(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171084
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】鉄筋埋設構造及び方法
(51)【国際特許分類】
E04C 5/18 20060101AFI20241204BHJP
【FI】
E04C5/18 102
E04C5/18
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087965
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】507194017
【氏名又は名称】株式会社高速道路総合技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】505398941
【氏名又は名称】東日本高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505398952
【氏名又は名称】中日本高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505398963
【氏名又は名称】西日本高速道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099704
【弁理士】
【氏名又は名称】久寶 聡博
(72)【発明者】
【氏名】武田 篤史
(72)【発明者】
【氏名】後藤 源太
(72)【発明者】
【氏名】西谷 朋晃
【テーマコード(参考)】
2E164
【Fターム(参考)】
2E164BA23
2E164BA26
(57)【要約】
【課題】鋼管の配置範囲を除く領域での鉄筋とコンクリートとの付着作用が阻害されることなく、鉄筋から鋼管へと軸方向の圧縮荷重が伝達しないようにすることが可能な鉄筋埋設構造及び方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る鉄筋埋設構造41は、新設側軸方向鉄筋37を該鉄筋が鋼管38に挿通された形でコンクリート34に埋設して構成してあるとともに、新設側軸方向鉄筋37と鋼管38との間には、繊維系材料からなる筒状の絶縁部材42を、該絶縁部材の外周面が鋼管38の内周面に実質的に当接するように挿入配置するとともに、新設側軸方向鉄筋37と絶縁部材42との離間スペースに充填材43を充填して構成してあり、絶縁部材42は、新設側軸方向鉄筋37の材軸方向に沿った圧縮荷重が該鉄筋の周面から充填材43を介して鋼管38の内周面に伝達するのを遮断するようになっている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋を該鉄筋が鋼管に挿通された形でコンクリートに埋設した鉄筋埋設構造において、
前記鉄筋と前記鋼管との間に繊維系材料からなる筒状の絶縁部材を挿入配置するとともに、前記絶縁部材の外周面が前記鋼管の内周面に実質的に当接された状態で前記鉄筋と前記絶縁部材との離間スペースに充填材を充填し、前記絶縁部材の内周面が前記鉄筋の外周面に実質的に当接された状態で前記絶縁部材と前記鋼管との離間スペースに充填材を充填し、又は前記絶縁部材が前記鋼管の内周面及び前記鉄筋の外周面から離間した状態で前記鉄筋と前記絶縁部材との離間スペース及び前記絶縁部材と前記鋼管との離間スペースに充填材をそれぞれ充填してなり、前記絶縁部材は、前記鉄筋の材軸方向に沿った圧縮荷重が該鉄筋の周面から前記充填材を介して前記鋼管の内周面に伝達するのを遮断するようになっていることを特徴とする鉄筋埋設構造。
【請求項2】
前記絶縁部材をその外周面が前記鋼管の内周面に実質的に当接するように挿入配置するとともに、前記充填材を前記鉄筋と前記絶縁部材との離間スペースに充填した請求項1記載の鉄筋埋設構造。
【請求項3】
前記絶縁部材を、シート材の縁部同士が重なるように該シート材を丸めて構成した請求項2記載の鉄筋埋設構造。
【請求項4】
鉄筋を鋼管に挿通してから該鉄筋を前記鋼管とともにコンクリート打設領域に配置し又は鉄筋をコンクリート打設領域に配置してから該鉄筋に鋼管を被せ、しかる後、該コンクリート打設領域にコンクリートを打設することで前記鉄筋を該鉄筋が前記鋼管に挿通された形でコンクリートに埋設する鉄筋埋設方法において、
前記鉄筋と前記鋼管との間に繊維系材料からなる筒状の絶縁部材をその外周面が前記鋼管の内周面に実質的に当接するように挿入配置するとともに、前記鉄筋と前記絶縁部材との離間スペースに充填材を充填し、しかる後、前記コンクリート打設領域にコンクリートを打設する鉄筋埋設方法であって、
前記絶縁部材を、シート材の縁部同士が重なるように該シート材を丸めて構成し、
前記鉄筋と前記鋼管との間に前記絶縁部材を挿入配置する際、前記絶縁部材をその復元力で拡径させて該絶縁部材の外周面を前記鋼管の内周面に実質的に当接させることを特徴とする鉄筋埋設方法。
【請求項5】
前記充填材を水硬性材料で構成するとともに、前記絶縁部材をその内部への吸水が防止されるように構成した請求項4記載の鉄筋埋設方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として鉄筋コンクリートに適用される鉄筋埋設構造及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリートで構造部材を構築するにあたり、柱では、主筋を取り囲むように帯鉄筋が配置され、梁では、同じく主筋を取り囲むようにあばら筋が配置され、壁では、主筋に対して直交配置された配力筋に架け渡すようにせん断補強筋が壁面直交方向に配置される。
【0003】
帯鉄筋やあばら筋を含めたこれらのせん断補強筋は、コンクリートの拘束や主筋の座屈を防止する機能を併せ持つものであって、これらの機能が総合的に発揮されることで、鉄筋コンクリート部材の靭性を向上させることができる。
【0004】
一方、せん断補強筋は、主筋や配力筋と交錯させながらの配筋作業となるため、本来的に施工が煩雑となりがちであるが、大断面橋脚のような中間帯鉄筋が不可欠となる場合などでは特に、各種鉄筋がより複雑に交錯するために配筋作業がきわめて煩雑になり、コンクリートの充填性確保の観点から要求される鉄筋間のあきを十分に確保できないおそれもある。
【0005】
そのため、せん断補強筋を十分に配筋することができず、その結果、主筋の座屈、かぶりコンクリートの剥落、コンクリートの圧壊といった事態を招く懸念があり、これを防止するためには、主筋の座屈を抑制する手だてが必要となる。
【0006】
ここで、主筋を円管1eに挿通することで該主筋の座屈を防止する構成が知られているが(特許文献1)、該特許文献記載の構成では、円管1eとその周囲に拡がるコンクリートとの間で付着を介した荷重伝達が期待できないため、円管1eの周囲に拡がるコンクリートには、曲げ変形に対してひび割れが分散せず、局所的な割れが発生する事態を招くとともに、それに伴って圧縮縁での応力が過大となってコンクリートが早々に圧壊し、結果として靭性に乏しい構造体となる。
【0007】
本出願人は、かかる問題を解決すべく、複数の主筋を、鋼管に挿通された状態でコンクリートに埋設された鉄筋(第1の群に属する主筋。以下、第1主筋とも呼ぶ)と、コンクリートに露出した状態で該コンクリートに埋設されるように配置された鉄筋(第2の群に属する主筋。以下、第2主筋とも呼ぶ)に分けることにより、第2主筋がそのひび割れ分散機能を発揮することによって、第1主筋のみの場合に生じる局所的なコンクリートの割れを防止するとともに、第1主筋が鋼管による自らの座屈防止機能を発揮しつつせん断補強筋の健全性確保を介して第2主筋の座屈を併せて防止することができるという知見を得た(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8-105157号公報
【特許文献2】特開2022-76500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2記載の発明によれば、第1主筋が挿通された鋼管とその周辺コンクリートとの間では、従来同様、コンクリートとの荷重伝達が期待できないものの、第2主筋が、その周辺コンクリートとの間で荷重伝達を行うことにより、該コンクリートに生じるひび割れを分散させる機能が発揮されるため、従来のように、円管1eによって局所的な割れが発生し、それに起因してコンクリートが早々に圧壊するという事態を回避することが可能となり、第1主筋は、このようなコンクリートの早期圧壊に阻害されることなく、自らの座屈防止機能を発揮する。
【0010】
また、第1主筋は、鋼管によって自らの座屈が防止されるが、それによって該第1主筋を抱えるせん断補強筋の負担も軽減されるため、その分、せん断補強筋は、内部コンクリートをより確実に拘束するとともに、第2主筋をしっかりと抱えてその座屈を防止する。
【0011】
そのため、第1主筋、第2主筋とも、圧縮引張に伴う履歴減衰によるエネルギー吸収作用が確実に発揮されることとなり、かくして鉄筋コンクリートの靭性を大幅に向上させることが可能となる。
【0012】
しかしながら、鋼管に挿通された鉄筋に圧縮方向の軸力が加わると、該鋼管との間に充填された充填材がポアソン効果で鋼管内面に押し付けられ、該鋼管内面との間で摩擦が生じて鉄筋から鋼管へと圧縮荷重が伝達する場合があるところ、かかる状況では、座屈防止のための鋼管自体が座屈しやすくなり、鉄筋の座屈防止機能が低下する懸念があるという問題を生じていた。
【0013】
また、圧縮荷重が鋼管に流れることで鉄筋量が増加したと同様の効果を生み、鉄筋とコンクリートがそれぞれ負担する荷重バランスの関係で、コンクリートのせん断ひび割れが先行して変形性能が低下し、せん断破壊を招く懸念が生じるという問題も生じていた。
【0014】
ちなみに、鋼管の内面に予め剥離剤を塗布しておき、しかる後、これを鉄筋に被せる対策もあり得るが、かかる対策では、塗布作業に時間を要するのみならず、鋼管を被せる際に剥離剤が鋼管内面から鉄筋周面へと移動し、その移動先が座屈防止範囲、すなわち鋼管の配置範囲を越えた箇所であれば、鉄筋とコンクリートとの付着作用が阻害されるという事態を招く。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、鋼管の配置範囲を除く領域での鉄筋とコンクリートとの付着作用が阻害されることなく、鉄筋から鋼管へと軸方向の圧縮荷重が伝達しないようにすることが可能な鉄筋埋設構造及び方法を提供することを目的とする。
【0016】
上記目的を達成するため、本発明に係る鉄筋埋設構造は請求項1に記載したように、鉄筋を該鉄筋が鋼管に挿通された形でコンクリートに埋設した鉄筋埋設構造において、
前記鉄筋と前記鋼管との間に繊維系材料からなる筒状の絶縁部材を挿入配置するとともに、前記絶縁部材の外周面が前記鋼管の内周面に実質的に当接された状態で前記鉄筋と前記絶縁部材との離間スペースに充填材を充填し、前記絶縁部材の内周面が前記鉄筋の外周面に実質的に当接された状態で前記絶縁部材と前記鋼管との離間スペースに充填材を充填し、又は前記絶縁部材が前記鋼管の内周面及び前記鉄筋の外周面から離間した状態で前記鉄筋と前記絶縁部材との離間スペース及び前記絶縁部材と前記鋼管との離間スペースに充填材をそれぞれ充填してなり、前記絶縁部材は、前記鉄筋の材軸方向に沿った圧縮荷重が該鉄筋の周面から前記充填材を介して前記鋼管の内周面に伝達するのを遮断するようになっているものである。
【0017】
また、本発明に係る鉄筋埋設構造は、前記絶縁部材をその外周面が前記鋼管の内周面に実質的に当接するように挿入配置するとともに、前記充填材を前記鉄筋と前記絶縁部材との離間スペースに充填したものである。
【0018】
また、本発明に係る鉄筋埋設構造は、前記絶縁部材を、シート材の縁部同士が重なるように該シート材を丸めて構成したものである。
【0019】
また、本発明に係る鉄筋埋設方法は請求項4に記載したように、鉄筋を鋼管に挿通してから該鉄筋を前記鋼管とともにコンクリート打設領域に配置し又は鉄筋をコンクリート打設領域に配置してから該鉄筋に鋼管を被せ、しかる後、該コンクリート打設領域にコンクリートを打設することで前記鉄筋を該鉄筋が前記鋼管に挿通された形でコンクリートに埋設する鉄筋埋設方法において、
前記鉄筋と前記鋼管との間に繊維系材料からなる筒状の絶縁部材をその外周面が前記鋼管の内周面に実質的に当接するように挿入配置するとともに、前記鉄筋と前記絶縁部材との離間スペースに充填材を充填し、しかる後、前記コンクリート打設領域にコンクリートを打設する鉄筋埋設方法であって、
前記絶縁部材を、シート材の縁部同士が重なるように該シート材を丸めて構成し、
前記鉄筋と前記鋼管との間に前記絶縁部材を挿入配置する際、前記絶縁部材をその復元力で拡径させて該絶縁部材の外周面を前記鋼管の内周面に実質的に当接させるものである。
【0020】
また、本発明に係る鉄筋埋設方法は、前記充填材を水硬性材料で構成するとともに、前記絶縁部材をその内部への吸水が防止されるように構成したものである。
【0021】
本発明に係る鉄筋埋設構造及び方法においては、鉄筋を鋼管に挿通した形でコンクリートに埋設するにあたり、鉄筋と鋼管との間に繊維系材料からなる筒状の絶縁部材を挿入配置するとともに、鉄筋と絶縁部材との離間スペースに充填材を充填し、絶縁部材と鋼管との離間スペースに充填材を充填し、又は鉄筋と絶縁部材との離間スペース及び絶縁部材と鋼管との離間スペースに充填材をそれぞれ充填して構成してあり、絶縁部材は、鉄筋の材軸方向に沿った圧縮荷重が該鉄筋の周面から充填材を介して鋼管の内周面に伝達するのを遮断するようになっている。
【0022】
このようにすると、鉄筋に生じた材軸方向の圧縮荷重は、鋼管との間に充填された充填材がポアソン効果で側方に膨れたとしても、絶縁部材が有する荷重伝達遮断作用によって鋼管には作用しなくなり、かくして鋼管が座屈するのを未然に防止することが可能となる。
【0023】
本発明に係る鉄筋埋設構造及び方法は、耐震補強を行う際に、既存の鉄筋コンクリートにあらたに巻き立てられる鉄筋コンクリートに適用することができるが、新規の鉄筋コンクリート構造を構築する際に適用することはもちろん可能である。
【0024】
繊維材料からなる絶縁部材とは、本発明においては植物繊維や高分子繊維などの各種繊維を互いに絡み合わせながら膠着させたものとし、一般的な紙がその典型例となるが、不織布もこれに包摂されるものとする。
【0025】
絶縁部材の荷重伝達遮断作用は概ね、
(a) 絶縁部材の外周面と鋼管の内周面との間で実質的に摩擦が生じないことによる遮断作用
(b) 鉄筋の周面と絶縁部材の内周面との間で実質的に摩擦が生じないことによる遮断作用
(c) 絶縁部材が繊維系材料で構成されていることによって、該絶縁部材自体がせん断抵抗を有しないことによる遮断作用
の3つに分類され、(a)の場合には鉄筋と絶縁部材との間の離間スペースに、(b)の場合には絶縁部材と鋼管との間の離間スペースに、(c)の場合にはそれらの両方にそれぞれ充填材が充填される。
【0026】
ここで、(b)の場合においては、鉄筋が異形鉄筋のとき、その周面と絶縁部材との間にわずかなクリアランスが形成され、そのクリアランスの分だけ鉄筋を曲げ拘束する鋼管の作用が若干低下する懸念があり、(c)の場合においては、絶縁部材がわずかにせん断抵抗を有する場合に、その分、絶縁部材の荷重伝達遮断作用が低下して鋼管に圧縮荷重が若干伝達する懸念があるが、(a)の場合、すなわち、絶縁部材をその外周面が鋼管の内周面に実質的に当接するように挿入配置するとともに、充填材を鉄筋と絶縁部材との離間スペースに充填した構成とするならば、絶縁部材の構成材料や鋼管の種類を適切に選択することで、絶縁部材の外周面と鋼管の内周面との間で実質的に摩擦が生じないようにすることができるため、絶縁部材の荷重伝達遮断作用が確実に発揮される。
【0027】
絶縁部材は、特に(b),(c)の場合において円筒形である場合が包摂されるが、特に(a)の場合において、シート材の縁部同士が重なるように該シート材を丸めて構成すれば、鋼管の内径に応じて絶縁部材をその復元力によって自然に、又は充填材を充填する際の圧力によって拡径させることができるので、充填材が鋼管の内周面に接触しないよう、なおかつ外周面を鋼管の内周面に確実に当接させることが可能となる。
【0028】
充填材は、鋼管内での鉄筋の遊びを実質的になくすことで該鋼管内での鉄筋の曲げ変形が実質的に拘束される限り、任意の材料で構成することができるが、これを水硬性材料、典型的にはセメントペーストで構成するとともに、絶縁部材をその内部への吸水が防止されるように構成したならば、充填材の調達容易性を高めつつ、吸水による絶縁部材の剛性低下あるいは絶縁部材の収縮を防止し、ひいては鋼管内での鉄筋の遊びの発生を未然に防止することが可能となる。
【0029】
内部への吸水を防止するための絶縁部材の具体的構成としては、クラフト紙などにパラフィンを含浸させることで疎水性が付与されてなるパラフィン紙(油紙)など、一般に耐水紙と呼ばれるもので構成する場合が典型例となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明に係る鉄筋埋設構造を用いて構築された耐震補強構造11とそれが適用された壁式橋脚1の図であり、(a)は側面図、(b)はA-A線に沿う水平断面図、(c)はB-B線に沿う水平断面図。
【
図2】耐震補強構造の図であり、(a)は従来構成に係る耐震補強構造11´の水平断面図、(b)は耐震補強構造11の水平断面図、(c)はC-C線に沿う鉛直断面図。
【
図3】本実施形態に係る鉄筋埋設構造41を示した図であり、(a)は材軸を含む鉛直断面図、(b)は部分斜視図。
【
図4】本実施形態に係る鉄筋埋設構造41の作用を示すグラフ。
【
図5】変形例に係る鉄筋コンクリート構造の図であり、(a)は水平断面図、(b)はD-D線に沿う鉛直断面図。
【
図6】別の変形例に係る鉄筋埋設構造の詳細水平断面図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る鉄筋埋設構造及び方法の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0032】
図1は、本発明に係る鉄筋埋設構造を用いて構築された耐震補強構造11とそれが適用された壁式橋脚1を示したものであり、耐震補強構造11は同図に示すように、鉄筋コンクリート柱部材である壁式橋脚1の脚部2を耐震補強の対象である既設RC部として、該脚部に新設RC部12を巻き立てて構成してある。
【0033】
壁式橋脚1は、その脚部2でRCフーチング3に立設してあるとともに、頂部4で上部工5に連結してあり、該上部工からの鉛直荷重及び水平荷重を、RCフーチング3を介して地盤6に伝達するようになっている。
【0034】
壁式橋脚1のうち、脚部2を除く高さ範囲、その代表である頂部4については、鉄筋コンクリート12´を巻き立てることで耐震補強構造11´を構成してある。
【0035】
図2は、耐震補強構造11´及び耐震補強構造11を示したものであり、同図(a)でわかるように、頂部4は、コンクリート21、該コンクリートに埋設された軸方向鉄筋22及びこれを取り囲むせん断補強筋23からなり、該頂部に、同じくコンクリート24、該コンクリートに埋設された軸方向鉄筋25及びこれを取り囲むせん断補強筋26からなる鉄筋コンクリート12´を巻き立てることで耐震補強構造11´を構成してあるが、鉄筋コンクリート12´は従来公知の構成であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0036】
耐震補強構造11は同図(b)及び同図(c)に示すように、既設側コンクリート31、該既設側コンクリートに埋設された既設側軸方向鉄筋32及びこれを取り囲むせん断補強筋33からなる脚部2に、新設側コンクリート34、該新設側コンクリートに埋設された新設側軸方向鉄筋37及びこれを取り囲むせん断補強筋36からなる新設RC部12を巻き立てて構成してあり、既設側軸方向鉄筋32については、既設側コンクリート32に露出した状態で該既設側コンクリートに埋設してある。
【0037】
一方、新設側軸方向鉄筋37は、それらが各々個別の鋼管38に独立して挿通された形で新設側コンクリート34に埋設配置してあり、
図3に示すように、新設側軸方向鉄筋37と鋼管38との間には、筒状の絶縁部材42を該絶縁部材の外周面が鋼管38の内周面に実質的に当接するように挿入配置してあるとともに、新設側軸方向鉄筋37と絶縁部材42との離間スペースには充填材43を充填してある。
【0038】
絶縁部材42は、新設側軸方向鉄筋37の材軸方向に沿った圧縮荷重が該鉄筋の周面から充填材43を介して鋼管38の内周面に伝達するのを遮断するようになっており、新設側軸方向鉄筋37、鋼管38及び充填材43とともに鉄筋埋設構造41を構成する。
【0039】
鋼管38は、充填材43及び絶縁部材42を介して新設側軸方向鉄筋37から、あるいは新設側コンクリート34から圧縮力が作用して自ら座屈することがないよう、内周面及び外周面に凹凸がない構造用鋼管を用いるのがよい。
【0040】
充填材43は、鋼管38による座屈防止機能の実効化を図るべく、新設側軸方向鉄筋37と絶縁部材42との間に空隙が生じないようにするものであり、例えばセメントペーストで構成することができる。
【0041】
絶縁部材42は、
図3(c)でよくわかるようにシート材の縁部同士が重なるように該シート材を丸めて構成してあり、例えばクラフト紙で構成することができる。
【0042】
本実施形態に係る耐震補強構造11を構築するには、新設RC部12の巻立てに先立ち、該新設RC部が既設RC部である脚部2と一体化するように、目荒らし等によって脚部2の表面に予め凹凸を設ける。
【0043】
次に、脚部2の周囲に新設側軸方向鉄筋37を配置した後、該新設側軸方向鉄筋に鋼管38を被せるとともに、新設側軸方向鉄筋37と鋼管38との間に絶縁部材42を該絶縁部材の外周面が鋼管38の内周面に実質的に当接するように配置し、次いで、新設側軸方向鉄筋37と絶縁部材42との離間スペースに充填材43を充填することにより、鉄筋埋設構造41を脚部2の周囲に構築する。
【0044】
絶縁部材42は、シート材の縁部同士が重なるように該シート材を丸めて鋼管38内に挿入するが、該絶縁部材を拡径方向に復元力が発揮されるように構成しておけば、鋼管38内に挿入された後で該鋼管内で自然に拡径するので、絶縁部材42の外周面を鋼管38の内周面に確実に当接させることができる。
【0045】
鋼管38は、該鋼管に新設側軸方向鉄筋37を挿通した状態で、あるいはさらに絶縁部材42を新設側軸方向鉄筋37と鋼管38との間に挿入配置した状態で、コンクリート打設領域に一括配置するようにしてもよい。
【0046】
次に、新設側軸方向鉄筋37の回りにせん断補強筋36を巻回し、しかる後、コンクリート打設領域にコンクリートを打設する。
【0047】
以上説明したように、本実施形態に係る鉄筋埋設構造41及び方法によれば、新設側軸方向鉄筋37を鋼管38に挿通した形で新設側コンクリート34に埋設するにあたり、新設側軸方向鉄筋37と鋼管38との間に筒状の絶縁部材42を該絶縁部材の外周面が鋼管38の内周面に実質的に当接するように配置するとともに、新設側軸方向鉄筋37と絶縁部材42との離間スペースに充填材43を充填して構成したので、新設側軸方向鉄筋37に生じた材軸方向の圧縮荷重は、鋼管38との間に充填された充填材43がポアソン効果で側方に膨れたとしても、絶縁部材42によって鋼管38の内周面への伝達が遮断される。
【0048】
そのため、上述した圧縮荷重は鋼管38には作用しなくなり、かくして鋼管38が座屈するのを未然に防止することが可能となる。
【0049】
そして、鉄筋埋設構造41が採用された耐震補強構造11においては、新設側軸方向鉄筋37のうち、鋼管38に挿通された長さ範囲では、それらの曲げ変形が鋼管38によって拘束されるため、鉄筋埋設構造41によって鋼管38の自らの座屈が防止されることと相俟って、新設側軸方向鉄筋37の軸圧縮力による座屈が確実に防止される。
【0050】
ここで、新設側軸方向鉄筋37は、鋼管38に挿通された範囲において新設側コンクリート34と付着しない形となるため、該新設側コンクリートとの間で荷重伝達が行われないが、新設側コンクリート34を既設側コンクリート31に連続一体化させてあるので、既設側軸方向鉄筋32によって新設側コンクリート34に生じるひび割れが分散され、それゆえ鋼管38の付近で新設側コンクリート34の割れが集中するおそれはない。
【0051】
このように、鉄筋埋設構造41によって鋼管38の自らの座屈が防止された上での該鋼管による新設側軸方向鉄筋37の座屈防止作用と、既設側軸方向鉄筋32による新設側コンクリート34のひび割れ抑制作用とが相俟って、新設RC部12では、圧縮引張に伴う履歴減衰によるエネルギー吸収作用が確実に発揮されることとなり、かくして、巻立てが行われた部位の靭性を大幅に向上させることが可能となる。
【0052】
そのため、従来において軸方向鉄筋の座屈を防止するために必要不可欠であった中間貫通鋼材をRC柱部材に貫通配置する必要がなくなり、その結果、中間貫通鋼材を貫通配置するための挿通孔を既設部であるRC柱部材に削孔する際に該RC柱部材に埋設された鉄筋を傷付けたり、削孔位置の繰り返し変更によってRC柱部材を傷めたりといった懸念がなくなる。
【0053】
図4は、本実施形態に係る鉄筋埋設構造41を模した鉄筋コンクリート試験体(実施形態対応の試験体)と、該試験体から絶縁部材が省略された鉄筋コンクリート試験体(比較試験体)とをそれぞれ製作し、それぞれについて鉄筋に生じるひずみと鋼管に生じるひずみとの関係を調べたものである。
【0054】
同図からは、比較試験体の場合(破線)、鉄筋のひずみが大きくなるにつれて、鋼管のひずみも大きくなっていて、鉄筋から鋼管へと圧縮荷重が伝達されていることがわかるのに対し、実施形態対応の試験体の場合(実線)、鉄筋のひずみが大きくなっても、鋼管にはほとんどひずみが発生しておらず、絶縁部材による荷重伝達遮断作用によって、鉄筋から鋼管へと圧縮荷重が伝達されていないことがわかる。
【0055】
また、本実施形態に係る鉄筋埋設構造41によれば、絶縁部材42を、その外周面が鋼管38の内周面に実質的に当接するように挿入配置するとともに、充填材43を新設側軸方向鉄筋37と絶縁部材42との離間スペースに充填するようにしたので、絶縁部材42を例えば片艶クラフト紙やコート紙のような平滑な紙で構成し、鋼管38を構造用鋼管とすることにより、絶縁部材42と鋼管38との摩擦を十分に小さくすることが可能となり、絶縁部材42の荷重伝達遮断作用が確実に発揮される。
【0056】
また、本実施形態に係る鉄筋埋設構造41によれば、絶縁部材42を、シート材の縁部同士が重なるように該シート材を丸めて構成したので、鋼管38の内径に応じて絶縁部材42をその復元力によって自然に、又は充填材43を充填する際の圧力によって拡径させることができるので、充填材43が鋼管38の内周面に接触しないよう、なおかつ外周面を鋼管38の内周面に確実に当接させることが可能となる
【0057】
本実施形態では、本発明に係る鉄筋埋設構造を、耐震補強構造、すなわち既存の鉄筋コンクリートにあらたに鉄筋コンクリートを巻き立ててなる構成に適用したが、これに代えて、新規の鉄筋コンクリート構造を構築する際にも適用可能である。
【0058】
図5は、上記変形例に係る鉄筋コンクリート構造を示したものであって、該鉄筋コンクリート構造は、
図1及び
図2に示した壁式橋脚1と同様のRC柱部材として構築されるものであり、軸方向鉄筋51及び軸方向鉄筋52を一定間隔ごとに交互配置するとともに、それらを取り囲むようにせん断補強筋54を配置した上、それらをコンクリート55に埋設して構成してある。
【0059】
ここで、軸方向鉄筋51は従来と同様、コンクリート55に露出した状態で該コンクリートに埋設してあるが、軸方向鉄筋52は、それらが各々個別の鋼管53に独立して挿通された形でコンクリート55に埋設配置してあり、軸方向鉄筋52と鋼管53との間には、絶縁部材42と同様の絶縁部材(図示せず)を該絶縁部材の外周面が鋼管53の内周面に実質的に当接するように配置してあるとともに、該絶縁部材と軸方向鉄筋52との離間スペースには充填材43と同様の充填材(図示せず)を充填してある。
【0060】
絶縁部材は、軸方向鉄筋52の材軸方向に沿った圧縮荷重が該鉄筋の周面から充填材を介して鋼管53の内周面に伝達するのを遮断するようになっており、軸方向鉄筋52,鋼管53及び充填材とともに本発明の鉄筋埋設構造を構成する。
【0061】
以下、本変形例に係る軸方向鉄筋52,充填材,絶縁部材,鋼管53は、上記実施形態における新設側軸方向鉄筋37,充填材43,絶縁部材42,鋼管38とそれぞれ同様の構成であるので、詳細な説明は省略するが、本変形例においても、上記実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0062】
すなわち、本変形例に係る鉄筋埋設構造においては、軸方向鉄筋52に生じた材軸方向の圧縮荷重は、鋼管53との間に充填された充填材がポアソン効果で側方に膨れたとしても、絶縁部材によって鋼管53の内周面への伝達が遮断されるため、上述した圧縮荷重は鋼管53には作用しなくなり、かくして鋼管53が自ら座屈するのを未然に防止することができる。
【0063】
そして、軸方向鉄筋52のうち、鋼管53に挿通された長さ範囲では、それらの曲げ変形が鋼管53によって拘束されるため、鋼管53の自らの座屈が防止される上述の作用効果と相俟って、軸方向鉄筋52の軸圧縮力による座屈が確実に防止される。
【0064】
なお、本変形例においては、軸方向鉄筋51によってコンクリート55に生じるひび割れが分散され、それゆえ鋼管53の付近でコンクリート55の割れが集中するおそれはないという点が上記実施形態と異なる。
【0065】
また、本実施形態では特に言及しなかったが、絶縁部材42を、クラフト紙などにパラフィンを含浸させることで疎水性が付与されてなるパラフィン紙(油紙)をはじめ、一般に耐水紙と呼ばれるもので構成することができる。
【0066】
かかる構成によれば、内部への吸水を防止することができるため、吸水による絶縁部材の剛性低下あるいは絶縁部材の収縮を防止し、ひいては鋼管内での鉄筋の遊びの発生を未然に防止することが可能となる。
【0067】
また、本実施形態では、絶縁部材42を、その外周面が鋼管38の内周面に実質的に当接するように挿入配置するとともに、充填材43を新設側軸方向鉄筋37と絶縁部材42との離間スペースに充填するようにしたが、これは、
(a) 絶縁部材の外周面と鋼管の内周面との間で実質的に摩擦が生じないことによる遮断作用及び
(c) 絶縁部材が繊維系材料で構成されていることによって、該絶縁部材自体がせん断抵抗を有しないことによる遮断作用
の2つの作用のうち、少なくともいずれかを利用したものであるところ、本発明の絶縁部材による荷重伝達遮断作用は、上記遮断作用に代えて、
(b) 鉄筋の周面と絶縁部材の内周面との間で実質的に摩擦が生じないことによる遮断作用及び
(c) 絶縁部材が繊維系材料で構成されていることによって、該絶縁部材自体がせん断抵抗を有しないことによる遮断作用
の少なくともいずれかを利用した構成とすることができる。
【0068】
図6(a)はかかる変形例を示した詳細断面図であって、円筒体である絶縁部材42´を、その内周面が新設側軸方向鉄筋37の周面に実質的に当接するように挿入配置するとともに、絶縁部材42´と鋼管38との離間スペースに充填材43を充填して構成してある。
【0069】
また、実施形態に係る荷重伝達遮断作用に代えて、
(c) 絶縁部材が繊維系材料で構成されていることによって、該絶縁部材自体がせん断抵抗を有しないことによる遮断作用
を利用した構成とすることができる。
【0070】
図6(b)はかかる変形例を示した詳細断面図であって、円筒体である絶縁部材42´を、新設側軸方向鉄筋37と鋼管38との間に挿入配置するとともに、新設側軸方向鉄筋37と絶縁部材42´との離間スペース、及び絶縁部材42´と鋼管38との離間スペースにそれぞれ充填材43を充填して構成してある。
【0071】
なお、これらの変形例では、実施形態の絶縁部材42がシート材の縁部同士が重なるように該シート材を丸めて構成してあるのに対し、絶縁部材42´が円筒体で構成してある点が実施形態と異なるとともに、絶縁部材42´の挿入位置が絶縁部材42とは異なるが、それ以外の構成や作用効果は上述の実施形態と概ね同様であるので、ここではその説明を省略する。
【符号の説明】
【0072】
34 新設側コンクリート(コンクリート)
37 新設側軸方向鉄筋(鉄筋)
38,53 鋼管
41,41´ 鉄筋埋設構造
42,42´ 絶縁部材
43 充填材
52 軸方向鉄筋(鉄筋)
55 コンクリート