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特開2024-171174皮膚外用剤による皮膚ダメージ低減の評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171174
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】皮膚外用剤による皮膚ダメージ低減の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/15 20060101AFI20241204BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20241204BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241204BHJP
   A61Q 17/00 20060101ALI20241204BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20241204BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
G01N33/15 Z
A61P17/16
A61K45/00
A61Q17/00
A61K8/02
G01N33/50 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088100
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯倉 寛晃
(72)【発明者】
【氏名】白坏 早苗
(72)【発明者】
【氏名】前多 瑞希
(72)【発明者】
【氏名】為行 舞斗
【テーマコード(参考)】
2G045
4C083
4C084
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CB09
4C083CC02
4C083DD47
4C083EE06
4C083EE07
4C083EE12
4C084AA17
4C084MA63
4C084NA20
4C084ZA891
4C084ZA892
(57)【要約】
【課題】様々な外的要因による皮膚ダメージに対して、皮膚外用剤を施用することで該皮膚ダメージがどの程度低減するかを、インビトロにて簡易に評価できる方法を提供すること。
【解決手段】皮膚外用剤の耐水性、又は、皮膚外用剤の耐油性及び耐擦過性、に基づき、前記皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減を評価する、皮膚外用剤による皮膚ダメージ低減の評価方法である。基板上に形成された前記皮膚外用剤の塗膜の耐水性に基づき、前記皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減を評価することが好適である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚外用剤の耐水性、並びに、
皮膚外用剤の耐油性及び耐擦過性、
のいずれか1つ以上に基づき、前記皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減を評価する、皮膚外用剤による皮膚ダメージ低減の評価方法。
【請求項2】
基板上に形成された前記皮膚外用剤の塗膜の耐水性に基づき、前記皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減を評価する、請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記皮膚外用剤と人工皮脂との混合物の流動状態、及び、基板上に形成された前記皮膚外用剤の塗膜の耐擦過性に基づき、前記皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減を評価する、請求項1又は2に記載の評価方法。
【請求項4】
皮膚外用剤の耐水性、及び、
皮膚外用剤の耐油性、
に基づき、前記皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減を評価する、請求項1に記載の評価方法。
【請求項5】
皮膚外用剤の耐水性、及び、
皮膚外用剤の耐擦過性、
に基づき、前記皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減を評価する、請求項1に記載の評価方法。
【請求項6】
皮膚外用剤の耐水性、並びに、
皮膚外用剤の耐油性及び耐擦過性、
に基づき、前記皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減を評価する、請求項1に記載の評価方法。
【請求項7】
前記皮膚ダメージが、皮膚の赤み、皮膚からの水分蒸散、又は肌実感である、請求項1に記載の評価方法。
【請求項8】
前記耐水性、又は、前記耐油性及び前記耐擦過性に基づき、前記皮膚外用剤による前記皮膚ダメージの低減についてのレジリエント指標を算出する、請求項1に記載の評価方法。
【請求項9】
皮膚外用剤と、該皮膚外用剤を収容する容器と、該皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減についてのレジリエント指標の表示が付されたラベルとを有し、
前記ラベルが、前記容器に付されているか、前記容器を収容する収容体に付されているか、又は該収容体内に収容されている、皮膚外用剤キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種化粧料などの皮膚外用剤をヒトの皮膚に塗布した状態で、皮膚に外的刺激を与えることで、皮膚の荒れ具合の防止の程度や、ぴりつき及びつっぱり感などの肌実感を評価して、該皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減の程度を評価することが従来行われていた。しかし、この評価方法では、皮膚外用剤を実際にヒトの皮膚に塗布することが必要であることから、多数の被験者が必要となる。
皮膚外用剤をヒトの皮膚に長期間にわたって塗布し、塗布の前後での皮膚の状態を評価する手法も考えられる。しかし、この評価方法は結果を得るまでに時間を要する。
したがって、インビトロの簡易な方法で、皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減を評価することが求められている。
【0003】
特許文献1には、基板上に皮膚外用剤の塗膜を形成し、該塗膜を加熱し、加熱後の塗膜について、皮膚に影響を与える光線である紫外線に対する防御効果を測定することで、外的要因に起因する皮膚ダメージに対して、皮膚外用剤による防御効果を評価する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/151374号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
皮膚がダメージを受ける外的刺激には様々なものが知られている。しかし、特許文献1に記載の技術は、紫外線に起因する皮膚ダメージに対する皮膚外用剤の防御効果に限られており、適用範囲が広いとは言えない。
したがって本発明の課題は、様々な外的要因による皮膚ダメージに対して、皮膚外用剤を施用することで該皮膚ダメージがどの程度低減するかを評価し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、皮膚外用剤の耐水性、並びに、
皮膚外用剤の耐油性及び耐擦過性、
のいずれか1つ以上に基づき、前記皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減を評価する、皮膚外用剤による皮膚ダメージ低減の評価方法を提供するものである。
【0007】
また本発明は、皮膚外用剤と、該皮膚外用剤を収容する容器と、該皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減についてのレジリエント指標の表示が付されたラベルとを有し、
前記ラベルが、前記容器に付されているか、前記容器を収容する収容体に付されているか、又は該収容体内に収容されている、皮膚外用剤キットを提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、様々な外的要因による皮膚ダメージに対して、皮膚外用剤を施用することで該皮膚ダメージがどの程度低減するかを、インビトロにて簡易に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、皮膚外用剤の耐水性を評価する方法を示す模式図である。
図2図2は、皮膚外用剤の耐擦過性を評価する方法を示す模式図である。
図3図3(a)ないし(c)は、皮膚外用剤の耐水性、耐擦過性又は耐油性と、肌状態としての赤みとの関係を示すグラフである。
図4図4(a)ないし(d)は、皮膚外用剤の耐水性、耐擦過性及び耐油性のうちの任意の二つ以上の組み合わせと、肌状態としての赤みとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
本発明は、外界からの刺激によって皮膚が受けるダメージが、皮膚外用剤によって低減する程度を評価する方法に関する。本明細書において、皮膚外用剤とは、医療の目的でヒトの皮膚の健康状態を維持、回復又は向上させるためにヒトの皮膚に施される剤であるか、及び美容等の医療以外の目的でヒトの皮膚に施される剤を広く包含する。
【0011】
本発明の評価方法の対象となる皮膚外用剤には、例えば化粧料、医薬品及び医薬部外品等が包含される。具体的には、ローション、乳液、美容クリーム、下地化粧料、日焼け止め化粧料、マッサージ化粧料、メイクアップ化粧料などの皮膚化粧料;各種薬剤を含有する軟膏及びクリーム等の外用医薬品が挙げられる。
本発明の評価方法の対象となる皮膚外用剤の剤型に特に制限はない。例えば液状、エマルジョン、ジェル状、スプレー状及びムース状等の各種流動体が挙げられる。
【0012】
本明細書において外界からの刺激とは、皮膚の状態を変化(特に低下)させ得る外的要因のことである。そのような外界からの刺激としては、例えば皮膚への水分の付着や吸収、皮膚への油分の付着や吸収、皮膚と他の物体との擦過、各種波長の光の皮膚への照射、皮膚への熱の付与、及び皮膚の冷却などが挙げられる。後述するとおり、これら外界からの刺激のうち、皮膚への水分の付着や吸収、皮膚への油分の付着や吸収、及び皮膚と他の物体との擦過に起因する皮膚ダメージについて、皮膚外用剤によるダメージ低減の程度の評価に、本発明の方法は特に適したものとなっている。
【0013】
本明細書において皮膚ダメージとは、外界からの刺激によって皮膚の健康状態が低下すること、及び皮膚に関する本人の実感が低下することを意味する。皮膚ダメージの具体例としては、上述した外界からの各種の刺激に起因する肌状態の低下及び肌実感の低下が挙げられる。
【0014】
肌状態の低下としては、例えば皮膚の赤み、皮膚からの水分蒸散、角層水分量の低下、肌の鱗屑量の増加、肌の色味の変化、肌の弾力性の低下、皮脂分泌量の増加、皮脂組成の変化、DNA分析による皮膚の変化検出、角層採取による皮膚の成分の変化検出、血液採取による皮膚の成分の変化検出、各種光学測定(レーザー、紫外線、蛍光、赤外線、LED光源等)による皮膚の変化検出、顕微鏡測定による皮膚の変化検出、専門判定者の目視による皮膚の変化検出、専門判定者による皮膚の触感の変化検出などが挙げられる。
【0015】
肌実感の低下としては、痒み感の知覚、ちくちく感の知覚、及びつっぱり感の知覚などが挙げられる。
【0016】
本発明においては、皮膚外用剤の耐水性に基づき、該皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減の程度を評価することができる。皮膚外用剤の耐水性は、蒸れに起因する皮膚の角層のバリア機能に関係する。詳細には、例えばマスク着用によって、マスクと皮膚との間の湿度が高くなり蒸れや結露が生じた場合に、耐水性が高い皮膚外用剤が皮膚に施されていると、角層のバリア機能が乱されにくくなり、皮膚の赤み発生などの皮膚ダメージを受けづらくなる。
【0017】
本発明において皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減の程度は、基板上に形成された皮膚外用剤の塗膜の耐水性に基づき評価することができる。つまり皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減の程度をインビトロにて容易に評価できる。
【0018】
前記基板としては、評価の対象となる皮膚外用剤に対して実質的に非吸収性を有する材料からなるものが好適に用いられる。そのような基板としては、例えば各種ガラスからなる板及び各種樹脂からなる板などが挙げられるが、これらに限られない。
前記基板は、評価の対象となる皮膚外用剤の塗膜が形成される主面を有する。この主面は一般に平面である。評価の再現性を高める観点から主面は平滑であることが好ましい。この観点から、主面の平滑の程度は、例えばJIS B0601:1994に準拠して測定された算術平均粗さRaが0.1μm以下であることが好ましい。
【0019】
基板の表面に皮膚外用剤の塗膜を形成する方法に特に制限はなく、皮膚外用剤の剤型に応じて適切な塗膜形成方法を採用すればよい。例えば、皮膚外用剤は、アプリケータによって塗膜を形成することができる。あるいは剤型に応じ、指で均一に塗布する方法や、スピンコートを採用することも可能である。
【0020】
皮膚外用剤の塗膜の厚みにも特に制限はなく、皮膚外用剤の剤型に応じて適切な厚みの塗膜を形成すればよい。本発明者の検討の結果、乾燥後の塗膜において、単位面積(1cm)当たりの質量が、0.6mg以上1.6mg以下であれば再現性よく評価を行い得ることが確認された。この単位面積当たりの質量の範囲内で、塗膜は厚みが極力均一であることが望ましい。
【0021】
基板の表面に形成する皮膚外用剤の塗膜の面積は、後述する水の接触角が測定可能な程度であれば十分である。具体的には、25cm以上の面積となるように塗膜を形成することが好ましい。
【0022】
基板上に形成された塗膜の状態を、皮膚に形成された塗膜の状態に近づける目的で、耐水性の測定を行うのに先立ち塗膜を乾燥させる。塗膜の乾燥は、25℃での相対湿度が50%以下である外気環境で12時間以上行うことが好ましい。
【0023】
皮膚外用剤の塗膜が基板上に形成されたら、該塗膜が水平方向と一致するように基板を設置した状態で、該塗膜上に水を滴下して、図1に示すとおり、塗膜10上に水滴11を形成する。水滴11の形成に用いられる水は、例えば蒸留水、イオン交換水、RO水などであり得る。また、水滴11の体積は、塗膜10に対する水滴11の接触角θが測定できる程度であればよく、一般に0.2μL以上1μL以下とすることができる。接触角θの測定は25℃・50%RHの環境下で行うことが好ましい。
接触角θの測定は、5個以上の試料を対象として行い、測定された値の算術平均値を接触角θと定義する。
【0024】
このようにして測定された接触角を、その値に応じてランク分けする。ランク分けは、例えば、接触角に境界値θを設定し、測定された接触角θが境界値θに対してθ≦θであるランク1と、θ>θであるランク2とに分けることができる。耐水性がランク2である皮膚外用剤は、ランク1の皮膚外用剤よりも耐水性が高いと評価でき、皮膚ダメージの低減効果が高いと評価できる。したがって、耐水性がランク2である皮膚外用剤を皮膚に施すことで、例えば皮膚の赤みの低減や、あるいは皮膚からの水分蒸散の低減が可能になると予測することができる。これに加えて、皮膚の水分保持に関連する肌実感である痒み感やちくちく感の低減が可能になると予測することができる。
【0025】
肌状態と肌実感とは連動しない場合があることから、両者を同時に推定することは困難であると従来考えられていた。例えば実感を伴わずに肌状態が良好になる場合がある。あるいは肌実感はあるが、実際は肌状態がよくないという場合がある。これに対して、本発明によれば、肌状態と肌実感とを同時に推定できるという利点がある。
【0026】
接触角の境界値θは90度以上105度以下に設定することが好ましく、90度以上100度以下に設定することが更に好ましく、90度以上95度以下に設定することが一層好ましい。
【0027】
耐水性に関する上述のランク付けはランク1及びランク2の2段階であったところ、ランク付けは3段階又はそれ以上であってもよい。
【0028】
以上の説明は皮膚外用剤の塗膜の耐水性を水の接触角を指標として評価することに関するものであったところ、皮膚外用剤の塗膜の耐水性を接触角以外のパラメータに基づき評価することもできる。その他のパラメータとしては、例えば動的接触角、塗膜を乾燥させた後の該塗膜の水溶性の程度、及び塗膜を乾燥させた後の該塗膜の水浸透性の程度などが挙げられる。その他のパラメータについても、二段階又はそれ以上の段階にランク分けし、皮膚外用剤の耐水性を評価することができる。
【0029】
以上の説明は、皮膚外用剤の塗膜の耐水性に基づき、該皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減の程度を評価する方法に関するものであったところ、本発明においては、これに加えて又はこれに代えて、皮膚外用剤の耐擦過性及び耐油性の組み合わせに基づき、該皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減の程度を評価することもできる。皮膚外用剤の耐擦過性のみ、又は皮膚外用剤の耐油性のみでは、皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減の程度を精度よく評価することはできないが、耐擦過性及び耐油性を組み合わせることで、皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減の程度を精度よく評価できることが本発明者の検討の結果判明した。以下、この評価方法について詳述する。
【0030】
まず、皮膚外用剤の耐擦過性について説明する。皮膚外用剤の耐擦過性は、皮膚が物体と擦れ合うことに起因する皮膚への刺激や損傷に関係する。詳細には、例えばマスク着用によって、皮膚とマスクとが擦れ合った場合に、耐擦過性が高い皮膚外用剤が皮膚に施されていると、該皮膚外用剤によって皮膚とマスクとの直接の擦れ合いが抑制され、皮膚への刺激や損傷が抑制される。皮膚の赤み発生や皮膚からの水分蒸散などの皮膚ダメージが抑制される。
【0031】
本発明において皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減の程度は、基板上に形成された皮膚外用剤の塗膜の耐擦過性に基づき評価することができる。つまり、上述した皮膚外用剤の塗膜の耐水性を評価する場合と同様に、皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減の程度をインビトロにて容易に評価できる。
【0032】
皮膚外用剤の塗膜の耐擦過性を評価する場合に用いる基板の種類や、皮膚外用剤の塗膜の形成方法の詳細は、上述した皮膚外用剤の塗膜の耐水性を評価する場合と同様である。ただし、塗膜の形成面積については、図2に示すとおり、基板1の表面に、縦方向Xに沿って5cm以上、横方向Yに沿って5cm以上の矩形の領域が形成されるようにすることが、再現性が高い評価結果を得る点から好ましい。
【0033】
図2に示すとおり、皮膚外用剤の塗膜10が基板1上に形成されたら、該塗膜10が水平方向と一致するように基板を設置した状態で、塗膜10上に擦過の対象となる擦過対象物12を配置する。擦過対象物12は、図2に示すとおり、横方向Yの長さが、塗膜10の横方向Yの長さよりも長い寸法とし、擦過対象物12の両側部域が、塗膜10の側縁10aから横方向Yへ延出するようにすることが、再現性のよい評価を行い得る点から好ましい。
【0034】
擦過対象物12としては、皮膚にダメージを与える可能性のある様々な材料が挙げられる。例えば不織布、織布、ウレタンシート、紙、化学繊維、皮革、毛髪、手指などが挙げられる。例えばマスク着用中に擦過が発生する場合には、擦過対象物12の典型例として不織布が挙げられる。
【0035】
擦過対象物12が不織布である場合、該不織布の種類に特に制限はなく、これまで知られている各種の不織布を用いることができる。例えばスパンボンド不織布、メルトブローン不織布、スパンレース不織布、エアスルー不織布、ニードルパンチ不織布、レジンボンド不織布などを用いることができる。
不織布はその種類や繊維径によって表面の状態が異なるが、本発明者の検討の結果、不織布の種類に依存せず評価結果に一定の傾向が認められることが確認されている。一般的には、繊維径10μ以上40μm以下、坪量10g/m以上100g/m以下のスパンボンド不織布を用いることが好ましい。
なお、不織布の坪量は電子天秤を用いて5cm四方の大きさの試料の質量をg単位で測定し、その測定値を試料の面積で除すことで算出される。測定は異なる三つ以上の試料について行い、その平均値を算出する。
不織布の繊維径は、10本の繊維を走査型電子顕微鏡で観察し、繊維の長手方向に直交する線の長さを測定し、その平均値とする。
【0036】
塗膜10上に擦過対象物12を配置したら、該擦過対象物12に鉛直方向の荷重を加える。この目的のために、例えば図2に示すとおり、擦過対象物12上に錘13を載置することができる。擦過対象物12に荷重を加える面積は、擦過対象物12の移動方向(図2において矢印Rで示す方向であり、縦方向Xと同方向。)に沿って好ましくは10mm以上50mm以下、更に好ましくは15mm以上40mm以下、一層好ましくは20mm以上30mm以下とする。
擦過対象物12に荷重を加える面積は、擦過対象物12の面積以下であり、且つ塗膜10の面積の好ましくは40%以上、更に好ましくは50%以上とする。
【0037】
擦過対象物12へ加える荷重は、再現性のよい評価を行い得る点から、好ましくは1.21kPa以上、更に好ましくは1.28kPa以上、一層好ましくは1.35kPa以上とする。同様の観点から、擦過対象物12へ加える荷重は、下限値よりも大きいことを条件として、好ましくは1.49kPa以下、更に好ましくは1.42kPa以下、一層好ましくは1.35kPa以下とする。
【0038】
擦過対象物12へ上述の荷重を加えた状態で、水平方向に沿って図2におけるRで示す方向へ擦過対象物12を定速度で移動させる。擦過はR方向へ擦過対象物を移動することで行う。擦過対象物の移動は、錘が塗膜の外へ完全に出るまで行う。
擦過対象物12の移動速度は、再現性のよい評価を行い得る点から、好ましくは25mm/s以上、更に好ましくは35mm/s以上、一層好ましくは45mm/s以上とする。同様の観点から、擦過対象物12の移動速度は、好ましくは65mm/s以下、更に好ましくは60mm/s以下、一層好ましくは55mm/s以下とする。擦過対象物12の移動は、25℃・50%RHの環境下で行うことが好ましい。
【0039】
擦過対象物12が移動することで、塗膜10の一部が削られて摩耗する。そのときの塗膜10の摩耗量を測定する。塗膜10の種類に応じて摩耗量が異なることから、摩耗量を考慮して、一つの試料に対して擦過の操作を1回のみ行ってもよく、あるいは2回以上の複数回行ってもよい。摩耗量の測定は、3個以上の試料を対象として行い、測定された値の算術平均値を本発明における摩耗量と定義する。
摩耗量mは、塗膜10が形成された状態での基板1の質量をW1とし、擦過対象物12によって塗膜10の一部が摩耗した状態での基板1の質量をW2としたとき、m=W1-W2で算出される。
【0040】
このようにして測定された塗膜の摩耗量、すなわち耐擦過性を、その値に応じてランク分けする。ランク分けは、例えば、摩耗量に境界値mを設定し、測定された摩耗量mが境界値mに対してm≧mであるランク1と、m<mであるランク2とに分けることができる。耐擦過性がランク2である皮膚外用剤は、ランク1の皮膚外用剤よりも耐擦過性が高いと評価でき、擦過対象物に対して皮膚を保護する能力が高く、皮膚ダメージの低減効果が高いと評価できる。
【0041】
塗膜の摩耗量の境界値mは、塗膜の形成面積、擦過対象物の種類及び面積、擦過対象物へ加える荷重、擦過対象物の移動速度などによって適切に設定される。例えば、後述する実施例で述べる条件を採用した場合、塗膜の摩耗量の境界値mは、3.0mg以上5.0mg以下に設定することが好ましく、4.0mg以上5.0mg以下に設定することが更に好ましく、4.5mg以上5.0mg以下に設定することが一層好ましい。
【0042】
耐擦過性に関する上述のランク付けはランク1及びランク2の2段階であったところ、ランク付けは3段階又はそれ以上であってもよい。
【0043】
以上の説明は皮膚外用剤の耐擦過性を、擦過対象物との擦過による塗膜の摩耗量を指標として評価することに関するものであったところ、皮膚外用剤の耐擦過性を前記摩耗量以外のパラメータに基づき評価することもできる。その他のパラメータとしては、例えば表面性試験機を用いた塗膜の摩耗量、擦過対象物として特に指を用いた場合における塗膜の摩耗量、及び擦過対象物として不織布以外の布類(衣類)を用いた場合における塗膜の摩耗量などが挙げられる。その他のパラメータについても、二段階又はそれ以上の段階にランク分けし、皮膚外用剤の耐擦過性を評価することができる。
【0044】
次に、皮膚外用剤の耐擦過性と組み合わせて評価される耐油性について説明する。皮膚外用剤の耐油性は、皮脂に含まれる不飽和脂肪酸に起因する肌刺激や、皮脂による皮膚外用剤の塗膜の流出に関連する。詳細には、耐油性の高い皮膚外用剤が皮膚に施されていると、皮脂による皮膚への刺激が抑制される。また皮膚外用剤の塗膜が破壊されづらくなり、そのことによっても蒸れや皮膚の摩耗といった皮膚への刺激が抑制される。その結果、皮膚の赤み発生や肌実感の低下といった皮膚ダメージが抑制される。
【0045】
本発明において皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減の程度は、皮膚外用剤と人工皮脂との混合物の流動性の程度に基づき評価することができる。つまり、上述した皮膚外用剤の塗膜の耐水性や耐擦過性を評価する場合と同様に、皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減の程度をインビトロにて容易に評価できる。
【0046】
前記人工皮脂としては、当該技術分野において通常用いられているものを特に制限なく用いることができる。人工皮脂は、天然の皮脂成分の内容に基づき、主に油脂類の混合物で調製され得る。人工皮脂に含有させる油分等としては、例えば、トリアシルグリセリド、炭素原子数が14~18の飽和又は不飽和の脂肪酸、スクワレン・スクワラン等の分岐状の炭化水素、コレステロール、炭素原子数が18~72のワックスエステル類等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。なかでも、炭素原子数が14~18の飽和又は不飽和の脂肪酸、スクワレン・スクワラン等の分岐状の炭化水素、又はトリアシルグリセリドを含んだ人工皮脂を少なくとも用いることが好ましい。
【0047】
人工皮脂を構成する上述の成分のうち、炭素原子数が14~18の飽和又は不飽和の脂肪酸は、人工皮脂に対して好ましくは10質量%以上20質量%以下含まれる。スクワレン・スクワラン等の分岐状の炭化水素は、人工皮脂に対して好ましくは30質量%以上40質量%以下含まれる。トリアシルグリセリドは、人工皮脂に対して好ましくは30質量%以上40質量%以下含まれる。
【0048】
炭素原子数が14~18の飽和又は不飽和の脂肪酸としては、例えばオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、パルミトオレイン酸、ペトロセリン酸などが挙げられる
トリアシルグリセリドとしては、例えばオリーブ油などの植物油、並びにオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、パルミトオレイン酸又はペトロセリン酸と、グリセリンとのトリグリセリルエステル油が挙げられる。
【0049】
皮膚外用剤と人工皮脂との混合物の流動性を測定する場合には、皮膚外用剤と人工皮脂とを蓋付きの容器に入れ、容器を蓋で密閉した後に容器を振盪等させて皮膚外用剤と人工皮脂とを十分に混合させる。両者の混合比率は、質量比で表して、皮膚外用剤:人工皮脂=1:5~8とすることが、両者の混合物の流動性が適度になる点から好ましい。
前記混合物は、例えば3g以上10g以下調製することが、皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減の程度を精度よく評価し得る点から好ましい。
混合が完了したら、容器を直立状態で静置する。このときの環境は25℃・50%RHとすることが好ましい。
上述の条件下に好ましくは120分以上静置した後に、前記環境を維持したまま前記容器を水平方向に沿って横に寝かせる。この状態から1分間経過後に、容器内の混合物が流動して該混合物の上面に変化が生じたか否かで、該混合物の流動性をランク分けする。耐油性が高い皮膚外用剤ほど、混合物の上面に変化が生じにくいことから、例えば、混合物の上面に変化が生じた場合であるランク1と、混合物の上面に変化が生じない場合であるランク2とに分けることができる。耐油性がランク2である皮膚外用剤は、ランク1の皮膚外用剤よりも耐油性が高いと評価でき、皮膚ダメージの低減効果が高いと評価できる。
【0050】
耐油性に関する上述のランク付けはランク1及びランク2の2段階であったところ、ランク付けは3段階又はそれ以上であってもよい。例えば、前記混合物の上面に大きな変化が生じた場合であるランク1と、若干の変化が認められる場合であるランク2と、変化が生じない場合であるランク3とに分けることができる。
【0051】
以上の説明は皮膚外用剤の耐油性を、皮膚外用剤と人工皮脂との混合物の流動性を指標として評価することに関するものであったところ、皮膚外用剤の耐油性を前記流動性以外のパラメータに基づき評価することもできる。その他のパラメータとしては、例えば皮膚外用剤とオレイン酸との混合物の流動性、皮膚外用剤の塗膜と人工皮脂との混合物の流動性、皮膚外用剤の塗膜とオレイン酸との混合物の流動性、塗膜を乾燥させた後の該塗膜の油溶性の程度、及び塗膜を乾燥させた後の該塗膜の油浸透性の程度などが挙げられる。
【0052】
本発明においては、皮膚外用剤の耐擦過性及び耐油性の組み合わせに基づき、該皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減の程度を評価することが好ましい。この場合には、上述のとおりランク分けした耐擦過性の評価結果と、耐油性の評価結果とを足し合わせた総合評価を行うことが好ましい。例えば、耐擦過性の評価をランク1及びランク2の二段階にランク分けし、耐油性の評価もランク1及びランク2の二段階にランク分けした場合には、最小値2から最大値4までの三段階の総合評価を行う。また、耐擦過性の評価をランク1~ランク3の三段階にランク分けし、耐油性の評価もランク1~ランク3の三段階にランク分けした場合には、最小値3から最大値6までの四段階の総合評価を行う。それによって、総合評価の値が高い皮膚外用剤を皮膚に施すことで、例えば皮膚の赤みの低減や、あるいは皮膚からの水分蒸散の低減が可能になると高い精度で予測することができる。これに加えて、痒み感、ちくちく感及びつっぱり感などの肌実感の低減が可能になると高い精度で予測することができる。
【0053】
本発明においては、上述した皮膚外用剤の耐擦過性及び耐油性の組み合わせに代えて、皮膚外用剤の耐水性及び耐油性の組み合わせに基づき、皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減を評価することもできる。これによって、皮膚外用剤の耐水性のみで評価を行う場合に比べて、評価の精度を高めることが可能となる。
また本発明においては、皮膚外用剤の耐水性及び耐擦過性の組み合わせに基づき、皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減を評価することもできる。これによっても、皮膚外用剤の耐水性のみで評価を行う場合に比べて、評価の精度を高めることが可能となる。
更に本発明においては、皮膚外用剤の耐水性、耐油性及び耐擦過性の三者に基づき、皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減を評価することもできる。これによっても、皮膚外用剤の耐水性のみで評価を行う場合や、皮膚外用剤の耐油性と皮膚外用剤の耐擦過性との組み合わせに基づき評価を行う場合に比べて、評価の精度を高めることが可能となる。
【0054】
本発明においては、皮膚外用剤の耐水性、又は、皮膚外用剤の耐油性及び耐擦過性の組み合わせに基づき、皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減についてのレジリエント指標を算出することができる。
本明細書においてレジリエントとは、皮膚ダメージを予防ないし低減できる能力のことである。
皮膚ダメージの具体例としては、上述したとおり、例えば皮膚の赤み、皮膚からの水分蒸散、及び肌実感の低下などが挙げられるところ、これら項目のうちの少なくとも一つについてレジリエント指標を算出し、当該皮膚外用剤が当該項目についてどの程度のレジリエント性を有しているかを決定することができる。例えば皮膚ダメージが皮膚の赤みである場合、皮膚の赤みの低減効果について、当該効果が高くなる順に「+」、「++」及び「+++」の指標を設定する。
【0055】
レジリエント指標の具体的な算出例は以下のとおりである。耐油性、耐水性及び耐擦過性のランクがいずれも2段階である場合を例として挙げると、これらの項目の合計値は最小値で3であり、最大値が6である。この方法でレジリエント指標を算出した場合、合計値が4であれば+、5であれば++、6であれば+++と設定する。
【0056】
皮膚外用剤にレジリエント指標を設定することで、皮膚外用剤の使用者は、皮膚外用剤のレジリエント指標に基づき、その皮膚外用剤が自分の要求に適合しているものであるか否かを容易に判断することができる。したがってレジリエント指標は、皮膚外用剤と組み合わせて使用されることが、該皮膚外用剤の商品価値を高める観点から好ましい。
前記の観点から、皮膚外用剤は、該皮膚外用剤と、該皮膚外用剤を収容する容器と、該皮膚外用剤による皮膚ダメージの低減についてのレジリエント指標の表示が付されたラベルとを有する皮膚外用剤キットの形態となっていることが好ましい。この場合、前記ラベルは、前記容器に付されているか、前記容器を収容する収容体に付されているか、又は該収容体内に収容されていることが好ましい。
前記ラベルは、例えば、前記容器に直接印刷するか又は直接シール貼付するタイプのものでも良く、あるいは前記容器を収容する収容体に直接印刷するか又は直接シール貼付するタイプのものでも良く、前記収容体に同封する説明書などのリーフレットや、皮膚外用剤に添付するリーフレット又はカタログでも良い。
【0057】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されず、本発明の効果を損なわない範囲において種々の変更が可能である。
【実施例0058】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0059】
〔1〕実験方法
市販の七種類の化粧下地(以下サンプル1~サンプル7の符号を付す。)を準備した。サンプル1~7について、以下の方法で耐水性、耐擦過性及び耐油性を評価した。評価結果を以下の表1に示す。
【0060】
<耐水性評価>
25μmのギャップを持つアプリケータを用い、算術表面粗さRaが0.034μmであるガラス基板上にサンプル1~7をそれぞれ塗工して塗膜を得た。塗工速度は50mm/sとした。25℃・50%RHの環境下で24時間にわたり乾燥させて、面積25cmの塗膜を得た。塗膜の単位面積(1cm)あたりの質量は0.9mgであった。
次いで塗膜上にイオン交換水を1μL滴下し、25℃・50%RHの環境下で接触角を測定した。接触角は滴下30秒後の値を測定した。接触角が90度以上の場合を耐水性ランク2とし、90度未満の場合を耐水性ランク1とした。
【0061】
<耐擦過性評価>
25μmのギャップを持つアプリケータを用い、算術表面粗さRaが0.057μmであるPET基板上にサンプル1~7をそれぞれ塗工して塗膜を得た。塗工速度は50mm/sとした。25℃・50%RHの環境下で24時間にわたり塗膜を乾燥させた。
面積が5cm×5cmとなるよう塗膜を切り出して水平な台座の上に載置した。そして、幅7.5cm×長さ2.5cmに切り出したスパンボンド不織布(坪量:75.7g/m、平均繊維径32.3μm)を塗膜上に載置した。このとき、不織布の幅方向両側部の1.25cmの部位が、塗膜の側縁から幅方向に延出するように、該不織布を該塗膜上に載置した。次いで不織布上に金属製の錘を載置し、塗膜における5cm×2.5cmの矩形の領域に1.35kPaの荷重が加わるようにした。25℃・50%RHの環境下、不織布の端をピンセットでつまみ水平方向に50mm/sの一定速度でスライドさせることで塗膜の擦過を行った。擦過を5回行った後に、擦過前後の塗膜の質量差を精密天秤の計量値から算出し、摩耗量とした。摩耗量が、5mg以下の場合を耐擦過性ランク2とし、5mgよりも大である場合を耐擦過性ランク1とした。
【0062】
<耐油性評価>
サンプル1~7をそれぞれ0.7g計量してスクリュー管瓶No.3に入れた。次いで、人工皮脂を3.5g計量しスクリュー管瓶に入れた。したがってサンプル1~7と人工皮脂との質量比は1:5であった。
人工皮脂は、炭素原子数が14~18の飽和又は不飽和の脂肪酸としてオレイン酸を含み、分岐状の炭化水素としてスクワランを含み、トリアシルグリセリドとしてオリーブ油を含むものであった。組成比は、質量比で表してオレイン酸:スクワラン:オリーブ油=2:3:3であった。
スクリュー管瓶に蓋をして、ボルテックスミキサーによってサンプル1~7と人工皮脂とを混合した。スクリュー管瓶を直立状態で25℃・50%RHの環境下に2時間静置した。
2時間経過後、スクリュー管瓶を直立状態から水平状態に横に倒し、1分経過後のスクリュー管瓶内の混合物の流動状態を目視観察し二段階のランク付けで評価した。混合物の上面が変動しない場合を耐油性ランク2とし、流動が観察される場合を耐油性ランク1とした。
【0063】
【表1】
【0064】
〔2〕肌状態及び肌実感の評価
女性被験者にサンプル1~7をそれぞれ4週間連用させた。その後、肌状態及び肌実感の評価を評価した。
肌状態に関しては、以下の方法で肌の赤み及び経皮水分蒸散量を測定した。
肌実感に関しては、以下の5段階アンケートによって肌の赤み、痒み、ちくちく感及びつっぱり感を評価した。
【0065】
<肌の赤み>
被験者は4週間の間、全顔に、サンプル1~7のうちの1種類を固定使用し、その他のスキンケア化粧料やメイクアップ化粧料は複数種を固定使用した。サンプル1~7の使用前及び4週間経過後に肌の赤み測定を実施した。
4週間経過後に肌の赤み測定においては、測定前に、メイク落とし用洗浄料と洗顔料を用いて洗顔し、21℃・50%RH環境に15分間皮膚を順化させた。順化後に皮膚分析器(ANTERA 3D、miravex社製)を用いて、右側頬の中央を3回測定した。測定結果を専用ソフトウエアの赤み解析用フィルターを用いて数値化し、赤みの平均値を求めた。
【0066】
<経皮水分蒸散量>
サンプル1~7の使用方法及び皮膚の順化手順は、上述の<肌の赤み>の測定方法と同様とした。順化後に経皮水分蒸散量測定装置(Vapometer、キーストンサイエンティフィック社製)を用いて、右側頬の中央を7回計測し、水分蒸散量の平均値を求めた。
【0067】
<肌実感のアンケート>
被験者は4週間の間、全顔に、サンプル1~7のうちの1種類を固定使用し、その他のスキンケア化粧料やメイクアップ化粧料は複数種を固定使用した。4週間経過後、肌実感のアンケートを実施するのに先立ち、メイク落とし用洗浄料と洗顔料を用いて洗顔し、21℃・50%RH環境に15分間皮膚を順化させた。その後、紙面による5段階アンケートに回答させた。アンケート項目は肌の赤み、痒み、ちくちく感及びつっぱり感とした。5段階の評価基準は以下のとおりとした。
・肌の赤み
5: 悪化した/増えた
4: やや悪化した/増えた
3: どちらとも言えない
2: やや改善した/減った
1: 改善した/減った
・痒み
5: 悪化した/増えた
4: やや悪化した/増えた
3: どちらとも言えない
2: やや改善した/減った
1: 改善した/減った
・ちくちく感
5: 悪化した/増えた
4: やや悪化した/増えた
3: どちらとも言えない
2: やや改善した/減った
1: 改善した/減った
・つっぱり感
5: 悪化した/増えた
4: やや悪化した/増えた
3: どちらとも言えない
2: やや改善した/減った
1: 改善した/減った
【0068】
〔3〕評価
前記〔1〕で行った皮膚外用剤の塗膜の耐水性、耐擦過性及び耐油性の評価と、前記〔2〕で行った肌状態及び肌実感との関係性を評価した。
評価は、(I)回帰分析からの決定係数の算出、及び(II)相関係数の算出とした。
【0069】
図3(a)~(c)には、皮膚外用剤の塗膜の耐水性、耐擦過性及び耐油性と、肌状態としての肌の赤みとの関係がグラフに示されている。これらのグラフから明らかなとおり、皮膚外用剤の塗膜の耐水性は肌の赤みと相関が高いことが理解される。これに対して皮膚外用剤の塗膜の耐油性及び耐擦過性は、肌の赤みと相関が低いことが見て取れる。したがって、皮膚外用剤の塗膜の耐水性を評価することで、その皮膚外用剤を皮膚に施すことで、肌の赤みが低減されると予測することができる。
【0070】
図4(a)~(d)には、皮膚外用剤の塗膜の耐水性、耐擦過性及び耐油性のうちの任意の二つの組み合わせ及び三つすべての組み合わせと、肌状態としての肌の赤みとの関係がグラフに示されている。これらのグラフから明らかなとおり、皮膚外用剤の塗膜の耐水性と、耐擦過性又は耐油性との組み合わせ(図4(a)及び図4(b))は、肌の赤みと相関が高いことが理解される。同様に、皮膚外用剤の塗膜の耐擦過性と耐油性との組み合わせ(図4(c))も、肌の赤みと相関が高いことが理解される。更に、皮膚外用剤の塗膜の耐水性と耐擦過性と耐油性とをすべて組み合わせると(図4(d))、肌の赤みとの相関が一層高くなることが理解される。
【0071】
以下に示す表2は、(i)皮膚外用剤の塗膜の耐水性、耐油性及び耐擦過性のうちのいずれか一つ、(ii)任意の二つの組み合わせ及び(iii)三つすべての組み合わせと、肌状態としての肌の赤み及び経皮水分蒸散量、並びに肌実感としての肌の赤み、痒み、ちくちく感及びつっぱり感(つまり6項目)との回帰分析結果(決定係数)を示している。
同表には、前記6項目についての決定係数の平均値が示されている。また同表には、6項目のすべてで決定係数が0.5超である皮膚外用剤の評価項目、及び6項目のうち、肌状態及び肌実感それで決定係数が0.5超である評価が一つ以上ある皮膚外用剤の項目に「○」印が付されている。
この結果から、皮膚外用剤の塗膜の耐水性はそれ単独で決定係数が高く且つそれ単独で肌状態と肌実感の両方を同時に予測できることが分かる。
これに対して、皮膚外用剤の塗膜の耐油性はそれ単独では決定係数が低いことが分かる。
皮膚外用剤の塗膜の耐擦過性はそれ単独で決定係数が高いが、それ単独では、肌状態と肌実感の両方を同時に予測できないことが分かる。
しかし、皮膚外用剤の塗膜の耐油性と耐擦過性とを組み合わせると、決定係数が高くなり且つそれ単独で肌状態と肌実感の両方を同時に予測できることが分かる。
そして、皮膚外用剤の塗膜の耐水性、耐油性及び耐擦過性のすべてを組み合わせると、決定係数が最も高くなり且つ肌状態と肌実感の両方を同時に高い精度で予測できることが分かる。
【0072】
【表2】
【0073】
以下に示す表3は、(i)皮膚外用剤の塗膜の耐水性、耐油性及び耐擦過性のうちのいずれか一つ、(ii)任意の二つの組み合わせ及び(iii)三つすべての組み合わせと、肌状態としての肌の赤み及び経皮水分蒸散量、並びに肌実感としての肌の赤み、痒み、ちくちく感及びつっぱり感(つまり6項目)との相関係数を示している。
同表に示す結果から明らかなとおり、皮膚外用剤の塗膜の耐水性はそれ単独で相関係数が高く且つそれ単独で肌状態と肌実感の両方を同時に予測できることが分かる。
これに対して、皮膚外用剤の塗膜の耐油性及び耐擦過性はそれ単独では、耐水性よりも相関係数が低いこと、及びそれ単独で肌状態と肌実感の両方を同時に予測できないことが分かる。
しかし、皮膚外用剤の塗膜の耐油性と耐擦過性とを組み合わせると、相関係数が高くなり且つそれ単独で肌状態と肌実感の両方を同時に予測できることが分かる。
そして、皮膚外用剤の塗膜の耐水性、耐油性及び耐擦過性のすべてを組み合わせると、相関係数が最も高くなり且つ肌状態と肌実感の両方を同時に高い精度で予測できることが分かる。
【0074】
【表3】
【符号の説明】
【0075】
1 基板
10 皮膚外用剤の塗膜
11 水滴
12 擦過対象物
13 錘
図1
図2
図3
図4