(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171088
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】画像記録方法
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20241204BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20241204BHJP
C09D 11/02 20140101ALI20241204BHJP
【FI】
B41M5/00 100
B41M5/00 120
B41J2/01 125
B41J2/01 501
C09D11/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087969
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 義一
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EC29
2C056FC06
2C056HA45
2C056HA46
2H186AB03
2H186AB12
2H186AB13
2H186AB23
2H186AB27
2H186AB54
2H186AB57
2H186BA08
2H186DA12
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB57
4J039AD01
4J039AD03
4J039AD10
4J039AE04
4J039BE01
4J039BE02
4J039BE22
4J039EA36
4J039EA42
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】 画像濃度と画像の耐擦過性の両立が可能な画像記録方法を提供する。
【解決手段】 記録媒体に、樹脂粒子を含むインクを付与する第一のインク付与工程と、前記インクが付与された記録媒体を加熱乾燥する加熱乾燥工程と、前記加熱乾燥された記録媒体を加熱加圧する加熱加圧工程と、前記加熱加圧された記録媒体に、前記インクをさらに付与する第二のインク付与工程と、を有する画像記録方法であって、前記樹脂粒子の溶融温度をTe[℃]、前記加熱乾燥工程によって加熱乾燥された前記記録媒体の温度をT1[℃]、前記加熱加圧工程によって加熱加圧された前記記録媒体の温度をT2[℃]としたとき、T1<Te<T2の関係を満たすことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に、樹脂粒子を含むインクを付与する第一のインク付与工程と、
前記インクが付与された記録媒体を加熱乾燥する加熱乾燥工程と、
前記加熱乾燥された記録媒体を加熱加圧する加熱加圧工程と、
前記加熱加圧された記録媒体に、前記インクをさらに付与する第二のインク付与工程と、
を有する画像記録方法であって、
前記樹脂粒子の溶融温度をTe[℃]、前記加熱乾燥工程によって加熱乾燥された前記記録媒体の温度をT1[℃]、前記加熱加圧工程によって加熱加圧された前記記録媒体の温度をT2[℃]としたとき、T1<Te<T2の関係を満たすことを特徴とする画像記録方法。
【請求項2】
前記記録媒体の純水の吸水係数が30μm/sec1/2以上である請求項1に記載の画像記録方法。
【請求項3】
前記第一のインク付与工程におけるインク付与量が、第一のインク付与工程及び第二のインク付与工程におけるインク付与量の合計を基準として、50質量%以上90質量%以下である請求項1に記載の画像記録方法。
【請求項4】
前記加熱乾燥工程において、前記記録媒体を加熱乾燥する加熱乾燥装置は、前記記録媒体に接触しない非接触型の加熱乾燥装置である請求項1に記載の画像記録方法。
【請求項5】
前記加熱加圧工程において、前記記録媒体を加熱加圧する加熱加圧装置は、前記記録媒体に接触する接触型の加熱加圧装置である請求項1に記載の画像記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、色材を含むインクを紙等の記録媒体上に付与することで画像を形成している。これまでに、インクによって形成された画像に対して加熱乾燥処理や加熱加圧処理を行うことで、画質や画像堅牢性が向上することが知られている。特許文献1には、カーボンブラックを含有するインクによって形成された画像に対して、加熱乾燥、及び、加熱加圧を行うことで、画像濃度と耐ブロッキング性を向上させる画像形成方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の画像形成方法では、画像濃度と画像の耐擦過性の両立が難しくなる場合があることが本発明者らの検討によって判明した。特に、微塗工紙や非塗工紙を用いた場合、画像濃度と画像の耐擦過性の両立が難しくなることが分かった。
【0005】
したがって、本発明の目的は、画像濃度と画像の耐擦過性の両立が可能な画像記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。
【0007】
すなわち、本発明に係る画像記録方法は、記録媒体に、樹脂粒子を含むインクを付与する第一のインク付与工程と、前記インクが付与された記録媒体を加熱乾燥する加熱乾燥工程と、前記加熱乾燥された記録媒体を加熱加圧する加熱加圧工程と、前記加熱加圧された記録媒体に、前記インクをさらに付与する第二のインク付与工程と、を有する画像記録方法であって、前記樹脂粒子の溶融温度をTe[℃]、前記加熱乾燥工程によって加熱乾燥された前記記録媒体の温度をT1[℃]、前記加熱加圧工程によって加熱加圧された前記記録媒体の温度をT2[℃]としたとき、T1<Te<T2の関係を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、画像濃度と画像の耐擦過性の両立が可能な画像記録方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態における画像記録方法を用いた画像記録装置の構成を表す模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態における画像記録方法を用いた画像記録装置の構成を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、好適な実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。本発明においては、化合物が塩である場合は、インク中では塩はイオンに解離して存在しているが、便宜上、「塩を含有する」と表現する。樹脂に関する「ユニット」とは、樹脂を構成する最小の繰り返し単位のことで、一つの単量体の(共)重合により形成される構造のことを指す。また、物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。
【0011】
本実施形態に係る画像記録方法は、記録媒体に、樹脂粒子を含むインクを付与する第一のインク付与工程と、前記インクが付与された記録媒体を加熱乾燥する加熱乾燥工程と、前記加熱乾燥された記録媒体を加熱加圧する加熱加圧工程と、前記加熱加圧された記録媒体に、前記インクをさらに付与する第二のインク付与工程と、を有する。そして、前記樹脂粒子の溶融温度をTe[℃]、前記加熱乾燥工程によって加熱乾燥された前記記録媒体の温度をT1[℃]、前記加熱加圧工程によって加熱加圧された前記記録媒体の温度をT2[℃]としたとき、T1<Te<T2の関係を満たす。
【0012】
加熱乾燥工程によって、記録媒体上のインク中に含まれる水性媒体等の溶媒の蒸発を、樹脂粒子を溶融させることなく、促進させることができる。これにより、加熱乾燥工程の後の工程である加熱加圧工程において、加熱加圧装置によって与えられた熱エネルギーがインク中の溶媒の蒸発によって消費されにくくなるため、効率的にインク中の樹脂粒子を溶融することができる。そして、その結果、インク膜と記録媒体との密着性及びインク膜自体の強度が高まり、画像の耐擦過性を向上させることができる。さらに、その記録媒体上に形成されたインク膜に対して、第二のインク付与工程においてさらにインクが付与される。そのため、微塗工紙や非塗工紙のように、通常の塗工紙よりもインクが吸収しやすい記録媒体であっても、インク中の色材が記録媒体中に取り込まれにくくなり、記録媒体の表面に存在しやすくなるため、画像濃度も向上させることができる。これにより、画像濃度と画像の耐擦過性の両立が可能となった。
【0013】
[画像記録方法]
以下に図面を参照して、本発明の実施形態に係る画像記録方法について説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態における画像記録方法を用いた画像記録装置の構成を表す模式図である。
図1に記載の画像記録装置100は、枚葉の記録媒体101を矢印の方向に搬送する搬送手段である搬送装置105、記録媒体上にインクを付与するインク付与手段であるインク付与装置102、インクが付与された記録媒体101を加熱乾燥する加熱乾燥手段である加熱乾燥装置103、及び、加熱乾燥された記録媒体を加熱加圧する加熱加圧手段である加熱加圧装置104を備える。
【0015】
まず、画像記録装置100に、不図示の画像データ供給装置から画像データが送信され、画像記録装置100に記録媒体に画像の記録を行うように指示される。
【0016】
そして、搬送装置105によって矢印方向に記録媒体101の搬送が開始される。
図1では、記録媒体の搬送装置105はベルトを具備し、このベルトによって記録媒体101が搬送されているが、搬送装置105はこれに限定されるわけではなく、紙送り胴による搬送等の公知の搬送装置を用いることができる。
【0017】
記録媒体101についてもインクによって画像が記録可能なものであれば特に制限は無いが、記録媒体は非塗工紙又は微塗工紙であることが好ましい。具体的には、純水の吸水係数が30μm/sec1/2以上の記録媒体であることが好ましい。なお、記録媒体の純水の吸水係数は、自動走査吸液計によって測定することができる。自動走査吸液計としては、熊谷理機工業(株)製のKM500win(製品番号:No.2071)等を用いることができる。
【0018】
そして、インク付与装置102を用いてインクを記録媒体101の表面に付与する。インク付与装置102は記録媒体101にインクを付与できるものであれば特に制限はないが、インクジェット記録ヘッドであることが好ましい。インクジェット記録ヘッドは記録媒体101に向けてインクを吐出するノズルを有している。インクジェット記録ヘッドは、記録媒体の幅方向にノズルが延設されたフルラインヘッド型のインクジェット記録ヘッドであることが印刷速度の点から好ましい。また、複数の色のインクを記録媒体に付与する場合、その複数の色を一つのインクジェット記録ヘッドで付与してもよいし、画像記録装置が色毎にインクジェット記録ヘッドを具備し、それぞれのインクジェット記録ヘッドから各色のインクを付与してもよい。
【0019】
この記録媒体101にインクを付与する第一のインク付与工程において、記録媒体101上に付与されるインクの量は、所定の画像を記録するために必要なインク量の一部である。この第一のインク付与工程におけるインクの付与量は、最終的に記録媒体に付与されるインク全質量(第一のインク付与工程及び第二のインク付与工程におけるインク付与量の合計)を基準として、50質量%以上90質量%以下であることが好ましい。第一のインク付与工程におけるインクの付与量が上記範囲内であることによって、後述の加熱加圧工程による画像の耐擦過性を更に向上させることができる。
【0020】
続いて、加熱乾燥工程では、加熱乾燥装置103によってインクが付与された記録媒体101が加熱乾燥される。この加熱乾燥工程によって加熱乾燥された記録媒体の温度T1[℃]は、インク中に含まれる樹脂粒子の溶融温度Te[℃]よりも低い。そのため、この加熱乾燥工程において、インク中の樹脂粒子は溶融されない。一方、インク中に含まれる水性媒体等の溶媒の蒸発は促進される。加熱乾燥装置としては特に制限はなく、温風ヒーターや赤外線ヒーター等の公知の加熱乾燥装置を用いることができる。また、加熱乾燥装置としては、記録媒体に接触しない非接触型の加熱乾燥装置であることが好ましい。加熱乾燥の時間に関しても特に制限は無いが、1秒以上10分以下であることが好ましい。
【0021】
加熱加圧工程では、加熱乾燥工程によって加熱乾燥された記録媒体を加熱加圧装置104によって加熱加圧する。この加熱加圧工程によって加熱加圧された記録媒体の温度T2[℃]は、インク中に含まれる樹脂粒子の溶融温度Te[℃]よりも高い。そのため、この加熱加圧工程において、インク中の樹脂粒子は溶融され、樹脂粒子が溶融することによって形成されるインク膜自体の強度やインク膜と記録媒体との密着力が向上する。また、インク膜の表面形状も平滑化されるため、画像(インク膜)の表面の摩擦が低減する。その結果、画像の耐擦過性が向上する。一方で、画像濃度は、インク膜が記録媒体の微小な表面の形状の影響によって、低下してしまう場合がある。
【0022】
加熱加圧装置としては特に制限はなく、加熱加圧部材として加熱ローラーや加熱ベルト等を有する公知の加熱加圧装置を用いることができる。また、加熱加圧装置としては、記録媒体に接触する接触型の加熱加圧装置であることが好ましい。加熱加圧部材の表面材料としては、シリコーンゴム、フッ素ゴム、PTFE、PFA等の表面自由エネルギーの低い材料であることが好ましい。表面自由エネルギーの低い材料と加熱加圧部材の表面材料として用いることで、記録媒体から加熱加圧部材の表面にインクが付着しにくくすることができる。また、加熱加圧部材の表面は平滑であることが好ましい。
【0023】
第二のインク付与工程では、加熱加圧工程によって加熱加圧された記録媒体に、記録媒体にインクを付与する。この第二のインク付与工程において、記録媒体101に付与されるインク量は、所定の画像を記録するために必要なインク量から第一のインク付与工程において付与されたインク量を差し引いた量である。この第二のインク付与工程におけるインクの付与量は、最終的に記録媒体に付与されるインク全質量を基準として、10質量%以上50質量%以下であることが好ましい。第二のインク付与工程におけるインクの付与量が上記範囲内であることによって、画像濃度を更に向上させることができる。また、第二のインク付与工程によって付与されるインクは、第一のインク付与工程によって記録媒体に付与されインクと重なるように付与されることが好ましい。
【0024】
第二のインク付与工程におけるインクの付与は、第一のインク付与工程で用いたインク付与装置102で行ってもよいし、画像記録装置100が、インク付与装置102(第一のインク付与装置)とは異なるインク付与装置(第二のインク付与装置)を更に有し、この第二インク付与装置で行われてもよい。
図1に示した画像記録装置100においては、記録媒体101に加熱加圧処理を行った後、記録媒体の搬送装置105bによって第一のインク付与工程で用いたインク付与装置102にてインクが付与されるように搬送される。
【0025】
第二のインク付与工程によってインクが付与された記録媒体は、再び加熱乾燥装置103によって加熱乾燥されることが好ましい。この加熱乾燥装置103による記録媒体の加熱温度は、インク中の樹脂粒子の溶融温度以下であることが好ましい。また、この加熱乾燥された記録媒体は、加熱加圧装置104による加熱加圧を行わないことが好ましい。加熱加圧を行わない場合、加熱加圧装置104は搬送手段105から離間され、記録媒体101は排紙される。
【0026】
以上のようにして画像供給装置から送信された画像データについての処理が終われば、本画像記録は終了する。
【0027】
[インク]
本実施形態に適用可能なインクの各成分について説明する。
【0028】
(色材)
インクに含有される色材としては、顔料又は染料を用いることができる。インク中の色材の含有量は、インク全質量を基準として、0.5質量%以上15.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下であることがより好ましい。
【0029】
色材として用いることができる顔料の種類は特に限定されない。顔料の具体例としては、カーボンブラック、酸化チタン等の無機顔料;アゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン、イソインドリノン系、イミダゾロン系、ジケトピロロピロール系、ジオキサジン系等の有機顔料を挙げることができる。これらの顔料は、必要に応じて1種又は2種以上を用いることができる。
【0030】
また、顔料の分散方式は特に限定されない。例えば、樹脂分散剤により分散させた樹脂分散顔料、顔料の粒子表面にアニオン性基等の親水性基を直接又は他の原子団を介して結合させた自己分散顔料等を用いることもできる。勿論、分散方式の異なる顔料を組み合わせて使用することも可能である。
【0031】
顔料を分散させるための樹脂分散剤としては、インクジェット用のインクに用いられる公知の樹脂分散剤を使用することができる。中でも本実施形態の態様においては分子鎖中に親水性ユニットと疎水性ユニットとを併せ持つアクリル系の水溶性の樹脂分散剤を用いることが好ましい。樹脂の形態としては、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、及びこれらの組み合わせ等を挙げることができる。
【0032】
インク中の樹脂分散剤は、液媒体に溶解した状態であってもよく、液媒体中に樹脂粒子として分散した状態であってもよい。本発明において樹脂が水溶性であることとは、その樹脂を酸価と当量のアルカリで中和した場合に、動的光散乱法により粒子径を測定しうる粒子を形成しないものであることとする。
【0033】
親水性ユニット(アニオン性基等の親水性基を有するユニット)は、例えば、親水性基を有するモノマーを重合することで形成することができる。親水性基を有するモノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸等のアニオン性基を有する酸性モノマー、これらの酸性モノマーの無水物や塩等のアニオン性モノマー等を挙げることができる。酸性モノマーの塩を構成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、有機アンモニウム等のイオンを挙げることができる。
【0034】
疎水性ユニット(アニオン性基等の親水性を有しないユニット)は、例えば、疎水性基を有するモノマーを重合することで形成することができる。疎水性基を有するモノマーの具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香環を有するモノマー;エチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等の脂肪族基を有するモノマー(すなわち、(メタ)アクリルエステル系モノマー)等を挙げることができる。
【0035】
樹脂分散剤の酸価は50mgKOH/g以上550mgKOH/g以下であることが好ましく、100mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であることがより好ましい。また、樹脂分散剤の重量平均分子量は1,000以上50,000以下であることが好ましい。顔料の含有量(質量%)が、樹脂分散剤の含有量に対する質量比率で(顔料/樹脂分散剤)、0.3倍以上10.0倍以下であることが好ましい。
【0036】
自己分散顔料としては、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基等のアニオン性基が、直接又は他の原子団(-R-)を介して顔料の粒子表面に結合しているものを用いることができる。アニオン性基は、酸型及び塩型のいずれであってもよく、塩型である場合は、その一部が解離した状態及び全てが解離した状態のいずれであってもよい。アニオン性基が塩型である場合のカウンターイオンとなるカチオンとしては、アルカリ金属カチオン;アンモニウム;有機アンモニウム等を挙げることができる。また、他の原子団(-R-)の具体例としては、炭素原子数1乃至12の直鎖又は分岐のアルキレン基、フェニレン基やナフチレン基等のアリーレン基、アミド基、スルホニル基、アミノ基、カルボニル基、エステル基、エーテル基等を挙げることができる。また、これらの基を組み合わせた基としてもよい。
【0037】
色材として用いることができる染料の種類は特に限定されないが、アニオン性基を有する染料を用いることが好ましい。染料の具体例としては、アゾ系、トリフェニルメタン系、(アザ)フタロシアニン系、キサンテン系、アントラピリドン系等が挙げられる。これらの染料は、必要に応じて1種又は2種以上を用いることができる。
【0038】
また分散剤を用いず、顔料自体を表面改質して分散可能とした、いわゆる自己分散顔料を用いることも本実施形態において好適である。
【0039】
(樹脂粒子)
インクは、樹脂粒子を含む。樹脂粒子の材質としては特に限定されず、公知の樹脂を適宜用いることができる。具体的には、オレフィン系、ポリスチレン系、ウレタン系、アクリル系等の各種の材料で構成される樹脂粒子が挙げられる。樹脂粒子の重量平均分子量(Mw)は、1,000以上2,000,000以下の範囲が好適である。樹脂微粒子の動的光散乱法により測定される体積平均粒子径は、10nm以上1,000nm以下であることが好ましく、100nm以上500nm以下であることがより好ましい。インク中の樹脂粒子の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、1.0質量%以上50.0質量%以下が好ましく、より好ましくは2.0質量%以上40.0質量%以下である。
【0040】
(水性媒体)
インクは、水、又は、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有させることができる。水としては、脱イオン水やイオン交換水を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。また、インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、アルコール類、(ポリ)アルキレングリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類、含硫黄化合物類等のインクジェット用のインクに使用可能なものをいずれも用いることができ、1種又は2種以上を含有させることができる。
【0041】
(その他添加剤)
インクは、上記成分以外にも必要に応じて、消泡剤、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、水溶性樹脂等の種々の添加剤を含有してもよい。
【0042】
[処理液]
記録媒体上に付与したインクの表面張力により、隣接するインクドット同士が引き寄せあったり混ざりあったりする等の現象によって画像品位が低下することを抑制することが好ましい。そのために、第一のインク付与工程の前に、記録媒体上にインクの流動性を低下させるための処理液を付与することが好ましい。インクの流動性を低下させるための処理液とは、インクの一部である色材や樹脂等と化学的に反応、あるいは物理的に吸着することでインク全体の粘度を上昇させたり、色材等インクの一部を凝集させる機能を有する液体である。
【0043】
(インク高粘度化成分)
処理液は、インク高粘度化成分として、多価の金属イオン、有機酸、カチオン性樹脂、多孔質性微粒子等、旧来から公知の物を特に制限無く含有することができる。これらの中でも特に多価の金属イオンおよび有機酸が好適である。また、複数の種類のインク高粘度化成分を含有させることも好適である。
【0044】
多価の金属イオンとしては、例えば、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Sr2+、Ba2+及びZn2+等の二価の金属イオンや、Fe3+、Cr3+、Y3+及びAl3+等の三価の金属イオンが挙げられる。処理液に多価金属イオンを含有させるためには、多価金属イオンとアニオンとが結合して構成される多価金属塩(水和物であってもよい)を用いることができる。アニオンとしては、例えば、Cl-、Br-、I-、ClO-、ClO2
-、ClO3
-、ClO4
-、NO2
-、NO3
-、SO4
2-、CO3
2-、HCO3
-、PO4
3-、HPO4
2-、及びH2PO4
-等の無機アニオン;HCOO-、(COO-)2、COOH(COO-)、CH3COO-、C2H4(COO-)2、C6H5COO-、C6H4(COO-)2及びCH3SO3
-等の有機アニオンを挙げることができる。多価金属イオンを用いる場合、処理液中の多価金属塩換算の含有量(質量%)は、処理液全質量を基準として、1.00質量%以上10.00質量%以下であることが好ましい。
【0045】
有機酸を含有する処理液は、酸性領域(pH7.0未満、好ましくはpH2.0~5.0)に緩衝能を有することによって、インク中に存在する成分のアニオン性基を酸型にして凝集させるものである。有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、安息香酸、グリコール酸、乳酸、サリチル酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピコリン酸、ニコチン酸、チオフェンカルボン酸、レブリン酸、クマリン酸等のモノカルボン酸及びその塩;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、セバシン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸等のジカルボン酸、及びその塩や水素塩;クエン酸、トリメリット酸等のトリカルボン酸及びその塩や水素塩;ピロメリット酸等のテトラカルボン酸及びその塩や水素塩等を挙げることができる。
【0046】
カチオン性樹脂としては、例えば、1~3級アミンの構造を有する樹脂、4級アンモニウム塩の構造を有する樹脂等を挙げることができる。具体的には、ビニルアミン、アリルアミン、ビニルイミダゾール、ビニルピリジン、ジメチルアミノエチルメタクリレート、エチレンイミン、グアニジン等の構造を有する樹脂等を挙げることができる。処理液における溶解性を高めるために、カチオン性樹脂と酸性化合物とを併用したり、カチオン性樹脂の4級化処理を施したりすることもできる。カチオン性樹脂を用いる場合、処理液中のカチオン性樹脂の含有量(質量%)は、処理液全質量を基準として、1.00質量%以上10.00質量%以下であることが好ましい。
【0047】
(溶媒)
処理液は、溶媒として水及び/又は有機溶剤を含有していてもよい。この場合に用いる水はイオン交換等により脱イオン化した水であることが好ましい。処理液に用いることのできる有機溶剤としては特に限定されず、公知の有機溶剤をいずれも用いることができる。
【0048】
(その他添加剤)
処理液は、各種樹脂を含有することもできる。適当な樹脂を含有しておくことで画像の耐擦過性や光沢度を高めたりすることが可能であり、好適である。樹脂としてはインク高粘度化成分と共存できるものであれば特に制限は無い。また、処理液には界面活性剤や粘度調整剤を加えて、その表面張力や粘度を適宜調整して用いることができる。としては、インク高粘度化成分と共存できるものであれば特に制限は無い。例えば、陽イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤、及びシリコーン系界面活性剤等の中から選択することができる。また、これらの材料を2種類以上、混合して用いることも可能である。
【0049】
処理液付与手段である処理液付与装置としては、ロールコーター、スプレーコーター、バーコーター、インクジェット記録ヘッド等の公知の処理液付与装置を用いることができる。
【0050】
また、
図2は、本発明の一実施形態における画像記録方法を用いた別の画像形成装置の構成を表す模式図である。
図2の画像形成装置200においては、記録媒体201がロール状に巻かれた状態で巻き出し装置205aに設置されている。搬送手段である巻き出し装置205a及び巻き取り装置205bが矢印方向に回転することで記録媒体201が移動する。さらに、インク付与装置202によるインク付与工程、加熱乾燥装置203による加熱乾燥工程、加熱加圧装置204による加熱加圧工程を行った後、巻き出し装置205a及び巻き取り装置205bを矢印と反対方向に回転させる。これにより、記録媒体201上のインクが付与された領域をもう一度インク付与装置202の下に移動させる。そして、第一のインク付与工程によって記録媒体に付与されたインク(インク膜)上に、第二のインク付与工程によって、二度目のインクの付与を容易に行うことが可能となる。
【0051】
巻き出し装置205a及び巻き取り装置205bは、それぞれを稼働させることによって記録媒体201を搬送できるものであれば、特に制限はない。
【0052】
また、
図2における画像記録装置が有する巻き出し装置205a及び巻き取り装置205b以外の各装置については、
図1に記載の画像記録装置と同様であるため、説明を省略する。
【実施例0053】
以下、実施例及び比較例を用いて本実施形態を更に詳細に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
[画像記録]
図1の画僧記録装置に、記録媒体の搬送方向に対してインク付与装置の上流側に、さらに処理液付与装置を設けた画像記録装置を用いて画像記録を行った。
【0055】
記録媒体としてコート紙(商品名:オーロラコート、日本製紙(株)製)、坪量73.5g/m2、を用いた。処理液付与装置及びインク付与装置は、それぞれインクジェット記録ヘッドである。そして、処理液付与装置であるインクジェット記録ヘッドによって、記録媒体の表面に処理液を均一に1.0g/m2付与した。そして、記録媒体上の処理液を付与した領域に対して、インク付与装置であるインクジェット記録ヘッドによって、黒色のインクを均一に6.0g/m2付与した。
【0056】
ここで使用した処理液及びインクの組成は以下のとおりである。
<処理液>
・硝酸カルシウム4水和物 20部
・アセチレノールEH(商品名、川研ファインケミカル(株)製) 1部
・エチレングリコール 10部
・イオン交換水 69部
<インク>
・カーボンブラックMCF88(三菱ケミカル(株)) 3部
・スチレン-アクリル酸-アクリル酸エチル共重合体 8部
・グリセリン 10部
・エチレングリコール 5部
・イオン交換水 74部
【0057】
このインクに含まれるスチレン-アクリル酸-アクリル酸エチル共重合体は溶融温度が100℃の樹脂粒子である。
【0058】
次に、処理液及びインクが付与された記録媒体に対して、温風による加熱乾燥を行った。この温風は、記録媒体の処理液及びインクが付与された面に対して10秒間当てられた。このとき、記録媒体の温度90℃になるように温風の温度を調整した。なお、この記録媒体の温度は赤外線サーモグラフィーによって記録媒体上の処理液及びインクが付与された領域の温度を測定した。この段階における記録媒体のインクが付与された領域の表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、インク中の樹脂粒子に溶融は見られなかった。
【0059】
次いで、加熱乾燥装置によって加熱乾燥された記録媒体を、加熱加圧した。加熱加圧装置には、加熱加圧部材として加熱ベルトを有する加熱加圧装置を用いた。加熱ベルトは、ニトリルゴムの表面にPFAを接着したベルトであり、この加熱ベルトを2つ用意し、2つの加熱ベルトで記録媒体を上下から挟み込むことで加熱加圧を行った。このとき加熱ベルトの表面温度は115℃であり、加熱ベルトと記録媒体を、0.1kPaの圧力で2秒間接触させた。この加熱加圧工程後の記録媒体のインクが付与された領域の表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、インク中の樹脂粒子が溶融し、インク膜が形成されていることが確認できた。
【0060】
次いで、加熱加圧された記録媒体上のインク膜上に、第二のインク付与工程として再度黒色のインクを均一に4.0g/m2付与した。その後、加熱乾燥装置を用いて再び加熱乾燥工程を一度目と同様の条件で行い、画像が記録された記録媒体(記録物)を得た。
【0061】
[画像の評価]
得られた画像に対して、画像濃度及び画像の耐擦過性の評価を行った。
【0062】
画像濃度は、明度L*を用いて評価した。L*は蛍光分光濃度計(商品名:FD-7、コニカミノルタジャパン(株)製)を用いて測定した。
【0063】
また、画像の耐擦過性は、記録媒体に画像を記録してから一日経過後の記録物の画像に対して学振形摩擦試験(荷重500g、擦過回数10回)を用いて評価した。擦過後の画像を目視にて観察し、その状態に従って下記の4段階に分けた。
A:擦過した画像領域に記録媒体の表面の露出が無く、擦り跡もほとんど見られない。
B:擦過した画像領域に記録媒体の表面の露出が無いが、擦り跡は見られる。
C:擦過した画像領域の5%未満に記録媒体の表面が露出している。
D:擦過した画像領域の5%以上に記録媒体の表面が露出している。
【0064】
また、記録媒体の動的液体吸収性試験における純水の吸水係数は、自動走査吸液計(商品名:KM500win(製品番号:No.2071、熊谷理機工業(株)製)を用いて測定された。
【0065】
(実施例2)
記録媒体として、微塗工紙(商品名:ヴァンヌーボV-FS、(株)竹尾製)、坪量215g/m2を用いたこと以外は実施例1と同様の評価を行った。
【0066】
(実施例3)
第一のインク付与工程におけるインク付与量を7.2g/m2、第二のインク付与工程におけるインク付与量を0.8g/m2に変更したこと以外は実施例2と同様の評価を行った。
【0067】
(比較例1)
第一のインク付与工程で8.0g/m2のインクを付与し、第二のインク付与工程を行わなかったこと以外は実施例2と同様の評価を行った。
【0068】
(比較例2)
加熱加圧工程を行わなかったこと以外は比較例1と同様の評価を行った。
【0069】
実施例1~3、及び、比較例1~2の評価結果を下記表1に示す。
【0070】
【0071】
本実施形態の開示は、以下の方法を含む。
【0072】
(方法1)記録媒体に、樹脂粒子を含むインクを付与する第一のインク付与工程と、
前記インクが付与された記録媒体を加熱乾燥する加熱乾燥工程と、
前記加熱乾燥された記録媒体を加熱加圧する加熱加圧工程と、
前記加熱加圧された記録媒体に、前記インクをさらに付与する第二のインク付与工程と、
を有する画像記録方法であって、
前記樹脂粒子の溶融温度をTe[℃]、前記加熱乾燥工程によって加熱乾燥された前記記録媒体の温度をT1[℃]、前記加熱加圧工程によって加熱加圧された前記記録媒体の温度をT2[℃]としたとき、T1<Te<T2の関係を満たすことを特徴とする画像記録方法。
【0073】
(方法2)前記記録媒体の純水の吸水係数が30μm/sec1/2以上である方法1に記載の画像記録方法。
【0074】
(方法3)前記第一のインク付与工程におけるインク付与量が、第一のインク付与工程及び第二のインク付与工程におけるインク付与量の合計を基準として、50質量%以上90質量%以下である方法1又は2に記載の画像記録方法。
【0075】
(方法4)前記加熱乾燥工程において、前記記録媒体を加熱乾燥する加熱乾燥装置は、前記記録媒体に接触しない非接触型の加熱乾燥装置である方法1~3のいずれか一項に記載の画像記録方法。
【0076】
(方法5)前記加熱加圧工程において、前記記録媒体を加熱加圧する加熱加圧装置は、前記記録媒体に接触する接触型の加熱加圧装置である方法1~4のいずれか一項に記載の画像記録方法。