(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171163
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】プレキャスト構造部材、及びプレキャスト基礎
(51)【国際特許分類】
E02D 27/01 20060101AFI20241204BHJP
【FI】
E02D27/01 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088088
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】掛 悟史
(72)【発明者】
【氏名】高津 比呂人
(72)【発明者】
【氏名】福原 武史
(72)【発明者】
【氏名】井戸硲 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】西村 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 真美
(72)【発明者】
【氏名】小島 正朗
(72)【発明者】
【氏名】辻 大二郎
(72)【発明者】
【氏名】柳橋 邦生
(72)【発明者】
【氏名】河野 貴穂
(72)【発明者】
【氏名】池尾 陽作
(72)【発明者】
【氏名】川尻 聡
【テーマコード(参考)】
2D046
【Fターム(参考)】
2D046BA21
(57)【要約】
【課題】コンクリート構造部材の産業廃棄物を削減することを目的とする。
【解決手段】プレキャスト基礎梁20は、材軸方向に並べられた複数のプレキャスト梁部材22と、複数のプレキャスト梁部材22に沿って配置され、緊張された状態で複数のプレキャスト梁部材22を連結する緊張材30と、を備え、複数のプレキャスト梁部材22のうち、一部のプレキャスト梁部材22は、他のプレキャスト梁部材22よりも補強されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
材軸方向に並べられた複数のプレキャスト部材と、
複数の前記プレキャスト部材に沿って配置され、緊張された状態で複数の前記プレキャスト部材を連結する緊張材と、
を備え、
複数の前記プレキャスト部材のうち、一部の前記プレキャスト部材は、他の前記プレキャスト部材よりも補強されている、
プレキャスト構造部材。
【請求項2】
材軸方向に並べられた複数のプレキャスト部材と、
複数の前記プレキャスト部材に沿って配置され、緊張された状態で複数の前記プレキャスト部材を連結する緊張材と、
を備え、
隣り合う前記プレキャスト部材の接合面のうち、一方の前記接合面には、該接合面を横切る溝状凹部が設けられ、他方の前記接合面には、前記溝状凹部に嵌め込まれる凸状部が設けられている、
プレキャスト構造部材。
【請求項3】
互いに対向する一対のプレキャストフーチングと、
一対の前記プレキャストフーチングの間に並べられた複数のプレキャスト部材と、
複数の前記プレキャスト部材に沿って配置され、緊張された状態で一対の前記プレキャストフーチングに定着され、該プレキャストフーチング及び複数の前記プレキャスト部材を連結する緊張材と、
を備えるプレキャスト基礎。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャスト構造部材、及びプレキャスト基礎に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のプレキャスト部材で構成された梁や柱が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-303621号公報
【特許文献2】特開2013-024016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、柱や梁等のコンクリート構造部材は、一般に、解体時に産業廃棄物として廃棄される。
【0005】
しかしながら、近年、地球環境等の観点から、産業廃棄物の削減が求められており、解体現場においても、産業廃棄物を削減したいとの要望がある。
【0006】
本発明は、上記の事実を考慮し、コンクリート構造部材の産業廃棄物を削減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載のプレキャスト構造部材は、材軸方向に並べられた複数のプレキャスト部材と、複数の前記プレキャスト部材に沿って配置され、緊張された状態で複数の前記プレキャスト部材を連結する緊張材と、を備え、複数の前記プレキャスト部材のうち、一部の前記プレキャスト部材は、他の前記プレキャスト部材よりも補強されている。
【0008】
請求項1に係るプレキャスト構造部材によれば、複数のプレキャスト部材は、プレキャスト構造部材の材軸方向に並べられる。これらのプレキャスト部材に沿って緊張材が配置される。緊張材は、緊張された状態で複数のプレキャスト部材を連結する。これにより、プレキャスト構造部材が形成される。
【0009】
また、例えば、プレキャスト構造部材の解体時に、緊張材を撤去することにより、プレキャスト構造部材が複数のプレキャスト部材に分割される。これらのプレキャスト部材を再利用することにより、コンクリート構造部材の産業廃棄物を削減することができる。
【0010】
また、プレキャスト構造部材では、材軸方向において、長期荷重や短期荷重に起因する応力状態が異なる。この場合、例えば、プレキャスト構造部材を、材軸方向において一律に補強すると、不経済となる。
【0011】
これに対して本発明では、複数のプレキャスト部材のうち、一部のプレキャスト部材は、他のプレキャスト部材よりも補強されている。つまり、本発明では、プレキャスト構造部材の応力状態に応じて、複数のプレキャスト部材の一部を補強することができる。したがって、プレキャスト構造部材を効率的に補強することができる。
【0012】
請求項2に記載のプレキャスト構造部材は、材軸方向に並べられた複数のプレキャスト部材と、複数の前記プレキャスト部材に沿って配置され、緊張された状態で複数の前記プレキャスト部材を連結する緊張材と、を備え、隣り合う前記プレキャスト部材の接合面のうち、一方の前記接合面には、該接合面を横切る溝状凹部が設けられ、他方の前記接合面には、前記溝状凹部に嵌め込まれる凸状部が設けられている。
【0013】
請求項2に係るプレキャスト構造部材によれば、複数のプレキャスト部材は、プレキャスト構造部材の材軸方向に並べられる。これらのプレキャスト部材に沿って緊張材が配置される。緊張材は、緊張された状態で複数のプレキャスト部材を連結する。これにより、プレキャスト構造部材が形成される。
【0014】
また、例えば、プレキャスト構造部材の解体時に、緊張材を撤去することにより、プレキャスト構造部材が複数のプレキャスト部材に分割される。これらのプレキャスト部材を再利用することにより、コンクリート構造部材の産業廃棄物を削減することができる。
【0015】
また、隣り合うプレキャスト部材の接合面のうち、一方の接合面には、接合面を横切る溝状凹部が設けられている。また、他方の接合面には、溝状凹部に嵌め込まれる凸状部が設けられている。これにより、緊張材を緊張させ、複数のプレキャスト部材を連結する際に、溝状凹部に凸状部が嵌め込まれるため、隣り合うプレキャスト部材同士を容易に位置決めすることができる。
【0016】
請求項3に記載のプレキャスト基礎は、互いに対向する一対のプレキャストフーチングと、一対の前記プレキャストフーチングの間に並べられた複数のプレキャスト部材と、複数の前記プレキャスト部材に沿って配置され、緊張された状態で一対の前記プレキャストフーチングに定着され、該プレキャストフーチング及び複数の前記プレキャスト部材を連結する緊張材と、を備える。
【0017】
請求項3に係るプレキャスト基礎によれば、一対のプレキャストフーチングは、互いに対向する。この一対のプレキャストフーチングの間には、複数のプレキャスト部材が並べられる。これらのプレキャスト部材に沿って緊張材が配置される。
【0018】
緊張材は、緊張された状態で一対のプレキャストフーチングに定着され、一対のプレキャストフーチング及び複数のプレキャスト部材を連結する。これにより、一対のプレキャストフーチングに架設されたプレキャスト基礎が形成される。
【0019】
また、例えば、プレキャスト構造部材の解体時に、緊張材を撤去することにより、プレキャスト構造部材が複数のプレキャスト部材に分割される。これらのプレキャスト部材を再利用することにより、コンクリート構造部材の産業廃棄物を削減することができる。
【0020】
また、緊張材によって、一対のプレキャストフーチング及び複数のプレキャスト部材を連結することにより、一対のプレキャストフーチングに架設されたプレキャスト基礎梁を容易に形成することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、コンクリート構造部材の産業廃棄物を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】第一実施形態に係るプレキャスト基礎を示す平面図である。
【
図2】
図1に示されるプレキャスト基礎を示す側面図である。
【
図4】隣り合うプレキャスト梁部材の目地を示す
図2の拡大断面図である。
【
図5】(A)は、プレキャスト基礎梁の端部を構成するプレキャスト梁部材を示す
図2の拡大断面図であり、(B)は、
図5(A)の5B-5B線断面図である。
【
図6】長期荷重によるプレキャスト基礎梁の応力状態を示す
図2に対応する側面図である。
【
図7】短期荷重によるプレキャスト基礎梁の応力状態を示す
図2に対応する側面図である。
【
図8】第二実施形態に係るプレキャスト梁部材を示す平面図である。
【
図9】第二実施形態に係るプレキャスト梁部材の変形例を示す側面図である。
【
図10】第三実施形態に係るプレキャスト柱を示す立面図である。
【
図11】(A)は、第一実施形態に係る補強鉄筋の変形例を示す
図5(A)に対応する断面図であり、(B)は、
図11(A)の11B-11B線断面図である。
【
図12】(A)は、第一実施形態に係る補強鉄筋の変形例を示す
図5(A)に対応する断面図であり、(B)は、
図12(A)の12B-12B線断面図である。
【
図13】(A)は、第一実施形態に係る補強鉄筋の変形例を示す
図5(A)に対応する断面図であり、(B)は、
図12(A)の13B-13B線断面図である。
【
図14】第一実施形態に係るプレキャスト基礎梁の変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第一実施形態)
先ず、第一実施形態について説明する。
【0024】
図1には、第一実施形態に係る複数のプレキャスト基礎10が示されている。複数のプレキャスト基礎10は、一例として、平面視にて、矩形の枠状に接合されている。各プレキャスト基礎10は、一対のプレキャストフーチング12と、一対のプレキャストフーチング12に架設されるプレキャスト基礎梁20とを備えている。
【0025】
プレキャスト基礎梁20は、複数のプレキャスト梁部材22を有している。一対のプレキャストフーチング12、及び複数のプレキャスト梁部材22は、プレキャストコンクリート造とされており、工場やサイトヤード等によって予め形成されている。
【0026】
なお、複数のプレキャスト基礎10は、平面視にて、矩形の枠状に限らず、例えば、C字状やL字状、直線状等でも良い。また、プレキャスト基礎10及びプレキャスト基礎梁20は、プレキャスト構造部材の一例である。また、複数のプレキャスト梁部材22は、プレキャスト部材の一例である。
【0027】
(プレキャストフーチング)
図2に示されるように、一対のプレキャストフーチング12は、ブロック状に形成されており、互いに対向した状態で地盤G上に設置されている。また、一対のプレキャストフーチング12には、地盤Gに設けられた杭14の杭頭部が接合されている。この一対のプレキャストフーチング12の間には、複数のプレキャスト梁部材22が配置されている。
【0028】
(プレキャスト梁部材)
複数のプレキャスト梁部材22は、ブロック状に形成されている。また、複数のプレキャスト梁部材22は、一対のプレキャストフーチング12の間に並べられている。換言すると、複数のプレキャスト梁部材22は、プレキャスト基礎梁20の材軸方向に並べられている。なお、隣り合うプレキャスト基礎梁20は、プレキャストフーチング12を共有している。
【0029】
隣り合うプレキャスト梁部材22の目地には、モルタルやグラウト等の充填材(セメント系充填材)Wが充填されている。これと同様に、プレキャストフーチング12とプレキャスト梁部材22との間には、充填材Wが充填されている。
【0030】
図3に示されるように、プレキャスト梁部材22には、複数のシース管(円筒管)24、及び複数のせん断補強筋26が埋設されている。複数のシース管24は、プレキャスト梁部材22の上端側及び下端側に、プレキャスト梁部材22の梁幅方向に間隔を空けてそれぞれ配置されている。
【0031】
図4に示されるように、複数のシース管24は、プレキャスト梁部材22の材軸方向に沿って配置されており、その両端部がプレキャスト梁部材22の両側の端面(以下、「接合面」という)22Eから露出している。これらのシース管24によって、プレキャスト梁部材22を材軸方向に貫通する複数の貫通孔22Hが形成されている。また、複数のシース管24の周囲には、複数のせん断補強筋26が配置されている。
【0032】
複数のせん断補強筋26は、プレキャスト梁部材22の材軸方向に間隔を空けて配置されている。また、
図3に示されるように、複数のせん断補強筋26は、プレキャスト梁部材22の材軸方向から見て、複数のシース管24を取り囲むように配置されている。これらのせん断補強筋26によって、プレキャスト梁部材22が補強されている。なお、せん断補強筋26は、適宜省略可能である。
【0033】
図4に示されるように、隣り合うプレキャスト梁部材22は、各々の接合面22Eを対向させるとともに、各々の貫通孔22Hを対向させた状態で配置されている。また、隣り合うプレキャスト梁部材22の接合面22E間には、対向する貫通孔22Hを接続する環状のシール部材28が配置されている。
【0034】
シール部材28は、一例として、リング状に形成されており、隣り合うプレキャスト梁部材22の貫通孔22Hをそれぞれ取り囲むように配置されている。このシール部材28によって、隣り合うプレキャスト梁部材22の貫通孔22Hを接続することにより、目地に充填された充填材Wが貫通孔22Hに浸入することが抑制されている。
【0035】
なお、充填材W、及びシール部材28は、適宜省略可能である。
【0036】
シール部材28、及び当該シール部材28によって接続された隣り合うプレキャスト梁部材22の貫通孔22Hには、緊張材30が貫通されている。緊張材30は、例えば、PC鋼線やPC鋼棒等のPC鋼材によって形成されている。
【0037】
図2に示されるように、一対のプレキャストフーチング12には、プレキャスト梁部材22の貫通孔22Hに通じる貫通孔12Hが形成されている。これらの貫通孔12H,22Hには、緊張材30がプレキャスト基礎梁20の材軸方向にスライド可能に貫通されている。
【0038】
なお、プレキャストフーチング12の貫通孔12Hは、例えば、プレキャスト梁部材22の貫通孔22Hと同様に、プレキャストフーチング12に図示しないシース管を埋設することにより形成される。
【0039】
緊張材30の両端部は、プレキャストフーチング12の側面にアンカープレート32及びナット部材34によって定着されている。このナット部材34によって緊張材30を緊張させることにより、一対のプレキャストフーチング12及び複数のプレキャスト梁部材22が連結(圧着接合)されるとともに、一対のプレキャストフーチング12及び複数のプレキャスト梁部材22にプレストレスが導入されている。
【0040】
(X形補強筋)
ここで、プレキャスト基礎梁20の両端部を構成する2つのプレキャスト梁部材22Xは、他のプレキャスト梁部材22よりも補強されている。具体的には、
図5(A)及び
図5(B)に示されるように、プレキャスト梁部材22Xには、複数の補強鉄筋40が埋設されている。
【0041】
なお、各図に適宜示される矢印Hは、プレキャスト梁部材22の梁成方向を示し、矢印Wは、プレキャスト梁部材22の梁幅方向を示している。また、補強鉄筋40は、補強部材の一例である。
【0042】
図5(A)に示されるように、複数の補強鉄筋40は、プレキャスト梁部材22を梁幅方向(矢印W方向)から見て、X字状に交差するX形配筋部40Aと、X形配筋部40Aの上下の端部をそれぞれ接続する縦筋部40Bとを有している。また、
図5(B)に示されるように、補強鉄筋40は、プレキャスト梁部材22Xの梁幅方向の両側にそれぞれ埋設されており、その間に複数のシース管24が配置されている。
【0043】
(作用)
次に、第一実施形態の作用について説明する。
【0044】
図2に示されるように、本実施形態によれば、一対のプレキャストフーチング12は、互いに対向して配置されている。この一対のプレキャストフーチング12の間には、複数のプレキャスト梁部材22が並べられている。また、一対のプレキャストフーチング12、及び複数のプレキャスト梁部材22にそれぞれ形成された貫通孔12H,22Hには、複数の緊張材30がスライド可能にそれぞれ貫通されている。
【0045】
複数の緊張材30は、緊張された状態で、一対のプレキャストフーチング12に定着されている。これらの緊張材30によって、一対のプレキャストフーチング12、及び複数のプレキャスト梁部材22を連結(圧着接合)することにより、一対のプレキャストフーチング12に架設されたプレキャスト基礎梁20、及びプレキャスト基礎10を容易に形成することができる。
【0046】
また、前述したように、一対のプレキャストフーチング12、及び複数のプレキャスト梁部材22にそれぞれ形成された貫通孔12H,22Hには、複数の緊張材30がスライド可能にそれぞれ貫通されている。これにより、プレキャスト基礎10の解体時に、複数の緊張材30を撤去することにより、プレキャスト基礎10が、一対のプレキャストフーチング12、及び複数のプレキャスト梁部材22に分割される。これらのプレキャストフーチング12、及びプレキャスト梁部材22を再利用することにより、プレキャスト基礎10の産業廃棄物を削減することができる。
【0047】
さらに、隣り合うプレキャスト梁部材22の目地に充填材Wを充填することにより、プレキャスト梁部材22、及びプレキャストフーチング12等の施工誤差を吸収することができる。したがって、プレキャスト基礎10の施工性が向上する。
【0048】
また、
図4に示されるように、隣り合うプレキャスト梁部材22の貫通孔22Hをシール部材28で接続することにより、充填材Wが貫通孔22Hに浸入することを抑制することができる。
【0049】
ここで、プレキャスト基礎梁20では、材軸方向において、長期荷重や短期荷重に起因する応力状態が異なる。具体的には、例えば、
図6には、長期荷重に起因してプレキャスト基礎梁20に作用する曲げモーメントMが示されている。
【0050】
図6に示されるように、長期荷重の場合、プレキャスト基礎梁20の両端部を構成するプレキャスト梁部材22Xには、梁幅方向から見て、対角線に沿った斜めの圧縮ストラットPが作用する。一方、プレキャスト基礎梁20の中間部を構成する他のプレキャスト梁部材22には、その上端側に材軸方向に沿った圧縮ストラットPが作用する。
【0051】
このようにプレキャスト基礎梁20の両端部を構成するプレキャスト梁部材22Xと、他のプレキャスト梁部材22とは、長期荷重に起因する応力状態が異なる。そのため、複数のプレキャスト梁部材22を一律に補強すると、不経済になる可能性がある。
【0052】
これに対して本実施形態では、プレキャスト基礎梁20の両端部を構成するプレキャスト梁部材22Xは、他のプレキャスト梁部材22よりも補強されている。より具体的には、プレキャスト梁部材22Xには、複数の補強鉄筋40が埋設されている。これにより、斜めの圧縮ストラットPが、補強鉄筋40のX形配筋部40Aに沿って伝達される。したがって、プレキャスト梁部材22Xを効率的に補強することができる。
【0053】
また、
図7には、短期荷重に起因してプレキャスト基礎梁20に作用する曲げモーメントMが示されている。
図7に示されるように、短期荷重の場合、プレキャスト基礎梁20の材軸方向の中央部を構成するプレキャスト梁部材22に、梁幅方向から見て、対角線に沿った斜めの圧縮ストラットPが作用する。
【0054】
一方、プレキャスト基礎梁20の中央部を構成するプレキャスト梁部材22Y以外の他のプレキャスト梁部材22には、その上端側又は下端側に材軸方向に沿った圧縮ストラットPが作用する。この場合、プレキャスト梁部材22Yに補強鉄筋40を埋設することにより、プレキャスト基礎梁20を効率的に補強することができる。
【0055】
このように本実施形態では、プレキャスト基礎梁20の応力状態に応じて、複数のプレキャスト梁部材22の一部を補強することにより、プレキャスト基礎梁20を効率的に補強することができる。
【0056】
(第二実施形態)
次に、第二実施形態について説明する。なお、第二実施形態において、上記第一実施形態と同様の構成には、同符号を付して説明を適宜省略する。
【0057】
図8には、第二実施形態に係る複数のプレキャスト梁部材22が示されている。隣り合うプレキャスト梁部材22は、各々の溝状凹部50と凸状部52とを嵌め合わせることにより接合されている。
【0058】
具体的には、隣り合うプレキャスト梁部材22の接合面22Eのうち、一方の接合面22Eには、溝状凹部50が設けられており、他方の接合面22Eには、凸状部52が設けられている。溝状凹部50は、プレキャスト梁部材22の下面から上面に亘って形成されており、接合面22Eを梁成方向(上下方向、矢印H方向)に横切っている。
【0059】
凸状部52は、接合面22Eから凸状に突出している。また、凸状部52は、プレキャスト梁部材22の下面から上面に亘って形成されており、接合面22Eを梁成方向(上下方向)に横切っている。この凸状部52の横断面形状は、溝状凹部50の横断面形状と略同じとされている。これにより、溝状凹部50に凸状部52を嵌め込み可能とされている。
【0060】
プレキャスト梁部材22の凸状部52は、例えば、隣り合う他のプレキャスト梁部材22の溝状凹部50を型枠として製作される。これにより、溝状凹部50と凸状部52との嵌め合い精度が高められている。
【0061】
(作用)
次に、第二実施形態の作用について説明する。
【0062】
本実施形態によれば、隣り合うプレキャスト梁部材22の接合面22Eのうち、一方の接合面22Eには、当該接合面22Eを横切る溝状凹部50が設けられている。また、他方の接合面22Eには、当該接合面22Eを横切るとともに、溝状凹部50に嵌め込まれる凸状部52が設けられている。
【0063】
これにより、緊張材30を緊張させ、隣り合うプレキャスト梁部材22を連結する際に、溝状凹部50に凸状部52が嵌め込まれるため、隣り合うプレキャスト梁部材22同士を容易に位置決めすることができる。また、溝状凹部50に凸状部52を嵌め込むことにより、隣り合うプレキャスト梁部材22のずれが抑制される。
【0064】
また、一のプレキャスト梁部材22の溝状凹部50を型枠として、隣り合う他のプレキャスト梁部材22の凸状部52を製作することにより、溝状凹部50と凸状部52との嵌め合い精度を高めることができる。
【0065】
さらに、溝状凹部50及び凸状部52は、プレキャスト梁部材22の接合面22Eを梁成方向(矢印H方向)に横切っている。これにより、地盤G上に設置されたプレキャスト梁部材22に対して、隣り合う他のプレキャスト梁部材22を上方から降ろすことにより、溝状凹部50に凸状部52を嵌め込むことができる。したがって、プレキャスト基礎梁20の施工性が向上する。
【0066】
また、本実施形態では、隣り合うプレキャスト梁部材22の目地に充填材(
図3参照)Wを充填してない。したがって、プレキャスト基礎梁20の施工性がさらに向上する。
【0067】
(変形例)
次に、第二実施形態の変形例について説明する。
【0068】
上記第二実施形態では、溝状凹部50及び凸状部52が、プレキャスト梁部材22の接合面22Eを梁成方向(矢印H方向)に横切っている。しかし、
図9に示される変形例のように、溝状凹部50及び凸状部52は、プレキャスト梁部材22の接合面22Eを梁幅方向(矢印W方向)に横切っても良い。これにより、溝状凹部50と凸状部52との間でせん断力が伝達可能になる。したがって、隣り合うプレキャスト梁部材22間の応力の伝達効率が向上する。
【0069】
また、上記第二実施形態では、隣り合うプレキャスト梁部材22の目地に充填材Wが充填されていない。しかし、隣り合うプレキャスト梁部材22の目地には、充填材Wが充填されても良い。
【0070】
(第三実施形態)
次に、第三実施形態について説明する。なお、第三実施形態において、上記第一実施形態と同様の構成には、同符号を付して説明を適宜省略する。
【0071】
図10には、第三実施形態に係るプレキャスト柱60が示されている。プレキャスト柱60は、上下の柱梁仕口部70S間に亘っている。このプレキャスト柱60は、複数のプレキャスト柱部材62を備えている。複数のプレキャスト柱部材62は、プレキャストコンクリート造とされており、工場やサイトヤード等によって予め形成されている。
【0072】
なお、プレキャスト柱60は、プレキャスト構造部材の一例である。また、複数のプレキャスト柱部材62は、プレキャスト部材の一例である。
【0073】
各プレキャスト柱部材62には、複数の貫通孔62Hが形成されている。複数の貫通孔62Hは、プレキャスト柱部材62を上下方向に貫通している。これらの貫通孔62Hには、緊張材30がそれぞれスライド可能に貫通されている。
【0074】
緊張材30の下端部は、例えば、下側の柱梁仕口部70S内において、他の緊張材30にコネクタ36を介して接続されている。一方、緊張材30の上端部は、上側の柱梁仕口部70Sに形成された貫通孔62Hに配置されている。この緊張材30は、アンカープレート32及びナット部材34によって最上段のプレキャスト柱部材62に定着されている。
【0075】
なお、上下の柱梁仕口部70Sは、一例として、プレキャスト部材によって形成されており、プレキャスト梁70の一部を構成している。
【0076】
ここで、プレキャスト柱60の柱頭部及び柱脚部を構成するプレキャスト柱部材62Xは、他のプレキャスト柱部材62よりも補強されている。具体的には、プレキャスト柱部材62を形成するコンクリートには、補強部材としての補強繊維Fが混合されている。つまり、プレキャスト柱部材62は、繊維補強コンクリートによって形成されている。これにより、プレキャスト柱部材62の剥落やひび割れ等が抑制されている。
【0077】
(作用)
次に、第三実施形態の作用について説明する。
【0078】
図10に示されるように、プレキャスト柱60に短期荷重が作用すると、プレキャスト柱60の柱頭部及び柱脚部において、曲げモーメントMが最大となる。この場合、プレキャスト柱60の柱頭部を構成するプレキャスト柱部材62Xの上面、又はプレキャスト柱60の柱脚部を構成するプレキャスト柱部材62Xの下面において、圧縮側の縁部に剥落やひび割れが発生する可能性がある。
【0079】
これに対して本実施形態では、プレキャスト柱60の柱頭部及び柱脚部を構成するプレキャスト柱部材62に補強部材としての補強繊維Fが設けられている。これにより、プレキャスト柱60に短期荷重が作用する場合に、プレキャスト柱60の柱頭部を構成するプレキャスト柱部材62Xの上面、及びプレキャスト柱60の柱脚部を構成するプレキャスト柱部材62Xの下面において、圧縮側の縁部に発生する剥落やひび割れ等が抑制される。したがって、プレキャスト柱60の耐久性が向上する。
【0080】
(変形例)
次に、上記第一実施形態~第三実施形態の変形例について説明する。なお、以下では、上記第一実施形態を例に各種の変形例について説明するが、これらの変形例は、上記第二実施形態及び第三実施形態にも適宜適用可能である。
【0081】
上記第一実施形態では、複数のプレキャスト梁部材22のうち、他のプレキャスト梁部材22と応力状態が異なるプレキャスト梁部材22Xに、補強鉄筋40が設けられている。しかし、例えば、
図11(A)及び
図11(B)に示される変形例のように、補強鉄筋90は、貫通孔80が形成されたプレキャスト梁部材22に設けられても良い。
【0082】
具体的には、貫通孔80は、プレキャスト梁部材22を梁幅方向(矢印W方向)に貫通する円形状の貫通孔とされている。貫通孔80には、例えば、配管や配線等が貫通される。この貫通孔80の周囲には、補強鉄筋90が設けられている。なお、補強鉄筋90は、補強部材の一例である。
【0083】
図11(A)に示されるように、補強鉄筋(開口補強筋)90は、プレキャスト梁部材22の梁幅方向から見て、C字状に屈曲された一対のC形補強筋90Aを組み合わせることにより枠状に形成されており、貫通孔80を取り囲んでいる。
図11(B)に示されるように、補強鉄筋90は、プレキャスト梁部材22の梁幅方向の両側にそれぞれ埋設されている。
【0084】
また、
図12(A)に示される変形例では、プレキャスト梁部材22が補強鉄筋90,100によって補強されている。なお、補強鉄筋100は、補強部材の一例である。
【0085】
補強鉄筋(開口補強筋)100は、プレキャスト梁部材22の梁幅方向から見て、菱形状の菱形配筋部100Aを有し、貫通孔80を取り囲んでいる。この補強鉄筋100は、
図12(B)に示されるように、プレキャスト梁部材22の梁幅方向の両側にそれぞれ埋設されている。
【0086】
また、
図13(A)及び
図13(B)に示される変形例では、補強部材(開口補強部材)が、プレキャスト梁部材22を形成するコンクリートに混合される補強繊維Fとされている。つまり、プレキャスト梁部材22は、繊維補強コンクリートによって形成されている。補強繊維Fは、例えば、鋼繊維や、ガラス繊維、炭素繊維等とされる。
【0087】
また、上記第一実施形態では、複数のプレキャスト梁部材22に形成された貫通孔22Hに、緊張材30が貫通されている。しかし、緊張材30は、プレキャスト梁部材22の外側(外部)に設けられても良い。
【0088】
例えば、
図14に示される変形例では、複数のプレキャスト梁部材22の外側に、複数の緊張材30が設けられている。緊張材30は、複数のプレキャスト基礎梁20に沿って配置されている。また、緊張材30は、複数のプレキャスト梁部材22の梁幅方向両側の側面に沿ってそれぞれ配置されている。
【0089】
複数の緊張材30の両端部は、プレキャストフーチング12に形成された貫通孔12Hを貫通し、アンカープレート32及びナット部材34によって、プレキャストフーチング12の側面に定着されている。このナット部材34によって緊張材30を緊張させることにより、一対のプレキャストフーチング12及び複数のプレキャスト梁部材22が連結(圧着接合)されるとともに、一対のプレキャストフーチング12及び複数のプレキャスト梁部材22にプレストレスが導入されている。
【0090】
このように緊張材30は、複数のプレキャスト梁部材22の外側に設けられても良い。また、図示を省略するが、緊張材30は、プレキャストフーチング12の貫通孔12Hに挿入せずに、プレキャストフーチング12の幅方向(矢印W方向)両側の側面等に取り付けられたブラケット等に定着させることも可能である。
【0091】
また、上記第一実施形態では、シース管24によってプレキャスト梁部材22に貫通孔22Hを形成した。しかし、シース管24を省略し、緊張材30としてアンボンドPCを用いても良い。
【0092】
また、上記第一実施形態では、緊張材30によって、プレキャストフーチング12及びプレキャスト梁部材22を連結した。しかし、緊張材30は、少なくとも複数のプレキャスト梁部材22を連結することができる。
【0093】
また、上記第一実施形態は、プレキャスト基礎梁20に限らず、一対の柱に架設されるプレキャスト梁にも適用することができる。この場合、例えば、緊張材30は、一対の柱の柱梁仕口部に定着される。
【0094】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、一実施形態及び各種の変形例を適宜組み合わせて用いても良いし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0095】
10 プレキャスト基礎
12 プレキャストフーチング
20 プレキャスト基礎梁(プレキャスト構造部材)
22 プレキャスト梁部材(プレキャスト部材)
22E 接合面
22X プレキャスト梁部材(一部のプレキャスト部材)
22Y プレキャスト梁部材(一部のプレキャスト部材)
50 溝状凹部
52 凸状部
60 プレキャスト柱(プレキャスト構造部材)
62 プレキャスト柱部材(プレキャスト部材)
62X プレキャスト柱部材(一部のプレキャスト部材)