(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171179
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】状態判定装置及び状態判定プログラム
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/09 20060101AFI20241204BHJP
【FI】
B23Q17/09 A
B23Q17/09 D
B23Q17/09 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088116
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100176072
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 功
(74)【代理人】
【識別番号】100169225
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 明
(72)【発明者】
【氏名】池田 淳
【テーマコード(参考)】
3C029
【Fターム(参考)】
3C029CC03
3C029CC07
3C029DD01
3C029DD11
3C029DD13
(57)【要約】
【課題】螺旋状の刃を有する工具であっても、工具の状態を精度よく判定可能な状態判定装置及び状態判定プログラムを提供する。
【解決手段】状態判定装置14は、工具(18)が装着された主軸(16)に作用するトルクの第一時系列データ、又は、主軸(16)に作用する推力の第二時系列データを取得するデータ取得部50と、取得された第一時系列データからワーク(W)の加工中におけるトルクの時間変化を示すトルク変化量を求め、又は、取得された第二時系列データから推力の時間変化を示す推力変化量を求め、トルク変化量又は推力変化量を用いて工具(18)の状態を判定する判定処理部52と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋状の刃を有し、ワークと接触した状態で回転しながら前記ワークを加工するための工具に関して、前記工具が装着された主軸に作用するトルクの第一時系列データ、又は、前記主軸に作用する推力の第二時系列データを取得するデータ取得部と、
前記データ取得部により取得された前記第一時系列データから前記ワークの加工中における前記トルクの時間変化を示すトルク変化量を求め、又は、前記データ取得部により取得された前記第二時系列データから前記推力の時間変化を示す推力変化量を求め、前記トルク変化量又は前記推力変化量を用いて前記工具の状態を判定する判定処理部と、
を備える、状態判定装置。
【請求項2】
前記トルク変化量は、前記トルクの一次変化量であり、
前記推力変化量は、前記推力の一次変化量である、
請求項1に記載の状態判定装置。
【請求項3】
前記工具の状態は、前記工具の摩耗度又は寿命を含み、
前記判定処理部は、前記トルク変化量又は前記推力変化量を説明変数とする回帰演算を通じて、前記工具の摩耗度又は寿命を推定する、
請求項2に記載の状態判定装置。
【請求項4】
前記工具の状態は、前記工具の正常又は異常を含み、
前記データ取得部は、前記主軸に作用する振動加速度の第三時系列データをさらに取得し、
前記判定処理部は、前記データ取得部により取得された前記第三時系列データから前記ワークの加工中における前記振動加速度の周波数スペクトルを求め、基準周波数における強度に対する任意の周波数における強度の比に基づいて前記工具の正常又は異常を判定する、
請求項1に記載の状態判定装置。
【請求項5】
螺旋状の刃を有し、ワークと接触した状態で回転しながら前記ワークを加工するための工具に関して、前記工具が装着された主軸に作用するトルクの第一時系列データ、又は、前記主軸に作用する推力の第二時系列データを取得する取得ステップと、
取得された前記第一時系列データから前記ワークの加工中における前記トルクの時間変化を示すトルク変化量を求め、又は、取得された前記第二時系列データから前記推力の時間変化を示す推力変化量を求め、前記トルク変化量又は前記推力変化量を用いて前記工具の状態を判定する判定ステップと、
を一つ又は複数のコンピュータに実行させる、状態判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、状態判定装置及び状態判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、工作機械の主軸に装着された工具によりワークを加工する際に、加工を通じて取得される物理量をモニタリングすることにより、工具の状態(例えば、正常/異常、摩耗度など)を判定する技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、複数の刃を有する工具の加工力の周波数特性に基づいて、工具に異常が生じたか否かを判断する工作機械が開示されている。具体的には、特許文献1には、加工力の振幅を周波数毎に求め、工具の回転周波数に刃数を乗算した周波数を切削周波数とする旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、工具として、螺旋状の刃を有するドリル又はタップが用いられる場合がある。この類の工具では、ワークの加工中に、工具の刃がワークの加工面に常に接触しており、上記した切削周波数が存在しないので、特許文献1に開示される判定方法を用いることができない。
【0006】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、螺旋状の刃を有する工具であっても、工具の状態を精度よく判定可能な状態判定装置及び状態判定プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一態様における状態判定装置は、螺旋状の刃を有し、ワークと接触した状態で回転しながら前記ワークを加工するための工具に関して、前記工具が装着された主軸に作用するトルクの第一時系列データ、又は、前記主軸に作用する推力の第二時系列データを取得するデータ取得部と、前記データ取得部により取得された前記第一時系列データから前記ワークの加工中における前記トルクの時間変化を示すトルク変化量を求め、又は、前記データ取得部により取得された前記第二時系列データから前記推力の時間変化を示す推力変化量を求め、前記トルク変化量又は前記推力変化量を用いて前記工具の状態を判定する判定処理部と、を備える。
【0008】
本発明の第二態様における状態判定装置では、前記トルク変化量は、前記トルクの一次変化量であり、前記推力変化量は、前記推力の一次変化量である。
【0009】
本発明の第三態様における状態判定装置では、前記工具の状態は、前記工具の摩耗度又は寿命を含み、前記判定処理部は、前記トルク変化量又は前記推力変化量を説明変数とする回帰演算を通じて、前記工具の摩耗度又は寿命を推定する。
【0010】
本発明の第四態様における状態判定装置では、前記工具の状態は、前記工具の正常又は異常を含み、前記データ取得部は、前記主軸に作用する振動加速度の第三時系列データをさらに取得し、前記判定処理部は、前記データ取得部により取得された前記第三時系列データから前記ワークの加工中における前記振動加速度の周波数スペクトルを求め、基準周波数における強度に対する任意の周波数における強度の比に基づいて前記工具の正常又は異常を判定する。
【0011】
本発明の第五態様における状態判定プログラムでは、螺旋状の刃を有し、ワークと接触した状態で回転しながら前記ワークを加工するための工具に関して、前記工具が装着された主軸に作用するトルクの第一時系列データ、又は、前記主軸に作用する推力の第二時系列データを取得する取得ステップと、取得された前記第一時系列データから前記ワークの加工中における前記トルクの時間変化を示すトルク変化量を求め、又は、取得された前記第二時系列データから前記推力の時間変化を示す推力変化量を求め、前記トルク変化量又は前記推力変化量を用いて前記工具の状態を判定する判定ステップと、を一つ又は複数のコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、螺旋状の刃を有する工具であっても、工具の状態を精度よく判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態における状態判定装置が組み込まれた加工システムの全体構成図である。
【
図2】
図1の状態判定装置が有する装置構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図1及び
図2に示す状態判定装置による状態判定動作の一例を示すフローチャートである。
【
図4】振動加速度の周波数スペクトルの一例を示す図である。
【
図5】ワークの加工前後におけるトルク及び推力の時間変化の一例を示す図である。
【
図6】工具の摩耗度に応じたトルクの時間変化の傾向の一例を示す図である。
【
図7】工具の摩耗度に対するトルク変化量又は推力変化量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0015】
[加工システム10の構成]
<全体構成>
図1は、本発明の一実施形態における状態判定装置14が組み込まれた加工システム10の全体構成図である。加工システム10は、ワークWを加工するために設けられている。この加工システム10は、具体的には、加工機12と、状態判定装置14と、を含んで構成される。
【0016】
加工機12は、主軸16に装着された工具18を回転させることにより、ワークWを加工する工作機械である。主軸16には、回転アクチュエータとしてのモータ20が取り付けられている。また、主軸16は、図示しない駆動機構によって、軸方向(Z軸方向)に進退可能に構成されている。工具18は、刃工具であってもよいし、複刃工具であってもよい。
【0017】
加工機12には、工具18の状態に相関する物理量を検出するためのセンサの集合体(以下、「センサ群22」という)が設けられている。
図1の例では、センサ群22は、電流センサ24と、トルクセンサ26と、推力センサ28と、振動加速度センサ30と、を含んで構成される。
【0018】
電流センサ24は、モータ20に流れる電流を測定するための検出器である。トルクセンサ26は、主軸16に作用するトルクを測定するための検出器である。推力センサ28は、主軸16に作用するZ軸方向の推力を測定するための検出器である。振動加速度センサ30は、主軸16に作用する振動加速度を測定するための検出器である。
【0019】
なお、センサ群22は、
図1に例示した構成に限られることなく、一部の構成を欠いてもよいし、他の種類のセンサを含んでもよい。また、物理量は、センサを通じて直接的に測定されてもよいし、センサから出力された検出値を用いて推定されてもよい。具体的には、トルクは、電流センサ24により検出された電流値を用いて推定されてもよい。また、推力は、電流センサ24により検出された電流値を用いて推定されてもよい。これにより、トルクセンサ26又は推力センサ28が省略され得る。
【0020】
状態判定装置14は、工具18の状態の判定を行うためのコンピュータである。状態判定装置14は、例えば、外付けの端末装置であってもよいし、クラウド型又はオンプレミス型のサーバ装置であってもよい。また、状態判定装置14は、加工機12の動作制御を司る上位装置、例えば、PLC(Programmable Logic Controller)であってもよい。
【0021】
<状態判定装置14のブロック図>
図2は、
図1の状態判定装置14が有する装置構成の一例を示すブロック図である。この状態判定装置14は、具体的には、インターフェース部40と、入力部42と、表示部44と、制御部46と、記憶部48と、を含んで構成される。
【0022】
インターフェース部40は、加工機12を含む外部装置に対してデータ信号を送受信するための機能部に相当する。インターフェース部40は、例えば、コネクタ40aと、通信モジュール40bと、を含んで構成される。これにより、状態判定装置14は、加工機12のセンサ群22から様々な時系列データ62を取得することができる。
【0023】
入力部42は、A/D変換器を含むロガー、マウス、キーボード、タッチセンサ、マイクロフォンを含むデバイスから構成される。表示部44は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイを含むデバイスから構成される。状態判定装置14は、入力部42による入力機能と表示部44による表示機能を組み合わせることで、ヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)を構築する。
【0024】
制御部46は、CPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processing Unit)を含む汎用プロセッサから構成されてもよいし、FPGA(Field Programmable Gate Array)又はGPU(Graphics Processing Unit)を含む専用プロセッサから構成されてもよい。制御部46は、記憶部48に格納されたプログラム及びデータを読み出して実行することで、データ取得部50、判定処理部52、及び表示制御部54として機能する。
【0025】
データ取得部50は、判定処理部52が実行する判定処理に用いられるデータ(つまり、後述する時系列データ62)を、センサ群22から直接的に、又は加工機12を経由して取得する。
【0026】
判定処理部52は、データ取得部50により取得された時系列データ62に基づいて、工具18の状態に関する判定処理を行う。工具18の「状態」には、例えば、[1]正常/異常などの定性的な状態、又は[2]摩耗度、新鮮度、寿命などの定量的な状態が含まれる。判定処理部52は、具体的には、異常検知部56、寿命予測部58、及び総合判定部60を備える。
【0027】
異常検知部56は、データ取得部50により取得された振動加速度の時系列データ62(後述する「第三時系列データ」)を用いて、工具18が異常であるか否かを検知するデータ処理(以下、「検知処理」ともいう)を行う。この検知処理には、例えば、[1]第三時系列データに対して高速フーリエ変換(FFT)を施して周波数スペクトルを求める「周波数解析処理」、[2]周波数スペクトルを正規化する「正規化処理」、及び[3]周波数スペクトルのピーク値又はピーク値同士を比較する「比較処理」が含まれる。
【0028】
異常検知部56は、例えば、第三時系列データからワークWの加工中における振動加速度の周波数スペクトルを求め、基準周波数における強度に対する任意の周波数における強度の比に基づいて工具18の正常又は異常を判定する。ここで、「周波数スペクトル」は、例えば、振幅の2乗(つまり、パワー)の周波数特性を示すパワースペクトルであってもよいし、パワーの平方根(つまり、振幅)の周波数特性を示す振幅スペクトルであってもよい。また、「基準周波数」とは、周波数スペクトルのピーク値が最大となる周波数に相当する。異常検知部56は、例えば、[1]基準周波数が有意に変化した場合、[2]2番目に大きいピーク値が閾値を上回った場合、又は[3]閾値を上回るピーク数が所定数に達した場合などに工具18が異常であると判定してもよい。
【0029】
寿命予測部58は、データ取得部50により取得されたトルク又は推力の時系列データ62(後述する「第一時系列データ」又は「第二時系列データ」)を用いて、工具18の摩耗度又は寿命を予測するデータ処理(以下、「予測処理」ともいう)を行う。この予測処理には、例えば、[1]時系列データ62からトルク変化量又は推力変化量を算出する「算出処理」、及び[2]算出された変化量を用いて回帰分析を行う「回帰分析処理」が含まれる。
【0030】
ここで、「トルク変化量」とは、トルクの時間変化を示す特徴量を意味する。また、「推力変化量」とは、推力の時間変化を示す特徴量を意味する。特徴量の一例として、時間の一次変化量、二次変化量、又はこれらの組み合わせが挙げられる。一次変化量は、例えば、時系列データ62の上包絡線、下包絡線又は移動平均を求め、得られた直線の傾きから算出される。
【0031】
また、回帰分析は、トルク変化量又は推力変化量を説明変数とし、工具18の摩耗度又は寿命を目的変数とする回帰モデルに基づいて行われる。回帰モデルは、統計的回帰モデルであってもよいし、機械学習を用いた回帰モデルであってもよい。回帰モデルの一例として、線形回帰(単回帰又は重回帰)、リッジ回帰、ラッソ回帰、エラスティックネット回帰、ロジスティック回帰、ランダムフォレスト、勾配ブースティング木、サポートベクターマシンなどが挙げられる。機械学習を用いた回帰モデルは、回帰演算器に対する学習処理を通じて導出される。
【0032】
総合判定部60は、異常検知部56による判定結果(つまり、一次判定の結果)及び寿命予測部58による判定結果(つまり、二次判定の結果)に基づいて、工具18の状態を総合的に判定する。
【0033】
表示制御部54は、画像を表示するための表示信号を生成し、該表示信号に基づいて表示部44に対する制御を行う。これにより、表示部44には、判定結果情報66を含む結果表示画面(不図示)が表示される。
【0034】
記憶部48は、制御部46が各構成要素を制御するのに必要なプログラム及びデータを記憶している。記憶部48は、非一過性であり、かつ、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体で構成されている。ここで、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体は、光磁気ディスク、ROM(Read Only Memory)、CD(Compact Disc)-ROM、フラッシュメモリなどの可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク(HDD:Hard Disk Drive)、ソリッドステートドライブ(SSD:Solid State Drive)などの記憶装置である。本図の例では、記憶部48には、時系列データ62、判定条件情報64、及び判定結果情報68が格納されている。
【0035】
時系列データ62は、工具18が装着された主軸16に作用する物理量の時間変化を示すデータである。例えば、時系列データ62には、[1]トルクの時系列データ(以下、「第一時系列データ」ともいう)、[2]推力の時系列データ(以下、「第二時系列データ」ともいう)、又は[3]振動加速度の時系列データ(以下、「第三時系列データ」ともいう)が含まれる。
【0036】
判定条件情報64は、判定処理部52による判定処理に用いられる判定条件を含む。判定条件には、例えば、[1]閾値判定のための閾値、[2]回帰分析のための回帰係数、又は[3]機械学習を通じて最適化された学習パラメータ群が含まれる。なお、判定条件は、工具18の種類毎又はワークWの種類毎に設けられてもよい。
【0037】
判定結果情報66は、判定処理部52による判定結果(一次判定、二次判定、又は総合判定の結果)を含む。この判定結果は、[1]判定処理の実行時点、[2]工具18の識別情報、又は[3]加工機12の管理者情報などと対応付けて格納されている。
【0038】
[状態判定装置14の動作]
この実施形態における状態判定装置14が組み込まれた加工システム10は、以上のように構成される。続いて、状態判定装置14による状態判定動作について、
図3のフローチャート及び
図4~
図7を参照しながら説明する。
【0039】
図3のステップSP10において、制御部46は、判定タイミングが到来したか否かを確認する。判定タイミングがまた到来していない場合(ステップSP10:NO)、制御部46は、判定タイミングが到来するまでの間、ステップSP10に留まる。そして、判定タイミングが到来した場合(ステップSP10:YES)、制御部46は、次のステップSP12に進む。
【0040】
ステップSP12において、制御部46のデータ取得部50は、加工機12の主軸16に作用するトルク、推力又は振動加速度の時系列データ62をセンサ群22から取得する。
【0041】
ステップSP14において、制御部46の判定処理部52(より詳しくは、異常検知部56)は、ステップSP12で取得された時系列データ62を用いて、工具18の一次判定(つまり、異常検知判定)を行う。
【0042】
図4は、振動加速度の周波数スペクトルの一例を示す図である。グラフの横軸は周波数(単位:Hz)を示すとともに、グラフの縦軸は正規化FFT値(単位:無次元)を示している。正規化FFT値は、各々のFFT値を最大値で除算した値であり、[0,1]の範囲で正規化された値に相当する。スペクトルSP1,SP2,SP3,SP4は、工具18の摩耗度が異なる場合の違いを示している。より詳しくは、スペクトルSP1→SP2→SP3→SP4に移行するにつれて、工具18の摩耗度が高くなっている。
【0043】
スペクトルSP1は、加工回数N=N1=1である新品の工具18を用いた場合における周波数特性に相当する。スペクトルSP1は、58~59Hz周辺に最も大きいピークを有する。スペクトルSP1は、ピーク周波数とは異なる周波数(低~高周波数帯域)にて複数のピークを有する。この複数のピークは、概ね0.5以下のピーク値を有するとともに、概ね10Hz以下のピーク幅を有している。
【0044】
スペクトルSP2は、加工回数N=N2(>N1)である工具18を用いた場合における周波数特性に相当する。スペクトルSP2は、スペクトルSP1と同様に、58~59Hz周辺に最も大きいピークを有する。スペクトルSP2は、150Hz以下の周波数帯域にて、スペクトルSP1と略同じ形状を有している。ところが、スペクトルSP2は、150Hz以上の周波数帯域、具体的には、300Hz及び350Hz周辺にて、幅が広い複数のピークが発生するようになる。
【0045】
スペクトルSP3は、加工回数N=N3(>N2)である工具18を用いた場合における周波数特性に相当する。スペクトルSP3は、スペクトルSP1,SP2と同様に、58~59Hz周辺に最も大きいピークを有する。ところが、スペクトルSP3は、20~40Hzの周波数帯域にて、ピーク値が0.5を超える複数のピークが発生している。また、スペクトルSP3は、100Hz以上の周波数帯域にて、全体のレベルが高くなっている。
【0046】
スペクトルSP4は、加工回数N=N4(>N3)である工具18を用いた場合における周波数特性に相当する。ここでは、工具18の刃が欠損している場合を想定する。スペクトルSP4は、スペクトルSP1~SP3と同様に、58~59Hz周辺に大きいピークを有する。ところが、スペクトルSP4は、刃の欠損に伴う二つの大きなピークが255Hz,382Hz周辺に出現している。その結果、正規化に伴って58~59Hz周辺のピーク値が大幅に低下する。
【0047】
このように、工具18の摩耗が進行するにつれて、スペクトルSP1~SP3の形状が徐々に変化する。そして、刃の欠損によって、スペクトルSP4は、他のスペクトルSP1~SP3とは異なる形状になる。相対強度の急激な変化を捉えることにより、工具18の異常を検知することができる。
【0048】
図3のステップSP16において、判定処理部52は、ステップSP14での一次判定の結果を確認する。判定処理部52は、「正常」であると判定された場合(ステップSP16:正常)にステップSP18に進む一方、「異常」であると判定された場合(ステップSP16:異常)に後述するステップSP20に進む。
【0049】
ステップSP18において、判定処理部52(より詳しくは、寿命予測部58)は、ステップSP12で取得された時系列データ62を用いて、工具18の第二判定(つまり、寿命予測判定)を行う。この予測に先立ち、寿命予測部58は、説明変数としてのトルク変化量又は推力変化量を算出する。
【0050】
図5は、ワークWの加工前後におけるトルク及び推力の時間変化の一例を示す図である。グラフの横軸は時間(単位:s)を示すとともに、グラフの縦軸はセンサ出力値(単位:トルクが[N・cm]、推力が[N])を示している。加工機12は、工具18を正転させながらワークWの加工を開始し、加工が終了した後、工具18を反転させながらワークWから取り外す、という一連の動作を繰り返す。そうすると、
図5に示すようなトルク(実線で図示)及び推力(破線で図示)の時系列データが得られる。以下、ワークWの搬入及び搬出を繰り返すことにより、この波形パターンの繰り返しが出現する。
【0051】
図6は、工具18の摩耗度に応じたトルクの時間変化の傾向の一例を示す図である。グラフの横軸は時間(単位:s)を示すとともに、グラフの縦軸はトルク(単位:N・cm)を示している。時間T1は、工具18を正転させながらワークWの加工を開始した時点に相当する。時間T2は、ワークWの加工を終了した時点(あるいは、工具18の反転を開始した時点)に相当する。時間T3は、工具18をワークWから取り外した時点に相当する。
【0052】
図面上側のトルク時系列TD1は、新品の工具18を用いた場合におけるトルクの挙動を示している。時間T1~T2の間に設定された計算区間CS1において、トルクの一次変化量(直線の傾き)が算出される。トルク時系列TD1の場合、トルクの一次変化量は、0に近い値になる。
【0053】
図面下側のトルク時系列TD2は、摩耗状態の工具18を用いた場合におけるトルクの挙動を示している。時間T1~T2の間に設定された計算区間CS2において、トルクの一次変化量(直線の傾き)が算出される。トルク時系列TD2の場合、トルクの一次変化量は、0よりも大きい正値になる。
【0054】
図7は、工具18の摩耗度に対するトルク変化量又は推力変化量の関係を示す図である。より詳しくは、
図7は、[1]トルク変化量(単位:N・cm/s)及び加工回数(単位:回)の対応関係、又は[2]推力変化量(単位:N/s)及び加工回数(単位:回)の対応関係をプロットした散布図に相当する。上側の散布図から理解されるように、トルク変化量と加工回数(つまり、工具18の摩耗度)の間には、正の相関がみられる。下側の散布図から理解されるように、推力変化量と加工回数(つまり、工具18の摩耗度)の間には、正の相関がみられる。
【0055】
図3のステップSP20において、判定処理部52(より詳しくは、総合判定部60)は、ステップSP14での一次判定の結果、又は、ステップSP18での二次判定の結果に基づいて、工具18の状態に関する総合判定を行う。この総合判定の結果は、判定結果情報66として保存される。
【0056】
ステップSP22において、状態判定装置14は、ステップSP20での総合判定の結果を表示する。この表示に先立ち、表示制御部54は、判定結果情報66を含む表示用データを生成し、該表示用データを表示部44に供給する。これにより、図示しない判定結果画面が表示部44に表示される。作業者は、表示部44に表示されている判定結果を視認することで、工具18の状態を一見して把握することができる。
【0057】
ステップSP24において、制御部46は、次に加工すべきワークWが存在するか否かを確認する。加工すべきワークWが存在する場合(ステップSP24:YES)、制御部46は、ステップSP10に戻った後、加工すべきワークWが存在しなくなるまでの間、ステップSP10~SP24を順次繰り返す。そして、加工すべきワークWが存在しなくなった場合(ステップSP24:NO)、制御部46は、
図3に示すフローチャートの実行、つまり、工具18の状態判定動作を終了する。
【0058】
[実施形態のまとめ]
以上のように、この実施形態における状態判定装置14は、螺旋状の刃を有し、ワークWと接触した状態で回転しながらワークWを加工するための工具18に関して、工具18が装着された主軸16に作用するトルクの第一時系列データ、又は、主軸16に作用する推力の第二時系列データを取得するデータ取得部50と、第一時系列データからワークWの加工中におけるトルクの時間変化を示すトルク変化量を求め、又は、第二時系列データから前記推力の時間変化を示す推力変化量を求め、トルク変化量又は推力変化量を用いて工具18の状態を判定する判定処理部52と、を備える。
【0059】
また、この実施形態における状態判定方法及びプログラムによれば、一つ又は複数のコンピュータが、工具18が装着された主軸16に作用するトルクの第一時系列データ、又は、主軸16に作用する推力の第二時系列データを取得する取得ステップ(SP12)と、第一時系列データからワークWの加工中におけるトルクの時間変化を示すトルク変化量を求め、又は、第二時系列データから前記推力の時間変化を示す推力変化量を求め、トルク変化量又は推力変化量を用いて工具18の状態を判定する判定ステップ(SP18)と、を実行する。
【0060】
螺旋状の刃を有する工具18では、ワークWの加工中に、工具18の刃がワークWの加工面に常に接触しており、工具18の回転周波数に刃数を乗算した固有の切削周波数が存在しない。この場合、トルクの時間変化を示すトルク変化量又は推力の時間変化を示す推力変化量を用いることにより、螺旋状の刃を有する工具18であっても、工具18の状態を精度よく判定することができる。
【0061】
また、トルク変化量は、トルクの一次変化量であり、推力変化量は、推力の一次変化量であってもよい。また、工具18の状態が、工具18の摩耗度又は寿命を含む場合、判定処理部52は、トルク変化量又は推力変化量を説明変数とする回帰演算を通じて、工具18の摩耗度又は寿命を推定してもよい。
【0062】
また、工具18の状態が、工具18の正常又は異常を含む場合、データ取得部50は、主軸16に作用する振動加速度の第三時系列データをさらに取得し、判定処理部52は、第三時系列データからワークWの加工中における振動加速度の周波数スペクトルを求め、基準周波数における強度に対する任意の周波数における強度の比に基づいて工具18の正常又は異常を判定してもよい。
【0063】
[変形例]
なお、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、この発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。あるいは、技術的に矛盾が生じない範囲で各々の構成を任意に組み合わせてもよい。あるいは、技術的に矛盾が生じない範囲でフローチャートを構成する各ステップの実行順を変更してもよい。
【符号の説明】
【0064】
10…加工システム、12…加工機、14…状態判定装置、16…主軸、18…工具、20…モータ、22…センサ群、44…表示部、46…制御部、50…データ取得部、52…判定処理部、62…時系列データ、W…ワーク