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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017104
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】抽気装置、及び、分離膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/22 20060101AFI20240201BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20240201BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20240201BHJP
   F25B 43/04 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
B01D53/22
B01D71/02 500
B01D69/00
F25B43/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119524
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 嘉晃
(72)【発明者】
【氏名】上戸 龍
(72)【発明者】
【氏名】吉井 大智
(72)【発明者】
【氏名】洞口 典久
(72)【発明者】
【氏名】石黒 達男
(72)【発明者】
【氏名】栂野 良枝
(72)【発明者】
【氏名】三吉 直也
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006HA02
4D006HA18
4D006HA19
4D006MA01
4D006MA03
4D006MA22
4D006MB04
4D006MB11
4D006MC05X
4D006MC46X
4D006NA01
4D006NA05
4D006NA10
4D006NA17
4D006NA39
4D006PA01
4D006PB20
4D006PB62
4D006PB63
4D006PC80
(57)【要約】
【課題】分離膜に液状の冷媒が接触しても不凝縮ガスの分離性能の低下を抑制することが可能な抽気装置を提供する。
【解決手段】抽気装置は、凝縮器に接続され、凝縮器から冷媒ガスと不凝縮ガスとを含む混合ガスを抽気する抽気配管と、抽気配管に設けられ、圧力差によって抽気配管で抽気された混合ガスから不凝縮ガスを分離する分離膜と、分離膜で分離された不凝縮ガスを含む気体を外部に導く排気配管と、を備え、分離膜は炭素膜である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝縮器に接続され、前記凝縮器から冷媒ガスと不凝縮ガスとを含む混合ガスを抽気する抽気配管と、
該抽気配管に設けられ、圧力差によって前記抽気配管で抽気された混合ガスから不凝縮ガスを分離する分離膜と、
前記分離膜で分離された不凝縮ガスを含む気体を外部に導く排気配管と、
を備え、
前記分離膜は炭素膜である抽気装置。
【請求項2】
前記分離膜における孔径が、0.3nm以上0.5nm以下である請求項1に記載の抽気装置。
【請求項3】
前記分離膜における孔径が0.35nm以上0.45nm以下である請求項1に記載の抽気装置。
【請求項4】
前記不凝縮ガスが、少なくとも窒素ガス又は酸素ガスを含み、
前記冷媒ガスの分子径が、0.4nm以上である請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の抽気装置。
【請求項5】
冷媒ガスと不凝縮ガスとを含む混合ガスから不凝縮ガスを分離する分離膜を製造する分離膜の製造方法であって、
高分子材料を含む製膜原液を製膜することで製膜体を得るステップと、
前記製膜体を乾燥することで前駆体高分子膜を得るステップと、
前記前駆体高分子膜を450℃~850℃で炭化処理することで、孔径が0.3nm以上0.5nm以下である炭素膜としての前記分離膜を得るステップと、
を有する分離膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抽気装置、及び、分離膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
運転中の作動圧力が機内の一部で負圧となる冷媒(いわゆる低圧冷媒)を用いる冷凍機においては、負圧部から空気等の不凝縮ガスが機内に侵入し、圧縮機等を通った後の凝縮器に滞留する。凝縮器に不凝縮ガスが滞留すると、凝縮器における冷媒の凝縮性能が阻害され、冷凍機としての性能が低下する。このため、抽気装置を用いて、冷凍機から不凝縮ガスを含む冷媒を抽気して、不凝縮ガスを機外へ排出することにより、一定の性能を確保するようにしている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の抽気装置は、抽気タンク内部の上部に分離膜(ガス分離膜)を取り付けて、分離膜を境に抽気タンクを冷凍機と外気側とに分離して、真空ポンプより外気側を低圧にして、不凝縮ガスを大気に排出するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-96027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
分離膜を備える抽気装置において、分離膜に高分子膜(例えばポリイミド膜)を採用した場合、液状の冷媒と接触することにより、高分子膜の膜構造が物理的に変質する可塑化という現象が発生する。分離膜に可塑化が発生すると、分離膜における冷媒の透過速度が大きくなって、不凝縮ガスの分離が不十分となってしまう。すなわち、分離膜における不凝縮ガスの分離性能が低下する、という問題がある。
【0006】
なお、不凝縮ガスと共に凝縮器から抽気装置に抽気されるガス状の冷媒は飽和状態であるため、当該冷媒は少しの冷却によって容易に凝縮して液状になりやすい。抽気装置の運転時には、抽気された冷媒をヒータで加熱することで冷媒の液化を抑制することもできるが、運転停止時にはヒータによって加熱されないため、分離膜の近傍においてガス状態で存在する冷媒が液化してしまい、液状の冷媒が分離膜に接触する事象が発生する。このため、分離膜として高分子膜を使用した場合は、ヒータの設置だけでは、分離膜の可塑化を回避することが困難である。
【0007】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、分離膜に液状の冷媒が接触しても不凝縮ガスの分離性能の低下を抑制することが可能な抽気装置、及び、分離膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示に係る抽気装置は、凝縮器に接続され、前記凝縮器から冷媒ガスと不凝縮ガスとを含む混合ガスを抽気する抽気配管と、該抽気配管に設けられ、圧力差によって前記抽気配管で抽気された混合ガスから不凝縮ガスを分離する分離膜と、前記分離膜で分離された不凝縮ガスを含む気体を外部に導く排気配管と、を備え、前記分離膜は炭素膜である。
【0009】
本開示に係る分離膜の製造方法は、冷媒ガスと不凝縮ガスとを含む混合ガスから不凝縮ガスを分離する分離膜を製造する分離膜の製造方法であって、高分子材料を含む製膜原液を製膜することで製膜体を得るステップと、前記製膜体を乾燥することで前駆体高分子膜を得るステップと、前記前駆体高分子膜を450℃~850℃で炭化処理することで、孔径が0.3nm以上0.5nm以下である炭素膜としての前記分離膜を得るステップと、を有する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、分離膜に液状の冷媒が接触しても不凝縮ガスの分離性能の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の一実施形態に係る抽気装置の構成図である。
図2図1の抽気装置における分離モジュールの構成図である。
図3図1の抽気装置における分離膜の構成図であり、空気が筒状の分離膜の内側から外側に透過する場合を示す図である。
図4図1の抽気装置における分離膜の構成図であり、空気が筒状の分離膜の外側から内側に透過する場合を示す図である。
図5】本開示の一実施形態に係る分離膜の製造方法を示すフローチャートである。
図6】分離膜における冷媒の透過速度について炭素膜と高分子膜とを比較したグラフである。
図7】液状の冷媒に浸漬した後の分離膜における分離性能について炭素膜と高分子膜とを比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施形態>
本開示の第1実施形態に係る抽気装置について、図面を参照して説明する。
【0013】
[冷凍機の構成]
はじめに、冷凍機10の構成について説明する。図1に示すように、冷凍機10は、圧縮機11、凝縮器12、膨張弁13、蒸発器14、及びそれらの機器を接続する冷媒配管91,92,93,94を有している。
【0014】
圧縮機11は、冷媒を圧縮する機器である。圧縮機11は、モータ(不図示)によって駆動される。圧縮機11は、例えば、遠心式の圧縮機であってよい。
【0015】
凝縮器12は、圧縮機11で圧縮された高温高圧のガス冷媒を凝縮する機器である。凝縮器12は、例えば、シェルアンドチューブ型の熱交換器であってよい。
凝縮器12には、多数の冷却媒体用伝熱管(不図示)が挿入されている。冷却媒体用伝熱管の内部には、冷媒を冷却するための冷却媒体(例えば冷却水)が流通している。冷却媒体用伝熱管には、冷却媒体用伝熱管に冷却水を供給する冷却水往き配管16と、熱交換後の冷却水を冷却媒体用伝熱管から排出する冷却水戻り配管17とが接続されている。
【0016】
膨張弁13は、凝縮器12から排出された液冷媒を膨張させる機器である。膨張弁13は、その開度を調節できるように構成されている。膨張弁13の開度は、仕様に応じて適宜設定される。
【0017】
凝縮器12と膨張弁13との間には、例えばサブクーラ(不図示)が設けられてもよい。サブクーラは、凝縮器12で凝縮された冷媒を過冷却する機器である。
【0018】
蒸発器14は、膨張弁13によって膨張させられた液冷媒を蒸発させる機器である。蒸発器14は、例えば、シェルアンドチューブ型の熱交換器であってよい。
【0019】
冷媒配管91は、圧縮機11の冷媒出口と凝縮器12の冷媒入口とを接続する配管である。冷媒配管92は、凝縮器12の冷媒出口と膨張弁13とを接続する配管である。冷媒配管93は、膨張弁13と蒸発器14の冷媒入口とを接続する配管である。冷媒配管94は、蒸発器14の冷媒出口と圧縮機11の冷媒入口とを接続する配管である。
【0020】
[抽気装置の構成]
次に、抽気装置20の構成について説明する。抽気装置20は、冷凍機10の冷媒系統内に侵入して凝縮器12に滞留した不凝縮ガスを外部へ放出する装置である。不凝縮ガスは、例えば、主に窒素ガス及び酸素ガスを含む空気である。本実施形態では、空気を例に説明する。
冷媒には、低圧冷媒(例えばR1233zd(E))が用いられている。このため、冷凍機10の運転中は、蒸発器14等の低圧部が大気圧以下となる。
【0021】
抽気装置20は、凝縮器12と圧縮機11との間に設けられている。抽気装置20は、抽気配管71,72、分離装置21、排気配管81,82及び真空ポンプ27を有している。
【0022】
抽気配管71は、一端が凝縮器12に接続され、他端が分離装置21に接続されている。また、抽気配管72は、一端が分離装置21に接続され、他端が冷媒配管91又は圧縮機11に接続されている。これによって、抽気系統が構成される。
抽気系統は、凝縮器12から抽気された気体(冷媒ガスと空気とを含む混合ガス。以下、単に「混合ガス」と呼ぶ。)を、抽気配管71を介して分離装置21に導き、分離装置21において後述する処理を行った後に、抽気配管72を介して凝縮器12の上流側にある冷媒配管91又は圧縮機11に戻すように構成されている。
【0023】
冷凍機10の運転中においては、一般的に、凝縮器12の内部よりも冷媒配管91側又は圧縮機11側の方が高圧であるため、凝縮器12から冷媒配管91側又は圧縮機11側に向かって抽気した混合ガスが流れないようにも思える。
しかしながら、本実施形態においては、抽気配管72を冷媒配管91又は圧縮機11の所定箇所に接続することで、凝縮器12から冷媒配管91側又は圧縮機11側に向かって混合ガスが流れるように構成している。
これによって、分離装置21において空気が分離された混合ガス(主として冷媒ガス)を凝縮器12の上流側に戻すことができる。
【0024】
排気配管81は、一端が分離装置21に接続され、他端が真空ポンプ27に接続されている。また、排気配管82は、一端が真空ポンプ27に接続され、他端が大気圧解放とされている。これによって、排気系統が構成される。
排気系統は、分離装置21において混合ガスから分離された気体(空気を主とする気体)を、排気配管81,82を介して抽気装置20の外部に放出するように構成されている。
【0025】
排気配管81には、第1バルブ24が設けられている。第1バルブ24は、排気配管81を流れる気体の流通を遮断することができる。
排気配管82には、第2バルブ26が設けられている。第2バルブ26は、排気配管82を流れる気体の流通を遮断することができる。
【0026】
分離装置21は、凝縮器12から抽気配管71を介して導かれた混合ガスから空気を分離する装置である。分離装置21は、容器22及び分離モジュール23を有している。
容器22は箱状とされ、内部に空間が形成されている。当該容器22の内部の空間には、分離モジュール23が収容される。
【0027】
図2に示すように、分離モジュール23は、筒状の筐体23aと、多数の分離膜23bとを有している。
筐体23aは、抽気入口23c、抽気出口23d及び空気出口23eを有している。抽気入口23cは、抽気配管71と連通している。抽気出口23dは、抽気配管72と連通している。空気出口23eは、容器22の内部に形成されて空間と連通している。
【0028】
図3,4に示すように、1つの分離膜23bは、筒状に構成されている。分離膜23bは、図2に示すように、多数束ねられた状態で筐体23aに収容されている。
抽気配管71を介して分離モジュール23に導かれた混合ガスは、例えば図3に示すように、筒状とされた分離膜23bの内側に導かれてよい。この場合、分離膜23bの内側よりも外側の圧力を低くすることで、内側を流れる混合ガスのうち主に空気が分離膜23bの外側に透過する。
また、抽気配管71を介して分離モジュール23に導かれた混合ガスは、例えば図4に示すように、筒状とされた分離膜23bの外側において流れてもよい。この場合、分離膜23bの外側よりも内側の圧力を低くすることで、外側を流れる混合ガスのうち主に空気が分離膜23bの内側に透過する。
すなわち、分離膜23bは、上流側と下流側との間に発生した圧力差によって、混合ガスから空気を分離する。
【0029】
分離膜23bは、炭素膜である。炭素膜は、空気の分離を行う層を炭素あるいは炭化物により形成した無機膜である。本実施形態における筒状の分離膜23bは、中空糸炭素膜である。
分離膜23bは、全く冷媒ガスを透過しないものではなく、空気とともにわずかに冷媒ガスを透過するという特徴を持つ。ただし、冷媒ガスの透過速度は、空気の透過速度に比べてかなり遅い。
【0030】
具体的に、炭素膜である分離膜23bは、主に空気(酸素ガス、窒素ガスなど)を通すための多数の孔(不図示)が形成されている。分離膜23bの孔径は、0.3nm以上0.5nm以下であり、より好ましくは、0.35nm以上0.45nm以下である。
【0031】
ここで、冷媒の一種であるR1233zdの分子径は約0.5nmである。また、冷媒の別の一種であるR123、R133の分子径は0.452nm以上である。また、冷媒の別の一種であるR11の分子径は0.419nm以上である。
一方、空気を主に構成する窒素ガスの分子径は、平均で0.368nmである。また、空気を主に構成する酸素ガスの分子径は、平均で0.343nmである。
このため、空気を主に構成する窒素ガス及び酸素ガスの分子径は、R1233zd、R123、R133、R11などの冷媒の分子径と比較して小さい。そして、これら窒素ガス及び酸素ガスは、R1233zd、R123、R133、R11などの冷媒よりも、分離膜23bの孔を通過しやすい。
【0032】
以上のように構成された分離装置21において、気体は次のように流れる。
抽気配管71を介して分離装置21に導かれた混合ガスは、抽気入口23cから筐体23aの内部に導かれる。筐体23aに導かれた混合ガスは、分離膜23bの上流側を流れる。このとき、分離膜23bの下流側の圧力が、分離膜23bの上流側の圧力よりも低い状態であれば、分離膜23bの上流側を流れる混合ガスに含まれている空気が分離膜23bの下流側に透過する。混合ガスから分離された空気は、空気出口23eから容器22の内部に形成された空間に排出されて排気配管81に導かれる。一方、分離膜23bの上流側を流れつつ空気が分離された混合ガス(すなわち、冷媒リッチガス)は、抽気出口23dから抽気配管72を介して冷媒配管91又は圧縮機11に戻される。
上記の説明において、分離膜23bの「上流側」は、図3における筒状の分離膜23bの内側に対応し、図4における筒状の分離膜23bの外側に対応する。また、分離膜23bの「下流側」は、図3における筒状の分離膜23bの外側に対応し、図4における筒状の分離膜23bの内側に対応する。
【0033】
〔抽気装置の動作〕
次に、本実施形態の抽気装置20の動作の一例について説明する。
抽気装置20においては、真空ポンプ27を運転し、第1バルブ24及び第2バルブ26をあけておく。このとき、分離膜23bの上流側と下流側との間には圧力差が発生する。当該圧力差に伴い、主に混合ガスに含まれる空気が分離膜23bの下流側に透過する。混合ガスに含まれる冷媒も分離膜23bの下流側に透過するが、分離膜23bの特性(特に孔径)により、分離膜23bを透過する冷媒ガスの透過速度は、空気の透過速度に比べてかなり遅い。このため、分離膜23bを透過するガスの大半は空気である。
分離膜23bを透過した空気は排気配管81、真空ポンプ27、排気配管82を介して外部に放出される。一方、大半の空気が分離された冷媒リッチガスは、分離膜23bの上流側から筐体23aの抽気出口23d及び抽気配管72を介して冷媒配管91又は圧縮機11に戻される。
【0034】
〔分離膜の製造方法〕
次に、主に図5を参照して、本実施形態の分離膜23bの製造方法について説明する。以下では、中空糸炭素膜の製造方法の一例について説明するが、下記製造方法は、任意の形状の炭素膜の製造方法にも適用可能である。
【0035】
中空糸炭素膜の製造方法では、高分子材料として、実質的に下記の式(a)及び式(b)で表される繰り返し単位からなり、その繰り返し単位(b)の(a)+(b)に対する割合A(%)が15%<A<60%であるポリフェニレンオキシド誘導体を用意する。
【化1】
【化2】
【0036】
式(b)におけるR11~R12は各々独立して、水素原子、-SOH、又は-SONH基を示す。ただし、R11~R12が共に水素原子であることはない。
【0037】
次いで、上記ポリフェニレンオキシド誘導体ポリマーを任意の溶媒に溶かして製膜原液(前駆体高分子溶液)を調製するという。この際、溶液の安定性を保持させる物質などを、初期の目的の範囲内の量だけ添加しておいてもよい。ここで使用される溶媒としては、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどがあり、又これらの混合物として使用することができる。
【0038】
その後、図5に示すように、製膜原液を製膜することで製膜体を得る(製膜ステップS1)。製膜ステップS1では、製膜原液を、二重管環状構造の中空糸紡糸ノズルの外管から凝固浴中に押し出し、紡糸ノズルの内管からは、製膜原液の溶媒と混合するがポリフェニレンオキシド誘導体ポリマーに対しては非溶解性の芯液を同時に押し出すことにより、製膜体としての中空糸状物を成形する。
【0039】
製膜ステップS1において用いられる芯液及び凝固浴は、製膜原液の溶媒と混合するが、上記ポリフェニレンオキシド誘導体に対しては非溶解性の溶媒であって、そのような溶媒としては、水又はアンモニウム塩水溶液が好ましく用いられ、アンモニウム塩としては、硝酸アンモニウム、塩酸アンモニウム、硫酸アンモニウムが挙げられる。芯液及び凝固浴の温度は、-20℃~60℃であり、より好ましくは0℃~30℃である。
【0040】
その後、製膜ステップS1において得られた中空糸状物(製膜体)を乾燥することで、各種形状を有する前駆体高分子膜を得る(乾燥ステップS2)。
乾燥ステップS2において得られた前駆体高分子膜を、そのまま後述する炭化処理ステップS3において炭化させてもよいが、例えば150℃~300℃程度で30分~4時間と、炭化する温度よりも低い温度で加熱処理を施して、前駆体高分子膜を不融化処理した前駆体不融化処理膜を得てもよい。前駆体高分子膜に不融化処理を施すことにより、中空糸炭素膜としての性能がとくに改善される。
【0041】
さらに、上記のステップを経て得られた前駆体高分子膜あるいは前駆体不融化処理膜を450℃~850℃で炭化処理する(炭化処理ステップS3)。炭化処理ステップS3において、上記前駆体を450℃~850℃で炭化処理することで、孔径が0.3nm以上0.5nm以下である中空糸炭素膜を得る。
【0042】
炭化処理ステップS3では、例えば、該前駆体を容器内に収容し、10-4気圧以下の減圧下若しくはヘリウム、アルゴンガス、窒素ガスなどで置換した不活性ガス性雰囲気下、減圧処理することなく加熱処理し、中空糸炭素膜を製造する。
加熱条件は前駆体を構成する材料の種類、その量などにより変動するのであるが、1 0-4気圧以下の減圧下若しくは不活性ガス雰囲気中では、450℃~850℃で30分から4時間である。
上記した炭化処理ステップS3が終了することで、中空糸炭素膜の製造が完了する。
【0043】
本実施形態の抽気装置20では、分離膜23bが炭素膜である。このため、液状の冷媒が分離膜に接触しても分離膜には可塑化が発生しない。これにより、分離膜における冷媒の透過速度が上昇することを抑制できる。したがって、分離膜に液状の冷媒が接触しても空気(不凝縮ガス)の分離性能が低下することを抑制できる。
【0044】
また、本実施形態の抽気装置20では、分離膜23bにおける孔径が、0.3nm以上0.5nm以下であり、より好ましくは0.35nm以上0.45nm以下である。このため、前述したように、空気に含まれる窒素ガス及び酸素ガスは、R1233zd、R123、R133、R11などの冷媒よりも、分離膜23bの孔を通過しやすい。したがって、分離膜23bは優れた分離性能を発揮することができる。
【0045】
また、本実施形態の分離膜23bの製造方法では、前駆体高分子膜を450℃以上850℃以下で炭化処理することにより、孔径が0.3nm以上0.5nm以下である炭素膜としての分離膜を得ることができる。
【0046】
本実施形態に係る分離膜23bの効果について、図6及び図7を参照してさらに説明する。
図6は、分離膜における冷媒の透過速度について炭素膜と高分子膜とを比較したグラフである。図6のグラフでは、炭素膜及び高分子膜を液状の冷媒に浸漬する前(浸漬前)と浸漬した後(浸漬後)とのそれぞれにおいて透過速度を測定した結果を示している。分離膜の浸漬に用いた液状の冷媒、及び、透過速度の測定に用いた冷媒ガスは、いずれもR1233zdである。また、高分子膜はポリイミド膜である。図6のグラフでは、分離膜の液状の冷媒への浸漬前後に関わらず、分離膜における冷媒ガスの透過速度は高分子膜よりも炭素膜の方が低いことが示されている。すなわち、炭素膜は高分子膜よりも冷媒ガスを透過しにくいことが分かる。
【0047】
また、図6のグラフによれば、高分子膜では、当該高分子膜を液状の冷媒に浸漬すると、高分子膜における冷媒ガスの透過速度が上昇する。すなわち、高分子膜が液状の冷媒に接触すると、高分子膜に可塑化が発生して、冷媒ガスの透過を抑制する機能が劣化していることを確認できた。
一方、炭素膜では、当該炭素膜を液状の冷媒に浸漬しても、冷媒ガスの透過速度が上昇していないことが分かる。すなわち、炭素膜が液状の冷媒に接触しても、炭素膜に可塑化が発生しておらず、冷媒ガスの透過を抑制する機能が維持されていることを確認できた。
【0048】
図7は、液状の冷媒に浸漬した後の分離膜における空気の分離性能について炭素膜と高分子膜とを比較したグラフである。図7のグラフにおいては、空気の分離性能を「分離係数」で示している。分離係数は、空気の透過速度を冷媒ガスの透過速度で除した値である。分離係数の数値が高い程、空気の分離性能が高いことを示す。図7において、分離膜の浸漬に用いた冷媒、及び、透過速度の測定に用いた冷媒は、いずれもR1233zdである。また、高分子膜はポリイミド膜である。
【0049】
図7のグラフによれば、液状の冷媒への浸漬後における高分子膜の分離係数は、1.2である。すなわち、高分子膜では、空気の透過速度と冷媒ガスの透過速度とがほぼ等しい。このことから、高分子膜が液状の冷媒に接触すると、高分子膜に可塑化が発生して、空気の分離性能が非常に低くなっていることを確認できた。
一方、液状の冷媒への浸漬後における炭素膜の分離係数は、100以上である。すなわち、炭素膜では、空気の透過速度が冷媒ガスの透過速度と比較して非常に大きい。このことから、炭素膜が液状の冷媒に接触しても、炭素膜に可塑化が発生せず、空気の分離性能が非常に高い状態を維持していることを確認できた。
【0050】
以上、本開示の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこれらの実施形態によって限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0051】
本開示において、炭素膜としての筒状の分離膜は、例えば複数の中空糸炭素膜を環状に配列した管状膜であってもよい。また、炭素膜としての分離膜は、例えば平膜であってもよい。
【0052】
<付記>
上述の実施形態に記載の抽気装置20、分離膜23bの製造方法は、例えば以下のように把握される。
【0053】
(1)第1の態様に係る抽気装置20は、凝縮器12に接続され、前記凝縮器12から冷媒ガスと不凝縮ガスとを含む混合ガスを抽気する抽気配管71,72と、該抽気配管71,72に設けられ、圧力差によって前記抽気配管71,72で抽気された混合ガスから不凝縮ガスを分離する分離膜23bと、前記分離膜23bで分離された不凝縮ガスを含む気体を外部に導く排気配管81,82と、を備え、前記分離膜23bは炭素膜である抽気装置20である。
【0054】
上記の構成では、分離膜23bが炭素膜であることで、液状の冷媒が分離膜23bに接触しても分離膜23bには可塑化が発生しない。このため、分離膜23bにおける冷媒の透過速度が上昇することを抑制できる。したがって、分離膜23bに液状の冷媒が接触しても不凝縮ガスの分離性能が低下することを抑制できる。
【0055】
(2)第2の態様に係る抽気装置20は、前記分離膜23bにおける孔径が、0.3nm以上0.5nm以下である(1)に記載の抽気装置20である。
【0056】
(3)第3の態様に係る抽気装置20は、前記分離膜23bにおける孔径が0.35nm以上0.45nm以下である(1)に記載の抽気装置20である。
【0057】
これらの構成では、不凝縮ガスが主に窒素ガス及び酸素ガスを含む空気である場合に、分離膜23bが優れた分離性能を発揮することができる。
【0058】
(4)第4の態様に係る抽気装置20は、前記不凝縮ガスが、少なくとも窒素ガス又は酸素ガスを含み、前記冷媒ガスの分子径が、0.4nm以上である(1)から(3)のいずれか一項に記載の抽気装置20である。
【0059】
窒素ガスの分子径は平均で0.368nmであり、酸素ガスの分子径は平均で0.343nmである。このため、窒素ガス及び酸素ガスの分子径は、R1233zd、R123、R133、R11などの冷媒ガスの分子径(0.4nm以上)と比較して小さい。これにより、窒素ガス及び酸素ガスは冷媒ガスよりも分離膜23bの孔を通過しやすい。したがって、分離膜23bにおいて混合ガスから窒素ガス及び酸素ガスを効率よく分離することができる。
【0060】
(5)第5の態様に係る分離膜23bの製造方法は、冷媒ガスと不凝縮ガスとを含む混合ガスから不凝縮ガスを分離する分離膜23bを製造する分離膜23bの製造方法であって、高分子材料を含む製膜原液を製膜することで製膜体を得るステップと、前記製膜体を乾燥することで前駆体高分子膜を得るステップと、前記前駆体高分子膜を450℃~850℃で炭化処理することで、孔径が0.3nm以上0.5nm以下である炭素膜としての前記分離膜23bを得るステップと、を有する分離膜23bの製造方法である。
【0061】
上記の製造方法では、前駆体高分子膜を450℃以上850℃以下で炭化処理することにより、孔径が0.3nm以上0.5nm以下である炭素膜としての分離膜23bを得ることができる。
【符号の説明】
【0062】
10 冷凍機
11 圧縮機
12 凝縮器
13 膨張弁
14 蒸発器
20 抽気装置
21 分離装置
22 容器
23 分離モジュール
23a 筐体
23b 分離膜
27 真空ポンプ
81,82 排気配管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7