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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171071
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】超伝導体及び超伝導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 12/06 20060101AFI20241204BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
H01B12/06
H01B13/00 565D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087946
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】513067727
【氏名又は名称】高知県公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】山下 愛智
(72)【発明者】
【氏名】水口 佳一
(72)【発明者】
【氏名】山中 慎大
(72)【発明者】
【氏名】前田 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】大野 直子
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 洸太
【テーマコード(参考)】
5G321
【Fターム(参考)】
5G321AA02
5G321AA04
5G321BA03
5G321CA04
5G321CA24
5G321CA27
5G321CA28
5G321CA42
5G321DB33
5G321DB37
5G321DB39
(57)【要約】
【課題】照射前後における転位温度の減少が小さい高温超伝導体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される超伝導体
REBaCu7-δ・・・(1)
(式(1)中、REはY、Gd及びXで構成され、Xは、La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb及びLuからなる群から選択される一種又は複数種の元素で構成され、0≦δ≦1)。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される超伝導体。
REBaCu7-δ・・・(1)
(式(1)中、REはY、Gd及びXで構成され、
Xは、La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb及びLuからなる群から選択される一種又は複数種の元素で構成され、
0≦δ≦1)
【請求項2】
上記式(1)において、Xは、Dyと、La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Tb,Ho,Er,Tm,Yb及びLuからなる群から選択される一種又は複数種の元素と、で構成されている、請求項1に記載の超伝導体。
【請求項3】
五種類以上の希土類元素を含み、
REサイトの混合エントロピーΔSmixが1.5R以上である、請求項1又は2に記載の超伝導体。
【請求項4】
上記式(1)において、REは、一般式(2)で表される、請求項1又は2に記載の超伝導体。
Gd・・・(2)
(0.05≦a≦0.9、0.05≦b≦0.9、0.05≦c≦0.9)
【請求項5】
表面が単結晶で構成された下地層を準備する準備工程と、
前記下地層上に超伝導体を蒸着させる蒸着工程と、を有し、
前記蒸着工程において、一般式(1)で表されるターゲットを用いる、超伝導体の製造方法。
REBaCu7-δ・・・(1)
(式(1)中、REはY、Gd及びXで構成され、
Xは、La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb及びLuからなる群から選択される一種又は複数種の元素で構成され、
0≦δ≦1)
【請求項6】
前記蒸着工程において、前記ターゲットを前記下地層と対向する位置に配置し、前記ターゲットに対してパルスレーザーを照射する、請求項5に記載の超伝導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導体及び超伝導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー、環境、及び資源問題を解決できる高効率かつ低電流損失の電気機器の一つに低電流損失の材料として超伝導体を用いた送電ケーブル、超伝導電磁石、超伝導電流リード等の超伝導機器が挙げられる(例えば、特許文献1)。特許文献1では、NbSn化合物超伝導体、NbAl化合物超伝導体を用いることが開示されている。
【0003】
超伝導体は、核融合炉においてプラズマを閉じ込めるためのマグネットとしても活用されている。核融合炉における超伝導体の活用方法の例としては、中心柱を有するトロイダルプラズマチャンバを含む核融合炉におけるトロイダル磁場コイルを構成する材料として用いられることが知られている(例えば、特許文献2)。トロイダル磁場コイルは、プラズマを閉じ込めるための磁場を作るコイルである。
【0004】
核融合炉を実用発電プラントとして成立させるためには高い経済性を得ることが課題である。超伝導体は、核融合炉に活用される場合、超伝導状態を示す温度に維持される必要がある。そのため、超伝導体に係るコストの比率は高い。超伝導体の温度を転位温度以下の温度に維持するためには、冷却手段が用いられる。特許文献2では、トロイダル磁場コイルとして具体的な材料の言及はないものの転位温度の高い高温超伝導体(HTS)コイルが用いられると記載されている。
【0005】
国際熱核融合炉(ITER)計画においては、磁気閉じ込め方式核融合炉の実現のために、高性能・高品質の超伝導素線の材料としてNbSn超伝導素線を用いることが記載されている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2013/154187号
【特許文献2】特表2016-534327号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】磯野高明(1997).「日本における国際熱核融合炉(ITER)用Nb3Sn素線の開発」,p.150-157.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
公知の通り、核融合炉は、重水素と三重水素の核融合によってHe及び中性子を生成する核融合反応を活用する。そのため、核融合炉においては、中性子線が生成されることに伴い、トロイダル磁場コイルには、高い照射耐性が求められる。しかしながら、特許文献1及び非特許文献1に開示されるようなNbSn超伝導体は、中性子などによる重い量子線、高エネルギーの粒子が照射された照射後においては、照射前と比べ、転位温度が低下してしまう。
【0009】
特許文献2には、超伝導体として具体的な材料が何ら示されていない。このような従来技術から、照射前後における転位温度の減少が小さい高温超伝導体を発見することが求められている。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされた発明であり、高エネルギーの粒子の照射前後における転位温度の減少が小さい高温超伝導体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を提供する。
【0012】
[1]本発明の一態様に係る超伝導体は、一般式(1)で表される。
REBaCu7-δ・・・(1)
(式(1)中、REはY、Gd及びXで構成され、
Xは、La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb及びLuからなる群から選択される一種又は複数種の元素で構成され、
0≦δ≦1)
【0013】
[2]上記[1]の超伝導体は、上記式(1)において、Xは、Dyと、La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Tb,Ho,Er,Tm,Yb及びLuからなる群から選択される一種又は複数種の元素と、で構成されていてもよい。
【0014】
[3]上記[1]又は[2]の超伝導体は、五種類以上の希土類元素を含み、REサイトの混合エントロピーΔSmixが1.5R以上であってもよい。
【0015】
[4]上記[1]~[3]のいずれかの超伝導体は、上記式(1)において、REは、一般式(2)で表されていてもよい。
Gd・・・(2)
(0.05≦a≦0.9、0.05≦b≦0.9、0.05≦c≦0.9)
【0016】
[5]本発明の一態様に係る超伝導体の製造方法は、表面が単結晶で構成された下地層を準備する準備工程と、前記下地層上に超伝導体を蒸着させる蒸着工程と、を有し、前記蒸着工程において、一般式(1)で表されるターゲットを用いる。
REBaCu7-δ・・・(1)
(式(1)中、REはY、Gd及びXで構成され、
Xは、La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb及びLuからなる群から選択される一種又は複数種の元素で構成され、
0≦δ≦1)
【0017】
[6]上記[5]の超伝導体の製造方法は、前記蒸着工程において、前記ターゲットを前記下地層と対向する位置に配置し、前記ターゲットに対してパルスレーザーを照射してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高エネルギーの粒子の照射前後における転位温度の減少が小さい高温超伝導体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る超伝導体の結晶構造の模式図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る超伝導線材の部分断面斜視図である。
図3図3は、図2の超伝導線材に備えられる超伝導積層体の構成を説明するための図である。
図4】本発明の一実施形態に係る超伝導体の製造方法を説明する図であって、PLD法により蒸着工程を行う様子を示す図である
図5図5(a)は、実施例1の超伝導体に対してHeイオン照射前後の磁化の温度依存性を示すグラフであり、図5(b)は、図5(a)の転位温度T近傍の拡大図である。
図6図6(a)は、実施例2の超伝導体に対してHeイオン照射前後の磁化の温度依存性を示すグラフであり、図6(b)は、図6(a)の転位温度T近傍の拡大図である。
図7図7(a)は、実施例3の超伝導体に対してHeイオン照射前後の磁化の温度依存性を示すグラフであり、図7(b)は、図7(a)の転位温度T近傍の拡大図である。
図8】比較例1の超伝導体に対してHeイオン照射前後の磁化の温度依存性を示すグラフである。
図9図9(a)は、比較例2の超伝導体に対してHeイオン照射前後の磁化の温度依存性を示すグラフであり、図9(b)は、図9(a)の転位温度Tc近傍の拡大図である。
図10図10(a)は、実施例1の試料に対しHeイオン照射前の臨界電流密度を示すグラフであり、図10(b)は、実施例1の試料に対しHeイオン照射後の臨界電流密度を示すグラフである。
図11図11(a)は、実施例2の試料に対しHeイオン照射前の臨界電流密度を示すグラフであり、図11(b)は、実施例2の試料に対しHeイオン照射後の臨界電流密度を示すグラフである。
図12図12(a)は、実施例3の試料に対しHeイオン照射前の臨界電流密度を示すグラフであり、図12(b)は、実施例3の試料に対しHeイオン照射後の臨界電流密度を示すグラフである。
図13図13(a)は、比較例1の試料に対しHeイオン照射前の臨界電流密度を示すグラフであり、図13(b)は、比較例1の試料に対しHeイオン照射後の臨界電流密度を示すグラフである。
図14図14(a)は、比較例2の試料に対しHeイオン照射前の臨界電流密度を示すグラフであり、図14(b)は、比較例2の試料に対しHeイオン照射後の臨界電流密度を示すグラフである。
図15図15(a)は、比較例3の試料に対しHeイオン照射前の臨界電流密度を示すグラフであり、図15(b)は、比較例3の試料に対しHeイオン照射後の臨界電流密度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態の一例について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。このため、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっている場合がある。
【0021】
[超伝導体]
図1は、本発明の一実施形態に係る超伝導体の結晶構造の模式図である。
本発明の一実施形態に係る超伝導体は、一般式(1)で表される、超伝導体である。
REBaCu7-δ・・・(1)
【0022】
式(1)中、REは、希土類金属元素を表す。希土類元素REの原子サイトは、図1において符号REで示されている。本発明の一実施形態に係る超伝導体は、希土類元素REの原子サイトに、三種類以上の希土類元素Y(イットリウム)、Gd(ガドリニウム)及びXが存在する。Xは、La(ランタン),Ce(セリウム),Pr(プラセオジム),Nd(ネオジム),Sm(サマリウム),Eu(ユウロピウム),Tb(テルビウム),Dy(ジスプロシウム),Ho(ホルミウム),Er(エルビウム),Tm(ツリウム),Yb(イッテルビウム)及びLu(ルテチウム)からなる群から選択される一種又は複数種の希土類元素である。式(1)中、δは、酸素欠損量を表す。δは、0≦δ≦1の範囲にあり、0≦δ≦0.6の範囲にあることが好ましい。
【0023】
上記式(1)において、REは、一般式(2)で表されていてもよい
Gd・・・(2)
(0.05≦a≦0.9、0.05≦b≦0.9、0.05≦c≦0.9)。
【0024】
式(1)中、希土類元素REは、Y及びGdに加え、Dy及びYbの少なくとも一方を含むことが好ましい。すなわち、希土類元素REは、Y,Gd及びDyを含むもの、Y,Gd及びYbを含むもの、或いは、Y,Gd,Dy及びYbを含むものであることが好ましい。希土類元素REがY,Gd及びDyを含むとき、Xは、Dyと、La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Tb,Ho,Er,Tm,Yb及びLuからなる群から選択される一種又は複数種の元素と、で構成されている。希土類元素REがY,Gd及びYbを含むとき、Xは、Ybと、La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Tb,Ho,Er,Tm及びLuからなる群から選択される一種又は複数種の元素と、で構成されている。希土類元素REがY,Gd,Dy及びYbを含むとき、Xは、Dy及びYbの他に、La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Tb,Ho,Er,Tm及びLuからなる群から選択される元素を含んでいてもよく、含まなくてもよい。
【0025】
本実施形態の超伝導体は、希土類元素REの原子サイトの混合エントロピーΔSmixが1.1R以上であり、1.39R以上であることが好ましく、1.5R以上のハイエントロピー型超伝導体であることが好ましい。ここで、Rは、ガス定数を表す。ハイエントロピー型超伝導体は、例えば、希土類元素REの原子サイトに五種類以上の希土類元素が存在する。このような超伝導体としては、例えば、希土類元素REとしてY,Gd,Dy,Ho及びYbを含むものが挙げられる。希土類元素REとしてY,Gd,Dy,Ho及びYbを含む、式(1)に一般式が表される超伝導体は、五種類以上の希土類元素を含み、上記希土類元素の他にLa,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Tb,Er,Tm及びLuからなる群から選択される一種以上を含んでいてもよい。このようなY,Gd及びDyを含む、ハイエントロピー型超伝導体は、高エネルギーの粒子の照射後であっても高い転位温度T及び高い臨界電流密度Jを示す。臨界電流密度Jは、超伝導体の単位面積当たりの臨界電流値である。
【0026】
また、超伝導体は、核融合炉用の超伝導磁石に用いられる場合があることを想定して、放射能化した際の半減期が長いものの使用を避けることが好ましい。上記X元素のうち、Sm及びEuは、他のX元素と比較し、放射能化した際の半減期が長い。そのため、上記X元素は、Sm及びEu以外の元素、すなわち、Dy、La,Ce,Pr,Nd,Tb,Ho,Er,Tm,Yb及びLuからなる群から選択される一種又は複数種であることが好ましい。
【0027】
本実施形態に係る超伝導体によれば、希土類元素REを三種類以上含んでおり、希土類元素REの原子サイトにおいて、高い混合エントロピーΔSmixが示される。また、高い混合エントロピーΔSmixに起因して固溶体が形成されやすい。従って、高い構造安定性及び耐熱性、耐酸性を示す。さらに、本実施形態に係る超伝導体は、上記の通り、Y元素、Gd元素、及び他の希土類元素であるX元素を有することにより、中性子等の重い量子線、高エネルギーの粒子が照射される核融合炉などに用いられた場合であっても、高エネルギーの粒子が照射される前後における転位温度の減少を小さくできる。すなわち、本実施形態によれば、転位温度に関して優れた照射耐性を示す超伝導体を実現できる。従って、本実施形態の超伝導体によれば、超伝導体としての機能を示す温度に維持するための冷却手段を簡便にする、或いは、冷却に必要なエネルギーを小さくできる。
【0028】
[超伝導線材]
図2は、本発明の一実施形態に係る超伝導線材の部分断面斜視図である。図3は、図2の超伝導線材に備えられる超伝導積層体の構成を説明するための図である。図3は、便宜上、各層の端部をずらして示している。
【0029】
図2に示される超伝導線材10は、超伝導積層体5及び安定化層6を備える。安定化層6は、超伝導積層体5に沿って延在し、その主面及び側面と接するように設けられる。安定化層6は、超伝導積層体5を囲むように形成されている。安定化層6は、詳細を後述する超伝導積層体5に含まれる超伝導層が常伝導状態に転位したときに発生するか電流を転流させるバイパス部としての機能を有する。
【0030】
安定化層6は、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、銀等の金属が挙げられる。安定化層6として使用可能な銅合金は、例えばCu-Zn合金、Cu-Ni合金である。安定化層6の厚さは、例えば数μm~300μmである。安定化層6は、めっき(例えば電解めっき)によって形成することができる。
【0031】
図3に示される超伝導積層体5は、基板1、中間層2及び超伝導層3を備える。基板1は、例えば、金属で形成されている。基板1は、例えば、ニッケル合金;ステンレス鋼;ニッケル鋼に集合組織を導入した配向Ni-W合金である。基板1の厚さは、例えば、10~500μmである。基板1の主面S1上には、中間層2が設けられることが好ましいが、中間層2は省略可能である。図3に示されるような基板1、中間層2及び超伝導層3が順に形成された超伝導積層体5では、基板1及び中間層2を合わせて下地層12と称し、中間層2が省略され、基板1及び基板1に接して超伝導層3が形成された超伝導体においては、基板1を下地層と称する。
【0032】
中間層2は、基板1及び超伝導層3の間に設けられる。中間層2は、例えば、複数の層で構成されている。図3においては、中間層2が、基板1に近い側から順に、第1層2a、第2層2b及び第3層2cを備える例が示されている。中間層2は、例えば、複数数の層として、それぞれ機能の異なるベッド層、配向層及びキャップ層等を有する。中間層2は、例えば、超伝導層3側の表面及びその近傍が単結晶で構成されている。
【0033】
第1層2aは、例えば、ベッド層である。ベッド層は、基板1及び超伝導層3の界面における反応を低減し、その上に形成される層の配向性を向上させる役割を担う。ベッド層の材料としては、例えば、CeO、Er、Y、Dy、Eu、Ho、La等が挙げられる
【0034】
第2層2bは、例えば、配向層である。配向層は、その上にキャップ層が形成される場合、キャップ層の結晶配向性を制御するために設けられる。キャップ層としては、例えば、GdZr、MgO、ZrO-Y(YSZ)、SrTiO、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等の金属酸化物で形成されている。配向層は、IBAD(Ion Beam Assisted Deposition)法で形成されたものを用いることが好ましい。
【0035】
第3層2cは、例えば、キャップ層である。キャップ層は、配向層の表面に成膜され、結晶粒が面内方向に自己配向し得る材料からなる。キャップ層としては、例えば、CeO,Y、Al、Gd、ZrO、YSZ、Ho、Nd、LaMnO等で形成されている。
【0036】
超伝導層3は、中間層2のうち、基板1から最も離れた面S2上に形成されている。超伝導層3の厚みは、例えば、0.5μm~10μmである。
【0037】
超伝導層3は、上記実施形態に係る超伝導体で構成されている。すなわち、超伝導層3は、一般式(1)で表される超伝導体で構成されている。
REBaCu7-δ・・・(1)
式(1)中、REはY、Gd及びXで構成され、
Xは、La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb及びLuからなる群から選択される一種又は複数種の元素で構成されており、0≦δ≦1を満たす。
【0038】
図3には、下地層12が基板1及び中間層2を備える超伝導積層体5を示しているが、本実施形態に係る超伝導積層体5は、表面及びその近傍が単結晶で構成されているものであれば、単一の材料で構成された層であってもよい。すなわち、下地層12は、一層からなる物であってもよい。例えば、下地層は、単結晶SrTiO基板、或いは、単結晶MgO基板で構成されていてもよい。
【0039】
超伝導線材10は、巻回されることで、コイルが形成される。本発明の一実施形態に係るコイルは、例えば、核融合炉においてプラズマ閉じ込めのための磁場を作るトロイダル磁場(toroidal magnetic field)コイルである。本実施形態に係るコイルは、例えば、超伝導線材が、巻芯に、複数回、巻回された多層巻コイルである。本実施形態に係るコイルは、巻芯に超伝導線材を巻回することで作製される。
【0040】
[超伝導体の製造方法]
以下、上記実施形態に係る超伝導体を製造する方法について説明する。本発明の一実施形態に係る超伝導体の製造方法は、表面が単結晶で構成された下地層12上を準備する準備工程、及び、下地層12上に超伝導体を蒸着させる蒸着工程を有する。本実施形態に係る超伝導体の製造方法は、蒸着工程において、下記一般式(1)で表されるターゲットを用いる。
REBaCu7-δ・・・(1)
(式(1)中、REはY、Gd及びXで構成され、
Xは、La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb及びLuからなる群から選択される一種又は複数種の元素で構成され、
0≦δ≦1を満たす。)
【0041】
以下、超伝導積層体を製造する方法を例に、超伝導体を製造する方法について説明する。
【0042】
(準備工程)
先ず、表面が単結晶で構成された下地層12を準備する。下地層12は、例えば、基板1のみ或いは基板1及び中間層2で構成されている。図3においては、下地層12が基板1及び基板1上に形成された中間層2で構成される例を示すが、この例に限定されず、中間層2を省略可能である。中間層2は、例えば、基板1に対してPLD法等の物理気相成長法、或いは、化学気相成長法といった蒸着法、焼成により形成することができる。準備工程は、例えば、下地層12のうち少なくとも一表面及びその近傍が単結晶で構成されるように処理を行う。準備工程は、例えば、形成する中間層2の数に応じて、所定の回数に分けて行う。
【0043】
(ターゲット準備工程)
次いで、蒸着工程に用いるターゲットを準備する。ターゲットは、所望の超伝導体の組成に対応する組成物である。ターゲットを構成する組成物の組成は、例えば、作製する超伝導体の組成と同じである。ターゲットは、例えば、作製する超伝導体と同じ組成を有する多結晶体である。ターゲットの作製は、例えば、所定の金属元素の単体又は酸化物を所定の比率で混合し、焼成により行う。本実施形態では、希土類元素REとして少なくともY及びGdを必須に含み、さらにX元素として他の希土類元素を一種又は複数種有する超伝導体を作製するため、希土類元素の単体又は酸化物を三種類以上混合し、四種類以上混合することが好ましく、五種類以上混合することがより好ましい。ターゲットを作製するための焼成は、一回行ってもよく、複数回に分けて行ってもよい。
【0044】
(蒸着工程)
次いで、下地層12上に超伝導体を蒸着させる。蒸着工程は、例えば、パルスレーザー堆積(PLD; Pulsed Laser Deposition)法や分子線エピタキシー(MBE; Molecular Beam Epitaxy)、スパッタリング法等の物理気相成長(PVD; Physical Vapor Deposition)法により行う。蒸着工程は、ターゲットTを下地層12と対向する位置に配置し、ターゲットTに対してレーザーを照射することが好ましい。
【0045】
図4は、本発明の一実施形態に係る超伝導体の製造方法を説明する図であって、PLD法により蒸着工程を行う様子を示す図である。図4を参照しながらPLD法について説明する。PLD法は、PLD装置を用いて行う。ターゲットT及び下地層12は、PLD装置のチャンバー内に、対向するように設置される。チャンバー内の雰囲気は、例えば、大気雰囲気とすることができる。蒸着工程は、例えば、チャンバー内が低酸素分圧となるように調整するとともに、下地層12を加熱しながら行う。
【0046】
チャンバー内の酸素分圧は、例えば、1×10-5Pa以上50Pa以下にすることができ、1Pa以上20Pa以下にすることが好ましい。下地層の温度(設定温度)は、例えば、200℃以上1000℃以下に調整しながら行うことができる。
【0047】
PLD装置は、ターゲットTに対してレーザー光Lを照射し、集光レンズ等を用いてレーザー光LをターゲットTの表面に集光させる。ターゲットTに対して照射するレーザー光Lとしては、パルスレーザーを用いる。レーザー密度は、例えば、0.1J/cm以上5J/cm以下にする。
【0048】
ターゲットTの表面にレーザーを集光させることにより、ターゲットTの構成粒子を叩き出し、或いは、蒸発させて、プルームPを発生させる。プルームPに含まれるターゲットTの構成粒子が下地層12の表面に堆積することで、下地層12の表面にターゲットTの構成粒子で構成された薄膜が形成される。従って、ターゲットTの構成粒子の組成を変更することで下地層12に形成される薄膜の組成を変更可能である。すなわち、所望の組成の超伝導体を下地層12上に形成する場合、所望の超伝導体と同じ組成のターゲットTを用いればよい。
【0049】
従って、ターゲットTとしては、上記式(1)で表されるものを用いることができる。式(1)中、希土類元素REにおける元素Xは、Dyと、La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Tb,Ho,Er,Tm,Yb及びLuからなる群から選択される一種又は複数種の元素と、を含むことが好ましく、これらの元素で構成されていることがより好ましい。
式(1)中、δは、酸素欠損量を表す。δは、0≦δ≦1の範囲にある。
【0050】
上記式(1)において、REは、一般式(2)で表されていてもよい。
Gd・・・(2)
(0.05≦a≦0.9、0.05≦b≦0.9、0.05≦c≦0.9)
【0051】
式(1)中、希土類元素REは、Y及びGdに加え、Dy及びYbの少なくとも一方を含むことが好ましい。すなわち、希土類元素REは、Y,Gd及びDyを含むもの、Y,Gd及びYbを含むもの、或いは、Y,Gd,Dy及びYbを含むものであることが好ましい。
【0052】
五種類以上の希土類元素を含む超伝導体を作製するために、ターゲットTは五種類以上の希土類元素を含むことが好ましい。例えば、希土類元素REとしてY,Gd,Dy,Ho及びYbを含む超伝導体を作製するために、ターゲットTは、Y,Gd,Dy,Ho及びYbを含むことが好ましい。このようなターゲットを用いることで形成される超伝導体は、混合エントロピーが高いものとなり、高エネルギーの粒子の照射後であっても臨界電流密度が高いものとなる。
【0053】
また、形成される超伝導体が、放射能化した際の半減期が長いものになることを抑制する観点で、ターゲットTに含まれる式(1)で表される組成物のX元素は、Sm及びEu以外の元素、すなわち、Dy,La,Ce,Pr,Nd,Tb,Ho,Er,Tm,Yb及びLuからなる群から選択される一種又は複数種であることが好ましい。
【0054】
下地層12上に超伝導体で構成された超伝導層を形成した後、炉冷し、超伝導積層体を取り出す。炉冷する際、酸素分圧は、超伝導体薄膜を成膜中の酸素分圧よりも高い値に設定することができる。例えば、炉冷する際の酸素分圧は、大気における酸素分圧と同等にすることができる。
【0055】
本実施形態に係る超伝導体の製造方法によれば、上記実施形態に係る超伝導体が薄膜として形成された超伝導線材を形成することができる。尚、上記例では、超伝導線材を形成する方法について説明したが、超伝導体で構成された薄膜を製造する方法は、下地層12として、ただ一つの層からなる単結晶基板を準備し、蒸着すればよく、下地層12として複数の層を有するものを用いなくてもよい。
【実施例0056】
[実施例1]
以下、本発明の実施例を説明する。本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0057】
先ず、下地層の準備をした。基板として、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)単結晶基板を用意した。
【0058】
次いで、ターゲットの準備をした。ターゲットの準備では、先ず、ターゲットの材料として、Y2O3(純度99.9%)、Gd2O3(純度99.9%)、Dy2O3(純度99.9%)、BaCO3(純度98%)及びCuO(純度99.9%)を物質量比1/3:1/3:1/3:2:3となるように秤量し、乳鉢で混合して混合粉末を準備した。
【0059】
次いで、混合粉末を坩堝に移し、1次焼成(仮焼)として930℃で20時間加熱し、室温まで炉冷した。
【0060】
次いで、仮焼後の混合粉末をメノウ乳鉢で混合し、ペレット状に加圧成形した。次いで、2次焼成として、当該ペレット状の混合粉末を930℃で8時間、続いて300℃で18時間加熱し、室温まで炉冷した。
【0061】
次いで、下地層及びターゲットが互いに対向するようにチャンバー内に設置した。次いで、ロータリーポンプを使用してチャンバー内が酸素分圧10Paになるまで真空引きを行った。ヒーターを用いて下地層を加熱し、設定温度920℃となるようにした。下地層が設定温度に達した後、10分間放置して安定化させた。
【0062】
ターゲット表面の不純物を除去するために、シャッターを閉じてターゲットを自転及び公転させ、プレアブレーションを行った。次いで、シャッターを開け、レーザーエネルギー密度1.3J/cmに設定して成膜を行った。成膜中、チャンバー内には、酸素を導入しながら排気量をバルブ調整して、チャンバー内の酸素分圧を1×10Paに維持した。
【0063】
成膜終了後、ヒーターの電源を切り、酸素分圧を保ちながら下地層の温度を下げた。下地層の温度が450℃に達した後、室温まで酸素分圧2×10Paとして90分間かけて炉冷した。このようにして、組成式Y1/3Gd1/3Dy1/3BaCu7-δで表される超伝導体で構成された超伝導層が基板及び中間層で構成された下地層上に形成された超伝導積層体を作製した。
【0064】
[実施例2]
ターゲットを変更した点を除き、実施例1と同様の方法で、組成式Y0.25Gd0.25Dy0.25Ho0.25BaCu7-δで表される超伝導体で構成された超伝導層が下地層上に形成された超伝導積層体を作製した。
【0065】
実施例2においては、以下の手順でターゲットの準備をした。ターゲットの準備では、先ず、ターゲットの材料として、Y2O3(純度99.9%)、Gd2O3(純度99.9%)、Dy2O3(純度99.9%)、Ho2O3(純度99.9%)、BaCO3(純度98%)及びCuO(純度99.9%)を物質量比で1/4:1/4:1/4:2:3となるように秤量し、乳鉢で混合して混合粉末を準備した。混合粉末を用いてターゲットを作製するための焼成条件は、実施例1と同様にした。
【0066】
[実施例3]
ターゲットを変更した点を除き、実施例1と同様の方法で、組成式Y0.2Gd0.2Dy0.2Ho0.2Yb0.2BaCu7-δで表される超伝導体で構成された超伝導層が下地層上に形成された超伝導積層体を作製した。
【0067】
実施例3においては、以下の手順でターゲットの準備をした。ターゲットの準備では、先ず、ターゲットの材料として、Y2O3(純度99.9%)、Gd2O3(純度99.9%)、Dy2O3(純度99.9%)、Ho2O3(純度99.9%)、Yb2O3(純度99.9%)、BaCO3(純度98%)及びCuO(純度99.9%)を物質量比で、1/5:1/5:1/5:1/5:1/5:2:3となるように秤量し、乳鉢で混合して混合粉末を準備した。混合粉末を用いてターゲットを作製するための焼成条件は、実施例1と同様にした。
【0068】
[比較例1]
ターゲットを変更した点を除き、実施例1と同様の方法で組成式YBaCu7-δで表される超伝導体で構成された超伝導層が下地層上に形成された超伝導積層体を作製した。
【0069】
比較例1においては、以下の手順でターゲットの準備をした。ターゲットの準備では、先ず、ターゲットの材料として、Y2O3(純度99.9%)、BaCO3(純度98%)及びCuO(純度99.9%)を物質量比で、1:2:3(mol)となるように秤量し、乳鉢で混合して混合粉末を準備した。混合粉末を用いてターゲットを作製するための焼成条件は、実施例1と同様にした。
【0070】
[比較例2]
ターゲットを変更した点を除き、実施例1と同様の方法で、組成式Y0.25Sm0.25Eu0.25Dy0.25BaCu7-δで表される超伝導体で構成された超伝導層が下地層上に形成された超伝導積層体を作製した。
【0071】
比較例3においては、以下の手順でターゲットの準備をした。ターゲットの準備では、先ず、ターゲットの材料として、Y2O3(純度99.9%)、Sm2O3(純度99.9%)、Eu2O3(純度99.9%)、Dy2O3(純度99.9%)、BaCO3(純度98%)及びCuO(純度99.9%)を物質量比で、1/4:1/4:1/4:1/4: 2:3(mol)となるように秤量し、乳鉢で混合して混合粉末を準備した。混合粉末を用いてターゲットを作製するための焼成条件は、実施例1と同様にした。
【0072】
(超伝導転位温度に関する照射耐性の評価)
実施例1~実施例3、比較例1及び比較例2の超伝導積層体に対し、磁気特性測定システム(MPMS-3)を用いて、超伝導体の磁化の温度依存性を測定した。次いで、実施例1~実施例3及び比較例1の超伝導体に対し、中性子線と同程度のエネルギー(1MeV)にしたHeイオンを照射した。次いで、照射後の超伝導体に対し、再度磁化の温度依存性を測定した。実施例1~実施例3の超伝導体の高エネルギーHeイオンを照射する前後の超伝導転位温度Tを確認し、照射耐性を評価した。超伝導転位温度Tは、ゼロフィールドクーリング(ZFC)における磁化の落ち始めの温度として評価した。
【0073】
図5(a)は、実施例1の超伝導体に対してHeイオン照射前後の磁化の温度依存性を示すグラフであり、図5(b)は、図5(a)の転位温度T近傍の拡大図である。図5(a)及び図5(b)に示されるように、実施例1の超伝導体は、Heイオン照射前において、超伝導転位温度Tが86.5Kであったのに対し、Heイオン照射後において、超伝導転位温度が86Kであった。以下、Heイオン照射前の時間の温度依存性を示すグラフにおいては、グラフが重なることにより、一方のグラフの一部または全体が見えない箇所があるため、そのような場合に対応できるように、転位温度T近傍の拡大図を合わせて示している。
【0074】
図6(a)は、実施例2の超伝導体に対してHeイオン照射前後の磁化の温度依存性を示すグラフであり、図6(b)は、図6(a)の転位温度T近傍の拡大図である。図6(a)及び図6(b)に示されるように、実施例2の超伝導体は、Heイオン照射前において、超伝導転位温度Tが84.5Kであったのに対し、Heイオン照射後において、超伝導転位温度が83.5Kであった。
【0075】
図7(a)は、実施例3の超伝導体に対してHeイオン照射前後の磁化の温度依存性を示すグラフであり、図7(b)は、図7(a)の転位温度T近傍の拡大図である。図7(a)及び図7(b)に示されるように、実施例3の超伝導体は、Heイオン照射前において、超伝導転位温度Tが82.8Kであったのに対し、Heイオン照射後において、超伝導転位温度が81.8Kであった。
【0076】
図8は、比較例1の超伝導体に対してHeイオン照射前後の磁化の温度依存性を示すグラフである。図8に示されるように、比較例1の超伝導体は、Heイオン照射前において、超伝導転位温度Tが86Kであったのに対し、Heイオン照射後において、超伝導転位温度が73.0Kであった。
【0077】
図9(a)は、比較例2の超伝導体に対してHeイオン照射前後の磁化の温度依存性を示すグラフであり、図9(b)は、図9(a)の転位温度Tc近傍の拡大図である。図9(a)及び図9(b)に示されるように、比較例2の超伝導体は、Heイオン照射前において、超伝導転位温度Tが85.5Kであったのに対し、Heイオン照射後において、超伝導転位温度が40.0Kであった。
【0078】
図8図9(a)及び図9(b)に示される通り、比較例1の超伝導体では、高エネルギーHeイオン照射により超伝導転位温度が13K減少し、比較例2の超伝導体は高エネルギーHeイオン照射により超伝導転位温度が45.5K減少しているのに対し、図5(a)~図7(b)に示されるように、実施例1~実施例3の超伝導体では、高エネルギーHeイオン照射による超伝導転位温度の減少温度が1K以下であり、優れた照射耐性を有する高温超伝導体であることが確認された。一方で、比較例1の超伝導体では、高エネルギーHeイオン照射後において転位温度が大きく減少することから、高温超伝導体としての機能が大きく劣化することがわかる。具体的には、比較例1、比較例2の試料の超伝導転移温度は、高エネルギーHeイオン照射後において、それぞれ73.0K、40.0Kであり、液体窒素が示す温度(77.0K)よりも低い値を示す。従って、比較例1の組成物は、高エネルギーの粒子の照射前後、液体窒素温度で超伝導体として活用することができない。
【0079】
(臨界電流密度に関する照射耐性の評価)
実施例1~実施例3及び比較例1~下記比較例3の超伝導体に対して、磁化の磁場依存性を測定することにより臨界電流密度Jを測定した。臨界電流密度Jの測定は、それぞれの試料に対し、2K,4.2K,10K,20K,50K,77.3Kの各温度において、0~7Tの磁場環境下で評価した。
【0080】
[比較例3]
ターゲットを変更した点を除き、実施例1と同様の方法で、組成式Y0.2Sm0.2Eu0.2Dy0.2Ho0.2BaCu7-δで表される超伝導体で構成された超伝導層が下地層上に形成された超伝導積層体を作製した。
【0081】
比較例3においては、以下の手順でターゲットの準備をした。ターゲットの準備では、先ず、ターゲットの材料として、Y2O3(純度99.9%)、Sm2O3(純度99.9%)、Eu2O3(純度99.9%)、Dy2O3(純度99.9%)、Ho2O3(純度99.9%)、BaCO3(純度98%)及びCuO(純度99.9%)を物質量比で、1/5:1/5:1/5:1/5:1/5:2:3(mol)となるように秤量し、乳鉢で混合して混合粉末を準備した。混合粉末を用いてターゲットを作製するための焼成条件は、実施例1と同様にした。
【0082】
図10(a)は、実施例1の試料に対しHeイオン照射前の臨界電流密度を示すグラフであり、図10(b)は、実施例1の試料に対しHeイオン照射後の臨界電流密度を示すグラフである。
図11(a)は、実施例2の試料に対しHeイオン照射前の臨界電流密度を示すグラフであり、図11(b)は、実施例2の試料に対しHeイオン照射後の臨界電流密度を示すグラフである。
図12(a)は、実施例3の試料に対しHeイオン照射前の臨界電流密度を示すグラフであり、図12(b)は、実施例3の試料に対しHeイオン照射後の臨界電流密度を示すグラフである。
図13(a)は、比較例1の試料に対しHeイオン照射前の臨界電流密度を示すグラフであり、図13(b)は、比較例1の試料に対しHeイオン照射後の臨界電流密度を示すグラフである。
図14(a)は、比較例2の試料に対しHeイオン照射前の臨界電流密度を示すグラフであり、図14(b)は、比較例2の試料に対しHeイオン照射後の臨界電流密度を示すグラフである。
図15(a)は、比較例3の試料に対しHeイオン照射前の臨界電流密度を示すグラフであり、図15(b)は、比較例3の試料に対しHeイオン照射後の臨界電流密度を示すグラフである。
上記いずれのグラフにおいても、臨界電流密度は、低温ほど低く高温程高くなり、また、高磁場環境下ほど低く低磁場環境下ほど高くなる相関が確認された。
【0083】
実施例3のような希土類元素REとしてY及びGdを含む五種類の希土類元素を有する超伝導体は、複数の希土類元素を含む他の超伝導体と比べ、高い臨界電流密度を示すことが確認された。従って、実施例3の超伝導体は、高エネルギーの粒子が照射後であっても、高い超伝導転位温度を示すとともに高い臨界電流密度を示すものであると言える。
【0084】
これに対して、比較例1のような希土類元素としてYのみしか含まない超伝導体や比較例2のような超伝導体では、超伝導転位温度が低いものとなる。また、比較例3のような五種類の希土類元素を有していてもGdを含まない超伝導体では、実施例3の超伝導体と比べ、臨界電流密度が大きく下回るものとなった。
【符号の説明】
【0085】
1:基板、2:中間層、3:超伝導層、5:超伝導積層体、6:安定化層、10:超伝導線材、12:下地層、T:ターゲット、L:レーザー光、P:プルーム、RE:希土類元素
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
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