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特開2024-17103弾性座屈応力度の評価方法、弾性座屈応力度の評価プログラム、リップ溝形断面部材の製造方法、及び支持構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017103
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】弾性座屈応力度の評価方法、弾性座屈応力度の評価プログラム、リップ溝形断面部材の製造方法、及び支持構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/24 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
E04B1/24 B ESW
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119522
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】小橋 知季
(72)【発明者】
【氏名】藤内 繁明
(57)【要約】
【課題】引張り力を受ける一方のフランジのみが拘束されたリップ溝形断面部材に曲げモーメントが作用した場合について、リップ溝形断面部材の弾性座屈応力度を評価する弾性座屈応力度の評価方法を提供する。
【解決手段】ウェブ11Aと、ウェブの幅方向の両端部に、ウェブの厚さ方向に延びるように設けられた一対のフランジ12A,13Aと、一対のフランジが延びる先端部から互いに近づくように延びる一対のリップ14A,15Aと、を有するリップ溝形断面部材10Aであって、一対のフランジの一方である第1フランジは、厚さ方向の変形が拘束されるとともに、リップ溝形断面部材の材軸線O1回りの回転が拘束され、リップ溝形断面部材には、リップ溝形断面部材の強軸回りの曲げモーメントが作用して第1フランジが引張られるリップ溝形断面部材の弾性座屈応力度を評価する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブと、前記ウェブの幅方向の両端部に、前記ウェブの厚さ方向に延びるように設けられた一対のフランジと、前記一対のフランジが延びる先端部から互いに近づくように延びる一対のリップと、を有するリップ溝形断面部材であって、
前記一対のフランジの一方である第1フランジは、前記ウェブの厚さ方向の変形が拘束されるとともに、前記リップ溝形断面部材の材軸線回りの回転が拘束され、
前記リップ溝形断面部材には、前記リップ溝形断面部材の強軸回りの曲げモーメントが作用して前記第1フランジが引張られる前記リップ溝形断面部材の弾性座屈応力度を評価する弾性座屈応力度の評価方法であって、
(1)式により求められる計算弾性座屈応力度σcrcalを用いて、前記弾性座屈応力度を評価する評価工程を行う、弾性座屈応力度の評価方法。
ただし、Eは前記リップ溝形断面部材のヤング係数(N/mm)、hは前記ウェブの幅(mm)、bは前記一対のフランジそれぞれの幅(mm)、cは前記一対のリップそれぞれの幅(mm)、tは前記ウェブ、前記一対のフランジ、及び前記一対のリップそれぞれの厚さ(mm)、f()は()内の変数の関数である。
【数1】
【請求項2】
前記関数f()は、(2)式により求められる、請求項1に記載の弾性座屈応力度の評価方法。
ただし、α,α,α,αは、それぞれ無次元の定数である。
【数2】
【請求項3】
前記定数αは(3)式を満たす、請求項2に記載の弾性座屈応力度の評価方法。
0.108≦α≦0.117 ・・(3)
【請求項4】
前記定数αは(4)式を満たす、請求項2に記載の弾性座屈応力度の評価方法。
0.129≦α≦0.211 ・・(4)
【請求項5】
前記定数αは(5)式を満たす、請求項2に記載の弾性座屈応力度の評価方法。
0.0624≦α≦0.729 ・・(5)
【請求項6】
前記定数αは(6)式を満たす、請求項2に記載の弾性座屈応力度の評価方法。
8.14≦α≦8.32 ・・(6)
【請求項7】
請求項1の弾性座屈応力度の評価方法により前記弾性座屈応力度を評価した前記リップ溝形断面部材を製造する、リップ溝形断面部材の製造方法。
【請求項8】
ウェブと、前記ウェブの幅方向の両端部に、前記ウェブの厚さ方向に延びるように設けられた一対のフランジと、前記一対のフランジが延びる先端部から互いに近づくように延びる一対のリップと、を有するリップ溝形断面部材であって、
前記一対のフランジの一方である第1フランジは、前記ウェブの厚さ方向の変形が拘束されるとともに、前記リップ溝形断面部材の材軸線回りの回転が拘束され、
前記リップ溝形断面部材には、前記リップ溝形断面部材の強軸回りの曲げモーメントが作用して前記第1フランジが引張られる前記リップ溝形断面部材の弾性座屈応力度を評価する評価装置用の弾性座屈応力度の評価プログラムであって、
前記評価装置を、
(7)式により求められる計算弾性座屈応力度σcrcalを用いて、前記弾性座屈応力度を評価する評価部として機能させる、弾性座屈応力度の評価プログラム。
ただし、Eは前記リップ溝形断面部材のヤング係数(N/mm)、hは前記ウェブの幅(mm)、bは前記一対のフランジそれぞれの幅(mm)、cは前記一対のリップそれぞれの幅(mm)、tは前記ウェブ、前記一対のフランジ、及び前記一対のリップそれぞれの厚さ(mm)、f()は()内の変数の関数である。
【数3】
【請求項9】
リップ溝形断面部材と、
前記リップ溝形断面部材に接合された板状部材と、
を備える支持構造であって、
前記リップ溝形断面部材は、ウェブと、前記ウェブの幅方向の両端部に、前記ウェブの厚さ方向に延びるように設けられた一対のフランジと、前記一対のフランジが延びる先端部から互いに近づくように延びる一対のリップと、を有し、
前記板状部材は、前記一対のフランジの一方である第1フランジに接合されて、前記第1フランジの前記ウェブの厚さ方向の変形を拘束するとともに、前記リップ溝形断面部材の材軸線回りの回転を拘束し、
前記リップ溝形断面部材には、前記リップ溝形断面部材の強軸回りの曲げモーメントが作用して前記第1フランジが引張られ、
(8)式から(13)式を満たす、支持構造。
ただし、hは前記ウェブの幅(mm)、bは前記一対のフランジそれぞれの幅(mm)、cは前記一対のリップそれぞれの幅(mm)、tは前記ウェブ、前記一対のフランジ、及び前記一対のリップそれぞれの厚さ(mm)、Fは前記リップ溝形断面部材の降伏強度(N/mm)である。
【数4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性座屈応力度の評価方法、弾性座屈応力度の評価プログラム、リップ溝形断面部材の製造方法、及び支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リップ溝形鋼(リップ溝形断面部材)は、胴縁等の外壁(板状部材)の下地として広く使用されている。リップ溝形鋼は、一対のフランジの一方である第1フランジを、外壁に取付けて用いられる。
外壁に負圧による荷重が作用する場合、リップ溝形鋼では、引張り力を受ける第1フランジが外壁により拘束され、一対のフランジの他方である第2フランジは、圧縮力を受けるとともに何も拘束されない状態となる。
【0003】
このように、引張り力を受ける第1フランジのみが拘束されたリップ溝形鋼(以下では、拘束リップ溝形鋼と言う。)に曲げモーメントが作用したときの、座屈半波長に対する弾性座屈強度の変化を、図17に示す。図17において、横軸は座屈波長の半分である座屈半波長(mm)を表し、縦軸は弾性座屈強度(N/mm)を表す。実線による線L1は、拘束リップ溝形鋼を表す。点線による線L2は、両フランジが拘束されないリップ溝形鋼(以下では、非拘束リップ溝形鋼と言う。)を表す。
拘束リップ溝形鋼には、ゆがみ座屈(図17に示す領域R1参照)よりも長い座屈波長の座屈(以下、弾性座屈(図17に示す領域R2参照)と呼ぶ)が生じる。
【0004】
拘束リップ溝形鋼が弾性座屈している状態で座屈波長が長くなっても、拘束リップ溝形鋼の弾性座屈強度はこの弾性座屈が生じる際の応力度(以降、弾性座屈応力度と呼ぶ)を下回ることは無い。
一般的に、リップ溝形鋼が使用されるのは、図17において座屈半波長が領域R3となる長さである。
一方で、非拘束リップ溝形鋼には弾性座屈が生じず、領域R3では、座屈波長が長くなるのに従い、弾性座屈強度が低下する。
【0005】
拘束リップ溝形鋼の弾性座屈応力度は、非拘束リップ溝形鋼に横座屈耐力が生じるときの応力度よりも大きい値である。すなわち、本来領域R3において、拘束リップ溝形鋼の弾性座屈応力度は、非拘束リップ溝形鋼の弾性座屈強度よりも大きいはずである。非特許文献1には、横座屈に関する弾性座屈応力度の評価方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本鉄鋼連盟、「薄板軽量形鋼造建築物設計の手引き」、技報堂出版株式会社、2014年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、拘束リップ溝形鋼における拘束効果を見込んだ弾性座屈応力度の評価方法は、未だ構築されていない。現在は、固有値解析による性能評価を行うか、拘束効果を無視した設計が余儀なくされている。
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、引張り力を受ける一方のフランジのみが拘束されたリップ溝形断面部材に曲げモーメントが作用した場合について、当該リップ溝形断面部材の弾性座屈応力度を評価する弾性座屈応力度の評価方法及び弾性座屈応力度の評価プログラム、そして、引張り力を受ける一方のフランジのみが拘束されたリップ溝形断面部材に曲げモーメントが作用する状態で、リップ溝形断面部材の降伏強度を高めたときに、リップ溝形断面部材の許容応力度を効果的に高める支持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
(1)本発明の態様1は、ウェブと、前記ウェブの幅方向の両端部に、前記ウェブの厚さ方向に延びるように設けられた一対のフランジと、前記一対のフランジが延びる先端部から互いに近づくように延びる一対のリップと、を有するリップ溝形断面部材であって、前記一対のフランジの一方である第1フランジは、前記ウェブの厚さ方向の変形が拘束されるとともに、前記リップ溝形断面部材の材軸線回りの回転が拘束され、前記リップ溝形断面部材には、前記リップ溝形断面部材の強軸回りの曲げモーメントが作用して前記第1フランジが引張られる前記リップ溝形断面部材の弾性座屈応力度を評価する弾性座屈応力度の評価方法であって、(1)式により求められる計算弾性座屈応力度σcrcalを用いて、前記弾性座屈応力度を評価する評価工程を行う、弾性座屈応力度の評価方法である。
ただし、Eは前記リップ溝形断面部材のヤング係数(N/mm)、hは前記ウェブの幅(mm)、bは前記一対のフランジそれぞれの幅(mm)、cは前記一対のリップそれぞれの幅(mm)、tは前記ウェブ、前記一対のフランジ、及び前記一対のリップそれぞれの厚さ(mm)、f()は()内の変数の関数である。
【0010】
【数1】
【0011】
この発明では、発明者等は鋭意検討の結果、曲げモーメントが作用して第1フランジが引張られるリップ溝形断面部材の弾性座屈応力度に関して、(σcrcal/E)は、(1)に示す通り、(t/h)、(b/h)、(c/b)、及び(t/(h+2b+2c))の4つを変数とする関数であることを見出した。このため、(1)式により、引張り力を受ける一方のフランジのみが拘束されたリップ溝形断面部材に曲げモーメントが作用した場合について、当該リップ溝形断面部材の弾性座屈応力度を評価することができる。
【0012】
(2)本発明の態様2は、前記関数f()は、(2)式により求められる、(1)に記載の弾性座屈応力度の評価方法であってもよい。
ただし、α,α,α,αは、それぞれ無次元の定数である。
【0013】
【数2】
【0014】
この発明では、(1)式において、関数f()が定数α~αを用いて具体的に規定された(2)式を用いて、計算弾性座屈応力度σcrcalをより精緻に求めることができる。
【0015】
(3)本発明の態様3は、前記定数αは(3)式を満たす、(2)に記載の弾性座屈応力度の評価方法であってもよい。
0.108≦α≦0.117 ・・(3)
この発明では、弾性座屈応力度の評価方法により評価する計算弾性座屈応力度σcrcalを、一定以上の割合で安全側に評価することができる。
【0016】
(4)本発明の態様4は、前記定数αは(4)式を満たす、(2)又は(3)に記載の弾性座屈応力度の評価方法であってもよい。
0.129≦α≦0.211 ・・(4)
この発明では、定数αに関して、弾性座屈応力度の真の値からバラつきを抑えて、計算弾性座屈応力度σcrcalを得ることができる。
【0017】
(5)本発明の態様5は、前記定数αは(5)式を満たす、(2)から(4)のいずれかに記載の弾性座屈応力度の評価方法であってもよい。
0.0624≦α≦0.729 ・・(5)
この発明では、定数αに関して、弾性座屈応力度の真の値からバラつきを抑えて、計算弾性座屈応力度σcrcalを得ることができる。
【0018】
(6)本発明の態様6は、前記定数αは(6)式を満たす、(2)から(5)のいずれかに記載の弾性座屈応力度の評価方法であってもよい。
8.14≦α≦8.32 ・・(6)
この発明では、定数αに関して、弾性座屈応力度の真の値からバラつきを抑えて、計算弾性座屈応力度σcrcalを得ることができる。
【0019】
(7)本発明の態様7は、(1)から(6)のいずれかの弾性座屈応力度の評価方法により前記弾性座屈応力度を評価した前記リップ溝形断面部材を製造する、リップ溝形断面部材の製造方法である。
この発明では、引張り力を受ける一方のフランジのみが拘束されたリップ溝形断面部材に曲げモーメントが作用した場合であって、弾性座屈応力度を評価されたリップ溝形断面部材を製造することができる。
【0020】
(8)本発明の態様8は、ウェブと、前記ウェブの幅方向の両端部に、前記ウェブの厚さ方向に延びるように設けられた一対のフランジと、前記一対のフランジが延びる先端部から互いに近づくように延びる一対のリップと、を有するリップ溝形断面部材であって、前記一対のフランジの一方である第1フランジは、前記ウェブの厚さ方向の変形が拘束されるとともに、前記リップ溝形断面部材の材軸線回りの回転が拘束され、前記リップ溝形断面部材には、前記リップ溝形断面部材の強軸回りの曲げモーメントが作用して前記第1フランジが引張られる前記リップ溝形断面部材の弾性座屈応力度を評価する評価装置用の弾性座屈応力度の評価プログラムであって、前記評価装置を、(7)式により求められる計算弾性座屈応力度σcrcalを用いて、前記弾性座屈応力度を評価する評価部として機能させる、弾性座屈応力度の評価プログラムである。
ただし、Eは前記リップ溝形断面部材のヤング係数(N/mm)、hは前記ウェブの幅(mm)、bは前記一対のフランジそれぞれの幅(mm)、cは前記一対のリップそれぞれの幅(mm)、tは前記ウェブ、前記一対のフランジ、及び前記一対のリップそれぞれの厚さ(mm)、f()は()内の変数の関数である。
【0021】
【数3】
【0022】
この発明では、発明者等は鋭意検討の結果、曲げモーメントが作用して第1フランジが引張られるリップ溝形断面部材の弾性座屈応力度に関して、(σcrcal/E)は、(7)に示す通り、(t/h)、(b/h)、(c/b)、及び(t/(h+2b+2c))の4つを変数とする関数であることを見出した。このため、(7)式により、引張り力を受ける一方のフランジのみが拘束されたリップ溝形断面部材に曲げモーメントが作用した場合について、当該リップ溝形断面部材の弾性座屈応力度を評価することができる。
【0023】
(9)本発明の態様9は、リップ溝形断面部材と、前記リップ溝形断面部材に取付けられた板状部材と、を備える支持構造であって、前記リップ溝形断面部材は、ウェブと、前記ウェブの幅方向の両端部に、前記ウェブの厚さ方向に延びるように設けられた一対のフランジと、前記一対のフランジが延びる先端部から互いに近づくように延びる一対のリップと、を有し、前記板状部材は、前記一対のフランジの一方である第1フランジに取付けられて、前記第1フランジの前記ウェブの厚さ方向の変形を拘束するとともに、前記リップ溝形断面部材の材軸線回りの回転を拘束し、前記リップ溝形断面部材には、前記リップ溝形断面部材の強軸回りの曲げモーメントが作用して前記第1フランジが引張られ、(8)式から(13)式を満たす、支持構造である。
ただし、hは前記ウェブの幅(mm)、bは前記一対のフランジそれぞれの幅(mm)、cは前記一対のリップそれぞれの幅(mm)、tは前記ウェブ、前記一対のフランジ、及び前記一対のリップそれぞれの厚さ(mm)、Fは前記リップ溝形断面部材の降伏強度(N/mm)である。
【0024】
【数4】
【0025】
この発明では、引張り力を受ける一方のフランジのみが拘束されたリップ溝形断面部材に曲げモーメントが作用する状態で、リップ溝形断面部材の降伏強度を高めたときに、リップ溝形断面部材の許容応力度を効果的に高めることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の弾性座屈応力度の評価方法及び弾性座屈応力度の評価プログラムでは、引張り力を受ける一方のフランジのみが拘束されたリップ溝形断面部材に曲げモーメントが作用した場合について、当該リップ溝形断面部材の弾性座屈応力度を評価することができる。また、本発明の支持構造では、引張り力を受ける一方のフランジのみが拘束されたリップ溝形断面部材に曲げモーメントが作用する状態で、リップ溝形断面部材の降伏強度を高めたときに、リップ溝形断面部材の許容応力度を効果的に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態の支持構造が用いられる建築物の概要構成を示す断面図である。
図2】同支持構造が有する第1リップ溝形鋼の斜視図である。
図3】第1リップ溝形鋼の強軸及び弱軸を説明する図である。
図4】本発明の一実施形態の第1変形例における支持構造の斜視図である。
図5】同第1リップ溝形鋼に作用する負圧及び曲げモーメントを説明する模式図である。
図6】同第1リップ溝形鋼の解析モデルの斜視図である。
図7】変動係数を調整する前の、(σcrcal/E)に対する(σcr/E)の変化を表す図である。
図8】(t/h)に対する(σcr/E)の変化を表す図である。
図9】(b/h)に対する(σcr/E)の変化を表す図である。
図10】(c/b)に対する(σcr/E)の変化を表す図である。
図11】(t/(h+2b+2c))に対する相関係数Rの変化を表す図である。
図12】変動係数を調整した後の、(σcrcal/E)に対する(σcr/E)の変化を表す図である。
図13】無次元量Kに対する(fb_500/fb_345)の変化を表す図である。
図14】同弾性座屈応力度の評価方法を好ましく行うことができる弾性座屈応力度の評価装置の概要を示す図である。
図15】本発明の一実施形態における弾性座屈応力度の評価方法を示すフローチャートである。
図16】本発明の一実施形態の支持構造が用いられる他の建築物の概要構成を示す断面図である。
図17】座屈半波長に対する弾性座屈強度の変化を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る弾性座屈応力度の評価方法、弾性座屈応力度の評価プログラム、リップ溝形断面部材の製造方法、及び支持構造の一実施形態を、図1から図16を参照しながら説明する。
【0029】
〔1.支持構造の構成〕
図1に示すように、本実施形態の支持構造40Aは、建築物1に用いられている。例えば、建築物1は、1層(階)以上の層を備える多層構造物である。なお、図1には、2層の建物を例示している。建築物1は、第1リップ溝形鋼(リップ溝形断面部材)10Aと、第1リップ溝形鋼10Bと、第2リップ溝形鋼(リップ溝形断面部材)10Cと、第2リップ溝形鋼10Dと、板状部材20A,20Bと、複数の接合部材25(図2参照)と、床30と、板状部材35A,35Bと、を備える。
【0030】
本実施形態では、第1リップ溝形鋼10Aの構成とリップ溝形鋼10B,10C,10Dの構成とは、互いに同一である。このため、第1リップ溝形鋼10Aの構成を、符号の数字、又は数字及び英小文字に英大文字「A」を付加することで示す。リップ溝形鋼10B,10C,10Dのうち第1リップ溝形鋼10Aに対応する構成を、第1リップ溝形鋼10Aと同一の数字、又は数字及び英小文字に英大文字「B」、「C」、「D」を付加することで示す。これにより、重複する説明を省略する。例えば、第1リップ溝形鋼10Aの後述する第1フランジ12Aと第1リップ溝形鋼10Bの第1フランジ12Bとは、互いに同一の構成である。
なお、第1リップ溝形鋼10A、板状部材20A、及び接合部材25で、支持構造40Aを構成する。第2リップ溝形鋼10D、板状部材35A、及び接合部材25で、支持構造41Aを構成する。
【0031】
例えば、第1リップ溝形鋼10A,10Bは、上下方向に沿って延びている。
地盤等の支持面F1には、図示はしないが、基盤を介して複数の柱及び複数の梁が設けられている。
基盤は、支持面F1に打設されている。複数の柱は、基盤から上方に向かって延びている。複数の梁は、複数の柱の間に架設されている。複数の柱及び複数の梁には、図示しない軒桁、垂木等が固定されている。
この例では、第1リップ溝形鋼10A,10Bは、上下方向に沿って延び、梁等に固定されている。第1リップ溝形鋼10A,10Bは、水平面に沿って互いに離間するように配置されている。第1リップ溝形鋼10A,10Bは、縦胴縁として機能する。
例えば、第1リップ溝形鋼10Aは、JIS G 3350:2017 軽溝形鋼(以下、JIS G 3350と略して言う)で規定されるリップ溝形鋼である。図2に示すように、第1リップ溝形鋼10Aは、ウェブ11Aと、第1フランジ(フランジ)12A、第2フランジ(フランジ)13Aと、第1リップ(リップ)14A、第2リップ(リップ)15Aと、を有する。なお、図2では、板状部材20Aを二点鎖線で示している。
【0032】
ウェブ11A、フランジ12A,13A、及びリップ14A,15Aは、それぞれ平板状に形成され、鋼板を折り曲げて形成されている。
フランジ12A,13Aは、ウェブ11Aの幅方向Xの両端部に、ウェブ11Aの厚さ方向Yの第1側Y1(以下では単に、第1側Y1とも言う。)にそれぞれ延びるように設けられている。以下では、厚さ方向Yのうち、第1側Y1とは反対側を第2側Y2と言う。
フランジ12A,13Aは、互いに対向している。第1フランジ12Aは、フランジ12A,13Aの一方である。
第1リップ溝形鋼10Aの材軸線(軸線、材軸)O1に沿う方向である軸線方向(材軸方向)Zは、幅方向X及び厚さ方向Yにそれぞれ直交する。すなわち、幅方向Xは、軸線方向Z及び厚さ方向Yにそれぞれ直交する方向である。
【0033】
リップ14A,15Aは、フランジ12A,13Aが延びる先端部から互いに近づくように延びている。すなわち、第1リップ14Aは、第1フランジ12Aが延びる先端部から、第2フランジ13Aが延びる先端部に向かって、ウェブ11Aに沿って(幅方向Xに沿って)延びている。第2リップ15Aは、第2フランジ13Aが延びる先端部から、第1フランジ12Aが延びる先端部に向かって、ウェブ11Aに沿って延びている。第1リップ14Aと第2リップ15Aとの間には、隙間が形成されている。
【0034】
図3に示すように、第1リップ溝形鋼10Aにおいて、厚さ方向Yに沿う軸が、強軸O3である。幅方向Xに沿う軸が、弱軸O4である。
【0035】
第1リップ溝形鋼10Bは、第1リップ溝形鋼10Aと同様に構成されている。第1リップ溝形鋼10Bは、第1リップ溝形鋼10Aのウェブ11A、第1フランジ12A、第2フランジ13A、第1リップ14A、第2リップ15Aと同様に構成された、ウェブ、第1フランジ12B(図1参照)、第2フランジ、第1リップ、第2リップを有する。
なお、第1リップ溝形鋼10A,10Bは、1つのウェブと、2つのフランジと、2つのリップとを有する形鋼部材である。第1リップ溝形鋼の断面形状は、JIS G 3350の規定に限定されるわけではなく、JIS G 3350に記載されていない断面仕様を有するリップ溝形断面部材で構成されていてもよい。
【0036】
平面視において、第2リップ溝形鋼10C,10Dの第1端部は、第1リップ溝形鋼10A,10Bの間で互いに接合されている。
第2リップ溝形鋼10C,10Dでは、第1端部とは反対側の第2端部に向かうに従い漸次、下方に向かうとともに互いに離間するように傾斜している。第2リップ溝形鋼10Cの第2端部は、第1リップ溝形鋼10Aを超えてリップ溝形鋼10A,10Bの外側まで延びている。第2リップ溝形鋼10Dの第2端部は、第1リップ溝形鋼10Bを超えてリップ溝形鋼10A,10Bの外側まで延びている。
第2リップ溝形鋼10C,10Dは、軒桁、垂木等の部材や接合金物等を介して、複数の柱及び複数の梁に固定されている。
【0037】
例えば、板状部材20A,20Bは、外壁であり、この例では構造用の合板である。板状部材20Aは、自身の厚さ方向が水平面に沿うように配置されている。板状部材20Bについても、板状部材20Aと同様である。
なお、板状部材は、全体としては板状であるとともに、板状部材の厚さ方向に波状に変位する形状であってもよい。板状部材は、石膏ボード、木質セメント板(木片等の木質原料とセメントとを混合し、板状に圧縮成形した材料)、鋼製の折板、鋼板で樹脂を挟んだサンドイッチパネル、Cross Laminated Timber(CLT)、パーティクルボード、コンクリート板等で構成されてもよい。
【0038】
例えば、板状部材35A,35Bは、屋根面材であり、この例では構造用の合板である。板状部材35Aは、自身の厚さ方向が第2リップ溝形鋼10Cの第1フランジ12Cの厚さ方向と一致するように配置されている。板状部材35Bについても、板状部材35Aと同様である。
【0039】
図1に示すように、板状部材20Aは、第1リップ溝形鋼10A,10Bの外側に配置されるとともに、第1リップ溝形鋼10Aに固定されている。より詳しく説明すると、図2に示すように、板状部材20Aは、第1リップ溝形鋼10Aの第1フランジ12Aに、複数の接合部材25により接合されている。この例では、第1リップ溝形鋼10Aの第1フランジ12Aに、1枚の板状部材20Aが接合されている場合を示している。
なお、接合部材25の間隔は、図2に示した状態よりも広くても良いし、狭くてもいい。例えば、図示した第1リップ溝形鋼10Aのウェブ11Aの幅(後述する図3における幅h)を100mmとした場合、接合部材25の間隔は300mm程としてもよい。
なお、板状部材は必ずしも1つの部材である必要は無く、例えば、複数枚の部材を板状部材の厚さ方向に積層させたり、複数の板状部材を組み合わせて大きな板状部材を形成してもよい。
【0040】
接合部材25は、乾式の接合部材であり、例えば、ドリルねじ、釘、ボルト、リベット、かしめ等である。複数の接合部材25は、軸線方向Zに互いに間隔を空けて並べて配置されている。
第1フランジ12Aが複数の接合部材25により板状部材20Aに接合されることで、第1フランジ12Aは、ウェブ11Aの厚さ方向Yへの変形が拘束されるとともに、材軸線O1回りの回転が拘束されている。言い換えると、板状部材20Aは、第1フランジ12Aの厚さ方向Yへの変形を拘束するとともに、第1リップ溝形鋼10Aの材軸線O1回りの回転を拘束される。ウェブ11Aの厚さ方向Yは、第1フランジ12Aの面内方向である。
図2では、第1フランジ12Aにおいて、複数の接合部材25によりウェブの厚さ方向Yへの変形が拘束される位置を、一点鎖線による線L6で表す。
なお、図2において、接合部材25は材軸方向に整列しており、第1フランジ12Aの板幅方向(すなわち、ウェブ11Aの厚さ方向Y)に1列に配置されているが、接合部材25を2列以上配置してもよく、またその接合位置は第1フランジ12Aの板幅方向(厚さ方向Y)の中心以外にあっても良い。
【0041】
なお、本発明では、例えば図4に示す通り、ウェブ11Aの厚さ方向Yに突合せた2枚の板状個材21aA及び板状個材21bAで板状部材21Aが構成されて、板状個材21aA及び板状個材21bAが、それぞれ第1フランジ12Aに接合されても良い。この場合には、2枚の板状個材21aA,21bAのうち、第1側Y1に配置された板状個材21aAの第2側Y2の端部が接合部材25により第1フランジ12Aに接合されるとともに、第2側Y2に配置された板状個材21aAの第1側Y1の端部が接合部材25により第1フランジ12Aに接合されることで、板状部材21Aを形成してもよい。
【0042】
図1に示すように、板状部材20Bは、第1リップ溝形鋼10A,10Bの外側に配置されるとともに、第1リップ溝形鋼10Bに固定されている。板状部材20Bは、第1リップ溝形鋼10Bの第1フランジ12Bに、複数の接合部材25(不図示)により接合されている。
【0043】
床30は、複数の柱における上下方向の中間部に固定されている。床30は、水平面に沿って延びている。
例えば、板状部材35A,35Bは、野地板である。板状部材35A,35Bは、第2リップ溝形鋼10C,10Dの第1フランジ12C,12Dに、複数の接合部材25(不図示)によりそれぞれ接合されている。
板状部材35A,35B上には、図示しない瓦等の屋根材が固定されている。
なお、軒桁、垂木、第2リップ溝形鋼10C,10D、板状部材35A,35B、及び屋根材で、屋根43を構成する。この例では、屋根43は、切妻屋根である。
床30により、建築物1内が、下方の第1層1aと、第1層1aよりも上方の第2層1bとに仕切られる。すなわち、建築物1は、2層の多層構造物である。
【0044】
なお、建築物1は、3層以上の多層構造物であってもよい。
例えば、リップ溝形鋼10A,10B,10C,10Dの後述する幅h,b,c、及び厚さtの少なくとも1つは、互いに異なっていてもよい。第1リップ溝形鋼10A,10Bに代えてZ形鋼、CT形鋼等を用いてもよいし、第2リップ溝形鋼10C,10Dに代えてZ形鋼、CT形鋼等を用いてもよい。
【0045】
〔2.支持構造に負曲げが作用したときのリップ溝形鋼の状態〕
以上のように構成された支持構造40Aに対して、負曲げとなる曲げモーメントが作用したと仮定する。なお、負曲げとは、曲げモーメントが作用する場合に、引張側のフランジが板状部材によって拘束される荷重状態を指し、例えば風荷重による負圧が作用する屋根や外壁等が、これに該当する。
図5には、一例として、負圧F6が作用する板状部材20Aを想定した場合の模式図を示す。図5に示すように、第1リップ溝形鋼10Aには、負圧F6により、曲げモーメントM1が作用する。曲げモーメントM1は、第1リップ溝形鋼10Aの強軸O3回りの曲げモーメントである。
この曲げモーメントM1により、第1フランジ12Aは軸線方向Zに引張られ、第2フランジ13Aは軸線方向Zに圧縮される。引張られる第1フランジ12A(引張り側縁)は、板状部材20Aにより、前記のように拘束される。圧縮される第2フランジ13A(圧縮側縁)は拘束されず、自由に移動できる。
【0046】
なお、図1に示すように、板状部材20B及び板状部材35Bには、正圧F7が作用する。
以下では、第1フランジ12Aを板状部材20Aによって拘束された第1リップ溝形鋼10Aの弾性座屈応力度を評価する弾性座屈応力度の評価方法(以下では、単に評価方法と言う)について説明する。
【0047】
〔3.リップ溝形鋼の解析条件〕
解析を行うに際し、図3に示すように、第1リップ溝形鋼10A(以下では、リップ溝形鋼10Aとも略称する)における寸法等を規定する。
ウェブ11Aの幅を、h(mm)と規定する。フランジ12A,13Aそれぞれの幅を、b(mm)と規定する。リップ14A,15Aそれぞれの幅を、c(mm)と規定する。ウェブ11A、フランジ12A,13A、及びリップ14A,15Aそれぞれの厚さを、t(mm)と規定する。
以上のように、リップ溝形鋼10Aの断面形状を決定する寸法は、ウェブ11Aの幅h、フランジ12A,13Aの幅b、リップ14A,15Aの幅c、及び厚さtの、4種類である。
リップ溝形鋼10Aのヤング係数(ヤング率)を、E(N/mm)と規定する。
【0048】
図6に、リップ溝形鋼10Aの解析モデルを示す。図6中に示すように、右手直交座標系のx軸、y軸、及びz軸を規定した。第1フランジ12Aにおける線L7上の部分における変位及び回転は、以下のようであると仮定した。
・変位:x軸方向は固定、y軸方向及びz軸方向は自由。
・回転:x軸回り及びz軸回りは自由、y軸回りは固定。
表1には、解析モデルのパラメータ一覧を示す。
【0049】
【表1】
【0050】
ウェブ11Aの幅hは、50,100,300mmの3通りとした。
例えば、(t/h)の値は、0.0033以上0.06以下とした。(b/h)の値、(c/h)の値も変化させ、合計で1425ケースの解析を行った。
【0051】
〔4.解析結果に基づいた、弾性座屈応力度の評価量の種類の決定〕
弾性座屈応力度(N/mm)は、部材の座屈固有値として求まる値である。弾性座屈応力度は、材料の弾性率(いわゆるヤング係数)に比例することが知られている。従って、ヤング係数と弾性座屈応力度は必ず線形比例の関係にあり、その比率は無次元量となる。
加えて、この弾性座屈応力度は、特定の座屈半波長における座屈固有値であり、リップ溝形鋼10Aの部材の長さによってその値が変化するものではない。すなわち、弾性座屈応力度は、リップ溝形鋼10Aの部材の長さによらず、リップ溝形鋼10Aにおける軸線方向Zに直交する断面形状によって一義的に決まる。
【0052】
図3中に、弾性座屈したリップ溝形鋼10Aを、二点鎖線L5で示す。
弾性座屈したリップ溝形鋼10Aの座屈モードに着目すると、リップ溝形鋼10Aの変形後の形状は、ウェブ11Aの板要素が全体的に反り曲がる変形と、リップ溝形鋼10Aの片側の第1リップ14A及び片側の第1フランジ12Aがねじれる座屈モードとが連成していることが分かる。
一般に、部材の断面を構成する板要素が凹凸に変形する座屈モードに関する座屈耐力は、局部変形を発生させた板要素(すなわち、ウェブ11A)の幅厚比に大きく影響される。
また、本実施形態が対象とする弾性座屈応力度が特定の座屈波長を有する極値であることを考慮した場合、リップ溝形鋼10Aの長さに応じてその影響度合いが変化する反りねじりによる影響は小さいと考えられ、すなわち断面のねじりの影響については、いわゆるサンブナンのねじりに大きく影響されると分かる。
【0053】
従って、既往の知見に基づき、この弾性座屈応力度を定量評価する場合、その評価式は、ウェブ11Aの局部座屈強度を定量評価する際に用いられる無次元量(t/h)と、部材のねじり座屈強度を定量評価する際に用いられる無次元量(J/I)とを変数とした関数として、(20)式のように表現できると考えられる。
【0054】
【数5】
【0055】
ただし、Jは、サンブナンのねじり定数(mm)であり、Iは、(21)式で表される。
=I+I+x A ・・(21)
ここで、I,Iはx軸、y軸回りの断面二次モーメント(mm)、xはせん断中心と図心の距離(mm)、Aはリップ溝形鋼10Aのy軸に直交する面による断面積(mm)である。
【0056】
以下では、本実施形態の評価方法による計算値と固有値解析による結果との混同を避けるために、本実施形態の評価方法で評価された弾性座屈応力度を、計算弾性座屈応力度σcrcalと言う。有限帯板法による固有値解析により得られた弾性座屈応力度(真の値とみなす弾性座屈応力度)を、弾性座屈応力度σcrと言う。
【0057】
また、非特許文献1によれば、板の局部座屈強度は、(t/h)の2乗に比例することが明らかにされている。板のねじり座屈強度は(J/I)の1乗に比例することが知られている。ゆえに、以上の背景情報に基づき、(σcr/E)の定量評価に取り組む場合、弾性座屈応力度σcrもまた、(t/h)の二乗及び(J/I)の1乗の関数に比例すると考える事が自然である。
このため、弾性座屈応力度の評価式は、(24)式で表されると考えられる。なお、(24)式中のγ~γは、無次元の定数係数である。
【0058】
【数6】
【0059】
図7には、(24)式による計算弾性座屈応力度σcrcalと弾性座屈応力度σcrとの乖離が最小になるように、定数係数γ~γの値を差分進化法で計算した結果を示す。図7において、横軸は(σcrcal/E)を表し、縦軸は(σcr/E)を表す。図7中の線L10は、(σcrcal/E)及び(σcr/E)が互いに等しくなる関係を表す。
ここに誤差△の評価は、評価結果の平均値Ave、相関係数R、変動係数CVを用いて、(25)式で評価する。
【0060】
【数7】
【0061】
図7より、(t/h)と(J/I)の関数として、(σcr/E)の評価を行った。図7に示された結果では、平均値及び相関係数の値が1.0に近づくものの、変動係数の値が0.268と大きい値となり、計算弾性座屈応力度σcrcalと弾性座屈応力度σcrとの乖離が大きくなってしまう。
【0062】
以上の検討結果を踏まえ、本実施形態では、この弾性座屈応力度σcrを、ウェブ11Aの局部変形による影響を考慮するための無次元量であるウェブ11Aの幅厚比(t/h)と、隣接する板要素間での相互効果を評価するためのパラメータである(b/h)(フランジ12A,13Aからウェブ11Aに対する拘束度)、(c/b)(リップ14A,15Aからフランジ12A,13Aに対する拘束度)、及び板のねじり剛性の影響を考慮するためのパラメータである(t/(h+2b+2c))の4つの無次元量を用いた、(26)式で定量評価することを着想した。
【0063】
【数8】
【0064】
ただし、f()は()内の変数の関数である。
【0065】
〔5.各評価量の具体的な決定〕
〔5.1.(t/h)と(σcr/E)との関係〕
まず、(t/h)と(σcr/E)との関係について述べる。
図8には、座屈固有値解析から得た弾性座屈応力度σcrについて、フランジ12A,13Aの幅bとリップ14A,15Aの幅cが一定の条件で、厚さtを変化させた場合の解析結果を例示する。図8において、横軸は(t/h)を表し、縦軸は(σcr/E)を表す。図8中の線L11は、(29)式の関係を表す。
【0066】
【数9】
【0067】
図8より、(t/h)と(σcr/E)との間には、線形比例(比例)の関係にあると分かる。通常、板が凹凸に変形する座屈の弾性局部座屈強度は、(t/h)の2乗に線形比例する。しかしながら、(σcr/E)は、(t/h)の1乗に線形比例することを新たに見出し、(30)式を開発した。
【0068】
【数10】
【0069】
ただし、α、及び後述するα~αは、それぞれ無次元の定数である。
なお、この傾向は、今回解析を行ったいずれの範囲においても同じように表れることが確認された。
【0070】
〔5.2.(b/h)と(σcr/E)との関係〕
次に、(b/h)と(σcr/E)との関係について述べる。
図9には、リップ14A,15Aの幅cと厚さtが一定の条件で、(b/h)を変化させた場合の解析結果を示す。図9において、横軸は(b/h)を表し、縦軸は(σcr/E)を表す。図9中の線L12は、(31)式の関係を表す。
【0071】
【数11】
【0072】
図9より、(b/h)の変化に基づき、(σcr/E)の値が非線形的に変化することを見出した。すなわち、(b/h)が小さい領域において、(σcr/E)の値は(b/h)の増加と共に大きくなるが、ある特定の範囲を超えると、(σcr/E)の値は減少に転ずることを新たに見出した。
この特性を見出したことにより、本実施形態では、(32)式のように、(b/h)の変化による影響を定量評価できる分析手法を新たに開発した。
【0073】
【数12】
【0074】
なお、この傾向は、今回解析を行ったいずれの範囲においても同じように表れることが確認された。また、(b/h)が0.4位のときに、(σcr/E)が最大値となる。
【0075】
〔5.3.(c/b)と(σcr/E)との関係〕
次に、(c/b)と(σcr/E)との関係について述べる。
図10には、厚さtとフランジ12A,13Aの幅bが一定の条件で(c/b)を変化させた場合の解析結果を示す。図10において、横軸は(c/b)を表し、縦軸は(σcr/E)を表す。図10中の線L13は、(33)式の関係を表す。
【0076】
【数13】
【0077】
図10より、(c/b)の変化に基づき(σcr/E)の値が線形的に大きくなること、また(c/b)と(σcr/E)の関係を1次関数で近似した場合、(c/b)がゼロの場合において、(σcr/E)の値がゼロとならないことが新たに見出された。(c/b)がゼロになる場合は、すなわちリップ14A,15Aの長さがゼロとなることを意味している。
リップ溝形鋼10Aにおいてリップ14A,15Aを有さない溝形鋼に変化しても、その全体座屈耐力はリップを有さない溝形鋼の弾性座屈応力度に収束するだけであり、ゼロになるわけではない。
この特性に着目し、本実施形態では、(c/b)は、リップ14A,15Aの長さが徐々に長くなるにつれて大きくなるように、(34)式で定量評価する手法を開発した。
【0078】
【数14】
【0079】
〔5.4.(t/(h+2b+2c))と(σcr/E)との関係〕
次に、(t/(h+2b+2c))と(σcr/E)との関係について述べる。
本解析の座屈モードでは、リップ溝形鋼10Aの圧縮される第2フランジ13A(圧縮側縁)が大きくねじれるような座屈変形を示している。すなわち、部材としてのねじれに対する抵抗の大きさも、弾性座屈応力度に影響を及ぼすと考えられる。
まず、(t/(h+2b+2c))の影響がないと考えて、(σcr/E)の値をf(t/h,b/h,c/b)として、(37)式で評価した。
【0080】
【数15】
【0081】
そして、相関係数Rと(t/(h+2b+2c))との関係を分析することで、その影響の定量評価を試みる。
なお、定数α~αは、(37)式より求まる(σcrcal/E)で、固有値解析から求まる(σcr/E)を評価した場合の誤差Δが最小となるように定められている。
【0082】
図11に、(t/(h+2b+2c))に対する相関係数Rの変化を示す。図11において、横軸は(t/(h+2b+2c))を表し、縦軸は相関係数Rを表す。
図11より、相関係数Rの値は、(t/(h+2b+2c))の増加と共に徐々に大きくなる傾向が新たに見出された。(t/(h+2b+2c))が増加することは、リップ溝形鋼10Aの展開長さに対する板厚の寄与が大きくなることを意味する。この影響で、相対的にねじりに対する抵抗が高まり、弾性座屈応力度σcrが上昇していると考えられる。
そこで本実施形態では、この影響を(38)式で評価することを着想した。なお、定数α,α,α,αは、(38)式による評価誤差が最小になるように定められている。
すなわち、前記関数f()は、(39)式により求められる。
式のように表される。
【0083】
【数16】
【0084】
〔6.本評価方法による性能評価の結果〕
図12には、本評価方法による性能評価の結果を示す。図12において、横軸は(σcrcal/E)を表し、縦軸は(σcr/E)を表す。
本評価方法を用いることで、相関係数が0.999かつ変動係数が0.025となり、図7に示す一般的な手法によって求まる評価法に対して、変動係数が大幅に減少(0.268から0.025)し、その評価精度が10倍以上に向上した。
【0085】
〔7.定数α~αの望ましい範囲〕
次に、定数α~αの望ましい範囲について検討する。
構造設計を考えた場合、その評価方法に求められる精度には、性能を確実に安全側に評価する精度が求められる場合がある。ここに、αは式(38)において、数式全体にかかる係数(定数)であり、その値の変化に比例して(σcr/E)の値が変化する。そこで本実施形態では、前述の設計式において、(σcr/σcrcal)の平均値から標準偏差σの3倍を引いた値が1.0となるように、分析手法の誤差△を、(41)式のように評価し、本評価手法が性能を確実に安全側に評価できるようにするための定数αの望ましい範囲を検討した。
【0086】
【数17】
【0087】
表2には、定数α~αの評価結果の違いを示す。
【0088】
【表2】
【0089】
定数α~αについては、数値は変化させず、定数αのみ、値を変化させた。なお、変動係数CVに影響を与えるのは定数α~αであり、定数αは変動係数CVに影響を与えない。
例えば、表2の上から1番目の行のように、誤差△を(25)式で評価する場合について説明する。この場合、定数αは0.117、定数αは0.160、定数αは0.347、平均値Aveは1.004、相関係数Rは0.999、変動係数CVは0.0253であった。計算弾性座屈応力度σcrcalを弾性座屈応力度σcrに対して安全側に評価する割合(σcrcal≦σcrと評価する割合)は、67%であった。
一方で、表2の上から2番目の行のように、誤差△を(41)式で評価する場合には、計算弾性座屈応力度σcrcalを弾性座屈応力度σcrに対して安全側に評価する割合は、100%であった。
【0090】
また、誤差△を(41)式で評価することで、全てのケースにおいて、部材の弾性座屈応力度を安全側に評価することができた。
このことから、本実施形態において、定数αが(42)を満たすことで、Rが0.999かつCVが0.0253という高い精度で、弾性座屈応力度の定量評価が可能である。
0.108≦α≦0.117 ・・(42)
尚且つ、定数αが(42)を満たすことで、67%以上割合で、計算弾性座屈応力度σcrcalを安全側に評価することが可能である。
【0091】
〔8.変動係数の検討〕
次に、変動係数CVについて述べる。
本実施形態の評価方法では、誤差△が最も小さくなるように設計した場合、その変動係数は0.0253であった。対して、現行法(誤差△を(25)式で評価した場合)における変動係数は0.268で、約10倍の値になっている。そこで本実施形態では、変動係数が現行の評価方法よりも必ず小さくなる範囲を探索した。
ここでは、変動係数の値が0.05以下となる場合について、定数α~αが最適値よりも大きい場合、及び定数α~αが最適値よりも小さい場合を想定した最適化計算を行った。そして、定数α~αの上下限を定め、表3に示すように、その範囲内の、2である8通りの組み合わせを試した。
【0092】
【表3】
【0093】
例えば、表2の上から1番目の行の定数α~αが最適値よりも小さい場合で、定数αが0.129、定数αが0.0624、定数αが8.14の場合には、変動係数が0.050になる。
そして、8通りのいずれの組み合わせにおいても変動係数が現行法に基づく方法よりも小さくなることを見出した。そして、本実施形態の意図する効果である、弾性座屈応力度の真の値からバラつきを抑えて計算弾性座屈応力度σcrcalが得られる、具体的な数値の範囲が、以下のように明らかになった。すなわち、定数α,α,αが、(43)式、(44)式、(45)式をそれぞれ満たす範囲である。
0.129≦α≦0.211 ・・(43)
0.0624≦α≦0.729 ・・(44)
8.14≦α≦8.32 ・・(45)
【0094】
なお、支持構造40Aでは、曲げモーメントM1により引張られる第1フランジ12Aの厚さ方向Y(弱軸O4方向)への変位と材軸線O1回りの回転が、軸線方向Zに離散的に接合されていてもよい。
この時、複数の接合部材25による接合の軸線方向Zの間隔は、例えば非特許文献1を参考に、ねじピッチを座屈半波長とみなした場合のリップ溝形鋼10Aの細長比が20以下になるように配置することが望ましい。
【0095】
〔9.望ましい支持構造の形状〕
従来、薄板建材には、材料の降伏強度が280MPaの鋼材が広く使われている。また、非特許文献1には、設計基準強度が345N/mmの鋼材使用に関する記述があり、現在実用化されている薄板軽量形鋼の材料強度は345N/mmが最も高い強度であると分かる。
近年、薄板軽量形鋼を用いた建築構造物の大規模化に伴い、部材の高耐力化が大きな課題となっている。
【0096】
そこで本実施形態では、従来よりも強度が高い、材料の降伏強度が500MPaの以上の鋼材を使うことで、リップ溝形鋼10Aの高耐力化を指向する。
実際の構造物において、部材は弾性座屈によってその部材の最大耐力が決定する場合と、弾性座屈に至る前の材料の塑性化によって部材が最大耐力に至る場合の2通りが存在する。このうち、材料の高強度化による部材高耐力化が期待できるのは、後者の材料の塑性化によって部材が最大耐力に至る場合のみである。
周辺部材からの拘束が作用しないリップ溝形鋼10Aに曲げモーメントが作用する場合、高強度鋼を用いた場合でも、リップ溝形鋼10Aの長さによって形鋼の横座屈強度が材料強度を大きく下回ってしまう。この場合、材料の降伏に至る前に部材が弾性座屈してしまい、材料強度の変化が部材耐力に影響を及ぼさない。
【0097】
そこで本実施形態では、曲げモーメントM1が作用するリップ溝形鋼10Aの第1フランジ12Aに板状部材20Aを取り付けることで、第1フランジ12Aの厚さ方向Yへの変形と材軸線O1回りの回転を拘束している。これにより、リップ溝形鋼10Aの弾性座屈応力度を横座屈強度よりも大幅に引き上げ、高強度化による部材耐力の向上を実現する支持構造40Aを提供する。
非特許文献1に記載の通り、現在汎用的に用いられる薄板軽量形鋼の設計基準強度(リップ溝形鋼10Aの降伏強度)は、最大で、F=345N/mmである。また、鋼材の材料としての比例限界は、一般に降伏強度の0.6倍と知られている。すなわち、板状部材20Aによる拘束が作用する支持構造40Aにおいて、その弾性座屈応力度が345N/mmの0.6倍以上の値となる場合が、高強度化による支持構造40Aの高耐力化の効果を望める好ましい範囲である。
【0098】
そこで、固有値解析から得られる弾性座屈応力度σcrを基に、部材の許容応力度fを、非特許文献1に記載の(48)式から(50)式の通り計算した。
【0099】
【数18】
【0100】
なお、許容応力度fは、部材断面に作用することが許容できる応力度の最大値である。部材断面に作用する応力度が許容応力度fを超えると、部材が崩壊に至る。Fは、リップ溝形鋼10Aの降伏強度(N/mm)である。
そして、引張られる第1フランジ12Aを板状部材20Aで拘束した支持構造40Aについて、リップ溝形鋼10Aの降伏強度Fを345N/mmから500N/mmまで上昇した場合の、耐力上昇率を調べた。
【0101】
ここで、fb_345を、降伏強度Fが345N/mmの条件で固有値解析の結果より求めた許容応力度と規定する。fb_500を、降伏強度Fが500N/mmの条件で固有値解析の結果より求めた許容応力度と規定する。そして、(fb_500/fb_345)の値が1.0よりも大きくなる範囲を調べれば、材料の高強度化の効果が期待できる部材の断面仕様を見出すことができる。
一方、リップ溝形鋼10Aの片側を板状部材20Aで拘束した構造において、弾性座屈応力度が横座屈強度よりも引き上げられるものの、その弾性座屈応力度を一義的に評価する方法がこれまでなかったため、効果を得られる具体的な部材仕様を見出すことができていなかった。
そこで本発明では、前述の解析検討に基づき発明された弾性座屈応力度の分析手法を基に無次元量Kを新たに見出した。図13に、(fb_500/fb_345)の値と本実施形態での検討を通じて得た弾性座屈応力度を定量評価するための、(53)式による無次元量Kとの関係を示す。
【0102】
【数19】
【0103】
図13において、横軸は無次元量Kを表し、縦軸は(fb_500/fb_345)を表す。
図13より、無次元量Kが0.000996を超えると、(fb_500/fb_345)が1.0よりも大きくなることが分かる。このため、無次元量Kが(54)式を満たすリップ溝形鋼10Aを備える支持構造40Aにおいて、高耐力化による耐力上昇効果が期待できることを新たに見出した。なお、同閾値の上限値(0.0130)は、本実施形態において解析を行った範囲における無次元量Kの最大値である。
【0104】
【数20】
【0105】
また、図13より、無次元量Kが0.0015を超えると、(fb_500/fb_345)が1.2以上になることが分かる。従って、無次元量Kが(55)式を満たすリップ溝形鋼10Aを備える支持構造40Aにおいて、確実に20%以上の部材高耐力化が可能となることを見出した。
【0106】
【数21】
【0107】
なお、材料の高耐力化を指向することは、部材耐力の上昇に寄与する。しかし、現場施工において、特に先孔加工無しでのドリルねじの打設について、現場施工性を低下させるという課題がある。
そのため本実施形態では、ドリルねじの施工が可能な、降伏強度Fが780N/mmである場合を、材料の降伏強度の上限としている。
すなわち、(b/h)、(t/h)、(c/h)、ウェブ11Aの幅h、設計基準強度Fは、(58)式から(62)式をそれぞれ満たす。
【0108】
【数22】
【0109】
なお、(58)式から(61)式は、座屈固有値解析を実施したリップ溝形鋼10Aの具体的な断面仕様の数値範囲から導かれる式である。
【0110】
〔10.弾性座屈応力度の評価装置〕
前記評価方法を好ましく行うことができる弾性座屈応力度の評価装置(以下では、単に評価装置とも言う)50を、図14に示す。
評価装置50は、曲げモーメントM1が作用するリップ溝形断面部材10Aの弾性座屈応力度を評価する。評価装置50はコンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)51と、主記憶装置55と、補助記憶装置60と、入出力インタフェース(IO・I/F)65と、記録・再生装置70と、を備えている。CPU51、主記憶装置55、補助記憶装置60、入出力インタフェース65、及び記録・再生装置70は、バス75により互いに接続されている。
主記憶装置55は、CPU51のワークエリア等になるRAM(Random Access Memory)等である。
入出力インタフェース65は、キーボードやマウス等の入力装置66、及び表示装置67に接続される。
記録・再生装置70は、USB(Universal Serial Bus)メモリ等の記録媒体71に対するデータの記録や再生を行う。
【0111】
補助記憶装置60は、各種データやプログラム等が記憶されるハードディスクドライブ装置等である。補助記憶装置60には、前記コンピュータを評価装置50として機能させるための弾性座屈応力度の評価プログラム(以下では、単に評価プログラムとも言う)61や、OSプログラム等の各種プログラム等が格納されている。評価プログラム61を含む各種プログラムは、記録・再生装置70を介して記録媒体71から補助記憶装置60に取り込まれる。評価プログラム61等は、記録媒体71に格納される。
なお、これらのプログラムは、CDやDVD等のディスク型の記録媒体や、図示されていない通信装置を介して外部装置から補助記憶装置60に取り込まれてもよい。
【0112】
CPU51は、各種演算処理を実行する。CPU51は、機能的に、評価部52を備えている。
評価部52は、(26)式により求められる計算弾性座屈応力度σcrcalを用いて、弾性座屈応力度を評価する。
評価部52は、CPU51の機能構成要素である。評価部52は、補助記憶装置60に格納されている評価プログラム61をCPU51が実行することで機能する。
評価プログラム61は、評価装置50用のプログラムである。評価プログラム61は、評価装置50を評価部52として機能させる。
【0113】
〔11.弾性座屈応力度の評価方法〕
図15に、本実施形態の評価方法S1のフローチャートを示す。
評価方法S1では、(26)式により求められる計算弾性座屈応力度σcrcalを用いて、弾性座屈応力度を評価する評価工程S5を行う。
また、本実施形態のリップ溝形鋼の製造方法(以下では、単に製造方法と言う)評価方法S1により弾性座屈応力度を評価したリップ溝形鋼10Aを製造する。
【0114】
〔12.本実施形態の効果〕
以上説明したように、本実施形態の評価方法S1及び評価プログラム61では、発明者等は鋭意検討の結果、曲げモーメントM1が作用して第1フランジ12Aが引張られる第1リップ溝形鋼10Aの弾性座屈応力度に関して、(σcrcal/E)は、(t/h)、(b/h)、(c/b)、及び(t/(h+2b+2c))の、(26)式による関数であることを見出した。このため、(26)式により、引張り力を受ける第1フランジ12Aのみが拘束された第1リップ溝形鋼10Aに曲げモーメントが作用した場合について、当該第1リップ溝形鋼10Aの弾性座屈応力度を評価することができる。
【0115】
関数f()は、(39)式により求められる。これにより、(26)式において、関数f()が定数α~αを用いて具体的に規定された(39)式を用いて、計算弾性座屈応力度σcrcalをより精緻に求めることができる。
定数αは、(42)式を満たす。従って、評価方法S1により評価する計算弾性座屈応力度σcrcalを、一定以上の割合で安全側に評価することができる。
【0116】
定数αは、(43)式を満たす。このため、定数αに関して、弾性座屈応力度の真の値からバラつきを抑えて、計算弾性座屈応力度σcrcalを得ることができる。
定数αは、(44)式を満たす。これにより、定数αに関して、弾性座屈応力度の真の値からバラつきを抑えて、計算弾性座屈応力度σcrcalを得ることができる。
定数αは、(45)式を満たす。従って、定数αに関して、弾性座屈応力度の真の値からバラつきを抑えて、計算弾性座屈応力度σcrcalを得ることができる。
【0117】
また、本実施形態の製造方法では、第1フランジ12Aに引張り力を受けた状態で曲げモーメントM1が作用する第1リップ溝形鋼10Aであって、弾性座屈応力度を評価された第1リップ溝形鋼10Aを製造することができる。
また、本実施形態の支持構造40Aでは、引張り力を受ける第1フランジ12Aのみが拘束された第1リップ溝形鋼10Aに曲げモーメントが作用する状態で、第1リップ溝形鋼10Aの降伏強度を高めたときに、第1リップ溝形鋼10Aの許容応力度を効果的に高めることができる。
【0118】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
例えば、前記実施形態では、定数α~αについての(42)式から(45)式のうち、少なくとも1つの式を満たさなくてもよい。
【0119】
図16に示すように、建築物2は、第1層2aのみで構成されてもよい。この例では、第1リップ溝形鋼10A,10Bは、水平面に沿って延びている。このように、板状部材20A,20Bに対して第1リップ溝形鋼10A,10Bが配置される向きは、限定されない。
リップ溝形断面部材が、第1リップ溝形鋼10Aであるとした。しかし、リップ溝形断面部材は、ウェブ、一対のフランジ、及び一対のリップを有する部材であれば、限定されない。
リップ溝形断面部材は、連続的な板要素で断面を構成されている。しかし、リップ溝形断面部材は、電気配線や配管等を通すために、部分的に孔加工が施されていてもよい。
【符号の説明】
【0120】
10A 第1リップ溝形鋼(リップ溝形断面部材)
11A ウェブ
12A 第1フランジ(フランジ)
13A 第2フランジ(フランジ)
14A 第1リップ(リップ)
15A 第2リップ(リップ)
20A,20B,21A,35A,35B 板状部材
40A,41A 支持構造
50 評価装置(弾性座屈応力度の評価装置)
52 評価部
61 評価プログラム(弾性座屈応力度の評価プログラム)
O1 材軸線
S1 評価方法(弾性座屈応力度の評価方法)
S5 評価工程
X 幅方向
Y 厚さ方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17