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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171038
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】複合多孔質体
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/24 20060101AFI20241204BHJP
   B32B 1/08 20060101ALI20241204BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20241204BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20241204BHJP
   B01D 69/04 20060101ALI20241204BHJP
   B01D 69/06 20060101ALI20241204BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20241204BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20241204BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20241204BHJP
   B01D 71/36 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
B32B5/24 101
B32B1/08
B32B27/30 D
B01D69/00
B01D69/04
B01D69/06
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/02
B01D71/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087892
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野々村 和也
(72)【発明者】
【氏名】諏澤 和葉
(72)【発明者】
【氏名】近藤 大
(72)【発明者】
【氏名】宮永 美紀
(72)【発明者】
【氏名】森田 徹
【テーマコード(参考)】
4D006
4F100
【Fターム(参考)】
4D006GA06
4D006GA44
4D006MA02
4D006MA03
4D006MA08
4D006MA10
4D006MA22
4D006MA31
4D006MB11
4D006MB15
4D006MC03X
4D006MC28
4D006MC30X
4D006MC33X
4D006MC34
4D006MC36
4D006MC40
4D006MC60
4D006NA42
4D006NA46
4D006NA58
4D006NA62
4D006NA64
4F100AA19D
4F100AA19H
4F100AB10D
4F100AK18A
4F100AK18B
4F100AL05C
4F100CC102
4F100CC10C
4F100CC10D
4F100DA11
4F100DE04B
4F100DE04C
4F100DG02C
4F100DG03C
4F100DJ06A
4F100EH462
4F100EH46C
4F100EH46D
4F100GB56
4F100JD05
(57)【要約】
【課題】ろ過対象の流体から除去できる物質の大きさをさらに小さくすることが可能な複合多孔質体を提供する。
【解決手段】複合多孔質体は、第一面を有する基材と、前記第一面の少なくとも一部を覆う被覆層と、を備え、前記基材は、ポリテトラフルオロエチレンによって構成された多孔質体であり、前記被覆層は、複数の粒子と、複数のナノファイバーとを含み、前記複数の粒子のそれぞれは、ポリテトラフルオロエチレンからなり、前記粒子の平均粒径が10nm以上1000nm以下である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一面を有する基材と、前記第一面の少なくとも一部を覆う被覆層と、を備え、
前記基材は、ポリテトラフルオロエチレンによって構成された多孔質体であり、
前記被覆層は、複数の粒子と、複数のナノファイバーとを含み、
前記複数の粒子のそれぞれは、ポリテトラフルオロエチレンからなり、
前記粒子の平均粒径は、10nm以上1000nm以下である、複合多孔質体。
【請求項2】
前記被覆層の平均孔径は、1nm以上50nm以下である、請求項1に記載の複合多孔質体。
【請求項3】
前記複数のナノファイバーのそれぞれは、アルミニウムと酸素と水素とを含む無機材料からなる、請求項1または請求項2に記載の複合多孔質体。
【請求項4】
前記被覆層の平均厚さは10nm以上10000nm以下である、請求項1または請求項2に記載の複合多孔質体。
【請求項5】
前記基材は前記第一面を有する第一層を備え、
前記第一層の平均孔径は、20nm以上2000nm以下である、請求項1または請求項2に記載の複合多孔質体。
【請求項6】
前記被覆層は、
前記第一面に設けられた粒子層と、
前記粒子層の前記基材に対向する面と反対側の第三面に設けられた混合層と、
前記混合層の前記粒子層に対向する面と反対側の第四面に設けられたナノファイバー層と、を備え、
前記粒子層は、前記複数の粒子の一部である第1粒子群を含み、かつ、前記複数のナノファイバーを含まず、
前記混合層は、前記第1粒子群とは異なる前記複数の粒子の一部である第2粒子群と、前記複数のナノファイバーの一部である第1ナノファイバー群との混合物を含み、
前記ナノファイバー層は、前記第1ナノファイバー群とは異なる前記複数のナノファイバーの一部である第2ナノファイバー群を含み、かつ、前記複数の粒子を含まない、請求項1または請求項2に記載の複合多孔質体。
【請求項7】
前記被覆層は、
前記第一面に設けられた混合層と、
前記混合層の前記基材に対向する面と反対側の第四面に設けられたナノファイバー層と、を備え、
前記混合層は、前記複数の粒子と、前記複数のナノファイバーの一部である第1ナノファイバー群との混合物を含み、
前記ナノファイバー層は、前記第1ナノファイバー群とは異なる前記複数のナノファイバーの一部である第2ナノファイバー群を含み、かつ、前記複数の粒子を含まない、請求項1または請求項2に記載の複合多孔質体。
【請求項8】
前記被覆層は、
前記第一面に設けられた粒子層と、
前記粒子層の前記基材に対向する面と反対側の第三面に設けられた混合層と、を備え、
前記粒子層は、前記複数の粒子の一部である第1粒子群を含み、かつ、前記複数のナノファイバーを含まず、
前記混合層は、前記第1粒子群とは異なる前記複数の粒子の一部である第2粒子群と、前記複数のナノファイバーとの混合物を含む、請求項1または請求項2に記載の複合多孔質体。
【請求項9】
前記被覆層は、
前記第一面に設けられた混合層を備え、
前記混合層は、前記複数の粒子と、前記複数のナノファイバーとの混合物を含む、請求項1または請求項2に記載の複合多孔質体。
【請求項10】
前記被覆層は、
前記第一面に設けられた粒子層と、
前記粒子層の前記基材に対向する面と反対側の第三面に設けられたナノファイバー層と、を備え、
前記粒子層は、前記複数の粒子を含み、かつ、前記複数のナノファイバーを含まず、
前記ナノファイバー層は、前記複数のナノファイバーを含み、かつ、前記複数の粒子を含まない、請求項1または請求項2に記載の複合多孔質体。
【請求項11】
前記基材の形状はシートである、請求項1または請求項2に記載の複合多孔質体。
【請求項12】
前記基材の形状はチューブであり、
前記第一面は、前記チューブの外周面である、請求項1または請求項2に記載の複合多孔質体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合多孔質体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔質体は、ろ過フィルターなどの各種分離膜に用いられている。
【0003】
特許文献1には、多孔質基材と粒子層とを備えるフッ素系樹脂多孔質分離膜が開示されている。多孔質基材は、ポリテトラフルオロエチレンを主体として含む。粒子層は、多孔質基材の少なくとも表面に設けられており、ポリテトラフルオロエチレンからなる粒子を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-015002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のフッ素系樹脂多孔質分離膜は、平均孔径が80~1000nmである。分離膜の分野では、ろ過対象の流体から除去できる物質の大きさをさらに小さくすることが可能な複合多孔質体が望まれている。
【0006】
そこで、本開示は、ろ過対象の流体から除去できる物質の大きさをさらに小さくすることが可能な複合多孔質体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の複合多孔質体は、
第一面を有する基材と、前記第一面の少なくとも一部を覆う被覆層と、を備え、
前記基材は、ポリテトラフルオロエチレンによって構成された多孔質体であり、
前記被覆層は、複数の粒子と、複数のナノファイバーとを含み、
前記複数の粒子のそれぞれは、ポリテトラフルオロエチレンからなり、
前記粒子の平均粒径が10nm以上1000nm以下である、複合多孔質体である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、ろ過対象の流体から除去できる物質の大きさをさらに小さくすることが可能な複合多孔質体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態1に係る複合多孔質体の概観図である。
図2図2は、実施形態1に係る複合多孔質体の断面図である。
図3図3は、実施形態2に係る複合多孔質体の断面図である。
図4図4は、実施形態3に係る複合多孔質体の断面図である。
図5図5は、実施形態4に係る複合多孔質体の断面図である。
図6図6は、実施形態5に係る複合多孔質体の断面図である。
図7図7は、ナノファイバー層の表面のSEM画像を模式的に示す図である。
図8図8は、通液試験に使用される試験装置の概略図である。
図9図9は、実施形態6に係る複合多孔質体の概観図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の複合多孔質体は、
第一面を有する基材と、前記第一面の少なくとも一部を覆う被覆層と、を備え、
前記基材は、ポリテトラフルオロエチレンによって構成された多孔質体であり、
前記被覆層は、複数の粒子と、複数のナノファイバーとを含み、
前記複数の粒子のそれぞれは、ポリテトラフルオロエチレンからなり、
前記粒子の平均粒径は、10nm以上1000nm以下である、複合多孔質体。
【0011】
本開示によれば、ろ過対象の流体から除去できる物質の大きさをさらに小さくすることが可能な複合多孔質体を提供することができる。
【0012】
(2)上記(1)において、前記被覆層の平均孔径は、1nm以上50nm以下であってもよい。これによると、複合多孔質体がろ過対象の流体から除去できる物質の大きさを50nm以下とすることができる。
【0013】
(3)上記(1)または(2)において、前記複数のナノファイバーのそれぞれは、アルミニウムと酸素と水素とを含む無機材料からなってもよい。これによると、複合多孔質体は可とう性、耐熱性および耐薬品性に優れる。
【0014】
(4)上記(1)から(3)のいずれかにおいて、前記被覆層の平均厚さは10nm以上10000nm以下であってもよい。平均厚さが10nmの被覆層を備える複合多孔質体は、優れたろ過性能を有する。平均厚さが10000nm以下の被覆層を備える複合多孔質体は、優れた通液性と可とう性を有する。
【0015】
(5)上記(1)から(4)のいずれかにおいて、
前記基材は前記第一面を有する第一層を備え、
前記第一層の平均孔径は、20nm以上2000nm以下であってもよい。第一層の平均孔径が20nm以上である基材を備える複合多孔質体は、優れた通液性を有する。第一層の平均孔径が2000nm以下である、被覆層を構成する粒子が第一面上に引っ掛かり易く、第一面上に被覆層が適切に構成され易い。さらに、第一層の平均孔径が2000nm以下である基材を備える複合多孔質体は、強度に優れる。
【0016】
(6)上記(1)から(5)のいずれかにおいて、
前記被覆層は、
前記第一面に設けられた粒子層と、
前記粒子層の前記基材に対向する面と反対側の第三面に設けられた混合層と、
前記混合層の前記粒子層に対向する面と反対側の第四面に設けられたナノファイバー層と、を備え、
前記粒子層は、前記複数の粒子の一部である第1粒子群を含み、かつ、前記複数のナノファイバーを含まず、
前記混合層は、前記第1粒子群とは異なる前記複数の粒子の一部である第2粒子群と、前記複数のナノファイバーの一部である第1ナノファイバー群との混合物を含み、
前記ナノファイバー層は、前記第1ナノファイバー群とは異なる前記複数のナノファイバーの一部である第2ナノファイバー群を含み、かつ、前記複数の粒子を含まないという構成を有していてもよい。
【0017】
これによると、複合多孔質体の通液性が向上する。
【0018】
(7)上記(1)から(5)のいずれかにおいて、
前記被覆層は、
前記第一面に設けられた混合層と、
前記混合層の前記基材に対向する面と反対側の第四面に設けられたナノファイバー層と、を備え、
前記混合層は、前記複数の粒子と、前記複数のナノファイバーの一部である第1ナノファイバー群との混合物を含み、
前記ナノファイバー層は、前記第1ナノファイバー群とは異なる前記複数のナノファイバーの一部である第2ナノファイバー群を含み、かつ、前記複数の粒子を含まないという構成を有していてもよい。
【0019】
これによると、複合多孔質体のろ過性能が向上する。
【0020】
(8)上記(1)から(5)のいずれかにおいて、
前記被覆層は、
前記第一面に設けられた粒子層と、
前記粒子層の前記基材に対向する面と反対側の第三面に設けられた混合層と、を備え、
前記粒子層は、前記複数の粒子の一部である第1粒子群を含み、かつ、前記複数のナノファイバーを含まず、
前記混合層は、前記第1粒子群とは異なる前記複数の粒子の一部である第2粒子群と、前記複数のナノファイバーとの混合物を含むという構成を有していてもよい。
【0021】
これによると、複合多孔質体の通液性が向上する。
【0022】
(9)上記(1)から(5)のいずれかにおいて、
前記被覆層は、
前記第一面に設けられた混合層を備え、
前記混合層は、前記複数の粒子と、前記複数のナノファイバーとの混合物を含むという構成を有していてもよい。
【0023】
これによると、複合多孔質体のろ過性能が向上する。
【0024】
(10)上記(1)から(5)のいずれかにおいて、
前記被覆層は、
前記第一面に設けられた粒子層と、
前記粒子層の前記基材に対向する面と反対側の第三面に設けられたナノファイバー層と、を備え、
前記粒子層は、前記複数の粒子を含み、かつ、前記複数のナノファイバーを含まず、
前記ナノファイバー層は、前記複数のナノファイバーを含み、かつ、前記複数の粒子を含まないという構成を有していてもよい。
【0025】
これによると、複合多孔質体の通液性が向上する。
【0026】
(11)上記(1)から(10)のいずれかにおいて、前記基材の形状はシートであってもよい。
【0027】
シート状の基材を備える複合多孔質体の全体形状はシート形状である。シート形状の複合多孔質体は、様々な形状に加工し易く、種々の形態のろ過装置に適用可能である。
【0028】
(12)上記(1)から(10)のいずれかにおいて、
前記基材の形状はチューブであり、
前記第一面は、前記チューブの外周面であってもよい。
【0029】
チューブ状の基材を備える複合多孔質体の全体形状はチューブ形状である。チューブ状の基材には、中空糸膜も含まれる。チューブ形状の複合多孔質体では、不純物を含む流体はチューブ形状の複合多孔質体の外部に流通される。複合多孔質体を透過した流体はチューブ形状の複合多孔質体の内部に流通される。上記(12)に記載の構成であれば、複合多孔質体自体で流体の流路を構成できる。この複合多孔質体を複数本束ねることで浄化装置のモジュールを構成することができる。
【0030】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の複合多孔質体の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。本開示の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、必ずしも実際の寸法関係を表すものではない。
【0031】
本開示において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0032】
本開示において、数値範囲の下限および上限として、それぞれ1つ以上の数値が記載されている場合は、下限に記載されている任意の1つの数値と、上限に記載されている任意の1つの数値との組み合わせも開示されているものとする。例えば、下限として、a1以上、b1以上、c1以上が記載され、上限としてa2以下、b2以下、c2以下が記載されている場合は、a1以上a2以下、a1以上b2以下、a1以上c2以下、b1以上a2以下、b1以上b2以下、b1以上c2以下、c1以上a2以下、c1以上b2以下、c1以上c2以下が開示されているものとする。
【0033】
[実施形態1]
本開示の一実施形態(以下「実施形態1」とも記す。)に係る複合多孔質体について、図1および図2を用いて説明する。図1および図2に示されるように、実施形態1に係る複合多孔質体1は、第一面21を有する基材2と、第一面21の少なくとも一部を覆う被覆層12と、を備え、基材2は、ポリテトラフルオロエチレンによって構成された多孔質体であり、被覆層12は、複数の粒子4と、複数のナノファイバー6とを含み、複数の粒子4のそれぞれは、ポリテトラフルオロエチレンからなり、粒子4の平均粒径は、10nm以上1000nm以下である、複合多孔質体1である。
【0034】
実施形態1に係る複合多孔質体1は、ろ過対象の流体から除去できる物質の大きさをさらに小さくすることが可能である。この理由は、以下の通りである。実施形態1に係る複合多孔質体1は、平均粒径が10nm以上1000nm以下である複数の粒子4と、複数のナノファイバー6とを含む被覆層12を備える。複数の粒子4と、複数のナノファイバー6とを含む被覆層12では、粒子4間の隙間、ナノファイバー6間の隙間および粒子4とナノファイバー6間の隙間の少なくともいずれかが、流体が通過する空孔となる。これらの隙間は非常に小さいため、被覆層12によってナノオーダーの非常に小さい物質が流体から除去される。除去できる物質の平均粒径は、例えば、100nm以下でもよく、80nm以下でもよく、50nm以下でもよい。流体は液体でも良いし、気体でも良いし、固体が混合された液体または固体が混合された気体でもよい。
【0035】
≪全体構成≫
実施形態1に係る複合多孔質体1は、例えば図1に示されるシート形状を備える。複合多孔質体1は、基材2と被覆層12とを備える。基材2の形状はシートである。基材2は、図1および図2に示されるように、第一面21と、第一面21と反対側の第二面22とを備える。被覆層12は、基材2の第一面21に設けられている。被覆層12の平均孔径は基材2の平均孔径よりも小さい。以下、複合多孔質体1の各構成を詳細に説明する。
【0036】
≪基材≫
実施形態1において、基材2はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)によって構成された多孔質体である。図2に示されるように、基材2は複数の空孔2hを備える。図2は断面図であるため、基材2の各空孔2hは独立しているように見えるが、各空孔2hは他の空孔2hにつながって、第一面21から第二面22に至る無数の流路を形成している。基材2には、第一面21から第二面22に至る無数の流路が形成されている。
【0037】
基材2はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)によって構成されている。PTFEは耐熱性および耐薬品性に優れる。従って、複合多孔質体の耐熱性および耐薬品性が向上する。基材2は、本開示の効果を損なわない限り、ポリテトラフルオロエチレン以外の成分を含んでいてもよい。該成分としては、例えば、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)が挙げられる。
【0038】
基材2の厚さは、第一面21と第二面22との間の長さである。基材2の平均厚さは1μm以上100μm以下でもよい。平均厚さが1μm以上の基材2を備える複合多孔質体1は優れた強度を有する。平均厚さが100μm以下の基材2を備える複合多孔質体1は可とう性に優れる。また、複合多孔質体1によるろ過時間が長くなり過ぎない。基材2の平均厚さの下限は5μm以上でもよく、10μm以上でもよく、15μm以上でもよく、または20μmでもよい。基材2の平均厚さの上限は90μm以下でもよく、80μm以下でもよく、または50μmでもよい。基材2の平均厚さの範囲は、例えば10μm以上90μm以下でもよく、または20μm以上50μm以下でもよい。
【0039】
基材2の平均厚さはSEM-EDX(Scanning Electron Microscope-Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)によって求められる。SEM画像の倍率は、10000倍である。SEM画像のサイズは、8μm×11μmである。基材2と被覆層12とは、複合多孔質体1の製造時に熱融着される。そのため、基材2と被覆層12との境界は、SEM画像において確認することができる。上記境界から基材2の第二面22までの距離が基材2の厚さである。基材2の平均厚さは、基材2における異なる5点以上の厚さを平均したものである。
【0040】
基材2の第一面21における平均孔径は、20nm以上2000nm以下であってもよい。基材2の第一面21における平均孔径が20nm以上であると、基材2を含む複合多孔質体1は通液性に優れる。通液性が高い複合多孔質体1は、ろ過時間を短縮できる。基材2の第一面21における平均孔径が2000nm以下であると、被覆層12を構成する粒子4が第一面21上に引っ掛かり易く、第一面21上に被覆層12が適切に構成され易い。基材2の第一面21における平均孔径が2000nm以下であると、基材2を含む複合多孔質体1は強度に優れる。基材2の第一面21における平均孔径の下限は、50nm以上でもよく、100nm以上でもよく、または200nm以上でもよい。基材2の第一面21における平均孔径の上限は、450nm以下でもよく、400nm以下でもよく、または350nm以下でもよい。基材2の第一面21における平均孔径の範囲は、例えば50nm以上450nm以下でもよく、または200nm以上350nm以下でもよい。基材2の第一面21における平均孔径は、被覆層12の平均孔径よりも大きい。
【0041】
第一面21には複数の空孔2hが形成されている。第一面21の上に被覆層12が形成されていると、第一面21の空孔2hの平均孔径を測定することは難しい。本開示において、第一面21の平均孔径は、基材2の厚さ方向に沿った断面のSEM画像から求められる。本開示において、基材2の厚さ方向とは、第一面21から第二面22に向かう方向を意味する。SEM画像の倍率は、5000倍である。SEM画像のサイズは、8μm×11μmである。SEM画像を二値化処理し、SEM画像における各空孔2hを抽出する。SEM画像中の各空孔2hの円相当径を求め、全ての空孔2hの円相当径の算術平均を求める。円相当径は、空孔2hの面積と同じ大きさの真円の直径のことである。この円相当径の算術平均を基材2の第一面21における平均孔径とみなす。
【0042】
第一面21における空孔2hの平均短径は、4nm以上400nm以下であってもよい。第一面21における空孔2hの平均短径が4nm以上の空孔2hを有する第一面21は、複合多孔質体1の通液性を向上させる。第一面21の空孔2hの平均短径が400nm以下であれば、被覆層12を構成するナノファイバー6が第一面21上に引っ掛かり易く、第一面21上に被覆層12が適切に構成され易い。第一面21における空孔2hの平均短径は例えば10nm以上300nm以下でも良い。
【0043】
本開示において、第一面21の空孔2hの平均短径は、基材2の厚さ方向に沿った断面のSEM画像から求められる。SEM画像の倍率は、5000倍である。SEM画像のサイズは、8μm×11μmである。SEM画像を二値化処理し、SEM画像における各空孔2hを抽出する。SEM画像において、各空孔2hに外接する最小の長方形を求める。SEM画像中の全ての長方形の短径の平均が、空孔2hの平均短径である。
【0044】
基材2は、図2に示されるように、複数の層を備えていてもよい。基材2は、第一層2Aと第二層2Bとを備えることができる。図2では、第一層2Aと第二層2Bとの境界を二点鎖線で模式的に示している。第一層2Aは、第一面21を含む。第二層2Bは、第一層2Aに隣接する。実施形態1において、第二層2Bは、第二面22を含む。第二層2Bの平均孔径は、第一層2Aの平均孔径よりも大きい。平均孔径が大きい第二層2Bを備える基材2の通液性は、基材2と同じ厚さを有し、かつ第一層2Aのみからなる基材2の通液性よりも優れる。従って、基材2が第一層2Aと第二層2Bとで構成されることで、基材2を厚くしても複合多孔質体1のろ過時間が長くなり難い。第二層2Bの平均孔径は、例えば、第一層2Aの平均孔径の2倍以上2000倍以下、または10倍以上1000倍以下であってもよい。第一層2Aの平均孔径は、被覆層12の平均孔径よりも大きい。基材2が3層以上の層からなる場合、第一面21から遠い層ほど平均孔径が大きくてもよい。本例とは異なり、基材2は、第一層2Aのみから構成されていてもよい。この場合、第一層2Aは第一面21と第二面22とを含む。
【0045】
第一層2Aの平均孔径と、第二層2Bの平均孔径は、基材2の厚さ方向に沿った断面のSEM画像から求められる。第一層2Aと第二層2Bとは、基材2の作製時に熱融着される。そのため、第一層2Aと第二層2Bとの境界はSEM画像において確認することができる。SEM画像において、境界を挟んで第一面21を含む領域に存在する各空孔2hの円相当径の算術平均が、第一層2Aの平均孔径である。同様に、SEM画像において、境界を挟んで第一層2Aに隣接する領域に存在する各空孔2hの円相当径の算術平均が、第二層2Bの平均孔径である。
【0046】
≪被覆層≫
実施形態1において、被覆層12は、複数の粒子4と、複数のナノファイバー6とを含む。被覆層12は、基材2の第一面の少なくとも一部を被覆すればよく、基材2の第一面の全部を被覆してもよい。
【0047】
図2に示されるように、被覆層12は、基材2の第一面上に設けられた粒子層9と、粒子層9の基材2に対向する面と反対側の第三面9A上に設けられた混合層10と、混合層10の粒子層9に対向する面と反対側の第四面10A上に設けられたナノファイバー層11と、からなる。図2では、複数の粒子4の一部を図示し、分かり易いように被覆層12の表面30を直線で示している。被覆層12の図示に関しては、他の図も同様である。図2では、粒子層9と混合層10との境界は破線L1で示され、混合層10とナノファイバー層11との境界は破線L2で示される。図2において、破線L1は、基材2の第一面21に平行な線であって、かつ、基材2に最も近いナノファイバー6に接する線である。破線L1と基材2に最も近いナノファイバー6とは、該ナノファイバー6の最も基材2に近い位置で接する。図2において、破線L2は、基材2の第一面21に平行な線であって、かつ、基材2から最も遠い粒子4に接する線である。破線L2と基材2から最も遠い粒子4とは、該粒子4の最も基材2から遠い位置で接する。
【0048】
被覆層12の平均孔径は、1nm以上50nm以下であってもよい。被覆層12の平均孔径が1nm以上であれば、被覆層12の可とう性が確保される。また、複合多孔質体1によるろ過時間が長くなり過ぎない。被覆層12の平均孔径が50nm以下であれば、被覆層12によって効率的に不純物を分離できる。被覆層12の平均孔径の下限は2nm以上でもよく、5nm以上でもよく、10nm以上でもよく、または20nm以上でもよい。被覆層12の平均孔径の上限は45nm以下でもよく、40nm以下でもよく、または30nm以下でもよい。被覆層12の平均孔径の範囲は、2nm以上45nm以下でもよく、または20nm以上30nm以下でもよい。被覆層12の平均孔径は、基材2の平均孔径よりも小さい。
【0049】
被覆層12の平均孔径は非常に小さいため、被覆層12の断面のSEM画像から求めることが難しい。本開示において、被覆層12の平均孔径は、通液試験によって求められる。図8は通液試験に使用される試験装置7の概略図である。試験装置7は、真空引き可能なフラスコ70と、両端が開口した筒状のチャンバー71とを備える。チャンバー71の下端開口部71Dとフラスコ70の上端開口部70Uとの間に複合多孔質体1が挟まれている。複合多孔質体1の被覆層12は、チャンバー71を向いている。
【0050】
被覆層12の平均孔径を求める手順は以下のとおりである。まず、既知の平均粒径を有する複数の粒子を含む試験液を作製する。ここで、平均粒径とは、粒子の個数分布の最頻値を意味する。試験液における粒子の濃度(g/cm)は既知である。試験液は、異なる平均粒径のものを複数作製する。例えば、平均粒径が1nm~20nmの間は、5nm間隔で試験液を作製する。平均粒径が20nm~60nmの間は、10nm間隔で試験液を作製する。平均粒径が60nm~100nmの間は、20nm間隔で試験液を作製する。各試験液に含まれる複数の粒子は、アルドリッチ社製の「金ナノ粒子」を用いる。
【0051】
試験液をチャンバー71に入れる。フラスコ70内を真空引きすることで、複合多孔質体1を透過したろ液がフラスコ70に貯まる。真空度は、80Pa以下である。ろ液に含まれる粒子の濃度(g/cm)を測定する。ろ液に含まれる粒子の濃度は、測定したろ液の体積と、ろ液を蒸発させた後に残る粒子の質量とから計算によって求められる。粒子の平均粒径の小さい試験液から順に、上記の手順で通液試験を行う。ろ液における粒子の濃度が、試験液における粒子の濃度の10%以下になる試験液の粒子の平均粒径のうち、最小の粒子の平均粒径を被覆層12の平均孔径とみなす。例えば、粒子の平均粒径が10nmの試験液では、ろ液における粒子の濃度が試験液における粒子の濃度の90%であり、粒子の平均粒径が15nmの試験液では、ろ液における粒子の濃度が試験液における粒子の濃度の5%であり、粒子の平均粒径が25nmの試験液では、ろ液における粒子の濃度が試験液における粒子の濃度の5%である場合、被覆層12の平均孔径は15nmである。
【0052】
基材2の第一面21における平均孔径に対する被覆層12の平均孔径の比率は、例えば0.01以上1以下ある。上記比率が0.01以上であると、基材2の第一面21における平均孔径と被覆層12の平均孔径との差が大きくなり過ぎず、第一面21上に被覆層12が適切に構成され易い。上記比率が1以下であると、被覆層12の平均孔径が基材2の第一面21における平均孔径と同じまたは基材2の第一面21における平均孔径よりもが小さくなり、被覆層12によるろ過性能が向上する。上記比率は、0.05以上0.8以下、0.1以上0.5以下、または0.2以上0.4以下であってもよい。
【0053】
被覆層12の平均厚さは、10nm以上10000nm以下であってもよい。被覆層12の平均厚さが10nm以上であると、被覆層12によって効率的に不純物を分離し易い、つまりろ過性能が向上し易い。被覆層12の平均厚さが10000nm以下であると、被覆層12を含む複合多孔質体1によるろ過時間が長くなり過ぎない、つまり通液性が向上しやすい。被覆層12の平均厚さが10000nm以下であると、被覆層12を含む複合多孔質体1は可とう性に優れる。被覆層12の平均厚さの下限は、15nm以上でもよく、50nm以上でもよく、100nm以上でもよく、または200nm以上であってもよい。被覆層12の平均厚さの上限は、9000nm以下でもよく、8000nm以下でもよく、5000nm以下でもよく、1000nm以下でもよく、900nm以下でもよく、800nm以下でもよく、または500nm以下でもよい。被覆層12の平均厚さの範囲は、例えば15nm以上1000nm以下でもよく、または200nm以上500nm以下でもよい。
【0054】
被覆層12の平均厚さは、基材2の平均厚さと同様の求め方で求められる。SEM-EDXによって求めた基材2と被覆層12との境界から被覆層12の表面30までの距離が被覆層12の厚さである。SEM画像の倍率は、10000倍である。SEM画像のサイズは、8μm×11μmである。被覆層12の平均厚さは、被覆層12における異なる5点の厚さを平均したものである。
【0055】
実施形態1において、複数の粒子4は、複数の粒子4の一部である第1粒子群と、第1粒子群とは異なる複数の粒子4の一部である第2粒子群とからなることができる。実施形態1において、複数の粒子4は、第1粒子群と第2粒子群とからなることができる。第1粒子群は粒子層9に含まれる。第2粒子群は混合層10に含まれる。
【0056】
複数の粒子4のそれぞれは、(PTFE)によって構成されている。ポリテトラフルオロエチレンは、耐熱性および耐薬品性に優れる。従って、複合多孔質体1の耐熱性および耐薬品性が向上する。
【0057】
複数の粒子4の平均粒径は、10nm以上1000nm以下である。複数の粒子4の平均粒径は、被覆層12の平均孔径の大きさに寄与する。複数の粒子4の平均粒径が10nm以上であると、複数の粒子4による空孔への目詰まりが抑制され、粒子4間に隙間が構成され易い。複数の粒子4の平均粒径が1000nm以下であると、被覆層12の平均孔径が小さくなり易い。複数の粒子4の平均粒径の下限は、50nm以上でもよく、100nm以上でもよく、または200nm以上でもよい。複数の粒子4の平均粒径の上限は、800nm以下でもよく、700nm以下でもよく、または500nm以下でもよい。複数の粒子4の平均粒径の範囲は、50nm以上800nm以下でもよく、100nm以上700nm以下でもよく、または200nm以上500nm以下でもよい。
【0058】
複数の粒子4の平均粒径は、被覆層12の厚さに沿って切断した断面のSEM画像から求められる。SEM画像の倍率は、10000倍である。SEM画像のサイズは、8μm×11μmである。上記SEM画像を二値化処理し、SEM画像における各粒子4を抽出する。SEM画像中の各粒子4の円相当径を求め、全ての粒子4の円相当径の算術平均を求める。円相当径は、粒子4の面積と同じ大きさの真円の直径のことである。この円相当径の算術平均を複数の粒子4の平均粒径とみなす。
【0059】
被覆層12における粒子4の体積基準の含有率は、50%以上95%以下でもよい。これによると、被覆層12の平均孔径を小さくすることができる。被覆層12における粒子4の体積基準の含有率の下限は、60%以上でもよく、80%以上でもよい。被覆層12における粒子4の体積基準の含有率の上限は、90%以下でもよく、85%以下でもよい。被覆層12における粒子4の体積基準の含有率は、60%以上90%以下でもよく、80%以上85%以下でもよい。
【0060】
被覆層12における粒子4の体積基準の含有率は、被覆層12の厚さに沿って切断した断面のSEM画像から求められる。SEM画像の倍率は、10000倍である。SEM画像のサイズは、8μm×11μmである。上記SEM画像を二値化処理し、SEM画像における各粒子4を抽出する。SEM画像の全体の面積に対する、粒子4の面積の百分率を求める。この百分率を被覆層12における粒子4の体積基準の含有率とみなす。
【0061】
実施形態1において、複数のナノファイバー6は、複数のナノファイバー6の一部である第1ナノファイバー群と、第1ナノファイバー群とは異なる複数のナノファイバー6の一部である第2ナノファイバー群とからなることができる。実施形態1において、複数のナノファイバー6は、第1ナノファイバー群と第2ナノファイバー群とからなることができる。第1ナノファイバー群は混合層10に含まれる。第2ナノファイバー群はナノファイバー層11に含まれる。
【0062】
複数のナノファイバー6のそれぞれは、アルミニウム(Al)と酸素(O)と水素(H)とを含む無機材料からなることができる。ナノファイバー6は、ベーマイトとアルミナとで構成されてもよい。べーマイトとは、アルミナ1水和物(AlOOH)である。アルミナは、酸化アルミニウム(Al)である。ベーマイトはアルミナに比べて柔らかい。従って、ナノファイバー6に占めるベーマイトの割合が高いと、ナノファイバー層11が割れたり欠けたりし難い。ナノファイバー6は、本開示の効果を損なわない限り、べーマイトおよびアルミナ以外の成分を含んでいてもよい。該成分としては、例えば、水酸化アルミニウムが挙げられる。
【0063】
ベーマイトはAl-OH結合を含む。被覆層12におけるベーマイトの存在は、XPSによって被覆層12の表面30におけるAl-OH結合を検知することで確認できる。アルミナはAl-O-Al結合を含む。被覆層12におけるアルミナの存在は、XPSによって被覆層12の表面30におけるAl-O-Al結合を検出することで確認できる。Al-OH結合の含有量XとAl-O-Al結合の含有量Yとの比X/Yは、0.3以上1.0以下であってもよい。
【0064】
本開示において、XPSによって得られたスペクトルにおけるAl(OH)のピークの積分強度を、Al-OH結合の含有量Xとみなす。また、前記スペクトルにおけるAlのピークの積分強度を、Al-O-Al結合の含有量Yとみなす。XPSの条件の詳細は、以下の通りである。
・測定機器は、ULVAC PHI製のQuanteraSXM
・X線源:MONO Al Kα
・ビーム条件:100μm,φ100W,25kV HP
・透過エネルギー:55eV(ナロー)、280eV(ワイド)
・分析元素:C,O,F,Al,Si,S
・帯電補正:F1sを689.67eVとして全元素帯電補正
【0065】
XPSによって得られたスペクトルのAl2p3のピークに、AlとAl(OH)の2成分が存在すると仮定する。Alの結合エネルギーと、Al(OH)の結合エネルギーとの差を0.6eVと規定し、上記ピークを、Alのピークと、Al(OH)のピークとに分離する。Alのピークの積分強度がAl-OH結合の含有量X、Al(OH)のピークの積分強度がAl-O-Al結合の含有量Yである。
【0066】
粒子層9は、基材2の第一面の直上に設けられる。粒子層9は、複数の粒子4の一部である第1粒子群を含み、かつ、複数のナノファイバー6を含まない。粒子層9では、隣り合う粒子4同士が焼結により結合している。隣り合う粒子4間には隙間が構成されている。この隙間は粒子層9の空孔であるとみなすことができる。この空孔が流路として機能する。粒子層9は、本開示の効果を損なわない限り、粒子4以外の成分を含むことができる。該成分としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレンビニルアルコール共重合体、アミド基を含むポリビニルピロリドン、イミノ基を含むポリエチレンイミン、カルボキシル基を含むポリアクリル酸等が挙げられる。
【0067】
混合層10は、粒子層9の基材2に対向する面と反対側の第三面9Aの直上に設けられる。混合層10は、第1粒子群とは異なる複数の粒子4の一部である第2粒子群と、複数のナノファイバー6の一部である第1ナノファイバー群との混合物を含む。粒子層9では、隣り合う粒子4同士が焼結により結合している。隣り合う粒子4間には隙間が構成されている。この隙間に、ナノファイバー6が配置されている。本開示では、この状態を混合物と記す。粒子間の隙間、ナノファイバー6間の隙間および粒子4とナノファイバー6間の隙間の少なくともいずれかは、混合層10の空孔であるとみなすことができる。この空孔が流路として機能する。混合層10は、本開示の効果を損なわない限り、粒子4およびナノファイバー6以外の成分を含むことができる。該成分としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレンビニルアルコール共重合体、アミド基を含むポリビニルピロリドン、イミノ基を含むポリエチレンイミン、カルボキシル基を含むポリアクリル酸等が挙げられる。
【0068】
混合層10において、粒子4とナノファイバー6とは、接していてもよいし、接していなくてもよい。図2では、混合層10中のナノファイバー6は、基材2の第一面21に沿う方向に延在して配置されているが、ナノファイバー6の配置は特に制限されない。ナノファイバー6の延在方向は、基材2の第一面21と平行でなくてもよい。ナノファイバー6は曲がっていてもよい。ナノファイバー6の少なくとも一部が粒子4に接していてもよい。混合層10において、粒子4間の隙間にナノファイバー6が配置されていることは、混合層10の厚さ方向に沿った断面のSEM画像から確認される。
【0069】
ナノファイバー層11は、混合層10の粒子層9に対向する面と反対側の第四面10Aの直上に設けられる。ナノファイバー層11は、第1ナノファイバー群とは異なる複数のナノファイバー6の一部である第2ナノファイバー群を含み、かつ、複数の粒子4を含まない。ナノファイバー層11は、複合多孔質体1によってろ過される流体に面する層である。ナノファイバー層11は、複数のナノファイバー6の積層体であってもよい。複数のナノファイバー6の積層体からなるナノファイバー層11は、多孔質体である。ナノファイバー層11では、隣接するナノファイバー6の隙間をナノファイバー層11の空孔であるとみなすことができる。この空孔が流路として機能する。
【0070】
ナノファイバー層11において、ナノファイバー6は、基材2の第一面21に沿う方向に延在して、かつ、積層して配置されている。ナノファイバー層11は、本開示の効果を損なわない限り、ナノファイバー6以外の成分を含むことができる。該成分としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレンビニルアルコール共重合体、アミド基を含むポリビニルピロリドン、イミノ基を含むポリエチレンイミン、カルボキシル基を含むポリアクリル酸等が挙げられる。ナノファイバー層11において、ナノファイバー6は、基材2の第一面21に沿う方向に延在して、かつ、積層して配置されていることは、ナノファイバー層11の厚さ方向に沿った断面のSEM画像から確認される。
【0071】
ナノファイバー層11全体の空孔の平均孔径を測定することは難しいが、ナノファイバー層11の表面30に開口した開口孔3hの大きさを測定することはできる。開口孔3hは隣接するナノファイバー6の隙間によって構成されており、比較的大きい。図7は、ナノファイバー層11の表面30のSEM画像を模式的に示す図である。開口孔3hの平均孔径は例えば、2nm以上200nm以下である。開口孔3hの平均孔径は5nm以上100nm以下でも良い。開口孔3hの平均短径は例えば1nm以上100nm以下である。開口孔3hの平均短径は2nm以上50nm以下でも良い。開口孔3hの平均孔径と平均短径は、第一面21の平均孔径と平均短径と同様に、画像解析によって求められる。具体的には、表面30のSEM画像を取得し、二値化処理によって開口孔3hを特定する。開口孔3hの平均円相当径が、開口孔3hの平均孔径である。開口孔3hに外接する最小の長方形の平均短径が、開口孔3hの平均短径である。
【0072】
粒子層9、混合層10およびナノファイバー層11のそれぞれの厚さは、特に制限されないが、例えば、被覆層12全体の厚さが10nm以上10000nm以下となるように調整されることができる。中でも、ナノファイバー層11の平均厚さは10nm以上1000nm以下でもよい。ナノファイバー層11の平均厚さが10nm以上であれば、ナノファイバー層11によって効率的に不純物を分離できる。ナノファイバー層11の平均厚さが1000nm以下であれば、ナノファイバー層11の可とう性が確保され易い。また、複合多孔質体1によるろ過時間が長くなり過ぎない。ナノファイバー層11の平均厚さの下限は15nm以上でもよく、50nm以上でもよく、100nm以上でもよく、または200nm以上でもよい。ナノファイバー層11の平均厚さの上限は900nm以下でもよく、800nm以下でもよく、または500nm以下でもよい。ナノファイバー層11の平均厚さの範囲は、15nm以上900nm以下でもよく、200nm以上500nm以下でもよい。
【0073】
≪複合多孔質体の製造方法≫
実施形態1の複合多孔質体1は、例えば、以下の工程A~工程Hを備える製造方法によって得られる。工程A~工程Hは、この順序で行うことができる。
【0074】
〔工程A〕
工程Aでは、ポリテトラフルオロエチレンによって構成された多孔質体からなる基材2を用意する。基材2は、上述した複合多孔質体1に備わる基材2と同じである。
【0075】
基材2の作製方法は特に限定されない。例えば、特開2010-94579号公報に開示される製造方法によって作製されても良い。具体的には、PTFEからなる薄膜が延伸されることで、薄膜が多孔質化する。その結果、PTFEの多孔質体からなる基材2が得られる。基材2の平均孔径は、延伸の条件によって変化する。
【0076】
〔工程B〕
工程Bでは、ポリテトラフルオロエチレンによって構成された複数の粒子4を含む第一液を用意する。第一液では、分散媒中に複数の粒子4が分散されている。分散媒は、主に水またはイソプロピルアルコール(IPA)である。分散媒は、水とIPAとの混合溶液であってもよい。IPAは、基材2の表面に対する分散媒の濡れ性を向上させる。分散媒は、さらに界面活性剤を含んでいてもよい。
【0077】
第一液における複数の粒子4の濃度は、0.1質量%以上40質量%以下でもよい。濃度は、第一液の質量を100%としたときの質量割合である。複数の粒子4の濃度が0.1質量%以上であると、第一液における複数の粒子4の濃度が十分であるため、第一面21に複数の粒子4が堆積され易い。複数の粒子4の濃度が40質量%以下であると、第一液における複数の粒子4の濃度が高くなり過ぎない。複数の粒子4の濃度が高過ぎる第一液は、第一面21上に薄く均一に塗布し難い。
【0078】
複数の粒子4の平均粒径は、例えば、10nm以上1000nm以下である。上述した複合多孔質体1に備わる被覆層12を構成する複数の粒子4の平均粒径は、製造過程における複数の粒子4の平均粒径を実質的に維持する。
【0079】
〔工程C〕
工程Cでは、工程Aで用意した基材2の第一面21に、工程Bで用意した第一液を塗布する。第一液は、任意の方法で第一面21上に塗布することができる。塗布する方法は、例えば、スピンコート、バーコート、ディップコート、またはダイコートである。チューブ状やシート状の基材2を回転軸に固定し、基材2を回転させながら第一液をスプレーで塗布してもよい。薄い被覆層12を成膜するためには、スピンコートが好ましい。基材2を回転させながら、基材2上に第一液を滴下するスピンコートは、第一液を薄く、かつ均一に塗布できる。スピンコートの周速は、例えば5000mm/分以上20000mm/分以下、または7000mm/分以上15000mm/分以下である。
【0080】
〔工程D〕
工程Dでは第一液が塗布された基材2を、80℃以上400℃以下の熱雰囲気下で熱処理する。この熱処理によって、分散媒が蒸発し、第一面21上に複数の粒子4が堆積された粒子層9が構成される。隣り合う粒子4間には隙間が構成される。熱処理温度を80℃以上とすることで、隣り合う粒子4同士が結合し、かつ複数の粒子4で構成される粒子層9と基材2とを密着することができる。熱処理温度を80℃以上とすることで、粒子4間の隙間を小さくでき、複数の粒子4で構成される粒子層9の平均孔径を小さくすることができる。熱処理温度が高いほど、隣り合う粒子4同士が結合し易く、粒子4が脱落し難い。熱処理温度が高いほど、粒子4間の隙間が小さくなり易い。熱処理温度を400℃以下とすることで、各粒子4が溶融し難く、粒子4間の隙間を確保し易い。熱処理温度は、100℃以上380℃以下、150℃以上360℃以下、または200 ℃以上340℃以下であってもよい。加熱雰囲気は、例えば、大気雰囲気、不活性ガス雰囲気、水蒸気雰囲気、または減圧雰囲気である。
【0081】
工程Cと工程Dとからなる成膜サイクルを複数回繰り返してもよい。成膜サイクルのリピート数は、例えば2以上5以下である。
【0082】
〔工程E〕
工程Eでは、工程Dで形成された粒子層9の表面を親水化処理する。具体的には、粒子層9の表面に親水性ポリマーを複合化させる。親水性ポリマーは、アルミナに備わる水酸基と脱水縮合するもの、あるいは水素結合するものが好ましい。親水性ポリマーは例えば、多くの水酸基を有するポリビニルアルコール(PVA)、エチレンビニルアルコール共重合体である。親水性ポリマーは、アミド基を含むポリビニルピロリドン、イミノ基を含むポリエチレンイミン、カルボキシル基を含むポリアクリル酸等でも良い。特に、PVAは疎水基を有し、その疎水基がPTFEの表面に付着し易い。そのため、PVAは、粒子層9の表面に複合化し易い。
【0083】
粒子層9の表面の親水化は例えば次の手順で行うことができる。まず、基材2と粒子層9とからなる複合体をIPAに浸漬した後、適切な濃度に調整されたPVA水溶液に浸漬する。次いで、化学架橋または電子線架橋によってPVAをゲル化させる。化学架橋では、PVA水溶液に架橋剤が添加される。必要に応じてPVA水溶液に酸触媒が添加されても良い。PVAの架橋後、複合体を純水で洗浄し、乾燥させる。PVA水溶液におけるPVA濃度は0.8質量%以上10質量%以下でもよい。PVA水溶液への多孔質体の浸漬時間は2分以上24時間以下でもよい。架橋剤は例えば、アセタール結合を生成するグルタルアルデヒドあるいはテレフタルアルデヒドなどである。電子線の線量は例えば、6メガrad程度である。
【0084】
〔工程F〕
工程Fでは、複数のナノファイバー6を含む第二液を用意する。第二液では、分散媒中に複数のナノファイバー6が分散されている。分散媒は主に水である。分散媒は、水の他にイソプロピルアルコール(isopropyl alcohol:IPA)を含んでいても良いし、更に界面活性剤を含んでいても良い。IPAは、粒子層9の表面に対する分散媒の濡れ性を向上させる。IPAの濃度は、第二液の質量を100としたとき、5質量%以下であることが好ましい。
【0085】
第二液におけるナノファイバー6の濃度は、0.1質量%以上5質量%以下であってもよい。ナノファイバー6の濃度が0.1質量%以上であれば、第二液におけるナノファイバー6の濃度が十分であるため、工程Gにおいて粒子層の表面にナノファイバー6が積層され易い。ナノファイバー6の濃度が5質量%以下であれば、第二液の濃度が高くなり過ぎない。濃度が高過ぎる第二液は、粒子層9の表面に薄く均一に塗布することが難しい。
【0086】
分散媒に分散させるナノファイバー6の平均長さは、例えば、100nm以上10000nm以下でもよい。平均長さの下限は500nm以上でもよく、1000nm以上でも良い。平均長さの上限は7000nm以下でもよく、5000nm以下でも良い。平均長さの範囲は、500nm以上7000nm以下でもよく、1000nm以上5000nm以下でもよい。ナノファイバー6の平均幅は、例えば、1nm以上10nm以下でもよい。ナノファイバー6の幅と長さは互いに直交する。平均幅の下限は2nm以上でもよく、3nm以上でもよい。平均幅の上限は7nm以下でもよく、5nm以下でもよい。平均幅の範囲は、例えば、2nm以上7nm以下でもよい。平均長さを平均幅で割った平均アスペクト比は例えば、30以上5000以下でもよい。平均アスペクト比は例えば、100以上500以下でもよく、100以上300以下でもよい。ナノファイバー6のサイズは、複合多孔質体1の被覆層においても変化しないと推察される。
【0087】
〔工程G〕
工程Gでは、粒子層9の表面に第二液を塗布する。粒子層9の表面に第二液を塗布する方法は特に限定されない。塗布方法は、例えばスピンコート、バーコート、ディップコート、またはダイコートである。また、チューブ状やシート状の基材2を回転軸に固定し、基材2を回転させながら第二液をスプレー等で塗布してもよい。実施形態1に係る複合多孔質体1のナノファイバー層11は非常に薄い。薄いナノファイバー層11を成膜するためには、スピンコートが好ましい。基材2を回転させながら、基材2上に分散液を滴下するスピンコートは、第二液の厚みを薄く、均一にできる。スピンコートの周速は、例えば10000mm/分以上である。
【0088】
工程Gにおいて、第二液に含まれるナノファイバー6の一部は、粒子層の空孔に侵入する。ナノファイバー6が粒子層の空孔に配置された領域が混合層10に相当する。粒子層の空孔に侵入せず、混合層10の表面に堆積した複数のナノファイバー6は、ナノファイバー層11を構成する。
【0089】
〔工程H〕
工程Hでは、第二液が塗布された複合体を80℃以上200℃以下の雰囲気下で熱処理する。加熱雰囲気は特に限定されず、例えば大気雰囲気、不活性ガス雰囲気、水蒸気雰囲気、または減圧雰囲気である。加熱雰囲気によって分散媒が蒸発し、混合層10およびナノファイバー層11が形成され、実施形態1の複合多孔質体1が得られる。加熱雰囲気の温度が高くなるほど、分散媒の蒸発時間が速くなり、複合多孔質体1の生産性が向上する。また、加熱雰囲気の温度が高くなるほど、ナノファイバー6同士が結合し易く、複合多孔質体1からナノファイバー6が脱落し難くなる。しかし、加熱雰囲気の温度が高すぎると、ナノファイバー6に含まれるベーマイトがアルミナに変化し易い。ナノファイバー層11におけるアルミナの割合が多くなると、ナノファイバー層11がもろくなる恐れがある。例えば、加熱雰囲気の温度が130℃未満であれば、アルミナの割合が多くなり過ぎない。
【0090】
工程Gと工程Hとからなる成膜サイクルを複数回繰り返してもよい。成膜サイクルのリピート数は、例えば2以上5以下である。
【0091】
[実施形態2]
本開示の一実施形態(以下「実施形態2」とも記す。)に係る複合多孔質体について、図3を用いて説明する。図3に示されるように、実施形態2に係る複合多孔質体1は、第一面を有する基材2と、第一面の少なくとも一部を覆う被覆層12と、を備え、基材2は、ポリテトラフルオロエチレンによって構成された多孔質体であり、被覆層12は、複数の粒子4と、複数のナノファイバー6とを含み、複数の粒子4のそれぞれは、ポリテトラフルオロエチレンからなり、粒子4の平均粒径が10nm以上1000nm以下である、複合多孔質体1である。実施形態2において、被覆層12は、第一面上に設けられた混合層10と、混合層10の基材2に対向する面と反対側の第四面10A上に設けられたナノファイバー層11と、を備え、混合層10は、複数の粒子4と、複数のナノファイバー6の一部である第1ナノファイバー群との混合物を含み、ナノファイバー層11は、第1ナノファイバー群とは異なる複数のナノファイバー6の一部である第2ナノファイバー群を含み、かつ、複数の粒子4を含まない。
【0092】
実施形態2の複合多孔質体1は、実施形態1の複合多孔質体1と、被覆層12の構成以外は同一の構成とすることができる。以下では、実施形態1と異なる構成について説明する。
【0093】
図3に示されるように、被覆層12は、基材2の第一面の直上に設けられた混合層10と、混合層10の基材2と反対側の第四面10A上に設けられたナノファイバー層11と、からなる。実施形態2の複合多孔質体1も、実施形態1と同一の理由により、ろ過対象の流体から除去できる物質の大きさをさらに小さくすることが可能である。
【0094】
実施形態2の複合多孔質体1は、以下の工程A1~工程F1を備える製造方法によって得られる。工程A1~工程F1は、この順序で行うことができる。
【0095】
〔工程A1〕
工程A1は、ポリテトラフルオロエチレンによって構成された多孔質体からなる基材2を用意する。工程A1は、実施形態1と同一の工程である。
【0096】
〔工程B1〕
工程B1では、基材の表面を親水化処理する。具体的な方法は、実施形態1の工程E1と同様とすることができる。
【0097】
〔工程C1〕
工程C1では、ポリテトラフルオロエチレンによって構成された複数の粒子4および複数のナノファイバー6を含む第三液を用意する。第三液では、分散媒中に複数の粒子4および複数のナノファイバー6が分散されている。分散媒は、主に水またはイソプロピルアルコール(IPA)である。分散媒は、水とIPAとの混合溶液であってもよい。第三液中の粒子4の濃度は、実施形態1の工程Bに記載の第一液中の粒子4の濃度と同一とすることができる。第三液中のナノファイバー6の濃度は、実施形態1の工程Fに記載の第二液空のナノファイバー6の濃度と同一とすることができる。
【0098】
〔工程D1〕
工程D1では、第三液が塗布された複合体を80℃以上200℃以下の雰囲気下で熱処理する。加熱雰囲気は特に限定されず、例えば大気雰囲気、不活性ガス雰囲気、水蒸気雰囲気、または減圧雰囲気である。加熱雰囲気によって分散媒が蒸発し、混合層10が形成され、実施形態4の複合多孔質体1が得られる。
【0099】
工程C1と工程D1とからなる成膜サイクルを複数回繰り返してもよい。成膜サイクルのリピート数は、例えば2以上5以下である。
【0100】
〔工程E1〕
工程E1では、混合層10の表面に、実施形態1の製造方法に記載された第二液と同様の構成の第二液を塗布する。混合層10の表面に第二液を塗布する方法は特に限定されない。塗布方法は、例えばスピンコート、バーコート、ディップコート、またはダイコートである。また、チューブ状やシート状の基材2を回転軸に固定し、基材2を回転させながら第二液をスプレー等で塗布してもよい。実施形態2に係る複合多孔質体1のナノファイバー層11は非常に薄い。薄いナノファイバー層11を成膜するためには、スピンコートが好ましい。基材2を回転させながら、基材2上に分散液を滴下するスピンコートは、第二液の厚みを薄く、均一にできる。スピンコートの周速は、例えば10000mm/分以上である。
【0101】
〔工程F1〕
工程F1では、第二液が塗布された複合体を80℃以上200℃以下の雰囲気下で熱処理する。加熱雰囲気は特に限定されず、例えば大気雰囲気、不活性ガス雰囲気、水蒸気雰囲気、または減圧雰囲気である。加熱雰囲気によって分散媒が蒸発し、ナノファイバー層11が形成され、実施形態2の複合多孔質体1が得られる。加熱雰囲気の温度が高くなるほど、分散媒の蒸発時間が速くなり、複合多孔質体1の生産性が向上する。また、加熱雰囲気の温度が高くなるほど、ナノファイバー6同士が結合し易く、複合多孔質体1からナノファイバー6が脱落し難くなる。しかし、加熱雰囲気の温度が高すぎると、ナノファイバー6に含まれるベーマイトがアルミナに変化し易い。ナノファイバー層11におけるアルミナの割合が多くなると、ナノファイバー層11がもろくなる恐れがある。例えば、加熱雰囲気の温度が130℃未満であれば、アルミナの割合が多くなり過ぎない。
【0102】
工程E1と工程F1とからなる成膜サイクルを複数回繰り返してもよい。成膜サイクルのリピート数は、例えば2以上5以下である。
【0103】
[実施形態3]
本開示の一実施形態(以下「実施形態3」とも記す。)に係る複合多孔質体について、図4を用いて説明する。図4に示されるように、実施形態3に係る複合多孔質体1は、第一面を有する基材2と、第一面の少なくとも一部を覆う被覆層12と、を備え、基材2は、ポリテトラフルオロエチレンによって構成された多孔質体であり、被覆層12は、複数の粒子4と、複数のナノファイバー6とを含み、複数の粒子4のそれぞれは、ポリテトラフルオロエチレンからなり、粒子4の平均粒径が10nm以上1000nm以下である、複合多孔質体1である。実施形態3において、被覆層12は、第一面上に設けられた粒子層9と、粒子層9の基材2に対向する面と反対側の第三面9A上に設けられた混合層10と、を備え、粒子層9は、複数の粒子4の一部である第1粒子群を含み、かつ、複数のナノファイバー6を含まず、混合層10は、前記第1粒子群とは異なる複数の粒子4の一部である第2粒子群と、複数のナノファイバー6との混合物を含む。
【0104】
図4に示されるように、被覆層12は、基材2の第一面の直上に設けられた粒子層9と、粒子層9の基材2と反対側の第三面9A上に設けられた混合層10と、からなる。実施形態3の複合多孔質体1も、実施形態1と同一の理由により、ろ過対象の流体から除去できる物質の大きさをさらに小さくすることが可能である。
【0105】
実施形態3の複合多孔質体1は、基本的には、実施形態1の複合多孔質体の製造方法と同様の方法で作製することができる。実施形態3では、工程Gにおいて、粒子層9の表面にナノファイバー6が積層しないように、粒子層9の表面に分散液を塗布することにより、混合層10を被覆層12の表面として形成することができる。
【0106】
[実施形態4]
本開示の一実施形態(以下「実施形態4」とも記す。)に係る複合多孔質体1について、図5を用いて説明する。図5に示されるように、実施形態4に係る複合多孔質体1は、第一面を有する基材2と、第一面の少なくとも一部を覆う被覆層12と、を備え、基材2は、ポリテトラフルオロエチレンによって構成された多孔質体であり、被覆層12は、複数の粒子4と、複数のナノファイバー6とを含み、複数の粒子4のそれぞれは、ポリテトラフルオロエチレンからなり、粒子4の平均粒径が10nm以上1000nm以下である、複合多孔質体1である。実施形態4において、被覆層12は、第一面に設けられた混合層10を備え、混合層10は、複数の粒子4と、複数のナノファイバー6との混合物を含む。
【0107】
図5に示されるように、被覆層12は、基材2の第一面の直上に設けられた混合層10からなる。実施形態4の複合多孔質体1も、実施形態1と同一の理由により、ろ過対象の流体から除去できる物質の大きさをさらに小さくすることが可能である。
【0108】
実施形態4の複合多孔質体1は、実施形態2の複合多孔質体の製造方法の工程A1~工程D1を備える製造方法によって得られる。
【0109】
[実施形態5]
本開示の一実施形態(以下「実施形態5」とも記す。)に係る複合多孔質体について、図6を用いて説明する。図6に示されるように、実施形態5に係る複合多孔質体1は、第一面を有する基材と、第一面の少なくとも一部を覆う被覆層12と、を備え、基材は、ポリテトラフルオロエチレンによって構成された多孔質体であり、被覆層12は、複数の粒子4と、複数のナノファイバー6とを含み、複数の粒子4のそれぞれは、ポリテトラフルオロエチレンからなり、粒子4の平均粒径が10nm以上1000nm以下である、複合多孔質体1である。実施形態5において、被覆層12は、第一面上に設けられた粒子層9と、粒子層9の基材に対向する面と反対側の第三面9A上に設けられたナノファイバー層11と、を備え、粒子層9は、複数の粒子4を含み、かつ、複数のナノファイバー6を含まず、ナノファイバー層11は、複数のナノファイバー6を含み、かつ、複数の粒子4を含まない。
【0110】
実施形態5の複合多孔質体1は、実施形態1の複合多孔質体1と、被覆層12の構成以外は同一の構成とすることができる。以下では、実施形態1と異なる構成について説明する。
【0111】
図6に示されるように、被覆層12は、基材の第一面の直上に設けられた粒子層9と、粒子層9の基材と反対側の第三面9A上に設けられたナノファイバー層11と、からなる。実施形態5の複合多孔質体1の被覆層12では、粒子4間の隙間およびナノファイバー6間が、流体が通過する空孔となる。これらの隙間は非常に小さいため、被覆層12によってナノオーダーの非常に小さい物質が流体から除去される。よって、実施形態5の複合多孔質体1は、ろ過対象の流体から除去できる物質の大きさをさらに小さくすることが可能である。
【0112】
[実施形態6]
実施形態6では、チューブ形状の複合多孔質体1を図9に基づいて説明する。この複合多孔質体1の基材2の形状はチューブである。チューブ形状の基材2の第一面21は基材2の外周面を構成する。第一面21上に形成される被覆層12は、チューブ形状の複合多孔質体1の外周面を構成する。
【0113】
チューブ形状の複合多孔質体1は、例えば浄化装置のモジュールにおいて曲げられた状態で配置される場合がある。従って、チューブ形状の複合多孔質体1においても曲げに対する耐性が求められる場合がある。チューブ形状の複合多孔質体1の曲げ耐性は例えば、所定の半径を有する円柱の外周面に複合多孔質体1を巻き付けることによって評価できる。
【0114】
チューブ形状の基材2の平均厚さは、50μm以上1000μm以下であってもよい。チューブ状の基材2の平均厚さが50μm以上であれば、基材2を含む複合多孔質体1の強度が確保される。基材2の平均厚さが1000μm以下であれば、基材2を含む複合多孔質体1の可とう性が確保される共に、複合多孔質体1によるろ過時間が長くなり過ぎない。チューブ形状の基材2の平均厚さは、100μm以上500μm以下であってもよい。
【0115】
実施形態6の複合多孔質体1は、基本的には、実施形態1の複合多孔質体1の製造方法と同様の方法で作製することができる。実施形態2では、複数の粒子4の粒径、および、複数のナノファイバー6の大きさを適宜調整することにより、粒子層9の直上にナノファイバー6層を形成することができる。
【0116】
[付記1]
本開示の一実施形態の複合多孔質体において、
被覆層は、複数の粒子の少なくとも一部からなる第1粒子群と、複数のナノファイバーの少なくとも一部からなる第1ナノファイバー群とが混合された混合層を含んでもよい。
【0117】
[付記2]
上記付記1において、
混合層は、前記基材と対向する面と反対側の第三面を有し、
前記複数のナノファイバーは、前記第1ナノファイバー群とは異なる複数のナノファイバーからなる第2ナノファイバー群を含み、
前記被覆層は、前記第三面の少なくとも一部を覆うナノファイバー層を含み、
前記ナノファイバー層は、前記第2ナノファイバー群を含み、かつ、前記複数の粒子を含まなくてもよい。
【0118】
[付記3]
上記付記1において、前記複数のナノファイバーは、前記第1ナノファイバー群からなってもよい。
【0119】
[付記4]
本開示の一実施形態の複合多孔質体において、
被覆層は、第一面に接して設けられる粒子層と、粒子層の第一面と接する面と反対側の第四面の少なくとも一部を覆うナノファイバー層と、を含み、
粒子層は、ナノファイバーを含まず、
ナノファイバー層は、粒子を含まなくてもよい。
【実施例0120】
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0121】
[複合多孔質体の作製]
<試料1~試料9>
以下の工程A~工程Hの手順で、試料1~試料9の複合多孔質体を作製した。
【0122】
〔工程A〕
工程Aでは、ポリテトラフルオロエチレンによって構成された多孔質体からなる基材を用意した。基材2の平均厚さは30μmであった。各試料の基材の平均孔径および形状は、表3に記載の通りである。
【0123】
〔工程B〕
工程Bでは、ポリテトラフルオロエチレン粒子を含む第一液を用意した。第一液の分散媒は、イソプロピルアルコール(IPA)であった。試料2の第一液のポリテトラフルオロエチレン粒子の質量基準の濃度X1に対する、各試料の第一液のポリテトラフルオロエチレン粒子の質量基準の濃度X2の比X2/X1を表1の「第一液の相対濃度(X2/X1)」欄に示す。
【0124】
〔工程C〕
工程Cでは、工程Aで用意した基材の一方の主面に、工程Bで用意した第一液を塗布した。塗布する方法は、スピンコートとした。スピンコートの周速は、10000mm/分とした。
【0125】
〔工程D〕
工程Dでは第一液が塗布された基材を、100℃の熱雰囲気下で熱処理して基材上に粒子層を形成した。工程Cと工程Dとからなる成膜サイクルを1回行った。
【0126】
〔工程E〕
工程Eでは、工程Dで得られた基材と粒子層とからなる複合体をIPAに浸漬した後、適切な濃度に調整されたPVA水溶液に浸漬した。次いで、電子線架橋によってPVAをゲル化させた。PVAの架橋後、複合体を純水で洗浄し、乾燥させた。PVA水溶液におけるPVA濃度は0.8質量%とした。PVA水溶液への多孔質体の浸漬時間は1時間とした。電子線の線量は例えば、6メガrad程度とした。
【0127】
〔工程F〕
工程Fでは、複数のナノファイバーを含む第二液を用意した。複数のナノファイバーを含む第二液の調整には、川研ファインケミカル製のアルミゾルF-1000またはアルミゾルF-3000を用いた。ナノファイバーの組成は、Al・nHOであった。分散媒は水であった。試料2の第二液のナノファイバーの質量基準の濃度Y1に対する、各試料の第二液のナノファイバーの質量基準の濃度Y2の比Y2/Y1を表1の「第二液の相対濃度(Y2/Y1)」欄に示す。分散媒に分散させるナノファイバーの平均長さは、表1の「工程F」の「ナノファイバー平均長さ」欄に記載の通りである。
【0128】
〔工程G〕
工程Gでは、粒子層の表面に第二液を塗布した。塗布方法は、スピンコートとした。スピンコートの周速は、10000mm/分とした。
【0129】
〔工程H〕
工程Hでは、第二液が塗布された複合体を100℃の雰囲気下で熱処理した。工程Gと工程Hとからなる成膜サイクルを、表1の「工程G、H」の「サイクル数」に記載の回数繰り返した。以上の工程により、各試料の複合多孔質体を得た。
【0130】
<試料10~試料13>
以下の工程A1~工程F1の手順で、試料10~試料13の複合多孔質体を作製した。
【0131】
〔工程A1〕
工程A1は、ポリテトラフルオロエチレンによって構成された多孔質体からなる基材を用意した。基材2の平均厚さは30μmであった。各試料の基材の平均孔径および形状は、表3に記載の通りである。
【0132】
〔工程B1〕
工程B1では、基材をIPAに浸漬した後、適切な濃度に調整されたPVA水溶液に浸漬した。次いで、電子線架橋によってPVAをゲル化させた。PVAの架橋後、基材を純水で洗浄し、乾燥させた。PVA水溶液におけるPVA濃度は0.8質量%とした。PVA水溶液への多孔質体の浸漬時間は1時間とした。電子線の線量は例えば、6メガrad程度とした。
【0133】
〔工程C1〕
工程C1では、ポリテトラフルオロエチレン粒子および複数のナノファイバーを含む第三液を用意した。ナノファイバーの原料としては、川研ファインケミカル製のアルミゾルF-1000またはアルミゾルF-3000を用いた。ナノファイバーの組成は、Al・nHOであった。第三液の分散媒は、イソプロピルアルコール(IPA)であった。試料11の第三液のポリテトラフルオロエチレン粒子およびナノファイバーの質量基準の合計濃度Z1に対する、各試料の第三液のポリテトラフルオロエチレン粒子およびナノファイバーの質量基準の合計濃度Z2の比Z2/Z1を表2の「第三液の相対濃度(Z2/Z1)」欄に示す。第三液のおけるポリテトラフルオロエチレン粒子の平均粒径は、表2の「工程C1」の「粒子の平均粒径」欄に記載の通りである。分散媒に分散させるナノファイバーの平均長さは、表2の「工程C1」の「ナノファイバー平均長さ」欄に記載の通りである。
【0134】
〔工程D1〕
工程D1では、第三液が塗布された複合体を100℃以下の雰囲気下で熱処理して、基材上に混合層を形成した。これにより、試料12および試料13の複合多孔質体を得た。試料10および試料11では、更に以下の工程E1および工程F1を行った。
【0135】
〔工程E1〕
工程E1では、混合層の表面に、試料1~試料9の製造方法の工程F1に記載された第二液と同様の構成の第二液を塗布した。塗布方法は、スピンコートとした。スピンコートの周速は、10000mm/分とした。
【0136】
〔工程F1〕
工程F1では、第二液が塗布された複合体を100℃の雰囲気下で熱処理した。工程E1と工程F1とからなる成膜サイクルを1回行った。以上の工程により、試料10および試料11の複合多孔質体を得た。
【0137】
<試料1-1~試料1-2>
試料1-1~試料1-2では、試料1~試料9の製造方法に記載の工程A~工程Dを行い、複合多孔質体を得た。
【0138】
【表1】
【0139】
【表2】
【0140】
[複合多孔質体の測定]
各試料の複合多孔質体の断面をSEMで観察し、被覆層の形態が、図2図6のいずれの形態に該当するか確認した。結果を表3の「被覆層」の「形態」欄に示す。
【0141】
各試料の複合多孔質体の被覆層において、粒子の組成は、ポリテトラフルオロエチレンであり、ナノファイバーの組成は、Al・nHOであることが確認された。
【0142】
各試料の複合多孔質体の被覆層において、粒子の平均粒径、被覆層の平均孔径、および、被覆層の厚さを測定した。具体的な測定方法は、実施形態1に記載の通りである。結果を表3の「被覆層」の「粒子の平均粒径」、「平均孔径」、「平均厚さ」欄に示す。
【0143】
【表3】
【0144】
試料1~試料13の複合多孔質体は実施例に該当する。これらの試料の複合多孔質体は、被覆層の平均孔径が50nm以下であり、ろ過対象の流体から除去できる物質の大きさをさらに小さくすることが可能であることが確認された。
【0145】
試料1-1および試料1-2の複合多孔質体は比較例に該当し、多孔質基材と粒子層とを備える従来例に該当する。これらの複合多孔質体は、被覆層の平均孔径が100nmであった。
【0146】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0147】
1 複合多孔質体
2 基材
2h 空孔
2A 第一層
2B 第二層
4 粒子
6 ナノファイバー
7 試験装置
9 粒子層
9A 第三面
10 混合層
10A 第四面
11 ナノファイバー層
12 被覆層
21 第一面
22 第二面
3h 開口孔
30 表面
70 フラスコ
70U 上端開口部
71 チャンバー
71D 下端開口部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9