(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171045
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】紫外線照射装置
(51)【国際特許分類】
B01J 19/12 20060101AFI20241204BHJP
C23C 14/04 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
B01J19/12 C
C23C14/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087904
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 真一
(72)【発明者】
【氏名】羽生 智行
(72)【発明者】
【氏名】川口 真孝
(72)【発明者】
【氏名】中島 明信
【テーマコード(参考)】
4G075
4K029
【Fターム(参考)】
4G075AA30
4G075BA04
4G075CA03
4G075CA33
4G075DA02
4G075EA06
4G075EB32
4G075FB02
4G075FB06
4G075FC11
4K029BA62
4K029CA01
4K029HA01
4K029HA02
(57)【要約】
【課題】紫外線照射によって生じる熱による照射対象物の変形を抑制し、照射対象物の精度を維持することが可能な紫外線照射装置を提供すること。
【解決手段】
本発明の一形態に係る紫外線照射装置は、照射対象物に紫外線を照射する紫外線照射装置であって、紫外線光源と、ステージと、吸熱体とを具備する。上記紫外線光源は、紫外線を出射する。上記ステージは、前記照射対象物を支持する。前記吸熱体は、前記照射対象物と前記ステージの間に配置され、前記紫外線光源から出射された紫外線により生じた熱を吸収する。
【選択図】
図7A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射対象物に紫外線を照射する紫外線照射装置であって、
紫外線を出射する紫外線光源と、
前記照射対象物を支持するステージと、
前記照射対象物と前記ステージの間に配置され、前記紫外線光源から出射された紫外線により生じる熱を吸収する吸熱体と
を具備する紫外線照射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の紫外線照射装置であって、
前記照射対象物は開口部を有し、
前記吸熱体は、前記紫外線光源から出射され、前記開口部を通過した紫外線により生じる熱を吸収する
紫外線照射装置。
【請求項3】
請求項1に記載の紫外線照射装置であって、
前記ステージに対する前記吸熱体の位置を保持し、前記ステージと前記吸熱体の熱膨張差を吸収する熱膨張差吸収機構
をさらに具備する紫外線照射装置。
【請求項4】
請求項3に記載の紫外線照射装置であって、
前記熱膨張差吸収機構は、前記吸熱体に設けられた穴と、前記ステージに固定され、前記穴に挿通されたピンから構成され、前記穴と前記ピンの間には間隙が設けられている
紫外線照射装置。
【請求項5】
請求項1に記載の紫外線照射装置であって、
前記吸熱体は、熱伝導材料からなる吸熱部材と、前記吸熱部材を冷却する冷却機構を備える
紫外線照射装置。
【請求項6】
請求項5に記載の紫外線照射装置であって、
前記冷却機構は、前記吸熱部材に接触し、冷媒が流れる導管を備える
紫外線照射装置。
【請求項7】
請求項6に記載の紫外線照射装置であって、
前記吸熱部材は、前記照射対象物が載置される載置面を有する板状部材である
紫外線照射装置。
【請求項8】
請求項2に記載の紫外線照射装置であって、
前記照射対象物と前記吸熱体の間に配置され、前記開口部を通過した紫外線を拡散させる拡散部材
をさらに具備する紫外線照射装置。
【請求項9】
請求項8に記載の紫外線照射装置であって、
前記拡散部材は、前記照射対象物が載置される載置面を有する板状部材である
紫外線照射装置。
【請求項10】
請求項9に記載の紫外線照射装置であって、
前記吸熱体は、熱伝導材料からなる吸熱部材と、前記吸熱部材を冷却する冷却機構を備え、前記吸熱部材は、前記拡散部材が載置される載置面を有する板状部材である
紫外線照射装置。
【請求項11】
請求項8に記載の紫外線照射装置であって、
前記拡散部材は、すりガラスである
紫外線照射装置。
【請求項12】
請求項11に記載の紫外線照射装置であって、
前記拡散部材は、合成石英ガラスからなる
紫外線照射装置。
【請求項13】
請求項2に記載の紫外線照射装置であって、
前記照射対象物は蒸着用マスクである
紫外線照射装置。
【請求項14】
請求項13に記載の紫外線照射装置であって、
前記照射対象物は複数の第1貫通孔が設けられた金属層と、前記金属層に積層され、それぞれが前記複数の第1貫通孔に連通する複数の第2貫通孔が設けられた樹脂層とを備え、
前記複数の第2貫通孔が前記開口部を形成する
紫外線照射装置。
【請求項15】
請求項1に記載の紫外線照射装置であって、
前記紫外線光源はエキシマランプである
紫外線照射装置。
【請求項16】
請求項1に記載の紫外線照射装置であって、
前記紫外線光源は低圧水銀ランプである
紫外線照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照射対象物に紫外線を照射する紫外線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(electro-luminescence)素子は、被蒸着基板のうち画素となる領域に有機発光材料を蒸着することにより作製される。被蒸着基板の画素となる領域のみに有機発光材料を蒸着させるために蒸着用マスクが用いられる。
【0003】
従来の蒸着用マスクは、金属をエッチングして多数の微小な開口部を設けたメタルマスクであった。このようなメタルマスクはファインメタルマスク(FMM)又は高精細メタルマスクと呼ばれている。有機ELパネルの大型化に伴い、蒸着用マスクも大型化し、重くなって精度が悪化すると共に取扱いに支障があった。また、このような蒸着マスクは、予めエッチングにより作製した部材を組み合わせて1枚の蒸着用マスクとするため、この点でも精度が悪化するという問題があった。
【0004】
より高精細の有機EL素子を作製するためには、蒸着用マスクの厚さをより薄くする必要があり、そのために金属に替えて、ポリイミド等の樹脂薄膜を使用することが提案されている。樹脂薄膜を使用する蒸着用マスクは、金属枠が格子状に並んだ金属層に貫通孔を設けた樹脂薄膜が積層された構造を有する。(例えば特許文献1、2、3参照)。
【0005】
このような蒸着用マスクは金属枠付き薄膜マスク(又はファインハイブリッドマスク(FHM)、高精細ハイブリッドマスク)と呼ばれる。金属枠付き薄膜マスクは、樹脂薄膜と金属枠とを積層した後に樹脂薄膜にレーザー光を照射して貫通孔を形成する。この貫通孔が蒸着マスクの開口部となるため高精度であり、強度を維持しながら薄型・軽量とすることができる。そのため有機ELパネルの大型化に適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-7623号公報
【特許文献2】特開2013-83704号公報
【特許文献3】特開2017-179591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、金属枠付き薄膜マスクは製造時において、レーザー光照射により樹脂薄膜に貫通孔を形成する際に多量のデブリ(樹脂残渣)が発生する。このデブリの除去には薬液洗浄が用いられるが、蒸着用マスクのダメージを防止するため、長時間の薬液洗浄が必要となる。薬液洗浄時のダメージで蒸着用マスクが破損するおそれもある。
【0008】
一方、紫外線照射によりデブリを除去する方法も検討されている。しかながらこの場合、デブリ除去に要する紫外線照射量が膨大であるため、紫外線照射中に蒸着用マスクや蒸着用マスクを載置するステージの温度が上昇して蒸着用マスクが変形し、精度が低下するという問題がある。
【0009】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、紫外線照射によって生じる熱による照射対象物の変形を抑制し、照射対象物の精度を維持することが可能な紫外線照射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る紫外線照射装置は、照射対象物に紫外線を照射する紫外線照射装置であって、紫外線光源と、ステージと、吸熱体とを具備する。
上記紫外線光源は、紫外線を出射する。
上記ステージは、前記照射対象物を支持する。
前記吸熱体は、前記照射対象物と前記ステージの間に配置され、前記紫外線光源から出射された紫外線により生じる熱を吸収する。
【0011】
この構成によれば、紫外線光源から出射された紫外線により生じた熱は吸熱体によって吸収される。これにより、照射対象物、吸熱体及びステージの温度上昇が抑制されると共に熱膨張による変形も抑制される。したがって、照射対象物の精度を維持することが可能となる。
【0012】
前記照射対象物は開口部を有し、
前記吸熱体は、前記紫外線光源から出射され、前記開口部を通過した紫外線により生じる熱を吸収してもよい。
【0013】
前記紫外線照射装置は、前記ステージに対する前記吸熱体の位置を保持し、前記ステージと前記吸熱体の熱膨張差を吸収する熱膨張差吸収機構をさらに具備してもよい。
【0014】
前記熱膨張差吸収機構は、前記吸熱体に設けられた穴と、前記ステージに固定され、前記穴に挿通されたピンから構成され、前記穴と前記ピンの間には間隙が設けられていてもよい。
【0015】
前記吸熱体は、熱伝導材料からなる吸熱部材と、前記吸熱部材を冷却する冷却機構を備えていてもよい。
【0016】
前記冷却機構は、前記吸熱部材に接触し、冷媒が流れる導管を備えていてもよい。
【0017】
前記吸熱部材は、前記照射対象物が載置される載置面を有する板状部材であってもよい。
【0018】
前記紫外線照射装置は、前記照射対象物と前記吸熱体の間に配置され、前記開口部を通過した紫外線を拡散させる拡散部材をさらに具備してもよい。
【0019】
前記拡散部材は、前記照射対象物が載置される載置面を有する板状部材であってもよい。
【0020】
前記吸熱体は、熱伝導材料からなる吸熱部材と、前記吸熱部材を冷却する冷却機構を備え、前記吸熱部材は、前記拡散部材が載置される載置面を有する板状部材であってもよい。
【0021】
前記拡散部材は、すりガラスであってもよい。
【0022】
前記拡散部材は、合成石英ガラスからなるものであってもよい。
【0023】
前記照射対象物は蒸着用マスクであってもよい。
【0024】
前記照射対象物は複数の第1貫通孔が設けられた金属層と、前記金属層に積層され、それぞれが前記複数の第1貫通孔に連通する複数の第2貫通孔が設けられた樹脂層とを備え、
前記複数の第2貫通孔が前記開口部を形成してもよい。
【0025】
前記紫外線光源はエキシマランプであってもよい。
【0026】
前記紫外線光源は低圧水銀ランプであってもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、紫外線照射によって生じる熱による照射対象物の変形を抑制し、照射対象物の精度を維持することが可能な紫外線照射装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の実施形態に係る紫外線照射装置の照射対象物である金属枠付き薄膜マスクの平面図である。
【
図2A】上記金属枠付き薄膜マスクを拡大した断面図である。
【
図2B】上記金属枠付き薄膜マスクを拡大した平面図である。
【
図3】上記金属枠付き薄膜マスクを用いた蒸着方法の模式図である。
【
図4A】上記金属枠付き薄膜マスクの製造方法の模式図である。
【
図4B】上記金属枠付き薄膜マスクの製造方法の模式図である。
【
図4C】上記金属枠付き薄膜マスクの製造方法の模式図である。
【
図4D】上記金属枠付き薄膜マスクの製造方法の模式図である。
【
図4E】上記金属枠付き薄膜マスクの製造方法の模式図である。
【
図4F】上記金属枠付き薄膜マスクの製造方法の模式図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る紫外線照射装置の模式図である。
【
図7A】上記紫外線照射装置の一部構成の断面図である。
【
図7B】上記紫外線照射装置の一部構成の平面図である。
【
図8A】上記紫外線照射装置が備える放熱体の斜視図である。
【
図8B】上記紫外線照射装置が備える放熱体の斜視図である。
【
図9A】本発明の実施形態に係る、拡散部材を備える紫外線照射装置の断面図である。
【
図9B】本発明の実施形態に係る、拡散部材を備える紫外線照射装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。本実施形態に係る紫外線照射装置は、照射対象物に対して紫外線を照射する装置である。照射対象物として「金属枠付き薄膜マスク」が挙げられる。金属枠付き薄膜マスクは有機EL(electro-luminescence)パネル等の製造に用いられる蒸着マスクであり、「ファインハイブリッドマスク(FHM;Fine Hybrid Mask)」又は「高精細ハイブリッドマスク」とも呼ばれる。
【0030】
(金属枠付き薄膜マスクの構成)
金属枠付き薄膜マスクの構成について説明する。
図1は金属枠付き薄膜マスク100の平面図である。
図2は金属枠付き薄膜マスク100の拡大図であり、
図2Aは断面図、
図2Bは平面図である。
図2Aに示すように金属枠付き薄膜マスク100は、金属層101、樹脂層102及び外枠103を備える。
【0031】
金属層101及び樹脂層102は
図1に示す複数のマスク領域104を形成する。マスク領域104は蒸着マスクとして機能する領域であり、例えば1つのマスク領域104が、1つのディスプレイの形成に用いられる領域である。マスク領域104の形状及び大きさは特に限定されない。
【0032】
外枠103は
図1に示すように格子状形状を有し、各マスク領域104の周囲に設けられている。外枠103は金属枠付き薄膜マスク100の強度を維持する部材であり、例えばインバー等の金属からなる。外枠103の厚さ(Z方向)は例えば20mmである。金属枠付き薄膜マスク100の大きさは被蒸着基板と同等である。
【0033】
図2Bに示すように金属層101は、複数の第1貫通孔101aが設けられた格子状の形状を有し、金属枠を構成する。金属層101は金属からなり、例えばニッケル(Ni)からなる。金属層101は溶接により外枠103に固定されている。金属層101の厚さ(Z方向)は例えば30μmである。
【0034】
図2Aに示すように樹脂層102は金属層101に積層され、複数の第2貫通孔102aが設けられた格子状の形状を有する。樹脂層102は樹脂からなり、例えばポリイミド(PI;polyimide)又はポリエチレンテレフタレート(PET;polyethylene terephthalate)からなる。樹脂層102の厚さ(Z方向)は例えば10μmである。
【0035】
各第1貫通孔101aと各第2貫通孔102aが連通し、それぞれ1つの貫通孔104aを形成する。第2貫通孔102aは第1貫通孔101aに対して小さく、第1貫通孔101aより内側に位置する。第2貫通孔102aの直径は例えば20μmである。なお、
図2A及び
図2Bでは数個の貫通孔104aを示すが、実際には1つのマスク領域104における貫通孔104aの数は1つのディスプレイの画素数であり、例えば数百万個である。
【0036】
(金属枠付き薄膜マスクを用いた蒸着方法)
金属枠付き薄膜マスク100を用いる蒸着方法について説明する。
図3は、金属枠付き薄膜マスク100を用いる蒸着装置200の模式図である。同図に示すように蒸着装置200は、ステージ201、蒸着源202及び熱源203を備える。
【0037】
ステージ201は鉛直下方側に被蒸着基板T及び金属枠付き薄膜マスク100を支持する。被蒸着基板Tは例えばガラス基板である。被蒸着基板Tは金属枠付き薄膜マスク100とステージ201に挟まれている。ステージ201は磁気チャック等の支持機構を有し、金属枠付き薄膜マスク100を磁力により吸引することで金属枠付き薄膜マスク100及び被蒸着基板Tを支持する。
【0038】
金属枠付き薄膜マスク100は樹脂層102が被蒸着基板T側となる向きで支持されている。なお、図示は省略するが、被蒸着基板Tと金属枠付き薄膜マスク100の間には微小なスペーサが設けられており、両者の密着が回避されている。蒸着源202は蒸着材料Mを収容し、熱源203によって加熱されることで蒸着材料Mを蒸発させる。蒸着源202は例えば坩堝である。蒸着材料Mは例えば有機発光材料である。
【0039】
この状態で熱源203により蒸着材料Mを加熱すると、気化した蒸着材料は被蒸着基板Tに向かって上昇する(図中、矢印)。蒸着材料Mは貫通孔104aを通過して被蒸着基板Tに到達し、被蒸着基板Tの表面に蒸着される。これにより、被蒸着基板Tの表面のうち貫通孔104aに対向する領域に蒸着材料Mの層が形成される。上述のように第2貫通孔102aは第1貫通孔101aに対して小さく、第1貫通孔101aより内側に位置する。このため、第2貫通孔102aが金属枠付き薄膜マスク100の開口部を形成する。
【0040】
(金属枠付き薄膜マスクの製造方法)
金属枠付き薄膜マスク100の製造方法について説明する。
図4は金属枠付き薄膜マスク100の製造方法を示す模式図である。
【0041】
まず、ガラス等からなる支持基板Gに剥離剤Hを塗布する。その上にポリイミド等からなるワニスを塗布し、薄い樹脂膜を形成する。さらにその上にニッケル等の金属からなる金属皮膜を形成する。金属皮膜は無電解めっきにより樹脂膜上にシード層を形成し、シード層上に電解めっきにより金属層を所望の厚さまで成長させることで形成することができる。
【0042】
次に金属皮膜上にフォトレジストを塗布し、マスクパターンを使ってフォトレジストに紫外線を照射する。さらに、フォトレジストを現像してレジストパターンを形成する。現像は、フォトレジストの未反応部分をアルカリ液等の現像液で除去することによって行うことができる。
【0043】
続いて、基板をエッチング槽に浸し、金属皮膜の露出部分、即ちレジストパターンに被覆されていない部分をエッチングにより除去する。続いてレジスト剥離液によりフォトレジストを剥離する。これにより
図4Aに示すように、金属皮膜を格子状形状に成形することができる。続いて樹脂膜を支持基板から剥離する。このようにして
図4Bに示すように、格子状形状を有する金属層101を作製することができる。
【0044】
続いて、
図4Cに示すように金属層101の第1貫通孔101aを介して樹脂層112にレーザー光Lを照射する。これにより、
図4Dに示すように樹脂層112に第2貫通孔102aが形成され、樹脂層102が形成される。
【0045】
この際、
図4Dに示すように、金属層101の表面にデブリSが付着する。デブリSは、樹脂層102を構成する樹脂のうち、レーザー光Lによる第2貫通孔102aの形成時に分解蒸発に至らなかった樹脂の残渣である。このデブリSはそのままだと、飛散して樹脂層102に付着し、第2貫通孔102aの一部を塞いだり、落下して蒸着源202の蒸着材料M中に混入したりするおそれがある。このため、
図4Eに示すように金属層101に対して紫外線Uを照射し、
図4Fに示すようにデブリSを除去する。
【0046】
金属枠付き薄膜マスク100は以上のようにして製造される。ここで、上述した紫外線Uの照射工程(
図4E参照)では多量かつ強固なデブリSを除去する必要があり、紫外線照射により生じる熱が問題となる。後述するように本実施形態に係る紫外線照射装置は、この紫外線照射により生じる熱に対して対策を講じるものである。
【0047】
なお、金属枠付き薄膜マスク100の製造方法は上述のものに限られない。例えば紫外線Uを照射する工程の前又は後に超音波洗浄によるデブリSの除去工程を実施してもよい。紫外線照射と超音波洗浄を共に実行することでデブリSの除去に要する時間を短縮することができる。
【0048】
(従来の紫外線照射装置の構成)
上述した紫外線照射工程(
図4E参照)において用いられている従来の紫外線照射装置について説明する。
図5は従来の紫外線照射装置500の模式図である。同図に示すように紫外線照射装置500は、筐体501、紫外線照射器502、駆動機構503、支柱504及びステージ505を備える。ステージ505には照射対象物Wが載置されている。照射対象物Wは例えば、デブリSが付着した状態の金属枠付き薄膜マスク100(
図4E参照)であり、金属層101(
図2A参照)が上方側となるように載置されている。
【0049】
筐体501は内部に紫外線照射空間を形成する。紫外線照射空間は大気圧である。紫外線照射器502は筐体501の上部に配置され、紫外線光源510を備える。紫外線光源510はエキシマランプ(ピーク波長172nm)又は低圧水銀ランプ(ピーク波長185nm及び254nm)を用いることができる。紫外線照射器502の下部は開放されており、紫外線光源510から出射された紫外線は下方に照射される。
【0050】
駆動機構503は筐体501の下部に配置され、支柱504及びステージ505を移動させる。具体的には駆動機構503はリニアシリンダー装置であり、シリンダー部503a、駆動源503b及び台座部503cを備える。シリンダー部503aの内部のボールねじを駆動源503bが回転させることで、台座部503cを所定の速度で水平方向(図中、矢印)に移動させることができる。
【0051】
支柱504は台座部503c上に設けられ、ステージ505を支持する。ステージ505は載置面505aを有し、載置面505a上に載置された照射対象物Wを支持する。ステージ505は必要に応じてリブ構造などで補強されている。駆動機構503が駆動されると、ステージ505は図中、矢印で示すように水平方向に移動し、紫外線照射器502から出射される紫外線が照射対象物Wの一端から他端まで均一に照射されるように構成されている。
【0052】
紫外線照射装置500は以上のような構成を有する。ここで、一般的な紫外線照射による光洗浄では紫外線照射時間は数秒間であり、熱による問題は生じない。照射対象物Wの大型化に対しても、ステージ505の補強等により載置面505aの平面度が確保できる。しかしながら、金属枠付き薄膜マスク100におけるデブリSの除去工程(
図4E参照)ではデブリSが多量かつ強固となるため、数分間から数時間の紫外線照射時間が必要となる。
【0053】
そのため、この工程に紫外線照射装置500を用いると、紫外線照射によりステージ505が蓄熱して熱膨張を生じ、ステージ505が湾曲したり、変形したりする。ステージ505の湾曲は、ステージ505を構成する部材の熱分布により熱い側(紫外線照射側)へ凸になるように起こる。このようなステージ505上では、照射対象物Wがステージ505に追従して湾曲し、ストレスを受ける。このため、照射対象物Wが金属枠付き薄膜マスク100である場合には樹脂層102が伸びたり、金属層101と外枠103の溶接が破断したりする。
【0054】
ステージ505の変形の原因は複雑である。照射対象物Wが金属枠付き薄膜マスク100である場合、当初は金属枠付き薄膜マスク100にデブリSが大量に付着しているため、ステージ505は金属枠付き薄膜マスク100により紫外線から遮蔽された状態になっている。デブリSが除去されてくると、金属枠付き薄膜マスク100の貫通孔104a(
図2B参照)を紫外線が通過するようになり、ステージ505に紫外線の照射領域と非照射領域が形成される。この照射領域と非照射領域は温度上昇率、即ち膨張率に差異が生じるため、ステージ505にうねり等の変形が生じるようになる。
【0055】
(本実施形態に係る紫外線照射装置の構成)
本実施形態に係る紫外線照射装置について説明する。
図6は本実施形態に係る紫外線照射装置300の模式図である。同図に示すように紫外線照射装置300は、筐体301、紫外線照射器302、駆動機構303、支柱304、ステージ305及び吸熱体306を備える。ステージ305には照射対象物Wが載置されている。照射対象物Wは例えば、デブリSが付着した状態の金属枠付き薄膜マスク100(
図4E参照)であり、金属層101(
図2A参照)が上方側となるように載置されている。
【0056】
筐体301は内部に紫外線照射空間を形成する。紫外線照射空間は大気圧である。紫外線照射器302は筐体301の上部に配置され、紫外線光源310を備える。紫外線光源310はエキシマランプ(ピーク波長172nm)又は低圧水銀ランプ(ピーク波長185nm及び254nm)を用いることができる。紫外線照射器302の下部は開放されており、紫外線光源310から出射された紫外線は下方に照射される。
【0057】
駆動機構303は筐体301の下部に配置され、支柱304及びステージ305を移動させる。具体的には駆動機構303はリニアシリンダー装置であり、シリンダー部303a、駆動源303b及び台座部303cを備える。シリンダー部303aの内部のボールねじを駆動源303bが回転させることで、台座部303cを所定の速度で水平方向(図中、矢印)に移動させることができる。なお、駆動機構303はこの他にも、ステージ305を移動させることが可能な構成であればよい。
【0058】
支柱304は台座部303c上に設けられ、ステージ305を支持する。ステージ305は載置面305aを有し、照射対象物Wを支持する。ステージ305は必要に応じてリブ構造などで補強されている。駆動機構303が駆動されると、ステージ305は図中、矢印で示すように水平方向に移動し、紫外線照射器302から出射される紫外線が照射対象物Wの一端から他端まで均一に照射されるように構成されている。
【0059】
吸熱体306は照射対象物Wとステージ305の間に配置され、紫外線光源310から出射された紫外線により生じる熱を吸収する。
図7は紫外線照射装置300の一部構成の模式図であり、
図7Aは断面図、
図7Bは平面図である。これらの図に示すように吸熱体306は、ステージ305が有する載置面305a上に載置されているが、ステージ305に対して固定されておらず、熱膨張差吸収機構307によってその位置が保持されている。吸熱体306はステージ305とは反対側に載置面306aを有し、載置面306a上に照射対象物Wが載置されている。照射対象物Wも吸熱体306に対して固定されておらず、載置されているのみである。
【0060】
図7Bに示すように照射対象物Wは開口部Nを有する。開口部Nは例えば金属枠付き薄膜マスク100のマスク領域104(
図1参照)であり、より詳細には各貫通孔104a(
図2B参照)である。照射対象物Wに照射された紫外線は開口部Nを通過して吸熱体306に入射し、紫外線により生じた熱は吸熱体306によって吸収される。
【0061】
図8は吸熱体306の斜視図であり、
図8Aは載置面306a側から見た図、
図8Bは
図8Aとは反対型から見た図である。これらの図に示すように、吸熱体306は吸熱部材308と冷却機構309を備える。
【0062】
吸熱部材308はアルミニウム等の熱伝導材料からなる板状部材であり、
図8Aに示すように吸熱部材308のステージ305とは反対側の表面が載置面306aを構成する。吸熱部材308は
図7Bに示すように、照射対象物Wの全体が載置できる大きさを有する。
【0063】
冷却機構309は吸熱部材308を冷却する。冷却機構309は
図8Bに示すように吸熱部材308に接触する導管311を備える。導管311は図示しない冷媒供給源に接続され、冷媒が流れることにより、吸熱部材308を冷却する。導管311は、吸熱部材308の載置面306aとは反対側に設けられ、ステージ305とも接触する。導管311は例えば外径8mm内径6mm、1本が長さ4mの管を3回折り曲げた形状を有し、4系統が配置されている。
【0064】
導管311は
図8Bに示すような管状部材により構成されるもの限られず、吸熱部材308に溝を設け、平板等によってその溝に蓋をした構造であってもよい。この他にも冷却機構309は吸熱部材308を冷却できるものであればよく、ペルチェ素子やヒートシンクであってもよい。
【0065】
熱膨張差吸収機構307は、ステージ305に対する吸熱体306の位置を保持し、ステージ305と吸熱体306の熱膨張差を吸収する。具体的には熱膨張差吸収機構307は、
図7A及び
図7Bに示すように吸熱体306に設けられた穴307aと、ステージ305に固定されたピン307bから構成され、ピン307bは穴307aに挿通されている。穴307aの内径はピン307bの外径より大きく、穴307aとピン307bの間には間隙が設けられている。これにより、ステージ305と吸熱体306に熱膨張差が生じてもピン307bが穴307a内で動き、熱膨張差が吸収されるため、ステージ305と吸熱体306の変形を抑制することができる。
【0066】
このように、熱膨張差吸収機構307によってステージ305に対する吸熱体306の位置が保持され、吸熱体306のステージ305に対する位置ずれ及び吸熱体306の脱落が防止されている。熱膨張差吸収機構307は例えば、
図7Bに示すように照射対象物Wの周囲に4つが設けられるが、2つ以上が設けられればよい。熱膨張差吸収機構307の構成はここに示すものに限られず、ステージ305に対する吸熱体306の位置を保持し、ステージ305と吸熱体306の熱膨張差を吸収するものであればよい。
【0067】
紫外線照射装置300は以上のような構成を有する。なお、紫外線照射装置300の構成はここに示すものに限定されず、少なくとも紫外線光源310、ステージ305及び吸熱体306を備えるものであればよい。例えば、ステージ305に替えて紫外線光源310が移動する構成や、ステージ305及び紫外線光源310が共に移動しない構成とすることも可能である。
【0068】
(本実施形態に係る紫外線照射装置の動作及び効果)
紫外線照射装置300では上述のようにステージ305上に吸熱体306が載置され、吸熱体306上に照射対象物Wが載置される。吸熱体306は熱膨張差吸収機構307によってステージ305に対して保持されており、照射対象物Wは吸熱体306に対して固定されない。この状態で
図6に示すようにステージ305が移動し、紫外線照射器302から照射対象物Wの全体に紫外線が照射される。紫外線照射中にステージ305は複数回往復してもよい。
【0069】
ここで照射対象物Wが、デブリSが付着した状態の金属枠付き薄膜マスク100(
図4E参照)である場合、デブリSの除去のためには長時間の紫外線照射が必要となる。この紫外線は金属枠付き薄膜マスク100の開口部を通過して吸熱体306に入射し、熱を発生させるが、この熱は吸熱体306によって吸収される。これにより、照射対象物W、吸熱体306及びステージ305の温度上昇が抑制されると共に熱膨張による変形も抑制される。
【0070】
吸熱体306及びステージ305に熱膨張が生じても、熱膨張差吸収機構307によって両者の熱膨張差が吸収され、応力が生じないため、載置面306aの平面度が維持され、照射対象物Wの変形が防止される。したがって、紫外線照射装置300を用いることにより、照射対象物Wの精度が維持される。
【0071】
照射対象物Wが、デブリSが付着した状態の金属枠付き薄膜マスク100である場合には、デブリSの除去工程(
図4E参照)による金属枠付き薄膜マスク100の精度低下が生じないため、高精度の金属枠付き薄膜マスク100を作製することが可能となる。紫外線照射によるデブリ除去は薬液洗浄によるデブリ除去に比べて短時間で完了するため、高精度の金属枠付き薄膜マスク100を短時間で作製することが可能となる。
【0072】
なお、金属枠付き薄膜マスク100のダメージは、金属枠付き薄膜マスク100内のポジションマークを利用して、紫外線照射前後でのマークのずれ量で評価することができる。従来構造の紫外線照射装置500を用いた場合のマークのずれ量は5μm以上であったが、本実施形態に係る紫外線照射装置300を用いた場合のマークのずれ量は1.5μm未満となることが確認されている。
【0073】
照射対象物Wは金属枠付き薄膜マスク100には限定されず、紫外線照射による熱により変形が生じ、精度が低下するおそれのあるものが照射対象物Wとして好適である。
【0074】
(拡散板について)
本実施形態に係る紫外線照射装置300は、拡散部材を備えるものであってもよい。
図9は拡散部材312を備える紫外線照射装置300の一部構成の断面図であり、
図9Aは断面図、
図9Bは平面図である。なお、
図9Bでは照射対象物Wを透視している。
図9Aに示すように拡散部材312は、照射対象物Wと吸熱体306の間に配置されている。
【0075】
具体的には拡散部材312は板状部材であり、吸熱体306の載置面306a上に載置されている。拡散部材312は吸熱体306に対して固定されておらず、載置されているのみである。拡散部材312は吸熱体306とは反対側に載置面312aを有し、照射対象物Wはこの載置面312a上に載置されている。照射対象物Wも拡散部材312に対して固定されておらず、載置されているのみである。
【0076】
拡散部材312は入射する紫外線を拡散させて透過する。具体的には拡散部材312はすりガラスであり、少なくとも一方の面がすりガラス状となっているものである。拡散部材312の材料は紫外線照射器302が出射する波長の紫外線に対して透過率が高いものが好適であり、合成石英ガラスとすることができる。拡散部材312はこの他にも紫外線を拡散できればよい。拡散部材312は
図9Bに示すように、照射対象物Wの全体が載置できる大きさを有する。
【0077】
紫外線照射器302から紫外線が照射されると、紫外線は照射対象物Wの開口部Nを通過して拡散部材312に入射し、拡散部材312を透過する。この際、拡散部材312は紫外線を拡散させる。拡散部材312を透過した紫外線は吸熱体306に入射し、吸熱体306によって熱が吸収される。
【0078】
このように拡散部材312によって紫外線が拡散されることにより、ステージ305における温度差を緩和することができる。照射対象物Wにおいては開口部Nの形状によって紫外線が透過する部分と透過しない部分が生じる。拡散部材312によって開口部Nを通過した紫外線を拡散させることにより、両部分の紫外線強度の差を弱め、ステージ305の温度上昇を均一化し、即ち熱膨張率のムラを低減することができる。
【0079】
さらに、拡散部材312の材料を合成石英ガラスのように紫外線透過率が高いものとすることにより、開口部Nを通過した紫外線の大部分を載置面306a(
図9A参照)まで導くことができる。これにより、照射対象物Wと拡散部材312の温度上昇を抑制すると共に、照射対象物Wの変形をさらに抑制することが可能となる。
【0080】
なお、紫外線照射時間が短い場合等、吸熱体306が必要ない場合、ステージ305上に拡散部材312のみを載置し、その上に照射対象物Wを載置することも可能である。この場合、吸熱体306による吸熱はなされないものの、拡散部材312による温度上昇の均一化が可能となる。
【0081】
本開示において、「略」という文言が使用される場合、これはあくまで説明の理解を容易とするための使用であり、「略」という文言の使用/不使用に特別な意味があるわけではない。すなわち、本開示において、「中心」「中央」「均一」「等しい」「同じ」「直交」「平行」「対称」「延在」「軸方向」「円形状」「円弧形状」「矩形状」「長方形状」「多角形状」「リング形状」「立方体形状」「直方体形状」「円柱形状」「円盤形状」「コーン形状」等の、形状、サイズ、位置関係、状態等を規定する概念は、「実質的に中心」「実質的に中央」「実質的に均一」「実質的に等しい」「実質的に同じ」「実質的に直交」「実質的に平行」「実質的に対称」「実質的に延在」「実質的に軸方向」「実質的に円形状」「実質的に円弧形状」「実質的に矩形状」「実質的に長方形状」「実質的に多角形状」「実質的にリング形状」「実質的に立方体形状」「実質的に直方体形状」「実質的に円柱形状」「実質的に円盤形状」「実質的にコーン形状」等を含む概念とする。例えば「完全に中心」「完全に中央」「完全に均一」「完全に等しい」「完全に同じ」「完全に直交」「完全に平行」「完全に対称」「完全に延在」「完全に軸方向」「完全に円形状」「完全に円弧形状」「完全に矩形状」「完全に長方形状」「完全に多角形状」「完全にリング形状」「完全に立方体形状」「完全に直方体形状」「完全に円柱形状」「完全に円盤形状」「完全にコーン形状」等を基準とした所定の範囲(例えば±10%の範囲)に含まれる状態も含まれる。従って、「略」の文言が付加されていない場合でも、いわゆる「略」を付加して表現される概念が含まれ得る。反対に、「略」を付加して表現された状態について、完全な状態が排除される訳ではない。
【0082】
本開示において、「Aより大きい」「Aより小さい」といった「より」を使った表現は、Aと同等である場合を含む概念と、Aと同等である場合を含まない概念の両方を包括的に含む表現である。例えば「Aより大きい」は、Aと同等は含まない場合に限定されず、「A以上」も含む。また「Aより小さい」は、「A未満」に限定されず、「A以下」も含む。本技術を実施する際には、上記で説明した効果が発揮されるように、「Aより大きい」及び「Aより小さい」に含まれる概念から、具体的な設定等を適宜採用すればよい。
【0083】
以上説明した本技術に係る特徴部分のうち、少なくとも2つの特徴部分を組み合わせることも可能である。すなわち各実施形態で説明した種々の特徴部分は、各実施形態の区別なく、任意に組み合わされてもよい。また上記で記載した種々の効果は、あくまで例示であって限定されるものではなく、また他の効果が発揮されてもよい。
【符号の説明】
【0084】
100…金属枠付き薄膜マスク
101…金属層
102…樹脂層
103…外枠
300…紫外線照射装置
301…筐体
302…紫外線照射器
303…駆動機構
304…支柱
305…ステージ
306…吸熱体
307…熱膨張差吸収機構
310…紫外線光源
312…拡散部材