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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171195
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】ピストン
(51)【国際特許分類】
   F02F 3/22 20060101AFI20241204BHJP
   F02F 3/26 20060101ALI20241204BHJP
   F02B 23/06 20060101ALI20241204BHJP
   F16J 1/09 20060101ALI20241204BHJP
   F16J 1/08 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
F02F3/22 A
F02F3/26 C
F02B23/06 R
F02B23/06 H
F16J1/09
F16J1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088146
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】阪井 博行
(72)【発明者】
【氏名】市川 和男
(72)【発明者】
【氏名】小湊 裕允
(72)【発明者】
【氏名】奥田 剛史
(72)【発明者】
【氏名】中橋 宏和
(72)【発明者】
【氏名】中野 光一
(72)【発明者】
【氏名】本田 雄一
【テーマコード(参考)】
3G023
3J044
【Fターム(参考)】
3G023AA12
3G023AB05
3G023AC05
3G023AD02
3G023AD09
3G023AD10
3J044AA09
3J044BA01
3J044CA14
3J044CA33
3J044DA09
(57)【要約】
【課題】クーリングチャンネルを有するピストンにおける冷却効率の向上を図ることが可能なピストンを提供する。
【解決手段】ピストン5の内部には、冷却用のオイル19が流通可能な環状のクーリングチャンネル5gが形成されている。クーリングチャンネル5gは、環状の流路本体部5g1と、流路本体部5g1の周方向に分散して配置され、かつ、当該周方向と異なる方向、例えば流路本体部5gの径方向内側に当該流路本体部5g1から各々突出する複数の凸部5g2とを有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのシリンダ内を往復移動するピストンであって、
前記ピストンの内部には、冷却用のオイルが流通可能な環状のクーリングチャンネルが形成され、
前記クーリングチャンネルは、
環状の流路本体部と、
前記流路本体部の周方向に分散して配置され、かつ、当該周方向と異なる方向に当該流路本体部から各々突出する複数の凸部と
を有する、
ことを特徴とするピストン。
【請求項2】
請求項1記載のピストンにおいて、
前記複数の凸部の各々は、前記流路本体部から少なくとも当該流路本体部の径方向内側または外側のいずれかに突出している、
ことを特徴とするピストン。
【請求項3】
請求項2記載のピストンにおいて、
前記複数の凸部は、前記流路本体部から前記径方向内側にのみ突出している、
ことを特徴とするピストン。
【請求項4】
請求項3記載のピストンにおいて、
前記複数の凸部の各々は、前記流路本体部の周方向に等間隔で配置されている、
ことを特徴とするピストン。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項記載のピストンにおいて、
前記エンジンは、前記シリンダ内に燃料を噴射するインジェクタを有しており、
前記複数の凸部は、前記インジェクタの燃料噴射時における前記ピストンの位置において当該インジェクタの噴射方向の延長線上に配置されている、
ことを特徴とするピストン。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項記載のピストンにおいて、
前記シリンダ内に燃焼室を形成する冠面をさらに有し、
前記ピストンの内部における前記クーリングチャンネルに対して前記冠面の反対側には、粉粒体が充填された空隙部が形成されている、
ことを特徴とするピストン。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項記載のピストンにおいて、
前記ピストンは、前記シリンダ内に燃焼室を形成する冠面であって、当該ピストンの内方に凹んだ凹部を有する冠面を有し、
前記クーリングチャンネルは、前記ピストンの内部において前記凹部を取り囲むように配置されている、
ことを特徴とするピストン。
【請求項8】
請求項7に項記載のピストンにおいて、
前記ピストンの内部における前記クーリングチャンネルに対して前記冠面の反対側の位置には、粉粒体が充填された空隙部が形成されている
ことを特徴とするピストン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのシリンダ内で往復移動するピストンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンなどのエンジンでは、出力および燃費向上のために高温高圧で稼働させるので、ピストンは高温になりやすい。そのため、ピストンの冷却のために、特許文献1に記載されているように、ピストンヘッドの内部には、クーリングチャンネルと呼ばれるオイルが流通する環状の通路(オイル流路)が形成されている。
【0003】
このピストンの下面には、クーリングチャンネルに連通するオイル流入口および流出口がそれぞれ形成されている。ピストンが上昇して下死点から上死点へ向かうときに、エンジンシリンダに設けられたオイル噴射部(オイルジェット)からピストン下端のオイル流入口へオイルが噴射されることにより、クーリングチャンネル内へオイルが流入する。流入したオイルは、クーリングチャンネルを通りながら上死点付近で火炎に触れて高温となったピストンを冷却した後、流出口からピストン外部へ排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6335781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のクーリングチャンネルは、オイルを流通しやすくするために、周方向において同じ断面積を有する環状の形状を有しているが、ピストンの冷却効率を向上するためには改善の余地がある。
【0006】
とくに、近年では、ピストンの軽量化のためにピストン内部に空隙部を設けたり、さらに振動抑制のために空隙部に粉体を充填した構造などが提案されているが、空隙部の内部の空気は断熱層になるのでピストンの冷却効率にとっては好ましくないので、このような空隙部を有するピストンに関しては冷却効率の向上の要求がとくに高い。
【0007】
本発明は、前記のような事情に鑑みてなされたものであり、クーリングチャンネルを有するピストンにおける冷却効率の向上を図ることが可能なピストンの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために本発明のピストンは、エンジンのシリンダ内を往復移動するピストンであって、前記ピストンの内部には、冷却用のオイルが流通可能な環状のクーリングチャンネルが形成され、前記クーリングチャンネルは、環状の流路本体部と、前記流路本体部の周方向に分散して配置され、かつ、当該周方向と異なる方向に当該流路本体部から各々突出する複数の凸部とを有することを特徴とする。
【0009】
かかる構成によれば、クーリングチャンネルは、環状の流路本体部の周方向に分散して配置された複数の凸部を有する。複数の凸部は、周方向と異なる方向に流路本体部から各々突出する。このような分散配置された複数の凸部を有することにより、クーリングチャンネル内を流れるオイルは、複数の凸部それぞれの内部で渦などの乱流を発生することが可能である。しかも、複数の凸部を有することにより、クーリングチャンネル全体におけるオイルに接触して熱を伝える表面積を拡大することが可能である。したがって、複数の凸部によるオイル流れの乱流の発生と伝熱面積の拡大により、クーリングチャンネルへのオイル供給量を増やさずにピストンからオイルへ伝達する熱量を増やすことが可能になる。その結果、クーリングチャンネルを有するピストンにおける冷却効率の向上を達成することが可能である。
【0010】
上記のピストンにおいて、前記複数の凸部の各々は、前記流路本体部から少なくとも当該流路本体部の径方向内側または外側のいずれかに突出しているのが好ましい。
【0011】
かかる構成によれば、複数の凸部は流路本体部の径方向内側または外側に突出しているので他の方向(例えば、流路本体部の上側または下側など)に比べて流路本体部を流れるオイルの流速の低下を抑えながら複数の凸部内で渦などの乱流を発生させてオイルの伝熱効率をより向上させることが可能である。
【0012】
上記のピストンにおいて、前記複数の凸部は、前記流路本体部から前記径方向内側にのみ突出しているのが好ましい。
【0013】
かかる構成によれば、複数の凸部は流路本体部の径方向内側に突出しているので、ピストンの半径方向における中心側の冷却を促進することができる。しかも、径方向外側の凸部に比べて流路本体部を流れるオイルの流速の低下を抑えながら複数の凸部内で渦などの乱流を発生させることができるのでオイルの伝熱効率をより一層向上させることが可能である。
【0014】
上記のピストンにおいて、前記複数の凸部の各々は、前記流路本体部の周方向に等間隔で配置されているのが好ましい。
【0015】
かかる構成によれば、流路本体部の周方向に等間隔で配置された複数の凸部により、等間隔に乱流を発生させることが可能になり、オイルの伝熱効率をさらに一層向上させることが可能である。
【0016】
上記のピストンにおいて、前記エンジンは、前記シリンダ内に燃料を噴射するインジェクタを有しており、前記複数の凸部は、前記インジェクタの燃料噴射時における前記ピストンの位置において当該インジェクタの噴射方向の延長線上に配置されているのが好ましい。
【0017】
シリンダ内では、燃料を点火した時にはインジェクタの噴射方向に沿って火炎が発生する。そこで、上記のように複数の凸部をインジェクタの噴射方向の延長線上に配置することにより、当該複数の凸部をピストンにおける火炎と接触する部位に一致させることが可能になる。これにより、当該火炎接触部位を凸部で発生するオイルの乱流によって効果的に冷却することが可能になる。したがって、ピストンにおける火炎接触部位の冷却を促進することが可能になる。
【0018】
上記のピストンにおいて、前記シリンダ内に燃焼室を形成する冠面をさらに有し、前記ピストンの内部における前記クーリングチャンネルに対して前記冠面の反対側には、粉粒体が充填された空隙部が形成されているのが好ましい。
【0019】
かかる構成によれば、空隙部によってピストンの軽量化を図ることができるとともに、空隙部の内部での粉粒体の移動によってピストンの振動抑制効果が得られる。しかも、空隙部内の空気が断熱層になっていても、上記の複数の凸部によるオイル流れの乱流の発生と伝熱面積の拡大によってピストンの冷却機能を維持することが可能である。
【0020】
上記のピストンにおいて、前記ピストンは、前記シリンダ内に燃焼室を形成する冠面であって、当該ピストンの内方に凹んだ凹部を有する冠面を有し、前記クーリングチャンネルは、前記ピストンの内部において前記凹部を取り囲むように配置されているのが好ましい。
【0021】
ディーゼルエンジンのピストンなどでは、ピストンの冠面に凹部が形成されている。ディーゼルエンジンの稼働時には、燃料が高圧圧縮下で自着火することにより高温高圧の火炎が冠面の凹部で発生する。そこで、上記の構成では、クーリングチャンネルが流路本体部の周方向に分散して配置された複数の凸部を有するとともに、ピストンの内部において凹部を取り囲むように配置されていることにより、クーリングチャンネルへのオイル供給量を増やさずにピストンからオイルへ伝達する熱量を増やすことが可能になる。その結果、高温高圧のディーゼルエンジン用のピストンなどでの冷却効率の向上を達成することが可能である。
【0022】
上記のピストンにおいて、前記ピストンの内部における前記クーリングチャンネルに対して前記冠面の反対側の位置には、粉粒体が充填された空隙部が形成されているのが好ましい。
【0023】
また、上記のように冠面に凹部を有するディーゼルエンジン用のピストンなどでは、ピストンの全長が通常のガソリンエンジン用ピストンに比べて長くなるので、重量の増大および首振り振動がしやすい傾向がある。しかし、上記の構成では、ピストンの内部におけるクーリングチャンネルに対して冠面の反対側の位置には、粉粒体が充填された空隙部が形成されているので、空隙部によってピストンの軽量化を図ることができるとともに、空隙部の内部での粉粒体の移動によってピストンの振動抑制効果が得られる。また、この構成では、空隙部内の空気が断熱層になっていても、上記の複数の凸部によるオイル流れの乱流の発生と伝熱面積の拡大によってピストンの冷却機能を維持することが可能である。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明のピストンによれば、クーリングチャンネルを有するピストンにおいて冷却効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係るピストンを備えたディーゼルエンジンの全体構成を示す断面図である。
図2図2のピストンの縦断面図である。
図3図1のピストンにおける横断面図であってクーリングチャンネルの高さ位置で横に切断した図である。
図4図3の流路本体部の径方向内側に突出する複数の凸部がインジェクタの噴射方向の延長線上に配置されていることを示す断面説明図である。
図5】(a)比較例である凸部を有しない環状のクーリングチャンネルを有するサンプル0のピストンの横断面図、(b)は本発明の一実施形態である図2に対応する流路本体部の径方向内側に複数の凸部を有する環状のクーリングチャンネルを有するサンプル1のピストンの横断面図、(c)は本発明の他の実施形態である径方向外側に複数の凸部を有する環状のクーリングチャンネルを有するサンプル2のピストンの横断面図、(d)は本発明のさらに他の実施形態である径方向内側および外側にそれぞれ複数の凸部を有する環状のクーリングチャンネルを有するサンプル3のピストンの横断面図である。
図6図5のサンプル0~3に関するクーリングチャンネルの流入口付近、流出口付近、および流路中間位置におけるピストンとオイルの間における熱伝達係数を示すグラフである。
図7図5のサンプル0~3に関するクーリングチャンネルを流れるオイルの平均流速を示すグラフである。
図8図5のサンプル0~3に関するクーリングチャンネルを流れるオイルのレイノルズ数を示すグラフである。
図9図5のサンプル0~3に関するクーリングチャンネルの流入口付近におけるピストンの温度変化を示すグラフである。
図10図5のサンプル0~3に関するクーリングチャンネルの流入口と反対側の位置におけるピストンの温度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係るピストンについて、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
(1)エンジンの構成
図1は、本発明の実施形態に係るピストン5を備えたディーゼルエンジン1の断面図である。
【0028】
ディーゼルエンジン1は、図1の紙面に垂直な方向に並ぶ複数のシリンダ2(図1ではそのうちの一つのみを示す)を有し、軽油を主成分とする燃料の供給を受けて駆動されるエンジンである。ディーゼルエンジン1(以下エンジン1という)は、シリンダブロック3、シリンダヘッド4及びピストン5を備える。シリンダブロック3は、シリンダ2を形成するシリンダライナを有する。シリンダヘッド4は、シリンダブロック3の上面に取り付けられ、シリンダ2の上部開口を塞いでいる。ピストン5は、シリンダ2に往復摺動可能に収容されており、コネクティングロッド8(以下、コンロッド8)を介してクランクシャフト7と連結されている。コンロッド8の上端部は、ピストンピン16によりピストン5に揺動自在に連結されている。コンロッド8の下端部は、クランクシャフト7のクランクピン7bに揺動自在に連結されている。これにより、ピストン5の往復運動に応じて、クランクシャフト7はその出力軸7aを回転中心として回転することが可能である。ピストン5の構造については、後記で詳述する。
【0029】
ピストン5の上方には燃焼室6が形成されている。燃焼室6は、シリンダヘッド4の下面、シリンダ2およびピストン5の冠面5a2によって形成されている。
【0030】
シリンダヘッド4には、燃焼室6と連通する吸気ポート9及び排気ポート10が形成されている。シリンダヘッド4の下面には、吸気ポート9の下流端である吸気側開口と、排気ポート10の上流端である排気側開口とが形成されている。シリンダヘッド4には、前記吸気側開口を開閉する吸気弁11と、前記排気側開口を開閉する排気弁12とが組み付けられている。エンジン1のバルブ形式は、例えば、吸気2バルブ×排気2バルブの4バルブ形式であって、吸気ポート9及び排気ポート10は、各シリンダ2につき2つずつ設けられるとともに、吸気弁11及び排気弁12も2つずつ設けられている。
【0031】
シリンダヘッド4には、カムシャフトを含む吸気側動弁機構13及び排気側動弁機構14が配設されている。吸気弁11及び排気弁12は、これら動弁機構13、14により、クランクシャフト7の回転に連動して開閉駆動される。
【0032】
シリンダヘッド4には、インジェクタ15(燃料噴射弁)が、例えば各シリンダ2につき1つずつ取り付けられている。インジェクタ15は、その先端部において燃焼室6内に燃料を噴射する燃料噴射部15aを有する。インジェクタ15は、図示しない燃料供給管を通して供給された燃料を燃料噴射部15aから燃焼室6に霧状に噴射(噴霧)する。インジェクタ15は、燃料を噴霧する燃料噴射部15aが燃焼室6の径方向中心又はその近傍に位置するように、シリンダヘッド4に組み付けられ、ピストン5の冠面5a2に形成された後述の凹部5fに向けて燃料を噴射する。
【0033】
本実施形態のエンジン1は、ディーゼルエンジンであるので、ピストン5が上昇して燃焼室6内の空気が圧縮された状態でインジェクタ15から燃料を燃焼室6内に高圧で噴霧することによって燃料を自着火により燃焼させ、その燃焼による膨張力を受けてピストン5が上下方向に往復動する。ピストン5の往復動に応じて、クランクシャフト7がその出力軸7aを回転中心として回転することにより、出力軸7aから回転駆動力が出力される。
【0034】
また、シリンダブロック3におけるシリンダ2の下端部付近には、下死点から上死点へ上昇するピストン5の下面に形成された下面流入口5k(図3参照)に向けて冷却用オイルを噴射するオイル噴射部18(オイルジェット)を有する。
【0035】
(2)ピストンの構造
図2~3は、ピストン5の具体的構造を示す図であり、図2は、図1のピストンの縦断面図、図3は、図1のピストンにおける横断面図であってクーリングチャンネルの高さ位置で横に切断した図である。
【0036】
なお、図1~3では、上下方向Zはシリンダ2の中心軸の方向(シリンダ軸方向)およびピストン5の往復動方向と同義であり、前後方向Yはクランクシャフト7の軸方向と平行な方向であり、左右方向Xは上下方向Zおよび前後方向Yの双方に直交する方向のことであり、その一方側のX2を「右」、他方側のX1を「左」とする。図1~3では、左側X1は排気側(図1の排気ポート10がある側)、右側X2は吸気側(吸気ポート9がある側)としている。
【0037】
ピストン5は、図1に示されるように、エンジン1のシリンダ2内で所定の往復動方向(上下方向Z)に往復移動する部材である。
【0038】
ピストン5は、図2に示されるように、クーリングチャンネル5gおよび空隙部5hを有するピストン本体50と、当該空隙部5hに充填された粉粒体17とを備える。
【0039】
ピストン本体50は、コンロッド8との連結のためのピストンピン16が挿入されるピンボス部5dを有し、かつ、ピストン本体50の内部にクーリングチャンネル5gおよび空隙部5hが形成された構成を有する。
【0040】
具体的には、ピストン本体50は、図2に示されるように、ピストンヘッド5aと、ピストンヘッド5aの外周から下方に延びる一対のスカート部5bとを有している。
【0041】
ピストンヘッド5aは、円柱状の部材であり、シリンダ2の側周面と摺接する外周面5a1と、燃焼室6の底面を形成する冠面5a2とを備える。冠面5a2は、ピストンヘッド5aの最上部の面(頂面)であり、当該冠面5a2には下方に凹む凹部5f(キャビティ)が形成されている。凹部5fは、燃焼室6の天井面に配置されたインジェクタ15から噴射された燃料を受けるための凹部であり、凹部5f中央には燃料を分散させる凸部5f1が上方に突出している。これにより、ピストン5は、当該ピストン5の内方に凹んで燃焼室6の下部を形成する凹部5fを有する冠面5a2を備えたディーゼルエンジン用のピストンの形状に形成されている。
【0042】
ピストンヘッド5aの外周面5a1には、ピストンリング(図示省略)が嵌め込まれる複数の(ここでは3つの)リング溝5eが形成されている。
【0043】
一対のスカート部5bは、その一方が右側X2(吸気側)に、他方が左側X1(排気側)に位置するように配置されている。各スカート部5bは、ピストン5が往復動する際にシリンダ2の側周面に摺接することが可能である。
【0044】
ピストンヘッド5aの下側であって両スカート部5bの間の部位には、前後方向Y(図1~2の紙面垂直方向)に離間する一対の縦壁5cが設けられている。縦壁5cは、両スカート部5b同士をつなぐように左右方向Xに延びる壁部である。
【0045】
一対の縦壁5cは、その左右方向Xの中間部にピンボス部5dをそれぞれ有している。各ピンボス部5dは、前後方向に貫通するピン孔5d1を規定する環状の壁部である。ピン孔5d1には、ピストン本体50とコンロッド8とを結合するために前後方向に延びるピストンピン16(図1)が挿入されて当該ピン孔5d1に嵌合している。
【0046】
本実施形態のピストン本体50は、ディーゼルエンジン用のピストンの形状を有する。すなわち、ピストン本体50は、その冠面5a2において燃焼室6の下部を形成する凹部5fを有するとともに当該ピストン本体50の内部において凹部5fの近傍に油冷用のクーリングチャンネル5g(オイル流路)を有する。
【0047】
図2~3に示されるクーリングチャンネル5gは、凹部5fの周囲を取り囲むようにリング状(環状)に形成されている。クーリングチャンネル5gには、ピストンヘッド5aの下面に開口する下面流入口5kおよび垂直流路5mを通して、ピストン5の下側から冷却用のオイル19が供給される。具体的には、図1に示されるピストン5が下死点から上死点へ向けて上昇するときに、シリンダ2に設けられたオイル噴射部18(オイルジェット)からオイルがピストン5の下面流入口5kに向けて噴射され、噴射されたオイルが垂直流路5mを通してクーリングチャンネル5gに導入される。
【0048】
クーリングチャンネル5gは、具体的には、図3~4に示されるように、環状の流路である流路本体部5g1と、当該流路本体部5g1に連通する複数(本実施形態では10個)の凸部5g2とを有する。
【0049】
環状の流路本体部5g1には、上記の図2に示される下面流入口5kおよび垂直流路5mに連通する流入口5pと、当該流入口5pに対して流路本体部5g1の中心の反対側に2か所の流出口5rが形成されている。流出口5rは、図示しない垂直流路などを通してピストン5の下面からピストン5の外部に開放されている。したがって、流入口5pからクーリングチャンネル5gの流路本体部5g1に導入されたオイル19は、流路本体部5g1の内部を周方向に流れた後に2か所の流出口5rからピストン5の下面から外部に順次流出していく。
【0050】
複数の凸部5g2は、図3~4に示されるように、流路本体部5g1の周方向に分散して配置される。すなわち、本実施形態では、10個の凸部5g2が等間隔(36度の間隔)で分散して配置されている。複数の凸部5g2は、流路本体部5g1から各々突出(膨出)する流路本体部5g1と連通する空間部である。なお、凸部5g2の数は、ピストン5の大きさ、または凸部5g2の大きさなどに基づいて決定される。
【0051】
複数の凸部5g2は、流路本体部5g1から少なくとも流路本体部5g1の径方向内側または外側のいずれかに突出している。本実施形態では、複数の凸部5g2は、流路本体部5g1から径方向内側に突出しているので、流路本体部5g1よりもピストン5の冠面5a2の凹部5fに近い位置に配置されており、凹部5f内に発生する火炎の熱を凸部5g2内のオイル19へ伝達し易い。
【0052】
さらに具体的には、複数の凸部5g2は、流路本体部5g1の周方向に等間隔で配置されているので、周方向において均一に熱伝達し易くなっている。
【0053】
また、図4に示されるように、複数の凸部5g2は、インジェクタ15の燃料噴射時におけるピストン5の位置において当該インジェクタ15の噴射方向S(具体的には、霧状の燃料を噴霧する噴霧方向)の延長線上に配置されている。そのため、噴射方向Sに沿って延びる火炎の熱を凸部5g2内のオイル19へ伝達し易い。
【0054】
ピストン5の内部におけるクーリングチャンネル5gに対して冠面5a2の反対側(図2における下方の位置)には、上記の粉粒体17が充填された空隙部5hが形成されている。
【0055】
粉粒体17は、多数の微細な粒子の集合体である。粉粒体17は、空隙部5hの内部で移動可能な充填率(すなわち、空隙部5hを粉粒体17によって完全に塞がない程度の充填率)で空隙部5hに充填されている。
【0056】
粉粒体17の充填率は、例えば、空隙部5hの容積に占める体積割合として、40~60%であれば粉粒体17が空隙部5hの内部をピストン5の幅方向(左右方向X)および上下方向Zに円滑に移動することができ、ピストン5の首振り抑制および粉粒体17による振動減衰の両立が可能である。
【0057】
粉粒体17としては、ピストン鋳造時およびエンジン使用時の熱に耐えられる程度の耐熱性を有するセラミックなどの無機材料または金属材料からなる粉体または粒体が選定される。粉粒体17の粒子の大きさおよび形状は、ピストン5の往復移動に伴って粉粒体17が空隙部5hの内部で移動可能な条件を満たすように適宜選定される。
【0058】
(本実施形態の特徴)
(1)
本実施形態のピストン5では、ピストン5の内部には、図2~4に示されるように、オイル噴射部18(オイルジェット)(図1参照)から供給された冷却用のオイル19が流通可能な環状のクーリングチャンネル5gが形成されている。
【0059】
クーリングチャンネル5gは、環状の流路本体部5g1と、流路本体部5g1の周方向に分散して配置され、かつ、当該周方向と異なる方向(たとえば、流路本体部5g1の径方向内側または外側、あるいは流路本体部5g1の上側または下側)に当該流路本体部5g1から各々突出する複数の凸部5g2とを有する。
【0060】
このような分散配置された複数の凸部5g2を有することにより、クーリングチャンネル5g内を流れるオイル19は、複数の凸部5g2それぞれの内部で渦などの乱流を発生することが可能である。しかも、複数の凸部5g2を有することにより、クーリングチャンネル5g全体におけるオイル19に接触して熱を伝える表面積を拡大することが可能である。したがって、複数の凸部5g2によるオイル流れの乱流の発生と伝熱面積の拡大により、クーリングチャンネル5gへのオイル供給量を増やさずにピストン5からオイルへ伝達する熱量を増やすことが可能になる。その結果、クーリングチャンネルを有するピストン5における冷却効率の向上を達成することが可能である。
【0061】
(2)
本実施形態のピストン5では、複数の凸部5g2の各々は、流路本体部5g1から少なくとも流路本体部5g1の径方向内側または外側のいずれかに突出している。
【0062】
かかる構成によれば、複数の凸部5g2は流路本体部5g1の径方向内側または外側に突出しているので他の方向(例えば、流路本体部5g1の上側または下側など)に比べて流路本体部5g1を流れるオイル19の流速の低下を抑えながら複数の凸部5g2内で渦などの乱流を発生させてオイルの伝熱効率をより向上させることが可能である。
【0063】
(3)
本実施形態のピストン5では、複数の凸部5g2は流路本体部5g1の径方向内側に突出しているので、ピストン5の半径方向における中心側(具体的には、冠面5a2の半径方向における中心側であって、図2~3の凹部5f側(キャビティ側))の冷却を促進することができる。しかも、径方向外側の凸部(例えば、後述の図5(c)に示される凸部5g3)に比べて流路本体部5g1を流れるオイル19の流速の低下を抑えながら複数の凸部5g2内で渦などの乱流を発生させることができるのでオイル19の伝熱効率をより一層向上させることが可能である。
【0064】
(4)
本実施形態のピストン5では、複数の凸部5g2の各々は、流路本体部5g1の周方向に等間隔で配置されている。したがって、周方向に等間隔で配置された複数の凸部5g2により、オイル19に等間隔に乱流を発生させることが可能になり、オイル19の伝熱効率をさらに一層向上させることが可能である。
【0065】
(5)
本実施形態のピストン5では、図4に示されるように、複数の凸部5g2は、インジェクタ15の燃料噴射時におけるピストン5の位置において当該インジェクタ15の噴射方向Sの延長線上に配置されている。
【0066】
図1のシリンダ2内では、燃料を点火した時にはインジェクタ15の噴射方向Sに沿って火炎が発生する。そこで、上記のように複数の凸部5g2をインジェクタ15の噴射方向Sの延長線上に配置することにより、当該複数の凸部5g2をピストン5における火炎と接触する部位に一致させることが可能になる。これにより、当該火炎接触部位を凸部5g2で発生するオイルの乱流によって効果的に冷却することが可能になる。したがって、ピストン5における火炎接触部位の冷却を促進することが可能になる。
【0067】
(6)
本実施形態のピストン5では、ピストン5は、図2に示されるように、図1のシリンダ2内に燃焼室6(具体的には、燃焼室6の底面)を形成する冠面5a2を有する。ピストン5の内部におけるクーリングチャンネル5gに対して冠面5a2の反対側(図2における下方の位置)には、粉粒体17が充填された空隙部5hが形成されている。
【0068】
かかる構成によれば、空隙部5hによってピストン5の軽量化を図ることができるとともに、空隙部5hの内部での粉粒体17の移動によってピストン5の振動抑制効果が得られる。しかも、空隙部5h内の空気が断熱層になっていても、上記の複数の凸部5g2によるオイル流れの乱流の発生と伝熱面積の拡大によってピストン5の冷却機能を維持することが可能である。
【0069】
(7)
本実施形態のピストン5では、図2に示されるように、ピストン5は、シリンダ2内に燃焼室6を形成する冠面5a2であって、当該ピストン5の内方に凹んだ凹部5fを有する冠面5a2を有する。クーリングチャンネル5gは、ピストン5の内部において凹部5fを取り囲むように配置されている。
【0070】
本実施形態のディーゼルエンジンのピストン5などでは、冠面5a2に凹部5fが形成されている。ディーゼルエンジンの稼働時には、燃料が高圧圧縮下で自着火することにより高温高圧の火炎がピストン5の冠面5a2における凹部5fで発生する。そこで、上記の構成では、クーリングチャンネル5gが流路本体部5g1の周方向に分散して配置された複数の凸部5g2を有するとともに、ピストン5の内部において凹部5fを取り囲むように配置されていることにより、クーリングチャンネル5gへのオイル供給量を増やさずにピストン5からオイルへ伝達する熱量を増やすことが可能になる。その結果、高温高圧のディーゼルエンジン用のピストン5などでの冷却効率の向上を達成することが可能である。
【0071】
(8)
また、ディーゼルエンジン用のピストン5などでは、上記のように冠面5a2に凹部5fを有するので、ピストン5の全長がガソリンエンジン用ピストンに比べて長くなるので、重量の増大および首振り振動がしやすい傾向がある。しかし、上記の構成では、ピストン5の内部におけるクーリングチャンネル5gに対して冠面5a2の反対側の位置には、粉粒体17が充填された空隙部5hが形成されているので、空隙部5hによってピストン5の軽量化を図ることができるとともに、空隙部5hの内部での粉粒体17の移動によってピストン5の振動抑制効果が得られる。しかも、空隙部5h内の空気が断熱層になっていても、上記の複数の凸部5g2によるオイル流れの乱流の発生と伝熱面積の拡大によってピストン5の冷却機能を維持することが可能である。
【0072】
(クーリングチャンネルの凸部の効果検証)
つぎに、上記のクーリングチャンネル5gの複数の凸部5g2による冷却効率の向上の効果について検証する。
【0073】
まず、図5(a)~(d)に示される凸部の配置が異なる4つのサンプル(サンプル0、サンプル1、サンプル2、サンプル3)を用意する。
【0074】
ここで、図5(a)は、比較例である凸部を有しない環状のクーリングチャンネル5g(すなわち環状の流路本体部5g1のみを有する形態)を有するサンプル0のピストン5(具体的にはピストン本体50)の横断面図、(b)は本発明の一実施形態である図2に対応する流路本体部5g1の径方向内側に複数の凸部5g2を有する環状のクーリングチャンネル5gを有するサンプル1のピストン5の横断面図、(c)は本発明の他の実施形態である径方向外側に複数の凸部5g3を有する環状のクーリングチャンネル5gを有するサンプル2のピストン5の横断面図、(d)は本発明のさらに他の実施形態である径方向内側および外側にそれぞれ複数の凸部5g2、5g3を有する環状のクーリングチャンネル5gを有するサンプル3のピストン5の横断面図をそれぞれ示している。
【0075】
上記の図5(a)~(d)に示される4つのサンプル0~3に関して、図6に示されるグラフのように、クーリングチャンネル5gの流入口5p(図3参照)付近、流出口5r付近、および流路中間位置(流入口5pと流出口5rの間の流路本体部5g1の途中の位置)におけるピストン5とクーリングチャンネル5g内のオイルの間における熱伝達係数をコンピュータシミュレーションによってそれぞれ調べる。
【0076】
図6には、図5(a)~(d)に示される4つのサンプル0~3に関するそれぞれの熱伝達関数がR10~R13に示されている。この図6のグラフによれば、流入口5p付近の熱伝達関数については、流路本体部5g1の径方向内側に複数の凸部5g2を有するサンプル1の熱伝達関数R11が最も高いことがわかる。すなわち、流入口5p付近では、径方向内側に複数の凸部5g2のみが有るサンプル1の方が流入口5pから導入直後の受熱前のオイルとピストンとの間の熱伝達効率が高いことが理解される。また、流出口5r付近および流路中間位置の熱伝達関数については、径方向内側および外側にそれぞれ複数の凸部5g2、5g3を有するサンプル3の熱伝達関数R13が最も高いことがわかる。すなわち、流入口5pよりもオイル流れにおいて下流側の位置では、径方向内側および外側にそれぞれ複数の凸部5g2、5g3を有するサンプル3の方が受熱により温度が上昇したオイルとピストンとの間の熱伝達効率が高いと考えられる。
【0077】
図7には、図5のサンプル0~3に関するクーリングチャンネル5gを流れるオイルの平均流速R20~R23を示すグラフが示されている、図7のグラフを見れば、図5(b)~(d)のサンプル1~3(周方向に分散した複数の凸部5g2または5g3を有する構成)のオイルの平均流速R21~R23は、図5(a)のサンプル0(複数の凸部を有しない構成)のオイルの平均流速R20よりも高いことが分かる。これは、周方向に分散した複数の凸部5g2または5g3がクーリングチャンネル5g内のオイルの流れを整える効果(整流効果)を発揮したためと推定される。
【0078】
すなわち、クーリングチャンネル5g内のオイルは、オイル噴射部18(図1参照)から間欠的に送られるとともにピストン5の往復動によって絶えず揺らされるので、クーリングチャンネル5g内を前進、後退を続けて断続的に流れるが、図5(b)~(d)のサンプル1~3のように周方向に分散して配置された複数の凸部5g2、5g3が乱れたオイル流れを整えてオイルの平均流速を向上させていると考えられる。
【0079】
また、図7のグラフを見れば、上記の平均流速R21~R23の中でも、径方向内側に複数の凸部5g2のみが有るサンプル1のオイルの平均流速R21が最も高くなることがわかる。これは、径方向内側の複数の凸部5g2内で発生する乱流がクーリングチャンネル5g内を流れるオイルの平均流速の向上に最も寄与している(例えば、径方向内側におけるオイルとチャンネル内壁とのせん断抵抗を低減することにより平均流速を向上させている)と推定される。
【0080】
図8には、図5のサンプル0~3に関するクーリングチャンネル5gを流れるオイルのレイノルズ数R30~R33を示すグラフが示されている。レイノルズ数は、流体の流れの乱れを示す指標であり、レイノルズ数が高い方が流れの乱れが大きいと考えられている。図8のグラフを見れば、図5(b)~(d)のサンプル1~3(周方向に分散した複数の凸部5g2または5g3を有する構成)のオイルのレイノルズ数R31~R33は、図5(a)のサンプル0(複数の凸部を有しない構成)のオイルのレイノルズ数R30よりも高いことが分かる。これは、周方向に分散した複数の凸部5g2または5g3がオイルに局部的な乱流を発生させるためと推定される。
【0081】
また、図8のグラフを見れば、上記のレイノルズ数R31~R33の中でも、径方向内側および外側のそれぞれに複数の凸部5g2、5g3が有るサンプル3のレイノルズ数R33が最も高い。また、径方向内側に複数の凸部5g2のみが有るサンプル1のレイノルズ数R31は、径方向外側に複数の凸部5g3のみが有るサンプル2のレイノルズ数R32よりも高くなっていることが分かる。
【0082】
したがって、図7~8のグラフを総合的に見れば、径方向内側に複数の凸部5g2のみが有るサンプル1が、図7におけるオイルの平均流速R21が最も高く、かつ、図8におけるレイノルズ数R31が2番目に高くなっていることが分かる。したがって、径方向内側に複数の凸部5g2のみが有るサンプル1は、オイルの平均流速を上げながら複数の凸部5g2による局所的な乱流を効果的に発生させることによりピストンの冷却効率を最も向上させると考えられる。
【0083】
図9のグラフには、図5のサンプル0~3にするクーリングチャンネル5gの流入口5p付近におけるピストンの温度変化R40~R43が示されている。図10のグラフには、図5のサンプル0~3に関するクーリングチャンネル5gの流入口5pと反対側の位置におけるピストンの温度変化R50~R53が示されている。
【0084】
図9~10のグラフを見れば、図5(b)~(d)のサンプル1~3(周方向に分散した複数の凸部5g2または5g3を有する構成)のピストンの温度変化R41~R43、R51~R53は、図5(a)のサンプル0(複数の凸部を有しない構成)のピストンの温度変化R40、R50と比較して、温度が低下する度合いが大きいことが分かる。これは、周方向に分散した複数の凸部5g2または5g3がオイルに局部的な乱流を発生させることにより、ピストンからオイルへの熱伝達を向上させるとともに伝熱面積を拡大させることによりピストンの冷却効果が向上しているためと推定される。
【0085】
また、図9におけるピストンの温度変化R41~R43の中でも、温度変化R41が最も温度低下の度合いが大きいことが分かる。さらに、図10におけるピストンの温度変化R51~R53の中でも、温度変化R51が2番目に温度低下の度合いが大きいことが分かる。したがって、径方向内側に複数の凸部5g2のみが有るサンプル1は、クーリングチャンネル5gの流入口5pの流路付近および流入口5pと反対側の位置においても、ピストンの冷却効率が向上していることが分かる。
【0086】
(変形例)
(A)
上記実施形態では、本発明のピストンの一例としてディーゼルエンジン用のピストンを例に挙げて説明しているが、本発明はこれ限定されるものではなく、ピストンが往復動するレシプロエンジンであれば本発明のピストンを広く適用することが可能である。したがって、本発明のピストンはレシプロエンジンであればスパーク着火式のガソリンエンジンなどにも適用することが可能である。
【0087】
(B)
上記実施形態では、ピストン5の内部におけるクーリングチャンネル5gに対して冠面5a2の反対側(図における下方の位置)には、粉粒体17が充填された空隙部5hが形成されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、粉粒体17および空隙部5hが無いピストンにも本発明を適用することができる。本発明のピストンでは、クーリングチャンネル5gが複数の凸部を有する構成、すなわち、流路本体部5g1の周方向に分散して配置され、かつ、当該周方向と異なる方向に当該流路本体部5g1から各々突出する複数の凸部、例えば、図3~4、図5(b)に示される流路本体部5g1の径方向内側に突出する複数の凸部5g2および/または図5(c)、(d)に示される径方向外側に突出する複数の凸部5g3、を有する構成を備えていればよい。
(C)
上記実施形態では、複数の凸部5g2(または5g3)は、各々同じ方向、具体的には流路本体部5g1の径方向内側(または径方向外側)に突出しているが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明では複数の凸部は、流路本体部の周方向と異なる方向に各々突出していればよいので、複数の凸部が各々異なる方向に突出(例えば、径方向内側および径方向外側に交互に突出)している構成も本発明には含まれる。
【符号の説明】
【0088】
1 ディーゼルエンジン(エンジン)
2 シリンダ
5 ピストン
5a ピストンヘッド
5a2 冠面
5g クーリングチャンネル
5g1 流路本体部
5g2、5g3 凸部
5h 空間部
5p 流入口
5r 流出口
6 燃焼室
7 クランクシャフト
8 コネクティングロッド
16 ピストンピン
17 粉粒体
50 ピストン本体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10