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特開2024-171114可食ロボット及び可食ロボット制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171114
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】可食ロボット及び可食ロボット制御システム
(51)【国際特許分類】
   A63H 13/00 20060101AFI20241204BHJP
【FI】
A63H13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088007
(22)【出願日】2023-05-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (証明書1)開催日 令和4年6月3日 2022年度 第11回若手会オンラインセミナー(高密度共役若手会) (証明書2)開催日 令和4年12月8日 大阪府立大手前高等学校 集中セミナー (証明書3)公開日 令和5年2月7日 https://uecdisk2.cc.uec.ac.jp/ https://uecdisk2.cc.uec.ac.jp/s/Ky4xngcZLaZAj8w (証明書4)開催日 令和5年2月10日 国立大学法人電気通信大学 令和4年度卒業研究発表会
(71)【出願人】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲田 佳弘
(72)【発明者】
【氏名】岩重 洸平
(72)【発明者】
【氏名】山木 廉
(72)【発明者】
【氏名】高間(伴) 碧
(72)【発明者】
【氏名】堀部 和也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英之
(72)【発明者】
【氏名】石黒 浩
【テーマコード(参考)】
2C150
【Fターム(参考)】
2C150CA04
2C150CA18
2C150DA23
2C150DD01
2C150DE01
2C150DE05
2C150DF03
2C150EB08
2C150EB11
2C150ED06
2C150ED42
2C150EF30
2C150FB42
2C150FB60
(57)【要約】      (修正有)
【課題】可食ロボットの可食部と気体又は液体を送り込むパイプとの接続を、特殊な接着材又は加締め具を用いることなく、低圧で駆動できるように接続する。
【解決手段】内部に気体又は液体をためるチャンバー11が形成された可食部と、可食部に気体又は液体を供給するための接続部と、を備える可食ロボットであり、接続部は、コネクターカバーとコネクターベース12bから構成され、可食部の一部を、コネクターカバーとコネクターベースにより形成された空間に挟み込んで固定することで、空間内に挟み込まれた可食部の一部の与圧により、可食部に形成されたチャンバーからの気体又は液体の漏れの封止を行う。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に気体又は液体をためるチャンバーが形成された可食部と、
前記可食部に気体又は液体を供給するための接続部と、を備え、
前記接続部は、コネクターカバーとコネクターベースから構成され、
前記可食部の一部を、前記コネクターカバーと前記コネクターベースにより形成された空間に挟み込み、
前記コネクターカバーと前記コネクターベースを固定部材で固定することで、前記空間内に挟み込まれた前記可食部の一部の与圧により、前記可食部に形成された前記チャンバーからの気体又は液体の漏れの封止を行う
ことを特徴とする可食ロボット。
【請求項2】
前記可食部に設けた前記チャンバーに、外部の圧力源からパイプを通して気体又は液体を送ることにより、前記可食部を動かす
請求項1に記載の可食ロボット。
【請求項3】
前記可食部を構成する素材は、弾力性を持つゼラチンに加え、砂糖及び炭 酸カルシウムから形成される
請求項1又は2に記載の可食ロボット。
【請求項4】
前記接続部を構成する前記コネクターカバーの内径は、前記コネクターカバーと前記コネクターベースの間に前記空間ができるように、少なくとも2段階の大きさに形成され、前記コネクターカバーの内径のうちの最も大きい内径は、前記コネクターベースの外形より大きく形成されている
請求項1又は2に記載の可食ロボット。
【請求項5】
前記コネクターベースは、その上面より突き出た前記パイプを備え、前記可食部の一部の与圧により、前記上面及び前記パイプが押圧されることで、前記封止を行う
請求項2に記載の可食ロボット。
【請求項6】
内部にチャンバーが形成された可食部と、気体又は液体を供給する圧力源と、気体又は液体の圧力を調整する圧力計内蔵レギュレータと、気体又は液体内の有害物質を取り除くフィルタと、前記可食部のチャンバーに送る気体又は液体の量を調整するバルブと、前記バルブの開閉を制御するコンピュータ装置から構成される可食ロボット制御システムであって、
前記コンピュータ装置は、
外部からの音声を受け付ける音声入力部と、
前記音声入力部で受け付けた音声信号を記憶する音声記憶部と、
前記音声記憶部で記憶された音声信号により、前記可食ロボットに取り付けたスピーカからの発話を制御する音声出力制御部と、
前記音声記憶部で記憶された音声信号により、前記可食ロボットの前記チャンバーに送る気体又は液体の量を制御する前記バルブの開閉制御を行うバルブ開閉制御部と、を備える
可食ロボット制御システム。
【請求項7】
前記コンピュータ装置は、
さらに、テキスト文を入力して音声信号に変換する人工音声生成部を備え、
前記人工音声生成部で生成した人工音声を前記音声記憶部に保存する
請求項6に記載の可食ロボット制御システム。
【請求項8】
前記コンピュータ装置は、前記音声記憶部に記録された、所定の閾値を超える音声信号のピーク値を検出する音声ピーク検出部を備え、
前記音声出力制御部は、前記音声ピーク検出部が音声信号のピーク値を検出すると制御信号を出力する
請求項6又は7に記載の可食ロボット制御システム。
【請求項9】
前記コンピュータ装置は、前記音声記憶部に記録された、音声信号が存在する有音声部を検出する有音声検出部を備え、
前記音声出力制御部は、前記有音声検出部が前記有音声部を検出すると制御信号を出力する
請求項6又は7に記載の可食ロボット制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可食ロボット及び可食ロボット制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食材を原料としたロボットの研究開発が行われているが、こうしたロボットは、医療応用や低環境負荷のロボットを実現する目的で行われていることが多い。例えば、ゼラチンとグリセリンの化合物を使用した空気圧駆動の可食ロボットハンドが開発されている。しかし、可食ロボットハンドとはいえ、強度を確保するために成型後に乾燥させるなど、食材を使用しているものの実際に食べることは想定されていない。
【0003】
一方、本発明者らは、実際に食べることを想定した可食ロボットを開発している。このような可食ロボットの開発では、使用する素材の安全性の確保が極めて重要になる。駆動部は可食素材で作ることができるが、空気が通るパイプや制御のためのバルブなどの部品を可食化することはできない。
【0004】
非特許文献1に記載されるように、本願の発明者らは、食品材料から構成される食べることが可能な可食ロボットを開発し、「ロボットを食べる」という新たなインタラクションの有り様を探求することで、摂食を介したヒューマンロボットインタラクションの確立を目指した研究成果を発表している。
【0005】
非特許文献1に記載される可食ロボットは、動きのパラメータを定量的に調整可能とすることで、どのような可食ロボットの動きが食欲を喚起し、またおいしそうに感じさせるかを検討し、評価するものであった。
また、非特許文献1に記載される可食ロボットは、食物の「命」を擬似的に生み出し、実際に生きた生物では評価が困難であった、生物の微細な運動の変化が人間の行動に与える影響を評価するものであった。
【0006】
すなわち、非特許文献1に記載の可食ロボットは、6つの動作を異なる6つの給排気パターンによって実現し、2つの空気室に空気を入れるタイミングによって、2つの条件を設定している。一つは片方ずつ空気を入れることで左右方向に動く「交互」条件、もう一つは両方の空気室に同時に給排気を行うことで上下方向に動く「同時」条件である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】電子情報通信学会発行、信学技報IEICE Technical Report HCS2021-47、24頁~29頁(2022年1月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、可食ロボットに限らず、空気圧駆動・液圧駆動の柔らかいアクチュエータ(駆動装置)において、アクチュエータとパイプの接続は困難な課題の一つである。アクチュエータとパイプの接続・封止方法としては、アクチュエータの接続部とをまとめて加締める方法や、シリコン接着材などの化学物質を使って固定と封止を実現する方法が知られている。しかし、前者の場合、加締めた箇所から可食部材が切れる可能性があり、後者の場合は、強度を保てる接着剤を食材で作ることが困難であるという問題がある。
【0009】
また、非特許文献1には、可食ロボットの可食部と空気を送り込むためのパイプとの接続をどのように行うかという具体的な開示はされていない。したがって、非特許文献1に記載の可食ロボットにおいても、可食ロボットの可食部と気体又は液体を供給するパイプを接続することに対しては、依然として課題が残されたままであった。
【0010】
したがって、本発明の目的は、可食ロボットの可食部と気体又は液体を送り込むパイプとの接続を、特殊な接着材又は加締め具を用いることなく、低圧で駆動できるように接続し、しかも安全に食べることができる可食ロボット及び可食ロボット制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の可食ロボットは、内部に気体又は液体をためるチャンバーが形成された可食部と、可食部に気体又は液体を供給するための接続部と、を備える。接続部は、コネクターカバーとコネクターベースから構成され、このコネクターカバーとコネクターベースにより形成された空間に可食部の一部を挟み込む。
そして、本発明の可食ロボットは、コネクターカバーとコネクターベースを固定部材で固定することで、空間内に挟み込まれたの与圧により、可食部に形成されたチャンバーからの気体又は液体の漏れの封止を行うようにしている。
【0012】
また、本発明の可食ロボット制御システムは、内部にチャンバーが形成された可食部と、気体又は液体を供給する圧力源と、圧力を調整する圧力計内蔵レギュレータと、気体又は液体内の有害物質を取り除くフィルタと、可食部のチャンバーに送る気体又は液体の量を調整するバルブと、バルブの開閉を制御するコンピュータ装置から構成される可食ロボット制御システムである。
本発明の可食ロボット制御システムのコンピュータ装置は、外部からの音声を受け付ける音声入力部と、音声入力部で受け付けた音声信号を記憶する音声記憶部と、音声記憶部で記憶された音声信号により、可食ロボットに取り付けたスピーカからの発話を制御する音声出力制御部と、音声記憶部で記憶された音声信号により、可食ロボットのチャンバーに送る気体又は液体の量を制御するバルブの開閉制御を行うバルブ開閉制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、可食ロボットの可食部と気体又は液体を送り込むパイプとの間の気体又は液体の漏れを防ぎ、可食部を破壊することなく、確実に接続と封止を行うことが可能になる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態例に係る可食ロボットの概略構成図である。
図2】本発明の実施形態例に係る可食ロボットの全体図Aと縦断面図Bである。
図3】本発明の実施形態例に係る可食ロボットを固定するためのコネクターの構造を示す図であり、Aは斜視図、Bは上面図、Cは左側面図、Dは正面図、Eは右側面図である。
図4】本発明の実施形態例に係る可食ロボットのコネクター内に給気するためのパイプの構造Aと、可食ロボットの可食部と同じ材料によりコネクターベースの平面が押圧されて可食ロボットがコネクター内に封止された状態Bを示す図である。
図5】本発明の実施形態例に係る可食ロボットを動かすための制御システムの一例を示す図である。
図6】本発明の実施形態例に係る可食ロボットに空気を供給して動かしている状態を示す図である・
図7】本発明の実施形態例に係る可食ロボットに音声情報を供給することで、可食ロボットを動かし、かつ可食ロボットに音を発生させる制御システムを示す図である。
図8】本発明の実施形態例に係る可食ロボットを動かす制御システムを構成するコンピュータ装置(コントローラ)のハードウェア構成を示す図である。
図9図7の制御システムにおいて、音声の波形データのピークを検出して、可食ロボットを動作させる場合の図である
図10図7の制御システムにおいて、音声の波形データの音声がある部分(有音声部)を検出して、可食ロボットを動作させる場合の図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[可食ロボットの構造]
以下、図1図10を参照して本発明の実施の形態例(以下、「本例」と称する)である可食ロボットの構造及びその制御システムについて説明する。なお、本例は、空気の供給を前提として記載しているが、空気に限定されず他の気体(ヘリウム等)であっても良く、また、気体ではなく水やジュース等の摂取可能な液体を供給する構成であってもよい。
図1は、本発明の発明者らが開発した可食ロボットの全体構造を示す。
【0016】
本例の可食ロボット1の可食部10は、安全に食べられる食材で作られており、図1に示すように、可食部10の一部は、不図示の接続部(コネクター部)とともに、容器20内に収納されている。図1では、可食部10は、アーム(腕)10aとアイ(目)10bを備える構成としているが、腕10aと目10bは、あくまでロボットらしさ、つまり「生き物らしさ」を見せるようにするためのもので、必ず必要とされるものではない。
【0017】
なお、アーム(腕)10aには、後述するチャンバー11のような駆動装置はないが、柔軟性があるため、可食部10の体幹部の動きにつられて、アーム(腕)10aは受動的に揺れる。そのため、可食部10に対して、生きている印象を与えることができる。アーム(腕)10aとアイ(目)10bを付けることにより、後述するように、人と対話する可食ロボットシステムを構築することができる。
【0018】
容器20は、取っ手20aを有しており、人が取っ手20aを持って可食部10を食することができるようになっている。当然のことながら、腕10aと目10bも食べることができる材料(食材)で作られている。
また、後述するように、可食部10にはチャンバー11(図2参照)が設けられており、可食部10は、このチャンバー11に空気を供給することで動くようになっている。また、容器20には、空気を給気するためのエアチューブ13と給気口14が設けられている。
【0019】
図2Aは、本例の可食ロボット1を容器20から取り出した裸の状態を示し、可食部10と、可食部10をエアチューブ13に接続するための接続部(コネクター部)12の構造を示している。また、図2Bは、容器20から取り出した可食ロボット1の可食部10と接続部(コネクター部)12を縦に切断したときの縦断面図である。
【0020】
図2Aに示すように、接続部(コネクター部)12は、コネクターカバー12aとコネクターベース12bとから構成されており、コネクターカバー12aは、縦に2分割されて、可食部10を形成する食材の一部が中に充満した状態で、不図示のボルトとナットにより締め付けられて固定されるようになっている。
【0021】
また、図2Bに示すように、本例の可食ロボット1の可食部10は、内部に2つのチャンバー11を持ち、外部から空気を供給することでチャンバー11が膨張したり、左右に揺れたりして、可食部10全体が変形する構造になっている。
そして、本例の可食ロボット1は、外部から供給する空気を調整することで、ロボットとしての動作を変化させることができる。なお、図2Bでは、縦に長い2つのチャンバーが示されているが、チャンバーの数は2つに限定されなない。可食部10の動きをより生き物らしくするために必要であれば、3つ又は4つなど2個以上でも構わない。
【0022】
また、コネクターカバー12aとコネクターベース12bは、それぞれ左右に一対の固定部12cを備えてり、コネクターカバー12aとコネクターベース12bも不図示のボルトとナットにより締め付けられて固定されるようになっている。
また、コネクターカバー12aの内径は、上部と下部とが異なる径に形成されており、特に、下部の部分は、コネクターベース12bの外形よりやや大きめに設計されている。このため、コネクターカバー12aはコネクターベース12bの外周を覆う蓋として機能している。なお、図2Bでは、コネクターカバー12aの内径は、狭い上部と広い下部の2段階になっているが、これはあくまでも一例であり、3段階又は階段状に複数段階に構成してもよい。
【0023】
図2Bから分かるように、図2Aのコネクターカバー12aに取り付けられた固定部12cは、コネクターベース12bの一部を覆う位置に取り付けられている。
なお、図2Aでは、コネクターカバー12aとコネクターベース12bを固定する固定部12cを左右に一対(2個)設けた構成にしているが、必ずしも2個である必要はなく、2個以上であれば、3個又は4個あっても差し支えない。
【0024】
また、図2Bの断面図に示すように、可食部10には、空気が供給されるチャンバー11が設けられている。そして、コネクターベース12bには空気が通る孔が空けられており、その孔に空気を通すパイプ15が挿入されている。このパイプ15は、コネクターカバー12aの内部に一部突き出ており、突き出たパイプ15の部分が可食部10に形成されたチャンバー11に接続される構造になっている。
【0025】
そして、このパイプ15を通して、エアチューブ13を通った空気が、コネクターベース12bを通って、可食部10のチャンバー11に供給されることで、チャンバー11内に空気が注入される。すると、このチャンバー11内の空気の流れによって、可食部10が動き、生き物のように動く可食ロボット1が実現する。
ただし、この状態ではパイプ15の外側に空気が漏れるおそれがあるため、空気漏れを防ぐための封止技術が必要になるが、この封止方法の詳細については、図4で後述する。
【0026】
[可食部10の素材と製法]
発明者らは、市販のグミを参考にして、可食部10の素材として、ゼラチン、砂糖、及び炭 酸カルシウムを用いた。ゼラチンはゲル化食品の中で高い弾力性を持つことから、可食部にゴムのような弾力性を持たせることができる。
なお、砂糖は味付けと保湿のために用いている。また、炭酸カルシウムは、工業用途ではゴム補強剤として使われており、食品においても可食部10を構成する食材の補強をすることができる。
【0027】
これらに加えて、可食部10の素材として、溶媒と味付けのために果汁100%のリンゴジュースを用いた。そして、弾力性を持たせるためにできる限りゼラチンを多く使用し、なおかつゼラチンと砂糖が解け残らないようにするという観点で試行錯誤を繰り返して、最終的に ゼラチン:ジュース:砂 糖:炭酸カルシウムの比率を(25:100:30:1)とした。
また、これらを60℃に加熱しながら混ぜ、混ざったものを型に流して冷蔵庫で12時間冷やして、固めることで可食部10を作成した。
【0028】
可食部10の製作過程において、チャンバー11も一緒に形成される。具体的には、可食部10の食材を入れる金型を作り、この金型を上下逆さまにして、チャンバー11を形成するための縦長の棒2本を金型内に挿入する。この状態で食材を金型に注入し、食材が固まると、可食ロボット1の可食部10の中に、挿入した棒の数だけのチャンバー11が形成される。
【0029】
[コネクターの構造]
図3は、本例の可食ロボット1の可食部10をエアチューブ13に接続するための接続部(コネクター部)12の詳細を示す図である。
図3Aは接続部(コネクター部)12の斜視図であり、図3BはB方向から上面図、図3CはC方向から見た左側面図、図3DはD方向から見た正面図、図3EはE方向からみた右側面図である。
【0030】
図3Aに示すように、接続部(コネクター部)12は、コネクターカバー12aとコネクターベース12bで構成される。コネクターカバー12aは、2分割されて、ボルトとナットで固定される。図3Dは、2分割されたコネクターカバー12aがボルトとナットで固定された状態を示す正面図である。
また、コネクターカバー12aとコネクターベース12bは、それぞれに設けられた固定部12cをボルトとナットの締め付けにより強固に固定される。これにより、可食部10を保持し、かつ可食部10のチャンバー11とエアチューブ13を接続するための接続部(コネクター部)12が完成する。
【0031】
図4Aは、本例の可食ロボット1の可食部10をエアチューブ13と接続するコネクターベース12bとその内部を通過するパイプ15の位置関係を示し、図4Bは、可食ロボット1の可食部10が、コネクターカバー12aとコネクターベース12bとで形成される接続部(コネクター部)12内の空間内に封止された状態を示す断面図である。
図4Aに示されるように、コネクターベース12bは、例えば、全体がステンレス製の金属で形成され、底面から上面まで空気を供給するためのパイプ15が通る孔が形成されている。また、コネクターベース12bには、コネクターカバー12aと固定するための固定部12cが設けられている。
【0032】
また、図4Bに示すように、コネクターカバー12aの上部の内径は、下部の内径に比べて狭く形成している。これにより、コネクターカバー12aとコネクターベース12bとの間で形成される空間内に、可食部10の一部が密閉されて閉じ込られる構造になっている。
そして、コネクターカバー12aとコネクターベース12bは、固定部12cにより、ボルトとナットを使って締め付け固定される。
【0033】
これにより、コネクターカバー12aとコネクターベース12bで囲われた空間内に充満している可食部10の食材に圧力が加わり、充満した食材の与圧により、コネクターベース12bの上面(平面)が矢印に示す方向に押圧される。このため、この与圧によって、パイプ15からの空気漏れを防ぐことができる。いうまでもなく、与圧とは、内部の物質である可食部10の食材が容器内に溜まって発生する圧力であり、内部に充満された食材は、与圧によって変形しない状態に保持される。なお、この場合、可食部10自体にも負荷をかけることになるが、コネクターベース12bの上面は、平面として圧力を受けるため、この加圧によって可食部10が壊れることはない。
【0034】
なお、パイプ15は、コネクターベース12bと一体に又は分離可能に構成されてもよい。また、パイプ15は必ずしも硬質な材料で構成される必要はなく、可食部10の与圧によって変形し塞がれることが無ければ、可撓性の材料で構成されてもよい。パイプ15は、例えば、チューブ13と同様の材料で構成されてもよく、また、チューブ13と一体として構成されてもよい。
【0035】
[制御システム]
図5は、可食ロボット1に空気を給気して、可食ロボット1を動かすための制御システムの概要を示す図である。
本例の可食ロボット1には、図2Bに示すように、チャンバー11が2つ設けられており、それぞれのチャンバー11に供給する空気の量を調整することで、可食部10を左右方向及び上下方向に動かすことができる。ここでは、チャンバー11は2つにしているが、チャンバー11を増やすことで、より複雑な動きを実現することが可能になる。
【0036】
図5に示すように、本例の可食ロボット1を動かす制御システムは、空気を供給する空圧源21、圧力計内蔵レギュレータ22,エアフィルタ23、3ポートソレノイドバルブ24、コントローラ25、電源26、及びアンプ回路27を備える。
まず、空圧源21から供給される空気は、圧力計内蔵レギュレータ22により安定な空気圧に調整され、エアフィルタ23に供給される。エアフィルタ23は、供給された空気の中に混じっている人体に有害な物質を取り除くためのもので、これにより可食部10のチャンバー11にゴミ等を含む有害物質が入らないようにすることができる。
【0037】
エアフィルタ23で浄化された空気は、次に3ポートソレノイドバルブ24に供給される。3ポートソレノイドバルブ24は、マイコンを含むコンピュータ装置で構成されるコントローラ25により開閉制御される。
すなわち、可食部10の各チャンバー11への空気の給排気の量は、コントローラ25からの制御入力により3ポートソレノイドバルブ24の開閉状態を切り替えることで制御される。
【0038】
さらに詳しく説明すると、図5に示すように、コントローラ25は、電源26が接続されているアンプ回路27に予めプログラムされた制御信号を送り、アンプ回路27の出力により、3ポートソレノイドバルブ24の開閉制御を行う。これにより、エアチューブ13に供給される空気量と給気のタイミングが制御され、可食部10のチャンバー11に送られる空気量が制御される。可食ロボット1の可食部10は、チャンバー11に入って来る空気量に従って左右又は上下に動かされ、可食ロボット1は、あたかも生きた物のような動きを呈することができる。
【0039】
図6のA~Cは、チャンバー11に対する空気の給排気により可食ロボット1の動きを示す図である。図6Aは、可食部10がやや右に傾いていることから、向かって左側のチャンバー11に給気を行い、右側のチャンバー11には給気を行わない状態の例を示す。図6Bは、直立して少し上に伸びていることから、左右2つのチャンバー11の両方に給気した状態の例を示している。また、図6Cは、可食部10がやや左に傾いていることから、向かって右側のチャンバー11に給気を行い、左側のチャンバー11には給気を行わない状態の例を示している。
【0040】
[制御システムによる音声制御]
図7は、図5に示すコントローラ25の機能として、3ポートソレノイドバルブ24の開閉制御に加えて、可食ロボット1に音声を発生させる制御を行う制御システムの例である。
図7に示すように、コンピュータ(マイコンでも可)で構成されるコントローラ25は、音声を発生させるための機能を備えている。
【0041】
すなわち、コンピュータ装置(コントローラ)25は、不図示のマイクから入力される音声信号を受け付ける音声入力部31とテキスト信号を音声信号に変換する人工音声生成部32を備える。
また、コンピュータ装置(コントローラ)25は。制御部30の制御下で各機能を発揮する、音声記憶部33、音声ピーク検出部34、有音声検出部35、切替部36、音声出力制御部37及びバルブ開閉制御部38を備える。制御部30を含む上記各機能部は、図8で後述するコンピュータ装置のCPU(Central Processing Unit)が予めインストールされたプログラムを実行することで実現される。
【0042】
音声記憶部33は、音声入力部31で受け付けたマイク又は録音機からの音声信号と、人工音声生成部32で音声信号に変換されたテキスト信号を記憶する。
音声ピーク検出部34は、制御部30の制御下で、音声記憶部33に記憶された音声信号の中のピークを検出する(図9参照)。また、有音声検出部35は、制御部30の制御下で、音声記憶部33に記憶された音声信号の中の音声がある区間(有音声区間)を検出する(図10参照)。
【0043】
切替部36は、制御部30の制御により、音声出力のための制御信号として、音声ピーク検出部34で検出されるピーク信号を用いるか、あるいは有音声検出部35で検出される有音声信号を用いるかの選択を行う。
音声出力制御部37は、制御部30の制御下で、切替部36で選択された音声信号により音声出力器(スピーカ)39を制御するための制御信号を出力する。
また、バルブ開閉制御部38は、制御部30の制御下で、切替部36で選択された音声信号によりの図5に示す3ポートソレノイドバルブ24を制御する制御信号を出力する。
【0044】
なお、音声出力器(スピーカ)39から発生される音声としては、可食ロボット1を子供などに食べさせるための音声や、医師、保育士、親などが遠隔で可食ロボットを介して相手と対話する内容などが考えられる。例えば食品に対する子供などの興味を呼び起こし子供の好き嫌いをなくすような言葉や、食育に活かす言葉などが考えられる。
具体的には、「僕を食べてごらん。おいしいよ」という言葉や、「私を食べると、身体が元気になるよ」など、可食ロボット1が親身になって相手に接していることが伝わることばであれば、どのような言葉でもよい。
【0045】
なお、仮に音声の発生がなくても、可食ロボット1の動きで、可食ロボット1の意思を伝えることはできる。しかし、音声を用いて、視覚と聴覚の両方から子供や患者などに訴えることで、より強い印象を相手に与えることが可能である。
【0046】
[コンピュータ装置(コントローラ25)のハードウェア構成]
図8は、図5及び図7に示すコンピュータ装置(コントローラ)25に相当するコンピュータ装置のハードウェア構成を示す。
図7に示す本例の可食ロボット1の制御システムの機能は、図8に示すコンピュータ装置に実装されるプログラムにより実現される。
すなわち、図8に示すように、本例の制御システムを構成するコンピュータ装置は、バス80に接続されたCPU81、ROM(Read Only Memory)82、RAM(Random Access Memory)83、不揮発性ストレージ84、通信インタフェース(通信IF)85、入力部86、及び出力部87から構成される。
【0047】
CPU81は、可食ロボット1の制御システムを実現するソフトウェアのプログラムコードをROM82から読み出して、演算処理を実行する。また、RAM83には、演算処理の途中で発生した変数等が一時的に書き込まれる。
不揮発性ストレージ84は、SSD(Solid State Drive)等の不揮発性のメモリで構成される。この不揮発性ストレージ84には、CPU81が動作するために必要なプログラムやデータ等が格納される。
【0048】
通信インタフェース85としては、例えば、NIC(Network Interface Card)等が用いられる。この通信インタフェース(通信I/F)85は、図5に示すように、直接電線を3ポートソレノイドバルブ24に接続して可食部10の運動を制御する場合には、必ず必要とされるわけではない。但し、可食ロボット1が独自のコンピュータ装置(コントローラ)25を備え、スマートフォンなどにより無線で遠隔制御される場合には、通信インタフェース85が必要とされる。
【0049】
入力部86は、可食ロボット1にマイクからの音声や録音された音声が入力される音声入力部31と、テキストデータが入力される人工音声生成部32が相当する。出力部87は、音声信号を音声出力器(スピーカ)39に出力する音声出力制御部37と、音声信号によりバルブの開閉を制御する制御信号を出力するバルブ開閉制御部38がこれに相当する。
【0050】
図9は、音声の波形データのピークを検出しそのタイミングで3ポートソレノイドバルブ24を開けて可食ロボット1を動作させる場合の図である。図9の横軸は時間、縦軸は音声信号の出力値(電圧)である。
コントローラ25の音声ピーク検出部34は、図9に「●」で示すように、検出した音声信号電圧が所定のスレショルド値THを超えた場合のみを検出し、音声出力制御部37により、このピーク値を検出したタイミングでスピーカから音声を発するように制御する。
また、同じタイミングで、バルブ開閉制御部38により3ポートソレノイドバルブ24を制御して、可食部10のチャンバー11に空気を注入する。
【0051】
図10は、音が発生している区間(有音声区間)のみ、3ポートソレノイドバルブ24を開閉制御して可食ロボット1を動作させ、音がない区間では可食ロボット1を動作させないようにすることを示す図である。
コンピュータ装置(コントローラ)25の有音声検出部35は、図10の横軸(時間軸)に「有音声」と示した部分を検出する。そして、音声出力制御部37により、この有音声を検出した時間に音声出力器(スピーカ)39から音声を発するように制御する。また、同じタイミングで、バルブ開閉制御部38により3ポートソレノイドバルブ24を制御して、可食部10のチャンバー11に空気を給気する。
【0052】
以上、本発明の可食ロボット1と、可食ロボット1を動かす制御及び可食ロボット1に発話させる制御システムについて説明した。これにより、例えば食品に対してトラウマを抱えている人に、あたかも食品自らが説得したり、食べるようにサポートしたりする演出を行うことが可能になる。
【0053】
例えば、このような可食ロボット1を使用することで、子供が食品に興味を持てるように促す食育の効果を奏することができる。また、可食ロボットの動きや発話の機能を利用することにより、様々な理由で食品に対して抵抗感のある人に対して、その抵抗感を減らすことができるという効果もあると考えられる。
さらに、可食ロボットは口に入れても安全であり、かつその先端を動かすことができるので、口腔内を刺激することで、認知症の予防などに利用できる可能性もある。
【0054】
上述のとおり本例は空気の供給を前提として記載しているが、本発明は空気に限定されず他の気体(ヘリウム等)を利用しても良く、また、気体ではなく水やジュース等の摂取可能な液体を利用してもよい。その場合、本願明細書にかかる空圧源は液体を送り出す圧力源と、エアチューブは液体を供給するチューブと、エアフィルタは、液体の有害物質を取り除くフィルタと読み替えて本発明を理解するものとする。なお、上述の圧力源としては、電気駆動のポンプでもよいが、手動で簡易に動くポンプを利用してもよい。
【0055】
なお、本発明は前述した実施の形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱しない限りにおいて、様々な応用例、変形例が含まれる。
【符号の説明】
【0056】
1…可食ロボットの全体図、10…可食部、10a…可食ロボットのアーム(腕)、11…チャンバー、12…接続部(コネクター部)、12a…コネクターカバー、12b…コネクターベース、12c…固定部、13…エアチューブ、14…給気口、15…パイプ、20…可食ロボットの容器、20a…取っ手、21…空圧源、22…圧力計内蔵レギュレータ、23…エアフィルタ、24…3ポートソレノイドバルブ、25…コンピュータ装置(コントローラ)、26…電源、27…アンプ回路、33…音声記憶部、34…音声ピーク検出部、35…有音声検出部35、36…切替器、27…音声出力制御部、38…バルブ開閉制御部、39…音声出力器(スピーカ)
図1
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図6
図7
図8
図9
図10