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特開2024-171158連続式雰囲気熱処理炉および熱処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171158
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】連続式雰囲気熱処理炉および熱処理方法
(51)【国際特許分類】
   F27B 9/04 20060101AFI20241204BHJP
   F27D 7/06 20060101ALI20241204BHJP
   C21D 1/26 20060101ALI20241204BHJP
   C21D 1/773 20060101ALI20241204BHJP
   C21D 1/00 20060101ALI20241204BHJP
   C21D 1/76 20060101ALI20241204BHJP
   F27B 9/02 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
F27B9/04
F27D7/06 C
C21D1/26 T
C21D1/773 D
C21D1/00 112D
C21D1/00 F
C21D1/76 R
F27B9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088079
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【弁理士】
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】浅井 康一郎
【テーマコード(参考)】
4K034
4K050
4K063
【Fターム(参考)】
4K034AA11
4K034AA19
4K034BA10
4K034CA05
4K034CA06
4K034DA06
4K034DA08
4K034DB02
4K034DB03
4K034DB04
4K034DB05
4K034DB06
4K034EA12
4K034EB01
4K034EB39
4K034EC06
4K034EC07
4K034FA01
4K034FA02
4K034GA01
4K034GA02
4K034GA07
4K034GA08
4K034GA12
4K050AA02
4K050BA02
4K050CA11
4K050CC02
4K050CC07
4K050CC09
4K050CG04
4K050EA08
4K063AA05
4K063AA15
4K063BA02
4K063CA03
4K063DA01
4K063DA23
4K063DA34
(57)【要約】
【課題】雰囲気ガスの使用量を抑制しつつ、被熱物に対して復炭反応を伴う焼鈍処理を行うことが可能な連続式雰囲気熱処理炉を提供する。
【解決手段】連続式雰囲気熱処理炉1は、被熱物Wを搬送する搬送手段41と、室内の真空パージが行なわれる入口側パージ室10と、入口側パージ室10の搬送方向下流側に設けられ、被熱物Wが真空雰囲気で加熱される真空加熱室14と、真空加熱室14の搬送方向下流側に設けられ、被熱物Wが熱処理されるときの室内雰囲気を制御する室内雰囲気制御手段を有する熱処理室18A,18Bと、熱処理室の搬送方向下流側に設けられ、室内の真空パージ及び被熱物Wの冷却が行なわれる出口側パージ室20と、を備えている。室内雰囲気制御手段は、CO濃度とCO2濃度から定まるカーボンポテンシャルの指標値が所定値になるように、室内に供給する雰囲気ガスの流量を調節する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被熱物を熱処理する連続式雰囲気熱処理炉であって、
前記被熱物を搬送する搬送手段と、
室内の真空パージが行なわれる入口側パージ室と、
前記入口側パージ室の搬送方向下流側に設けられ、前記被熱物が真空雰囲気で加熱される真空加熱室と、
前記真空加熱室の搬送方向下流側に設けられ、前記被熱物が熱処理されるときの室内雰囲気を制御する室内雰囲気制御手段を有する熱処理室と、
前記熱処理室の搬送方向下流側に設けられ、室内の真空パージ及び前記被熱物の冷却が行なわれる出口側パージ室と、
を備え、
前記室内雰囲気制御手段は、室内雰囲気が、COガス、CO2ガス、及び、0.01体積%以下の炭化水素ガスを含み、かつ、CO濃度とCO2濃度から定まるカーボンポテンシャルの指標値が所定値になるように、室内に供給する雰囲気ガスの流量を調節する、連続式雰囲気熱処理炉。
【請求項2】
前記熱処理室は真空ポンプが接続されており、該真空ポンプによって室内が減圧可能とされている、請求項1に記載の連続式雰囲気熱処理炉。
【請求項3】
前記熱処理室は複数設けられており、熱処理室ごとに室内温度および/または室内圧力を制御する手段を有している、請求項1に記載の連続式雰囲気熱処理炉。
【請求項4】
前記入口側パージ室と前記真空加熱室の間に設けられ、前記被熱物を不活性ガス雰囲気で加熱する不活性雰囲気加熱室を備えている、請求項1に記載の連続式雰囲気熱処理炉。
【請求項5】
前記真空加熱室と前記熱処理室の間に、前記被熱物が冷却される中間冷却室を更に備え、前記中間冷却室は、その内部に区画形成された収容処理室を備えるとともに、冷却ガスを循環させる循環ファンと、前記冷却ガスの流路上に設けられたガスクーラおよびヒータを含むガス冷却手段を備えている、請求項1に記載の連続式雰囲気熱処理炉。
【請求項6】
前記中間冷却室が前記室内雰囲気制御手段を備えている、請求項5に記載の連続式雰囲気熱処理炉。
【請求項7】
被熱物収容空間を上下方向に複数段備えた治具を用いて前記被熱物を段積みし、請求項1に記載の連続式雰囲気熱処理炉を用いて前記被熱物を熱処理する、熱処理方法。
【請求項8】
前記治具には、前記被熱物収容空間に向けて雰囲気ガスを案内する導風板が設けられている、請求項7に記載の熱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は被熱物を連続的に熱処理する連続式雰囲気熱処理炉およびこれを用いた熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、後工程での切削性を高める等の目的で鋼部品(被熱物)に対して焼鈍処理が施されている。焼鈍処理に用いられる連続式雰囲気熱処理炉としては、例えば下記特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
焼鈍処理では、CO、H2、N2を主成分とする還元性かつ浸炭性ガスを雰囲気ガスとして用い、脱炭ならびに酸化を抑制しながら処理することが行われており、前工程において表面に脱炭が生じた被熱物に対しては、平衡反応に基づく復炭反応が生じ、前工程の影響の緩和が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-176217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
連続式雰囲気熱処理炉を用いて焼鈍処理を行なう場合、処理に適した炉内雰囲気とするため継続的に雰囲気ガスを炉内に供給する必要があり、ガスの使用量が増加してしまう問題があった。特に被熱物の表面に酸化スケールがあると、雰囲気ガス中のCOの消費が促進されてガス使用量が増加してしまう。焼鈍処理の前に予め酸化スケールを除去することも考えられるが、この場合には新たな工程を追加することとなってしまう。
【0006】
本発明は以上のような事情を背景とし、雰囲気ガスの使用量を抑制しつつ、被熱物に対して復炭反応を伴う焼鈍処理を行うことが可能な連続式雰囲気熱処理炉および熱処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
而してこの発明の第1の局面の連続式雰囲気熱処理炉は次のように規定される。即ち、
被熱物を熱処理する連続式雰囲気熱処理炉であって、
前記被熱物を搬送する搬送手段と、
室内の真空パージが行なわれる入口側パージ室と、
前記入口側パージ室の搬送方向下流側に設けられ、前記被熱物が真空雰囲気で加熱される真空加熱室と、
前記真空加熱室の搬送方向下流側に設けられ、前記被熱物が熱処理されるときの室内雰囲気を制御する室内雰囲気制御手段を有する熱処理室と、
前記熱処理室の搬送方向下流側に設けられ、室内の真空パージ及び前記被熱物の冷却が行なわれる出口側パージ室と、
を備え、
前記室内雰囲気制御手段は、室内雰囲気が、COガス、CO2ガス、及び、0.01体積%以下の炭化水素ガスを含み、かつ、CO濃度とCO2濃度から定まるカーボンポテンシャルの指標値が所定値になるように、室内に供給する雰囲気ガスの流量を調節する。
【0008】
このように規定された第1の局面の連続式雰囲気熱処理炉によれば、前段の真空加熱室での熱処理が、真空雰囲気で行われるため、この間の雰囲気ガスの使用を省略することができる。また、真空雰囲気での熱処理により被熱物表面の酸化スケールを除去することができる。
この第1の局面の連続式雰囲気熱処理炉では、後段の熱処理室で復炭反応を伴う熱処理が行われるが、前段の熱処理において酸化スケールが除去されるため、後段の熱処理において、酸化スケールとの反応により雰囲気ガス中のCOの消費が促進されてガス使用量が増加してしまうのを回避することができる。
よって第1の局面の連続式雰囲気熱処理炉によれば、雰囲気ガスの使用量を抑制しつつ、被熱物に対して復炭反応を伴う焼鈍処理を施すことができる。
【0009】
ここで、前記熱処理室に真空ポンプを接続し、室内を減圧可能に構成することができる(第2の局面)。
減圧状態で熱処理することで雰囲気ガスの使用量を更に抑制することができる。
また従来の雰囲気熱処理炉にあっては、停止後の再立上げに際して雰囲気が処理に適した状態になるのに時間を要してしまう為、処理が無い場合にも室内雰囲気を維持しておく必要があったが、第2の局面の熱処理炉によれば真空ポンプでの脱気により室内雰囲気を短時間で処理に適した状態に入れ替えることができる。
【0010】
またこの発明では、前記熱処理室を複数設け、熱処理室ごとに室内温度および/または室内圧力を制御する手段を有する構成とすることができる(第3の局面)。
このようにすれば、熱処理室ごとに温度や圧力を変更することができる。
【0011】
またこの発明では、前記入口側パージ室と前記真空加熱室の間に、前記被熱物を不活性ガス雰囲気で加熱する不活性雰囲気加熱室を備えるように構成することができる(第4の局面)。このようにすることで所定の温度まで被熱物を迅速に加熱することができる。
【0012】
またこの発明では、前記真空加熱室と前記熱処理室の間に、前記被熱物が冷却される中間冷却室を更に備えることができる。この場合、前記中間冷却室は、その内部に区画形成された収容処理室を備えるとともに、冷却ガスを循環させる循環ファンと、前記冷却ガスの流路上に設けられたガスクーラおよびヒータを含むガス冷却手段を備えるように構成することができる(第5の局面)。このようにすれば、種々の焼鈍に対応することができる。また冷却ガスの温度がガスクーラおよびヒータにより調整されるため、被熱物を所望の冷却勾配で冷却することができる。
【0013】
ここで、前記中間冷却室が前記室内雰囲気制御手段を備えるように構成することができる(第6の局面)。
【0014】
この発明の第7の局面の熱処理方法は次のように規定される。即ち、
被熱物収容空間を上下方向に複数段備えた治具を用いて前記被熱物を段積みし、請求項1に記載の連続式雰囲気熱処理を用いて前記被熱物を熱処理する。
内部を真空雰囲気にできる真空炉は、特性上、丸容器となり、被熱物を内部に収容するための有効寸法は高さ方向に大きくなる。第7の局面の熱処理方法によれば、治具を用いて被熱物を段積みすることで、熱処理炉(真空炉)における被熱物の積載量を高めることができる。
【0015】
ここで、前記治具には、前記被熱物収容空間に向けて雰囲気ガスを案内する導風板を設けることができる(第8の局面)。
このようにすれば、冷却時における、上側の被熱物と下側の被熱物との温度差が小さく抑えられ、より均一な冷却を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態の連続式雰囲気熱処理炉の概略全体構成を示した図である。
図2図1の連続式雰囲気熱処理炉における入口側パージ室から真空加熱室の構成を示した図である。
図3図1の連続式雰囲気熱処理炉における中間冷却室から出口側パージ室の構成を示した図である。
図4図3とは異なる方向からの中間冷却室の断面図である。
図5】同実施形態における室内雰囲気制御および室内圧力制御に関わる要素を示した説明図である。
図6】同実施形態の連続式雰囲気熱処理炉にて実施される恒温焼鈍のヒートパターンおよび圧力パターンの一例を示した図である。
図7】同実施形態の連続式雰囲気熱処理炉にて実施される球状化焼鈍のヒートパターンおよび圧力パターンの一例を示した図である。
図8】被熱物を段積みする場合の治具を示した図である。
図9】冷却ガスを横方向に流通させる中間冷却室の構成を示した図である。
図10】本発明の他の形態例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に本発明の実施形態を以下に詳しく説明する。
【0018】
図1は本発明の一実施形態の連続式雰囲気熱処理炉の概略全体構成を示している。同図において、1は連続式雰囲気熱処理炉である(以下、単に熱処理炉と称する場合がある)。この例では、鋼部品等の被熱物Wがバスケット状の治具Sの内部(被熱物収容空間)に収容された状態で連続的に熱処理される。
【0019】
熱処理炉1は、図1の左右方向に長く延びる略円筒状とされた鋼製の炉体4を備えている。炉体4の図中左側には装入用の入口6が形成され、また炉体4の図中右側には取出用の出口7が形成されている。これら入口6および出口7には、それぞれエアシリンダ式の開閉装置22により開閉駆動される扉8および扉9が設けられている。
【0020】
炉体4の内部は、被熱物Wが搬送される方向に沿って、入口側パージ室10、不活性雰囲気加熱室12、真空加熱室14、中間冷却室16、熱処理室18A、18Bおよび出口側パージ室20の区間に分けられている。各室は耐圧性の炉殻を備えており、室内の雰囲気ガスを真空ポンプによって吸引することにより、各室内を真空状態(減圧状態)とすることが可能とされている。また各室の間、詳しくは入口側パージ室10、不活性雰囲気加熱室12、真空加熱室14、中間冷却室16、熱処理室18A、18Bおよび出口側パージ室20の間にはそれぞれエアシリンダ式の開閉装置23が設けられ、各室の開口に設けられた扉24,25,26,27,28.29を開閉駆動させている。これらの扉により各室の開口は気密に閉鎖可能とされている。
【0021】
また各室の間には区画室31が形成されている。区画室31は、対向する二つの扉(例えば図1で示す扉24,24)が昇降する領域を含む、各室の間(例えば入口側パージ室10と不活性雰囲気加熱室12との間)の領域を、外部と気密に遮断するもので、各室の開口に設けられた扉が開いた際、外気が室内へ進入するのを防止している。
【0022】
図1で示すように、熱処理炉1を構成する各室には、搬送用のローラ41が搬送方向に沿って並設されている。ローラ41としてはステンレス材や耐熱鋳鋼などからなる金属製のローラを用いることができる。また場合によっては耐熱度が高く2000℃程度まで強度低下が少ないC/Cコンポジット製のローラを用いることも可能である。
入口側パージ室10、不活性雰囲気加熱室12、真空加熱室14、中間冷却室16、熱処理室18A、18Bおよび出口側パージ室20の各室内に配置された複数のローラ41は、それぞれローラ群43,44,45,46,47,48,49を構成している。これらローラ群はそれぞれ独立駆動し、入口側パージ室10に装入された被熱物Wを搬送方向下流側(図中右方向)に順次搬送する。
【0023】
図2は、熱処理炉1における入口側パージ室10から真空加熱室14の構成を示した図である。
入口側パージ室10は、不活性雰囲気加熱室12内に大気が侵入するのを防止する区間である。入口側パージ室10には、真空ポンプ51から延びる脱気用の配管52と、図示を省略したN2ガス源に接続されたN2ガス供給用の配管53が接続されている。入口6から被熱物Wが装入され、扉8が閉じられると、入口側パージ室10内の大気が真空ポンプ51を通じて室外に排気される。なお復圧の際には配管53を通じてN2ガスが室内に供給され大気圧に復圧される。
【0024】
不活性雰囲気加熱室12は、不活性ガス雰囲気下で被熱物Wを所定の目標温度にまで急速加熱する区間で、図2で示すように、内部に耐熱性の断熱材を有しており、その断熱材が断熱壁55を構成している。断熱壁55の内側は被熱物Wを収容し熱処理する収容処理室56とされており、収容処理室56内にN2ガスを供給するための配管57が接続されている。
収容処理室56には、加熱手段としてのヒータ58と、収容処理室56内に供給されたN2ガスを撹拌させて対流させ、被熱物Wの昇温を促進する対流加熱用のファン59が設けられている。なお図中の60はファン59を回転させるモータである。
また不活性雰囲気加熱室12には、真空ポンプ61から延びる脱気用の配管62が接続されており、収容処理室56を真空圧(10Pa以下)まで減圧可能とされている。
【0025】
真空加熱室14は、真空雰囲気下、所定温度で被熱物Wを加熱する区間である。真空加熱室14は、内部に耐熱性の断熱材を有しており、その断熱材が断熱壁63を構成している。断熱壁63の内側は被熱物Wを収容し熱処理する収容処理室64とされている。収容処理室64には加熱手段としてのヒータ67が設けられ、その出力が図示を省略する制御部により制御されている。また真空加熱室14には、収容処理室64内を所定の真空圧(例えば10Pa)に減圧するための真空ポンプ65が配管66を介して接続されている。
真空雰囲気で被熱物Wを加熱した場合の利点のひとつは、被熱物W表面の酸化スケールを除去することができる点である。本例では、後段の熱処理室18A,18Bでの熱処理に先立って真空加熱を行ない、被熱物W表面の酸化スケールを除去することで、熱処理室18A,18Bにおいて雰囲気ガスがスケールと反応して消費されてしまうことを抑制することができる。スケール除去効果を高めるためには、真空加熱室14において10Pa以下の雰囲気で被熱物Wを750℃以上に加熱することが望ましい。
【0026】
図3は、熱処理炉1における中間冷却室16から出口側パージ室20の構成を示した図である。
中間冷却室16は、被熱物Wを所定の温度にまで冷却することができる区間である。同図で示すように、中間冷却室16は、内部に耐熱性の断熱材を有しており、その断熱材が断熱壁68を構成し、断熱壁68の内側は被熱物Wを収容し熱処理する収容処理室69とされている。収容処理室69を形成する断熱壁68の上部および下部には、冷却ガスを通過させるための開口70,71が設けられている。
【0027】
図4は、中間冷却室16の断面図で、詳しくは搬送方向と直交する方向の断面図である。
同図において、73は中間冷却室16内で冷却ガスを循環させる循環ファン、74は循環ファン73を回転させるモータである。循環ファン73は、収容処理室69の図中左側方であって、炉殻5と収容処理室69の間の領域に設けられている。また収容処理室69の図中右側方には、炉殻5と収容処理室69の間の領域(図中右側の領域)を閉鎖する隔壁75が設けられている。
本例では、循環ファン73によって、図4において矢印で示すような、収容処理室69内を上方から下方に抜けていく往路76aと、炉殻5と収容処理室69との間を上向きに抜けて行く復路76bを含む冷却ガスの循環流れ76を生じさせる。
【0028】
78は冷却ガスを熱交換により温度低下させるガスクーラである。ガスクーラ78は、循環ファン73と同様に収容処理室69の図中左側方であって、炉殻5と収容処理室69の間に設けられており、被熱物Wを通過して高温となった冷却ガスの温度を一旦低下させる。
【0029】
79は冷却ガスを加熱するためのヒータで、本例では収容処理室69の直上であって、上部の開口70を臨む位置に配設されている。
80は中間冷却室16内を流通する冷却ガスの温度を検出する温度センサで、ガス流路76におけるヒータ79と被熱物Wとの間の位置に設置されて、ヒータ79の二次側における冷却ガスの温度を検出する。本例では、温度センサ80と接続された制御部(図示省略)により、温度センサ80で検出された冷却ガスの温度が、予め設定された目標ガス温度と一致するように、ヒータ79の出力が制御される。なお、温度センサ80は、ガス流路76における被熱物Wとガスクーラ78との間の位置、あるいは、ガスクーラ78の二次側に設置することも可能である。
【0030】
これらガスクーラ78、循環ファン73、ヒータ79、温度センサ80および制御部は、中間冷却室16におけるガス冷却手段を構成している。
このガス冷却手段では、循環ファン73の回転により、図4で示すように、冷却ガスが断熱壁68の上部の開口70を通って下向きに流れて高温の被熱物Wに当り、これを冷却する。このとき被熱物Wとの熱交換により高温となった冷却ガスは、断熱壁68の下部の開口71より流出した後、炉殻5と収容処理室69の間の流路(復路76b)を上向きに流れてガスクーラ78を通過して、そこで一旦温度低下せしめられる。その後、冷却ガスはヒータ79で加熱され、所定の温度に調整される。温度が調整された冷却ガスは、再び被熱物Wに当りこれを冷却する。即ち本例では、収容処理室69に収容された被熱物Wを単に冷却するだけでなく、冷却ガスの温度を制御して被熱物Wを所望の冷却勾配で冷却することができる。
【0031】
ここで中間冷却室16に供給される雰囲気ガスは、COガス、CO2ガスを含む混合ガスとされており、下記式(1)で示す室内雰囲気ガス中のCO2%とCO%の二乗との比で定まるカーボンポテンシャルの指標値(PF)が目標値となるように制御するPF制御により、被熱物Wに復炭反応を生ぜしめることができる。
PF=(CO%)2/CO2% … 式(1)
【0032】
図5は、室内雰囲気制御および室内圧力制御に関わる要素を示した図である。
同図で示すように、中間冷却室16に接続されたガス導入管82には、それぞれCOガス供給管83,CO2ガス供給管86が接続されている。
【0033】
COガス供給管83は、COガス源84からのCOガスをガス導入管82に供給し、ガス導入管82を介して室内に供給するもので、流量調節弁85が介装されている。
CO2ガス供給管86は、CO2ガス源87からのCO2ガスをガス導入管82に供給し、ガス導入管82を介して室内に供給するもので、流量調節弁88が介装されている。
これらCOガス供給管83およびCO2ガス供給管86は、カーボンポテンシャルの指標値(PF)を用いたPF制御においてCOガスおよびCO2ガスを室内に供給するのに用いられる。
【0034】
図5において、89は分析計、90は雰囲気制御部である。
分析計89では、室内のCO2ガス濃度(CO2%)とCOガス濃度(CO%)が測定され、その測定信号が雰囲気制御部90に送られる。
雰囲気制御部90は、分析計89のほか、COガス供給管83、CO2ガス供給管86上の各流量調節弁85,88に接続されている。雰囲気制御部90は、分析計89からの測定信号を受け取って、前記式(1)に示すカーボンポテンシャルの指標値(PF)を算出し、更に中間冷却室16内の室内温度やワークの熱処理内容に応じて予め選定してあるカーボンポテンシャルの指標値の基準値に、上記算出した実測PF値を追従させるように、各流量調節弁の開度に対応する制御出力を算出する。そしてこれら制御出力に相当する制御信号が各流量調節弁85,88にそれぞれ入力され、これら流量調節弁を介して室内に導入されるCOガスおよびCO2ガスの流量が調節される。即ち、分析計89、雰囲気制御部90、流量調節弁85,88は、中間冷却室16における室内雰囲気制御手段を構成している。
【0035】
次に中間冷却室16における室内圧力制御について説明する。本例では、上記PF制御とは別途に室内圧力を所定の圧力で保持するための制御が行われる。その際に用いられるのは、図5で示される圧力検出器91、配管92(図3参照)を介して中間冷却室16に接続された真空ポンプ93、および、圧力制御部94である。
圧力検出器91は、室内の圧力を検出し、検出した圧力値(検出値)に対応する信号を発信する。圧力制御部94は、圧力検出器91および真空ポンプ93に接続されており、所定の室内圧力が得られるように真空ポンプ93の出力を制御する。
【0036】
熱処理室18A,18Bは、還元性かつ浸炭性ガス雰囲気で被熱物Wを加熱処理する区間で、図3で示すように、内部に耐熱性の断熱材を有しており、その断熱材が断熱壁97を構成している。断熱壁97の内側は被熱物Wを収容し熱処理する収容処理室98とされている。収容処理室98には、加熱手段としてのヒータ99およびファン100が設けられており、図示を省略する制御部によってヒータ99の出力が制御されている。また熱処理室18A,18Bには、他の処理室と同様に真空ポンプ102から延びる脱気用の配管103が接続されており、減圧吸引可能とされている。
【0037】
熱処理室18A,18Bに供給されるガスは、COガスおよびCO2ガスである。熱処理室18A,18Bに接続されたガス導入管82には、それぞれCOガス供給管,CO2ガス供給管が接続されており、室内雰囲気ガス中のカーボンポテンシャルの指標値(PF)が制御可能とされている。このため熱処理室18A,18Bにて処理される被熱物Wは、復炭反応により表層部のC量が調整される。なお、熱処理室18A,18Bにおける、室内雰囲気制御および室内圧力制御を行うための構成は、上記中間冷却室16の場合と同様であるため、ここでは詳しい説明は省略する。
【0038】
出口側パージ室20は、熱処理室18A,18B内に大気が侵入するのを防止する区間である。出口側パージ室20には、真空ポンプ105から延びる脱気用の配管106と、図示を省略したN2ガス源に接続されたN2ガス供給用の配管107が接続されている。
また室内には、雰囲気ガス冷却用のガスクーラ108と雰囲気ガス循環用のファン(図示省略)を備えており、雰囲気ガス(N2ガス)を循環させることで被熱物Wの冷却が可能とされている。
【0039】
次に、図6で示す恒温焼鈍を実施する場合を例として、熱処理炉1における一連の熱処理動作について説明する。先ずローラ群43を駆動させ被熱物Wが入口側パージ室10に装入される。扉8が閉じられると真空ポンプ51を用いて減圧し、室内の大気を室外に放出する。
【0040】
入口側パージ室10における真空引きが完了した後、入口側パージ室10の出側の扉24および不活性雰囲気加熱室12の入側の扉24を開いて、ローラ群43,44を駆動させ、被熱物Wを不活性雰囲気加熱室12内に移送し、扉24を閉じる。不活性雰囲気加熱室12内に搬送された被熱物Wは、不活性雰囲気下、所定の常圧または加圧状態(101~280kPa)での対流加熱により急速に加熱される。
【0041】
不活性雰囲気加熱室12での加熱が終了した後、不活性雰囲気加熱室12の室内を真空吸引し、真空加熱室14と同程度の真空圧とした状態で不活性雰囲気加熱室12の出側の扉25および真空加熱室14の入側の扉25を開いて、ローラ群44,45を駆動させ、被熱物Wを真空加熱室14内に移送し、扉25を閉じる。真空加熱室14内に搬送された被熱物Wは、真空雰囲気下(10Pa以下)所定の温度(910℃)で加熱処理される。このとき被熱物表面の酸化スケールを除去することができる。
【0042】
次に、真空加熱室14での加熱処理が終了した後、真空加熱室14の出側の扉26および中間冷却室16の入側の扉26を開いて、ローラ群45,46を駆動させ、被熱物Wを中間冷却室16内に移送し、扉26を閉じる。中間冷却室16内では、被熱物Wを目的の温度(650℃)まで冷却する。その際、中間冷却室16内に雰囲気ガスが供給されるとともに、循環ファン73が回転せしめられて、雰囲気ガスを循環させる。このとき被熱物Wに当たる雰囲気ガスの温度が、ガスクーラ78およびヒータ79により調整されるため被熱物Wを所望の冷却勾配(例えば0.1~10℃/s)で冷却することができる。
【0043】
次に、中間冷却室16での冷却処理が終了した後、中間冷却室16の出側の扉27および熱処理室18Aの入側の扉27を開いて、ローラ群46,47を駆動させ、被熱物Wを熱処理室18A内に移送し、扉27を閉じる。熱処理室18A内では、恒温焼鈍における等温保持温度である650℃に保持されながら所定の圧力下で均熱処理される。
【0044】
このとき熱処理室18A内の室内雰囲気ガス中のカーボンポテンシャルの指標値(PF)が目標値となるように制御されるため、被熱物Wの表面が前工程で脱炭している場合には、かかる脱炭部分に対する復炭が行われる。このような復炭反応を伴う均熱処理は、熱処理室18Bに移動しながら引き続き実行される。
【0045】
次に、熱処理室18Bでの均熱処理が終了した後、熱処理室18Bの室内を出口側パージ室20と同程度の真空圧とし、熱処理室18Bの出側の扉29および出口側パージ室20の入側の扉29を開いて、ローラ群48,49を駆動させ、被熱物Wを出口側パージ室20に移送し、扉29を閉じる。出口側パージ室20内では、雰囲気ガス(N2ガス)による復圧の後、ガスクーラ108で冷却しながら雰囲気ガスを循環させて被熱物Wを冷却する。そして冷却後、扉9を開いて被熱物Wを搬出すれば、被熱物Wの熱処理に関する一連の動作が完了する。
【0046】
以上、恒温焼鈍の場合を例に熱処理炉1における一連の熱処理動作について説明したが、図7で示す球状化焼鈍を行うことも可能である。この場合には被熱物Wを真空加熱室14で750℃まで加熱した後、中間冷却室16、熱処理室18A、18Bを通じて略一定の冷却速度(15℃/h)で660℃までの徐冷が行なわれる。
【0047】
以上のように本実施形態の連続式雰囲気熱処理炉1では、前段の真空加熱室14での熱処理が、真空雰囲気で行われるため、この間の雰囲気ガスの使用を省略することができる。また、真空雰囲気での熱処理により被熱物W表面の酸化スケールを除去することができるため、後段の雰囲気ガスを用いた熱処理において、酸化スケールとの反応により雰囲気ガス中のCOの消費が促進されてガス使用量が増加してしまうのを回避することができる。このため本実施形態の連続式雰囲気熱処理炉1によれば、雰囲気ガスの使用量を抑制しつつ、被熱物に対して復炭反応を伴う焼鈍処理を施すことができる。
【0048】
また本実施形態の連続式雰囲気熱処理炉1では、熱処理室18A,18Bが真空ポンプに接続され、室内を減圧可能に構成されているため、減圧下の熱処理によりガス使用量を削減することができる。また停止後の再立上げに際して、真空ポンプの脱気により室内雰囲気を短時間で処理に適した状態に入れ替えることができる。
【0049】
また本実施形態の連続式雰囲気熱処理炉1では、入口側パージ室10と真空加熱室14の間に、被熱物Wを不活性ガス雰囲気で加熱する不活性雰囲気加熱室12を備えており、所定の温度まで被熱物Wを迅速に加熱することができる。
【0050】
また本実施形態の連続式雰囲気熱処理炉1では、真空加熱室14と熱処理室18Aの間に設けられた中間冷却室16が、冷却ガスを循環させる循環ファン73と、冷却ガスの流路上に設けられたガスクーラ78およびヒータ79を含むガス冷却手段を備えるように構成されており、真空加熱室14と熱処理室18Aとの間で行なう中間冷却において、被熱物Wを所望の冷却勾配で冷却することができる。
【0051】
次に本実施形態における変形例について説明する。
内部を真空雰囲気とする真空炉については、特性上、図4で示すような丸容器となり、被熱物Wを内部に収容するための有効寸法は高さ方向に大きくなる。このため、上記の連続式雰囲気熱処理炉1において生産性を高めるためには、被熱物Wを上下方向に段積みして被熱物Wの積載量を高めることが有効である。
【0052】
図8は、被熱物を上下方向に段積みする場合の治具を示した図である。同図における治具SBは、下側容器111と、下側容器111の隅角部から上方に延び出した支柱112と、該支柱112により支持された上側容器114とを備え、被熱物Wを上下方向に段積み可能とされている。
下側容器111および上側容器114は、それぞれ底板部120、側板部121および上板部123を有し、全体として直方体形状をなしている。その内部は被熱物収容空間125とされている。
【0053】
ここで、下側容器111および上側容器114の上板部123は、図中矢印で示す横向きの冷却風(冷却ガス)を被熱物収容空間125に向けて案内する導風板とされており、斜め上向きに傾斜した状態とされている。側板部121と導風板123の先端部との間には、横向き冷却風の上流側に向かって開口するガス取込口126が形成されている。一方、底板部120には多数の貫通孔が形成されている。
【0054】
このように構成された治具SBによれば、下側容器111および上側容器114のそれぞれにおいて、ガス取込口126を通じて横向きの冷却風を取り込むことができる。そして、図中矢印で示すように、治具内に進入した冷却風の方向を導風板123によって転換させて被熱物収容空間125を下向きに流通させることができる。
【0055】
図9は、冷却ガスを横方向に流通させる中間冷却室の構成を示した図である。
同図で示す中間冷却室16Bでは、収容処理室69の左右の側壁に、冷却ガスを通過させるための開口70,71が設けられている。そして図中左側の開口70を臨む位置にヒータ79が配設され、図中右側の開口71と吸引口が重なるように吸引ファン130が配設されている。またガスクーラ78は収容処理室69の上方と下方にそれぞれ配設されている。
【0056】
このように構成された中間冷却室16Bによれば、吸引ファン130によって、同図において矢印で示す、収容処理室69内を左から右に抜けていく冷却ガスの循環流れ76が生じるため、治具SBによって段積みされた上側の被熱物Wおよび下側の被熱物Wに対して均一な冷却を行なうことができる。
【0057】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
(1)図10は本発明における連続式雰囲気熱処理炉の他の形態例を模式的に示した図である。同図(A)で示すように、本発明の連続式雰囲気熱処理炉は、4つの処理室を備えたものであれば良く、各種処理室の配置や数については適宜変更可能である。例えば(B)で示すように熱処理室を複数設けることで、復炭が行われる熱処理室ごとに温度や圧力を変更することができる。また(C)で示すように不活性雰囲気加熱室を設けることで、被熱物の加熱を迅速に行うことができる。また(D)で示すように中間冷却室を設けることで、種々の焼鈍に対応できる。また高温になるほど復炭反応は促進されることから(E)で示すように中間冷却室よりも搬送方向上流側に熱処理室を設けることも可能である。
(2)また上記実施形態の熱処理室に供給されるガスとしては、CO、H2およびN2を主成分とするRXガスを用いることも可能である。
【0058】
(3)また、上記実施形態の入口側パージ室の復圧ガスとして大気を用いることも可能である。この場合、入口側パージ室の復圧は、不活性雰囲気加熱室または真空加熱室に被熱物を搬送した後に行うことができる。また、入口側パージ室への大気導入は、配管を通じて行ってもよいし、別途設けられた大気開放弁を開くことで行ってもよい。
(4)また、上記実施形態の中間冷却室内において、収容処理室の材質としては、金物を用いることも可能である。金物を用いると冷却ガス流路の複雑形状化が容易で冷却効率が向上するため、恒温焼鈍に好ましく用いることができる。
【符号の説明】
【0059】
1 連続式雰囲気熱処理炉
10 入口側パージ室
12 不活性雰囲気加熱室
14 真空加熱室
16,16B 中間冷却室
18A,18B 熱処理室
20 出口側パージ室
41 ローラ(搬送手段)
73 循環ファン
78 ガスクーラ
79 ヒータ
123 上板部(導風板)
125 被熱物収容空間
S,SB 治具
W 被熱物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10