部48が、リモコン装置25の操作レバー27の位置がニュートラル位置Nであるか否かを判断する(ステップS9)。この判断は、リモコン装置25からBCM42に出力される操作信号を操作位置判断部48が取得し、その取得した操作信号に基づいて行うことができる。乗員が操作レバー27の位置をニュートラル位置Nに戻した場合、操作レバー27の位置がニュートラル位置Nであると操作位置判断部48により判断される。
【0086】
手動運転開始部49は、推進力漸減制御部47による船外機5の制御によって船舶1の推進力が零になってから、操作レバー27の位置がニュートラル位置Nであることが操作位置判断部48により判断されるまで、船舶1の推進力を零に維持する。すなわち、この間は、スロットルバルブ11は全閉のままであり、ドッグクラッチ18は前進ギヤ15と後進ギヤ16との中間に止まっている。そして、操作位置判断部48により、操作レバー27の位置がニュートラル位置Nであると判断された後(ステップS9:YES)、手動運転開始部49は、手動運転制御部43による船外機5の制御を開始させる。ステップS5において自動運転制御ユニット51による船外機5の制御が解除されてから、ステップS10において手動運転制御部43による船外機5の制御が開始される直前までは、乗員が操作レバー27を操作しても船外機5は操作レバー27の操作に応じた動作を行わない。一方、ステップS10において手動運転制御部43による船外機5の制御が開始された後は、船外機5は乗員による操作レバー27の操作に応じて動作を行う。なお、ステップS1~S3で自動運転動作の異常が検知されないまま、船舶1の自動運転が終了した場合には、運転方式切替処理は終了する。
【0087】
以上説明した通り、本発明の第1の実施例の船舶運転制御装置41においては、自動運転制御ユニット51による自動運転動作の異常が検知された場合に、自動運転制御ユニット51による船外機5の制御を解除し、その後、船舶1の推進力が零になるまで船舶1の推進力を漸減させる。その後、リモコン装置25の操作レバー27の位置がニュートラル位置Nであることが判断されるまで船舶1の推進力を零に維持する。すなわち、乗員が操作レバー27の位置をニュートラル位置Nにするまで、船舶1の推進力を零に維持しながら待機する。そして、乗員が操作レバー27の位置をニュートラル位置Nにした場合に、操作レバー27の位置がニュートラル位置Nになったと判断し、手動運転制御部43による船外機5の制御を開始する。このような処理を行う船舶運転制御装置41によれば、自動運転動作の異常時に、手動運転制御部43による船外機5の制御が開始される直前において、船外機5により生成される推進力が零になっており、かつ操作レバー27の位置がニュートラル位置Nになっている。すなわち、自動運転動作の異常時に手動運転制御部43による船外機5の制御が開始される直前において、操作レバー27の位置と船外機5により生成される推進力(=零)とが一致している。したがって、その後、乗員が操作レバー27を操作して船舶1の手動運転を開始したときに、船舶1の速度が乗員の意に反して急変することを防止することができ、また、乗員が操作レバー27の操作と船舶1の挙動とが一致しないといった違和感を抱くことを防止することができる。
【0088】
また、本実施例の船舶運転制御装置41においては、自動運転制御ユニット51による自動運転動作の異常が検知された場合に、自動運転制御ユニット51による船外機5の制御を解除してから、船舶1の推進力が零になり、かつ操作レバー27の位置がニュートラル位置Nに戻るまで、手動運転制御部43による船外機5の制御を開始しない。換言すれば、自動運転制御ユニット51による船外機5の制御を解除してから、操作レバー27の傾斜角と、船外機5により生成されている推進力とが乖離しているおそれのある間は、乗員による操作レバー27の操作に基づく船外機5の制御を行わない。これにより、運転方式切替処理の実行中に、操作レバー27の位置をニュートラル位置Nに戻す旨の要求(
図5中のステップS8)に応じて乗員が操作レバー27の位置をニュートラル位置Nに戻すときなどに、船舶1の速度が急変することを防止することができる。
【0089】
また、本実施例の船舶運転制御装置41において、異常検知部44は、自動運転制御ユニット51の異常、船外機5の異常、および自動運転制御ユニット51と船外機5との間の通信の異常のそれぞれを自動運転制御ユニット51による自動運転動作の異常として検知する。これにより、船舶1の自動運転に支障を来すおそれのある異常を広範囲に検知することができる。
【0090】
また、本実施例の船舶運転制御装置41において、異常検知部44は、自動運転制御ユニット51から送信された異常情報を受信することにより自動運転制御ユニット51の異常を検知する。これにより、自動運転制御ユニット51の異常を容易に検知することができる。
上記第1の実施例は、1機の船外機5が設けられた船舶1に本発明の船舶運転制御装置を適用した場合の実施例であるのに対し、第2の実施例は、2機の船外機73、74が設けられた船舶71に本発明の船舶運転制御装置を適用した場合の実施例である。
船外機73、74はそれぞれ、第1の実施例における船外機5と同様の構成を有している。各船外機73、74の構成要素のうち、第1の実施例における船外機5の構成要素と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。また、船外機73は船舶71の船体の船尾の左部に取り付けられ、船外機74は船舶71の船体の船尾の右部に取り付けられている。
船舶71を前進させるとき、乗員は、通常、操作レバー77および操作レバー78を同時に前方に傾け、操作レバー77および操作レバー78のそれぞれの位置が前進操作範囲内となるようにし、また、操作レバー77の垂直に対する前方への傾斜角と操作レバー78の垂直に対する前方への傾斜角とが互いに等しくなるようにする。また、船舶71を後進させるとき、乗員は、通常、操作レバー77および操作レバー78を同時に後方に傾け、操作レバー77および操作レバー78のそれぞれの位置が後進操作範囲内となるようにし、また、操作レバー77の垂直に対する後方への傾斜角と操作レバー78の垂直に対する後方への傾斜角とが互いに等しくなるようにする。また、乗員が操作レバー77および操作レバー78のそれぞれの位置をニュートラル位置にしたときには、船外機73および船外機74がそれぞれ推進力を生成しない状態となるので、船舶71の推進力は零になる。
操舵用油圧アクチュエータ81は、船舶71に対する船外機73の水平方向における向きを変える装置であり、操舵用油圧アクチュエータ82は、船舶71に対する船外機74の水平方向における向きを変える装置である。ハンドル83は、乗員が2機の操舵用油圧アクチュエータ81、82を手動操作するための装置である。ヘルムポンプ84は、ハンドル83の操作に応じて2機の操舵用油圧アクチュエータ81、82を油圧により制御するための油圧ポンプである。
船舶運転制御装置91は、2機の船外機73、74が設けられた船舶71の運転を制御する装置である。船舶運転制御装置91は、BCM92、自動運転制御ユニット111、GPSアンテナ112、プロッタ113、舵角制御ユニット114、操作パネル115、表示器116、およびゲートウェイ117を備えている。
手動運転制御部93は、リモコン装置75の操作に応じて2機の船外機73、74を制御する。具体的には、リモコン装置75は、操作レバー77の傾斜角を示す操作信号をBCM92に出力する。手動運転制御部93は、この操作信号を取得し、当該操作信号に基づいて、船外機73のシフト装置19を制御するためのシフト制御信号、および船外機73のスロットル装置10を制御するためのスロットル制御信号を船外機73のECM23に出力する。また、リモコン装置75は、操作レバー78の傾斜角を示す操作信号をBCM92に出力する。手動運転制御部93は、この操作信号を取得し、当該操作信号に基づいて、船外機74のシフト装置19を制御するためのシフト制御信号、および船外機74のスロットル装置10を制御するためのスロットル制御信号を船外機74のECM23に出力する。
異常検知部94は、自動運転制御ユニット111による自動運転動作の異常を検知する。具体的には、異常検知部94は、自動運転制御ユニット111の異常、船外機73の異常、船外機74の異常、自動運転制御ユニット111と船外機73との間の通信の異常、および自動運転制御ユニット111と船外機74との間の通信の異常のそれぞれを、自動運転制御ユニット111による自動運転動作の異常として検知する。
自動運転制御ユニット111は、2機の船外機73、74が設けられた船舶71の自動運転を行うための装置である。なお、自動運転制御ユニット111は「自動運転制御部」の具体例である。GPSアンテナ112は第1の実施例におけるGPSアンテナ52と同じものである。プロッタ113は第1の実施例におけるプロッタ53と同じものである。
自動運転時において、自動運転制御ユニット111は、舵角制御ユニット114を介して2機の操舵用油圧アクチュエータ81、82を制御し、乗員により設定された経路上を船舶71が航行するように船舶71の進行方向をハンドル83の操作によらずに自動的に変化させる。
また、自動運転時において、自動運転制御ユニット111は、BCM92を介して2機の船外機73、74を制御し、乗員により設定された経路上を船舶71が円滑に航行するように、船舶71の推進力をリモコン装置75の操作レバー77および操作レバー78のうちのいずれの操作レバーの操作にもよらずに自動的に変化させる。具体的には、自動運転制御ユニット111は、乗員により設定された経路上を直進する船舶71の速度を一定に保つために、BCM92を介して船外機73、74を制御することによって船舶71の推進力を変化させる。また、自動運転制御ユニット111は、乗員により設定された経路上の変針位置で船舶71を旋回させるに当たり、船舶71の旋回中のオーバーシュートを抑えるために、BCM92を介して船外機73、74を制御することによって船舶71の推進力を変化させる。
自動運転制御ユニット111による船舶71の自動運転を開始させるに当たり、まず、乗員は、プロッタ113を用いて、船舶71を自動運転させる目的地、および船舶71の現在位置からその目的地までの経路を設定し、自動運転を開始する指示を入力する。次に、乗員は、リモコン装置75の操作レバー77および操作レバー78のそれぞれを同時に垂直に対して前方に傾け、船舶71の前進速度が所望の速度となるように、操作レバー77および操作レバー78の傾斜角を調整する。自動運転制御ユニット111は、船舶71の前進速度が安定したところで、自動運転を開始する。
舵角制御ユニット114は、自動運転時において、自動運転制御ユニット111から出力された電気信号(操舵制御信号)に基づいて2機の操舵用油圧アクチュエータ81、82を制御する装置である。舵角制御ユニット114は、2機の操舵用油圧アクチュエータ81、82を制御することができる構成を有している点を除き、第1の実施例における舵角制御ユニット54とほぼ同様である。
船外機73が有するECM23、船外機74が有するECM23、リモコン装置75、BCM92、操作パネル115および表示器116は第1のネットワーク121を介して相互に電気的に接続されている。また、自動運転制御ユニット111および舵角制御ユニット114は第2のネットワーク122を介して相互に電気的に接続されている。また、第1のネットワーク121と第2のネットワーク122とはゲートウェイ117を介して相互に電気的に接続されている。各装置間の通信には例えばCANが用いられている。
船舶71の自動運転中、異常検知部94が自動運転制御ユニット111による自動運転動作の異常の有無、具体的には、自動運転制御ユニット111の異常、船外機73の異常、船外機74の異常、自動運転制御ユニット111と船外機73との間の通信の異常、および自動運転制御ユニット111と船外機74との間の通信の異常のそれぞれの有無を監視している(ステップS1~S3)。
異常検知部94が、自動運転制御ユニット111の異常を検知したとき(ステップS1:YES)、船外機73の異常もしくは船外機74の異常を検知したとき(ステップS2:YES)、または自動運転制御ユニット111と船外機73との間の通信の異常もしくは自動運転制御ユニット111と船外機74との間の通信の異常を検知したとき(ステップS3:YES)、通知要求出力制御部100が、異常が検知されたことを乗員に通知する(ステップS4)。
続いて、推進力漸減制御部97が、船外機73を制御することにより、船外機73のスロットルバルブ11が全閉になるまで、船外機73のスロットルバルブ11の開度を漸減させ、同時に、船外機74を制御することにより、船外機74のスロットルバルブ11が全閉になるまで、船外機74のスロットルバルブ11の開度を漸減させる(ステップS6)。
船外機73のスロットルバルブ11および船外機74のスロットルバルブ11をそれぞれ全閉した後、推進力漸減制御部97は、船外機73を制御することにより、船外機73におけるドッグクラッチ18と前進ギヤ15との接続を解除し、同時に、船外機74を制御することにより、船外機74におけるドッグクラッチ18と前進ギヤ15との接続を解除する(ステップS7)。
続いて、操作位置判断部98が、操作レバー77の位置および操作レバー78の位置のいずれもがニュートラル位置であるか否かを判断する(ステップS9)。乗員が、操作レバー77および操作レバー78のそれぞれの位置をニュートラル位置に戻した場合、操作レバー77の位置および操作レバー78の位置のいずれもがニュートラル位置であると操作位置判断部98により判断される。
手動運転開始部99は、推進力漸減制御部97による船外機73、74の制御によって船舶71の推進力が零になってから、操作レバー77の位置および操作レバー78の位置のいずれもがニュートラル位置であることが操作位置判断部98により判断されるまで、船舶71の推進力を零に維持する。そして、操作位置判断部98により、操作レバー77の位置および操作レバー78の位置のいずれもがニュートラル位置であると判断された後(ステップS9:YES)、手動運転開始部99は、手動運転制御部93による船外機73、74の制御を開始させる。なお、ステップS1~S3で自動運転動作の異常が検知されないまま、船舶71の自動運転が終了した場合には、運転方式切替処理は終了する。
本発明の第2の実施例の船舶運転制御装置91によれば、自動運転動作の異常時に、手動運転制御部93による船外機73、74の制御が開始される直前において、船外機73、74により生成される推進力が零になっており、かつ操作レバー77の位置および操作レバー78の位置がいずれもニュートラル位置になっている。すなわち、自動運転動作の異常時に手動運転制御部93による船外機73、74の制御が開始される直前において、操作レバー77の位置と船外機73により生成される推進力(=零)とが一致し、かつ操作レバー78の位置と船外機74により生成される推進力(=零)とが一致している。したがって、その後、乗員が操作レバー77、78を操作して船舶71の手動運転を開始したときに、船舶71の速度が乗員の意に反して急変することを防止することができ、また、乗員が操作レバー77、78の操作と船舶71の挙動とが一致しないといった違和感を抱くことを防止することができる。
なお、本発明は、3機以上の船外機が設けられた船舶にも適用することができる。また、本発明は、3つ以上の操作レバーを備えたリモコン装置が設けられた船舶にも適用することができる。また、上記各実施例では、BCMおよびECMにより船外機を制御する場合を例にあげたが、船外機を制御する方法または構成はこれに限定されず、例えばBCMを用いずに船外機を制御するようにしてもよい。また、上記第2の実施例では、2つの操舵用油圧アクチュエータをそれぞれ油圧制御することにより2つの船外機の向きをそれぞれ制御する場合を例にあげたが、2つの操舵用油圧アクチュエータをタイバーで接続し、一方の操舵用油圧アクチュエータを油圧制御し、他方の操舵用油圧アクチュエータを一方の操舵用油圧アクチュエータの動きにタイバーを介して連動させるようにしてもよい。また、船舶の進行方向を変える操舵装置は、油圧アクチュエータに限らず、電動アクチュエータでもよい。また、本発明は、電動モータを推進力生成の動力源とする船外機が設けられた船舶にも適用することができる。また、本発明は、船内外機または船内機等、船外機以外の船舶推進機が設けられた船舶にも適用することができる。
また、上記各実施例では、本発明における手動操作部の一例として、リモコン装置の操作レバーを例にあげたが、本発明における手動操作部は、操作レバーに限らず、例えばジョイスティックでもよいし、ボタンでもよい。
また、上記各実施例では、船舶の自動運転につき、乗員により設定された経路に沿って船舶が円滑に航行するように、操舵制御および推進力制御の双方を自動化する場合を例にあげたが、本発明はこれに限らず、船舶の自動運転として、推進力制御の自動化のみを行うようにしてもよい。
また、上記各実施例において、異常検知部44(94)が、自動運転制御ユニット51(111)の異常、船外機5(73、74)の異常、および自動運転制御ユニット51(111)と船外機5(73、74)との間の通信の異常のそれぞれを、自動運転制御ユニット51(111)による自動運転動作の異常として検知する場合を例にあげたが、本発明において、異常検知部が検知する自動運転制御部の動作の異常の内容はこれらに限定されない。
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う船舶運転制御装置もまた本発明の技術思想に含まれる。