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特開2024-171192プラント管理装置、プラント管理装置の制御方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171192
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】プラント管理装置、プラント管理装置の制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20241204BHJP
   G21C 17/00 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
G05B23/02 301X
G21C17/00 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088139
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 博之
【テーマコード(参考)】
2G075
3C223
【Fターム(参考)】
2G075AA01
2G075BA12
2G075CA02
2G075EA03
3C223AA03
3C223CC02
3C223DD03
3C223EB01
3C223EB02
3C223EB03
3C223FF02
3C223FF04
3C223FF13
3C223FF16
3C223FF26
3C223FF35
3C223GG01
3C223GG03
3C223HH03
3C223HH13
3C223HH15
(57)【要約】
【課題】プラントに生じた異変の状態をより適切に把握する。
【解決手段】プラントの制御を分担する系統毎に、上流系統からの影響の受けやすさを表す影響力情報を記憶する影響力情報記憶部と、各系統で周期的に計測されるプラントデータを取得するプラントデータ取得部と、系統毎に、同一系統内で計測されたプラントデータから2種類を選ぶ組合せ毎に、2種類のプラントデータの関係性を示す第1指標値と、第1基準値と、の乖離の程度を表す第2指標値を求める第2指標値算出部と、各系統の第2指標値の最大値を各系統における異変の程度を表す第3指標値として求める第3指標値算出部と、各系統の第3指標値及び影響力情報を用いて、各系統が上流系統から受ける異変の影響の程度を表す第4指標値を求める第4指標値算出部と、各系統の第3、第4指標値を一覧表示することでプラントの異変の状態を表示する異変情報表示部と、を備える。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントに生じた異変の状態を表示するプラント管理装置であって、
前記プラントにおいて制御を分担して実行する系統毎に、より上流の制御を行う上流系統からの影響の受けやすさを表す影響力情報を記憶する影響力情報記憶部と、
各系統において周期的に計測される複数種類のプラントデータを取得するプラントデータ取得部と、
系統毎に、同一系統内で計測されたプラントデータの中から2種類のプラントデータを選ぶ組み合わせ毎に、所定期間に計測された前記2種類のプラントデータの計測値から求めた前記2種類のプラントデータの関係性を示す第1指標値と、前記関係性の基準となる第1基準値と、の乖離の程度を表す第2指標値を算出する第2指標値算出部と、
系統毎に、前記第2指標値の最大値を当該系統に生じている異変の程度を表す第3指標値として算出する第3指標値算出部と、
各系統の前記第3指標値及び前記影響力情報を用いて、各系統がそれぞれ上流系統から受ける異変の影響の程度を表す第4指標値を系統毎に算出する第4指標値算出部と、
各系統における前記第3指標値及び前記第4指標値を一覧表示することにより、前記プラントにおける異変の状態を表示する異変情報表示部と、
を備える、プラント管理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のプラント管理装置であって、
前記第1指標値は、前記所定期間に計測された前記2種類のプラントデータの散布図上に、前記2種類のプラントデータのそれぞれの代表値から決まる点をプロットした場合の座標値であり、
前記第1基準値は、基準となる期間に計測された前記2種類のプラントデータのそれぞれの代表値から決まる点を、前記散布図上にプロットした場合の座標値であり、
前記第2指標値は、前記第1指標値として表される前記座標値と、前記第1基準値として表される前記座標値と、の間のユークリッド距離である、
プラント管理装置。
【請求項3】
請求項1に記載のプラント管理装置であって、
前記第2指標値算出部は、前記2種類のプラントデータの組み合わせを選ぶ際に、温度に関するプラントデータ同士、及び温度以外の物理量に関するプラントデータ同士で組み合わせを選ぶ、
プラント管理装置。
【請求項4】
請求項1に記載のプラント管理装置であって、
前記異変情報表示部は、前記第3指標値が第2基準値を超えている系統に対しては、当該系統で異変が生じている旨を示す表示を行う、
プラント管理装置。
【請求項5】
請求項4に記載のプラント管理装置であって、
前記異変情報表示部は、さらに、前記第3指標値が前記第2基準値を超えている系統の下流系統に対しては、上流系統で異変が生じている旨を示す表示を行う、
プラント管理装置。
【請求項6】
請求項1に記載のプラント管理装置であって、
いずれかのプラントデータの値が正常範囲として定められた所定範囲を逸脱している場合には、当該プラントデータと対応付けた警報を出力する警報出力部と、
をさらに備え、
前記異変情報表示部は、いずれかのプラントデータに対する警報が出力されている場合には、当該プラントデータが計測される系統に対して、警報が出力されている旨を示す表示を行う、
プラント管理装置。
【請求項7】
請求項6に記載のプラント管理装置であって、
前記異変情報表示部は、さらに、前記警報が出力されている系統の下流系統に対しては、上流系統で警報が出力されている旨を示す表示を行う、
プラント管理装置。
【請求項8】
請求項1に記載のプラント管理装置であって、
前記影響力情報は、前記系統と、前記系統の制御に影響を及ぼす1以上の上流系統と、との組み合わせ毎に定められ、
前記第4指標値算出部は、前記系統と、前記系統の上流系統との組み合わせ毎に、前記上流系統の第3指標値と、前記組み合わせに応じた影響力情報と、の積を計算し、前記積の総和を、前記第4指標値として算出する、
プラント管理装置。
【請求項9】
プラントに生じた異変の状態を表示するプラント管理装置の制御方法であって、
前記プラント管理装置が、
前記プラントにおいて制御を分担して実行する系統毎に、より上流の制御を行う上流系統からの影響の受けやすさを表す影響力情報を記憶し、
各系統において周期的に計測される複数種類のプラントデータを取得し、
系統毎に、同一系統内で計測されたプラントデータの中から2種類のプラントデータを選ぶ組み合わせ毎に、所定期間に計測された前記2種類のプラントデータの計測値から求めた前記2種類のプラントデータの関係性を示す第1指標値と、前記関係性の基準となる第1基準値と、の乖離の程度を表す第2指標値を算出し、
系統毎に、前記第2指標値の最大値を当該系統に生じている異変の程度を表す第3指標値として算出し、
各系統の前記第3指標値及び前記影響力情報を用いて、各系統がそれぞれ上流系統から受ける異変の影響の程度を表す第4指標値を系統毎に算出し、
各系統における前記第3指標値及び前記第4指標値を一覧表示することにより、前記プラントにおける異変の状態を表示する、
プラント管理装置の制御方法。
【請求項10】
プラントに生じた異変の状態を表示するためのプログラムであって、
コンピュータに、
前記プラントにおいて制御を分担して実行する系統毎に、より上流の制御を行う上流系統からの影響の受けやすさを表す影響力情報を記憶する手順と、
各系統において周期的に計測される複数種類のプラントデータを取得する手順と、
系統毎に、同一系統内で計測されたプラントデータの中から2種類のプラントデータを選ぶ組み合わせ毎に、所定期間に計測された前記2種類のプラントデータの計測値から求めた前記2種類のプラントデータの関係性を示す第1指標値と、前記関係性の基準となる第1基準値と、の乖離の程度を表す第2指標値を算出する手順と、
系統毎に、前記第2指標値の最大値を当該系統に生じている異変の程度を表す第3指標値として算出する手順と、
各系統の前記第3指標値及び前記影響力情報を用いて、各系統がそれぞれ上流系統から受ける異変の影響の程度を表す第4指標値を系統毎に算出する手順と、
各系統における前記第3指標値及び前記第4指標値を一覧表示することにより、前記プラントにおける異変の状態を表示する手順と、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラント管理装置、プラント管理装置の制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所などのプラントでは、プラント内の各所において温度や圧力、電流、電圧などの様々なデータ(プラントデータ)が計測されている。これらプラントデータは、プラントの運転状態に応じて時々刻々と変化しており、中央制御室をはじめとする様々な場所で監視されている。例えばプラントの運転員は、指示計や制御器、運転監視用計算機から出力されるプラントデータを時系列に表示したトレンドグラフを見て、プラントデータの変化傾向を確認している。運転員はこのようなデータ監視を漏れなく行うことにより、プラントでの故障や異常等の不具合の早期発見を行っている。
【0003】
従来から、プラントにおける異常検知は、運転員によるプラントデータの監視と異常の認知によって行われているが、近年、これらのプラントデータの監視を支援するシステムとして、プラント予兆管理システム、多変数時系列データ分析装置、プラント異常診断装置、プラント異常診断システム等の、大規模な機械学習を駆使したAI(Artificial Intelligence)による支援システムが実用化されつつある。
【0004】
これらの支援システムは、大量のプラントデータに対して相関処理や多変量解析等のデータ処理を行うことによりプラントの異常を検知する。そしてこのような機械学習を用いたデータ処理は、運転員が行うよりも迅速でリアルタイム性に優れ、過去データとの比較も容易で定量的な判別も可能であるなど優れた特性を持っている。
【0005】
このようなプラントの監視を支援する技術として、例えば特許文献1、2のような技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-127276号公報
【特許文献2】特開2017-062730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、複数のプラントの運転状態を監視するプラント監視装置が記載されている。
【0008】
このプラント監視装置は、複数のプラントのそれぞれから複数の計測項目毎の状態量の集まりである状態量の束を取得する状態量取得手段と、前記状態量の束が複数集まって構成される複数の前記プラント毎の単位空間を作成する単位空間作成手段と、前記単位空間作成手段が作成した複数のプラント毎の単位空間が記憶される単位空間記憶手段と、前記状態量取得手段により、複数のプラントのうちでいずれか一のプラントの状態量の束が取得されると、前記単位空間作成手段より前記単位空間記憶手段に記憶された前記一のプラントの単位空間を基準として、前記一のプラントの状態量の束のマハラノビス距離を算出するマハラノビス距離算出手段と、前記マハラノビス距離算出手段で算出された前記一のプラントに関する前記マハラノビス距離が所定の閾値以内であるか否かに応じて、前記一のプラントの運転状態が正常であるか否かを判定する判定手段と、を備え、前記単位空間作成手段は、前記単位空間記憶手段に前記一のプラントの単位空間が記憶されていない場合、複数の前記プラントのうちで前記一のプラントに類似し且つ前記単位空間記憶手段に単位空間が記憶されている他のプラントを選択する類似プラント選択手段と、前記類似プラント選択手段が選択した前記他のプラントの単位空間を用いて前記一のプラントの単位空間を作成し、前記一のプラントの単位空間を前記単位空間記憶手段に記憶する新規空間作成手段と、を有している。
【0009】
また特許文献2には、原子力プラントにおいて計測される複数の計測パラメータのうち、2つの計測パラメータの相関強さを相関値としてそれぞれ導出し、導出した複数の相関値を足し合わせた相関値である監視指示値が、予め設定されたしきい値を超えた場合、原子力プラントの異常予兆を検知する異常予兆監視システムの異常予兆検知結果に基づいて、原子力プラントの異常事象を診断する異常診断システムが記載されている。
【0010】
この異常診断システムは、異常予兆が検知された時期を予兆検知時期とし、前記予兆検知時期よりも前の時期を未検知時期とすると、前記異常予兆検知結果として、前記未検知時期から前記予兆検知時期までの監視期間において、前記相関値の異常が発生しているとされた異常値となる前記計測パラメータの前記相関値の推移であるパラメータ推移と、前記監視期間において、異常予兆を検知するための前記監視指示値の変化に対する前記計測パラメータの前記相関値の変化の割合であるパラメータ寄与度と、を取得する異常診断制御部と、前記原子力プラントの異常事象と、前記異常事象に関連付けられる異常予兆設備と、前記原子力プラントの過去の運転履歴に基づいて生成されると共に前記異常事象に関連付けられる判定用の前記パラメータ推移と、前記原子力プラントの過去の運転履歴に基づいて生成されると共に前記異常事象に関連付けられる判定用の前記パラメータ寄与度と、を記憶するデータベースと、を備え、前記異常診断制御部は、前記異常予兆監視システムから取得した前記異常予兆検知結果に含まれる前記パラメータ推移及び前記パラメータ寄与度と、前記データベースに記憶された前記パラメータ推移及び前記パラメータ寄与度との一致判定を実行し、一致していると判定した前記パラメータ推移及び前記パラメータ寄与度に関連付けられる前記異常事象と前記異常予兆設備とを特定する。
【0011】
しかしながら、上記のような、プラントに対して監視や異常診断を行うシステムで機械学習などの人工知能を用いる場合、監視や異常診断を行うプロセスがブラックボックス化するため、判定結果の合理的な説明が難しい。そのため、判定結果について運転員が理解しやすいモデルを構築することが求められる。
【0012】
またプラントは、様々な構成要素が複雑に影響を及ぼし合いながら状態を変化させていくため、プラントで何らかの異変が生じた場合に、異変が生じた箇所(起点)や異変の影響範囲を特定することが難しい場合が多く、影響範囲が局所的なのか広範囲なのかを判別しにくい懸念もある。
【0013】
そのため、プラントで生じた異変の状態を運転員により適切に理解させることを可能とするような技術が求められている。
【0014】
本発明はこのような課題を鑑みてなされたものであり、プラントで生じた異変の状態を運転員により適切に理解させることが可能なプラント管理装置、プラント管理装置の制御方法及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一実施形態に係るプラント管理装置は、プラントに生じた異変の状態を表示するプラント管理装置であって、前記プラントにおいて制御を分担して実行する系統毎に、より上流の制御を行う上流系統からの影響の受けやすさを表す影響力情報を記憶する影響力情報記憶部と、各系統において周期的に計測される複数種類のプラントデータを取得するプラントデータ取得部と、系統毎に、同一系統内で計測されたプラントデータの中から2種類のプラントデータを選ぶ組み合わせ毎に、所定期間に計測された前記2種類のプラントデータの計測値から求めた前記2種類のプラントデータの関係性を示す第1指標値と、前記関係性の基準となる第1基準値と、の乖離の程度を表す第2指標値を算出する第2指標値算出部と、系統毎に、前記第2指標値の最大値を当該系統に生じている異変の程度を表す第3指標値として算出する第3指標値算出部と、各系統の前記第3指標値及び前記影響力情報を用いて、各系統がそれぞれ上流系統から受ける異変の影響の程度を表す第4指標値を系統毎に算出する第4指標値算出部と、各系統における前記第3指標値及び前記第4指標値を一覧表示することにより、前記プラントにおける異変の状態を表示する異変情報表示部と、を備える。
【0016】
その他、本願が開示する課題、及びその解決方法は、発明を実施するための形態の欄の記載、及び図面の記載等により明らかにされる。
【発明の効果】
【0017】
プラントに生じた異変の状態をより適切に把握することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】全体構成を示す図である。
図2】系統図を示す図である。
図3】プラント管理装置の構成を示す図である。
図4】記憶装置を示す図である。
図5】影響力情報テーブルを示す図である。
図6】プラントデータ管理テーブルを示す図である。
図7】相関マップテーブルを示す図である。
図8】プラント管理装置の機能構成を示す図である。
図9】プラントデータの散布図を示す図である。
図10】第3指標値、第4指標値の算出を説明するための図である。
図11】系統ニューロンヒートマップの説明図である。
図12】プラント管理装置の処理の流れを説明するための図である。
図13】全体構成を示す図である。
図14】系統図を示す図である。
図15】イベント管理テーブルを示す図である。
図16】補機管理テーブルを示す図である。
図17】補機の運転パターンと相関マップとの関係を示す図である。
図18】出力画面例を示す図である。
図19】プラント管理装置の処理の流れを示す図である。
図20】時系列グラフ表示を示す図である。
図21】プラント管理装置の処理の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書および添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。以下、本発明を実施形態に即して添付図面を参照しつつ説明する。
==第1実施形態==
図1に、本発明の第1実施形態に係るプラント管理装置100、プラント1000、及び運転監視用計算機200を含む全体構成例を示す。なお、以下の説明において、プラント管理装置100を、プラント異常監視システム100、プラントデータ予兆管理システム100あるいは単にシステム100と記載する場合がある。
【0020】
プラント1000は、鉄や石油などの各種の素材に対して様々な処理や加工を行うことで目的物を生成する設備である。本実施形態では原子力燃料をエネルギー源として発電を行う原子力発電所をプラント1000の例として説明する。
【0021】
プラント1000では、素材から目的物を得るために様々な制御が行われているが、これらの制御は、系統1100と呼ばれる管理単位で分担して行われている。図1には、プラント1000は、系統A1100A~系統D1100Dの4つの系統1100を備えることが示されている。系統1100は、例えば原子力発電所の場合は、主蒸気系、復水給水系、制御棒駆動系、ホウ酸水注入系、原子炉補機冷却水系などが該当し得る。
【0022】
そして各系統1100は相互に連係しており、本実施形態では、図2に示すように、系統A1100Aにおける制御の状態が、系統B1100B及び系統C1100Cの制御に影響を与え、系統C1100Cにおける制御の状態が、系統D1100Dの制御に影響を与える。このため、系統A1100Aは、系統B1100B及び系統C1100Cに対して上流系統となり、系統C1100Cは、系統D1100Dに対して上流系統となる。逆に、系統B1100B及び系統C110Cは、系統A1100Aの下流系統であり、系統D1100Dは、系統C1100Cの下流系統である。もちろん、このような系統1100間のつながりがループになっている場合もある。
【0023】
運転監視用計算機200は、プラント1000の各系統1100において計測される複数種類のプラントデータを収集するコンピュータなどの情報処理装置である。プラントデータは、例えば原子炉の水位や炉心温度、発電量、タービン回転数などである。これらのプラントデータは、例えば、ネットワーク500を通じて不図示の中央制御室等に配信され、運転員により監視される。
【0024】
ネットワーク500はインターネットやLAN(Local Area Network)、電話網等の各種の情報通信網である。
【0025】
プラント管理装置100は、運転監視用計算機200から上記のような複数種類のプラントデータを取得し、プラント1000に生じた異変の状態を表示するコンピュータなどの情報処理装置である。詳細は後述するが、本実施形態に係るプラント管理装置100がプラント1000に生じた異変の状態を表示することにより、運転員はより適切にプラント1000に生じた異変の状態を把握することが可能となる。
【0026】
次に、プラント管理装置100のハードウェア構成を図3に示す。プラント管理装置100は、CPU(Central Processing Unit)110、メモリ120、通信装置130、記憶装置140、入力装置150、出力装置160、及び記録媒体読取装置170を備えて構成されるコンピュータ等の情報処理装置である。
【0027】
記憶装置140は、CPU110によって実行されるプラント管理装置制御プログラム700等の各種のプログラムやデータを格納する。
【0028】
記憶装置140に記憶されているプラント管理装置制御プログラム700や各種のデータがメモリ120に読み出されてCPU110によって実行あるいは処理されることにより、プラント管理装置100の各種機能が実現される。
【0029】
ここで、記憶装置140は例えばハードディスクやSSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等の不揮発性の記憶装置である。
【0030】
記憶装置140には、図4に示すようにプラント管理装置制御プログラム700、影響力情報テーブル600、プラントデータ管理テーブル610、相関マップテーブル620、イベント管理テーブル630、補機管理テーブル640が記憶されている。
【0031】
図3に戻って、記録媒体読取装置170は、CDやDVD、SDカード等の記録媒体800に記録されたプラント管理装置制御プログラム700やデータを読み取り、記憶装置140に格納する。
【0032】
通信装置130は、ネットワーク500を介して、運転監視用計算機200や不図示の他のコンピュータと、各種データやプラント管理装置制御プログラム700の授受を行う。例えば他のコンピュータに上述したプラント管理装置制御プログラム700やデータを格納しておき、プラント管理装置100がこのコンピュータからプラント管理装置制御プログラム700やデータをダウンロードするようにすることができる。あるいは通信装置130は、プラント1000の運転員が携帯する不図示のスマートフォンやノートパソコン等の携帯端末と通信を行い、種々の情報の授受を行うことも可能である。
【0033】
入力装置150は、運転員等のユーザによるコマンドやデータの入力を受け付ける各種ボタンやスイッチ、マウス、キーボード、マイクなどの装置であり、入力ユーザインタフェースとして機能する。
【0034】
また出力装置160は、例えばディスプレイなどの表示装置、スピーカなどの装置であり、出力ユーザインタフェースとして機能する。
<影響力情報テーブル>
影響力情報テーブル600の一例を図5に示す。影響力情報テーブル600は、プラント1000において制御を分担して実行する系統1100毎に、より上流の制御を行う上流系統1100からの影響の受けやすさを表す影響力情報を記憶するテーブルである。
【0035】
図5に示す影響力情報テーブル600は、図2に対応しており、系統A1100Aは最上流系統であるので該当する影響力情報は記載されていないが、系統B1100B~系統D1100Dについては、それぞれの上流系統からの影響力情報が記載されている。
【0036】
影響力情報は、w、vの値の組から構成されている。
【0037】
wは、他の系統1100からの影響の受けやすさを数値化した情報であり、例えば、上流系統1100における回転機器出口配管口径Aに対する当該系統1100における供給配管口径aの二乗比(a^2/A^2)により規定される。なお、wの値は、プラント1000で生じた異変の実際の影響範囲と、プラント管理装置100によって表示された異変の影響範囲とを比較、検証することで適宜見直しを行い、最適化することが好ましい。これにより、プラント管理装置100はより適切に異変の影響範囲を表示できるようになる。
【0038】
vは、当該系統1100と上流系統1100との間の連係の有無を示す値であり、連係があれば1、なければ0となる。通常は、当該系統1100と上流系統1100との間に設けられている流体の閉止弁の開閉に連動する。具体的には上流系統1100との間に閉止用電動弁がある場合は、開閉状態で上流系統1100からの流体の供給の有無が決定されるので、その電動弁が開であれば1、閉であれば0となる。なお、手動弁の場合は、系統1100の構成段階で開、閉が決定されているので、手動弁が開ならば1を入力、閉ならば0をあらかじめ入力する。なお、電気信号を通じた連係の場合は、スイッチのON、OFFに連動させるようにしてもよい。
【0039】
このように、本実施形態では、影響力情報は、系統1100と、当該系統1100の制御に影響を及ぼす1以上の上流系統1100と、との組み合わせ毎に定められている。
<プラントデータ管理テーブル>
プラントデータ管理テーブル610の一例を図6に示す。プラントデータ管理テーブル610は、プラント管理装置100が運転監視用計算機200を通じて取得する複数種類のプラントデータを記憶したテーブルである。
【0040】
図6に示す例において、「系統番号」欄には、プラントデータが計測された系統1100が記載される。「ID」欄には、プラントデータの種類ごとに一意に付与される識別情報が記載される。「入力点名称」欄には、プラントデータに付与された名称が記載される。
【0041】
「測定レンジ下限」欄及び「測定レンジ上限」欄には、プラントデータの計測器が計測可能な上限値及び下限値が記載される。プラント管理装置100は、取得したプラントデータを、測定レンジ下限値を0、測定レンジ上限値を1とした場合の相対値に変換することで、プラントデータを0~1の範囲に正規化することができる。
【0042】
「走査周期」欄には、プラントデータの計測周期が記載される。
【0043】
「警報制限値下限」欄及び「警報制限値上限」欄には、プラントデータの値の正常範囲として定められた所定範囲の下限値及び上限値が記載される。プラント管理装置100は、例えば取得したプラントデータが警報制限値下限よりも小さい場合、あるいは警報制限値上限よりも大きい場合には、当該プラントデータに対応付けた警報を出力する。
【0044】
「検出器番号」欄には、プラントデータの計測機器の識別情報が記載される。「計測値」欄には、プラントデータの計測値が記載される。
【0045】
その他、図6には記載されていないが、プラントデータ管理テーブル610には、発生しているイベントの種類や時刻情報(タイムスタンプ)、ポンプなどの補機の運転パターンなども記載されている。
<相関マップテーブル>
相関マップテーブル620の一例を図7に示す。相関マップテーブル620は、同じ系統1100内で計測されたプラントデータの中から2種類のプラントデータを選ぶ組み合わせ毎に、所定期間(例えば直近の30分間や、特定のイベントが発生している期間)に計測されたこれら2種類のプラントデータの計測値から求めた2種類のプラントデータの関係性を示す第1指標値(詳細は後述する)を記憶するテーブルである。なお、図7に示す相関マップテーブル620及び以下の実施形態において、プラントデータをパラメータと記載する場合がある。そしてこの相関マップテーブル620には、パラメータa~パラメータiで特定される9種類のプラントデータから2つを選ぶ各組み合わせについて、それぞれ第1指標値(図7には不図示)が記憶されている。
【0046】
相関マップテーブル620は系統1100毎に作成される。そして各系統1100で計測されたプラントデータ同士の組み合わせで、第1指標値が算出される。
【0047】
また相関マップテーブル620は、温度に関するプラントデータ同士の組み合わせ、及び温度以外の物理量(電流値や圧力など)に関するプラントデータ同士で組み合わせでそれぞれ作成することが好ましい。この理由は、温度に関するプラントデータと、温度以外の物理量に関するプラントデータとでは、制御状態の変化に対する追従速度(時定数)が大きく異なる場合が多いため、前者と後者を組み合わせて第1指標値を求めようとしても、第1指標値を精度よく求めることが難しいためである。
【0048】
なお、第1指標値は、上記の所定期間に計測された2種類のプラントデータの散布図上に、これら2種類のプラントデータのそれぞれの代表値(例えば平均値)から決まる点をプロットした場合の座標値である。つまり本実施形態では、2種類のプラントデータの代表値のペア(座標値)を用いて、これらのプラントデータの関係性を表している。
【0049】
このため、系統1100に何らかの異変が生じた際に、この異変の影響を受けていずれかのプラントデータが変化した場合には、この座標値が変化する。逆に、この座標値の変化を検出することで、系統1100に何らかの異変が生じていることを検出することができる。
【0050】
2種類のプラントデータの散布図の例を図9に示す。図9は、パラメータA及びパラメータBで示す2種類のプラントデータの散布図である(図9では、各プラントデータは0~1の範囲に正規化されている)。丸印、四角印、三角印の各点は、それぞれサンプリング期間が異なることを示す。
【0051】
たとえば白抜き三角印は、イベント1が発生した期間(第1所定期間)の計測値を散布図上にプロットしたものであり、塗りつぶしの三角印は、これらの白抜き三角印の座標値の平均値(第1指標値)を表す。つまり塗りつぶしの三角印は、白抜き三角印の重心点を表す。
【0052】
同様に、白抜き四角印は、イベント2が発生した期間(第2所定期間)の計測値を散布図上にプロットしたものであり、塗りつぶしの四角印は、これらの白抜き四角印の座標値の平均値(第1指標値)を表す。つまり塗りつぶしの四角印は、白抜き四角印の重心点を表す。
【0053】
また白抜き丸印は、プラント1000に異変が生じていない期間(基準期間)の計測値を散布図上にプロットしたものであり、塗りつぶしの丸印は、これらの白抜き丸印の座標値の平均値(第1基準値)を表す。つまり塗りつぶしの丸印は、白抜き丸印の重心点を表す。この第1基準値は、2つのプラントデータの関係性の基準として用いられる。
【0054】
そして塗りつぶしの三角印と、塗りつぶしの丸印と、の間のユークリッド距離は、第1所定期間における第1指標値と、第1基準値と、の乖離の程度を表す第2指標値を表す。
【0055】
同様に、塗りつぶしの四角印と、塗りつぶしの丸印と、の間のユークリッド距離は、第2所定期間における第1指標値と、第1基準値と、の乖離の程度を表す第2指標値を表す。
【0056】
図9に示す例では、第1所定期間よりも第2所定期間の方が、第2指標値(第1指標値と第1基準値との乖離の程度)が大きいため、系統1100に何らかの異変が起きている可能性は、第1所定期間よりも第2所定期間の方が高い。ただし、第1所定期間における第2指標値も、第2所定期間における第2指標値も、正常な変動の範囲内である可能性もある。
【0057】
なお、相関マップテーブル620は、同一系統1100内で計測されたプラントデータの中から2種類のプラントデータを選ぶ全ての組み合わせを対象とする他に、基準期間における計測値の相関係数の絶対値が所定値(例えば0.2)を超える組み合わせのみを対象としてもよい。相関係数の絶対値が小さい(例えば0.2以下)プラントデータの組み合わせの場合、プラント1000に異変があってもなくても第1指標値の変化が元々大きいため、プラント1000に異変が発生したとしても検出が困難なためである。このように、プラント1000の異変の検出に寄与しない組み合わせを排除することにより、プラント管理装置100が無駄な処理を行わずに済み、計算効率の低下を防止することが可能となる。
<イベント管理テーブル>
イベント管理テーブル630の一例を図15に示す。イベント管理テーブル630は、系統1100内で発生したイベントを、各プラントデータに紐づけるためのテーブルである。つまり、各プラントデータは、計測された時点で発生していたイベントと対応付けてプラントデータ管理テーブル610に記憶される。もちろんイベントが発生していない場合には、各プラントデータは、イベントが発生していないという情報と紐づけされる。
【0058】
このような態様により、例えば図9に示したように、散布図をイベントごとに区別して作成することが可能になる。このため、イベントごとに第2指標値を算出し、プラント1000に生じた異変とイベントとの関連性を検証することも可能となる。
【0059】
なお、図15のイベント管理テーブル630に記載されているように、各プラントデータは、時刻情報(タイムスタンプ)とも紐づけられている。このため、詳細は後述するが、時系列にプラントデータの解析を行うことも可能となり、より詳細に異変の解析を行うことが可能となる。
<補機管理テーブル>
補機管理テーブル640の一例を図16に示す。補機管理テーブル640は、系統1100内に複数台の補機(ポンプなど)で構成されるの機器がある場合に、これらの補機の運転状態(運転パターン)を管理するためのテーブルである。図16に示す例は、補機A、補機B、補機Cの3台で構成される機器がある場合に、補機A及び補機Bに関しては、いずれか一方を運転可能(補機Aのみを運転、あるいは補機Bのみを運転)であるが、補機Cは電源ロック状態であり、運転できないように管理されていることを示している。もちろん、補機の運転パターンは図16に示す以外にも様々なパターンが可能である。
【0060】
そして系統1100においてプラントデータが計測された際には、各プラントデータは、どの補機が運転中であるか(補機の運転パターン)を示す情報と紐づけて、プラントデータ管理テーブル610に記憶される。
【0061】
このような態様により、補機の運転パターンごとにプラントデータを区別して解析することが可能となるので、プラント1000に生じた異変と補機の運転パターンとの関連性を検証するようなことも可能となる。
<プラント管理装置の機能構成>
次に、プラント管理装置100の機能構成について、図8に示す機能構成図を参照しながら説明する。
【0062】
上述したように、プラント管理装置100は、記憶装置140に記憶されているプラント管理装置制御プログラム700や各種のデータがメモリ120に読み出されてCPU110によって実行あるいは処理されることにより、プラント管理装置100としての各種機能を実現する。
【0063】
具体的には、プラント管理装置100は、影響力情報記憶部101、プラントデータ取得部102、第2指標値算出部103、第3指標値算出部104、第4指標値算出部105、異変情報表示部106、警報出力部107の各機能を実現する。
【0064】
影響力情報記憶部101は、プラント1000において制御を分担して実行する系統1100毎に、より上流の制御を行う上流系統1100からの影響の受けやすさを表す影響力情報(w、v)を記憶する。本実施形態では影響力情報記憶部101は、上述した影響力情報テーブル600として具現化されている。
【0065】
プラントデータ取得部102は、各系統1100において周期的に計測される複数種類のプラントデータを取得する。プラントデータ取得部102は、運転監視用計算機200からプラントデータを取得し、系統1100の識別情報やイベント情報、補機の運転パターン、現在時刻などと対応付けて、プラントデータ管理テーブル610に記憶する。またプラントデータ取得部102は、後述する外れ値を除外する処理や正規化を行ったプラントデータをプラントデータ管理テーブル610に格納するようにしてもよい。
【0066】
第2指標値算出部103は、系統1100毎に、同じ系統1100内で計測されたプラントデータの中から2種類のプラントデータを選ぶ組み合わせ毎に、所定期間に計測された2種類のプラントデータの計測値から求めた2種類のプラントデータの関係性を示す第1指標値と、これらの2種類のプラントデータの関係性の基準となる第1基準値と、の乖離の程度を表す第2指標値を算出する。
【0067】
なお、上述した様に、第1指標値は、上記所定期間に計測された2種類のプラントデータの散布図上に、2種類のプラントデータのそれぞれの代表値から決まる点をプロットした場合の座標値(例えば所定期間に計測された散布図上の各点の重心の座標値)であり、第1基準値は、プラント1000に異変が生じていない基準期間に計測された2種類のプラントデータのそれぞれの代表値から決まる点を、散布図上にプロットした場合の座標値(例えば基準期間に計測された散布図上の各点の重心の座標値)であり、第2指標値は、第1指標値として表される上記座標値と、第1基準値として表される上記座標値と、の間のユークリッド距離とすることができる。
【0068】
代表値は、本実施形態では平均値としているが、中央値や最大値、最小値などであってもよい。また第1基準値は、上記プラントデータの組み合わせごとに個別に設定される。また第1基準値は、プラント1000の点検を行うタイミングなど、適宜なタイミングで見直しを行うようにするとよい。
【0069】
また第2指標値算出部103は、2種類のプラントデータの組み合わせを選ぶ際に、温度に関するプラントデータ同士、及び温度以外の物理量に関するプラントデータ同士で組み合わせを選ぶようにするとよい。このような態様により、プラント1000の状態が変化した際の追従速度(時定数)が大きく異なるプラントデータ同士の組み合わせを避けることが可能となる。追従速度が大きく異なるプラントデータ同士で作成した散布図はばらつきが大きくなるので、これらのプラントデータの関係性に変化があった場合に、プラント1000に生じた異変に起因するのか、時定数の違いに起因するのかの判断が難しくなるためである。逆に、温度に関するプラントデータ同士、及び温度以外の物理量に関するプラントデータ同士で散布図を作成した場合は、プラントデータの関係性の変化の原因は、プラント1000の異変である可能性が高いと言える。
【0070】
第3指標値算出部104は、系統1100毎に、第2指標値の最大値を当該系統1100に生じている異変の程度を表す第3指標値として算出する。つまり第3指標値算出部104は、図1に示すプラント1000の場合であれば、系統A1100A~系統D1100Dの4つの系統1100について、それぞれ第3指標値を算出する。
【0071】
そして第4指標値算出部105は、各系統1100の第3指標値及び影響力情報を用いて、各系統1100がそれぞれ上流系統1100から受ける異変の影響の程度を表す第4指標値を系統1100毎に算出する。
【0072】
図10を参照しながら説明する。図10は、系統A1100A~系統D1100Dが、系統E1100Eの上流系統である場合を示している。
【0073】
そして図10において、x1は系統A1100Aにおける第3指標値であり、x2は系統B1100Bにおける第3指標値であり、x3は系統C1100Cにおける第3指標値であり、x4は系統D1100Dにおける第3指標値である。Dは系統E1100Eにおける第3指標値である。θ及びYについては後述する。
【0074】
また、w1、v1は、系統A1100Aからの影響の受けやすさを表す影響力情報であり、w2、v2は、系統B1100Bからの影響の受けやすさを表す影響力情報であり、w3、v3は、系統C1100Cからの影響の受けやすさを表す影響力情報であり、w4、v4は、系統D1100Dからの影響の受けやすさを表す影響力情報である。
【0075】
そして第4指標値算出部105は、A=Σ(xi×wi×vi)により、系統E1100Eにおける第4指標値を算出する。
【0076】
つまり第4指標値算出部105は、系統1100と、当該系統1100の上流系統1100との組み合わせ毎に、上流系統1100の第3指標値と上記組み合わせに応じた影響力情報との積を計算し、積の総和を第4指標値として算出する。
【0077】
このような態様により、当該系統1100が上流系統1100から受ける影響を総合的に第4指標値に反映することが可能となる。
【0078】
あるいは第4指標値算出部105は、A=max(xi×wi×vi)により、系統E1100Eにおける第4指標値を算出してもよい。
【0079】
つまり第4指標値算出部105は、系統1100と、当該系統1100の上流系統1100との組み合わせ毎に、上流系統1100の第3指標値と上記組み合わせに応じた影響力情報との積を計算し、これらの積の最大値を第4指標値として算出する。
【0080】
このような態様により、当該系統1100に対して最も大きな影響を与える上流系統1100から受ける影響を第4指標値に反映することが可能となるので、重要度の高い異変の伝達経路を見出すことが可能となる。
【0081】
そして第4指標値算出部105は、他の系統1100に対しても同様にして第4指標値を算出する。
【0082】
異変情報表示部106は、上記のようにして求めた各系統1100における第3指標値及び第4指標値を一覧表示することにより、プラント1000における異変の状態を表示する。
【0083】
異変情報表示部106がプラント1000の異変の状態を表示する様子を図11に示す。
【0084】
図11において、各系統1100の第3指標値は「乖離度」と記載されている。また各系統の第4指標値は「入力」と記載されている。このような態様により、運転員は、系統1100毎の異変の状態を俯瞰することができ、プラント1000における異変の状態をより迅速に把握することが可能となる。
【0085】
なお、図11は、各系統1100に対応するマス目を縦横の2次元マトリクス状に並べて表示した上で、各マス目に第3指標値及び第4指標値を表示する態様であるが、例えば各系統1100に対応する表示枠を図2に示したような連係図状に表示した上で、各表示枠に第3指標値及び第4指標値を表示する態様とすることもできる。このような態様により、各系統1100の繋がりも視覚的に表示できるので、運転員が系統1100間の繋がりを把握していない場合であっても、プラント1000に生じた異変の状態を容易に理解することが可能となる。
【0086】
また図11の系統Jや系統Sに示すように、異変情報表示部106は、第3指標値が所定の第2基準値(例えば0.1)を超えている系統1100に対しては、当該系統1100で異変が生じている旨を示す表示(マス目内を黄色等の所定色で着色、あるいはドットパターンなどで表示など)を行っている。
【0087】
このような態様により、異変が生じている系統1100を他の系統1100と容易に区別することができるので、運転員はプラント1000における異変の状態を迅速に把握することが可能となる。
【0088】
また図11の系統Jや系統S、系統Uに示すように、異変情報表示部106は、さらに、第3指標値が上記第2基準値を超えている系統1100の直近の下流系統1100に対しては、上流系統1100で異変が生じている旨を示す表示(マス目を黄色等の所定色の太枠で囲むなど)を行う。
【0089】
このような態様により、上流系統1100に異変が生じている系統1100を容易に識別可能に表示することができるので、運転員は、プラント1000における異変の伝達状態を迅速に把握することが可能となる。
【0090】
図8に戻って、警報出力部107は、いずれかのプラントデータの値が正常範囲として定められた所定範囲を逸脱している場合には、当該プラントデータと対応付けた警報を出力する。警報出力部107は、例えばプラント管理装置100の出力装置160にプラントデータの値が正常範囲を逸脱した旨を示すアラーム情報(警報)出力する。
【0091】
そして異変情報表示部106は、いずれかのプラントデータに対する警報が出力されている場合には、図11の系統FFに示すように、当該プラントデータが計測される系統1100に対して、警報が出力されている旨を示す表示(マス目内を赤色等の所定色で表示あるいは白黒反転で表示など)を行う。
【0092】
このような態様により、警報が発生している系統1100を他の系統1100と容易に区別することができるので、運転員は、プラント1000における異変の状態を迅速に把握することが可能となる。
【0093】
またいずれかのプラントデータに対する警報が出力されている場合には、図11の系統Nや系統Pに示すように、異変情報表示部106は、さらに、警報が出力されている系統1100の下流系統1100に対して、上流系統1100で警報が出力されている旨を示す表示(マス目を赤色等の所定色の枠で囲むあるいはマス目内を斜線で表示など)を行う。
【0094】
このような態様により、上流系統1100で警報が発生している系統1100を容易に識別可能に表示することができるので、運転員は、プラント1000における異変の伝達状態を迅速に把握することが可能となる。
==処理の流れ==
次に、本実施形態に係るプラント管理装置100による処理の流れを、図12に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0095】
まずプラント管理装置100は、所定期間に計測された複数種類のプラントデータを取得する(S1000)。
【0096】
そしてプラント管理装置100は、これらのプラントデータに対して外れ値の除去や正規化を行う(S1010)。
【0097】
外れ値の除去は、例えば、±σ(σは標準偏差)や±2σを逸脱する計測値を除去することにより行うことができる。正規化は、プラントデータの計測値を、計測器の測定レンジの下限値が0、上限値が1になるように相対値に変換することで行うことができる。
【0098】
そしてプラント管理装置100は、S1020~S1050までの処理を系統1100毎に行う。
【0099】
まずプラント管理装置100は、同一の系統1100内で計測されたプラントデータの中から2種類のプラントデータを選ぶ組み合わせ毎に、図9に示したような散布図を作成する(S1020)。
【0100】
そしてプラント管理装置100は、これらの組み合わせごとに、2種類のプラントデータのそれぞれの代表値から求まる点の座標値(第1指標値)と、プラント1000に異変が生じていない基準期間に計測された2種類のプラントデータのそれぞれの代表値から求まる点の座標値(第1基準値)と、の間のユークリッド距離(第2指標値)を、乖離度として算出する(S1030)。
【0101】
そしてプラント管理装置100は、上記組み合わせごとに求めた第2指標値の中の最大値を、当該系統1100に生じている異変の程度を表す第3指標値として算出する(S1040)。
【0102】
またプラント管理装置100は、上流系統1100について求めた第3指標値及び影響力情報を用いて、上流系統1100から受ける異変の影響の程度を表す第4指標値を算出する(S1050)。
【0103】
そしてプラント管理装置100は、各系統1100における第3指標値及び第4指標値を一覧表示することにより、プラント1000における異変の状態を表示する(S1060)。
【0104】
以上のような態様により、運転員はより迅速にプラント1000に生じた異変の状態を把握することが可能となる。
【0105】
==第2実施形態==
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態は第1実施形態をより具体的かつ詳細に説明するものであると共に、第1実施形態を補足あるいは拡張する事項も含んでいる。以下、第1実施形態で説明した図面を適宜参照しながら、第1実施形態と重複する説明を適宜省略しつつ、第2実施形態を説明する。
【0106】
本実施形態では、プラント通常運転時におけるプラントデータについて、運転員が故障予兆を確認でき、視覚的に故障予兆がプラント1000全体に及ぼす影響を容易に把握できるプラント異常監視システム100(プラント管理装置100)およびプラント異常監視方法を提供する。
【0107】
具体的には、プラント1000の各系統1100にあらかじめ登録された学習データと運転データとのデータクラスタ乖離度演算により故障予兆を検知するしくみと、補機の運転パターンによって相関マップテーブル620を用意する特徴と、相関の強いデータマップを選択し、系統1100内の故障等により学習データと運転データの乖離度が発生または他系統1100からの影響を受けた場合もしくは系統1100内の故障が他の関連系統1100に及ぼす影響を演算するしくみであるシナプス入出力を持つ系統ニューラルネットワークと、故障影響がプラント1000に与える影響を評価するしくみを特徴とを持つ、プラント異常監視システム100(プラント管理装置100)およびプラント異常監視方法を提案する。
【0108】
原子力発電所等のプラント1000では、起動停止操作および通常運転操作において、定期的にプラント運転データを中央制御室または現場制御盤に設置された指示計等のデータを確認し、データの異常がないかを監視している。確認頻度は一定間隔で確認を行い、指示計および制御器の出力や運転監視用計算機200で出力されるパラメータをトレンドグラフで確認し、変化傾向を確認する等を実施している。これらは、運転員に認知、解釈されデータの監視強化や現場でのパトロールによる異常の早期発見を行っている。
【0109】
従来からの故障予兆の検知は、運転員によるパラメータの監視と、異常の認知によっていた。近年、これらのプラントデータ(以降、プラントデータとはイベントデータとプロセスデータを合わせて言う)の監視を支援するシステムとして、プラント予兆管理システム、多変数時系列データ分析装置、プラント異常診断装置及びプラント異常診断システム等大規模な機械学習を駆使したAIによる支援システムが実用化されつつある。これらは、大量のプラントデータを相関処理や多変量解析により、データの相関強度やサンプリングしたデータとの変化度を計量することにより、プラント1000の異常を検知するものである。
【0110】
これら機械学習によるデータの処理は、運転員がデータを確認し、解釈し、原因を推定するプロセスよりもリアルタイム性に優れ、過去データとの比較を容易にして、定量的に判別することができるなど優れた特性を持っている。
【0111】
例を挙げると、運転員がパラメータの変化を視認し、異常を感知するより以前に、パラメータ変化による予兆をシステムは検知することが可能となっている。
【0112】
よって、システムの警報に至る前に故障の予兆をとらえることができれば、異常の早期発見に資するだけではなく、プラント1000の安定安全運転に貢献することができる。
【0113】
以下本システム100で使用する用語の定義をいう。
【0114】
本提案でいう「プラントデータ」とは計測器からの入力信号であるアナログデータと、機器のON・OFFなどのデジタルデータ、計算機内部での演算などのイベントデータの3種類に分けられ、それぞれの目的に合った用語で説明する。
【0115】
計測器からの入力が信号され、運転監視用計算機200から出力されるプロセスデータ(以下「アナログデータ」という)は、量子化されたアナログ信号の出力のことを指す。
【0116】
具体的には、導電率、密度、露点、差圧、流量、液位、湿度、中性子束、濃度、圧力、弁位置、温度、時間、振動、温度差、質量、電流、電位差、周波数、電力、無効電力等であらわされる信号群が該当する。
【0117】
その他運転監視用計算機200のデジタルデータ(以下、「デジタルデータ」という)とは、バイナリ信号化された機器のON・OFF信号や、電源ロック状態ON・OFF信号や定数である警報設定値の出力を指す。
【0118】
具体的には、プラント1000の警報、機器動作に関する信号の集合であり、動作したものについての信号群であらわすものであり、デジタル信号系(ON、OFF信号)警報発報、ポンプやファン起動・停止、弁開閉等が該当する。
【0119】
その他機器に関するデジタルデータ(以下、「イベントデータ」という)は運転監視用計算機200の演算結果や計算機警報で示される軽微な注意警報等の出力のことを指す。
【0120】
具体的には、原子炉スクラム(緊急停止)、タービントリップ、発電機トリップ等、プラントインターロック動作イベントやアナログ信号が異常領域に入った旨の状態警報もしくは非所用炉心冷却系などのサーベランス状態になったことなどの状態告知などのことが該当する。
【0121】
今後発電所の運転に人工知能による運転員支援システムが普及することが期待されるが、人工知能による予兆管理システムは、以下の特徴がある。
1.AI判定結果における因果律の説明性
近年人工知能を利用する際の課題として機械学習特にディープラーニングによる判定プロセスがブラックボックス化しており、判定結果の説明性が困難なことがあげられる。そのため、判定プロセスについて運転員が理解しやすいモデルを構築する必要がある。
【0122】
また、判定結果については、オペレータによるデータの解釈が必要である。解釈はオペレータの力量に頼る面があるため、極力解釈を軽減する措置も必要である。
【0123】
大規模なプラント1000で異常が発生した場合、その原因起点の明示と、関連系統の影響具合が即座に把握が困難であることがある。そのうえ、他系統1100に及ぶ影響範囲がわかりにくいため、その故障が限定的なのか、プラント1000に深刻な影響を与える故障なのか判別しにくい懸念がある。
【0124】
そのため、判定結果だけではなく、異常の発生や故障起点の特定およびプラント1000全体への影響度についても迅速に理解する必要がある。
2.運転データの精度の高い学習データの生成
学習データの作成に前処理によるデータの作成や、実機でのデータ採取時に発生する外れ値への対処が必要である。外れ値の存在は、特に相関データを採取後に線形回帰または重回帰による近似値を求める際、ノイズになる。異常データ判別を行う学習データの品質に影響を与える。特に後述するよう相関データクラスタの中心点(第1指標値)を演算するに当たり、ノイズが多いようであれば、判定に影響を与える可能性がある。
3.回転機器運転パターン変化による学習データの妥当性
プラント1000の系統1100は複数の回転機器や流体を発生させる機器(蒸気エゼクタ等)を持っていることが多く、例えば3台の同様な回転機器がある場合、通常は1台または2台を常時運転しており、3台目は予備機としている。運転パターンは定期的に補機切替を行い、様々な運転パターンが考えられる。そのため、一つの運転パターンでの学習データでは、対応できない可能性がある。
【0125】
例えば、先ほどの3台の回転機器がある場合1台運転、2台ペア運転、3台全台運転のパターンあるとすると、全部で7パターン存在する。回転機器の運転パターンや回転機器の個体特性により、系統1100のプロセスデータは微妙に変化する可能性がある。もしこれらの運転パターンを適切に弁別せずに学習データを作成すると、データクラスタの範囲が大きくなり、過学習と同様の状態となる。そのため、異常の判定精度に影響する可能性がある。
【0126】
また、逆に通常は停止状態で、定期試験時や異常発生時に運転する非常用炉心冷却系のような系統1100の場合は、機能性能確認時における定期的な試験時に運転データは採取される。そのため、運転時の連続したデータは採取されにくい。そのため、学習データのサンプル数規模が小さくなる傾向がある。
【0127】
以上、プラントデータを機械学習で処理する際の特徴について述べたが、その他以下に示すように、プラントデータは教師ありデータとして整理しやすい特徴も持っている。
【0128】
発電所の各計測器、制御器から出力されるプラントデータ(アナログデータ、デジタルデータ、イベントデータ)は運転監視用計算機200に入力および出力され、そのデータがヒューマンインターフェイスである表示器やタッチパネルによる操作用ディスプレイに出力される。
【0129】
デジタルデータやイベントデータが出力されると、アナログデータも影響を受けている可能性が高いため、アナログデータはデジタルデータとイベントデータに関連していると言い表すことができる。つまり、アナログデータはデジタルデータとイベントデータによってラベリングができることを示す。
【0130】
一般的に機械学習では、アナログデータと正解ラベルであるデジタルデータ、イベントデータの組み合わせによる教師あり学習方法があるが、運転監視用計算機200によるアナログデータとデジタルデータ・イベントデータの組み合わせは目的変数と説明変数の組み合わせと表現することもできる。このため、精度の高い教師ありデータとして異常データとの比較、判別に用いられやすいことがわかる。
【0131】
本実施形態では、これらの特徴を踏まえたプラント異常監視システム100およびプラント異常監視方法を提案する。
1.AI判定結果における因果律の説明性
(1)系統カテゴリ分けをした相関マップの作成
機械学習による判定結果のブラックボックス化による説明困難性の解決として、プラント系統の因果関係の説明性を良くすることがあげられる。この解決策として、パラメータ(プラントデータ)の相関集合を系統カテゴリ分けのパラメータ同士での相関とする。これは、系統1100内の機器の挙動は、当該系統1100内の回転機器の運転状態により計測器の指示に直接的な影響を与えるため、因果関係が説明しやすいことがあげられる。回転機器は、系統1100内に流体を流通させる機器であるため、回転機器の運転状態と停止状態では顕著にパラメータに差が出やすいからである。なお、ここでいう系統カテゴリ分けとは、同じ系統番号の機器を集合させることである。
【0132】
従来のように人間が知識や経験で相関があることが既知な他系統1100のプロセスデータとの相関を選択すれば(例えば、復水器真空と海水温度)では、人間が理解し説明しやすいが、人間が予測する範囲内での相関に留まるため、隠れた故障の発見に資することが困難である。また、系統カテゴリ分けをせず、全プロセスデータの相関組み合わせでは、計算コストの増大が発生する。また、偽相関のような相互に関係しない論理的に誤った組み合わせでも、相関係数が大きければ、相関ありと判定する誤りが発生するおそれがある。しかしながら、本実施形態では、プロセスデータを系統別に分け、それらの総当たりの相関マップで検知することにより改良を図っている。
【0133】
また、相関マップは後述するように相関が強い関係を利用してシステムを構成する。
(2)系統ニューラルネットワークモデルによる因果関係の表現
系統1100内のカテゴリで相関をとり、異常が判別された場合、他系統1100への影響度合いがどうかを判別する場合、他系統1100のつながりを表現する手段が必要となる。
【0134】
本実施形態では、機械学習モデルの一種であるニューラルネットワーク(多層化された単相パーセプトロンモデル)を系統1100間の関係性表現に採用し、系統1100同士の影響を相関マップの学習データクラスターと運転データクラスターの中心点の距離(乖離度)にて、シナプス入出力値とし、自系統1100の故障が、他系統1100にどのように作用するか定量的な表現で表す。同様に他系統1100からの影響が自系統1100にどのように作用するか定量的な表現で表す。具体的には、系統1100のつながりは流体によるもの(配管の接続)や電気信号によるものがある。これらを以降、系統ニューラルネットワークと称する。詳細については、別途説明する。
2.運転データの精度の高い学習データの生成方法
精度の高い学習データを作成するため、プロセスデータに対し、ソフトウェア計測器フルスケールデータベースからフルスケール値(例えば0~1000mm)で除算し、データの正規化を行い、0~1までの値に変換する。
【0135】
データは、系統1100のイベントデータが発生していないノーマルな運転状態のデータを一定間隔例えば1分間などの単位時間ごとにサンプリングするものとする。前処理されたデータは正規分布であると仮定し、実機データを蓄積したら線形回帰または重回帰で近似式を求め、その標準偏差±1σまたは±2σ外のデータを排除する外れ値フィルタ処理を行い、データ分布を整理し、学習データとする。これにより学習用データクラスタはマハラノビス距離内に整理されたデータクラスタとなる。
【0136】
学習データはクラスタリング処理を行い、そのクラスタの中心点をk-means法により非階層クラスタリングを行う。
【0137】
通常k-means法は教師なしデータのクラスタリングに採用される手法である。本方法では、あらかじめ同一の正解ラベルの付いたデータを単一のクラスタと表現するため、複数のクラスタ分けをする演算は必要なく、正解ラベルで分類されたデータクラスタの中心点を演算する処理のみである。そのため、クラスタ数は1で指定する。クラスタリングが完了したら、そのクラスタの中心点を決定する。
【0138】
中心点を決定すると学習データに加えて、追加で実機データのサンプルを加えても、学習データの「クラスタ中心点」を固定したまま、追加サンプルが学習データのクラスタ中心点からどれだけ離れているか(乖離度:中心点間のユークリッド距離)を計算することで、実機データの異常度が定量的に把握できる。
【0139】
また、非常用炉心冷却系のように、定期試験時にしか基本的には起動しないものについては、運転中のデータを測定するものとする。
3.回転機器運転パターン変化による学習データの妥当性の改良
学習データは、回転機器の運転パターンに基づくものとし、先ほど述べたポンプ3台の場合だと、7パターンあるがそのそれぞれの運転パターンに対して前処理された正規化データを蓄積し、フィルタ処理で加工したものを学習データとして登録する。そのため、運転パターンにより合計7つの相関データマップテーブル(相関マップテーブル620)を用意し、サンプリングデータがその運転号機の相関マップ上に格納される。
【0140】
また、相関データマップ内のセルでは、相関データx、y軸とし、各データの出現時間はデータのサンプル数で表すものとする。
【0141】
配置されたデータは、前述のように正解ラベル情報に基づきクラスタリングされ、2次元空間中に配置されたクラスタ中心点を演算する。あらかじめ学習データのクラスタ中心点と、サンプリングされたクラスタ中心点のユークリッド距離を測定する。
【0142】
以上の改良を実装したプラントデータ予兆管理システム100であるが、システム処理について以下、詳細に記載する。
【0143】
本実施形態に係るプラントデータ予兆管理システム100(プラント管理装置100)は、運転監視用計算機200からのアナログデータおよびデジタルデータを入力し、予兆を監視し演算するシステムである。
【0144】
本システム100は、プラントデータが入出力される運転監視用計算機200から出力されるソフトウェアデータを利用するものとする。
【0145】
本システム100のハードウェア構成は、CPU(central processing unit)110、ROM(read only memory)(記憶装置140に対応)を有し、ROMからオペレーティングシステムOSを読み出してメインメモリ(メモリ120に対応)上に展開してOSを起動し、OS管理下において、ROMからアプリケーションソフトウェアのプログラム(処理モジュール。プラント管理装置制御プログラム700に対応)を読み出し、GUI(Graphical User Interface)機能や各種処理を実行する。表示器、キーデバイス、音声入力処理デバイス、マウス等の入出力デバイスを用いて、コマンド入力を行う。
【0146】
また、運転監視用計算機200からのデータを入力するネットワークデバイス(通信装置130に対応)を設ける。また、限られた数であるが、プラント1000のデータをリアルタイムに取り扱うことから負荷が大きいため、システム100はマルチスレッド対応のマルチCPUを採用することや複数台のGPU(graphics processing unit)の並列配置や複数台のPCユニットのアレイ構造としてもよい。またシステム100はクラウドコンピュータや仮想コンピュータでもよい。
【0147】
本システム100は大別して、系統1100内の相関マップデータ処理による予兆管理および系統1100の影響を表現する系統ニューラルネットワーク処理による予兆影響管理の機能を持つ。
1.相関マップデータ処理によるデータサンプリング
(1)運転監視用計算機200からのアナログデータに基づき、系統1100毎に相関データマップ(相関マップテーブル620)を生成する。
(2)相関データマップは非温度系と温度系の2種類を用意する。
(3)運転監視用計算機200からのデジタルデータに基づき、系統内回転機器のON、OFFや電源ロック状態を表現した系統内運転パターンマップを生成する。
(4)系統内運転パターン組み合わせの数だけの非温度系相関データマップ、温度系相関データマップを生成する。例えば、3つの回転機器があるとその運転パターンに合わせ、非温度系相関データマップ7テーブル、温度系相関データマップを7テーブル、計14テーブルを用意する。ここで、系統内運転パターンのマトリックスから、運転パターンを読み取り、データのサンプリングは各々7テーブルのうち1枚のテーブルにデータをサンプリングする。
【0148】
なお、非温度系と温度系とで相関データマップを分けた理由は、ほぼ時定数がなく即座に反応するのは非温度系のパラメータであり、温度系のパラメータは熱時定数をもって変化するため、温度は一定の時間が経過しないとパラメータが安定しないためである。そのため、非温度系と温度系の相関をとると、時定数の影響で相関データが安定せず、クラスタ範囲が大きくなる可能性があるためである。
(5)運転監視用計算機200からのデジタルデータに基づき、非温度系、温度系のマップに紐付けるように各アナログデータに対応した警報設定マップ(図7に示したANNラインで指定される)を生成する。
【0149】
警報マップは、相関データマップの閾値であり、教師データである決定木として機能する。
(6)回転機器ON、OFFマップで決定された回転機器運転パターンに伴う非温度系、温度系のマップにデータを入力する。
2.各相関マップ内の学習データの生成
上記1の相関マップデータ処理によるデータが蓄積すると相関関係の強いデータは、正または負の線形回帰または非線形回帰近似に近い集合となる。ここで、学習データの近似曲線からの標準偏差±σまたは±2σのデータを残し、あとは外れ値として除外することにより、学習データを生成する。また、学習データクラスタの中心点も求める。
(1)あらかじめ(基準期間に)サンプリングされたプラントデータを学習データとして蓄積し、標準偏差±σまたは±2σのデータを残し、あとは外れ値として除外する外れ値フィルタ処理を行ったデータクラスタを生成する。クラスタリングおよびデータ中心点の演算を行う。
(2)相関マップ内セル内に配置された学習データクラスタの相関係数を算出し、相関が低いセルは演算しない処理を行う。
(3)相関マップセル内に配置された学習データクラスタは保管され、その後にサンプリングされるアナログデータを相関マップ内に登録し、系統イベントデータ発生なしのデータや系統イベント発生時のラベリングデータをサンプリングし、クラスタリングおよびデータ中心点の演算を行う。
(4)相関マップセル内の学習データ中心点と、運転データクラスタ中心点の乖離度距離を求めるため、2点間のユークリッド距離およびマハラノビス距離を計算する。
(5)各セルで求めた乖離度距離(ユークリッド距離)の最大値を算出する。
(6)相関マップセルの最大乖離度に基づき、運転データが学習データから相対的にどの程度の乖離が発生しているのかを視覚的に表現するために最大値をソフトウェアでの系統ニューロンヒートマップを表示する。色付けは例えば正常は緑、軽度の影響及び異常の発生は黄色、警報の発生は赤で表してもよい。また、乖離度0.1以下の状態は緑、乖離度が0.1超までの間は黄色で表し、警報発生時は赤とする。
【0150】
また、表示マップをクリックすると、相関マップ中の乖離度の高いセルについて、相関パラメータ相関およびラベリングのイベント名を示し、散布図を表示してもよい。
3.系統1100の影響を表現する系統ニューラルネットワーク処理による予兆管理
(1)各系統1100で算出された相関マップセル内の学習データ中心点と、運転データクラスタの中心点のユークリッド距離で、最大値(最大乖離度)を算出する。
【0151】
乖離度の演算は、最新のイベント発生時のデータクラスタの中心点か、イベントがない時点での最新のデータサンプリング開始時間からのデータクラスタの中心点で評価する。
【0152】
つまり、イベントが発生都度、またはイベントがない時間の最新のデータクラスタが発生したら都度乖離度の演算を行うものとする。
(2)他系統1100からの入力シナプス信号値Aと、自系統1100の出力シナプス信号値Yを演算する。
【0153】
入力シナプス信号値A= x1w1v1 + x2w2v2+ x3w3v3 + x4w4v4 (式1)
出力シナプス信号値Y= D ≦ 1 ∨(または)θ=1 (式2)
ここで、A:入力シナプス信号値。単一または複数の上流系統1100からの影響度。
【0154】
x:入力系統(上流系統)1100の乖離度信号(0.1~1)。なお、0.1以下は0とする。
【0155】
w:各系統1100からの入力シナプス重み値(回転機器出口配管口径Aに対しての他系統供給配管口径aの二乗比(a^2/A^2)。入力系統1100の回転機器全停止の場合は例えば1、入力系統1100の回転機器全停止以外の場合は例えば0.1)。重み値wを設定することで、入力系統1100に異常が生じても、例えば配管径の相違により、出力された系統1100への影響度が変化する。
【0156】
v:弁開閉信号。具体的には供給系への閉止用電動弁がある場合は、開閉状態で供給の有無が決定されるので、その電動弁が開であれば1、閉であれば0の信号をいれる。なお、手動弁の場合は、系統構成段階で開、閉が決定されているので、手動弁が開ならば1を入力、閉ならば0をあらかじめ入力する。なお、電気信号の場合はスイッチのON・OFFとしてもよい。
【0157】
D:乖離度。相関データマップ内セルの系統内学習データクラスタ中心点と運転データクラスタ中心点との距離(乖離度絶対値)演算結果から乖離度を演算し、相関データマップ内の最大乖離度を同値とする。なお、データは正規化されているため、理論上の最大乖離度距離は√2である。
【0158】
θ:警報発生ライン(ANNライン)閾値。発生したクラスタの相関データセルのデータが警報閾値以下であれば0、以上であれば1)
Y:シナプス出力信号。乖離度Dまたは警報発生時は1を出力する。
(3)演算されたシナプス出力値Yが0.1超の場合、当該系統1100の影響が他系統1100に接続される配管または回転機器の運転状態を介して、他系統1100へ入力される入力シナプス信号xに代入され、重みwの積分だけ他系統1100への影響が及ぼされていると表現できる。
(4)演算されたシナプス出力値Yが0~0.1以下の場合、入力系統1100の影響が当該系統1100に影響がなくさらに下流側の系統1100に影響が及ぼされていないと表現できる。
(5)ニューロンネットワークが開放系の場合は、系統最上流側の影響が下流側へ影響を及ぼしているものと判断できる。一方、閉鎖系の場合は、影響が各系統1100内に伝播されるが例えば制御系により自動で影響が吸収され、パラメータ変化が平衡するまで異常の影響が循環される。
(6)故障起点は、乖離度が0.1超えまたは警報発報ラインに抵触した場合であり、故障原因起点として選択し、セル内に表示する。
(7)系統ニューロンヒートマップ色が異常側に推移すると、プラントシステムまたは運転員はプラント1000内のパラメータ変化が収束するよう操作を行う。具体的には、制御系の作動やインターロック作動もしくは運転員の手動介入により、プラントデータが通常状態に収束されると、学習データクラスタに近づくため、各系統1100の系統ニューロンヒートマップ異常表示色および乖離度が、徐々に緑に変化することで、プラント全体の異常が終息されることが視覚的にわかる。
【0159】
ここで系統ニューロンヒートマップ枠表示について述べる。系統ニューロンヒートマップ表示は乖離度単独で0.1超えでヒートマップの黄色表示(図11ではドット表示)となる。
【0160】
乖離度Dが学習データとの中心点のマハラノビス距離内であれば乖離度は0であり、系統ニューロンヒートマップは緑色である。下流系統枠表示はされない。
【0161】
乖離度Dが0.1以下であれば、系統ニューロンヒートマップは緑色である。下流系統枠表示はされない。
【0162】
乖離度D単独で0.1超となった場合は、系統ニューロンヒートマップ表示は黄色となる。ヒートマップは起点表示される。下流側枠表示は黄色の枠表示(図11では太枠表示)が表示される。
【0163】
系統内警報発生では、系統ニューロンヒートマップ表示は赤色(図11では白黒反転表示)となる。系統ニューロンヒートマップは起点表示される。下流系統枠は赤色の枠表示(図11では斜線表示)がされる。
【0164】
枠表示対象となった系統については、起点表示されない。
【0165】
これにより、起点となる系統1100の異常がどの範囲まで及んでいるかを視覚的に把握することができ、その系統1100の異常がその系統1100内で終息されているか、他系統1100に及んでいるかを確認することができる。
【0166】
なお、系統1100内の計測器が誤動作を起こし、計測範囲外(アンダースケール、オーバースケール)となった場合について、想定される動作について述べる。これら計器の単一故障により系統1100内の乖離度が仮に1となった場合、下流側のシナプス出力も乖離度と重み値および弁状態(ここでは開とし、1とする)の積値が下流系統1100に出力される。インターロックを伴わない計器の単一故障の場合は、下流系統1100のプロセス値には何ら変化を伴わないため、下流系統1100の乖離値数は変化がないことで判別される。その場合、運転員は、入力シナプス値と乖離度値を比較し、上流側の系統1100の影響が及んでいないことが確認でき、計器の単一故障であることが判断できる。
【0167】
なお、インターロックを伴った計測器の場合は、当然ながら、インターロックによる機器動作が発生するため、系統1100の状態に何らかの影響が発生する可能性がある。
【0168】
シナプス入力値Aは、下流系統1100に与える外乱値であり、シナプス出力値Yは外乱に対する系統1100の応答と表現できる。ただし、外乱は、実際の系統1100のプロセス値の実際の変化である場合や、計器故障による見掛け上の変化の場合だけがあるため、入力と初期値の和と伝達関数をかけて出力応答するモデルとはなりにくい。そのため関連する系統ニューロンヒートマップの変化や枠表示の展開により、定量的な変化の把握やプラント全体の挙動を視覚的に把握する。
【0169】
次に、図13を参照しながら、本システム100の全体構成を表している構成図について説明する。
【0170】
システム100の構成は、系統1100毎に以下機能を内包する。
【0171】
プラント計測機器からのデータを運転監視用計算機200へ入力する手段として、アナログ電気信号である計測器データをAD変換したのち、運転監視用計算機200へ入力する。
【0172】
運転監視用計算機200からはイベントデータ入力部(デジタルデータ)、電源入切データ入力部、機器ON、OFFデータ入力部(デジタルデータ)、警報データ(デジタルデータ)を出力させる。
【0173】
系統A学習データ作成部(プラントデータ取得部102、第2指標値算出部103に対応)には、計測器フルスケールデータベース(プラントデータ管理テーブル610に対応)を設け、データ前処理(正規化)部、データ前処理(外れ値処理)部、学習データクラスタ相関係数演算処理部、学習データクラスタリング処理(クラスタ中心点演算)、機械学習データ作成部(教師ありデータ)を設ける。
【0174】
データ前処理(正規化)部からは、系統パラメータデータ(非温度系)、系統パラメータデータ(温度系)を出力させる。
【0175】
系統Aニューロン部には、回転機器ON・OFFマップ(図16)、系統計装データ相関マップテーブル、系統温度相関マップテーブル、警報データ相関マップテーブル(相関マップテーブル620に対応)を設ける。
【0176】
警報データ相関マップテーブルは、データ配列が同じ系統計装データ相関マップテーブル、系統温度相関マップテーブルに警報ラインを重ね合わせするために設ける。
【0177】
回転機器ON・OFFマップは、系統計装データ相関マップテーブル、系統温度相関マップテーブルの補機運転パターンごとに作成された相関マップを選択させるために設ける。
【0178】
系統状態演算部(影響力情報記憶部101、第3指標値算出部104、第4指標値算出部105に対応)は、補機の運転状態で選択された系統計装データ相関マップテーブル、系統温度相関マップテーブルで入力された運転データクラスタリング処理(クラスタ中心点演算)で演算した中心点と、学習データクラスタリング処理(クラスタ中心点演算)で求めた中心点とを演算し、そのマップのセルで中心点乖離度Dが最大のユークリッド距離および学習データクラスタ範囲内に運転データクラスタの中心点が存在していることの有無を確認するためにマハラノビス距離を演算することにより、他系統出力シナプスの出力値Yを決定する。
【0179】
運転データは、イベントが発生するとそれをラベリングデータとしてデータをサンプリングし、都度そのイベントの運転データのデータクラスタをk-means法で中心点を演算し、学習データクラスタとの中心点とのユークリッド距離を演算し、他のセルと比較し、最大値を出力するものとする。
【0180】
イベント発生ごとにサンプリングを行い、データクラスタの中心点を演算し、次のイベントが発生したら同様に中心点の演算を繰り返すことにより、学習データからどれだけユークリッド距離が離れているかを常に演算するものとする。
【0181】
系統ニューロンヒートマップ表示部(異変情報表示部106、警報出力部107に対応)は、相関マップ内の中心点乖離度が0.1超となると黄色表示し、警報ラインに抵触であれば赤色表示する。乖離度が0.1以下であれば、緑表示とする。
【0182】
入力シナプスは、他系統1100からの入力として、同様に相関マップデータの最大乖離度xと重みwと弁開閉vの積値が入力され、影響度が系統Aニューロンに入力される。
【0183】
出力シナプスは、系統Aからの出力として、相関マップデータの最大乖離度Yをxに代入し、重みwと弁開閉vの積値が出力され、影響度が他系統ニューロンに出力される。
【0184】
学習データの蓄積は、プラント通常運転中系統内にイベントが発生していないデータが蓄積したら、学習データとして採用する。その際、蓄積されたデータクラスタの集合から外れ値を検出し、除外を行う。外れ値フィルタは例えば、1σまたは2σ範囲内のデータ以外を外れ値として検出し、除外を行う。外れ値処理を行ったデータについては、k-means法により、データクラスタ中心点を演算し、その後のデータクラスタの乖離値を算出するものとする。
【0185】
学習データは、前述したとおり系統1100の流体による影響で系統内パラメータは変化するため、回転機器固有の性能に左右されやすい。それは、回転機器が新品の時の運転状態と経年劣化が発生した時点では、パラメータの傾向が変化する可能性がある。例えばポンプであれば、揚程の低下や流量の低下などが考えられる。
【0186】
学習データは、回転機器の経年変化を故障の予兆と考える場合、新品時のデータを採取する方がその後のパラメータ変化の予兆をとらえる場合都合がよい。
【0187】
また、回転機器をリプレースした場合は、当然パラメータが変化する場合があるため、それ以前の学習データを破却し、新たなリプレース機器の運転データをもとに学習データを再構成することで、常に最新の状態に更新できるものとする。具体的には、学習データをシステム側で交換する仕組みを設けるものとする。
【0188】
回転機器の経年劣化や定期検査などによりプラント機器が点検されると、初期の性能から外れることで、相関データが変化する場合がある。学習データが古いものであると、相関データクラスタの乖離度は場合によっては大きくなるため、適切ではなくなる可能性がある。そのため、定期検査毎の起動後、通常運転に入ったら学習データを更新し、新たな学習データをもとに相関マップデータを測定することでもよい。
【0189】
学習データのサンプリング間隔は1分程度としているが、データの蓄積を行い、精度を確保するために、例えば秒単位でデータをサンプリングしてデータを充実させてもよい。
【0190】
なお、学習データの蓄積はプラント起動後一定期間まで行うものとするが、例えば、補機切替の全パターンが一巡したまでの期間でもよい。また、暫定的に過去データを入力し、一定期間学習データが蓄積された後、学習データを更新してもよい。
【0191】
次に、図14に示す系統ニューラルネットワーク(連係図)について説明する。
【0192】
各系統1100の接続については、発電所システムを想定して各系統1100のネットワークを例示している。発電所の系統ネットワークは開放系であり、原子炉系統・復水器系統・給復水系等・ヒータドレン系などが閉サイクルで接続となっているものもある。
【0193】
発電所システムの入力は燃料系(石油、石炭、原子燃料等)を除き、発電所の最終ヒートシンクである大気系、海水系、外部電源系が主に発電所の外乱要因となる。
【0194】
このため、最上流の外乱要因として海水温度、外気温度、大気圧、外部電源電圧、周波数を左側に列挙し、外乱要因で直接影響される系統1100を第2段の系統1100とする。第3段以降は上流系統1100から接続された系統1100を接続し、最終的には水、蒸気、空気、所内電源等のユーティリティ系統1100を介して、すべての系統1100が接続される発電所系統ネットワークを形成する。
【0195】
系統1100を接続するものとしては、配管・動力電源によるものがあげられる。各系統1100から供給されるこれら流体の性状については、回転機器の性能、運転・停止状態、運転パターンに依存する。各系統1100の弁状態等で他系統1100に配分された流体の性状(温度、圧力、流量等)は、供給する系統1100の運転状態により変化し、その影響は配管の径や圧力で決定される。
【0196】
そのため、シナプスの入力重みwの決定は、配管計装図から決定するとよい。他系統1100への影響度合いを決定するため、例えば、本系統1100の主配管径と他系統1100への供給配管径を比較し、主系配管に対して何%の割合を占めるかで、重み値とすることでよい。他系統1100に全量供給している系統1100であれば、当該系統1100の回転機器の吐出流量はほぼ系統流量とイコールである。
【0197】
ただし、主系配管径より供給配管径が上回る場合は、閉止弁や減圧弁を設けて過流量にならないようにするため、実際の他系統1100への影響は、弁状態など系統構成により制御されている。そのため、シナプス入力にvとして弁開閉入力を設けて、後段の影響度の有無を弁別するようにしている。また、自動調整弁が使用されている場合は、他系統の影響1100は、調節弁の開度により影響を及ぼす。そのため、シナプス入力にvとして自動調節弁の開度0~100%を0~1の範囲に正規化して入力し、後段の影響度を表してもよい。
【0198】
例えば自系統1100の系統ニューロンヒートマップが黄色表示だとしても、下流の系統1100は流体が供給されていないか、影響が軽微であるため緑表示のままとなっている場合も想定される。
【0199】
次に、図7を参照しながら、相関データマップおよび警報ラインについて説明する。
【0200】
相関データマップは、系統1100内の非温度系、温度系の2系列に分かれ、それぞれ系統内パラメータの総当たり式で相関をとる。相関マップ内の相関のそれぞれをセルと呼び、そのセル内には、過去運転データを基に作成した学習データクラスタが入力されている。
【0201】
相関データを採取するのは、相関係数が0~±0.2以外の相関関係があるセルで、なおかつ行列変換されたセルや対角線上に配置された同一パラメータ同士のセルを除いたものとする。あらかじめセル内に入力された学習データは、基本的に系統1100内でのイベントが発生していないデータでかつ外れ値処理をしたプレーンなデータクラスタで構成されており、相関が強いデータであれば、学習データと運転データのデータクラスタが分離されやすく、クラスタ中心点ユークリッド距離が演算されやすいからである。
【0202】
また、警報ライン(ANNライン)はデータに対する決定木として機能し、警報ラインを超えたデータはすなわち即異常であることが判別される。また、計測器からの異常な出力により正規化されたデータが0以下および1以上の場合も範囲逸脱として、同様に決定木として異常と判別される。
【0203】
次に、図10を参照しながら、系統ニューラルネットワークのシナプス入出力を説明する。
【0204】
本モデルニューラルネットワークは連結された単層パーセプトロンモデルと、系統ニューロンの自己発火(シナプス出力)度合いを相関マップ内のデータクラスタ中心点の乖離度で表した複合モデルである。
【0205】
これにより、他系統1100からのシナプス入力のみならず、系統1100内部のシナプス出力することでプラント1000への影響についても表現できる。例えば、シナプスの入力がなされても、系統ニューロン内部の相関乖離度が微小な変化あるいは影響がなければ、上流系統1100単独の故障と判別することができ、シナプス入力およびシナプス出力が同時に起これば、他系統1100の故障が自系統1100に伝播し、下流の系統1100に伝播していることが示される。
【0206】
本提案では、ニューロン同士のつながりは前述した(式1)で表し、乖離度Dは相関マップセルのデータクラスタ中心ユークリッド距離で表している。また、一定の警報ラインの決定木で判別されると、出力されるものである。
【0207】
系統シナプスの重み値wについては、系統1100の配管設計により決定されるため、重み値wの値は固定となる。なお、系統1100の改造等により変更が生じれば、別途それを反映するように、シナプス経路および重み値wの設定を追加できるようにしてもよい。
【0208】
シナプス出力Yについて、乖離度値または警報値を1として、シナプス出力としている。基本的には起点となる系統1100の故障影響が下流の系統1100を伝播するにしたがって、影響度が薄くなることも考えられる。
【0209】
なお、乖離度Dが0.1ではシナプス出力しない閾値としたが、ハイパーパラメータとして、システム設計者で値を変更してもよい。乖離度Dが常時0.1以上を常時出力されている場合だと、学習データの精度がよくない可能性や、イベント発生時のサンプリングデータが少ないため外れ値が多い可能性がある。そのため、乖離度出力閾値を系統毎に設定し、チューニングすることでもよい。
【0210】
次に、図9を参照しながら、相関マップセル内の学習データクラスタ、イベント発生時データクラスタとそのクラスタ中心点とのユークリッド距離を説明する。
【0211】
セル内に丸印(白丸)で示したデータクラスタが、学習データ、三角印(白抜き三角)および四角印(白抜き四角)で示されたデータクラスタが、イベントデータをラベリングした運転データである。
【0212】
先に説明した、k-means法で各データクラスタの中心点(黒丸、黒三角、黒四角)を演算し、そのユークリッド距離が1を超えたら、系統出力シナプスに出力するものとする。
【0213】
通常運転中は、原則警報が発生していない状態であり、警報ラインの内側にデータが分布している。ラベリングされた運転データが、学習データと重なっている場合は正常、学習データクラスタから外れて警報ライン内側に分布している場合は、軽度な異常が発生している可能性がある。そのため、クラスタ中心点間のユークリッド距離をもって、定量的にどの程度理想データである学習データから乖離しているかを示す。
【0214】
また、図7で示した、警報マップからのデータを相関マップセルに反映して決定木とする。
【0215】
なお、イベントは1回に限らず、複数出る場合もある。それぞれはイベントおよび時刻データ(タイムスタンプ)でラベリングされているため、最新のイベント発生時のデータクラスタで乖離度を演算し、系統ニューロンヒートマップ表示に反映する。
【0216】
学習データクラスタ内に運転データクラスタがある場合は、中心点の距離を取っても、学習データクラスタと完全に離れた運転データクラスタが配置された場合のユークリッド距離が同じであれば、異常が判別しがたくなる。学習データは外れ値を除外した1σまたは2σのデータ分布であるため、ユークリッド距離とマハラノビス距離を同時に演算するものとする。
【0217】
そのため、学習データのマハラノビス距離内に運転データクラスタの中心点が位置するのであれば、異常がないと判別し、緑色表示で例えば0とする。マハラビノス距離以上であればユークリッド距離に切り替えて、乖離度に従い、緑・黄色表示とする。
【0218】
次に、図15を参照しながら、相関データマップテーブルのイベント発生有無によるデータサンプリングトリガーを説明する。
【0219】
図15は、図9で説明した運転データにイベントデータをラベリングしたデータをサンプルする際のマトリックスである。基本的にはラベリングありデータとラベリングなしデータに分けられており、それぞれ何の要因データが発生したのかがわかるようになっている。
【0220】
また、イベントONでデータサンプリングを行い、OFFでデータサンプリングを終了し、ラベリングなしデータのデータサンプリングを開始する。データのサンプリングは例として1分間単位で行ってもよい。
【0221】
なお、ラベリングありおよびなしデータともに、追加ラベリングとして、時刻データ(タイムスタンプ)(yyyy/mm/dd/mm/ss)を添付することにより、同一データ条件でデータが発生してもデータクラスタの分別をすることとする。また、データクラスタのサンプリング時系列変化を追うことも可能となり、後ほどの詳細な検討に役立てることができる。
なお、同時刻で異なる系統内イベントが発生しても、イベントごとにサンプリングをすることによりデータの分離をしやすくする。
【0222】
次に、図16を参照しながら、補機運転パターンのマトリックス図を説明する。
【0223】
図16では補機の運転パターンは補機3台のうち1台運転パターンであるが、そのほかにも3台中2台運転、3台全台運転のパターンなどが考えられる。また、点検中などで、補機の電源を切としている場合もあるためその場合は運転パターンは成立せず、相関マップデータテーブルはこの補機が起動できない状態では選択されないものとする。運転状態に応じて機器ON・OFFマップ入力を行う。
【0224】
このマップにより、相関データマップテーブルの選択およびデータ入力が決定する。
【0225】
補機運転パターンごとの相関マップテーブル生成について、図17に示す。
【0226】
前述したように補機3台であれば、補機運転パターンは7通り考えられるため、相関マップテーブルを7パターン用意する。
【0227】
次に、図11を参照しながら、系統ニューロンヒートマップを説明する。
【0228】
系統ニューロンヒートマップは、本システム表示器で表示され系統Aから各系統毎に一覧表示される。また、系統1100内の相関マップセルについて、警報発生は1で赤色(図11では白黒反転)となる。0.11超えであれば黄色(図11ではドット表示)、0.1以下であれば緑(図11では通常表示)とする。
【0229】
また、乖離度(最大乖離度)数値を表示する。シナプス入力Aを表示し、影響度合いを表示する。
【0230】
枠表示(図11では太枠表示、斜線表示)は、それぞれ起点となる異常が発生した系統1100の関連系統(下流系統)を示すものであり、影響があればそれぞれ赤色(斜線表示)、黄色(太枠表示)が表示され、系統に影響がなければ緑色表示のままとなる。
【0231】
系統ニューロンヒートマップは、乖離度とシナプス入力を表示し、系統1100の影響度を示す。
【0232】
系統ニューロンヒートマップ表示の図右に示すように、海水温度、大気温度、大気圧力、系統電圧、系統周波数等外部要因で発電所単独ではコントロール不可能な要因について、起点表示されれば、外部要因である旨が容易に示される。起点が系統由来によるものであれば、発電所内部に故障が発生し、それが他系統1100への影響がおよぶことが示される。そのため、黄色表示枠(太枠表示)、赤色表示枠(斜線表示)を関連系統1100に示し、枠の配置や系統ニューロンヒートマップの変色により、発電所全体システムの影響が俯瞰できる。
【0233】
なお、外部要因の海水温度等の色表示については、海水温度を例にとると、過去温度変化データ分布で例えば2σ以内のデータ分布であれば緑色、2σ~3σ以内であれば黄色、外れデータであれば赤などとしてもよい。ただし、海水温度については、直接発電所の出力に影響があるため、緑色の範囲を発電所の定格出力が保てる設計温度範囲としてもよい。
【0234】
このように外部要因については、過去データで正規分布にあるものと仮定して、緑、黄、赤の設定をしてもよい。
【0235】
系統ニューロンヒートマップ表示は、原因事象が解消されると、緑色に戻る場合もある。その場合は、過去事象が追えるように記憶用データベースを設け、参照することでもよい。
【0236】
故障起点発生の系統ニューロンヒートマップ窓をクリックすると図20のように自系列グラフを表示するが、ほかに系統1100の連なりを表示する系統樹(図2図14)で示してもよい。これは、系統1100のつながりを樹形でしめすことで、系統1100の相関を視覚的に把握することでよい。
【0237】
系統1100の乖離度の系統ニューロンヒートマップ表示は本提案では最大値のみとしているが、系統1100内の相関パラメータセル内の乖離度成分を評価するために、系統ニューロンヒートマップ窓をクリックすると最大値のほかに最小値、中間値、平均値、標準偏差などのパラメータを演算し、表示することでも良い。各演算値の数値が高めを指示しているならば、学習データと運転データとの乖離が大きいことが示される。このように系統の運転状態の変化が数値で示されることでもよい。
【0238】
シナプス入出力値については、系統ニューロンヒートマップ上では表現されていなかったが、上記と同様に系統ニューロンヒートマップ窓をクリックすると演算結果を表示してもよい。
【0239】
図18に、系統ニューロン窓の説明図を示す。
【0240】
系統ニューロンヒートマップでは、最小限の情報のみしか表示されていないが。ヒートマップの窓をクリックすると、詳細な情報を表示してもよい。
【0241】
ここでは、系統名、乖離度の詳細、イベント、最大相関マップセル、乖離度平均、乖離度中間値、入力シナプス詳細(合計、他系統からの入力シナプス値)、出力シナプスについて表示される。また、図20で示される系統ニューロンヒートマップ内の相関マップ最大乖離度時系列グラフを表示するコマンドボタンを設けてもよい。
【0242】
次に、図20を参照しながら系統ニューロンヒートマップ内の相関マップ最大乖離度時系列グラフ表示について説明する。
【0243】
系統ニューロンヒートマップ表示について、乖離度やシナプス合計値との演算値の時系列変化を知る必要がある場合は、例えば、系統ニューロンヒートマップ窓をクリックして、乖離度を縦軸、時間を横軸にした乖離度変化グラフを図20で例示するように表示してもよい。グラフ中の四角は、イベントデータが発生した表示であり、最大乖離度が発生したイベントデータが表示される。これらのイベントデータが発生した時点で何らかの故障が発生したことが示唆される。また、イベントデータクリア後には、通常運転に戻る。その際の最大乖離度の変化を見ることで、異常が継続しているのか、終息しているのかを判別することが可能となる。
【0244】
また、最大乖離度を発生している相関マップセルのパラメータ(例えばXXポンプ出口流量―YYポンプ出口圧力の相関)を表示することによって、どのパラメータに影響があったのかを表示することで、原因調査に資することができる。
【0245】
また、図20中では最大乖離度の時系列データグラフとしているが、これに加え、シナプス入力データも時系列データグラフに取り込み、時系列影響についての検証をすることでもよい。
【0246】
次に、図19を参照しながら、系統ニューロンヒートマップ色表示と系統ニューラルネットワークシナプス出力についてのフローを説明する。
【0247】
まずプラント管理装置100は、補機管理テーブル640を参照し、回転機器運転状態を確認する(S2000)。
【0248】
プラント管理装置100は、回転機器運転状態により、相関データマップテーブルの選択およびデータ入力を決定する(S2010)。
【0249】
続いてプラント管理装置100は、選択した相関データマップテーブルを用いて、学習データクラスタの中心点(第1基準値)と、運転データクラスタの中心点(第1指標値)と、のユークリッド距離から乖離度(第2指標値)を演算する(S2020)。そしてプラント管理装置100は、非温度計、温度系を含めた系統1100全体の中で乖離度の最大値(第3指標値)を求める(S2030)。
【0250】
プラント管理装置100は、相関サンプリングデータが警報ラインまたは所定の上下限値を超えているか、最大乖離度が1以上であるか否かを判定し(S2040)、Yesの場合には、当該系統1100のヒートマップを赤色表示(図11では白黒反転表示)すると共に、当該系統1100の下流系統1100のヒートマップを赤枠表示(図11では斜線表示)する(S2050)。またプラント管理装置100は自系統1100のヒートマップに「起点」を示す表示を行う(S2100)。
【0251】
また、プラント管理装置100は、他系統1100のシナプス入力と自系統1100の最大乖離度の合計が1以上であるか否かを判定し(S2060)、1以上である場合には、当該系統1100のヒートマップを黄色表示(図11ではドット表示)すると共に、当該系統1100の下流系統1100のヒートマップを黄色表示(図11では太枠表示)する(S2070)。また、プラント管理装置100は自系統1100のヒートマップに「起点」を示す表示を行う(S2100)。
【0252】
また、プラント管理装置100は、自系統1100の最大乖離度の合計が0.1以上1未満であるか否かを判定し(S2080)、Yesである場合には、当該系統1100のヒートマップを黄色表示(図11ではドット表示)する(S2090)。
【0253】
プラント管理装置100は、S2040、S2060、S2080がいずれのNoである場合には、当該系統1100のヒートマップを緑色表示(図11では通常表示)する(S2120)。
【0254】
プラント管理装置100は、以上の処理を系統1100毎に順次行うことで(S2110)、系統ニューロンヒートマップにおける赤色、緑色、黄色の表示や、それぞれの起点表示や枠表示を行う。
【0255】
次に、図12を参照しながら、イベントデータ発生有無のデータクラスタの乖離度演算、系統ニューロンヒートマップ及びグラフ出力表示、シナプス入出力演算についてのフローチャートを説明する。
【0256】
プラント管理装置100は、イベントONを検知したら(S3000)、イベント管理テーブル630を参照し、当該イベント用の相関マップテーブル620を特定すると共に、プラントデータ(運転データ)をイベントと対応付けてサンプリングしてプラントデータ管理テーブル610に記憶する(S3010)。
【0257】
そしてプラント管理装置100は、このプラントデータクラスタの中心点を演算し(S3020)、学習データクラスタの中心点とのユークリッド距離(乖離度)を演算する(S3030)。
【0258】
プラント管理装置100は、系統1100内の乖離度の最大値を求め(S3100)、記憶用データベース140に格納し、運転データクラスタ解析用アプリケーションソフトを用いた解析を行う(S3090)。
【0259】
また、プラント管理装置100は、上流系統1100から取得したシナプス入力値(x、w、v)を用いて(S3120)、自系統1100のシナプス出力値Yを演算し(S3130)記憶用データベース140に格納し、運転データクラスタ解析用アプリケーションソフトを用いた解析を行う(S3090)。
【0260】
プラント管理装置100は、S3100、S3130で演算した結果を元に、ヒートマップに乖離度、シナプス入力値、と共に色表示を行う(S3110、S3140、S3150、S3160、S3180)。
【0261】
また、プラント管理装置100は、適宜、図20に示したようなグラフ表示を行う(S3170)。
【0262】
続いてプラント管理装置100は、、イベントOFFを検知したら(S3040)、イベント管理テーブル630を参照し、イベントなし用の相関マップテーブル620を特定すると共に、プラントデータ(運転データ)をイベントなしと対応付けてサンプリングしてプラントデータ管理テーブル610に記憶する(S3050)。
【0263】
そしてプラント管理装置100は、このプラントデータクラスタの中心点を演算し(S3060)、イベントなしの学習データクラスタの中心点とのユークリッド距離(乖離度)を演算する(S3070)。
【0264】
その後、次のイベントが発生したら(S3080)、プラント管理装置100は、S3010の処理を開始する。
【0265】
以上のような態様により、運転員は迅速にプラント1000に生じた異変の状態を把握することが可能となる。
【0266】
なお、本システム100の補足として、運転データクラスタは、イベントまたはデジタルデータでラベリングおよびタイムスタンプされているため、時系列的に、過去のイベント発生時のデータクラスタと現在の同一のイベントデータクラスタと比較して、同様に乖離度を計算することもできる。そのため、定期試験など通常の手順で実施した場合のデータクラスタの乖離度の有無により、異常が発見される可能性もある。
【0267】
また、タイムスタンプされているため、サンプリングデータの軌跡を追うこともでき、同様に過去データの軌跡との比較も可能である。
【0268】
これらの処理は、運転員が異常の判別をする際、記憶用データベースからデータを出力し、別途評価用のアプリケーションソフトにより、過去データとの比較を容易にするようにしてもよい(図21のS3090)。また、アプリケーションシステム上で、自動で過去の同一イベントの時系列の運転データクラスタの中心点の推移について、学習データから離れることをとらえ、故障の予兆管理とすることでもよい。
【0269】
また、その他プラント1000によっては、系統パラメータデータ(非温度系)、系統パラメータデータ(温度系)の数が少なく、最小一つづつの場合も考えられる。その際は、温度系と非温度系との組み合わせによる相関マップセルとすることでもよい。
【0270】
なお、上述した実施の形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。
【0271】
例えば本システム100は、原子力・火力発電プラント、化学プラント等、関連した複数系統1100で構成されているプラント1000に適用できる。
【0272】
また、本システム100は、プラント1000のサイバーセキュリティにも応用することができる。外部ネットワークからの不正なアクセスや、不正な周辺機器によるマルウェアのインストール等のシグネチャー型攻撃により、単一の制御計測機器への偽信号挿入や不正な制御の挙動があった場合でも、当該箇所の異常の検知及びプラントに対する影響の確認をすることが可能である。
【0273】
また、本システム100は原子力発電所を想定したプラント異常監視システム100およびプラント異常監視方法であるが、他のプラント1000に適用する場合はその系統1100に即した構成とする必要がある。ただし、当業者であれば容易に想定し、改良を施される場合であっても、本発明の主旨が適用されていれば、同一とみなすことができる。
【符号の説明】
【0274】
100 プラント管理装置
101 影響力情報記憶部
102 プラントデータ取得部
103 第2指標値算出部
104 第3指標値算出部
105 第4指標値算出部
106 異変情報表示部
107 警報出力部
110 CPU
120 メモリ
130 通信装置
140 記憶装置
150 入力装置
160 出力装置
170 記録媒体読取装置
200 運転監視用計算機
500 ネットワーク
600 影響力情報テーブル
610 プラントデータ管理テーブル
620 相関マップテーブル
630 イベント管理テーブル
640 補機管理テーブル
700 プラント管理装置制御プログラム
800 記録媒体
1000 プラント
1100 系統
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
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