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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171064
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】自己出力型検出器
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/16 20060101AFI20241204BHJP
   G01T 3/00 20060101ALI20241204BHJP
   G21C 17/108 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
G01T1/16 B
G01T3/00 F
G21C17/108
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087934
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 幸太
(72)【発明者】
【氏名】岡田 耕一
【テーマコード(参考)】
2G075
2G188
【Fターム(参考)】
2G075AA01
2G075BA03
2G075CA08
2G075DA08
2G075FA05
2G188AA20
2G188BB04
2G188BB09
2G188BB17
2G188CC28
2G188CC39
2G188DD10
2G188DD11
2G188DD12
2G188DD42
2G188EE01
(57)【要約】
【課題】低線量率環境においても、高感度に放射線を検出可能な自己出力型検出器を実現する。
【解決手段】自己出力型検出器1は、2つ以上の区画に分離された内部領域を有する絶縁材で構成された気密な絶縁材容器12と、1以上の絶縁材容器12の内部領域に封入されたエミッタ11と、絶縁材容器12の内部領域のうち、エミッタ11が封入されていない側の1以上の内部領域に封入されたコレクタ13と、エミッタ11の封入された内部領域とコレクタ13の封入された内部領域のいずれか一方以上の領域内に設けられた支持部18と、を備える。
【選択図】 図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上の区画に分離された内部領域を有する絶縁材で構成された気密な絶縁材容器と、
1以上の前記絶縁材容器の前記内部領域に封入されたエミッタと、
前記絶縁材容器の前記内部領域のうち、前記エミッタが封入されていない側の1以上の前記内部領域に封入されたコレクタと、
前記エミッタの封入された前記内部領域と前記コレクタの封入された前記内部領域のいずれか一方以上の領域内に設けられた支持部と、を備える
自己出力型検出器。
【請求項2】
請求項1に記載の自己出力型検出器において、
前記支持部は中空構造の絶縁材で構成される
自己出力型検出器。
【請求項3】
請求項2に記載の自己出力型検出器において、
前記中空構造の前記支持部を前記コレクタの封入された前記内部領域内に1つ以上有しており、
融解状態の前記エミッタが、前記中空構造を通じて異なる前記エミッタの封入された前記内部領域の間を相互に移動可能となっている
自己出力型検出器。
【請求項4】
請求項3に記載の自己出力型検出器において、
前記エミッタが鉛ビスマスである
自己出力型検出器。
【請求項5】
請求項1に記載の自己出力型検出器において、
前記内部領域に、空隙が形成されている
自己出力型検出器。
【請求項6】
請求項2に記載の自己出力型検出器において、
前記中空構造の前記支持部を前記エミッタの封入された前記内部領域内に1つ以上有している
自己出力型検出器。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の自己出力型検出器において、
前記エミッタの封入された前記内部領域の径方向の厚みをTe、前記コレクタの封入された前記内部領域の径方向の厚みをTcとしたときに、Te>Tcである
自己出力型検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線量率を監視する自己出力型検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、金属製のエミッタと、エミッタの外側に配置されたコレクタと、エミッタとコレクタとを絶縁する絶縁材と、を備え、自己出力型検出器の長手方向の中心軸から径方向外側に直線を引いたときに、エミッタが直線と2回以上交差する自己出力型の放射線検出器が記載されている。
【0003】
特許文献2には、内部にエミッタ、外側にコレクタを備え、エミッタとコレクタの間が絶縁されている自己出力型検出器において、エミッタを封入するエミッタ容器を備え、エミッタ容器が気密であり、エミッタが高温によって溶融した際に自己出力型検出器の向きに依らず、エミッタ容器内の局所的なエミッタ密度が一定となるようにエミッタ質量とエミッタ容器の容積が調整されている自己出力型検出器が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-64670号公報
【特許文献2】特開2020-67312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自己出力型検出器は、電圧の印加を必要とせず、検出器を構成する物質中の電子数の変化に応じて流れる電流を計測することによって放射線量を計測する検出器である。
【0006】
自己出力型検出器は、計測対象の放射線毎に自己出力型ガンマ線検出器(SPGD:Self powered gamma ray detector)や、自己出力型中性子検出器(SPND:Self powered neutron ray detector)と呼ばれる。本明細書中では主にSPGDを例に挙げて説明するが、基本的な考え方、構造はSPNDも同様である。
【0007】
自己出力型ガンマ線検出器は、ガンマ線の照射によりエミッタ中の電子が弾き出されることによって生じるエミッタの電子の減少に伴って発生する電流値を計測する。同様に、自己出力型中性子検出器は、エミッタ材と中性子の核反応によってエミッタ中の電子が放出されることで生じるエミッタの電子数の変化によって発生する電流値を計測する。エミッタ中の電子の増減には、ベータ崩壊などの崩壊現象も利用される。
【0008】
このように自己出力型ガンマ線検出器と自己出力型中性子検出器とは、類似の原理によって動作するものであり、ほぼ同様の構造である。これらの差異は主にエミッタの物質の差異によってもたらされる。
【0009】
しかしながら、ガンマ線との相互作用のみ、あるいは中性子との核反応のみが起こる物質は存在しない。このため、ガンマ線との相互作用で電子を放出しやすい物質をエミッタとして採用した場合は自己出力型ガンマ線検出器、中性子との核反応で電子を放出しやすい物質をエミッタとして採用した場合は自己出力型中性子検出器として動作する。
【0010】
ここで言う電子の放出し易さは環境に依存し、中性子の少ない環境に適用する自己出力型ガンマ線検出器のエミッタの選択の幅は広く、ガンマ線の少ない環境に適用する自己出力型中性子検出器のエミッタの選択の幅は広い。SPGDは電離箱などで見られる電子の増幅機構を持たないため、微小な電流を計測することになり、適用は高線量率環境のみに限られる。
【0011】
原子炉内への適用を考えた場合、原子炉内はガンマ線の線量率が高く、中性子束も多い。さらに原子炉内は高温である。このような環境に適用可能な自己出力型ガンマ線検出器として上述の特許文献2がある。特許文献2の自己出力型検出器は、原子炉の運転状態においては融解した状態で存在する鉛ビスマスをエミッタとして採用した検出器であり、ガンマ線に対する線源弱係数が大きく、同程度の原子番号を有する元素に対して熱中性子吸収断面積が比較的小さい鉛とビスマスからエミッタが構成される。
【0012】
一方で、比較的低い線量率の範囲または環境における自己出力型検出器の構造としては上述の特許文献1がある。特許文献1に記載の自己出力型検出器は、内部に金属製のエミッタとエミッタの外側にコレクタを有し、エミッタとコレクタとを絶縁する絶縁材を有し、検出器の長手方向の中心軸から径方向に多層化することで、エミッタとコレクタそれぞれの放射線との相互作用確率を保ったまま、エミッタまたはコレクタで発生し、エミッタまたはコレクタ自身に吸収されるとの自己吸収の確率を低減することで、効率的に電流が得られるSPGDが開示されている。
【0013】
しかしながら、比較的低いガンマ線線量率の範囲を測定可能な自己出力型検出器で原子炉内のような中性子束が多く、高温環境において適用を可能とするには、特許文献2に記載の自己出力ガンマ線検出器のように融解状態で存在するエミッタを封止した上でガンマ線に対して高感度化する必要がある。
【0014】
そのため、特許文献1に記載のように検出器の長手方向の中心軸から径方向に多層化することを考えると、限られた外径の中にエミッタ層、コレクタ層、絶縁層を構成しなければならないため、各層の厚みが制限される。そのため、融解状態のエミッタを気密状態にするための絶縁材からなる絶縁ケースの径方向の厚みが制限される。
【0015】
エミッタの物質の選択次第では高温環境と低温環境を経験する環境下においては、温度変化に伴う体積変化が生じる。体積変化において、例えば高温環境において膨張する物質では、膨張に伴う絶縁材ケースの径方向の変位により、ケースの破損または気密状態が崩壊する可能性があるため、対策が必要である。なお、前述の絶縁材ケースの破損は一例であり、内部構造物の体積変化に伴い発生する絶縁材ケースの破損の事例はこれに限定されない。
【0016】
また、ケースの厚みを厚くして破損を防ぐ構造では、エミッタ及びコレクタの径方向の層の数が制限されるため、ガンマ線に対する感度が向上されないことが懸念されることから、対策が必要となる。
【0017】
本発明の目的は、低線量率環境においても、高感度に放射線を検出可能な自己出力型検出器を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、2つ以上の区画に分離された内部領域を有する絶縁材で構成された気密な絶縁材容器と、1以上の前記絶縁材容器の前記内部領域に封入されたエミッタと、前記絶縁材容器の前記内部領域のうち、前記エミッタが封入されていない側の1以上の前記内部領域に封入されたコレクタと、前記エミッタの封入された前記内部領域と前記コレクタの封入された前記内部領域のいずれか一方以上の領域内に設けられた支持部と、を備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、低線量率環境においても、高感度に放射線を検出することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1A】実施例1の自己出力型検出器の基本概念を示す概略断面図である。
図1B】実施例1の自己出力型検出器の基本概念を示す概略断面図である。
図2】実施例1の自己出力型検出器の基本概念を示す概略横断面図である。
図3】実施例1の自己出力型検出器における支持部の基本概念を示す概略図である。
図4】実施例2の自己出力型検出器における変形例の一例を示す概略図である。
図5】実施例3の自己出力型検出器における変形例の一例を示す概略図である。
図6】実施例4の自己出力型検出器における支持部の基本概念を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の自己出力型検出器の実施例を、図面を用いて説明する。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一、または類似の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0022】
<実施例1>
本発明の自己出力型検出器の実施例1について図1A乃至図3を用いて説明する。図1Aは、実施例1の自己出力型検出器1の基本概念を示す概略断面図である。図1Bは、図1Aで示した自己出力型検出器1において、長手方向の中心軸上に切断面を回転させることによって得られる断面図である。図2は、図1Aに示した自己出力型検出器1の横断面図である。図3は、本発明による実施例1の自己出力型検出器1における支持部の基本概念を示す概略図である。
【0023】
図1Aに示す自己出力型検出器1は、中心に鉛ビスマス製のエミッタ11、外側にSUS製の外部コレクタ14が存在する。
【0024】
エミッタ11は、Al製の絶縁材容器12に覆われていることで、1以上の絶縁材容器12の内部領域に封入されている状態である。絶縁材容器12は気密(液密)であり、エミッタ11が溶融しても絶縁材容器12の外に漏れることはない。
【0025】
このエミッタ11は少なくとも2層以上の複層構造により、ガンマ線あるいは中性子のいずれかの放射線を専用で検出するものであり(本実施例ではガンマ線用とする)、外部コレクタ14と電気的に接続されている。外部コレクタ14は、ケーブル16の芯線15と電気的に接続されている。
【0026】
絶縁材容器12は、2つ以上の区画に分離された内部領域を有する絶縁材で構成されており、図2に示すように長手方向の中心軸から径方向に伸ばした直線Lに対して、少なくとも3つ以上の絶縁材容器の内壁と交わる交点が存在する。上述の直線Lに対して、径方向の内側から外側にかけて、最内径の層(領域)を1層、その1つ外側の層(領域)を2層、さらに外側を3層と層の数だけ層数を割り当てた場合に、奇数次の層と偶数次の層は分離されており、かつ、各々の層が気密となっている。
【0027】
ここで、自己出力型検出器1自体の厚さは、入射する放射線のエネルギー、及び設置スペースに制約されるが、エミッタ11の積層数は多ければ多いほどよく、厚ければ厚いほうが良いことから、エミッタ11の封入された内部領域の径方向の厚みをTe、コレクタ13の封入された内部領域の径方向の厚みをTcとしたときに、Te>Tcであることが望ましい。
【0028】
この絶縁材容器12は後述する支持部18によって、奇数次または偶数次の層間が電気的に接続されているが、絶縁されていてもよく、特に限定されない。
【0029】
支持部18は、エミッタ11の封入された内部領域とコレクタ13の封入された内部領域のいずれか一方以上の領域内(本実施例ではコレクタ13の封入された内部領域内)に設けられた絶縁材容器12と同じくAlで構成された部材であり、絶縁材容器12の一部として成型される。
【0030】
自己出力型検出器1は、その使用環境が過酷であり、温度変化によりエミッタ11またはコレクタ13の体積変化することがほとんどである。この際、エミッタ11とコレクタ13との容積が異なるため、体積変化量が異なる。これに伴い、絶縁材容器12の壁が低圧側に押し出されて変形することを補うため、支持部18は絶縁材容器12の内壁の中心軸上から数えて任意のn枚目と(n+1)枚目との間の領域に挿入され、絶縁材容器12の壁の変形を抑制するスペーサの役割を持つ。
【0031】
図3に支持部18の層内における構造を示す。図3に示すように、支持部18は中空構造の絶縁材で構成されることが望ましく、これにより支持部18の存在する層の前後の層を電気的に接続可能である。図3に示すように、支持部18をコレクタ13の封入された内部領域内に設けることで、1層目のエミッタ11と3層目のエミッタ11の層とを電気的に接続する。融解状態で存在するエミッタ11は、支持部18の中空構造と通じて、中空構造を通じて異なるエミッタ11の封入された内部領域の間を相互に移動可能となっている。
【0032】
支持部18が設けられる自己出力型検出器1の軸方向位置は、1つの場合は軸方向中央部、2つの場合は軸方向1/4及び3/4に近い部分、等、軸方向で略均等に内周側と外周側とを支持することが好適である。
【0033】
支持部18が設けられる自己出力型検出器1の周方向についても特に限定は無いが、周方向で均等に支持することが好適であるが、構造が複雑になり製造性の観点などから1カ所以上であればよい。
【0034】
絶縁材容器12を気密容器とする方法は、例えば3Dプリンタなどによる成型が応用できる。適切な寸法で成型した絶縁材容器内にエミッタ11を溶かしながら入れ、エミッタ11に金属製の芯線を挿入する。絶縁材容器の開口部から外へは芯線のみが出ているため、開口部を加熱しながら挟んだり、耐熱・絶縁性の接着材により封止することができる。
【0035】
ここでは支持部18がAlで絶縁材容器12の一部としたが、気密容器として成形可能で、高温環境において融解したエミッタ11を保持可能であれば、必ずしもAlである必要はなく、石英ガラスなど他の物質でもよい。また、絶縁性を保つことができれば、絶縁材容器12の一部として成型されなくてもよい。
【0036】
コレクタ13は、絶縁材容器12の内部領域のうち、エミッタ11が封入されていない側の1以上の内部領域に封入されたAl等の密度の小さい軽金属で構成される。
【0037】
支持部18が挿入されたコレクタ13層は、支持部18の容積分だけコレクタ13の体積が減少する。そのため、支持部18のコレクタ13の層に占める割合を抑えることが望ましい。また、支持部18が円周上の一部に偏って存在する場合には、円周方向でガンマ線に対する感度が変化するため、円周方向に等分に配置されることが望ましい。
【0038】
図2に示すようにエミッタ11は、絶縁材容器12の奇数次の層に存在し、コレクタ13は偶数次の層に存在し、互いに電気的に接続されない。エミッタ11が存在する層に電気的に接続された芯線15とコレクタ13が存在する層及び自己出力型検出器1の外側の外部コレクタ14に電気的に接続された芯線15を電流計測装置20に接続し、流れる電流を計測する。
【0039】
電流計測装置20は、流れる電流値を計測し、コレクタ13等が配置されている空間でのガンマ線強度や中性子強度を演算する。
【0040】
図2では、エミッタ11とコレクタ13の存在する層を規定したが、偶数次のエミッタ11、奇数次の層にコレクタ13が存在してもよい。この場合、自己出力型検出器1の外側の外部コレクタ14とコレクタ13が電気的に接続されて束ねられた芯線15と、エミッタ11の層に電気的に接続された芯線15を電流計測装置20に接続することで電流値を測定する。
【0041】
芯線15はケーブル16の芯の線である。ケーブル16は同軸ケーブルでもMIケーブルでもよい。ケーブル16は電流計測装置20に接続される。自己出力型検出器1の外周のうち、ケーブル16が存在する場所以外あるいはコレクタ部を除いてSUS製のハウジング17で覆われている。
【0042】
原子炉核計装管内に図1Aの自己出力型検出器1を設置すると、約280℃の高温にさらされ、エミッタ11の鉛ビスマスは融点が約125℃であることから、エミッタ11は溶融する。この時、絶縁材容器12はAl製であり、1000℃以上でも形状を保つことができる。絶縁材容器12が気密であり、エミッタ11の体積、絶縁材容器12の容積、芯線15の絶縁材容器12内での深さを適切に調整しているため、エミッタ11溶融時でもエミッタ11と芯線15が接触し、電気的に接続されている。
【0043】
エミッタ11が溶融している状態であっても、ガンマ線がエミッタと相互作用を起こした際に電子はエミッタ11から放出される。この時、一般的な自己出力型ガンマ線検出器の動作と同様に、エミッタ11中の電子数の変化のために電気的に接続されている芯線15を通じて電流が流れる。ガンマ線がエミッタ11と相互作用を起こし、エミッタ11から放出される電子が多いほど発生する電流値は大きくなる。このため、芯線15及びケーブル16の先に接続されている電流計測装置20によって電流値を計測することによって自己出力型検出器1に照射されたガンマ線量あるいは線量率が監視できる。
【0044】
原子炉において少なくとも定格運転時は炉内の線量率は、原子炉出力に比例している。したがって、原子炉計装管内に設置した図1Aの自己出力型検出器1によって得られる電流値の監視によって原子炉出力が監視できる。
【0045】
ここではエミッタ11を鉛ビスマスとしたが、Pb、Biなど他の物質でも同様の機能を満たすことができる。さらに自己出力型中性子検出器として運用する場合も中性子感度が高く、融点の低い物質をエミッタ11として採用して同様の機能を満たすことができる。
【0046】
また、ここでは外部コレクタ14をSUSとしたが、必ずしもSUS製である必要はなく、Alなどの他の物質でも同様の機能を満たすことができる。
【0047】
また、絶縁材容器12として、Alを採用したが、気密容器として整形可能で、高温環境において溶融したエミッタ11を保持可能であれば、必ずしもAlである必要はない。石英ガラスなど他の物質でも同様の機能を満たすことができる。
【0048】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0049】
上述した本発明の実施例1の自己出力型検出器1は、2つ以上の区画に分離された内部領域を有する絶縁材で構成された気密な絶縁材容器12と、1以上の絶縁材容器12の内部領域に封入されたエミッタ11と、絶縁材容器12の内部領域のうち、エミッタ11が封入されていない側の1以上の内部領域に封入されたコレクタ13と、エミッタ11の封入された内部領域とコレクタ13の封入された内部領域のいずれか一方以上の領域内に設けられた支持部18と、を備える。
【0050】
このような上述した本発明の実施例1の自己出力型検出器1は、ガンマ線に対して高感度にするために必要な多層化において、絶縁材容器12に支持部18を備えることで絶縁材容器12の内壁の破損を従来の構造に比べて減らすことができるため、高温において溶解しても安定して動作する検出器とすることができる。従って、ガンマ線との相互作用確率が高く、中性子との反応断面積が比較的低く、高温で動作可能であるため、原子炉内の核計装においてガンマ線の線量率を測定可能とする。
【0051】
また、支持部18は中空構造の絶縁材で構成されるため、エミッタ11の層間またはコレクタ13の層間において電気的に接続させることが可能となり、エミッタ11とコレクタ13から電気的に接続する芯線15の数を減らすことが可能となり、構造を簡素化することができる。このため、エミッタまたはコレクタまたはその両方が融解状態で使用する自己出力型ガンマ線検出器を幅広い線量率環境に適用することができる。
【0052】
更に、エミッタ11の封入された内部領域の径方向の厚みをTe、コレクタ13の封入された内部領域の径方向の厚みをTcとしたときに、Te>Tcであることで、放射線と反応するエミッタ11を厚くなることから、より高感度な放射線の検出を実現することができる。
【0053】
なお、自己出力型検出器1において中心軸側から「エミッタ11」→「コレクタ13」→「エミッタ11」→「外部コレクタ14」よりもエミッタ11やコレクタ13を多層とする場合も、いずれか1以上の層に支持部18が存在すればよいが、この場合も全ての層に支持部18が設けられることが望ましい。これは後述する他の実施例の自己出力型検出器においても同様である。
【0054】
<実施例2>
本発明の実施例2の自己出力型検出器について図4を用いて説明する。図4は、実施例2の自己出力型検出器1Aの概略断面図である。
【0055】
上述した実施例1の自己出力型検出器1では、支持部18を周方向の任意の箇所に設ける構造としたが、図4に示す本実施例の自己出力型検出器1Aは、支持部18Aを全周方向に設けることでより絶縁材容器12の変形の抑制を向上させることを目的とした構造としている。
【0056】
図4において、支持部18Aは、エミッタ11Aの層、コレクタ13Aの層のそれぞれの層に設置され、長手方向に少なくとも1箇所以上の位置に設置される。
【0057】
このような構造では、エミッタ11Aの層とコレクタ13Aの層とは支持部18Aを境界に領域が分離されることになる。このため、分離された領域間を電気的に接続するため、支持部18Aを貫くように芯線15を設置する。支持部18Aで長手方向に分離されたエミッタ11A及びコレクタ13Aの層は、円周方向には電気的に接続されているため、分離された領域内の少なくとも1箇所以上で芯線15が接続されていればよい。
【0058】
なお、支持部18Aを支持部18と同様に中空構造とすることも可能であり、この場合は芯線15を延長させる必要は無くなる。
【0059】
その他の構成・動作は前述した実施例1の自己出力型検出器と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0060】
本発明の実施例2の自己出力型検出器においても、前述した実施例1の自己出力型検出器とほぼ同様な効果が得られる他、エミッタ11A及びコレクタ13Aの層内に支持部18Aが全周方向に形成されるため、より高強度な構造を実現することができる。
【0061】
<実施例3>
本発明の実施例3の自己出力型検出器について図5を用いて説明する。図5は、実施例3の自己出力型検出器の概略断面図である。
【0062】
上述した実施例1の自己出力型検出器1では、コレクタ13の層内に支持部18を設ける構造としたが、図5に示す本実施例の自己出力型検出器1Bでは、前述の構造に加えて、エミッタ11Bの層内にも支持部18Bを設けることでより絶縁材容器12の変形の抑制を向上させる構造としたものである。
【0063】
実施例3において、エミッタ11B及びコレクタ13Bは絶縁材容器12に封入される。実施例1との差異は、支持部18Bがコレクタ13Bの層内のみならずエミッタ11Bの層内にも設置されることである。
【0064】
長手方向の任意の位置に支持部18Bは設置され得るが、エミッタ11Bの層に設置される支持部とコレクタ13Bの層に設置される支持部18Bは、支持部18Bの中空構造内の領域が接触しない位置に設置されることが望ましい。これは、エミッタ11Bとコレクタ13Bとの電気的な接触を回避するためである。
【0065】
図5に示す自己出力型検出器1Bは、エミッタ11Bとコレクタ13Bの領域はそれぞれ層をまたいで電気的に接触していることになる。したがって、エミッタ11B及びコレクタ13Bから電流を計測するための導線(芯線15)は、少なくとも1箇所以上で接続されていればよい。
【0066】
その他の構成・動作は前述した実施例1の自己出力型検出器と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0067】
本発明の実施例3の自己出力型検出器においても、前述した実施例1の自己出力型検出器とほぼ同様な効果が得られる他、より高強度な構造を実現することができ、より配線を簡易にすることができる。
【0068】
<実施例4>
本発明の実施例4の自己出力型検出器について図6を用いて説明する。図6は、実施例4の自己出力型検出器の概略断面図である。図6は、第4実施形態に係る自己出力型検出器1Cの絶縁材容器12Cのエミッタ11Cやコレクタ13Cの体積増加の影響を緩和する構造を示す図である。
【0069】
上述した実施例1の自己出力型検出器1では、エミッタ11の物質の選択次第では高温環境において膨張する可能性があり、その対策として支持部18を設置した。図6に示す本実施例の自己出力型検出器1Cでは、支持部18の設置に加え、絶縁材容器12C内の内部領域に、空隙60を設ける構造としたものである。
【0070】
図6に示す自己出力型検出器1Cにおいて、絶縁材容器12Cは、内部にエミッタ11Cの他に空隙60が形成されており、この空隙60に気体(例えば、空気)が封入された気密な容器である。気密容器の成型を低圧環境で実施するなどして、空隙60の気体の圧力は常温あるいはエミッタ11Cの膨張前の時点で負圧であることが望ましい。空隙60の気体以外は図1Aと同様の物質で構成されている。
【0071】
温度上昇に伴い、融点の低いエミッタ11Cは膨張あるいは溶融して体積が増加する。このとき、絶縁材容器12C内に負圧の空隙60の気体を設けることで、絶縁材容器12Cに内側から大きな圧力がかかることが無く、変形や破壊などにより、気密が破れることを回避することができる。
【0072】
空隙60の気体が存在する分、絶縁材容器12C内に空間が発生する可能性はあるが、エミッタ11Cが溶融あるいは膨張したときにエミッタ11Cと芯線15が接触し、電気的に接続できるようにエミッタ11Cの体積、絶縁材容器12Cの容積、芯線15の絶縁材容器12C内での深さを適切に調整している。
【0073】
このような構成とすることで、エミッタ11Cが高温において体積が増加した場合で、気密が破れること無く、自己出力型検出器1Cとして動作することが可能である。このため、ケーブル16の先に接続されている電流計測装置20によって電流値を計測することによって自己出力型検出器1Cに照射されたガンマ線量あるいは線量率が監視できる。
【0074】
ここでは絶縁材容器12C内の空隙60の気体を負圧の空気としているが、HeやArなどの希ガスやCOなどの気体でも良く、あるいは負圧の空隙60の気体の代わりに真空としても同様の動作が可能である。
【0075】
その他の構成・動作は前述した実施例1の自己出力型検出器1と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0076】
本発明の実施例4の自己出力型検出器1Cにおいても、前述した実施例1の自己出力型検出器1とほぼ同様な効果が得られる他、溶融したエミッタ11C等の膨張により強い構造となることから、更なる信頼性の向上を達成することができる。
【0077】
<その他>
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0078】
例えば、実施例1乃至実施例4では、自己出力型検出器1,1A,1B,1Cは、その中心軸に対して垂直な断面の形状が円の形態について説明したが、断面は円以外にも三角形や四角形などの多角形の形状とすることができる。
【符号の説明】
【0079】
1,1A,1B,1C…自己出力型検出器
11,11A,11B,11C…エミッタ
12,12C…絶縁材容器
13,13A,13B,13C…コレクタ
14…外部コレクタ
15…芯線
16…ケーブル
17…ハウジング
18,18A,18B…支持部
20…電流計測装置
60…空隙
L…直線
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6