(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171018
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】取引企業支援システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/10 20120101AFI20241204BHJP
【FI】
G06Q50/10
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087855
(22)【出願日】2023-05-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】500113567
【氏名又は名称】株式会社伊予銀行
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】篠田 貴志
(72)【発明者】
【氏名】楢原 宏規
(72)【発明者】
【氏名】堀内 勝太
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049CC11
5L050CC11
(57)【要約】
【課題】取引企業別に、マーケット指標がどの程度、どのタイミングで影響を与えているのかを、当該企業財務マーケット指標として決定できる取引企業支援システムを提供すること。
【解決手段】コンピュータが、指標データの対応時期を遅らせた複数の時期別相関分析を行う時期別相関分析ステップ13、時期別相関分析による回帰式の決定係数が最も大きい時期を最尤時期として決定する最尤時期決定ステップ20、最尤時期における財務項目とマーケット指標との相関係数及び有意確率を算出する相関・有意確率算出ステップ30、財務項目に対して相関性及び有意性があるマーケット指標を当該企業財務マーケット指標として決定する当該企業財務マーケット指標決定ステップ40、当該企業財務マーケット指標を、最尤時期における財務項目とマーケット指標との回帰式データとともにデータベースに登録する登録ステップ50を、取引企業別に実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
過去のマーケット指標の変動が取引企業の財務に与える影響から、前記取引企業の今後の前記財務の予測を行うことで前記取引企業を支援する取引企業支援システムであって、
コンピュータが、
前記マーケット指標の過去所定期間における指標データと、前記過去所定期間における前記取引企業の財務項目の財務データとを用い、前記財務データに対して、前記指標データの対応時期を遅らせた複数の時期別相関分析を行う時期別相関分析ステップと、
前記時期別相関分析による回帰式の決定係数が最も大きい時期を最尤時期として決定する最尤時期決定ステップと、
前記最尤時期における前記財務項目と前記マーケット指標との相関係数及び有意確率を算出する相関・有意確率算出ステップと、
前記相関・有意確率算出ステップにおいて、前記財務項目に対して相関性及び有意性がある前記マーケット指標を当該企業財務マーケット指標として決定する当該企業財務マーケット指標決定ステップと、
前記当該企業財務マーケット指標を、前記最尤時期における前記財務項目と前記マーケット指標との回帰式データとともにデータベースに登録する登録ステップと
を、前記取引企業別に実行する
ことを特徴とする取引企業支援システム。
【請求項2】
前記マーケット指標が、為替(ドル/円)、日経商品指数(42種)、実質賃金指数、BDI(Baltic Dry Index)、原油、ナフサ、ガソリン、石炭、銅、小麦、大豆、小豆、砂糖、木材、綿、ポリエチレン、企業物価指数、消費者物価指数、電気代、鉄鉱石、及びシリコンの少なくともいずれか1つを含む、第1マーケット指標と第2マーケット指標とを少なくとも有し、
前記財務項目が、有利子負債額、原価率、及び販管費率の少なくともいずれか1つを含む、第1財務項目と第2財務項目とを少なくとも有し、
前記時期別相関分析ステップでは、
前記取引企業別に、
前記第1財務項目と前記第1マーケット指標、前記第1財務項目と前記第2マーケット指標、前記第2財務項目と前記第1マーケット指標、及び前記第2財務項目と前記第2マーケット指標との間で前記時期別相関分析を行い、
前記相関・有意確率算出ステップでは、
前記取引企業別に、
前記第1財務項目と前記第1マーケット指標、前記第1財務項目と前記第2マーケット指標、前記第2財務項目と前記第1マーケット指標、及び前記第2財務項目と前記第2マーケット指標との間で前記相関係数及び前記有意確率を算出し、
前記登録ステップでは、
前記取引企業別に、
前記当該企業財務マーケット指標決定ステップで複数の前記当該企業財務マーケット指標が決定される場合には、決定されるすべての前記当該企業財務マーケット指標を登録する
ことを特徴とする請求項1に記載の取引企業支援システム。
【請求項3】
前記コンピュータに、
前記当該企業財務マーケット指標とした前記財務項目の直近財務値と前記マーケット指標の直近実績値、及び前記当該企業財務マーケット指標とした前記マーケット指標の予想値を入力することで、
前記コンピュータが、
前記当該企業財務マーケット指標として登録している前記回帰式データを用いて、前記当該企業財務マーケット指標とした前記財務項目の予想財務値を算出する予想財務値算出ステップと、
前記予想財務値を出力する予想財務値出力ステップと
を、前記取引企業別に実行する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の取引企業支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過去のマーケット指標の変動が取引企業の財務に与える影響から、取引企業の今後の財務を予測することで取引企業を支援する取引企業支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
円安や資源高は、取引企業の財務に相応の影響を与えている。しかし、マーケット指標が個別の取引企業にどの程度、どのタイミングで影響を与えているのかについては検証ができていない。
特許文献1には、外部環境の変化を考慮しながら、財務指標及び株価を定量的に分析することが記載されており、特許文献2には、最も相関係数の高い財を、その企業の擬制的分野として登録することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-9502号公報
【特許文献2】特開2012-118753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マーケット指標の変動により、取引企業がどのタイミングでどの程度の影響を受けるかを予測することができれば、取引企業に対して適切なタイミングで資金提案を行うことができ、取引企業を支援することができる。
なお、特許文献1は、外部環境情報と営業効率との相関、及び外部環境情報と生産効率との相関を分析し、算出された分析対象企業の営業効率の将来の予測値及び算出された分析対象企業の生産効率の将来の予測値に基づいて、分析対象企業の財務指標の将来の予測値を算出するものであり、それぞれの取引企業特有のマーケット指標を相関分析によって見出し、取引企業特有のマーケット指標を用いて将来の財務を予測するものではない。
また、特許文献2は、その企業の株価の変動と相関関係が高い業種を、その企業の擬制的分野として特定し、選定された企業の分野に応じた企業情報を提供するものであり、それぞれの取引企業特有のマーケット指標を相関分析によって見出し、取引企業特有のマーケット指標を用いて将来の財務を予測するものではない。
【0005】
本発明は、取引企業別に、マーケット指標がどの程度、どのタイミングで影響を与えているのかを、当該企業財務マーケット指標として決定できる取引企業支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明の取引企業支援システムは、過去のマーケット指標の変動が取引企業の財務に与える影響から、前記取引企業の今後の前記財務の予測を行うことで前記取引企業を支援する取引企業支援システムであって、コンピュータが、前記マーケット指標の過去所定期間における指標データと、前記過去所定期間における前記取引企業の財務項目の財務データとを用い、前記財務データに対して、前記指標データの対応時期を遅らせた複数の時期別相関分析を行う時期別相関分析ステップ13と、前記時期別相関分析による回帰式の決定係数が最も大きい時期を最尤時期として決定する最尤時期決定ステップ20と、前記最尤時期における前記財務項目と前記マーケット指標との相関係数及び有意確率を算出する相関・有意確率算出ステップ30と、前記相関・有意確率算出ステップ30において、前記財務項目に対して相関性及び有意性がある前記マーケット指標を当該企業財務マーケット指標として決定する当該企業財務マーケット指標決定ステップ40と、前記当該企業財務マーケット指標を、前記最尤時期における前記財務項目と前記マーケット指標との回帰式データとともにデータベースに登録する登録ステップ50とを、前記取引企業別に実行することを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の取引企業支援システムにおいて、前記マーケット指標が、為替(ドル/円)、日経商品指数(42種)、実質賃金指数、BDI(Baltic Dry Index)、原油、ナフサ、ガソリン、石炭、銅、小麦、大豆、小豆、砂糖、木材、綿、ポリエチレン、企業物価指数、消費者物価指数、電気代、鉄鉱石、及びシリコンの少なくともいずれか1つを含む、第1マーケット指標と第2マーケット指標とを少なくとも有し、前記財務項目が、有利子負債額、原価率、及び販管費率の少なくともいずれか1つを含む、第1財務項目と第2財務項目とを少なくとも有し、前記時期別相関分析ステップ13では、前記取引企業別に、前記第1財務項目と前記第1マーケット指標、前記第1財務項目と前記第2マーケット指標、前記第2財務項目と前記第1マーケット指標、及び前記第2財務項目と前記第2マーケット指標との間で前記時期別相関分析を行い、前記相関・有意確率算出ステップ30では、前記取引企業別に、前記第1財務項目と前記第1マーケット指標、前記第1財務項目と前記第2マーケット指標、前記第2財務項目と前記第1マーケット指標、及び前記第2財務項目と前記第2マーケット指標との間で前記相関係数及び前記有意確率を算出し、前記登録ステップ50では、前記取引企業別に、前記当該企業財務マーケット指標決定ステップ40で複数の前記当該企業財務マーケット指標が決定される場合には、決定されるすべての前記当該企業財務マーケット指標を登録することを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項1又は請求項2に記載の取引企業支援システムにおいて、前記コンピュータに、前記当該企業財務マーケット指標とした前記財務項目の直近財務値と前記マーケット指標の直近実績値、及び前記当該企業財務マーケット指標とした前記マーケット指標の予想値を入力することで、前記コンピュータが、前記当該企業財務マーケット指標として登録している前記回帰式データを用いて、前記当該企業財務マーケット指標とした前記財務項目の予想財務値を算出する予想財務値算出ステップ80と、前記予想財務値を出力する予想財務値出力ステップ90とを、前記取引企業別に実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、マーケット指標がどの程度、どのタイミングで影響を与えているのかを、当該企業財務マーケット指標として取引企業別に決定できることで、当該企業財務マーケット指標を用いて将来の財務を予測することができ、取引企業に対して適切なタイミングで資金提案を行うことができ、取引企業を支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施例による取引企業支援システムの処理流れを示す概念図
【
図2】本実施例による時期別相関分析と最尤時期決定の説明図
【
図3】本実施例による財務データに対する指標データの対応時期の説明図
【
図4】本実施例による相関・有意確率算出ステップと当該企業財務マーケット指標決定ステップの説明図
【
図5】本実施例による取引企業別に登録される当該企業財務マーケット指標の説明図
【
図6】本実施例による取引企業別に登録される当該企業財務マーケット指標についての回帰式データの説明図
【
図7】本実施例による取引企業別に登録される当該企業財務マーケット指標に基づく予想財務値の説明図
【
図8】本実施例による取引企業別の当該企業財務マーケット指標の出力イメージ図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第1の実施の形態による取引企業支援システムは、コンピュータが、マーケット指標の過去所定期間における指標データと、過去所定期間における取引企業の財務項目の財務データとを用い、財務データに対して、指標データの対応時期を遅らせた複数の時期別相関分析を行う時期別相関分析ステップと、時期別相関分析による回帰式の決定係数が最も大きい時期を最尤時期として決定する最尤時期決定ステップと、最尤時期における財務項目とマーケット指標との相関係数及び有意確率を算出する相関・有意確率算出ステップと、相関・有意確率算出ステップにおいて、財務項目に対して相関性及び有意性があるマーケット指標を当該企業財務マーケット指標として決定する当該企業財務マーケット指標決定ステップと、当該企業財務マーケット指標を、最尤時期における財務項目とマーケット指標との回帰式データとともにデータベースに登録する登録ステップとを、取引企業別に実行するものである。本実施の形態によれば、取引企業別に、マーケット指標がどの程度、どのタイミングで影響を与えているのかを、当該企業財務マーケット指標として決定できる。
【0010】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による取引企業支援システムにおいて、マーケット指標が、為替(ドル/円)、日経商品指数(42種)、実質賃金指数、BDI(Baltic Dry Index)、原油、ナフサ、ガソリン、石炭、銅、小麦、大豆、小豆、砂糖、木材、綿、ポリエチレン、企業物価指数、消費者物価指数、電気代、鉄鉱石、及びシリコンの少なくともいずれか1つを含む、第1マーケット指標と第2マーケット指標とを少なくとも有し、財務項目が、有利子負債額、原価率、及び販管費率の少なくともいずれか1つを含む、第1財務項目と第2財務項目とを少なくとも有し、時期別相関分析ステップでは、取引企業別に、第1財務項目と第1マーケット指標、第1財務項目と第2マーケット指標、第2財務項目と第1マーケット指標、及び第2財務項目と第2マーケット指標との間で時期別相関分析を行い、相関・有意確率算出ステップでは、取引企業別に、第1財務項目と第1マーケット指標、第1財務項目と第2マーケット指標、第2財務項目と第1マーケット指標、及び第2財務項目と第2マーケット指標との間で相関係数及び有意確率を算出し、登録ステップでは、取引企業別に、当該企業財務マーケット指標決定ステップで複数の当該企業財務マーケット指標が決定される場合には、決定されるすべての当該企業財務マーケット指標を登録するものである。本実施の形態によれば、複数種類のマーケット指標と財務項目との間で相関分析を行い、財務項目に対して相関関係があるマーケット指標を当該企業財務マーケット指標とすることで、取引企業特有のマーケット指標を用いて将来の財務を予測することができる。
【0011】
本発明の第3の実施の形態は、第1又は第2の実施の形態による取引企業支援システムにおいて、コンピュータに、当該企業財務マーケット指標とした財務項目の直近財務値とマーケット指標の直近実績値、及び当該企業財務マーケット指標としたマーケット指標の予想値を入力することで、コンピュータが、当該企業財務マーケット指標として登録している回帰式データを用いて、当該企業財務マーケット指標とした財務項目の予想財務値を算出する予想財務値算出ステップと、予想財務値を出力する予想財務値出力ステップとを、取引企業別に実行するものである。本実施の形態によれば、取引企業特有のマーケット指標を用いて将来の財務を予測することができるため、取引企業に対して適切なタイミングで資金提案を行うことができ、取引企業を支援することができる。
【実施例0012】
以下本発明の一実施例による取引企業支援システムについて説明する。
図1は本実施例による取引企業支援システムの処理流れを示す概念図である。
本実施例による取引企業支援システムは、過去のマーケット指標の変動が取引企業の財務に与える影響から、取引企業の今後の財務を予測することで取引企業を支援するものである。
【0013】
本実施例による取引企業支援システムでは、コンピュータは、マーケット指標DB1から、マーケット指標の過去所定期間における指標データを抽出し(S11)、取引企業情報DB2から過去所定期間における取引企業の財務項目の財務データを抽出する(S12)。
マーケット指標DB1には、為替(ドル/円)、日経商品指数(42種)、実質賃金指数、BDI(Baltic Dry Index)、原油、ナフサ、ガソリン、石炭、銅、小麦、大豆、小豆、砂糖、木材、綿、ポリエチレン、企業物価指数、消費者物価指数、電気代、鉄鉱石、及びシリコンの少なくともいずれか1つを含み、複数種類のマーケット指標を有している。それぞれのマーケット指標は、過去所定期間におけるデータを有している。
取引企業情報DB2には、複数の取引企業について、それぞれの取引企業の過去所定期間における財務値を有している。財務値は、有利子負債額、原価率、及び販管費率の少なくともいずれかを含み、有利子負債額、原価率、及び販管費率の全てのデータを有していることが好ましい。
【0014】
そして、コンピュータは、財務項目別、マーケット指標別に、財務データに対して、指標データの対応時期を遅らせた複数の時期別相関分析を行う(S13)。
ここで、財務項目は、有利子負債額、原価率、及び販管費率の少なくともいずれか1つを含む、第1財務項目と第2財務項目とを少なくとも有する。財務項目には、有利子負債額、原価率、及び販管費率を有することが好ましい。
また、マーケット指標は、為替(ドル/円)、日経商品指数(42種)、実質賃金指数、BDI(Baltic Dry Index)、原油、ナフサ、ガソリン、石炭、銅、小麦、大豆、小豆、砂糖、木材、綿、ポリエチレン、企業物価指数、消費者物価指数、電気代、鉄鉱石、及びシリコンの少なくともいずれか1つを含む、第1マーケット指標と第2マーケット指標とを少なくとも有する。マーケット指標には、為替(ドル/円)や実質賃金指数の他に、原油、ナフサ、ガソリン、石炭、銅、小麦、大豆、小豆、砂糖、木材、綿、ポリエチレン、鉄鉱石、及びシリコンのような原料に関する指標を含むことが好ましい。
S13における時期別相関分析ステップの後に、財務項目別、マーケット指標別に最尤時期を決定する(S20)。
S20における最尤時期決定ステップでは、時期別相関分析による回帰式の決定係数が最も大きい時期を最尤時期として決定する。
そして、最尤時期における財務項目とマーケット指標との相関係数及び有意確率を算出し(S30)、S30における相関・有意確率算出ステップの後に、財務項目に対して相関係性及び有意性があるマーケット指標を当該企業財務マーケット指標として決定し(S40)、S40における当該企業財務マーケット指標決定ステップの後に、当該企業財務マーケット指標を、最尤時期における財務項目とマーケット指標との回帰式データとともにデータベースに登録する(S50)。
S12における財務データの抽出から、S50における登録ステップまでは、取引企業別に実行する。
【0015】
以下に、取引企業について、登録された当該企業財務マーケット指標を用いた今後の財務を予測する処理を説明する。
コンピュータに、当該企業財務マーケット指標とした財務項目の直近財務値とマーケット指標の直近実績値、及び当該企業財務マーケット指標としたマーケット指標の予想値を入力する(S60)。なお、S60において、現在における当該企業財務マーケット指標は、コンピュータがマーケット指標DB1から抽出することで入力され、現在における財務項目は、コンピュータが取引企業情報DB2から抽出することで入力されることが好ましいが、入力手段を操作することでコンピュータに入力してもよい。
S60において、将来に予測される当該企業財務マーケット指標は、マーケット指標DB1にデータを有していれば、コンピュータがマーケット指標DB1から抽出することで入力されるが、マーケット指標DB1にデータを有していなければ、入力手段を操作することでコンピュータに入力する。このように、S60における入力データの一部又はすべては、マーケット指標DB1やその他のDB(データベース)のデータを用いることが好ましい。
コンピュータは、登録している当該企業財務マーケット指標と、その当該企業財務マーケット指標の回帰式データを取引企業情報DB2から抽出し(S70)、入力された財務項目の直近財務値、マーケット指標の直近実績値、及びマーケット指標の予想値と、回帰式データを用いて、当該企業財務マーケット指標とした財務項目の予想財務値を算出する(S80)。
そして、S80における予想財務値算出ステップで算出した予想財務値を出力する(S90)。
S90における予想財務値出力ステップでは、取引企業別に、当該企業財務マーケット指標とした財務項目の予想財務値を出力する。
【0016】
なお、S80における予想財務値算出ステップでは、複数の取引企業について行い、それぞれの取引企業について、入力された現在における財務項目から、予測された財務項目を減算して得られる減算値が閾値を越える取引企業について、取引企業名とともに出力することで、支援が必要な取引企業を適切なタイミングで把握することができる。
【0017】
図2は時期別相関分析と最尤時期決定の説明図、
図3は財務データに対する指標データの対応時期の説明図である。
図2に示す時期1から時期5は、例えば
図3に示すように、財務データに対して、指標データの対応時期を遅らせたものである。
図3では、過去所定期間を8期としている。財務データが3月決算の場合には、時期1は、指標データの対応時期を財務データの決算月に一致させたもの、時期2は、指標データの対応時期を財務データの決算月から3か月遅らせたもの、時期3は、指標データの対応時期を財務データの決算月から6か月遅らせたもの、時期4は、指標データの対応時期を財務データの決算月から9か月遅らせたもの、時期5は、指標データの対応時期を財務データの決算月から12か月遅らせたものである。
図2に示すように、S13における時期別相関分析ステップでは、取引企業別(顧客として、A社、B社・・・)に、第1財務項目(有利子負債額)と第1マーケット指標(為替(ドル/円))、第1財務項目(有利子負債額)と第2マーケット指標(原油)、第2財務項目(原価率)と第1マーケット指標(為替(ドル/円))、及び第2財務項目(原価率)と第2マーケット指標(原油)との間で時期別相関分析を行う。
図2に示す、顧客がA社、財務項目が有利子負債額、マーケット指標が為替(ドル/円)の場合には、時期別相関分析による回帰式の決定係数は時期2が最も大きいため、時期2を最尤時期として決定する。また、顧客がA社、財務項目が原価率、マーケット指標が原油の場合には、時期別相関分析による回帰式の決定係数は時期5が最も大きいため、時期5を最尤時期として決定する。
【0018】
図4は相関・有意確率算出ステップと当該企業財務マーケット指標決定ステップの説明図である。
図4では、最尤時期における財務項目とマーケット指標との相関係数及び有意確率を示している。
最尤時期における回帰式の有意確率(P値)が0.05以下であり、相関係数が正の場合(ただし、為替(ドル/円)は負相関も対象とする)には、財務項目に対して相関性及び有意性があるマーケット指標であり、当該企業財務マーケット指標として決定する。
図4に示す、顧客がA社、財務項目が原価率、マーケット指標が原油の場合には、最尤時期は時期5であり、時期5における原価率と原油との相関係数は-0.11、有意確率(P値)は0.040となっている。この場合には、相関係数が負となるため、影響有無欄で「0」表示を行っているように、当該企業財務マーケット指標とはしない。
また、
図4に示す、顧客がB社、財務項目が有利子負債額、マーケット指標が為替(ドル/円)の場合には、最尤時期は時期5であり、時期5における有利子負債額と為替(ドル/円)との相関係数は0.13、有意確率(P値)は0.620となっている。この場合には、相有意確率(P値)が0.05を超えているため、影響有無欄で「0」表示を行っているように、当該企業財務マーケット指標とはしない。
従って、
図4に示す場合では、取引企業が顧客Aの場合には、財務項目が有利子負債額でマーケット指標が為替(ドル/円)、財務項目が有利子負債額でマーケット指標が原油、財務項目が原価率でマーケット指標が為替(ドル/円)の場合を当該企業財務マーケット指標として決定している。
【0019】
このように、S30における相関・有意確率算出ステップでは、取引企業別に、第1財務項目と第1マーケット指標、第1財務項目と第2マーケット指標、第2財務項目と第1マーケット指標、及び第2財務項目と第2マーケット指標との間で相関係数及び有意確率を算出する。そして、S50における登録ステップでは、取引企業別に、当該企業財務マーケット指標決定ステップで複数の当該企業財務マーケット指標が決定される場合には、すべての当該企業財務マーケット指標を登録する。
【0020】
図5は取引企業別に登録される当該企業財務マーケット指標の説明図である。
図5では、C社、D社、E社、及びF社について登録されている当該企業財務マーケット指標を示している。
貨物運送業であるC社は、有利子負債額に対して、為替(ドル/円)(ただし円安)及び原油が当該企業財務マーケット指標となり、原価率に対して、為替(ドル/円)(ただし円安)及び原油が当該企業財務マーケット指標となり、販管費率に対して、原油及び石炭が当該企業財務マーケット指標となって登録されている。
貨物運送業であるD社は、有利子負債額に対して石炭が当該企業財務マーケット指標となり、原価率に対して、為替(ドル/円)(ただし円安)及び石炭が当該企業財務マーケット指標となり、販管費率に対して、原油及び石炭が当該企業財務マーケット指標となって登録されている。
例えば、C社とD社のように、同一業種であっても、当該企業財務マーケット指標は必ずしも一致するものではなく、取引企業別に、当該企業財務マーケット指標を決定しているため、取引企業の実態に即した支援を行うことができる。
【0021】
図6は取引企業別に登録される当該企業財務マーケット指標についての回帰式データの説明図である。
図6では、C社及びD社について登録されている当該企業財務マーケット指標について、財務項目、マーケット指標、及び回帰式データを示している。回帰式データは傾き(回帰係数)である。
貨物運送業であるC社は、有利子負債額に対して、為替(ドル/円)(ただし円安)が当該企業財務マーケット指標である場合には回帰係数(傾き)が0.103、有利子負債額に対して、原油が当該企業財務マーケット指標である場合には回帰係数(傾き)が1.119、原価率に対して、為替(ドル/円)(ただし円安)が当該企業財務マーケット指標である場合には回帰係数(傾き)が0.223、原価率に対して、原油が当該企業財務マーケット指標である場合には回帰係数(傾き)が0.556、販管費率に対して、原油が当該企業財務マーケット指標である場合には回帰係数(傾き)が1.132、販管費率に対して、石炭が当該企業財務マーケット指標である場合には回帰係数(傾き)が0.797である。
【0022】
図7は取引企業別に登録される当該企業財務マーケット指標に基づく予想財務値の説明図である。
図7では、財務項目の直近財務値を「直近決算財務値」、マーケット指標の直近実績値を「価格等指標の実績平均」、マーケット指標の予想値を「価格等指標の予想値」、予想財務値を「次回決算影響予測」として示している。
財務項目の直近財務値(直近決算財務値)を「A1」、マーケット指標の直近実績値(価格等指標の実績平均)を「B1」、マーケット指標の予想値(価格等指標の予想値)を「B2」、予想財務値(次回決算影響予測)を「A2」、傾きを「C」とすると、予想財務値(次回決算影響予測)A2は以下の式で表される。
A2=(B2/B1-1)×C×A1
例えば、L社について、財務項目が有利子負債額、当該企業財務マーケット指標が原油である場合には、予想財務値(次回決算影響予測)A2は、
(80.00/42.10-1)×0.223×50,000,000=10,037,648
となり、
図7では、「10,000,000」と表示している。
なお、マーケット指標の直近実績値(価格等指標の実績平均)B1は、当該企業の決算期間に対応させた期間であり、最尤時期による期間ずれを調整していることが好ましい。また、マーケット指標の直近実績値(価格等指標の実績平均)B1は移動平均を用いることが好ましい。
【0023】
なお、一つの取引企業について、当該企業財務マーケット指標が複数存在する場合には、最も影響の高い当該企業財務マーケット指標を用いて、将来に予測される財務項目を算出してもよい。
ここで将来のタイミングについては、取引企業の次回の決算時とすることで、取引企業の次回の決算時に予測される財務項目を取引企業に提供できる。
【0024】
図8は取引企業別の当該企業財務マーケット指標の出力イメージ図である。
図8では、特定の取引企業における当該企業財務マーケット指標を示しており、原油、石炭、小麦の価格変動が有利子負債増加に影響し、石炭の価格変動が原価率悪化に影響することが分かる。なお、
図8では示していないが、それぞれの当該企業財務マーケット指標が、どの程度、どのタイミングで影響を与えているのか(最尤時期)についても表示することが好ましい。
【0025】
以上のように、本実施例によれば、取引企業別に、マーケット指標がどの程度、どのタイミングで影響を与えているのかを、当該企業財務マーケット指標として決定できる。
また、本実施例によれば、複数種類のマーケット指標と財務項目との間で相関分析を行い、財務項目に対して相関関係があるマーケット指標を当該企業財務マーケット指標とすることで、取引企業特有のマーケット指標を用いて将来の財務を予測することができる。
また、本実施例によれば、取引企業特有のマーケット指標を用いて将来の財務を予測することができるため、取引企業に対して適切なタイミングで資金提案を行うことができ、取引企業を支援することができる。