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特開2024-171050新規ニコチンアミド化合物及びその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171050
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】新規ニコチンアミド化合物及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C07D 401/12 20060101AFI20241204BHJP
   A61K 31/4545 20060101ALI20241204BHJP
   A61P 27/04 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
C07D401/12 CSP
A61K31/4545
A61P27/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087910
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金児 佳生
(72)【発明者】
【氏名】石渡 博之
【テーマコード(参考)】
4C063
4C086
【Fターム(参考)】
4C063AA01
4C063BB09
4C063CC12
4C063DD10
4C063EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BC21
4C086GA07
4C086GA08
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA16
4C086MA28
4C086MA31
4C086MA32
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA41
4C086MA43
4C086MA52
4C086MA58
4C086MA59
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA33
(57)【要約】      (修正有)
【課題】強力な涙液分泌促進作用を有する新たなドライアイ治療剤を提供する。
【解決手段】4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミド、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、及びこの化合物を含有する医薬組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミド、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【請求項2】
4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミド、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とする、涙液分泌促進剤。
【請求項3】
4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミド、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とするドライアイの予防及び/又は治療剤。
【請求項4】
4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミド、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有してなる医薬組成物。
【請求項5】
4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミド、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有してなる涙液分泌促進のための医薬組成物。
【請求項6】
4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミド、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有してなるドライアイの予防及び/又は治療のための医薬組成物。
【請求項7】
治療を必要としている患者に、4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミド、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を投与することを特徴とする涙液分泌促進方法。
【請求項8】
治療を必要としている患者に、4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミド、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を投与することを特徴とするドライアイの予防及び/又は治療方法。
【請求項9】
涙液分泌促進剤を製造するための4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミド、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の使用。
【請求項10】
ドライアイの予防及び/又は治療剤を製造するための4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミド、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の使用。
【請求項11】
(S)-4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミド、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【請求項12】
(S)-4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミド、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とする、涙液分泌促進剤。
【請求項13】
(S)-4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミド、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とするドライアイの予防及び/又は治療剤。
【請求項14】
(S)-4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミド、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有してなる医薬組成物。
【請求項15】
(S)-4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミド、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有してなる涙液分泌促進のための医薬組成物。
【請求項16】
(S)-4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミド、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有してなるドライアイの予防及び/又は治療のための医薬組成物。
【請求項17】
治療を必要としている患者に、(S)-4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミド、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を投与することを特徴とする涙液分泌促進方法。
【請求項18】
治療を必要としている患者に、(S)-4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミド、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を投与することを特徴とするドライアイの予防及び/又は治療方法。
【請求項19】
涙液分泌促進剤を製造するための(S)-4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミド、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の使用。
【請求項20】
ドライアイの予防及び/又は治療剤を製造するための(S)-4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミド、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライアイ治療剤として有用な新規ニコチンアミド化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
ドライアイは、眼表面を構成する涙液層と上皮層の間に悪循環が生じることで眼不快感や視機能異常が引き起こされる、最も多い眼表面疾患であり、日本での推定患者数は2000万人以上ともいわれている。また、近年の空調下の生活、ビデオディスプレー端末(VDT)の長時間作業、コンタクトレンズ装着者の増加に伴い、ドライアイ患者数は年々増加している。
【0003】
Tear Film & Ocular Surface Societyによる2017年の改訂版DEWS II報告書によると、ドライアイは「涙液層の健常性の破綻によって特徴づけられる、多因子性の眼表面疾患であり、何らかの眼の自覚症状を有しており、涙液層の不安定性や抗浸透圧、眼表面の炎症や障害、知覚神経異常が病因的な役割を担っているものである。」と定義され、多因子による疾患として認識されている。また、原因・病理論的分類では、涙液分泌減少型ドライアイ(Aqueous deficient Dry Eye:ADDE)と涙液蒸発亢進型ドライアイ(Evaporative Dry Eye:EDE)とに分類される(非特許文献1)。
【0004】
以前のドライアイ薬物治療では、日本ではヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアレイン(登録商標)点眼液)、米国ではシクロスポリン点眼液(Restasis(登録商標))のみと両国で1製品ずつしか上市されていない状況であった。したがって、ドライアイの治療には、これら薬物療法に加えて単なる水分補充のために人工涙液等が単独あるいは併用療法されるとともに、重篤な症例に対しては涙液の排出部位を閉鎖する涙点プラグ挿入術や、涙点閉鎖術等の外科的療法が用いられていた。また、院内製剤となるが、涙液成分に近い自己血清点眼等も用いられていた(非特許文献2)。
【0005】
最近、涙液の質を変えるという概念の元、水分及びムチンの分泌を促進するP2Y2受容体作動薬ジクアス点眼液(ジクアホソルナトリウム)、ムチン産生促進剤のムコスタ点眼液(レバミピド)が相次いで日本で承認され、治療薬の選択肢は増えている。中でもジクアスは、結膜上皮及び杯細胞膜上のP2Y2受容体に作用し、細胞内のカルシウム濃度を上昇させることにより、水分及びムチンの分泌を促進する、強力な涙液分泌作用をもつドライアイ治療薬である(非特許文献3)。
【0006】
しかしながら、ドライアイは多因子による疾患と定義されるように、多様な原因による疾患をひとつの薬剤で全てカバーするのは難しく、また、既存薬では十分に治療できない重篤なドライアイ患者も存在している。従って現在も、作用機序が異なるより強力な涙液分泌促進作用を有するドライアイ治療剤の開発が待ち望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ocul.Surf.,15,802-812(2017)
【非特許文献2】日薬理誌,135,138-141(2010)
【非特許文献3】IOVS,42,96-100(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、より強力な涙液分泌促進作用を有する新たなドライアイ治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記状況に鑑み、本発明者らは、新たなドライアイ治療剤を探索するため鋭意研究を行なったところ、正常ウサギ及びウサギアトロピン誘発ドライアイモデル、ラット眼窩外涙腺摘出モデルにおいて、ニコチンアミド骨格を有する新規化合物が強力な涙液分泌促進作用を有することを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[20]を提供する。
[1]4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミド(化合物1)、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
[2]化合物1、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とする、涙液分泌促進剤。
[3]化合物1、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とするドライアイの予防及び/又は治療剤。
[4]化合物1、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有してなる医薬組成物。
[5]化合物1、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有してなる涙液分泌促進のための医薬組成物。
[6]化合物1、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有してなるドライアイの予防及び/又は治療のための医薬組成物。
[7]治療を必要としている患者に、化合物1、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を投与することを特徴とする涙液分泌促進方法。
[8]治療を必要としている患者に、化合物1、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を投与することを特徴とするドライアイの予防及び/又は治療方法。
[9]涙液分泌促進剤を製造するための化合物1、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の使用。
[10]ドライアイの予防及び/又は治療剤を製造するための化合物1、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の使用。
[11](S)-4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミド(化合物1b)、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
[12]化合物1b、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とする、涙液分泌促進剤。
[13]化合物1b、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とするドライアイの予防及び/又は治療剤。
[14]化合物1b、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有してなる医薬組成物。
[15]化合物1b、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有してなる涙液分泌促進のための医薬組成物。
[16]化合物1b、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有してなるドライアイの予防及び/又は治療のための医薬組成物。
[17]治療を必要としている患者に、化合物1b、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を投与することを特徴とする涙液分泌促進方法。
[18]治療を必要としている患者に、化合物1b、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を投与することを特徴とするドライアイの予防及び/又は治療方法。
[19]涙液分泌促進剤を製造するための化合物1b、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の使用。
[20]ドライアイの予防及び/又は治療剤を製造するための化合物1b、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の使用。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、ドライアイ治療に有用な、新たな薬剤を提供する。本発明に従うと、強力な涙液分泌促進作用を有する新たなドライアイ治療剤を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、化合物1a(立体配置:R体、比旋光度:(+)体)のキラルカラムによる光学純度を示したクロマトチャートである。
図2図2は、化合物1b(立体配置:S体、比旋光度:(-)体)のキラルカラムによる光学純度を示したクロマトチャートである。
図3図3は、正常ウサギに対して化合物1溶液又はジクアホソルナトリウム溶液を単回点眼した際の涙液分泌に対する効果を示す。数値は点眼1時間後の涙液量であり、点眼前を100%として換算し、点眼前に対する涙液増加率として平均値±標準誤差で表し、*はp値が0.05未満であることを示す。
図4図4は、正常ウサギに対してラセミ体溶液、化合物1a溶液又は化合物1b溶液を単回点眼した際の涙液分泌に対する効果を示す。数値は点眼1時間後の涙液量であり、点眼前を100%として換算し、点眼前に対する涙液増加率として平均値±標準誤差で表し、**はp値が0.01未満であることを示す。
図5図5は、ウサギアトロピン誘発ドライアイモデルに対して生理食塩水(Control)、0.01%のラセミ体溶液、化合物1a溶液若しくは化合物1b溶液、又は3%ジクアホソルナトリウム溶液を1日4回50μLずつ10日間点眼した際の涙液分泌に対する効果を示す。数値は点眼1時間後の涙液量を、点眼前を100%として換算し、点眼前に対する涙液増加率として平均値±標準誤差で表し、*及び**はp値がそれぞれ0.05及び0.01未満であることを示す。
図6図6は、ラット眼窩外涙腺摘出ドライアイモデルに対して生理食塩水(Control)、0.003%若しくは0.01%の濃度の化合物1溶液、又は3%ジクアホソルナトリウム溶液を1日6回5μLずつ11日間した際の角膜障害抑制作用を示す。数値は角膜障害スコアの平均値±標準誤差で表し、*及び**はp値がそれぞれ0.05及び0.01未満であることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミドは下式(1):
【0014】
【化1】
【0015】
の化学構造式で示される化合物である。式(1)の化合物では、不斉炭素の存在により偏光面を右旋させる異性体:(+)-(R)-4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミド(化合物1a)と偏光面を左旋させる異性体:(-)-(S)-4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミド(化合物1b)の光学異性体が存在する。また、1aと1bが共存する場合、1aの含有量が多ければ比旋光度(+)、1bの含有量が多ければ比旋光度(-)となるが、本発明では、これらの旋光度を持つ光学異性体の混合物も包含する。
【0016】
本発明において、ラセミ体とは、キラル化合物の2種類の鏡像異性体(エナンチオマー)が等量存在することにより旋光性を示さなくなった状態の化合物を意味する。
【0017】
本発明において、化合物1(ラセミ体)、化合物1a(R異性体)、化合物1b(S異性体)のどれを使用してもよいが、涙液分泌促進作用の観点からは、化合物1b(S異性体)がより好ましい。
【0018】
化合物1の塩としては、医薬として許容される塩であれば特に制限されない。化合物1の塩としては酸付加塩が挙げられ、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸塩やギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等の有機酸塩が挙げられる。
【0019】
化合物1の溶媒和物としては、水が付加した水和物、エタノールが付加したアルコール和物等が挙げられる。
【0020】
本発明の化合物1は種々の公知の方法で製造することができ、特に制限されるものではないが、例えば後記実施例に記載のように、次の反応式に従って製造することができる。
【0021】
【化2】
【0022】
[上記反応式中、X1及びX2はハロゲン原子を示し、Pはアミノ基の保護基を示す]
【0023】
工程1は、ピリジン誘導体(2)とアミン誘導体(3)を反応させて化合物(4)を製造する工程である。ピリジン誘導体(2)におけるX1及びX2は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子を示し、塩素が特に好ましい。この反応は、無溶媒で行うか、或いはメタノール、エタノール、若しくは2-プロパノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、若しくは1,4-ジオキサン等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、若しくはキシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、若しくは1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、アセトニトリル、又は酢酸エチル等の有機溶媒中で行うことができ、無溶媒又はアルコール類を溶媒として用いることが好ましい。また、必要に応じて、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、N,N-ジメチルアミノピリジン等の有機塩基、又は炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基の存在下で反応を行うことができる。原料比率は、ピリジン誘導体(2)1モルにつきアミン誘導体(3)が好ましくは0.5~10モル、より好ましくは0.5~2モルである。反応温度は好ましくは0~300℃、より好ましくは0~150℃であり、反応時間は好ましくは1~24時間、より好ましくは2~6時間である。
【0024】
工程2は、酸性条件下で、化合物(4)とアニリン誘導体(5)を反応させて化合物(6)を製造する工程である。この反応は、無溶媒で行うか、或いはメタノール、エタノール、若しくは2-プロパノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフラン、若しくは1,4-ジオキサン等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、若しくはキシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、若しくは1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、アセトニトリル、又は酢酸エチル等の有機溶媒中で行うことができ、ジフェニルエーテル等のエーテル類を溶媒として用いることが好ましい。酸触媒としては塩酸、硫酸等の無機酸、若しくはメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等の有機酸を用いることができる。原料比率は、化合物(4)1モルにつきアニリン誘導体(5)が好ましくは0.5~10モル、より好ましくは0.5~3モルである。酸は化合物(4)1モルにつき好ましくは0.1~10モル、より好ましくは、0.5~3モルである。反応温度は好ましくは100~200℃、より好ましくは150~200℃であり、反応時間は好ましくは5分~8時間、より好ましくは10分~2時間である。
【0025】
工程3は、化合物(6)とピペリジン誘導体(7)を反応させて化合物(8)を製造する工程である。使用される縮合試薬としては特に制限は無いが、例えば、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1-エチル-3-(3’-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSC・HCl)、ヘキサフルオロリン酸2-(7-アザ-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウム(HATU)、1,1’-カルボニルジイミダゾール(CDI)、ジフェニルホスホリルアジド(DPPA)、オキシ塩化リン/ピリジン、トリフェニルホスフィン/N-ブロモスクシイミドなどが挙げられ、場合によっては、さらに添加剤として、例えば、N-ヒドロキシスクシイミド(HONSu)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物(HOBt・H2O)などが挙げられる。本工程に用いる縮合剤と添加剤の好ましい組み合わせとしては、1-エチル-3-(3’-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSC・HCl)と1-ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物(HOBt・H2O)の組み合わせを挙げることができる。また反応を加速させるために、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、ジアザビシクロウンデセン等の非求核塩基をさらに加えてもよい。使用される溶媒としては特に制限は無いが、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル、ジクロロメタン、ジクロロエタンなどの有機溶媒が挙げられ、好ましくはN,N-ジメチルホルムアミドである。原料比率は、化合物(6)1モルにつきピペリジン誘導体(7)が好ましくは0.5~10モル、より好ましくは0.5~3モルである。縮合試薬の使用量は化合物(6)1モルにつき好ましくは0.1~10モル、より好ましくは0.5~5モルである。反応温度は好ましくは-30~150℃であり、より好ましくは0~100℃である。反応時間は好ましくは1分間~48時間であり、より好ましくは30分~24時間である。
【0026】
工程4は、化合物(8)のアミノ基の脱保護反応を行い、化合物(1)を製造する工程である。脱保護の方法及び条件は保護基Pの種類によって異なる。例えば、ベンジル基、ベンジルオキシカルボニル基は接触水素付加により、t-ブトキシカルボニル基は酸により脱保護できるが、その方法は有機化学で一般的に用いられる方法(例えば、Protective Groups in Organic Synthesis Third Edition,John Wiley & Sons,Inc.,1999に記載された方法)を参考にして行うことができる。
【0027】
化合物1、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物は、後記実施例に示すように、正常ウサギ及びウサギアトロピン誘発ドライアイモデルに対して優れた涙液分泌促進作用を示す。また、ラット眼窩外涙腺摘出ドライアイモデルに対しても優れた角膜障害抑制作用を示す。さらにそれらの作用は、ジクアホソルナトリウムに比べて顕著に優れている。
従って、化合物1、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物は、涙液分泌促進剤及びドライアイの予防及び/又は治療剤として有用である。
【0028】
本発明において、「ドライアイ」とは、乾性角結膜炎が含まれ、また、涙液分泌減少型及び涙液蒸発亢進型のいずれの類型のドライアイも含まれる。涙液分泌減少型ドライアイは、シェーグレン症候群に伴うドライアイと非シェーグレン症候群型のドライアイに分類される。非シェーグレン症候群型のドライアイとしては、先天性無涙腺症、サルコイドーシス、骨髄移植等による移植片対宿主病などの涙腺疾患に伴うもの;眼類天疱瘡、スティーブンス・ジョンソン症候群、トラコーマなどを原因とする涙器閉塞に伴うもの;糖尿病、角膜屈折矯正手術などを原因とする反射性分泌の低下に伴うものなどが挙げられる。また、涙液蒸発亢進型ドライアイは、マイボーム腺機能不全、眼瞼炎などを原因とする油層減少に伴うもの;眼球突出、兎眼などを原因とする瞬目不全又は閉瞼不全に伴うもの;コンタクトレンズ装用による涙液安定性の低下に伴うもの;胚細胞からのムチン分泌低下に伴うもの;VDT作業に伴うものなどが挙げられる。
【0029】
本発明の医薬組成物は、化合物1、その塩又はそれらの溶媒和物を含有するものであって、単独で用いてよいが、通常は医薬として許容される担体、添加物等を配合して使用される。医薬組成物の投与形態は、特に限定されず、治療目的に応じて適宜選択できる。例えば、経口剤、注射剤、坐剤、軟膏剤、吸入剤、点眼剤、点鼻剤、貼付剤等のいずれでもよい。これらの投与形態に適した医薬組成物は、公知の製剤方法により製造できる。
【0030】
経口用固形製剤を調製する場合は、化合物1に賦形剤、更に必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。添加剤は、当該分野で一般的に使用されているものでよい。例えば、賦形剤としては、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸等が挙げられる。結合剤としては水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。崩壊剤としては乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖等が挙げられる。滑沢剤としては精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコール等が挙げられる。矯味剤としては白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。
【0031】
経口用液体製剤を調製する場合は、化合物1に矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯臭剤等を加えて常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。矯味剤としては上記に挙げられたものでよく、緩衝剤としてはクエン酸ナトリウム等が、安定化剤としてはトラガント、アラビアゴム、ゼラチン等が挙げられる。
【0032】
注射剤を調製する場合は、化合物1にpH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤等を添加し、常法により皮下、筋肉及び静脈内注射剤を製造することができる。pH調節剤及び緩衝剤としてはクエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等が挙げられる。安定化剤としてはピロ亜硫酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、チオグリコール酸、チオ乳酸等が挙げられる。局所麻酔剤としては塩酸プロカイン、塩酸リドカイン等が挙げられる。等張化剤としては、塩化ナトリウム、ブドウ糖等が挙げられる。
【0033】
坐剤を調製する場合は、化合物1に公知の坐剤用担体、例えば、ポリエチレングリコール、ラノリン、カカオ脂、脂肪酸トリグリセライド等、更に必要に応じてツイーン(登録商標)等の界面活性剤等を加えた後、常法により製造することができる。
【0034】
点眼剤は、水性点眼剤、非水性点眼剤、懸濁性点眼剤、乳濁性点眼剤、眼軟膏等のいずれでもよい。このような製剤は、投与形態に適した組成物として、必要に応じて薬学的に許容される担体、例えば等張化剤、キレート剤、安定化剤、pH調節剤、防腐剤、抗酸化剤、溶解補助剤、粘桐化剤等を配合し、当業者に公知の(製剤)方法により製造できる。点眼剤を調製する場合、例えば、所望な上記成分を滅菌精製水、生理食塩水等の水性溶剤、又は綿実油、大豆油、ゴマ油、落花生油等の植物油等の非水性溶剤に溶解又は懸濁させ、所定の浸透圧に調整し、濾過滅菌等の滅菌処理を施すことにより行うことができる。尚、眼軟膏剤を調製する場合は、前記各種の成分の他に、軟膏基剤を含むことができる。前記軟膏基剤としては、特に限定されないが、ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレン等の油性基剤;油相と水相とを界面活性剤等により乳化させた乳剤性基剤; ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール等からなる水溶性基剤等が好ましく挙げられる。
【0035】
また、眼内インプラント用製剤として使用することもできる。眼内インプラント用製剤は、生体分解性ポリマー、たとえば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、ヒドロキシプロピルセルロースなどの生体分解性ポリマーを用い、調製することができる。
【0036】
化合物1、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物をドライアイの予防又は治療のために用いる場合、剤形として点眼剤または眼軟膏を選択した場合には、1日1~10回、好ましくは1日1~8回、より好ましくは1日2~6回に分けて眼局所に投与することができる。その投与量は、患者の体重、年齢、性別、症状、投与形態及び投与回数等によって異なるが、通常は成人に対して、化合物1として、1日0.025~10000μg、好ましくは0.025~2000μg、より好ましくは0.1~2000μgの範囲が挙げられる。
【実施例0037】
以下、実施例をもって本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は本発明を制限するものではない。なお、化合物の光学純度はHPLCにより決定した。また、化合物の比旋光度は下記条件で測定した。
<HPLC条件>
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:254nm)
カラム:CHIRALPAK IE(ダイセル)
内径4.6mm,長さ150mm,粒子径5μm
カラム温度:40℃
移動相:0.1%イソプロピルアミン in メタノール
流量:1.0mL/min
注入量:5μL
試料:0.5mg/mL(メタノールにて希釈)
<比旋光度>
旋光計:日本分光株式会社 P-2200。
比旋光度[α]20D(20℃,ナトリウムのD線589nm)。
【0038】
実施例1 4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミド(化合物1)の製造
(工程1)6-クロロ-4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]ニコチンアミドの製造
【0039】
【化3】
【0040】
US2006/0217417公報記載の方法に準じて合成した4,6-ジクロロピリジン-3-カルボキシアミド28.7gをエタノール130mLに溶かし、3,5-ジフルオロベンジルアミン22.8gとN,N-ジイソプロピルエチルアミン52.4mLを加え、80℃で24時間加熱還流した。室温に冷却後、水を加え、析出結晶をろ取し、水及びヘキサンで洗浄し、風乾することで、6-クロロ-4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]ニコチンアミド38.9g(87%)を白色結晶として得た。
【0041】
1H-NMR(400MHz, CDCl3)δ: 4.43 (2H, d, J = 5.8 Hz), 5.86 (2H, br), 6.42 (1H, s), 6.75 (1H, dddd, J = 7.7,.7.7, 2.3, 2.3 Hz), 6.80-6.87 (1H, m), 8.32 (1H, s), 9.02 (1H, br).
【0042】
(工程2)6-[(3-アミノフェニル)アミノ]-4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]ニコチンアミドの製造
【0043】
【化4】
【0044】
工程1で得た6-クロロ-4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]ニコチンアミド(12.0g)、1,3-フェニレンジアミン(10.9g)、及び塩化1-ブチル-3-メチル-1H-3-イミダゾリウム(14.1g)をジフェニルエーテル(6.9g)に加えた。この混合物にメタンスルホン酸(7.85mL)を加えた後、170℃の浴内で30分攪拌した。放冷後、反応混合物をヘプタンで3回洗浄し、残渣に7Nアンモニア-メタノール(35mL)を加えた。析出物を解砕した後、混合物にクロロホルム(20mL)、水(20mL)、及び飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(10mL)を加え、混合物を攪拌した。析出した結晶を濾取及び乾燥することによって、6-[(3-アミノフェニル)アミノ]-4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]ニコチンアミド14.6g(98%)を得た。
【0045】
1H-NMR (DMSO-d6) δ:9.03 (t, 1 H), 8.57 (s, 1 H), 8.36 (s, 1 H), 7.77 (br., 2 H), 7.12 (tt, 1 H), 7.00 (br d, 2 H), 6.80 (t, 1 H), 6.73 (s, 1 H), 6.50 (d, 1 H), 6.12 (d, 1 H), 5 80 (s, 1 H), 4.91 (s, 2 H), 4.41 (d, 2 H).
【0046】
(工程3)tert-ブチル 3-[[3-[[5-カルバモイル-4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]ピリジン-2-イル]アミノ]フェニル]カルバモイル]ピペリジン-1-カルボキシレートの製造
【0047】
【化5】
【0048】
工程2で得た6-[(3-アミノフェニル)アミノ]-4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]ニコチンアミド(1.00g)及びN-(tert-ブトキシカルボニル)ピペリジン-3-カルボン酸(0.93g)を、N,N-ジメチルホルムアミド(4.5mL)に溶解した。氷浴内で攪拌したこの溶液に、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(1.18mL)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物(0.83g)及び1-エチル-3-(3’-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(0.83g)を加えた。氷浴をはずした後、混合物を室温で12時間攪拌した。酢酸エチル(20mL)及び水(10mL)を加え、混合物を攪拌した後、有機層と水層を分離した。水層を酢酸エチル(15mL)で2回抽出した。有機層を合わせて、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、及び飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (メタノール-ジクロロメタン)で精製し、得られた分画を酢酸エチル及びヘプタンから結晶化することで、tert-ブチル 3-[[3-[[5-カルバモイル-4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]ピリジン-2-イル]アミノ]フェニル]カルバモイル]ピペリジン-1-カルボキシレート1.22g(78%)を得た。
【0049】
(工程4)4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミドの製造
【0050】
【化6】
【0051】
工程3で得たtert-ブチル 3-[[3-[[5-カルバモイル-4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]ピリジン-2-イル]アミノ]フェニル]カルバモイル]ピペリジン-1-カルボキシレート(1.22g)をジクロロメタン(6.7mL)に溶解した。この溶液にトリフルオロ酢酸(1.62mL)を加え、室温で12時間攪拌した。反応混合物を減圧濃縮し、残渣にメタノールを加えた後、再度減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (メタノール-ジクロロメタン、アンモニア-メタノール-ジクロロメタン) で精製し、得られた固体(607mg)をエタノールおよび水から結晶化することで、4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミド362mg(36%)を得た。
【0052】
1H-NMR (DMSO-d6) δ:9.88 (s, 1 H), 9.05 (t, 1 H), 8.86 (s, 1 H), 8.39 (s, 1 H), 7.83 (br s, 2 H), 6.95-7.20 (m, 7 H), 5.86 (s, 1 H), 4.44 (d, 2 H), 3.00 (m, 1 H), 2.83 (m, 1 H), 2.40-2.65 (m, 3 H), 2.15 (br s, 1 H), 1.84 (m, 1 H), 1.59 (m, 2 H), 1.35 (m, 1 H).
【0053】
実施例2 (R)-4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミド(1a)の製造
実施例1の工程3において、N-(tert-ブトキシカルボニル)ピペリジン-3-カルボン酸を(R)-N-(tert-ブトキシカルボニル)ピペリジン-3-カルボン酸に変えて、同様の操作を適用することにより、((R)-4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミドを得た。
【0054】
【化7】
【0055】
光学純度:98.5%ee
比旋光度[α]20 D: +14.4
【0056】
実施例3 (S)-4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミド(1b)の製造
実施例1の工程3において、N-(tert-ブトキシカルボニル)ピペリジン-3-カルボン酸を(S)-N-(tert-ブトキシカルボニル)ピペリジン-3-カルボン酸に変えて、同様の操作を適用することにより、(S)-4-[(3,5-ジフルオロベンジル)アミノ]-6-[[3-(ピペリジン-3-カルボキサミド)フェニル]アミノ]ニコチンアミドを得た。
【0057】
【化8】
【0058】
光学純度:98.8%ee
比旋光度[α]20 D:-14.3
【0059】
試験例1 正常ウサギを用いた涙液分泌に対する効果
1. 被験化合物溶液の調製
A. 化合物1溶液の調製
所定量の化合物1を生理食塩水に溶解し、pHが5.5となるようにHCl又はNaOHで調整し、所望の濃度の化合物1溶液を調製した。
B.ジクアホソルナトリウム溶液の調製
ジクアホソルナトリウム溶液はジクアス(登録商標)点眼液3%(参天製薬株式会社)を使用した。
【0060】
2.試験方法
A.試験に使用した薬剤及び動物
化合物1溶液:0.001%溶液、0.01%溶液(点眼量:50μL)
ジクアホソルナトリウム溶液:3%溶液(点眼量:50μL)
実験動物:JW系白色ウサギ(性別:体重約2kg、雄性、一群3~4匹)
B.涙液の測定、点眼及び評価方法
正常JW系雄性白色ウサギの下眼瞼にシルマー試験紙を挿入し5分間で濡れた長さを計測した。0.001%、0.01%の化合物1溶液、又は3%ジクアホソルナトリウム溶液を50μL点眼し、点眼1時間後に再度下眼瞼にシルマー試験紙を挿入し5分間で濡れた長さを計測した。点眼及び評価は両眼で実施し、各眼のデータを1例として扱った。得られた数値は点眼前を100%として換算し、点眼前に対する涙液増加率として示した。統計解析はstudentのt検定にて行った。
【0061】
3.結果及び考察
被験化合物溶液を点眼した1時間後の点眼前に対する涙液増加率を図3に示した。化合物1溶液の0.001%及び0.01%、ならびに3%ジクアホソルナトリウム溶液はそれぞれ131%、168%、ならびに169%の涙液増加率を示し、0.01%以上の濃度の化合物1溶液及び3%ジクアホソルナトリウム溶液は点眼前と比較して有意差が認められた。
【0062】
試験例2 正常ウサギを用いた涙液分泌に対するラセミ体及び光学異性体の効果
ラセミ体と光学異性体1a及び1bの涙液分泌に対する効果を比較した。
【0063】
1.被験化合物溶液の調製
A.化合物1a溶液の調製
所定量の化合物1aを生理食塩水に溶解し、pHが5.5となるようにHCl又はNaOHで調整し、所望の濃度の化合物1a溶液を調製した。
B.化合物1b溶液の調製
所定量の化合物1bを生理食塩水に溶解し、pHが5.5となるようにHCl又はNaOHで調整し、所望の濃度の化合物1b溶液を調製した。
【0064】
2.試験方法
A.試験に使用した薬剤及び動物
ラセミ体溶液:0.003%溶液(点眼量:50μL)
化合物1a溶液:0.003%溶液(点眼量:50μL)
化合物1b溶液:0.003%溶液(点眼量:50μL)
実験動物:JW系白色ウサギ(性別:体重約2kg、雄性、一群8匹)
【0065】
B.涙液の測定、点眼及び評価方法
正常JW系雄性白色ウサギの下眼瞼にシルマー試験紙を挿入し5分間で濡れた長さを計測した。0.003%のラセミ体溶液、化合物1a溶液又は化合物1b溶液を50μL点眼し、点眼1時間後に再度下眼瞼にシルマー試験紙を挿入し5分間で濡れた長さを計測した。点眼及び評価は両眼で実施し、各眼のデータを1例として扱った。得られた数値は点眼前を100%として換算し、点眼前に対する涙液増加率として示した。統計解析はstudentのt検定にて行った。
【0066】
3.結果及び考察
被験化合物溶液を点眼した1時間後の点眼前に対する涙液増加率を図4に示した。0.003%のラセミ溶液、化合物1a溶液及び化合物1b溶液はそれぞれ129%、124%及び143%の涙液増加率を示し、点眼前と比較して有意差が認められた。一方で、化合物1b溶液の点眼前に対する涙液増加率は化合物1a溶液と比較して高かった。
【0067】
試験例3 アトロピン誘発ドライアイモデルを用いた涙液分泌に対する効果
ドライアイモデルとして報告されているアトロピン誘発ドライアイモデル(Acta Pharm.58;163-173(2008))を用いて被験化合物溶液を点眼した際の涙液分泌増加作用を検討した。
【0068】
1.試験方法
A.試験に使用した薬剤及び動物
ラセミ体溶液:0.003%溶液(点眼量:50μL)
化合物1a溶液:0.003%溶液(点眼量:50μL)
化合物1b溶液:0.003%溶液(点眼量:50μL)
ジクアホソルナトリウム溶液:3%溶液(点眼量:50μL)
実験動物:JW系白色ウサギ(性別:体重約2kg、雄性、一群3~4匹)
【0069】
B.涙液の測定、点眼及び評価方法
JW系雄性白色ウサギに0.1%硫酸アトロピンを1日3回7日間50μL点眼し、シルマー試験紙を用いて5分間で濡れた長さを計測した。続いて0.1%硫酸アトロピンを1日3回、並びに生理食塩水(Control)、0.01%のラセミ体溶液、化合物1a溶液若しくは化合物1b溶液、又は3%ジクアホソルナトリウム溶液を1日4回50μLずつ10日間点眼し、最終点眼1時間後にシルマー試験紙を用いて5分間で濡れた長さを計測した。点眼及び評価は両眼で実施し、各眼のデータを1例として扱った。得られた数値は被験化合物溶液点眼前を100%として換算し、涙液増加率として示した。統計解析はstudentのt検定にて行った。
【0070】
2.結果及び考察
被験化合物溶液を点眼した1時間後の点眼前に対する涙液増加率を図5に示した。Control、0.01%のラセミ体溶液、化合物1a溶液及び化合物1b溶液はそれぞれ86%、151%、157%及び145%の涙液増加率を示し、Controlと比較して有意な差が認められた。一方で、3%ジクアホソルナトリウム溶液は134%の涙液増加が認められたが有意な差は認められなかった。
【0071】
試験例4 ラット眼窩外涙腺摘出ドライアイモデルを用いた角膜上皮障害に対する効果
ドライアイモデルとして報告されているラット眼窩外涙腺摘出ドライアイモデルを用いて被験化合物溶液を点眼した際の角膜上皮障害抑制作用を検討した。
【0072】
1.試験方法
A.試験に使用した薬剤及び動物
化合物1溶液:0.003%溶液、0.01%溶液(点眼量:5μL)
ジクアホソルナトリウム溶液:3%溶液(点眼量:5μL)
実験動物:SD系ラット(性別:6週齢、雄性、一群5匹)
B.涙液の測定、点眼及び評価方法
SD系雄性ラットはペントバルビタールナトリウム40mg/kg及びキシラジン10mg/kgの腹腔内投与による麻酔下、両側の眼窩外涙腺を摘出した。摘出翌日より生理食塩水(Control)、0.003%若しくは0.01%の濃度の化合物1溶液、又は3%ジクアホソルナトリウム溶液を1日6回5μLずつ11日間点眼した。最終点眼24時間後にペントバルビタールナトリウム40mg/kg及びキシラジン10mg/kgの腹腔内投与による麻酔下、0.1%フルオレセインイソチアネート溶液を2μL点眼することにより角膜障害部位を染色し、角膜を9分割した各部位の染色像を、4段階にスコア化し、9部位のスコアの合計を各眼の角膜障害スコアとした。各スコアの基準は以下の通りである。
0:染色されていない
1:染色が疎であり、各点状の染色部分は離れている
2:染色が中程度であり、点状の染色部分の一部が隣接している
3:染色が密であり、各点状の染色部分は隣接している
点眼及び評価は両眼で実施し、各眼のデータを1例として扱った。統計解析はDunnetの多重比較検定にて行った。
【0073】
2.結果及び考察
被験化合物溶液を点眼した1時間後の点眼前に対する角膜障害スコアを図6に示した。Controlは18.0、0.003%及び0.01%の化合物1溶液はそれぞれ13.0及び10.5、3%ジクアホソルナトリウム溶液は11.9の角膜障害スコアを示し、Controlと比較して0.01%の濃度の化合物1溶液、及び3%ジクアホソルナトリウム溶液は有意な差が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の化合物は、顕著な涙液分泌促進作用を有し、新たなドライアイ治療剤として有用であることから、産業上の利用可能性を有している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6