IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社パイロットコーポレーションの特許一覧

<>
  • 特開-入力ペン用ペン先および入力ペン 図1
  • 特開-入力ペン用ペン先および入力ペン 図2
  • 特開-入力ペン用ペン先および入力ペン 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171215
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】入力ペン用ペン先および入力ペン
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/03 20060101AFI20241204BHJP
【FI】
G06F3/03 400
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088175
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 晃
(57)【要約】
【課題】優れた耐摩耗性及び良好な書き心地を実現可能な入力ペン用ペン先および入力ペンを提供する。
【解決手段】入力装置の入力面上への物理的な接触により入力を行う入力ペンのペン先であって、入力ペンの軸筒と連結する連結部と、連結部よりも入力装置側に設けられ、入力画面との接触面を有する基体部と、を備え、基体部は、結晶粒子径が0.1μm以上1μm以下のセラミックスからなる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力装置の入力画面上への物理的な接触により入力を行う入力ペンのペン先であって、
前記入力ペンの軸筒と連結する連結部と、
前記連結部よりも前記入力装置側に設けられ、前記入力画面との接触面を有する基体部と、
を備え、
前記基体部は、結晶粒子径が0.1μm以上1μm以下のセラミックスからなる、入力ペン用ペン先。
【請求項2】
前記基体部の算術平均高さSaが、0.2μm以下である、請求項1に記載の入力ペン用ペン先。
【請求項3】
前記基体部のビッカース硬さが、1000~1700HVである、請求項1に記載の入力ペン用ペン先。
【請求項4】
前記入力装置が、電磁誘導型である、請求項1に記載の入力ペン用ペン先。
【請求項5】
入力装置の入力画面上への物理的な接触により入力を行う入力ペンであって、
中心軸に沿って軸方向に延びる軸筒と、
請求項1~4の何れか一項に記載のペン先と、
を備える、入力ペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力ペン用ペン先および入力ペンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、操作画面(入力画面)上への物理的な接触により入力行うタッチパッドやタッチパネルなど(以下、総称して「入力装置」ともいう)が広く用いられている。このような入力装置へ入力操作を行う際には、入力装置の入力方式(例えば、静電容量方式、電磁誘導方式など)に応じた入力ペンが用いられる。
【0003】
特許文献1には、入力装置の操作面及びペン先の損傷を抑制し、導電性の優れた入力ペンとして、入力装置に接触するボールと、ボールを常時、前端方向へ押圧する弾発部材を備え、ボール及び弾発部材が導電性を有する材料で形成された入力ペンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-69293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、入力ペンのペン先に対しては、様々な筆圧に対応できるよう、優れた耐摩耗性が求められている。また、使用環境や使用状況によっては、入力装置への入力操作時間が長時間化する傾向にあり、そのような場合、従来の水準よりもさらに高い耐摩耗性が求められる。
しかしながら、従来のペン先においては、書き心地や操作性の向上へのアプローチは積極的になされていたものの、耐摩耗性の向上に関しては検討が不十分であり、現状、種々のニーズに対応できる水準まで到達できていない。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、優れた耐摩耗性及び良好な書き心地を両立可能な入力ペン用ペン先および入力ペンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の態様を包含する。
【0008】
[1]入力装置の入力画面上への物理的な接触により入力を行う入力ペンのペン先であって、前記入力ペンの軸筒と連結する連結部と、前記連結部よりも前記入力装置側に設けられ、前記入力画面との接触面を有する基体部と、を備え、前記基体部は、結晶粒子径が0.1μm以上1μm以下のセラミックスからなる、入力ペン用ペン先。
[2]前記基体部の算術平均粗さSaが、0.2μm以下である、上記[1]に記載の入力ペン用ペン先。
[3]前記基体部のビッカース硬さが、1000~1700HVである、上記[1]または[2]に記載の入力ペン用ペン先。
[4]前記入力装置が、電磁誘導型である、上記[1]~[3]の何れか一項に記載の入力ペン用ペン先。
[5]入力装置の入力画面上への物理的な接触により入力を行う入力ペンであって、中心軸に沿って軸方向に延びる軸筒と、上記[1]~[4]の何れか一項に記載のペン先と、を備える、入力ペン。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた耐摩耗性及び良好な書き心地を両立可能な入力ペン用ペン先および入力ペンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本実施形態の入力ペンを示す側面図である。
図2図2は、本実施形態の入力用ペン先を示す側面図である。
図3図3は、本実施形態の入力用ペン先の変形例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態の入力ペン用ペン先および入力ペンについて、図1図2を参照して説明する。なお、以下の説明においては、入力用ペン先を単に「ペン先」とも略称する場合がある。
【0012】
<入力ペン>
図1は、本実施形態の入力ペン1を示す側面図である。本実施形態に係る入力ペン1は、入力装置の入力画面上への物理的な接触により入力を行う入力ペンであって、図1に示すように、中心軸Oに沿って軸方向に延びる軸筒10と、ペン先20と、を備える。軸筒10とペン先20は、中心軸Oを共通軸として互いに同軸に配置されている。
【0013】
本実施形態で用いる方向の定義について、説明する。
本実施形態では、入力ペン1の中心軸Oが延びる方向、つまり中心軸Oに沿う方向を、軸方向と呼ぶ。軸方向において、入力ペン1の胴体を構成する軸筒10と、ペン先20とは、互いに異なる位置に配置されている。軸方向のうち、軸筒10からペン先20へ向かう方向を前側と呼び、ペン先20から軸筒10へ向かう方向を後側と呼ぶ。このため、軸方向は前後方向と言い換えてもよい。各図において軸方向(前後方向)は、Y軸方向に相当する。前側は-Y側に相当し、後側は+Y側に相当する。また、中心軸Oと直交する方向を径方向と呼ぶ場合がある。
【0014】
入力ペン1の各構成要素について、説明する。
図1に示すように、軸筒10は、中心軸Oを中心とする円筒状であり、軸方向に延びる。軸筒10の材質は、特に限定されないが、例えばポリカーボネート等を主成分とする樹脂である。
【0015】
軸筒10は、単一部材から構成されてもよいし、複数の部材を組み合わせることで構成されていてもよい。軸筒10が複数の部材から構成される場合、例えば、複数の筒状部材を螺着、嵌合及び接着するなどにより組み合わせて構成されてもよい。また、軸筒10を複数の部材から構成する場合、書き心地を高めるために、軸筒10の前側の端部付近(つまり、使用時の持ち手部分に相当する箇所)の材質や形状、寸法等を適宜調整してもよい。
【0016】
特に図示しないが、軸筒10の各構成部材は、一対の金型と中子との間に溶融した樹脂材料を射出し固化させる、いわゆる射出成形等により作製されてもよい。
【0017】
軸筒10は、例えば黒色等の不透明な部材により構成される部分を有する。また軸筒10は、例えば無色の透明な部材により構成される部分を有していてもよい。なお、前記透明な部材は、所定の色が付与された透明な部材であってもよい。本実施形態において「透明」とは、「半透明」を含む概念である。前記不透明な部材は、黒色以外の所定の色が付与された不透明な部材であってもよい。
【0018】
軸筒10の前側(-Y方向側)の端部10аには、後述するペン先20を固定するための固定部(不図示)が設けられている。軸筒10の端部10аとペン先20とは、当該固定部において、螺着、嵌合等により着脱可能に固定されている。
【0019】
<ペン先>
次に、本実施形態に係るペン先20について説明する。
図2および図3は、本実施形態のペン先20を示す側面図である。本実施形態に係るペン先20は、入力ペン1(図1参照)を構成するペン先20である。ペン先20は、図2に示すように、入力ペン1の軸筒10と連結する連結部21と、連結部21よりも入力装置側(-Y方向側)に設けられ、入力画面との接触面22aを有する基体部22と、を備える。
【0020】
連結部21は、軸筒10の前側の端部10aと螺着、嵌合等により着脱可能に固定される。連結部21と軸筒10は、中心軸Oを共通軸として互いに同軸に配置される(図1参照)。
【0021】
連結部21は、中心軸Oを中心とする円筒状であり、軸方向に延びる。連結部21の材質は、特に限定されないが、例えばポリカーボネート等を主成分とする樹脂を例示できる。なお、連結部21は、後述する基体部22と同じ材料で構成されても構わない。すなわち、連結部21は、結晶粒子径が0.1μm以上1μm以下のセラミックスから構成されてもよい。
【0022】
連結部21の軸方向の長さL1は、特に限定されず、入力ペン1または軸筒10の長さや、端部10aとの固定手段に応じて適宜調整されてよい。例えば、連結部21の軸方向の長さL1は、5mm~60mmである。好ましくは10mm~30mmであり、より好ましくは15mm~25mmである。
【0023】
連結部21の径φ1は、特に限定されず、入力ペン1の寸法や、端部10aとの固定手段に応じて適宜調整されてよい。例えば、連結部21の径φ1は、0.1mm~5mmである。好ましくは0.3mm~2mmであり、より好ましくは0.5mm~1.5mmである。
【0024】
基体部22は、連結部21よりも入力装置側(-Y方向側)に設けられ、入力画面との接触面22aを有する。
【0025】
基体部22の形状は特に限定されない。例えば、基体部22の形状は、前側(-Y方向側)に向かうに従い縮径する形状であってもよい。また、例えば、基体部22は、連結部21側(+Y方向側)の後端22bから接触面22aまで略同一径で構成されていてもよい。書き心地の向上の観点から、基体部22の形状は、前側(-Y方向側)に向かうに従い縮径する形状であることが好ましい。基体部22の形状は、例えば、図2に示すような円柱部と円錐部とが組み合わさった形状であってもよい。つまり、基体部22の形状は、連結部21側は略円柱状で、前側(-Y方向側)に向かうに従い縮径するような円錐形状であってもよい。基体部22の形状は、図3に示すような略円錐状もあってもよい。基体部22の形状が図3に示すような略円錐状である場合、基体部22と連結部21は一体で構成されていてもよい。なお、基体部22と連結部21が一体で構成されている場合の基体部22と連結部21との境界は、基体部22の径が軸方向に向かって小さくなり始める位置とする。
また、基体部22の形状が略円錐状である場合には、基体部22の前側(-Y方向側)の先端形状は、R面を持つ突曲面形状であることが好ましい。つまり、接触面22aは側面視において湾曲していることが好ましい。なお、ここでいう「R面」は多次曲面であってもよい。
【0026】
基体部22の寸法も特に限定されない。ただし、軸筒10の端部10aと安定して固定するために、基体部22の連結部21側(+Y方向側)の後端22bの径φ2は、連結部21の径φ1以上であることが好ましい。例えば、基体部22の径φ2は、0.1mm~10mmである。図3に示すように、基体部22と連結部21が一体となった構成される場合には、基体部22の最大径と連結部21の径φ1とは同一となる。
また、基体部22の軸方向の長さL2についても、特に限定されず、入力ペン1または軸筒10の長さ、連結部21の長さL1に応じて適宜調整されてよい。例えば、基体部22の軸方向の長さL2は、0.5mm~5mmである。
【0027】
基体部22は、結晶粒子径が0.1μm以上1μm以下のセラミックスからなる。基体部22を、結晶粒子径が0.1μm以上1μm以下のセラミックスにて構成することで、ペン先の耐摩耗性および入力ペンの良好な書き心地を両立させることができる。なお、基体部22の全体が、前述範囲内の結晶粒子径を有するセラミックスから構成される必要はなく、基体部22の少なくとも一部、特に、耐摩耗性が高い水準で要求される接触面22aおよびその近傍が当該セラミックスからなればよい。
【0028】
本実施形態の基体部22を構成するセラミックスの種類は限定されない。本実施形態の基体部22を構成するセラミックスは、基本成分が金属の酸化物であり、微量成分として珪化物、窒化物、弗化物、または硼化物などを含む。基体部22を構成するセラミックスとしては、具体的には、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、チタニア(TiO)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si)およびこれらのセラミックスから選ばれる2種以上の複合体、等が挙げられる。
【0029】
これらのセラミックスの中でも、アルミナ、ジルコニアを主成分とするセラミックスを基体部22として用いる事が好ましく、ジルコニアを主成分とすることが更に好ましい。ここで「主成分」とは、基体部22を構成する全成分100質量%に対して60質量%以上含有する成分を意味する。ジルコニアを主成分とするセラミックスを基体部22に用いる事で、基体部22の耐摩耗性、曲げ強度、靭性、などの向上を図ることができる。また、ジルコニアの焼結粒はアルミナに比べて小さく設定しやすいため、より表面粗さの小さい焼結体の基体部22を得ることができる。また、ジルコニアを主成分とすることで、研磨等により表面粗さのより小さい基体部22を得ることができる。よって滑らかで良好な書き心地を実現できる基体部22を提供することができる。
【0030】
ジルコニアには、その相構造として立方晶、正方晶、単斜晶があり、これらの三相が単層もしくは混相した状態で構成される。例えば、立方晶から成る安定化ジルコニア、主成分として正方晶から成る部分安定化ジルコニアが挙げられ、いずれも使用することができる。これらの中でも、特に、部分安定化ジルコニアを用いることが好ましい。部分安定化ジルコニアを用いることにより、強度、耐衝撃性、靭性等の性能が良好で、緻密な焼結体の基体部22を得ることができる。
【0031】
この場合、基体部22に含まれる全ジルコニアに対する正方晶の量は、50モル%以上であることが好ましい。
【0032】
基体部22を構成するセラミックスの結晶粒子径は、0.1μm以上1μm以下である。セラミックスの結晶粒子径は、0.3μm以上0.8μm以下が好ましく、0.3μm以上0.6μm以下がより好ましく、0.3μm以上0.5μm以下が特に好ましい。
【0033】
セラミックスの結晶粒子径は、走査電子顕微鏡観察によって得られたSEM観察図を使用した「プラニメトリック法」により算出する。詳細には、SEM観察図に面積が既知の円を描き、当該円内の結晶粒子数(Nc)及び当該円の円周上の結晶粒子数(Ni)を計測する。そして、合計の結晶粒子数(Nc+Ni)が250±50個となるようにした上で、以下の式(A)を使用してセラミックスの結晶粒子径を求めることができる。
【0034】
結晶粒子径=2/{π×(Nc+(1/2)×Ni)/(A/M)}0.5 ・・式(A)
【0035】
上記式(A)において、Ncは円内の結晶粒子数、Niは円の円周上の結晶粒子数、Aは円の面積、及び、Mは走査型電子顕微鏡観察の倍率(例えば、5、000倍~10,000倍)である。なお、ひとつのSEM観察図における結晶粒子数(Nc+Ni)が200個未満である場合には、複数のSEM観察図を用いて(Nc+Ni)を250±50個とすればよい。
【0036】
基体部22の算術平均高さSaは、0.2μm以下であることが好ましい。上記のとおり、基体部22の主成分をジルコニアとすることで、研磨等により算術平均粗さSaのより小さい基体部22を得ることができる。算術平均粗さSaが小さいほど、より滑らかで良好な書き心地を実現できる。すなわち、ペン先20の基体部22を構成するセラミックスの結晶粒径を上記範囲に調整するとともに、基体部22の算術平均粗さSaを小さくすることで、優れた摩耗性と良好な書き心地を両立可能なペン先20を提供することができる。基体部22の算術平均粗さSaは、好ましくは0.1μm以下であり、より好ましくは0.05μm以下であり、さらに好ましくは0.01μm以下であり、よりさらに好ましくは、0.005μm以下である。基体部22の算術平均粗さSaは小さければ小さいほど好ましい。そのため、本実施形態では基体部22の算術平均粗さSaの下限値は特に限定しないが、実用上、0.00001μm以上である。
【0037】
なお、基体部22のうち算術平均高さSaが上記範囲に制御されるべき対象部位は、基体部22全体でなくともよい。すなわち、入力装置の入力画面に接触する接触面22аの算術平均高さSaが上記範囲内であれば、上記効果を享受できる。
【0038】
基体部22の算術平均高さSaは、白色干渉計「NewView」(Zygo Corporation製)を用いて測定する。測定条件としては、倍率×50とし、うねり除去をオート設定で行う。
【0039】
基体部22のビッカース硬さは、1000~1700HVであることが好ましい。基体部22のビッカース硬さを当該範囲内とすることで、使用を重ねても、凹凸発生などの変形が起こりにくくできる。また、基体部22のビッカース硬さを当該範囲内とすることで、算術平均高さSaの変化も生じにくいため、書き味を損ねにくくすることができる。また、基体部22の摩耗性の確保の観点から、基体部22のビッカース硬さは大きい方が好ましい。好ましくは1300HV以上である。
【0040】
本実施形態の基体部22を構成するセラミックスとして、安定化剤を含有したセラミックスを用いてもよい。安定化剤としては、イットリア、カルシア、マグネシア、セリア等が挙げられる。これらを添加することにより、セラミックスの強度、耐衝撃性、靭性などを更に向上させることができる。安定化剤を含有したセラミックスとしては、イットリアを含む部分安定化ジルコニアが最も好ましい。部分安定化ジルコニアは強度および靭性がさらに改良される傾向にあるためである。
【0041】
安定化剤の添加量は、10mol%以下とすることが好ましい。例えば、イットリアの場合、セラミックス全量に対して10mol%以下、特に1mol%以上5mol%以下が好ましい。また、カルシアの場合、セラミックス全量に対する添加量は、1mol%以上9mol%以下程度が好ましい。
【0042】
本実施形態の基体部22は、更に、各種の添加剤を含む構成であってよい。
【0043】
添加剤としては、着色剤、ペン先20の製造時に用いられる有機物系添加剤および分散媒等が挙げられる。着色剤を添加することで、基体部22を様々な色調とし、様々な効果を得ることが可能となる。例えば、入力画面の明度等に応じて、有着色と無着色のペン先を使い分けることで、好適な使用感を簡易に調整することができる。また、着色性の観点上、ジルコニアは良好である。そのため、着色剤を用いる場合には、ペン先20の材料としてジルコニアを適用することが好ましい。基体部22の製造時に用いられる有機物系添加剤および分散媒については後述する。
【0044】
着色剤としては、金属酸化物、金属硫化物、有機酸金属塩などが挙げられる。着色剤としては、具体的には、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化ニッケル、その他の遷移金属酸化物、硫化鉄、硫化マグネシウム、硫化ニッケル、酢酸ニッケル、酢酸鉄、酢酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0045】
着色剤の添加量は、主成分のセラミックスの色に変化をもたらし、主成分のセラミックスが焼結できる添加量であればよく限定されない。例えば、着色剤の添加量は、基体部22を構成するセラミックス全量に対して、0.1質量%以上5質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0046】
<ペン先の製造方法>
本実施形態のペン先の製造方法の一例を説明する。なお、ペン先の製造方法は、その発明特定事項を備える全ての実施形態を広く包含するものであり、本実施形態に係るペン先は、以下に説明する製造方法に限定して解釈されるべきではない。
【0047】
本実施形態のペン先は、セラミックス原料および有機物系添加剤などの添加剤を含有するセラミックス成形体を、例えば、燃焼炉において脱脂および焼成を行うことによって作製される。
【0048】
詳細には、ペン先の製造方法は、「成形工程」および「焼成工程」を含む。ペン先の製造方法は、更に「後工程」を含んでいてもよい。
【0049】
(成形工程)
成形工程は、セラミックス原料および有機物系添加剤を含有するセラミックス成形体を成形する工程である。
【0050】
セラミックス原料とは、ペン先の骨材粒子となり得るセラミックスの粉状物または粒状物を意味する。セラミックス原料には、上述した、ペン先を構成するセラミックスの粉状物または粒状物を用いる。
【0051】
なお、セラミックス原料は、1種類のセラミックス単体、複数種類のセラミックスからなる複合セラミックス、安定化剤を含有するセラミックス、の何れの粉状物または粒状物であってもよい。
【0052】
セラミックス原料の中でも、焼成工程を経た後に結晶粒子径が0.1μm以上1μm以下の範囲外となるサイズを有する原料もある。この場合には、セラミックス原料に溶媒を加え、ボールミルやビーズミル等を用いて、焼成工程後のセラミックスの結晶粒子径が上記範囲内となるように粉砕すればよい。そして、粉砕後の粉末を、ペン先の製造に用いるセラミックス原料とすればよい。
【0053】
有機物系添加剤は、セラミックス成形体の原料として添加される有機物である。有機物系添加剤としては、例えば、有機バインダー、分散剤等が挙げられる。なお、有機物系添加剤には、それ自体が分解し、或いは燃焼することによって可燃性ガスを発生する限りにおいて、無機物を含んでいてもよい。このような無機物としては、例えばカーボン等が挙げられる。
【0054】
有機バインダーは、セラミックス成形体の原料となる坏土等に流動性、保形性、ハンドリング強度等を付与する、補強剤としての機能を有する。有機バインダーとしては、有機高分子等を好適に挙げることができる。有機バインダーとしては、具体的には、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、または、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0055】
分散剤は、セラミックス原料等の分散媒への分散を促進し、均質な坏土を得るための添加剤である。分散剤としては、界面活性剤を好適に用いることができる。分散剤としては、具体的には、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等が挙げられる。
【0056】
セラミックス成形体は、セラミックス原料および有機物系添加剤を含有するものであればよく、他の物質を構成成分として更に含むものであってもよい。このような構成成分としては水やアルコール等の分散媒の他、着色剤なども含んでいてもよい。上述したように、着色剤を用いることは、ペン先を様々な色調とし、種々の効果を得ることが可能となることから好ましい。着色剤の具体例は、上述したため、ここでは記載を省略する。
【0057】
セラミックス成形体は、セラミックス原料および有機物系添加剤の他、分散媒、所望により着色剤などの他の添加剤を従来公知の混合・混練方法によって、混合・混練した後、成形することによって作製することができる。セラミック原料に着色剤を添加して混合・混練したセラミックス成形体とすることで、セラミック成形体やペン先上に着色層を設ける場合に比べて、ペン先として構成された後であっても着色剤の剥がれを抑制することができる。
【0058】
混合は、従来公知の混合機、例えば、バタフライミキサー、リボンミキサー等により行うことができる。混練は、従来公知の混練機、例えば、ニーダー、バンバリーミキサー、スクリュー式の押出混練機、真空土練機、二軸連続混練押出し成形機等により行うことができる。
【0059】
成形には、公知のセラミックス射出成型法を用いることができる。なお、成形には、押出成形、プレス成形等の従来公知の成形法を用いてもよい。
【0060】
作製したセラミックス成形体は、焼成工程に先立って乾燥を行ってもよい。乾燥には、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の従来公知の乾燥法を利用することができる。
【0061】
(焼成工程)
焼成工程は、成形工程によって得られたセラミックス成形体を焼成することで、セラミックス原料の焼結体であるセラミックス構造物を得る工程である。
【0062】
焼成工程は、例えば、脱脂工程と、焼結工程と、を含む。
【0063】
脱脂工程は、セラミックス成形体を、酸素含有雰囲気下、不活性雰囲気下、または還元性雰囲気下で加熱保持することで、加熱により発生する揮発成分を除去する工程である。
【0064】
不活性雰囲気とするために用いられる不活性ガスは、例えば、窒素ガスまたはアルゴンガスである。還元性雰囲気とするために用いられる還元性ガスは、水素および炭化水素などの、酸素と反応し得るガスである。脱脂工程における加熱温度、昇温速度、および加熱時間は特に限定されず、セラミックス成形体の構成成分に応じて適宜調整すればよい。
【0065】
詳細には、脱脂工程おける加熱温度は、その後に行われる焼結工程より相対的に低い温度で行われる。具体的には、750℃以下で行われることが好ましく、600℃以下で行われることが好ましい。また、脱脂工程においては、セラミックス成形体の温度を急激に上昇させることは好ましくない。これは、急激に温度を変化させると、セラミックス成形体内部に発生した揮発成分がセラミックス成形体外部に十分放出されず、所望の仮焼材料を得ることができない場合があるためである。このため、脱脂工程における昇温速度は、セラミックス成形体の温度が徐々に上昇する速度であることが好ましい。
【0066】
ここで、所望の効果を得るためには、セラミックス成形体の温度上昇を制御することが必要であるが、セラミックス成形体の大きさや形状によっては、セラミックス成形体の表面と中心部とで温度勾配が発生する。このため、セラミックス成形体全体を同一の条件で温度制御することは困難である。そこで、セラミックス成形体そのものの温度を制御する代わりに、セラミックス成形体中の温度勾配が小さいくなるように、雰囲気の温度を制御することが好ましい。具体的には、昇温速度は1時間当たり10℃/時間以上100℃/時間以下とすることが好ましく、15℃/時間以上50℃/時間以下とすることがより好ましい。また、一定温度に達した時点で昇温を停止し、一定温度で脱脂工程を継続してもよい。
【0067】
脱脂工程は、セラミックス成形体に含まれる樹脂が加熱によって分解し、生成した炭素以外の揮発成分がセラミックス成形体の外部に放出された時点で完了することができる。揮発成分がセラミックス成形体から十分に放出されるまでの時間、すなわち脱脂工程の時間は、5時間以上150時間以下であることが好ましく、10時間以上20時間以下であることがより好ましい。
【0068】
また、一定温度に達した時点で昇温を停止し、一定温度で脱脂工程を継続する場合には、その一定温度の持続時間としては、30分以上10時間以下であることが好ましく、1時間以上5時間以下であることがより好ましい。
【0069】
焼結工程は、脱脂工程により脱脂されたセラミックス成形体に含まれるセラミックス原料を焼結させる工程である。
【0070】
焼結工程における加熱温度および加熱時間は特に限定されず、セラミックス成形体の構成成分に応じて適宜調整すればよい。
【0071】
例えば、セラミックス原料としてジルコニアを用いる場合には、焼結工程の加熱温度は1200℃以上1600℃以下、好ましくは1350℃以上1500℃以下である。また、この場合、加熱時間は、0.5時間以上50時間以下、好ましくは4時間以上16時間以下である。
【0072】
なお、焼成工程は、脱脂工程を含まず、上記焼結工程のみを含む工程であってよい。この場合、焼結工程を行うことで、脱脂は焼結前もしくは焼結の昇温過程において行われ、セラミックス成形体の揮発成分の除去と焼結が行われる。
【0073】
(後工程)
後工程は、焼成工程によって得られたセラミックス構造体に対して加工を行う加工工程、および研磨を行う研磨工程の少なくとも一方を含む工程である。なお、焼成工程によって得られたセラミックス構造体を、以下に説明する後工程を経ずにペン先として用いてもよい。
【0074】
加工工程は、得られたセラミックス構造体を更に所望の形状に加工する工程である。加工工程で用いる加工方法には、任意の方法を使用することができる。加工方法は一般的な切削加工であればよい。加工方法としては、例えば、旋盤加工、平面研削、R研削およびNC加工(Numerical Control machining)からなる群のいずれか1種以上を挙げることができる。
【0075】
研磨工程は、得られたセラミックス構造体またはセラミックス構造体を加工処理したものを研磨する工程である。研磨工程により、表面粗さRaや光沢が調整される。研磨工程で用いられる研磨方法は任意であるが、例えば、バレル研磨、バフ研磨、等が挙げられる。
【0076】
以上説明した製造方法によって、本実施形態に係るペン先を製造することができる。
【0077】
本実施形態に係るペン先によれば、優れた耐摩耗性及び良好な書き心地を両立させることができる。また、本実施形態の入力ペンは、耐摩耗性および書き心地ともに優れるペン先を適用されるため、様々な筆圧に対応できるとともに、入力装置への入力操作時間の長時間化に耐えうる耐久性と、良好な使用感の持続性の両立を実現できる。
【0078】
また、本実施形態の入力ペンは、例えば、タッチパッドやタッチパネルなど入力装置への入力操作を行う際に用いることができる。なお、ここでいう「入力装置」とは、タッチパッドやタッチパネルなど、入力画面上への物理的な接触により入力を行ういわゆるポインティングデバイスを指すが、その入力方式は問わず、静電容量方式、電磁誘導方式のいずれの方式でもよい。すなわち、本実施形態の入力ペンは、静電容量型、電磁誘導型いずれの入力装置に対しても適用可能であるが、特に、電磁誘導型の入力装置に好適に使用できる。
【0079】
以上、本実施形態の入力ペンおよびペン先について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成の変更等が可能である。すなわち、本発明は、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、上記の実施形態で説明した各構成を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、上記の実施形態等によって限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0080】
以下に、実施例を示しながら、本発明の一実施形態について、より具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本実施形態のあくまでも一例に過ぎず、本実施形態に係る入力ペンおよびペン先が以下に示す実施例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得る。
【0081】
(実施例1)
ジルコニア粉末(イットリア3mo1%およびアルミナ粉末0.25質量%を含む部分安定化ジルコニア、粒子径0.04μm、東ソー株式会社製、商品名TZ-3Y-E)をセラミックス原料として用意した。
【0082】
このセラミックス原料に、有機バインダーとしてポリビニルアルコールを20質量%、分散剤として脂肪酸石鹸を5質量%、離型剤としてステアリン酸マグネシウムを2質量%、添加剤として添加し、混練機(ニーダー、トーシン株式会社製)により混練し、混練物を得た。
【0083】
この混練物に対して、射出成形法を適用してペン先の近似形状のセラミックス成形体を作製した。セラミックス成形体の製造に射出成形を適用する場合の諸条件には、公知のセラミックス射出成形法に準ずる諸条件を用いた。
【0084】
そして、このセラミックス成形体を窒素雰囲気中500℃で2時間、脱バインダーした(脱脂工程)。脱脂工程における昇温速度は、30℃/時とした。脱脂工程を経たセラミックス成形体を、大気雰囲気中において1350℃で2時間焼成し、焼結させ、セラミックス構造物を得た。得られたセラミックス構造物の端面をダイヤモンドシート#6000で研磨し、図2に示すセラミックス構造物を、実施例1のペン先として作製した。実施例1のペン先の寸法は、連結部21の長さL1を18mm、径φ1を1mm、基体部22の長さL2を2mm、径φ2を2mmとした。
【0085】
(比較例1)
アルミナ粉末(粒子径0.2μm、住友化学株式会社製、商品名AKP―50)を、セラミックス原料として用意した。
【0086】
実施例1のセラミックス原料に替えて、比較例1で用意したセラミックス原料を用いた点以外は、実施例1と同様にして、セラミックス射出成形法によってセラミックス成形体を作製した。
【0087】
そして、このセラミックス成形体を窒素雰囲気中500℃で2時間、脱バインダーした(脱脂工程)。脱脂工程における昇温速度は、30℃/時とした。脱脂工程を得たセラミックス成形体を、大気雰囲気中において1700℃で2時間焼成し、焼結させ、比較セラミックス構造物を得た。得られた比較セラミックス構造物の端面をダイヤモンドシート#6000で研磨し、実施例1と同寸法を有するセラミックス構造物を、比較例1のペン先として作製した。
【0088】
(比較例2)
ペン先原料として、ポリアセタール樹脂(POM)を用いたペン先を比較例2(従来例)として用意した。比較例1のペン先の形状および寸法は、実施例1のペン先を同様とした。
【0089】
(物性)
実施例1、比較例1~2のペン先について、結晶粒子径、算術平均高さSa(μm)、ビッカース硬さ(HV)、曲げ強度(MPa)、摩耗量(mm)を測定した。測定結果を表1に示す。測定条件は、以下とした。
【0090】
結晶粒子径は、ペン先の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、プラニメトリック法により算出した。
【0091】
算術平均高さSa(μm)は、白色干渉計「NewView」(Zygo Corporation)を用いて、測定した。測定条件は、倍率×50とし、うねり除去を行い、その他はオート設定とした。
【0092】
ビッカース硬さ(HV)は、株式会社明石製作所製 ビッカース硬度計を用いて1kgfの荷重にて測定した。
【0093】
基体部と連結部の強度を表す指標として、曲げ強度を測定した。曲げ強度(MPa)は、株式会社島津製作所製 万能試験機を用いて外部支点間距離20mmの条件で測定した。
【0094】
(評価)
「書き心地(官能試験結果)」
実施例1のペン先、および比較例1~2のペン先を用いて、タブレット(「Wacom One」株式会社ワコム製)に筆記した際の書き心地を官能試験により評価した。評価基準を下記に示した。また、評価結果を表1に示した。
【0095】
〇:良好(滑らかである)。
△:やや良好(滑らかさがやや劣る)。
×:不良(滑らかさが劣る、思い)。
【0096】
「耐摩耗性」
実施例1のペン先、および比較例1のペン先をフィルム(「ペーパーライク反射防止フィルム(ケント紙タイプ)」エレコム株式会社製)に70°の筆記角度で当て、200gの荷重を掛けた状態で4m/minの速度で120mmを1000回往復移動させたときの摩耗量(mm)をマイクロメータにより測定した。摩耗量の測定結果を、表1に示した。そして、摩耗量を用いて耐摩耗性を評価した。評価基準を下記に示した。また、評価結果を表1に示した。
【0097】
〇:耐摩耗性良好 :摩耗量0.1mm未満。
△:耐摩耗性やや良好:摩耗量0.1mm以上0.3mm未満。
×:耐摩耗性不良 :摩耗量0.3mm以上。
【0098】
【表1】
【0099】
表1に示すように、実施例1のペン先は、比較例1~2のペン先に比べて、耐摩耗性および良好な書き心地をともに実現することが確認できた。なお、比較例2のペン先は樹脂製であるため、曲げ強度およびビッカース硬さを実施例1と同条件で測定することは困難であった。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明のペン先によれば、優れた耐摩耗性及び良好な書き心地を両立させることができる。したがって、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0101】
1…入力ペン、10…軸筒、10a…端部、20…ペン先、21…連結部、22基体部、22a…接触部
図1
図2
図3