(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171203
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】ライニングシステムおよびこれを用いた排水口の改修方法
(51)【国際特許分類】
B29C 63/28 20060101AFI20241204BHJP
F16L 55/18 20060101ALI20241204BHJP
E03C 1/29 20060101ALI20241204BHJP
E03C 1/122 20060101ALI20241204BHJP
E03C 1/12 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
B29C63/28
F16L55/18 B
E03C1/29
E03C1/122 Z
E03C1/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088159
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】500543801
【氏名又は名称】株式会社マルナカ
(74)【代理人】
【識別番号】110001623
【氏名又は名称】弁理士法人真菱国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中尾 慧理夫
(72)【発明者】
【氏名】三木 潤
(72)【発明者】
【氏名】矢田 大樹
【テーマコード(参考)】
2D061
4F211
【Fターム(参考)】
2D061AA02
2D061AA05
2D061AB07
2D061AB10
2D061AD01
2D061DA01
2D061DA05
2D061DD08
2D061DE01
2D061DE27
4F211AA04
4F211AA24
4F211AA39
4F211AD16
4F211AG08
4F211AR12
4F211SA13
4F211SC03
4F211SD04
4F211SJ22
4F211SP13
4F211SP25
(57)【要約】
【課題】簡単な構造で、ライニング材に皺や浮きが生ずることのないライニングシステム等を提供する
【解決手段】椀トラップ2と直下接続管3とから成る排水口1の流路にライニング材25を付着させるライニングシステム30であって、第1治具本体31と第1治具本体31の外周部を覆う第1膨張膜体32とから成る第1ライニング治具30Aと、第2治具本体61と第2治具本体61の外周部を覆う第2膨張膜体62とから成る第2ライニング治具30Bとを備え、第1ライニング治具30Aは、流出部流路22aおよび管内部流路22bから成る直管部流路22の流路内面にライニング材25を付着させ、第2ライニング治具30Bは、流入部流路21にライニング材25を付着させる。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
椀トラップと前記椀トラップに接続された直下接続管とから成る排水口の流路の内面に、繊維強化材に樹脂を含侵させたライニング材を付着させるライニングシステムであって、
前記椀トラップにおける封水部を含むトラップ本体の流入部流路、前記流入部流路に連なる前記トラップ本体の流出部流路および前記流出部流路に連なる前記直下接続管の管内部流路のうちの、前記流出部流路および前記管内部流路から成る直管部流路の流路内面に、前記ライニング材を付着させる第1ライニング治具を備え、
前記第1ライニング治具は、
上端部にエアーの供給口を有すると共に内部に前記供給口に連なるエアー室を構成した円筒状の第1治具本体と、
前記エアー室に連通する隙間空間を存して前記第1治具本体の外周部を覆い、前記エアー室を介して前記供給口から供給されたエアーにより前記直管部流路の流路内面と略相補的形状に膨張する第1膨張膜体と、を備え、
前記第1膨張膜体は、上下両端部において前記第1治具本体との間で気密を保持する2個所の環状シール部と、2個所の前記環状シール部間に構成した前記直管部流路に対応する長さの膨張部と、を有していることを特徴とするライニングシステム。
【請求項2】
前記ライニング材を付着させるための、前記第1膨張膜体の径方向の膨張幅が10mm前後であることを特徴とする請求項1に記載のライニングシステム。
【請求項3】
前記第1膨張膜体は、前記各環状シール部で折り返して重ね合わせた一対の折返し部を有していることを特徴とする請求項1に記載のライニングシステム。
【請求項4】
外筒部内面、底板部上面および内筒部外面から成る前記流入部流路の流路内面に、前記ライニング材を付着させる第2ライニング治具を、更に備え、
前記第2ライニング治具は、
上部にエアーの供給口およびこれに連なるエアー室を有すると共に、下部に前記底板部上面に突き当てるようにして前記流入部流路に挿入されるスカート部を有する略円筒状の第2治具本体と、
前記エアー室に連通する隙間空間を存して前記第2治具本体の外周部を覆い、前記エアー室を介して前記供給口から供給されたエアーにより膨張する第2膨張膜体と、を備え、
前記スカート部の内周面は、前記内筒部外面と略相補的形状に形成され、
前記第2膨張膜体は、上下両端部において前記第2治具本体との間で気密を保持する2個所の環状シール部と、前記スカート部の外周部を覆うと共にエアーにより前記外筒部内面と略相補的形状に膨張する膨張部と、前記スカート部を除く前記第2治具本体の外周部を覆うと共に、膨張が抑制された状態で前記エアー室のエアーを前記膨張部に導く膨張抑制部と、を有していることを特徴とする請求項1に記載のライニングシステム。
【請求項5】
前記膨張抑制部は、上端部の前記環状シール部で折り返して重ねた前記第2膨張膜体の折返し延長部で構成されていることを特徴とする請求項4に記載のライニングシステム。
【請求項6】
前記第2治具本体は、下部を前記流入部流路に挿入した状態で、前記直管部流路に臨ませた前記第1ライニング治具の上部露出部分を収容する治具収容部を、更に有していることを特徴とする請求項4に記載のライニングシステム。
【請求項7】
請求項4に記載のライニングシステムを用い、椀トラップと前記椀トラップに接続された直下接続管とから成る既設排水口を改修する排水口の改修方法であって、
前記ライニング材を前記流入部流路の流路内面および前記直管部流路の流路内面に添設する添設工程と、
前記ライニング材の表面に、剥離のための離型膜体を貼り付ける貼付け工程と、
前記直管部流路に前記第1ライニング治具を挿入・セットする第1挿入工程と、
前記第1ライニング治具にエアーを供給し、前記第1膨張膜体により前記ライニング材を押さえるようにして前記直管部流路の流路内面に付着させる第1押圧工程と、
前記供給口を閉止すると共に、前記供給口からこれに接続されたエアーチューブを外す離脱工程と、
前記流入部流路に前記第2ライニング治具を挿入・セットする第2挿入工程と、
前記第2ライニング治具にエアーを供給し、前記第2膨張膜体により前記ライニング材を押さえるようにして前記流入部流路の流路内面に付着させる第2押圧工程と、
前記ライニング材中の樹脂を硬化させる硬化・養生工程と、
エアーを抜いた後、前記第1ライニング治具、前記第2ライニング治具および前記離型膜体を取り去る撤去工程と、を備えたことを特徴とする排水口の改修方法。
【請求項8】
前記第1挿入工程において前記第1ライニング治具は、前記膨張部の上端部が前記直管部流路の上端からはみ出して挿入・セットされ、
前記第1挿入工程と前記第1押圧工程との間において、はみ出した前記膨張部の上端部を囲繞すると共に前記直管部流路と同径に形成されたショートパイプを、前記直管部流路と同軸上にセットするパイプセット工程を、更に備えたことを特徴とする請求項7に記載の排水口の改修方法。
【請求項9】
前記第2挿入工程の前に、前記流入部流路に臨んで前記離型膜体の表面に、前記流入部流路の流路内面と相補的形状のゴム製のスペーサ膜体を装着する膜体装着工程を、更に備えたことを特徴とする請求項7に記載の排水口の改修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椀トラップとこれに接続された直下接続管とから成る既設の排水口の流路の内面に、繊維強化材に樹脂を含侵させたライニング材を付着させるライニングシステムおよびこれを用いた排水口の改修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の排水口の改修方法として、「押圧器」により、排水トラップ(椀トラップ)の排水口の外周、底部および内壁全体にライナー層を形成すると共に、「反転器」により、排水口の下部の直管、曲がり管および横管にライナー層を形成するものが知られている(特許文献1参照)。
反転器によるライナー層の形成では、ライニングチューブの内部にライニング剤を含侵した筒状のライニングクロスを挿入して成るライニングクロスチューブを形成し、ライニングクロスチューブの上部に絞り部を形成してワイヤを接続し、ワイヤを反転器の上部を閉塞した栓部材の挿通孔に挿通してワイヤを引き上げることにより、反転器の内部にライニングクロスチューブを挿入し、ライニングチューブの下端部を折り返して反転器の下端部の外周に締結する。この状態から圧縮エアーを供給して、ライニングクロスチューブを反転させながら、直管、曲がり管および横管の内部に送り込んでゆく。ライニングクロスチューブを送り込んだら、ライニング剤の硬化を待って、ワイヤを引き硬化したライニングクロスからライニングチューブを引き剥がすようにする。
また、押圧器によるライナー層の形成では、管本体の下部の外周に隙間を開けて外管が設けられると共に、管本体および外管の内周に筒状のシリコンゴムが設けられた押圧器を形成し、押圧器のシリコンゴムの上部は管本体の上端に密閉状に締結する一方、シリコンゴムの下部は外管の下端外周に折り返して締結することによって、シリコンゴムの上下部を密閉状に閉塞し、管本体と外管の隙間に圧縮エアーを注入可能とし、押圧器のシリコンゴムの外周にライニング剤を含侵した筒状のライニングクロスを被せ、シリコンゴムの下方の余長分を押圧器の外管の内部に折り返して、押圧器を排水トラップの排水口の外周に嵌め込んだ状態で、シリコンゴム内に圧縮エアーを注入して膨張したシリコンゴムによってライニングクロスを排水トラップの内壁に付着させ、ライニング剤の硬化を待って押圧器を取り除くようにする。
なお、機器の構造上、反転器によるライナー層の形成と押圧器によるライナー層の形成とは同時並行で実施することができない。よって、反転器によりライナー層を形成した後、反転器によりライナー層を形成するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような、反転器による排水口の下部の直管、曲がり管および横管へのライナー層の形成では、ライナー層の形成長さが比較的短いにも関わらず、装置構成が大掛かりになる問題があった。また、曲がり管の部分では、ライニングクロスの不均一な伸び縮みによる皺やエアーの噛み込みによる浮きが生ずる問題があった。
同様に、押圧器による排水口の外周、底部および内壁全体へのライナー層の形成では、膨張するシリコンゴムが、最初に排水口の外周とトラップの内壁上部に接触する。これにより、ライニングクロスに底部方向への縮ませようとする力が作用し、且つ底部にエアーが封じ込まれ易くなる。このため、ライニングクロスに皺や浮きが生ずる問題があった。
【0005】
本発明は、簡単な構造で、ライニング材に皺や浮きが生ずることのないライニングシステムおよびこれを用いた排水口の改修方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のライニングシステムは、椀トラップと椀トラップに接続された直下接続管とから成る排水口の流路の内面に、繊維強化材に樹脂を含侵させたライニング材を付着させるライニングシステムであって、椀トラップにおける封水部を含むトラップ本体の流入部流路、流入部流路に連なるトラップ本体の流出部流路および流出部流路に連なる直下接続管の管内部流路のうちの、流出部流路および管内部流路から成る直管部流路の流路内面に、ライニング材を付着させる第1ライニング治具を備え、第1ライニング治具は、上端部にエアーの供給口を有すると共に内部に供給口に連なるエアー室を構成した円筒状の第1治具本体と、エアー室に連通する隙間空間を存して第1治具本体の外周部を覆い、エアー室を介して供給口から供給されたエアーにより直管部流路の流路内面と略相補的形状に膨張する第1膨張膜体と、を備え、第1膨張膜体は、上下両端部において第1治具本体との間で気密を保持する2個所の環状シール部と、2個所の環状シール部間に構成した直管部流路に対応する長さの膨張部と、を有していることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、供給口からエアーを供給すると、エアーはエアー室を経て第1治具本体と第1膨張膜体との間の隙間空間に流れ、第1膨張膜体の膨張部を膨張させる。膨張部は、直管部流路の流路内面と略相補的形状に膨張し、ライニング材を直管部流路の流路内面に押圧する。この場合、膨張部が直管部流路の流路内面と略相補的形状に膨張するため、直管部流路の流路内面に対しライニング材を押圧する膨張部の押圧力は、全域において均一且つ同時に作用する。したがって、直管部流路のライニング材における皺や浮き発生を極力防止することができる。
【0008】
この場合、ライニング材を付着させるための、第1膨張膜体の径方向の膨張幅が10mm前後であることが好ましい。
【0009】
この構成によれば、ライニング材を手張りした直管部流路にライニング治具を挿入するときに、第1膨張膜体がライニング材の端に引っかかる等の支障が生ずることがなく、且つ第1膨張膜体の膨張幅を極力狭くすることができる。これにより、作業性を損なうことがなく、ライニング材を安定して均一に押圧することができる。
【0010】
また、第1膨張膜体は、各環状シール部で折り返して重ね合わせた一対の折返し部を有していることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、一対の折返し部が膨張部の両外端部と重なるため、この両外端部は膨張が抑制されることとなる。このため、膨張してゆく膨張部は、延在方向の中間部から直管部流路の流路内面に接触しこれを押圧する。これにより、ライニング材にかみ込んだエアーは、膨張部の両外端部に向かって押し出され(送り出され)、ライニング材に浮きが生ずるのを有効に防止することができる。
【0012】
また、外筒部内面、底板部上面および内筒部外面から成る流入部流路の流路内面に、ライニング材を付着させる第2ライニング治具を、更に備え、第2ライニング治具は、上部にエアーの供給口およびこれに連なるエアー室を有すると共に、下部に底板部上面に突き当てるようにして流入部流路に挿入されるスカート部を有する略円筒状の第2治具本体と、エアー室に連通する隙間空間を存して第2治具本体の外周部を覆い、エアー室を介して供給口から供給されたエアーにより膨張する第2膨張膜体と、を備え、スカート部の内周面は、内筒部外面と略相補的形状に形成され、第2膨張膜体は、上下両端部において第2治具本体との間で気密を保持する2個所の環状シール部と、スカート部の外周面を覆うと共にエアーにより外筒部内面と略相補的形状に膨張する膨張部と、スカート部を除く第2治具本体の外周部を覆うと共に、膨張が抑制された状態でエアー室のエアーを膨張部に導く膨張抑制部と、を有していることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、第2治具本体を、トラップ本体の底板部上面に突き当てるようにして流入部流路に挿入すると、トラップ本体の内筒部外面と略相補的形状に形成されスカート部の内周面が、ライニング材を内筒部外面に押し付けた(押圧した)状態となり、且つスカート部の下端面がライニング材を底板部上面に押し付けた(押圧した)状態となる。次に、供給口からエアーを供給すると、エアーはエアー室を経て第2治具本体と第2膨張膜体との間の隙間空間に流れ、膨張抑制部を経て第2膨張膜体の膨張部を膨張させる。膨張部は、トラップ本体の外筒部内面と略相補的形状に膨張し、ライニング材を外筒部内面に押圧する。この場合、スカート部の内周面が内筒部外面と略相補的形状に形成され、且つ膨張部が外筒部内面と略相補的形状に膨張するため、流入部流路の流路内面に対しライニング材を押圧する押圧力は、全域において略均一に作用する。したがって、流入部流路のライニング材における皺や浮き発生が極力防止することができる。
【0014】
この場合、膨張抑制部は、上端部の環状シール部で折り返して重ねた第2膨張膜体の折返し延長部で構成されていることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、隙間空間にエアーを供給すると、膨張抑制部は膨張を抑制されるようにしてエアーを膨張部に導き、膨張部を膨張させる。すなわち、外筒部内面へのライニングに必要な部分である膨張部を主体として第2膨張膜体を膨張させることができる。したがって、ライニング(ライニング材の押圧)を効率良く行うことができる。
【0016】
また、第2治具本体は、下部を流入部流路に挿入した状態で、直管部流路に臨ませた第1ライニング治具の上部露出部分を収容する治具収容部を、更に有していることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、第1ライニング治具による直管部流路のライニング作業と、第2ライニング治具による流入部流路のライニング作業と、を略同時並行で進めることができ、ライニングの作業時間を短縮することができる。
【0018】
本発明の排水口の改修方法は、請求項4に記載のライニングシステムを用い、椀トラップと椀トラップに接続された直下接続管とから成る既設排水口を改修する排水口の改修方法であって、ライニング材を流入部流路の流路内面および直管部流路の流路内面に添設する添設工程と、ライニング材の表面に、剥離のための離型膜体を貼り付ける貼付け工程と、直管部流路に第1ライニング治具を挿入・セットする第1挿入工程と、第1ライニング治具にエアーを供給し、第1膨張膜体によりライニング材を押さえるようにして直管部流路の流路内面に付着させる第1押圧工程と、供給口を閉止すると共に、供給口からこれに接続されたエアーチューブを外す離脱工程と、流入部流路に第2ライニング治具を挿入・セットする第2挿入工程と、第2ライニング治具にエアーを供給し、第2膨張膜体によりライニング材を押さえるようにして流入管部流路の流路内面に付着させる第2押圧工程と、ライニング材中の樹脂を硬化させる硬化・養生工程と、エアーを抜いた後、第1ライニング治具、第2ライニング治具および離型膜体を取り去る撤去工程と、を備えたことを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、第1押圧工程において、エアーを供給すると膨張部が直管部流路の流路内面と略相補的形状に膨張する。このため、直管部流路の流路内面に対しライニング材を押圧する膨張部の押圧力は、全域において均一且つ同時に作用することとなる。したがって、ライニング材における皺や浮きの発生を極力防止することができる。
また、第2挿入工程により、内筒部外面と略相補的形状に形成されスカート部の内周面が、ライニング材を内筒部外面に押し付けた(押圧した)状態となり、且つスカート部の下端面がライニング材を底板部上面に押し付けた(押圧した)状態となる。
さらに、第2押圧工程において、エアーを供給すると膨張部が外筒部内面と略相補的形状に膨張する。このため、流入部流路の流路内面に対しライニング材を押圧する押圧力は、全域において略均一に作用する。したがって、流入部流路のライニング材における皺や浮き発生が極力防止することができる。
【0020】
この場合、第1挿入工程において第1ライニング治具は、膨張部の上端部が直管部流路の上端からはみ出して挿入・セットされ、第1挿入工程と第1押圧工程との間において、はみ出した膨張部の上端部を囲繞すると共に直管部流路と同径に形成されたショートパイプを、直管部流路と同軸上にセットするパイプセット工程を、更に備えることが好ましい。
【0021】
この構成によれば、ライニング治具を、膨張部の端部が直管部流路の上端からはみ出して挿入・セットすると共に、この部分を囲繞するようにショートパイプをセットするようにしているため、直管部流路の上端におけるライニング材を良好な仕上げ状態とすることができる。また、膨張膜体の膨張形態を、端部を含めてストレート形状とすることができ、不均一な膨張に基づく膨張膜体のバーストを有効に防止することができる。
【0022】
また、第2挿入工程の前に、流入部流路に臨んで離型膜体の表面に、流入部流路の流路内面と相補的形状のゴム製のスペーサ膜体を装着する膜体装着工程を、更に備えることが好ましい。
【0023】
この構成によれば、スカート部によるライニング材を内筒部外面への押圧および底板部上面への押圧を、スペーサ膜体を介して弾力的に行うことができ、内筒部外面および底板部上面の形状に倣うようにライニング材を付着させることができる。同様に、膨張部による複雑な形状の外筒部内面への押圧においても、これに倣うようにライニング材を付着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施形態のライニング対象となる椀トラップ廻り(排水口)の断面図であって、改修前の断面図(a)および改修後の断面図(b)である。
【
図2】実施形態に係る第1ライニング治具の側面図であって、膨張膜体を取り除いた側面図(a)および右半部を部分断面とした側面図(b)である。
【
図3】実施形態に係る第2ライニング治具の側面図であって、膨張膜体を取り除いた側面図(a)および右半部を部分断面とした側面図(b)である。
【
図4】実施形態に係る排水口の改修方法における研磨工程を表した図である。
【
図5】実施形態に係る排水口の改修方法における添設工程を表した図である。
【
図6】実施形態に係る排水口の改修方法における貼付け・セット工程を表した図である。
【
図7】実施形態に係る排水口の改修方法における第1挿入工程を表した図である。
【
図8】実施形態に係る排水口の改修方法における第1押圧工程を表した図である。
【
図9】実施形態に係る排水口の改修方法における貼付け・装着工程を表した図である。
【
図10】実施形態に係る排水口の改修方法における第2挿入工程を表した図である。
【
図11】実施形態に係る排水口の改修方法における第2押圧工程を表した図である。
【
図12】実施形態に係る排水口の改修方法における撤去工程を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係るライニングシステムおよびこれを用いた排水口の改修方法について説明する。古い集合住宅の浴室では、排水器具として椀トラップが用いられ、その老朽化対策として、椀トラップの流路内面にライニングを行って排水口の改修とすることが行われる。これにより、スラブ(床スラブ)に埋め込まれた椀トラップを、スラブからハツリ取ることなく、椀トラップ廻りの改修を行うことができる。実際には、椀トラップのみならず、椀トラップに接続された直下接続管も老朽化が進んでいるケースがほとんどであるため、厳密には、椀トラップと直下接続管とから成る排水口を改修することとなる。
【0026】
一方、この排水口を改修には、繊維強化材に樹脂(接着剤)を含侵させたライニング材が用いられる。本実施形態では、排水口の流路に貼り付けたライニング材を、硬化するまで押さえておくためにライニングシステムが用いられる。そして、このライニングシステムでは、直下接続管側のライニングに用いる第1ライニング治具と、椀トラップ側のライニングに用いる第2ライニング治具とが用意されている。
【0027】
[椀トラップ]
図1(a)は、改修前の排水口の断面図であり、
図1(b)は、改修後の排水口の断面図である。両図に示すように、排水口1は、主体を為す椀トラップ2と、椀トラップ2に接続された直下接続管3とを有している。言うまでもないが、この椀トラップ2と直下接続管3とは既設のものであり、老朽化が進んで各部に錆・こぶ等(図示省略)が発生している。椀トラップ2はスラブSに埋め込まれており、直下接続管3はスラブSを貫通してその下側空間に配管されている。スラブSの下面は階下の天井面(直天)となっており、直下接続管3はこの天井部分において横引き排水管4を経て図外の排水立て管に接続されている。
【0028】
図1(a)に示すように、椀トラップ2は、上部に鍔状の防水押え部11を形成したトラップ本体10と、トラップ本体10内において被せるように設けた椀12と、トラップ本体10から上方に延びるストレーナ支持部13と、ストレーナ支持部13に着脱自在に装着したストレーナ14とを有している。そして、防水押え部11により防水層WPを押さえた状態で、トラップ本体10がスラブSに埋め込まれている。ストレーナ支持部13は、防水層WPの上のシンダーコンクリートCCの厚みに合わせて高さ調整可能となるように、トラップ本体10にネジ止めされている。また、防水押え部11の上側に位置してトラップ本体10には、防水層WP上に漏れた水をトラップ本体10に導く複数の水抜き穴15が形成されている。
【0029】
トラップ本体10は、底板部10a、底板部10aの外周端から上方に延びる外筒部10b、底板部10aの内周端から上方に延びる内筒部10c、底板部10aの内周端から下方に延びる接続ネジ部10dおよび外筒部10bの上部から側方に延びる上記の防水押え部11により、一体に形成されている(鋳鉄製)。そして、雌ネジを螺刻した接続ネジ部10dに、直下接続管3がネジ接合されている。内筒部10cは、これに被せるように載置した椀12との間に椀トラップ2の主機能を奏する封水部17を構成している。すなわち、ストレーナ14の部分から流入した排水は、ストレーナ支持部13および外筒部10bと椀12との間を流下し、更に下側から封水部17を通過して内筒部10cの内周面を直下接続管3に向かって流下する。
【0030】
直下接続管3は、配管用炭素鋼鋼管で構成され、トラップ本体10の接続ネジ部10dに接続された接続短管18と、接続短管18の下端部に接続されたL字継手19(エルボ)とを有している。L字継手19には横引き排水管4が接続され、横引き排水管4の下流端は図外の排水立て管に接続されている。この排水口1廻りにおいて、封水部17に接する内筒部10cの全体、接続ネジ部10dと接続短管18とのネジ接合部分、および接続短管18とL字継手19とのネジ接合部分の3か所において錆が進行し易いが、実施形態の改修方法では、排水の流路となる部分の全域にライニングを行うようにしている(
図1(b)参照)。
【0031】
図1(b)に示すように、排水の流路の主な部分は、椀トラップ2における封水部17を含むトラップ本体10の流入部流路21、流入部流路21に連なるトラップ本体10の流出部流路22および流出部流路22に連なる直下接続管3の管内部流路23となる。流入部流路22aは、ストレーナ支持部13の内面、外筒部10bの内面、底板部10aの上面および内筒部10cの外面を、流路内面とするトラップ本体10を主体とする流路である。流出部流路22aは、内筒部10cの外面を流路内面とし、管内部流路22bは、接続短管18およびL字継手19(の接合部)の内面を流路内面としている。そして、流出部流路22aと管内部流路22bとは、同径で直結の直管部流路22を構成している。
【0032】
上述のように、ライニングシステム30は、第1ライニング治具30Aと第2ライニング治具30Bとから成るが、この場合、第1ライニング治具30Aは、流出部流路22aおよび管内部流路22bから成る直管部流路22のライニングに用いられ、第2ライニング治具30Bは、流入部流路21のライニングに用いられる。
【0033】
一方、ライニング材25は、繊維強化材に樹脂を含侵させたものであり、流入部流路21から直管部流路22に至る流路内面と相補的形状を有し、且つ一体に形成されている。繊維強化材は、例えばポリエステル繊維をロート状(筒状)に編み込んだものが用いられ、樹脂は、例えば2液タイプのエポキシ樹脂(接着剤)が用いられる。
【0034】
なお、ライニング材25と第1ライニング治具30A或いは第2ライニング治具30Bとの間には、剥離のための離型膜体26A,26Bを介在させるが(詳細は後述する)、この離型膜体26A,26Bは、例えばポリエチレンを筒状に成型したものが用いられる。これにより、ライニング材25に第1ライニング治具30Aや第2ライニング治具30Bが接着されてしまうことがなく、ライニング材25が硬化した後、これら治具を容易に取り外し得るようになっている。
【0035】
[第1ライニング治具]
次に、
図2を参照して第1ライニング治具30Aについて、
図3を参照して第2ライニング治具30Bについて説明する。
図2(a)および(b)に示すように、第1ライニング治具30Aは、上端部にエアーの供給口33を有すると共に内部にエアー室34を構成した円筒状の第1治具本体31と、エアー室34に連通する隙間空間35を存して第1治具本体31の外周部を覆う第1膨張膜体32と、を備えている。
【0036】
第1治具本体31は、雌カプラで構成された供給口33と、塩化ビニル製の本体主要部41とを有している。雌カプラには、逆止弁(図示せず)が組み込まれており、エアー供給源側のエアーチューブ37に設けた雄カプラ38が着脱(接続)されるようになっている(
図8参照)。エアーを供給すべく雄カプラ38を雌カプラ(供給口33)に接続すると、逆止弁が開弁し、雌カプラから雄カプラ38を接続解除する(引き抜く)と、逆止弁が閉弁する。
【0037】
本実施形態では、エアーを供給して第1ライニング治具30Aを膨張させライニング材25の硬化(樹脂の硬化)を待つが、その際、エアーチューブ37(雄カプラ38)を外すようにしている。これにより、第2ライニング治具30Bをセッティングする際に、エアーチューブ37が邪魔になることがなく、樹脂の硬化待ちまで、第1ライニング治具30Aを用いた作業と第2ライニング治具30Bを用いた作業とを連続して行えるようになっている。もっとも、樹脂の硬化待ちでは、第2ライニング治具30Bでもエアーチューブ37を外しておくようにしている。
【0038】
本体主要部41は、塩化ビニル管における直管および各種継手を組み合わせて、有底円筒状に形成されている。そして、本体主要部41の内部全域には、供給口33に連なるエアー室34が構成されている。本体主要部41は、供給口33が接合されたネジ接合部42と、ネジ接合部42に連なる上接合部43と、上接合部43に連なる胴部44と、胴部44に連なる下接合部45とを有しており、これら部材の内側にエアー室34が構成されている。
【0039】
胴部44は、塩化ビニル管における直管材料で構成されており、直管部流路22の長さに対応させるべく、胴部の長さが調整(切断調整)されるようになっている。また、胴部44には、エアー室34と上記の隙間空間35とを連通する複数の連通孔46が形成されている。供給口33から供給されたエアーは、エアー室34に流れ、このエアー室34から複数の連通孔46を介して隙間空間35に流入する。そして、この隙間空間35に流入したエアーにより、第1膨張膜体32が膨張する。
【0040】
上接合部43には、上下2個所に環状の浅溝43aが形成されている。詳細は後述するが、下側の浅溝43aは、第1膨張膜体32における上側の環状シール部51の一部を構成している。同様に、下接合部45には、上下2個所に環状の浅溝45aが形成されている。この場合も、下側の浅溝45aは、第1膨張膜体32における下側の環状シール部51の一部を構成している。
【0041】
第1膨張膜体32は、円筒状のゴム(ゴムチューブ)で形成されている。第1膨張膜体32は、上下両端部において第1治具本体31との間で気密を保持する2個所の環状シール部51と、2個所の環状シール部51間に構成した直管部流路22に対応する長さの胴部膨張部52(膨張部)と、を有している。また、第1膨張膜体32は、各環状シール部51の部分で折り返して重ね合わせた上下一対の折返し部53を有している。
【0042】
上側の環状シール部51は、第1膨張膜体32の上端部を紐状体55により上接合部43の浅溝43aの部分に縛り付けて構成されている。同様に、下側の環状シール部51は、第1膨張膜体32の下端部を紐状体55により下接合部45の浅溝45aの部分に縛り付けて構成されている。そして、紐状体55で縛り付けられた第1膨張膜体32の上下両端部が、折り返されて一対の折返し部53を構成している。
【0043】
上述のように、胴部膨張部52は、直管部流路22に対応する長さとなっているが、本実施形態における直管部流路22の具体的な長さは、内筒部10cの上端から接続短管18を経てL字継手19の接合端部までの長さとなっている。この直管部流路22の長さに対し胴部膨張部52は僅かに長く形成されている(
図8参照)。これにより、ライニング材25の折曲げ端部や切断端部が適切に押圧され、各端部における皺やエアーの噛み込み(浮き)等が防止される。また、一対の折返し部53により、胴部膨張部52の両外端部は膨張が抑制される。すなわち、膨張する胴部膨張部52は、上下中間部からライニング材25に接してゆく。このため、ライニング材25に噛み込んだエアーは、胴部膨張部52の両外端部に向かって押し出され(送り出され)、ライニング材25の浮きが防止される。
【0044】
胴部膨張部52は、隙間空間35に供給されたエアーにより、直管部流路22の流路内面と略相補的形状に膨張する。その場合の膨張幅、すなわちライニング材25を付着させるための、第1膨張膜体32(胴部膨張部52)の径方向の膨張幅が10mm前後となっている(
図8参照)。これにより、第1ライニング治具30Aを挿入するときに、第1膨張膜体32がライニング材25の端に引っかかる等の支障が生ずることがなく、且つ第1膨張膜体32の膨張幅を極力狭くすることができ、ライニング材25を安定して均一に押圧することができる。
【0045】
このように、第1ライニング治具30Aでは、エアーを供給により、胴部膨張部52が直管部流路22の流路内面と略相補的形状に膨張してライニング材25を押圧する。このため、直管部流路22の流路内面に対しライニング材25を押圧する胴部膨張部52の押圧力は、全域において均一且つ同時に作用する。したがって、直管部流路22のライニング材25における皺や浮き発生を極力防止することができる。
【0046】
[第2ライニング治具]
図3(a)および(b)に示すように、第2ライニング治具30Bは、上部にエアーの供給口63とこれに連なるエアー室64とを構成した太径且つ略円筒状の第2治具本体61と、エアー室64に連通する隙間空間65を存して第2治具本体61の外周部を覆う第2膨張膜体62と、を備えている。
【0047】
第2治具本体62は、雌カプラで構成された供給口63と、塩化ビニル製の本体主要部71とを有している。雌カプラには、逆止弁(図示せず)が組み込まれており、エアー供給源側のエアーチューブ(図示せず)に設けた雄カプラ(図示せず)が着脱されるようになっている。エアーを供給すべく雄カプラを雌カプラに接続すると、逆止弁が開弁し、雌カプラから雄カプラを接続解除する(引き抜く)と、逆止弁が閉弁する。
【0048】
本体主要部71は、塩化ビニル管における直管および各種継手を組み合わせて、略円筒状に形成されている。本体主要部71は、供給口63が接合されると共に内部にエアー室64を構成した上部のエアー室形成部72と、エアー室形成部72の下側に連なると共に、第2ライニング治具30Bを椀トラップ2にセットしたときに第1ライニング治具30Aの上部が収容される治具収容部73と、治具収容部73の下側に連なるスカート部74とを有している。
【0049】
エアー室形成部72の上端部には、供給口63を構成する雌カプラがネジ止めされ、下端部には、エアー室64と隙間空間65とを連通する複数の連通孔75(実施形態のものは4つ)が形成されている。複数の連通孔75は、周方向に均等に配置され、エアー室形成部72の下端部を斜めに貫通している(
図3(b)参照)。供給口63から供給されたエアーはエアー室64に流れ、このエアー室64から複数の連通孔75を介して隙間空間65に流入する。
【0050】
治具収容部73は、隔壁76によりエアー室64と気密に隔てられた円筒状の空間を構成している。治具収容部73は、自身の下部(スカート部74)を流入部流路21に挿入した状態で、直管部流路22に臨ませた第1ライニング治具30Aの上部露出部分を収容する(
図10参照)。これにより、第1ライニング治具30Aをセットアップした状態で、第2ライニング治具30Bをセットすることが可能となる。
【0051】
スカート部74は、治具収容部73の下端部に連なり、わずかに拡開した形状に形成されている。スカート部74は、椀トラップ2に挿入される部位、すなわち下端がトラップ本体10の底板部10aの上面に突き当てるようにして流入部流路21に挿入される部位となっている(
図10参照)。
【0052】
スカート部74の外周面は、ストレーナ支持部13の内面および外筒部10bの内面(トラップ本体10)と対峙する。また、スカート部74の内周面は、内筒部10cの外面と略相補的形状に形成されており、流入部流路21への挿入に伴ってライニング材25を内筒部10cの外面に押し付けるようになっている。同様に、スカート部74の下端面は、流入部流路21への挿入に伴ってライニング材25を底板部10aの上面に押し付ける。また、スカート部74の下端部には、下側から切り込んだ複数のスリット78が形成されており(
図3(b)参照)、スカート部74によりライニング材25を底板部10aに押し付けたときに、ライニング材25に含まれるエアーがこのスリット78を介して、スカート部74の外に逃げ得るようになっている。
【0053】
一方、エアー室形成部72の下部外周面には、上下2個所に環状の浅溝72aが形成されている。詳細は後述するが、下側の浅溝72aは、第2膨張膜体62における上側の環状シール部81の一部を構成している。同様に、スカート部74の下部外周面には、上下2個所に環状の浅溝74aが形成されている。この場合も、下側の浅溝74aは、第2膨張膜体62における下側の環状シール部81の一部を構成している。
【0054】
第2膨張膜体62は、円筒状のゴム(ゴムチューブ)で形成されている。第2膨張膜体62は、上下両端部において第2治具本体61との間で気密を保持する2個所の環状シール部81と、スカート部74の外周部を覆うと共にエアーにより、ストレーナ支持部13の内面および外筒部10bの内面と略相補的形状に膨張する下部膨張部82(膨張部)と、スカート部74を除く第2治具本体61の外周部を覆うと共に、膨張が抑制された状態でエアー室64のエアーを下部膨張部82に導く膨張抑制部83と、を有している。
【0055】
上側の環状シール部81は、第2膨張膜体62の上部を紐状体85によりエアー室形成部72の浅溝72aの部分に縛り付けて構成されている。同様に、下側の環状シール部81は、第2膨張膜体62の下端部を紐状体85によりスカート部74の浅溝74aの部分に縛り付けて構成されている。そして、この2個所の環状シール部81間において、本体主要部71と第2膨張膜体62との間にエアーが供給される隙間空間65が構成される。
【0056】
この場合の第2膨張膜体62は、一方の端部をスカート部74に被せておいて、その浅溝74aの部分に縛り付け、次に弛み(後述する弛み部82a)を持たせて第2膨張膜体62を反転させ、治具収容部73およびエアー室形成部72に被せるようにする。次に、第2膨張膜体62をエアー室形成部72の浅溝72aの部分に縛り付け、ここを起点に更に外側の折り返して重ねるようにしている。
【0057】
この折り返して重ねた第2膨張膜体62の折返し延長部86は、スカート部74の近傍まで達するようにしている。また、エアー室形成部72から治具収容部73にかけて、折返し延長部86の上側から第2膨張膜体62(素材)の円筒状の切れ端87を被せるようにしている。すなわち、スカート部74を覆う第2膨張膜体62の一重の部分により下部膨張部82が構成され、第2膨張膜体62が2重となる折返し延長部86の部分および第2膨張膜体62が3重となる切れ端87の部分により、膨張抑制部83が構成されている。
【0058】
供給口63からエアーを供給すると、エアーはエアー室64を介して隙間空間65に導かれる。この場合の隙間空間65は、下部膨張部82のみならず膨張抑制部83の部分にも構成されるが、膨張抑制部83の部分は膨張が抑制され、下部膨張部82の部分がストレーナ支持部13の内面および外筒部10bの内面と略相補的形状に膨張する。すなわち、隙間空間65に供給されたエアーは、膨張抑制部83を介して下部膨張部82に導かれ、下部膨張部82を膨張させる(
図11参照)。
【0059】
この場合、下部膨張部82は、環状の弛み部82aを存してスカート部74を覆っており(
図3(b)参照)、ストレーナ支持部13と外筒部10bとの間の環状段部を含んで、ストレーナ支持部13の内面および外筒部10bの内面と略相補的形状に膨張する。これにより、膨張した下部膨張部82は、ライニング材25をストレーナ支持部13の内面および外筒部10bの内面に押し付けて付着させる。
【0060】
このように、第2ライニング治具30Bでは、これを流入部流路21に挿入すると、内筒部10c外面と略相補的形状のスカート部74の内周面が、ライニング材25を内筒部10c外面に押し付け且つスカート部74の下端面がライニング材25を底板部10a上面に押し付ける。続いて、エアーを供給すると、下部膨張部82が外筒部10b内面と略相補的形状に膨張し、ライニング材25を外筒部10b内面に押圧する。これにより、流入部流路21の流路内面に対しライニング材25を押圧する押圧力は、全域において略均一に作用する。したがって、流入部流路21のライニング材25における皺や浮き発生が極力防止することができる。
【0061】
[排水口の改修方法]
ここで、
図4乃至
図12を参照しながら、ライニングシステム30である第1ライニング治具30Aおよび第2ライニング治具30Bを用いて為される排水口1の改修方法について説明する。排水口1は、椀トラップ2と椀トラップ2に接続された直下接続管3とから成るが、上述のように、この改修方法は、直管部流路22の流路内面および流入部流路21の流路内面にライニングを行うものである。
【0062】
この改修方法では、流入部流路21および直管部流路22をカバーする一体のライニング材25が用いられる。また、ライニング材25と第1ライニング治具30Aとの間には第1離型膜体26Aが介在され、ライニング材25と第2ライニング治具30Bとの間には第2離型膜体26Bが介在される。加えて、第2離型膜体26Bの上(表面)にシリコンゴム製のスペーサ膜体27が装着される。さらに、はみ出した胴部膨張部52の上端部を囲繞するように、内筒部10cの上側に塩化ビニル製のショートパイプ28がセットされるようになっている。
【0063】
本実施形態の排水口1の改修方法は、流入部流路21の流路内面および直管部流路22の流路内面の錆・こぶを除去する研磨工程(
図4参照)と、ライニング材25を流入部流路21の流路内面および直管部流路22の流路内面に添設する添設工程(
図5参照)と、ライニング材25の表面に第1離型膜体26Aを貼り付けると共にショートパイプ28をセットする貼付け・セット工程(
図6参照)と、直管部流路22に第1ライニング治具30Aを挿入・セットする第1挿入工程(
図7参照)と、第1ライニング治具30Aにエアーを供給して第1膨張膜体32を膨張させる第1押圧工程(
図8参照)と、供給口33からこれに接続されたエアーチューブ37を外す離脱工程と、流入部流路21においてライニング材25の表面に第2離型膜体26Bを貼り付けると共に第2離型膜体26Bの表面にスペーサ膜体27が装着する貼付け・装着工程(
図9参照)と、流入部流路21に第2ライニング治具30Bを挿入・セットする第2挿入工程(
図10参照)と、第2ライニング治具30Bにエアーを供給して第2膨張膜体62を膨張させる第2押圧工程(
図11参照)と、ライニング材25中の樹脂を硬化させる硬化・養生工程と、エアーを抜いた後、第1ライニング治具30Aや第2ライニング治具30B等を取り去る撤去工程(
図12参照)と、を備えている。
【0064】
研磨工程では、鎖付きの研磨用ビット91をセットした電動ドリルにより、流入部流路21の流路内面および直管部流路22の流路内面(主にトラップ本体10の内面および接続短管18の内周面)の錆・こぶ等を除去すべく研磨を行う(
図4参照)。また、研磨に並行して吸引等により粉塵を除去し、トラップ本体10の内面および接続短管18の内周面を清掃する。これにより、トラップ本体10の内面および接続短管18の内周面は地肌がむき出しの状態となる。
【0065】
添設工程は、予め繊維強化材に樹脂を含侵させる工程(前工程)と、繊維強化材に樹脂を含侵させたライニング材25を、手作業により流入部流路21の流路内面および直管部流路22の流路内面に添設する工程(後工程:
図5参照)とを含んでいる。前工程では、透明なポイエステルの袋の中にロート状の繊維強化材を入れ、その繊維強化材に2液を混合した樹脂を流し込む。次に、袋の上からハンドローラーを用いて繊維強化材をしごくようにし、繊維強化材に樹脂を均一に含侵させるようにする(同時に気泡を除去する)。
【0066】
後工程では、袋から取り出したライニング材25の下半部を、直管部流路22に挿入する。続いて、テーパー部分を内筒部10cの上端で折り返して内筒部10cの外面に添設し、更に残余の部分を底板部10aの上面、外筒部10bの内面およびストレーナ支持部13の内面に添設するようにする。
【0067】
貼付け・セット工程は、直管部流路22のライニング材25の表面に筒状の第1離型膜体26Aを貼り付ける工程(貼付け工程)と、内筒部10cの上端(実際には、ライニング材25の上に着座)にショートパイプ28をセットする工程(パイプセット工程)とを含んでいる(
図6参照)。この場合のショートパイプ28は、直管部流路22と同径(内径が同径)の塩化ビニルのパイプ片で構成されており、直管部流路22と同軸上にセットする。
【0068】
第1挿入工程では、ライニング材25と第1離型膜体26Aとがセットされた直管部流路22に、上方から第1ライニング治具30Aを挿入してゆく(
図7参照)。第1ライニング治具30Aを挿入が進んで、第1治具本体31の先端がL字継手19に突き当たったところで挿入・セットが完了する。ここで、第1ライニング治具30Aの供給口にエアーチューブ37を接続しておく。
【0069】
第1押圧工程では、エアー供給源側の元バルブを開いて、第1ライニング治具30Aにエアーを供給する(
図8参照)。これにより、第1膨張膜体32(胴部膨張部52)は、直管部流路22の流路内面と略相補的形状に膨張し、ライニング材25を押さえるようにして直管部流路22の流路内面に付着させる。この場合、胴部膨張部52の膨張は、その上端部において内筒部10cとこれに続くショートパイプ28が受け止めることになり、ライニング材25の折り返した部分に皺等が生じないようになっている。また、胴部膨張部52のバーストも防止される。
【0070】
離脱工程では、第1ライニング治具30Aの供給口33に接続しておいたエアーチューブ37を外す。すなわち、供給口33である雌カプラに対しエアーチューブ37側の雄カプラ38を接続解除する。これにより、雌カプラの逆止弁が機能し、第1ライニング治具30Aにエアーを供給した状態、すなわちライニング材25を押さえるようにして直管部流路22の流路内面に付着させた状態が維持される。
【0071】
貼付け・装着工程は、流入部流路21のライニング材25の表面にロート状の第2離型膜体26Bを貼り付ける工程(貼付け工程)と、第2離型膜体26Bの表面にスペーサ膜体27を装着する工程(膜体装着工程)とを含んでいる(
図9参照)。この場合、第2離型膜体26Bおよびスペーサ膜体27は、主要部が流入部流路21の流路内面と相補的形状に形成されている。スペーサ膜体27を装着すると、流入部流路21においてライニング材25および第2離型膜体26Bが仮押さえの状態となる。
【0072】
第2挿入工程では、上方から第2ライニング治具30Bを流入部流路21(ストレーナ支持部13およびトラップ本体10)に挿入してゆく(
図10参照)。第2ライニング治具30Bを流入部流路21に挿入してゆくと、拡開形状のスカート部74の内周面が、第2離型膜体26Bおよびスペーサ膜体27を挟んでライニング材25を、下方に引き伸ばしながら内筒部10cの外面に押し付けてゆく。続いて、スカート部74の下端面が、第2離型膜体26Bおよびスペーサ膜体27を挟んでライニング材25を底板部10aの上面に押し付ける。
【0073】
すなわち、第2ライニング治具30Bが底板部10aの上面に着座することで、ライニング材25が内筒部10cおよび底板部10aに押し付けられて第2ライニング治具30Bの挿入・セットが完了する。この場合、ゴム製のスペーサ膜体27を挟んでライニング材25を押圧するようにしているため、内筒部10cと底板部10aとの境界部分に対しライニング材25を隙間なく付着させることができる。またその際、スカート部74のスリット78を介して、ライニング材25廻りのエアーを外部に押し出すことができる。ここで、第2ライニング治具30Bの供給口63にエアーチューブ(図示せず)を接続しておく。
【0074】
第2押圧工程では、エアー供給源側の元バルブを開いて、第2ライニング治具30Bにエアーを供給する(
図11参照)。これにより、第2膨張膜体62(下部膨張部82)は、ストレーナ支持部13の内面および外筒部10bの内面と略相補的形状に膨張し、ライニング材25をストレーナ支持部13の内面および外筒部10bの内面に押し付けて付着させる。特に、ストレーナ支持部13と外筒部10bとの間の環状段部には、下部膨張部82の弛み部82aが対応するようにしてライニング材25を押圧する。エアーの供給が終了したら、第2ライニング治具30Bの供給口63に接続しておいたエアーチューブを外し、硬化・養生工程に移行する。
【0075】
硬化・養生工程では、加温しながらライニング材25の硬化を待つ。本実施形態では、温風を送風する(布団乾燥機を転用)ようにしており、ライニング材25(の樹脂)は略3時間で硬化する。ライニング材25が硬化したら、撤去工程に移行する。
【0076】
撤去工程では、先ず第2ライニング治具30Bのエアーを抜いてこれを撤去すると共に、第1ライニング治具30Aのエアーを抜いてこれを撤去する。次に、スペーサ膜体27および第2離型膜体26Bを引きはがすようにして撤去する。さらに、ショートパイプ28および第1膨張膜体26Aを撤去する(
図12参照)。
【0077】
なお、硬化したライニング材25の上端部にバリ等の凹凸が生じた場合は、この部分を表面仕上げ研磨とすると共に、樹脂を刷毛塗して仕上げることが好ましい(仕上げ工程)。
【0078】
このように、排水口の改修方法では、第1押圧工程において、エアーを供給すると胴部膨張部52が直管部流路22と略相補的形状に膨張する。このため、直管部流路22に対しライニング材25を押圧する胴部膨張部52の押圧力は、全域において均一且つ同時に作用する。したがって、ライニング材25における皺や浮きの発生を極力防止することができる。
【0079】
また、第2挿入工程において、内筒部10c外面と略相補的形状に形成されスカート部74の内周面が、ライニング材25を内筒部10c外面に押し付け、且つスカート部74の下端面がライニング材25を底板部10a上面に押し付けることになる。
さらに、第2押圧工程において、エアーを供給すると下部膨張部82が外筒部10b内面と略相補的形状に膨張する。このため、流入部流路21に対しライニング材25を押圧する押圧力は、全域において略均一に作用する。したがって、流入部流路21のライニング材25における皺や浮き発生が極力防止することができる。
【符号の説明】
【0080】
1…排水口、2…椀トラップ、3…直下接続管、10…トラップ本体、13…ストレーナ支持部、10a…底板部、10b…外筒部、10c…内筒部、17…封水部、21…流入部流路、22…直管部流路、22a…流出部流路、22b…管内部流路、25…ライニング材、26A…第1離型膜体、26B…第2離型膜体、27…スペーサ膜体、28…ショートパイプ、30…ライニングシステム、30A…第1ライニング治具、30B…第2ライニング治具、31…第1治具本体、32…第1膨張膜体、33…供給口、34…エアー室、35…隙間空間、37…エアーチューブ、38…雄カプラ、41…本体主要部、43a…浅溝、45a…浅溝、46…連通孔、51…環状シール部、52…胴部膨張部、53…折返し部、55…紐状体、61…第2治具本体、62…第2膨張膜体、63…供給口、64…エアー室、65…隙間空間、71…本体主要部、72…エアー室形成部、72a…浅溝、73…治具収容部、74…スカート部、74a…浅溝、75…連通孔、78…スリット、81…環状シール部、82…下部膨張部、82a…弛み部、83…膨張抑制部、85…紐状体、86…折返し延長部、