(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171078
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 5/74 20060101AFI20241204BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
H02P5/74
B62D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087955
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 一馬
(72)【発明者】
【氏名】安部 健一
(72)【発明者】
【氏名】梶澤 祐太
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼台 尭資
(72)【発明者】
【氏名】物部 魁士
(72)【発明者】
【氏名】池谷 美香
(72)【発明者】
【氏名】山下 正治
(72)【発明者】
【氏名】柴田 憲治
(72)【発明者】
【氏名】山下 洋介
(72)【発明者】
【氏名】飯田 一鑑
(72)【発明者】
【氏名】高山 晋太郎
(72)【発明者】
【氏名】中島 信頼
(72)【発明者】
【氏名】林 豊大
【テーマコード(参考)】
3D333
5H572
【Fターム(参考)】
3D333CB02
3D333CB31
3D333CB46
3D333CC06
3D333CD56
5H572AA03
5H572BB07
5H572DD05
5H572DD09
5H572EE03
5H572EE10
5H572HA05
5H572HA09
5H572HB09
5H572HC04
5H572HC07
5H572JJ03
5H572JJ17
5H572KK05
5H572LL29
5H572LL33
5H572LL47
5H572MM09
5H572MM11
(57)【要約】
【課題】異常時に適切に対応することができる車両用制御装置を提供する。
【解決手段】車両用制御装置は、複数系統の制御回路(41A,51Aの組、42A,52Aの組)を有する。各制御回路は、反力モータおよび転舵モータが、各々有する複数系統の巻線群に対する給電を系統ごとに独立して制御する。各制御回路は、自系統以外の他系統の制御回路の動作状態に応じて切り替えられる駆動モードでモータを駆動する。駆動モードは、自系統以外の他系統の制御回路の動作状態が異常であるとき、自系統の巻線群に対する給電を停止する自系統停止モードを含む。制御回路は、自系統以外の他系統の制御回路の動作状態が異常である場合であっても、自己の動作状態が、安全上問題がないとされる特定の動作状態であるときには、駆動モードを自系統停止モードに遷移させない。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数系統の巻線群を有するモータに発生させるべきトルクに応じた電流指令値を演算するとともに、演算される前記電流指令値に基づき、複数系統の前記巻線群に対する給電を系統ごとに独立して制御するように構成される複数系統の制御回路を有し、
前記制御回路は、自系統以外の他系統の前記制御回路の動作状態に応じて切り替えられる駆動モードで前記モータを駆動するように構成され、
前記駆動モードは、自系統以外の他系統の前記制御回路の動作状態が異常であるとき、自系統の前記巻線群に対する給電を停止する自系統停止モードを含み、
前記制御回路は、自系統以外の他系統の前記制御回路の動作状態が異常である場合であっても、自己の動作状態が、安全上問題がないとされる特定の動作状態であるときには、前記駆動モードを前記自系統停止モードに遷移させないように構成される車両用制御装置。
【請求項2】
前記制御回路は、車両電源のオンに伴い、起動処理およびイニシャルチェックを実行するとともに、自系統以外の他系統の前記制御回路と同期して前記モータの駆動を制御する観点から他系統の前記制御回路の動作状態を監視するように構成され、
前記特定の動作状態は、前記起動処理または前記イニシャルチェックを実行している状態である請求項1に記載の車両用制御装置。
【請求項3】
複数の前記制御回路は、前記駆動モードを相互に同期させるとともに、車両を制御するように構成される車両制御装置と通信するように構成され、
前記制御回路は、前記モータの駆動を制御している場合において、自系統以外の他系統の前記制御回路の動作状態が異常であるとき、前記駆動モードを前記自系統停止モードに遷移させるとともに、前記の同期を通じて複数の前記制御回路の前記駆動モードが、すべて前記自系統停止モードに遷移したとき、その旨示す報知信号を前記車両制御装置に送信するように構成される請求項1または請求項2に記載の車両用制御装置。
【請求項4】
前記モータは、
2系統の巻線群を有する反力モータであって、転舵輪との間の動力伝達が分離されたステアリングホイールに付与される操舵反力を発生するように構成される反力モータと、
2系統の巻線群を有する転舵モータであって、前記転舵輪を転舵させるための転舵力を発生するように構成される転舵モータと、を含み、
複数の前記制御回路は、
前記反力モータに対する給電を制御するように構成される第1の反力制御回路と、
前記反力モータに対する給電を制御するように構成される第2の反力制御回路と、
前記転舵モータに対する給電を制御するように構成される第1の転舵制御回路と、
前記転舵モータに対する給電を制御するように構成される第2の転舵制御回路と、を含み、
前記第1の反力制御回路と前記第1の転舵制御回路とが互いに動作状態を監視する関係にある一方、
前記第2の反力制御回路と前記第2の転舵制御回路とが互いに動作状態を監視する関係にある請求項1または請求項2に記載の車両用制御装置。
【請求項5】
前記モータは、
1系統の巻線群を有する反力モータであって、転舵輪との間の動力伝達が分離されたステアリングホイールに付与される操舵反力を発生するように構成される反力モータと、
1系統の巻線群を有する転舵モータであって、前記転舵輪を転舵させるための転舵力を発生するように構成される転舵モータと、を含み、
複数の前記制御回路は、
前記反力モータに対する給電を制御するように構成される反力制御回路と、
前記転舵モータに対する給電を制御するように構成される転舵制御回路と、を含む請求項1または請求項2に記載の車両用制御装置。
【請求項6】
前記モータは、ステアリングホイールの操作を補助するためのアシスト力を発生するように構成されるアシストモータであって、
前記アシストモータは、第1系統の巻線群および第2系統の巻線群を有し、
複数の前記制御回路は、前記第1系統の巻線群に対する給電を制御するように構成される第1のアシスト制御回路と、
前記第2系統の巻線群に対する給電を制御するように構成される第2のアシスト制御回路と、を含む請求項1または請求項2に記載の車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、つぎのような車両用制御装置が知られている。たとえば特許文献1のモータ駆動システムは、反力トルクを発生する反力アクチュエータと、転舵トルクを発生する転舵アクチュエータとを有している。反力アクチュエータと、転舵アクチュエータとは、各々モータとして機能するものであって、2系統の巻線を有している。また、反力アクチュエータと、転舵アクチュエータとは、各々、2系統のモータ駆動部と、2系統の制御演算部とを備えている。各制御演算部は、自系統のモータ駆動部を介して、自系統の巻線に対する通電を制御する。
【0003】
各系統の制御演算部は、相互に通信可能である。制御演算部は、協調駆動モード、復帰可能モード、および故障確定モードを有する。協調駆動モードは、自系統の制御演算部と他系統の制御演算部とが、通信により互いに授受される情報を共通に使用する駆動モードである。復帰可能モードは、2系統の制御演算部のうちいずれか一方に異常が発生した場合、異常系統の制御演算部に正常復帰の可能性があるとき、正常系統の制御演算部が異常系統の制御演算部から取得される情報を使用しない駆動モードである。故障確定モードは、2系統の制御演算部のうちいずれか一方の故障が確定したとき、正常系統の制御演算部が対応するモータ駆動部にトルクを発生させる駆動モードである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のような車両用制御装置には、つぎのような懸念がある。たとえば、各制御演算部の動作状態あるいは制御仕様によっては、反力アクチュエータと転舵アクチュエータとを適切に制御することが困難となる異常の発生が懸念される。車両用制御装置には、異常時に適切に対応することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決し得る車両用制御装置は、複数系統の巻線群を有するモータに発生させるべきトルクに応じた電流指令値を演算するとともに、演算される前記電流指令値に基づき、複数系統の前記巻線群に対する給電を系統ごとに独立して制御するように構成される複数系統の制御回路を有する。前記制御回路は、自系統以外の他系統の前記制御回路の動作状態に応じて切り替えられる駆動モードで前記モータを駆動するように構成される。前記駆動モードは、自系統以外の他系統の前記制御回路の動作状態が異常であるとき、自系統の前記巻線群に対する給電を停止する自系統停止モードを含む。前記制御回路は、自系統以外の他系統の前記制御回路の動作状態が異常である場合であっても、自己の動作状態が、安全上問題がないとされる特定の動作状態であるときには、前記駆動モードを前記自系統停止モードに遷移させないように構成される。
【0007】
この構成によれば、制御回路は、自系統以外の他系統の制御回路の動作状態が異常である場合であっても、自己の動作状態が、安全上問題がないとされる特定の動作状態であるときには、駆動モードを自系統停止モードに遷移させない。このため、制御回路は、自己の動作状態に応じて、自系統以外の他系統の制御回路の異常に適切に対応することができる。
【0008】
上記の車両用制御装置において、前記制御回路は、車両電源のオンに伴い、起動処理およびイニシャルチェックを実行するとともに、自系統以外の他系統の前記制御回路と同期して前記モータの駆動を制御する観点から他系統の前記制御回路の動作状態を監視するように構成されてもよい。この場合、前記特定の動作状態は、前記起動処理または前記イニシャルチェックを実行している状態であってもよい。
【0009】
この構成によるように、起動処理およびイニシャルチェックの実行中は、安全上問題がないとされる。このため、自系統以外の他系統の制御回路の動作状態が異常である場合であっても、駆動モードを自系統停止モードに遷移させないようにすることが可能である。
【0010】
上記の車両用制御装置において、複数の前記制御回路は、前記駆動モードを相互に同期させるとともに、車両を制御するように構成される車両制御装置と通信するように構成されてもよい。この場合、前記制御回路は、前記モータの駆動を制御している場合において、自系統以外の他系統の前記制御回路の動作状態が異常であるとき、前記駆動モードを前記自系統停止モードに遷移させるとともに、前記の同期を通じて複数の前記制御回路の前記駆動モードが、すべて前記自系統停止モードに遷移したとき、その旨示す報知信号を前記車両制御装置に送信するように構成されてもよい。
【0011】
この構成によれば、モータの駆動が制御されている場合において、複数の制御回路の駆動モードが、すべて自系統停止モードに遷移したとき、その旨示す報知信号が車両制御装置に送信される。このため、車両制御装置は、報知信号に基づき、モータの駆動が困難であることを認識することができる。
【0012】
上記の車両用制御装置において、前記モータは、2系統の巻線群を有する反力モータであって、転舵輪との間の動力伝達が分離されたステアリングホイールに付与される操舵反力を発生するように構成される反力モータと、2系統の巻線群を有する転舵モータであって、前記転舵輪を転舵させるための転舵力を発生するように構成される転舵モータと、を含んでもよい。この場合、複数の前記制御回路は、前記反力モータに対する給電を制御するように構成される第1の反力制御回路と、前記反力モータに対する給電を制御するように構成される第2の反力制御回路と、前記転舵モータに対する給電を制御するように構成される第1の転舵制御回路と、前記転舵モータに対する給電を制御するように構成される第2の転舵制御回路と、を含んでもよい。また、この場合、前記第1の反力制御回路と前記第1の転舵制御回路とが互いに動作状態を監視する関係にある一方、前記第2の反力制御回路と前記第2の転舵制御回路とが互いに動作状態を監視する関係にあってもよい。
【0013】
この構成によれば、第1の反力制御回路は、自系統以外の他系統の制御回路である第1の転舵制御回路の動作状態が異常である場合であっても、自己の動作状態が、安全上問題がないとされる特定の動作状態であるときには、駆動モードを自系統停止モードに遷移させない。このため、第1の反力制御回路は、自己の動作状態に応じて、第1の転舵制御回路の異常に適切に対応することができる。また、第1の転舵制御回路は、自系統以外の他系統の制御回路である第1の反力制御回路の動作状態が異常である場合であっても、自己の動作状態が、安全上問題がないとされる特定の動作状態であるときには、駆動モードを自系統停止モードに遷移させない。このため、第1の転舵制御回路は、自己の動作状態に応じて、第1の反力制御回路の異常に適切に対応することができる。第2の反力制御回路と、第2の転舵制御回路とについても同様である。
【0014】
上記の車両用制御装置において、前記モータは、1系統の巻線群を有する反力モータであって、転舵輪との間の動力伝達が分離されたステアリングホイールに付与される操舵反力を発生するように構成される反力モータと、1系統の巻線群を有する転舵モータであって、前記転舵輪を転舵させるための転舵力を発生するように構成される転舵モータと、をふくんでもよい。この場合、複数の前記制御回路は、前記反力モータに対する給電を制御するように構成される反力制御回路と、前記転舵モータに対する給電を制御するように構成される転舵制御回路と、を含んでもよい。
【0015】
この構成によれば、反力制御回路は、自系統以外の他系統の制御回路である転舵制御回路の動作状態が異常である場合であっても、自己の動作状態が、安全上問題がないとされる特定の動作状態であるときには、駆動モードを自系統停止モードに遷移させない。このため、反力制御回路は、自己の動作状態に応じて、転舵制御回路の異常に適切に対応することができる。また、転舵制御回路は、自系統以外の他系統の制御回路である反力制御回路の動作状態が異常である場合であっても、自己の動作状態が、安全上問題がないとされる特定の動作状態であるときには、駆動モードを自系統停止モードに遷移させない。このため、転舵制御回路は、自己の動作状態に応じて、反力制御回路の異常に適切に対応することができる。
【0016】
上記の車両用制御装置において、前記モータは、ステアリングホイールの操作を補助するためのアシスト力を発生するように構成されるアシストモータであってもよい。この場合、前記アシストモータは、第1系統の巻線群および第2系統の巻線群を有していてもよい。また、この場合、複数の前記制御回路は、前記第1系統の巻線群に対する給電を制御するように構成される第1のアシスト制御回路と、前記第2系統の巻線群に対する給電を制御するように構成される第2のアシスト制御回路と、を含んでもよい。
【0017】
この構成によれば、第1のアシスト制御回路は、自系統以外の他系統の制御回路である第2のアシスト制御回路の動作状態が異常である場合であっても、自己の動作状態が、安全上問題がないとされる特定の動作状態であるときには、駆動モードを自系統停止モードに遷移させない。このため、第1のアシスト制御回路は、自己の動作状態に応じて、第2のアシスト制御回路の異常に適切に対応することができる。また、第2のアシスト制御回路は、自系統以外の他系統の制御回路である第1のアシスト制御回路の動作状態が異常である場合であっても、自己の動作状態が、安全上問題がないとされる特定の動作状態であるときには、駆動モードを自系統停止モードに遷移させない。このため、第2のアシスト制御回路は、自己の動作状態に応じて、第1のアシスト制御回路の異常に適切に対応することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の車両用制御装置によれば、異常時に適切に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】車両用制御装置の第1の実施の形態が搭載されるステアバイワイヤ式の操舵装置の構成図である。
【
図2】第1の実施の形態の反力制御装置および転舵制御装置のブロック図である。
【
図3】第1の実施の形態にかかる各制御回路の状態遷移の一例を示すタイムチャートである。
【
図4】第1の実施の形態にかかる各制御回路に想定される異常の一例を示すタイムチャートである。
【
図5】第1の実施の形態にかかる各制御回路の状態遷移の一例を示すタイムチャートである。
【
図6】第1の実施の形態にかかる各制御回路の状態遷移の一例を示すタイムチャートである。
【
図7】車両用制御装置の第2の実施の形態の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、車両用制御装置をステアバイワイヤ式の操舵装置に具体化した第1の実施の形態を説明する。
図1に示すように、車両の操舵装置10は、ステアリングホイール11に連結されたステアリングシャフト12を有している。また、操舵装置10は、車幅方向(
図1中の左右方向)に沿って延びる転舵シャフト13を有している。転舵シャフト13の両端には、それぞれタイロッド14を介して転舵輪15が連結される。転舵シャフト13が直線運動することにより、転舵輪15の転舵角θwが変更される。ただし、転舵シャフト13は、ステアリングシャフト12との間の動力伝達が分離されている。ステアリングシャフト12および転舵シャフト13は車両の操舵機構を構成する。なお、
図1では片側の転舵輪15のみを図示する。
【0021】
操舵装置10は、反力モータ21および減速機構22を有している。反力モータ21は、操舵反力の発生源である。操舵反力とは、運転者によるステアリングホイール11の操作方向と反対方向へ向けて作用する力をいう。反力モータ21の回転軸は、減速機構22を介してステアリングシャフト12に連結されている。反力モータ21のトルクは、操舵反力としてステアリングシャフト12に付与される。操舵反力をステアリングホイール11に付与することにより、運転者に適度な手応え感を与えることが可能である。
【0022】
反力モータ21は、たとえば三相のブラシレスモータである。反力モータ21は、第1系統の巻線群N11および第2系統の巻線群N12を有している。第1系統の巻線群N11および第2系統の巻線群N12は、共通のステータ(図示略)に巻回される。第1系統の巻線群N11および第2系統の巻線群N12の電気的な特性は同等である。
【0023】
操舵装置10は、転舵モータ31および減速機構32を有している。転舵モータ31は転舵力の発生源である。転舵力とは、転舵輪15を転舵させるための動力をいう。転舵モータ31の回転軸は、減速機構32を介してピニオンシャフト33に連結されている。ピニオンシャフト33のピニオン歯33aは、転舵シャフト13のラック歯13aに噛み合わされている。転舵モータ31のトルクは、転舵力としてピニオンシャフト33を介して転舵シャフト13に付与される。転舵モータ31の回転に応じて、転舵シャフト13は車幅方向に沿って移動する。
【0024】
転舵モータ31は、たとえば三相のブラシレスモータである。転舵モータ31は、第1系統の巻線群N21および第2系統の巻線群N22を有している。第1系統の巻線群N21および第2系統の巻線群N22は、共通のステータ(図示略)に巻回される。第1系統の巻線群N21および第2系統の巻線群N22の電気的な特性は同等である。
【0025】
操舵装置10は、反力制御装置40を有している。反力制御装置40は、制御対象である反力モータ21の駆動を制御する。反力制御装置40は、操舵トルクThに応じた操舵反力を反力モータ21に発生させる反力制御を実行する。反力制御装置40は、トルクセンサ23を通じて検出される操舵トルクThに基づき目標操舵反力を演算する。トルクセンサ23は、ステアリングシャフト12に設けられている。反力制御装置40は、ステアリングシャフト12に付与される実際の操舵反力を目標操舵反力に一致させるべく反力モータ21への給電を制御する。反力制御装置40は、反力モータ21における2系統の巻線群に対する給電を系統ごとに独立して制御する。
【0026】
反力制御装置40は、第1系統回路41および第2系統回路42を有している。第1系統回路41は、トルクセンサ23を通じて検出される操舵トルクThに応じて、反力モータ21における第1系統の巻線群N11に対する給電を制御する。第2系統回路42は、トルクセンサ23を通じて検出される操舵トルクThに応じて、反力モータ21における第2系統の巻線群N12に対する給電を制御する。
【0027】
操舵装置10は、転舵制御装置50を有している。転舵制御装置50は、制御対象である転舵モータ31の駆動を制御する。転舵制御装置50は、操舵状態に応じて転舵輪15を転舵させるための転舵力を転舵モータ31に発生させる転舵制御を実行する。転舵制御装置50は、舵角センサ24を通じて検出される操舵角θs、およびストロークセンサ34を通じて検出される転舵シャフト13のストロークXwを取り込む。ストロークXwは、転舵シャフト13の中立位置を基準とする変位量であって、転舵角θwが反映される状態変数である。舵角センサ24は、ステアリングシャフト12のトルクセンサ23と減速機構22との間に設けられている。ストロークセンサ34は、転舵シャフト13の近傍に設けられている。
【0028】
転舵制御装置50は、舵角センサ24を通じて検出される操舵角θsに基づき、転舵輪15の目標転舵角を演算する。転舵制御装置50は、ストロークセンサ34を通じて検出される転舵シャフト13のストロークXwに基づき転舵角θwを演算する。転舵制御装置50は、ストロークXwに基づき演算される転舵角θwを目標転舵角に一致させるべく転舵モータ31への給電を制御する。転舵制御装置50は、転舵モータ31における2系統の巻線群に対する給電を系統ごとに独立して制御する。
【0029】
転舵制御装置50は、第1系統回路51および第2系統回路52を有している。第1系統回路51は、舵角センサ24を通じて検出される操舵角θsおよびストロークセンサ34を通じて検出される転舵シャフト13のストロークXwに基づき、転舵モータ31における第1系統の巻線群N21に対する給電を制御する。第2系統回路52は、舵角センサ24を通じて検出される操舵角θsおよびストロークセンサ34を通じて検出される転舵シャフト13のストロークXwに基づき、転舵モータ31における第2系統の巻線群N22に対する給電を制御する。
【0030】
なお、反力制御装置40と反力モータ21とを一体的に設けることにより、いわゆる機電一体型の反力アクチュエータを構成してもよい。また、転舵制御装置50と転舵モータ31とを一体的に設けることにより、いわゆる機電一体型の転舵アクチュエータを構成してもよい。
【0031】
<給電経路>
つぎに、反力制御装置40および転舵制御装置50に対する給電経路を説明する。
反力制御装置40および転舵制御装置50を含む各種の車載制御装置には、それぞれ車載される直流電源60から電力が供給される。直流電源60は、たとえばバッテリである。トルクセンサ23、舵角センサ24およびストロークセンサ34を含む各種のセンサにもそれぞれ直流電源60から電力が供給される。
【0032】
反力制御装置40の第1系統回路41および第2系統回路42、ならびに転舵制御装置50の第1系統回路51および第2系統回路52は、それぞれ車両の始動スイッチSWを介して直流電源60に接続されている。始動スイッチSWは、たとえばイグニッションスイッチあるいはパワースイッチである。始動スイッチSWは、エンジンなどの車両の走行用駆動源を始動または停止させる際に操作される。始動スイッチSWがオンされたとき、直流電源60からの電力は、始動スイッチSWを介して、反力制御装置40の第1系統回路41および第2系統回路42、ならびに転舵制御装置50の第1系統回路51および第2系統回路52にそれぞれ供給される。始動スイッチSWがオンすることは、車両電源がオンすることである。始動スイッチSWがオフすることは、車両電源がオフすることである。
【0033】
反力制御装置40の第1系統回路41および第2系統回路42、ならびに転舵制御装置50の第1系統回路51および第2系統回路52は、電源リレー60A,60B,60C,60Dを介して直流電源60に接続されている。電源リレー60A,60B,60C,60Dがオンされたとき、直流電源60からの電力は、電源リレー60A,60B,60C,60Dを介して、反力制御装置40の第1系統回路41および第2系統回路42、ならびに転舵制御装置50の第1系統回路51および第2系統回路52に供給される。
【0034】
反力制御装置40の第1系統回路41は、電源リレー60Aのオンオフを制御する。第1系統回路41は、始動スイッチSWがオンからオフへ切り替えられたとき、定められた期間だけ電源リレー60Aをオンした状態に維持するパワーラッチ制御を実行する。このため、始動スイッチSWがオフされた後であれ、第1系統回路41は、動作することが可能である。第1系統回路41は、定められた期間だけ経過したとき、電源リレー60Aをオンからオフへ切り替えることによって自身への給電を遮断することが可能である。
【0035】
第1系統回路41は、たとえば始動スイッチSWの両端の電圧を監視することにより始動スイッチSWのオンオフを検出する。第1系統回路41は、始動スイッチSWの両端の電圧が、定められた電圧しきい値を下回ったとき、始動スイッチSWがオンされたことを検出する。第1系統回路41は、始動スイッチSWの両端の電圧が、定められた電圧しきい値以上であるとき、始動スイッチSWがオフされたことを検出する。
【0036】
反力制御装置40の第2系統回路42は、電源リレー60Bのオンオフを制御する。第2系統回路42は、第1系統回路41と同様に、パワーラッチ制御を実行する。第2系統回路42は、第は、始動スイッチSWがオンからオフへ切り替えられたとき、定められた期間だけ電源リレー60Bをオンした状態に維持する。
【0037】
転舵制御装置50の第1系統回路51は、電源リレー60Cのオンオフを制御する。第1系統回路51は、反力制御装置40の第1系統回路41と同様に、パワーラッチ制御を実行する。第1系統回路51は、始動スイッチSWがオンからオフへ切り替えられたとき、定められた期間だけ電源リレー60Cをオンした状態に維持する。
【0038】
転舵制御装置50の第2系統回路52は、電源リレー60Dのオンオフを制御する。第2系統回路52は、反力制御装置40の第1系統回路41と同様に、パワーラッチ制御を実行する。第2系統回路52は、始動スイッチSWがオンからオフへ切り替えられたとき、定められた期間だけ電源リレー60Dをオンした状態に維持する。
【0039】
なお、トルクセンサ23、舵角センサ24およびストロークセンサ34など、操舵装置10の構成要素のうち、始動スイッチSWがオフされた後においても動作することが要求される構成要素は、電源リレー60A,60B,60C,60Dのうち少なくとも1つを介して直流電源60に接続される。このため、始動スイッチSWがオフされている場合であれ、電源リレー60A,60B,60C,60Dのうち少なくとも1つがオンしているときには、トルクセンサ23、舵角センサ24、およびストロークセンサ34などの各構成要素には給電が継続される。
【0040】
<反力制御装置>
つぎに、反力制御装置の構成を詳細に説明する。
図2に示すように、反力制御装置40は、第1系統回路41および第2系統回路42を有している。第1系統回路41は、第1の反力制御回路41Aおよびモータ駆動回路41Bを有している。第2系統回路42は、第2の反力制御回路42Aおよびモータ駆動回路42Bを有している。
【0041】
第1の反力制御回路41Aは、(1)コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ、(2)各種の処理のうち少なくとも一部の処理を実行する特定用途向け集積回路(ASIC)などの1つ以上の専用のハードウェア回路、(3)それらの組み合わせ、を含む処理回路によって構成される。プロセッサはCPU(Central Processing Unit)を含む。また、プロセッサはRAM(Random-Access Memory)およびROM(Read-Only Memory)などのメモリを含む。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリ、すなわち非一時的なコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0042】
第1の反力制御回路41Aは、トルクセンサ23を通じて検出される操舵トルクThに基づき反力モータ21に発生させるべき目標操舵反力を演算し、この演算される目標操舵反力の値に応じて第1系統の巻線群N11に対する第1の電流指令値を演算する。ただし、第1の電流指令値は、反力モータ21に目標操舵反力を発生させるために必要とされる電流量(100%)の半分(50%)の値に設定される。第1の反力制御回路41Aは、第1系統の巻線群N11へ供給される実際の電流の値を第1の電流指令値に追従させる電流フィードバック制御を実行することにより、モータ駆動回路41Bに対する駆動信号(PWM信号)を生成する。
【0043】
モータ駆動回路41Bは、直列に接続された2つの電界効果型トランジスタ(FET)などのスイッチング素子を基本単位であるレグとして、三相(U,V,W)の各相に対応する3つのレグが並列接続されてなるPWMインバータである。モータ駆動回路41Bは、第1の反力制御回路41Aにより生成される駆動信号に基づいて各相のスイッチング素子がスイッチングすることにより、直流電源60から供給される直流電力を三相交流電力に変換する。モータ駆動回路41Bにより生成される三相交流電力は、バスバーあるいはケーブルなどからなる各相の給電経路を介して反力モータ21の第1系統の巻線群N11に供給される。これにより、第1系統の巻線群N11は第1の電流指令値に応じたトルクを発生する。
【0044】
第2の反力制御回路42Aは、基本的には第1の反力制御回路41Aと同様の構成を有している。第2の反力制御回路42Aは、トルクセンサ23を通じて検出される操舵トルクThに基づき反力モータ21に発生させるべき目標操舵反力を演算し、この演算される目標操舵反力の値に応じて第2系統の巻線群N12に対する第2の電流指令値を演算する。ただし、第2の電流指令値は、反力モータ21に目標操舵反力を発生させるために必要とされる電流量の半分(50%)の値に設定される。第2の反力制御回路42Aは、第2系統の巻線群N12へ供給される実際の電流の値を第2の電流指令値に追従させる電流フィードバック制御を実行することにより、モータ駆動回路42Bに対する駆動信号を生成する。
【0045】
モータ駆動回路42Bは、基本的にはモータ駆動回路41Bと同様の構成を有している。モータ駆動回路42Bは、第2の反力制御回路42Aにより生成される駆動信号に基づき、直流電源60から供給される直流電力を三相交流電力に変換する。モータ駆動回路42Bにより生成される三相交流電力は、バスバーあるいはケーブルなどからなる各相の給電経路を介して反力モータ21の第2系統の巻線群N12に供給される。これにより、第2系統の巻線群N12は第2の電流指令値に応じたトルクを発生する。反力モータ21は、第1系統の巻線群N11が発生するトルクと第2系統の巻線群N12が発生するトルクとをトータルしたトルクを発生する。
【0046】
なお、反力制御装置40の第1系統回路41と第2系統回路42との間には、主従関係がある。この場合、たとえば第1系統回路41がマスター、第2系統回路42がスレーブとして機能する。
【0047】
<転舵制御装置>
つぎに、転舵制御装置50の構成を詳細に説明する。
図2に示すように、転舵制御装置50は、第1系統回路51および第2系統回路52を有している。第1系統回路51は、第1の転舵制御回路51Aおよびモータ駆動回路51Bを有している。第2系統回路52は、第2の転舵制御回路52Aおよびモータ駆動回路52Bを有している。
【0048】
第1の転舵制御回路51Aは、基本的には第1の反力制御回路41Aと同様の構成を有している。第1の転舵制御回路51Aは、舵角センサ24を通じて検出される操舵角θsに基づき、転舵輪15の目標転舵角を演算する。転舵制御装置50は、ストロークセンサ34を通じて検出される転舵シャフト13のストロークXwに基づき転舵角θwを演算する。第1の転舵制御回路51Aは、ストロークXwに基づき演算される転舵角θwを目標転舵角に追従させる角度フィードバック制御の実行を通じて、転舵モータ31に発生させるべき目標転舵力を演算し、この演算される目標転舵力の値に応じて転舵モータ31の第1系統の巻線群N21に対する第3の電流指令値を演算する。ただし、第3の電流指令値は、転舵モータ31に目標転舵力を発生させるために必要とされる電流量の半分(50%)の値に設定される。第1の転舵制御回路51Aは、第1系統の巻線群N21へ供給される実際の電流の値を第3の電流指令値に追従させる電流フィードバック制御を実行することにより、モータ駆動回路51Bに対する駆動信号を生成する。
【0049】
モータ駆動回路51Bは、基本的にはモータ駆動回路41Bと同様の構成を有している。モータ駆動回路51Bは、第1の転舵制御回路51Aにより生成される駆動信号に基づき、直流電源60から供給される直流電力を三相交流電力に変換する。モータ駆動回路42Bにより生成される三相交流電力は、バスバーあるいはケーブルなどからなる各相の給電経路を介して転舵モータ31の第1系統の巻線群N21に供給される。これにより、第1系統の巻線群N21は第3の電流指令値に応じたトルクを発生する。
【0050】
第2の転舵制御回路52Aは、基本的には第1の反力制御回路41Aと同様の構成を有している。第2の転舵制御回路52Aは、舵角センサ24を通じて検出される操舵角θsに基づき、転舵輪15の目標転舵角を演算する。転舵制御装置50は、ストロークセンサ34を通じて検出される転舵シャフト13のストロークXwに基づき転舵角θwを演算する。第2の転舵制御回路52Aは、ストロークXwに基づき演算される転舵角θwを目標転舵角に追従させる角度フィードバック制御の実行を通じて、転舵モータ31に発生させるべき目標転舵力を演算し、この演算される目標転舵力の値に応じて転舵モータ31の第2系統の巻線群N22に対する第4の電流指令値を演算する。ただし、第4の電流指令値は、転舵モータ31に目標転舵力を発生させるために必要とされる電流量の半分(50%)の値に設定される。第2の転舵制御回路52Aは、第2系統の巻線群N22へ供給される実際の電流の値を第4の電流指令値に追従させる電流フィードバック制御を実行することにより、モータ駆動回路52Bに対する駆動信号を生成する。
【0051】
モータ駆動回路52Bは、基本的にはモータ駆動回路41Bと同様の構成を有している。モータ駆動回路51Bは、第2の転舵制御回路52Aにより生成される駆動信号に基づき、直流電源60から供給される直流電力を三相交流電力に変換する。モータ駆動回路52Bにより生成される三相交流電力は、バスバーあるいはケーブルなどからなる各相の給電経路を介して転舵モータ31の第2系統の巻線群N22に供給される。これにより、第2系統の巻線群N22は第4の電流指令値に応じたトルクを発生する。転舵モータ31は、第1系統の巻線群N21が発生するトルクと第2系統の巻線群N22が発生するトルクをトータルしたトルクを発生する。
【0052】
なお、転舵制御装置50の第1系統回路51と第2系統回路52との間には、主従関係がある。この場合、たとえば第1系統回路51がマスター、第2系統回路52がスレーブとして機能する。
【0053】
<通信経路>
つぎに、反力制御装置40および転舵制御装置50の内部の通信経路、ならびに反力制御装置40と転舵制御装置50との間の通信経路について説明する。
【0054】
図2に示すように、第1の反力制御回路41Aと第2の反力制御回路42Aとは、通信線L1を介して互いに情報を授受する。情報には、第1の反力制御回路41A、第2の反力制御回路42Aあるいはモータ駆動回路41B,42Bの異常情報が含まれる。また、情報には、各種の状態を示すフラグの値が含まれる。第1の反力制御回路41Aと第2の反力制御回路42Aとは、互いに授受される情報に基づき協調して反力モータ21の駆動を制御する。
【0055】
第1の転舵制御回路51Aと第2の転舵制御回路52Aとは、通信線L2を介して互いに情報を授受する。情報には、第1の転舵制御回路51A、第2の転舵制御回路52Aあるいはモータ駆動回路51B,52Bの異常情報が含まれる。また、情報には、各種の状態を示すフラグの値が含まれる。第1の転舵制御回路51Aと第2の転舵制御回路52Aとは、互いに授受される情報に基づき協調して転舵モータ31の駆動を制御する。
【0056】
第1の反力制御回路41Aと第1の転舵制御回路51Aとは、通信線L3を介して互いに情報を授受する。情報には、第1の反力制御回路41A、第1の転舵制御回路51A、およびモータ駆動回路41B,51Bの異常情報が含まれる。また、情報には、各種の状態を示すフラグの値が含まれる。第1の反力制御回路41Aと第1の転舵制御回路51Aとは、互いに授受される情報に基づき連携して動作する。
【0057】
第2の反力制御回路42Aと第2の転舵制御回路52Aとは、通信線L4を介して互いに情報を授受する。情報には、第2の反力制御回路42A、第2の転舵制御回路52Aあるいはモータ駆動回路42B,52Bの異常情報が含まれる。また、情報には、各種の状態を示すフラグの値が含まれる。第2の反力制御回路42Aと第2の転舵制御回路52Aとは、互いに授受される情報に基づき連携して動作する。
【0058】
<モータの駆動モード>
つぎに、反力モータ21および転舵モータ31の駆動モードについて説明する。駆動モードは、協調駆動モード、独立駆動モード、および片系統駆動モードを含む。
【0059】
協調駆動モードは、第1系統回路41,51および第2系統回路42,52が正常に動作している通常時の駆動モードである。第1系統回路41および第2系統回路42は、指令値および制限値などの情報を互いに共用して、反力モータ21の第1系統の巻線群N11および第2系統の巻線群N12の双方に同等のトルクを発生させる。第1系統回路51および第2系統回路52は、指令値および制限値などの情報を互いに共用して、転舵モータ31の第1系統の巻線群N21および第2系統の巻線群N22の双方に同等のトルクを発生させる。
【0060】
反力制御装置40の第1系統回路41と第2系統回路42との間に主従関係がある場合、駆動モードとして協調駆動モードが選択されるとき、スレーブはマスターにより演算される指令値を使用して反力モータ21の駆動を制御する。また、転舵制御装置50の第1系統回路51と第2系統回路52との間に主従関係がある場合、駆動モードとして協調駆動モードが選択されるとき、スレーブはマスターにより演算される指令値を使用して転舵モータ31の駆動を制御する。
【0061】
独立駆動モードは、4つの制御回路(41A,42A,51A,52A)のうちいずれか1つの動作が瞬時的に停止したものの異常が確定しておらず、正常動作へ復帰する可能性がある場合の駆動モードである。独立駆動モードでは、たとえば動作が停止した1つの制御回路に正常動作へ復帰する可能性があるとき、残りの3つの制御回路は、系統間通信による情報を使用することなく自己の演算結果に基づき自己に対応する巻線群にトルクを発生させる。
【0062】
反力制御装置40の第1系統回路41と第2系統回路42との間に主従関係がある場合、駆動モードとして独立駆動モードが選択されるとき、第1系統回路41と第2系統回路42との間の主従関係は一旦解消される。また、転舵制御装置50の第1系統回路51と第2系統回路52との間に主従関係がある場合、駆動モードとして独立駆動モードが選択されるとき、第1系統回路51と第2系統回路52との間の主従関係は一旦解消される。
【0063】
片系統駆動モードは、4つの制御回路(41A,42A,51A,52A)のうちいずれか1つの異常が確定し、正常動作へ復帰する可能性がない場合の駆動モードである。たとえば、第1系統回路41,51の異常が確定したとき、第2系統回路42,52のみで反力モータ21および転舵モータ31にトルクを発生させる。第2系統回路42,52の異常が確定したとき、第1系統回路41,51のみで反力モータ21および転舵モータ31にトルクを発生させる。
【0064】
反力制御装置40の第1系統回路41と第2系統回路42との間に主従関係がある場合、駆動モードとして片系統駆動モードが選択されるとき、第1系統回路41と第2系統回路42との間の主従関係は一旦解消される。また、転舵制御装置50の第1系統回路51と第2系統回路52との間に主従関係がある場合、駆動モードとして片系統駆動モードが選択されるとき、第1系統回路51と第2系統回路52との間の主従関係は一旦解消される。
【0065】
各制御回路(41A,42A,51A,52A)は、異常が発生していない通常時、協調駆動モードで各モータ(21,31)の駆動を制御する。各制御回路は、駆動モードとして協調駆動モードが選択された状態において、異常判定条件が成立するとき、駆動モードを協調駆動モードから独立駆動モードへ切り替える。また、各制御回路は、駆動モードとして独立駆動モードが選択された状態において、異常が確定する前に復帰判定条件が成立するとき、駆動モードを独立駆動モードから協調駆動モードへ復帰させる。また、各制御回路は、駆動モードとして独立駆動モードが選択された状態において、異常確定条件が成立するとき、駆動モードを独立駆動モードから片系統駆動モードへ切り替える。
【0066】
なお、異常は、たとえば系統間の通信異常、同一系統内の通信異常、系統間の指令値の乖離、および電流制限値の低下などの回復可能とされる一時的なものを含む。異常判定条件は、駆動モードを協調駆動モードから独立駆動モードへ遷移させる遷移条件に相当する。復帰判定条件は、駆動モードを独立駆動モードまたは片系統駆動モードから協調駆動モードへ復帰させる復帰条件に相当する。
【0067】
<制御回路の状態遷移>
つぎに、各制御回路(41A,42A,51A,52A)の状態遷移について説明する。
【0068】
始動スイッチSWがオンされたとき、各制御回路は、起動処理およびイニシャルチェックを実行する。起動処理およびイニシャルチェックは、ステアリングシステムが稼働するために必要とされる一連の処理である。起動処理およびイニシャルチェックは、たとえばハードウェアのチェック、CPUの初期化、および変数あるいはフラグなどの初期化を含む。起動処理およびイニシャルチェックの実行中、各制御回路の制御ステータスは、未アシスト状態である。未アシスト状態は、まだ反力モータ21および転舵モータ31の制御を実行開始しない状態である。制御ステータスは、各制御回路の動作の状態である。
【0069】
イニシャルチェックの実行が正常に完了した後、各制御回路の制御ステータスは、未アシスト状態からアシスト開始待ち状態へ遷移する。アシスト開始待ち状態は、すべての制御回路においてイニシャルチェックの実行が正常に完了することを待っている状態である。
【0070】
すべての制御回路でイニシャルチェックの実行が正常に完了したとき、各制御回路は反力モータ21または転舵モータ31の制御を実行可能となる。各制御回路の制御ステータスは、アシスト開始待ち状態から通常制御状態へ遷移する。各制御回路は、ステアリングホイール11の操舵状態に応じて操舵反力、および転舵力を発生させる通常制御の実行を開始する。通常制御状態において、反力モータ21および転舵モータ31の駆動モードは、協調駆動モードである。すなわち、通常制御状態において、各制御回路は、反力モータ21の第1系統の巻線群N11および第2系統の巻線群N12の双方にトルクを発生させるとともに、転舵モータ31の第1系統の巻線群N21および第2系統の巻線群N22の双方にトルクを発生させる。
【0071】
なお、各制御回路の制御ステータスがアシスト開始待ち状態あるいは通常制御状態である場合、定められた異常判定条件が成立するとき、各制御回路の制御ステータスは、アシスト開始待ち状態から独立駆動モード状態あるいは片系統駆動モード状態へ遷移する。また、各制御回路の制御ステータスが独立駆動モード状態である場合、定められた復帰条件が成立するとき、各制御回路の制御ステータスは、独立駆動モード状態から通常制御状態へ復帰する。また、各制御回路の制御ステータスが独立駆動モード状態である場合、定められた異常確定条件が成立するとき、各制御回路の制御ステータスは、独立駆動モード状態から片系統駆動モード状態へ遷移する。
【0072】
<各制御回路の状態遷移の一例>
つぎに、各制御回路(41A,42A,51A,52A)の第1の異常時の状態遷移の一例について説明する。ここでは、駆動モードが独立駆動モードに切り替わる異常として、第1の反力制御回路41Aと、第1の転舵制御回路51Aとの間の通信異常が発生した場合を一例として挙げる。ただし、第1の反力制御回路41Aと、第2の反力制御回路42Aとの間の通信は正常である。第1の転舵制御回路51Aと、第2の転舵制御回路52Aとの間の通信も正常である。
【0073】
図3のタイムチャートに示すように、各制御装置は、モータ(21,31)の駆動を協調駆動モードで制御している場合、第1の反力制御回路41Aと第1の転舵制御回路51Aとの間の通信異常が発生したとき(時刻T1)、駆動モードをつぎのように切り替える。すなわち、第1の反力制御回路41Aおよび第1の転舵制御回路51Aは、各々の駆動モードを協調駆動モードから独立駆動モードへ切り替える。また、第1の反力制御回路41Aおよび第1の転舵制御回路51Aは、各々が演算する電流指令値に対するゲインを通常制御時の「1倍」から「0倍」に切り替える。
【0074】
第1の反力制御回路41Aにより演算される第1の電流指令値にゲイン「0倍」が乗算されることにより、最終的な第1の電流指令値は「0」となる。また、第1の転舵制御回路51Aにより演算される第3の電流指令値にゲイン「0倍」が乗算されることにより、最終的な第3の電流指令値も「0」となる。すなわち、反力モータ21の第1系統の巻線群N11および転舵モータ31の第1系統の巻線群N21に対する給電が停止される。このため、第1系統の巻線群N11,N21はトルクを発生しない。
【0075】
第2の反力制御回路42Aは、第1の反力制御回路41Aを介して第1系統に通信異常が発生したことを認識する。第2の転舵制御回路52Aは、第1の転舵制御回路51Aを介して第1系統に通信異常が発生したことを認識する。
【0076】
第2の反力制御回路42Aおよび第2の転舵制御回路52Aは、第1系統に通信異常が発生したことが認識されるとき、各々の駆動モードを協調駆動モードから独立駆動モードへ切り替える。また、第2の反力制御回路42Aおよび第2の転舵制御回路52Aは、各々が演算する電流指令値に対するゲインを通常制御時の「1倍」から「2倍」に切り替える。
【0077】
第2の反力制御回路42Aにより演算される第2の電流指令値にゲイン「2倍」が乗算されることにより、最終的な第2の電流指令値は通常時の2倍の値となる。また、第2の転舵制御回路52Aにより演算される第4の電流指令値にゲイン「2倍」が乗算されることにより、最終的な第4の電流指令値も通常時の「2倍」となる。すなわち、反力モータ21の第2系統の巻線群N12および転舵モータ31の第2系統の巻線群N22に対して通常時の2倍の電力を供給することが可能となる。このため、第2系統の巻線群N12,N22は、通常時の2倍のトルクを発生することが可能となる。したがって、第1系統の巻線群N11,N21が発生するトルクの減少分を、第2系統の巻線群N12,N22が発生するトルクによって補うことが可能となる。ただし、製品仕様によっては、第2の電流指令値および第4の電流指令値が定められた許容範囲を超えるとき、これら第2の電流指令値および第4の電流指令値は、許容範囲の限界値を基準として設定される制限値に制限されることがある。
【0078】
ここで、第2系統による独立駆動モードでモータ(21,31)の駆動が制御されている場合、第1系統の通信異常が確定される前に第1系統の通信異常が解消することが考えられる(時刻T2)。
【0079】
異常系統の第1の反力制御回路41Aおよび第1の転舵制御回路51Aは、定められた復帰判定条件が成立するとき、駆動モードを独立駆動モードから協調駆動モードへ復帰させる(時刻T3)。復帰判定条件は、第1の反力制御回路41Aと第1の転舵制御回路51Aとの間の通信異常が解消されたことを含む。また、異常系統の第1の反力制御回路41Aおよび第1の転舵制御回路51Aは、駆動モードを独立駆動モードから協調駆動モードへ復帰させる際、各々が演算する電流指令値に対するゲインを異常時の「0倍」から通常制御時の「1倍」に切り替える。
【0080】
これに伴い、正常系統の第2の反力制御回路42Aおよび第2の転舵制御回路52Aは、駆動モードを独立駆動モードから協調駆動モードへ復帰させる。また、第2の反力制御回路42Aおよび第2の転舵制御回路52Aは、各々が演算する電流指令値に対するゲインを異常時の「2倍」から通常制御時の「1倍」に切り替える。第1の反力制御回路41Aと第2の反力制御回路42Aとの間では、駆動モードが互いに同期される。第1の転舵制御回路51Aと第2の転舵制御回路52Aとの間では、駆動モードが互いに同期される。
【0081】
なお、復帰判定条件は、停車した状態が第1の判定時間だけ継続することと、ステアリングホイール11が操舵されない状態が第の判定時間だけ継続することと、を含んでいてもよい。停車した状態であるかどうかは、たとえば、車速センサを通じて検出される車速に基づき判定される。ステアリングホイール11が操舵されない状況は、たとえば車両が直進しているときの操舵状態、および車両が定常旋回を行っているときの操舵状況を含む。ステアリングホイール11が操舵されているかどうかは、たとえば操舵トルクThに基づき判定される。
【0082】
<各制御回路に想定される異常の一例>
つぎに、各制御回路(41A,42A,51A,52A)に想定される異常の一例について説明する。
【0083】
各制御装置においては、つぎのような異常が発生することが懸念される。ここでは、たとえば、車両電源のオンに伴う各制御回路(41A,42A,51A,52A)の起動時から、第1の転舵制御回路51Aと第2の転舵制御回路52Aとの間の通信に異常が発生する場合を一例として説明する。ただし、異常は、第1の転舵制御回路51Aおよび第2の転舵制御回路52Aの起動遅れによって、先行して起動した第1の反力制御回路41Aおよび第2の反力制御回路42Aが、各々、通信異常を検出する場合を含む。
【0084】
図4のタイムチャートに示すように、車両電源がオンされたとき(時刻T11)、たとえば、第1の転舵制御回路51Aと第2の転舵制御回路52Aとの間の通信に異常が発生している場合、第1の転舵制御回路51Aの制御ステータスは、他系統の起動待ち状態となる。他系統は、第2の転舵制御回路52Aである。第2の転舵制御回路52Aの制御ステータスも、第1の転舵制御回路51Aと同様に、他系統の起動待ち状態となる。他系統は、第1の転舵制御回路51Aである。
【0085】
第1の反力制御回路41Aは、車両電源がオンされたとき(時刻T11)、起動処理およびイニシャルチェックを実行する。起動処理およびイニシャルチェックの実行中、第1の反力制御回路41Aの制御ステータスは、未アシスト状態である。
【0086】
また、第1の反力制御回路41Aは、起動処理あるいはイニシャルチェックの実行中、第1の転舵制御回路51Aの動作状態を監視する。これは、第1の転舵制御回路51Aによる転舵モータ31の制御と同期して、反力モータ21の駆動を制御する観点に基づく。
図4の例では、第1の反力制御回路41Aは、第1の転舵制御回路51Aが起動していないため、反力モータ21の駆動モードを、協調駆動モードから自系統停止モードへ遷移させる(時刻T12)。すなわち、第1の反力制御回路41Aは、自ら演算する第1の電流指令値に対するゲインを通常制御時の「1倍」から「0倍」に切り替える。第1の反力制御回路41Aは、イニシャルチェックの実行が正常に完了すると、制御ステータスを他系統のアシスト開始待ち状態に遷移させる(時刻T13)。
【0087】
第1の転舵制御回路51Aは、他系統の起動待ち状態が、定められた期間だけ経過したとき、起動処理およびイニシャルチェックを実行する(時刻T14)。起動処理およびイニシャルチェックの実行中、第1の転舵制御回路51Aの制御ステータスは、未アシスト状態である。ただし、第1の転舵制御回路51Aは、第1の反力制御回路41Aから、反力モータ21の駆動モードを取得するとともに、取得される駆動モードに転舵モータ31の駆動モードを同期させる(時刻T15)。すなわち、第1の転舵制御回路51Aは、転舵モータ31の駆動モードを協調駆動モードから自系統停止モードへ遷移させる。第1の転舵制御回路51Aは、自ら演算する第3の電流指令値に対するゲインを通常制御時の「1倍」から「0倍」に切り替える。
【0088】
第1の転舵制御回路51Aは、イニシャルチェックの実行が正常に完了すると(時刻T16)、制御ステータスを他系統のアシスト開始待ち状態に遷移させる。ただし、第1の転舵制御回路51Aと第2の転舵制御回路52Aとの間の通信が異常であって、第1の転舵制御回路51Aは、第2の転舵制御回路52Aとの間で通信を行っていない。このため、第1の転舵制御回路51Aは、制御ステータスを他系統のアシスト開始待ち状態から独立駆動モードに遷移させる(時刻T17)。
【0089】
第1の反力制御回路41Aは、第1の転舵制御回路51Aによるイニシャルチェックの実行が完了したとき(時刻T16)、第1の転舵制御回路51Aが起動したとして、制御ステータスを他系統のアシスト開始待ち状態から通常制御状態に遷移させる。また、第1の反力制御回路41Aは、反力モータ21の駆動モードを、自系統停止モードから協調駆動モードに遷移させる。
【0090】
ただし、第1の反力制御回路41Aは、第1の転舵制御回路51Aから、制御ステータスと、転舵モータ31の駆動モードとを取得する(時刻T18)。
第1の反力制御回路41Aは、取得される第1の転舵制御回路51Aの制御ステータスに、第1の反力制御回路41Aの制御ステータスを同期させる。すなわち、第1の反力制御回路41Aは、制御ステータスを、通常制御状態から独立駆動状態に遷移させる。また、第1の反力制御回路41Aは、取得される駆動モードに反力モータ21の駆動モードを同期させる。すなわち、第1の反力制御回路41Aは、反力モータ21の駆動モードを協調駆動モードから自系統停止モードへ遷移させる。第1の反力制御回路41Aは、自ら演算する第1の電流指令値に対するゲインを通常制御時の「1倍」から「0倍」に切り替える。
【0091】
この時点において、第1の反力制御回路41Aのゲインと、第1の転舵制御回路51Aのゲインとは、いずれも「0倍」である。たとえば、第1の転舵制御回路51Aと第2の転舵制御回路52Aとの間の通信異常が確定する前に、通信が正常状態に復帰する場合(時刻T19)、ゲインが「0倍」の状態が維持される。
【0092】
なお、第2の反力制御回路42Aは、第1の反力制御回路41Aと同様の処理を実行する。第2の転舵制御回路52Aは、第1の転舵制御回路51Aと同様の処理を実行する。また、第1の反力制御回路41Aと第1の転舵制御回路51Aとの間で授受される情報は、第2の反力制御回路42Aと第2の転舵制御回路52Aとの間で授受される情報と同様の情報である。このため、第2の反力制御回路42Aのゲインと、第2の転舵制御回路52Aのゲインとが、いずれも「0倍」となる状況が発生し得る。すなわち、4つの制御回路(41A,42A,51A,52A)のゲインがすべて「0倍」となる状況が発生し得る。第1の転舵制御回路51Aと第2の転舵制御回路52Aとの間の通信異常が確定する前に、通信が正常状態に復帰する場合、すべてのゲインが「0倍」となる状態が維持される。
【0093】
4つの制御回路(41A,42A,51A,52A)のゲインがすべて「0倍」になると、ステアリングホイール11に操舵反力を付与することと、転舵輪15に転舵力を付与することとが困難となる。すなわち、適切な反力制御の実行、および適切な転舵制御の実行が困難となる。そこで、本実施の形態では、このような異常に適切に対応するために、各制御回路(41A,42A,51A,52A)として、つぎの2つの構成を採用している。
【0094】
<第1の構成>
まず、第1の構成について説明する。
各制御回路(41A,42A,51A,52A)は、制御ステータスが通常制御状態に遷移する前においては、各モータ(21,31)の駆動モードを自系統停止モードへ遷移させるかどうかを判定する処理を実行しない。これは、駆動モードが通常制御状態に遷移する前に通信異常が発生したとしても安全性に問題がないからである。このため、駆動モードが通常制御状態に遷移する前に、たとえば系統間の通信異常が発生したとしても、制御ステータスが自系統停止モードに遷移すること、すなわちゲインが「0倍」に切り替わることがない。具体的な一例は、つぎの通りである。
【0095】
図5のタイムチャートに示すように、車両電源がオンされたとき(時刻T21)、たとえば、第1の転舵制御回路51Aと第2の転舵制御回路52Aとの間の通信に異常が発生している場合、第1の転舵制御回路51Aの制御ステータスは、他系統の起動待ち状態となる。
【0096】
第1の転舵制御回路51Aは、他系統の起動待ち状態が、定められた期間だけ経過したとき(時刻T22)、起動処理およびイニシャルチェックを実行する。起動処理およびイニシャルチェックの実行中、第1の転舵制御回路51Aの制御ステータスは、未アシスト状態である。転舵モータ31の駆動モードは、協調駆動モードである。
【0097】
第1の転舵制御回路51Aは、イニシャルチェックの実行が正常に完了すると(時刻T23)、SBW(Steer-By-Wire)制御を実行する(時刻T35)。ここでのSBW制御は、転舵制御である。また、第1の転舵制御回路51Aは、制御ステータスを他系統のアシスト開始待ち状態に遷移させる。ただし、第1の転舵制御回路51Aと第2の転舵制御回路52Aとの間の通信が異常であって、第1の転舵制御回路51Aは、第2の転舵制御回路52Aとの間で通信を行っていない。このため、第1の転舵制御回路51Aは、制御ステータスを他系統のアシスト開始待ち状態から独立駆動モードに遷移させる(時刻T24)。転舵モータ31の駆動モードは、協調駆動モードに維持される。
【0098】
この後、第1の転舵制御回路51Aと第2の転舵制御回路52Aとの間の通信異常が確定する前に、通信が正常状態に復帰する場合がある(時刻T25)。
第2の転舵制御回路52Aは、第1の転舵制御回路51Aと同様の処理を実行する。第2の転舵制御回路52Aの制御ステータスは、イニシャルチェックの実行完了後、アシスト開始待ち状態を経て、独立駆動モードに遷移する。転舵モータ31の駆動モードは、協調駆動モードに維持される。
【0099】
第1の反力制御回路41Aは、車両電源がオンされたとき(時刻T21)、起動処理およびイニシャルチェックを実行する。起動処理およびイニシャルチェックの実行中、第1の反力制御回路41Aの制御ステータスは、未アシスト状態である。第1の反力制御回路41Aは、第1の転舵制御回路51Aが起動していないものの、制御ステータスが通常制御状態に遷移する前であるため、駆動モードを自系統停止モードへ遷移させるかどうかの判定処理を実行しない。このため、第1の転舵制御回路51Aが起動していない場合であれ、駆動モードは、自系統停止モードへ遷移することなく、協調駆動モードに維持される。すなわち、第1の反力制御回路41Aが演算する第1の電流指令値に対するゲインが、通常制御時の「1倍」から「0倍」に切り替えられることがない。
【0100】
第1の反力制御回路41Aは、イニシャルチェックの実行が完了したとき(時刻T26)、制御ステータスを未アシスト状態から他系統のアシスト開始待ち状態に遷移させる。
第1の反力制御回路41Aは、第1の転舵制御回路51Aによるイニシャルチェックの実行が完了したとき(時刻T23)、第1の転舵制御回路51Aが起動したとして、SBW制御を実行する。ここでのSBW制御は、反力制御である。また、第1の反力制御回路41Aは、制御ステータスを他系統のアシスト開始待ち状態から通常制御状態に遷移させる。反力モータ21の駆動モードは、協調駆動モードである。
【0101】
第2の反力制御回路42Aは、第1の反力制御回路41Aと同様の処理を実行する。第2の反力制御回路42Aの制御ステータスは、イニシャルチェックの実行完了後、他系統のアシスト開始待ち状態を経て、通常制御状態に遷移する。反力モータ21の駆動モードは、協調駆動モードに維持される。
【0102】
このように、車両電源のオンに伴う各制御回路(41A,42A,51A,52A)の起動時から、第1の転舵制御回路51Aと第2の転舵制御回路52Aとの間の通信に異常が発生する場合であれ、反力モータ21および転舵モータの駆動モードが自系統停止モードに遷移することがない。すなわち、各制御回路のゲインがすべて「0倍」になることがない。また、第1の転舵制御回路51Aと第2の転舵制御回路52Aとの間の通信異常が確定する前に、通信が正常状態に復帰する場合であれ、反力モータ21および転舵モータ31の駆動モードは、協調駆動モードに維持される。
【0103】
なお、車両電源のオンに伴う各制御回路(41A,42A,51A,52A)の起動時から、第1の反力制御回路41Aと第2の反力制御回路42Aとの間の通信に異常が発生する場合についても同様である。
【0104】
また、異常は、系統間の通信異常に限らない。異常は、第1の反力制御回路41Aおよび第2の反力制御回路42Aが、起動時に同時にリセット処理を実行することにより起動が遅れる場合を含む。この場合、先行して起動する第1の転舵制御回路51Aおよび第2の転舵制御回路52Aが、各々、通信異常を検出する。異常は、第1の転舵制御回路51Aおよび第2の転舵制御回路52Aが、起動時に同時にリセット処理を実行することにより起動が遅れる場合も含む。この場合、先行して起動する第1の反力制御回路41Aおよび第2の反力制御回路42Aが、各々、通信異常を検出する。
【0105】
<第2の構成>
つぎに、第2の構成について説明する。
各制御回路(41A,42A,51A,52A)は、通常制御の実行中、意図しないゲインの組み合わせが発生した場合、その旨示す報知信号S1を車両制御装置90に送信する。具体的な一例は、つぎの通りである。
【0106】
図6のタイムチャートに示すように、各制御回路(41A,42A,51A,52A)が通常制御を実行している場合において、たとえば、第1の転舵制御回路51Aおよび第2の転舵制御回路52Aが、同時にリセットされる(時刻T31)。
【0107】
この場合、第1の反力制御回路41Aは、第1の転舵制御回路51Aが起動していないため、制御ステータスを通常制御状態から独立駆動状態へ遷移させる。また、第1の反力制御回路41Aは、反力モータ21の駆動モードを、協調駆動モードから自系統停止モードへ遷移させる(時刻T32)。すなわち、第1の反力制御回路41Aは、自ら演算する第1の電流指令値に対するゲインを通常制御時の「1倍」から「0倍」に切り替える。
【0108】
第2の反力制御回路42Aは、第1の反力制御回路41Aと同様の処理を実行する。第2の反力制御回路42Aは、第2の転舵制御回路52Aが起動していないため、制御ステータスを通常制御状態から独立駆動状態へ遷移させる。また、第2の反力制御回路42Aは、反力モータ21の駆動モードを、協調駆動モードから自系統停止モードへ遷移させる。すなわち、第1の反力制御回路41Aは、自ら演算する第2の電流指令値に対するゲインを通常制御時の「1倍」から「0倍」に切り替える。
【0109】
第1の転舵制御回路51Aは、リセットの完了後、起動処理、およびイニシャルチェックを実行する(時刻T33)。第1の転舵制御回路51Aは、イニシャルチェックの実行が正常に完了すると(時刻T34)、アシスト開始待ち期間を経て、SBW制御を実行する(時刻T35)。ここでのSBW制御は、転舵制御である。
【0110】
ただし、第1の転舵制御回路51Aは、第1の反力制御回路41Aから、制御ステータスと、反力モータ21の駆動モードとを取得する。第1の転舵制御回路51Aは、取得される第1の反力制御回路41Aの制御ステータスに、第1の転舵制御回路51Aの制御ステータスを同期させる。すなわち、第1の転舵制御回路51Aは、制御ステータスを、通常制御状態から独立駆動状態に遷移させる。また、第1の転舵制御回路51Aは、取得される反力モータ21の駆動モードに、転舵モータ31の駆動モードを同期させる。すなわち、第1の転舵制御回路51Aは、転舵モータ31の駆動モードを協調駆動モードから自系統停止モードへ遷移させる。第1の転舵制御回路51Aは、自ら演算する第3の電流指令値に対するゲインを通常制御時の「1倍」から「0倍」に切り替える。
【0111】
第2の転舵制御回路52Aは、第1の転舵制御回路51Aと同様の処理を実行する。第2の転舵制御回路52Aは、リセットの完了後、起動処理、およびイニシャルチェックを実行する。第2の転舵制御回路52Aは、イニシャルチェックの実行が正常に完了すると、アシスト開始待ち期間を経て、SBW制御を実行する。ただし、第2の転舵制御回路52Aは、取得される第2の反力制御回路42Aの制御ステータスに、第2の転舵制御回路52Aの制御ステータスを同期させる。すなわち、第2の転舵制御回路52Aは、制御ステータスを、通常制御状態から独立駆動状態に遷移させる。また、第2の転舵制御回路52Aは、取得される反力モータ21の駆動モードに、転舵モータ31の駆動モードを同期させる。すなわち、第2の転舵制御回路52Aは、転舵モータ31の駆動モードを協調駆動モードから自系統停止モードへ遷移させる。第2の転舵制御回路52Aは、自ら演算する第4の電流指令値に対するゲインを通常制御時の「1倍」から「0倍」に切り替える。
【0112】
したがって、4つの制御回路(41A,42A,51A,52A)のゲインが、すべて「0倍」となる。すべてのゲインが「0倍」になることは、意図しないゲインの組み合わせが発生することである。この場合、4つの制御回路のうち少なくとも1つは、報知信号S1を生成し、生成される報知信号S1を車両制御装置90に送信する。
【0113】
車両制御装置90は、たとえば、車両の走行を制御する。具体的には、車両制御装置90は、たとえば車両のパワートレインを制御する。パワートレインは、車両の走行用駆動源および動力伝達機構を含む。走行用駆動源は、たとえば、エンジンあるいはモータを含む。動力伝達機構は、走行用駆動源が発生する動力を駆動輪に伝達するための機構である。
【0114】
車両制御装置90は、報知信号S1が受信されるとき、定められた処理を実行する。処理は、たとえば、車両を安全に停車させるための停車処理を含む。停車処理は、車線内で車両を自動停止させるための処理を含む。また、停車処理は、運転者の運転状態にかかわらず、車両を路肩などの安全な場所に寄せて自動停止させる自動退避処理を含む。車両制御装置90は、車載されるカメラおよびセンサを通じて、車両の周囲環境を認識可能である。停車処理の実行を通じて、車両は安全に停車する。
【0115】
また、処理は、異常の発生を運転者に報知するための報知処理を含んでいてもよい。報知処理は、車載の表示装置を介して、異常の発生を運転者の視覚に訴えて報知するための処理を含んでいてもよい。また、報知処理は、車載のスピーカを介して、異常の発生を運転者の聴覚に訴えて報知するための処理を含んでいてもよい。運転者は、視覚あるいは聴覚を通じて、異常の発生を認識することが可能である。また、異常発生時の対処を運転者に促すことが可能となる。
【0116】
<第1の実施の形態の効果>
第1の実施の形態は、以下の効果を奏する。
(1-1)各制御回路(41A,42A,51A,52A)は、自系統以外の他系統の制御回路の動作状態が異常である場合であっても、自己の動作状態が、安全上問題がないとされる特定の動作状態であるときには、駆動モードを自系統停止モードに遷移させない。異常は、たとえば、車両電源がオンされたときの起動遅れに起因する通信異常、あるいは制御回路のリセットに伴う通信異常を含む。この構成によれば、各制御回路は、自系統以外の他系統の制御回路の動作状態が異常である場合であっても、自己の動作状態が、安全上問題がないとされる特定の動作状態であるときには、駆動モードを自系統停止モードに遷移させない。このため、各制御回路は、自己の動作状態に応じて、自系統以外の他系統の制御回路の異常に適切に対応することができる。
【0117】
(1-2)各制御回路(41A,42A,51A,52A)は、車両電源のオンに伴い、起動処理およびイニシャルチェックを実行する。また、各制御回路は、自系統以外の他系統の制御回路と同期して反力モータ21および転舵モータ31の駆動を制御する観点から、他系統の制御回路の動作状態を監視する。駆動モードを自系統停止モードに遷移させない特定の動作状態は、起動処理またはイニシャルチェックを実行している状態である。この構成によるように、起動処理およびイニシャルチェックの実行中は、安全上問題がないとされる。このため、自系統以外の他系統の制御回路の動作状態が異常である場合であっても、駆動モードを自系統停止モードに遷移させないようにすることが可能である。
【0118】
(1-3)各制御回路(41A,42A,51A,52A)は、駆動モードを相互に同期させる。また、各制御回路は、車両を制御する車両制御装置90と通信可能である。各制御回路は、反力モータ21あるいは転舵モータ31の駆動を制御している場合において、自系統以外の他系統の制御回路の動作状態が異常であるとき、駆動モードを自系統停止モードに遷移させる。各制御回路は、前述の同期を通じて、各制御回路の駆動モードが、すべて自系統停止モードに遷移したとき、その旨示す報知信号S1を車両制御装置90に送信する。このため、車両制御装置90は、報知信号S1に基づき、反力モータ21および転舵モータ31の駆動が困難であることを認識することができる。
【0119】
各制御回路の駆動モードが、すべて自系統停止モードに遷移する場合の一例は、第1の反力制御回路41Aおよび第2の反力制御回路42Aが、各々、反力モータ21の駆動を制御しているときに、第1の転舵制御回路51Aおよび第2の転舵制御回路52Aが同時にリセットされる場合である。また、各制御回路の駆動モードが、すべて自系統停止モードに遷移する場合の他の一例は、第1の転舵制御回路51Aおよび第2の転舵制御回路52Aが、各々、転舵モータ31の駆動を制御しているときに、第1の反力制御回路41Aおよび第2の反力制御回路42Aが同時にリセットされる場合である。
【0120】
(1-4)第1の反力制御回路41Aと第1の転舵制御回路51Aとが互いに動作状態を監視する関係にある。また、第2の反力制御回路42Aと第2の転舵制御回路52Aとが互いに動作状態を監視する関係にある。この構成によれば、第1の反力制御回路41Aは、自系統以外の他系統の制御回路である第1の転舵制御回路51Aの動作状態が異常である場合であっても、自己の動作状態が、安全上問題がないとされる特定の動作状態であるときには、駆動モードを自系統停止モードに遷移させない。このため、第1の反力制御回路41Aは、自己の動作状態に応じて、第1の転舵制御回路51Aの異常に適切に対応することができる。また、第1の転舵制御回路51Aは、自系統以外の他系統の制御回路である第1の反力制御回路41Aの動作状態が異常である場合であっても、自己の動作状態が、安全上問題がないとされる特定の動作状態であるときには、駆動モードを自系統停止モードに遷移させない。このため、第1の転舵制御回路51Aは、自己の動作状態に応じて、第1の反力制御回路41Aの異常に適切に対応することができる。第2の反力制御回路42Aと、第2の転舵制御回路52Aとについても同様である。
【0121】
<第2の実施の形態>
つぎに、車両用制御装置を電動パワーステアリング装置に具体化した第2の実施の形態を説明する。なお、第1の実施の形態と同様の部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
【0122】
電動パワーステアリング装置は、先の
図1に示されるステアリングホイール11と転舵輪15との間が機械的に連結されてなる。すなわち、ステアリングシャフト12、ピニオンシャフト33および転舵シャフト13は、ステアリングホイール11と転舵輪15との間の動力伝達経路として機能する。ステアリングホイール11の操舵に伴い転舵シャフト13が直線運動することにより、転舵輪15の転舵角θwが変更される。
【0123】
電動パワーステアリング装置は、アシストモータおよびアシスト制御装置を有している。アシストモータは、先の
図1に示される反力モータ21または転舵モータ31と同じ位置に設けられる。アシストモータは、ステアリングホイール11の操作を補助するためのアシスト力を発生する。アシスト力は、ステアリングホイール11の操舵方向と同じ方向のトルクである。アシスト制御装置は、制御対象であるアシストモータの駆動を制御する。
【0124】
図7に示すように、アシストモータ70は、第1系統の巻線群N31および第2系統の巻線群N32を有している。
アシスト制御装置80は、第1系統回路81を有している。第1系統回路81は、第1のアシスト制御回路81Aおよびモータ駆動回路81Bを有している。第1のアシスト制御回路81Aは、第1系統の巻線群N31に対する給電を制御する。第1のアシスト制御回路81Aは、トルクセンサ23を通じて検出される操舵トルクThに基づきモータ駆動回路81Bに対する駆動信号を生成する。
【0125】
モータ駆動回路81Bは、第1のアシスト制御回路81Aにより生成される駆動信号に基づき、直流電源60から供給される直流電力を三相交流電力に変換する。モータ駆動回路81Bにより生成される三相交流電力は、バスバーあるいはケーブルなどからなる各相の給電経路を介してアシストモータ70の第1系統の巻線群N31に供給される。
【0126】
アシスト制御装置80は、第2系統回路82を有している。第2系統回路82は、第2のアシスト制御回路82Aおよびモータ駆動回路82Bを有している。第2のアシスト制御回路82Aは、第2系統の巻線群N32に対する給電を制御する。第2のアシスト制御回路82Aは、トルクセンサ23を通じて検出される操舵トルクThに基づきモータ駆動回路82Bに対する駆動信号を生成する。
【0127】
モータ駆動回路82Bは、第2のアシスト制御回路82Aにより生成される駆動信号に基づき、直流電源60から供給される直流電力を三相交流電力に変換する。モータ駆動回路82Bにより生成される三相交流電力は、バスバーあるいはケーブルなどからなる各相の給電経路を介してアシストモータ70の第2系統の巻線群N32に供給される。
【0128】
第1のアシスト制御回路81Aと第2のアシスト制御回路82Aとは、通信線を介して互いに情報を授受する。情報には、第1のアシスト制御回路81A、第2のアシスト制御回路82Aあるいはモータ駆動回路81B,82Bの異常情報が含まれる。また、情報には、各種のフラグの値が含まれる。第1のアシスト制御回路81Aと第2のアシスト制御回路82Aとは、互いに授受される情報に基づき協調してアシストモータ70の駆動を制御する。
【0129】
第1のアシスト制御回路81Aは、基本的には、
図2に示される第1の反力制御回路41Aあるいは第2の反力制御回路42Aと同様の構成を有している。第2のアシスト制御回路82Aは、基本的には、
図2に示される第1の転舵制御回路51Aあるいは第2の転舵制御回路52Aと同様の構成を有している。第1のアシスト制御回路81Aおよび第2のアシスト制御回路82Aは、第1の実施の形態における各制御回路(41A,42A,51A,52A)と同様に、協調駆動モード、独立駆動モード、および片系統駆動モードのうちいずれか一つの駆動モードでアシストモータ70の駆動を制御する。
【0130】
車両電源のオン時、第1のアシスト制御回路81Aと第2のアシスト制御回路82Aとの間で通信異常が発生した場合、第1のアシスト制御回路81Aおよび第2のアシスト制御回路82Aは、つぎの処理を実行する。すなわち、第1のアシスト制御回路81Aは、
図5に示される第1の実施の形態における第1の反力制御回路41Aあるいは第2の反力制御回路42Aと同様の処理を実行する。第2のアシスト制御回路82Aは、
図5に示される第1の実施の形態における第1の転舵制御回路51Aあるいは第2の転舵制御回路52Aと同様の処理を実行する。
【0131】
また、第1のアシスト制御回路81Aと第2のアシスト制御回路82Aとが通常制御を実行している場合に、たとえば第2のアシスト制御回路82Aがリセットされるとき、第1のアシスト制御回路81Aおよび第2のアシスト制御回路82Aは、つぎの処理を実行する。すなわち、第1のアシスト制御回路81Aは、
図6に示される第1の実施の形態における第1の反力制御回路41Aあるいは第2の反力制御回路42Aと同様の処理を実行する。第2のアシスト制御回路82Aは、
図6に示される第1の実施の形態における第1の転舵制御回路51Aあるいは第2の転舵制御回路52Aと同様の処理を実行する。
【0132】
したがって、第2の実施の形態は、以下の効果を奏する。
(2-1)第1のアシスト制御回路81Aは、自系統以外の他系統の制御回路である第2のアシスト制御回路82Aの動作状態が異常である場合であっても、自己の動作状態が、安全上問題がないとされる特定の動作状態であるときには、駆動モードを自系統停止モードに遷移させない。このため、第1のアシスト制御回路81Aは、自己の動作状態に応じて、第2のアシスト制御回路82Aの異常に適切に対応することができる。また、第2のアシスト制御回路82Aは、自系統以外の他系統の制御回路である第1のアシスト制御回路81Aの動作状態が異常である場合であっても、自己の動作状態が、安全上問題がないとされる特定の動作状態であるときには、駆動モードを自系統停止モードに遷移させない。このため、第2のアシスト制御回路82Aは、自己の動作状態に応じて、第1のアシスト制御回路81Aの異常に適切に対応することができる。
【0133】
(2-2)各制御回路(81A,82A)は、車両電源のオンに伴い、起動処理およびイニシャルチェックを実行する。また、各制御回路は、自系統以外の他系統の制御回路と同期してアシストモータ70の駆動を制御する観点から、他系統の制御回路の動作状態を監視する。駆動モードを自系統停止モードに遷移させない特定の動作状態は、起動処理またはイニシャルチェックを実行している状態である。この構成によるように、起動処理およびイニシャルチェックの実行中は、安全上問題がないとされる。このため、自系統以外の他系統の制御回路の動作状態が異常である場合であっても、駆動モードを自系統停止モードに遷移させないようにすることが可能である。
【0134】
(2-3)各制御回路(81A,82A)は、駆動モードを相互に同期させる。また、各制御回路は、車両を制御する車両制御装置90と通信可能に構成される。各制御回路は、アシストモータ70の駆動を制御している場合において、自系統以外の他系統の制御回路の動作状態が異常であるとき、駆動モードを自系統停止モードに遷移させる。各制御回路は、前述の同期を通じて、各制御回路の駆動モードが、すべて自系統停止モードに遷移したとき、その旨示す報知信号S1を車両制御装置90に送信する。このため、車両制御装置90は、報知信号S1に基づき、アシストモータ70の駆動が困難であることを認識することができる。
【0135】
各制御回路の駆動モードが、すべて自系統停止モードに遷移する場合の一例は、第1のアシスト制御回路81Aが、アシストモータ70の駆動を制御しているときに、第2のアシスト制御回路82Aがリセットされる場合である。また、各制御回路の駆動モードが、すべて自系統停止モードに遷移する場合の他の一例は、第2のアシスト制御回路82Aが、アシストモータ70の駆動を制御しているときに、第1のアシスト制御回路81Aがリセットされる場合である。
【0136】
<他の実施の形態>
なお、本実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・第1の実施の形態において、第1の反力制御回路41Aおよび第2の反力制御回路42Aは、ステアリングホイール11が操舵されているかどうかを判定するようにしてもよい。ステアリングホイール11が操舵されているかどうかは、たとえば操舵トルクThに基づき判定される。第1の反力制御回路41Aおよび第2の反力制御回路42Aは、ステアリングホイール11が操舵されているにもかかわらず、第1の電流指令値および第2の電流指令値が共に「0」である場合、ステアリングホイール11に操舵反力が付与されていない異常状態であると判定し、その旨示す報知信号S1を車両制御装置90に送信する。このようにすれば、車両制御装置90は、報知信号S1に基づき、ステアリングホイール11に操舵反力が付与されていない異常状態であることを認識することができる。車両制御装置90は、異常状態が認識されるとき、たとえば、車両を安全に停車させるための停車処理、あるいは異常の発生を運転者に報知するための報知処理を実行するようにしてもよい。
【0137】
・第1の実施の形態において、反力モータ21および転舵モータ31は、2系統の巻線群を有していたが、1系統の巻線群を有するものであってもよい。この場合、反力制御装置40は、第1系統回路41および第2系統回路42のうちいずれか一方のみを有していてもよい。また、この場合、転舵制御装置50は、第1系統回路51および第2系統回路52のうちいずれか一方のみを有していてもよい。なお、第1の反力制御回路41Aまたは第2の反力制御回路42Aは、反力制御回路に相当する。第1の転舵制御回路51Aまたは第2の転舵制御回路52Aは、転舵制御回路に相当する。この構成によれば、第2の実施の形態の(2-1)~(2-3)の効果と同様の効果が得られる。第1のアシスト制御回路81Aを反力制御回路と読み替える一方、第2のアシスト制御回路82Aを転舵制御回路と読み替えればよい。
【0138】
・第1の実施の形態では車両用制御装置をステアバイワイヤ式の操舵装置に、第2の実施の形態では車両用制御装置を電動パワーステアリング装置に具体化したが、たとえば、車両電源がオフされた後、ドアロックに連動して開閉する電動ドアミラー装置に具体化してもよい。冗長化された制御回路とモータ駆動回路とを有するすべての車両用制御装置に具体化することが可能である。冗長化された制御回路は、たとえば、互いに同期した状態遷移が必要であってもよい。
【符号の説明】
【0139】
11…ステアリングホイール
15…転舵輪
21…反力モータ
31…転舵モータ
41A…第1の反力制御回路
42A…第2の反力制御回路
51A…第1の転舵制御回路
52A…第2の転舵制御回路
70…アシストモータ
81A…第1のアシスト制御回路
82A…第2のアシスト制御回路
90…車両制御装置
N11…反力モータの第1系統の巻線群
N12…反力モータの第2系統の巻線群
N21…転舵モータの第1系統の巻線群
N22…転舵モータの第2系統の巻線群
N31…アシストモータの第1系統の巻線群
N32…アシストモータの第2系統の巻線群