(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171083
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】内燃機関用ピストン
(51)【国際特許分類】
F02F 3/22 20060101AFI20241204BHJP
F02F 3/00 20060101ALI20241204BHJP
F16J 1/09 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
F02F3/22 A
F02F3/00 301Z
F16J1/09
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087964
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】友野 雄一朗
【テーマコード(参考)】
3J044
【Fターム(参考)】
3J044AA09
3J044CA04
3J044CA16
3J044CA18
3J044DA09
3J044EA10
(57)【要約】
【課題】ピストンに形成するオイル通路において、流入口から排出口へオイルを流れやすくする構造を有するとともに、当該構造を有するオイル通路の加工及び実現がより容易な、内燃機関用ピストンを提供する。
【解決手段】ピストンヘッド10におけるピストンスカート側のヘッド裏面10bに、プレート対向面51b、52bが周方向に連続して接触するプレート50が取り付けられ、ヘッド裏面には周方向に断続するピストン溝部10mが形成され、プレート対向面には周方向に断続するプレート溝部51m、52mが形成され、隣り合うピストン溝部はプレート溝部にて連結され、隣り合うプレート溝部はピストン溝部にて連結され、一部のプレート溝部にはオイル流入口が形成され、当該プレート溝部から遠い位置のプレート溝部にはオイル排出口が形成され、ピストン溝部とプレート溝部の端部には、深くなるに従って反対側の端部に近づく傾斜面が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンヘッドとピストンスカートを有して前記ピストンヘッドにオイル通路が形成された内燃機関用ピストンであって、
前記ピストンヘッドは、径方向外側に延設され、延設された個所における前記ピストンスカートの側にヘッド裏面を有し、
前記内燃機関用ピストンには、前記ヘッド裏面に周方向に連続して接触するように円環状のプレートが取り付けられており、
前記ヘッド裏面には、周方向に断続する複数のオイル溝部であるピストン溝部が形成され、
前記ヘッド裏面に接触している前記プレートの面であるプレート対向面には、周方向に断続する複数のオイル溝部であるプレート溝部が形成され、
それぞれの前記ピストン溝部の周方向の端部は、対向している前記プレート溝部の周方向の端部とオーバーラップしており、周方向に隣り合う前記ピストン溝部は前記プレート溝部にて連結され、周方向に隣り合う前記プレート溝部は前記ピストン溝部にて連結されており、
一部の前記プレート溝部には、前記内燃機関用ピストンの往復方向に沿う貫通孔であるオイル流入口が形成されており、
前記オイル流入口が形成された前記プレート溝部から遠い位置に形成された前記プレート溝部には、前記往復方向に沿う貫通孔であるオイル排出口が形成されており、
それぞれの前記ピストン溝部とそれぞれの前記プレート溝部における周方向の端部には、深くなるに従って反対側の端部に近づく傾斜面が形成されている、
内燃機関用ピストン。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関用ピストンであって、
前記傾斜面は、半球面状とされている、
内燃機関用ピストン。
【請求項3】
請求項1に記載の内燃機関用ピストンであって、
前記ピストン溝部と前記プレート溝部のオーバーラップしている領域は、周方向において互いの前記傾斜面の全体を含む領域とされている、
内燃機関用ピストン。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の内燃機関用ピストンであって、
前記プレートは、C字状の第1半割プレートと、C字状の第2半割プレートにて、円環状とされている、
内燃機関用ピストン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンヘッドとピストンスカートを有してピストンヘッドにオイル通路が形成された内燃機関用ピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のピストンには、クランクケース内に設けられたオイル噴射ジェットから噴射されたオイルの流入口と、流入口から流入したオイルの流路であるオイル通路と、オイル通路を通過したオイルの排出口と、が設けられ、当該オイルをピストンの冷却に用いている。そしてオイル通路の構造については、流入口から流入したオイルを排出口へと効率よく導くために、種々の構造が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、ピストンに設けられたオイル通路内の上面と下面の少なくとも一方に、流入口から排出口に向かって三角形状の凹凸形状が連続するように形成された、内燃機関用のピストンが開示されている。そして当該三角形状の凹凸形状は、排出口側に向かって傾斜する第1面と、流入口側に向かって傾斜する第2面とを有しており、第1面の面積のほうが第2面の面積よりも大きい。この凹凸形状により、オイル通路内のオイルは、ピストンの上下運動によって上下に移動した際、より面積の大きな第1面に沿って排出口側へ流れやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の内燃機関用のピストンでは、ピストンのオイル通路内の上面と下面の少なくとも一方に三角形状の凹凸形状が連続するように形成されているが、当該凹凸形状をピストンのオイル通路内に形成するための加工が、複雑かつ困難であり、実現が難しい。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、ピストンに形成するオイル通路において、流入口から排出口へオイルを流れやすくする構造を有するとともに、当該構造を有するオイル通路の加工及び実現がより容易な、内燃機関用ピストンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、第1の発明は、ピストンヘッドとピストンスカートを有して前記ピストンヘッドにオイル通路が形成された内燃機関用ピストンであって、前記ピストンヘッドは、径方向外側に延設され、延設された個所における前記ピストンスカートの側にヘッド裏面を有し、前記内燃機関用ピストンには、前記ヘッド裏面に周方向に連続して接触するように円環状のプレートが取り付けられている。そして、前記ヘッド裏面には、周方向に断続する複数のオイル溝部であるピストン溝部が形成され、前記ヘッド裏面に接触している前記プレートの面であるプレート対向面には、周方向に断続する複数のオイル溝部であるプレート溝部が形成され、それぞれの前記ピストン溝部の周方向の端部は、対向している前記プレート溝部の周方向の端部とオーバーラップしており、周方向に隣り合う前記ピストン溝部は前記プレート溝部にて連結され、周方向に隣り合う前記プレート溝部は前記ピストン溝部にて連結されている。また、一部の前記プレート溝部には、前記内燃機関用ピストンの往復方向に沿う貫通孔であるオイル流入口が形成されており、前記オイル流入口が形成された前記プレート溝部から遠い位置に形成された前記プレート溝部には、前記往復方向に沿う貫通孔であるオイル排出口が形成されている。そして、それぞれの前記ピストン溝部とそれぞれの前記プレート溝部における周方向の端部には、深くなるに従って反対側の端部に近づく傾斜面が形成されている、内燃機関用ピストンである。
【0008】
次に、第2の発明は、上記第1の発明に係る内燃機関用ピストンであって、前記傾斜面は、半球面状とされている、内燃機関用ピストンである。
【0009】
次に、第3の発明は、上記第1の発明に係る内燃機関用ピストンであって、前記ピストン溝部と前記プレート溝部のオーバーラップしている領域は、周方向において互いの前記傾斜面の全体を含む領域とされている、内燃機関用ピストンである。
【0010】
次に、第4の発明は、上記第1の発明~第3の発明のいずれか1つに係る内燃機関用ピストンであって、前記プレートは、C字状の第1半割プレートと、C字状の第2半割プレートにて、円環状とされている、内燃機関用ピストンである。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明によれば、ピストン溝部とプレート溝部が周方向に交互に連結されてオイル通路が形成されている。それぞれのピストン溝部とプレート溝部の周方向の端部には傾斜面が形成されているので、ピストンの往復運動によって、ピストン溝部からプレート溝部へ移動したオイル、及びプレート溝部からピストン溝部へと移動したオイルは、傾斜面に沿ってオイル排出口へ向かう方向へ流れやすくなる。またピストン溝部はヘッド裏面に形成される溝部であるので、傾斜面を含めて加工は比較的容易である。またプレート溝部はプレート対向面に形成される溝部であるので、傾斜面を含めて加工は比較的容易である。従って、オイル流入口からオイル排出口へオイルを流れやすくする構造を有するとともに、当該構造を有するオイル通路の加工及び実現がより容易である。
【0012】
第2の発明によれば、ピストン溝部及びプレート溝部の周方向の端部の傾斜面が半球面状とされているので、先端部が半球面状とされた加工工具を用いて切削することで、ピストン溝部及びプレート溝部の加工が非常に容易となる。
【0013】
第3の発明によれば、ピストンの往復運動によって、ピストン溝部からプレート溝部へ移動するオイル、及びプレート溝部からピストン溝部へと移動するオイルを通過させる通路のサイズを、小さすぎることなく適切なサイズに設定することができる。またオイルの移動先が傾斜面であるので、傾斜面に沿ってオイル排出口の側へオイルが流れやすくなる。
【0014】
第4の発明によれば、プレートの構造を、ピストンに取り付けやすい構造とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】内燃機関用ピストンに、C字状の第1半割プレートと第2半割プレートを取り付ける様子を説明する斜視図である。
【
図3】
図1において、内燃機関用ピストンに第1半割プレートと第2半割プレートを取り付け、III方向から見た図である。
【
図4】
図3における内燃機関用ピストンを上方(ピストンが下死点から上死点に向かう方向)から見てピストンヘッドを抽出した図であり、ピストンヘッドのヘッド裏面に形成されたピストン溝部を説明する図である。
【
図5】
図3における内燃機関用ピストンを上方(ピストンが下死点から上死点に向かう方向)から見てプレートを抽出した図であり、プレート対向面に形成されたプレート溝部、オイル流入口、オイル排出口を説明する図である。
【
図6】
図4に示すピストン溝部(点線にて記載)と、
図5に示すプレート溝部(実線にて記載)との重なり(オーバーラップ)を説明する図である。
【
図7】プレート溝部の概略形状の例を説明する図である。
【
図8】
図7に示すプレート溝部を、周方向に沿う仮想線VLで切断した断面を平面状に展開した図である。
【
図10】プレート溝部が形成される前のプレートと、半球面状の先端部を有する加工工具の例を説明する図である。
【
図11】
図10の状態から、加工工具を紙面下方に移動させてプレート溝部の一方端を形成した状態を説明する図である。
【
図12】
図11の状態から、加工工具をプレート対向面に対して平行に移動させてプレート溝部の全体を形成した状態を説明する図である。
【
図13】
図6に示すピストンヘッド及びプレートを、周方向に沿う仮想線VLで切断して断面を平面状に展開した図である。
【
図14】
図13の一部の拡大図であり、ピストン溝部の(半球面状の)傾斜面と、プレート溝部の(半球面状の)傾斜面とがオーバーラップしている領域を説明する図である。
【
図15】ピストンの上昇時(下死点から上死点に向かう運動中)におけるオイルの移動(流れ)を説明する図である。
【
図16】ピストンの下降時(上死点から下死点に向かう運動中)におけるオイルの移動(流れ)を説明する図である。
【
図17】
図15に示すピストン溝部及びプレート溝部に対して、オイル排出口に向かってオイルをより流れやすくする形状の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、円環状のプレート50が取り付けられてピストンヘッドにオイル通路が形成された内燃機関用ピストン(以降では「ピストン1」と記載する)について説明する。なお図中にX軸、Y軸、Z軸が記載されている場合、X軸とY軸とZ軸は互いに直交している。そしてZ軸方向はピストン1が下死点から上死点に向かう方向を示し、Y軸方向はピストンピン孔22(
図1参照)に平行な方向を示している。また以降では、ピストン1が下死点から上死点に向かう方向(Z軸方向)を「上方」、ピストン1が上死点から下死点に向かう方向(Z軸方向に対して反対に向かう方向)を「下方」と記載する場合がある。
【0017】
<ピストン1と、プレート50の概略形状(
図1~
図3)>
図1及び
図3に示すように、ピストン1は、ピストンヘッド10、ピストンスカート20を有している。なおピストンヘッド10の外周部に取り付けられるピストンリング等の記載は省略している。
【0018】
ピストンヘッド10は、
図1及び
図3に示すように、ピストン中心軸線1zに沿ってピストン1の上方に配置されている。ピストンヘッド10は、径方向外側に延設され、延設された個所におけるピストンスカート20の側にヘッド裏面10b(
図2参照)を有している。ヘッド裏面10bは、
図2に示すように、ピストン1の往復方向(Z軸方向に平行な方向)に直交している。ヘッド裏面10bには、周方向に断続する複数のオイル溝部であるピストン溝部10m(
図2、
図4参照)が下方に開口するように形成されている。
【0019】
ピストンスカート20は、
図1及び
図3に示すように、ピストン中心軸線1zに沿ってピストン1の下方に配置されている。またピストンスカート20には、ピストン1をコンロッド(図示省略)に接続するピストンピンが挿通されるピストンピン孔22が形成されている。ピストンピン孔22(Y軸方向)は、ピストン中心軸線1z(Z軸方向)と直交しており、ピストン中心軸線1z(Z軸方向)とピストンピン孔22(Y軸方向)の双方に直交する方向(X軸方向及びX軸方向の反対方向)にピストンスカート20が延出するように形成されている(
図1、
図3参照)。
【0020】
ピストンスカート20は、
図3に示すように、上下が開口されたスカート中空部21を有しており、一方のピストンスカート20のスカート中空部21は、当該ピストンスカート20の下方(クランクケース内のオイル噴射ジェット)から噴射されたオイルの通り道となる。当該オイルは、オイル流入口51g、52gからピストン1内のオイル通路(ピストン溝部10mとプレート溝部51m、52mにて形成されるオイル通路)に流入する。そしてオイル通路(ピストン溝部10mとプレート溝部51m、52mにて形成されるオイル通路)を通過したオイルは、オイル排出口51h、52hから排出され、他方のピストンスカート20のスカート中空部21を通過してクランクケースの下方に配置されたオイルパンに戻る。
【0021】
ピストンヘッド10とピストンスカート20との間には、円環状のプレート50が取り付けられるプレート取付部11(
図2参照)が形成されている。例えばプレート取付部11はピストン1の周方向に連続する凹部であり、
図1に示すように第1半割プレート51と第2半割プレート52が取り付けられて(例えば圧入されて)固定される。なお
図2においてプレート取付部11の下方に隣接する突出部13は、ピストン1の周方向に連続する凸部であり、
図10~
図12と同様の加工工具Tを用いてピストン溝部10mを形成するために、ピストン溝部10mにオーバーラップしない位置まで径方向外側に延設されている(
図2参照)。
【0022】
円環状のプレート50は、
図1に示すように、C字状の第1半割プレート51と、C字状の第2半割プレート52の2つに分割されている。第1半割プレート51は、ピストン1のプレート取付部11に設けられたピン孔12(
図2参照)に差し込まれる位置決め用のピン51pを有している。同様に、第2半割プレート52は、ピストン1のプレート取付部11に設けられたピン孔(図示省略)に差し込まれる位置決め用のピン52pを有している。ピン51p及びピン52pは、ピストン中心軸線1zに向かって延びるように設けられている。
図1に示すように、ヘッド裏面10bに対向する面であるプレート対向面51b、52bには、周方向に断続する複数のオイル溝部であるプレート溝部51m、52mが上方に開口するように形成されている。
【0023】
図3に示すように、ピストン1のプレート取付部11(
図2参照)には、ヘッド裏面10b(
図2参照)に対向するプレート対向面51b、52b(
図2参照)がヘッド裏面10bに周方向に連続して接触するようにプレート50(第1半割プレート51と第2半割プレート52)が取り付けられる。そして、ピストンヘッド10のヘッド裏面10bに形成されたピストン溝部10mと、第1半割プレート51のプレート対向面51b及び第2半割プレート52のプレート対向面51b、52bに形成されたプレート溝部51m、52mと、によってオイル通路が形成される。
【0024】
<ピストン溝部10mと、プレート溝部51m、52mの形状と配置(
図4~
図6)>
図4は、
図3に示すピストン1を上方から見てピストンヘッド10を抽出した図である。ピストンヘッド10におけるヘッド裏面10b(
図2、
図3参照)には、周方向に断続する複数のオイル溝部であるピストン溝部10mが下方に開口するように形成されている。なお
図4中の目印A1、目印B1は、
図5に示すプレート50に設けた目印A1、目印B1と同じであり、以降の説明のために第1半割プレート51と第2半割プレート52との境界に付けた目印である。
【0025】
図5は、
図3に示すピストン1を上方から見てプレート50を抽出した図である。プレート50におけるプレート対向面51b、52b(
図2、
図3参照)には、周方向に断続する複数のオイル溝部であるプレート溝部51m、52mが上方に開口するように形成されている。なお
図5中の目印A1、目印B1は、以降の説明のために第1半割プレート51と第2半割プレート52との境界に付けた目印である。
【0026】
図6は、
図4の目印A1、B1と、
図5の目印A1、B1が、それぞれ一致するように重ねた図であり、
図4に示すピストン溝部10m(点線にて記載)と、
図5に示すプレート溝部51m、52m(実線にて記載)とを重ねた図である。それぞれのピストン溝部10mの周方向の端部は、対向しているプレート溝部51m、52mの周方向の端部とオーバーラップしている。このため、周方向に隣り合うピストン溝部10mは、プレート溝部51m(またはプレート溝部52m)にて連結されている。同様に、周方向に隣り合うプレート溝部51m、52mは、ピストン溝部10mにて連結されている(
図13に示す周方向断面の展開図を参照)。
【0027】
また
図5に示すように、一部のプレート溝部51m、52mには、ピストン1の往復方向(Z軸に平行な方向)に沿う貫通孔であるオイル流入口51g、52gが形成されている。なお本実施の形態では、
図5に示すように、オイル流入口51g、52gを、第1半割プレート51と第2半割プレート52の境界部のプレート溝部51m、52mに設けた例を示しているが、オイル流入口51g、52gを境界部以外のプレート溝部51m、52mに設けてもよい。
【0028】
また
図5に示すように、オイル流入口51g、52gが形成されたプレート溝部51m、52mから遠い位置(ピストン中心軸線1zを挟んでオイル流入口51g、52gとは反対の側)に形成されたプレート溝部51m、52mには、ピストン1の往復方向(Z軸に平行な方向)に沿う貫通孔であるオイル排出口51h、52hが形成されている。なお本実施の形態では、
図5に示すように、オイル排出口51h、52hを、第1半割プレート51のプレート溝部51mと、第2半割プレート52のプレート溝部52mのそれぞれに設けた例を示しているが、オイル排出口は少なくとも1つが設けられていればよい。
【0029】
以上の構成により、
図13(
図6におけるピストン溝部10mとプレート溝部51m、52mの長手方向(周方向)に沿う仮想線VLに沿って切断した断面を平面状に展開した図)に示すように、オイル流入口51gから、プレート溝部51mとピストン溝部10mが交互に接続されてオイル排出口51hに至るオイル通路が形成される。同様に、オイル流入口52gから、プレート溝部52mとピストン溝部10mが交互に接続されてオイル排出口52hに至るオイル通路が形成される。
【0030】
<プレート溝部51mの形状の例(
図7~
図9)>
次に
図7~
図9を用いて、プレート溝部51mの形状について説明する。
図7は
図5に示す一部のプレート溝部51mの拡大図である。
図8は、
図7においてプレート溝部51mの長手方向(周方向)に沿う仮想線VLに沿って切断した断面を平面状に展開した図であり、
図9は
図7のIX-IX断面である。プレート溝部51m、52m、ピストン溝部10mは、ほぼ同一形状であるので、代表としてプレート溝部51mの形状の例を説明する。
【0031】
プレート溝部51mの溝幅Wは、例えば約4~8[mm]程度である。またプレート溝部51mの長手方向(周方向)の溝長さLは、例えば約12~20[mm]程度であり、溝幅Wの約3倍程度である。またプレート溝部51mの長手方向(周方向)の端部は、
図7に示すように上方から見た場合は半円状の形状を有している。そして
図8に示すように、プレート溝部51mの長手方向(周方向)の端部51rは、深くなるに従って反対側の端部に近づく傾斜面とされており、
図8の例では半球面状とされている。また
図9に示すように、長手方向(周方向)に直交する断面では、プレート溝部51mの形状(
図9中に符号51dで示す形状)は、直径が溝幅Wの半円状である。従って、溝深さDは、溝幅Wの約半分であり、例えば約2~4[mm]程度である。
【0032】
<プレート溝部51mを加工する加工工具Tと加工方法の例(
図10~
図12)>
次に、当該プレート溝部51mを加工する加工工具Tと、加工方法の例について、
図10~
図12を用いて説明する。
図10に示すように、加工工具Tは、
図7に示す溝幅Wの直径を有して、加工工具先端T1の形状が半球形状(回転時に半球形状であればよい)の加工工具である。まず
図10に示すように、第1半割プレート51におけるプレート溝部51mを所望する位置の端部に向けて、プレート対向面51bに直交する方向に沿って加工工具先端T1を、溝深さDまで切り込ませる(
図11参照)。この場合の溝深さDは、加工工具Tの直径(
図7の溝幅W)の約半分である。
【0033】
次に、
図11に示す状態から、加工工具Tを、プレート対向面51bと平行に、かつ、上方から見た場合に
図7に示すプレート溝部51mの長手方向(周方向)の形状に沿って(
図7に示す仮想線VLに沿って)移動させる(
図12参照)。
図12に示すように、移動距離は、形成されたプレート溝部51mの長手方向(周方向)の溝長さLが、
図7に示す溝長さLとなる距離である。その後、加工工具Tを上方に引き上げる。以上の非常にシンプルな方法で、長手方向(周方向)の端部51rが半球面状とされたプレート溝部51mを、容易に、かつ、短時間に形成することができる。なおプレート溝部52m、ピストン溝部10mも同様にして形成することができる。
【0034】
<ピストン溝部10mとプレート溝部51mによるオイル通路(
図13~
図14)と、オイルの流れる様子(
図15~
図16)>
以上のように形成されたピストン溝部10m、プレート溝部51m、52mによって、オイル通路が形成されている。
図13に示すように、オイル流入口51g、52gから流入してプレート溝部51mの側へ流れたオイルは、プレート溝部51mからピストン溝部10m、ピストン溝部10mからプレート溝部51mへ移動を繰り返し、オイル排出口51hに到達して排出される。同様に、オイル流入口52g、51gから流入から流入してプレート溝部52mの側へ流れたオイルは、プレート溝部52mからピストン溝部10m、ピストン溝部10mからプレート溝部52mへ移動を繰り返し、オイル排出口52hに到達して排出される。図示省略したオイル噴射ジェットから噴射されたオイルが、オイル流入口51g、52gから次々と流入するので(次々と押し込まれるので)、オイルが逆流することはない。
【0035】
なお、
図14は、
図13の一部の拡大図である。プレート溝部51mの長手方向の端部(周方向の端部)は、ピストン溝部10mの長手方向の端部(周方向の端部)とオーバーラップしている。プレート溝部51mとピストン溝部10mによるオイル通路は、プレート溝部51mとピストン溝部10mが重なっているオーバーラップ領域Kと、重なっていない非オーバーラップ領域Hと、が交互に繰り返されて形成されている。
【0036】
図14に示すように、オーバーラップ領域Kは、周方向(紙面の左右方向)において、プレート溝部51mの端部51r(半球面状(傾斜面に相当)の個所)の全体と、ピストン溝部10mの端部10r(半球面状(傾斜面に相当)の個所)の全体を含んでいる。このため、ピストン溝部10mとプレート溝部51mの接続個所の流路のサイズが、小さすぎることなく適切な大きさに確保されている。
図14に示す例では、ピストン溝部10mとプレート溝部51mの長手方向(周方向)の長さの約1/3が、それぞれのオーバーラップ領域Kの長さに設定され、残りの約1/3が非オーバーラップ領域Hの長さに設定されている。
【0037】
次に
図15及び
図16を用いて、プレート溝部51m、52mとピストン溝部10mにて構成されたオイル通路内において、オイル排出口に向かうオイルの流れが促進される様子を説明する。なお
図15及び
図16は、
図13の一部の拡大図である。
【0038】
図13において、オイル噴射ジェット(図示省略)から噴射されてオイル流入口51g、52gからプレート溝部51m内に流入したオイルは、オイル通路内を充填するほど多量のオイルではなく、
図15及び
図16に符号Qで示すように、オイル滴状のオイルQとなってオイル通路(プレート溝部51mとピストン溝部10mによる通路)内を移動していく。
【0039】
図15は、ピストン上昇時(ピストンが下死点から上死点へ向かう運動中)の場合の例を示している。この場合、オイルQは、慣性力によって紙面下方へ移動し、ピストン溝部10mの紙面右側の端部10rからプレート溝部51mの紙面左側の端部51rへと移動する。移動先のプレート溝部51mの端部51rが半球面状(「深くなるに従って反対側の端部に近づく傾斜面」に相当)であるので、オイルQは、端部51rに衝突したあと、紙面右方向(オイル排出口51hへ向かう方向)へと勢いづけられて流れる。またオイル流入口51g、52gから次々とオイルQが押し込まれてくるので、オイルQが紙面左方向(オイル流入口51gへ向かう方向)には流れていかない。
【0040】
図16は、ピストン下降時(ピストンが上死点から下死点へ向かう運動中)の場合の例を示している。この場合、オイルQは、慣性力によって紙面上方へ移動し、プレート溝部51mの紙面右側の端部51rからピストン溝部10mの紙面左側の端部10rへと移動する。移動先のピストン溝部10mの端部10rが半球面状(「深くなるに従って反対側の端部に近づく傾斜面」に相当)であるので、オイルQは、端部10rに衝突したあと、紙面右方向(オイル排出口51hへ向かう方向)へと勢いづけられて流れる。またオイル流入口51g、52gから次々とオイルQが押し込まれてくるので、オイルQが紙面左方向(オイル流入口51gへ向かう方向)には流れていかない。
【0041】
<ピストン溝部10mとプレート溝部51mの、その他の形状の例(
図17)>
図17は、
図15に示すピストン溝部10m、プレート溝部51mの形状に対して、オイル排出口51hに近づくに従って溝深さが徐々に深くなるように変更した例を示している。
図17において、例えば底面角度θ1は、例えば数[度]程度の角度に設定されている。当該形状は、
図11~
図12に示す加工工具Tを移動させる際に徐々に切り込んでいくことで、容易に形成することができる。
【0042】
図17に示すように、オイル排出口51hに近づくに従って(ピストン溝部10mとプレート溝部51mの)溝深さが徐々に深くなる(溝底面が底面角度θ1で傾斜している)ので、ピストン上昇時(及びピストン下降時)、慣性力で移動したオイルQは、底面角度θ1で傾斜している溝底面に沿って、オイル排出口51hへ向かって、さらに勢いづけられて流れる。
【0043】
本発明の、内燃機関用ピストン(ピストン1)は、本実施の形態で説明した構成、構造、形状、外観等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。
【0044】
本実施形態の説明では、プレート溝部51mの長手方向(周方向)の端部51rや、ピストン溝部10mの長手方向(周方向)の端部10rに形成する傾斜面が半球面状である例を説明したが、傾斜面は半球面状に限定されるものではない。また、オーバーラップ領域Kは、半球面状(傾斜面)の全体を含んでいなくてもよい、またC字状の第1半割プレート51と第2半割プレート52との2つで円環状のプレート50を形成する例を説明したが、3つ以上に分割してもよい。
【0045】
またプレート50をヘッド裏面10bに接触するように取り付ける構造は、ピン孔12を含めたプレート取付部11の構造に限定されるものではない。またピストン溝部10m、プレート溝部51m、52mの数やサイズ等は、本実施の形態にて説明した数やサイズ等に限定されるものではない。
【0046】
また、本実施形態の説明に用いた数値は一例であり、この数値に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0047】
1 ピストン(内燃機関用ピストン)
1z ピストン中心軸線
10 ピストンヘッド
10b ヘッド裏面
10m ピストン溝部
10r 端部
11 プレート取付部
12 ピン孔
13 突出部
20 ピストンスカート
21 スカート中空部
22 ピストンピン孔
50 プレート
51 第1半割プレート
51b、52b プレート対向面
51g、52g オイル流入口
51h、52h オイル排出口
51m、52m プレート溝部
51p、52p ピン
51r 端部
52 第2半割プレート
A1、B1 目印
D 溝深さ
L 溝長さ
W 溝幅
H 非オーバーラップ領域
K オーバーラップ領域
Q オイル
T 加工工具
T1 加工工具先端
VL 仮想線