(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171187
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】駆動方式制御方法及び駆動方式制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20241204BHJP
G01C 21/36 20060101ALI20241204BHJP
B60K 17/356 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
B60L15/20 S
G01C21/36
B60K17/356 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088133
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アクス チャーダシ
(72)【発明者】
【氏名】山室 毅
【テーマコード(参考)】
2F129
3D043
5H125
【Fターム(参考)】
2F129AA03
2F129BB03
2F129DD13
2F129DD15
2F129DD19
2F129DD21
2F129DD48
2F129DD49
2F129EE02
2F129EE78
2F129EE79
2F129EE81
3D043AA01
3D043AB17
3D043EA05
3D043EB03
3D043EE01
3D043EF11
3D043EF21
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA05
5H125CA02
5H125CA18
5H125CD09
5H125EE05
5H125EE43
5H125EE51
5H125EE61
(57)【要約】
【課題】前後に電動機を有する車両において一方の電動機に駆動力配分を集中させるべきシーンにおいても、当該電動機の最大出力以下の出力領域をより有効に活用する。
【解決手段】FF駆動、RR駆動、及び4WDを選択的に切り替える電動車両100の駆動方式制御方法を提供する。特に、目的地x3までの予定走行経路[x0,x3]に関するルート情報I
roadに基づいて、予定走行経路上における要求出力の経時変化を示す要求出力プロファイルD
R(x)を算出し、要求出力プロファイルD
R(x)を参照して、予定走行経路内における高負荷区間[x2,x3]及び該高負荷区間の直前の低負荷区間を特定する。さらに、高負荷区間中の電動機温度T
Mが所定の上限温度T
lim未満となるように、低負荷区間における補正駆動方式を定め、当該補正駆動方式にしたがい駆動させるモータ10を切り替える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪及び後輪をそれぞれ駆動する電動機を備えた電動車両において、走行シーンに応じて、前記前輪を駆動する前記電動機のみを駆動させるフロント駆動、前記後輪を駆動する前記電動機のみを駆動させるリア駆動、及び双方の前記電動機を駆動させる四輪駆動を選択的に切り替える駆動方式制御方法であって、
定められた目的地までの予定走行経路に関するルート情報を取得し、
前記ルート情報に基づいて、前記予定走行経路上における前記電動車両に対する要求出力の経時変化を示す要求出力プロファイルを算出し、
前記要求出力プロファイルを参照して、前記予定走行経路内における高負荷区間及び該高負荷区間の直前の低負荷区間を特定し、
前記高負荷区間中の電動機温度が所定の上限温度未満となるように、前記低負荷区間における補正駆動方式を定め、
前記低負荷区間では、前記補正駆動方式にしたがい駆動させる前記電動機を切り替える、
駆動方式制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の駆動方式制御方法において、
前記電動車両が前記高負荷区間における規定の駆動方式に従って該高負荷区間を走行したと仮定した場合の前記電動機温度の最大上昇幅を推定し、
前記最大上昇幅を加味した上で、前記高負荷区間の走行中における前記電動機温度が前記上限温度未満となるように、前記低負荷区間が終了する際の前記電動機温度の目標値である低負荷終了時目標温度を算出し、
前記補正駆動方式で規定される駆動対象電動機の切り替えパターンを、前記低負荷終了時目標温度に基づいて定める、
駆動方式制御方法。
【請求項3】
請求項2に記載の駆動方式制御方法において、
前記低負荷区間における規定の駆動方式において駆動力配分の優先度が相対的に高い一方の前記電動機と、前記駆動力配分の優先度が相対的に低い他方の前記電動機と、を特定し、
前記補正駆動方式で規定される前記駆動対象電動機の切り替えパターンを、前記低負荷区間における規定の駆動方式に比べて、他方の前記電動機における前記駆動力配分の優先度が高くなるように定める、
駆動方式制御方法。
【請求項4】
請求項2に記載の駆動方式制御方法において、
前記予定走行経路における前記低負荷区間の直前に、前記電動車両の駆動系の温度を所望の目標暖機温度まで加熱するギア暖機区間をさらに設定し、
前記目標暖機温度に基づいて、前記低負荷区間が開始される際の前記電動機温度である低負荷開始時温度を推定し、
前記補正駆動方式で規定される前記駆動対象電動機の切り替えパターンを、前記電動機温度が前記低負荷区間を経て前記低負荷開始時温度から前記低負荷終了時目標温度に変化するように定る、
駆動方式制御方法。
【請求項5】
請求項4に記載の駆動方式制御方法において、
前記目標暖機温度に基づいて定まる前記低負荷開始時温度と前記低負荷終了時目標温度の差分が、前記低負荷区間中の前記補正駆動方式の設定により実現可能な温度変化幅を超える場合には、前記温度変化幅が実現できるように前記目標暖機温度を補正する、
駆動方式制御方法。
【請求項6】
請求項1に記載の駆動方式制御方法において、
前記補正駆動方式を適用した状態で、前記電動車両が実際に前記予定走行経路を走行している際の前記電動機温度を計測し、
計測した前記電動機温度に基づいて、前記電動機の切り替えパターンを修正する、
駆動方式制御方法。
【請求項7】
前輪及び後輪をそれぞれ駆動する電動機を備えた電動車両において、走行シーンに応じて、前記前輪を駆動する前記電動機のみを駆動させるフロント駆動、前記後輪を駆動する前記電動機のみを駆動させるリア駆動、及び双方の前記電動機を駆動させる四輪駆動を選択的に切り替える駆動方式制御装置であって、
定められた目的地までの予定走行経路に関するルート情報を取得し、
前記ルート情報に基づいて、前記予定走行経路上における前記電動車両に対する要求出力の経時変化を示す要求出力プロファイルを算出し、
前記要求出力プロファイルを参照して、前記予定走行経路内における高負荷区間及び該高負荷区間の直前の低負荷区間を特定し、
前記高負荷区間中の電動機温度が所定の上限温度未満となるように、前記低負荷区間における補正駆動方式を定め、
前記低負荷区間では、前記補正駆動方式にしたがい駆動させる前記電動機を切り替える、
駆動方式制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動方式制御方法及び駆動方式制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、前輪及び後輪のいずれか一方を駆動するエンジンと、前輪及び後輪のいずれか他方を駆動するモータと、モータに電力を供給するバッテリと、を備えた四輪駆動車両における走行モード制御方法が記載されている。
【0003】
特に、この走行モード制御方法では、車両の走行状態或いは所定のスイッチに対する操作に応じて走行モードを、エンジン及びモータの少なくともいずれか一方の駆動力で走行するノーマルモード、エンジン及びモータの双方の駆動力で走行する四輪駆動モード、及びモータの駆動力のみで走行するEVモードの間で切り替える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、駆動源を切り替え可能な四輪駆動車両を、けん引走行などの、車両特定及び電力消費効率の観点から一方側の駆動源のみを駆動させることが好ましい特殊な走行シーンで用いることも想定される。そして、このような走行シーンにおいて、駆動源としてのモータのみを駆動させて走行させると、登坂路などの高負荷な走行路面においてモータ温度が上昇して、耐熱保護のための出力制限がかかることがある。このため、実質的にモータ出力が、仕様上の最大出力よりも低い制限値以下に制限されることとなり、当該モータが持つ仕様上の最大出力以下の出力領域を有効に活用することができなくなる。
【0006】
したがって、本発明は、前後に電動機を有する車両において一方の電動機に駆動力配分を集中させるべきシーンにおいても、当該電動機の最大出力以下の出力領域をより有効に活用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、前輪及び後輪をそれぞれ駆動する電動機を備えた電動車両において、走行シーンに応じて、前輪を駆動する電動機のみを駆動させるフロント駆動、後輪を駆動する電動機のみを駆動させるリア駆動、及び双方の電動機を駆動させる四輪駆動を選択的に切り替える駆動方式制御方法が提供される。
【0008】
この駆動方式制御方法では、定められた目的地までの予定走行経路に関するルート情報を取得し、ルート情報に基づいて、予定走行経路上における電動車両に対する要求出力の経時変化を示す要求出力プロファイルを算出し、要求出力プロファイルを参照して予定走行経路内における高負荷区間及び該高負荷区間の直前の低負荷区間を特定し、高負荷区間中の電動機温度が所定の上限温度未満となるように、低負荷区間における補正駆動方式を定め、低負荷区間では、補正駆動方式にしたがい駆動させる電動機を切り替える。
【発明の効果】
【0009】
これにより、前後に電動機を有する車両において一方の電動機に駆動力配分を集中させるべきシーンにおいても、当該電動機の最大出力以下の出力領域をより有効に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態による駆動方式制御方法が適用される車両の前提構成を説明する図である。
【
図2】
図2は、一実施形態による駆動方式制御方法が適用されるシーンの一例を説明する図である。
【
図3】
図3は、電動機の損失と駆動力配分率の関係を示す図である。
【
図4】
図4は、補正駆動方式を設定するための制御ロジックを説明するフローチャートである。
【
図5】
図5は、走行時の駆動方式の修正処理を説明するフローチャートである。
【
図6】
図6は、一実施形態による駆動方式制御方法を実行した場合の制御結果の一例を説明する図である。
【
図7】
図7は、一実施形態による駆動方式制御方法を実行した場合の発熱熱抑制効果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0012】
図1は、本実施形態の駆動方式制御方法が適用される電動車両100の前提構成を説明する図である。なお、電動車両100としては、前後に独立して駆動可能な駆動装置としての各電動機ユニット10を備え、当該各電動機ユニット10の駆動力により走行可能な電気自動車又はハイブリッド自動車などが想定される。
【0013】
特に、電動機ユニット10は、電動車両100の前方の位置(前輪側)に設けられ前輪11fを駆動する前輪側電動機ユニット10fと、後方の位置(後輪側)に設けられ後輪11rを駆動する後輪側電動機ユニット10rと、により構成される。
【0014】
前輪側電動機ユニット10f及び後輪側電動機ユニット10rは、それぞれ、三相交流電動機などにより構成されるモータと、図示しない車載バッテリから当該モータに供給する電力を調節する電力変換器(インバータ)と、を含む。
【0015】
なお、以下では記載の簡略化のため、「電動機ユニット10」の主要構成である“モータ”に着目し、「電動機ユニット10」を「モータ10」と表記する。また、「前輪側電動機ユニット10f」及び「後輪側電動機ユニット10r」もそれぞれ、「フロントモータ10f」、及び「リアモータ10r」と表記する。
【0016】
フロントモータ10f及びリアモータ10rは、力行時において車載バッテリから電力の供給を受けて駆動力を発生し、それぞれ前輪側駆動系(フロントギアボックス21f)及び後輪側駆動系(リアギアボックス21r)を介して前輪11f及び後輪11を駆動する。一方、フロントモータ10f及びリアモータ10rは回生時において、それぞれ、前輪11f及び後輪11rの回生制動力を交流電力に変換して、車載バッテリに供給する。
【0017】
さらに、電動車両100には、駆動方式制御装置として機能するコントローラ50が設けられている。コントローラ50は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたコンピュータで構成され、後述する各処理を実行できるようにプログラムされている。コントローラ50の機能は、車両コントローラ(VCM:Vehicle Control Module)、モータコントローラ等の任意の車載コンピュータ、及び/又は電動車両100の外部に設置されるコンピュータにより実現することができる。なお、コントローラ50は一台のコンピュータハードウェアにより実現されても良いし、複数台のコンピュータハードウェアにより各種処理を分散させることで実現しても良い。
【0018】
特に、コントローラ50は、モータ温度TM、ギアボックス温度TG、外気温Tex、及びルート情報Iroadに基づいて、電動車両100の駆動方式を制御する。
【0019】
モータ温度TMは、各モータ10f,10Rの温度を表すパラメータであり、例えば、サーミスタ等の温度センサで得られる検出値に基づいて定まる。なお、以下では、特に、フロントモータ10fのモータ温度TMを「フロントモータ温度TMf」、及びリアモータ10rのモータ温度TMを「リアモータ温度TMr」と表記する。
【0020】
ギアボックス温度TGは、各ギアボックス21f,21Rの温度を表すパラメータであり、例えば、ギアオイル温度を検出する温度センサで得られる検出値に基づいて定まる。なお、以下では、特に、フロントギアボックス21fのギアボックス温度TGを「フロントギアボックス温度TGf」、及びリアギアボックス21rのギアボックス温度TGを「リアギアボックス温度TGr」と表記する。
【0021】
外気温Texは、外気の温度を表すパラメータであり、例えば、外気温センサで得られる検出値に基づいて定まる。
【0022】
ルート情報Iroadは、電動車両100の現在位置(制御開始地)を基点とし、当該車両の乗員の操作などに応じて定められた目的地までの走行経路(以下、「予定走行経路」と表記)に関する各種情報である。特に、ルート情報Iroadには、現在位置情報、予定走行経路における勾配情報及び平均車速情報などの、当該予定走行経路を走行する際の電動車両100に対する要求出力DR(要求駆動力)のプロファイル(以下、「要求出力プロファイルDR(x)」と表記する)を演算するために必要な情報が含まれる。なお、ルート情報Iroadは、車載のナビゲーションシステム及びGPSシステムなどにより得られる。
【0023】
特に、本実施形態において、コントローラ50は、各種入力情報に基づいて、フロントモータ10fのみを駆動させるFF駆動、リアモータ10rのみを駆動させるRR駆動、及び双方のモータ10f,10Rを駆動させる4WD駆動を選択的に切り替える。以下、本実施形態の駆動方式制御方法の詳細を説明する。
【0024】
図2は、本実施形態による駆動方式制御方法の概要を説明する図である。
図2では、本実施形態では、電動車両100がけん引走行している状態で予定走行経路[x0,x3]を走行するシーンにおいて、特有の駆動方式制御を適用する例を示している。
【0025】
より具体的に、本実施形態では、上記ルート情報Iroadを参照して要求出力プロファイルDR(x)を算出し、当該要求出力プロファイルDR(x)とギアボックス21の暖機要求を参照することで、制御開始地x0から目的地x3までに亘る予定走行経路[x0,x3]内に、ギア暖機区間[x0,x1]、低負荷区間[x1,x2]、及び高負荷区間[x2,x3]を設定する。
【0026】
ギア暖機区間[x0,x1]は、ギアボックス温度TGを所望の目標暖機温度TG_tまで暖機するための処理を行うために定める区間である。特に、ギア暖機区間[x0,x1]では、フロントギアボックス温度TGf及びリアギアボックス温度TGrを、バランス良くそれぞれに定められた目標暖機温度TGf_t,TGr_tに近づけるように、駆動方式をFF駆動及びRR駆動の間で切り替える。
【0027】
低負荷区間[x1,x2]は、ギアボックス21の暖機が終了する時点(予定走行経路[x0,x3]上の位置)を基点として、要求出力プロファイルDR(x)上における要求出力DRが基準よりも低い区間として定められる。なお、「要求出力DRが基準よりも低い区間」とは、リアモータ10rのみを駆動を継続させた場合(4WDへの切り替えを実行しない場合)であっても、当該リアモータ10rの出力のみで賄うことができる程度の要求出力DRが一定距離に亘って継続する区間を意味する。より具体的に、低負荷区間[x1,x2]としては、例えば、一定距離に亘る平坦路又は低勾配の登坂路が想定される。
【0028】
また、低負荷区間[x1,x2]では、規定駆動方式としてRR駆動が設定される。ここで、車両の後輪側に重量負荷が集中するけん引走行時であって、一方のモータ10のみを駆動させるだけでも要求出力DRを満たすことができる場合、消費電力効率の向上及び良好な車両性能を実現する観点から、駆動方式を4WDに設定するよりもRR駆動とする方が好ましい。このため、低負荷区間[x1,x2]においてはRR駆動を維持することで、消費電力効率及び車両性能の最適化を図ることができる。
【0029】
さらに、高負荷区間[x2,x3]は、低負荷区間[x1,x2]と連続して要求出力プロファイルDR(x)上における要求出力DRが基準よりも高い区間として定められる。より具体的に、高負荷区間[x2,x3]としては、例えば、一定距離に亘る平坦路又は低勾配の登坂路が想定される。
【0030】
また、高負荷区間[x2,x3]では、規定駆動方式としてFF駆動、RR駆動、及び4WDの何れかが設定される。例えば、けん引状態で高負荷区間[x2,x3]を走行する場合には、低負荷区間[x1,x2]の走行中と同様にRR駆動をベースとしながらも、走行路面状況や要求出力DRの大きさなどに応じて、適宜、FF駆動又は4WDを設定する駆動方式が採用される。
【0031】
一方で、低負荷区間[x1,x2]の規定駆動方式に従って当該低負荷区間[x1,x2]の走行中にRR駆動を維持し続けると、リアモータ10rの発熱量が過剰となり、リアモータ温度TMrが耐熱保護の観点から定められた上限温度Tlimに達するおそれがある。
【0032】
図3は、各モータ10f,10rにおける駆動力配分率(%)と損失と関係を示す図である。特に、
図3(a)には、リア駆動力配分率に応じてフロントモータ10f及びリアモータ10rのそれぞれで生じる損失を示す。また、
図3(b)には、リア駆動力配分率に対する各モータ10f,10rのトータル損失を示す。
【0033】
先ず、
図3(a)に示すように、フロントモータ10f及びリアモータ10rにおいては、それぞれの駆動力配分率が大きくなるほど損失(発熱量)が大きくなる。特に、一方のモータ10における駆動力配分率を一定値以上にすると、当該モータ10の損失が許容値(冷却が可能となる上限損失)を超える。このため、上述したように、駆動方式をRR駆動に維持し続ける低負荷区間[x1,x2]においてはリアモータ温度T
Mrが増加し続けることとなる。その上で、後に駆動方式が4WDに設定される高負荷区間[x2,x3]に移行するため、リアモータ温度T
Mrの増加が継続して上限温度T
limに達するおそれがある。
【0034】
その一方で、
図3(b)に示すように、一方のモータ10のみを駆動させる場合(リア駆動力配分率=0%又は100%の場合)、フロントモータ10f及びリアモータ10rにおけるトータル損失は、駆動方式を4WDに設定する場合(0%<リア駆動力配分率<100%の場合)と比べて大幅に低減される。このため、
図2に示すシーンにおいて、走行時の消費電力効率を向上させる観点からは、低負荷区間[x1,x2]においてできるだけRR駆動を実行することが望ましい。
【0035】
以上の点に鑑み、本実施形態では、リアモータ温度TMrを上限温度Tlim未満に維持しつつも所望の車両性能を実現して、さらに消費電力効率を高めるべく、低負荷区間[x1,x2]中において、適宜、FF駆動、RR駆動、及び4WDを切り替える補正駆動方式を採用する。以下、その詳細を説明する。
【0036】
図4は、補正駆動方式を設定するための制御ロジックを説明するフローチャートである。
図4及び後述する
図5に示す各処理は、コントローラ50によって実行される。
【0037】
図示のように、本実施形態の駆動方式制御方法では先ず、ステップS110において、ルート情報Iroadを取得する。そして、ステップS120において、ルート情報Iroadから要求出力プロファイルDR(x)を算出する。
【0038】
より詳細には、コントローラ50は、ルート情報Iroadに含まれる予定走行経路[x0,x3]上の勾配及び平均車速(法定車速)から要求出力プロファイルDR(x)を算出する。なお、ルート情報Iroadに加えて、車載の各種センサ類により得られるか、又はセンサ類で得られる検出値から演算可能であり、電動車両100の走行負荷に影響を与え得る各種パラメータ(転がり抵抗や空気抵抗など)を加味して、要求出力プロファイルDR(x)を演算しても良い。
【0039】
次に、ステップS130において、コントローラ50は、要求出力プロファイルDR(x)から基本モータ温度プロファイルTM(x)を算出する。ここで、基本モータ温度プロファイルTM(x)は、上述した規定駆動方式を用いることを仮定した場合の、予定走行経路[x0,x3]の走行中におけるモータ温度TM(特に、リアモータ温度TMr)のプロファイルとして定まる。
【0040】
具体的に、コントローラ50は、予め準備されたマップを参照して、要求出力プロファイルDR(x)及び規定駆動方式に応じたリア駆動力配分率などから、基本モータ温度プロファイルTM(x)を求める。
【0041】
ステップS140において、コントローラ50は、基本モータ温度プロファイルTM(x)に基づいて、リアモータ温度TMrが上限温度Tlim以上となり得るかを判定する。より詳細には、コントローラ50は、基本モータ温度プロファイルTM(x)上で、値が上限温度Tlim以上となる点が存在するかを判定する。
【0042】
コントローラ50は、ステップS140の判定結果が否定的である場合には、上述した規定駆動方式を設定して(ステップS190)、本処理を終了する。
【0043】
一方、コントローラ50は、ステップS140の判定結果が肯定的である場合には、ステップS150以降の処理を実行する。
【0044】
ステップS150において、コントローラ50は、高負荷区間[x2,x3]を特定する。具体的に、コントローラ50は、要求出力プロファイルDR(x)上でリアモータ温度TMrが上限温度Tlimを以上となる点を含み、且つ要求出力DRが基準よりも高い区間を高負荷区間[x2,x3]とする。
【0045】
ステップS160において、コントローラ50は、低負荷終了時目標温度TM_tを算出する。ここで、低負荷終了時目標温度TM_tは、電動車両100が規定駆動方式で高負荷区間[x2,x3]を走行することを仮定した場合であっても、モータ温度TM(特にリアモータ温度TMr)が上限温度Tlim未満に維持されるように定められた、低負荷区間[x1,x2]が開始される際のモータ温度TM(特にリアモータ温度TMr)の目標値である。
【0046】
具体的に、コントローラ50は、予め準備されたマップを参照して、電動車両100が規定駆動方式(4WD)で高負荷区間[x2,x3]を走行したと仮定した場合における、リアモータ温度TMrの最大上昇幅ΔTMr[x2,x3]を演算する。さらに、コントローラ50は、α+ΔTMr[x2,x3]<Tlim満たし得るできるだけ大きい値αを低負荷終了時目標温度TM_t(x2)に定める。
【0047】
さらに、ステップS170において、コントローラ50は、低負荷区間[x1,x2]を特定する。具体的に、コントローラ50は、高負荷区間[x2,x3]の直前で当該高負荷区間[x2,x3]に連続し、要求出力DRが基準よりも低く、且つギアボックス21の暖機のために設けられるギア暖機区間[x0,x1]を除いた区間を低負荷区間[x1,x2]とする。
【0048】
ステップS180において、コントローラ50は、低負荷区間[x1,x2]における駆動方式を上述した補正駆動方式に設定する。
【0049】
より具体的に、先ず、コントローラ50は、ギア暖機区間[x0,x1]中に設定される規定駆動方式(FF駆動とRR駆動の交互切り替え)に基づくリアモータ温度TMrの変化量を推定し、当該リアモータ温度TMrの変化量と、ギア暖機区間[x0,x1]が終了するときのリアギアボックス温度TGr(すなわち、目標暖機温度TGr_t)と、に基づいて低負荷区間[x1,x2]が開始される際のリアモータ温度TMrの予測値(以下、「低負荷開始時温度TMr_e(x1)」と表記する)を演算する。さらに、コントローラ50は、リアモータ温度TMrが低負荷区間[x1,x2]を経て低負荷開始時温度TMr_e(x1)から低負荷終了時目標温度TM_tに変化させ得る駆動対象電動機の切り替えパターンを演算し、これを低負荷区間[x1,x2]における補正駆動方式とする。
【0050】
特に、コントローラ50は、リアモータ10rに駆動力配分を集中させた規定駆動方式(RR駆動維持)に対して、フロントモータ10fに割り当てられる駆動力配分の優先度が高くなるように補正駆動方式を定める。より具体的には、低負荷区間[x1,x2]の少なくとも一部における駆動方式として、FF駆動又は4WDを設定する。これにより、低負荷区間[x1,x2]中において、規定駆動方式が設定される場合に比べてリアモータ温度TMrの増加を抑制するか、又はリアモータ温度TMrを減少させることができる。したがって、低負荷区間[x1,x2]中に、FF駆動、RR駆動、及び4WDが適切なバランスで切り替わる補正駆動方式を定めることで、低負荷区間[x1,x2]の終了時におけるリアモータ温度TMrを、低負荷終了時目標温度TM_tに調節することができる。
【0051】
以上の制御ロジックによって得られる低負荷区間[x1,x2]の補正駆動方式に基づいて、各モータ10f,10rを制御することで、リアモータ温度TMrを上限温度Tlim未満に維持しつつも所望の車両性能を実現した上で、さらに消費電力効率を最適化することができる。
【0052】
さらに、ステップS200において、コントローラ50は、補正モータ温度プロファイルTMc(x)を算出する。ここで、補正モータ温度プロファイルTMc(x)は、低負荷区間[x1,x2]に補正駆動方式を設定したことを前提した、予定走行経路[x0,x3]におけるモータ温度TM(特にリアモータ温度TMr)のプロファイルとして定まる。特に、コントローラ50は、補正モータ温度プロファイルTMc(x)を、ギア暖機区間[x0,x1]中の温度プロファイル、補正駆動方式を適用した低負荷区間[x1,x2]中の温度プロファイル、及び初期温度を低負荷終了時目標温度TM_tとした高負荷区間[x2,x3]中の温度プロファイルを合成することで求める。
【0053】
次に、上記補正駆動方式を適用することを前提とし、電動車両100が予定走行経路[x0,x3]を実際に走行している過程において行われる駆動方式の修正処理について説明する。
【0054】
図5は、駆動方式の修正処理を説明するフローチャートである。なお、以下では、電動車両100の現在位置を「a」(すなわち、座標x=a)と表し、電動車両100が当該位置にある際に各演算を実行するものとして説明を行う。
【0055】
図示のように、当該補正演算では、コントローラ50は、リアモータ温度計測値TMr_dを取得し(ステップS310)、当該リアモータ温度計測値TMr_dが上記補正モータ温度プロファイルTMc(x)に基づく予測温度TMc(a)に一致するかを判定する(ステップS320)。
【0056】
そして、コントローラ50は、当該判定結果が否定的であると、駆動方式修正演算を実行する(ステップS330)。具体的に、コントローラ50は、電動車両100の現在の位置(x=a)を
図4に示す各処理の基点となる制御開始地として、ステップS110~S200で規定される各処理を実行する。
【0057】
なお、リアモータ温度計測値TMr_dと予測温度TMc(a)の一致判定結果に基づく駆動方式修正演算は、電動車両100が目的地x3に到達するまで繰り返し実行される(ステップS340)。
【0058】
図5に示す各処理を実行することで、
図4の処理に基づき事前に演算した補正駆動方式で規定される駆動対象電動機の切り替えパターンが、走行中における種々の外乱要素(路面状態や天候の影響など)の変動によって適切ではなくなっても、走行中の実計測値に基づいて適宜、再演算を行って修正することができる。
【0059】
次に、上記本実施形態の駆動方式制御方法を実行した場合の制御結果について説明する。
【0060】
図6は、本実施形態の駆動方式制御方法を実行した場合における制御結果の一例を説明する図である。特に、
図6(a)は予定走行経路[x0,x3]の走行過程における各モータ温度T
Mf,T
Mrのプロファイルを示し、
図6(b)は、各ギアボックス温度T
Gf,T
Grのプロファイルを示す。
【0061】
図6に示す例では、ギア暖機区間[x0,x1]において各ギアボックス温度T
Gf,T
Grが所望の目標暖機温度T
G_tに到達したタイミング(x=x1)において、電動車両100が低負荷区間[x1,x2]に突入する。すなわち、双方のギアボックス21f,21Rに対して要求される暖機を終了させたタイミング以降に、通常の駆動方式制御が開始されることとなるため、ギアボックス21f,21rの摩擦による損失を抑えられ、走行時の電力消費効率を向上させることができる。
【0062】
また、低負荷区間[x1,x2]に突入すると、一定区間[x1,x2´]の間、RR駆動が維持される。すなわち、当該区間ではリア駆動力配分率が100%に設定される。このため、
図3(a)に示す特性に従い、フロントモータ10fが冷却される(フロントモータ温度T
Mfが減少する)一方で、リアモータ10rが加熱される(リアモータ温度T
Mrが増加する)。
【0063】
そして、電動車両100が一定区間[x1,x2´]の終了点である位置x2´に到達すると、
図4の各処理で定めた補正駆動方式に従い、駆動方式がRR駆動からFF駆動に切り替わる。すなわち、一定区間[x1,x2´]においては、走行時の電力消費効率及び車両性能の最適化の観点から本来優先的に駆動力を配分すべきリアモータ10rに代え、フロントモータ10fに全駆動力が配分されることとなる。このため、当該一定区間[x1,x2´]においてはリアモータ10rの加熱が抑制される。より詳細には、リアモータ10rが冷却されて、リアモータ温度T
Mrが減少する。結果として、低負荷区間[x1,x2]の終了時(高負荷区間[x2,x3]への突入時)におけるリアモータ温度T
Mrを、高負荷区間[x2,x3]において上限温度T
limを超えないように定めた低負荷終了時目標温度T
M_tに調節することができる。
【0064】
さらに、電動車両100が高負荷区間[x2,x3]への突入以降は、当該高負荷区間[x2,x3]において定められた規定駆動方式(主に4WD)が適用される。このとき、上述のように、高負荷区間[x2,x3]への突入時におけるリアモータ温度TMrが低負荷終了時目標温度TM_tに調節されているので、高負荷区間[x2,x3]中のリアモータ温度TMrが上限温度Tlim未満に維持されることとなる。
【0065】
また、
図7は、本実施形態の駆動方式制御方法を実行した場合の発熱熱抑制効果を説明する図である。図示のように、電動車両100が予定走行経路[x0,x3]を走行するにあたり上記補正駆動方式を採用した場合におけるトータル内部発熱量は、予定走行経路[x0,x3]における全区間で駆動方式を2WD(リアモータ10rのみ駆動)とした場合、又は4WDとした場合に比べて低下することとなる。
【0066】
したがって、電動車両100が、リアモータ10rに駆動力配分を集中させる低負荷区間[x1,x2]を経て高負荷区間[x2,x3]に突入するシーンにおいて、リアモータ10rの過剰昇温に起因した出力制限を回避して当該高負荷区間[x2,x3]で求められる車両出力性能を満たした上で、走行時の電力消費効率の最適化を図ることができる。
【0067】
結果として、各モータ10f,10rにおける仕様上の最大出力以下の領域をより有効活用して、同一のモータ仕様に対して対応可能な走行シーン(より詳細には、けん引時や高積載量時などの走行条件や勾配路などの路面状況)の幅を広げることができる。特に、けん引時などの特殊な駆動力配分が要求される場合(一方のモータ10に駆動力配分が集中する場合)に対しても、より大型モータを採用するなどの手段を取らずに対応することができ、コストの増大や構造の大型化を避けることができる。
【0068】
以上説明した本実施形態の駆動方式制御方法によれば、以下の作用効果を奏する。
【0069】
本実施形態では、前輪11f及び後輪11rをそれぞれ駆動する電動機(モータ10f,10R)を備えた電動車両100において、走行シーンに応じて、前輪11fを駆動するフロントモータ10fのみを駆動させるフロント駆動(FF駆動)、後輪11rを駆動するリアモータ10rのみを駆動させるリア駆動(RR駆動)、及び双方のモータ10f,10Rを駆動させる四輪駆動(4WD)を選択的に切り替える駆動方式制御方法が提供される。
【0070】
この駆動方式制御方法では、定められた目的地x3までの予定走行経路[x0,x3]に関するルート情報Iroadを取得し、ルート情報Iroadに基づいて、予定走行経路[x0,x3]上における電動車両100に対する要求出力DRの経時変化を示す要求出力プロファイルDR(x)を算出し、要求出力プロファイルDR(x)を参照して、予定走行経路[x0,x3]内における高負荷区間[x2,x3]及び該高負荷区間[x2,x3]の直前の低負荷区間[x1,x2]を特定する。そして、高負荷区間[x2,x3]中の電動機温度(本実施形態ではリアモータ温度TMr)が所定の上限温度Tlim未満となるように、低負荷区間[x1,x2]における補正駆動方式を定め、低負荷区間[x1,x2]では当該補正駆動方式にしたがい駆動させるモータ10を切り替える。
【0071】
これにより、一方のモータ10に対する駆動力配分を優先させる低負荷区間[x1,x2]を経て高負荷区間[x2,x3]に突入する走行シーンにおいて、走行時の電力消費効率及び車両性能の最適化を図りつつ、電動車両100に対する要求出力DRを満たしながらモータ10の過剰昇温を抑制することができる。すなわち、各モータ10f,10rにおける仕様上の最大出力以下の出力領域をより有効に活用することができ、同一仕様のモータ10f,10rによって対応可能なシーンの幅を広げ、コスト削減及び車両内部構造のコンパクト化を図ることができる。
【0072】
特に、本実施形態では、電動車両100が高負荷区間[x2,x3]における規定の駆動方式(4WD)に従って該高負荷区間[x2,x3]を走行したと仮定した場合のモータ温度TMの最大上昇幅ΔTMr[x2,x3]を推定する。そして、最大上昇幅ΔTMr[x2,x3]を加味した上で、高負荷区間[x2,x3]の走行中におけるモータ温度TMが上限温度Tlim未満となるように、低負荷区間[x1,x2]が終了する際のモータ温度TMの目標値である低負荷終了時目標温度TM_tを算出する。そして、補正駆動方式で規定される駆動対象電動機の切り替えパターンを、低負荷終了時目標温度TM_tに基づいて定める。
【0073】
これにより、低負荷区間[x1,x2]において設定する補正駆動方式(FF駆動、RR駆動、及び4WDの間の切り替えパターン)を定めるためのより具体的な制御ロジックを実現することができる。
【0074】
さらに、本実施形態では、低負荷区間[x1,x2]における規定の駆動方式(RR駆動)において駆動力配分の優先度が相対的に高い一方のモータ10(本実施形態ではリアモータ10r)と、駆動力配分の優先度が相対的に低い他方のモータ10(本実施形態ではフロントモータ10f)と、を特定する。そして、補正駆動方式で規定される駆動対象電動機の切り替えパターンを、低負荷区間[x1,x2]における規定の駆動方式に比べて、他方のモータ10(本実施形態ではフロントモータ10f)における駆動力配分の優先度が高くなるように定める。
【0075】
これにより、高負荷区間[x2,x3]の走行中におけるモータ温度TMが上限温度Tlim未満とするように定めた低負荷終了時目標温度TM_tを実現する観点から適切な駆動対象電動機の切り替えパターンを定めるためのより具体的な制御ロジックを実現することができる。
【0076】
また、本実施形態では、予定走行経路[x0,x3]内における低負荷区間[x1,x2]の直前に、電動車両100の駆動系(ギアボックス21f,21r)の温度(ギアボックス温度TG)を所望の目標暖機温度TG_tまで加熱するギア暖機区間[x0,x1]をさらに設定する。そして、目標暖機温度TG_tに基づいて、低負荷区間[x1,x2]が開始される際のモータ温度TMである低負荷開始時温度TMr_e(x1)を算出する。さらに、補正駆動方式で規定される駆動対象電動機の切り替えパターンを、モータ温度TM(本実施形態ではリアモータ温度TMr)が低負荷区間[x1,x2]を経て低負荷開始時温度TMr_e(x1)から低負荷終了時目標温度TM_tに変化するように定められる。
【0077】
これにより、ギアボックス21f,21rの摩擦による損失を抑えて電力消費効率を高めるためのギア暖機区間[x0,x1]を設けることを加味した上で、低負荷区間[x1,x2]における補正駆動方式を適切に定めるための具体的な制御ロジックを実現することができる。
【0078】
なお、目標暖機温度TG_tに基づいて定まる低負荷開始時温度TMr_e(x1)と低負荷終了時目標温度TM_tの差分が、低負荷区間[x1,x2]中の駆動方式の調節により実現可能な温度変化幅を超える場合には、上記温度変化幅が実現できるように目標暖機温度TG_tを補正する(ギア暖機の終了タイミングを調節する)制御ロジックを採用しても良い。
【0079】
これにより、ギア暖機区間[x0,x1]において、ギアボックス21f,21rを最適温度まで暖機すべき要求、及び許容限度を超えたモータ温度TMの増大に係る要求(耐熱保護の要求)の双方を両立できないシーンにおいて、安全性上の観点からより重要な耐熱保護の要求を優先させることができる。
【0080】
さらに、本実施形態では、上記補正駆動方式を適用した状態で、電動車両100が実際に予定走行経路[x0,x3]を走行している際のモータ温度TMを計測し、
計測したモータ温度TM(特に、リアモータ温度計測値TMr_d)に基づいて、モータ10の切り替えパターンを修正する。
【0081】
これにより、事前に定めた補正駆動方式で規定される駆動対象電動機の切り替えパターンが、走行中における種々の外乱要素(路面状態や天候の影響など)の変動によって適切ではなくなっても、走行中の実計測値に基づいて適宜修正することができる。
【0082】
また、本実施形態では、上記駆動方式制御方法の実施に適した車両駆動制御装置として機能するコントローラ50が提供される。
【0083】
特に、この車両駆動制御装置は、目的地x3までの予定走行経路[x0,x3]に関するルート情報Iroadを取得し、ルート情報Iroadに基づいて、予定走行経路[x0,x3]上における電動車両100に対する要求出力DRの経時変化を示す要求出力プロファイルDR(x)を算出し、要求出力プロファイルDR(x)を参照して、予定走行経路[x0,x3]内における高負荷区間[x2,x3]及び該高負荷区間[x2,x3]の直前の低負荷区間[x1,x2]を特定する。そして、高負荷区間[x2,x3]中の電動機温度(本実施形態ではリアモータ温度TMr)が所定の上限温度Tlim未満となるように、低負荷区間[x1,x2]における補正駆動方式を定め、低負荷区間[x1,x2]では当該補正駆動方式にしたがい駆動させるモータ10を切り替える。
【0084】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0085】
例えば、上記実施形態では、予定走行経路[x0,x3]において一の高負荷区間[x2,x3]が含まれるシーンの前提とする制御について説明した。しかしながら、これに限られず、予定走行経路に複数の高負荷区間が離散的に含まれているシーンにおいて、上記の制御を適用しても良い。より具体的には、予定走行経路中に、低負荷区間と高負荷区間を複数組設定する場合であっても、適宜必要なロジック上の修正を行いつつ、本実施形態で説明した駆動方式制御を適用することが可能である。特にこの場合、例えば、各高負荷区間におけるモータ温度TMが上限温度Tlim未満となるよう、直前の各低負荷区間が終了するときのモータ温度TMを低負荷終了時目標温度TM_tに調節するべく当該各低負荷区間の補正駆動方式を設定することで、同様の作用効果を得ることができる。
【0086】
また、低負荷区間[x1,x2]が一定以上の長さに亘るなどの理由により、RR駆動を維持することで当該低負荷区間[x1,x2]の走行中(高負荷区間[x2,x3]に至る前)にモータ温度TMが上限温度Tlimに到達し得る場合には、これを回避することも考慮して低負荷区間[x1,x2]における補正駆動方式を設定しても良い。
【符号の説明】
【0087】
10 モータ
10f フロントモータ
10r リアモータ
11 後輪
11f 前輪
11r 後輪
21 ギアボックス
21f フロントギアボックス
21r リアギアボックス
50 コントローラ
100 電動車両